説明

窒化ガリウム膜の形成方法、及び窒化ガリウム膜の形成装置

【課題】層状構造の窒化ガリウム膜を汎用的の高められたプロセスで選択的に形成することの可能な窒化ガリウム膜の形成方法、及び該形成方法を用いて窒化ガリウム膜を形成する装置を提供する。
【解決手段】
窒化ガリウム膜を反応性スパッタにて単結晶の基板S上に形成するときに、真空槽11内に供給されるアルゴンガス及び窒素ガスの総流量に占める窒素ガスの流量の割合を窒化ガリウム膜の成長速度が窒素供給によって律速され、且つ、窒化ガリウム膜の成長速度の極大値に対して30%以上90%以下の成長速度となる範囲とする。また、基板温度T(℃)、ガリウムのターゲット14に供給される周波数が13.56MHzである高周波電力をバイアス電力P(W/cm)とするとき、基板温度T及びバイアス電力Pが、600≦T≦1200、0<P≦4.63、T≧0.0083P−4.7、T≦0.0084P−6.6を満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、反応性スパッタ法を用いて窒化ガリウム膜を形成する方法、及び該形成方法を用いて窒化ガリウム膜を形成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体の1つである窒化ガリウム系半導体は、紫外光から可視光に相当するエネルギーの直接遷移型のバンドギャップを有することから、発光ダイオードやレーザダイオード等の発光装置の形成材料として広く用いられている。また、窒化ガリウムは、例えばシリコンやガリウムヒ素等の他の半導体材料と比較して、電圧破壊に対する高い耐性を有することに加え、高い飽和電子速度を有する。そのため、窒化ガリウムは、上記発光装置の形成材料としてだけではなく、電子デバイスや受光素子等の形成材料としても広く用いられている。
【0003】
こうした窒化ガリウムは一般に、バルク単結晶の製造が困難なために、有機金属化学気相成長(MOCVD)法、分子線エピタキシー(MBE)法等の他、例えば特許文献1に記載のような反応性スパッタ法によって、サファイア、炭化ケイ素(SiC)などの異種基板上にエピタキシャル成長される。
【0004】
上記文献に記載の方法では、まず、バッファ層と呼ばれる窒化アルミニウム層が、反応性スパッタ法によってサファイア基板上に形成される。次いで、窒化ガリウム層が、同じく反応性スパッタ法によってバッファ層上に形成される。これにより、サファイア基板の格子定数と窒化ガリウム層の格子定数との不整合がバッファ層によって解消されることによって、窒化ガリウム層が、バッファ層上にエピタキシャル成長することになる。
【0005】
また、デバイス構造の加工性、窒化ガリウム層の結晶品質向上の観点からすると、窒化ガリウム膜の成長様式は、成長表面が基板表面に沿った層状成長であることが好ましい。例えば、非特許文献1には、MBEを用いた窒化ガリウム形成における成長表面の形態、すなわち上記成長様式の制御方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−294449号公報(スパッタGaN/AlNに関する)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】G. Koblmueller et al. APPLIED PHYSICS LETTERS 91, 161904 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献に記載の方法では、反応性スパッタ法による窒化ガリウム層の形成を可能にするための条件として、下記の範囲を規定している。そして、同文献においては、下記の範囲が、反応性スパッタ法による窒化ガリウム層の形成を行う上で至適な範囲であるものとしている。
・基板の温度範囲(800℃〜1200℃)。
・基板を収容する真空槽の圧力範囲(10−3Pa以下)。
・窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスに占める窒素ガスの割合の範囲(20%〜98%
)。
【0009】
一方、本願発明者らの鋭意研究によれば、窒化ガリウム層が有する構造は、上述した条件やその範囲のみによって一つに定まるものではなく、ガリウムと窒素種との基板への供給比率、及び基板表面に到達するガリウムの流束と基板表面から蒸発するガリウムの流束とに密接に関係し、これにより、下記(a)〜(c)のいずれかに定まることが見出された。
(a)窒化ガリウム層の表面の一部にてガリウムが半球状に析出する析出構造。
(b)窒化ガリウム層の表面が基板表面に沿う層状構造。
(c)窒化ガリウム層の表面が基板表面の法線方向に延びる柱状構造。
【0010】
上記(a)〜(c)の膜構造のうち、上記(b)層状構造の窒化ガリウム層は、基板表面の面方向に沿うデバイス構造に対して加工に優れた構造である一方、上記(c)柱状構造の窒化ガリウム層は、基板表面の法線方向に沿うデバイス構造に対して加工に優れた構造である。この点、上記文献に記載の条件とは、ガリウムと窒素種の基板への供給比率、基板表面に到達するガリウムの流束と基板表面から蒸発するガリウムの流束とが考慮されたものでなく、それゆえに上記(a)〜(c)の膜構造が混在する虞がある。
【0011】
そのうえ、上述した真空槽の圧力範囲や窒素ガスの割合とは、基板表面に到達するガリウムの流束や基板表面から蒸発するガリウムの流束を各別に制御することの可能なパラメータとは言い難いものである。そのため、同文献に記載のスパッタ装置とは異なる仕様のスパッタ装置では、上記(a)〜(c)の膜構造の混在する割合すら、その再現が困難なものとなっている。こうした理由から、スパッタ装置の仕様に関わらず、反応性スパッタ法による窒化ガリウム層の形成を可能とするプロセスの開発が切望されてもいる。
