穿孔試験方法
【課題】セミを用いずにセミの産卵管による穿孔を模擬することができる穿孔試験方法を提供する。
【解決手段】光ファイバをシースで被覆してなる光ファイバケーブルに対するセミの産卵行動による穿孔を模擬する穿孔試験方法である。セミの産卵管の模擬針50をサンプルに突き当て、模擬針50に荷重を加えた状態で、模擬針50を回転運動させる。
【解決手段】光ファイバをシースで被覆してなる光ファイバケーブルに対するセミの産卵行動による穿孔を模擬する穿孔試験方法である。セミの産卵管の模擬針50をサンプルに突き当て、模擬針50に荷重を加えた状態で、模擬針50を回転運動させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セミを用いずにセミの産卵管による穿孔を模擬することができる穿孔試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバ心線と一対のテンションメンバと、さらに支持線とを所定位置に位置決めしながら、一括被覆を施してシースを形成した光ファイバケーブルが種々製造され、使用されている。このような光ファイバケーブルにおいては、シースを引き裂いて光ファイバ心線を取り出しやすいように、シースにV字状のノッチを設けることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これらの光ファイバケーブルが架空布設された場合、経時的に原因不明の特性劣化が発生することがあった。近年になって漸くこの原因が夏季に発生するセミ、特にクマゼミの光ファイバケーブルへの産卵行動に起因することがわかってきた。具体的には、クマゼミが架空に布設された光ファイバケーブルを木の幹や枝と誤って、シースに産卵管を突き刺し、内部に産卵する行動が原因である、というものである。特にノッチ部分は、シース表面から光ファイバ心線までの距離が近いため、このノッチ部分に産卵管が差し込まれると、産卵管で光ファイバが損傷してしまうことがある。
【0004】
このため、セミの産卵管よりも幅が狭いノッチを光ファイバケーブルに形成することが提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。また、セミの産卵管から光ファイバ心線を保護する保護材をシースに埋設することも提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−90213号公報
【特許文献2】特開2006−330606号公報
【特許文献3】特開2007−264236号公報
【特許文献4】特開2007−72379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、セミの産卵行動対策を光ファイバケーブルに対して施し、その効果を検証するために、実際にセミに産卵をさせる試験方法がある。しかし、セミが産卵をする期間は7月中旬〜8月下旬であり、年間を通して試験を行うことができなかった。
【0007】
本発明の課題は、セミを用いずにセミの産卵管による穿孔を模擬することができる穿孔試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、光ファイバをシースで被覆してなる光ファイバケーブルに対するセミの産卵行動による穿孔を模擬する穿孔試験方法であって、ビッカース硬度が300HV〜1600HVである材料からなり、先端角度が20〜135°であるセミの産卵管の模擬針をサンプルに突き当て、前記模擬針に荷重を加えた状態で、前記模擬針を回転運動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セミを用いずにセミの産卵管による穿孔を模擬することができる穿孔試験方法を提供することができ、セミがいない季節も含めた年間を通して試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に用いる試験装置20を示す斜視図である。
【図2】模擬針50の先端部をサンプル60に当接させた状態の断面図である。
【図3】(a)は模擬針50の先端の他の形状を示す斜視図であり、(b)は(a)を先端側から見た図である。
【図4】(a)は模擬針50の先端の他の形状を示す斜視図であり、(b)は(a)を先端側から見た図である。
【図5】ドロップケーブル1の長さ方向と垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明に用いる試験装置20を示す斜視図である。試験装置20は、サンプル台21と、ガイド30と、模擬針ホルダー40とから概略構成される。
サンプル台21は平坦な台であり、サンプル台21の上面にはガイド30及びドロップケーブルやシース材料のシートサンプルが載置される。
【0012】
