説明

窒化アルミニウム粉末および窒化アルミニウム粉末の製造方法

【課題】 粒界内炭素の含有量が少なく、焼結性に優れ、さらに高い熱伝導率を有する焼結体を得ることのできる、窒化アルミニウム粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】 還元窒化法により窒化アルミニウム粉末を製造する方法であり、アルミナ粉末、カーボン粉末、ナトリウム化合物、及び、上記還元窒化温度下でアルミナと共融解し得るアルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物を特定量使用した組成物を、1300℃〜1750℃の温度で還元窒化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元窒化法によって窒化アルミニウム粉末を得るための新規な製造方法に関する。詳しくは、粒界内炭素の含有量が少なく、焼結性に優れ、さらに高い熱伝導率を有する焼結体を得ることのできる、還元窒化法による窒化アルミニウム粉末の製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは電気絶縁性に優れ、かつ高熱伝導性を有することから、その焼結体は、高い熱伝導性を有する放熱部材として期待される。上記窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は、原料である窒化アルミニウム粉末の純度に大きく影響されるため、窒化アルミニウム粉末には不純物量が少ないことが求められている。
【0003】
一般に、窒化アルミニウム粉末の製法として、アルミナ粉末よりなるアルミナ原料とカーボン粉末の混合物を窒素中で加熱する還元窒化法、金属アルミニウムと窒素を高温で反応させる直接窒化法が知られている。直接窒化法により得られる窒化アルミニウム粉末は、粉砕・分級することにより製造されるため、金属不純物を含有しやすい。一方、還元窒化法により得られる窒化アルミニウム粉末は、一般的に直接窒化法により得られる窒化アルミニウム粉末と比較して金属不純物量が少ないが、原料にカーボンを使用するため、得られる窒化アルミニウム粉末中に多くの炭素を含有してしまうという問題を有する。したがって、還元窒化法による窒化アルミニウム粉末の製造方法においては、得られる窒化アルミニウム粉末中の炭素含有量を低減させることが強く求められている。
【0004】
上記還元窒化法において、窒化アルミニウム粉末製造後にフリーで存在する炭素は、その後の酸化処理により容易に分解され、除去することができる。しかし、還元窒化法により得られる窒化アルミニウム粉末において、該粉末を構成する窒化アルミニウム結晶粒子の粒界に取り込まれて存在する炭素(以下、「粒界内炭素)ともいう。)は、上記酸化処理によっては十分除去することができず、得られる窒化アルミニウム粉末中に不純物として残存する。
【0005】
従来、還元窒化法で得られる窒化アルミニウム粉末の粒界内炭素量を低減させる方法として、還元窒化終了後、更に、還元窒化反応時の状態を維持し、一定時間保持することにより、窒化アルミニウム粉末の内部酸素と粒界内炭素とを反応せしめて炭素量を低減せしめる方法が知られている。
【0006】
しかしながら、上記方法により粒界内炭素量を十分低減するには、還元窒化反応時の状態を長時間にわたり維持することを必要とするため、その間大量の還元性ガスおよび大電力量を要し、生産性が良い方法とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−160611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、還元窒化法により、炭素含有量が少ない窒化アルミニウム粉末を効率的に得ることができる窒化アルミニウム粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アルミナ粉末及びカーボン粉末と共に、特定の温度でアルミナと共融解し得るアルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物及びナトリウム化合物を併用して、還元窒化することによって、得られる窒化アルミニウム粉末の間粒界内炭素を効果的に低減することができ、また、ナトリウム化合物は、窒化アルミニウム粉末製造後には、揮発して除去されるため、金属不純物の含有量も低く抑えられ、所期の窒化アルミニウム粉末を生産性良く得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、還元窒化法により窒化アルミニウム粉末を製造するに際し、(a)アルミナ粉末、(b)カーボン粉末、(c)ナトリウム化合物、並びに、(d)上記還元窒化温度下でアルミナと共融解し得るアルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物(以下、「共融解剤」ともいう。)を含み、前記アルミナ粉末100質量部に対して、前記ナトリウム化合物を酸化物(NaO)換算で0.02質量部〜3質量部、前記共融解剤を酸化物換算で0.5質量部〜50質量部含有する組成物を、1300℃〜1750℃の温度で還元窒化することを特徴とする窒化アルミニウム粉末および窒化アルミニウム粉末の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、粒界内炭素として含まれる炭素の含有量が少ない窒化アルミニウム粉末を生産性よく得ることができる。そして、かかる窒化アルミニウム粉末より製造される窒化アルミニウム焼結体において、高い熱伝導率を実現することが可能である。