【0012】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記(a)〜(c)のうち、上記(b)層状構造の窒化ガリウム膜を汎用性の高められたプロセスで選択的に形成することの可能な窒化ガリウム膜の形成方法、及び該形成方法を用いて窒化ガリウム膜を形成する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、真空槽内に配置されたガリウムターゲットにバイアス電力を供給して、前記真空槽内に供給された希ガスによって前記ガリウムターゲットをスパッタする工程と、前記真空槽内に供給されて、プラズマにより活性化された窒素含有ガスと、前記スパッタされたガリウムとを、前記真空槽内で加熱される単結晶基板上にて反応させることで窒化ガリウム膜を形成する工程とを有する窒化ガリウム膜の形成方法であって、前記窒素含有ガスが、前記希ガスと前記窒素含有ガスとの総流量に占める該窒素含有ガスの割合である窒素濃度のうち、前記窒化ガリウム膜の成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲となるように前記真空槽内に供給されるものであり、前記バイアス電力が、前記窒化されるガリウム以外にも前記単結晶基板の表面にガリウムを到達させるものであり、前記単結晶基板の温度が、前記窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを前記単結晶基板の表面から蒸発させるものであることを要旨とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、単結晶基板を収容するとともに該単結晶基板を加熱する加熱部を有した真空槽と、前記真空槽内に希ガスと窒素含有ガスとを供給するガス供給部と、前記真空槽内に配置されたガリウムターゲットと、前記ガリウムターゲットにバイアス電力を供給する電力供給部と、前記ガリウムターゲットを前記希ガスでスパッタするときに、前記加熱部、前記ガス供給部、及び前記電力供給の動作を制御する制御部とを備える窒化ガリウム膜の形成装置であって、前記制御部は、前記希ガスと前記窒素含有ガスとの総
流量に占める該窒素含有ガスの割合である窒素濃度のうち、前記窒化ガリウム膜の成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御し、前記窒化されるガリウム以外にも前記単結晶基板の表面にガリウムを到達させるように前記電力供給部に前記バイアス電力を出力させるとともに、前記窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを前記単結晶基板の表面から蒸発させるように前記加熱部に前記単結晶基板を加熱させることを要旨とする。
【0015】
本発明者らの鋭意研究によれば、窒化ガリウムのプロセス領域のうち、窒化されるガリウム以外のガリウムが基板の表面に到達する領域であれば、基板表面上に到達したガリウムの有する基板表面上での流動性によって、ガリウムそのものが二次元的に拡散し、窒化ガリウムの粒成長が基板表面上にて抑えられることが見出された。そして、窒化されるガリウム以外のガリウムの全てが基板の表面から蒸発するような領域であれば、上述のようにして拡散したガリウムが、基板表面上から蒸発することになるため、窒化ガリウム膜の表面の一部にてガリウムが半球状に析出することが抑えられ、これにより上記層状構造の窒化ガリウム膜が形成されることが見出された。
【0016】
この点、請求項1に記載の窒化ガリウムの形成方法、及び請求項4に記載の窒化ガリウムの形成装置によれば、窒素濃度は基板に供給されるガリウムと活性化された窒素種の比率とが決定されるとともに、バイアス電力が、窒化されるガリウム以外のガリウムを基板の表面に到達させるものであり、基板の温度が、上記窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを基板の表面から蒸発させるものである。そして、窒化ガリウム膜を形成するパラメータのうち、窒素濃度とは、基板表面に供給されるガリウムと活性化された窒素種の比率を制御することが可能なパラメータであり、バイアス電力とは、基板の表面に到達するガリウムの流量を独立して制御することの可能なパラメータであり、また、基板の温度とは、基板の表面から蒸発するガリウムの流量をこれもまた独立して制御することの可能なパラメータである。それゆえに、基板表面に供給されるガリウムと活性化された窒素種の比率を制御することの可能な窒素濃度と、基板表面におけるガリウムの流束を直接的に制御することの可能なバイアス電力と基板の温度とによってプロセスが構築されるため、上記層状構造の窒化ガリウム膜を汎用性の高められたプロセスで選択的に形成することが可能となる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、前記窒素含有ガスが窒素ガスであり、前記希ガスがアルゴンガスであって、前記窒素ガリウム膜を形成するときの前記窒素濃度を該窒化ガリウム膜の成長速度における極大値に対して30%以上90%以下の成長速度となる範囲とし、且つ、前記窒化ガリウム膜を形成するときの前記単結晶基板の温度を基板温度T(℃)、前記ガリウムターゲットに供給される電力をバイアス電力P(W/cm)とするとき、600≦T≦1200、0<P≦4.63を満たすことを要旨とする。
【0018】
請求項5に記載の発明は、前記制御部が、前記窒素濃度が成長速度の極大値に対して30%以上90%以下の成長速度となる範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御し、前記窒化ガリウム膜を形成するときの前記単結晶基板の温度を基板温度T(℃)、前記ガリウムターゲットに供給される電力をバイアス電力P(W/cm)とするとき、前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、600≦T≦1200、0<P≦4.63を満たすように前記加熱部及び前記電力供給部を制御することを要旨とする。
【0019】
請求項2に記載の窒化ガリウム膜の形成方法、及び請求項5に記載の窒化ガリウム膜の形成装置では、基板の温度を600℃以上1200℃以下とするとともに、ガリウムターゲットの単位面積あたりに供給されるバイアス電力Pを0W/cmより大きく4.63W/cm以下とする。上述のような窒素濃度の条件下において、基板の温度の範囲とバイアス電力の範囲とが規定されるため、基板上にて単体の状態で存在するガリウムの量と
