説明

突起物検出装置及び突起物検出方法

【課題】環境が悪くても、走行金属面上の突起物を確実に検出する。
【解決手段】突起物検出装置100は、電磁波を放射する送信用アンテナ23と、反射された電磁波を受信する受信用アンテナ24と、送信信号及び受信信号を処理する送受信信号処理部200と、を備える。前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナは単方向指向性を有し、前記受信用アンテナは、前記送信用アンテナから放射され前記金属面300に反射された電磁波を捉えることがなく、前記送信用アンテナから放射され前記金属面上の突起物305に反射された電磁波のみを捉えるように設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属面上の突起物を検出する突起物検出装置及び突起物検出方法に関する。本発明は、特に、走行する金属の金属面上の突起物を検出する突起物検出装置及び突起物検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の加工プロセス、たとえば、冷間圧延ラインや連続焼鈍ライン等において、鋼板(以下、ストリップとも呼称する)の形状やロールの形状により、鋼板に作用する張力が不均一になるなど、種々の原因によって、走行する鋼板が幅方向に座屈し、絞り(またはバックリング)と称する突起物が生じることがある。
【0003】
鋼板に絞りが発生した場合、走行を継続すると絞りの程度が大きくなり、鋼板の破断に至る可能性がある。加工プロセスにおいて鋼板が破断すると、生産が著しく阻害されるため、絞りが発生した場合に早期に発見する必要がある。
【0004】
絞りを早期に発見する方法としては、ITVで目視により観察する方法や、たとえば、特許文献1や特許文献2に示すように、ロールの一方の側面側に設置した投光器からレーザ光などの平行光を照射し、もう一方の側面側に設置された受光器によって計測される受光量などの変化から検出する方法がある。
【0005】
しかし、ITVカメラによって目視で観察する方法では、人為的なミスや画像の不鮮明さなどのため見逃しが生じる可能性があり、また、常時モニターを観察する必要があるなどの問題点がある。また、特許文献1及び2に開示された、ロール側面から平行光を照射する方法では、走行する鋼板のバタツキの影響を受けるため、設置場所が鋼板のバタツキの少ないロール付近に限定される。ここで、鋼板のバタツキとは、鋼板の面に対する垂直方向の位置変動を言う。さらに、受光器と投光器の設置位置などの事前調整に手間がかかったり、温度や粉塵など周囲の環境の影響により誤検出したりするなどの問題点がある。
【0006】
このように、金属ストリップの加工プロセスにおいて、ストリップのバタツキが生じ、周囲の環境が劣悪であっても、ストリップの絞りを正確に検出することができる突起物(絞り)検出装置及び突起物検出方法は開発されていない。より一般的に、走行中の金属物体の走行方向と異なる方向の位置が変化し、周囲の環境が劣悪であっても、走行中の金属物体面上の、走行方向に連続して存在する突起物を確実に検出することができる突起物検出装置及び突起物検出方法は開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−294627号
【特許文献2】特開平9−257442号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、走行中の金属物体の走行方向と異なる方向の位置が変化し、周囲の環境が劣悪であっても、走行中の金属物体面上の突起物を確実に検出することができる突起物検出装置及び突起物検出方法に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による突起物検出装置は、走行する金属物体の面上の突起物を検出する突起物検出装置であって、電磁波を放射する送信用アンテナと、反射された電磁波を受信する受信用アンテナと、送信信号及び受信信号を処理する送受信信号処理部と、を備える。前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナは、単方向指向性を有し、前記受信用アンテナは、前記送信用アンテナから放射され前記金属面に反射された電磁波を捉えることがなく、前記送信用アンテナから放射され前記金属面上の突起物に反射された電磁波のみを捉えるように設置されている。
【0010】