【0012】
本発明の製造方法により前記のような特性を有する窒化アルミニウム粉末が得られる作用機構として、本発明者らは、以下のように推定している。
本発明の方法においては、還元窒化反応に供するアルミナ粉末とカーボン粉末と共にナトリウム化合物を使用する。その際、ナトリウム化合物はカーボン粉末表面において、触媒的な作用をしてカーボンの酸化分解およびアルミナの還元窒化を促進させる。また、上記ナトリウム化合物は、アルミナとアルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物とが共溶融した液相中において、前記粉末内部に存在する炭素に有効に作用すると共に、還元窒化の高温雰囲気下でも直ぐには揮発せず、前記焼成温度下において、有効な時間、該液相中に存在することにより、還元窒化における高温雰囲気下でもナトリウム化合物のカーボン酸化分解効果を十分発現させることができる。
【0013】
尚、還元窒化法による窒化アルミニウム粉末の製造方法において、凝集粒の生成を抑止する目的で、アルミナ原料とカーボン粉末との混合粉末を、窒素雰囲気中で、ナトリウム化合物の存在下に約1500℃〜約1700℃の温度で焼成して、アルミナ原料の還元窒化を行い、窒化アルミニウム粉末を製造する方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、かかる方法においては、粉末の凝集粒の生成は抑止されるものの、反応温度が高温であることより、ナトリウム化合物が短時間で飛散してしまい、ナトリウム化合物による炭素の低減効果は期待することができない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔アルミナ粉末〕
本発明の窒化アルミニウム粉末の出発原料として用いるアルミナ粉末は、アルミナ又はその水和物が特に制限無く使用される。アルミナ粉末は、α、γ、θ、δ、η、κ、χ等の結晶構造を持つアルミナやベーマイトやダイアスポア、ギブサイト、バイヤライト、トーダイトなど加熱により脱水転移して最終的に全部又は一部がα−アルミナに転移するアルミナ水和物が全て利用可能である。
【0015】
これらは単独或いは種類の異なるものが混合された状態で用いても良いが、特に反応活性が高く、制御が容易なα−アルミナ、γ−アルミナ、ベーマイトが好適に用いられる。
【0016】
本発明において、上記アルミナ粉末の粒子径は特に制限されないが、特に、2μm以下の粒子径を有するものが好ましい。
【0017】
〔カーボン粉末〕
本発明で用いるカーボン粉末は、カーボンブラック、黒鉛粉末が使用できる。上記カーボンブラックとしては、ファーネス法、チャンネル法などのカーボンブラックおよび、アセチレンブラックが使用できる。
【0018】
これらのカーボン粉末の比表面積は、任意であるが0.01m/gから500m/gのものを用いるのが好ましい。
【0019】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フランフェノール樹脂等の合成樹脂縮合物やピッチ、タール等の炭化水素化合物や、セルロース、ショ糖、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニレン等の有機化合物などのカーボン源、水素、一酸化炭素、アンモニアなどの還元性ガスを併用することもできる。
【0020】
〔ナトリウム化合物〕
本発明において、ナトリウム化合物は、還元窒化反応において、アルミナ粉末の粒子間に存在し、生成する窒化アルミニウム粉末に粒界内炭素として残存する炭素に対して、後述する共融解剤により形成される液相で作用により、アルミナ或いは生成した窒化アルミニウムの粒界に存在する酸素による酸化分解を促進し、得られる窒化アルミニウム粉末の粒界内炭素の含有量を低減するものである。
【0021】
上記ナトリウム化合物としては、還元窒化反応に悪影響を与えないものであれば、公知のナトリウム化合物が特に制限無く使用される。例えば、酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、酢酸ナトリウム等である。上記ナトリウム化合物は、単独の化合物を使用してもよいが、複数種の化合物を組み合わせて用いることもできる。また、上記ナトリウム化合物としては、還元窒化中に前記例示したナトリウム化合物を生成するものを含む。
【0022】
本発明において、ナトリウム化合物は、還元窒化反応において存在していれば、その由来は特に制限されない。最も代表的な態様は、前記アルミナ粉末、カーボン粉末、共融解剤と共に、ナトリウム化合物を混合して存在させる方法であるが、使用量の一部又は全部を、原料となるアルミナ粉末、カーボン粉末、共融解剤に含有した状態で還元窒化反応に供してもよい。具体的には、所定量のナトリウム化合物を含有するアルミナ粉末を使用してもよいし、所定量のナトリウム化合物を含有するカーボン粉末、或いは、共融解剤を使用することにより、ナトリウム化合物を反応系に存在せしめてもよい。
【0023】