、基板の熱によって蒸発するガリウムの量とを略等しくすることが容易なものとなる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、前記窒素濃度が、前記窒化ガリウム膜の成長速度における極大値に対して60%以上70%以下の成長速度となる範囲であり、前記バイアス電力が、周波数が13.56MHzの高周波電力であり、前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、P≦0.0083T−4.7、P≧0.0088T−6.6を満たすことを要旨とする。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記バイアス電力が、周波数が13.56MHPの高周波電力であり、前記ガス供給部が、前記希ガスであるアルゴンガスと前記窒素含有ガスである窒素ガスとを供給し、前記制御部が、前記窒素濃度が前記窒化ガリウム膜の成長速度の極大値に対して60%以上70%以下の成長速度となる範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御するとともに、前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、P≦0.0083T−4.7、P≧0.0088T−6.6を満たすように前記加熱部及び前記電力供給部を制御すること要旨とする。
【0022】
請求項3に記載の窒化ガリウム膜の形成方法、及び請求項6に記載の窒化ガリウム膜の形成装置では、窒化ガリウム膜の形成時に、窒素濃度を該窒素濃度によって窒化ガリウム膜の成長速度が律速される範囲、且つ、窒化ガリウム膜の成長速度における極大値に対して60%以上70%以下の成長速度となる範囲としている。つまり、成膜対象である基板に供給されるガリウムの量が、窒素の量に対して過剰である条件にて窒化ガリウム膜の形成を行うようにしている。そのため、基板上においては、上述したようにガリウムの表面拡散が窒素によって抑制されにくくなることから、窒化ガリウム膜が基板面内において二次元的に成長しやすくなる。
【0023】
また、上記方法及び構成では、上記窒素濃度を窒化ガリウム膜の成長速度における極大値に対して60%以上70%以下の成長速度となる範囲とするときに、上記バイアス電力を周波数が13,56MHzである高周波電力とするとともに、上記基板温度T及びバイアス電力Pが、P≦0.0083T−4.7、P≧0.0088T−6.6を満たす条件で窒化ガリウム膜の形成を行うようにしている。そのため、基板に供給されるガリウムの量が窒素の供給量に対して過剰である窒素濃度であっても、基板上において窒素と反応して窒化ガリウム膜を形成するガリウム以外のガリウム、つまり基板上にて単体の状態で存在するガリウムの量と、基板の熱によって蒸発するガリウムの量とを略等しくすることができる。
【0024】
したがって、窒化ガリウム膜の形成された基板上には、二次元的に拡散したガリウムと窒素との反応によって得られる窒化ガリウムのみが残存し、且つ、こうした窒化ガリウム膜は面内において引き続き二次元的に成長することから、基板上に平坦な窒化ガリウム膜を形成することができるようになる。
【0025】
しかも、上記窒素濃度、基板温度、及びターゲットに供給されるバイアス電力の条件によれば、上述のように基板表面に到達するガリウムの流束、基板上において窒素と反応するガリウムの量、及び基板上から蒸発するガリウムの流束を適切に制御できる。そのため、こうした窒化ガリウム膜の形成方法、及び窒化ガリウム膜の形成装置は、スパッタ装置の仕様によらず、汎用的に使用することが可能である。転じて、窒化ガリウム膜の形成時において、上述のような条件を実現できる装置であれば、その他の仕様に関わらず窒化ガリウム膜を形成できることから、形成装置としての汎用性も高められることになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の窒化ガリウム膜の形成装置をスパッタ装置として具現化した一実施形態の概略構成を示す図。
【図2】本発明の窒化ガリウム膜の形成方法の一実施形態における各種ガス、バイアス電力の供給態様と、基板温度の変更態様とを示すタイミングチャート。
【図3】真空槽に供給されるガスの総流量に占める窒素ガスの割合(%)と窒化ガリウム膜の成長速度との関係を示すグラフ。
【図4】(a)〜(c)基板上に形成された窒化ガリウム膜の表面を撮像したSEM写真。
【図5】基板温度とバイアス電力とによって区分される窒化ガリウム膜の成膜状態の領域を示す図。
【図6】(a)〜(f)基板上に形成された窒化ガリウム膜の表面を撮像したSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の窒化ガリウム膜の形成方法及び窒化ガリウム膜の形成装置の一実施形態について図1〜図6を参照して説明する。まず、窒化ガリウム膜の形成装置の全体的な構成について図1を参照して説明する。
【0028】
図1に示されるように、スパッタ装置10の備える円筒状の真空槽11内には、カソードハウジング12が配置され、また、該カソードハウジング12の内部には、マグネトロン磁場を生成するためのマグネット12aが収容されている。このカソードハウジング12のうち、マグネット12aの上側には、バッキングプレート13が配置され、また、バッキングプレート13の上側には、該バッキングプレート13に接続されるターゲット14が配置されている。このターゲット14は、バッキングプレート13の上側に配置された容器14bと、該容器14bに収容されるガリウム14aとから構成されている。この容器14bに収容されるガリウム14aは、バッキングプレート13を介して電力供給部としての高周波電源15に接続されるとともに、該高周波電源15の出力する例えば周波数が13.56MHzである高周波電力としてのバイアス電力が供給されるようになっている。また、上述したマグネット12aによるマグネトロン磁場が、このガリウム14aの表面上に形成されるように、上記ターゲット14が配置されている。
【0029】
上記真空槽11内におけるターゲット14の直上には、窒化ガリウム(GaN)膜の形成対象である単結晶基板である基板S、例えばサファイア(Al)基板を保持する基板ステージ16が設けられている。また、真空槽11の内表面には、窒化ガリウムの付着を防ぐ防着板17が、上記ターゲット14における基板Sに対向する面と、上記基板ステージ16とを露出させるように配置されている。
