説明

穿孔爪への適用を意図する抗真菌組成物

本発明は、穿孔爪への適用を意図する医薬組成物に関する。この組成物は、
-酸塩、有利には塩酸塩の形態の抗真菌剤と、
-溶媒系と、
-有利にはカチオン性界面活性剤又は正に帯電した両性界面活性剤と
を含む。
この組成物はまた、500cPs未満の粘度を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばテルビナフィン塩酸塩などの酸塩の形態の抗真菌剤の、穿孔爪を介する浸透を改善する組成物の同定に関する。例えば、組成物の粘度、一定限度量の揮発性溶媒の存在、及び有利にはココベタインなどのカチオン性又は両性界面活性剤の存在が、爪床に有効に到達するように爪の孔を介してこの浸透を促進する因子であることが示された。
【0002】
かかる薬学的又は皮膚科学的組成物は、ヒト及び動物において、特に皮膚糸状菌又はカンジダに起因する爪真菌症の治療に特に有用である。
【背景技術】
【0003】
多くの場合、爪が、爪真菌症、特に皮膚糸状菌性又はカンジダ性の爪真菌症の部位である。
【0004】
抗真菌剤を使用するこれらの病態の治療は、爪を介して好適な方法で実施されるが、爪の構造が非常に硬いため、治療が困難である。
【0005】
爪甲の形成時には、顆粒層を構成する高度に個別化された大型の角質化細胞を形成するために、マトリックスの基底細胞が成長し、細胞核が分解し、細胞質が融合する。
【0006】
爪甲は、核を有していないが厚い膜を有する、死滅し角質化した接着細胞から構成されている。爪甲は、本質的にα-ケラチンを含有し、マトリックスから生じる背側層及び中間層と、爪床から生じる腹側層の3層から構成されている(図1)。
【0007】
背側部は、顆粒層を構成する硬質ケラチンに富んだいくつかの細胞層から形成されている。中間部は、顆粒層が消失してより柔らかいケラチンに富んだ細胞から構成されており、爪の全厚の4分の3を構成している。腹側部は、柔らかい爪下皮の(hyponychial)ケラチンに富んだ細胞の1つ又は2つの層から形成されており、顆粒層はもはや存在しない。
【0008】
爪は、本質的に、硫黄含有アミノ酸に富んだ硬タンパク質であるケラチンから構成されている。形態学的観点から見ると、ケラチン繊維は、その大部分が、爪の表面と平行な面で爪の成長に対して垂直に配向している。
【0009】
ケラチン鎖は、様々な種類の結合:水素結合、ペプチド結合、極性結合及びジスルフィド結合によってつながっている(図2)。これらの結合は、化学薬品、アルカリ剤、酸化剤、ジスルフィド架橋についてはチオグリコレートといった様々な攻撃因子によって、強酸若しくは強塩基による酸-塩基結合の崩壊、又は水分子による水素架橋の断裂によって攻撃される可能性がある。
【0010】
爪の化学的組成は、皮膚の組成よりも毛髪の組成に類似している。爪の脂肪性の親油性化合物は、爪の構成成分のわずか0.1〜1%である。これは本質的にコレステロールであり、可塑化の役割を有している。
【0011】
水は、15%〜18%存在し、25%に達することさえある。爪の含水量は、とりわけ、湿度測定の度合いによって異なる。飽和状態では、爪の含水量は、爪の乾燥重量の3分の1に達することがある。したがって、親水性分子は親油性分子よりも簡単に爪甲に浸透することが容易に理解されよう。
【0012】
爪には、亜鉛、鉄、マンガン、銅等の微量元素も存在する。
【0013】
硫黄は、爪甲の重量の5%を構成しており、爪甲は、特に硫黄含有アミノ酸、主にシスチン及びアルギニンに富んでいる。
【0014】
爪甲真菌症のための治療は、
-健康な爪に到達するまでの病変の創傷郭清に存する外科手術、
-局所抗真菌治療、及び
-全身抗真菌治療
の様々な手法を含む。
【0015】
特にこの治療分野で使用される分子の1つは、次式のテルビナフィン塩酸塩(テルビナフィンHCl)の形態で入手可能なテルビナフィンである。
【0016】
【化1】

