説明

空調装置を備えた作業用車両

【課題】空調装置内に雪や小枝等の侵入が実質的に防止され、コンデンサの冷却効率の高い作業用車両を提供する。
【解決手段】キャブの室内に向けて空調風を送風する空調ユニット(8)とコンデンサ(9)及び冷却ファン(10)とを収容する空調ケース(6)を、車体フレーム上に設置されるキャブの天井部から機外の後方に向けて延設している。空調ケース(6)は筒体から成り、その後端面の開口部にカバー体(7)を固定して設けている。カバー体は、後端開口部を左右に仕切る縦壁部と、開口の上端縁から下傾斜して張り出す左右側壁付き庇部(72)と、庇部(72)と前記カバー体の底面との間を縦壁部を介して所定の間隔をおいて水平に下傾斜して支持される複数枚の横ルーバ(76)とを有しており、カバー体の底面開口部にも同様の横ルーバ(76')を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばブルドーザ、ショベルカー、除雪車両などの各種作業用車両、特に寒冷地に好適なキャブ室内を冷暖房するための空調装置を備えた作業用車両に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な過酷な条件、特に過酷な天候下における作業が余儀なくされることが多いブルドーザ等の建設・土木作業用の車両や、除雪作業用等の各種作業用車両に配されるキャブにはオペレータの健康管理等の面から特に快適な室内環境が求められている。
【0003】
このため、キャブの多くは空調設備を備えている。空調設備は、コンプレッサ、コンデンサ、冷却ファン、エバポレータ、ヒータコア、送風ファン等を有し、キャブ室内の温度に応じてオペレータが空調装置を適宜作動させることによって、空調装置の吹出口からキャブ室内に向けて冷風または温風を送風させ、キャブの室内を常に適正な温度状態に維持する。
【0004】
例えば、特開平5−286349号公報(特許文献1)に開示されている建設車両のキャブ用空調装置によれば、外気導入モードスイッチが「ON」のままになっている場合にも、所定の時間は内気循環に切換えて空調を行い、該所定時間経過後は当初の外気導入モードに復帰するように自動制御するようにしている。一般の車両用空調装置では、冷暖房される室内の空気、即ち内気を再循環させる内気循環モードと室外の新鮮な空気、即ち外気を取入れる外気導入モードに切り換えが可能となっており、これらの各モードはオペレータのスイッチ操作により空調装置の内外気取入口に設けられた開閉ダンパを切り換えられるようになっている。通常は、空調開始の立上がり時である初期段階ではイニシヤル空調として内気循環モードが選択され、このイニシヤル空調により所定の冷暖房温度になった後は密閉された室内の喫煙やCO2 濃度が増えるのを防止するためランニング空調として外気導入モードに切り換える。
【0005】
ところで、空調開始の立上がり時に前述のような内気循環モードに切り換わっていると、車室内の空気を吸い込んでヒータコアで加熱された暖気を室内に再び吹き込むことになり、特に寒冷地にあっては車室内温度と車室外温度との温度差が更に大きくなり、車室内を循環する高温多湿の空気により窓ガラスが曇ってしまう。これを無くすため、例えば特開2001−80339号公報(特許文献2)にも記載されているように、空気調和ユニット内を上下又は前後に二つに分割して、その一方に低温低湿の外気を主として取り入れ、曇り除去に使用し、他方に比較的温度の高い内気を循環させて暖房性能を確保しようとしている。
【0006】
このように、従来からキャブの室内環境を改善するため室内に吹き出される温調空気に関して、その空気の流れの制御や内外気の取入れ切替え制御、或いは最適な温度調整機能の様々な工夫がなされる一方で、キャブに対する空調装置の設置箇所やその構造に関する改良も多々なされている。例えば、従来のキャブの床板側に配されていた空調装置を天井側に配置し、キャブ室内の冷房効率を高める提案がなされている。しかして、特に小型の建設車両のキャブは、作業機の設置面積や操作範囲により、その容積が規制され、任意の容積を確保することができない。例えば、特開平11−334352号公報(特許文献3)では、空調装置を天井部側に設けるにあたり、天井部側の高さ寸法を特別に高くすることなく、キャブ室内に十分な頭上空間を確保すると共に、キャブ室内へのオペレータの乗降を行いやすくし、居住性や操作性等を向上させた空調装置を搭載する建設機械用キャブが開示されている。その特徴的構成は、キャブ室内の天井部後部側に空調装置を設け、該空調装置の前側には前記キャブの前面部との間に位置して前記天井部側に頭上空間を設けるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−286349号公報
