説明

突刺抵抗性を有する布

本発明は、コーティング組成物で被覆された複数の繊維を含む不織布に関する。前記コーティング組成物は、一般的に、シラン、ジアルデヒドを含有し、一部の実施形態では粒子をさらに含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突刺抵抗性を有する布に関する。
【背景技術】
【0002】
織布及び不織布は、それらを切ったり貫いたりすることができる鋭利な物体にさらされ得る、多種多様な産業、医療及び家庭環境において有用である。それらの用途の多くにおいて、不織布またはウェブはコスト面で優れている。本明細書において用いられる「不織布またはウェブ」なる用語は、一般的に、個々の繊維または糸が互いに交絡されているが、編物(ニット)のような識別可能(規則的)な様態で交絡されていない構造を有するウェブを指す。適切な不織布またはウェブの例としては、これらに限定しないが、メルトブローンウェブ、スパンボンドウェブ、カードウェブなどがある。不織ウェブの坪量は、一般的に、約0.1グラム毎平方メートル(gsm)ないし約120gsmまたはそれ以上である。
【0003】
特に、カバーオール、ガウン、手袋及び保護スリーブなどの様々な保護衣類が、織布または不織布から作製され得る。このような保護衣類は着用者を液体及び細菌から保護することができるが、それに加えて、鋭利な物で切られたり突き刺されたりすることによる着用者の負傷を減少させることができれば、さらに有益であろう。また、前記保護衣類が、その通気性、ドレープ性及び快適性を維持することができれば有益であろう。
【0004】
医療環境では、不織布は、シーツ、ドレープ、または、手術器具等を保護するために使用される滅菌ラップなどの製品にも利用されている。具体的には、殺菌及び保管のための医療器具の包装においては、スパンボンド・メルトブローン・スパンボンド(SBS)などの不織布積層体が有用かつ費用効果的であり得る。SMS積層体は、一般的に、スパンボンデッド・ポリオレフィンの外側不織布層及びメルトブローン・ポリオレフィンの内側バリア層を含む。本明細書において用いられる「メルトブローンウェブ」なる用語は、一般的に、溶融した熱可塑性材料を、通常は円形の断面形状を有する複数の微細なダイキャピラリから溶融繊維として集束高速ガス(例えば空気)流中に押し出し、前記ガス流により前記溶融繊維の直径をマイクロ繊維の直径の程度まで縮径させる方法により作製された不織ウェブを指す。その後、前記メルトブローン繊維は前記高速ガス流により搬送されて収集面に堆積させられ、それにより、不規則に分散したメルトブローン繊維のウェブが形成される。一般的に言えば、メルトブローン繊維は、実質的に連続的または非連続的であるマイクロ繊維であり得、一般的に10μm未満の直径を有する。また、メルトブローン繊維は、一般的に、収集面に堆積したときに粘着性を持つ。本明細書において用いられる「スパンボンドウェブ」なる用語は、一般的に、小径の実質的に連続的な繊維を含むウェブを指す。前記繊維は、溶融した熱可塑性材料を、スピナレット(紡糸口金)の通常は円形の断面形状を有する複数の微細なキャピラリから押し出して形成した繊維を、例えば縮径延伸機構及び/または他の既知のスパンボンディング機構によって急激に縮径させることにより作製される。スパンボンド不織ウェブの作製方法は公知である。スパンボンド繊維は、一般的に、収集面に堆積したときに粘着性を持たない。また、スパンボンド繊維は、約40μm未満、通常は約5μmないし約20μmの直径を有し得る。
【0005】
包装された医療機器は滅菌された後に保管されるが、その保管環境において、前記保護滅菌ラップは、その内容物に起因する裂け部、孔または切れ部、あるいは外部の物体により引き起こされる衝突または摩耗によって破損し得る。このような裂け部、孔または切れ部は前記包装布に破損個所を形成し得る。破損個所が形成されると医療器具は使用に適さない状態となる。SMS及び他の不織布は比較的耐久性があり、かつ液体の透過または細菌の侵入を阻止することができるが、それらの、十分な耐久性及び切断抵抗を提供する性能は向上させることができるであろう。
【0006】
したがって、原材料の快適性、通気性、ドレープ性及び対費用効果を維持しながら、裂け部、孔または切れ部を減少させることができる布が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、外面の少なくとも一部がコーティング組成物によって被覆された複数の繊維を含む不織布が提供される。一部の実施形態では、前記繊維の可視外面の少なくとも50%が、前記コーティング組成物によって被覆される。いくつかの実施形態では前記繊維の可視外面の少なくとも75%が、特定の実施形態では前記繊維の可視外面の少なくとも90%が前記コーティング組成物によって被覆される。前記コーティング組成物の前記繊維への付着性を高めるために、前記繊維にはコロナ処理が施され得る。
