説明

突然変異体AOX1プロモーター

以下からなる群から選択される少なくとも1つの突然変異を含む野生型ピキア・パストリス AOX1 プロモーター (配列番号1)の突然変異体ピキア・パストリス・アルコールオキシダーゼ 1 (AOX1) プロモーター:
a)転写因子結合部位 (TFBS)、
b) 配列番号1のヌクレオチド170〜235 (-784〜 -719)、ヌクレオチド170〜 191 (-784〜 -763)、ヌクレオチド192〜 213 (-762〜 -741)、ヌクレオチド192〜 210 (-762〜 -744)、ヌクレオチド207〜 209 (-747〜 -745)、ヌクレオチド214〜 235 (-740〜 -719)、ヌクレオチド304〜 350 (-650〜 -604)、ヌクレオチド364〜 393 (-590〜 -561)、ヌクレオチド434〜 508 (-520〜 -446)、ヌクレオチド509〜 551 (-445〜 -403)、ヌクレオチド552〜 560 (-402〜 -394)、ヌクレオチド585〜 617 (-369〜 -337)、ヌクレオチド621〜 660 (-333〜 -294)、ヌクレオチド625〜 683 (-329〜 -271)、ヌクレオチド736〜 741 (-218〜 -213)、ヌクレオチド737〜 738 (-217〜 -216)、ヌクレオチド726〜 755 (-228〜 -199)、ヌクレオチド784〜 800 (-170〜 -154) またはヌクレオチド823〜 861 (-131〜 -93)、およびそれらの組合せ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突然変異体ピキア・パストリス AOX1 プロモーターに関する。
【背景技術】
【0002】
出芽酵母(S. cerevisiae)は真核モデル生物および生産系としてもっともよく科学的および分子生物学的使用がなされてきた(いまだにそうである)。20世紀において別の酵母が非常に注目されるようになった:分裂酵母シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)である。分裂によってのみ繁殖するという性質のために、シゾサッカロミセス・ポンベはモデル生物として非常に注目されるようになり、今日ではそれは出芽酵母(S. cerevisiae)とともに分子遺伝学および細胞生物学の観点からもっともよく研究されている酵母種である。700種類を超える既知の酵母種のなかで、上記2つの酵母は技術的および科学的適用のために限定されたセットの興味深い性質を提供しうるにすぎない。1970年代または80年代から、顕著な特徴を有するより多くの酵母種がバイオテクノロジーおよび研究のために調べられた。これらのいわゆる非従来型の酵母 (NCY) または非サッカロマイセス酵母(この場合、サッカロマイセスという用語には酵母シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)が含まれる)がいくつかの理由で開発されてきた:それらは医学的重要性(例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans))または技術的重要性(例えばヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)およびクルイヴェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis))を有し、それらは特定の基質で増殖する能力を有する (例えば、n-アルカン、ラクトース)。例えば、もっとも一般的なヒト病原真菌であるカンジダ・アルビカンス(C. albicans)は非常によく研究されており、発病に関与する病原因子の性質が明らかとなり、それゆえ病原性酵母のモデル生物となった。もう一つのよく確立されたNCYの群はメチロトローフ酵母であるピキア・パストリス(Pichia pastoris)およびハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha) (Pichia angusta)であり、これらは組換えタンパク質産生およびペルオキシソーム生合成の研究の観点では出芽酵母(S. cerevisiae)に勝っている。これらのみが技術的または学問的にいまだに注目される非従来型の酵母のもっとも顕著なメンバーである。今日までいくつかの他の種も興味をもたれてきたが、この群が将来急速に成長するであろう。
【0003】
天然のもっとも豊富なクラスの分子である糖は、すべての既知の酵母によって利用されている。種によって基質許容性には大きな相違があるが(表1参照)、グルコース 6-リン酸またはフルクトース 6-リン酸からピルビン酸への変換はそれらの代謝において共通の主題である。 いずれにせよ、解糖系のための酵素の備えは酵母の種によって非常に異なる。出芽酵母(S. cerevisiae)においてはほとんどの酵素が知られており少なくとも部分的には特徴決定されているが、NCYにおいてはわずかな酵素しか説明されていない。特に、代謝の制御または調節にさらなる役割を果たしている、および/またはグルコキナーゼ/ヘキソキナーゼ、ホスホフルクトキナーゼおよびグリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲナーゼなどの分岐点にある解糖に必要な機能のいくつかは、いくつかの酵母においてはいくつかの遺伝子/酵素によって媒介されている。通常、イソ酵素は異なるように制御され、変化する環境の必要条件下での多様な機能を示す。解糖系酵素をコードする遺伝子のいくつかは構成的かつ高度に発現されており、例えば、出芽酵母(S. cerevisiae)PGK1 (ホスホグリセリン酸キナーゼ)またはピキア・パストリス(P. pastoris) GAP遺伝子 (グリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲナーゼ)が挙げられ、別の酵素は厳密に制御されており、例えば、出芽酵母(S. cerevisiae) のENO1 (エノラーゼ)遺伝子が挙げられる。
【0004】
表1:バイオテクノロジーにおいて注目される選ばれた酵母およびグルコースおよびフルクトース以外の関連する市販の基質
【表1】