【0030】
真空槽11の外表面における上記基板ステージ16と対向する位置には、円筒状のヒータ室18が設けられ、また、該ヒータ室18の内部には、加熱部としてのヒータユニット19が設置されている。ヒータユニット19は、例えばハロゲンランプヒータであって、その先端が基板ステージ16の保持する基板Sに対向し、600℃〜1200℃の範囲で上記基板Sを加熱する。
【0031】
真空槽11には、ターゲット14のガリウム14aをスパッタするアルゴン等の希ガスを供給する希ガス供給部としてのマスフローコントローラMFC1が接続されている。また、真空槽11には、スパッタされたガリウムを窒化するための窒素含有ガスとしての窒素ガスを供給する窒素ガス供給部としてのマスフローコントローラMFC2が接続されている。さらにまた、真空槽11には、該真空槽11内を減圧するための真空ポンプや真空槽11内の圧力を所定の圧力に調整するための圧力調整弁等から構成される排気部20が接続されている。
【0032】
スパッタ装置10には、上記高周波電源15、ヒータユニット19、及びマスフローコントローラMFC1,MFC2に接続されるとともに、これらの動作を制御する制御部30が搭載されている。制御部30は、上記ターゲット14に供給すべき単位面積あたりのバイアス電力を形成条件の一つとして記憶するとともに、該バイアス電力に応じた駆動信号を高周波電源15に出力する。また、制御部30は、成膜時における基板Sの温度を形成条件の一つとして記憶するとともに、基板Sの温度を該成膜時における温度に上昇させるための駆動信号をヒータユニット19に出力する。また、制御部30は、成膜時におけるアルゴンガスの流量を形成条件の一つとして記憶するとともに、該流量でアルゴンガスを供給するための駆動信号をマスフローコントローラMFC1に出力する。また、制御部30は、成膜時における窒素ガスの流量を形成条件の一つとして記憶するとともに、該流量で窒素ガスを供給するための駆動信号をマスフローコントローラMFC2に出力する。そして、制御部30は、真空槽11内に供給されるアルゴンガス及び窒素ガスの総流量に占める窒素ガスの流量を所定の割合とする。
【0033】
上述した構成からなるスパッタ装置10の作用のうち、特に上記スパッタ装置10において実施される窒化ガリウム膜の形成方法について図2〜図6を参照して以下に説明する。
【0034】
上記スパッタ装置10にて窒化ガリウム膜の形成を行う際には、まず、上記排気部20によって真空槽11内が所定の圧力にまで減圧される。そして、図示しない搬出入口から真空槽11内に基板Sが搬入されると、該基板Sが上記基板ステージ16によって保持される。次いで、図2に示されるように、上記真空槽11内に基板Sが搬入されると、アルゴンガス雰囲気においてヒータユニット19による基板Sの昇温が行われる(タイミングt1〜タイミングt2)。そして、基板Sの温度が例えば室温から所定の温度にまで昇温されると、アルゴンガスと窒素ガスとがこれらの総流量に占める窒素ガスの流量が所定の割合となるように供給される。次いで、上記高周波電源15からターゲット14に対して所定のバイアス電力Pでのバイアス電力の供給が開始される(タイミングt2)。これにより、タイミングt1から継続して供給されているアルゴンガスによってターゲット14のガリウム14aがスパッタされる。このとき、窒素ガスの供給も開始されていることから、スパッタされたガリウム粒子がプラズマで活性化された窒素ガスによって基板S上で窒化されることで、窒化ガリウム膜が上記基板S上に形成される(タイミングt2〜タイミングt3)。
【0035】
なお、このとき、窒素ガスは所定の流量Fn1にて真空槽11内に供給されるとともに、アルゴンガスは所定の流量Fa2にて同真空槽11内に供給される。これにより、真空槽11内に供給されるガスの総流量Fn1+Fa2に対して窒素ガスの流量Fn1が所定の割合とされる。この際、タイミングt1からタイミングt2にわたって供給されていたアルゴンの流量Fa1と、タイミングt2からの上記総流量Fn1+Fa2とを略同一とすることで、真空槽11内における圧力の変動を抑えられる。これにより、アルゴンガスとは異なる窒素ガスが添加されるとしても、こうしたガス種の変更にかかわらず、以後に行われるスパッタの開始時にてプラズマの状態が安定するようになる。
【0036】
そして、タイミングt2から所定の時間が経過すると、上記アルゴンガスの供給及びバイアス電力の供給を停止することで、ターゲット14のスパッタを終了する(タイミングt3)。なお、上記制御部30は、窒化ガリウムの膜厚に応じた成膜時間を形成条件の一つとして記憶しており、タイミングt2からタイミングt3の期間が、上記成膜時間に設定される。
【0037】
また、タイミングt3において、上記ヒータユニット19による基板Sの加熱も終了されることで、基板Sの温度が例えば室温にまで冷却される(タイミングt4)。基板Sの
冷却期間であるタイミングt3からタイミングt4までにわたり、真空槽11内には、窒素ガスが、上記流量Fn1よりも大きい流量Fn2にて供給され続ける。これにより窒化ガリウムの成長温度において蒸気圧の高い窒素が窒化ガリウム膜から脱離することで、表面欠陥が生じることを抑制することができる。
【0038】
ちなみに、例えば、窒化ガリウム膜の形成時(タイミングt2〜タイミングt3)において、基板Sの温度を800℃とし、上記総流量Fn1+Fa2に対する窒素ガスの流量Fn1の割合である窒素濃度を18%とするときには、以下のような条件にて窒化ガリウム膜の形成を行う。
【0039】
すなわち、タイミングt1からタイミングt2までの20分間で、基板Sの温度を室温から800℃にまで昇温する。このときのアルゴンガスの流量Fa1を55sccmとする。そして、タイミングt2からタイミングt3までの40分間で、基板Sの温度を800℃に維持しつつ、直径120mmのターゲット14に対して150Wの高周波電力を供給して、基板S上に窒化ガリウム膜を形成する。このときのアルゴンガスの流量Fa2を45sccmとし、窒素ガスの流量Fn1を10sccmとすることで、上記窒素濃度を18%とする。次いで、タイミングt3からタイミングt4の20分間で、基板Sの温度を800℃から室温にまで冷却する。このときの窒素ガスの流量Fn2を100sccmとする。
