説明

窒化ガリウム柱状構造の形成方法、及び窒化ガリウム柱状構造の形成装置

【課題】触媒金属の混入を抑えることの可能な窒化ガリウム柱状構造の形成方法、及び該方法を用いる窒化ガリウム柱状構造の形成装置を提供する。
【解決手段】
窒化ガリウム柱状構造を下地層上に反応性スパッタによって形成する。このとき、真空槽11内に供給されるアルゴンガス及び窒素ガスの総流量に占める窒素ガスの流量の割合である窒素濃度を窒化ガリウム膜の成長速度が窒素供給によって律速され、且つ、窒化ガリウムの成長速度における極大値の91%以上100%以下の窒化ガリウムの成長速度となるような窒素濃度とする。また、基板Sの温度T、ガリウムのターゲット14に供給される周波数が13.56MHzであるバイアス電力Pが、600≦T≦1200、0<P≦4.63、P<0.0088T−6.60、P≧0.0116T−11.37を満たす条件にて窒化ガリウム柱状構造を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、反応性スパッタ法を用いた窒化ガリウム柱状構造の形成方法、及び該方法を用いて窒化ガリウム柱状構造を形成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体の1つである窒化ガリウム系半導体は、紫外光から可視光に相当するエネルギーの直接遷移型のバンドギャップを有することから、発光ダイオードやレーザダイオード等の光学デバイスの形成材料として広く用いられている。また、窒化ガリウムは、例えばシリコンやガリウムヒ素等の他の半導体材料と比較して、電圧破壊に対する高い耐性を有することに加え、高い飽和電子速度を有する。
【0003】
そのため、近年では、こうした窒化ガリウムによって形成されたナノスケールの構造物、いわゆる窒化ガリウム柱状構造を上記光学デバイスの発光体、電界放出素子、及び化学センサ等の電子デバイスに応用する試みが盛んに行われている。
【0004】
窒化ガリウム柱状構造の形成には、例えば特許文献1に記載のように、気相−液相−固相成長法(VLS法)が用いられている。VLS法では、固体である下地層の表面に形成された液体の触媒金属、例えばニッケルや白金等に対して、気体状の原料、例えばトリメチルガリウムとアンモニアとが供給される。そして、触媒金属中に溶解した原料が過飽和の状態になると、金属触媒と下地層との間にて窒化ガリウムの凝集が生じることで、下地層の表面に対して垂直な方向に窒化ガリウム柱状構造が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−6670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記VLS法による窒化ガリウム柱状構造の形成方法では、窒化ガリウム柱状構造が金属触媒の液相中で成長する。そのため、形成された窒化ガリウム柱状構造は、触媒金属の混入を免れ得ない。こうした窒化ガリウム柱状構造が上述のような電子デバイスに組み込まれると、窒化ガリウム中の触媒金属が、電子デバイスの性能に影響を及ぼしてしまうことも少なくない。
【0007】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、触媒金属の混入を抑えることの可能な窒化ガリウム柱状構造の形成方法、及び該方法を用いる窒化ガリウム柱状構造の形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、窒化ガリウムの柱状構造を形成する窒化ガリウム柱状構造の形成方法であって、真空槽内に配置されたガリウムターゲットにバイアス電力を供給して、前記真空槽内に供給された希ガスによって前記ガリウムターゲットをスパッタする工程と、前記真空槽内に供給されて、プラズマにより活性化された窒素含有ガスと、前記スパッタされたガリウムとを、前記真空槽内で加熱される単結晶基板上にて反応させることで窒化ガリウム柱状構造を形成する工程とを含み、前記窒素含有ガスが、前記希ガスと前記窒素含有ガスとの総流量に占める該窒素含有ガスの割合である窒素濃度のうち、前記窒化ガリウムの成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲となるように前記真空槽内に供給されるものであり、前記バイアス電力が、前記窒化されるガリウム以外にも前記単結晶基板の表面にガリウムを到達させるものであり、前記単結晶基板の温度が、前記窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを前記基板の表面から蒸発させる温度よりも高い温度で窒化ガリウムを成長させるものであることを要旨とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、単結晶基板を収容するとともに該単結晶基板を加熱する加熱部を有した真空槽と、前記真空槽内に希ガスと窒素含有ガスとを供給するガス供給部と、前記真空槽内に配置されたガリウムターゲットと、前記ガリウムターゲットにバイアス電力を供給する電力供給部と、前記ガリウムターゲットを前記希ガスでスパッタするときに、前記加熱部、前記ガス供給部、及び前記電力供給部の動作を制御する制御部とを備える窒化ガリウム柱状構造の形成装置であって、前記制御部は、前記希ガスと前記窒素含有ガスとの総流量に占める該窒素含有ガスの割合である窒素濃度のうち、窒化ガリウムの成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御し、且つ、前記窒化されるガリウム以外にも前記単結晶基板の表面にガリウムを到達させるように前記電力供給部に前記バイアス電力を出力させるとともに、前記窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを前記基板の表面から蒸発させる温度よりも高い温度で窒化ガリウムを成長させるように前記加熱部に前記基板を加熱させることを要旨とする。
【0010】
本発明者らの鋭意研究により、窒化ガリウムのプロセス領域のうち、窒化されるガリウム以外にも単結晶基板の表面にガリウムが到達する領域であれば、単結晶基板の表面上に到達したガリウムの有する該表面上での流動性によって、ガリウムそのものが二次元的に拡散し、窒化ガリウムの粒成長が基板表面上にて抑えられることが見出された。一方、このような領域にて、窒化されるガリウム以外のガリウムの全てが単結晶基板の表面から蒸発する温度よりも高い温度で窒化ガリウムを成長させることによって、基板表面上にて以下のような反応が進行することが見出された。
