説明

空隙充填用中詰め充填材及びその製造方法

【課題】圧送管による圧送や隙間の無い充填という中詰め充填材の充填工程に伴う要求と、熱抵抗値を可能な限り低下させたいという要求との、それぞれ相反する二つの要求を満たす新規な空隙充填用中詰め充填材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】固化材と、密度調整材と、流動化剤とを含み、水により混練された空隙充填用中詰め充填材であって、上記固化材はセメントであり、上記密度調整材は炭酸カルシウム(CaCO)であり、上記流動化剤は減水剤であるとともに、以下の配合量とされてなるものである。
(1)セメントの配合量:40kg/m〜400kg/m
(2)炭酸カルシウムの配合量:1100kg/m〜1500kg/m
ただし、上記(1)及び(2)の合計:1140kg/m〜1540kg/m
(3)減水剤の配合量:上記(1)及び(2)の合計の0.3%〜0.4%
(4)水の配合量:400kg/m〜500kg/m

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルの地中への敷設において、地中に埋設される鞘管と、この鞘管内に配置される電力ケーブル引き込み用の電力ケーブル設置用管路との間の空隙に充填する空隙充填用中詰め充填材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで電力ケーブルは、概ね以下に説明する工程で敷設されている。先ず、推進工法やシールド工法により、地中に鞘管(一次覆工材)をそれぞれ接続させた状態で埋設する。次いで、この鞘管の下側から、管路支持部材(1段目の管路支持部材)を配置し、この1段目の管路支持部材上に、内部に電力ケーブルが挿通される電力ケーブル設置用管路(1段目の電力ケーブル設置用管路)を載置する。
【0003】
次いで、この1段目の電力ケーブル設置用管路上に(2段目の)管路支持部材を載置し、この2段目の管路支持部材上に、(2段目の)電力ケーブル設置用管路を載置する。またさらに、この2段目の電力ケーブル設置用管路上に、(3段目の)管路支持部材を載置し、この3段目の管路支持部材上に(3段目の)電力ケーブル設置用管路を載置する。なお、上記各電力ケーブル設置用管路は、以前に配置した鞘管内の電力ケーブル設置用管路の先端に接続した状態で載置する。
【0004】
そして、所定の距離に亘って上記電力ケーブル設置用管路の配置作業が終了すると、上記鞘管内に、閉塞壁を設ける。この閉塞壁は、上記鞘管内において所定の距離毎に形成されるものであり、閉塞壁と閉塞壁との間には、上述した電力ケーブル設置用管路が既に配置されている。そして、こうした閉塞壁の形成作業が終了すると、次いで、この閉塞壁と閉塞壁との間に中詰め充填材を充填(打設)する。
【0005】
すなわち、上記鞘管の基端側から順次各管路支持部材を介して電力ケーブル設置用管路の(接続作業及び)配置作業が、所定の長さに亘って終了すると、上記閉塞壁を形成し、以前に形成した閉塞壁との間に上記中詰め充填材を充填する。そして、この中詰め充填材の充填作業が終了すると、さらに、1段目の管路支持部材を配置し、電力ケーブル設置用管路を載置する、という順序で地中に埋設された鞘管内に中詰め充填材を充填して行き、鞘管全体に上記中詰め充填材の充填作業が終了すると、その後に、上記各電力ケーブル設置用管路内に電力ケーブルを敷設する。
【0006】
ところで、こうした中詰め充填材は、土砂の流入防止、ケーブル引き入れ時に加わる力による、電力ケーブル設置用管路の移動、破損を防止するために充填されるものである。
【0007】
他方、この中詰め充填材の充填作業は、地上においてミキサー等を用いて混練された直後に、圧送管内を圧送させ、上記閉塞壁と閉塞壁とにより仕切られた空間内に充填することにより行う。通常、この圧送管は、鞘管内の上方に先端を位置させ、先端から該中詰め充填材を放出し、下方に落下させることにより、該鞘管の下方から順次堆積させながら、上記閉塞壁と閉塞壁との間に隙間なく充填する。したがって、上記圧送管を用いた圧送や、該圧送管の先端からの放出による隙間の無い充填状態とすべきことを考慮すると、該圧送管による圧送前の中詰め充填材は、固化材に対する水の配合量を増加させる等により、流動性(フロー値)を高くすることが好ましい。