【0008】
一部の実施形態では、前記コーティング組成物は、アミノ官能化シランとジアルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)とを含み、前記コーティング組成物中におけるジアルデヒドの重量%はシランの重量%よりも大きい。一部の実施形態では、前記コーティング組成物中におけるジアルデヒドの重量%はシランの重量%の少なくとも2倍であり、場合によっては、シランの重量%の少なくとも4倍であり得る。特定の実施形態では、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)またはヘキサメチルジシラザン(HDMS)がシランとして使用され得る。また、他のアミノ官能化シランも適切であり得る。
【0009】
選択された実施形態では、前記不織布は、空気透過性すなわち通気性を有し、任意の様々な材料及び方法によって作製され得る。選択された実施形態では、前記不織布は、スパンボンド層とメルトブローン層とを含む積層体であり得る。
【0010】
前記コーティング組成物を不織布に適用すると、不織布の平均突刺抵抗を少なくとも約10%、一部の実施形態では少なくとも約25%増加させることができる。
【0011】
本発明の別の実施形態では、複数の粒子、シラン及びジアルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)を含み、かつ前記ジアルデヒドの重量パーセントが前記シランの重量パーセントよりも大きいコーティング組成物によって被覆された複数の繊維を含む不織布が提供される。特定の実施形態では、前記コーティング組成物中におけるジアルデヒドの重量パーセントはシランの重量パーセントの少なくとも約2倍である。選択された実施形態では、前記コーティング組成物中におけるジアルデヒドの重量パーセントは粒子の重量パーセントの少なくとも約2倍である。任意の様々なシラン及びジアルデヒドが、これらの実施形態に使用され得る。前記粒子は、シリカ、二酸化チタン、アルミナ、または任意の他の様々な粒子であり得る。前記粒子のサイズは様々であり得るが、前記粒子は、250ナノメートル未満、選択された実施形態では150ナノメートル未満の平均粒子サイズを有するナノ粒子であることが好ましい。
【0012】
粒子を含むコーティング組成物を不織布に適用すると、不織布の平均突刺抵抗を約10%、一部の実施形態では少なくとも約20%またはそれ以上増加させることができる。
【0013】
さらに、本発明は、繊維性材料を被覆する方法であって、約1重量部の粒子と、少なくとも約0.25重量部のシランと、少なくとも約4重量部のジアルデヒドと、溶媒とを互いに混合することによってコーティング組成物を調製するステップを含む方法を提供する。エタノール、プロパノール、エタノール及び水の混合物、またはプロパノール及び水の混合物などの様々な溶媒が本発明に使用され得る。本発明の方法の特定の実施形態では、シランとジアルデヒドとを互いに混合した後、その混合物に前記粒子に加えるようにする。本発明の方法は、不織繊維性材料を用意するステップと、前記繊維性材料に前記コーティング組成物を適用するステップとをさらに含む。前記コーティング組成物は、前記繊維性材料の坪量を約0.5gsmないし約0.6gsm増加させるような被覆量で適用される。なお、選択された実施形態では、他の範囲の被覆量も適切であり得る。
【0014】
また、本発明の方法は、不織繊維性材料にコロナ処理を施すステップを含み得る。一部の実施形態では、前記繊維性材料は、外面の少なくとも約75%が前記コーティング組成物によって被覆された複数の繊維を含む。これらの及び他の実施形態では、被覆された不織繊維性材料の通気性は、被覆されていない不織繊維性材料の通気性の少なくとも約90%であり得る。
【0015】
本発明の他の特徴及び態様は、以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
当業者を対象にした本発明の完全なかつ実現可能な開示(ベストモードを含む)は、以下の添付図面の参照を含む本明細書の残りの部分により詳細に説明される。
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に従って形成された、被覆された繊維の顕微鏡写真である。
【図2】本発明の一実施形態に従って形成された布の顕微鏡写真である。
【0018】
本明細書及び図面において繰り返し用いられる参照符号は、本発明の同一または類似の機構または要素を表すことを意図している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の様々な実施形態について詳細に説明し、1または複数の例を以下に説明する。各例は、本発明を限定するためではなく、本発明の説明のために提供される。事実、本発明の様々な変更及び変形が、本発明の範囲及び要旨から逸脱することなく行われ得ることは、当業者には明らかであろう。例えば、或る実施形態の一部として説明または図示された特徴を別の実施形態に適用することにより、さらなる別の実施形態を創出することができる。したがって、本発明は、このような変更及び変形を包含することを意図している。