【0011】
まず、単結晶基板に到達するガリウムの流束である入射流束はバイアス電力が高いほど大きくなる。また、単結晶基板に到達するガリウムのうちで蒸発するガリウムの流束である放出流束は、単結晶基板の温度が高くなる分だけ大きくなる。そして、これら入射流速と放出流速の差分が、窒化ガリウムの結晶の成長方向を支配する過飽和度を与えるパラメータとなる。
【0012】
具体的には、適度な過飽和度における窒化ガリウムの成長は、単結晶基板における上下方向の結晶軸であるc軸方向に沿った成長である縦方向成長と、単結晶基板の表面と平行な方向への成長である横方向成長との成長速度比が同程度となる。そして、単結晶基板の表面に沿った層状の窒化ガリウムが形成されることなる。これに対して、過飽和度が十分に小さくなるように設定された条件下においては、横方向成長の速度に対する縦方向成長の速度が大きくなるため、縦方向に異方性をもった成長が自発的に進行する。その結果、基板表面においては、窒化ガリウムの結晶粒毎に、基板表面から離れるように該基板表面の法線方向に窒化ガリウムが成長することで、窒化ガリウム柱状構造が自己形成される。つまり、単結晶基板に到達するガリウムの入射流束を決めるバイアス電力と、単結晶基板に到達するガリウムのうちで蒸発するガリウムの放出流束を決める単結晶基板の温度とをそれぞれ制御することで窒化ガリウム柱状構造を形成することが可能となる。
【0013】
そこで、請求項1に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成方法、及び請求項4に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成装置では、ガリウムターゲットから基板表面に供給されるガリウムの量と相関を有するバイアス電力が、窒化されるガリウム以外のガリウムを基板の表面に到達させるものとされている。また、単結晶基板から蒸発するガリウムの量と相関を有する単結晶基板の温度が、窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを基板の表面から蒸発させる温度よりも高いものとされる。これにより、ガリウムターゲットをスパッタすることで基板表面にガリウムを供給するとともに、窒化源を同基板表面に供給することのみによって窒化ガリウム柱状構造を形成することができる。しかも、上記VLS法のように、液体状の触媒金属を用いずに窒化ガリウム柱状構造を形成することから、形成された窒化ガリウム柱状構造への触媒金属の混入が自ずと抑制されることになる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成方法において、前記窒素含有ガスが窒素ガスであり、前記希ガスがアルゴンガスであって、前記窒化ガリウムを形成するときの前記窒素濃度を該窒化ガリウムの成長速度における極大値に対して61%以上100%以下の成長速度となる範囲とし、且つ、前記窒化ガリウム柱状構造を形成するときの前記基板の温度を基板温度T(℃)、前記ガリウムターゲットに供給される電力をバイアス電力P(W/cm)とするとき、前記基板温度Tと前記バイアス電極Pとが、600≦T≦1200、0<P≦4.63を満たすことを要旨とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成装置において、前記窒素含有ガスが窒素ガスであり、前記希ガスがアルゴンガスであって、前記制御部は、前記窒素濃度が前記窒化ガリウムの成長速度の極大値に対して61%以上100%以下の成長速度となる範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御し、且つ、前記窒化ガリウム柱状構造を形成するときの前記単結晶基板の温度を基板温度T(℃)、前記ガリウムターゲットに供給される電力をバイアス電力P(W/cm)とするとき、前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、600≦T≦1200、0<P≦4.63を満たすように前記加熱部及び前記電力供給部を制御することを要旨とする。
【0016】
上記請求項2に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成方法、及び上記請求項5に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成装置によれば、窒素濃度が窒化ガリウムの成長速度における極大値に対して61%以上100%以下の成長速度となる。そして、単結晶基板の温度が、600℃以上1200℃以下になるとともに、ガリウムターゲットの単位面積あたりに供給されるバイアス電力Pが、0W/cmより大きく4.63W/cm以下になる。そのため、蒸発するガリウムの量や単結晶基板上に供給されるガリウムの量が十分に高い環境下にて、窒化ガリウムを結晶粒として成長させること、ひいては窒化ガリウム柱状構造を形成することが容易なものとなる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成方法において、前記窒素濃度が、前記窒化ガリウムの成長速度における極大値
に対して91%以上100%以下の成長速度となる範囲であり、前記バイアス電力が、周波数が13.56MHzのバイアス電力であり、前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、P<0.0088T−6.60、P≧0.0116T−11.37を満たすことを要旨とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成装置において、前記バイアス電力が、周波数が13.56MHzのバイアス電力であり、前記制御部が、前記窒素濃度が前記窒化ガリウムの成長速度の極大値に対して91%以上100%以下の成長速度となる範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御するとともに、前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、P<0.0088T−6.60、P≧0.0116T−11.37を満たすように前記加熱部及び前記電力供給部を制御することを要旨とする。
【0019】
