窒化チタンまたはタングステン表面に撥水性を付与する撥水性処理液
【課題】窒化チタンまたはタングステン表面を撥水性にすることにより、良好な汚れ除去性を付与する撥水性処理液を簡便かつ安価に提供することを課題とする。
【解決手段】窒化チタンまたはタングステンの表面に撥水性を付与するための撥水性処理液であって、有機溶媒と撥水性化合物とが混合されてなるものであり、該撥水性化合物は、撥水性処理液の総量100質量%中に0.02乃至50質量%となるように混合されてなるものとする。
【解決手段】窒化チタンまたはタングステンの表面に撥水性を付与するための撥水性処理液であって、有機溶媒と撥水性化合物とが混合されてなるものであり、該撥水性化合物は、撥水性処理液の総量100質量%中に0.02乃至50質量%となるように混合されてなるものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型や工具の表面被覆材として用いられている窒化チタンやタングステンなどの金属や金属化合物表面を、撥水性にすることにより、良好な汚れ除去性を付与する撥水性処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化チタンやタングステンなどの金属や金属化合物は硬度が高く優れた耐摩耗性を有し、融点がおよそ3000〜3400℃と極めて高いことから、例えば、切削工具やプラスチック成形用金型、自動車部品、機械部品等の表面被覆材として用いられている。切削作業時には摩擦により刃先が高温となることで刃先が溶着や破損したり、切りくずが溜まったりしないように、潤滑、冷却、溶着防護等の目的で切削油剤を使用することが多い。切削油剤は工作油剤(金属加工油剤)の一種であり、鉱油や脂肪油等が用いられているが、近年は、廃油などの環境問題に配慮し、微量の油剤を霧状に吹きつけながら加工するMQL(Minimum Quantity Lubrication)加工や、低環境負荷で冷却性に優れ引火の危険性がないので無人化に適する水溶性の切削油等が用いられている。刃先およびその周辺部の表面が汚れの付着しにくいものであれば、切りくずの溜まりが軽減でき、MQL加工において霧状油剤と空気が循環し易く効率的に冷却することができると考えられる。また、刃先およびその周辺部の表面が撥水性を有するものであれば、水溶性の切削油やその切削油を落とすための洗浄水を使用した際に、刃先およびその周辺部の油汚れや水垢汚れの付着を低減でき、払拭等により容易に汚れを除去できると考えられる。また、表面の撥水性により水系溶液が付着しにくいことから腐食を防ぐことができると考えられる。
【0003】
また、窒化チタンやタングステンなどの金属や金属化合物で表面被覆を施した金型等でも、表面に汚れが付着しにくく、払拭等により容易に汚れを除去できるものであれば、デポジットの金型への付着が低減することや金型のメンテナンスが容易となることが考えられる。
【0004】
特許文献1には、窒化チタン表面を大気圧プラズマコーティング法により疎水化することにより、セルフクリーニング性を高める技術が開示されている。しかし、大気圧プラズマコーティングにより膜を作製するには、真空成膜ほどではないにしろ、大掛かりな装置とその生産スピードが、問題となってくることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−177328
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒化チタンまたはタングステン表面を撥水性にすることにより、良好な汚れ除去性を付与する撥水性処理液を簡便かつ安価に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の撥水性処理液は、窒化チタンまたはタングステン表面に撥水性を付与するための撥水性処理液であって、有機溶媒と一般式[1]、一般式[2]、および一般式[3]からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる撥水性化合物を含むことを特徴とする。
ここで、R1、R2、R3、およびR4は、炭素数が1〜18個のアルキル鎖、または、炭素数が1〜8個のフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基である。また、Wは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基を示し、X、およびZは、酸素原子、又は硫黄原子を示し、Yは、水素原子、アルキル基、芳香族基、ピリジル基、キノリル基、スクシンイミド基、マレイミド基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、又はベンゾトリアゾール基を示し、これらの基における水素原子は、有機基で置換されていても良い。
【0008】
また、該撥水性処理液は、好ましくは前記有機溶媒と前記一般式[1]、一般式[2]、および一般式[3]からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる撥水性化合物とが混合されてなるものであり、該撥水性化合物は、撥水性処理液の総量100質量%中に0.02乃至50質量%、より好ましくは0.05乃至15質量%となるように混合されてなるものであれば好ましい。
【0009】
さらに、前記有機溶媒は、非水溶性溶媒を含む有機溶媒であれば好ましい。ここで、非水溶性溶媒とは水とあらゆる比率において、完全には混ざりあわない溶媒を示しており、例えば炭化水素類、芳香族類、エステル類、エーテル類、アセトンを除くケトン類等が挙げられる。
【0010】
本発明の撥水性処理液で撥水性を付与する窒化チタンまたはタングステン表面は、窒化チタンまたはタングステンのみからなる物品の表面でも良いし、窒化チタンまたはタングステン以外の基材を窒化チタンまたはタングステンで被覆した物品の表面でも良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明の撥水性処理液は、元来親水性である窒化チタンまたはタングステン表面に撥水性を、特殊な装置を必要とせず簡便かつ安価に、付与することが可能である。
【0012】
特に、金型や工具の表面被覆材として用いられている窒化チタンまたはタングステン表面を、撥水性にすることにより、良好な汚れ除去性を付与することができる。これにより、窒化チタンまたはタングステン表面の水垢等の汚れを払拭等により容易に除去できるとともに、表面の撥水性により水系溶液が付着しにくいことから腐食を防ぐことを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の撥水性処理液を用いて窒化チタンまたはタングステン表面に撥水性を付与する前に、予め窒化チタンまたはタングステン表面を洗浄により清浄な状態とすることが好ましい。洗浄方法としては、純水、酸性溶液、アルカリ性溶液、過酸化水素水、オゾン水、アルコールなどへの浸漬やプラズマ処理などの方法から適宜選択することができる。