【0020】
本発明は、全体として、布の通気性を維持したままで布の平均突刺抵抗(average puncture resistance)を向上させるコーティングを有する布(例えば不織材料)に関する。一般的に、前記コーティングは、シラン及びジアルデヒドを含み得る。選択された実施形態では、前記コーティングは、シラン、ジアルデヒド及びナノ粒子を含み得る。
【0021】
様々なシランが本発明での使用に適切であり、そのようなシランとしては、例えば、Si(OCの化学式で表されるテトラエトキシシラン(TEOS)がある。TEOSは、シリコンポリマーにおいて架橋剤として使用することができる。2−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)は、本発明での使用に適切なアミノ官能化オルガノシランである。NHCHCHCHSi(OCの化学式で表されるAPTESは、無機性基質及び有機ポリマー間の優れた結合を提供する。ヘキサメチルジシラザン(HDMS)は、HN[Si(CHの化学式で表される化学化合物である。他のアミノ官能化シランとしては、ヘキサメチルジシラザン及びヘプタメチルジシラザンが挙げられる。他の好適な化合物としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス[(3−トリエトキシシリル)プロピル]アミン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノエチルアミノメチルトリエトキシシラン、アミノエチルアミノメチルメチルジエトキシシラン、ジエチレントリアミノプロピルトリメトキシシラン、ジエチレントリアミノプロピルトリエトキシシラン、ジエチレントリアミノプロピルメチルジメトキシシラン、ジエチレントリアミノプロピルメチルジエトキシシラン、ジエチレントリアミノメチルメチルジエトキシシラン、(n−フェニルアミノ)メチルトリメトキシシラン、(n−フェニルアミノ)メチルトリエトキシシラン、(n−フェニルアミノ)メチルメチルジメトキシシラン、(n−フェニルアミノ)メチルメチルジエトキシシラン、3−(n−フェニルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(n−フェニルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(n−フェニルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン、3−(n−フェニルアミノ)プロピルメチルジエトキシシラン、ジエチルアミノメチルトリエトキシシラン、ジエチルアミノメチルジエトキシシラン、ジエチルアミノメチルトリメトキシシラン、ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジエチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、ジエチルアミノプロピルメチルジエトキシシラン及び、n−(n−ブチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0022】
また、ジアルデヒド化合物も本発明のコーティング組成物に使用される。ジアルデヒド化合は、エタンジアール(別名グリオキサル)などのアルキルまたは芳香族ジアルデヒド、ブタンジアール(別名スクシンジアルデヒド)、ペンタンジアール(別名グルタルアルデヒド)、及び1−4ベンゼンジカルボキシアルデヒド(別名フタル酸ジカルボキシアルデヒド)から選択することができる。グルタルアルデヒドは、本発明の例で使用されるジアルデヒド化合物として選択される。グルタルアルデヒドは、刺激臭を持つ無色の液体であり、架橋剤などの様々な用途を有する。本発明の選択された例では、グルタルアルデヒドはシランと反応してマトリックスを形成する。グルタルアルデヒドは、Sigma-Aldrich Chemical Company社(Milwaukee WI)から入手することができ、表1に示す各例に使用される。
