説明

空調装置

【課題】車室10b内に居る乗員PAの個人特性を検出して、より健康を考慮した方向に空調制御を可変する。
【解決手段】車室10b内の乗員PAの脈波信号を計測する脈波センサ97と、脈波センサ97で計測した脈波信号から、空調風の温度制御に必要な特徴量を抽出する特徴量抽出ステップ1Aと、特徴量抽出ステップ1Aで抽出された特徴量から、乗員PAの個人特性を推定する個人特性推定ステップ2Aと、個人特性推定ステップ2Aで推定された個人特性、および個人特性の時間的な変化に応じて設定温度に対する制御を可変する空調制御ステップ120Aとを有している。
これによれば、車室10b内に居る乗員PAの個人特性を検出して、快適だけではなく、健康にも考慮した空調となるよう制御を可変することができる。つまり、脈波信号から推定される個人特性を考慮することにより、その人に適合した健康的な空調を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内や一般室内の空調に適した空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両用の空調装置として、車室内外の温度や日射状況に加え、乗員の皮膚温や皮膚温の変化率などの生理情報を用いて、快適な空調を実現するようにしたものが示されている。しかし、皮膚温は個人差が大きく、かつ表層状態であるため、被測定者の冷熱感とはずれが生じるという問題点が有る。このような問題点を解決するため、下記特許文献2〜5に示されるように、さまざまな生理量を計測して環境に反映する空調装置などが提案されている。
【特許文献1】特開平5−178064号公報
【特許文献2】特開平7−145980号公報
【特許文献3】特開平9−137989号公報
【特許文献4】特開平9−303842号公報
【特許文献5】特開2005−226902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の特許文献に示される生理量は、いずれも人間の冷熱感に対して一義的ではなく、例えば、心拍数は高温/低温の両方で上昇するようなことより、被測定者に快適な環境を提供できているとは言いがたかった。さらに、空調装置の制御は、被測定者の快適性を増加する方向になされるが、健康として考慮されているのは最終的な設定状態だけであり、設定状態に至るまでの途中状態の健康まで考慮する制御にはなっていない。
【0004】
本発明は、このような従来の技術に着目して成されたものであり、その第1の目的は、被空調空間内に居る人間の冷熱感をより正確に検出して、その冷熱感に応じてより快適な方向に空調制御を可変することのできる空調装置を提供することにある。また、第2の目的は、被空調空間内に居る人間の個人特性を検出して、その個人特性、およびその個人特性の時間的な変化に応じて、より健康を考慮した方向に空調制御を可変することのできる空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、被空調空間(10b)内の温度を設定温度に維持するために、被空調空間(10b)内へ吹き出す空調風の温度を制御する空調装置において、
被空調空間(10b)内の乗員(PA)の脈波信号を計測する脈波計測手段(97)と、脈波計測手段(97)で計測した脈波信号から、空調風の温度制御に必要な特徴量を抽出する脈波特徴量抽出手段(1)と、脈波特徴量抽出手段(1)で抽出された特徴量から、乗員(PA)の個人特性を推定する個人特性推定手段(2)と、個人特性推定手段(2)で推定された個人特性、および個人特性の時間的な変化に応じて設定温度に対する制御を可変する空調制御手段(120)とを有することを特徴としている。
【0006】
この請求項1に記載の発明によれば、被空調空間(10b)内に居る乗員(PA)の個人特性を検出して、その個人特性、およびその個人特性の時間的な変化に応じて、快適だけではなく、健康にも考慮した空調となるよう制御を可変することができる。例えば、高齢者は冷熱感には鈍いが、暑熱に対する負荷には弱いため、脈波信号から推定される個人特性を考慮することにより、その人に適合した健康的な空調を実現することができる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の空調装置において、個人特性は、循環器系の個人特性であることを特徴としている。従来は、循環器系の情報によることなく空調を制御していたが、環境温度の変化は循環器系の疾患などの体調不良を招くおそれがある。この請求項2に記載の発明によれば、循環器系の個人特性を考慮して空調することにより、循環器系の疾患を防ぐことができる。