ガイド30はたとえば円筒形であり、軸方向をサンプル台21の上面と垂直となるようにサンプル台21上に載置される。ガイド30には上端面の中心からガイド30を上下方向に貫通する円形の貫通孔31が設けられている。貫通孔31の内径は円柱状の模擬針ホルダー40の外径とほぼ等しく、貫通孔31には模擬針ホルダー40が挿入される。
【0013】
また、ガイド30の下端には、径方向に切り欠き32が設けられている。切り欠き32は貫通孔31と繋がっており、切り欠き32の幅は貫通孔31の内径とほぼ等しいか、貫通孔31の内径よりも広い。ガイド30をサンプル台21上に載置したときに、この切り欠き32の部分のサンプル台21の上面にドロップケーブルやシース材料のサンプルが配置される。
【0014】
模擬針ホルダー40の下端には模擬針50が取り付けられている。模擬針ホルダー40は貫通孔31に挿入された状態で模擬針ホルダー40の軸方向に移動可能であり、かつ、模擬針ホルダー40の軸中心を中心として回動可能である。また、模擬針ホルダー40の上部には、位置決めピン42が設けられている。位置決めピン42は模擬針ホルダー40の回転角度を制御するときの目安となる。
模擬針ホルダー40には、図示しない機械的動力伝達装置により自動で、または手動で往復回転運動が加えられる。また、模擬針ホルダー40に下向きに加える荷重を調整することで、模擬針50に加える荷重を任意に調整することができる。
【0015】
模擬針50は、クマゼミの産卵管を模したものであり、先端形状は略円錐形状となっている。模擬針50には、ビッカース硬度HVが300〜1600の材料を用いることが好ましい。ビッカース硬度が300HVよりも低いと、穿孔試験において模擬針50が変形してしまう。一方、ビッカース硬度が1600より大きいと、穿孔試験において模擬針50が破損するおそれがある。ビッカース硬度HVが300〜1600の材料としては、たとえば高速度工具鋼、超硬合金等を用いることができる。
【0016】
図2に模擬針50の先端部をサンプル60に当接させた状態の断面図を示す。模擬針50の先端角θは、20〜135°であることが好ましい。先端角が20°よりも小さい模擬針は加工が難しい。また、先端角が135°よりも大きい場合には、ドロップケーブルやシース材料のサンプルを損傷することが困難である。
模擬針50の太さは、クマゼミの産卵管とほぼ同じ太さであり、直径約1.0mmである。
【0017】
図3(a)は模擬針50の先端の他の形状を示す斜視図であり、(b)は(a)を先端側から見た図である。図3に示すように、模擬針50の先端を、円錐をその頂点51を通る2面52、53でカットした形状としてもよい。
【0018】
図4(a)は模擬針50の先端の他の形状を示す斜視図であり、(b)は(a)を先端側から見た図である。図4に示すように、模擬針50の先端を、四角錐形状としてもよい。あるいは、三角錐、五角錐、その他の多角錐形状としてもよい。
【0019】
次に、本発明の試験方法について、試験例を挙げてさらに説明する。
〔模擬針の材料、硬度〕
シートサンプルをサンプル台21上に水平に配置し、模擬針の材料、硬度を変えて、穿孔試験を行った。模擬針への荷重は150gfとした。シートサンプルには、ノンハロゲン難燃ポリオレフィンを用いた。模擬針の直径は1.0mm、先端角度37°の円錐形状とした。
模擬針の材料、硬度は以下の通りである。
(1)試験例1:模擬針の材料にビッカース硬度120HVの銅を用いた。
(2)試験例2:模擬針の材料にビッカース硬度309HVの高速度工具鋼を用いた。
(3)試験例3:模擬針の材料にビッカース硬度820HVの高速度工具鋼を用いた。
(4)試験例4:模擬針の材料にビッカース硬度1570HVの超硬合金を用いた。
(5)試験例5:模擬針の材料にビッカース硬度1860HVの超硬合金を用いた。
結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
試験例2〜4では、シートサンプルに模擬針が刺さり、良好な結果が得られた。一方、試験例1では模擬針が変形した。また、試験例5では模擬針が破損した。
【0022】
次に、直径1.0mmビッカース硬度820HVの高速度工具鋼からなる模擬針を用いて、模擬針の先端角度、模擬針ホルダーにかける荷重、および模擬針ホルダーの回転回数を種々に変化させ、シース材料となる3種類のシートサンプル(ノンハロゲンの難燃ポリオレフィン)の穿孔試験を行った。また、得られた穿孔試験結果と実際のセミによる損傷の深さの関係を調べた。
3種類のシートサンプルの主な物性値は以下の通りである。
材料A:破断強度13.5MPa、破断伸び587%、弾性率487MPa、デュロメータD硬度53
材料B:破断強度14.8MPa、破断伸び458%、弾性率520MPa、デュロメータD硬度59
材料C:破断強度15.6MPa、破断伸び389%、弾性率557MPa、デュロメータD硬度62
【0023】
〔穿孔試験条件〕
模擬針の先端角度、模擬針ホルダーにかける荷重、および模擬針ホルダーの回転回数はは以下の通りである。