【0014】
清浄な窒化チタンまたはタングステン表面に前記撥水性処理液を塗布する方法は、刷毛塗り、手塗り、ロボット塗り、ノズルフローコート法、ディッピング法、スプレー法、リバースコート法、フレキソ法、印刷法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法等が挙げられる。
【0015】
また、塗布後に前記撥水性処理液の余剰分にエアーを吹き付けて除去しても良いし、塗布後にそのまま自然乾燥させても良い。
【0016】
なお、窒化チタンまたはタングステンで被覆された物品としては、鉄、ステンレス、銅、銅合金、チタン合金、アルミ合金、超硬合金、ガラス、シリコン、プラスチック等からなる物品表面を窒化チタンまたはタングステン層で被覆したもの、または上記物品表面に多層膜を形成しその最表面を窒化チタンまたはタングステン層で被覆したものが挙げられる。また、窒化チタンまたはタングステン表面が微細な凹凸を有していてもよい。一般的に、接触角は基材の表面形状(ラフネス)に影響され、Wenzel効果やCassie効果が生じることにより、接触角を高めることができるからである。
【0017】
本発明の撥水性処理液は、有機溶媒と一般式[1]、一般式[2]、および一般式[3]からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる撥水性化合物を含むことを特徴とする撥水性処理液である。
ここで、R1、R2、R3、およびR4は、炭素数が1〜18個のアルキル鎖、または、炭素数が1〜8個のフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基である。また、Wは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基を示し、X、およびZは、酸素原子、又は硫黄原子を示し、Yは、水素原子、アルキル基、芳香族基、ピリジル基、キノリル基、スクシンイミド基、マレイミド基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、又はベンゾトリアゾール基を示し、これらの基における水素原子は、有機基で置換されていても良い。
【0018】
前記撥水性処理液は、撥水性化合物と有機溶媒からなり、該撥水性処理液の総量100質量%に対して0.02乃至50質量%、好ましくは0.05乃至15質量%の該撥水性化合物と、有機溶媒とが混合されてなるものである。撥水性化合物が0.02質量%未満では十分な撥水性付与効果が得られず、50質量%超では均質な被膜を得難いためである。
【0019】
前記一般式[1]であらわされる撥水性化合物としては、CH3COF、C2H5COF、C3H7COF、C4H9COF、C5H11COF、C6H13COF、C7H15COF、C8H17COF、C9H19COF、C10H21COF、C11H23COF、C12H25COF、C13H27COF、C14H29COF、C15H31COF、C16H33COF、C17H35COF、C18H37COF、CF3COF、C2F5COF、C3F7COF、C4F9COF、C5F11COF、C6F13COF、C7F15COF、C8F17COF、CH3COCl、C2H5COCl、C3H7COCl、C4H9COCl、C5H11COCl、C6H13COCl、C7H15COCl、C8H17COCl、C9H19COCl、C10H21COCl、C11H23COCl、C12H25COCl、C13H27COCl、C14H29COCl、C15H31COCl、C16H33COCl、C17H35COCl、C18H37COCl、CF3COCl、C2F5COCl、C3F7COCl、C4F9COCl、C5F11COCl、C6F13COCl、C7F15COCl、C8F17COCl、CH3COBr、C2H5COBr、C3H7COBr、C4H9COBr、C5H11COBr、C6H13COBr、C7H15COBr、C8H17COBr、C9H19COBr、C10H21COBr、C11H23COBr、C12H25COBr、C13H27COBr、C14H29COBr、C15H31COBr、C16H33COBr、C17H35COBr、C18H37COBr、CF3COBr、C2F5COBr、C3F7COBr、C4F9COBr、C5F11COBr、C6F13COBr、C7F15COBr、C8F17COBr、CH3COI、C2H5COI、C3H7COI、C4H9COI、C5H11COI、C6H13COI、C7H15COI、C8H17COI、C9H19COI、C10H21COI、C11H23COI、C12H25COI、C13H27COI、C14H29COI、C15H31COI、C16H33COI、C17H35COI、C18H37COI、CF3COI、C2F5COI、C3F7COI、C4F9COI、C5F11COI、C6F13COI、C7F15COI、C8F17COIなどが挙げられる。
【0020】
また、前記一般式[2]であらわされる撥水性化合物としては、CH3COOH、C2H5COOH、C3H7COOH、C4H9COOH、C5H11COOH、C6H13COOH、C7H15COOH、C8H17COOH、C9H19COOH、C10H21COOH、C11H23COOH、C12H25COOH、C13H27COOH、C14H29COOH、C15H31COOH、C16H33COOH、C17H35COOH、C18H37COOH、CF3COOH、C2F5COOH、C3F7COOH、C4F9COOH、C5F11COOH、C6F13COOH、C7F15COOH、C8F17COOH、CH3COOCH3、C2H5COOCH3、C3H7COOCH3、C4H9COOCH3、C5H11COOCH3、C6H13COOCH3、C7H15COOCH3、C8H17COOCH3、C9H19COOCH3、C10H21COOCH3、C11H23COOCH3、C12H25COOCH3、C13H27COOCH3、C14H29COOCH3、C15H31COOCH3、C16H33COOCH3、C17H35COOCH3、C18H37COOCH3、CF3COOCH3、C2F5COOCH3、C3F7COOCH3、C4F9COOCH3、C5F11COOCH3、C6F13COOCH3、C7F15COOCH3、C8F17COOCH3、CH3COOC2H5、C2H5COOC2H5、C3H7COOC2H5、C4H9COOC2H5、C5H11COOC2H5、C6H13COOC2H5、C7H15COOC2H5、C8H17COOC2H5、C9H19COOC2H5、C10H21COOC2H5、C11H23COOC2H5、C12H25COOC2H5、C13H27COOC2H5、C14H29COOC2H5、C15H31COOC2H5、C16H33COOC2H5、C