【特許文献2】特開2001−80339号公報
【特許文献3】特開平11−334352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3によれば、エバポレータ、ヒータコア及び送風ファンを収容した空調ユニットを収容カバーに収容し、これをキャブ室内の天井に設置している。一般に、作業用車両に搭載される空調装置では、コンプッサはエンジン搭載部の近傍に配され、特許文献3に記載されているように、ユニット化された送風ファンやエバポレータ、ヒータコア等はキャブ室内の空調空気吹出口に隣接して配され、また特許文献2に記載されているように、コンデンサ及び冷却ファンは独立して適当な箇所に配されている。こうした空調装置にあって、いずれにしても、コンデンサ及び冷却ファンの近傍には外気の取入口と排出口とが設けられている。
【0009】
ところで、温暖な気候下における作業用車両ではさほど問題となることはないが、例えば豪雪地や寒冷地の作業用車両では、たとえ上記特許文献1〜3に開示された空調装置を備える車両であっても、降雪時にコンデンサと冷却ファンの設置場所に設けられた外気の排出口から雪が吹き込んで、その排出口の周辺、特に冷却ファン周辺に雪が溜まり凍てつく場合がある。そのような場合でも、空調装置の動作が暖房のみであれば、冷却ファンは回転しないので何等問題はない。しかし、しばしば、空調装置をいわゆる除湿暖房モードで作動させ、運転室の窓ガラスの曇りを除去するためのデフロスターを暖房と同時に作動させることがある。このような場合に空調運転を開始しようとすると、冷却ファンは回転しようとするが、冷却ファンに凍てついた雪が冷却ファンの回転を妨げるために、冷却ファンを回転駆動するモータが焼損するばかりでなく、デフロスター機能に限らず空調機能までもが停止するおそれがある。
【0010】
また、コンデンサの冷却効率を確保するには、所要の外気吸排気量が要求される。そのため、上記外気の取入口及び排出口に所要の開口面積を確保しているが、この開口面積を確保するだけでは、上述のような降雪時や粉塵等の多い環境下では外気の排出口に雪や粉塵がブロック化して溜まり、外気排出口からの排気量が大幅に減少して、コンデンサ自体の機能をも大幅に減少させることになる。
【0011】
本発明は、こうした多様な課題を解決すべくなされたものであり、具体的にはキャブ室内の容積を確保すると同時に、キャブに搭載する空調装置、特にコンデンサ及び冷却ファンの設置箇所に侵入する雪等の量を大幅に減少させるとともに、コンデンサに対する所要の冷却風量が確保できる空調装置を備えた作業用車両を提供することを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成すべく、本願発明者等は、周辺の視界が確保できてキャブ室内の容積を最大限に活用でき、空調効率を高めることが可能な空調装置の設置箇所とその構造について様々な検討を行った。その結果、キャブ後方と車体本体の後方バンパーとの間の空間に空調装置を設置することが効果的であることに着目した。この設置空間に空調装置を設置すれば、キャブ室内の容積を変更させずに、室内におけるオペレータの動きに制約を与えることがなくなる。しかるに、例えば空調ユニットとコンデンサ及び冷却ファンを単一のケース内に収容し、同ケースにコンデンサを冷却する外気の取入口及び排出口を単に格子状に配するだけでは、ケース内への雪の侵入を防ぐことができないことを知った。
【0013】
そこで到達したのが、次のような空調ケースに雪の侵入を防ぐ独特の構造をもつカバー体を設けた空調装置をキャブに設置した本発明の作業用車両である。