【0040】
本実施形態の窒化ガリウム膜の形成方法においては、上記タイミングt2からタイミングt3での窒化ガリウム膜の形成に際し、真空槽11内に供給されるガスの総流量Fn1+Fa2に占める窒素ガスの流量Fn1の割合である上記窒素濃度と、基板Sの温度、及びバイアス電力を所定の範囲に制御するようにしている。これにより、基板Sの面内において平坦な窒化ガリウム膜が形成できるようになる。
【0041】
以下、上記窒素濃度、基板温度、及びバイアス電力の範囲の詳細について、図3〜図6を参照して説明する。図3は、上述した窒化ガリウム膜の形成装置を用いて形成される窒化ガリウム膜の成長速度における窒素濃度(N%)の依存性を示すグラフである。なお、一点鎖線で示される曲線C1、実線で示される曲線C2、及び二点鎖線で示される曲線C3は、各々の形成条件のうち、窒素ガスの流量のみが変更されたときの成長速度を示している。また、曲線C1,C2,C3の各々の条件では、成膜時の基板温度Tが互いに等しく、ターゲット14に供給されるバイアス電力が、曲線C1、曲線C2、曲線C3の順に大きくなるように設定されている。
【0042】
図3に示されるように、窒化ガリウム膜の形成速度は、上記窒素濃度(N%)によって変化するものである。三つの曲線C1,C2,C3から明らかなように、成長速度は、基板温度及びバイアス電力の条件に関わらず、上記窒素濃度に対して極大となる値を有する。
【0043】
三つの曲線C1,C2,C3の各々において、極大値を与える窒素濃度よりも低濃度側、すなわち窒素濃度範囲Na,Nb,Ncは、窒素濃度が高くなるほど、窒化ガリウム膜の成長速度が高くなる領域である。このような窒素濃度の依存性から、こうした低濃度側の領域の殆どは、基板Sの表面に到達するガリウムの量に対して、同基板Sの表面に供給される窒素の量が少ない領域であって、窒化されるガリウムの量が窒素の量によって律速されている領域といえる。それゆえに、このような窒素濃度範囲Na,Nb,Ncであれば、窒化される前のガリウムを概ね基板Sの表面で流動させることが可能となる。
【0044】
これに対し、三つの曲線C1,C2,C3の各々において、極大値Ma,Mb,Mcを与える窒素濃度よりも高濃度側は、窒素濃度が高くなるほど、窒化ガリウム膜の成長速度
が低くなる領域である。このような窒素濃度の依存性から、こうした高濃度側の領域とは、基板Sに到達するガリウムの量に対して、同基板Sの表面に供給される窒素の量が過剰となる領域であって、窒化されるガリウムの量がガリウムの量によって律速されている領域といえる。それゆえに、このような領域では、スパッタされたガリウムが基板Sの表面に到達しても、基板Sの表面に存在する窒素が多い分、こうしたガリウムと窒素との反応機会が多くなり、結局のところ、基板Sの表面におけるガリウムの拡散が抑制されてしまう。
【0045】
つまり、層状構造の窒化ガリウム膜の形成に際しては、曲線C1,C2,C3の各々における上記窒素濃度範囲Na,Nb,Nc内とすることが好ましい。しかしながら、これら曲線C1,C2,C3における窒素濃度範囲Na,Nb,Ncが互いに異なる範囲であることからも明らかなように、窒化ガリウム膜の好ましい形成条件は、窒素濃度のみによって規定されるものではない。そのうえ、上記窒素濃度範囲Na,Nb,Ncを用いて成膜を行ったとしても、図4(a)〜(c)に示されるように、三種類の構造を有する窒化ガリウム膜が基板S上に形成されることが本発明者らの実験によって認められた。
【0046】
詳述すると、上記窒素濃度範囲Na,Nb,Ncのうち、基板Sの表面に到達するガリウムの流束が、同基板Sの表面に到達するプラズマによって活性化された窒素の流束に対して過剰になる程度が大きい範囲、つまり成長速度が小さい側の範囲では、図4(a)に示されるように、ガリウムの単体が、基板Sの表面に半球状をなして析出してしまうことが認められた。
【0047】
他方、上記窒素濃度範囲Na,Nb,Ncのうち、基板Sの表面に到達するガリウムの流束が、同基板Sの表面に到達するプラズマによって活性化された窒素の流束に対して過剰になる程度が小さい範囲、つまり成長速度の極大近傍の範囲では、図4(c)に示されるように、ガリウムの拡散が抑制されて窒化ガリウムが3次元的に成長することで、表面に凹凸が形成されることが認められた。
【0048】
これは、図4(b)に示されるような層状構造の窒化ガリウム膜を形成するためには、基板Sの表面に到達するガリウムの流束と基板表面から蒸発するガリウムの流束とを制御するパラメータの範囲を上記窒素濃度に加えて新たに規定する必要があることを示すものである。
【0049】
ちなみに、上記成長速度の極大値Ma,Mb,Mcよりも高濃度側においても、図4(c)に示されるように、窒化ガリウムが3次元的に成長することで、表面に凹凸が形成されることが認められた。
【0050】
ここで、上記ターゲット14に供給するバイアス電力が大きい程、ターゲット14がスパッタされやすくなる。そのため、基板Sの表面に到達するガリウムの量は、ターゲット14に供給する高周波電力の大きさに正の相関を有し、それゆえに、このバイアス電力を制御することによって、基板Sの表面に到達するガリウムの流束を独立して制御することが可能となる。
【0051】
また一方、ガリウムは、一旦基板Sの表面に到達したとしても、単体の状態にあるときに基板Sから熱を受けて蒸発する場合もある。このようにして基板Sの表面から蒸発するガリウムの量は、基板Sの温度に正の相関を有し、それゆえに、この基板Sの温度を制御することによって、基板Sの表面から蒸発するガリウムの流束を独立して制御することが可能となる。
【0052】
そして、上記窒素濃度範囲Na,Nb,Ncであれば、少なからずガリウムの有する流
動性によって、ガリウムそのものが二次元的に拡散し、図4(a)あるいは図4(b)に示されるように、窒化ガリウム膜の柱状成長が基板表面上にて抑えられる。これに加え、基板Sの表面に到達したガリウムのうち、窒素と反応して窒化ガリウムとなる分を除くガリウムの量と、基板Sの表面から蒸発する量とが等しくなるような条件であれば、上述のようにして拡散したガリウムの余剰分が、基板Sの表面上から蒸発することになる。それゆえに、下記(条件1)及び(条件2)を満たす形成条件であれば、図4(a)に示されるようなガリウムの析出が抑えられ、先の図4(b)に示すような層状構造の窒化ガリウム膜を形成することができる。