前記ナトリウム化合物を混合して使用する場合、その粒子径は特に制限されないが、特に、0.01μm〜100μmが好ましく、0.1μm〜30μmがさらに好ましい。
【0024】
本発明において、ナトリウム化合物は、アルミナ粉末100質量部(アルミナ換算)に対して、酸化物(NaO)換算で、0.02〜3質量部、好ましくは、0.05〜1質量部の割合で存在させる。即ち、ナトリウム化合物の割合が、0.02質量部未満の場合、得られる窒化アルミニウム粉末の粒界内炭素の量の低減効果は得られず、また、ナトリウム化合物の含有量が3質量部より多い場合は、さらなる粒界内炭素の量の低減効果が得られないばかりでなく、反応中に揮散するナトリウムによる装置の汚染が問題となることがある。
【0025】
〔アルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物(共融解剤)〕
本発明で用いる共融解剤は、還元窒化反応において、一部又は全部のアルミナ粉末と共融解し、還元窒化反応を促進すると共に、これに相溶した前記ナトリウム化合物が揮散する時間を延長せしめ、還元窒化における高温雰囲気下でもナトリウム化合物のカーボン酸化分解効果を十分発現させるためのものである。
【0026】
上記共融解剤としてのアルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物は、例えば、アルカリ土類金属又は希土類金属の酸化物、炭酸化物、水酸化物、酢酸化物、炭化物、フッ化物が挙げられる。
【0027】
上記アルカリ土類金属の例としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マグネシウム等が挙げられ、上記希土類金属の例としては、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、テルビウム等を挙げることができる。酸化物としては、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、また、フッ化物としては、フッ化カルシウムが代表的である。上記アルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物は、単独の化合物を使用してもよいが、複数種の化合物を組み合わせて用いることもできる。
【0028】
尚、上記アルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物としては、還元窒化中に前記例示したアルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物を生成するものを含む。
【0029】
本発明において、共融解剤としては、得られる窒化アルミニウム粉末の炭素含有量が少なく、さらに得られた窒化アルミニウム粉末から作製される焼結体の熱伝導率が高くなる傾向にあるアルカリ土類金属化合物が特に好ましい。
【0030】
本発明において、前記アルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物の粒子径は特に制限されないが、0.01μm〜100μmが好ましく、0.1μm〜30μmがさらに好ましい。また、前記アルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物の比表面積は特に制限されないが、特に、0.01m/g〜500.0m/gが好ましく、0.1m/g〜100.0m/gがさらに好ましい。
【0031】
上記共融解剤は、上記の中から、後述する還元窒化反応で採用される温度において共融解物を生成し得るものを選択して使用すればよい。
【0032】
本発明において、前記共融解剤の使用量は、アルミナ粉末100質量部(アルミナ換算)に対して、酸化物換算で、0.5質量部〜50質量部、好ましくは0.7質量部〜25質量部、さらに好ましくは、0.8質量部〜10質量部である。共融解剤の割合が前記範囲より低い場合、ナトリウム化合物をトラップする効果が小さく、粒界内炭素の量の少ない窒化アルミニウム粉末は得られない。また、共融解剤の割合を前記範囲より多くしても、さらなる効果は得られず、経済的でない。
【0033】
〔原料混合〕
本発明において、原料の混合方法としては、アルミナ粉末、カーボン粉末、ナトリウム化合物、及び、共融解剤が均一な組成で存在する方法であれば、湿式、乾式を問わず、いずれの方法でも良いが、ブレンダー、ミキサー、ボールミルによる混合が好適である。
【0034】
〔還元窒化〕
本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法において、還元窒化は、アルミナ粉末とナトリウム化合物、アルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物を窒素流通下、カーボン及び還元性ガスの存在下で、1300〜1750℃、好ましくは1400℃〜1730℃、さらに好ましくは1550℃〜1700℃の温度で実施される。この場合、昇温速度は、いかなる速度でもよく、また、昇温途中にいかなる保持時間をとってもよいが、一般には、5〜20℃/分が好ましい。
【0035】
上記焼成温度が1300℃未満では、還元窒化反応がほとんど起こらない。一方、上記焼成温度が1750℃を超えると、ナトリウム化合物の揮散が激しく、カーボンの酸化分解効果を十分得ることができず、粒界内炭素量の少ない窒化アルミニウム粉末を得ることが困難となる。また、1800℃を超える温度では、熱伝導率の低い酸窒化物が生成してしまう。