すなわち、本発明の最も基本的な構成は、車体フレーム上に設置されるキャブの天井部から機外の後方に向けて延設され、キャブの室内に向けて調和空気を送風する空調ユニットと、少なくともコンデンサ及び冷却ファンとを収容する空調ケースを備え、前記空調ケースは後端面が開口する筒体から構成され、その後端開口部に固定されるカバー体を有し、同カバー体は、前記後端開口部を左右に仕切る縦壁部と、前記開口の上端縁から下傾斜して張り出す左右側壁付き庇部と、同左右側壁付き庇部と前記カバー体の底面との間を前記縦壁部を介して所定の間隔をおいて水平に下傾斜して支持される複数枚の横ルーバとを有してなることを特徴とする作業用車両にある。
【0014】
前記空調ケース内には、空気ユニット、コンデンサ及び冷却ファンを、キャブ室内側から空調ケース後端開口部にかけて順次配することが望ましい。また、前記カバー体の底部を開口させ、その開口部に下傾斜する1以上の横ルーバを水平に配するようにするとよい。前記全ての横ルーバが、その両端支持部を中心に上下に回動可能とすることもできる。
【発明の作用効果】
【0015】
以上の構成を備えた本発明の空調装置を備えた作業用車両によれば、従来のキャブ室内から空調装置が排除されてキャブ室外の有効空間を利用するため、キャブ室内における従来の空調機能に加えて、まずキャブ室内を最大限に活用することができるようになる。更には、空調ケースの後端に、外気の排出口を構成する下傾斜する左右側壁付き庇部と横ルーバとを有するカバー体を設置したため、どのような降雪時にあっても、空調ケース内に雪が無闇に侵入することが阻止されるようになる。その結果、コンデンサや冷却ファンに雪が付着して凍てつくようなことがなくなり、コンデンサ及び冷却ファンの機能を失われず安定した空調運転が可能になる。この場合、左右側壁付き庇部の長さを延ばして複数の横ルーバ間の間隙から実質的に雪等が侵入しない深さとしても、左右側壁付き庇部と複数の横ルーバとの間には、空調ケースに導入される十分な量の外気を冷却ファンの作動により排出することができる空間を形成することができる。
【0016】
また、外気の排出口である左右側壁付き庇部と横ルーバとの間の開口面積では外気の流通量を満足されないときには、カバー体の底面に複数の外気排気開口を形成することにより風量を増すことができ、コンデンサに対する所要の冷却効率が確保できる。また、全ての横ルーバを、その両端支持部を中心として上下に回動可能に構成する場合には、降雪の方向と強さに応じて横ルーバ間の傾斜角度及び開口面積を調節することができる。更に、キャブ室内の天井面に沿って、例えば板金加工により製作された断面凹状で偏平通路をもつ空気流通ダクトを延設して、同流通ダクトの所要箇所に調和空気の吹出口を形成すれば、キャブ室内の空間を実質的に減少させることなく、所望の箇所から調和空気を吹き出させることができる。ただし、カバー体の後端面は、障害物との解消を避けるためにも、車両の後方バンパー位置を越えないようにすることが肝要である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態によるブルドーザの空調装置の配置の一例を示す透視立体図である。
【図2】同ブルドーザのキャブを拡大して示す透視立体図である。
【図3】同キャブの空調ケース及びカバー体の縦断面図である。
【図4】同空調ケース及びカバー体を斜め下方から見たキャブの部分立体図である。
【図5】キャブ室内の天井部を斜め下から見たキャブ室内の部分立体図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態による空調装置を備えた作業用車両の一例であるブルドーザに基づいて、図面に従って具体的に説明する。
図1は本発明の空調装置を備えたブルドーザ全体の外観構成と、その外観構成を透視したときの空調装置の内部配置を示す全体斜視図であり、図2は同ブルドーザのキャブに配される空調装置の一部の配置を拡大して示す拡大斜視図である。
【0019】
これらの図において、符号1は履帯式の下部走行体、符号2は同下部走行体1の間に配された図示せぬ車体フレーム上の後部に設置されるキャブ、符号3は同キャブ2の前部に連設されたエンジンルーム、符号4は前記エンジンルーム3の左右側壁を挟んで設置された一対の油圧シリンダー5の先端部により上下方向に揺動可能に支持された土工板(ブレード)を示している。ここで、キャブ2の室内から空調装置自体が排除されている以外は、従来の一般的なブルドーザの構成と実質的に変わるところがなく、そのため以下の説明では従来の構成についての具体的説明は省略する。