17H35COOC2H5、C18H37COOC2H5、CF3COOC2H5、C2F5COOC2H5、C3F7COOC2H5、C4F9COOC2H5、C5F11COOC2H5、C6F13COOC2H5、C7F15COOC2H5、C8F17COOC2H5、CH3COOC6H5、C2H5COOC6H5、C3H7COOC6H5、C4H9COOC6H5、C5H11COOC6H5、C6H13COOC6H5、C7H15COOC6H5、C8H17COOC6H5、C9H19COOC6H5、C10H21COOC6H5、C11H23COOC6H5、C12H25COOC6H5、C13H27COOC6H5、C14H29COOC6H5、C15H31COOC6H5、C16H33COOC6H5、C17H35COOC6H5、C18H37COOC6H5、CF3COOC6H5、C2F5COOC6H5、C3F7COOC6H5、C4F9COOC6H5、C5F11COOC6H5、C6F13COOC6H5、C7F15COOC6H5、C8F17COOC6H5、CH3COSH、C2H5COSH、C3H7COSH、C4H9COSH、C5H11COSH、C6H13COSH、C7H15COSH、C8H17COSH、C9H19COSH、C10H21COSH、C11H23COSH、C12H25COSH、C13H27COSH、C14H29COSH、C15H31COSH、C16H33COSH、C17H35COSH、C18H37COSH、CF3COSH、C2F5COSH、C3F7COSH、C4F9COSH、C5F11COSH、C6F13COSH、C7F15COSH、C8F17COSH、CH3COSCH3、C2H5COSCH3、C3H7COSCH3、C4H9COSCH3、C5H11COSCH3、C6H13COSCH3、C7H15COSCH3、C8H17COSCH3、C9H19COSCH3、C10H21COSCH3、C11H23COSCH3、C12H25COSCH3、C13H27COSCH3、C14H29COSCH3、C15H31COSCH3、C16H33COSCH3、C17H35COSCH3、C18H37COSCH3、CF3COSCH3、C2F5COSCH3、C3F7COSCH3、C4F9COSCH3、C5F11COSCH3、C6F13COSCH3、C7F15COSCH3、C8F17COSCH3などが挙げられる。
【0021】
また、前記一般式[3]であらわされる撥水性化合物としては、CH3COOCOCH3、C2H5COOCOC2H5、C3H7COOCOC3H7、C4H9COOCOC4H9、C5H11COOCOC5H11、C6H13COOCOC6H13、C7H15COOCOC7H15、C8H17COOCOC8H17、C9H19COOCOC9H19、C10H21COOCOC10H21、C11H23COOCOC11H23、C12H25COOCOC12H25、C13H27COOCOC13H27、C14H29COOCOC14H29、C15H31COOCOC15H31、C16H33COOCOC16H33、C17H35COOCOC17H35、C18H37COOCOC18H37、CF3COOCOCF3、C2F5COOCOC2F5、C3F7COOCOC3F7、C4F9COOCOC4F9、C5F11COOCOC5F11、C6F13COOCOC6F13、C7F15COOCOC7F15、C8F17COOCOC8F17などが挙げられる。
【0022】
前記有機溶媒は、前記撥水性化合物を溶解するものであれば良く、例えば、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、ハロゲン系溶媒、スルホキシド系溶媒、アルコール類、多価アルコールの誘導体、含窒素化合物溶媒などが好適に使用される。
【0023】
ただし、前記撥水性化合物のうち、活性水素と反応しやすいもの、特に水と反応しやすいものを用いる場合、前記有機溶媒には非水溶性溶媒を用いることが好ましい。非水溶性溶媒の例として、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの炭化水素類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトンなどのアセトンを除くケトン類、クロロホルム、ジクロロジ
フルオロメタン、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロアルカン、ヘキサフルオロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの水酸基を持たない多価アルコール誘導体、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、トリエチルアミン、ピリジンなどがある。
【0024】
また、撥水性処理液には、前記撥水性化合物の反応を促進させるために、触媒が添加されても良い。このような触媒として、トリフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロキオン酸、無水ペンタフルオロプロキオン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、無水トリフルオロメタンスルホン酸、トリメチルクロロシラン、塩化水素、硫化アンモニウム、酢酸カリウム、ピリジン、メチルヒドロキシアミン塩酸塩、および、スズ、アルミニウム、チタンなどの金属錯体や金属塩が好適に用いられる。
【0025】
さらにまた、撥水性処理液は、温度を高くすると、前記撥水性化合物の反応速度が速くなる。しかし一方で、温度を高くすると、有機溶媒、あるいは、前記撥水性化合物が揮発しやすくなるため取り扱いが難しくなる。以上のことから、撥水性処理液の温度は、10〜120℃、特には20〜80℃で保持されることが好ましい。撥水性処理液の温度は、塗布時も当該温度に保持することが好ましい。
【0026】
撥水性処理液により撥水化された窒化チタンまたはタングステン表面の水との接触角は、平滑面において80°以上であれば、水垢などの汚れを払拭等により容易に除去できるとともに、表面の撥水性により水系溶液が付着しにくいことから腐食を防ぐことができるため好ましい。より好ましくは90°以上である。
【実施例】
【0027】
撥水性評価のための水滴の接触角の評価は、JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」にもあるように、サンプル(基材)表面に数μlの水滴を滴下し、水滴と基材表面のなす角度の測定によりなされる。
【0028】
本発明の実施例では、平滑なシリコン基板表面を窒化チタン膜、或いはタングステン膜で被覆した物品を基板として用い、該基板の被覆膜表面を撥水性処理液によって撥水化して、種々評価を行った。
【0029】
詳細を下記に述べる。以下では、撥水化された表面の評価方法、撥水性処理液の調製、および、評価結果が述べられる。
