説明

窒化アルミニウム焼結体の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、窒化アルミニウム及び焼結助剤を含む原料組成物を成形してなる窒化アルミニウム成形体を常圧にて焼成する窒化アルミニウム焼結体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、窒化アルミニウム(AlN)の常圧焼結法では、平均粒径が1.0μm〜2.5μmの窒化アルミニウム粉末に、平均粒径が1.5μm程度の酸化イットリウム(Y2 3 )等の希土類元素酸化物を焼結助剤として添加してなる原料組成物を所望形状に成形し、この成形体を1700〜1900℃の温度で焼成している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記常圧焼結法においては、原料窒化アルミニウム粉末の表面に形成されている酸化アルミニウム(Al2 3)と、焼結助剤とによって液相が生成される。この液相は窒化アルミニウム粉末の焼結の進行と共に焼結体の外部に次第に滲出する。
【0004】しかしながら、原料組成物中において焼結助剤が不均一に混合されていると、成形体中において液相が焼結助剤を過剰に含む部位と、焼結助剤が不足する部位とが混在することになり、焼結体の製造に支障を来す。即ち、焼結助剤の不足部位では窒化アルミニウム粉末が未焼結となり、焼結助剤の過剰部位では異常粒成長が生じ、焼結体強度の低下をもたらす。
【0005】本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は窒化アルミニウム粉末に対して焼結助剤を均一に混合することができる窒化アルミニウム焼結体の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段及び作用】上記課題を解決するために本発明は、窒化アルミニウム及び焼結助剤を含む原料組成物を成形してなる窒化アルミニウム成形体を常圧にて焼成し、焼結後における窒化アルミニウム組織の粒子径が3μm〜8μmの範囲にあり、ポアがなく、イットリウム元素が窒化アルミニウム組織の粒界に分布する窒化アルミニウム焼結体の製造方法であり、平均粒径が1.0μm〜2.5μmの窒化アルミニウム粉末と、平均粒径が0.5μm以下の焼結助剤としての酸化イットリウム粉末と、分散溶媒との混合に際し、焼結助剤粉末と分散溶媒との混合物中に、所定量ごとに分別秤量された窒化アルミニウム粉末を段階的に添加して原料組成物を調製することとした。
【0007】この方法によれば、窒化アルミニウム粉末中に焼結助剤粉末を均一に分散することができる。これは、窒化アルミニウムの粒径に比して焼結助剤の粒径が小さいために、窒化アルミニウム粒子と焼結助剤粒子との接触可能面積を大きくすることができ、これにより、原料組成物中において焼結助剤粒子が均一拡散し易くなるためと考えられる。
【0008】これに対し、従来法では、窒化アルミニウムの粒径と焼結助剤の粒径とが近似しているために、窒化アルミニウムと焼結助剤との接触面積は、比較的小さくなると考えられる。それ故、本発明と従来法とにおいて焼結助剤の添加割合が同じ場合、本発明の方法の方が従来法よりも焼結助剤を原料組成物中にひいては成形体全体に、均一に分散することができる。
【0009】本発明によれば、平均粒径が1.0μm〜2.5μmの窒化アルミニウム粉末に対して用いられる酸化イットリウム粉末の平均粒径は0.5μm以下である。酸化イットリウム粉末の平均粒径が0.5μmを超えると、窒化アルミニウム粒子と酸化イットリウム粒子との間の粒径差が小さくなり、従来法との有意差がなくなる
【0010】焼結助剤の添加割合は、窒化アルミニウムに対して1.0重量%〜10.0重量%の範囲である。この添加割合が1.0重量%未満では窒化アルミニウム粉末を完全に焼結させることができず、10.0重量%を超えると、得られる窒化アルミニウム焼結体の特性の低下を来す。
【0011】分散溶媒としては、トルエンや、酢酸エチルとエタノールとの混合溶媒等があげられる。又、原料組成物の調製に際しては、ポリアクリロニトリル系樹脂等の有機樹脂バインダーが必要に応じて添加される。
【0012】原料組成物の調製に際してはボールミル等を使用して、混合時の粘度を調整しつつ、窒化アルミニウム粉末、焼結助剤粉末及び分散溶媒等の混合が行われる。即ち、焼結助剤の平均粒径が小さくなると凝集性が高くなるため、凝集状態の焼結助剤が十分に解砕されるように原料組成物の粘度を調整しつつ、各原料を混合する必要がある。
【0013】本発明によれば、焼結助剤粉末と分散溶媒との混合物中に、所定量ごとに分別秤量された窒化アルミニウム粉末を段階的に添加して原料組成物を調製することが好ましい。
【0014】この手順によれば、原料組成物の粘度を徐々に成形体を形成可能な粘度にまで高めることができる。従って、窒化アルミニウム粉末の段階的添加の初期段階において、原料組成物を低粘度状態に置くことができ、ボールミル等における攪拌効率が向上し、凝集状態の焼結助剤が効果的に解砕される。
【0015】このようにして得られた原料組成物は所望形状に成形され、その成形体は常法に従って乾燥、仮焼成及び本焼成を経て焼結される。
【0016】
【実施例】以下、本発明を具体化した実施例1及び2並びに比較例について説明する。