【0005】
代謝におけるピルビン酸の運命は酵母種および培養条件によってかなり変動する。出芽酵母(S. cerevisiae)およびその他のいわゆるクラブトリー陽性酵母において、呼吸はグルコースおよび関連する糖によって阻害される。これによって酸素量が多くてもピルビン酸デカルボキシラーゼを介するピルビン酸からエタノールとCO2への変換が起こり、これは発酵としても知られている。NCYの大部分が属するクラブトリー陰性酵母において、ピルビン酸からエタノールへの変換は嫌気条件下においてのみ起こる。好気条件下では、ピルビン酸は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼとトリカルボン酸 (TCA) 回路を介してCO2に酸化される。TCA 回路はそれが糖のCO2への酸化の唯一の手段であるという事実により細胞代謝にとって非常に注目されている。CO2への酸化の結果NADHが産生され、これはエネルギー産生に用いられる。さらに TCA 回路中間体は生合成目的のための代謝産物の主な源である。中間体を除去すると、TCA 回路はその回転を維持するために補充されなければならない。酵母における主な補充反応はピルビン酸 カルボキシラーゼおよびグリオキシル酸回路である。前者は単一窒素源としてアンモニウム上で培養した場合の主な経路であり、後者は炭素原子が3未満の炭素源上で培養した場合に必要とされる。これとは対照的にNCYのTCA 回路に関与する遺伝子または酵素に関してはほとんど何も知られていないことは非常に注目に値する。異化反応によって、細胞質ゾルまたはミトコンドリアのいずれかにおいて生成するNADHは反応の回転を維持するためにNAD+に再酸化される必要がある。クラブトリー陰性酵母(例えば、ピキア・パストリス)において、好気条件下でNADHは主に呼吸鎖を介して再酸化される。この状況は出芽酵母(S. cerevisiae)などのクラブトリー陽性酵母ではかなり異なり、これらでは呼吸と発酵が共存する。グルコース上で好気条件下で培養されると、呼吸はグルコースにより抑制され、発酵が起こる。かかる条件下ではNAD+はエタノール (解糖により生じるNADH)またはグリセロールの形成により再生される。酵母における呼吸は、あらゆる生化学の教科書に記載されているようなこの経路の動物パラダイムとは異なる。第一に、いくつかの酵母、例えば、出芽酵母(S. cerevisiae)およびクルイヴェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)は、呼吸鎖の複合体 Iを欠いている。これらの酵母においては NAD+ 再生は、プロトンをミトコンドリア内膜を介して輸送することなく、外側および内側のNADH デヒドロゲナーゼによって行われる。クラブトリー陰性酵母、真菌および植物においてみられる第二の主な相違は、チトクローム鎖の複合体 IIIおよびIVと並行している代替的呼吸経路である。この代替的呼吸はいわゆる代替的オキシダーゼにより媒介され、これはプロトンをミトコンドリア内膜を介して輸送せずに、電子をユビキノンプールから酸素に直接移動させる。
【0006】
生合成目的のNADPHはペントースリン酸経路 (PPP)の酸化的部分において生じる。この経路によって生じるその他の非常に重要な代謝産物はリボース 5-リン酸およびエリスロース 4-リン酸であり、これらは核酸およびヌクレオチド補因子の合成および芳香族アミノ酸の合成にそれぞれ必要である。非従来型の酵母におけるPPP に関与する遺伝子およびそれに対応する酵素に関する情報にはその他にも多くの違いがある。いくつかの酵素がカンジダ・ウティリス、シゾサッカロミセス・ポンベおよびクルイヴェロマイセス・ラクティスから単離された。組成および動力学特徴決定によりこれらの酵素の間のいくつかの相違が明らかとなった。情報の欠如により、これら酵母におけるPPP に対する影響は評価できないが、例えば、解糖が欠損しているクルイヴェロマイセス・ラクティスのホスホグルコースイソメラーゼ突然変異体は、出芽酵母(S. cerevisiae)と異なり、グルコース培地上で生育できることが示された。この観察は、クルイヴェロマイセス・ラクティスにおけるペントースリン酸経路の能力は炭素源としてグルコース上で生育するのに十分であるということを示す。メチロトローフ酵母において、さらなるトランスケトラーゼ (ジヒドロキシアセトンシンターゼ)が発見された。この酵素はペルオキシソームに局在し、キシルロース 5-リン酸との縮合によりホルムアルデヒドの細胞代謝への同化作用を付与し、ジヒドロキシアセトンおよびグリセルアルデヒド 3-リン酸の形成を伴う。
【0007】
単細胞真核生物としての酵母は組換えタンパク質産生のための魅力的な発現系を提供する。それらは細菌の利点、例えば、よく確立された遺伝子操作技術、簡便、安全かつそれゆえ安価な(ラージスケール) 培養技術と、真核生物発現系の主な利益、即ち、真核生物タンパク質プロセッシングとを兼ね備える。上記理由により出芽酵母(S. cerevisiae)がこの分野で何年も卓越しており、その結果、多数のタンパク質 (例えば、インスリン、HBsAg、HSA) がこの生物で産生された。出芽酵母(S. cerevisiae) は、グリコシル化過剰、分泌タンパク質の細胞膜周辺腔での保持、プラスミド不安定性および生成物の低収率によりいくらかの限界を示す。この1つの生物の限界を克服するために、小セットの非従来型の酵母が異種遺伝子発現のための宿主として開発された。とりわけ、クルイヴェロマイセス・ラクティス、ヤロウィア・リポリティカ(Y. lipolytica )およびメチロトローフ酵母である、 カンジダ・ボイジニ(Candida boidinii)、ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)およびピキア・パストリスが用いられたが、最後の2 種のみが顕著に商業的に注目された。シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe) は高等真核生物に近いいくつかの特徴を示すため、この酵母は異種タンパク質産生のための非常に魅力的な宿主となっている: (1)転写開始機構が高等真核生物と非常に類似している、(2)いくつかの哺乳類プロモーターがシゾサッカロミセス・ポンベでは機能する、(3)哺乳類のスプライソソームの成分との類似性を強調するRNA-スプライシングの能力がある、(4) 哺乳類小胞体保持シグナルであるKDELが認識されうる、(5)糖タンパク質中にガラクトース残基が存在する、および(6) タンパク質のアセチル化やイソプレン化などのいくらかのその他の翻訳後修飾が、酵母細胞よりも哺乳類に類似した様式で行われる。上記特徴のいくつかは、標準異種タンパク質の産生および例えば構造および機能ゲノミクスなどのそのハイスループット適用の観点から将来組換えタンパク質産生におけるゾサッカロミセス・ポンベの重要性を上昇させうる。
【0008】
すべての微生物は、環境中の入手可能な栄養分の最適な利用のためにその代謝を適合させるための機構を有している。迅速かつ正確なこれらの環境制約への適応はすべての生物の成長およびその他の生理的パラメーターを制御する主要な因子である。酵母については、ほとんどの微生物と同様に、グルコースが好ましい炭素およびエネルギー源である。それゆえ、天然のもっとも豊富な単糖であるグルコースが、必ずではないが主に、転写制御レベルでの遺伝子発現の調節によりこれら生物の成長および発達に影響する細胞のための主なメッセンジャーであることは驚くべきことではない。ゲノム転写分析により、かなりの量の遺伝子が、環境により決定されるグルコースレベルにより制御されていることが明らかになった。グルコース利用において既知の代謝機能を有する遺伝子、例えば、低親和性グルコーストランスポーターおよび解糖系酵素ならびにリボソームタンパク質をコードする遺伝子はグルコースにより誘導される。一方、グルコースは大きなセットの遺伝子、例えば、代替的炭素源の利用、糖新生、グリオキシル酸回路、ペルオキシソーム機能および呼吸に関与する遺伝子を抑制する。呼吸の抑制(クラブトリー効果)はいくつかの酵母種 (発酵酵母、クラブトリー陽性)、例えば、出芽酵母(S. cerevisiae)でのみ起こるが、大部分の酵母種では、グルコースは呼吸を抑制しない(クラブトリー陰性)。グルコース抑制機構についての広範な知識がここ20年間で得られてきたが、それらは主に酵母である出芽酵母(S. cerevisiae)に基づくものであり、特にグルコースセンシングおよびシグナル伝達の上流部分の実際の機構は、完全には理解されていない。そうではあるが、現在の研究のよりよい理解を得るために、出芽酵母(S. cerevisiae)について記載したような炭素異化産物抑制の数個の主な役割因子を以下に簡潔に記載する。
【0009】
SNF1遺伝子はSer/Thr タンパク質キナーゼをコードし、これは酵母細胞において高分子量塊複合体中にみることが出来る。それはSnf1pの調節サブユニットにおけるリン酸化により起こる複合体内の立体構造変化により制御される。現在まで3つの上流キナーゼ(Pak1p、Elm1pおよびTos3p)が Snf1p をリン酸化し、それゆえ活性化するものとして同定されている。その活性はグルコースにより抑制される多数の遺伝子の抑制解除に絶対的に必要である。したがってSnf1またはホモログが真核生物において広く保存されているということは驚くべきことではない。
【0010】
ジンクフィンガータンパク質Mig1pはグルコースにより抑制される多数の遺伝子のプロモーター領域に結合することが出来る。それは包括的抑制因子複合体 Ssn6(Cyc8)-Tup1pを動員することによっておそらく作用している。Mig1pの機能はタンパク質キナーゼ Snf1により制御されるが、直接のリン酸化の明確な証拠は存在していない。Mig1p は非リン酸化形態で核に局在している。グルコース枯渇はMig1pのリン酸化をもたらし、次いで細胞質へ移動させる。グルコースが細胞に添加されると、Mig1p は迅速に核に戻って、転写を抑制する。
【0011】
Adr1pもジンクフィンガータンパク質のファミリーに属し、ペルオキシソームタンパク質および、グルコースに抑制されるアルコールデヒドロゲナーゼ IIをコードするADH2 遺伝子の陽性エフェクターであることが見いだされた。ADR1 発現はサイクリックAMP (cAMP)-依存性タンパク質キナーゼを介して高cAMP レベルにてグルコースにより下方制御される。主な調節効果はmRNA 翻訳 レベルであるようであるが、転写およびmRNA 安定性に対する調節効果も観察され、分析される出芽酵母(S. cerevisiae)株に依存する。
【0012】
呼吸代謝に関与する遺伝子の多数を含む多数の遺伝子について、 転写はHap2/3/4/5 複合体により非発酵性の炭素源上で活性化される。呼吸に関与するいくつかの遺伝子、例えばCYC1 (イソ-1-シトクローム cをコードする)およびCOX6 (シトクローム c オキシダーゼサブユニット VI)について、Snf1がグルコース上での成長後の抑制解除に必要とされることが確立された。HAP4の転写はグルコースが存在すると抑制されるにもかかわらず抑制解除におけるHap4pまたはSnf1p の直接の関与は示されていない。
【0013】
Gcr1pは解糖遺伝子(例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲナーゼ)の主要な転写活性化タンパク質である。Gcr1pは包括的転写因子 Rap1pとともに、転写の協調について解糖遺伝子発現の主要なアイテムであり、それは高レベル発現に絶対的に必要である。様々な炭素源で培養した野生型および出芽酵母(S. cerevisiae)gcr1 突然変異体のゲノム発現パターンにより、 53のオープンリーディングフレーム(ORF)が明らかとなり、それにはGcr1pが属する解糖の遺伝子が含まれる。
【0014】
いくつかの転写因子とSnf1pおよびMig1p 経路についてのこの説明はグルコース抑制ネットワークで役割を果たす因子のいくつかの短い概要を与える。グルコース抑制にはSnf1p-経路以外のより多くの調節回路が存在することを理解されたい。グルコースセンシングおよびシグナル伝達に関する広範な知識がここ20年間で得られてきたが、主な問題はいまだに解決していない:グルコースシグナルの性質は何であり、既知のシグナル伝達経路はどのように制御および統合されているのであろうかという問題である。
【0015】
制限された数の酵母種しか唯一の炭素およびエネルギー源としてメタノール上で生育することが出来ない。それらはピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)、カンジダ(Candida)およびトルロプシス(Torulopsis)の4つの属のいずれかに属し、メタノールによる抑制解除または誘導後に発現する一般的メタノール利用経路を共有する(1.3.1参照)。この経路の最初の反応はペルオキシソーム内に区画化されているので、かかるオルガネラも誘導される。ペルオキシソームの強力な誘導のために、酵母、カンジダ・ボイジニ(Candida boidinii)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・パストリスおよびハンゼヌラ・ポリモルファはペルオキシソーム生合成および機能の研究に細胞生物学において頻繁に用いられてきた。
【0016】
上記のように、メチロトローフ酵母は共通のメタノール利用経路を共有する。第一段階はアルコールオキシダーゼ(AOX、EC 1.1.3.13)により触媒される、メタノールのホルムアルデヒドおよび過酸化水素への酸化である。毒性の H2O2 はカタラーゼの作用により酸素と水に分解されて解毒される。両酵素はペルオキシソーム中に隔離されている。ホルムアルデヒドは、2つの連続的デヒドロゲナーゼ反応により酸化されるか、キシルロース 5-リン酸 (Xu5P)との縮合により細胞代謝において同化される。ホルムアルデヒドは共に細胞質ゾルに局在するグルタチオン (GSH)-依存的ホルムアルデヒド デヒドロゲナーゼおよびギ酸デヒドロゲナーゼにより、ギ酸に酸化され、さらに二酸化炭素に酸化される。両反応により生成するNADHはメタノール上での成長のためのエネルギー産生に使用される。縮合反応はペルオキシソーム内で起こり、上記トランスケトラーゼジヒドロキシアセトンシンターゼに触媒される。その結果得られる C3-化合物であるジヒドロキシアセトン (DHA)およびグリセルアルデヒド 3-リン酸 (GAP) はさらに細胞質ゾルで代謝される。DHAのリン酸化の後、フルクトース 1,6-二リン酸 (FBP)がジヒドロキシアセトン リン酸 (DHAP)とGAPとのアルドラーゼ反応により形成する。FBPはホスファターゼによりフルクトース 6-リン酸に変換され、キシルロース 5-リン酸 (Xu5P) がペントースリン酸経路において再生される。生成したGAPの3分の1は糖新生経路に入り、細胞構成成分の合成に用いられる。
【0017】
メタノール利用経路の鍵となる酵素である、アルコールオキシダーゼおよびギ酸デヒドロゲナーゼは、メタノールによる誘導の後、非常に高レベルで産生される。アルコールオキシダーゼは全可溶性タンパク質の30%以上を占め得、ジヒドロキシアセトンシンターゼおよびギ酸デヒドロゲナーゼは20%までを占めうる。誘導されるペルオキシソームは細胞体積の約 80%を占めうる。いくつかのメタノール利用遺伝子のプロモーター配列が組換えタンパク質産生のために開発されている。とりわけ、強力かつ誘導可能なプロモーターを有することが、ピキア・パストリスおよびハンゼヌラ・ポリモルファがタンパク質産生宿主として広く使用される主な理由である。
【0018】
ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)およびカンジダ・ボイジニ(C. boidinii)において1つの遺伝子がアルコールオキシダーゼ: MOX (メタノール オキシダーゼ、ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha))および AOD1 (アルコールオキシダーゼ、カンジダ・ボイジニ) をコードする。2つのピキア種、ピキア・パストリス (AOX1およびAOX2)およびピキア・メタノリカ (AUG1およびAUG2、アルコール 利用遺伝子、あるいはMOD1およびMOD2)において2つの遺伝子が見いだされ、Aox1pおよびAug1pは主なアルコールオキシダーゼである。コード領域の比較により、メチロトローフ酵母間でアミノ酸レベルで73-85% の類似性が明らかとなった[1]。ピキア・パストリス AOX1 とAOX2 ORF (オープンリーディングフレーム)の相同性はヌクレオチドおよびアミノ酸配列レベルでそれぞれ92% および97%である[2、3]。 アルコールオキシダーゼはサブユニット当たり1つの非共有結合した FAD または修飾アナログ (mFAD)を含む八量体フラボタンパク質である。AOX 翻訳は遊離のリボソームで起こり、次いで翻訳後にペルオキシソームに輸送される。ペルオキシソームへの移動はそのC-末端のPTS1 (1型 ペルオキシソームターゲティングシグナル) 配列によりターゲティングされる。 Aox オリゴマーはペルオキシソームマトリックスに輸送された後にのみ形成される。
【0019】
カンジダ・ボイジニおよびピキア・パストリスにおいて細胞質ゾルにAox オリゴマーはみられず、ペルオキシソームマトリックスに移動する前に細胞質ゾルにおいて二量体を形成するジヒドロキシアセトンシンターゼとは対照的である。ピキア・パストリスのアルコールオキシダーゼ 1 プロモーター配列のみならず、酵素も、その広い基質範囲(低〜中鎖長の不飽和および飽和 一級アルコール)および様々な反応条件下での高い安定性によりバイオテクノロジーにおいて興味深い。すべてのアルコールオキシダーゼ遺伝子の制御は転写レベルでおこり、おそらくは転写開始段階で起こる。AOX1およびAOX2は同様に制御されるが(mRNAはグリセロールまたはグルコースでは検出不可能、炭素飢餓相では検出可能、メタノールでは多量)、それらの 5 -隣接領域は有意な相同性を共有しない[2、4]。
【0020】
各AOX 座は最初の転写開始部位から-43の位置にて推定 RNA ポリメラーゼ結合部位 (TATAAA; Goldberg-HognessまたはTATAボックス)を示す。両方のピキア・パストリス AOX mRNA リーダー配列は非常にA 残基に富んでいて酵母としては異常に長い(AOX1 について115 ヌクレオチド(nt)、AOX2について 160 nt)。 ATG 開始コドンの周囲の翻訳開始領域(Kozak 配列; AOX1: CGAAACG ATG GCT、AOX2: GAGAAAA ATG GCC)は以前に記載された出芽酵母(S. cerevisiae)と高等真核生物とのコンセンサス配列と一致する。ピキア・パストリスおよびピキア・メタノリカの第二のアルコールオキシダーゼ 遺伝子の生理的役割はいまだに明らかでない。AOX1またはAUG1の破壊はこれら株(いわゆるメタノール利用の遅い(MutS) 表現型)において深刻な成長欠損をもたらすがaox2およびaug2 株は野生型株と匹敵する成長速度を示す。9種類の形態のアルコールオキシダーゼがピキア・メタノリカで観察されており、2つの遺伝子産物Aug1pとAug2pのランダムなオリゴマー形成を表す。AUG1およびAUG2は示差的に制御されている:炭素飢餓および低メタノール濃度では Aug1pのみが検出でき、メタノール濃度を上昇させると、 Aug2pのAug1pに対する比が上昇する。Aug2p含量の上昇による八量体への変化は転写レベルで制御されているAUG2 発現の上昇に起因する。Aug1pおよびAug2pの2つのホモ八量体のメタノールに対するKm 値はそれぞれ約 0.56および 5.6 mMである。AUG1の破壊は低メタノール濃度で成長欠損をもたらすという知見とともに[5]、これらの結果はAUG2は高メタノール濃度で生育する場合にピキア・メタノリカにとって有利であることを意味する。ピキア・パストリスにおいてAOX2 遺伝子の役割はこれ以上分析されておらず、第二のアルコールオキシダーゼ遺伝子を有するのが好ましい条件も見いだされていない。実験室条件は自由生活微生物が直面する条件の非常にわずかな部分しか表していないので、AOX2 遺伝子がピキア・パストリスにとって選択的に重要である天然の状況があるはずである。
【0021】
カンジダ・ボイジニ AOD1およびハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha) MOX 発現 は、唯一の炭素源としてグルコースまたはエタノール上で成長させた場合に厳密に抑制されており、グリセロール上で抑制解除され、メタノール上で強力に誘導される。これら2つの酵素の発現はまた、グルコースとメタノールが培地に存在する場合も抑制される。グリセロールが存在すると、メタノールは遺伝子発現を誘導することが出来る。AOD1およびMOXの転写はまた炭素飢餓時に抑制解除され、エタノールが存在すると抑制される[6-9]。 2つの異なる制御機構が、エタノールまたはグルコースによるメタノール利用代謝の抑制の原因である[10、11]。ピキア・パストリスにおいては状況はかなり異なる: AOX1は、グルコース、エタノールまたはグリセロールが培地に (非成長制限濃度にて) 存在すると抑制される。炭素飢餓での抑制解除およびメタノールによる誘導はAOD1およびMOXと同様である。AOX1 発現が抑制解除される炭素源は例えば、 ソルビトール、マンニトール、トレハロースおよびアラニンである[12]。
【0022】
メタノールからグルコースまたはエタノールなどの抑制性炭素源へと変化すると、ペルオキシソームは新しい炭素源に適応する際に数時間で分解される。酵母空胞におけるタンパク質分解もグルコースまたはエタノールに適応する際、2つの異なる機構にしたがい、それぞれミクロおよびマクロ自己貪食と称される。
【0023】
上記のように、メチロトローフ酵母であるピキア・パストリスおよびハンゼヌラ・ポリモルファは組換えタンパク質産生に広く用いられている。現在まで、500を超えるタンパク質がピキア・パストリスで産生されている。それらの開発は組換え発現宿主のなかでそれらを有利なものとするいくつかの特徴によって推し進められた: 1) それらは遺伝子操作および培養技術 (研究室- およびラージスケール)の観点から酵母の一般的利益を共有する; 2)非常に高い細胞密度まで生育する能力; および3) (分泌または細胞内)組換えタンパク質の高レベル産生。メタノール利用経路の反応をコードする遺伝子の強力な誘導可能プロモーターが組換えタンパク質産生のために開発された。もっとも広く利用されているのは、それぞれピキア・パストリスおよびハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)のアルコールオキシダーゼ遺伝子であるAOX1およびMOXのプロモーター領域である。メタノール利用経路遺伝子のその他のプロモーター領域も組換えタンパク質産生の駆動に用いられた: ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)およびカンジダ・ボイジニ のFMD (ギ酸デヒドロゲナーゼ)およびDAS1 (ジヒドロキシアセトンシンターゼ) プロモーターならびにピキア・パストリスのFLD1 (ホルムアルデヒド デヒドロゲナーゼ) プロモーター。後者は単一窒素源としてのメチルアミンと炭素源としてのグルコースによっても誘導することが出来る。外来遺伝子の構成的発現のためのプロモーターも利用可能である:ピキア・パストリスのGAP (グリセルアルデヒド 3-リン酸 デヒドロゲナーゼ) プロモーター要素およびハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)のPMA1 (原形質膜 H+ -ATPaseをコードする) プロモーター。いくつかの栄養要求性宿主株/マーカー遺伝子-組合せがピキア・パストリス (例えば HIS4) およびハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha) (例えばLEU2およびURA3)について開発されている。 優性選抜マーカーも利用可能である (例えばゼオシン(商標)、G418 耐性)。メチロトローフ酵母への遺伝子組込みは主に(必ずしもそうではないが)相同組換えにより行われている。ARS (自己複製配列) 領域を担持するベクターも利用可能であるが、それらは選択圧が開放されると通常非常に不安定であり、その結果、技術的適用は制限されている。ピキア・パストリスにおいて外来遺伝子は部位特異的にAOX1または HIS4 座のいずれかに組み込まれる。その他の可能な組込み部位は例えば、GAP 座 (GAP 発現のため)またはいずれかのその他の選抜マーカー座 (例えば、 ADE1、URA3、ARG4およびLEU2)である。ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)において発現カセットは頭-尾(head-to-tail) 配置でランダムに組み込まれ、その結果、有糸分裂的に安定な組み込み体が高コピー数(〜100)で得られる。しかし、高コピー数は高レベル発現を導かないことがしばしばある。大きな影響力のあるさらなる因子は以下の通りである:組込みカセットの構造、発現すべきタンパク質の性質および構造ならびに組込み部位。特に組込みカセット構造は遺伝子量の効果に大きな影響を与える。発現カセットおよび遺伝子量を最適化するためのさらなる説明は [13、14]を参照されたい。メチロトローフ酵母はクラブトリー陰性酵母の群に属し、したがって好気条件下で培養した場合、エタノール産生は非常に低いレベルでしか起こらない。したがって、これら酵母は非常に高い細胞密度まで発酵槽培養で生育することが出来、その結果生成物収率が高い。AOX1に駆動されるタンパク質産生は、バイオリアクターにおけるメタノール 濃度が成長制限面にある場合にさらに3-5場合上昇しうる。ピキア・パストリスは標準的条件下で僅かな量の内在性タンパク質しか分泌しないという事実により、個々の分泌組換えタンパク質は培地中でもっとも豊富になる。分泌は下流の精製工程において実質的な第一段階として働きうる。タンパク質分泌のために、出芽酵母(S. cerevisiae)の MFα1 (接合因子 α) プレプロリーダー配列および酸ホスファターゼ (PHO1)由来の配列がピキア・パストリスおよびハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)において広く利用されている。場合によっては十分な分泌がその天然の分泌シグナルを担持する植物、真菌 および哺乳類タンパク質について得られた。上記のように、酵母は、ジスルフィド結合形成、シグナル配列(例えば、 MFα1のプレプロリーダー配列)のプロセッシング、脂質付加およびN- およびO-結合型グリコシル化といった翻訳後修飾を行うことが出来る。哺乳類細胞においては様々な糖から構成される高度に複雑な N- およびO-結合型 オリゴ糖-構造(例えば、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、およびシアル酸) が産生されるが、ほとんどの酵母は高マンノース型構造を生成し、ガラクトースやシアル酸などのいくつかの糖は欠いている。これらの非哺乳類構造は治療用途では主にその免疫原性が高い可能性により深刻な問題をもたらしうる 。ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)およびピキア・パストリスにおいては、出芽酵母(S. cerevisiae)とは異なり、マンノシル化過剰はあまり無く、高免疫原性の末端 α-1,3-結合マンノースはN-結合型オリゴ糖に組み込まれない。免疫原性 (およびいくらかのその他の問題、例えば血流中での低い安定性)の問題を克服するために、最近の文献によって明らかにされたように、特にピキア・パストリスにおける酵母-由来オリゴ糖構造をヒト化する努力がなされている。現在まで、大部分の研究課題および商業過程はよく知られた酵母である出芽酵母(S. cerevisiae)に依存している。ラージスケール発酵とグリコシル化問題に関する明らかな利益と共に、非従来型の酵母に関する知識が増えているため、ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)およびピキア・パストリスは近年迅速に選択される酵母となっている。これはいくつかの産生工程が産業的に実施されたという事実により強調される。
【0024】
WO 02/081650 においてAOX1 プロモーター領域の同定が開示され、それは突然変異体 AOX1 プロモーターの構築に利用可能である。そこに開示されているAOX1 プロモーターの欠失配列領域が非常に長いため、プロモーターの明らかな制御配列の唯一の効果ではない蓄積効果が観察できる。しかし、かかるアプローチによっては強力に向上したプロモーターは開発できない。特に元のプロモーターの欠失または重複部分による増強した特徴を有する新規なプロモーターを構築するには実際の制御配列範囲についての知識が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、タンパク質産生における下流のプロセッシングを容易にし、時間的空間的収率を上昇させ、生成物の質の改良を可能にするために、性質が改善された改良AOX1 プロモーターを提供することである。
【0026】
さらなる目的は、部分的または完全にグルコース抑制に打ち勝つ(anticipate)ベクターまたは宿主株中の強力な AOX1 プロモーターを提供することである。高グルコース濃度の存在下で強力な発現を駆動するプロモーターを得ることは有益である。
【0027】
本発明のさらなる目的は、より低量のメタノールを用い、またはメタノールを用いずにタンパク質の産生を可能とするAOX1 プロモーターを提供することである。かかるプロモーターは工業的産生工程にかなりの影響を有するであろう。安全性の問題から、メタノールを誘導物質として用いる産生プラントには特別の装置が必要である。これはピキア・パストリス適用が多くの特別でない産生プラントでよいことと相反する。さらにメタノールの存在下でのタンパク質安定性はメタノールに基づくタンパク質発現の誘導を妨害しうる。これは堅固な工業用タンパク質の産生にとってはあまり重要ではないが、治療用分泌タンパク質などにとっては重要な問題となる。
【0028】
かかるプロモーターの構築は、いくらか突然変異させた場合、発現挙動に影響を示す野生型ピキア・パストリス AOX1 プロモーターの特定の部分 (例えば、調節要素、転写因子結合部位) に関する知識を必要とする。 それゆえ本発明の目的はかかる部分を同定し、それゆえ特徴が改良されたAOX1 プロモーターを作製するための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
それゆえ本発明は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの突然変異を含む、野生型ピキア・パストリス AOX1 プロモーター (配列番号1)の突然変異体ピキア・パストリス・アルコールオキシダーゼ 1 (AOX1) プロモーターに関する:
a)転写因子結合部位 (TFBS)、
b) 配列番号1のヌクレオチド170〜235 (-784〜 -719)、ヌクレオチド170〜 191 (-784〜 -763)、ヌクレオチド192〜 213 (-762〜 -741)、ヌクレオチド192〜 210 (-762〜 -744)、ヌクレオチド207〜 209 (-747〜 -745)、ヌクレオチド214〜 235 (-740〜 -719)、ヌクレオチド304〜 350 (-650〜 -604)、ヌクレオチド364〜 393 (-590〜 -561)、ヌクレオチド434〜 508 (-520〜 -446)、ヌクレオチド509〜 551 (-445〜 -403)、ヌクレオチド552〜 560 (-402〜 -394)、ヌクレオチド585〜 617 (-369〜 -337)、ヌクレオチド621〜 660 (-333〜 -294)、ヌクレオチド625〜 683 (-329〜 -271)、ヌクレオチド736〜 741 (-218〜 -213)、ヌクレオチド737〜 738 (-217〜 -216)、ヌクレオチド726〜 755 (-228〜 -199)、ヌクレオチド784〜 800 (-170〜 -154) またはヌクレオチド823〜 861 (-131〜 -93)、およびそれらの組合せ。本明細書中、括弧内の(負の)数字は、翻訳開始コドン (例えば ATG)と比較してのプロモーターの対応する位置を反映する。例えば、NxGACTATGNy を含む核酸配列における「ATG」中の「A」は位置 +1に対応し、「ATG」の「A」の前の「T」は位置 -1に対応する。
【0030】
本発明によると、突然変異体 AOX1 プロモーターは転写因子結合部位および/または上記核酸配列範囲の1つの中に少なくとも1つの突然変異を含む。AOX1 プロモーターの特にこれらの領域はその特徴を変化させるために該 プロモーターを改変するのに好適であるということが判明した。もちろん上記の突然変異の組合せを導入してもAOX1 プロモーターの特徴を改良することが出来る(例えば、a)から選択される2つのTFBS 突然変異、a)から選択される1つのTFBS 突然変異とb)から選択される1つの突然変異、a)から選択される1つの突然変異とb)から選択される2つの突然変異)。 例えば、TFBSの突然変異は配列番号1のヌクレオチド737〜 738 (-217〜 -216) および/またはヌクレオチド207〜 209 (-747〜 -745)内の突然変異と組み合わせてもよい。ピキア・パストリスにおけるAOX1 プロモーターの制御下でのタンパク質の発現は一般的にメタノールの添加により誘導され、培地中のグルコースの存在により阻害される。タンパク質発現に対する該培地添加物の効果を増強または低下させるために、プロモーターは 好ましくは上記のプロモーター領域中にて突然変異される。突然変異AOX1 プロモーターが目的タンパク質を産生させる有効性は、宿主の染色体に組み込まれたベクターの量 (即ちコピー数)に応じて変動する。特に、多コピー株は増強したプロモーター効果を示すことが判明した。ピキア株の抗生物質耐性は該宿主の染色体に組み込まれた抗生物質耐性カセットの数に依存するので(宿主に導入されたベクターは好ましくは宿主が抗生物質を選抜マーカーとして含む培地上/中で生育するために抗生物質耐性カセットを含む)、多コピー株を、選択圧を上げるために選抜寒天プレートの抗生物質濃度(10μg/ml〜 10mg/ml、好ましくは50μg/ml〜 1000μg/mlの範囲内;使用する抗生物質に依存する; 例えば、ジェネテシン: 0.1〜 10mg/ml、好ましくは 0.2〜 5mg/ml、特に 0.25〜 4mg/ml、ゼオシン(zeocin): 10〜 5000μg/ml、好ましくは 50〜 3000μg/ml、特に 100〜2000μg/ml)を上昇させることによって作ることが出来る(例えば、[14]; Scorer、C.A. et al. (1994) Bio/technology 12:181-184)。しかし多数の抗生物質耐性カセットを担持する細胞の成長は抗生物質濃度のみならず時間にも依存するということが見いだされた。それゆえ、多コピー株は同じ濃度の抗生物質を含む培地上で、1コピー株よりも短い時間で検出可能なコロニーにまで増殖することが出来る。この挙動により当業者であれば1コピー株が生育し始める前に多コピー株を検出および単離することが可能である。例えば、1コピーの抗生物質耐性カセットを担持する株は寒天プレートで検出可能なコロニーの大きさまで増殖するのに72時間かかるが、該カセットを2コピー以上担持する同じ株は同じ大きさになるまで増殖するのに24〜 48時間しかかからない。
【0031】
特にヌクレオチド694〜 723 (-260〜231)およびヌクレオチド737〜 738 (-217〜 -216)内に突然変異を有するAOX1 プロモーターを担持する多コピー株は驚くべく増強された発現速度を示した。
【0032】
メタノールの存在下で宿主のタンパク質発現効率を上昇させるために、AOX1 プロモーター (配列番号1)のヌクレオチド170〜235 (-784〜 -719)を好ましくは突然変異させる。この領域の突然変異はタンパク質発現を野生型 AOX1 プロモーターと比べて120〜 130 %まで上昇させるが、ただし、突然変異体 AOX1 プロモーターを担持するプラスミドは宿主の染色体/ゲノムに1回しか組み込まれていない(1コピー 突然変異体)。しかし、すべてのその他の上記の領域における突然変異はメタノールがタンパク質発現を誘導する有効性を低下させるか影響を与えない。それに対して、野生型 AOX1 プロモーターの(上記の)プロモーター領域の突然変異は突然変異に依存して、抑制解除条件下でタンパク質発現を増減させる(例えば、表13、実施例1参照)。
【0033】
しかし、2コピー以上の突然変異AOX1 プロモーターを有する組換え株は抑制解除下およびメタノール誘導条件下で増強した活性を有する株となった(多コピー株、例えば図7、実施例2参照)。 詳細に説明すると、配列番号1のヌクレオチド694〜723 (d6)、配列番号1のヌクレオチド694〜723 (-260 〜 -231) (d6)、配列番号1のヌクレオチド694〜723 (-260〜 -231) およびヌクレオチド304〜350 (-650 〜 -604) (d2d6)、TFBS、特にRap1、Gcr1、QA-1F、Hsf_1、Adr1、Hsf_2、Mat1MC、abaAおよび Hap2345に突然変異を担持する多コピー株は抑制解除条件下および/またはメタノール誘導下で野生型 AOX1 プロモーターの制御下でのタンパク質の発現と比較して発現の上昇を示す。抑制解除条件下でこれら多コピー株のいくつかは野生型 プロモーターの制御下での発現と比較して約 10倍上昇したタンパク質 発現を示す。誘導物質としてのメタノールの存在下では発現効率は本発明によるプロモーターを用いた場合5倍以上増強する。それゆえ、これら突然変異は、特に多コピー形態にて宿主に存在する場合、タンパク質の発現に好ましく用いられる。2以上の上記突然変異の組合せはさらにプロモーター強度を増強させうる(例えば、図7、実施例2参照)。
【0034】
転写因子結合部位は実験的に (例えば、移動度シフトまたはフットプリント分析により)、または既知の転写因子結合部位との配列比較によって(例えば、 コンピュータ分析により[15])同定することが出来る。
【0035】
該プロモーターの強度および特徴に影響を与えるプロモーター領域の知識を用いて顕著な特性を有するプロモーターを設計することが出来る(抑制解除条件下での高タンパク質発現および/またはメタノールの存在下での高タンパク質発現)。さらにこれらの特性はこれらの突然変異体プロモーターが1または複数回宿主のゲノムに組み込まれると増強または変化しうる(例えば実施例1〜 3参照)。
【0036】
しかし、場合によっては、プロモーター活性は上昇ではなく低下させなければならない。 特に、制御タンパク質、例えば、キナーゼ、ホスホリラーゼ、および、ヘルパータンパク質、例えば、シャペロン、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ、シス・トランスイソメラーゼ、フォルダーゼ、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼおよびプロテアーゼの共発現は、多くの場合、野生型 プロモーターまたは本発明による増強したプロモーターの下で細胞によって産生されうる主生成物と比較して低い必要がある。特に (野生型活性と比較して)上昇した活性を有するAOX1 プロモーターと低下した活性を有するAOX1 プロモーター の制御下でのそれぞれ2種類の生成物(例えばヘルパー タンパク質および主生成物)の組合せ発現は、主生成物と二次的生成物の発現速度が野生型 AOX1 プロモーターを使用するよりもより差があるため有利であることが判明した。低下した発現は好ましくは活性化因子結合部位、例えばHSFまたはHAPを欠失させるか、または抑制因子結合部位を野生型 AOX1 プロモーターに挿入することによって得ることが出来る。したがって、低下した活性を有するAOX1 プロモーターの使用は主生成物の収率を低下させるという結果を導きうる細胞のタンパク質発現機構の過剰負荷を妨げる。例えば、Bessette PH et al. (PNAS USA (1999) 96:13703-13708)は、活性ポリペプチドの発現が、チオレドキシンの共発現によってかなり上昇しうることを示している。
【0037】
好ましい態様によると、プロモーターは配列番号1のヌクレオチド694〜 723 (-260〜231) および/またはヌクレオチド729〜 763 (-225〜 -191)にさらに突然変異を含む。
【0038】
上記の突然変異と組合せてのこれらヌクレオチド範囲に影響する突然変異の結果、よりプロモーター活性が上昇しうる。例えば、配列番号1のヌクレオチド694〜 723 (-260〜231)およびヌクレオチド737〜 738 (-217〜 -216)に対する二重突然変異は、野生型プロモーターの同じ条件下での発現レベルと比較して抑制解除下および誘導条件下でより高い発現レベルを示すプロモーターを導く。この二重突然変異の効果はプロモーターを含む核酸が細胞に2コピー以上導入されると増強されうる(多コピークローンが生じる)。
【0039】
突然変異は好ましくは、欠失、置換、挿入、逆位(inversion)および/または増幅(multiplication)である。
【0040】
ピキア・パストリスの野生型 AOX1 プロモーターの特徴を改変するために、いくつかの突然変異タイプが可能である。上記領域 (転写因子結合部位(TFBS)、配列番号1のヌクレオチド170〜235 (-784〜 -719)、170〜 191 (-784〜 -763)、192〜 213 (-762〜 -741)、192〜 210 (-762〜 -744)、207〜 209 (-747〜 -745)、214〜 235 (-740〜 -719)、304〜 350 (-650〜 -604)、364〜 393 (-590〜 -561)、434〜 508 (-520〜 -446)、509〜 551 (-445〜 -403)、552〜 560 (-402〜 -394)、585〜 617 (-369〜 -337)、621〜 660 (-333〜 -294)、625〜 683 (-329〜 -271)、694〜 723 (-260〜-231)、729〜 763 (-225〜 -191)、736〜 741 (-218〜 -213)、737〜 738 (-217〜 -216)、726〜 755 (-228〜 -199)、784〜 800 (-170〜 -154)または823〜 861 (-131〜 -93))を含むプロモーターストレッチを部分的または完全に欠失させ、部分的または完全にその他のヌクレオチドまたは核酸配列と置換し、1ヌクレオチドまたは核酸配列の挿入により破壊し、部分的または完全に逆位させ、または増幅させるとよい。これらすべての突然変異は該突然変異によって構造的特徴および/または例えば転写因子の認識/結合部位が影響を受けるため、プロモーター活性の変化をもたらす。しかし、これらの変化は野生型プロモーターと比較してプロモーター活性の上昇または低下を導きうる。
【0041】
従来技術において特定の核酸ストレッチの増幅/重複がプロモーター活性を上昇させうるとうことは周知である。多くの真核生物プロモーター、特に酵母プロモーターの遺伝子発現の制御は、プロモーターに結合する転写因子の間の複数の相互作用を伴う。複数の部位が非常に小さいシス作用成分の機能にさえも要求されうる。酵母細胞において、上流活性化因子配列 (UAS)は転写に必要である。これらはいずれかの方向で、TATAボックスおよび転写開始部位から様々な距離で機能するが、高等真核生物におけるエンハンサーとは異なり、これらはこれら基本要素の上流になければならない。UASはいくつかの転写活性化因子の標的である。
【0042】
酵母細胞におけるほとんどの抑制現象は、転写因子の不活性化または不在に起因する。しかし、いくつかの負の制御部位(上流抑制配列(URS))も同定可能であった。
【0043】
ピキア・パストリス AOX2 プロモーターの欠失分析に基づき、3つの調節領域が見いだされ、2つは負に作用する領域(URS1およびURS2) 、1つは正に作用する領域 (UAS)である [3]。ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha) MOX プロモーターについては2つの上流活性化配列 (UAS1およびUAS2) および1つの抑制因子結合部位 (URS1) も記載されている[8]。 対応する配列はAOX1 プロモーター(ヌクレオチド585〜 614 (-369〜 -340)および725〜 756 (-229〜 -198))にも同定され、AOX2 UASとの類似性が示され[3]、ヌクレオチド622〜 656 (-332〜 -298)[8]も同様である。これら核酸ストレッチの増幅 (2、3、4、5、6または7倍のUAS)の結果、強度が増強されたプロモーターが得られる可能性があり、より強力なタンパク質発現が導かれる。それゆえ複数のUAS、好ましくはAOX2およびMOX UASと類似の上記配列領域またはその他の複数の配列ストレッチ (例えば、上記の核酸配列範囲)を含むプロモーターの構築は本発明の枠内に含まれ、好ましい態様であると考えられる。活性化配列は通常プロモーターの数百塩基対内にある。例えば、顕著な活性化配列は増強されるプロモーターの約 200〜 400 塩基対内にある。さらに、プロモーターの上流には通常さらなるエンハンサーおよび転写因子結合部位が含まれる。
【0044】
AOX1 プロモーターの少なくとも1つの突然変異を当業者に公知の標準的方法により導入するとよい (例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Third Edition)、J. Sambrook and D. Russell、2001、Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0045】
本発明の好ましい態様によると、転写因子結合部位 (TFBS)は、Hap1、Hsf、Hap234、abaA、Stre、Rap1、Adr1、Mat1MC、Gcr1およびQA-1Fからなる群から選択される。
【0046】
これらTFBSの少なくとも1つの突然変異の結果、様々な特徴の突然変異体プロモーターが生じる(実施例2参照)。
【0047】
好ましくは、転写因子結合部位 (TFBS)Hap1は配列番号1のヌクレオチド54 (-900)〜 58 (-896)、Hsfは配列番号1のヌクレオチド142 (-812)〜 149 (-805) および 517 (-437)〜 524 (-430)、Hap234は配列番号1のヌクレオチド196 (-758)〜 200 (-754)、206 (-748)〜 210 (-744)および668 (-286)〜 672 (-282)、abaAは配列番号1のヌクレオチド219 (-735)〜 224 (-730)、Streは配列番号1のヌクレオチド281 (-673)〜 285 (-669)、Rap1は配列番号1の ヌクレオチド335 (-619)〜 339 (-615)、Adr1は配列番号1のヌクレオチド371 (-583)〜 377 (-577)、Mat1MC は配列番号1のヌクレオチド683 (-271)〜 687 (-267)、Gcr1は配列番号1のヌクレオチド702 (-252)〜 706 (-248)およびQA-1Fは配列番号1のヌクレオチド747 (-207)〜 761 (-193)を含む。
【0048】
これらのTFBSは実験的に同定できるし、 その他のプロモーター(例えば、真核生物のプロモーター) の既知のTFBS とのコンピュータプログラムを用いた比較によっても同定できる (例えば、実施例1参照)。
【0049】
タンパク質、ペプチドまたは機能的核酸の発現に対する突然変異体 AOX1 プロモーターの(野生型 活性との比較における)影響の要約を表2に示す。
【0050】
表2: タンパク質、ペプチドまたは機能的核酸の発現に対する野生型 AOX1 プロモーターの突然変異体の影響
【表2】