上記請求項3に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成方法、及び上記請求項6に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成装置では、窒素濃度が窒化ガリウムの成長速度における極大値に対して91%以上100%以下の成長速度となる範囲となるようにする。そして、上記バイアス電力Pを周波数が13.56MHzであるバイアス電力とするときに、上記基板温度T及びバイアス電力Pが、P<0.0088T−6.60、P≧0.0116T−11.37を満たす条件で窒化ガリウム柱状構造の形成を行うようにしている。そのため、窒化ガリウムの結晶粒を形成し、且つ、こうした窒化ガリウム結晶粒を基板表面から離れるように該基板表面の法線方向に引き続き成長させること、ひいては窒化ガリウム柱状構造を形成することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の窒化ガリウム柱状構造の形成装置をスパッタ装置として具現化した一実施形態の概略構成を示す図。
【図2】本発明の窒化ガリウム柱状構造の形成方法の一実施形態における各種ガス、バイアス電力の供給態様と、基板温度の変更態様とを示すタイミングチャート。
【図3】真空槽に供給されるガスの総流量に占める窒素ガスの割合(%)と窒化ガリウムの成長速度との関係を示すグラフ。
【図4】(a)〜(d)基板上に形成された窒化ガリウムの表面を撮像したSEM写真。
【図5】基板温度とバイアス電力とによって区分される窒化ガリウムの成長状態の領域を示す図。
【図6】(a)〜(f)基板上に形成された窒化ガリウムの表面を撮像したSEM写真。
【図7】(a)(b)同実施形態における窒化ガリウム柱状構造の形成方法をその工程順に示す図。
【図8】基板に積層された下地層上に形成された窒化ガリウム柱状構造を撮像したSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の窒化ガリウム柱状構造の形成方法及び窒化ガリウム柱状構造の形成装置の一実施形態について図1〜図8を参照して説明する。まず、窒化ガリウム柱状構造の形成装置としてのスパッタ装置の全体的な構成について図1を参照して説明する。
【0022】
図1に示されるように、スパッタ装置10の備える円筒状の真空槽11内には、カソードハウジング12が配置され、また、該カソードハウジング12の内部には、マグネトロン磁場を生成するためのマグネット12aが収容されている。このカソードハウジング12のうち、マグネット12aの上側には、バッキングプレート13が配置され、また、バッキングプレート13の上側には、該バッキングプレート13に接続されるターゲット14が配置されている。このターゲット14は、バッキングプレート13の上側に配置された容器14bと、該容器14bに収容されるガリウム14aとから構成されている。この容器14bに収容されるガリウム14aは、バッキングプレート13を介して電力供給部としての高周波電源15に接続されるとともに、該高周波電源15の出力するバイアス電力が供給されるようになっている。また、上述したマグネット12aによるマグネトロン磁場が、このガリウム14aの表面上に形成されるように、上記ターゲット14が配置されている。
【0023】
上記真空槽11内におけるターゲット14の直上には、窒化ガリウム(GaN)柱状構造の形成対象である基板Sを保持する基板ステージ16が設けられている。窒化ガリウム柱状構造の形成対象である基板Sとは、例えばサファイア(Al)等の単結晶の支持基板上に、単結晶基板としての窒化アルミニウム(AlN)層が形成されたものである。また、真空槽11の内表面には、窒化ガリウムの付着を防ぐ防着板17が、上記ターゲット14における基板Sに対向する面と、上記基板ステージ16とを露出させるように配置されている。
【0024】
真空槽11の外表面における上記基板ステージ16と対向する位置には、円筒状のヒータ室18が設けられ、また、該ヒータ室18の内部には、加熱部としてのヒータユニット19が設置されている。ヒータユニット19は、例えばハロゲンランプヒータであって、その先端が基板ステージ16の保持する基板Sに対向し、600℃〜1200℃の範囲で上記基板Sを加熱する。
【0025】
真空槽11には、ターゲット14のガリウム14aをスパッタするアルゴン等の希ガスを供給する希ガス供給部としてのマスフローコントローラMFC1が接続されている。また、真空槽11には、スパッタされたガリウムを窒化するための窒素含有ガスとしての窒素ガスを供給する窒素ガス供給部としてのマスフローコントローラMFC2が接続されている。さらにまた、真空槽11には、該真空槽11内を減圧するための真空ポンプや真空槽11内の圧力を所定の圧力に調整するための圧力調整弁等から構成される排気部20が接続されている。
【0026】
スパッタ装置10には、上記高周波電源15、ヒータユニット19、及びマスフローコントローラMFC1,MFC2に接続されるとともに、これらの動作を制御する制御部30が搭載されている。制御部30は、上記ターゲット14に供給すべき単位面積あたりのバイアス電力を形成条件の一つとして記憶するとともに、該バイアス電力に応じた駆動信号を高周波電源15に出力する。また、制御部30は、プロセス時における基板Sの温度を形成条件の一つとして記憶するとともに、基板Sの温度を該プロセス時における温度に上昇させるための駆動信号をヒータユニット19に出力する。また、制御部30は、プロセス時におけるアルゴンガスの流量を形成条件の一つとして記憶するとともに、該流量でアルゴンガスを供給するための駆動信号をマスフローコントローラMFC1に出力する。また、制御部30は、プロセス時における窒素ガスの流量を形成条件の一つとして記憶するとともに、該流量で窒素ガスを供給するための駆動信号をマスフローコントローラMFC2に出力する。そして、制御部30は、真空槽11内に供給されるアルゴンガス及び窒素ガスの総流量に占める窒素ガスの流量を所定の割合とする。
【0027】
上述した構成からなるスパッタ装置10の作用のうち、特に上記スパッタ装置10が窒化ガリウム柱状構造の形成方法にて行う動作ついて図2〜図6を参照して以下に説明する。
【0028】