【0008】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の空調装置において、個人特性に応じて、設定温度に向けての温度可変速度を可変することを特徴としている。この請求項3に記載の発明によれば、例えば、血管の柔らかい人や血圧調整能力の高い人に対しては、速やかに設定温度に移行させ、血圧の高い人、血管の硬い人および血圧調整能力の低い人に対しては、ゆっくりと設定温度に移行させることで、前述した疾患の危険を防ぐことができる。
【0009】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれかに記載の空調装置において、少なくとも設定温度に向けて被空調空間(10b)内の温度を可変している間は、個人特性の変化を監視し、その変化が所定の変化量もしくは変化率を超えて変化する場合は、被空調空間(10b)内への空調程度を弱くすることを特徴としている。
【0010】
この請求項4に記載の発明によれば、血圧や脈波伝播時間(PTT)などの個人特性の変化を見ながら温度を可変させることで、設定温度に至るまでの途中状態での急変に対しても、健康を考慮することができる。
【0011】
また、請求項5に記載の発明では、請求項1ないし4のいずれかに記載の空調装置において、個人特性は、血圧、血管硬さおよび血圧調整能力のいずれかであることを特徴としている。例えば、高齢者などの血管の硬い人が急激な冷房にあたることは、急激に血圧が上昇して危険である。
【0012】
また、例えば、血圧調整能力の低い人が急激な暖房にあたることは血圧の低下を招き、場合によっては失神することもある。しかし、この請求項5に記載の発明によれば、血圧、血管硬さおよび血圧調整能力などの個人特性に対応した空調とすることで、上記の危険を未然に防ぐことができる。
【0013】
また、請求項6に記載の発明では、請求項1ないし5のいずれかに記載の空調装置において、個人特性は、脈波伝播時間(PTT)、脈波波形、加速度脈波、血圧−心拍の相互相関係数(ρMAX)および心拍変動の揺らぎ(LFHF)のいずれかを用いて求めることを特徴としている。
【0014】
例えば、加速度脈波や脈波伝播時間(PTT)からは血圧や血管硬さなどが、また、血圧−心拍の相互相関係数(ρMAX)からは血圧調整能力が読み取ることができる。つまり、この請求項6に記載の発明によれば、これらの脈波パラメータのいずれかを用いることにより、血圧、血管の硬さおよび血圧調整能力などの循環器系の個人特性を読み取ることができる。
【0015】
また、請求項7に記載の発明では、請求項1に記載の空調装置において、個人特性は、冷熱感であることを特徴としている。この請求項7に記載の発明によれば、生体特性に併せて、暑いときは血流が増え、寒いときは血流が絞られることなどより冷熱指標を検出することができる。このことより、被空調空間(10b)内に居る乗員(PA)の冷熱感を正確に検出して、その冷熱感に応じてより快適な方向に空調制御を可変することができる。
【0016】
また、請求項8に記載の発明では、請求項7に記載の空調装置において、冷感を検出する場合と熱感を検出する場合とで異なる脈波特性を用いて検出することを特徴としている。従来は、冷熱感の検出が、ある生理量を用いて一義的に行われていたため、誤検出や個人の感覚とのずれを生じるという問題点があった。しかし、この請求項8に記載の発明によれば、冷感を検出し易い脈波特性と熱感を検出し易い脈波特性との両方を用いることにより、誤検出することなく個人の感覚と合った冷熱感を検出することができる。

また、請求項9に記載の発明では、請求項8に記載の空調装置において、冷感を、脈波振幅、脈波伝播時間(PTT)および加速度脈波のいずれかを用いて検出することを特徴としている。この請求項9に記載の発明によれば、末梢の情報を反映し易い脈波特性を用いることで、冷感の検出精度を向上させることができる。
【0017】
また、請求項10に記載の発明では、請求項8に記載の空調装置において、熱感を、心拍数または脈波面積を用いて検出することを特徴としている。この請求項10に記載の発明によれば、代謝量の増大を反映し易い脈波特性を用いることで、熱感の検出精度を向上させることができる。
【0018】
また、請求項11に記載の発明では、請求項9または10に記載の空調装置において、冷感が検出される間は、被空調空間(10b)内へ吹き出す空調風の温度を高めるように、また熱感が検出される間は、被空調空間(10b)内へ吹き出す空調風の温度を下げるように制御することを特徴としている。この請求項11に記載の発明によれば、検出されている個人の冷熱感を解消もしくは改善することができる。