(条件1)バイアス電力が、窒化されるガリウム以外のガリウムを基板Sの表面に到達させる範囲である。
(条件2)基板Sの温度が、窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを基板Sの表面から蒸発させる範囲である。
【0053】
以下に、上記(条件1)及び(条件2)が満たされる形成条件の一例を図5及び図6を参照して以下に説明する。図5及び図6は、上述した窒化ガリウム膜の形成装置を用いて、上記窒素濃度を窒化ガリウム膜の成長速度を窒素供給が律速する範囲とし、且つ成長速度における極大値に対して60%以上70%以下の成長速度となる範囲としたときの窒化ガリウム膜の構造を示すグラフ及びSEM写真である。
【0054】
(領域1:析出領域:条件A,B,C,D)
図5に示されるように、基板Sの温度が相対的に低く、且つターゲット14に供給されるバイアス電力も相対的に小さい下記条件A,Bでは、図6(a)に示されるように、基板Sの表面に半球状をなすようなガリウムの析出が認められた。
・条件A:基板温度Tが600℃、バイアス電力Pが1.39W/cm
・条件B:基板温度Tが700℃、バイアス電力Pが1.39W/cm
また、条件A及び条件Bよりも基板温度が高く、且つターゲットに供給されるバイアス電力がより大きい下記条件C,Dでも、条件A,Bよりも少ないとはいえ、図6(b)に示されるように、基板S表面にて半球状をなすガリウムの析出が認められた。
・条件C:基板温度Tが800℃、バイアス電力Pが4.17W/cm
・条件D:基板温度Tが1000℃、バイアス電力Pが4.17W/cm
こうした結果から、上記条件A〜条件Dを含む領域1とは、基板Sに到達したガリウムのうちで窒化された分を除くガリウムの量が、基板S上での加熱によって蒸発するガリウムの量よりも過剰となる領域であると言える。
【0055】
(領域2:層状構造領域:条件E,F,G,H,I,J,K)
一方、条件Cと同一の基板温度であっても、ターゲット14に供給されるバイアス電力がより小さい下記条件E,F,Gでは、図6(c)に示されるように、基板Sの表面に平坦な窒化ガリウム膜が形成された。
・条件E:基板温度Tが800℃、バイアス電力Pが0.44W/cm
・条件F:基板温度Tが800℃、バイアス電力Pが1.39W/cm
・条件G:基板温度Tが800℃、バイアス電力Pが2.02W/cm
また、これら条件E,F,Gよりも高い基板温度である下記条件Hでも、条件E,F,Gにより形成された窒化ガリウム膜よりは平坦性に劣るものの、図6(d)に示されるように、平坦な窒化ガリウム膜の形成が認められた。
・条件H:基板温度Tが900℃、バイアス電力Pが1.32W/cm
さらにまた、条件E,F,Gよりも高い基板温度であって、且つ高いバイアス電力である下記条件でも、条件E,F,Gにより形成された窒化ガリウム膜よりは平坦性に劣るものの、平坦な窒化ガリウム膜の形成が認められた。
・条件I:基板温度Tが1000℃、バイアス電力Pが2.20W/cm
・条件J:基板温度Tが1000℃、バイアス電力Pが2.78W/cm
・条件K:基板温度Tが1000℃、バイアス電力Pが3.70W/cm
こうした結果から、上記条件E〜条件Kを含む領域2とは、基板Sに到達したガリウムのうちで窒素と反応せずに基板S上に単体として存在するガリウムの量と、基板S上での加熱によって蒸発するガリウムの量とが略等しくなる領域であると言える。
【0056】
(領域3:柱状構造領域:条件L,M)
他方、上記条件E,F,Gと同一の基板温度であっても、よりターゲット14に供給されるバイアス電力が小さい下記条件Lでは、図6(e)に示されるように、柱状構造の窒化ガリウムが成長していた。
・条件L:基板温度Tが800℃、バイアス電力Pが0.23W/cm
また、条件Hよりも基板温度が高い下記条件Mでは、図6(f)に示されるように、基板S上に凹凸に形成された柱状構造の窒化ガリウムが認められた。
・条件M:基板温度Tが1000℃、バイアス電力Pが1.39W/cm
こうした結果から、上記条件L,Mを含む領域3とは、基板Sに対して到達するガリウムの量から窒素と反応した分を除いた量よりも、基板Sでの加熱によって蒸発するガリウムの量が多い領域であるといえる。加えて、基板Sの表面に供給された窒素と反応する以前に蒸発するガリウムの量が、上記領域3よりも多くなる程度に基板温度の高い領域であると言える。
【0057】
ちなみに、図5示されるように、先のいずれの条件よりも基板温度の高い下記条件Nでは、基板S上での窒化ガリウムの成長が認められなかった。つまり、該条件Nを含む領域4とは、基板Sに到達したガリウムが窒化されることなく基板Sから蒸発してしまう領域であると言える。
・条件N:基板温度Tが1200℃、バイアス電力が1.39W/cm
したがって、基板温度が600℃以上1200℃以下の範囲であって、且つ、ターゲット14に供給されるバイアス電力が0W/cmより大きく4.63W/cm以下であるときには、上記二つの直線で挟まれる上記領域2に含まれるように、基板温度Tとバイアス電力Pとが設定される。
・条件G,Kを通る第一直線:P=0.0084T−4.7
・条件E,H,Iを通る第二直線:P=0.0088T−6.6
なお、バイアス電力Pと基板Sの表面に到達するガリウムの量との関係は、線形近似されるものであるとともに、基板温度Tが600℃以上1200℃以下の範囲であれば、該基板温度Tと基板の表面から蒸発するガリウムの量との関係は、概ね線形近似されるものである。そのため、基板Sの表面にて余剰となるガリウムの量と基板の表面から蒸発するガリウムの量とが等しくなるようなバイアス電力Pと基板温度Tとの関係も線形近似されるものである。ちなみに、上記領域2に含まれる基板温度及びターゲット14へのバイアス電力の条件によって形成された窒化ガリウム膜をHCl水溶液によってエッチングしたところ、該水溶性による窒化ガリウム膜のエッチングが認められなかった。そのため、同条件によって形成された窒化ガリウム膜は、窒素極性ではなく、ガリウム極性を有していると言える。
【0058】