本発明による突起物検出装置において、送信用アンテナ及び受信用アンテナは、送信用アンテナから放射され金属面に反射された電磁波を捉えることがなく、送信用アンテナから放射され金属面上の突起物に反射された電磁波のみを捉えるように設置されているので、突起物を高い感度で確実に検出することができる。また、電磁波を使用するので、周囲の環境の影響を受けにくい。本発明による突起物検出装置において、送信用アンテナ及び受信用アンテナは、単方向指向性を有するので、該単方向に存在する突起物を効率的に検出することができる。また、検出範囲は、該単方向に所定の広がりを有している。したがって、金属ストリップの加工プロセスにおけるストリップのバタツキなど、走行する金属物体の位置が変化した場合にも、位置変化の影響を受けずに突起物の検出を行うことができる。
【0011】
本発明の実施形態において、前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナが取り扱う電磁波の電界面が、ともに前記金属物体の走行方向と平行になるように、前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナが設置されている。
【0012】
突起物は、主に金属物体の走行方向に沿って生成されるので、金属物体の走行方向と平行な電界面を有する電磁波によってよりよく検出される。
【0013】
本発明の実施形態において、前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナは指向性利得が15乃至25dBiであり、隣接して設置されており、前記送信用アンテナから放射された電磁波が、前記金属面に対して40度から60度の角度で入射するように構成されている。
【0014】
電磁波が金属面に対して60度以下の角度で入射する場合には、受信用アンテナは、突起物がない金属面で反射された電磁波を捉えられることはない。また、電磁波が金属面に対して40度以上の角度で入射する場合には、受信用アンテナは、突起物に反射された電磁波を捉えることができる。したがって、本実施形態によれば、受信用アンテナは、突起物に反射された電磁波のみを捉えることができる。
【0015】
本発明の実施形態において、前記走行する金属が金属ストリップである。
【0016】
本実施形態によれば、ストリップのバタツキが生じ、周囲の環境が劣悪であっても、ストリップの絞りを確実に検出することができる。
【0017】
本発明の実施形態において、前記信号処理部は、電磁波が放射されてから受信されるまでの時間によって、突起物の位置を検出する。
【0018】
本実施形態によれば、突起物の位置に関する情報を得ることができる。
【0019】
本発明の実施形態において、前記信号処理部は、前記突起物の存在しうる位置の範囲に応じて、時間軸上のゲートを定め、前記ゲートの範囲内においてのみ突起物を検出する。
【0020】
本実施形態によれば、突起物の存在し得ない位置における突起物の誤検出を防止することができる。
【0021】
本発明の実施形態において、前記信号処理部は、前記突起物が存在しない金属面に電磁波が放射された場合の反射波の信号に基づいて、前記突起物以外の対象物による反射波の信号を除去する。
【0022】
本実施形態によれば、突起物以外の対象物による反射波の信号を除去することにより、高い精度で突起物を検出することができる。
【0023】
本発明による突起物検出装置は、金属面上に、所定の方向に連続して存在する突起物を検出する突起物検出装置であって、電磁波を放射する送信用アンテナと、反射された電磁波を受信する受信用アンテナと、送信信号及び受信信号を処理する送受信信号処理部と、を備える。前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナの指向性利得が15乃至25dBiであり、前記受信用アンテナは、前記送信用アンテナから放射され前記金属面に反射された電磁波を捉えることがなく、前記送信用アンテナから放射され前記金属面上の突起物に反射された電磁波のみを捉えるように設置されている。
【0024】
本発明による突起物検出装置において、送信用アンテナ及び受信用アンテナは、送信用アンテナから放射され金属面に反射された電磁波を捉えることがなく、送信用アンテナから放射され金属面上の突起物に反射された電磁波のみを捉えるように設置されているので、突起物を高い感度で確実に検出することができる。また、電磁波を使用するので、周囲の環境の影響を受けにくい。本発明による突起物検出装置において、送信用アンテナ及び受信用アンテナの指向性利得が15乃至25dBiであるので、検出範囲が所定の広がりを有している。したがって、突起物の位置が変化した場合にも、位置変化の影響を受けずに突起物の検出を行うことができる。
【0025】
