説明

穿刺対象臓器の血流量推定システム、温度分布推定システム、解析装置、及び解析装置用プログラム

【課題】穿刺対象臓器内の血流量を推定し、血流量から穿刺対象臓器の温度分布とその変化を把握することに寄与する。
【解決手段】本発明の温度分布推定システム10は、電極針12の刺入部位に一定の熱量を付与する加熱手段14と、前記熱量の付与後における加熱手段14の近傍の温度変化を測定可能な温度センサ15と、温度センサ15の計測値に基づき穿刺対象臓器の血流量を推定する血流量推定手段19と、血流量に基づいて穿刺対象臓器内での温度分布を推定する温度分布推定手段20を備えている。血流量推定手段19では、温度センサ15の計測値から時間に対する温度上昇率を算出し、温度上昇率に基づいて血流量を算出する。温度分布推定手段20では、血流量と、電極12Aから穿刺対象臓器に与えられた熱量から、温度分布を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺対象臓器の血流量推定システム、温度分布推定システム、解析装置、及び解析装置用プログラムに係り、更に詳しくは、穿刺対象臓器の病変部分を穿刺によって焼灼する際における穿刺対象臓器の血流量を推定し、当該血流量が影響を与える穿刺対象臓器内の温度分布の把握に寄与する穿刺対象臓器の血流量推定システム、温度分布推定システム、解析装置、及び解析装置用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近時の医療において、患者への負担の少ない低侵襲治療が求められているが、その中でも、臓器の患部に針を刺して治療する穿刺治療法が知られている。この穿刺治療法としては、例えば、肝臓がんの治療等に用いられるRFA(ラジオ波焼灼療法)が挙げられる。このRFAは、腫瘍の一部分に電極針を刺し、当該電極針から発せられるジュール熱で腫瘍を加熱することにより、腫瘍を焼灼して凝固壊死させる療法である。RFAに用いられる電極針としては、その先端に温度センサを設けて、当該先端部分の温度をモニタリング可能なものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−98211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の電極針にあっては、臓器の刺入部位の温度管理しかできないため、医師は、術中に、焼灼対象となる腫瘍或いは臓器全体の温度分布及び当該温度分布の経時的な変化を把握することができず、次の不都合を招来する。
【0005】
一般的に、RFAは、超音波画像下で医師の目視によって行われるが、超音波画像はモノクロであるため、腫瘍と焼灼部分の境界が不明瞭で目視しにくい。
【0006】
また、電極針から臓器に所定の熱量を付与した際に、当該臓器の血流量が多いと血流に熱が奪われ易くなり、腫瘍への伝熱率が低下して焼灼範囲が意図した範囲よりも小さくなる。逆に、臓器の血流量が少ないと腫瘍への伝熱率が高くなり、焼灼範囲が意図した範囲よりも大きくなる。血流量は、術中の患者の状態によって変化することから、刺入部位の温度をモニタリングし、電極針から臓器に与えられるジュール熱の熱量を所望の値に維持していても、血流量の変化によって臓器内の焼灼範囲の大きさが変わることになる。このため、電極針からのジュール熱の出力調整は、医師の経験や勘に依存しており、治療成績にばらつきが生じ易い。
【0007】
以上により、臓器の焼灼範囲を正確にコントロールするには、術中、血流量によって変わる臓器の温度分布及びその変化に関する情報を逐次取得することが重要となる。従って、電極針の刺入部位の温度管理をしていても、焼灼対象となる腫瘍或いは臓器全体の温度分布とその変化を術中に正確に把握できなければ、正確な範囲で焼灼することができず、腫瘍の未焼灼領域の残留や正常組織への焼灼過多を招来する虞がある。
【0008】
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、穿刺対象臓器内の血流量を推定し、当該血流量から穿刺対象臓器の温度分布とその変化を把握することに寄与する穿刺対象臓器の血流量推定システム、温度分布推定システム、解析装置、及び解析装置用プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、穿刺対象臓器における穿刺針の刺入部位に一定の熱量を付与したときのその近傍の温度の計測値から、予め記憶された数式により、時間に対する前記近傍の温度上昇率を算出し、当該温度上昇率に基づいて前記血流量を算出する血流量推定手段を備えた点に主たる特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、穿刺術中において、穿刺対象臓器内における血流量を経時的に推定することができ、当該血流量に左右する穿刺対象臓器の温度分布の推定を経時的に行うことができる。これにより、この温度分布に関する情報を医師に提示可能になる他、当該情報に基づいて、穿刺対象臓器を加熱する電極からの出力エネルギーを自動的に制御することができ、患者の術中の血流量の変化に拘らず、所望の範囲の焼灼をより正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係る温度分布推定システムの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1には、本実施形態に係る温度分布推定システムの概略構成図が示されている。この図において、前記温度分布推定システム10は、穿刺対象臓器の腫瘍部分に穿刺針としての電極針12を刺し、当該電極針12に供給されるラジオ波によるジュール熱で腫瘍部分を焼灼するRFA(ラジオ波焼灼療法)時に、穿刺対象臓器の温度分布を推定するシステムである。
【0014】
この温度分布推定システム10は、図示しないラジオ波発生装置からの高周波電流が通電する電極12Aを有する電極針12にそれぞれ内蔵された加熱手段14及び温度センサ15と、温度センサ15の計測値に基づき、穿刺対象臓器内の温度分布を経時的に求める解析装置17とを備えている。
【0015】
前記加熱手段14は、図示しない電源に接続され、電極12Aとは別の加熱用細線からなり、電極12Aからのラジオ波エネルギーによる刺入部位の加熱とは別個独立して、当該刺入部位の周囲に一定の熱量を継続して供給するようになっている。なお、加熱手段14としては、加熱用細線に限定されず、腫瘍部分の凝固壊死させるための電磁波による熱エネルギーの付与とは別に、刺入部位の周囲に一定の熱量を継続して供給できる限りにおいて種々のものを採用することができる。
【0016】
前記温度センサ15は、加熱手段14の近傍の温度、すなわち、刺入部位の近傍の電極針12の温度を計測可能になっており、当該計測値に対応する電気信号が経時的に逐次、解析装置17に送信される。つまり、術中、加熱手段14から穿刺対象臓器に一定熱量が与えられ、それによって生じる温度上昇が温度センサ15で経時的に計測される。
【0017】
前記解析装置17は、CPU等の演算処理装置及びメモリやハードディスク等の記憶装置等からなるコンピュータによって構成され、当該コンピュータを以下の各手段として機能させるためのプログラムがインストールされている。
【0018】
この解析装置17は、温度センサ15の計測値に基づき、穿刺対象臓器の血流量の推定値を経時的に求める血流量推定手段19と、血流量推定手段19で求めた血流量に基づき、穿刺対象臓器内での各部位の温度の推定値を経時的に求める温度分布推定手段20とを備えている。
【0019】
前記血流量推定手段19では、予め記憶された以下の式(1)により、温度センサ15の計測値(温度T)から、加熱手段14による継続した加熱の開始時からの経過時間tにおける電極針12の温度上昇率Uが算出され、当該温度上昇率Uから血流量Fが算出される。
【数1】