【0030】
〔撥水化された表面の評価方法〕
撥水化された表面の評価方法として、以下の(1)、(2)の評価を行った。なお実施例では、窒化チタンで被覆した物品(以下、表中で「TiN」と表記する)として、平滑な板状シリコン表面を窒化チタンで被覆した積層体(窒化チタン層の厚さ:50nm)、タングステンで被覆した物品(以下、表中で「W」と表記する)として、平滑な板状シリコン表面をタングステンで被覆した積層体(タングステン層の厚さ:50nm)を用いた。
【0031】
(1)撥水化された表面の撥水性評価
撥水化された表面上に純水約2μlを置き、水滴と該表面とのなす角(接触角)を接触角計(協和界面科学製:CA−X型)で測定した。ここでは撥水化された表面の接触角が80°以上のものを合格(表中で○と表記)、90°以上のものを特に優れている(表中で◎と表記)とした。
【0032】
(2)撥水化された表面の汚れ除去性
撥水化された表面上に水道水約2μlを10点置き、その後自然乾燥させて水滴跡を付けた。その後、水滴跡を含水させた綿100%の布を用いて120g/cm2の荷重で5往復払拭した。払拭後、目視観察を行い、水滴跡の除去が確認された試料を汚染物の除去性に優れる試料(表中で○と表記)、また水滴跡の除去が確認されない試料を汚染物の除去性が劣る試料(表中で×と表記)とした。
【0033】
実施例1
(1)撥水性処理液の調製
撥水性処理液は、撥水性化合物と有機溶媒を混合して得た。先ず、撥水性化合物としてミリスチン酸クロリド〔C13H27COCl〕;3g、有機溶媒として、非水溶性溶媒であるトルエン;97gを混合し、約5分間撹拌して、撥水性処理液の総量に対する撥水性化合物の濃度(以降「撥水性化合物濃度」と記載する)が3質量%の撥水性処理液を得た。
【0034】
(2)基板表面の洗浄
窒化チタンで被覆した物品を1質量%の過酸化水素水水溶液に1分間浸漬し、次いで純水に1分間浸漬した。
【0035】
(3)基板表面への撥水性処理液による撥水性被膜の形成
窒化チタンで被覆した物品をイソプロピルアルコールに1分間浸漬した。次いで、室温(R.T.)にて、上記「(1)撥水性処理液の調製」で調製した撥水性処理液に、10分間浸漬させた。その後、該積層体を撥水性処理液から取出し、エアーを吹き付けて、表面の撥水性処理液を除去した。
【0036】
得られた窒化チタンで被覆した物品を上記「撥水化された表面の撥水性評価」に記載した要領で評価したところ、表1に示すとおり、撥水性の被膜形成前の接触角が10°未満であったものが、撥水性の被膜形成後の接触角は91°となり、優れた撥水性付与効果を示した。また、得られた窒化チタンで被覆した物品を上記「撥水化された表面の汚れ除去性」に記載した要領で評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例2
撥水性処理液への浸漬時間を1分間とした以外はすべて実施例1と同じとした。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は94°となり、優れた撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0039】
実施例3
撥水性処理液中の撥水性化合物濃度を1質量%とした以外はすべて実施例1と同じとした。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は81°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0040】
実施例4
撥水性処理液中の撥水性化合物濃度を5質量%とした以外はすべて実施例1と同じとした。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は94°となり、優れた撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0041】
実施例5
撥水性処理液中の撥水性化合物をパルミチン酸クロリド〔C15H31COCl〕とした以外はすべて実施例1と同じとした。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は98°となり、優れた撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0042】
実施例6
実施例1において、窒化チタンで被覆した物品の代わりに、タングステンで被覆した物品を用いた。それ以外は、実施例1と同じである。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は87°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0043】
実施例7
実施例2において、窒化チタンで被覆した物品の代わりに、タングステンで被覆した物品を用いた。それ以外は、実施例2と同じである。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は86°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0044】
実施例8
実施例3において、窒化チタンで被覆した物品の代わりに、タングステンで被覆した物品を用いた。それ以外は、実施例3と同じである。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は83°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0045】
実施例9
実施例4において、窒化チタンで被覆した物品の代わりに、タングステンで被覆した物品を用いた。それ以外は、実施例4と同じである。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は88°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0046】
実施例10
実施例5において、窒化チタンで被覆した物品の代わりに、タングステンで被覆した物品を用いた。それ以外は、実施例5と同じである。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は87°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0047】
比較例1
先ず、撥水性化合物としてトリメチルシリルクロリド〔(CH3)3SiCl〕;3g、有機溶媒として、非水溶性溶媒であるトルエン;97gを混合し、約5分間撹拌して、撥水性処理液の総量に対する撥水性化合物の濃度が3質量%の撥水性処理液を得た。
【0048】
続いて、実施例1と同様の方法で、窒化チタンで被覆した物品の洗浄、及び撥水化処理を行った。
【0049】