本発明による、走行する金属物体の面上の突起物を検出する突起物検出方法は、信号処理部によって送信信号を生成するステップと、送信用アンテナによって前記走行する金属物体の面に、送信信号として電磁波を放射するステップと、を含む。本方法は、さらに、前記送信用アンテナから放射され前記金属面に反射された電磁波を捉えることがなく、前記送信用アンテナから放射され前記金属面上の突起物に反射された電磁波のみを捉えるように設置された、受信用アンテナによって、前記走行する金属物体の面に反射された電磁波を受信せずに、前記走行する金属物体の面上の突起物に反射された電磁波を受信するステップと、前記信号処理部によって受信された電磁波を処理して受信信号を生成するステップと、前記送信信号及び前記受信信号を使用して、前記走行する金属物体の面上の突起物を検出するステップと、を含む。
【0026】
本方法において、受信用アンテナは、送信用アンテナから放射され金属面に反射された電磁波を捉えることがなく、送信用アンテナから放射され金属面上の突起物に反射された電磁波のみを捉えるように設置されているので、突起物を高い感度で確実に検出することができる。また、電磁波を使用するので、周囲の環境の影響を受けにくい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態による突起物検出装置の構成を示す図である。
【図2】送受信信号処理部の概要を示す図である。
【図3】ローパスフィルタ10への入力信号(ァ)、ローパスフィルタ10の出力信号(イ)、加算器17の出力である検出信号(ウ)及び基準信号(エ)を示す図である。
【図4】本実施形態に使用される送信用アンテナ及び受信用アンテナの構成の一例を示す図である。
【図5】アンテナの指向性利得と検出能力との関係を示す図である。
【図6】金属ストリップ上に突起物が存在しない場合に、金属面とアンテナによって放射された電磁波のなす角度θと電磁波の挙動との関係を説明するための図である。
【図7】金属ストリップ上に突起物が存在する場合に、金属面とアンテナによって放射された電磁波のなす角度θと電磁波の挙動との関係を説明するための図である。
【図8】図7の場合において、アンテナと突起物との距離を変えたときの角度θと突起物検出装置の出力との関係を示す図である。
【図9】図6の場合における角度θと突起物検出装置の出力との関係を示す図である。
【図10】送信用アンテナ及び受信用アンテナによって得た反射波の信号を、送受信信号処理部によって処理して得られた突起物信号を示す図である。
【図11】不要信号除去方法を説明するための図である。
【図12】送受信信号処理部の突起物信号生成部の動作を示す流れ図である。
【図13】金属ストリップの走行中の、面に垂直方向の位置変化を説明するための図である。
【図14】送信アンテナから放射される電磁波の電界面及び磁界面を概念的に示す図である。
【図15】アンテナの開口面とストリップの走行方向との関係を示す図である。
【図16】アンテナとストリップの走行方向との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の一実施形態による突起物検出装置100の構成を示す図である。突起物検出装置100は、送信用アンテナ23、受信用アンテナ24、送受信信号処理部200及び信号出力部250を含む。送受信信号処理部200は、送信される信号を生成し、送信用アンテナ23に送る。送信用アンテナ23は、電磁波を測定対象物に向けて放射する。ここで、測定対象物は金属面上の突起物305である。受信用アンテナ24は、測定対象物によって反射された電磁波を受信する。本実施形態において、送信用アンテナ23及び受信用アンテナ24は隣接して配置されている。送受信信号処理部200は、送信された信号及び受信された信号を処理して、金属面上の突起物の情報を示す突起物信号を生成する。信号出力部250は、金属面上の突起物の情報を示す突起物信号を所望の形態に変換して出力する。信号出力部250は、一例として、突起物の位置および大きさを表示するディスプレイや突起物の発生を知らせる音声アラームなどである。
【0029】
つぎに、送受信信号処理部200について説明する。送受信信号処理部200は、たとえば、特開2009-98097号公報に開示されたものを使用してもよい。以下に、送受信信号処理部200の動作原理及び構成の概要について説明するが、さらに詳細については、特開2009-98097号公報に開示されている。
【0030】
最初に、送受信信号処理部200の動作原理について説明する。送受信信号処理部200は、送信された信号と測定対象物によって反射された後、受信された信号との時間差によって、測定対象物の有無、形状及び位置などの情報を取得するように機能する。
【0031】
送受信信号処理部200は、第1及び第2の擬似ランダム信号を使用する。第1の擬似ランダム信号の繰り返し周波数をf、第2の擬似ランダム信号の繰り返し周波数をfとし、各々擬似ランダム信号のパターンは同一とする。ここでf>fとする。
【0032】