上記スパッタ装置10にて窒化ガリウム柱状構造の形成を行う際には、まず、上記排気部20によって真空槽11内が所定の圧力にまで減圧される。そして、図示しない搬出入口から真空槽11内に基板Sが搬入されると、該基板Sが上記基板ステージ16によって保持される。次いで、図2に示されるように、上記真空槽11内に基板Sが搬入されると、アルゴンガス雰囲気においてヒータユニット19による基板Sの昇温が行われる(タイミングt1〜タイミングt2)。そして、基板Sの温度が例えば室温から所定の温度にまで昇温されると、アルゴンガスと窒素ガスとがこれらガスの総流量に占める窒素ガスの流量が所定の割合となるように供給される。次いで、上記高周波電源15からターゲット14に対して所定のバイアス電力Pでのバイアス電力の供給が開始される(タイミングt2)。これにより、タイミングt1から継続して供給されているアルゴンガスによってターゲット14のガリウム14aがスパッタされる。このとき、窒素ガスの供給も開始されていることから、プラズマによって窒素ガスが活性化されて、スパッタされたガリウム粒子が該活性化された窒素ガスにより基板S上で窒化される。そして、窒化ガリウム柱状構造が上記基板S上に形成される(タイミングt2〜タイミングt3)。
【0029】
なお、このとき、窒素ガスは所定の流量Fn1にて真空槽11内に供給されるとともに、アルゴンガスは所定の流量Fa2にて同真空槽11内に供給される。これにより、真空槽11内に供給されるガスの総流量Fn1+Fa2に対して窒素ガスの流量Fn1が所定の割合とされる。この際、タイミングt1からタイミングt2にわたって供給されていたアルゴンの流量Fa1と、タイミングt2からの上記総流量Fn1+Fa2とを略同一とすることで、真空槽11内における圧力の変動を抑えられる。これにより、アルゴンガスとは異なる窒素ガスが添加されるとしても、こうしたガス種の変更にかかわらず、以後に行われるスパッタの開始時にてプラズマの状態が安定するようになる。
【0030】
そして、タイミングt2から所定の時間が経過すると、上記アルゴンガスの供給及びバイアス電力の供給を停止することで、ターゲット14のスパッタを終了する(タイミングt3)。なお、上記制御部30は、窒化ガリウム柱状構造の長さに応じた反応性スパッタのプロセス時間を形成条件の一つとして記憶しており、タイミングt2からタイミングt3の期間が、上記プロセス時間に設定される。
【0031】
また、タイミングt3において、上記ヒータユニット19による基板Sの加熱も終了されることで、基板Sの温度が例えば室温にまで冷却される(タイミングt4)。基板Sの冷却期間であるタイミングt3からタイミングt4までにわたり、真空槽11内には、窒素ガスが、上記流量Fn1よりも大きい流量Fn2にて供給され続ける。これにより、窒化ガリウムの成長温度において蒸気圧の高い窒素が窒化ガリウム膜から脱離することで、表面欠陥が生じることを抑制することができる。
【0032】
ちなみに、例えば、窒化ガリウム柱状構造の形成時(タイミングt3〜タイミングt4)において、基板Sの温度を1000℃とし、上記総流量Fn1+Fa2に対する窒素ガスの流量Fn1の割合である窒素濃度を30%とするときには、以下のような条件にて窒化ガリウム柱状構造の形成を行う。
【0033】
すなわち、タイミングt1からタイミングt2までの20分間で、基板Sの温度を室温から1000℃にまで昇温する。このときのアルゴンガスの流量Fa1を55sccmとする。そして、タイミングt2からタイミングt3までの40分間で、基板Sの温度を1000℃に維持しつつ、直径120mmのターゲット14に対して150Wのバイアス電力を供給して、基板S上に窒化ガリウム柱状構造を形成する。このときのアルゴンガスの流量Fa2を38.5sccmとし、窒素ガスの流量Fn1を16.5sccmとすることで、上記窒素濃度を30%とする。次いで、タイミングt3からタイミングt4の20分間で、基板Sの温度を1000℃から室温にまで冷却する。このときの窒素ガスの流量Fn2を100sccmとする。
【0034】
本実施形態の窒化ガリウム柱状構造の形成方法においては、上記タイミングt2からタイミングt3での窒化ガリウム柱状構造の形成に際し、真空槽11内に供給されるガスの総流量Fn1+Fa2に占める窒素ガスの流量Fn1の割合である上記窒素濃度と、基板Sの温度、及びバイアス電力を所定の範囲に制御するようにしている。これにより、基板Sの表面に該表面の法線方向に延びる窒化ガリウム柱状構造が形成できるようになる。
【0035】
以下、上記窒素濃度、基板温度、及びバイアス電力の範囲の詳細について、図3〜図6を参照して説明する。図3は、上述した窒化ガリウム柱状構造の形成装置を用いて形成される窒化ガリウムの成長速度における窒素濃度(N%)への依存性を示すグラフである。なお、一点鎖線で示される曲線C1、実線で示される曲線C2、及び二点鎖線で示される曲線C3は、各々の形成条件のうち、窒素ガスの流量のみが変更されたときの成長速度を示している。また、曲線C1,C2,C3の各々の条件では、プロセス時の基板温度Tが互いに等しく、ターゲット14に供給されるバイアス電力が、曲線C1、曲線C2、曲線C3の順に大きくなるように設定されている。
【0036】
図3に示されるように、窒化ガリウムの成長速度は、上記窒素濃度(N%)によって変化するものである。三つの曲線C1,C2,C3から明らかなように、成長速度は、基板温度及びバイアス電力の条件に関わらず、上記窒素濃度に対して極大となる値を有する。
【0037】
三つの曲線C1,C2,C3の各々において、極大値を与える窒素濃度よりも低濃度側、すなわち窒素濃度範囲Na,Nb,Ncは、窒素濃度が高くなるほど、窒化ガリウムの成長速度が高くなる領域である。このような窒素濃度への依存性から、こうした低濃度側の領域の殆どは、基板Sの表面に到達するガリウムの量に対して、同基板Sの表面に供給される窒素の量が少ない領域であって、窒化されるガリウムの量が窒素の量によって律速されている領域といえる。それゆえに、このような窒素濃度範囲Na,Nb,Ncであれば、窒化される前のガリウムを概ね基板Sの表面で流動させることが可能となる。
【0038】
これに対し、三つの曲線C1,C2,C3の各々において、極大値Ma,Mb,Mcを与える窒素濃度よりも高濃度側は、窒素濃度が高くなるほど、窒化ガリウムの成長速度が低くなる領域である。このような窒素濃度への依存性から、こうした高濃度側の領域とは、基板Sに到達するガリウムの量に対して、同基板Sの表面に供給される窒素の量が過剰となる領域であって、窒化されるガリウムの量がガリウムの量によって律速されている領域といえる。それゆえに、このような領域では、スパッタされたガリウムが基板Sの表面に到達しても、基板Sの表面に存在する窒素が多い分、こうしたガリウムと窒素との反応機会が多くなり、結局のところ、基板Sの表面におけるガリウムの拡散が抑制されてしまう。
【0039】