また、上記スパッタ装置10を用いたスパッタ法によって窒化ガリウム膜を形成することにより、従来のMOCVD法等による窒化ガリウム膜の形成方法のように、窒化ガリウム膜の形成を可能とするバッファ層を基板S上に形成することなく、基板S上に直接窒化ガリウム膜を形成することができる。つまり、バッファ層の形成が割愛できる分だけ、窒化ガリウム膜をより少ない工程で形成することができるようになる。これは、窒化ガリウム膜の形成初期に、基板Sの表面に到達したガリウムと、基板Sを構成する原子とが、これらの境界において互いに拡散した相互拡散層が形成されることで、窒化ガリウム膜に対する基板Sの濡れ性が改善されたためと考えられる。
【0059】
以上説明した実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)バイアス電力が、窒化されるガリウム以外のガリウムを基板Sの表面に到達させるものであり、基板温度が、上記窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを基板の表面から蒸発させるものである。窒化ガリウム膜を形成するパラメータのうち、バイアス電力とは、基板Sの表面に到達するガリウムの流量を独立して制御することの可能なパラメータであり、また、基板温度とは、基板Sの表面から蒸発するガリウムの流束をこれもまた独立して制御することの可能なパラメータである。
【0060】
それゆえに、基板Sの表面におけるガリウムの流束を直接的に制御することの可能なバイアス電力と基板Sの温度とによってプロセスが構築されるため、上記層状構造の窒化ガリウム膜を汎用性の高められたプロセスで選択的に形成することが可能となる。
【0061】
(2)窒化ガリウム膜の形成時に、窒素濃度を該窒素濃度によって窒化ガリウム膜の成膜速度が律速される割合で、且つ、窒化ガリウム膜の成長速度における極大値に対して60%以上70%以下の成長速度となる範囲とした。そのため、基板S上においては、ガリウムの表面拡散が窒素によって抑制されにくくなることから、窒化ガリウム膜が基板面内において二次元的に成長しやすくなる。
【0062】
(3)また、上記窒素濃度の条件に加えて、基板Sの温度を600℃以上1200℃以下とするとともに、ターゲット14の単位面積あたりに供給されるバイアス電力Pを0Wより大きく4.63W以下とした。そして、こうした範囲においてP≦0.0083T−4.7、P≧0.0088T−6.6を満たす条件で窒化ガリウム膜の形成を行うようにした。
【0063】
そのため、基板Sに供給されるガリウムの量が窒素の供給量に対して過剰である窒素濃度であっても、基板S上において窒素と反応して窒化ガリウム膜を形成するガリウム以外のガリウム、つまり基板S上にて単体の状態で存在するガリウムの量と、基板の熱によって蒸発するガリウムの量とを略等しくすることができる。これにより、窒化ガリウム膜の形成された基板S上には、窒素と反応したガリウムのみが残存し、且つ、こうした窒化ガリウム膜は面内において二次元的に成長することから、基板S上に平坦な窒化ガリウム膜を形成することができるようになる。
【0064】
なお、上述した第一直線及び第二直線に基づいて規定される範囲は、窒化ガリウム膜の成長速度における極大値に対して60%以上70%以下の成長速度を示す窒素濃度領域においてのみ成り立つものである。しかしながら、他の窒素濃度範囲、すなわち、窒化ガリウム膜の成長速度が、その極大値に対して30%以上90%以下となる窒素濃度の範囲であれば、上記バイアス電力と基板温度との調整により層状構造を選択的に形成可能である。
【0065】
(4)スパッタ法によって窒化ガリウム膜を形成するようにした。これにより、従来のMOCVD法等による窒化ガリウム膜の形成方法のように、窒化ガリウム膜の形成を可能とするバッファ層を基板S上に形成することなく、基板S上に直接窒化ガリウム膜を形成することができる。つまり、バッファ層の形成が割愛できる分だけ、窒化ガリウム膜をより少ない工程で形成することができるようになる。
【0066】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・ターゲット14をスパッタする希ガスとしてアルゴンガスを用いるようにしたが、アルゴン以外の希ガス、例えばヘリウムガス、ネオンガス、クリプトンガス、キセノンガス等を用いるようにしてもよい。
【0067】
・窒化されるガリウム以外のガリウムが基板Sの表面に到達しているか否かは、基板Sの表面に向けて進行する流束を計測するとともに、計測された流束の積算値と成膜された窒化ガリウム膜中のガリウムの量とを比較することによって確認することもできる。それゆえに、窒化されるガリウム以外のガリウムを基板の表面に到達させるバイアス電力は、上述した第一直線及び第二直線に基づいて規定される範囲の他、基板に到達するガリウムの流速と窒化ガリウム膜中に含まれるガリウムの量との計測値に基づく範囲に設定することもできる。要は、成膜時のバイアス電力は、窒化されるガリウム以外のガリウムを基板の表面に到達させる範囲であれば、その範囲を規定する方法について特に限定されるものではない。
【0068】
・窒化されるガリウム以外のガリウムの全てが基板の表面から蒸発しているか否かは、上記窒化されるガリウム以外のガリウムの量とガリウムの蒸発速度とに基づいて確認することもできる。それゆえに、窒化されるガリウム以外のガリウムの全てが基板の表面から蒸発するような基板温度は、上述した第一直線及び第二直線に基づいて規定される範囲の他、上記窒化されるガリウム以外のガリウムの量とガリウムの蒸発速度に基づく範囲に設定することもできる。要は、成膜時の基板温度は、窒化されるガリウム以外のガリウムの全てが基板の表面から蒸発する範囲であれば、その範囲を規定する方法について特に限定されるものではない。
【0069】
・窒素含有ガスは、希ガスと窒素含有ガスとの総流量に占める該窒素含有ガスの割合である窒素濃度のうち、窒化ガリウム膜の成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲となるように真空槽内に供給されるものであればよく、こうした窒素濃度であれば該窒素濃度は上記範囲に限定されるものではない。
【0070】
・上記単結晶基板Sは、サファイア基板の他に、炭化シリコンSiC基板、シリコンSi基板等であってもよい。
・上記単結晶基板S上に、バッファ層が形成されていてもよい。