【0023】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子などの粒子は、混合プロセス中の任意の時点で、シラン及びジアルデヒドに加えられる。本明細書において用いられる「ナノ粒子」なる用語は、平均粒径が約1000ナノメートル未満の粒子を含み得る。なお、それよりも大きい粒子も本発明の特定の実施形態において有用であり得ることを理解されたい。ナノ粒子のサイズは、ナノ粒子の、コーティング組成物のマトリックスに十分に組み込まれる性能に影響を与えることになる。また、ナノ粒子のサイズは様々であり得るが、ナノ粒子のサイズは、ナノ粒子のシラン/ジアルデヒドネットワークへの組み込みを可能にするように十分に小さくあるべきである。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、約500nm未満、別の実施形態では約250nm未満、選択された実施形態では好ましくは約100nm未満の平均粒径を有し得る。また、特定用途のための前記粒子の適切なサイズの選択は、所望される、前記コーティングの変形率(rate of deformation)にも依存する。
【0024】
本発明の別の実施形態に適切であり得るナノ粒子のサイズは、一つには、コーティングのために選択される布に依存し得る。例えば、約400nmよりも大きい平均粒径を有する大きなナノ粒子が、非常に高いレベルの通気性、大きな空隙サイズ及び、大きな繊維サイズを有する布のためのコーティング組成物への使用に適切であり得る。そのような布は、約33.9ないし約102gsm(約1.0ないし約3.0oz/yd(osy))の坪量を有するスパンボンド材料層を1層または2層含み得る。前記コーティング組成物が、小さな繊維サイズ、小さな空隙サイズ及び中程度の通気性を有する材料に適用される実施形態では、より小さいナノ粒子が適切であり得る。例えば、約100nm未満の平均粒径を有するナノ粒子が、約6.8ないし約33.9gsm(約0.2ないし約1.0osy)の坪量を有するメルトブローン層を含む不織布への使用に適切であり得る。
【0025】
様々な粒子が本発明に有用であるが、シリカ粒子が本発明での使用に特に適切であり得る。加えて、二酸化チタン、アルミナ、炭酸カルシウム、ゼオライト、ラポナイト、酸化マグネシウム、炭素、銅、銀、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ乳酸、または他の粒子も本発明に使用され得る。本発明のコーティング組成物に含まれる粒子は、任意の一般的形状であり得、楕円形(長球形)、卵形、円板形、円筒形、または、不規則形状(例えば、フレーク、真珠の首飾りのような)などの形状であり得る。
【0026】
望ましいことに、本発明の不織布は、ベース不織布と比較した場合、リンティング(linting)を減少させることができる。リンティングは、ゲルボリンティング試験法(Gelbo linting test)(後述する)に従って測定した。ある実施形態では、本発明に従って被覆された不織布は、リント粒子の数が約10%ないし約100%減少した。別の実施形態では、本発明に従って被覆された不織布は、0.3ミクロンないし0.5ミクロンのサイズのリント粒子の数が最大で約10%減少した。さらなる実施形態では、本発明に従って被覆された不織布は、0.5ミクロンないし1.0ミクロンのサイズのリント粒子の数が最大で約17%減少した。さらなる別の実施形態では、本発明に従って被覆された不織布は、1.0ミクロンないし5.0ミクロンのサイズのリント粒子の数が最大で約50%減少した。
【0027】
本発明のコーティング組成物の各成分の最適な比率を調べるために、シラン対ジアルデヒドの比率及び、ナノ粒子対シラン対ジアルデヒドの比率を変更して試験を行った。これらの試験の結果は、各成分の比率が異なる場合でも効果的な性能を発揮するが、特定の比率の場合に性能がいくぶんか向上することを示した。前記特定の比率及び、前記成分の望ましい混合方法を評価するために、より詳細な試験を行った。これらのより詳細な試験結果を表1に示す。例えば、表1には、粒子、シラン及びグルタルアルデヒドの重量比、並びに、粒子の種類及びサイズが示されている。また、平均突刺抵抗及び標準偏差も示されている。
【0028】
様々な種類の布が本発明に使用され得るが、表1の全ての例は、同一の不織布基材(表1では「ベース(base)」として示す)を使用して作製した。このベース布は、キンバリー・クラーク社(Kimberly-Clark Corporation)からキムガード(登録商標)KC400 滅菌用ラップとして入手可能なSMS不織布積層体である。各試験では、2つのSMSシートを互いに接合させたものではなく、31gsmのSMSの単一シートを使用した。
【0029】
【表1】

【0030】