【0008】
しかしながら、このように、圧送管を用いた圧送や隙間の無い充填状態を実現する目的で水の配合量を増加させた場合、充填作業後に硬化した中詰め充填材からの水の蒸発により、硬化した中詰め充填材の空隙率が上昇し、この結果、該中詰め充填材の熱抵抗値も上昇する。よって、水の配合量を増大させることは、電力ケーブルに通電できる許容電流値を低下させることとなり、その許容電流値の低下を加味せず電力ケーブルに電流を通電し続けた場合には、電力ケーブルの絶縁破壊を招く恐れがある。このことを考慮し、逆に水の配合量を下げた場合には、上記圧送管を用いた圧送が困難となるばかりか、該圧送管の先端からの放出により完全充填される前に圧送管が閉塞され、下側から堆積した中詰め充填材内に多数の隙間が生ずることとなる。したがって、空隙充填用中詰め充填材は、圧送管による圧送や隙間の無い充填という中詰め充填材の充填工程に伴う要求と、空隙率を低下させ熱抵抗値を可能な限り低下させたいという要求とのそれぞれ相反する二つの要求を満たすものであることが望まれている。
【0009】
そこで、従来では、例えば、中詰め充填材料としてエアモルタルがよく使用されている。特に、流動性の良いエアモルタルとして、炭酸カルシウムCaCOを混和材として使用している中詰め充填材が提案されている(特許文献1参照)。)この中詰め充填材の成分の一例を説明すると、中詰め充填材の1m当たりについて、高炉B種セメント240kg、MPグラウト(炭酸カルシウム)240kg、起泡剤(APフォーム)1.4kg、水312kgである(後述する「表1」参照)。
【0010】
【特許文献1】特許第2514576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そして、上記配合例の場合における上記特許文献1の性能について本願の発明者らが試験したところ(試験方法は後述する)、フロー値が250mm、密度が817kg/m、熱抵抗値が乾燥前の2.77K・m/Wに対して全乾燥後には16.18K・m/W、ブリーディング率が1.0%という試験結果が明らかになった(後述する「表1」参照)。
【0012】
なお、フロー値とは、中詰め充填材の流動性を示す値であって、フロー値が大きいほど流動性が高く、グラウトポンプにより鞘管内に中詰め充填材を容易に圧送することができる。また、ブリーディング率とは、組成物等の沈降により中詰め充填材の上面に浮上する単位体積当たりの水量の割合であって、その値が低いほど浮上する水量が少なく、空隙の発生が抑止されることから、後述する熱抵抗値を低下させる作用をする。また、熱抵抗値とは、熱伝導性(熱移動のおこりやすさ)を示す値であって、その値が低いほど放熱性が高く、ケーブル用管路の周囲に熱を蓄積しないことから、中詰め充填材では熱抵抗値が低いほど好ましい。また、全乾燥とは、中詰め充填材を100℃で加熱した結果、その重量の変化が無くなり平衡を維持している状態における乾燥状態をいう。
【0013】
この特許文献1に開示された中詰め充填材では、圧送管による圧送性能や鞘管と電力ケーブル設置用管路との間における空隙の発生率の低減に重点が置かれているため、熱抵抗値は極めて高い。すなわち、この特許文献1に係る中詰め充填材では、単位体積当たりの空気の含有割合が52%と高い微粒子混和材系のエアモルタルを主成分にしたことから、中詰め充填材の密度が817kg/mと低くなり、このため、熱抵抗値が高く、特に全乾燥後における値の16.18K・m/Wはきわめて高いので、放熱性が低い(悪い)。
【0014】
これは、中詰め充填材注入後に電力ケーブルを使用に供すると、乾燥前に含有していた水分が電力ケーブルの発熱などにより蒸発することから、中詰め充填材が全乾燥状態となり、熱抵抗値の高い空気層が増加して、中詰め充填材の熱抵抗値がさらに高くなることを意味している。なお、自然界における各要素の固有熱抵抗値は、乾燥土壌が0.8K・m/W、水が1.65K・m/W、乾燥空気が40K・m/Wであって、空気の熱抵抗値は土壌や水と比較して極めて高く、その分だけ放熱性が低い。
【0015】