【0071】
・窒素ガス以外の窒素含有ガス、例えばアンモニア(NH)ガス、一酸化窒素(NO)ガス、及び二酸化窒素(NO)ガス等を用いるようにしてもよい。
・ターゲット14に電力を供給する電源として高周波電源15を用いるようにした。これに限らず、直流電源から直流電力を供給するようにしてもよい。また、ターゲット14への直流電力の供給は、窒化ガリウム膜の形成期間である上記タイミングt2からタイミングt3の間に、間欠的に行うようにしてもよい。また、ターゲット14に対して直流電力と高周波電力とを同時に供給するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10…スパッタ装置、11…真空槽、12…カソードハウジング、12a…マグネット、13…バッキングプレート、14…ターゲット、14a…ガリウム、14b…容器、15…高周波電源、16…基板ステージ、17…防着板、18…ヒータ室、19…ヒータユニット、20…排気部、30…制御部、MFC1,MFC2…マスフローコントローラ、S…基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内に配置されたガリウムターゲットにバイアス電力を供給して、前記真空槽内に供給された希ガスによって前記ガリウムターゲットをスパッタする工程と、
前記真空槽内に供給されて、プラズマにより活性化された窒素含有ガスと、前記スパッタされたガリウムとを、前記真空槽内で加熱される単結晶基板上にて反応させることで窒化ガリウム膜を形成する工程と
を有する窒化ガリウム膜の形成方法であって、
前記窒素含有ガスが、前記希ガスと前記窒素含有ガスとの総流量に占める該窒素含有ガスの割合である窒素濃度のうち、前記窒化ガリウム膜の成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲となるように前記真空槽内に供給されるものであり、
前記バイアス電力が、前記窒化されるガリウム以外にも前記単結晶基板の表面にガリウムを到達させるものであり、
前記単結晶基板の温度が、前記窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを前記単結晶基板の表面から蒸発させるものである
ことを特徴とする窒化ガリウム膜の形成方法。
【請求項2】
前記窒素含有ガスが窒素ガスであり、前記希ガスがアルゴンガスであって、
前記窒化ガリウム膜を形成するときの前記窒素濃度を該窒化ガリウム膜の成長速度における極大値に対して30%以上90%以下の成長速度となる範囲とし、
且つ、前記窒化ガリウム膜を形成するときの前記単結晶基板の温度を基板温度T(℃)、
前記ガリウムターゲットに供給される電力をバイアス電力P(W/cm)とするとき、
600≦T≦1200
0<P≦4.63
を満たす
請求項1に記載の窒化ガリウム膜の形成方法。
【請求項3】
前記窒素濃度が、前記窒化ガリウム膜の成長速度における極大値に対して60%以上70%以下の成長速度となる範囲であり、
前記バイアス電力が、周波数が13.56MHzの高周波電力であり、
前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、
P≦0.0083T−4.7
P≧0.0088T−6.6
を満たす
請求項2に記載の窒化ガリウム膜の形成方法。
【請求項4】
単結晶基板を収容するとともに該単結晶基板を加熱する加熱部を有した真空槽と、
前記真空槽内に希ガスと窒素含有ガスとを供給するガス供給部と、
前記真空槽内に配置されたガリウムターゲットと、
前記ガリウムターゲットにバイアス電力を供給する電力供給部と、
前記ガリウムターゲットを前記希ガスでスパッタするときに、前記加熱部、前記ガス供給部、及び前記電力供給部の動作を制御する制御部と
を備える窒化ガリウム膜の形成装置であって、
前記制御部は、
前記希ガスと前記窒素含有ガスとの総流量に占める該窒素含有ガスの割合である窒素濃度のうち、前記窒化ガリウム膜の成長速度が窒素供給によって律速される窒素濃度の範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御し、
前記窒化されるガリウム以外にも前記単結晶基板の表面にガリウムを到達させるように
前記電力供給部に前記バイアス電力を出力させるとともに、前記窒化されるガリウム以外のガリウムの全てを前記単結晶基板の表面から蒸発させるように前記加熱部に前記単結晶基板を加熱させる
ことを特徴とする窒化ガリウム膜の形成装置。
【請求項5】
前記制御部が、
前記窒素濃度が成長速度の極大値に対して30%以上90%以下の成長速度となる範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御し、
前記窒化ガリウム膜を形成するときの前記単結晶基板の温度を基板温度T(℃)、
前記ガリウムターゲットに供給される電力をバイアス電力P(W/cm)とするとき、
前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、
600≦T≦1200
0<P≦4.63
を満たすように前記加熱部及び前記電力供給部を制御する
請求項4に記載の窒化ガリウム膜の形成装置。
【請求項6】
前記バイアス電力が、周波数が13.56MHzの高周波電力であり、
前記ガス供給部が、前記希ガスであるアルゴンガスと前記窒素含有ガスである窒素ガスとを供給し、
前記制御部が、
前記窒素濃度が前記窒化ガリウム膜の成長速度の極大値に対して60%以上70%以下の成長速度となる範囲となるように前記ガス供給部の駆動を制御するとともに、
前記基板温度Tと前記バイアス電力Pとが、
P≦0.0083T−4.7
P≧0.0088T−6.6
を満たすように前記加熱部及び前記電力供給部を制御する
請求項5に記載の窒化ガリウム膜の形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−174796(P2012−174796A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33586(P2011−33586)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】