【0019】
また、請求項12に記載の発明では、請求項1ないし11のいずれかに記載の空調装置において、乗員(PA)の個人情報を入力する個人情報入力手段(3)を有し、個人情報入力手段(3)で入力された個人情報に応じて個人特性を補正することを特徴としている。
【0020】
この請求項11に記載の発明によれば、個人特性の中でも、時間的な変化を制御に反映させるものではなく、個人の傾向として制御に反映させるものであれば、過去に計測されたデータや外部で計測されたデータを用いたり、そのデータで計測データを補正したりすることにより、誤判定を防ぎ、より正確な個人特性を考慮した空調をすることができる。また、個人情報として疾患などの病歴を入力することにより、より個人にとって健康な空調を実現することができる。
【0021】
また、請求項13に記載の発明では、請求項1ないし12のいずれかに記載の空調装置において、被空調空間(10b)内の環境状態を計測する環境計測手段(92、94)を有し、環境計測手段(92、94)で計測された環境状態に応じて個人特性を補正することを特徴としている。
【0022】
例えば、低温環境では、血管年齢を高齢者側に見積もり易くなったりするが、この請求項12に記載の発明によれば、環境状態に応じて個人特性を補正することにより、誤判定を防ぎ、より正確な個人特性を考慮した空調をすることができる。なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図1〜5を用いて詳細に説明する。まず、図1は、本発明に係る車両用空調装置の機械的構成の一例を示す断面図であり、図2は、図1の車両用空調装置における制御系の構成を示すブロック図である。本実施形態は、本発明を車両用の空調装置に適用した例を示している。
【0024】
この空調装置は、車両の車室(被空調空間)10b内前方に配置された空調ダクト(通風路)20を備えており、この空調ダクト20内には、その上流から下流にかけて、内外気切り換えドア30、ブロワ40、エバポレータ50、エアミックスドア60、ヒータコア70および吹出口80が配設されている。
【0025】
内外気切り換えドア30は、その外気導入位置に切り換えられて、空調ダクト20内への外気導入口21aを介する外気(車室外空気)の空気流としての流入を許容する。また、内外気切り換えドア30は、その内気導入位置に切り換えられて、空調ダクト20内への内気導入口21bを介する内気(車室10b内空気)の空気流としての流入を許容する。
【0026】
ブロワ40は、駆動回路40aによって駆動されるブロワモータ41の回転速度に応じてファン42を回転させ、空調ダクト20内への内外気切り換えドア30を介する空気流を導入してエバポレータ50に向けて送風する。エバポレータ50は、空調装置の図示しない冷凍サイクルの可変容量型圧縮機50aの作動に応じて、ブロワ40からの空気流を冷却する。
【0027】
圧縮機50aは、車両の図示しない走行用のエンジンからベルト機構を介して動力を受けて作動するものであり、この圧縮機50aの容量は容量制御機構50bの作動に応じて変化する。エアミックスドア60は、サーボモータ60aによって駆動され、その開度に応じてエバポレータ50からの冷却空気流をヒータコア70に流入させるとともに、残余の冷却空気流を吹出口80に向けて流動させる。
【0028】
なお、吹出口80は、空調ダクト20の開口部から延長されて車室10b内の運転席および助手席の左右両側に配設されている。なお、図1では省略しているが、実際の吹出口は、前面窓ガラスの内側に向けて吹き出すデフロスタ吹出口、乗員PAの上半身に向けて吹き出すフェイス吹出口および乗員PAの足元に向けて吹き出すフット吹出口など、複数の吹出口で構成されている。
【0029】
そして、その複数の吹出口を開閉切換するための図示しない複数のドアと、その複数のドアを駆動するサーボモータなどの駆動手段が構成され、各種の吹出モードに対応して開閉切換されるようになっている。図2に示す操作スイッチSWは、空調装置を作動させるときに操作されて操作信号を生ずる。温度設定器91は、車室10b内の温度を所望の温度に設定するとき操作され、同所望の温度を設定温信号として発生する。
【0030】
内気温センサ(環境計測手段)92は、図1に示す如く、ダッシュボード12の前壁の左右中央部に配設されているものであり、車室10b内の現実の温度を検出して内気温検出信号として発生する。外気温センサ93は、エンジンルーム10aの前方開口部の左右中央部に配設されているものであり、外気の現実の温度を検出して外気温検出信号として発生する。