この中詰め充填材を用いて、ヒータ電流0.4A、ヒータ抵抗24Ω、ヒータ長20cmにより加熱した温度上昇値を測定した結果は以下のとおりである。熱抵抗値が2.77K・m/Wである乾燥前においては、図4に示すように、経過時間t=1分における温度のθ=56.6℃に対して、経過時間t=20分における温度はθ=69.3℃であって、その温度上昇はΔθ=12.7℃である。
【0016】
また、熱抵抗値が16.18K・m/Wである全乾燥後においては、図5に示すように、経過時間t=1分における温度のθ=57.1℃に対して、経過時間t=20分における温度はθ=131℃であって、その温度上昇はΔθ=73.9℃である。このような温度上昇は、電力ケーブルの絶縁破壊を招く恐れがある。
【0017】
そこで本発明は、上述した空隙充填用中詰め充填材が有する課題を解決するために提案されたものであって、圧送管による圧送や隙間の無い充填という中詰め充填材の充填工程に伴う要求と、熱抵抗値を可能な限り低下させたいという要求との、それぞれ相反する二つの要求を満たす新規な空隙充填用中詰め充填材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した目的を達成するため、第1の発明(請求項1記載の発明)に係る空隙充填用中詰め充填材は、固化材と、密度調整材と、流動化剤とを含み、水により混練された空隙充填用中詰め充填材であって、
上記固化材はセメントであり、上記密度調整材は炭酸カルシウム(CaCO)であり、上記流動化剤は減水剤であるとともに、以下の配合量とされてなることを特徴とするものである。
(1)セメントの配合量:40kg/m〜400kg/m
(2)炭酸カルシウムの配合量:1100kg/m〜1500kg/m
ただし、上記(1)及び(2)の合計:1140kg/m〜1540kg/m
(3)減水剤の配合量:上記(1)及び(2)の合計の0.3%〜0.4%
(4)水の配合量:400kg/m〜500kg/m
【0019】
この第1の発明では、水の配合量に対して、炭酸カルシウムを多く配合することにより、熱抵抗値が下げられ、他方、上記配合量の減水剤(流動化剤)を配合することにより、流動性が高められているから、相反する要求を満足することができる。すなわち、水の量に対して炭酸カルシウム及びセメントの配合量が少ないと、水の割合が多くなることから流動性は高くなるが、密度が低く熱抵抗値は高くなる。また、逆に水の量に対して炭酸カルシウム及びセメントの配合量が多いと、流動性は低くなるが、密度が高く熱抵抗値は低くなる。
【0020】
そして、水の配合量との関係で、セメントと炭酸カルシウムとを合計した配合量が上記1540kg/mを超えた場合には、混練することが困難となるばかりか、圧送管による圧送も極めて困難となり、鞘管内への充填がされたとしても該鞘管内に多くの隙間が発生する。他方、上記1140kg/mを下回った場合には、密度が下がり、混練ないし攪拌が可能となり圧送管による圧送等も容易となるが、熱抵抗値が高くなる。また、セメントの配合量が上記40kg/mよりも下回ると、全乾燥時における熱抵抗値が高くなり、セメントの配合量が多いほど全乾燥時における熱抵抗値は低くなるが、上記400kg/mを超えると、固化するときの硬化熱が高くなるとともに、混練性が悪く圧送することが困難となる。
【0021】
そこで、流動化剤として減水剤を炭酸カルシウムとセメントとの合計の0.3%〜0.4%配合することにより、水の量に対して炭酸カルシウム及びセメントの配合量を多くし、流動性を低下させることなく密度を高め、熱抵抗値を低下させることができるものである。すなわち、上記配合量は、水の配合量を少なく維持しながら、固化材であるセメントの配合割合に対して炭酸カルシウムの配合量を増加させるとともに、減水剤を添加させることにより、圧送管による圧送や隙間の無い充填という中詰め充填材の充填工程に伴う要求と、熱抵抗値を可能な限り低下させたいという要求との、それぞれ相反する二つの要求を満たしたものである。
【0022】
また、本発明を構成するセメントとしては、普通ポルトランドセメント、高炉セメント、早強ポルトランドセメントなどを用いることができる。なお、熱抵抗値は、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、高炉セメントの順に高まるが、早強ポルトランドセメントは高価で、硬化時間が早い(遅延効果が低い)ためフロー値が早期に小さくなり、長距離圧送での安定性が低下するので、総合すると普通ポルトランドセメントが適している。