送信される第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号との相関をとって得られる基準信号が最大値となる周期をTとすると、このT間に含まれる第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号の波数の差がちょうど1周期の波数Nになる。
【0033】
すなわち、T・f=T・f+N上記を整理するとTは次の(1)式で与えられる。
=N/(f−f)……(1)
【0034】
すなわち、2つのクロック周波数の差が小さいほど、基準信号が最大値となる周期Tは大きくなる。
【0035】
送受信信号処理部200は、搬送波を第1の擬似ランダム信号で位相変調し、送信用アンテナ23に送る。送信用アンテナ23によって送信された電磁波は、対象物で反射し、受信用アンテナ24によって受信される。送信されてから受信されるまでの伝播時間をτとする。送受信信号処理部200が、この受信信号を第2の擬似ランダム信号で復調し、コヒーレント検波して得られる対象物検出信号のパルス状信号が発生する時刻を、基準信号のパルス状信号発生時刻から計測した時間差をTとする。そうすると、T間に発生する第2の擬似ランダム信号の波数は、T間に発生する第1の擬似ランダム信号の波数より、τ時間に発生する第1の擬似ランダム信号の波数だけ少ないので、次式が成立する。
・f=T・f−τ・f
【0036】
上式を整理するとTは次の(2)式で与えられる。
=τ・f/(f−f)……(2)
【0037】
すなわち、伝播時間τは、f/(f−f)倍だけ時間的に拡大され、あるいは低速化されたTとして計測される。
【0038】
ここで、伝播時間τは、伝播速度をv、対象物までの距離をxとするとτ=2x/vであるから(2) 式により次の(3) 式を得る。
x=(f−f)・v・T/(2f)……(3)
【0039】
(3)式により時間差Tは、距離xに対応する。
【0040】
図2は、送受信信号処理部200の概要を示す図である。送受信信号処理部200は、マイクロ波処理部210及びデジタル信号処理部から構成される。図2において、1,2はクロック発生器、3,4は擬次ランダム信号(PN符号)発生器、5乃至9はそれぞれ乗算器(ミキサ)で例えばダブルバランスドミキサにより構成される。ここで乗算器6は搬送波の位相変調手段として使用される。
【0041】
10乃至12はそれぞれローパスフィルタである。第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号との相関演算を行なう第1の相関演算手段は乗算器5及びローパスフィルタ10により構成される。第2の擬似ランダム信号と受信信号との相関演算を行なう第2の相関演算手段は乗算器7並びにローパスフィルタ11及び12により構成される。13、14は分配器、15、16は二乗器、17は加算器である。直交検波手段は乗算器8及び9、2乗算器15及び16、並びに加算器17により構成される。
【0042】
突起物信号生成部27は、ローパスフィルタ10の出力である基準信号、加算器17の出力及び位相検出部31の出力から突起物信号を生成する。位相検出部31の出力は、対象物までの距離の精度を向上させるため使用される。
【0043】
図3は、ローパスフィルタ10への入力信号(ア)、ローパスフィルタ10の出力信号(イ)、加算器17の出力である検出信号(ウ)及び基準信号(エ)を示す図である。基準信号は、ローパスフィルタ10の出力信号である。これらの信号は、上記の符号によって図2に示した。
【0044】
上記のように取得した検出信号により測定対象物の有無、形状及び位置などの情報を取得することができる。
【0045】
上記の実施形態においては、突起物検出に擬似ランダム信号方式を使用した。そのほかに、レーダー技術において、よく知られたパルス圧縮方式やFM−CW方式を使用してもよい。
【0046】
本実施形態による突起物検出装置には、単方向指向性を有するアンテナを使用する。単方向指向性を有するアンテナとは、所定の一方向にのみ電波を放射するアンテナである。具体的には、ホーンアンテナやパラボラアンテナなどである。単方向指向性を有するアンテナを使用することにより、該単方向に存在する突起物を効率的に検出することができる。
【0047】
図4は、本実施形態に使用される送信用アンテナ23及び受信用アンテナ24の構成の一例を示す図である。本実施形態においてアンテナは角錐ホーンアンテナである。アンテナの性能を表す重要なパラメータとして指向性利得がある。指向性利得は、放射が最大となる放射角におけるエネルギーの強さを、全ての方向に均等に電波を放射する仮想的な等方向性(アイソトロピック)アンテナを基準とするアンテナの利得として表したものであり、単位は、dBiである。指向性利得が大きいほどアンテナの指向性は鋭くなる。たとえば、図4のA、B及びCを大きくすれば指向性利得は増加する。また、指向性利得は、電磁波の周波数、すなわち波長の影響を受ける。電磁波は、図4(b)に示す開口面から送信または受信される。