【0031】
日射センサ94(環境計測手段)は、ダッシュボード12の上壁の左右中央部に配設されているものであり、車室10b内に入射する現実の日射量を検出し、日射検出信号として発生する。出口温センサ95は、エバポレータ50の出口の吹き出し空気流の現実の温度を検出して出口温検出信号として発生する。水温センサ96は、車両のエンジン冷却系統内を流れる冷却水の現実の温度を検出して水温検出信号として発生する。
【0032】
脈波センサ(脈波計測手段)97は、図1に示す如く、ハンドル10cの中に組み込まれており、座席に着座した乗員PAの手から循環器系の情報として脈波を検出して、乗員PAの個人特性としての脈波信号を発生する。心電センサ98は、図1に示す如く、脈波センサ97と一緒にハンドル10cの中に組み込まれており、座席に着座した乗員PAの手から循環器系の情報として心電を検出して、乗員PAの個人特性としての心電信号を発生する。
【0033】
A−D変換器110は、温度設定器91からの設定温信号、内気温センサ92からの内気温検出信号、外気温センサ93からの外気温検出信号、日射センサ94からの日射検出信号、出口温センサ95からの出口温検出信号、水温センサ96からの水温検出信号、脈波センサ97からの脈波検出信号および心電センサ98からの心電検出信号を第1〜第8のディジタル信号として発生する。
【0034】
エアコンECU(空調制御手段)120は、コンピュータプログラムを、図3に示すフローチャートに従い、A−D変換器110との協働により実行し、この実行中において、駆動回路40a、容量制御機構50bおよびサーボモータ60aの駆動制御に必要な演算処理をする。なお、上述のコンピュータプログラムは、エアコンECU120のROMに予め記憶されている。
【0035】
また、エアコンECU120は、車両のイグニッションスイッチIGの閉成に応答してバッテリBAから給電されて作動状態になり、操作スイッチSWからの操作信号に応答して、コンピュータプログラムの実行を開始する。次に、エアコンECU120による制御方法の概要を、図3に基づいて説明する。図3は、図2のエアコンECUにおける全体制御プログラムを示すフローチャートである。
【0036】
まず、エアコンECU120内部のマイクロコンピュータに内蔵されたデータ処理用メモリの記憶内容などの初期化を行う(ステップS1)。次に、各種データをデータ処理用メモリに読み込む。即ち、図示しないエアコン操作パネル上の各種操作スイッチからのスイッチ信号や、前述した各種センサからのセンサ信号を入力する(ステップS2)。
【0037】
次に、上記の入力データを記憶している演算式に代入して、目標吹出温度を演算し、その目標吹出温度と外気温から、目標エバポレータ出口温を演算する(ステップS3)。次に、ステップS3で求めた目標吹出温度に基づいてブロワ風量、すなわちブロワモータ41に印加するブロワ制御電圧を、予め定めた特性パターンに基づいて決定する(ステップS4)。
【0038】
次に、ステップS3で求めた目標吹出温度と上記の入力データとをメモリに記憶されている演算式に代入して、エアミックスドア60のエアミックス開度(%)を演算する(ステップS5)。次に、ステップS3で求めた目標吹出温度に基づき、車室内へ取り込む空気流の吸込モードと、車室内へ吹き出す空気流の吹出モードとを決定する(ステップS6)。
【0039】
次に、ステップS3で求めた目標吹出温度と出口温センサ95が検知する実際のエバポレータ出口温とが一致するように、フィードバック制御(PI制御)にて圧縮機50aを目標吐出量とするための制御電流値を演算する(ステップS7)。具体的には、容量制御機構50bとして電磁式容量制御弁が圧縮機50aに付設されており、その容量制御弁の電磁ソレノイドに供給する制御電流(目標値ソレノイド電流)を、メモリに記憶されている演算式に基づいて演算する。
【0040】
次に、ステップS4で決定されたブロワ制御電流となるように、駆動回路40aに制御信号を出力する(ステップS8)。次に、ステップS5で演算されたエアミックス開度となるように、サーボモータ60aに制御信号を出力する(ステップS9)。次に、ステップS6で決定された吸込モードと吹出モードとなるように、図示しないサーボモータに制御信号を出力する(ステップS10)。
【0041】
次に、ステップS7で演算された制御電流を圧縮機50aに付設された電磁式容量制御弁の電磁ソレノイドに出力する(ステップS11)。その後にステップS2の制御処理に戻る。なお、マニュアル設定時には、その設定値に従って第3図の制御プログラムが実行される。図4は、本発明における各手段の構成を示すブロック図である。