【0017】
全身作用を有するほとんどの経口治療は、長期治療であり、著しい副作用がないわけではない。
【0018】
局所治療の選択肢は、毒性がはるかに低いことが証明されているが、有効であるためには、病原菌である紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)を破壊及び根絶することができるように、爪の硬質ケラチンを介して浸透し、十分な濃度で爪床に到達できる抗真菌剤が必要とされている。
【0019】
しかし、テルビナフィンは、そのカチオン性のため、水溶解度が低く、それにより高濃度では製剤化の問題を生じることに加えて、ケラチンに対する親和性が高い。したがって、テルビナフィンHClは爪の上層のケラチンと非常に容易に結合し、このため、実際にはごく一部しか爪床まで浸透しない。
【0020】
爪の通過が困難であるという問題を克服するために、活性成分をその作用部位近辺に導入するべく爪を穿孔することが提案されている。
【0021】
したがって、国際公開第02/11764号は、レーザー光を使用して爪の厚さの80〜100%に到達する多数の孔を爪に開けることを提案している。
【0022】
国際公開第2006/021312号は、爪に孔を開けるこの同じ系を推奨しているが、この場合は部分的なオリフィス、すなわち爪の厚さの10〜80%に到達するオリフィスを形成することを推奨している。例えば、テルビナフィンのより良好な浸透が、非穿孔爪と比較して報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第02/11764号
【特許文献2】国際公開第2006/021312号
【特許文献3】国際公開第2004/086938号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかし、これらの文献は、この特定の適用方法に適した組成物への活性成分、特にテルビナフィンの製剤化に関してはあまり情報を提供していない。
【0025】
したがって、穿孔爪を介して有効量の活性成分をより良好に浸透させることができる抗真菌剤の新しい製剤を見出す必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明においては、本出願人は以下の様々なレベルでの寄与している。
-特に穿孔爪への適用に適合するように、組成物のパラメータである適切な粘稠度を決定し、抗真菌剤を可溶化すると同時に、穿孔爪の孔においてこの薬剤が結晶化するのを回避する。
-孔を開けることによって、爪の様々な層、特に中間層への、孔の内側面を介する抗真菌剤の拡散が促進されることを示す。したがって、本出願人が知る限りでは、テルビナフィンHClなどの活性成分が爪の様々な層に拡散することに関心が持たれるのは今回が初めてである。
-カチオン性界面活性剤、有利には両性界面活性剤の存在によって、テルビナフィンHClなどの酸塩の形態である抗真菌剤の浸透の増大が可能になることを実証する。いかなる理論にも拘泥するものではないが、界面活性剤は、カチオン性又は両性であるために、ケラチンと結合し、したがって爪のマトリックスを介してテルビナフィンHClを拡散させ、その作用部位である爪床に到達させることができると推測される。
【0027】
爪床への直接的な、しかしまた中間層を介する活性成分の拡散に適合した製剤、及びそのような拡散の促進は、有効濃度を増大し、したがって爪甲真菌症の治療における治療効率を改善することが可能になる。
【0028】
より具体的には、本発明は、特に穿孔爪への適用を意図する医薬組成物に関する。
【0029】
本発明において、好ましくは、「穿孔爪」という表現は、少なくとも背側層を穿孔しなければならず、貫通孔であってもよい、すなわち、爪床まで開口している貫通孔であってもよい開口が形成された爪を指す。したがって、本発明の目的は、少なくとも中間層まで、又はさらには腹側層まで到達させることである。
【0030】
従来、医薬組成物は、
-酸塩、有利には塩酸塩の形態の抗真菌剤と、
-溶媒系と
を含む。
【0031】
この組成物は、目的用途に関して特徴的に、500cPs未満、有利には400cPS未満、好ましくは150cPs〜300cPs粘度を有する。
【0032】
粘度は、実施例1に記載の方法に従って、すなわち、SC4-18スピンドルを備えたブルックフィールドLVDVII+粘度計を使用することによって測定する。測定を実施する速度及び温度は、それぞれ12rpm及び25℃である。
【0033】
より具体的には本発明が目的とする当該抗真菌剤は、アリルアミン系又はモルホリン系抗真菌剤であり、アリルアミン系が好ましい。実際、アリルアミン系の抗真菌剤、特にテルビナフィン又はナフチフィン、及びモルホリン系の抗真菌剤、特にアモロルフィンが、抗真菌活性の点で有望な化合物である。それらの抗真菌剤の推定されている又は実証されている作用機序は、真菌細胞壁の特異構成成分であるエルゴステロールの阻害を介して、特にスクアレンエポキシダーゼの阻害を介して生じると思われる。
【0034】
アリルアミン系としては、特に以下の各式のテルビナフィン塩酸塩及びナフチフィン塩酸塩を挙げることができる。
【0035】
【化2】