【0023】
また、密度調整材は、一般的には、炭酸カルシウム(CaCO)、粘土鉱物であるベントナイトやカオリン(SiO)、花崗岩類、砂岩類などが存在するが、粘土鉱物であるベントナイトや花崗岩類は、珪砂としてガラス材料などに多用されている。しかし、微粒子状の材料は少なく、流動性が悪い。これらに対して、炭酸カルシウム(CaCO)は、熱抵抗値、流通経済性などにおいて適している。そこで、この第1の発明においては、密度調整材は、炭酸カルシウム(CaCO)に限定した。
【0024】
なお、減水剤としては、ポリカルボン酸系化合物(請求項2記載の発明)、メラミンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸塩系、オキシカルボン酸塩系、アルキルアリルスルホン酸塩系、ホルマリン縮合物等を使用することができる。
【0025】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)は、上記第1の発明において、前記減水剤は、ポリカルボン酸系化合物であることを特徴とするものである。
【0026】
この第2の発明では、ポリカルボン酸系化合物は、減水率が高い一方で、流動性を高める作用があり、この結果、水の配合量を低く抑えることができる。なお、このポリカルボン酸系化合物は、中詰め充填材の硬化時間を遅延させる機能を有するものであれば更に好ましい。こうした機能を備えた減水剤を使用することにより、中詰め充填材の圧送が良好となると同時に、熱抵抗値を下げることができる(2つの要求を満足できる)ばかりか、さらに、遅延効果が高められることにより、ミキサーで製造された中詰め充填材が鞘管内に充填されるまでの間に硬化してしまうことを防止でき、一回の充填材の充填作業をより長距離に亘って行うことができ、ひいては工期の短縮を図ることができる。
【0027】
なお、このような作用をするポリカルボン酸化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのカルボン酸塩、ポリオキシエチレンフェニルエーテルのカルボン酸塩、ポリオキシアルキレン基を片末端にカルボキシル基及びその塩を有する化合物、不飽和基を有するカルボン酸のアルキレンオキサイドエステル、塩生成基を有するアクリル酸エステルと不飽和基を有する共重合モノマーとの共重合物、及びポリアルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体とマレイン酸系単量体及びこれらの単量体と共重合可能な単量体との共重合物等が挙げられる。そして、上記遅延効果を有するポリカルボン酸系化合物としては、電気化学工業株式会社製の品番;スーパー300ES(K)を使用することが望ましい。
【0028】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)に係る空隙充填用中詰め充填材の製造方法は、前記請求項1又は2のいずれかに記載の空隙充填用中詰め充填材の製造方法であって、前記水と前記流動化剤の所定配合量の30〜50%とをミキサー内に投入し攪拌する第1の工程と、この第1の工程の後に、該ミキサー内に前記密度調整材を投入し混練する第2の工程と、この第2の工程の後に、上記ミキサー内に前記固化材であるセメントを投入し混練する第3の工程と、この第3の工程の後に、上記ミキサー内に残余の上記流動化剤70〜50%を投入して混練する第4の工程と、を備えてなることを特徴とするものである。
【0029】
この第3の発明では、流動化剤を配合する前に密度調整材及び固化材を混練しようとする場合には、水量に対して密度調整材の配合量が多いことから、スラリー状を形成することができず、後から流動化剤を配合して混練することができない。そこで、水と流動化剤の所定配合量の一部を先に投入して攪拌し、密度調整材及び固化材を混練した後、流動化剤の残余を配合して混練することにより水の少ないスラリー状の組成物を製造することができる。
【発明の効果】
【0030】
上記第1の発明(請求項1記載の発明)では、熱抵抗値(特に、全乾燥時における熱抵抗値)を下げることができることから、中詰め充填材の放熱性を向上させて電力ケーブルの発熱を抑止し、電力ケーブルに通電できる許容電流値の低下を防ぐことができる。