1 野生型 AOX1 プロモーターとの比較における発現速度: - 低下、+ 上昇
【0051】
本発明の別の側面は、本発明による突然変異体ピキア・パストリス・アルコールオキシダーゼ 1 (AOX1) プロモーターおよびタンパク質、ペプチドまたは機能的核酸をコードする核酸を含む核酸分子に関し、ここでプロモーターおよび該核酸は互いに作動可能に連結している。
【0052】
突然変異体 AOX1 プロモーターは、タンパク質 (例えば、酵素)、ペプチド (例えば、ホルモン) または機能的核酸(例えば、 siRNA)をコードする遺伝子と連結させることが出来る。その結果得られる核酸断片を用いて、生物、好ましくは酵母、特にピキア・パストリス株に導入した場合、例えば、タンパク質を発現させることが出来る。該核酸分子の構築は当業者に周知であり、標準的分子生物学的方法により行うことが出来る (例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Third Edition)、J. Sambrook and D. Russell、2001、Cold Spring Harbor Laboratory Press; manual "Pichia Expression Kit"、Invitrogen Corp.)。
【0053】
「作動可能に連結している」とは、第一の配列が第二の配列に十分に近くに位置しており、第一の配列が第二の配列または第二の配列の制御下の領域に影響を与えることができることをいう。例えば、プロモーターは遺伝子に作動可能に連結することができ、それによって遺伝子はプロモーターの制御下で発現し、プロモーターは典型的には遺伝子の5'にある。通常、コアプロモーターは翻訳開始部位から数百塩基対内にある。そこから約 30 bp 下流では通常下流のプロモーター要素がある。
【0054】
本発明の別の側面は、本発明による突然変異体ピキア・パストリス・アルコールオキシダーゼ 1 (AOX1) プロモーターまたは上記の核酸分子を含むベクターに関する。
【0055】
タンパク質、ペプチドまたは機能的核酸をコードする核酸に作動可能に連結していてもよい突然変異体 プロモーターを宿主、好ましくはメチロトローフ酵母株 (例えば、ピキア・パストリス株) に導入するためには、該プロモーターは該宿主の形質転換に用いることが出来るベクター中に提供されなければならない。例えば、該ベクターは酵母エピソームプラスミド(YEp)、酵母組込みプラスミド(YIp)または酵母人工染色体でありうる。かかるベクターは通常、複製起点 (微生物宿主における増幅が必要である場合)および大腸菌中でのベクターの増殖のための選抜マーカー、酵母における組換えタンパク質発現のためのプロモーターおよびターミネーターおよび酵母のための選抜マーカーを含む。非組込みベクターはさらに自己複製配列 (ARS)を含み、これは細胞におけるベクターの安定性を確実にする(例えば、Myers、A. M.、et al. (1986) Gene 45: 299-310)。AR 配列を担持しない組込みベクターは、ゲノム領域と相同的な配列領域を含む。 あるいは直線状DNA、例えば、 PCR由来のものを形質転換に利用できる。
【0056】
本発明の別の側面は、少なくとも1つの突然変異体ピキア・パストリス・アルコールオキシダーゼ 1 (AOX1) プロモーター、上記少なくとも1つの核酸断片または少なくとも1つのベクターを含む細胞に関する。突然変異体 AOX1 プロモーターを担持する核酸分子(例えば、プロモーターがタンパク質をコードする核酸に作動可能に連結しているベクター)の宿主への導入は例えば、エレクトロポレーションによって行うことが出来る。該核酸分子は、1コピーまたは多コピーにて該宿主に導入された後染色体に組み込まれるか、または細胞中に1コピー または多コピーの自己複製プラスミドとして存在する。いくつかの 突然変異体プロモーターを用いる場合、それらすべてを単一の遺伝子 (タンパク質 または機能的核酸 (例えば、リボザイム、アンチセンス RNA 等)をコードする)、同一タンパク質または異なるタンパク質(例えば、1つのプロモーター 変異体を選抜マーカーに連結し、別の突然変異体 プロモーターを別の発現すべきタンパク質に連結する)に連結することができる。それゆえ 本発明の範囲内で、タンパク質、ペプチドまたは機能的核酸をコードする核酸に作動可能に連結している1コピーの AOX1 プロモーターを含む1コピー 株および、タンパク質、ペプチドまたは機能的核酸をコードする核酸に作動可能に連結している2以上、好ましくは 少なくとも 2、3、4、5、6、7、 8、9、10、15または20 コピーのAOX1 プロモーターを含む多コピー株が好ましくは産生される。
【0057】
本発明の好ましい態様によると、該細胞は真核生物細胞であり、特に酵母細胞、好ましくはメチロトローフ酵母細胞である。
【0058】
好ましくは、メチロトローフ酵母細胞は、カンジダ、ハンゼヌラ、ピキアおよびトルプロシス(Toruplosis) からなる群から選択され、特にピキア・パストリス細胞である。
【0059】
AOX1 プロモーターおよびそれに由来する突然変異した変異体は非常に多数の異なる酵母細胞に機能的に導入することができ、例えば、メチロトローフ (例えば、ピキア・パストリス)および非メチロトローフ (例えば、出芽酵母(S. cerevisiae) ) 細胞が含まれる。プロモーター、特にAOX1およびMOX プロモーターのその他の生物への形質転換能力は当業者に知られている。基質特異性およびいくらかの制御特徴が酵母によって異なっていても (例えば、ピキア・パストリス、ハンゼヌラ・ポリモルファおよび出芽酵母(S. cerevisiae) )、外来プロモーターの認識は示されている(例えば、Raschke、W.C.、et al.、Gene、1996. 177:163-7; Pereira、G.G. and C.P. Hollenberg、Eur J Biochem、1996. 238:181-91)。例えば、ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha) MOX プロモーターは出芽酵母(S. cerevisiae)に認識され、グルコースの存在下で抑制され、炭素源制限下で抑制解除される。同様にAOX1 プロモーターはハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)で用いることが出来、MOX プロモーターと同様に制御される。AOX1 プロモーターと緊密な関係にあるZZA1 プロモーターも出芽酵母(S. cerevisiae)での使用が成功している。
【0060】
本発明の別の側面は、以下を含む、選択されたタンパク質の発現または機能的RNAへの転写のためのキットに関する:
i) 上記のベクター、および、
ii)本発明によるプロモーターの制御下で該タンパク質または機能的RNAを発現することが出来る細胞。
【0061】
本発明によるベクターは、選択されたタンパク質の発現または機能的RNA (例えば、リボザイム、アンチセンス RNA、RNAi) の転写のためのキットにおいて利用できる。
【0062】
本発明の好ましい態様によると、該細胞は酵母細胞、好ましくは、メチロトローフ酵母細胞である。
【0063】
好ましくは、メチロトローフ酵母細胞は、カンジダ、ハンゼヌラ、ピキアおよびトルプロシスからなる群から選択され、特にピキア・パストリス 細胞である。
【0064】
本発明の別の側面は、以下の工程を含む、細胞において組換えタンパク質、ペプチドまたは機能的核酸を発現させる方法に関する:
-本発明によるAOX1 プロモーターと、タンパク質、ペプチドまたは機能的核酸をコードする核酸を含むベクターまたは核酸分子であって、該プロモーターが該核酸に作動可能に連結しているベクターまたは核酸分子を提供する工程、
-該細胞を該ベクターまたは該核酸分子で形質転換する工程、
-形質転換細胞を好適な培地で培養する工程、
-所望により、該タンパク質、ペプチドまたは機能的核酸の発現を誘導する工程、および、
-該発現したタンパク質、ペプチドまたは機能的核酸を単離する工程。
【0065】
本発明の好ましい態様によると 該細胞は酵母細胞、好ましくはメチロトローフ酵母細胞である。
【0066】
好ましくはメチロトローフ酵母細胞はカンジダ、ハンゼヌラ、ピキアおよびトルプロシスからなる群から選択され、特にピキア・パストリス 細胞である。本発明の別の側面は、タンパク質、ペプチドまたは機能的核酸の発現のための本発明による核酸分子、ベクターまたは細胞の使用に関する。
【0067】
本発明による核酸分子、ベクターまたは細胞がタンパク質、ペプチドまたは機能的核酸の発現に用いられる場合、発現に必要な条件を満たす適当な AOX1 プロモーターを選択するのが有益である(例えば、抑制解除条件下 (=グルコースを培地に添加しない)またはメタノール誘導条件下での高または構成的発現)。 好適な突然変異体 AOX1 プロモータは表2を参考にして選択することが出来る。
【0068】
本発明の別の側面は、以下の工程を含む、超(super)発現クローンの単離方法に関する:
a) タンパク質または機能的核酸をコードする核酸に作動可能に連結している突然変異させたメタノール誘導性プロモーター、好ましくは AOX1 プロモーター、およびマーカー耐性遺伝子を含む核酸分子またはベクターを細胞に導入する工程、
b) 工程a)の細胞を、誘導条件下での超発現クローンの選択的増殖のための、適当な選抜マーカー、非抑制性炭素源およびメタノールを含む培地、または、抑制解除条件下での超発現クローンの選択的増殖のための、適当な選抜マーカーおよび非抑制性炭素源を含むがメタノールを含まない培地に移す工程、
c)工程b)からの細胞を該培地上でインキュベートする工程、
d) 工程c)から得た細胞のコロニーを単離する工程、および、
e)該細胞の発現速度の測定によって超発現クローンを検出する工程。
【0069】
突然変異させたメタノール誘導性プロモーターを含むベクターまたは核酸を担持する超または高発現 クローンの構築には、当業者がこれらクローンを単離できるようにする方法が必要である。かかる方法を本明細書に提供する。該方法の第一段階はプロモーターを含む核酸 (例えば、ベクター)の該プロモーターを制御することができる好適な細胞への導入である。プロモーター自体は、遺伝子操作または化学的(例えば、亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、フマル酸、ヒドラジン)または物理的(例えば、照射、特に UV 照射) 突然変異誘発によって突然変異させることができる。さらなる工程において、該突然変異させたプロモーターを担持する細胞を培地、好ましくは固体培地に直接または液体培地を介して移し、該培地は抗生物質 (例えば、ゼオシン)および抑制解除条件下での高発現クローンの増殖のためのソルビトール (またはその他の上記の非抑制性炭素源、例えば、[12]、特に アラニン、マンニトールまたはトレハロース)およびさらにメタノールを含み、高発現クローンであれば誘導条件下で発見できる。メタノールとともに培地にグルコースを含めることによって、グルコース非抑制性およびメタノール誘導性形質転換体が単離できる(メタノール蒸発を防ぐために培地はメタノール飽和またはメタノール含有雰囲気中でのインキュベーションの間に保存するとよい)。好適な培地中または培地上での細胞の培養の後、該細胞を該培地から単離し、さらなる分析に用いるとよい(例えば、正確な発現速度の測定、野生型プロモーターと比較してのプロモーターの核酸配列の変化を分析するためのプロモーターの単離)。本発明による方法に用いられる非抑制性炭素源は、例えば、[12]に開示されており、好ましくは0.1〜 10%の量、好ましくは0.2〜 5%の量、より好ましくは0.3〜 3%の量、特に0.5〜 1%の量用いる。好ましい非抑制性炭素源は、アラニン、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、ラクトース およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0070】
好適なマーカー耐性遺伝子の選択は形質転換体の選抜に用いるマーカーに依存する。例えば、ゼオシンをマーカーとして用いる場合、突然変異体 AOX1 プロモーターの制御下でベクターに導入すべきマーカー耐性遺伝子はSh ble 遺伝子である。 核酸がタンパク質またはペプチドをコードする場合、その結果得られる/発現したタンパク質は融合タンパク質でありうる。突然変異体 AOX1 プロモーターの制御下でマーカー耐性遺伝子を提供することは特に有益である。というのは、かかる場合においてマーカー耐性遺伝子産物の発現速度はプロモーター強度および突然変異させたプロモーターの挙動にも依存するからである。例えば、核酸産物の高発現のための強力なプロモーターはマーカー耐性遺伝子産物の発現速度も上昇させるだろう。かかるクローンはプロモーター強度が低下したプロモーターを有するクローンに対して選択的利益 を有する。これによって超発現クローンの形質転換 細胞からの再生後の直接の選抜が可能となる。
【0071】
発現速度は好ましくは、ゲル電気泳動 (例えば、SDS-PAGE)、抗体結合 (例えば、ELISA)、定量的 (逆転写酵素) PCR (例えば、リアルタイム RT-PCR)、酵素活性 (例えば、発現したタンパク質が酵素の場合)などの方法または蛍光定量的に (特徴的発光スペクトルを有するタンパク質、例えば、 緑色蛍光タンパク質)測定することが出来る。
【0072】
他の抑制性のC-源( AOX1 プロモーターの場合グルコース)の非存在下で発現の上昇を示すプロモーター (形質転換体)は非抑制性炭素源を含有する培地中/上での形質転換細胞の選択的増殖により選択される。他の抑制性 C-源 (AOX1 プロモーターの場合グルコース) の非存在下、誘導物質 (例えば、メタノール)の存在下で発現の上昇を示すプロモーター (形質転換体)は、非抑制性炭素源および誘導物質 (例えば、メタノール)を含有する培地中/上での形質転換細胞の選択的増殖により選択される。誘導物質は非抑制性炭素源であってもよい。超発現クローンは、抗生物質(例えば、ゼオシン)に対するより高い耐性または必須培地成分(例えば、Leu、His、Arg、Ura)のより高い産生を導く多コピーと上記の調節的選択とを組み合わせることにより選択される。
【0073】
本発明による方法に用いられる培地組成は直接製造業者または販売元から得ることが出来るし、ピキア・パストリスに関するキット、細胞およびベクター (例えば、 Invitrogen)から得ることが出来る。培地中のメタノール濃度は、好ましくは 0.05〜 15%、より好ましくは 0.1〜 10%、特に 0.3〜 5%である。科学文献においては異なる培養条件に対する異なるメタノール濃度が記載されている。 例えば、振盪フラスコは1%以下のメタノール を含んでいてもよく(Guarna MM、et al. (1997) Biotech. Bioeng. 56:279-286)、発酵工程は0.5% メタノールを含んでいてもよい(Damasceno LM、et al. (2004) Protein Expr Purif 37:18-26; Hellwig S.、et al. (2001) Biotechnol Bioeng 74:344-352; Hellwig S.、et al. (1999) Biotechnol Appl Biochem 30:267-275)。
【0074】
多コピークローンの増強された発現は、細胞中の2コピー以上の突然変異させたプロモーターの存在に依存するのみならず、いくつかの転写因子がないという事実にも依存しうる。というのはかかる因子は該細胞において多数の転写因子結合部位に結合しうるためである。これはメタノール誘導条件下での発現速度と抑制解除条件下での発現速度との比較によって示され、ここで、増強した発現速度は突然変異AOX1 プロモーターの細胞中のコピー数の効果だけでない(非線形効果)ことが見いだされる。例えば、株 d6*F10 はかかる特徴を示す。
【0075】
超発現クローンの単離に用いる培地はさらなる培地成分、例えば、ロイシン、ウラシル、アルギニン、ヒスチジンおよび/またはアデニンを含んでいてもよく、ソルビトールをグルコースと交換して、野生型プロモーター 変異体と比較してグルコースの存在下で抑制が低下するプロモーター 変異体を同定してもよい。
【0076】
栄養要求性株を用いる場合、細胞をソルビトール (またはその他の非抑制性炭素源)を含み、栄養要求性マーカーを用いる抑制解除条件下での超発現クローンの選択的増殖のための個々の培地成分(例えば、ロイシン、ウラシル、アルギニン、ヒスチジンおよびアデニン)を含む培地に移すとよい(工程 b))。
【0077】
AOX1 プロモーターを含むベクターにおいて一般に用いられているP(TEF)-Zeo 耐性 マーカーはゼオシン耐性タンパク質の構成的発現を導き、それゆえより高濃度の抗生物質に対する耐性による多コピークローンの単離が可能となる。記載される新規な方法は、この効果と制御特徴を組み合わせてプロモーターと多コピークローンの検出を可能とし、それによって特定の制御可能調節状況下(例えば、抑制解除された発現、誘導された発現等)でのより高い発現を導く。これによって調節特性が変化した新規プロモーター、および、多コピークローンがかかる特定の調節条件下での増強した発現を導くクローンの検出が可能となる。
【0078】
「超発現クローン」は、野生型プロモーターの制御下でよりも突然変異させたプロモーターの制御下で、より多くのタンパク質または機能的核酸を発現するか、通常に用いられるプロモーター-選抜マーカーの組合せ、例えば、 P(TEF)-Zeoを有するベクターを用いるよりも、より多くのタンパク質または機能的核酸を発現する、発現クローンである。本発明による「超発現クローン」の発現速度は、野生型プロモーターの制御下での同じタンパク質またはペプチドまたは機能的核酸の発現速度と比較して少なくとも 20%、好ましくは 少なくとも 50%、より好ましくは 少なくとも 100%、特に 少なくとも 500% 上昇している(平均値 +2−3倍標準偏差)。「超発現クローン」は好ましくは2コピー以上の本発明による突然変異させたプロモーターまたは核酸分子を含み得る。あるいは、「超発現クローン」は「高発現クローン」とも称される。
【0079】
本発明によると「メタノール誘導性プロモーター」はその活性が培地中のメタノールの存在により制御されるプロモーターである。かかるプロモーターは好ましくは AOX1 (ピキア・パストリス由来)またはMOX (ハンゼヌラ・ポリモルファ由来) プロモーターまたはメチロトローフ酵母由来のいずれかのその他のメタノール誘導性かつグルコース抑制性プロモーター、 例えば、FMD、FLD、DASである (例えば、表6、実施例1参照)。
【0080】
本発明の好ましい態様によると、選抜マーカーは抗生物質、好ましくはゼオシンである。
【0081】
培地に用いる選抜マーカーは、細胞の分子の特徴が、突然変異または野生型メタノール誘導性プロモーターを含む核酸またはベクターを担持する細胞と、該核酸またはベクターを担持しない細胞とを区別するのに利用できるという事実に依存する。選抜マーカーはそれゆえ抗生物質であり得る(抗生物質耐性遺伝子は該細胞に導入されたベクターまたは核酸にみられ得る)。特定の株の栄養要求性を補償するために、培地中の選抜マーカーは、栄養要求性のタイプに応じて、ロイシン、ウラシル、アルギニン、ヒスチジンおよびアデニンなどの物質であってよい。
【0082】
好ましくは、核酸分子、ベクターおよび細胞は本発明による核酸、ベクターおよび細胞である。
【0083】
本発明の好ましい態様によると、核酸分子またはベクターは当業者に知られた標準的方法、好ましくはエレクトロポレーション、化学的形質転換、プロトプラスト融合による形質転換または粒子銃によって細胞に導入される(例えば、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、Edited by: Fred M. Ausubel et al.; Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Third Edition)、J. Sambrook and D. Russell、2001、Cold Spring Harbor Laboratory Press参照)。
【0084】
本発明をさらに以下の図面および実施例によって説明するが、これらに制限されない。
【0085】
図1は、マイクロスケールでのメタノールによる誘導前(A)および誘導の24時間後 (B)および72時間後 (C)のGFP-Zeoを発現するピキア・パストリス株のSDS-PAGEを示す。サンプルは実施例1 h)に記載のように調製した。 レーン 1はX-33 (陰性対照)、レーン 2-4は X-33 GFP-Zeo 株 MutS A9、D2およびE2、レーン 5は X-33 d6*F10である。42 kDaの強いバンドがすべてのGFP-Zeo クローンに存在する。
【0086】
図2は、AOX1 プロモーター領域およびいくらかの転写因子結合部位内の配列欠失の概要を示す。領域デルタ1-9を重複伸長(overlap extension)PCRにより欠失させた。
【0087】
図3は、AOX1プロモーター変異体のマイクロスケールでの抑制解除後(炭素飢餓)の蛍光強度の棒グラフを示す。細胞を1% グルコースでマイクロスケールで培養した。データは4独立実験の平均 ± SDを表す。RFU: 相対蛍光単位; WT:野生型 AOX1 プロモーターの制御下でGFP-Zeoを有するピキア・パストリス株 GFP-Zeo D2; D1-D9: GFP-Zeo 遺伝子の前の欠失コンストラクトAOX1Δ 1-Δ9を有するピキア・パストリス株; EX. 励起波長; EM: 発光波長。
【0088】
図4は、マイクロスケールでのメタノール誘導後のAOX1プロモーター変異体の蛍光強度の棒グラフを示す。細胞は 1% グルコースでマイクロスケールで培養した。データは4独立実験の平均 ± SDを表す。RFU: 相対蛍光単位; WT:野生型 AOX1 プロモーターの制御下でGFP-Zeoを有するピキア・パストリス株 GFP-Zeo D2; D1-D9: GFP-Zeo 遺伝子の前に欠失コンストラクトAOX1Δ 1-Δ9を有するピキア・パストリス株; EX. 励起波長; EM: 発光波長。
【0089】
図5は、選択したAOX1プロモーター変異体のマイクロスケールでの蛍光強度の棒グラフを示す。野生型およびΔ6 プロモーター 変異体を有する1コピー 株および多コピー株の抑制解除および誘導条件下での発現レベルを示す。データは4独立実験の平均 ± SDを表す。WT:野生型 AOX1 プロモーターを有する1コピー GFP-Zeo 株(GFP-Zeo D2)、D6: 1コピー AOX1Δ6* クローン; WT_E2: 野生型 AOX1 プロモーターを有する多コピー GFP-Zeo クローン; D6* F10: 多コピー AOX1Δ6* クローン (X-33 d6F10)。
【0090】
図6は、異なるゼオシン(商標) 濃度を有するMD およびMDM 寒天プレート上でのピキア・パストリス株のドロップ試験の結果を示す。細胞をBMD(1%) 培地で OD595が1.5になるまで培養し、10倍ずつ希釈して最終希釈率105 とし、48ピン・レプリケータを用いて寒天プレートに移した。図の上の数は希釈係数を示し、これはすべてのプレートで同一である。MD 培地は上記のように調製した。MDM-Zeo プレート中のメタノールは終濃度約 0.5%にて添加した。ゼオシン(商標) はそれぞれ終濃度100、200 および500 μg/mlになるように添加した。 X-33: ピキア・パストリス X-33、A9: ピキア・パストリス GFP-Zeo MutS A9、D2: ピキア・パストリス GFP-Zeo D2、E2: ピキア・パストリス GFP-Zeo E2。
【0091】
図7は、参照株と比較してのいくつかの多コピー株の発現レベルを示す; a)抑制解除条件下での活性; b)メタノール誘導後の活性。
【0092】
図8は、参照株と比較しての抑制解除および誘導条件下でのΔ6* 多コピー株の発現レベルを示す。
【実施例】
【0093】
実施例1:
材料および方法:
a) DNA 調製/精製キット:
いくつかの 市販の DNA 調製および精製キットを提供されたマニュアルにしたがって用いた(表3参照)。
【0094】
表3: DNA 調製および精製 キット
【表3】