【0036】
この種の分子の中で、テルビナフィンが好ましい。
【0037】
或いは、抗真菌剤は、類似の問題に対処するモルホリン系に属していてもよく、特にアモロルフィンにであってもよい。
【0038】
実際、前記で定義したような抗真菌剤は、好ましくは全組成物の5%超、又はさらには少なくとも8%、又はさらには少なくとも10%(w/w)に相当する。したがって、組成物中のこの薬剤は、15%以下、又はさらには20%以下を想定することが可能である。効率を増大するためには、任意選択で異なる系の抗真菌剤の混合物を想定できることは明らかである。
【0039】
前述の通り、これらの分子は、おそらくはケラチンとの相互作用により、水にほとんど不溶性であり、爪にほとんど拡散しないという欠点を有する。
【0040】
実際には、本発明の組成物の粘度に重要なパラメータの1つは溶媒系であることが決定付けられた。
【0041】
したがって、有利には、特許請求する組成物の溶媒系は、水以外の揮発性溶媒を、全組成物の40重量%以下の含量で有する。
【0042】
「揮発性溶媒」という表現は、293.15Kの温度で0.01kPa以上の蒸気圧を有する、又は特定の使用条件下で相当する揮発性を有する有機化合物として定義される任意の揮発性有機化合物を意味すると理解される。
【0043】
有機化合物は、少なくとも元素状炭素と、以下の元素:水素、ハロゲン、酸素、硫黄、リン、ケイ素又は窒素の1種又はそれ以上とを含有する、炭素酸化物並びに無機炭酸塩及び重炭酸塩以外の化合物と定義する。
【0044】
さらにより有利には、溶媒系は、
-水と、
-少なくとも1種のC2〜C8直鎖又は分岐鎖アルカノール、有利にはエタノールと、
-少なくとも1つのグリコール(遊離ヒドロキシル官能基を有する)、有利にはプロピレングリコールと
から構成される三成分水性系である。
【0045】
この系では、揮発性溶媒はアルカノール、有利にはエタノールに相当し、したがって組成物の40重量%未満であるべきである。
【0046】
さらにより有利には、水全体の量は、組成物の30重量%超、有利には33重量%超、又は35重量%超、又はさらには40重量%超である。製剤中のこの多量の水は、かなりの親水性を生成物に与える。実際には、爪は吸湿性の親水性マトリックスなので、水の存在下で膨潤し、それにより活性成分の拡散が促進される。
【0047】
「水全体」という表現は、組成物にそのまま導入される水の量に、組成物の様々な溶媒及び/又は賦形剤が水を若干含有する場合には、それらの溶媒及び/又は賦形剤に由来する水の量を加算したものを意味すると理解されたい。
【0048】
この高い含水量は、目的用途が爪を介するものであるので、極めて有利である。さらに、本発明においては、当該抗真菌分子の水溶解度が低いにもかかわらず、提示した溶媒系は、例えば本発明のカチオン性又は両性界面活性剤の存在下で当該分子を高濃度で可溶化できることが示された。
【0049】
三成分溶媒系は、高い含水量に加えて、有利には短鎖アルコール、より正確には直鎖又は分岐鎖を有する少なくとも1種のC2〜C8アルカノール、好ましくはエタノール、イソプロパノール及びn-ブタノールを含有する。エタノールが特に好ましい。様々なアルコールの混合物も想定できる。
【0050】
最後に、この三成分溶媒系は、少なくとも1種のグリコールを含む。用語「グリコール」は、ここでは少なくとも2個のヒドロキシル官能基を有する化合物を意味すると理解される。より正確には、本発明が目標とするのは、2個のヒドロキシル官能基が遊離である、すなわち2個のヒドロキシル官能基がエーテル結合にもエステル結合にも関与していないグリコールである。例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、へキシレングリコール、エチレングリコール及びポリエチレングリコールを挙げることができる。プロピレングリコールが好ましい。様々なグリコールの混合物も想定もできる。
【0051】
有利には、三成分溶媒系は、全組成物の少なくとも60%又は70%、80%、又はさらには90%(w/w)である。
【0052】
さらに、有利には、アルコールの割合はグリコールの割合以上である。さらにより有利には、水全体の割合は、グリコールの割合を超える。
【0053】
好ましい一実施形態によれば、組成物は、繊維の形態で爪の様々な層の構造内に存在し、負に帯電しているケラチンとの結合に関して、酸塩の形態の抗真菌剤と競合できるカチオン性、又はさらには両性の性質の界面活性剤も含有する。
【0054】
実際には、特許請求する組成物は、爪に開けられる孔への適用を意図する。これらの孔は、爪床へのより直接的な到達に加えて、活性成分(この場合、酸塩の形態の抗真菌剤)を、孔の側壁を介して爪の様々な層に、特に中間層に拡散させることができる。しかし、本願で実証される通り、カチオン性界面活性剤又は両性界面活性剤の存在によって、角質化した爪の爪甲、皮膚付属器及び皮膚を介する、爪中の活性成分の、特にテルビナフィンHClのバイオアベイラビリティーがその場で増大する。
【0055】
定義によれば、カチオン性界面活性剤は、親水性部分が正に帯電している界面活性剤である。カチオン性界面活性剤は、水溶液中に正電荷(カチオン)を放出する。カチオン性界面活性剤は、静菌特性及び乳化性を有し、組み合わされる負に帯電したケラチンに対して親和性を示す。
【0056】
両性界面活性剤は、親水性部分が正電荷及び負電荷を含み、全体的な電荷がゼロになっている界面活性剤である。両性界面活性剤は、それを含む媒体のpHに応じて、陽イオン及び陰イオンを放出する。アルカリ性のpHでは、両性界面活性剤はアニオン性界面活性剤として働き、酸性のpHでは、カチオン性界面活性剤として働く。
【0057】
したがって、本発明においては、抗真菌剤が酸塩の形態である限り、組成物は抗真菌剤のpKa未満の酸性pH、好ましくはpH3〜6、優先的には3〜5であり、したがって、その場合には正に帯電した両性界面活性剤はカチオン性界面活性剤として作用する。
【0058】
本発明に従って使用できるカチオン性界面活性剤としては、以下が非限定的に挙げられる。
-第4級アンモニウム
[対イオンは、
塩化物、臭化物、リン酸、水酸化物、メト硫酸、硫酸又はカルボン酸アニオンであることができ、
窒素の置換基は、
飽和又は不飽和の、任意選択でヒドロキシル化された、1〜20個の炭素を有するアルキル鎖(ヒドロキシル官能基はエステル化可能であり、これらの鎖は、任意選択で置換されているか、定義された化合物に由来するか、又は天然産物から得られる混合物であることが可能である)、
任意選択で置換されている芳香族基、環、特に芳香族環、例えば任意選択で置換されているピリジン、
これらの様々なカテゴリーの混合物、
四級化又は非四級化アミン官能基によって置換されている置換基自体
であってよい]、
-pHに応じてプロトン化されていてもよいアミン、並びに窒素が先に列挙した置換基及び/又は水素を有するアミン塩[これらの生成物は、それらがカチオン性である条件下で使用される]、
-カチオン性になるpH条件下で、先に列挙した基によって任意選択で置換されているベタイン又はアミノ酸の誘導体。
【0059】
有利には、使用される両性界面活性剤は、以下の一般式(I)に相当するベタイン誘導体の構造を有する:
【0060】
【化3】