【0031】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)では、水の配合量を、他の物質(固化材、密度調整材)との関係で少なくしても、流動性を維持又は向上させることができることから、中詰め充填材の上面に水が浮上するブリーディング現象を低下させることができ、より一層熱抵抗値(特に、全乾燥時における熱抵抗値)を下げることができる。また、遅延効果が高められたポリカルボン酸系化合物を使用することにより、ミキサーで製造された中詰め充填材が鞘管内に充填されるまでの間に硬化してしまうことを防止できることから、長距離の鞘管内に中詰め充填材を隙間無く容易に圧送することができ、一回の充填材の充填作業をより長距離に亘って行うことができ、ひいては工期の短縮を図ることができる。
【0032】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)では、水と流動化剤の所定配合量の一部を先に投入して攪拌し、密度調整材及び固化材を混練した後、流動化剤の残余を配合して混練することにより水の少ないスラリー状の中詰め充填材を製造することができることから、混練された中詰め充填材の密度を高めることにより、熱抵抗値を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。この実施の形態に係る空隙充填用中詰め充填材(以下、充填材という。)は、表1に記載した物質から構成されている。
【0034】
【表1】

【0035】
上記表1に記載されているように、この実施の形態では充填材1m当たりの重量が、固化材として、普通ポルトランドセメントを300kg使用した。この普通ポルトランドセメントの配合量は、この充填材全体の15.33重量%に相当する。また、密度調整材としては、炭酸カルシウムを1m当たり1200kg使用した。この炭酸カルシウムの配合量は、この充填材全体の61.31重量%に相当する。また、流動化剤としての減水剤は、ポリカルボン酸系化合物を使用し、1m当たり5.0kg使用した。なお、このポリカルボン酸系化合物は、電気化学工業株式会社製の品番;スーパー300ES(K)を使用した。また、このポリカルボン酸系化合物の配合量の比率は、充填材全体の0.26重量%に相当する。
【0036】
なお、この実施の形態においては、上記物質以外は使用していない。そして、これらの物質を配合するための後述する製造工程中、水を452kg使用した。この水の配合量は、この充填材全体の23.10重量%に相当する。換言すれば、水1に対して、上記各物質の重量比率は、次の通りとなる。水1:普通ポルトランドセメント0.66:炭酸カルシウム2.65:ポリカルボン酸系化合物0.011である。
【0037】
次に、上記配合からなる充填材の製造方法について説明する。この製造方法に係る充填材1の各原料の貯蔵は図1(a)において、炭酸カルシウムが密度調整材用貯蔵サイロ12に貯蔵され、普通ポルトランドセメントが固化材用貯蔵サイロ11に貯蔵され、ポリカルボン酸系化合物が流動化剤用貯蔵容器13に貯蔵され、水が水槽14に貯蔵されている。これら各原料が後述する手順により所定の配合量ずつミキサー15内に投入されて混練される。なお、ミキサー15には、図示しないモルタルホッパー及び水量計が備えられている。
【0038】
ここでは、容積1mの充填材1を製造する場合について説明する。先ず、図1に示す水槽14からミキサー15内に、水の所定配合量452kgの全量を投入するとともに、流動化剤用貯蔵容器13からミキサー15内に、ポリカルボン酸系化合物の所定配合量5.0kgの略50%に相当する2.5kgを投入して攪拌する(第1の工程)。
【0039】
次に、この第1の工程の後に、密度調整材用貯蔵サイロ12からミキサー15内に、炭酸カルシウムの所定配合量1200kgの全量を投入して、先に投入された水及びポリカルボン酸系化合物とともに混練する(第2の工程)。
【0040】
次に、固化材用貯蔵サイロ11からミキサー15内に、普通ポルトランドセメントの所定配合量300kgの全量を投入し混練する(第3の工程)。
【0041】