【0024】
(6)試験例6:模擬針の先端角度を20°とし、50gFの荷重をかけながら500回往復回転させた。
(7)試験例7:模擬針の先端角度を37°とし、110gFの荷重をかけながら500回往復回転させた。
(8)試験例8:模擬針の先端角度を90°とし、150gFの荷重をかけながら500回往復回転させた。
(9)試験例9:模擬針の先端角度を135°とし、300gFの荷重をかけながら750回往復回転させた。
(10)試験例10:模擬針の先端角度を150°とし、500gFの荷重をかけながら750回往復回転させた。
(11)試験例11:模擬針の先端角度を175°とし、500gFの荷重をかけながら1000回往復回転させた。
【0025】
〔セミによる損傷の深さの測定〕
実際のセミによる損傷の深さは、以下のようにして調べた。まず、図5に示すドロップケーブル1を用意する。図5に示すように、ドロップケーブル1は、光ファイバ心線11と、2本のテンションメンバ12と、支持線14と、これらを一括被覆するシース15とから概略構成される。光ファイバ心線11及びテンションメンバ12を被覆する部分(本体部2)はインドアケーブルと同様の形状となるように形成されており、支持線14を被覆する部分(支持線部3)との間にくびれた接続部4が形成されている。光ファイバ心線11、テンションメンバ12、及び支持線14は長さ方向を同方向(図5の紙面に垂直方向)としている。
支持線14はドロップケーブル1全体の重量を支持するものであり、直径1.2mmの亜鉛メッキ鋼線からなる。
【0026】
本体部2は、断面形状が角のとれた略長方形状であり、中央に直径0.25mmの光ファイバ心線11が配置されている。光ファイバ心線11に対して本体部2の長尺方向の両方向に離間してそれぞれテンションメンバ12が配置されている。
【0027】
テンションメンバ12は、本体部2に作用する張力を負担するするものであり、直径0.5mmの繊維強化プラスチック(アラミドFRP)からなる。
シース15は、光ファイバ心線11、テンションメンバ12、及び支持線14を被覆するものであり、熱可塑性樹脂であるノンハロゲンの難燃ポリオレフィンからなる。
シース15には、表面の光ファイバ心線11に最も近い部分から光ファイバ心線11に向かって、ノッチ16が設けられている。
【0028】
次に、用意したドロップケーブル1を13cm長に切断したサンプルを作成し、各試験例に対して、それぞれ2本のサンプルをクマゼミ(メス1匹)とともに、200mm×300mm×300mmの容器内に放置する。この状態で1日経過後、ドロップケーブル1に残されたセミの産卵行動に伴う傷の深さを測定する。
【0029】
〔評価方法〕
・材料A〜Cでの精度
試験によって材料A〜Cのシートサンプルに形成された穿孔の深さが、実際のセミによる損傷の深さ(平均値)に対し、±15%未満の範囲内にあるものを○、±25%未満かつ±15%以上の範囲にあるものを△、±25%以上の範囲にあるものを×とした。
・模擬の可否
材料A〜Cでのいずれの精度も○であるものを○、いずれかの精度が×であるもの、及びいずれの材料も損傷させることができなかったものを×とした。
結果を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
試験例6〜9では、材料A〜Cのいずれにおいても、精度が○であり、セミの産卵管による損傷の模擬試験とすることができる。一方、試験例10では、材料Bや材料Cにおける精度が悪く、セミの産卵管による損傷の模擬試験とすることができない。また、試験例11では、材料A〜Cのいずれにも損傷を加えることができず、セミの産卵管による損傷の模擬試験とすることができない。
【0032】
以上示したように、本発明に係る穿孔試験方法によれば、模擬針の材質や先端角度、荷重や回転数を調整することで、セミの産卵管による損傷の模擬試験を行うことができる。
【0033】
なお、以上の穿孔試験においては、シースとなる材料のシートサンプルを用いたが、本発明はこれに限らず、ドロップケーブル等、任意の形状の光ファイバケーブルに対して穿孔試験を行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ドロップケーブル
2 本体部
3 支持線部
4 接続部
11 光ファイバ心線
12 テンションメンバ
14 支持線
15 シース
16 ノッチ
20 試験装置
21 サンプル台
30 ガイド
31 貫通孔
32 切り欠き
40 模擬針ホルダー
42 位置決めピン
50 模擬針50
【技術分野】
【0001】