【0042】
本実施形態の車両用空調装置は、車室10b内の乗員PAの脈波信号を計測する脈波計測手段としての脈波センサ97と、脈波センサ97で計測した脈波信号から必要とする特徴量を抽出する脈波特徴量抽出手段1と、脈波特徴量抽出手段1で抽出された特徴量から乗員PAの個人特性を推定する個人特性推定手段2と、個人特性推定手段2で推定された個人特性、および個人特性の時間的な変化に応じて設定温度に対する制御を可変する空調制御手段としてのエアコンECU120とを備えている。
【0043】
また、乗員PAの個人情報を入力する個人情報入力手段3と、車室10b内の環境状態を計測する環境計測手段としての内気温センサ92や日射センサ94を備えている。そして、これらからの信号が乗員PAの個人情報や環境情報として個人特性推定手段2に入力され、個人特性推定手段2で推定された個人特性にこれらの情報が加味され、必要に応じて個人特性が補正されるようになっている。
【0044】
なお、脈波特徴量抽出手段1および個人特性推定手段2は、実際はエアコンECU120の中にプログラムとして組み込まれ、個人情報入力手段3は、ダッシュボード12上のエアコン操作パネルなどに組み込まれる。次に、上述した各手段での作動を具体的に説明する。図5は、図4の内容を、本発明の第1実施形態での具体的な作動として、説明するブロック図である。
【0045】
まず、計測ステップとして、ハンドル10c内に組み込まれた脈波センサ97および心電センサ98により、脈波および心電を計測する。次に、特徴量抽出ステップ1Aとして、計測された脈波、心電より特徴量を算出する。本実施形態では特徴量として、末梢血管に関連したパラメータとして、脈波を2回微分した値である加速度脈波を算出している。他の特徴量として、脈波伝播時間(血管の硬さや血圧に関連するパラメータで、以下、PTTとする)、脈波波形、血圧−心拍の相互相関係数(以下、ρMAXとする)および心拍変動の揺らぎ(以下、LFHFとする)などを抽出しても良い。
【0046】
次に、個人特性推定ステップ2Aとして、本実施形態では、循環器系の推定を行っている。より具体的に、本実施形態では、抽出した加速度脈波の波形から、乗員PAの血管が硬いか、柔らかいかを判定している。これは、急激な温度変化を受けたときの生体反応として、急激に冷やされた場合は末梢血管が収縮して血圧が上昇する。このため、血圧の高い人や動脈硬化の進んだ人では、心臓や脳に負担が掛かり、重大な疾患を引き起こすおそれがある。
【0047】
また、逆に、急激に暖められた場合は、末梢血管が拡張して血圧が低下する。このため、血圧調整機能の弱い人(例えば、立ちくらみし易い人)では、脳へ到達する血液が不足して立ちくらみと同様の現象が生じ、運転中では危険な状態となる。このような事態を防ぐため、他の特徴量として、PTTからは加速度脈波と同様に血圧や血管硬さが推定でき、ρMAXからは血圧調整機能が推定できる。
【0048】
なお、個人情報入力ステップ3として、予め乗員PAの年齢、性別および体格などを入力しておき、個人特性推定ステップ2Aでの循環器系の推定の参考情報とするようになっている。また、環境計測ステップとして、内気温センサ92や日射センサ94などで検出された内気温や日射量など、乗員PAの環境情報も入力し、個人特性推定ステップ2Aでの循環器系の推定の参考情報とするようになっている。
【0049】
次に、空調制御ステップ120Aとして、推定した循環器系の個人特性に対応させて、空調制御を可変する。より具体的に、本実施形態では、血管の柔らかい人に対しては、速やかに設定温度に移行させ、血管の硬い人に対しては、ゆっくりと設定温度に移行させるようにしている。
【0050】
これは、血圧の高い人、血圧の低い人、血圧調整能力の低い人に対しても、設定温度に向けての温度可変速度をゆっくりと可変するのが良い。また、少なくとも設定温度に向けての温度可変中は、血圧やPTTなどの推移を監視するようになっており、その変化が所定の変化率を超えて変化する場合は、車室10b内への空調程度を弱くするようになっている。
【0051】
次に、本実施形態の特徴と、その効果について述べる。車室10b内の乗員PAの脈波信号を計測する脈波センサ97と、脈波センサ97で計測した脈波信号から、空調風の温度制御に必要な特徴量を抽出する特徴量抽出ステップ1Aと、特徴量抽出ステップ1Aで抽出された特徴量から、乗員PAの個人特性を推定する個人特性推定ステップ2Aと、個人特性推定ステップ2Aで推定された個人特性、および個人特性の時間的な変化に応じて設定温度に対する制御を可変する空調制御ステップ120Aとを有している。
【0052】