最後に、流動化剤用貯蔵容器13からミキサー15内に、ポリカルボン酸系化合物の所定配合量5.0kgの残余2.5kgを投入し、1分間以上混練する(第4の工程)ことにより充填材1のスラリー状組成物が出来上がる。
【0042】
上述した製造方法では、ポリカルボン酸系化合物は、第1の工程において所定配合量の約50%を先に投入して攪拌し、第4の工程において残余を投入して混練するようにしたから、製造途中において攪拌ないし混練不能となるような事態を避けることができる。すなわち、ポリカルボン酸系化合物を配合する前に炭酸カルシウム及び普通ポルトランドセメントを混練しようとする場合には、水量に対して炭酸カルシウム及び普通ポルトランドセメントの配合量が多いことから、スラリー状を形成することができず、攪拌ないし混練ができなくなるが、上記配合割合の製造工程により容易に製造することができる。
【0043】
また、前述した配合量(配合割合)により、上記製造方法によって製造された充填材によれば、水の配合量に対して、炭酸カルシウムを多く配合することにより、熱抵抗値が下げられ、他方、上記配合量のポリカルボン酸系化合物を配合することにより、流動性が高められているから、相反する二つの要求を満たすことができる。
【0044】
このようにして製造される充填材の性能と各組成物との関係について説明する。ここで以下の説明において用いるフロー値とは、充填材1の流動性を示す値であって、フロー値が大きいほど流動性が高く、グラウトポンプ16により後述する鞘管2内に充填材1を容易に圧送することができる。また、ブリーディング率とは、組成物等の沈降により充填材1の上面に浮上する単位体積当たりの水量の割合であって、その値が低いほど浮上する水量が少ない。また、熱抵抗値とは、熱伝導性(熱移動のおこりやすさ)を示す値であって、その値が低いほど放熱性が高く、後述する電力ケーブル設置用管路3の周囲に熱を蓄積しないことから、充填材1では熱抵抗値が低いほど好ましい。また、全乾燥とは、固化した充填材1を100℃で加熱した結果、その重量の変化が無くなり平衡を維持している状態における乾燥状態をいう。
【0045】
一般に、固化材としての普通ポルトランドセメントと、密度調整材としての炭酸カルシウム(CaCO)の配合量を多くすれば、密度が高くなって熱抵抗値が低下する。しかし、これらの配合量が多すぎると、流動性を示すフロー値が低下し、混練性が悪化するとともに、流動性の低下により鞘管2内に充填材1を容易に圧送することができない。
【0046】
このフロー値を高めるには、水量を増加すればよいが、水量が多くなるにしたがいブリーディング率が高くなるとともに、密度が低下して、熱抵抗値が高くなって放熱性が悪くなることから、電力ケーブルに通電できる許容電流値を低下させることとなり、その許容電流値の低下を加味せず電力ケーブルに電流を通電し続けた場合には、電力ケーブルの絶縁破壊を招く恐れがある。したがって、水量を多くせずにフロー値を高水準に維持しつつ密度を高くすれば、熱抵抗値が低く流動性の良好な充填材を得ることができる。
【0047】
そこで、本実施の形態においては、流動化剤(減水剤)としてポリカルボン酸系化合物に着目し、このポリカルボン酸系化合物の配合により、水量に対して密度調整材(炭酸カルシウム)の配合割合を高めて、熱抵抗値が低く、流動性の高い充填材を得ることができた。なお、流動化剤(減水剤)としては、上記ポリカルボン酸系化合物のほかに、メラミンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸塩系、オキシカルボン酸塩系、アルキルアリルスルホン酸塩系、ホルマリン縮合物などが挙げられる。しかしながら、塩化物を含まない材料で、低水結合材比であっても分散性に優れていること、流動性の保持性が良好なこと、遅延効果が高いことなどにより、ポリカルボン酸系化合物である減水剤が最適である。
【0048】
そして、上記重量配合比率において、流動化剤(減水剤)として1m当たり5.0kgのポリカルボン酸系化合物を配合することにより、流動性を維持しつつ、水量452kgに対する炭酸カルシウム1200kgの重量配合比率を2.65と高くできることから、密度を1957kg/mまで高めることにより、熱抵抗値は、乾燥前が0.43K・m/W、全乾燥後が1.07K・m/Wまで低下させることができる。なお、ポリカルボン酸系化合物が設定値より過少である場合には、流動不良や混練不能の原因となり、逆に過多である場合には、ブリーディング率の上昇や硬化遅延の原因となる。