一方、上述した窒素濃度範囲Na,Nb,Ncを用いて成膜を行ったとしても、図4(a)〜(c)に示されるように、互いに異なる構造の窒化ガリウムが形成される。そして、基板Sの表面に到達するガリウムの流束であるガリウム流束と、基板に到達する活性化された窒素の流束である窒素流束とに応じて、これらの構造が定められることが本発明者らの実験によって認められた。
【0040】
詳述すると、上記窒素濃度範囲Na,Nb,Ncのうち、ガリウム流束が窒素流束に対して過剰になる範囲、つまり成長速度が小さい側の範囲では、図4(a)に示されるように、ガリウムの単体が、基板Sの表面に半球状をなして析出してしまうことが認められた。また、上記窒素濃度範囲Na,Nb,Ncのうち、ガリウム流束が窒素流束に対して過剰になる程度が上記図4(a)の範囲よりも小さくなると、図4(b)に示されるように、窒化ガリウムが層状構造をなして成長することが認められた。
【0041】
他方、上記窒素濃度範囲Na,Nb,Ncのうち、ガリウム流束が窒素流束に対して過剰になる程度がさらに小さい範囲、つまり成長速度の極大値近傍の範囲では、図4(c)に示されるように、ガリウムの拡散が抑制されて窒化ガリウムが、上記層状構造体よりも積層厚さが厚くなるように3次元的に成長し、また、成長した表面は凹凸状に形成されることが認められた。
【0042】
また一方、上記窒素濃度範囲Na,Nb,Ncのうち、ガリウム流速が窒素流速に対して過剰になる程度が上記図4(a)の範囲よりも小さく、且つ上記図4(c)の範囲よりも大きい範囲であっても、窒化されるガリウム以外のガリウムが全て蒸発するよりも高い温度範囲においては、図4(d)に示されるように、窒化ガリウムは、基板Sの表面から離れる方向、且つ該表面の法線方向に延びる柱状構造をなすことが認められた。
【0043】
これは、図4(d)に示されるような柱状構造の窒化ガリウムを形成するためには、基板Sの表面に到達するガリウムの流束と基板表面から蒸発するガリウムの流束とを制御するパラメータの範囲を上記窒素濃度に加えて新たに規定する必要があることを示すものである。
【0044】
ちなみに、上記成長速度の極大値Ma,Mb,Mcよりも高濃度側においても、図4(c)に示されるように、窒化ガリウムが、上記層状構造体よりも積層厚さが厚くなるように3次元的に成長し、また、成長した表面は凹凸状に形成されることが認められた。
【0045】
ここで、上記ターゲット14に供給するバイアス電力が大きい程、ターゲット14がスパッタされやすくなる。そのため、基板Sの表面に到達するガリウムの量は、ターゲット14に供給するバイアス電力の大きさに正の相関を有し、それゆえに、このバイアス電力を制御することによって、基板Sの表面に到達するガリウムの流束を独立して制御することが可能となる。
【0046】
また一方、ガリウムは、一旦基板Sの表面に到達したとしても、単体の状態にあるときに基板Sから熱を受けて蒸発する場合もある。このようにして基板Sの表面から蒸発するガリウムの量は、基板Sの温度に正の相関を有し、それゆえに、この基板Sの温度を制御することによって、基板Sの表面から蒸発するガリウムの流束を独立して制御することが可能となる。
【0047】
そして、上記窒素濃度範囲Na,Nb,Ncであれば、少なからずガリウムの有する流動性によって、ガリウムそのものが二次元的に拡散する。これに加え、基板Sの表面に到達したガリウムのうち、窒素と反応して窒化ガリウムとなる分を除くガリウムの量と、基板Sの表面から蒸発するガリウムの量とが等しくなるような条件、つまり成長表面においてガリウムの過飽和度が最適な条件であれば、上述のようにして拡散したガリウムの余剰分が、基板Sの表面上から蒸発する。これにより、図4(b)に示されるような層状構造の窒化ガリウム膜が形成される。
【0048】
一方、上記窒化ガリウムとなる分を除くガリウムの量に対して、基板Sの表面から蒸発するガリウムの量が少なくなるような条件、つまり成長表面においてガリウムの過飽和度が上記最適な条件よりも大きい条件であれば、図4(a)に示されるように、余剰なガリウムが析出する。
【0049】
また一方、上記窒化ガリウムとなる分を除くガリウムの量に対して、基板Sの表面から蒸発するガリウムの量が多くなるような条件、つまり成長表面においてガリウムの過飽和度が上記最適な条件よりも小さい条件であれば、図4(d)に示されるように、窒化ガリウムの柱状構造が形成される。
【0050】
つまり、下記(条件1)〜(条件3)を満たす形成条件であれば、基板Sに到達した後に蒸発するガリウムが柱状構造の形成に寄与する結果、図4(d)に示すような窒化ガリウムの柱状構造を形成することができる。
(条件1)窒化ガリウムの成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲である。
(条件2)バイアス電力が、窒化されるガリウム以外にも基板Sの表面にガリウムを到達させる範囲の電力である。
(条件3)基板Sの温度が、窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを基板Sの表面から蒸発させる温度よりも高い範囲の温度である。
【0051】
上記(条件1)〜(条件3)が満たされる形成条件の一例を図5及び図6を参照して以下に説明する。図5及び図6は、上述した窒化ガリウム柱状構造の形成装置を用いて、上記窒素濃度を窒化ガリウムの成長速度を窒素供給が律速する範囲とし、且つ成長速度における極大値に対して91%以上100%以下の成長速度となる範囲としたときの窒化ガリウムの構造を示すグラフ及びSEM写真である。
【0052】
(領域1:析出領域:条件A,B,C,D)
図5に示されるように、基板Sの温度が相対的に低く、且つターゲット14に供給されるバイアス電力も相対的に小さい下記条件A,Bでは、図6(a)に示されるように、基板Sの表面に半球状をなすようなガリウムの析出が認められた。
・条件A:基板温度Tが600℃、バイアス電力Pが1.39W/cm
・条件B:基板温度Tが700℃、バイアス電力Pが1.39W/cm
また、条件A及び条件Bよりも基板温度が高く、且つターゲット14に供給されるバイアス電力がより大きい下記条件C,Dでも、図6(b)に示されるように、条件A,Bよりも少ないとはいえ基板S表面にて半球状をなすガリウムの析出が認められた。
・条件C:基板温度Tが800℃、バイアス電力Pが4.17W/cm
・条件D:基板温度Tが1000℃、バイアス電力Pが4.17W/cm
こうした結果から、上記条件A〜条件Dを含む領域1とは、基板Sに到達したガリウムのうちで窒化された分を除くガリウムの量が、基板S上での加熱によって蒸発するガリウムの量よりも過剰となる領域であると言える。
【0053】
(領域2:層状構造領域:条件E,F,G,H,I)