これによれば、車室10b内に居る乗員PAの個人特性を検出して、その個人特性、およびその個人特性の時間的な変化に応じて、快適だけではなく、健康にも考慮した空調となるよう制御を可変することができる。例えば、高齢者は冷熱感には鈍いが、暑熱に対する負荷には弱いため、脈波信号から推定される個人特性を考慮することにより、その人に適合した健康的な空調を実現することができる。
【0053】
また、個人特性は、主に循環器系の個人特性である。従来は、循環器系の情報によることなく空調を制御していたが、環境温度の変化は循環器系の疾患を招くおそれがある。つまり、循環器系の個人特性を考慮して空調することにより、循環器系の疾患などの体調不良を防ぐことができる。
【0054】
また、個人特性に応じて、設定温度に向けての温度可変速度を可変している。これによれば、例えば、血管の柔らかい人や血圧調整能力の高い人に対しては、速やかに設定温度に移行させ、血圧の高い人、血圧の低い人、血管の硬い人および血圧調整能力の低い人に対しては、ゆっくりと設定温度に移行させることで、前述した疾患の危険を防ぐことができる。
【0055】
また、少なくとも設定温度に向けて車室10b内の温度を可変している間は、個人特性の変化を監視し、その変化が所定の変化率を超えて変化する場合は、車室10b内への空調程度を弱くするようにしている。これによれば、血圧やPTTなどの個人特性の変化を見ながら温度を可変させることで、設定温度に至るまでの途中状態での急変に対しても、健康を考慮することができる。
【0056】
また、個人特性は、血圧、血管硬さおよび血圧調整能力のいずれかである。例えば、高齢者などの血管の硬い人が急激な冷房にあたることは、急激に血圧が上昇して危険である。また、例えば、血圧調整能力の低い人が急激な暖房にあたることは血圧の低下を招き、場合によっては失神することもある。しかし、血圧、血管硬さおよび血圧調整能力などの個人特性に対応した空調とすることで、上記の危険を未然に防ぐことができる。
【0057】
また、個人特性は、PTT、脈波波形、加速度脈波、ρMAXおよびLFHFのいずれかを用いて求めている。例えば、加速度脈波やPTTからは血圧や血管硬さなどが、また、ρMAXからは血圧調整能力が読み取ることができる。つまり、これらの脈波パラメータのいずれかを用いることにより、血圧、血管の硬さおよび血圧調整能力などの循環器系の個人特性を読み取ることができる。
【0058】
また、乗員PAの個人情報を入力する個人情報入力ステップ3を有し、個人情報入力ステップ3で入力された個人情報に応じて個人特性を補正するようにしている。これによれば、個人特性の中でも、時間的な変化を制御に反映させるものではなく、個人の傾向として制御に反映させるものであれば、過去に計測されたデータや外部で計測されたデータを用いたり、そのデータで計測データを補正したりすることにより、誤判定を防ぎ、より正確な個人特性を考慮した空調をすることができる。
【0059】
また、車室10b内の環境状態を計測する内気温センサ92や日射センサ94などを有し、内気温センサ92や日射センサ94などで計測された環境状態に応じて個人特性を補正するようにしている。例えば、低温環境では、血管年齢を高齢者側に見積もり易くなったりするが、環境状態に応じて個人特性を補正することにより、誤判定を防ぎ、より正確な個人特性を考慮した空調をすることができる。
【0060】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。図6は、図4の内容を、本発明の第2実施形態での具体的な作動として、説明するブロック図である。なお、本実施形態においては、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。この点で、計測ステップ、個人情報入力ステップ3および環境計測ステップは説明を省略する。異なる構成および特徴について説明する。
【0061】
本実施形態の特徴量抽出ステップ1Bでは、計測された脈波、心電より特徴量として、心拍数(以下、HRとする)や脈波振幅などを算出している。他の特徴量として、前述したPTTや加速度脈波および脈波面積などを抽出しても良い。これらは、冷熱に関する生理パラメータとして、下記の特徴を持つ。
【0062】
HR:暑い場合は放熱を促進するため、HRを増大させて血流を促進させる。また、寒い場合は放熱を抑制する効果と、感情的な効果などが生じ、必ずしも低下するとは限らない。また、低下しても効果は小さい。
【0063】
脈波振幅:暑い場合は、血流の増加がHRで賄われてしまうため、そのときの交感神経の活動により、増減がばらつく。寒い場合は、放熱を抑制するため、確実に末梢血管を収縮させ、脈波振幅は小さくなる。