【0049】
しかも、上記重量配合比率におけるフロー値は440mmと高く、ブリーディング率は1.0%未満と低いので、電力ケーブルに通電できる許容電流値の低下を防止することができるとともに、図1に示すグラウトポンプ16により鞘管2内に充填材1を容易に圧送することができる。
【0050】
この充填材1を用いて、ヒータ電流0.4A、ヒータ抵抗24Ω、ヒータ長20cmにより加熱した温度上昇値を測定した結果は以下のとおりである。熱抵抗値が0.43K・m/Wである乾燥前においては、図2に示すように、経過時間t=1分における温度のθ=53.7℃に対して、経過時間t=20分における温度はθ=55.7℃であって、その温度上昇はΔθ=2.0℃である。この温度上昇値は、図4に示す特許文献1のΔθ=12.7℃に比べて約1/6と極めて低い。
【0051】
また、熱抵抗値が1.07K・m/Wである全乾燥後においては、図3に示すように、経過時間t=1分における温度のθ=68.2℃に対して、経過時間t=20分における温度はθ=73.1℃であって、その温度上昇はΔθ=4.9℃と僅少である。この温度上昇値は、図5に示す特許文献1のΔθ=73.9℃に比べて約1/15と極めて低く、本実施の形態による充填材1においては、特に、この全乾燥後における温度上昇値が低いことから、電力ケーブルに通電できる許容電流値の低下を防止することができる。
【0052】
本実施の形態に係る充填材の上記配合割合及び性能についての評価は、従来技術に係る充填材と比較すれば明白であって、表1に示す特許文献1の充填材では、1m当たりについて、水量312kgに対して、炭酸カルシウム(密度調整材)240kgの重量配合比率が0.77と低い(本実施の形態の一実施例は2.65)ことと、固有熱抵抗値が40K・m/Wと極めて高い空気の含有量が52%であるエアモルタルを主成分にしたこととが相まって、密度が817kg/mと低く、その結果、全乾燥後の熱抵抗値が16.18K・m/Wまで高められている。したがって、電力ケーブルに通電できる許容電流値を低下させることとなり、その許容電流値の低下を加味せず電力ケーブルに電流を通電し続けた場合には、電力ケーブルの絶縁破壊を招く恐れがある。
【0053】
なお、表1に示す本実施の形態及び特許文献1に係る充填材のそれぞれの性能試験は、以下の試験方法により測定をした。
【0054】
(1)フロー値の試験 日本道路公団規格JHS A313−1992「エアモルタル及びエアミルクの試験方法」のシリンダー法による。すなわち、平滑なアクリル板上に直径80mm、高さ80mmのシリンダーを載置し、これにスラリー状の充填材をシリンダーの上端部まで充填した後、充填材の上端部をシリンダーの上端部と同一の平滑面にする。この状態から、シリンダーを静かに垂直に引上げ、アクリル板上に広がった充填材の直径を測定し、その測定値をフロー値とするものである。
【0055】
(2)密度の試験 重量測定法によるものであって、1000mlの定量容器にスラリー状の充填材を満たして重量を測定し、単位体積当たりの重量を算出して密度とするものである。
【0056】
(3)ブリーディング率の試験 土木学会基準JSCE−F522−1999「PCグラウトブリーディング率試験」の測定用ポリエチレン袋にスラリー状の充填材を入れ、24時間静置後の上部に浮上した水量を測定し、下式により算出した値をブリーディング率とするものである。
ブリーディング率(%)=浮上した水量ml×100/供試体の容積ml
【0057】
(4)熱抵抗値の試験 硬化した供試体の中央部分に熱抵抗測定プローブ(φ4mm×200mm)を設置し、安定化電源器より通電して固有熱抵抗値を測定するものである。
【0058】
次に、本実施の形態に係る充填材1を充填する対象は、図1(a)に示す鞘管2内であって、この鞘管2は、推進工法やシールド工法などにより地中に埋設された推進管、セグメント等である。この鞘管2内には、図示しない電力ケーブルを引き込むための複数本(本例では16本)の電力ケーブル設置用管路3(以下、ケーブル用管路という)が配置され、これらのケーブル用管路3は、管路支持部材9により相互の移動が抑止されているとともに、該管路支持部材9は鞘管2の内壁に固定されている(図1(b)参照)。