【0095】
b)TOPO(登録商標) クローニング:
TOPO(登録商標) クローニングは提供されたマニュアルにしたがって行った ( pCR(登録商標)4Blunt-TOPO(登録商標)へのクローニングおよびpCR(登録商標)-Blunt II-TOPO(登録商標)へのクローニング)。常に 4 μlのPCR産物をクローニングに用いた。2および4 μlの各クローニング反応を One Shot(登録商標) 化学的コンピテント大腸菌 TOP10F' 細胞(Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA、USA)に上記プロトコールにしたがって形質転換した。
【0096】
c) 大腸菌形質転換:
ライゲーション反応およびプラスミドの大腸菌への形質転換はSEM (simple and efficient method)-プロトコールによって行った[16]。化学的コンピテント 大腸菌 TOP10F' 細胞を形質転換に用いた。
【0097】
d) ピキア・パストリス 形質転換:
コンピテント・ピキア・パストリス 細胞の調製: 所望のピキア・パストリス宿主株のシングルコロニーを用いて、300 ml バッフル付き広首三角フラスコ中の50 ml YPD (2% グルコース)に接種した。30℃、一晩、60% 湿度、130 rpm (Pilot Shake(登録商標) RC-2 TE) でのインキュベーションの後、特定の体積のこの前培養物を用いて2 l バッフル付き広首三角フラスコ中の200 mlの YPD (2% グルコース)に接種し、595 nmでの吸光度(OD595)を約 0.1とした。培養物を前培養物と同じ条件下で培養して吸光度1.0〜 1.5とした。細胞を4℃、4000 rpmで10 分間ペレットとし、200 ml 氷冷滅菌水に再懸濁した。この手順を3回繰り返し、細胞をそれぞれ100 ml 水、10 ml 1 M ソルビトールおよび0.5 ml 1 M ソルビトールに再懸濁した。
【0098】
10 μgの所望のプラスミドを最終体積 300 μl中にてBglII およびNotI (各 50 u)で一晩直鎖化した。 制限消化後、DNAを標準的プロトコールにしたがってEtOHおよび0.3 M 酢酸ナトリウム中に沈殿させた [16]。 DNAを11 μl 滅菌 ddH2Oに溶解し、MF-Millipore(商標) Membrane Filterを用いて約 1-2時間脱塩した(表12参照)。PCR産物を形質転換に用いる場合、約 4-5 μg DNAをEtOH 沈殿から出発して上記のように処理した。
【0099】
各形質転換について 80 μlの調製した細胞を上記のように10 μg DNAと混合し、氷上で5 分間インキュベートした。混合物を氷冷電気形質転換キュベット (Bio-Rad)に入れ、 200 Ω、25 μFおよび2.5 kVでパルスした。1 mlの 氷冷 1 M ソルビトールをすぐに添加した。懸濁液を滅菌 12 ml PP-チューブ (Greiner、Frickenhausen、Germany、#184261)に移し、2 時間30℃で振盪せずにインキュベートした。この再生相の後、アリコットを選抜プレートに播いた。誘導条件下で高発現する形質転換体の選抜のために、細胞をソルビトール (またはいずれかのその他の非抑制性炭素源)、メタノールおよびゼオシンを含む最少培地を含むMSM-Zeo プレートに播いた。抑制解除条件下で高発現を示すクローンの選抜のために、細胞をメタノールを含まない最少 ソルビトール zeo プレート上に播いてもよい。グルコースをメタノール含有選抜プレートに含めることにより、グルコース非抑制性発現クローンおよびそのプロモーターの検出が可能となる。
【0100】
e) コロニー PCR:
所望のピキア株のシングルコロニーを100 μl マイクロチューブ中の100 μl ddH2Oに再懸濁し、95℃で5〜 10 分間加熱した。13,200 rpmで1 分間の遠心分離の後、10 μlの 上清をPCR 反応の鋳型として用いた。5 μlのこの第一PCRラウンドを第二PCRラウンドの鋳型として用いた。5 μlの第二PCRラウンドを対照ゲルのために用いた。PCR 反応には10 pmolの 各プライマー (AOX1_col および GFPrev)、200 μMの 各 dNTPおよび2.5 ユニットの Hot Star Taq(登録商標) DNA ポリメラーゼ (QIAGEN)またはTaq DNA ポリメラーゼ (Promega)が最終体積50 μlにて提供されたマニュアルにしたがったバッファー条件下で含めた。配列決定のために、第二PCR産物をQIAquick(登録商標) PCR Purification Kitを用いて精製した。
【0101】
表4: コロニー PCRのための温度プログラム
【表4】