[式中、Rはアルキル基又はR'CO-NH(CH2)3-基を表し、R'はアルキル基を表す]。
【0061】
「アルキル基」という表現は、飽和直鎖又は分岐炭化水素系鎖を意味すると理解される。アルキル基の中でも、1〜20個の炭素原子を含むアルキル基が好ましい。
【0062】
ベタイン誘導体の中で、より具体的には、商品名デハイトン(Dehyton)(登録商標)AB30で知られている両性界面活性剤、又は一般式(I)[Rは、ラウリル基を表す]に相当するラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインが好ましい。この分子は、一般にココベタインとして知られている。
【0063】
この分子は、例えば、Cognisからデハイトン(登録商標)AB30の名称で30%水溶液として販売されている。
【0064】
さらなる例として、セチルベタイン又はコカミドプロピルベタインなどの他のベタインを挙げることもできる。
【0065】
本発明においては、有利には、カチオン性界面活性剤又は両性界面活性剤は、組成物の少なくとも0.1重量%である。高濃度でも抗真菌剤の可溶化を妨害しなければ、組成物の最大10重量%、又はさらには最大15重量%であってもよい。一般に、組成物の0.1〜20重量%、有利には0.1〜15重量%、さらにより有利には0.1〜10重量%である。
【0066】
特定の一実施形態によれば、カチオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤のみが、本発明の組成物中の界面活性剤である。これにより、非イオン性界面活性剤が同時に存在すること、及びアニオン性界面活性剤が同時に存在することが排除される。
【0067】
両性界面活性剤の使用は、もう1つの利点として、組成物に水洗可能な態様を与える。具体的には、単に水ですすぐことにより組成物を除去することが可能になる。このことは、穿孔爪への適用の場合に特に有利である。
【0068】
有利には、本発明の組成物はまた、セルロース系のテクスチャー化(texturing)剤、例えばアルキルセルロース誘導体、特にメチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース及びヒドロキシアルキルセルロース、KLUCELの名称で販売されているものなど、有利にはヒドロキシエチルセルロース(ナトロゾールHHX250)又はヒドロキシプロピルセルロースを含む。このテクスチャー化剤は、前述の通り、組成物の粘度を調節し、したがって穿孔爪への適用に適した粘度値の達成を可能にする。さらに、粘度の制御により、溶媒の急速すぎる蒸発を回避でき、したがって、とりわけ、活性成分の再結晶化による、爪に開けられた孔の閉塞を回避できる。
【0069】
本発明においては、テクスチャー化剤は、組成物の少なくとも0.1重量%であることが有利である。組成物の1重量%以下、又はさらには2重量%以下であってもよい。一般には、組成物の0.1〜1重量%、有利には0.1〜0.5重量%、さらにより有利には0.3〜0.5重量%である。
【0070】
さらに本発明の組成物はまた、以下からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を含有できる。
-フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、パラベン及びその誘導体などの保存剤、
-ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、アスコルビン酸パルミチル、α-トコフェロール及び/又はそのエステルなどの抗酸化剤、
-ネイルエナメルを製造するために化粧品業界で一般に使用されているチタニウムマイカなどの染料、充填剤又は顔料、
-エデト酸二ナトリウム(EDTA)などのキレート剤、
-シクロメチコンなどの皮膚軟化剤、並びに
-消毒剤、特に酢酸などの他の活性成分。
【0071】
これらの添加剤の各量は、当業者によって容易に決定される。
【0072】
有利には、本発明の組成物は、溶液型の水性組成物である。用語「溶液」は、溶媒又は互いに混和性の溶媒の混合物中に1種又はそれ以上の物質が溶解されている、透明で均質な液体調製物を意味すると理解される。「液体調製物」という表現は、室温で流動し、ニュートン性を有し、又は擬塑性流動を示す生成物を意味すると理解される。好ましい一実施形態では、組成物は水ですすぐことができるゲル化溶液の形態である。
【0073】
典型的には、例えば、本発明の組成物は、
-1重量%〜20重量%の可溶化形態のテルビナフィンHCl、
-0重量%〜10重量%のテクスチャー化剤、
-0.1重量%〜20重量%の両性界面活性剤、
-20重量%〜80重量%の主に水を含有する溶媒相、
-0%〜1%のキレート剤、
-0%〜2%の抗酸化剤、及び
-0%〜20%の添加剤
を含む。
【0074】
好ましくは、組成物は、
-1重量%〜15重量%の可溶化形態のテルビナフィンHCl、
-0重量%〜5重量%のテクスチャー化剤、
-0.1重量%〜15重量%の両性界面活性剤、
-20重量%〜60重量%の主に水を含有する溶媒相、
-0%〜0.5%のキレート剤、
-0%〜1%の抗酸化剤、及び
-0%〜10%の添加剤
から構成される。
【0075】
さらにより好ましくは、組成物は、
-1重量%〜10重量%の可溶化形態のテルビナフィンHCl、
-0重量%〜2重量%のテクスチャー化剤、
-0.1重量%〜10重量%の両性界面活性剤、
-20重量%〜55重量%の主に水を含有する溶媒相、
-0%〜0.05%のキレート剤、
-0%〜0.5%の抗酸化剤、及び
-0%〜5%の添加剤
から構成される。
【0076】
好ましくは、組成物は、
-1重量%〜10重量%の可溶化形態のテルビナフィンHCl、
-0.1重量%〜2重量%のテクスチャー化剤、
-0.1重量%〜10重量%の両性界面活性剤、
-20重量%〜55重量%の主に水を含有する溶媒相、
-0%〜0.05%のキレート剤、
-0%〜0.5%の抗酸化剤、及び
-0%〜5%の添加剤
から構成される。
【0077】
したがって、本発明は、爪真菌症の治療を意図する薬学的又は皮膚科学的な組成物に関する。
【0078】
前述の通り、本発明の組成物は、穿孔爪への適用に特に適している。
【0079】
爪及びその様々な層の厚さの測定は困難なので、爪の厚さ全体の10%〜100%の深さを有する孔を開けることが推奨される。実際には、これらの孔は、典型的には0.2mm〜5mmの深さを有する(爪真菌症に冒された爪の特定の場合)。
【0080】
有利には、これらの孔は、400μm〜1mm、より具体的には400μm〜600μmの直径を有する。これらの孔は、有利には円柱形状又は円錐形状を有する。
【0081】
このような孔を形成には、様々な技術が利用可能である。レーザー光の使用は、例えば、国際公開第02/11764号及び国際公開第2006/021312号に記載されている。或いは、例えば、国際公開第2004/086938号に記載のドリル型装置を使用することができる。
【0082】
本発明の組成物は、ピペット又はシリンジを使用して孔に適用できる。各孔に堆積させる容量は、一般に0.05μl〜2μlである。治療される爪の表面に、任意選択で保護層を堆積させることができる。
【0083】
本発明及び本発明に付随する利点は、添付の図の助けを借りて、以下の例示的な実施形態からより明らかになろう。しかし、これらは決して限定的なものではない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】爪の構造の断面図である。
【図2】爪のケラチン鎖に存在する様々な結合の概略図である。
【図3】テルビナフィンを含有する両性溶液及び様々な市販の形態の場合の、穿孔爪を介して受入液内に蓄積したテルビナフィンの量(ng/cm2)を示す図である。
【図4】テルビナフィンを含有する両性溶液及び様々な市販の形態の場合の、爪への5日間の適用後に蓄積していたテルビナフィンの量(ng/cm2)を示す図である。
【図5】テルビナフィンを含有する両性溶液及び様々な市販の形態の場合の、穿孔爪を介して受入液内に蓄積したテルビナフィンの量(μg/cm2)を、両性溶液を参照として用いて示す図である。
【図6】両性薬剤を含む又は含まない溶液の場合の、穿孔爪を介して受入液内に蓄積したテルビナフィンの量(μg/cm2)を示す図である。
【図7】拡散の評価が考慮する着色帯域及び拡散の評価を考慮しない着色帯域を明らかにする、爪の孔の断面図である。
【図8】両性薬剤を含む又は含まない溶液の場合の、中間層及び背側層への5日間適用後の、爪の厚さに対する受入液内に蓄積していたテルビナフィンの量(ng/cm2/mm)を示す図である。
【図9】両性薬剤を含む又は含まない溶液の場合の、中間層及び背側層への5日間適用後の、爪におけるテルビナフィンの量(ng/mg)を示す図である。
【図10】両性薬剤を含む又は含まないLamisil Spray(登録商標)型溶液の場合の、中間層及び背側層への5日間適用後の、爪におけるテルビナフィンの量(ng/mg)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0085】
(実施例)
(実施例1)
カチオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を含有するテルビナフィンHClをベースとする組成物の製造方法及び前記組成物の安定性の研究
1/製造方法
この製造方法は、水中でテクスチャー化剤を膨潤させることによって、製造用ビーカー内で簡単に実施する。次に、溶液中にテルビナフィン塩酸塩を含有する活性相(以下の調製を参照)を添加する。次に、穏やかに撹拌しながら、カチオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を添加する。
【0086】
a-水相の調製
水及びテクスチャー化剤をビーカーに入れ、透明で滑らかな均質混合物を得るために、撹拌下に置く。
【0087】
b-活性相の調製
追加のビーカー内で、活性成分を有機グリコール及びアルコール溶媒に可溶化する。
【0088】
c-最終混合物
活性相(b)を水相(a)中に混和し、均質化し、次にカチオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を添加し、均質化を続ける。こうして、カチオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を含有するテルビナフィンHClをベースとする組成物を得る。
【0089】
粘度制御法
ブルックフィールドLVDVII+粘度計
SC4-18+小体積スピンドル
速度:12rpm
時間:1分
温度:25℃
【0090】
2/組成物の安定性の測定
a-物理的安定性
生成物の物理的完全性を保証し、可溶化したテルビナフィンHClの再結晶化がないことを検証するために、製剤の物理的安定性を、室温(RT)、4℃及び40℃で1ヵ月、2ヵ月及び3ヵ月後に製剤の肉眼的観測により測定する。
【0091】
可溶化したテルビナフィンHClの再結晶化がないことを検証するために、顕微鏡分析を、4℃及び室温(RT)で実施する。
【0092】
b-化学的安定性
化学的安定性を、HPLCを使用して活性成分をアッセイすることによって測定し、その結果を最初の含量の%として表す。
【0093】
(実施例2)
10%のテルビナフィンHClを含有する両性溶液
【0094】
【表1】