【0020】
本実施形態によるキャブ2は、従来と同じ外部形状をもつキャブ本体21の後端上部から後方へと延設された空調ケース6と同空調ケース6の後端開口面を覆うように固設されるカバー体7とを有している点で異なり、しかもこの点を本発明における特徴的構成の一部としている。すなわち、本実施形態ではキャブ本体21の後端上部から後方に延設される空調ケース6は、その前面と後面が開口する車幅方向に長い矩形状の筒体からなり、筒体内部には、図2に示すように、空調装置の構成部材の一部である空調ユニット8、コンデンサ9及び冷却ファン10とを、後端に向けて順次配して、それぞれを空調ケース6に固設している。
【0021】
この空調ケース6の後端開口部に固設されるカバー体7は、図3及び図4に示すように、上枠部71を持つ枠部70と、左右に左側壁73及び右側壁74を持つ庇部72と、縦壁部75と、複数の横ルーバ76とにより構成されている。前記カバー体7の前側(すなわち、枠部70)は、前記空調ケース6の後端開口部の開口形状と同じ開口形状をもち、その後側は(すなわち、庇部72)は、下端が開放された逆凹字状の形状を持つ。前記庇部72は、前記枠部70の上枠部71から後方斜め下方に延設され、その左右には左側壁73、右側壁74が配設されている。1枚以上の縦壁部75、75、…が、前記枠部70の上枠部71と前記庇部72との間に固定され、左右側壁部73,74間を複数に仕切っている。複数枚の横ルーバ76、76、…が、前記左右側壁付き庇部72と前記枠部70の下端開口部との間に所定間隔をおいて配されている。同横ルーバ76,76,…の左右端部は、前記縦壁部75,75,…と前記左右側壁部73,74との間に、それぞれが水平で且つ斜め下方に傾斜して支持固定されている。
【0022】
本実施形態にあっては、前述のとおり、各横ルーバ76,76,…の左右端部を縦壁部75,75,…と前記左右側壁部73,74との間に支持固定しているが、各横ルーバ76,76,…を図示せぬ軸部を介して縦壁部75,75,…と前記左右側壁部73,74との間に回動可能に軸支するように構成することもできる。この場合、同じく図示を省略しているが、電動モータとリンクを介して各横ルーバ76,76,…を図示せぬスイッチ操作により所望の角度回動させるようにすることもできる。また、この図示例では各横ルーバ76,76,…を断面く字状に屈曲させて冷却風の排気開口面積を確保するとともに、雪や塵芥、小枝片などの侵入をし難くしている。
【0023】
また、逆凹字断面をもつ上記カバー体7の下端開口部は、カバー体7の底面部にも冷却風の排出口を開口させて空調ケース6の内部に収容されたコンデンサ9に対する冷却風を排出するための開口部である。この枠部70の下端開口部にも1枚以上の横ルーバ76’を配しており、この横ルーバ76’も他の横ルーバ76,76,…と同様に、断面をく字状に屈曲させて斜め下方に傾斜した状態で前記縦壁部75,75,…を介して左右側壁部73,74によって支持させており、所望量の風量を確保すると同時に雪等のケース内への侵入を防止している。
【0024】
本実施形態によれば、以上の構成を備えたカバー体付き空調ケース6の前面開口部6aをキャブ本体21の後端開口枠部22に合わせて固設しており、空調ケース6の前面開口部6aには、キャブ室内に向けて空調空気を吹き出す空調用の吹出グリル61が設けられている。また、図5に示すように、天井の実質的な全面に沿って前面窓部の近傍まで延設された偏平状の空調用の送風ダクト62が天井に取り付けられ、その内部は前記吹出グリル61に形成された前記前面開口部6aに連通させている。前記送風ダクト62は、全体的に凹字断面をもつ薄板状のダクトであり、例えば板金加工により製造される金属板金製ダクト、或いは合成樹脂製の成形ダクトが使われる。前記送風ダクト62と前記吹出グリル61に形成された前記前面開口部6aとは、溶接又は螺着により連結される。
【0025】
前記吹出グリル61及び送風ダクト62にはデフロスター機能を持たせるためサイド窓部やフロントガラスなど必要な送風箇所に向けられた空調空気の吹出口63,63,…が複数箇所に形成されている。このように、複数の吹出口63,63,…を持つ偏平状の送風ダクト62を天井に設けることにより、必要な箇所に向けて温風なり冷風なりを送り出すことができるばかりでなく、キャブ室内における天井高さが実質的に低くなることはなく、オペレータの室内における行動に格別の支障を来すこともない。