【0102】
f) ピキア・パストリス・ゲノム DNA 単離:
所望のピキア・パストリス株を一晩、回転容器上の滅菌 12 ml PP-チューブ中の5 ml YPDで30℃で最終 OD595が5-10となるまで培養した。1.5 mlの 培養液を使用して、Easy-DNA(商標) Kitを用いて提供されたプロトコールにしたがってDNAを単離した。
【0103】
g) タンパク質アッセイ:
溶液中のタンパク質濃度の測定は生化学で長く用いられてきた。その主な用途の一つは、酸素消費速度についてこの例で行われているように総タンパク質量に対して多数の生化学的方法を規準化することである。もっとも一般的に用いられているタンパク質濃度の測定方法は Bradford法、Lowry 法および BCA(商標) 法である。これらの方法は感受性、ダイナミックレンジおよび特定の試薬に対する適合性の面で明確な限界を有する。これら3つのアッセイのなかでは、Bradford法および Lowry法がBCA(商標)と比べてより信頼でき、再現性が高い。一方 Lowry法およびBradford法は界面活性剤 および/または 還元剤が存在する場合に深刻な限界を有し、その場合、ブランクの値が高くなる。したがってBCA(商標) アッセイが化学的溶解の後に選択すべき方法である。タンパク質濃度をY-Per(登録商標)による化学的細胞溶解後にBCA(商標)-アッセイを用いて、BSAを標準として指示マニュアルにしたがって測定したので(Pierce Biotechnology Inc.)、主な工程のみを以下に簡単に記載する。200 μlの 培養液を4000 rpmで 4℃で5 分間遠心分離した。上清を捨てた後、ペレットをピペッティング操作により100 μl Y-Per(登録商標)に再懸濁した。懸濁液をThermomixer中で 室温で600 rpmで20 分間1.5 ml マイクロチューブ中でインキュベートした。細胞細片を13,200 rpmで 室温で10 分間ペレットとした後、上清を新しいマイクロチューブに移し、4℃でBCA(商標) アッセイまたはSDS-PAGEのために保存した。25 μl サンプルをマイクロプレートウェル中で 200 μl BCA(商標) ワーキング試薬 (試薬 A: 試薬 B = 50:1)と混合し、徹底的に30 秒撹拌し、プレートシーラー (Promega)で密封した。37℃での30 分間のインキュベーションおよび室温への冷却後、562 nmでの吸収をSpectramax Plus 384 プレートリーダーを用いて測定した。必要な場合、サンプルをddH2Oで希釈した後、BCA アッセイに用いた。
【0104】
h) SDS-PAGE:
SDS-PAGE用のサンプルを上記のセクションで記載したように試薬としてY-Per(登録商標)を用いて化学的細胞溶解により調製した。10 μlの 溶解液を10 μl 2x SSB (sigma サンプルバッファー)と混合し、95℃で5-10分間インキュベートし、15 μlのこの混合物をタンパク質ゲルにロードした。電気泳動は180 Vで約 1時間行い、タンパク質バンドはクーマシー(商標) ブルー染色を用いて検出した。
【0105】
表5: SDS-PAGE用のゲル調製
【表5】

【0106】
i) グルコースアッセイ:
グルコース濃度は除タンパクを行わずにグルコース- UV ヘキソキナーゼ法を用いて測定した(DIPRO med Handels GmbH、Weigelsdorf、Austria、Prod. no. D590522)。50 μlのピキア培養液をPCR マイクロプレートに移し、4000 rpmで5 分間遠心分離した。10 μlの上清をUV-Star マイクロプレート中の190 μlのヘキソキナーゼ 試薬に添加し、室温で15 分間インキュベートした。インキュベーション後、340 nmでの吸光度をSpectramax Plus 384 プレートリーダーを用いて測定した。
【0107】
j) ドロップ試験:
ピキア・パストリス株をBMD(1%)中で最終 OD595が1.5となるまで培養し、10倍ずつ希釈して最終希釈率 105とした。寒天プレートに48ピンレプリケータを用いて移した。プレートをコロニーが現れるまで30℃でインキュベートした(通常MD プレート上で2日間)。
【0108】
k) 配列アラインメント:
すべての配列アラインメント はINRAホームページ (Institut National de la Recherche Agronomique、Paris、France) (prodes.toulouse.inra.fr/multalin/multalin.html)のMultAlin [17]またはEuropean Bioinformatics Institute (EBI、www.ebi.ac.ch/clustalw)のClustalW [18]を用いて行った。MultAlinによる配列比較のために常にDNA 配列類似性マトリックスを比較のために用いた。
【0109】
メタノール利用経路の遺伝子およびほとんどのペルオキシソーム遺伝子は、グルコース抑制、炭素飢餓での抑制解除およびメタノールによる誘導に関して同様に制御されている。所定のセットの転写因子(抑制因子および誘導物質) による同様の転写制御がこの制御パターンの原因であるはずである。これらプロモーター領域内の転写因子結合部位はいくらかの保存領域を示すはずである。共制御される遺伝子のプロモーター領域間の複数配列アラインメントにより、これらの遺伝子の制御に関与する転写因子の保存された結合部位が明らかとなるはずである。メチロトローフ酵母であるピキア・パストリス、ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)およびカンジダ・ボイジニのいくつかの遺伝子は共制御されていることが報告され、それらのプロモーター配列を単離した(表6)。
【0110】
表6:メチロトローフ酵母であるピキア・パストリス、ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)およびカンジダ・ボイジニからのメタノール利用経路またはペルオキシソーム遺伝子の共制御される遺伝子
【表6】

【0111】
l) 転写因子分析:
転写因子分析をGenomatix Software GmbH サーバー のGenomatixSuite 1.6.1 におけるMatInspector Release professional 6.1 Jan. 2003 [15] を用いて行った。pPICZ B 由来のPAOX1 配列を用いてMatrix Family Library Version 3.1.1 April 2003 group ALL fungi.lib (www.genomatix.de)を用いて転写因子結合部位を検索した。
【0112】
m) プライマー:
表 7:記載した実施例に用いたプライマーのリスト(MWG Biotech AG、Ebersberg、Germanyにより合成)
【表7】

* Tm : Equation 2 (QuikChange(登録商標)複数部位特異的突然変異誘発 キット)を用いて計算
【0113】
実施例1.1: レポーターコンストラクトのクローニング
GFP-ZeoをAOX1プロモーター変異体により駆動される遺伝子発現のためのレポーターとして用いた。ATG 開始コドンの周囲の配列を酵母において高度に発現される遺伝子についてのKozak コンセンサス配列の最少必要条件を満たすよう構築した。GFP-Zeo 遺伝子のまえのプロモーター領域を変更するため、EcoRI 制限部位を重複伸長 PCR により挿入した(表 8)。
【0114】
表 8:本実施例で用いたAOX1 配列(pPICZ由来)とピキア・パストリス株 NRRL Y-11430のAOX1 配列(Genbank AN: U96967、[2])の間の翻訳開始部位および周囲の配列の比較。EcoRI 制限部位に下線を引き、位置-3 および+4のKozak最少要求条件を太字で示す。
【表8】

【0115】
レポーター系成分P(AOX1)のPCRに基づく産生は10 ngのベクター pPICZ-B ARS1を鋳型として用いて増幅した。反応には適当なバッファー条件中に10 pmolの 各 プライマー (それぞれP(AOX1)forw および P(AOX1)rev)、200 μMの 各 dNTPおよび2.5 U Synergy(商標) ポリメラーゼも含め、最終体積を50 μlとした。
【0116】
AOX1 TT はAOX1 プロモーターと同様に増幅した。AOX1TTforwおよびAOX1TTrevをこの反応においてプライマーとして用いた。両方のPCR 反応をサーマルサイクラーで30 サイクル (95℃、1 分; 55℃、30秒; 68℃、2 分 30秒)行い、最初の変性工程を5 分95℃、最終伸長工程を10分68℃とした。2 μlの第一PCRラウンドを上記と同じ条件下での第二ラウンドの増幅に用いた。唯一の相違は伸長温度を72℃に上昇させたことであった。
【0117】
GFP-Zeo [19] を鋳型として25 ngのベクター pTracer(商標)-CMV2を用いて増幅した。反応には適当なバッファー条件中で10 pmolの 各 プライマー (それぞれGFP-Zeo forwおよび GFP-Zeo rev)、200 μMの 各 dNTP および2.5 U Synergy(商標) ポリメラーゼも含め最終体積を50 μlとした。PCRをサーマルサイクラー (表 8参照)で30 サイクル行い(95℃、1 分; 55℃、30秒; 72℃、2 分 30秒)、最初の変性工程を5 分95℃とし、最終伸長工程を10分72℃とした。
【0118】
すべてのPCR産物をアガロースゲル電気泳動により精製した後、 重複伸長 PCRに供した。反応には適当なバッファー条件中に10 ng P(AOX1)、5 ng AOX1 TT および鋳型として上記のように調製した50 ng GFP-Zeo、200 μMの 各 dNTP および2.5 U Synergy(商標) ポリメラーゼを含め最終体積は50 μlとした。 PCRをサーマルサイクラー (表 8参照)で30 サイクル行い(95℃、1 分; 53℃、50秒; 68℃、3 分 30秒)、最初の変性工程を5 分95℃とし、最終伸長工程を10分68℃とした。10 サイクルの後、適当なバッファー条件中の10 pmolの外側プライマー P(AOX1)forwおよびAOX1TTrev、200 μMの 各 dNTPおよび2.5 U Synergy(商標) ポリメラーゼを含む10 μlの混合物を添加した。この添加の後、PCRをプログラムの通り続けた。所望のサイズである約 2.4 kbの得られたPCR産物をアガロースゲルで精製した。精製した産物をpCR(登録商標)4Blunt-TOPO(登録商標) ベクターにクローニングし、配列決定した。配列決定によりレポーターコンストラクト中に4つの突然変異と1つの欠失が明らかとなった。
【0119】
塩基対欠失部位は元のプロモーター配列の位置 -15にみられた。この位置はすべてのpPICZ ベクターのマルチクローニングサイト内(A、Bおよび C; SfuI 制限部位の内側)にあったため、この欠失はプロモーター活性には影響を与えないはずであり、それゆえ修正しなかった。第一の突然変異 (T-->C)はプロモーター領域中位置 -828にみられた。その他の3つの突然変異はGFP-Zeo コード配列内の位置+122、+507 および+1075にそれぞれみられた。
【0120】
位置 +122 のG-->A 変換はGly のGGA コドンをGAA コドンに変化させる結果、G41A アミノ酸変化が生じる。+ 507のT-->C 変換はサイレント突然変異でありR169のコドンを変化させるのみである。位置 +1075の最後の突然変異 (T-->C)はTGA 終止コドンをアルギニンコドン CGAに変化させる。突然変異 -828、+122および +1075はpAOX ベクターの構築後QuikChange(登録商標) 複数部位特異的突然変異誘発キットを用いて修復した。位置 +507のサイレント 突然変異およびポリリンカー中の突然変異はレアコドンを導入しなかったため変化させなかった。
【0121】
pAOXは pCR(登録商標)4Blunt- TOPO(登録商標) ベクターからPAOX1-GFP-Zeo-AOX1TT 断片をKpnIおよびNotIにより切り出し、それをpBlueScript(登録商標) SK- ベクターのKpnIおよびNotI 部位の間に挿入することによって構築した。
【0122】
AOX1 プロモーター およびGFP-Zeo 配列にみられた突然変異は QuikChange(登録商標) 複数部位特異的突然変異誘発キット (Stratagene、Amsterdam、The Netherlands)を用いて修正した。PCR 反応は提供されたマニュアルにしたがって行い、適当なバッファー条件中に100 ng pAOX、100 ngの 突然変異誘発プライマー(それぞれ423forw、1372forwおよび2325forw) および1 μl QuikChange(登録商標) 複数酵素ブレンドを含んでおり最終体積を25 μlとし、サーマルサイクラーで30 サイクル (95℃、1 分; 55℃、1 分; 65℃、10分30秒)行い、最初の変性工程は1 分95℃とした。 DpnI 消化および大腸菌 XL10-GOLD(登録商標) (Invitrogen Corp.) 細胞への化学的形質転換は提供されたマニュアルにしたがって行った。3つのすべての突然変異の修正は配列決定により確証した。
【0123】
実施例1.2: AOX1 プロモーター欠失の構築
AOX1 プロモーターの左腕をフォワードプライマーとしてP(AOX1)forwおよびリバースプライマーとしてAOX n rev (n=1...9)を用いて合成した。右腕はフォワードプライマーとして10 pmolの AOX n forw (n=1...9) およびリバースプライマーとしてP(AOX1)revを用いて合成した。すべての腕は鋳型として12 ngのベクター pAOX および10 pgの 各 プライマーを用いて合成した。反応には適当なバッファー条件中10 pmolの 各 プライマー、200 μMの 各 dNTP および0.6 U Pwo DNA ポリメラーゼを含め最終体積を50 μlとした。PCRをサーマルサイクラーで 30 サイクル (95℃、1 分; 55℃、1 分; 68℃、1 分 30秒)行い、最初の変性工程を5 分95℃とし、最終伸長工程 を10分68℃とした。すべての腕はアガロースゲルで精製した後、重複伸長 PCRの鋳型として用いた。
【0124】
表 9: プロモーター欠失のためのオーバーラッププライマー対および腕の長さ
【表9】

【0125】
反応には適当なバッファー条件中に鋳型として上記のように調製した10 ngの 各腕、200 μMの 各 dNTP および0.6 U Pwo DNA ポリメラーゼを含め、最終体積を50 μlとした。PCRをサーマルサイクラーで30 サイクル行い(95℃、45秒; 60℃、45秒; 68℃、2 分)、最初の変性工程を5 分95℃とし、最終伸長工程を10分68℃とした。10 サイクルの後、適当なバッファー条件中に10 pmolの外側プライマーP(AOX1)forwおよび P(AOX1)rev、200 μMの 各 dNTP および0.6 U Pwo DNA ポリメラーゼを含む20 μlの混合物を添加した。PCRは混合物の添加の後、プログラムした通り続けた。
【0126】
所望のサイズの約 898-947 bpである得られたPCR産物をアガロースゲルで精製し、pCR(登録商標)4Blunt-TOPO(登録商標) (Δ2、Δ4、Δ5、Δ7 およびΔ8)またはpCR(登録商標)-Blunt II-TOPO(登録商標) ベクター (Δ1、Δ3、Δ6およびΔ9)にクローニングし、配列決定した。
【0127】
pAOXΔ ベクターは、PAOX1Δ 断片を TOPO(登録商標) ベクターからBglIIおよびEcoRIにより切り出し、それを野生型 AOX1 プロモーターの代わりにpAOX ベクターのBglIIとEcoRI 部位との間に挿入することによって構築した。その結果得られたベクターは配列決定により確証した。
【0128】
実施例1.3: ピキア・パストリス 形質転換および形質転換体の分析
ピキア・パストリス形質転換は以前に記載のようにして行った。PAOX1 (またはPAOX1Δ)-GFP-Zeo-AOX1 TTの組込みの選抜はアリコット中の形質転換された再生したピキア細胞をMSM-Zeo 寒天プレートに播くことにより行った。
【0129】
ピキア・パストリス株をウェル当たり300 μlのBMD(1%)を含むディープ・ウェル・プレートで 28℃で、320 rpm、80% 湿度で60 時間室温で培養した。この期間の後、50 μlを採取してGFP-蛍光を測定した。誘導を250 μl BMM2/ウェルを添加することにより行い、次いでさらに72時間インキュベーションした。メタノールを10、24および48 時間後に50 μl BMM10を添加することにより補充した。メタノール誘導の72時間後にGFP 蛍光を再度測定した。
【0130】
レポーター酵素発現の分析
ピキア・パストリス中でのGFP-Zeoの発現をSpectramax Gemini XS プレートリーダー中で、395 nmでの励起および507 nmでの発光によるGFPの蛍光検出により分析した。上記のようにディープ・ウェル・プレートで培養した50 μlの ピキア・パストリス培養液をFIA マイクロタイタープレート中でddH2Oにより1+3に希釈した。サンプル量が限られていたため 一度の測定のみを行った。得られたすべての平均 ± 標準偏差を少なくとも 3種類の培養液(ウェル)から算出した。
【0131】
組込みカセットがAOX1 遺伝子を置換することなくAOX1 座に組み込まれている場合、組換えピキア株は野生型の速度でメタノール上で生育できるが、 二重乗換えによるAOX1 遺伝子の置換は、メタノール上でのより遅い成長速度をもたらす。これら2つの成長表現型はメタノール 利用 + (Mut+)およびメタノール利用遅延型 (MutS)とそれぞれ称される。メタノール利用表現型の分析のために、ピキア・パストリス・マイクロスケール培養を96ピン・レプリケータを用いてMMおよびMD 寒天プレートに移し、30℃で2 日間インキュベートした。2 日後、コロニーがピキア株がMut+ 表現型を有する場合には両方のプレートに現れたが、MutS 表現型株ではMD プレート上でのみコロニーが現れた。
【0132】
pAOXまたはpAOXΔ プラスミドのいずれかの形質転換由来のすべてのピキア株をコロニー PCRにより分析し、欠失コンストラクトも配列決定により分析してレポーター 遺伝子(GFP-Zeo)の前のプロモーター配列を確認した。
【0133】
実施例1.4: AOX1 プロモーターの定向進化
遺伝子のコード領域のPCR 突然変異誘発はよく開発され確立されているが、プロモーター領域の突然変異誘発に関しては全く知られていない。知識がないため、いくつかの突然変異誘発条件を行った: 突然変異範囲における偏りを最少にするために、Taq DNA ポリメラーゼとMutazyme(登録商標) DNA ポリメラーゼ (Stratagene Inc.)との2種類のポリメラーゼを用いた。プロモーター配列の進化のための突然変異頻度に関する知識が完全にないという事実により、いくつかの突然変異頻度 (理論的には 1〜 ~14/kb)を試験した。
【0134】
Hot Star Taq(登録商標) DNA ポリメラーゼを用いる突然変異誘発: 変異原性 PCRをプロモーター配列に対して[20]にしたがって100 μl 反応体積にて行った。反応には、12 ng pAOX、40 pmolの各 プライマー、(P(AOX1)forw および P(AOX1)rev)、dNTP(200 μM dGTP、200 μM dATP、1 mM dTTP、1mM dCTP)および5 U Hot Star Taq(登録商標) DNA ポリメラーゼを適当なバッファー条件中に含めた。MgCl2 濃度を7 mM (通常 3 mM)に上げてポリメラーゼのエラー率を変化させた。PCRをサーマルサイクラーで30 サイクル (95℃、45秒; 55℃、45秒; 72℃、1 分 30秒)行い、最初の変性工程を 15 分95℃とし、最終伸長工程を10分72℃とした。
【0135】
GeneMorph(登録商標) ランダム突然変異誘発キットを提供されたマニュアルにしたがって最終体積50 μlにてプロモーター配列に対して実施した。鋳型として様々な量のベクター pAOXを用いた(表10参照)。12.5 pmolの各 プライマー、P(AOX1)forwおよびP(AOX1)revを用いた。PCR 反応をサーマルサイクラーで30 サイクル (95℃、30 秒; 55℃、30秒; 68℃、1 分 30秒)行い、最初の変性工程を1 分95℃とし、最終伸長工程を10分68℃とした。
【0136】
表10: GeneMorph(登録商標) PCR 反応に用いた鋳型の量
【表10】