一方、条件Cと同一の基板温度であっても、ターゲット14に供給されるバイアス電力がより小さい下記条件E,Fでは、図6(c)に示されるように、基板Sの表面に平坦な窒化ガリウム膜が形成された。
・条件E:基板温度Tが800℃、バイアス電力Pが0.44W/cm
・条件F:基板温度Tが800℃、バイアス電力Pが1.39W/cm
また、これら条件E,Fよりも高い基板温度である下記条件Gでも、条件E,Fにより形成された窒化ガリウム膜よりは平坦性に劣るものの、図6(d)に示されるように、平坦な窒化ガリウム膜の形成が認められた。
・条件G:基板温度Tが900℃、バイアス電力Pが1.32W/cm
さらにまた、条件E,F,Gよりも高い基板温度であって、且つ高いバイアス電力である下記条件でも、条件E,F,Gにより形成された窒化ガリウム膜よりは平坦性に劣るものの、平坦な窒化ガリウム膜の形成が認められた。
・条件H:基板温度Tが1000℃、バイアス電力Pが2.20W/cm
・条件I:基板温度Tが1000℃、バイアス電力Pが2.78W/cm
こうした結果から、上記条件E〜条件Iを含む領域2とは、基板Sに到達したガリウムのうちで窒素と反応せずに基板S上に単体として存在するガリウムの量と、基板S上での加熱によって蒸発するガリウムの量とが略等しくなる領域であると言える。
【0054】
(領域3:柱状構造領域:条件J,K,L,M,N,O,P,Q)
他方、上記条件E,Fと同一の基板温度であっても、よりターゲット14に供給されるバイアス電力が小さい下記条件Jでは、図6(e)に示されるように、柱状構造の窒化ガリウム柱状構造が成長していた。
・条件J:基板温度Tが800℃、バイアス電力Pが0.23W/cm
また、条件Jよりも基板温度が高い下記条件K,Lでは、図6(f)に示されるように、基板S上に形成された凹凸構造から基板Sの表面と離れる方向、且つ該表面の法線方向に延びるように形成された線状構造の窒化ガリウム柱状構造が認められた。
・条件K:基板温度Tが900℃、バイアス電力Pが0.44W/cm
・条件L:基板温度Tが900℃、バイアス電力Pが0.23W/cm
そして、条件K,Lよりも高い基板温度である下記条件M,N,Oでも、条件K,Lによって形成された窒化ガリウム柱状構造よりも基板Sの表面における窒化ガリウム柱状構造の密度が低いものの、窒化ガリウム柱状構造の形成が認められた。
・条件M:基板温度Tが1000℃、バイアス電力Pが0.23W/cm
・条件N:基板温度Tが1000℃、バイアス電力Pが0.93W/cm
・条件O:基板温度Tが1000℃、バイアス電力Pが1.39W/cm
さらに、上記条件M,N,Oよりも高い基板温度である下記条件P,Qでも、上記M,N,Oよって形成された窒化ガリウム柱状構造よりも基板Sの表面における窒化ガリウム柱状構造の密度が低いものの、窒化ガリウム柱状構造の形成が認められた。
・条件P:基板温度Tが1100℃、バイアス電力Pが1.39W/cm
・条件Q:基板温度Tが1100℃、バイアス電力Pが2.20W/cm
上記条件K,L,M,N,O,P,Qを含む領域3とは、基板Sに対して到達するガリウムの量から窒素と反応した分を除いた量よりも、基板Sでの加熱によって蒸発するガリウムの量が多い領域である。加えて、基板Sの表面に供給された窒素と反応する以前に蒸発するガリウムの量が、上記領域2よりも多くなる程度に基板温度の高い領域である。
【0055】
(領域4:非成膜領域:条件R,S)
図5示されるように、先のいずれの条件よりも基板温度の高い下記条件R,Sでは、基板S上での窒化ガリウムの成長が認められなかった。つまり、該条件R,Sを含む領域4とは、基板Sに到達したガリウムが窒化されることなく基板Sから蒸発してしまう領域であると言える。
・条件R:基板温度Tが1150℃、バイアス電力が0.93W/cm
・条件S:基板温度Tが1200℃、バイアス電力が1.39W/cm
したがって、基板温度が600℃以上1200℃以下の範囲であって、且つ、ターゲット14に供給されるバイアス電力が0W/cmより大きく4.63W/cm以下であるときには、下記二直線に挟まれた上記領域4に含まれるように、基板温度Tとバイアス電力Pとが設定される。
・条件E,G,Hを通る第一直線:P=0.0088T−6.60
・条件M,Pを通る第二直線:P=0.0116T−11.37
なお、バイアス電力Pと基板Sの表面に到達するガリウムの量との関係は、線形近似されるものであるとともに、基板温度Tが600℃以上1200℃以下の範囲であれば、該基板温度Tと基板の表面から蒸発するガリウムの量との関係は、概ね線形近似されるものである。そのため、基板Sの表面にて余剰となるガリウムの量よりも基板の表面から蒸発するガリウムの量が多くなるようなバイアス電力Pと基板温度Tとの関係も線形近似されるものである。
【0056】
上記基板Sの表面に上記窒化ガリウム柱状構造を形成する工程について図7を参照して説明する。まず、図7(a)に示されるように、サファイア基板等の単結晶で形成された基板41上に例えば窒化アルミニウムの下地層42を積層した基板Sを用意する。下地層42は、例えばスパッタ等の成膜方法によって、基板41の表面に形成される。下地層42は、略均一な粒径を有した結晶粒の集合として形成される。これにより、下地層42の結晶粒を核として成長する窒化ガリウム柱状構造43の直径が、下地層42上に形成された窒化ガリウム柱状構造間で互いに略等しくなる。そのため、例えば窒化ガリウム柱状構造43を上述のような電子デバイスに用いた場合に、窒化ガリウム柱状構造43間には、柱状構造の径に依存する材料特性のばらつきが生じにくくなる。
【0057】
次いで、基板Sが上記スパッタ装置10に搬入された後、上述のような条件にて反応性スパッタが行われると、上記下地層42を形成する結晶粒と略等しい直径を有した窒化ガリウム柱状構造43が、基板Sの上面全体に形成される。
【0058】
このように、本実施形態の窒化ガリウム柱状構造の形成方法によれば、反応性スパッタによって基板S上に窒化ガリウム柱状構造を形成することができるため、上記VLS法のように、触媒金属が窒化ガリウム柱状構造に混入することを抑えることができる。
[実施例]
図8に示されるように、厚さ0.42mm、直径50.8mmのサファイア基板51上に、厚さ25nmの窒化アルミニウムからなる窒化アルミニウム層52を反応性スパッタ法によって形成した。その後、窒化アルミニウム層52の表面から離れる方向、且つ該表面の法線方向に延びる窒化ガリウム柱状構造53を反応性スパッタによって以下の条件にて形成した。
【0059】
・ガリウムターゲット 直径120mm