(実施例1)平均粒径が約1.5μmで酸素含有率が1.2重量%の窒化アルミニウム粉末500gと、平均粒径が0.5μmの酸化イットリウム粉末30gと、ポリアクリロニトリル系バインダー110gと、エタノール・酢酸エチルの混合溶媒2000mlとをボールミル中へ装入し18時間混合した。この時の粘度は、3000cpsであった。18時間経過後、前記窒化アルミニウム粉末500gをボールミル中へ追加装入し、更に18時間混合してスラリー状の原料組成物を調製した。この時の粘度は、10000cpsであった。本実施例においては、酸化イットリウムの添加量は窒化アルミニウムに対して3%である。
【0017】前記原料組成物をシートキャスティング法によって平板状に成形した後、長さ80mm×幅80mm×厚さ1.0mmの成形体を作製した。電子プローブ微小分析(EPMA)によって成形体中におけるイットリウム元素(Y)の分布状況を解析したところ、凝集することなく均一に分布していることが判明した。この成形体に対し、酸化性雰囲気中にて400℃で12時間の脱脂を施した後、非酸化性雰囲気中にて1850℃で5時間の焼成を施して、窒化アルミニウム焼結体を得た。
【0018】EPMA及び走査電子顕微鏡(SEM)によって、得られた焼結体を解析したところ、イットリウム元素は窒化アルミニウムの粒界に分布していることが判明した。焼結後における窒化アルミニウム組織の粒子径は3〜8μmの範囲にあり、焼結体の微細組織には未焼結部位やポアは全く観察されなかった。
【0019】焼結体に外観上の色ムラはなく、40kg/mm2 という優れた機械的強度を示した。又、焼結体を55℃の液体と−125℃の液体とに交互に500回ずつ浸漬するという熱衝撃試験を行ったところ、試験開始前と試験後とを比較して焼結体の強度低下は全く見られなかった。
【0020】(実施例2)前記実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を作製した。但し、この実施例2では、原料組成物を調整する際の分散溶媒としてトルエンを用いた。得られた焼結体は、実施例1とほぼ同等の各種物性を示した。
【0021】(比較例)平均粒径が約1.5μmで酸素含有率が1.2重量%の窒化アルミニウム粉末1000gと、平均粒径が1.5μmの酸化イットリウム粉末50gと、ポリアクリロニトリル系バインダー110gと、トルエン2000mlとをボールミル中へ一時に装入し、36時間混合してスラリー状の原料組成物を調製した。従って、本比較例においては、酸化イットリウムの添加量は窒化アルミニウムに対して5%である。この原料組成物をもとに前記実施例1と同様にして、成形、脱脂及び焼成を行い、窒化アルミニウム焼結体を得た。
【0022】EPMA及びSEMによって、得られた焼結体を解析したところ、イットリウム・アルミニウム・酸素の共晶が焼結体の各所に大きな固まりとなって偏在していることが判明した。焼結後における窒化アルミニウム組織の粒子径は3〜12μmの範囲にあり、焼結体の微細組織には未焼結部位やポアが観察された。又、焼結体には外観上の色ムラが観察され、機械的強度は35kg/mm2 と測定された。更に、実施例1と同様の熱衝撃試験を行ったところ、試験の前後で10%程度の強度低下を生じた。
【0023】
【発明の効果】以上詳述したように本発明によれば、原料窒化アルミニウムよりも粒径の小さい酸化イットリウム粉末を用いると共に、混合時の粘度を調整しつつ原料組成物を調製するようにしたので、窒化アルミニウム粉末に対して酸化イットリウム粉末を均一に分散させて、焼結時のイットリウム元素の滲み出しを均一にし、焼結体の色ムラやポアの発生を防止することができ、強度等の特性に優れた窒化アルミニウム焼結体を製造することができるという優れた効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒化アルミニウム及び焼結助剤を含む原料組成物を成形してなる窒化アルミニウム成形体を常圧にて焼成し、焼結後における窒化アルミニウム組織の粒子径が3μm〜8μmの範囲にあり、ポアがなく、イットリウム元素が窒化アルミニウム組織の粒界に分布する窒化アルミニウム焼結体の製造方法であり、平均粒径が1.0μm〜2.5μmの窒化アルミニウム粉末と、平均粒径が0.5μm以下の焼結助剤としての酸化イットリウム粉末と、分散溶媒との混合に際し、焼結助剤粉末と分散溶媒との混合物中に、所定量ごとに分別秤量された窒化アルミニウム粉末を段階的に添加して原料組成物を調製することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法

【特許番号】特許第3432527号(P3432527)
【登録日】平成15年5月23日(2003.5.23)
【発行日】平成15年8月4日(2003.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−288920
【出願日】平成3年11月5日(1991.11.5)
【公開番号】特開平5−124866
【公開日】平成5年5月21日(1993.5.21)
【審査請求日】平成10年8月27日(1998.8.27)
【審判番号】不服2000−20769(P2000−20769/J1)
【審判請求日】平成12年12月28日(2000.12.28)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【合議体】
【参考文献】
【文献】特開 平1−242469(JP,A)
【文献】特開 昭61−12306(JP,A)
【文献】特開 平3−112847(JP,A)
【文献】特開 昭62−132776(JP,A)
【文献】特開 平2−275771(JP,A)
【文献】特開 昭62−65979(JP,A)