本発明は、セミを用いずにセミの産卵管による穿孔を模擬することができる穿孔試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバ心線と一対のテンションメンバと、さらに支持線とを所定位置に位置決めしながら、一括被覆を施してシースを形成した光ファイバケーブルが種々製造され、使用されている。このような光ファイバケーブルにおいては、シースを引き裂いて光ファイバ心線を取り出しやすいように、シースにV字状のノッチを設けることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これらの光ファイバケーブルが架空布設された場合、経時的に原因不明の特性劣化が発生することがあった。近年になって漸くこの原因が夏季に発生するセミ、特にクマゼミの光ファイバケーブルへの産卵行動に起因することがわかってきた。具体的には、クマゼミが架空に布設された光ファイバケーブルを木の幹や枝と誤って、シースに産卵管を突き刺し、内部に産卵する行動が原因である、というものである。特にノッチ部分は、シース表面から光ファイバ心線までの距離が近いため、このノッチ部分に産卵管が差し込まれると、産卵管で光ファイバが損傷してしまうことがある。
【0004】
このため、セミの産卵管よりも幅が狭いノッチを光ファイバケーブルに形成することが提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。また、セミの産卵管から光ファイバ心線を保護する保護材をシースに埋設することも提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−90213号公報
【特許文献2】特開2006−330606号公報
【特許文献3】特開2007−264236号公報
【特許文献4】特開2007−72379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、セミの産卵行動対策を光ファイバケーブルに対して施し、その効果を検証するために、実際にセミに産卵をさせる試験方法がある。しかし、セミが産卵をする期間は7月中旬〜8月下旬であり、年間を通して試験を行うことができなかった。
【0007】
本発明の課題は、セミを用いずにセミの産卵管による穿孔を模擬することができる穿孔試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、光ファイバをシースで被覆してなる光ファイバケーブルに対するセミの産卵行動による穿孔を模擬する穿孔試験方法であって、ビッカース硬度が300HV〜1600HVである材料からなり、先端角度が20〜135°であるセミの産卵管の模擬針をサンプルに突き当て、前記模擬針に荷重を加えた状態で、前記模擬針を回転運動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セミを用いずにセミの産卵管による穿孔を模擬することができる穿孔試験方法を提供することができ、セミがいない季節も含めた年間を通して試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に用いる試験装置20を示す斜視図である。
【図2】模擬針50の先端部をサンプル60に当接させた状態の断面図である。
【図3】(a)は模擬針50の先端の他の形状を示す斜視図であり、(b)は(a)を先端側から見た図である。
【図4】(a)は模擬針50の先端の他の形状を示す斜視図であり、(b)は(a)を先端側から見た図である。
【図5】ドロップケーブル1の長さ方向と垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明に用いる試験装置20を示す斜視図である。試験装置20は、サンプル台21と、ガイド30と、模擬針ホルダー40とから概略構成される。
サンプル台21は平坦な台であり、サンプル台21の上面にはガイド30及びドロップケーブルやシース材料のシートサンプルが載置される。
【0012】
ガイド30はたとえば円筒形であり、軸方向をサンプル台21の上面と垂直となるようにサンプル台21上に載置される。ガイド30には上端面の中心からガイド30を上下方向に貫通する円形の貫通孔31が設けられている。貫通孔31の内径は円柱状の模擬針ホルダー40の外径とほぼ等しく、貫通孔31には模擬針ホルダー40が挿入される。
【0013】
また、ガイド30の下端には、径方向に切り欠き32が設けられている。切り欠き32は貫通孔31と繋がっており、切り欠き32の幅は貫通孔31の内径とほぼ等しいか、貫通孔31の内径よりも広い。ガイド30をサンプル台21上に載置したときに、この切り欠き32の部分のサンプル台21の上面にドロップケーブルやシース材料のサンプルが配置される。
【0014】
模擬針ホルダー40の下端には模擬針50が取り付けられている。模擬針ホルダー40は貫通孔31に挿入された状態で模擬針ホルダー40の軸方向に移動可能であり、かつ、模擬針ホルダー40の軸中心を中心として回動可能である。また、模擬針ホルダー40の上部には、位置決めピン42が設けられている。位置決めピン42は模擬針ホルダー40の回転角度を制御するときの目安となる。