【0095】
最初のpHは、4.69である。
【0096】
物理的安定性
【0097】
【表2】

【0098】
化学的安定性
【0099】
【表3】

【0100】
したがって実施例2の組成物は、4℃、室温及び40℃で3ヵ月間、物理的且つ化学的に安定である。
【0101】
(実施例3)
10%のテルビナフィンHClを含有する両性溶液
【0102】
【表4】

【0103】
最初のpHは、4.50である。
【0104】
物理的安定性
【0105】
【表5】

【0106】
化学的安定性
【0107】
【表6】

【0108】
したがって、実施例3の組成物は、4℃、室温及び40℃で3ヵ月間、物理的且つ化学的に安定である。
【0109】
(実施例4A)
10%のテルビナフィンを含有する溶液
【0110】
【表7】

【0111】
(実施例4B)
10%のテルビナフィンを含有する溶液
【0112】
【表8】

【0113】
(実施例5)
10%のテルビナフィンを含有する溶液
【0114】
【表9】

【0115】
(実施例6)
穿孔爪を介するテルビナフィンの拡散の研究
この研究の目的は、テルビナフィンHClを含有する様々な市販の製剤の、ヒト屍体の穿孔爪を介する浸透を評価すること、及びこの浸透を、実施例1に記載の方法に従って調製した両性溶液により得られる浸透と比較することである。
【0116】
この研究のために、直径0.6mmを有する3つの孔により爪を完全に穿孔した。全処理期間を5日間とし、各製剤を毎日新しく適用した。適用は、製剤に応じて10μl/cm2又は10mg/cm2とする。
【0117】
処理の終了時、爪を介する爪へのテルビナフィンのインビトロでの浸透を決定するために、回収液を分析した。
【0118】
試験製剤は、以下のものである。
-10%の実施例2に相当する両性溶液
-1%Lamisil Spray
-1%Lamisilate Monodose
-1%Lamisil Gel
-1%Lamisil Cream
【0119】
市販の製剤は、以下の質的組成及び量的組成を有する。
【0120】
【表10】

【0121】
【表11】

【0122】
様々な試験製剤の粘度を、ブルックフィールドLVDVII+粘度計を使用して25℃で測定した。
【0123】
【表12】

【0124】
A/材料及び方法
フランツ型拡散セルを使用して、3つの孔を穿孔した爪を介するテルビナフィンの浸透を研究した。約0.2mm間隔で、爪の中心に手作業で孔を開けた。
【0125】
5日間の実験の間、爪の表面を32±1℃の温度に維持するために、拡散セルを34.2℃のサーモスタット制御浴に入れた。
【0126】
24時間毎に、リン酸緩衝液、pH7.4±0.1及び0.1%のVolpo(Oleth-20)を含有する拡散セルの受入液をすべて回収し、等体積で置き換えた。爪の表面を軽く洗浄した後、それぞれ再び適用を行った。受入液の最後の回収後、ケラチンマトリックス内に存在するテルビナフィンを抽出するために、爪を処理した。
【0127】
すべての回収液、受入液及び爪抽出物を、HPLCによってアッセイした(定量限界約20ng/ml)。
【0128】
B/結果
研究の過程で、孔を閉塞する妨害物が存在するか否かを確認するために、受入液の回収前、爪の表面を洗浄した後に孔の組織的観測を行った。
【0129】
【表13】