【0137】
上記条件による第一ラウンドの突然変異誘発(Taq、3x GeneMorph(登録商標))を行った。より高い突然変異頻度を達成するために GeneMorph(登録商標) 反応 #3を第二PCRラウンドの鋳型として用いた。TaqおよびGeneMorph(登録商標) #2および#3条件を用いた。
【0138】
ピキア・パストリス X-33 GFP-Zeo MutS A9 細胞への形質転換の前に、以前に記載のようにしてすべてのPCR 反応を沈殿させて 脱塩した。標準的形質転換および再生手順を用いた。グルコース 培地中で誘導されたプロモーターの選抜を 150 μl アリコットの形質転換細胞懸濁液を100-500 μg/ml ゼオシン(商標)を含むMD 寒天プレートに播き、30℃で2 日間インキュベーションすることによって行った。
【0139】
実施例1.5: 結果および考察
I)レポーター系の特徴決定
今日まで、多数のGFP 変異体が分子生物学において用いられている。数個の点突然変異においてのみしか変わらないのに、それらの特徴は大幅に異なる。フォールディング特性の改善の他に、それらの蛍光スペクトルおよび量子収率も異なり、それゆえ強度もかなり異なる。緑色蛍光タンパク質はその励起極大に応じて2つの主な群に分けられる: 励起極大が395 nmでありより小さい極大が470 nmである野生型 GFP 変異体、および、励起極大 が480-490 nmである赤方にシフトした GFP 変異体。そのアミノ酸配列にしたがって、サイクル-3-GFP は野生型 GFP 変異体の群に属し、励起極大が395 nmである。
【0140】
ピキア・パストリスで発現した場合のスペクトル特性を制御するために、蛍光スペクトルを測定した。GFP-Zeoにおけるサイクル-3-GFPの総励起極大は395 nmであり、478 nmの 第二極大は一過性である(evanescent)。発光スペクトルにより発光極大が 510 nmであることが明らかとなった。マニュアルにより示唆される2つの励起波長のなかで、395 nmが好ましく、すべてのさらなる実験に用いた。
【0141】
自己吸収は蛍光分光測定において非常によく起こる現象である。高濃度のフルオロフォアにおいて、吸収 (励起) スペクトルと重なる領域にて放出される光子が吸収されうる(放射エネルギー移動)。より低い蛍光強度が、自己吸収 (発光インナーフィルター効果)が起こると観察される。これによりプロモーター活性の過小評価が起こる。インナーフィルター効果が無ければ、蛍光強度はフルオロフォアが増加すると線形に上昇する。したがって様々な体積のGFP-Zeoを発現するピキア・パストリス細胞をその蛍光活性について試験した。
【0142】
3000 RFUまで、発光インナーフィルター効果は細胞レベルで検出不可能であった。GFPの蓄積により起こる細胞内での自己吸収は、評価できなかった。蛍光の線形の上昇が全部で72 時間の誘導相にわたって検出された。そのため、細胞内でのインナーフィルター効果はないようである。したがって核内でのGFP-Zeoの蓄積はその定量に問題はない。インナーフィルター効果は本研究で測定した1コピーのプロモーター活性の範囲内では起こらない。自己吸収がないため、プロモーター活性の過小評価は起こらないようである。その他によって観察されるインナーフィルター効果はおそらくより小さいストロークシフト(Stokes shift)を有するために重なる励起および発光 スペクトルを有する異なるGFP 変異体の使用により起こるようである。GFP 発現実験の結果を比較する場合には注意が必要である。至適化されたコドン使用を有し、それゆえ異なる発現宿主では非常に異なる発現レベルを導く異なるスペクトル特性を有するいくつかの GFP 変異体の使用は、異なる研究室の結果の比較を複雑にする。
【0143】
II) マイクロスケールでのAOX1 プロモーター活性
微生物細胞(例えば、酵母、細菌)のスモールスケール培養は通常振盪フラスコ培養で行われる。振盪フラスコ中の大きい微生物ライブラリーの接種および培養は労力と時間がかかり、コストが高くなる。近年、深ウェル・マイクロタイタープレートを用いるマイクロスケール培養系が替わりとして開発された。例えば、96 または384 株/培養の並行操作および必要材料が少ないことのために、マイクロタイター系は労力、時間そしてコストの点で振盪フラスコよりも優れている。いくつかの理由のため、マイクロタイター系の主な欠点である、サンプル体積が少なく、通気効率が低いことは、さほど問題ではない: (1) 分析系における技術的進歩により多数の化合物の検出限界が低くなった結果、非常に小さいサンプル体積しか必要ではない; (2)深ウェル・マイクロタイタープレートでの増殖方法および装置も改善された。いくつかの研究において、マイクロタイタープレートでの通気速度およびそれゆえ培養条件は振盪フラスコと同様であることが示された。出芽酵母(S. cerevisiae)におけるサイクル-3-GFPをレポーター タンパク質として用いるGAL1 プロモーターのリアルタイム研究が振盪フラスコ研究と一致することが示された。
【0144】
AOX1 プロモーターに駆動されるGFP-Zeo 発現を上記のように深ウェル・マイクロタイタープレートで研究した。グルコース上での細胞培養後、炭素およびエネルギー源としてのメタノールによる誘導相を行った。PAOX1-GFP-Zeo-AOX1 TT 発現 カセットを有するピキア・パストリス 細胞におけるメタノールによるAOX1 プロモーターの誘導により、GFP 蛍光の迅速な上昇が導かれた。72時間まで GFP 蛍光は線形に上昇した。GFP-Zeoの発現はメタノールを添加すると続く。そうでなければ、24時間以内にメタノールは蒸発と消費により枯渇し、GFP-Zeo 発現は抑制解除レベルまで低下する。
【0145】
GFP-Zeo 蛍光の上昇はSDS-PAGEによって示されるようにGFP-Zeo タンパク質にもしたがった。メタノール誘導により、約 42 kDaのタンパク質バンドがみられ、このバンドは蛍光が上昇するとより強力となった。42 kDaの強いバンドがすべてのGFP-Zeo クローンでみられたが、陰性対照 (X-33 野生型)ではバンドはみられなかった。 X-33 d6*F10のサンプルにおいてもメタノール誘導の72 時間後に強いバンドがみられた(図1C、レーン 5)。規準化してはいないが、42 kDa バンドの強度と適当な蛍光レベルの間の明らかな相関が評価できる。
【0146】
III) 転写因子結合部位
以前に記載のように、いくつかの転写因子の結合部位についてのコンセンサス配列は知られている。AOX1 プロモーター配列の配列分析により、いくつかの推定転写因子結合部位が明らかとなり、特に興味深いいくつかのヒットがあった。熱ショック因子およびストレス応答要素モチーフのなかで、一般的にグルコース制御に関与していることが知られているいくつかの転写因子の結合部位がみられた。もっとも興味深い結合部位を表11および図2 に要約した。
【0147】
表11: AOX1 プロモーター配列内にみられた転写因子 (TF) 結合部位。大文字の塩基対はコア 配列を示し(マトリックスの4つのもっともよく保存された、連続残基)、下線を施した塩基対は情報含量が高いことを示す (最大100のなかでCi>60)。
【表11−1】

【表11−2】

* GFP-Zeo 遺伝子の翻訳開始点 (ATG)と比較しての与えられた位置を示す;推定転写因子結合部位のコア配列を大文字で示す。
c は相補鎖との相同性を示す。
【0148】
IV)メタノールに制御される遺伝子における制御配列
いくつかの配列がメタノール誘導性遺伝子の制御に関与していることが文献に記載されている。ピキア・パストリス AOX2 プロモーターの欠失分析に基づいて3つの調節領域が記載され、2つは負に作用する領域(URS1およびURS2、上流抑制配列)であり、1つは正に作用する領域 (UAS、上流活性化配列)である [3]。 ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha) MOX プロモーターについて、2つの上流活性化配列(UAS1およびUAS2)および1つの抑制因子結合部位 (URS1)が同様に記載されている [8]。
【0149】
V) AOX1 プロモーターの欠失コンストラクト
転写因子分析および複数配列アラインメントに基づき、 9つのプロモーター領域が先に記載のようにして重複伸長 PCRの欠失のために選択された。 AOX1 プロモーター欠失コンストラクトをpAOX ベクターにクローニングしてレポーター 遺伝子 GFP-Zeoの5'側の「野生型 AOX1」プロモーターを置換した。 プラスミドを直鎖化し、ピキア・パストリス ゲノムに組み込んだ。
【0150】
表12: AOX1 プロモーター コンストラクトにおいて欠失させた配列
【表12】

* 所与の位置は配列番号1に対して示されている。
【0151】
組み込み体を上記のようにGFP-Zeo 発現およびGFP-Zeo 遺伝子の前の正しいプロモーター配列の組込みについて分析した。1コピー組み込み体をマイクロスケールでの異なる炭素源でのそのGFP-Zeo 発現レベルについて更に分析した。すべてのコンストラクト(欠失 および野生型)において、グルコースまたはグリセロールが培地中に存在する限りGFP 蛍光 は検出できなかった (メタノール有りまたは無し)。抑制解除条件を表す炭素飢餓の際、GFP 蛍光のわずかな上昇が検出された。野生型と比較していくつかのプロモーター変異体は顕著な相違を示した (図3)。抑制解除条件下で有意に低いプロモーター活性が 6つのコンストラクト(Δ3、Δ4、Δ5、Δ7、Δ8 およびΔ9、図3参照)でみられた。Δ1は野生型活性を有していたが、コンストラクトΔ2およびΔ6*は有意に高い GFP-Zeo 発現をもたらした。後者の発現レベルは野生型レベルより顕著に高かった。
【0152】
メタノール誘導の際、1つを除いてすべての変異体は有意に低いプロモーター活性を示した: Δ1は野生型と比較して約20%高い活性をもたらした。その他の全ての変異体の活性の低下は図4にみられるように非常に顕著であった。
【0153】
メタノール誘導性野生型活性に対して規準化したすべての変異体および野生型コンストラクトのプロモーター 活性を表13に要約する。
【0154】
表13:マイクロスケールでのAOX1プロモーター変異体の蛍光強度。データは4つの独立実験の平均±SDを表す。WT プロモーター(100%)のメタノール誘導の72時間後の蛍光強度は987 ± 81である。グルコースが培地に存在する限り、蛍光は検出不可能であった。
【表13】

【0155】
コンストラクト Δ8におけるTATAボックスの欠失の結果、プロモーターが広範に破壊され、抑制解除および誘導条件でそれぞれ約 90%および80%の深刻な活性の低下が伴った。転写開始部位(initiation start)の実験的に測定した除去によっては (Ellis、S.B.、et al.、Mol. Cell. Biol. (1985) 5:1111-1121) (Δ9) 、かかる強力な発現レベルへの効果は観察されなかった。それはメタノール誘導後の最良の欠失コンストラクトの1つである。予測されたように、TATAボックスは転写レベルに深刻な影響を有していた。一方、転写開始部位(initiation start)はTATAボックスほど重要ではないようである。TATAボックスから規定された距離の別の領域は元のものの欠失後、転写開始として作用しうる。mRNAの5'末端は欠失により変化したため、発現プロセスのいくつかの段階に対するこの欠失の効果を推測することができる(例えば、転写開始、mRNA 安定性、翻訳開始) 。
【0156】
Δ2およびΔ6*の2つのコンストラクトのみが、抑制解除後に有意に高い発現レベルを示す。Rap1pおよびGcr1pの推定転写因子結合部位は欠失配列に含まれている。さらにQA-1Fの推定転写因子結合部位はΔ6*の欠失配列に非常に近い。注目すべきことに、Rap1p およびGcr1p 結合部位はプロモーター配列に存在する場合相乗的に作用することが知られている[21]。包括的転写因子 Rap1pはその結合部位および適当な転写因子との配列の関係に応じて様々な細胞機能(例えば、テロメア 構造、接合、翻訳、解糖)を有する [22-24]。上記のように、Gcr1pは解糖遺伝子の制御と協調に主要なものであり、出芽酵母(S. cerevisiae)における高レベル発現に絶対的に必要である。Rap1pおよび Gcr1pの結合部位は解糖遺伝子の上流活性化配列 (UAS)のコア領域の非常に近くに見いだされており、Gcr1p 結合はDNAをRap1pにより曲げることにより弱まる。一方、隣接 Rap1p 結合部位は遺伝子のGcr1p 依存的活性化の必要条件ではない。 Gcr1pは、より多数のCT-ボックスが存在する場合、その結合部位への結合を促進しうるようである。Rap1pとGcr1pならびにGcr1pとGcr1pとの明らかな相互作用が記載されているのに、いくらかのその他の因子がGcr1p および/または Rap1pと相互作用して複合体の活性を調節すると示唆されている。誘導機構に関する広範な知識が最近の30年間で得られた。
【0157】
上記の機能的UASにおけるGcr1pおよびRap1p 結合部位の上記のような必須の近接がAOX1 プロモーター配列にはみられなかった。そうではなく、この2つの結合部位は367 bp 離れている。推定 Gcr1p 結合部位のなかで、そのコア配列 CTTCCが2回AOX1 プロモーター配列に存在するが、Rap1p 結合部位またはその他のCTTCCモチーフにいずれもすぐに隣接していない。それゆえ多くの解糖遺伝子にみられるようなこれら2つの結合部位の相乗作用はないようである。Rap1pおよび Gcr1pの推定される役割は抑制解除条件下でのAOX1の抑制因子タンパク質であるという事実により、この推定される新規な細胞機能には2つのタンパク質の新しい (相互)作用様式が存在しうる。
【0158】
Δ6* 欠失 (推定 Gcr1p 結合部位を含む) の炭素飢餓の際の抑制における関与は、メタノール誘導無しで非常に高い GFP-Zeo 発現を示す多コピー株の観察により強調される。ピキア・パストリス X-33 d6*F10と称される、Δ1 Δ9群の最良のクローンのGFP-Zeo 発現を図5に示す。GFP-Zeo 発現は抑制解除後の(マイクロスケールで60時間)このΔ6* 多コピー株において、メタノール誘導後の1コピー野生型プロモーター株 (X-33 GFP-Zeo D2)よりも約 10%高い。メタノール誘導後のピキア・パストリス X-33 d6*F10の発現レベルはまた、野生型プロモーターを有する多コピー株よりも非常に高い(X-33 GFP-Zeo E2)。
【0159】
ピキア・パストリス AOX1および DAS1およびハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha) MOX プロモーター領域は出芽酵母(S. cerevisiae)においてレポーター酵素であるベータガラクトシダーゼ (大腸菌のlacZ)の発現を促進する[9]。出芽酵母(S. cerevisiae)におけるこれら遺伝子の制御パターンはその天然の宿主と類似している: グルコースは遺伝子発現を抑制する。炭素飢餓条件において発現はわずかに抑制解除され、炭素源としてのグリセロールが発現を誘導する。出芽酵母(S. cerevisiae)においてAOX1およびDAS1 調節領域の制御下で発現するベータガラクトシダーゼレベルは出芽酵母(S. cerevisiae)の強力なCYC1 (構成的)およびGAL2 (誘導性) プロモーターにより得られるレベルと匹敵する [9]。MOX プロモーターにより駆動される発現は出芽酵母(S. cerevisiae)においてエタノール、メタノールおよびオレイン酸によっても誘導されることが示された。さらなる非常に重要な知見はAdr1pのプロモーターの抑制解除/誘導への関与である。出芽酵母(S. cerevisiae)におけるADH2 (アルコール デヒドロゲナーゼ 2)およびいくつかのペルオキシソームタンパク質の陽性エフェクターであるAdr1pは [25]、グルコースが培地に存在しない場合、MOX プロモーターの陽性 エフェクターでもある。
【0160】
上記のようにAOX1 およびMOX 遺伝子の制御パターンは、グリセロールが存在する場合、MOXの抑制解除によりそれらの天然の宿主において有意に異なる。ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)におけるAOX1 プロモーター領域の使用により、AOX1 プロモーターは異種宿主においてグリセロールによって抑制されないことが明らかとなった [26]。したがって、異種 AOX1 プロモーターは、相同的MOX プロモーターのように制御されるようである。この結果、ピキア・パストリスおよびハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)の間の制御パターンにおける有意差は、これら2つの酵母における異なる炭素源に対する全体的転写応答に起因することが示唆される。即ち、グリセロールおよびグルコース抑制機構は(部分的に)、 ピキア・パストリスにおいて同一であるが、ハンセヌラ・ポリモルファ(H. polymorpha)においては(出芽酵母(S. cerevisiae)と同様に)状況が異なり、グリセロールがグルコース抑制機構を使用しない。
【0161】
AOX1 プロモーター配列にみられた3つの推定 HAP2/3/4/5 結合部位のうち2つはΔ1 欠失コンストラクト内にあり、もう1つはΔ5にある。Δ1の配列欠失の結果、メタノール誘導によりプロモーター活性が上昇するが、抑制解除によってはプロモーターレベルに対する効果は観察されなかった。一方、Δ5の欠失の結果、抑制解除および誘導条件下でプロモーター活性がかなり低下した。Δ1 欠失において、推定偽巣性コウジ菌(Aspergillus nidulans)abaA 結合部位がみられた。abaA 遺伝子産物は転写活性化因子であり、偽巣性コウジ菌における分生子柄 (無性生殖装置)の発達に関与している[27]。すべての推定結合部位は活性化因子配列である可能性があるので[27]、その欠失はΔ5 コンストラクトにみられるように発現レベルに対する負の効果を有しうる。両方の欠失が非常に長いという事実により、別の結合部位が観察された効果の原因である可能性がある。Δ1の欠失は発現レベルに逆の効果をもたらすという事実は、推定結合部位の1つが抑制因子モチーフであるか、あるいはもう一つの結合部位が存在し、推定 HAP およびabaA 結合部位の欠失の効果を超えて発現レベルを上昇させているということを示す。
【0162】
にもかかわらず、HAP 複合体は、出芽酵母(S. cerevisiae)において呼吸およびエネルギー代謝に関与している遺伝子の上方制御の原因であることが知られている。呼吸の制御は酸素レベルおよび培地に存在する炭素源によってコントロールされており、その両方がHap 複合体に媒介されている。発酵酵母である出芽酵母(S. cerevisiae)において、いくつかの遺伝子およびそれゆえ呼吸鎖ならびにクエン酸回路の機能がグルコースによって抑制される。呼吸のグルコース抑制は部分的にはHap 複合体によって媒介され、即ちグルコースが存在する限りHap4pの不在によって媒介される。一方、酸素-依存的制御はHap1pにより制御されているようである[28]。Hap 複合体遺伝子のホモログが呼吸酵母であるクルイヴェロマイセス・ラクティスにおいて単離された。呼吸に関与する遺伝子は、呼吸酵母において、グルコースの存在下であっても構成的に発現する。今日まで、ほとんどすべての呼吸鎖遺伝子がHap 複合体とは独立に制御されることが示されている [29]。Hap 複合体の役割は出芽酵母(S. cerevisiae)[30] および偽巣性コウジ菌 [29]においてみられるように炭素および窒素同化作用を協調させることであるようである。
【0163】
ピキア・パストリスにおいてAOX1 遺伝子産物により主に触媒されるメタノール利用経路の第一段階は、酸素消費である。エネルギー代謝に関与するほとんどの遺伝子および酸素消費酵素をコードするほとんどすべての遺伝子は酸素によって主にHap1p および/または Hap2/3/4/5pを介して制御されている[28]。唯一のエネルギーおよび炭素源としてメタノール上で培養した場合、メタノール利用経路は、炭素同化作用およびエネルギー産生をもたらす。AOX1 プロモーターの制御におけるHap 複合体 認識 モチーフ TTCCAAの関与は明らかである。
【0164】
第二の推定 HSF 結合部位を含むΔ4 コンストラクトは、抑制解除および誘導後、プロモーター活性の30%の低下をもたらす。それゆえ HSFは、抑制解除および誘導条件下でのAOX1 遺伝子発現の包括的エンハンサーである。出芽酵母(S. cerevisiae)において、いくつかのストレス条件、例えば、 熱ショック、酸化ストレスおよびグルコース飢餓により、HSFの活性化が導かれる。「代謝マスタースイッチ」の一つであるタンパク質キナーゼ Snf1pが、炭素飢餓の際のHSFのリン酸化およびそれゆえ活性化に関与していることも示された[31]。 したがってHSFのグルコース飢餓の際の(誘導有りまたは無しでの) AOX1の完全な活性化における関与が起こる。
【0165】
切断型および欠失配列を有する変異体を用いるAOX1 プロモーターに関する発現研究が従来技術に開示されている[32、33]。
【0166】
表14: Inan et al. [32、33]によるプロモーター研究の結果; 誘導は炭素源としての0.5% メタノールで行い、抑制は0.5% メタノールおよび0.5% エタノールで行った; 開始位置は翻訳開始点 (ATG)に対するAOX1 プロモーターにおける配列の5’末端を示す。
【表14】