模擬針ホルダー40には、図示しない機械的動力伝達装置により自動で、または手動で往復回転運動が加えられる。また、模擬針ホルダー40に下向きに加える荷重を調整することで、模擬針50に加える荷重を任意に調整することができる。
【0015】
模擬針50は、クマゼミの産卵管を模したものであり、先端形状は略円錐形状となっている。模擬針50には、ビッカース硬度HVが300〜1600の材料を用いることが好ましい。ビッカース硬度が300HVよりも低いと、穿孔試験において模擬針50が変形してしまう。一方、ビッカース硬度が1600より大きいと、穿孔試験において模擬針50が破損するおそれがある。ビッカース硬度HVが300〜1600の材料としては、たとえば高速度工具鋼、超硬合金等を用いることができる。
【0016】
図2に模擬針50の先端部をサンプル60に当接させた状態の断面図を示す。模擬針50の先端角θは、20〜135°であることが好ましい。先端角が20°よりも小さい模擬針は加工が難しい。また、先端角が135°よりも大きい場合には、ドロップケーブルやシース材料のサンプルを損傷することが困難である。
模擬針50の太さは、クマゼミの産卵管とほぼ同じ太さであり、直径約1.0mmである。
【0017】
図3(a)は模擬針50の先端の他の形状を示す斜視図であり、(b)は(a)を先端側から見た図である。図3に示すように、模擬針50の先端を、円錐をその頂点51を通る2面52、53でカットした形状としてもよい。
【0018】
図4(a)は模擬針50の先端の他の形状を示す斜視図であり、(b)は(a)を先端側から見た図である。図4に示すように、模擬針50の先端を、四角錐形状としてもよい。あるいは、三角錐、五角錐、その他の多角錐形状としてもよい。
【0019】
次に、本発明の試験方法について、試験例を挙げてさらに説明する。
〔模擬針の材料、硬度〕
シートサンプルをサンプル台21上に水平に配置し、模擬針の材料、硬度を変えて、穿孔試験を行った。模擬針への荷重は150gfとした。シートサンプルには、ノンハロゲン難燃ポリオレフィンを用いた。模擬針の直径は1.0mm、先端角度37°の円錐形状とした。
模擬針の材料、硬度は以下の通りである。
(1)試験例1:模擬針の材料にビッカース硬度120HVの銅を用いた。
(2)試験例2:模擬針の材料にビッカース硬度309HVの高速度工具鋼を用いた。
(3)試験例3:模擬針の材料にビッカース硬度820HVの高速度工具鋼を用いた。
(4)試験例4:模擬針の材料にビッカース硬度1570HVの超硬合金を用いた。
(5)試験例5:模擬針の材料にビッカース硬度1860HVの超硬合金を用いた。
結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
試験例2〜4では、シートサンプルに模擬針が刺さり、良好な結果が得られた。一方、試験例1では模擬針が変形した。また、試験例5では模擬針が破損した。
【0022】
次に、直径1.0mmビッカース硬度820HVの高速度工具鋼からなる模擬針を用いて、模擬針の先端角度、模擬針ホルダーにかける荷重、および模擬針ホルダーの回転回数を種々に変化させ、シース材料となる3種類のシートサンプル(ノンハロゲンの難燃ポリオレフィン)の穿孔試験を行った。また、得られた穿孔試験結果と実際のセミによる損傷の深さの関係を調べた。
3種類のシートサンプルの主な物性値は以下の通りである。
材料A:破断強度13.5MPa、破断伸び587%、弾性率487MPa、デュロメータD硬度53
材料B:破断強度14.8MPa、破断伸び458%、弾性率520MPa、デュロメータD硬度59
材料C:破断強度15.6MPa、破断伸び389%、弾性率557MPa、デュロメータD硬度62
【0023】
〔穿孔試験条件〕
模擬針の先端角度、模擬針ホルダーにかける荷重、および模擬針ホルダーの回転回数はは以下の通りである。
【0024】
(6)試験例6:模擬針の先端角度を20°とし、50gFの荷重をかけながら500回往復回転させた。
(7)試験例7:模擬針の先端角度を37°とし、110gFの荷重をかけながら500回往復回転させた。
(8)試験例8:模擬針の先端角度を90°とし、150gFの荷重をかけながら500回往復回転させた。
(9)試験例9:模擬針の先端角度を135°とし、300gFの荷重をかけながら750回往復回転させた。
(10)試験例10:模擬針の先端角度を150°とし、500gFの荷重をかけながら750回往復回転させた。
(11)試験例11:模擬針の先端角度を175°とし、500gFの荷重をかけながら1000回往復回転させた。
【0025】
〔セミによる損傷の深さの測定〕