【0064】
PTT:暑い場合は、HRの増加による血管硬さの増加と、血管系の拡張による血管硬さの減少の効果が混合する。寒い場合は、血管収縮の効果が強く出る。
【0065】
加速度脈波(c、d):温熱刺激に対してはPTTとほぼ同様の反応を示す。
【0066】
脈波面積:単位時間当たりの面積とすると、温熱刺激に対しては、HRとほぼ同じ情報となる。
【0067】
次に、個人特性推定ステップ2Bとして、本実施形態では、冷熱感の推定を行っている。なお、熱感を検出する場合と冷感を検出する場合とで異なる脈波特性を用いて検出している。具体的に本実施形態では、熱感の検出にはHRを用い、冷感の検出には脈波振幅を用いている。これは、熱感を検出し易い脈波特性(HR)と冷感を検出し易い脈波特性(脈波振幅)との両方を用いたものである。
【0068】
図6の2B中に示す例では、環境の温度が上がればHRも上がって熱感が検出される(左上グラフ)。また、環境の温度が一定でも乗員PAが興奮すれば、代謝量の増大のため乗員PAは熱感を感じるが、興奮によるHRの上昇を代謝量の増大と捉え、熱感として検出できる(右上グラフ)。また、逆に、環境の温度が下がれば脈波振幅が下がって冷感が検出される(左下グラフ)。また、環境の温度が一定でも乗員PAがリラックスすれば、代謝量が低下し乗員は冷感を感じるが、リラックスによる脈波振幅の低下を冷感として検出できる(右下グラフ)。
【0069】
なお、熱感の検出には他に脈波面積を用いても良いし、冷感の検出には他にPTTや加速度脈波を用いても良い。次に、空調制御ステップ120Bとして、熱感が検出される間は、車室10b内へ吹き出す空調風の温度を若干低く可変することにより、熱感として上がっていたHRは下がって落ち着くようになる。また、冷感が検出される間は、車室10b内へ吹き出す空調風の温度を若干高く可変することにより、冷感として下がっていた脈波振幅は上がって落ち着くようになる。
【0070】
次に、本実施形態の特徴と、その効果について述べる。まず、推定する個人特性は冷熱感である。これは、生体特性に併せて、暑いときは血流が増え、寒いときは血流が絞られることなどより冷熱指標を検出することができる。このことより、車室10b内に居る乗員PAの冷熱感を正確に検出して、その冷熱感に応じてより快適な方向に空調制御を可変することができる。
【0071】
また、冷感を検出する場合と熱感を検出する場合とで異なる脈波特性を用いて検出している。従来は、冷熱感の検出が、ある生理量を用いて一義的に行われていたため、誤検出や個人の感覚とのずれを生じるという問題点があった。しかし、これによれば、冷感を検出し易い脈波特性と熱感を検出し易い脈波特性との両方を用いることにより、誤検出することなく個人の感覚と合った冷熱感を検出することができる。
【0072】
また、冷感を、脈波振幅、PTTおよび加速度脈波のいずれかを用いて検出している。これによれば、末梢の情報を反映し易い脈波特性を用いることで、冷感の検出精度を向上させることができる。また、熱感を、心拍数または脈波面積を用いて検出している。これによれば、代謝量の増大を反映し易い脈波特性を用いることで、熱感の検出精度を向上させることができる。
【0073】
また、冷感が検出される間は、車室10b内へ吹き出す空調風の温度を高く可変し、熱感が検出される間は、車室10b内へ吹き出す空調風の温度を低く可変している。これによれば、検出されている乗員PAの冷熱感を解消もしくは改善することができる。
【0074】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。例えば、上述の実施形態では、個人情報として乗員PAの年齢、性別および体格などを入力して反映させているが、前回運転時の個人特性を個人情報として反映させても良い。また、病院など外部機関で計測した個人特性を個人情報として反映させても良い。
【0075】
また、上述の実施形態では、車両用の空調装置に本発明を適用した例について説明したが、これに代えて、家庭などの一般室内の空調装置に本発明を適用して実施しても良い。また、上述の実施形態では、圧縮機50aをエンジンによる駆動としているが、これに代えて、適宜な可変速電動機によって駆動するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係る車両用空調装置の機械的構成の一例を示す断面図である。
【図2】図1の車両用空調装置における制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】図2のエアコンECUにおける全体制御プログラムを示すフローチャートである。