突刺試験は、材料強度の測定に一般的に用いられる。この突刺試験を、本発明のコーティング組成物によりもたらされる平均突刺抵抗の増加を調べるために実施した。突刺試験は様々な実施方法があるが、表1の各サンプルは以下の試験方法に従って試験した。定速伸張引張試験機をロードセルと共に用いた。ロードセルは、ピーク負荷が該ロードセルのキャパシティの約10%ないし約90%の間に収まるものを用いた。伸張引張試験機は、MTS Systems Corporation社(Research Triangle Park, NC)製のMTS 810を使用した。適切なロードセルは、Instron Corporation社(Canton, MA)、MTS Systems Corporation社、または他の適切なベンダーから入手可能である。実質的に平らな刃を有するブレードを、試験される不織布サンプルの面に対して垂直に、かつ不織布のマシン方向に対して45度の角度で配置した。本明細書において用いられる「マシン方向」すなわち「MD」は、一般的に、材料が製造される方向を指す。「クロスマシン方向」すなわち「CD」は、マシン方向に対して垂直な方向を指す。不織布を突き刺すために使用される前記ブレードの断面は、厚さ2mm、長さ30mmである。前記ブレードの高さ(すなわち、不織布から上側へ延在するブレードの長さ)は20mmであった。例えばMTS Testworks(登録商標)などの試験ソフトウエアが、必要値の測定に適している。
【0031】
他の引張試験機パラメーターには、800インチ/分のクロスヘッド速度、20%の破壊感度(break sensitivity)及び、10g力のゆるみ補償(slack compensation)が含まれる。少なくとも約152.4mm×152.4mm(6インチ×6インチ)の試験片を前記引張試験機に配置し、10cm(4インチ)の直径を有する円形ゴムリングを使用して所定位置に固定する。試験片を所定位置に固定するために、円形ゴムリングに約20psiの圧力を加えた。各例について3つのサンプルを用意し、突刺抵抗を試験した。3つのサンプルについての最大引張力の平均を算出し、それを平均突刺抵抗として表1に示した。
【0032】
本発明の目的のためには、測定された全てのサンプルの平均突刺抵抗は、ベース布の平均突刺抵抗に対する向上を示すべきである。全ての個々のサンプルの突刺抵抗が、ベース布の突刺抵抗よりも高いと評価される必要はない。ベースサンプルに対して突刺抵抗性試験を行ったところ、平均突刺抵抗(ピーク負荷)は1492N(335lbf)であった。全サンプルについての平均突刺抵抗の増加率を表1に示す。前記増加率は、試験サンプルの平均突刺抵抗からベース布の平均突刺抵抗(1489N)を引き、それに100掛けたものをベース布の平均突刺抵抗(1489N)で割ることにより算出される。
【0033】
本発明の特有のかつ予期せぬ結果は、ブレードが試験サンプルの材料を突き刺したときに生じる音の変化である(それにも関わらず、全ての例で、柔軟性、ドレープ性及び通気性は維持される)。表1に示した本発明の各サンプルにおいて、ブレードがサンプルを貫いたときに、はっきりした「ポン」という音が聞こえた。この音は、対照のベースサンプルでは聞こえなかった。特定の理論に拘束されることは望まないが、大きな「ポン」という音は、被覆された布が、壊滅的な破壊の前により多くのエネルギーを吸収することができることにより引き起こされると考えられる。被覆された布に形成された開口部は、スパッと切れた切り口であった。対照的に、ベース布に形成された開口部は輪郭が不明瞭であった。ベース布の開口部は、破壊前の個々の繊維の伸張により形成されると考えられる。
【0034】
また、コーティング組成物の調製中に粒子を加える時期について、前記サンプルを調べた。具体的には、ナノ粒子を前記反応の開始時に加える場合(Pre)、ナノ粒子を前記反応の終了時に加える場合(Post)及び、前記反応の開始時と終了時にナノ粒子を半分ずつ加える場合(50−50)について試験を行った。特定の理論に拘束されることは望まないが、ナノ粒子をシラン及びグルタルアルデヒドの前記反応の開始時に加えると、ナノ粒子がコーティング組成物に良好に組み込まれると考えられる。ナノ粒子をシラン及びグルタルアルデヒドの反応後に加えると、ナノ粒子が、シラン/グルタルアルデヒド混合物の端部同士を結合し、いくつかの架橋結合を有するネットワークを形成すると考えられる。、粒子がゲル中に拡散できるほど小さい場合、前記架橋結合は前記反応の開始時または前記合成の終了時に起こり得る。
【0035】
表1に示した例1を見ると、SMS材料に適用されたコーティング組成物は、15nmのシリカ粒子、APTES、グルタルアルデヒドを1:0.25:4の重量比で含んでいいる。例1の組成物を調製するために、0.25gのAPTESと20mlのエタノールとを、50mlの丸底フラスコ内で磁石撹拌子を使用して室温で約20分間撹拌混合した。この溶液に1gのシリカナノ粒子を加え、室温で約20分間撹拌混合した。その後、この混合溶液に、脱イオン水に溶かして50重量%になるようにしたグルタルアルデヒド溶液を20ml加え、室温で約60分間撹拌混合した。この反応シーケンスは、表1には「Pre」と示した。
【0036】