【0036】
また、還元窒化時間は、0.1〜50時間、好ましくは0.3〜20時間、さらに好ましくは0.5〜10時間、前記温度で焼成することが好ましい。上記還元窒化の時間が0.1時間未満では、反応が十分完結し難く、一方、還元窒化の時間が50時間を越えると、窒化アルミニウム粒子同士が凝集し、粗粒が発生し易くなる。粗粒は、焼結体作製時に焼結を阻害する傾向にある。
【0037】
本発明において、前記還元窒化を行う方法としては、前記原料に対して、窒素が十分に拡散して接触するような方法であれば、公知の方法が特に制限なく採用される。例えば、上記混合粉末をカーボン製のセッター等に充填し窒素を流通させる方法、ロータリーキルンを用いる方法、流動層を用いる方法、竪型管状炉を用いる方法がある。これらのうち、カーボン製のセッター等に充填し窒素を流通させる方法が好適である。
また、混合粉末中に窒素を効率よく流通させるため、原料を造粒してもよい。その場合、上記造粒体は、圧縮造粒、押し出し造粒、転動造粒、噴霧造粒など、公知の造粒方法は何等制限なく採用して作製できる。また、造粒体の粒子径は特に制限されないが、特に、0.01mm〜50mmが好ましく、0.1mm〜10mmがさらに好ましい。
造粒体作製時に必要に応じて使用される界面活性剤、ならびに、バインダーは、本発明の効果を妨げない範囲で、公知のものが何等制限なく使用される。例えば、界面活性剤として、脂肪酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、第4級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アルキルアミドベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリストール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキソエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられ、バインダーとしては、ポリビニルアルコール、アルギン酸塩、砂糖、セルロースエーテル、デキストリン、でんぷん、糖蜜、ポリビニルピオリドンなどが挙げられる。
【0038】
〔酸化処理〕
本発明において、還元反応後の窒化アルミニウム粉末は、フリーの余剰カーボン粉末を含んでいるため、脱炭素処理を行うのが好ましい。脱炭素処理は高温で、酸化性ガスを用いて余剰のカーボン粉末を燃焼する方法が一般的である。脱炭素処理を行う際の酸化性ガスとしては、空気、酸素、など炭素を除去できるガスならば何等制限無く採用できるが、経済性や得られる窒化アルミニウムの酸素濃度を考慮して、空気が好適である。また、処理温度は一般的に500〜900℃がよく、脱炭素の効率と窒化アルミニウム表面の過剰酸化を考慮して、600〜750℃が好適である。
【0039】
酸化温度が高すぎると窒化アルミニウム粉末の表面が過剰に酸化され、目的とする粉末が得られ難い傾向があるので適当な酸化温度と時間を選択するのが好ましい。
【0040】
本発明の方法を採用することにより、炭素含有量が少なく、焼結性に優れ、さらに高い熱伝導率を有する焼結体を得ることのできる、窒化アルミニウム粉末を得ることができる。
〔後処理〕
本発明において、酸化後の窒化アルミニウム粉末は、必要に応じて粉砕、分級を実施することができる。
さらに、本発明の窒化アルミニウム粉末は、次いで成形され、更に、焼成することによって窒化アルミニウム焼結体が得られる。そのための方法には公知の方法が特に制限なく採用されるが、具体例を挙げると、原料窒化アルミニウム粉末に、焼結助剤粉末を1〜10重量部の範囲で添加し、更には必要に応じて有機バインダー、可塑剤、分散剤、溶剤などを添加し、遊星ボールなどで混合機によって、乾式または湿式により混合したものを、例えば、ドクターブレード法、プレス成形法、押出し成形法、射出成形法などによって成形することが好ましい。本発明において、前記有機バインダーによって成形された場合、その成形体は、焼成に先立ち、脱脂処理を行うのが一般的である。上記脱脂処理の条件は、公知の条件が特に制限なく採用されるが、例えば、酸化性雰囲気下或いは非酸化性雰囲気下で、温度300〜1000℃で1〜10時間処理する方法が一般的である。焼成は、公知の焼成条件が特に制限なく採用されるが、例えば、上記脱脂体を、窒素などの非酸化性雰囲気下で温度1600〜1900℃、好ましくは1650〜1850℃、さらに好ましくは1680〜1820℃で1〜100時間、好ましくは2〜50時間、更に好ましくは2〜30時間で焼成を行うことが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例における各種物性は、下記の方法により測定した。
【0042】
(1)平均粒子径
アルミナ粉末、カーボン粉末、ナトリウム化合物、アルカリ土類金属化合物または希土類金属化合物の平均粒子径は、試料をホモジナイザーにてピロリン酸ソーダ水溶液中に分散させ、レーザー回折粒度分布装置(日機装株式会社製MICROTRAC HRA)にて測定した。
【0043】
(2)比表面積
アルミナ粉末、カーボン粉末、ナトリウム化合物、アルカリ土類金属化合物または希土類金属化合物の比表面積は、島津製作所製流動式表面積自動測定装置フローソーブ2300形を用いてN吸着によるBET法により求めた。