実際のセミによる損傷の深さは、以下のようにして調べた。まず、図5に示すドロップケーブル1を用意する。図5に示すように、ドロップケーブル1は、光ファイバ心線11と、2本のテンションメンバ12と、支持線14と、これらを一括被覆するシース15とから概略構成される。光ファイバ心線11及びテンションメンバ12を被覆する部分(本体部2)はインドアケーブルと同様の形状となるように形成されており、支持線14を被覆する部分(支持線部3)との間にくびれた接続部4が形成されている。光ファイバ心線11、テンションメンバ12、及び支持線14は長さ方向を同方向(図5の紙面に垂直方向)としている。
支持線14はドロップケーブル1全体の重量を支持するものであり、直径1.2mmの亜鉛メッキ鋼線からなる。
【0026】
本体部2は、断面形状が角のとれた略長方形状であり、中央に直径0.25mmの光ファイバ心線11が配置されている。光ファイバ心線11に対して本体部2の長尺方向の両方向に離間してそれぞれテンションメンバ12が配置されている。
【0027】
テンションメンバ12は、本体部2に作用する張力を負担するするものであり、直径0.5mmの繊維強化プラスチック(アラミドFRP)からなる。
シース15は、光ファイバ心線11、テンションメンバ12、及び支持線14を被覆するものであり、熱可塑性樹脂であるノンハロゲンの難燃ポリオレフィンからなる。
シース15には、表面の光ファイバ心線11に最も近い部分から光ファイバ心線11に向かって、ノッチ16が設けられている。
【0028】
次に、用意したドロップケーブル1を13cm長に切断したサンプルを作成し、各試験例に対して、それぞれ2本のサンプルをクマゼミ(メス1匹)とともに、200mm×300mm×300mmの容器内に放置する。この状態で1日経過後、ドロップケーブル1に残されたセミの産卵行動に伴う傷の深さを測定する。
【0029】
〔評価方法〕
・材料A〜Cでの精度
試験によって材料A〜Cのシートサンプルに形成された穿孔の深さが、実際のセミによる損傷の深さ(平均値)に対し、±15%未満の範囲内にあるものを○、±25%未満かつ±15%以上の範囲にあるものを△、±25%以上の範囲にあるものを×とした。
・模擬の可否
材料A〜Cでのいずれの精度も○であるものを○、いずれかの精度が×であるもの、及びいずれの材料も損傷させることができなかったものを×とした。
結果を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
試験例6〜9では、材料A〜Cのいずれにおいても、精度が○であり、セミの産卵管による損傷の模擬試験とすることができる。一方、試験例10では、材料Bや材料Cにおける精度が悪く、セミの産卵管による損傷の模擬試験とすることができない。また、試験例11では、材料A〜Cのいずれにも損傷を加えることができず、セミの産卵管による損傷の模擬試験とすることができない。
【0032】
以上示したように、本発明に係る穿孔試験方法によれば、模擬針の材質や先端角度、荷重や回転数を調整することで、セミの産卵管による損傷の模擬試験を行うことができる。
【0033】
なお、以上の穿孔試験においては、シースとなる材料のシートサンプルを用いたが、本発明はこれに限らず、ドロップケーブル等、任意の形状の光ファイバケーブルに対して穿孔試験を行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ドロップケーブル
2 本体部
3 支持線部
4 接続部
11 光ファイバ心線
12 テンションメンバ
14 支持線
15 シース
16 ノッチ
20 試験装置
21 サンプル台
30 ガイド
31 貫通孔
32 切り欠き
40 模擬針ホルダー
42 位置決めピン
50 模擬針50
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバをシースで被覆してなる光ファイバケーブルに対するセミの産卵行動による穿孔を模擬する穿孔試験方法であって、
ビッカース硬度が300HV〜1600HVである材料からなり、先端角度が20〜135°であるセミの産卵管の模擬針をサンプルに突き当て、前記模擬針に荷重を加えた状態で、前記模擬針を回転運動させることを特徴とする穿孔試験方法。
【請求項1】
光ファイバをシースで被覆してなる光ファイバケーブルに対するセミの産卵行動による穿孔を模擬する穿孔試験方法であって、
ビッカース硬度が300HV〜1600HVである材料からなり、先端角度が20〜135°であるセミの産卵管の模擬針をサンプルに突き当て、前記模擬針に荷重を加えた状態で、前記模擬針を回転運動させることを特徴とする穿孔試験方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2010−223787(P2010−223787A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71875(P2009−71875)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
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