【0167】
153 (-801) (表14) にて開始するコンストラクト Inan_BCDEFは、153 (-801)の上流の少なくとも1つ活性化因子タンパク質の結合部位を明らかにした。この活性化因子結合部位の候補はMatInspectorによってみられる相補鎖上でのHap1p (52〜 66、-902〜 -888)および HSF (135〜 155、-819〜 -799) の結合部位である。SacI 制限部位 (210-215 (-744〜 -739))での切断の結果、野生型プロモーター活性にほぼ達するプロモーターが生じた(Geoff Lin Cereghino、Poster、Sixth Meeting on “Current Topics in Gene Expression and Proteomics”、San Diego、October 19-22、2003)。SacI切断プロモーターコンストラクトにより野生型プロモーターレベルに達するために (pHWG0、Geoff Lin Cereghino、poster)、抑制因子タンパク質の第二の結合部位は210 (-744) の上流に存在し得、その欠失はプロモーター活性に同じ影響を有するが反対の方向である。Δ1 コンストラクト (Δ 169 (-784)〜 234 (-719))は抑制因子結合部位を含むため、抑制因子タンパク質の位置は169 (-784)と210 (-744)の間である。Δ1の欠失の結果、プロモーター活性が20%上昇し(表14)、これは活性化因子タンパク質結合部位の欠失による低下の範囲内である。
【0168】
Δ4 (Δ 508 (-445)〜 550 (-403))との比較により、抑制因子結合部位の位置はさらに433 (-520)と508 (-445)との間の配列に絞られる。というのは、Δ4 欠失は正に活性化する転写因子である、HSFを516〜 536 (-438〜 - 418)に含むからである。正に活性化するHSF (それがHSFであるならば)が提案された領域内に位置する場合、433と 508 (-520 と -445)との間の抑制因子結合部位のより強力な効果が示唆されうる。HSFの結合部位が508と 536 (-445と-418)との間の領域に位置する場合、さらなる活性化因子結合部位が536と560 (-418 と -393)との間に位置している。そうでなければそれはおそらく同一の結合部位であろう。野生型活性の16% にすぎないInanABCD_F (Δ 560〜 709 (-393〜 -245)) 変異体と同様に、Δ5 コンストラクト (624〜 682 (-329〜 -271))の結果、野生型 レベルの約 70%の低下が起こる。予測されたように、Inan B 断片の全長プロモーターからの欠失は(InanA_CDEFが生じる)、Inan_BCDEFからの欠失と同様に(Inan__CDEFが生じる)より長い断片のそれぞれ63 および 64%の低下をもたらす。 一方、全長 プロモーターからのC 断片の欠失はプロモーター 活性を約 10%上昇させ、切断型 Inan__CDEF 断片からの欠失は49〜 14%の低下をもたらす(表14)。その説明は転写因子のその結合部位との関係に依存する協力的な結合である。713と760 (-241〜 -194) の間に、最後の活性化因子タンパク質結合部位が位置する(Geoff Lin Cereghino、Poster San Diego)。さらにΔ7 コンストラクト (Δ 729〜 763、-225〜 -191)により、活性化因子の位置は729 (-225)まで下流に絞られる。
【0169】
結論づけると、AOX1 プロモーターの発現レベルに強力な影響を有するいくつかの領域が見いだされた。本明細書に提供する実施例からの制御部位とその他のすべての既知の制御部位とを組み合わせると、TATAボックスと転写開始部位を含む領域を除き、少なくとも 10の制御部位が PAOX1 プロモーター配列に存在する。
【0170】
得られたデータにより、AOX1 プロモーターの組織化された制御が明らかとなった: 最大発現レベルのためにはいくつかの因子がDNAに結合することが必要である。誘導条件下において、いくつかの正に作用する転写因子(活性化因子)がDNAに結合するが、ほとんどの抑制因子タンパク質は結合しなかった結果、高発現レベルとなった。抑制解除されると、プロモーター活性は誘導レベルのわずかなパーセンテージ(~3%)にしか達しなかった。これはおそらくプロモーター領域に結合する活性化因子がより少なく抑制因子タンパク質がより多いことによる。抑制条件下では、活性化因子はDNAに結合せず、いくつかの抑制因子がDNAに結合し、抑制条件下ではさらに抑制因子/活性化因子比が上昇すると予測できる。
【0171】
グルコースに抑制された出芽酵母(S. cerevisiae)のADH2 (アルコール デヒドロゲナーゼ 2) プロモーターについて、ヌクレオソームにすぐに隣接している活性化因子タンパク質(例えば、Adr1p)の結合が、抑制解除の際にクロマチンの不安定化、それゆえ再編成を導くことが示された。再編成はTATAボックスおよび転写開始部位の領域において起こり、それゆえそれらとの接近可能性が上昇する。接近可能性が高くなることにより、安定な前開始複合体の形成が起こり、それゆえプロモーター活性が基底レベルにまで上昇する。PAOX1に駆動される発現を促進するいくつかの転写因子の結合において、少なくとも抑制解除については類似の機構が推測できる。すべてのデータおよび推測をまとめると、AOX1 プロモーターの制御は高度に複雑であり、いくつかの (正および負に作用する) 転写因子の推定結合部位は高度に協調した機構であることが判明し、これによりAOX1 プロモーターの制御のための多数のシグナルを統合することが可能である。
【0172】
VI) AOX1 プロモーターのPCR 突然変異誘発
このたび、転写因子結合部位のコア配列内の特異的突然変異の結果、そのエフェクター能力が有意に変化することが示された。おそらくいくつかの活性化因子および抑制因子タンパク質がAOX1 プロモーターに作用する結果、その非常に強力な制御が導かれる(グルコース下ではほとんど活性はなく、メタノール中では非常に活性は高い)。それゆえAOX1 プロモーターのランダム突然変異誘発の結果、抑制因子結合部位活性が破壊または低下したいくつかのプロモーター変異体が生じるはずである。様々な突然変異率の一連のPCR 反応を行った。その結果得られるプロモーター変異体をAOX1 遺伝子がGFP-Zeo株によって置換されているピキア・パストリス GFP-Zeo MutS A9 株に形質転換した。野生型 AOX1 プロモーターの突然変異誘発したプロモーター変異体による置換が特定の率で起こるはずである。グルコースが培地に存在する場合により高い発現速度を示すプロモーター 変異体のスクリーニングをMD-Zeo 寒天プレートで行った。
【0173】
100 μg/ml ゼオシン(商標)を含有するMD 寒天プレートに播種した結果、ピキア・パストリス 細胞によりプレートに斑点が生じたが、シングルコロニーは現れなかった。選択圧が野生型株の成長を抑制するのに十分ではなかったようである。グルコースが存在する場合ピキア・パストリス GFP-Zeo MutS A9 株において蛍光は検出できなかったが、いくつかのGFP-Zeo タンパク質が細胞中で発現してゼオシン(商標) 耐性を付与しているようであった。GFP-Zeo MutS A9 株の成長阻害のためのより高いゼオシン(商標) 濃度を試験するために、以前に記載のようにしてドロップ試験を行った。
【0174】
図6から明らかなように、200 μg/mlまでの上昇によっては、AOX1 プロモーターの制御下でGFP-Zeo 遺伝子を担持するピキア・パストリス株の細胞生存度は低下しなかったが (100 μg/mlと比較して)、500 μg/mlまで上昇させると細胞生存度は低下した。プロモーターの突然変異誘発の結果、わずかに発現レベルが上昇するはずであると推定され、それゆえ 500 μg/ml ゼオシン(商標)の選択圧は高すぎるようである。最終的に 350 μg/mlを突然変異誘発プロモーター変異体のすべてのさらなるスクリーニングのために選択した。
【0175】
多くのプロモーター領域が関与している非常に複雑な転写制御により、高い突然変異誘発率を用いるランダム突然変異誘発アプローチが 有益である。
【0176】
実施例2: プロモーター欠失の作製
実施例1の結果に基づき、第二世代の欠失変異体を作製した。第一の群と異なり、これら新しい欠失コンストラクトにおいては、推定転写因子結合部位の短い特定の配列ストレッチのみ(5-15 bp)を欠失させた(表15)。
【0177】
表15:抑制解除 (グルコース飢餓)およびメタノール誘導の際の発現レベルに対する特定の転写因子結合部位の欠失の効果。突然変異 Δ1-Δ9 および単一突然変異の組合せも示す。すべての数値は同じ条件下での野生型プロモーター活性と比較しての相対的プロモーター活性である。
【表15−1】

【表15−2】

【表15−3】

【表15−4】

【0178】
材料および方法:
a) 突然変異誘発:
すべての欠失はWang et al.[34]にしたがって2段階部位特異的突然変異誘発-プロトコールを用いて導入した。第一段階において2つの別の反応 (1つはフォワードプライマーのため、1つはリバースプライマーのため)を評価した(100 ng pAOX 鋳型、15 pmol プライマー、200 μMの 各 dATP、dTTP、dCTPおよびdGTP、2.5 U PfuUltra(商標) ポリメラーゼ、適当なバッファー条件中総体積50 μl)。25 μlのこれら2つのPCR 反応を合わせ、第二のPCR 反応工程を行った。
【0179】
1 μlの DpnI 制限酵素 (10 u/μl)を30 μlの第二PCR 反応工程に添加し、1時間37℃でインキュベートした。1-5 μlの DpnI消化PCR 反応を電気コンピテント大腸菌細胞に形質転換し[16]、 1時間のSOC 培地での再生時間の後LB-Amp プレートに播いた。
【0180】
表16:転写因子結合部位欠失の部位特異的突然変異誘発のためのプライマー
【表16−1】

【表16−2】

【表16−3】

【0181】
b) ピキア・パストリス形質転換およびクローンの特徴決定:
上記のように構築したプラスミドを調製し、実施例1に記載のようにピキア・パストリスに形質転換した。
【0182】
結果および考察:
発現レベルに対する強力な効果が、すべての突然変異が有意な正または負のプロモーター活性に対する効果を有していた実施例1のより大きい欠失について既に記載したように、実施例2の短い突然変異によって観察された。特定の転写因子結合部位の短い欠失はプロモーター活性に強力な効果を有し、個々の制御部位 (例えば、転写因子結合部位)の調節特性に関するより正確な情報を与える。Gcr1は、その結合部位がΔ6 欠失に含まれるため特に興味深い。pAOXΔ6 欠失 突然変異体のプロモーター領域およびピキア・パストリス クローンのゲノム DNAのコロニー PCR産物の配列決定により、プロモーター領域におけるさらなる欠失が明らかとなった(配列番号1のヌクレオチド737〜 738 (-217〜 -216)の欠失)。このプロモーター変異体はプロモーター活性の上昇を導く結果、抑制解除条件下においてより高い発現速度が達成されるという事実により、このさらなる突然変異を本発明によるプロモーターに導入するとかかる条件下でタンパク質発現を上昇させることが出来る。
【0183】
さらなる欠失 (配列番号1のヌクレオチド736〜 741 (-218〜 -213)の欠失)を有するQA-1F クローンのプロモーター活性は、このさらなる欠失を有さないΔQA-1F プロモーターと比較して有意差がある: 活性は野生型活性の~30% (抑制解除)および~100% (誘導)から (AOX1ΔQA-1F、表15参照) ~140%および~70%までそれぞれ変化した(AOX1ΔQA-1Fzus、表15参照)。これら6ヌクレオチドのさらなる欠失はプロモーター活性に劇的に影響を与えるようである。したがって、この突然変異(Δ736-741)を担持する新しいプロモーター変異体を上記のように部位特異的突然変異誘発プロトコールによって導入した。この領域における偶発的かつ独立に2倍となる両方の突然変異の結果、抑制解除条件下でプロモーター活性が上昇した。両方のコンストラクトにおいて第二のそしておそらくは負に影響する突然変異が存在するのに、プロモーター活性が上昇することは注目に値する。
【0184】
Δ2とΔ6の組合せ (Δ2Δ6)を単一欠失と同様に重複伸長 PCRによって作製した。両方の断片の欠失の結果、抑制解除条件下および誘導条件下でプロモーター活性の非常に強力な低下が起こることが表17 から明らかである。上記のようにΔ6* コンストラクトと比較してこのコンストラクトにもさらなるTA 欠失は存在しないので、この結果は、偶発的に生じたさらなる突然変異 (Δ737-38)により炭素飢餓の際にプロモーター活性が上昇するという推測を支持する。
【0185】
いくつかの欠失の結果、プロモーター活性の劇的な低下が起こった(例えば、Hsf、Hap1 および Hap2345_1)。これら推定結合部位は配列重複の魅力的な標的であり、プロモーター活性の上昇を導くはずである。
【0186】
興味深いことに、部位特異的突然変異誘発により作製したΔ736-741 変異体の4つのクローンのうち2つにおいて、位置 552〜 560 (-402〜 -394)の9 ヌクレオチド(TTGGTATTG)の新しい欠失が見いだされた。欠失が異なる領域にみられたという効果は、ΔHsf_2 コンストラクトにおいてもみられた。かかる効果は部分的配列相同性に起因すると考えられる。したがってかかるさらに欠失した領域 (Δ552-560、Δ737-38および Δ736-41)および近隣の配列(5 bp 上流および下流)も推定転写因子結合部位であり、それゆえ欠失および重複のための非常に興味深い標的である。欠失変異体 Δ736-41の結果、メタノール誘導条件下での発現レベルがさらに低下した。
【0187】
多コピー株:
ほとんどの場合において多コピー株の作製の結果、GFP-Zeo 超発現株が生じた。多くの場合、これらの株は主にメタノール誘導条件下でd6*F10 株より高い発現レベルを有する。多コピー株の作製はいくつかのコンストラクト、特にΔ6* コンストラクト、二重欠失 d2d6、コンストラクト、例えばΔ1、Δ2 およびΔ6* 欠失ならびに例えば、Gcr1、Rap1、abaA、Hap2345_1、また例えば、QA-1F、Adr1、Hsf_2_Mat1MC およびHsf_2_Hap2345_1 (図7参照)により達成可能である。これらの株において誘導条件下でd6*F10 株と比較してより高い発現速度がみられる。一方、d6*F10 株は既知の抑制解除条件下まで、作製したいずれかのその他の株よりも多くのGFP-Zeoを産生することが出来た。Δ6* コンストラクトのピキア・パストリスへの形質転換の繰り返しの結果、多数の多コピー株が生じ、これらは特に抑制解除条件下でd6*F10 株と匹敵する活性であった(図8)。
【0188】
野生型プロモーターコンストラクトを用いると、プロモーター 変異体を用いる場合より低頻度の多コピー株(例えば、E2 株)が観察された。2-4倍多くの形質転換体を分析したが、最良の形質転換体 E2の発現レベルは1コピー形質転換体の2倍にすぎなかった。結論づけると、プロモーター変異体の形質転換の結果、より高頻度の多コピー株が得られ、これらの株は多コピー野生型プロモーター株よりも多重により生産性である。
【0189】
実施例3: 代替のレポータータンパク質
すべてのGFP-Zeoの結果のその他の基本的によく発現する工業的に関連するタンパク質(例えば、酵素)への適用可能性を試験するために、いくつかのプロモーター変異体をかかるレポーター酵素(例えば、PaHNL5αおよびHRP)の前にクローニングした。
【0190】
クローニング:
プロモーター変異体をベクターpPICZαB-HRP-WT [35]およびpGAPZ A-PaHNL5αにクローニングした。pPICZαB-HRP-WTにおけるプロモーター交換のために、NdeI 制限部位を部位特異的突然変異誘発によりプロモーターの5’末端に挿入した(鋳型として100 ng ベクター、プライマー Nde1PICZforおよびNde1PICZrev - 表18参照)。その結果得られたベクターをpPICZαB-NdeI-HRP-WTと称した。
【0191】
表18: pPICZαB-HRP-WT におけるNdeI 制限部位の導入およびプロモーター交換のための部位特異的突然変異誘発用プライマー
【表17】

【0192】
pGAPZ A-PaHNL5α 発現クローンのために、 PaHNL5α遺伝子をまずpHIL-D2 ベクター (Glieder、A.、et al. Angew. Chemie Int. Ed. 2003)からpGAPZ A ベクターにクローニングし、その結果、プラスミド pGAPZA-PaHNL5αを得た。プロモーター変異体のpGAPZ A-PaHNL5αへのクローニングは、 pGAPZ A-PaHNL5αおよびpAOXΔ プラスミドのEcoRI/BglII 消化の後に直接行うことが出来た。pPICZαB-NdeI-HRP-WTにおける交換のために、プロモーター変異体をプライマーAOX1NDE1およびAOX1revを用いてPCRにより増幅した (表18参照、適当なバッファー条件中総体積50 μlにて、10 ng pAOXΔ、10 pmol プライマー AOX1NDE1 およびAOX1rev、200 μM 各 dNTP、0.6 u Phusion(商標) ポリメラーゼ)。PCR産物およびpPICZαB-NdeI-HRP-WT プラスミドをNdeI/HindIII 制限部位を用いてクローニングした。
【0193】
形質転換、培養および酵素アッセイ:
ピキア・パストリス形質転換のために、すべてのHRP ベクターをNdeIで直鎖化し、すべてのPaHNL5α プラスミドをBglIIで直鎖化した。形質転換は実施例1に記載のようにして行った。ピキア・パストリス株の培養も実施例1に記載のようにして行ったが、わずかにそれを改変した。最初の BMD(1%)の量を350 μlに増やし、60 時間後100 μlの 培養液をとって遠心分離した(4000 rpm、4℃ 、10分間)。メタノール誘導は実施例1とまったく同様にして行った。
【0194】
50 μl (抑制解除)または10 μl (誘導)の遠心分離からの上清を取ってHNL アッセイに供し、両方の条件の15 μlを HRP アッセイに供した。
【0195】
HRP アッセイ ( [35]による):
15 μlの上清をPS マイクロタイタープレート中の50mM NaOAc バッファー pH 4.5中の150 μl 1mM ABTS/2,9mM H2O2 に添加した。吸収は5 分間405nmでSpectramax Plus384 プレートリーダー (Molecular Devices、Sunnyvale、CA、USA)で測定した。
【0196】
HNL アッセイ ([36] による):
50 μlまたは10 μlの 上清をUV-Star マイクロタイタープレート中の100または140 μl 0.05M リン酸クエン酸バッファー pH 5.0に添加した。反応を50 μlの0.06 M マンデロニトリル溶液 (0.003 M リン酸クエン酸バッファー pH 3.5中)の添加により開始させ、 5 分間280 nmでSpectramax Plus384 プレートリーダー (Molecular Devices、Sunnyvale、CA、USA)で測定した。
【0197】
結果および考察:
代替のレポータータンパク質である PaHNL5αおよび HRP を用いた結果は、明らかにGFP-Zeoを用いて検出されたプロモーター活性の転換能力を示す(表17)。
【0198】
HRP アッセイの感受性が低いために、抑制解除条件での発現レベルは検出限界未満であった。したがってHRP 発現は抑制解除条件下では測定できなかった。
【0199】
表17:代替のレポーター酵素を有するいくつかの AOX1プロモーター変異体のプロモーター活性(括弧内には同じ条件下での野生型プロモーターと比較した相対活性を示す(それぞれ抑制解除および誘導))。
【表18】