【0044】
(3)原料ナトリウム含有量
アルミナ粉末、カーボン粉末、アルカリ土類金属化合物または希土類金属化合物のナトリウム含有量は、試料に酸を加え加熱分解し(カーボン粉末の場合は酸化分解後、酸による加熱分解)、島津製作所製ICPS−1000−IIを用いてICP発光分光分析法により測定した。
【0045】
(4)窒化アルミニウム粉末中のイットリア濃度
窒化アルミニウム粉末中のイットリア濃度は、蛍光X線(XRF)により測定した。
【0046】
(5)窒化アルミニウム粉末中の炭素含有量
窒化アルミニウム粉末中の炭素含有量は、堀場製作所製金属中炭素分析装置「EMIA−110」を使用して、粉末を酸素気流中で燃焼させ、発生したCO、COガス量から定量した。
【0047】
(6)窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率
京都電子工業製LFA−502を用いてレーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。
【0048】
実施例1
平均粒子径0.9μm、比表面積6.7m/gであり、NaO含有量がアルミナ100質量部に対し0.005質量部含有するαアルミナ100質量部(含有のナトリウム化合物を含めると100.005質量部)に、比表面積125m/gのカーボンブラック50質量部、平均粒子径1.2μmの水酸化ナトリウム1質量部、平均粒子径1.0μm、比表面積11.7m/gの酸化カルシウム3.0質量部を混合した後、グラファイトのセッターに充填した。ついで、窒素雰囲気下において、焼成温度1650℃、焼成時間2時間の条件で窒化後、空気雰囲気下において700℃で12時間、酸化処理を行って窒化アルミニウム粉末を得た。前述の方法にて、得られた窒化アルミニウム粉末の炭素含有量測定を実施した。結果を表1に示す。
【0049】
得られた窒化アルミニウム粉末100質量部に対して酸化イットリウムが5質量部となるように添加し、さらに、上記組成物に分散剤と溶媒を添加し14時間混合した。その後、バインダーとしてポリビニルブチラール及び可塑剤を添加して18時間混合して窒化アルミニウムスラリーを得た。窒化アルミニウムスラリーを脱泡後粘度2万cpsに調製しドクターブレード法で厚み0.75mmの成形体を作製した。 得られた成形体を500℃、4時間、空気雰囲気中で脱脂し、窒素雰囲気中、1740℃、5時間で焼成して窒化アルミニウム焼結体を得た。焼結体の熱伝導率を表1に併せて示す。
【0050】
実施例2
αアルミナを平均粒子径1.0μm、比表面積12.7m/gであり、NaO含有量がアルミナ100質量部に対し0.005質量部含有するγアルミナとし、水酸化ナトリウムを平均粒子径0.9μmの炭酸ナトリウムとし、該炭酸ナトリウムをアルミナ100質量部に対し0.333質量部添加し、酸化カルシウムを平均粒子径2.0μm、比表面積3.7m/gの炭酸カルシウムとし、該炭酸カルシウムをアルミナ100質量部に対し5質量部添加した以外には実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を作製した。得られた窒化アルミニウム粉末の炭素含有量測定を実施した。結果を表1に示す。
【0051】
さらに得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に焼結体を作製、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
実施例3
水酸化ナトリウムを平均粒子径0.9μmの炭酸ナトリウムとし、該炭酸ナトリウムをアルミナ100質量部に対し0.162質量部添加し、酸化カルシウムを平均粒子径1.0μm、比表面積2.2m/gの酸化イットリウムとし、該酸化イットリウムをアルミナ100質量部に対し3質量部添加した以外には実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を作製した。得られた窒化アルミニウム粉末の炭素含有量測定を実施した。結果を表1に示す。
【0053】
さらに得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に焼結体を作製、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
実施例4
水酸化ナトリウムをアルミナ100質量部に対し1.045質量部添加し、酸化カルシウムを平均粒子径1.0μm、比表面積2.2m/gの酸化イットリウムとし、該酸化イットリウムをアルミナ100質量部に対し5質量部添加した以外には実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を作製した。得られた窒化アルミニウム粉末の炭素含有量測定を実施した。結果を表1に示す。
【0055】
さらに得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に焼結体を作製、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
実施例5