・アルゴンガス流量 38.5sccm
・窒素ガス流量 16.5sccm
・窒素濃度 30%
・バイアス電力(13.56MHz) 1.39W/cm(150W)
・基板温度 1000℃
・反応性スパッタの継続時間 40分
なお、上記窒素濃度とは、上記基板温度とバイアス電力とによって規定される窒化ガリウムの成長速度のうち、その極大値に対して91%以上100%以下の成長速度となるような窒素濃度である。こうした条件にて反応性スパッタを行ったところ、窒化アルミニウム層52上には、直径略50nm、長さ略2000nmの窒化ガリウム柱状構造53が、略1.0×1010本/mmの密度で形成された。
【0060】
以上説明した実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)窒化ガリウムの成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲にて、窒化されるガリウム以外にも基板Sの表面にガリウムを到達させるように、バイアス電力が設定される。また、窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを基板Sの表面から蒸発させるように、基板Sの温度が設定される。これにより、ターゲット14をスパッタすることで基板Sの表面にガリウムを供給するとともに、窒化源を同基板Sの表面に供給することのみによって窒化ガリウム柱状構造を形成することができる。
【0061】
しかも、上記VLS法のように、液体状の触媒金属を用いずに窒化ガリウム柱状構造を形成することから、形成された窒化ガリウム柱状構造への触媒金属の混入が自ずと抑制されることになる。
【0062】
(2)上記窒素濃度を窒化ガリウムの成長速度における極大値に対して61%以上100%以下の成長速度とした。そして、基板Sの温度を600℃以上1200℃以下とするとともに、ターゲット14の単位面積あたりに供給するバイアス電力Pを0W/cmより大きく4.63W/cm以下とした。これにより、基板へ到達するガリウム原子の流束と、基板から熱的に再蒸発するガリウムの流束のバランス、すなわち、基板上でのガリウムの過飽和度を十分に低く調整することが可能となり、ひいては窒化ガリウム柱状構造を形成することが容易なものとなる。
【0063】
(3)上記窒素濃度を窒化ガリウムの成長速度における極大値に対して91%以上100%以下の成長速度となる範囲となるようにした。そして、上記バイアス電力Pを周波数が13.56MHzであるバイアス電力とするときに、上記基板温度T及びバイアス電力Pが、P<0.0088T−6.60、P≧0.0116T−11.37を満たす条件で窒化ガリウム柱状構造の形成を行うようにした。そのため、基板へ到達するガリウム原子の流束と、基板から熱的に再蒸発するガリウムの流束のバランス、すなわち、基板上でのガリウムの過飽和度を十分に低く調整することが可能となり、ひいては窒化ガリウム柱状構造を形成することが容易になる。
【0064】
なお、上述した第一直線、及び第二直線に基づいて規定される範囲は、窒化ガリウムの成長速度における極大値に対して91%以上100%以下の成長速度を示す窒素濃度領域においてのみ成り立つものである。しかしながら、他の窒素濃度範囲、すなわち、窒化ガリウムの成長速度が、その極大値に対して61%以上100%以下となる窒素濃度の範囲であれば、上記バイアス電力と基板温度との調整により窒化ガリウム柱状構造を選択的に形成可能である。
【0065】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・ターゲット14をスパッタする希ガスとしてアルゴンガスを用いるようにしたが、アルゴン以外の希ガス、例えばヘリウムガス、ネオンガス、クリプトンガス、キセノンガス等を用いるようにしてもよい。
【0066】
・窒化されるガリウム以外のガリウムが基板Sの表面に到達しているか否かは、基板Sの表面に向けて進行する流束を計測するとともに、計測された流束の積算値と成膜された窒化ガリウム中のガリウムの量とを比較することによって確認することもできる。それゆえに、窒化されるガリウム以外のガリウムを基板の表面に到達させるバイアス電力は、上述した第一直線及び第二直線に基づいて規定される範囲の他、基板に到達するガリウムの流速と窒化ガリウム中に含まれるガリウムの量との計測値に基づく範囲に設定することもできる。要は、成膜時のバイアス電力は、窒化されるガリウム以外のガリウムを基板の表面に到達させる範囲であれば、その範囲を規定する方法について特に限定されるものではない。
【0067】
・窒化されるガリウム以外のガリウムの全てが基板の表面から蒸発しているか否かは、上記窒化されるガリウム以外のガリウムの量とガリウムの蒸発速度とに基づいて確認することもできる。それゆえに、窒化されるガリウム以外のガリウムの全てが基板の表面から蒸発するような基板温度は、上述した第一直線及び第二直線に基づいて規定される範囲の他、上記窒化されるガリウム以外のガリウムの量とガリウムの蒸発速度に基づく範囲に設定することもできる。要は、成膜時の基板温度は、窒化されるガリウム以外のガリウムの全てが基板の表面から蒸発する範囲よりも高い温度範囲であれば、その範囲を規定する方法について特に限定されるものではない。
【0068】
・窒素含有ガスは、希ガスと窒素含有ガスとの総流量に占める該窒素含有ガスの割合である窒素濃度のうち、窒化ガリウムの成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲となるように真空槽内に供給されるものであればよく、こうした窒素濃度であれば該窒素濃度は上記範囲に限定されるものではない。
【0069】
・上記基板41は、サファイア基板の他に、炭化シリコン(SiC)基板、シリコン(Si)基板等であってもよい。
・上記下地層42は、窒化アルミニウムからなる層以外にも、例えば、窒化ガリウム等からなる層であってもよい。
【0070】
・上記基板S上に、上記下地層が形成されていなくともよい。
・窒素ガス以外の窒素含有ガス、例えばアンモニア(NH)ガス、一酸化窒素(NO)ガス、及び二酸化窒素(NO)ガス等を用いるようにしてもよい。
【0071】