【0048】
図14は、送信アンテナ23から放射される電磁波の電界面510及び磁界面610を概念的に示す図である。電界面510は、開口面に垂直であり、かつ、長さAの開口面の短い辺に平行に形成される。磁界面610は、開口面に垂直であり、かつ、長さBの開口面の長い辺に平行に形成される。すなわち、電界面510と磁界面610とは互いに直交する。
【0049】
図15は、アンテナの開口面とストリップ300の走行方向330との関係を示す図である。図14は、ストリップの面に垂直な断面図である。図15において、ストリップ300は、紙面に垂直な方向に走行する。図14においてストリップの中央に付された記号は、ストリップが紙面の手前方向に走行することを示す。送信用アンテナ23が取り扱う電磁波の電界面510及び受信用アンテナ24が取り扱う電磁波の電界面520が、ともにストリップ300の走行方向と平行になるように送信用アンテナ23及び受信用アンテナ24を設置する。図15において、ストリップの走行方向330は、紙面に垂直な方向であるので、長さAの開口面の短い辺が紙面と垂直になるように送信アンテナ23及び受信アンテナ24を設置すれば、送信用アンテナ23が取り扱う電磁波の電界面510及び受信用アンテナ24が取り扱う電磁波の電界面520は、ストリップの走行方向330と平行となる。突起物(絞り)はストリップ300の走行方向に沿って生成されるので、ストリップ300の走行方向と平行な電界面を有する電磁波によって突起物がよりよく検出される。ここで、電磁波は、アンテナの開口面と垂直な方向に進行する。電磁波の進行方向とストリップの面との角度をθで表す。θについては、後で説明する。
【0050】
図16は、アンテナとストリップの走行方向330との関係を示す図である。図16において、ストリップの300の面及びアンテナの開口面は、紙面と平行である。すなわち、図16は、図15のθが90度の場合を示している。実際には、後で説明するように、θは40度乃至60度であるのが好ましい。θを40度乃至60度とする場合でも、長さAの開口面の短い辺が、ストリップの中心軸340(すなわち、ストリップの走行方向330)と平行となるようにアンテナを設置すれば、送信用アンテナ23が取り扱う電磁波の電界面510及び受信用アンテナ24が取り扱う電磁波の電界面520は、ストリップの走行方向330と平行となる。
【0051】
本実施形態による突起物検出装置に使用する電磁波の周波数範囲は、3−30GHz(センチメートル帯)及び30−300GHz(ミリメートル帯)である。周波数を高くすると分解能が向上し、検出精度も向上する。しかし、アンテナの開口面積が同じときに周波数を高くすると指向性が狭くなるため、広い範囲におけるターゲットを捉えるのが困難となる。そこで、電磁波の周波数範囲には、上記の範囲とした。具体的に、本実施形態においては、10GHz及び24GHzの電磁波を使用した。
【0052】
図5は、アンテナの指向性と検出能力との関係を示す図である。図5(a)は、指向性利得が高い場合を表し、図5(b)は、指向性利得が低い場合を表す。図5(a)において、金属ストリップ300に向けて送信用アンテナ23から電磁波が、405で示す範囲に放射される。ここで、金属ストリップの幅方向の中央位置を310で示す。405で示す範囲は、指向性利得が高いので絞られている。このため、検出範囲は狭くなる。他方、検出の分解能は高くなる。図5(b)において、金属ストリップ300に向けて送信用アンテナ23から電磁波が、410で示す範囲に放射される。410で示す範囲は、指向性利得が低いので広がっている。このため、検出範囲は広くなる。他方、検出の分解能は低くなる。
【0053】
なお、本実施形態において、送信アンテナ23及び受信アンテナ24は、金属ストリップの幅方向の中央位置を310からいずれかの端部に偏った位置にほぼ隣接して配置されている。上述のように、送信アンテナ23及び受信アンテナ24の開口面は、ストリップの走行方向、すなわち、図5の紙面に垂直な方向と平行である。また、送信アンテナ23及び受信アンテナ24の位置は置き換えてもよい。
【0054】
本実施形態においては、図5に示した距離Lが500乃至1200mmとして、金属ストリップ上の直径3mmの金属棒に相当する突起物を検出することを想定し、指向性利得の範囲を15dBi以上25dBi以下とした。指向性利得が上記下限値より小さい場合は、上記の大きさの突起物を検出するための分解能を得るのが困難である。また、指向性利得が上記上限値より大きい場合は、幅方向の十分な検出範囲が得られない。
【0055】