【0026】
次に、図1及び図2を参照して、本実施形態に係る空調装置用機器の配置例について簡単に説明する。既述したとおり、上記空調ケース6の内部には、空調ユニット8、コンデンサ9、冷却ファン10が、空調ケース6の前面開口部側から後面開口部に向けて順次配設されている。空調ユニット8には、エバポレータ16、ヒータコア17、送風ファン18等が収容して配されている。また、運転席の前方の床面には足元ヒータ11が設置されており、空調装置用の他の構成機器の一つであるコンプレッサ12はエンジンを動力源とするため、エンジンルーム3内の図示せぬエンジンの近傍に配され、図示せぬ温水用ヒータは同じくエンジンルーム3内に配された図示せぬラジエータと配管を介して接続されている。そして、前記コンプレッサ12、前記コンデンサ9、前記エバポレータ16、及びレシーバドライヤ13が冷媒配管14を介して循環的に接続されている。また、図示せぬ前記温水用ヒータは前記足元ヒータ11と前記空調ユニット8のヒータコア17とを温水配管15を介して循環的に接続されている。
【0027】
以上の構成を備えた本実施形態に係る空調装置によれば、冷房運転時にはラジエータ側からの温水流量を少なくし、コンプレッサ12を作動させた状態で空調装置を始動する。空調装置が始動すると、キャブ2の室内の空気は空調ユニット8の図示せぬ内気導入口から送風ファンによって空調ユニット8内に導入され、エバポレータ16を通過する間に熱交換がなされて冷却される。この冷却された空気は空調用の吹出グリル61から送風ダクト62を通してキャブ室内の各必要箇所に向けて送り出される。
【0028】
一方、暖房運転時には、ラジエータ側からの温水流量を多くして、コンプレッサ12を停止させた状態で空調装置を始動する。空調装置が始動すると、キャブ2の室内の空気は空調ケース6の上記吹出グリル61の下方に開口する内気導入口64(図3参照)から空調ユニット8に導入された後に上記ヒータコア17を通過し、この間に暖められる。暖められた空気は吹出グリル61からキャブ室内に向けて吹き出される。このとき、必要に応じて除湿暖房モードに切り替えられた低出力の冷房運転がなされ、送風ダクト62に形成された空気の吹出口63,63,…のうち、霜取りが必要な吹出口63,63,…から所要量の低湿暖風が吹き出される。なお、本実施形態では前記空調ケース6と前記空調ユニット8の設置位置の各底面部に外気導入口65が形成されている。更に、コンデンサ9を冷却する外気導入口66は前記空調ケース6の天井部に形成されており、図示は省略したが、外気導入口66を開閉する開閉部材が設けられている。
【0029】
ところで、降雪時には当然に暖房運転がなされるが、作業が続けられている間は空調装置の運転に支障を来すことは少ないが、例えば作業の終了後や作業の休日等では車両のエンジンを停止せざるを得ない。このような状況下では、車両の開口部から雪が侵入し、その周辺に大量の雪が積もり、夜を越すとそれらの雪が凍りつき、その凍りついた雪を排除したのちに、車両のエンジンを始動させることがなされる。しかしながら、キャブに設置される空調装置の特に冷却風の吹出口の通常の格子状の開口構造だけでは、それらの吹出口や外気取入口から雪が空調ケース内に吹き込み、例えば作業中であれば空調ケース内もコンデンサの放熱で雪が溶けるが水分は残り、また作業の休止中であれば空調ケース内に配置されたコンデンサや冷却ファンに、それらの雪が付着し、前述の水分や雪が凍りつき、人手によるだけでは簡単に凍りついた雪を排除することは難しい。ここで、無闇に空調装置を始動させると、特に空調ケース内に収容された冷却ファンに付着して凍てついた氷等が冷却ファンの回転を妨げ、ファン駆動用電動モータが焼損しやすくなる。
【0030】
また、仮に冷却風の吹出口や外気取入口を通常のブラインド構造をもつルーバ等でその開口量が調節可能であっても、降雪が激しいからといって冷風の吹出口や外気取入口を簡単には開口を小さくするがことできない。開口を小さくすると、外気取入口から取り入れられ、コンデンサを冷却する外気の風量が減少してコンデンサの冷却効率が落ち、たとえ除湿暖房モードの運転時であっても、効果的な霜取りが出来なくなる。