・ターゲット14に電力を供給する電源として高周波電源15を用いるようにした。これに限らず、直流電源から直流電力を供給するようにしてもよい。また、ターゲット14への直流電力の供給は、窒化ガリウムの形成期間である上記タイミングt2からタイミングt3の間に、間欠的に行うようにしてもよい。また、ターゲット14に対して直流電力と高周波電力とを同時に供給するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10…スパッタ装置、11…真空槽、12…カソードハウジング、12a…マグネット、13…バッキングプレート、14…ターゲット、14a…ガリウム、14b…容器、15…高周波電源、16…基板ステージ、17…防着板、18…ヒータ室、19…ヒータユニット、20…排気部、30…制御部、41…基板、42…下地層、43,53…窒化ガリウム柱状構造、51…サファイア基板、52…窒化アルミニウム層、MFC1,MFC2…マスフローコントローラ、S…基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウムの柱状構造を形成する窒化ガリウム柱状構造の形成方法であって、
真空槽内に配置されたガリウムターゲットにバイアス電力を供給して、前記真空槽内に供給された希ガスによって前記ガリウムターゲットをスパッタする工程と、
前記真空槽内に供給されて、プラズマにより活性化された窒素含有ガスと、前記スパッタされたガリウムとを、前記真空槽内で加熱される単結晶基板上にて反応させることで窒化ガリウム柱状構造を形成する工程とを含み、
前記窒素含有ガスが、前記希ガスと前記窒素含有ガスとの総流量に占める該窒素含有ガスの割合である窒素濃度のうち、前記窒化ガリウムの成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲となるように前記真空槽内に供給されるものであり、
前記バイアス電力が、前記窒化されるガリウム以外にも前記単結晶基板の表面にガリウムを到達させるものであり、
前記単結晶基板の温度が、前記窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを前記単結晶基板の表面から蒸発させる温度よりも高い温度で窒化ガリウムを成長させるものである
ことを特徴とする窒化ガリウム柱状構造の形成方法。
【請求項2】
前記窒素含有ガスが窒素ガスであり、前記希ガスがアルゴンガスであって、
前記窒化ガリウムを形成するときの前記窒素濃度を該窒化ガリウムの成長速度における極大値に対して61%以上100%以下の成長速度となる範囲とし、
且つ、前記窒化ガリウム柱状構造を形成するときの前記基板の温度を基板温度T(℃)、
前記ガリウムターゲットに供給される電力をバイアス電力P(W/cm)とするとき、
前記基板温度Tと前記バイアス電極Pとが、
600≦T≦1200
0<P≦4.63
を満たす
請求項1に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成方法。
【請求項3】
前記窒素濃度が、前記窒化ガリウムの成長速度における極大値に対して91%以上100%以下の成長速度となる範囲であり、
前記バイアス電力が、周波数が13.56MHzのバイアス電力であり、
前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、
P<0.0088T−6.60
P≧0.0116T−11.37
を満たす
請求項2に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成方法。
【請求項4】
単結晶基板を収容するとともに該単結晶基板を加熱する加熱部を有した真空槽と、
前記真空槽内に希ガスと窒素含有ガスとを供給するガス供給部と、
前記真空槽内に配置されたガリウムターゲットと、
前記ガリウムターゲットにバイアス電力を供給する電力供給部と、
前記ガリウムターゲットを前記希ガスでスパッタするときに、前記加熱部、前記ガス供給部、及び前記電力供給部の動作を制御する制御部と
を備える窒化ガリウム柱状構造の形成装置であって、
前記制御部は、
前記希ガスと前記窒素含有ガスとの総流量に占める該窒素含有ガスの割合である窒素濃度のうち、窒化ガリウムの成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御し、且つ、
前記窒化されるガリウム以外にも前記単結晶基板の表面にガリウムを到達させるように前記電力供給部に前記バイアス電力を出力させるとともに、前記窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを前記単結晶基板の表面から蒸発させる温度よりも高い温度で窒化ガリウムを成長させるように前記加熱部に前記単結晶基板を加熱させる
ことを特徴とする窒化ガリウム柱状構造の形成装置。
【請求項5】
前記窒素含有ガスが窒素ガスであり、前記希ガスがアルゴンガスであって、
前記制御部は、
前記窒素濃度が前記窒化ガリウムの成長速度の極大値に対して61%以上100%以下の成長速度となる範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御し、且つ、
前記窒化ガリウム柱状構造を形成するときの前記基板の温度を基板温度T(℃)、
前記ガリウムターゲットに供給される電力をバイアス電力P(W/cm)とするとき、
前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、
600≦T≦1200
0<P≦4.63
を満たすように前記加熱部及び前記電力供給部を制御する
請求項4に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成装置。
【請求項6】
前記バイアス電力が、周波数が13.56MHzのバイアス電力であり、
前記制御部が、
前記窒素濃度が前記窒化ガリウムの成長速度の極大値に対して91%以上100%以下の成長速度となる範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御するとともに、
前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、
P<0.0088T−6.60
P≧0.0116T−11.37
を満たすように前記加熱部及び前記電力供給部を制御する
請求項5に記載の窒化ガリウム柱状構造の形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−246204(P2012−246204A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121584(P2011−121584)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】