図6及び図7は、金属面とアンテナ23によって放射された電磁波とのなす角度θと電磁波の挙動との関係を説明するための図である。図6は、金属ストリップ300上に突起物が存在しない場合を示し、図7は、金属ストリップ300上に突起物305が存在する場合を示す。図6に示す場合おいて、角度θが所定の範囲である場合には、アンテナ23によって放射された電磁波415は、金属ストリップ300の面で反射され、反射波420となり、受信用アンテナ24に受信されることはない。図7に示す場合において、角度θが所定の範囲である場合には、アンテナ23によって放射された電磁波の一部425は、図6に示した場合と同様に、金属ストリップ300の面で反射され、反射波430となり、受信用アンテナ24に受信されることはない。しかし、アンテナ23によって放射された電磁波の他の部分435は、突起物305によって反射され、反射波440となり、受信用アンテナ24に受信される。本願の発明者は、角度θが40度乃至60である場合に、受信用アンテナ24が、図6の場合に反射波を検出することがなく、図7の場合に突起物305からの反射波を確実に検出することができるとの知見を得た。角度θが下限値より小さい場合には、図7の場合に、突起物305からの反射波の成分が小さくなり、受信用アンテナ24が、上記反射波の成分を検出できない場合が生じる。角度θが上限値より大きい場合には、図6の場合に、受信用アンテナ24が、金属ストリップ300の面からの反射を検出してしまう場合が生じる。角度θと突起物検出性能との関係について以下に詳細に説明する。
【0056】
図8は、図7の場合において、アンテナと突起物との距離を変えたときの角度θと突起物検出装置の出力との関係を示す図である。図8の各図の横軸は、角度θを表し、縦軸は、突起物検出装置の出力(検出レベル)を表す。
【0057】
電磁波の周波数は24GHzである。アンテナの指向性利得は、20dBiである。測定対象物は以下のとおりである。
【表1】

【0058】
図8(a)乃至(d)は、距離Lが、500mm、700mm、1000mm、1200mmの場合である。図8(a)乃至(d)によると、N1、N2及びJ1は、検出レベルのしきい値を、一例として、0.2Vから0.5Vの範囲の任意の値として十分に検出が可能である。ただし、N1については、角度θが小さくなるに従って出力が小さくなるので、角度θが40度以上であるのが好ましい。なお、角度θが60度の場合も、40度乃至55度のデータから推定して十分に検出が可能であると考えられる。
【0059】
図9は、図6の場合における角度θと突起物検出装置の出力(検出レベル)との関係を示す図である。図9の横軸は、角度θを表し、縦軸は、突起物検出装置の出力を表す。電磁波の周波数は24GHzである。上述のとおり、突起物検出のための出力のしきい値は、一例として、0.2Vから0.5Vの範囲の任意の値である。図9は、距離Lが、500mm、700mm、1000mm、1200mmのデータを示している。いずれの距離の場合にも、角度θが60度を超えると、出力が大きくなる。これは、上述のとおり、金属ストリップ300からの反射が受信用アンテナ24によって検出されるためである。したがって、上述のとおり、角度θは60度以下であるのが好ましい。
【0060】
図8(a)乃至(d)及び図9に示されたデータから、上述のとおり、角度θは、40度以上60度以下であるのが好ましい。
【0061】
上記の結果に基づいた、突起物検出装置の仕様の一例を以下の表2に示す。

【表2】

【0062】
ここで、送信用アンテナ23及び受信用アンテナ24の方向について説明する。絞りは、主に金属ストリップの幅方向の中央部付近にストリップの進行方向に生じる。したがって、送信用アンテナ23及び受信用アンテナ24の開口面が、金属ストリップの走行方向に平行になるように、送信用アンテナ23及び受信用アンテナ24を設置すると、送信アンテナ23からの電磁波は、開口面に垂直に進行し、絞りの方向、すなわちストリップの進行方向に垂直に入射し、反射されて受信用アンテナの開口面にいたる。ここで、「垂直」とは、厳密な垂直だけではなく、突起物(絞り)からの十分な大きさの反射が得られる、90度を含む角度範囲を含むものとする。送信用アンテナ23及び受信用アンテナ24をこのように設置することにより、金属ストリップの幅方向の中央部付近に生じる絞りからの反射を確実に捉えることができる。
【0063】