6インチ×6インチの正方形の形状を有する3つのSMSの各々を、前記混合溶液に別々に入れ、少なくとも1秒間ないし約10秒間浸した。SMS正方形片をその後、Atlas Electric Company社(Chicago IL)製のアトラス実験室用脱水機(Atlas Laboratory Wringer、形式番号LW-824)に、6.8kgのニップ圧力及び前記脱水機の標準的な速度で通した。各SMS正方形片をドラフト内で室温で約5分間空気乾燥させた後、上述した方法に従って突刺試験を行った。例1のコーティング組成物は、ベース布の平均突刺抵抗が43%増加した。
【0037】
本発明の一実施形態の被覆された繊維を、図1の顕微鏡写真に示す。全ての繊維が完全に被覆される必要はないが、図1に示した繊維の全ての可視外面領域は被覆されており、繊維上に、さらなるコーティング組成物が塊となって付着している。図2は、不織布における複数の被覆された繊維を示している。図2に示すように、本発明のコーティング組成物は不織布の隙間に入るのではなく前記繊維に付着し、そのことにより前記繊維の元々の通気性の大部分が維持される。好適な実施形態では、前記繊維の可視外面の少なくとも約50%がコーティング組成物で被覆され、他の実施形態では、前記繊維の可視外面の少なくとも60%がコーティング組成物で被覆される。さらなる別の実施形態では、前記繊維の可視外面の少なくとも約75%がコーティング組成物で被覆され、特定の実施形態では、前記繊維の可視外面の少なくとも90%がコーティング組成物で被覆される。不織布における繊維同士の単なる重ね合わせにより相乗効果が得られるので、前記繊維の前記外面の全てが本発明のコーティング組成物で被覆される必要はない。同様に、本発明のコーティング組成物で処理された1以上の不織布を互いに重ね合わせることにより、さらなる相乗効果が得られる。
【0038】
顕微鏡写真から、粒子における利用可能なすなわちコーティングされていない面積の割合を概算するために、前記粒子の全露出面積を測定することができるように後方散乱電子像の明るい領域を検出し分離した。一部が本発明コーティング組成物により被覆され得る繊維全体の周辺を推定する輪郭が形成され得る。Princeton Gamma Tech社製のIMIXなどの標準的な画像分析ソフトウエアを使用して前記面積を算出した。そして、本発明のコーティング組成物で被覆された前記繊維の面積を前記繊維の推定面積で割り、その値を100倍することにより、本発明のコーティング組成物で被覆された前記繊維の前記可視外面の面積率を求めた。このプロセスは厳密なものではないが、本発明のコーティング組成物で被覆された前記繊維の面積率を大まかに推定することができる。
【0039】
例2では、上述した混合、適用及び試験方法を用いて、APTESをグルタルアルデヒドに0.25:4の比率で加えた。粒子は加えなかった。平均突刺抵抗の増加は75%であった。この例は、グルタルアルデヒドとAPTESだけで、ベース不織布の平均突刺抵抗を向上させるのに十分な強さの結合を形成することができることを示す。同様に、TEOSをグルタルアルデヒドに0.25:4の比率で加えた場合(例23)の平均突刺抵抗の増加は22%であった。特定の理論に拘束されることは望まないが、例2と例23とでの平均突刺抵抗の大きな差異は、アミノ官能化シランが、他のシランと比べて、平均突刺抵抗を大きく向上させることを示す。
【0040】
例3は、1:0.25:4の重量比の、約15nmの平均粒径を有するシリカ粒子、APETS及びグルタルアルデヒドを用いて調製した。例3のコーティング組成物の調製方法は例1のコーティング組成物の調製方法と同様であるが、ナノ粒子は、「Post」すなわちAPTES及びグルタルアルデヒドの混合後に加えたことに注意されたい。例3の平均突刺抵抗の増加は41%であった。
【0041】
例4は、1:0.25:4の重量比の、15nmの平均粒径を有するシリカ粒子、APTES及びグルタルアルデヒドを用いて調製した。シリカ粒子の半分を前記反応の開始時に加え(例1の「Pre」反応シーケンスのように)、シリカ粒子の残りの半分を前記反応の終了時に加えた(例3の「Post」反応シーケンスのように)。この反応シーケンスは、表1では「50−50」と表されており、粒子の50重量%が反応シーケンス中に加えられ、粒子の残りの50重量%が反応シーケンスの終了時に加えられることを意味する。例4の平均突刺抵抗の増加は24%であった。同様に、例5は、2:0.25:4の重量比の、15nmの平均粒径を有するシリカ粒子、APTES及びグルタルアルデヒドを用いて調製した。例5の平均突刺抵抗の増加は30%であった。
【0042】
例6は、1:0.25:4の重量比の、シリカ粒子、APTES及びグルタルアルデヒドを用いて調製した。シリカナノ粒子の半分(重量で)は、15nmの平均粒径を有しており、これらのナノ粒子を前記反応の開始時に加えた。シリカナノ粒子の残りの半分(重量で)は、400nmの平均粒径を有しており、これらのナノ粒子を前記反応の終了時に加えた。例6の平均突刺抵抗の増加は26%であった。同様に、例19では、その半分(重量で)が400nmの平均粒径を有し、残りの半分(重量で)が15nmの平均粒径を有するシリカナノ粒子を用いた。例19では、400nmのシリカナノ粒子を反応過程の開始時に加え、15nmのシリカナノ粒子を反応過程の終了時に加えた。例19のコーティング組成物は、SMSの平均突刺抵抗を20%増加させた。