【0059】
また、鞘管2の図1(a)に示す右側には、セメントレンガの積層により右端側閉塞壁4が構築されるとともに、図示左側には、セメントレンガの積層により左端側閉塞壁5が構築されて、鞘管2内は閉塞されている。この鞘管2内には、充填材1を充填するための圧送管6の吐出口6aが配置され、この圧送管6の入口側は、グラウトポンプ16の吐出口側に接続されている。
【0060】
上記製造方法により組成された充填材1は、ミキサー15内からグラウトポンプ16に吸引され、このグラウトポンプ16により前記圧送管6内に圧送され、鞘管2内に配置された圧送管6の吐出口6aから鞘管2内に充填され、鞘管2とケーブル用管路3との間の空隙に充満される。
【0061】
そして、本実施の形態に係る充填材1は上記効能があることから、こうした施工方法によって充填した場合、圧送管6による圧送も良好で、グラウトポンプ16の吐出圧も高圧のものを使用する必要はない。また、圧送管6の吐出口6aから放出された充填材は、鞘管2の下側から隙間なく堆積するとともに、管路支持部材9に多段状に支持されたケーブル用管路3とケーブル用管路3との間にも隙間なく充填された。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】鞘管の敷設工事に係る説明図であって、(a)は敷設工事の模式図、(b)は(a)のA‐A断面図である。
【図2】本発明に係る中詰め充填材の時間−温度の相関をし、乾燥前における実測値である。
【図3】本発明に係る中詰め充填材の時間−温度の相関をし、全乾燥後における実測値である。
【図4】従来技術に係る中詰め充填材の時間−温度の相関をし、乾燥前における実測値である。
【図5】従来技術に係る中詰め充填材の時間−温度の相関をし、全乾燥後における実測値である。
【符号の説明】
【0063】
1 空隙充填用中詰め充填材(充填材)
2 鞘管
3 電力ケーブル設置用管路(ケーブル用管路)
4 右端側閉塞壁
5 左端側閉塞壁
6 圧送管
6a 吐出口
14 ミキサー
15 グラウトポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固化材と、密度調整材と、流動化剤とを含み、水により混練された空隙充填用中詰め充填材であって、
上記固化材はセメントであり、上記密度調整材は炭酸カルシウム(CaCO)であり、上記流動化剤は減水剤であるとともに、以下の配合量とされてなることを特徴とする空隙充填用中詰め充填材。
(1)セメントの配合量:40kg/m〜400kg/m
(2)炭酸カルシウムの配合量:1100kg/m〜1500kg/m
ただし、上記(1)及び(2)の合計:1140kg/m〜1540kg/m
(3)減水剤の配合量:上記(1)及び(2)の合計の0.3%〜0.4%
(4)水の配合量:400kg/m〜500kg/m
【請求項2】
前記減水剤は、ポリカルボン酸系化合物であることを特徴とする請求項1記載の空隙充填用中詰め充填材。
【請求項3】
前記請求項1又は2のいずれかに記載の空隙充填用中詰め充填材の製造方法であって、
前記水と前記流動化剤の所定配合量の30〜50%とをミキサー内に投入し攪拌する第1の工程と、
この第1の工程の後に、該ミキサー内に前記密度調整材を投入し混練する第2の工程と、
この第2の工程の後に、上記ミキサー内に前記固化材であるセメントを投入し混練する第3の工程と、
この第3の工程の後に、上記ミキサー内に残余の上記流動化剤70〜50%を投入して混練する第4の工程と、
を備えてなることを特徴とする空隙充填用中詰め充填材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−1446(P2009−1446A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163291(P2007−163291)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000219820)株式会社トーエネック (51)
【出願人】(000212739)株式会社シーテック (21)
【出願人】(593132814)キザイテクト株式会社 (6)
【Fターム(参考)】