【0130】
両性溶液及びLamisil Spray製剤は、最も流動性であり、孔を閉塞することはなかった。Lamisilate Monodose及びLamisil Gel製剤では、孔の60%及び75%の間が閉塞された。しかし、洗浄及びすすぎステップ中には孔の7%しか閉塞されなかったことから、これらの孔のほとんどは閉塞されなかった。Lamisil Cream製剤は、孔の閉塞が最も多く見出され(85%)、爪の洗浄及びすすぎ後も22%が閉塞されたままの製剤であった。
【0131】
この最初の結果は、ガレヌス形態(galenic form)、特にその粘度が、孔の閉塞に影響を及ぼし、したがってテルビナフィンの拡散に潜在的に影響を及ぼすことを示している。
【0132】
5日間適用後、受入液に拡散していたテルビナフィンの量を記載する結果は、3つの群に分けられる。
-両性溶液は、約2.3mg/cm2の蓄積量を有する。
-Lamisil Sprayは、約0.3mg/cm2の蓄積量を有する。
-3種の他の製剤、Lamisilate Monodose、Lamisil Gel及びLamisil Creamでは、蓄積量は0.015mg/cm2〜0.04mg/cm2である。
【0133】
受入液に蓄積したテルビナフィンの様々な量を、図3に示す。
【0134】
両性溶液は、テルビナフィンが10%の最高濃度を有する限り、受入液において最大蓄積量のテルビナフィンを有する。他方で、Lamisil Sprayは、等濃度(1%)で最大蓄積量のテルビナフィンを有する。この結果は、一方では粘度と、他方では孔の閉塞と直接相関し得る。実際、Lamisil Sprayは、それぞれLamisil Gel及びLamisil Creamの粘度と比較してかなり低い粘度を有している。さらに、Lamisil Sprayは、他の製剤とは異なり孔を閉塞せず、受入液へのテルビナフィンの拡散が可能であった。
【0135】
爪に見出されたテルビナフィンの量を、研究の最後に測定した。得られたデータを図4に示す。両性溶液により、最高濃度のテルビナフィンが得られる。この溶液では、爪における平均濃度は約1200ng/mgである。4種の他の製剤は、互いにかなり類似した45ng/mg及び75ng/mgの間のテルビナフィン濃度を有する。
【0136】
両性溶液を参照として、すなわち、濃度を1%に正規化して、両性溶液及びLamisil Sprayでは、受入液に拡散した最大量のテルビナフィンが得られる。これらの2種の溶液について、受入液に見出されるテルビナフィンの量は、平均で適用用量の9%〜11%である(図5)。他のLamisilate Monodose、Lamisil Gel及びLamisil Cream製剤では、テルビナフィン適用用量の1%しか受入液に見られない。
【0137】
(実施例7)
穿孔爪を介するテルビナフィンの拡散の研究
この研究の目的は、実施例1に記載の方法に従って調製した両性薬剤を含む溶液及び含まない溶液の2種の溶液を比較することによって、穿孔爪を介するテルビナフィンHClの拡散を研究することである。
-実施例3の10%w/wテルビナフィンHCl両性薬剤を含む溶液、
-両性薬剤を等量の水で置き換えたことを除き、実施例3と同じ組成を有する、10%w/wテルビナフィンHCl両性薬剤を含まない溶液。
【0138】
A/材料及び方法
製剤を、異なる屍体ドナーからの親指を除く穿孔爪で二重反復で評価する。10μl/cm2の量を1日1回、5日間適用し、最初に爪を拡散セルに固定する。
【0139】
この場合、研究のプロトコルは、実施例4に記載のプロトコルと同一である。
【0140】
B/結果
以下の表は、5日間適用後の受入液中のテルビナフィンHClの量(μg/cm2)を示す。
【0141】
【表14】

【0142】
さらに、穿孔爪を介して受入液内に蓄積したテルビナフィンの量(μg/cm2)を、図6に示す。
【0143】
この研究は、テルビナフィンHClが、組成物が両性薬剤を含有する場合の方が良好に穿孔爪を介して拡散することを示している。
【0144】
(実施例8)
穿孔爪を介する色素(ナイルレッド)の拡散の研究
この研究の目的は、両性薬剤を含む溶液及び含まない溶液中に存在する色素、ナイルレッドの拡散を、穿孔爪で評価することである。
【0145】
試験製剤は、
-両性溶液については、テルビナフィンHClを0.03%ナイルレッドで置き換え、
-両性薬剤を含まない溶液については、テルビナフィンHClを0.03%ナイルレッドで置き換え、両性薬剤を等量の水で置き換えた、実施例3の製剤に相当する。
【0146】
A/材料及び方法
この実験は、3つの孔を穿孔し、フランツ型拡散セルに入れたヒト屍体の爪に関する。試験すべき製剤2mlを、各爪に適用する。
【0147】
ナイルレッドの拡散を、光を排除して周囲温度で24時間監視する。研究の最後に、爪を脱塩水で十分にすすぐ。
【0148】
次に、爪を横方向に切断し、爪の色素分布の分析を、収集ソフトウェア及び画像処理ソフトウェアを備えた共焦点顕微鏡を使用して爪の切片を観測することによって行う。分析のために考慮すべき帯域を、図7に示す。
【0149】
B/結果
着色画像の分析は、孔の側壁での拡散帯域が、背側帯域、すなわち爪の上部で得られる拡散帯域よりも大きいことを示している。以下の表は、試験製剤に応じた着色表面の百分率を表す。
【0150】
【表15】