なお、温度上昇率Uと血流量Fの関係は、本発明者らが鋭意、実験研究を行った結果、式(1)として導出されたものであり、同式(1)中、a、bは、数値解析に基づくシミュレーションによる実験等の実験研究によって特定された定数となる。
また、式(1)は、加熱手段14からの発熱量のうち、血流量が多い場合、血流に吸収される熱量が多くなって電極針12の温度上昇量が小さくなる一方、血流量が少ない場合、血流に吸収される熱量が少なくなって電極針12の温度上昇量が大きくなる点に着目し、実験研究により導出されたものである。
【0020】
前記温度分布推定手段20では、前記経過時間tにおける血流量Fと、電極12Aから穿刺対象臓器に与えられるジュール熱の熱量Q(P)とが、予め記憶された次式(2)の熱伝導方程式に代入され、当該方程式を解くことで、穿刺対象臓器の温度分布が算出される。ここで、温度分布は、穿刺対象臓器内の適当な基準位置に設定された座標系から見た任意要素に対する位置ベクトルBと、経過時間tとで表される関数θ(B,t)の形で求められる。また、ジュール熱の熱量Q(P)は、電極12Aへの供給電力量Pと肝臓の電気伝導率によって求まる関数であり、経過時間tにおける前記供給電力量Pの入力によって特定される。
【数2】