図10は、上記のように設定した送信用アンテナ23及び受信用アンテナ24によって得た反射波の信号を、送受信信号処理部200によって処理して得られた突起物信号を示す図である。図10の横軸は、データのサンプリング数を表す。データのサンプリング数は時間に対応する。図10の縦軸は信号の大きさを表す。突起物信号は、401で示される。図10には、突起物信号401の他に、突起物305以外の物体からの反射信号403及び405が現れている。これらの信号は、たとえば、金属ストリップ300の周囲に設置された装置などに反射された信号である。突起物である絞り305は、金属ストリップ300の幅方向の中央部付近に生じる場合が多い。図10において、金属ストリップ300の幅方向の中央部を310で示す。このため、時間軸上で、金属ストリップ300の幅方向の中央部310を含む所定の領域にゲート範囲を設け、ゲート範囲内の信号のみを突起物信号として扱ってもよい。ゲート範囲は、一例として、金属ストリップ300の幅の30乃至70%の値としてもよい。図10のようにゲート範囲を定めれば、信号403及び信号405を除去することができる。
【0064】
図11は、不要信号除去方法を説明するための図である。図11の上側の図は、突起物がない状態すなわち、図6に示した状態で、送信用アンテナ23及び受信用アンテナ24によって得た反射波の信号を、送受信信号処理部200によって処理して得られた信号を示す図である。図11の横軸は、データのサンプリング数を表す。データのサンプリング数は時間に対応する。図11の縦軸は信号の大きさを表す。図11の上側の図には、突起物305以外の物体からの反射信号407及び409が現れている。これらの信号を不要信号と呼称する。なお、わかりやすくするために、図11において不要信号の大きさは拡大している。図11の下側の図は、不要信号の符合を逆にした信号を示す。これらの信号を負の不要信号と呼称する。すなわち、不要信号407及び対応する負の不要信号411を加算するとゼロになり、不要信号409及び対応する負の不要信号413を加算するとゼロになる。
【0065】
送受信信号処理部200の突起物信号生成部27は、突起物がない状態で得られた、負の不要信号411及び413を予め記憶しておき、検出信号(図2の(ウ))に、これらの記憶された負の不要信号を加算して突起物信号を生成する。上記の方法によれば、時間軸上の位置が突起物信号と重なり、ゲートによって除去することのできない不要信号も除去することができる。
【0066】
図12は、送受信信号処理部200の突起物信号生成部27の動作を示す流れ図である。
【0067】
図12のステップS010において、基準信号(図3の信号(エ))が受信されたかどうか判断する。受信されれば、ステップS030に進む。受信されていなければ、ステップS020に進む。
【0068】
図12のステップS020において、所定の時間遅延した後、ステップS010に戻る。
【0069】
図12のステップS030において、基準信号受信からの時間を記憶する。
【0070】
図12のステップS040において、時間はゲート範囲内であるかどうか判断する。時間がゲート範囲内であればステップS050に進む。時間がゲート範囲内でなければステップS060に進む。
【0071】
図12のステップS050において、該時間における検出信号(図3の信号(ウ))の値を出力とする。
【0072】
図12のステップS060において、出力を0としてステップS080に進む。
【0073】
図12のステップS070において、不要信号除去処理を行う。具体的に、ステップS050で得た出力に負の不要信号を加算して出力とする。
【0074】
図12のステップS080において、時間が検出範囲内であるかどうか判断する。時間が検出範囲内であれば、ステップS030に戻る。時間が検出範囲内でなければ処理を終了する。
【0075】
図13は、金属ストリップの走行中の、面に垂直方向の位置変化(バタツキ)を説明するための図である。バタツキの大きさは、金属ストリップ300の幅方向端部で最大約20mm(図13の320及び325)に達する。金属ストリップの幅方向中央位置310付近では、最大約10mm(図13の315)である。図13において、送信用アンテナ23の電磁波の放射範囲を360で示し、受信用アンテナ24の受信範囲を370で示す。また、突起物検出範囲を365で示す。突起物検出範囲365内で、ストリップ300が面の垂直方向に10mm位置を変えた場合でも、突起物検出装置の出力は、バタツキがない場合とほぼ同じであることが確認された。その理由は、バタツキによっても金属ストリップ300の面の角度はほぼ一定に保持されるので、面からの反射の状態及び突起物からの反射の状態が変化しないためであると考えられる。本発明の突起物検出装置は、上述のようにある程度の広がりを持った検出範囲365内における反射を使用するので、所定の位置の情報を使用するレーザ方式などに比較して、板のバタツキに対してロバストである。
【0076】
上記の実施形態において、突起物が生じる金属が、走行する金属ストリップである場合について説明した。他の実施形態において、金属は、たとえば、電磁波を反射する面を備えた形状であれば、管状又は棒状など他の形状であってもよい。また、本発明は、測定対象物の位置の変動及び周囲の環境に対してロバストであるため、走行中の測定対象物に対して特に有利に適用することができるが、静止している測定対象物に適用することもできる。