【0031】
本発明によれば、如何に降雪量が多く低温下の状況にあっても空調装置の始動を円滑に行うことを可能にする。
すなわち、本発明の上記本実施形態によれば、既述したように、空調ケース6の後端開口部にカバー体7を固設し、前記空調ケース6の後端開口部の上枠部71に後方斜め下方に延設された左右側壁付き庇部72を固設するとともに、前記上枠部71と前記左右側壁付き庇部72との間に左右側壁部73,74を複数に仕切る1枚以上の縦壁部75,75,…を固定し、前記左右側壁付き庇部72と前記枠部70の下端開口部との間に複数枚の横ルーバ76,76,…を所定間隔をおいて配している。そして、前記横ルーバ76,76,…の左右端部を、前記縦壁部75,75,…と前記左右側壁部73,74との間に、それぞれが水平で且つ斜め下方に傾斜して支持している。
【0032】
そのため、仮に吹ぶきのような激しい風雪時の作業であっても、上記空調ケース6の、特にそのカバー体7の特殊な開口部構造を備えていることにより、雪や小枝等が空調ケース内へと侵入することを効果的に防ぎ、しかも開口部周辺に雪が溜まることも少なくなり、例えば作業終了後又は休日であるため、空調装置の運転を停止したとしても、空調装置の再始動時には空調ケース6の内部に設置された冷却ファン10に雪が侵入しにくく付着して凍りつく量も少なくなり、冷却ファン10を回転させる電動モータの始動が円滑になされるようになる。
【0033】
また、上記実施形態にあっては、上記カバー体7の後面では冷却風の排出開口部を左右側壁付き庇部72で覆った面積分を、斜め下方に向けて平行して延在する前記左右側壁付き庇部72と各横ルーバ76,76,…との間の各間隙を空気通路としているため、実質的には排出風量の減少はなく、更に図示例では凹字状の上記庇部72の下端開口部にも斜め下方に向けて1以上の横ルーバ76’を配して、カバー体7の底面にも冷却風の排出開口を設けているため、空調ケース6としてのコンデンサ9に対する風量を従来以上に増やすことができ、コンデンサ9の冷却効率が向上する。
【符号の説明】
【0034】
1 履帯式の下部走行体
2 キャブ
21 キャブ本体
22 後端開口枠部
3 エンジンルーム
4 土工板(ブレード)
5 油圧シリンダー
6 空調ケース
6a 前面開口部
61 吹出グリル
62 送風ダクト
63 (デフロスター用)吹出口
64 内気導入口
65 外気導入口
66 コンデンサ冷却用外気導入口
7 カバー体
70 枠部
71 上枠部
72 左右側壁付き庇部
73,74 左右側壁部
75 縦壁部
76,76’ 横ルーバ
8 空調ユニット
9 コンデンサ
10 冷却ファン
11 足元ヒータ
12 コンプレッサ
13 レシーバドライヤ
14 冷媒配管
15 温水配管
16 エバポレータ
17 ヒータコア
18 送風ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレーム上に設置されるキャブの天井部から機外の後方に向けて延設され、キャブの室内に向けて調和空気を送風する空調ユニットと、少なくともコンデンサ及び冷却ファンとを収容する空調ケースを備え、
前記空調ケースは後端面が開口する筒体から構成され、その後端開口部に固定されるカバー体を有し、
同カバー体は、前記後端開口部を左右に仕切る縦壁部と、前記開口の上端縁から下傾斜して張り出す左右側壁付き庇部と、同庇部と前記カバー体の底面との間を前記縦壁部を介して所定の間隔をおいて水平に下傾斜して支持される複数枚の横ルーバとを有してなる、ことを特徴とする作業用車両。
【請求項2】
前記空調ケース内には、空気ユニット、コンデンサ及び冷却ファンが、キャブ室内側から空調ケース後端開口部にかけて順次配されてなることを特徴とする請求項1記載の作業用車両。
【請求項3】
前記カバー体の底部が開口し、その開口部に下傾斜する1以上の横ルーバが水平に配されてなることを特徴とする請求項1記載の作業用車両。
【請求項4】
前記横ルーバは、その両端支持部を中心に上下に回動可能とされてなることを特徴とする1又は3に記載の作業用車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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