上式(2)において、ρは穿刺対象臓器の密度、cは穿刺対象臓器の比熱、λは穿刺対象臓器の熱伝導率、ρは血液の密度、cは血液の比熱、θは血液の温度であり、これら数値ρ,c,λ,ρ,c,θは、定数として予め記憶されている。
【0021】
すなわち、ここでは、経過時間t毎の温度関数θ(B,t)が求められ、穿刺対象臓器の座標系における各位置の温度が経過時間t毎に特定され、同一となる温度部分毎に肝臓を領域分けした温度分布が経時的に得られる。ここで得られた温度分布のデータは、図示しない表示装置に表示することでRFAを行う医師に提示し、或いは、電極12Aからのジュール熱の発熱量の自動制御に用いることができる。
【0022】
なお、前記実施形態では、加熱手段14と温度センサ15を電極針12に内蔵した場合を説明したが、本発明はこれに限らず、これらを電極針12と別に設けることも可能である。
【0023】
また、前記温度分布推定システム10は、穿刺対象臓器の血流量を推定する血流量推定システムを含んで構成されているが、本発明では、前記温度分布推定手段20を設けずに、血流量推定システムのみの構成とすることもできる。
【0024】
更に、本発明は、RFAの際の適用のみならず、マイクロ波凝固療法(PMCT)等の他の穿刺術を行う際の適用も可能となる。
【0025】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0026】
10 温度分布推定システム
12 電極針(穿刺針)
12A 電極
14 加熱手段
15 温度センサ
17 解析装置
19 血流量推定手段
20 温度分布推定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿刺針が刺入される穿刺対象臓器の血流量を推定するシステムであって、
前記穿刺針の刺入部位に一定の熱量を付与する加熱手段と、
前記熱量の付与後における前記加熱手段の近傍の温度変化を測定可能な温度センサと、
前記温度センサの計測値に基づき前記血流量を推定する血流量推定手段とを備え、
前記血流量推定手段では、予め記憶された数式により、前記温度センサの計測値から時間に対する温度上昇率を算出し、当該温度上昇率に基づいて前記血流量を算出することを特徴とする穿刺対象臓器の血流量推定システム。
【請求項2】
前記加熱手段と前記温度センサは、前記穿刺針に一体的に設けられていることを特徴とする請求項1記載の血流量推定システム。
【請求項3】
前記穿刺針は、電磁波による熱エネルギーを前記刺入部位に付与するための電極を有する電極針であり、前記加熱手段による加熱は、前記電極による加熱と別個独立に行われることを特徴とする請求項1又は2記載の血流量推定システム。
【請求項4】
請求項3記載の血流量推定システムを備えた温度分布推定システムであって、
前記血流量に基づき、前記穿刺対象臓器内での温度分布を推定する温度分布推定手段を更に備え、
前記温度分布推定手段では、予め記憶された熱伝導方程式に、前記血流量と、前記電極から前記穿刺対象臓器に与えられた熱量とを代入することで、前記温度分布を算出することを特徴とする穿刺対象臓器の温度分布推定システム。
【請求項5】
穿刺針が刺入された穿刺対象臓器の状態を解析する解析装置において、
前記穿刺針の刺入部位に一定の熱量を付与したときのその近傍の温度変化に基づき、前記穿刺対象臓器の血流量を推定する血流量推定手段を備え、
前記血流量推定手段は、予め記憶された数式により、時間に対する前記近傍の温度上昇率を算出し、当該温度上昇率に基づいて前記血流量を算出することを特徴とする穿刺対象臓器の解析装置。
【請求項6】
穿刺針が刺入された穿刺対象臓器の状態を解析する解析装置のコンピュータを機能させるプログラムにおいて、
前記穿刺針の刺入部位に一定の熱量を付与したときのその近傍の温度の計測値から、予め記憶された数式により、時間に対する前記近傍の温度上昇率を算出し、当該温度上昇率に基づいて前記血流量を算出する血流量推定手段として前記コンピュータを機能させることを特徴とする穿刺対象臓器の解析装置用プログラム。

【図1】
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