【0151】
この研究は、組成物中の両性薬剤の存在に応じて、
-爪へのナイルレッド色素の拡散が多いか、又は少ないこと、
-爪の中間層に相当する孔の側壁での色素の拡散が、背側層と比較して多いこと
を実証する。
【0152】
したがって、爪の背側層であるか又は中間層であるかに応じて、ナイルレッドの拡散は異なる。したがって、この結果は、爪の各層の性質が、色素の拡散に影響を及ぼすことを強調している。
【0153】
さらに、調製した溶液中の両性薬剤の存在の有無に応じて、色素の拡散は、異なる。この拡散は、両性薬剤が組成物中に存在する場合の方がかなり大きい。
【0154】
(実施例9)
爪の様々な層の湿潤性の研究
この研究の目的は、爪の様々な層(背側、中間、腹側)の表面特性を、それらのそれぞれの表面張力を測定することによって特徴付けることである。
【0155】
A/材料及び方法
この実験は、ヒト屍体の爪で実施する。接触角を、角度計(接触角測定系G10、KRUSS、ドイツ)を使用して測定した。爪の様々な層の表面張力を、2種の液体を用いる方法によって、参照溶液として水及びジヨードメタンを使用して測定した。
【0156】
この測定は、爪の背側面で開始する。測定は室温で実施する。脱塩水の液滴(約2〜5μl)を、爪の表面に垂直に置いた針及びシリンジを使用して、爪の背側面に堆積させる。こうして爪に接触した液滴を、写真撮影する。次に、液滴が爪の表面と作る接触角をソフトウェアで測定する。次に、液滴を濾紙で拭く。同じ手順(液滴の堆積、接触角の測定)を、試験溶液について連続10回反復する。爪の表面を、エタノールで迅速に洗浄する。次に、同一の測定を、ジヨードメタンを用いて逐次的に実施する。
【0157】
背側層での測定が完了したら、前述の通り中間層で測定を実施するために爪を回収し、研磨する。すべての測定が完了したら、2種の溶液を用いて腹側面で接触角測定を実施するために、爪を反転する。
【0158】
B/結果
爪の3層の表面張力の平均(γS)(mJ/m2)を、以下に示す。
【0159】
【表16】

【0160】
これらの結果により、爪の様々な層の湿潤性に関して新しい要素が導入される。具体的には、これらの結果は、爪がこのパラメータに関して均質な生物学的材料ではないことを示している。各層はそれ自体、他の層とは全く異なる湿潤特性を有している。
【0161】
背側層は、表面張力が背側層よりも高いためにより湿潤性である他の2層と比較して、湿潤性の観点から障壁になる。
【0162】
これらの結果は、層の性質の関数としてのナイルレッド色素の拡散の差異を示す先の結果と合致する。
【0163】
(実施例10)
爪の様々な層を介するテルビナフィンHClの拡散の研究
この研究の目的は、
-背側層と中間層の湿潤性の差異に起因する、テルビナフィンHClの拡散に対する爪の層の性質の影響を研究すること、
-爪の様々な層を介するテルビナフィンHClの拡散に対する両性薬剤の影響を研究することである。
【0164】
両性薬剤を含有する製剤は、実施例2の製剤に相当する。
【0165】
両性薬剤を含有しない製剤は、両性薬剤を等量の水で置き換えた実施例2の製剤に相当する。
【0166】
各製剤について、ドナー1人当たり2つの爪(1つは背側層を含み、1つは背側層を含まない)を使用する。処理期間を5日間とし、各製剤を毎日新しく適用する。爪の表面に1日1回堆積させる製剤の量は、10μl/cm2である。
【0167】
A/材料及び方法
各ドナーにつき、爪の厚さを測定する。次に、各ドナーについて、爪を以下のようにして準備する。
-背側層を含まない4つの爪:この群の爪については、中間層に到達させるために、ミニサンダーを使用して爪の最初の厚さの40%を除去することによって背側面を除去する。
-背側層を含む4つの爪:この群の爪については、中間層に到達させるために、ミニサンダーを使用して爪の最初の厚さの40%を除去することによって腹側面を除去する。
【0168】
爪の表面を32±1℃の温度にするために、使用するフランツ型拡散セルをサーモスタット制御浴に入れる。0.1%のVolpo(Oleth-20)を含有するリン酸緩衝液(pH7.4±0.1)である受入区画に対して腹側が面するようにして爪を拡散セルに入れる。この実験中、32±1℃の温度を得るために、拡散セルをサーモスタット制御の浴に入れる。この温度を、それぞれの回収の前にチェックする。すべての爪について、製剤の適用(10μl/cm2)を、5日間、24時間毎に反復する。
【0169】
この場合、研究のためのプロトコルは、実施例4に記載のプロトコルと同一である。
【0170】
次に、試料、受入液及び爪抽出物を、MS/MSによって分析する。
【0171】
B/結果
爪の厚さの変動を回避するために、受入液中のテルビナフィンHClの蓄積量(ng/cm2)を正規化した。したがって、結果を以下の表にng/cm2/mmで表す。
【0172】
【表17】

【0173】
したがって、爪の厚さに対して5日間の適用後に蓄積していたテルビナフィンの量(ng/cm2/mm)を、図8に示す。
【0174】
-両性薬剤を含んでいてもいなくても、テルビナフィンの拡散は、背側層と比較して中間層の方が多く、
-両性薬剤の存在によって、背側層を介するテルビナフィンの浸透は促進され(3倍)、他方では、両性薬剤の中間層に対する作用は顕著ではないものの、中間層を介する拡散はやはり高い傾向があり、
-背側層及び中間層を介して拡散するテルビナフィンHClの量は、製剤が両性薬剤を含有する場合の方が多いと思われる。
【0175】
これらの結果は、背側層が、爪を介するテルビナフィンHClの浸透に対して障壁になることを明示している。この障壁を除去すると、5日間の適用後に拡散するテルビナフィンHClの量は、より多くなる。
【0176】
爪におけるテルビナフィンHClの量(ng/mg)を、以下の表に示す。
【0177】
【表18】