【符号の説明】
【0077】
23 送信用アンテナ
24 受信用アンテナ
200 送受信信号処理部
250 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する金属物体の面上の突起物を検出する突起物検出装置であって、
電磁波を放射する送信用アンテナと、
反射された電磁波を受信する受信用アンテナと、
送信信号及び受信信号を処理する送受信信号処理部と、を備え、
前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナは、単方向指向性を有し、前記受信用アンテナは、前記送信用アンテナから放射され前記金属面に反射された電磁波を捉えることがなく、前記送信用アンテナから放射され前記金属面上の突起物に反射された電磁波のみを捉えるように設置された、突起物検出装置。
【請求項2】
前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナが取り扱う電磁波の電界面が、ともに前記金属物体の走行方向と平行になるように、前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナが設置された請求項1に記載の突起物検出装置。
【請求項3】
前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナは指向性利得が15乃至25dBiであり、隣接して設置されており、前記送信用アンテナから放射された電磁波が、前記金属面に対して40度から60度の角度で入射するように構成された、請求項1に記載の突起物検出装置。
【請求項4】
前記走行する金属が金属ストリップである請求項1から3のいずれかに記載の突起物検出装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、電磁波が放射されてから受信されるまでの時間によって、突起物の位置を検出する、請求項1から4のいずれかに記載の突起物検出装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記突起物の存在しうる位置の範囲に応じて、時間軸上のゲートを定め、前記ゲートの範囲内においてのみ突起物を検出する、請求項5に記載の突起物検出装置。
【請求項7】
前記信号処理部は、前記突起物が存在しない金属面に電磁波が放射された場合の反射波の信号に基づいて、前記突起物以外の対象物による反射波の信号を除去する、請求項1から6のいずれかに記載の突起物検出装置。
【請求項8】
金属面上に、所定の方向に連続する突起物を検出する突起物検出装置であって、
電磁波を放射する送信用アンテナと、
反射された電磁波を受信する受信用アンテナと、
送信信号及び受信信号を処理する送受信信号処理部と、を備え、
前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナは、アンテナ指向性利得が15乃至25dBiであり、前記送信用アンテナから放射され前記金属面に反射された電磁波を捉えることがなく、前記送信用アンテナから放射され前記金属面上の突起物に反射された電磁波のみを捉えるように設置された、突起物検出装置。
【請求項9】
走行する金属物体の面上の突起物を検出する突起物検出方法であって、
信号処理部によって送信信号を生成するステップと、
送信用アンテナによって前記走行する金属物体の面に、送信信号として電磁波を放射するステップと、
前記送信用アンテナから放射され前記金属面に反射された電磁波を捉えることがなく、前記送信用アンテナから放射され前記金属面上の突起物に反射された電磁波のみを捉えるように設置された、受信用アンテナによって、前記走行する金属物体の面に反射された電磁波を受信せずに、前記走行する金属物体の面上の突起物に反射された電磁波を受信するステップと、
前記信号処理部によって受信された電磁波を処理して受信信号を生成するステップと、
前記送信信号及び前記受信信号を使用して、前記走行する金属物体の面上の突起物を検出するステップと、を含む、突起物検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−95051(P2011−95051A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247919(P2009−247919)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000135254)株式会社ニレコ (41)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】