評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は18°となり、撥水性付与効果は見られなかった。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認されなかった。
【0050】
比較例2
先ず、撥水性化合物としてトリメチルシリルクロリド〔(CH3)3SiCl〕;3g、有機溶媒として、非水溶性溶媒であるトルエン;97gを混合し、約5分間撹拌して、撥水性処理液の総量に対する撥水性化合物の濃度が3質量%の撥水性処理液を得た。
【0051】
続いて、実施例6と同様の方法で、タングステンで被覆した物品の洗浄、及び撥水化処理を行った。
【0052】
評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は16°となり、撥水性付与効果は見られなかった。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認されなかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型や工具の表面被覆材として用いられている窒化チタンやタングステンなどの金属や金属化合物表面を、撥水性にすることにより、良好な汚れ除去性を付与する撥水性処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化チタンやタングステンなどの金属や金属化合物は硬度が高く優れた耐摩耗性を有し、融点がおよそ3000〜3400℃と極めて高いことから、例えば、切削工具やプラスチック成形用金型、自動車部品、機械部品等の表面被覆材として用いられている。切削作業時には摩擦により刃先が高温となることで刃先が溶着や破損したり、切りくずが溜まったりしないように、潤滑、冷却、溶着防護等の目的で切削油剤を使用することが多い。切削油剤は工作油剤(金属加工油剤)の一種であり、鉱油や脂肪油等が用いられているが、近年は、廃油などの環境問題に配慮し、微量の油剤を霧状に吹きつけながら加工するMQL(Minimum Quantity Lubrication)加工や、低環境負荷で冷却性に優れ引火の危険性がないので無人化に適する水溶性の切削油等が用いられている。刃先およびその周辺部の表面が汚れの付着しにくいものであれば、切りくずの溜まりが軽減でき、MQL加工において霧状油剤と空気が循環し易く効率的に冷却することができると考えられる。また、刃先およびその周辺部の表面が撥水性を有するものであれば、水溶性の切削油やその切削油を落とすための洗浄水を使用した際に、刃先およびその周辺部の油汚れや水垢汚れの付着を低減でき、払拭等により容易に汚れを除去できると考えられる。また、表面の撥水性により水系溶液が付着しにくいことから腐食を防ぐことができると考えられる。
【0003】
また、窒化チタンやタングステンなどの金属や金属化合物で表面被覆を施した金型等でも、表面に汚れが付着しにくく、払拭等により容易に汚れを除去できるものであれば、デポジットの金型への付着が低減することや金型のメンテナンスが容易となることが考えられる。
【0004】
特許文献1には、窒化チタン表面を大気圧プラズマコーティング法により疎水化することにより、セルフクリーニング性を高める技術が開示されている。しかし、大気圧プラズマコーティングにより膜を作製するには、真空成膜ほどではないにしろ、大掛かりな装置とその生産スピードが、問題となってくることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−177328
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒化チタンまたはタングステン表面を撥水性にすることにより、良好な汚れ除去性を付与する撥水性処理液を簡便かつ安価に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の撥水性処理液は、窒化チタンまたはタングステン表面に撥水性を付与するための撥水性処理液であって、有機溶媒と一般式[1]、一般式[2]、および一般式[3]からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる撥水性化合物を含むことを特徴とする。
ここで、R1、R2、R3、およびR4は、炭素数が1〜18個のアルキル鎖、または、炭素数が1〜8個のフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基である。また、Wは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基を示し、X、およびZは、酸素原子、又は硫黄原子を示し、Yは、水素原子、アルキル基、芳香族基、ピリジル基、キノリル基、スクシンイミド基、マレイミド基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、又はベンゾトリアゾール基を示し、これらの基における水素原子は、有機基で置換されていても良い。
【0008】
また、該撥水性処理液は、好ましくは前記有機溶媒と前記一般式[1]、一般式[2]、および一般式[3]からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる撥水性化合物とが混合されてなるものであり、該撥水性化合物は、撥水性処理液の総量100質量%中に0.02乃至50質量%、より好ましくは0.05乃至15質量%となるように混合されてなるものであれば好ましい。
【0009】
さらに、前記有機溶媒は、非水溶性溶媒を含む有機溶媒であれば好ましい。ここで、非水溶性溶媒とは水とあらゆる比率において、完全には混ざりあわない溶媒を示しており、例えば炭化水素類、芳香族類、エステル類、エーテル類、アセトンを除くケトン類等が挙げられる。
【0010】
本発明の撥水性処理液で撥水性を付与する窒化チタンまたはタングステン表面は、窒化チタンまたはタングステンのみからなる物品の表面でも良いし、窒化チタンまたはタングステン以外の基材を窒化チタンまたはタングステンで被覆した物品の表面でも良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明の撥水性処理液は、元来親水性である窒化チタンまたはタングステン表面に撥水性を、特殊な装置を必要とせず簡便かつ安価に、付与することが可能である。
【0012】
特に、金型や工具の表面被覆材として用いられている窒化チタンまたはタングステン表面を、撥水性にすることにより、良好な汚れ除去性を付与することができる。これにより、窒化チタンまたはタングステン表面の水垢等の汚れを払拭等により容易に除去できるとともに、表面の撥水性により水系溶液が付着しにくいことから腐食を防ぐことを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の撥水性処理液を用いて窒化チタンまたはタングステン表面に撥水性を付与する前に、予め窒化チタンまたはタングステン表面を洗浄により清浄な状態とすることが好ましい。洗浄方法としては、純水、酸性溶液、アルカリ性溶液、過酸化水素水、オゾン水、アルコールなどへの浸漬やプラズマ処理などの方法から適宜選択することができる。
