説明

窒化ガリウム層を備える黒鉛材及びその製造方法

【課題】窒化ガリウム層を備える黒鉛材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】黒鉛材1は、膨張黒鉛シート2と、膨張黒鉛シート2の上に配された、結晶性窒化ガリウム層3とを備える。黒鉛材1の製造方法は、膨張黒鉛シート2を準備する工程と、膨張黒鉛シート2の上に、結晶性窒化ガリウム層3を形成する工程と、を備える。結晶性窒化ガリウム層3は、有機金属気相成長法により、膨張黒鉛シート2の上に窒化ガリウムの結晶をエピタキシャル成長させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム層を備える黒鉛材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サファイア基板などの上に窒化ガリウム層を設けた半導体素子が知られている。しかしながら、サファイア基板は、非常に高価である。このため、サファイア基板の代わりに、高配向性グラファイト(HOPG)や、高分子材料を焼結して得られるグラファイトなどの、非常に配向性の高いグラファイトからなる基板の上に窒化ガリウム層を設けた黒鉛材が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−200207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高配向性グラファイト(HOPG)や、高分子材料を焼結して得られるグラファイトも高価である。従って、これらの特殊なグラファイトを用いたとしても、窒化ガリウム層を備える材料を十分に低コスト化することは困難である。
【0005】
このような状況下、窒化ガリウム層を備える新規な黒鉛材が求められている。
【0006】
本発明は、窒化ガリウム層を備える新規な黒鉛材を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の黒鉛材は、膨張黒鉛シートと結晶性窒化ガリウム層とを備える。結晶性窒化ガリウム層は、膨張黒鉛シートの上に配されている。
【0008】
結晶性窒化ガリウム層は、膨張黒鉛シートの上に窒化ガリウムの結晶がエピタキシャル成長したものであることが好ましい。
【0009】
結晶性窒化ガリウム層は、膨張黒鉛シートのc面露出部の上に配されていることが好ましい。
【0010】
本発明の半導体素子は、上記の黒鉛材を備える。
【0011】
本発明の黒鉛材の製造方法は、上記の黒鉛材の製造方法であって、膨張黒鉛シートを準備する工程と、膨張黒鉛シートの上に、結晶性窒化ガリウム層を形成する工程とを備える。
【0012】
有機金属気相成長法により、膨張黒鉛シートの上に、結晶性窒化ガリウム層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、結晶性窒化ガリウム層を備える新規な黒鉛材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る黒鉛材の略図的断面図である。
【図2】黒鉛の結晶構造を示す図である。
【図3】窒化ガリウム(GaN)の結晶構造を示す図である。
【図4】本発明の実験例における膨張黒鉛シートの表面のSEM像である。
【図5】本発明の実験例における膨張黒鉛シートの表面のAFM像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0016】
また、実施形態などにおいて参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率などは、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0017】
図1は、本実施形態に係る黒鉛材の略図的断面図である。黒鉛材1は、膨張黒鉛シート2を有する。本発明において、膨張黒鉛シートは、例えば特開2006−62922号公報に記載されているような、天然黒鉛などを硫酸などに浸漬して熱処理することで層間に浸透された硫酸などがガス化し、発生ガスの放出が爆発的に層間を拡げて形成された膨張黒鉛をシート状に圧縮したものである。膨張黒鉛シートは、六角板状扁平な結晶の六炭素環の積層構造における層間が剥離された膨張黒鉛を圧延して成形したものである。膨張黒鉛シートは、安価である。
【0018】
膨張黒鉛シートは、例えば、次のようにして製造することができる。まず、天然黒鉛、キャッシュ黒鉛などを、硫酸、硝酸などに浸漬させ、400℃以上で熱処理を行うことによって、膨張黒鉛を得る。次に、膨張黒鉛を圧縮して、シート状の原シートを得る。次に、原シートにハロゲンガスなどを接触させ、原シートに含まれる硫黄、鉄などの不純物を除去し、純化シートを得る。次に、純化シートを圧延成形することにより、膨張黒鉛シートを得る。
【0019】
膨張黒鉛シート2は、黒鉛と同じ六角板状の扁平な結晶構造を有する。膨張黒鉛シート2の表面2aの少なくとも一部は、結晶のc面が露出した平坦なc面露出部2a1を有する。このc面露出部2a1の結晶構造は、黒鉛の結晶構造のc面に相当する構造を有する。すなわち、膨張黒鉛シート2のc面露出部2a1は、sp炭素が結合した六炭素環構造に由来する構造を有する。
【0020】
膨張黒鉛シート2の表面2aの面積のうち、c面露出部2a1の占める面積の割合((c面露出部2a1の占める面積)/(膨張黒鉛シート2の表面2aの面積)×100)は、5%〜95%程度であることが好ましく、10%〜90%程度であることがより好ましい。
【0021】
膨張黒鉛シート2の厚みは、0.01〜2.0mm程度であることが好ましく、0.05〜1.0mm程度であることがより好ましい。膨張黒鉛シート2のかさ密度は、0.5〜2.0g/cm程度であることが好ましく、0.7〜2.0g/cm程度であることがより好ましい。膨張黒鉛シート2の表面粗さは、Ra=50以下であることが好ましく、Ra=25以下程度であることがより好ましい。なお、本発明において、表面粗さは、JIS B0601−2001に規定される算術平均粗さである。
【0022】