【0178】
さらに、爪におけるテルビナフィンHClの量(ng/mg)を、図9に示す。
【0179】
-両性薬剤を含んでいてもいなくても、爪に見られるテルビナフィンHClの量は、中間層よりも背側層の方が多く、
-両性薬剤の存在によって、背側層に保存されるテルビナフィンHClの量が低減することによって、背側層における分子の貯蔵効果が低減する可能性があり、
-他方では、両性薬剤の効果は、わずか5日間という短い適用期間及び10%(w/w)という高濃度のテルビナフィンHClのため、中間層ではさほど顕著ではないと思われる。
【0180】
両性薬剤によって、爪の背側層と中間層の両方を介するテルビナフィンHClの拡散を促進できるという結果を確認するために、両性薬剤を含む及び含まない市販の製剤であるLamisil Spray 1%を用いて、これと同じ拡散の研究を実施した。
【0181】
研究の手順、並びに爪の背側及び中間の様々な層におけるテルビナフィンHClの量を、先と同じプロトコルに従って実施し、分析した。
【0182】
爪におけるテルビナフィンHClの量(ng/mg)を、以下の表に示す。
【0183】
【表19】

【0184】
爪におけるテルビナフィンHClの量(ng/mg)を、図10に示す。
【0185】
-両性溶液に関して、テルビナフィンHClの量は、中間層よりも背側層の方が多く、
-両性薬剤の存在によって、背側層と中間層の両方におけるテルビナフィンHClの量が、非常に著しく低減することが可能になる(3分の1)と思われる。
【0186】
組成物中のテルビナフィンHClの量がより少ないことに起因して、2層における活性成分の保存の減少に対する両性薬剤の効果は顕著でなくなる。
【0187】
結論
したがって、結論として、様々な結果によって以下のことが示される。
-組成物は、製剤化を可能にし、一方では孔を閉塞せずにその孔に浸透し、他方では中間層にテルビナフィンHClが拡散できるようにするために、揮発性溶媒(水以外)の含量及び粘度に関して、特定の仕様を有していなければならない。
-爪は、背側、中間及び腹側の各層の性質に応じて、異なる表面張力によって表される異なる表面特性を有する。具体的には、背側層は、中間層及び腹側層よりも実質的に湿潤性が低い。
-背側層及び中間層を介するテルビナフィンHClの拡散に関する比較研究により、中間層では活性成分の拡散が促進されることが示された。この結果は、背側層に比較して高い中間層の湿潤性と相関性があると考えられる。
-両性薬剤の存在によって、背側層及び中間層を介するテルビナフィンHClの拡散が促進される。
-両性薬剤の存在によって、背側層及び中間層におけるテルビナフィンHClの保存が低減され、したがってテルビナフィンHClの拡散が促進される。
【0188】
したがって、爪甲を介して孔を開けることによって中間層に到達できるようになり、中間層は、背側層よりもテルビナフィンHClの拡散に有利である。
【0189】
組成物中の両性薬剤の存在に起因して、テルビナフィンHClは、背側層よりも中間層において3倍も良好に拡散する。テルビナフィンHClは、組成物が両性薬剤を含有する場合の方が、穿孔爪を介して良好に拡散する。
【0190】
したがって孔の存在は、
-一方では、爪甲を経由せずに直接的に爪床に到達させること、
-他方では、中間層を介してより多くの量を爪床に到達させること
を可能にする。
【0191】
これらの2つの態様の複合効果により、爪床において、より高い有効濃度のテルビナフィンHClを得ることが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
-酸塩、有利には塩酸塩の形態の抗真菌剤と、
-溶媒系と
を含む、穿孔爪への適用を意図する医薬組成物であって、カチオン性界面活性剤、有利には、正に帯電した両性界面活性剤を含み、ブルックフィールド法に従って25℃で測定した粘度が500cPs未満、有利には300cPs〜150cPsである組成物。
【請求項2】
溶媒系中の水以外の揮発性溶媒の含量が、全組成物の40重量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
両性界面活性剤が、以下の一般式(I):
【化1】

[式中、Rは、アルキル基又はR'CO-NH(CH2)3-基を表し、R'は、アルキル基を表す]
に相当するベタインの誘導体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
両性界面活性剤がココベタインであることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
界面活性剤が組成物の0.1〜20重量%、有利には0.1〜15重量%、より有利には0.1〜10重量%であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項6】
抗真菌剤が、アリルアミン系又はモルホリン系、有利にはテルビナフィン又はその塩酸塩に由来することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
抗真菌剤が、全組成物の少なくとも5重量%、有利には少なくとも8重量%、より有利には少なくとも10重量%であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
溶媒系が、
-水と、
-少なくとも1種のC2〜C8直鎖又は分岐鎖アルカノール、有利にはエタノールと、
-少なくとも1つのグリコール、有利にはプロピレングリコールと
から構成される水性系であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
テクスチャー化剤、有利にはアルキルセルロースを、より有利には0.3〜0.5%の含量でさらに含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
キレート剤、抗酸化剤、消毒剤、皮膚軟化剤から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含むことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
爪真菌症の治療のための、穿孔爪への適用を意図する医薬品の調製への、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項12】
爪が、直径400μm〜1mm、有利には400μm〜600μmの孔を有することを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
爪が、爪の厚さの10〜100%に相当する深さ、典型的には0.2mm〜5mmの深さの孔を有することを特徴とする、請求項11又は12に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−514334(P2013−514334A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543791(P2012−543791)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070086
【国際公開番号】WO2011/073395
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(512158099)ガルデルマ・ファルマ・ソシエテ・アノニム (2)
【Fターム(参考)】