【0043】
例7及び8では、15nmのシリカ粒子をAPTES及びグルタルアルデヒドに、例1で用いた方法(Pre)と同様の方法で加えた。例1とは異なり、例7では各成分の重量比は1:0.25:8とし、例8では各成分の重量比は1:1:4とした。例7及び例8の平均突刺抵抗の増加は、それぞれ、62%及び55%であった。
【0044】
例9〜例14は、APTES、グルタルアルデヒド及び、55nmの平均粒径のシリカ粒子を用いて調製した。各例の反応シーケンス及び各成分の重量比は互いに異なる。これらの例の平均突刺抵抗の増加は19〜65%であった。これらの例から、ナノ粒子のサイズを15mmから55nmに大きくしても、SMS上に形成されたコーティングの性能に影響を与えないように思われる。他の基材の場合、ナノ粒子のサイズの同様な増加は、得られる平均突刺抵抗に影響を与えることがあり得る。
【0045】
例15〜18、20、21は、APTES、グルタルアルデヒド及び400nmのシリカ粒子から調製した。各例の反応シーケンス及び各成分の重量比は互いに異なる。これらの例での平均突刺抵抗の増加は14〜84%であった。このような差異は、一つには、SMS材料のメルトブローン層の空隙に対するシリカナノ粒子のサイズに起因すると思われる。
【0046】
例22、24及び25は、シリカナノ粒子を、(APTESではなく)TEOSまたはHDMSと共に用いた場合を調べた。例22及び24では、TEOS及びナノ粒子を含むコーティング組成物が良好な性能を発揮し、それぞれ平均突刺抵抗を55%及び44%増加させた。シランとしてHDMSを用いた例25では、ベース材料の平均突刺抵抗を67%増加させた。例25に対して、テーバー摩耗試験(表2)、摺動圧縮試験(靱性)(表3)、及びリンティング試験(コーティングの耐久性を調べるためのねじり試験)(表4)を含むさらなる試験を行った。
【0047】
ベース布及び例25に対して、テーバー摩耗試験(2010年11月23日付けの標準試験方法2204、試験タイプ方法Aを用いた)を行った。試験結果(2つのサンプルの平均)を表2に示す。表2から、例25は、ベース布よりも、摩耗に対する抵抗が高いことが分かる。
【0048】
【表2】

【0049】
また、ベース布及び例25に対して摺動圧縮試験(2009年9月29日付の標準試験方法4566を用いた)を行った。試験結果を表3に示す。表3から、例25は、ベース布と比較して向上した靱性を有することが分かる。
【0050】
【表3】

【0051】
ベース布及び例25に対して、リンティングに対する抵抗を調べるための試験を行った。所与のサンプルのリントの量を、ゲルボリンティング試験法(Gelbo linting test)に従って測定した。ゲルボリンティング試験法は、布に対して連続的な屈曲及びよじれを加えたときに前記布から脱離した粒子の相対数を測定する。この試験は、INDA試験法160.1−92.に従って実施した。9インチ×9インチの正方形サンプルを屈曲チャンバに配置した。サンプルを屈曲させたときに、チャンバから空気を毎分0.028平方メートル(1立方フィート)抜いて、レーザー粒子カウンターによってカウントした。前記粒子カウンターは、粒子をサイズに応じての仕分けることができるチャネルを用いて、粒子サイズごとに粒子をカウントする。試験結果(3つのサンプルの平均)は、各粒子サイズ範囲について10回のカウント期間においてカウントされた粒子数の平均値として報告される。
【0052】
【表4】

【0053】
表4に示すように、例25は、耐久性が非常に高く、検出可能なリンティングまたはダスティングが生じることのないコーティングを有する。この試験結果は、ベース布が、被覆布の例25よりも高いリンティング性を有することを示す。各サイズ範囲についての例25の値は、例25の試験結果からベース布の試験結果を引いてものであるので、マイナスの値である(向上を示す)。
【0054】
例26及び27では、本発明の組成物のナノ粒子としての二酸化チランの使用を評価した。例26及び27での平均突刺抵抗の増加はそれぞれ365及び72%であった。同様に、例28及び29では、本発明の組成物のナノ粒子としてのアルミナの使用を評価した。例28及び29での平均突刺抵抗の増加はそれぞれ71%及び25%であった。
【0055】
以上の各例は、本発明のコーティング組成物が、不織布の平均突刺抵抗を向上させることができることを示す。
【0056】