膨張黒鉛シート2の表面2aの少なくとも一部の上には、結晶性窒化ガリウム層3が設けられている。具体的には、結晶性窒化ガリウム層3は、膨張黒鉛シート2のc面露出部2a1の上に設けられている。結晶性窒化ガリウム層3は、窒化ガリウムの単結晶及び多結晶の少なくとも一方により構成されている。結晶性窒化ガリウム層3は、窒化ガリウム(GaN)の結晶がエピタキシャル成長したものであってもよい。結晶性窒化ガリウム層3の厚みは、10〜500nm程度であることが好ましく、50〜200nm程度であることがより好ましい。
【0023】
膨張黒鉛シート2の表面2aの面積のうち、結晶性窒化ガリウム層3が設けられた部分の面積の割合((結晶性窒化ガリウム層3が設けられた部分の面積)/(膨張黒鉛シート2の表面2aの面積)×100)は、5%〜95%程度であることが好ましく、10%〜90%程度であることがより好ましい。
【0024】
次に、本実施形態に係る黒鉛材1の製造方法の一例について説明する。まず、膨張黒鉛シート2を準備する。次に、膨張黒鉛シート2の表面2aの一部の上に、結晶性窒化ガリウム層3を形成する。具体的には、膨張黒鉛シート2の表面2aの一部のc面露出部2a1の上に、有機金属気相成長法などにより、窒化ガリウムの結晶をエピタキシャル成長させて、結晶性窒化ガリウム層3を形成してもよい。
【0025】
黒鉛の結晶構造は、図2に示されるような、六角板状構造である。黒鉛の結晶構造のc面は、sp炭素の六炭素環構造に由来する平面構造を有する。一方、窒化ガリウム(GaN)の結晶構造は、図3に示されるような六炭素環構造を有する。黒鉛の六炭素環構造における一辺の原子間距離は、0.142nmである。窒化ガリウムの六炭素環構造における一辺の原子間距離は、0.276nmである。窒化ガリウムの六炭素環構造における一辺の原子間距離は、黒鉛の六炭素環構造における一辺の原子間距離の2倍周期となっているため、黒鉛の結晶構造のc面の上には、窒化ガリウムの結晶が配置され得る。膨張黒鉛シート2の表面2aには、c面露出部2a1が多数存在し、このc面露出部2a1は、黒鉛の結晶構造のc面に相当する構造を有する。よって、膨張黒鉛シート2のc面露出部2a1の上にも、窒化ガリウムの結晶が配置され得る。従って、膨張黒鉛シート2の表面2aの少なくとも一部の上に、結晶性窒化ガリウム層3を設けることができる。また、膨張黒鉛シート2のc面の構造と窒化ガリウムの結晶構造から、膨張黒鉛シート2のc面露出部2a1の上には、窒化ガリウムの結晶をエピタキシャル成長させることが可能であることがわかる。
【0026】
膨張黒鉛シート2の表面2aの少なくとも一部の上に結晶性窒化ガリウム層3が設けられた黒鉛材1は、光電変換素子などの半導体素子などとして好適に使用することができる。
【0027】
また、膨張黒鉛シート2のc面露出部2a1は、上記のような製造方法から、表面2aの上全体に分散されて存在する。黒鉛材1においては、例えば発光素子に用いられた場合、c面露出部2a1が分散されていることにより、半導体層間における短絡が防がれ、安定性の高い発光状態が得られる。さらに、黒鉛材1においては、c面露出部2a1が分散されていることにより、半導体層の一部に発光しない部分が存在しても、黒鉛材1の面全体が発光しているように見せることが可能である。
【0028】
以下、本発明について、具体的な実験例に基づいて、さらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実験例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0029】
(実験例)
走査電子顕微鏡(SEM)を用い、膨張黒鉛シート(東洋炭素株式会社製のPF−20、厚さ0.2mm、かさ密度1.0g/cm)の表面のSEM像を観察した。SEM像を図4に示す。図4に示されるように、膨張黒鉛シートの表面には、分散されて平坦部が多く存在していた。
【0030】
次に、原子間力顕微鏡(AFM)を用い、この膨張黒鉛シートのAFM像を観察した。AFM像を図5に示す。図5に示されるように、膨張黒鉛シートの表面では、原子レベルにおいても、分散された平坦部が多く観察された。
【0031】
次に、膨張黒鉛シートの結晶構造をX線回折法により解析した。その結果、膨張黒鉛シートは、黒鉛と同様の結晶構造を有し、c軸に強く配向していることが確認された。このことから、AFM像により観察された平坦部は、黒鉛の結晶構造におけるc面に相当する構造を有すると考えられる。
【0032】
実験例において、膨張黒鉛シートの表面には、原子レベルにおいて、分散されたc面露出部が多く存在することが明らかとなった。黒鉛の結晶構造におけるc面上には、窒化ガリウムの結晶が配置し得ることから、膨張黒鉛シートの表面には、結晶性窒化ガリウム層を設けることが可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0033】
1…黒鉛材
2…膨張黒鉛シート
2a…表面
2a1…c面露出部
3…結晶性窒化ガリウム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張黒鉛シートと、
前記膨張黒鉛シートの上に配された結晶性窒化ガリウム層と、
を備える、黒鉛材。
【請求項2】
前記結晶性窒化ガリウム層は、前記膨張黒鉛シートの上に窒化ガリウムの結晶をエピタキシャル成長させてなる、請求項1に記載の黒鉛材。
【請求項3】
前記結晶性窒化ガリウム層は、前記膨張黒鉛シートのc面露出部の上に配されている、請求項1または2に記載の黒鉛材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の黒鉛材を備える、半導体素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の黒鉛材の製造方法であって、
前記膨張黒鉛シートを準備する工程と、
前記膨張黒鉛シートの上に、前記結晶性窒化ガリウム層を形成する工程と、
を備える、黒鉛材の製造方法。
【請求項6】
有機金属気相成長法により、前記膨張黒鉛シート上に、前記結晶性窒化ガリウム層を形成する、請求項4に記載の黒鉛材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−112558(P2013−112558A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259466(P2011−259466)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】