【0014】
清浄な窒化チタンまたはタングステン表面に前記撥水性処理液を塗布する方法は、刷毛塗り、手塗り、ロボット塗り、ノズルフローコート法、ディッピング法、スプレー法、リバースコート法、フレキソ法、印刷法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法等が挙げられる。
【0015】
また、塗布後に前記撥水性処理液の余剰分にエアーを吹き付けて除去しても良いし、塗布後にそのまま自然乾燥させても良い。
【0016】
なお、窒化チタンまたはタングステンで被覆された物品としては、鉄、ステンレス、銅、銅合金、チタン合金、アルミ合金、超硬合金、ガラス、シリコン、プラスチック等からなる物品表面を窒化チタンまたはタングステン層で被覆したもの、または上記物品表面に多層膜を形成しその最表面を窒化チタンまたはタングステン層で被覆したものが挙げられる。また、窒化チタンまたはタングステン表面が微細な凹凸を有していてもよい。一般的に、接触角は基材の表面形状(ラフネス)に影響され、Wenzel効果やCassie効果が生じることにより、接触角を高めることができるからである。
【0017】
本発明の撥水性処理液は、有機溶媒と一般式[1]、一般式[2]、および一般式[3]からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる撥水性化合物を含むことを特徴とする撥水性処理液である。
ここで、R1、R2、R3、およびR4は、炭素数が1〜18個のアルキル鎖、または、炭素数が1〜8個のフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基である。また、Wは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基を示し、X、およびZは、酸素原子、又は硫黄原子を示し、Yは、水素原子、アルキル基、芳香族基、ピリジル基、キノリル基、スクシンイミド基、マレイミド基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、又はベンゾトリアゾール基を示し、これらの基における水素原子は、有機基で置換されていても良い。
【0018】
前記撥水性処理液は、撥水性化合物と有機溶媒からなり、該撥水性処理液の総量100質量%に対して0.02乃至50質量%、好ましくは0.05乃至15質量%の該撥水性化合物と、有機溶媒とが混合されてなるものである。撥水性化合物が0.02質量%未満では十分な撥水性付与効果が得られず、50質量%超では均質な被膜を得難いためである。
【0019】
前記一般式[1]であらわされる撥水性化合物としては、CH3COF、C2H5COF、C3H7COF、C4H9COF、C5H11COF、C6H13COF、C7H15COF、C8H17COF、C9H19COF、C10H21COF、C11H23COF、C12H25COF、C13H27COF、C14H29COF、C15H31COF、C16H33COF、C17H35COF、C18H37COF、CF3COF、C2F5COF、C3F7COF、C4F9COF、C5F11COF、C6F13COF、C7F15COF、C8F17COF、CH3COCl、C2H5COCl、C3H7COCl、C4H9COCl、C5H11COCl、C6H13COCl、C7H15COCl、C8H17COCl、C9H19COCl、C10H21COCl、C11H23COCl、C12H25COCl、C13H27COCl、C14H29COCl、C15H31COCl、C16H33COCl、C17H35COCl、C18H37COCl、CF3COCl、C2F5COCl、C3F7COCl、C4F9COCl、C5F11COCl、C6F13COCl、C7F15COCl、C8F17COCl、CH3COBr、C2H5COBr、C3H7COBr、C4H9COBr、C5H11COBr、C6H13COBr、C7H15COBr、C8H17COBr、C9H19COBr、C10H21COBr、C11H23COBr、C12H25COBr、C13H27COBr、C14H29COBr、C15H31COBr、C16H33COBr、C17H35COBr、C18H37COBr、CF3COBr、C2F5COBr、C3F7COBr、C4F9COBr、C5F11COBr、C6F13COBr、C7F15COBr、C8F17COBr、CH3COI、C2H5COI、C3H7COI、C4H9COI、C5H11COI、C6H13COI、C7H15COI、C8H17COI、C9H19COI、C10H21COI、C11H23COI、C12H25COI、C13H27COI、C14H29COI、C15H31COI、C16H33COI、C17H35COI、C18H37COI、CF3COI、C2F5COI、C3F7COI、C4F9COI、C5F11COI、C6F13COI、C7F15COI、C8F17COIなどが挙げられる。
【0020】
また、前記一般式[2]であらわされる撥水性化合物としては、CH3COOH、C2H5COOH、C3H7COOH、C4H9COOH、C5H11COOH、C6H13COOH、C7H15COOH、C8H17COOH、C9H19COOH、C10H21COOH、C11H23COOH、C12H25COOH、C13H27COOH、C14H29COOH、C15H31COOH、C16H33COOH、C17H35COOH、C18H37COOH、CF3COOH、C2F5COOH、C3F7COOH、C4F9COOH、C5F11COOH、C6F13COOH、C7F15COOH、C8F17COOH、CH3COOCH3、C2H5COOCH3、C3H7COOCH3、C4H9COOCH3、C5H11COOCH3、C6H13COOCH3、C7H15COOCH3、C8H17COOCH3、C9H19COOCH3、C10H21COOCH3、C11H23COOCH3、C12H25COOCH3、C13H27COOCH3、C14H29COOCH3、C15H31COOCH3、C16H33COOCH3、C17H35COOCH3、C18H37COOCH3、CF3COOCH3、C2F5COOCH3、C3F7COOCH3、C4F9COOCH3、C5F11COOCH3、C6F13COOCH3、C7F15COOCH3、C8F17COOCH3、CH3COOC2H5、C2H5COOC2H5、C3H7COOC2H5、C4H9COOC2H5、C5H11COOC2H5、C6H13COOC2H5、C7H15COOC2H5、C8H17COOC2H5、C9H19COOC2H5、C10H21COOC2H5、C11H23COOC2H5、C12H25COOC2H5、C13H27COOC2H5、C14H29COOC2H5、C15H31COOC2H5、C16H33COOC2H5、C17H35COOC2H5、C18H37COOC2H5、CF3COOC2H5、C2F5COOC2H5、C3F7COOC2H5、C4F9COOC2H5、C5F11COOC2H5、C6F13COOC2H5、C7F15COOC2H5、C8F17COOC2H5、CH3COOC6H5、C2H5COOC6H5、C3H7COOC6H5、C4H9COOC6H5、C5H11COOC6H5、C6H13COOC6H5、C7H15COOC6H5、C8H17COOC6H5、C9H19COOC6H5、C10H21COOC6H5、C11H23COOC6H5、C12H25COOC6H5、C13H27COOC6H5、C14H29COOC6H5、C15H31COOC6H5、C16H33COOC6H5、C17H35COOC6H5、C18H37COOC6H5、CF3COOC6H5、C2F5COOC6H5、C3F7COOC6H5、C4F9COOC6H5、C5F11COOC6H5、C6F13COOC6H5、C7F15COOC6H5、C8F17COOC6H5、CH3COSH、C2H5COSH、C3H7COSH、C4H9COSH、C5H11COSH、C6H13COSH、C7H15COSH、C8H17COSH、C9H19COSH、C10H21COSH、C11H23COSH、C12H25COSH、C13H27COSH、C14H29COSH、C15H31COSH、C16H33COSH、C17H35COSH、C18H37COSH、CF3COSH、C2F5COSH、C3F7COSH、C4F9COSH、C5F11COSH、C6F13COSH、C7F15COSH、C8F17COSH、CH3COSCH3、C2H5COSCH3、C3H7COSCH3、C4H9COSCH3、C5H11COSCH3、C6H13COSCH3、C7H15COSCH3、C8H17COSCH3、C9H19COSCH3、C10H21COSCH3、C11H23COSCH3、C12H25COSCH3、C13H27COSCH3、C14H29COSCH3、C15H31COSCH3、C16H33COSCH3、C17H35COSCH3、C18H37COSCH3、CF3COSCH3、C2F5COSCH3、C3F7COSCH3、C4F9COSCH3、C5F11COSCH3、C6F13COSCH3、C7F15COSCH3、C8F17COSCH3などが挙げられる。
【0021】
また、前記一般式[3]であらわされる撥水性化合物としては、CH3COOCOCH3、C2H5COOCOC2H5、C3H7COOCOC3H7、C4H9COOCOC4H9、C5H11COOCOC5H11、C6H13COOCOC6H13、C7H15COOCOC7H15、C8H17COOCOC8H17、C9H19COOCOC9H19、C10H21COOCOC10H21、C11H23COOCOC11H23、C12H25COOCOC12H25、C13H27COOCOC13H27、C14H29COOCOC14H29、C15H31COOCOC15H31、C16H33COOCOC16H33、C17H35COOCOC17H35、C18H37COOCOC18H37、CF3COOCOCF3、C2F5COOCOC2F5、C3F7COOCOC3F7、C4F9COOCOC4F9、C5F11COOCOC5F11、C6F13COOCOC6F13、C7F15COOCOC7F15、C8F17COOCOC8F17などが挙げられる。
【0022】
前記有機溶媒は、前記撥水性化合物を溶解するものであれば良く、例えば、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、ハロゲン系溶媒、スルホキシド系溶媒、アルコール類、多価アルコールの誘導体、含窒素化合物溶媒などが好適に使用される。
【0023】
ただし、前記撥水性化合物のうち、活性水素と反応しやすいもの、特に水と反応しやすいものを用いる場合、前記有機溶媒には非水溶性溶媒を用いることが好ましい。非水溶性溶媒の例として、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの炭化水素類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトンなどのアセトンを除くケトン類、クロロホルム、ジクロロジ
フルオロメタン、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロアルカン、ヘキサフルオロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの水酸基を持たない多価アルコール誘導体、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、トリエチルアミン、ピリジンなどがある。
【0024】
また、撥水性処理液には、前記撥水性化合物の反応を促進させるために、触媒が添加されても良い。このような触媒として、トリフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロキオン酸、無水ペンタフルオロプロキオン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、無水トリフルオロメタンスルホン酸、トリメチルクロロシラン、塩化水素、硫化アンモニウム、酢酸カリウム、ピリジン、メチルヒドロキシアミン塩酸塩、および、スズ、アルミニウム、チタンなどの金属錯体や金属塩が好適に用いられる。
【0025】
さらにまた、撥水性処理液は、温度を高くすると、前記撥水性化合物の反応速度が速くなる。しかし一方で、温度を高くすると、有機溶媒、あるいは、前記撥水性化合物が揮発しやすくなるため取り扱いが難しくなる。以上のことから、撥水性処理液の温度は、10〜120℃、特には20〜80℃で保持されることが好ましい。撥水性処理液の温度は、塗布時も当該温度に保持することが好ましい。
【0026】
撥水性処理液により撥水化された窒化チタンまたはタングステン表面の水との接触角は、平滑面において80°以上であれば、水垢などの汚れを払拭等により容易に除去できるとともに、表面の撥水性により水系溶液が付着しにくいことから腐食を防ぐことができるため好ましい。より好ましくは90°以上である。
【実施例】
【0027】
撥水性評価のための水滴の接触角の評価は、JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」にもあるように、サンプル(基材)表面に数μlの水滴を滴下し、水滴と基材表面のなす角度の測定によりなされる。
【0028】
本発明の実施例では、平滑なシリコン基板表面を窒化チタン膜、或いはタングステン膜で被覆した物品を基板として用い、該基板の被覆膜表面を撥水性処理液によって撥水化して、種々評価を行った。