【図4】本発明における各手段の構成を示すブロック図である。
【図5】図4の内容を、本発明の第1実施形態での具体的な作動として、説明するブロック図である。
【図6】図4の内容を、本発明の第2実施形態での具体的な作動として、説明するブロック図である。
【符号の説明】
【0077】
1…脈波特徴量抽出手段
2…個人特性推定手段
3…個人情報入力手段
10b…車室(被空調空間)
92…内気温センサ(環境計測手段)
94…日射センサ(環境計測手段)
97…脈波センサ(脈波計測手段)
120…エアコンECU(空調制御手段)
PA…乗員
LFHF…心拍変動の揺らぎ
PTT…脈波伝播時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被空調空間(10b)内の温度を設定温度に維持するために、前記被空調空間(10b)内へ吹き出す空調風の温度を制御する空調装置において、
前記被空調空間(10b)内の乗員(PA)の脈波信号を計測する脈波計測手段(97)と、
前記脈波計測手段(97)で計測した前記脈波信号から、空調風の温度制御に必要な特徴量を抽出する脈波特徴量抽出手段(1)と、
前記脈波特徴量抽出手段(1)で抽出された前記特徴量から、前記乗員(PA)の個人特性を推定する個人特性推定手段(2)と、
前記個人特性推定手段(2)で推定された前記個人特性、および前記個人特性の時間的な変化に応じて前記設定温度に対する制御を可変する空調制御手段(120)とを有することを特徴とする空調装置。
【請求項2】
前記個人特性は、循環器系の個人特性であることを特徴とする請求項1に記載の空調装置。
【請求項3】
前記個人特性に応じて、前記設定温度に向けての温度可変速度を可変することを特徴とする請求項1または2に記載の空調装置。
【請求項4】
少なくとも前記設定温度に向けて前記被空調空間(10b)内の温度を可変している間は、前記個人特性の変化を監視し、その変化が所定の変化量もしくは変化率を超えて変化する場合は、前記被空調空間(10b)内への空調程度を弱くすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の空調装置。
【請求項5】
前記個人特性は、血圧、血管硬さおよび血圧調整能力のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の空調装置。
【請求項6】
前記個人特性は、脈波伝播時間(PTT)、脈波波形、加速度脈波、血圧−心拍の相互相関係数(ρMAX)および心拍変動の揺らぎ(LFHF)のいずれかを用いて求めることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の空調装置。
【請求項7】
前記個人特性は、冷熱感であることを特徴とする請求項1に記載の空調装置。
【請求項8】
冷感を検出する場合と熱感を検出する場合とで異なる脈波特性を用いて検出することを特徴とする請求項7に記載の空調装置。
【請求項9】
前記冷感を、脈波振幅、脈波伝播時間(PTT)および加速度脈波のいずれかを用いて検出することを特徴とする請求項8に記載の空調装置。
【請求項10】
前記熱感を、心拍数または脈波面積を用いて検出することを特徴とする請求項8に記載の空調装置。
【請求項11】
前記冷感が検出される間は、前記被空調空間(10b)内へ吹き出す空調風の温度を高めるように、また前記熱感が検出される間は、前記被空調空間(10b)内へ吹き出す空調風の温度を下げるように制御することを特徴とする請求項9または10に記載の空調装置。
【請求項12】
前記乗員(PA)の個人情報を入力する個人情報入力手段(3)を有し、前記個人情報入力手段(3)で入力された前記個人情報に応じて前記個人特性を補正することを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の空調装置。
【請求項13】
前記被空調空間(10b)内の環境状態を計測する環境計測手段(92、94)を有し、前記環境計測手段(92、94)で計測された前記環境状態に応じて前記個人特性を補正することを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−132246(P2009−132246A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309308(P2007−309308)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】