本発明の具体的な実施形態について詳細に説明したが、以上の理解が得られれば、当業者であれば、これらの実施形態に対する代替物、変形物及び均等物を容易に想起し得ることを理解されたい。したがって、本発明の範囲は、添付された特許請求の範囲及びその均等物の範囲として理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被覆された繊維を含む不織布であって、
前記被覆された繊維の各々が、
外面を有する繊維と、
前記繊維の前記外面の少なくとも一部に堆積したコーティング組成物とを含み、
前記コーティング組成物がシラン及びジアルデヒドを含み、かつ該コーティング組成物中において前記ジアルデヒドの重量パーセントが前記シランの重量パーセントよりも大きいことを特徴とする不織布。
【請求項2】
請求項1に記載の不織布であって、
前記ジアルデヒドがグルタルアルデヒドであることを特徴とする不織布。
【請求項3】
請求項1または2に記載の不織布であって、
前記シランがアミノ官能化シランであることを特徴とする不織布。
【請求項4】
請求項3に記載の不織布であって、
前記記シランが、アミノプロピルトリエトキシシランまたはヘキサメチルジシラザンであることを特徴とする不織布。
【請求項5】
請求項1または2に記載の不織布であって、
前記シランが、テトラエチルオキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン及びヘキサメチルジシラザンからなる群より選択されることを特徴とする不織布。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の不織布であって、
前記コーティング組成物が、複数の粒子をさらに含むことを特徴とする不織布。
【請求項7】
請求項6に記載の不織布であって、
前記粒子が、約250ナノメートル未満の平均粒子サイズを有することを特徴とする不織布。
【請求項8】
請求項6または7に記載の不織布であって、
前記コーティング組成物中において前記ジアルデヒドの重量パーセントが前記粒子の重量パーセントの少なくとも約2倍であることを特徴とする不織布。
【請求項9】
請求項6、7または8に記載の不織布であって、
前記不織布が、
1重量部の粒子、少なくとも0.25重量部のシラン、少なくとも4重量部のジアルデヒド及び、溶媒を含むコーティング組成物を調製し、
不織繊維性材料を用意し、
前記繊維性材料に前記コーティング組成物を適用することにより作製されたものであることを特徴とする不織布。
【請求項10】
請求項6、7、8または9に記載の不織布であって、
前記粒子が、二酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム及びアルミナからなる群より選択されることを特徴とする不織布。
【請求項11】
請求項1ないし10に記載の不織布であって、
前記コーティング組成物によって前記繊維の可視外面の少なくとも50%を被覆したことを特徴とする不織布。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の不織布であって、
前記コーティング組成物中において前記ジアルデヒドの重量パーセントが前記粒子の重量パーセントの少なくとも約2倍であることを特徴とする不織布。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の不織布であって、
前記繊維にコロナ処理が施されていることを特徴とする不織布。
【請求項14】
請求項13に記載の不織布であって、
前記コーティング組成物によって前記繊維の可視外面の少なくとも75%を被覆したことを特徴とする不織布。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の不織布であって、
前記不織布の突刺抵抗を少なくとも10%増加させたことを特徴とする不織布。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかに記載の不織布であって、
前記不織布の突刺抵抗を少なくとも25%増加させたことを特徴とする不織布。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれかに記載の不織布であって、
0.3ないし0.5ミクロンのサイズのリント粒子の数を最大で約10%減少させたことを特徴とする不織布。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−515876(P2013−515876A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546529(P2012−546529)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055883
【国際公開番号】WO2011/080649
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【Fターム(参考)】