αアルミナを平均粒子径0.7μm、比表面積6.4m/gであり、NaO含有量がアルミナ100質量部に対し0.25質量部含有するαアルミナ(含有のナトリウム化合物を含めると100.25質量部)とし、ナトリウム化合物を添加しなかった以外には実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を作製した。得られた窒化アルミニウム粉末の炭素含有量測定を実施した。結果を表1に示す。
【0057】
さらに得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に焼結体を作製、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
実施例6
焼成温度を1400℃とした以外には実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を作製した。得られた窒化アルミニウム粉末の炭素含有量測定を実施した。結果を表1に示す。
【0059】
さらに得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に焼結体を作製、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
実施例7
酸化カルシウムを平均粒子径1.0μm、比表面積2.2m/gの酸化イットリウムとし、該酸化イットリウムをアルミナ100質量部に対し3質量部添加した以外には実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を作製した。得られた窒化アルミニウム粉末の炭素含有量測定を実施した。結果を表1に示す。
【0061】
さらに得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に焼結体を作製、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
比較例1
酸化カルシウムを添加しなかった以外には実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を作製した。得られた窒化アルミニウム粉末の炭素含有量測定を実施した。結果を表1に示す。
【0063】
さらに得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に焼結体を作製、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
比較例2
ナトリウム化合物を添加しなかった以外には実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を作製した。得られた窒化アルミニウム粉末の炭素含有量測定を実施した。結果を表1に示す。
【0065】
さらに得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に焼結体を作製、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
比較例3
酸化カルシウムを平均粒子径1.0μm、比表面積2.2m/gの酸化イットリウムとし、該酸化イットリウムをアルミナ100質量部に対し0.1質量部添加した以外には実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を作製した。得られた窒化アルミニウム粉末の炭素含有量測定を実施した。結果を表1に示す。
【0067】
さらに得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に焼結体を作製、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
比較例4
焼成温度1850℃とした以外には実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を作製した。得られた窒化アルミニウム粉末の炭素含有量測定を実施した。結果を表1に示す。
【0069】
さらに得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に焼結体を作製、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元窒化法により窒化アルミニウム粉末を製造するに際し、(a)アルミナ粉末、(b)カーボン粉末、(c)ナトリウム化合物、並びに、(d)上記還元窒化温度下でアルミナと共融解し得るアルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物を含み、前記アルミナ粉末100質量部に対して、前記ナトリウム化合物を酸化物(NaO)換算で0.02質量部〜3質量部、前記アルカリ土類金属化合物又は希土類金属化合物を酸化物換算で0.5質量部〜50質量部含有する組成物を、1300℃〜1750℃の温度で還元窒化することを特徴とする窒化アルミニウム粉末および窒化アルミニウム粉末の製造方法。

【公開番号】特開2013−107805(P2013−107805A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255631(P2011−255631)
【出願日】平成23年11月23日(2011.11.23)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】