【0200】
多コピー選抜を代替のレポーター系に移すため、AOX1プロモーター変異体を適当な HRPおよびPaHNL5α プラスミド中のゼオシン耐性遺伝子の前にクローニングすることによって、TEF1 プロモーターを置換した。
【0201】
実施例4: 代替のレポータータンパク質 GFP
GFPを有するプロモーター変異体を試験するために、実施例1および2に記載のプロモーター変異体をサイクル-3-GFP 遺伝子の前にクローニングしした。
【0202】
クローニング:
ベクター pAOXにおけるサイクル-3-GFP中の内部 BamHIおよびXhoI 制限部位をプライマー Bam-del-fおよびXho-del-f (表19)および鋳型として100 ng ベクターを用いる部位特異的突然変異誘発によって欠失させた。GFP 断片をその結果得られたプラスミド (10 ng)からプライマーGFP-Zeo forw (配列番号 4、表 7、10 pmol)およびwtGFP-XhoI-r (表19、10 pmol)およびPhusion(商標) ポリメラーゼを用いる適当な条件下でのPCRにより増幅した。その結果得られたPCR産物をEcoRI/XhoI 制限切断およびT4 DNA リガーゼを用いるライゲーションの実施によってベクター pPICZ Bにクローニングした。その結果得られたプラスミドをpPICZ-GFPと称した。
【0203】
すべてのプロモーター変異体のpPICZ-GFPへのクローニングは、pPICZ-GFPおよびpAOXΔ プラスミドのBglII/EcoRI 消化後直接行うことが出来た。
【0204】
表19:ベクター pAOXにおけるサイクル-3-GFPの部位特異的突然変異誘発およびそのGFP 断片の増幅用のプライマー
【表19】

【0205】
形質転換、培養およびGFP 検出:
ピキア・パストリス形質転換のためにすべてのプラスミドをBglIIによって直鎖化した。形質転換を実施例1に記載のように行った。形質転換および2時間の再生相の後、細胞を、100 μg/ml ゼオシンを含有するYPD-Zeo 寒天プレートに播いた。
【0206】
ピキア・パストリスの培養、メタノール誘導およびGFP 蛍光の測定は実施例1の記載と同様にして行った。
【0207】
結果および考察:
この場合も、GFPをレポーター系として用いる結果は、 GFP-Zeoを用いて検出されるプロモーター活性の転換能力を示す(表20)。
【0208】
多コピー株:
実施例1および2に記載のように、ゼオシンを選抜マーカーとして用いる多コピー株の発生は非常に一般的である。多コピー株の頻度は、選抜プレート上のゼオシン濃度をそれぞれ500 および1000 μg/mlに上昇させることによって劇的に上昇させることが出来た。
【0209】
表20: GFPおよびGFP-Zeoをレポーター遺伝子として有するいくつかのAOX1プロモーター変異体の同じ条件下での野生型プロモーターと比較しての相対プロモーター活性(それぞれ抑制解除および誘導)。
【表20】

【0210】
実施例5: GFPを用いる十分な群
ほとんどすべての転写因子結合部位を有さない系におけるAOX1 プロモーターの小部分を試験するために、AOX1 プロモーターを、位置 -176 および-194においてTATAボックスの前の数塩基対を切断して、基本プロモーター要素AOX176 および AOX194 (表21)を得た。基本プロモーター断片の前のプロモーター要素のクローニングならびに基本プロモーターのクローニングを可能とするために、 BspTI およびEcoRI 制限部位をそれぞれ5'および3’末端に挿入した。
【0211】
表21:基本 AOX1 プロモーター要素AOX176および AOX194ならびに基本プロモーター変異体の前に付加されるプロモーター断片 737および201-214の配列。制限部位BspTIおよびEcoRIを下線で示す。
【表21】

【0212】
クローニング:
基本 AOX1要素をpAOX (10 ng)から、プライマーAOX1basalrv (表21、10 pmol)およびAOXbasalfwn (10 pmol、AOX194)およびAOX176fw (10 pmol、AOX176)をそれぞれ用いて増幅した。PCR はPhusion(商標) ポリメラーゼ (0.6 u)を用いて適当な条件で総体積 50 μlにて行った。
【0213】
プロモーター 変異体 AOX176-737は上記のようにプライマーAOX1basalrv および737-38AOX176を用いてPCRにより増幅した。プロモーター変異体 AOX176-201-214を上記のようにプライマー AOX1basalrv および201-214AOX176を用いてPCRにより増幅した。
【0214】
その結果得られたPCR産物を BglII/EcoRI 制限切断およびT4 DNA リガーゼを用いたライゲーションを行ってベクター pPICZ-GFP にクローニングすることにより、野生型 AOX1 プロモーターを置換した。
【0215】
【化1】

【0216】
4 つのオリゴヌクレオチド、Leu2basal1f、Leu2basal2f、Leu2basal1r およびLeu2basal2r (各25pmol)を総体積20 μlとして混合し、95℃で2 分間加熱し、室温までゆっくりと冷却した。3 μlの混合物を159 ngのpPICZ-GFP BglII/EcoRI 断片と6時間16℃でライゲーションした。大腸菌への形質転換後、その結果得られたベクターをpLeu2basal-GFPと称した。
【0217】
プロモーター変異体 Leu2-737をプライマーs LEU2basalrvおよび737-38Leu2そして鋳型としてpLeu2basal-GFPを用いて上記のようにPCRにより増幅した。その結果得られたPCR産物をBglII/EcoRI 制限切断およびT4 DNA リガーゼを用いるライゲーションを行ってベクター pPICZ-GFP にクローニングし、それにより野生型 AOX1 プロモーターを置換した。その結果得られたプラスミドをpLeu2-GFP-737と称した。
【0218】
表22:基本プロモーター要素および十分なコンストラクトの作製用プライマー
【表22】

【0219】
形質転換、培養および GFP 検出:
ピキア・パストリス 形質転換のために、すべてのプラスミドをBamHIにより直鎖化した。形質転換を実施例1に記載のように行った。形質転換および2時間の再生相の後、細胞を100 μg/ml ゼオシンを含有するYPD-Zeo 寒天プレートに播いた。
【0220】
ピキア・パストリスの培養、メタノール誘導およびGFP 蛍光の測定は実施例1の記載と同様に行った。
【0221】
結果および考察:
この実験は、実施例1および2にて同定した小さい要素の付加が、AOX1 プロモーターまたは出芽酵母(S. cerevisiae) LEU2 プロモーター由来の基本プロモーター要素のプロモーター強度の上昇に利用できることを示す。
【0222】
多コピー株:
形質転換後にみられる多コピー株の発生および頻度は実施例4に記載のものとまったく同様であった。プラスミド内の直鎖化の部位が異なることは、多コピー株の作製に影響を与えなかった。
【0223】
表23:制御因子結合部位として作用すると推定される小さいAOX1 プロモーター 断片を含まない、およびかかる断片の付加後の基本プロモーター要素のプロモーター活性。GFP をレポータータンパク質として用いた。1コピー 株および多コピー株を示す。
【表23】

【0224】
参考文献:
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【0225】
配列表:
配列番号1: ピキア・パストリスのAOX1 プロモーター
【化2】

【図面の簡単な説明】
【0226】
【図1】図1は、マイクロスケールでのメタノールによる誘導前(A)および誘導の24時間後 (B)および72時間後 (C)のGFP-Zeoを発現するピキア・パストリス株のSDS-PAGEを示す。サンプルは実施例1 h)に記載のように調製した。 レーン 1はX-33 (陰性対照)、レーン 2-4は X-33 GFP-Zeo 株 MutS A9、D2およびE2、レーン 5は X-33 d6*F10である。42 kDaの強いバンドがすべてのGFP-Zeo クローンに存在する。
【図2】図2は、AOX1 プロモーター領域およびいくらかの転写因子結合部位内の配列欠失の概要を示す。領域デルタ1-9を重複伸長(overlap extension)PCRにより欠失させた。
【図3】図3は、AOX1プロモーター変異体のマイクロスケールでの抑制解除後(炭素飢餓)の蛍光強度の棒グラフを示す。細胞を1% グルコースでマイクロスケールで培養した。データは4独立実験の平均 ± SDを表す。RFU: 相対蛍光単位; WT:野生型 AOX1 プロモーターの制御下でGFP-Zeoを有するピキア・パストリス株 GFP-Zeo D2; D1-D9: GFP-Zeo 遺伝子の前の欠失コンストラクトAOX1Δ 1-Δ9を有するピキア・パストリス株; EX. 励起波長; EM: 発光波長。
【図4】図4は、マイクロスケールでのメタノール誘導後のAOX1プロモーター変異体の蛍光強度の棒グラフを示す。細胞は 1% グルコースでマイクロスケールで培養した。データは4独立実験の平均 ± SDを表す。RFU: 相対蛍光単位; WT:野生型 AOX1 プロモーターの制御下でGFP-Zeoを有するピキア・パストリス株 GFP-Zeo D2; D1-D9: GFP-Zeo 遺伝子の前に欠失コンストラクトAOX1Δ 1-Δ9を有するピキア・パストリス株; EX. 励起波長; EM: 発光波長。
【図5】図5は、選択したAOX1プロモーター変異体のマイクロスケールでの蛍光強度の棒グラフを示す。野生型およびΔ6 プロモーター 変異体を有する1コピー 株および多コピー株の抑制解除および誘導条件下での発現レベルを示す。データは4独立実験の平均 ± SDを表す。WT:野生型 AOX1 プロモーターを有する1コピー GFP-Zeo 株(GFP-Zeo D2)、D6: 1コピー AOX1Δ6* クローン; WT_E2: 野生型 AOX1 プロモーターを有する多コピー GFP-Zeo クローン; D6* F10: 多コピー AOX1Δ6* クローン (X-33 d6F10)。
【図6】図6は、異なるゼオシン(商標) 濃度を有するMD およびMDM 寒天プレート上でのピキア・パストリス株のドロップ試験の結果を示す。細胞をBMD(1%) 培地で OD595が1.5になるまで培養し、10倍ずつ希釈して最終希釈率105 とし、48ピン・レプリケータを用いて寒天プレートに移した。図の上の数は希釈係数を示し、これはすべてのプレートで同一である。MD 培地は上記のように調製した。MDM-Zeo プレート中のメタノールは終濃度約 0.5%にて添加した。ゼオシン(商標) はそれぞれ終濃度100、200 および500 μg/mlになるように添加した。 X-33: ピキア・パストリス X-33、A9: ピキア・パストリス GFP-Zeo MutS A9、D2: ピキア・パストリス GFP-Zeo D2、E2: ピキア・パストリス GFP-Zeo E2。
【図7】図7は、参照株と比較してのいくつかの多コピー株の発現レベルを示す; a)抑制解除条件下での活性; b)メタノール誘導後の活性。
【図8】図8は、参照株と比較しての抑制解除および誘導条件下でのΔ6* 多コピー株の発現レベルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群から選択される少なくとも1つの突然変異を含む、野生型ピキア・パストリス AOX1 プロモーター (配列番号1)の突然変異体ピキア・パストリス・アルコールオキシダーゼ 1 (AOX1) プロモーター:
a)転写因子結合部位 (TFBS)、
b) 配列番号1のヌクレオチド170〜235 (-784〜 -719)、ヌクレオチド170〜 191 (-784〜 -763)、ヌクレオチド192〜 213 (-762〜 -741)、ヌクレオチド192〜 210 (-762〜 -744)、ヌクレオチド207〜 209 (-747〜 -745)、ヌクレオチド214〜 235 (-740〜 -719)、ヌクレオチド304〜 350 (-650〜 -604)、ヌクレオチド364〜 393 (-590〜 -561)、ヌクレオチド434〜 508 (-520〜 -446)、ヌクレオチド509〜 551 (-445〜 -403)、ヌクレオチド552〜 560 (-402〜 -394)、ヌクレオチド585〜 617 (-369〜 -337)、ヌクレオチド621〜 660 (-333〜 -294)、ヌクレオチド625〜 683 (-329〜 -271)、ヌクレオチド736〜 741 (-218〜 -213)、ヌクレオチド737〜 738 (-217〜 -216)、ヌクレオチド726〜 755 (-228〜 -199)、ヌクレオチド784〜 800 (-170〜 -154) またはヌクレオチド823〜 861 (-131〜 -93)、およびそれらの組合せ。
【請求項2】
配列番号1のヌクレオチド694〜 723 (-260〜231) および/またはヌクレオチド729〜 763 (-225〜 -191)の突然変異をさらに含む、請求項 1のプロモーター。
【請求項3】
突然変異が、欠失、置換、挿入、逆位および/または増幅である、請求項 1または2のプロモーター。
【請求項4】
転写因子結合部位 (TFBS)が、Hap1、Hsf、Hap234、abaA、Stre、Rap1、Adr1、Mat1MC、Gcr1およびQA-1Fからなる群から選択される、請求項1〜 3のいずれかのプロモーター。
【請求項5】
転写因子結合部位 (TFBS) Hap1が、配列番号1のヌクレオチド54〜 58、Hsfが配列番号1のヌクレオチド142〜 149および 517〜 524、Hap234が配列番号1のヌクレオチド196〜 200、206〜 210および 668〜 672、abaAが配列番号1のヌクレオチド219〜 224、Streが配列番号1のヌクレオチド281〜 285、Rap1 が配列番号1のヌクレオチド335〜 339、Adr1が配列番号1のヌクレオチド371〜 377、Mat1MCが配列番号1のヌクレオチド683〜 687、Gcr1が配列番号1のヌクレオチド702〜 706および QA-1F が配列番号1のヌクレオチド747〜 761を含む、請求項 4のプロモーター。
【請求項6】
請求項1〜 5のいずれかの少なくとも1つの突然変異体ピキア・パストリス・アルコールオキシダーゼ 1 (AOX1) プロモーターおよびタンパク質 (ペプチド)または機能的核酸をコードする少なくとも1つ核酸を含む核酸分子であって、該プロモーターおよび該核酸が互いに作動可能に連結して1コピーまたは多コピー発現カセットを形成している核酸分子。
【請求項7】
請求項1〜 5のいずれかの突然変異体ピキア・パストリス・アルコールオキシダーゼ 1 (AOX1) プロモーターまたは請求項 6の核酸分子を含むベクター。
【請求項8】
請求項 1〜 5のいずれかの少なくとも1つの突然変異体ピキア・パストリス・アルコールオキシダーゼ 1 (AOX1) プロモーター、請求項 6の少なくとも1つの核酸断片または請求項 7の少なくとも1つのベクターを含む細胞。
【請求項9】
真核生物細胞、特に酵母細胞、好ましくはメチロトローフ酵母細胞である、請求項 8の細胞。
【請求項10】
該メチロトローフ酵母細胞が、カンジダ、ハンゼヌラ、ピキアおよびトルプロシスからなる群から選択される、請求項 9の細胞。
【請求項11】
ピキア・パストリス細胞である、請求項8〜 10のいずれかの細胞。
【請求項12】
以下を含む選択されたタンパク質の発現のためのキット:
i) 請求項 7のベクター、および
ii)請求項 1〜 5のいずれかのプロモーターの制御下で該タンパク質を発現することが出来る細胞。
【請求項13】
該細胞が、酵母細胞、好ましくはメチロトローフ酵母細胞である、請求項 12のキット。
【請求項14】
該メチロトローフ酵母細胞が、カンジダ、ハンゼヌラ、ピキアおよびトルプロシスからなる群から選択される、請求項 13のキット。
【請求項15】
細胞がピキア・パストリス細胞である、請求項12〜 14のいずれかのキット。
【請求項16】
以下の工程を含む、細胞において組換えタンパク質、ペプチドまたは機能的核酸を発現させる方法:
-請求項1〜 5 のいずれかのAOX1 プロモーターおよび、タンパク質、ペプチドまたは機能的核酸をコードする核酸を含み、該プロモーターが該核酸に作動可能に連結している、請求項 6の核酸分子または請求項 7のベクターを提供する工程、
-該細胞を該ベクターまたは該核酸分子で形質転換する工程、
-形質転換細胞を好適な培地で培養する工程、
-所望により、該タンパク質、ペプチドまたは機能的核酸の発現を誘導する工程、および、
- 該発現したタンパク質、ペプチドまたは機能的核酸を単離する工程。
【請求項17】
該細胞が、酵母細胞、好ましくはメチロトローフ酵母細胞である、請求項 16の方法。
【請求項18】
該メチロトローフ酵母細胞が、カンジダ、ハンゼヌラ、ピキアおよびトルプロシスからなる群から選択される、請求項 17の方法。
【請求項19】
細胞がピキア・パストリス細胞である、請求項 16〜 18のいずれかの方法。
【請求項20】
請求項 6の核酸分子、請求項 7のベクターまたは請求項8〜 11のいずれかの細胞の、タンパク質、ペプチドまたは機能的核酸の発現のための使用。
【請求項21】
以下の工程を含む、超発現クローンを単離する方法:
a)タンパク質または機能的核酸をコードする核酸およびマーカー耐性遺伝子に作動可能に連結している突然変異させたメタノール誘導性プロモーター、好ましくはAOX1 プロモーターを含む核酸分子またはベクターを、細胞に導入する工程、
b)工程a)の細胞を、誘導条件下での超発現クローンの選択的増殖のための、適当な選抜マーカー、非抑制性炭素源およびメタノールを含む培地、または、抑制解除条件下での超発現クローンの選択的増殖のための適当な選抜マーカーおよび非抑制性炭素源を含み、メタノールを含まない培地に移す工程、
c)工程b)からの細胞を該培地上でインキュベートする工程、
d)工程c)から得た細胞のコロニーを単離する工程、および、
e)該細胞の発現速度を測定することにより、超発現クローンを検出する工程。
【請求項22】
選抜マーカーが、抗生物質、好ましくはゼオシンまたはジェネテシンである、請求項 21の方法。
【請求項23】
選抜マーカーがゼオシンであり、マーカー耐性遺伝子がsh ble 遺伝子である、請求項 21または 22の方法。
【請求項24】
核酸分子が請求項 6の核酸分子である、請求項21〜 23のいずれかの方法。
【請求項25】
ベクターが請求項 7のベクターである、請求項21〜 23のいずれかの方法。
【請求項26】
細胞が、酵母細胞、好ましくはメチロトローフ酵母細胞である、請求項21〜 25のいずれかの方法。
【請求項27】
該メチロトローフ酵母細胞が、カンジダ、ハンゼヌラ、ピキアおよびトルプロシスからなる群から選択される、請求項 26の方法。
【請求項28】
細胞がピキア・パストリス細胞である、請求項 21〜 27のいずれかの方法。
【請求項29】
非抑制性炭素源が、アラニン、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、ラクトース およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項21〜 28のいずれかの方法。
【請求項30】
核酸分子またはベクターが細胞に、形質転換、好ましくはエレクトロポレーションまたは化学的形質転換により、またはプロトプラスト融合により、または粒子銃により、導入される、請求項21〜 29のいずれかの方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−531000(P2008−531000A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−556461(P2007−556461)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際出願番号】PCT/AT2006/000079
【国際公開番号】WO2006/089329
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(507282901)テッヒニシェ・ウニフェルジテート・グラーツ (4)
【氏名又は名称原語表記】Technische Universitaet Graz
【出願人】(507282912)ヴェーテーウー・エンジニアリング・プラヌングス−ウント・ベラトゥングスゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】VTU−Engineering Planungs− und Beratungsgesellschaft m.b.H.
【Fターム(参考)】