【0029】
詳細を下記に述べる。以下では、撥水化された表面の評価方法、撥水性処理液の調製、および、評価結果が述べられる。
【0030】
〔撥水化された表面の評価方法〕
撥水化された表面の評価方法として、以下の(1)、(2)の評価を行った。なお実施例では、窒化チタンで被覆した物品(以下、表中で「TiN」と表記する)として、平滑な板状シリコン表面を窒化チタンで被覆した積層体(窒化チタン層の厚さ:50nm)、タングステンで被覆した物品(以下、表中で「W」と表記する)として、平滑な板状シリコン表面をタングステンで被覆した積層体(タングステン層の厚さ:50nm)を用いた。
【0031】
(1)撥水化された表面の撥水性評価
撥水化された表面上に純水約2μlを置き、水滴と該表面とのなす角(接触角)を接触角計(協和界面科学製:CA−X型)で測定した。ここでは撥水化された表面の接触角が80°以上のものを合格(表中で○と表記)、90°以上のものを特に優れている(表中で◎と表記)とした。
【0032】
(2)撥水化された表面の汚れ除去性
撥水化された表面上に水道水約2μlを10点置き、その後自然乾燥させて水滴跡を付けた。その後、水滴跡を含水させた綿100%の布を用いて120g/cm2の荷重で5往復払拭した。払拭後、目視観察を行い、水滴跡の除去が確認された試料を汚染物の除去性に優れる試料(表中で○と表記)、また水滴跡の除去が確認されない試料を汚染物の除去性が劣る試料(表中で×と表記)とした。
【0033】
実施例1
(1)撥水性処理液の調製
撥水性処理液は、撥水性化合物と有機溶媒を混合して得た。先ず、撥水性化合物としてミリスチン酸クロリド〔C13H27COCl〕;3g、有機溶媒として、非水溶性溶媒であるトルエン;97gを混合し、約5分間撹拌して、撥水性処理液の総量に対する撥水性化合物の濃度(以降「撥水性化合物濃度」と記載する)が3質量%の撥水性処理液を得た。
【0034】
(2)基板表面の洗浄
窒化チタンで被覆した物品を1質量%の過酸化水素水水溶液に1分間浸漬し、次いで純水に1分間浸漬した。
【0035】
(3)基板表面への撥水性処理液による撥水性被膜の形成
窒化チタンで被覆した物品をイソプロピルアルコールに1分間浸漬した。次いで、室温(R.T.)にて、上記「(1)撥水性処理液の調製」で調製した撥水性処理液に、10分間浸漬させた。その後、該積層体を撥水性処理液から取出し、エアーを吹き付けて、表面の撥水性処理液を除去した。
【0036】
得られた窒化チタンで被覆した物品を上記「撥水化された表面の撥水性評価」に記載した要領で評価したところ、表1に示すとおり、撥水性の被膜形成前の接触角が10°未満であったものが、撥水性の被膜形成後の接触角は91°となり、優れた撥水性付与効果を示した。また、得られた窒化チタンで被覆した物品を上記「撥水化された表面の汚れ除去性」に記載した要領で評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例2
撥水性処理液への浸漬時間を1分間とした以外はすべて実施例1と同じとした。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は94°となり、優れた撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0039】
実施例3
撥水性処理液中の撥水性化合物濃度を1質量%とした以外はすべて実施例1と同じとした。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は81°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0040】
実施例4
撥水性処理液中の撥水性化合物濃度を5質量%とした以外はすべて実施例1と同じとした。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は94°となり、優れた撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0041】
実施例5
撥水性処理液中の撥水性化合物をパルミチン酸クロリド〔C15H31COCl〕とした以外はすべて実施例1と同じとした。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は98°となり、優れた撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0042】
実施例6
実施例1において、窒化チタンで被覆した物品の代わりに、タングステンで被覆した物品を用いた。それ以外は、実施例1と同じである。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は87°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0043】
実施例7
実施例2において、窒化チタンで被覆した物品の代わりに、タングステンで被覆した物品を用いた。それ以外は、実施例2と同じである。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は86°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0044】
実施例8
実施例3において、窒化チタンで被覆した物品の代わりに、タングステンで被覆した物品を用いた。それ以外は、実施例3と同じである。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は83°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0045】
実施例9
実施例4において、窒化チタンで被覆した物品の代わりに、タングステンで被覆した物品を用いた。それ以外は、実施例4と同じである。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は88°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0046】
実施例10
実施例5において、窒化チタンで被覆した物品の代わりに、タングステンで被覆した物品を用いた。それ以外は、実施例5と同じである。評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は87°となり、撥水性付与効果を示した。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認された。
【0047】
比較例1
先ず、撥水性化合物としてトリメチルシリルクロリド〔(CH3)3SiCl〕;3g、有機溶媒として、非水溶性溶媒であるトルエン;97gを混合し、約5分間撹拌して、撥水性処理液の総量に対する撥水性化合物の濃度が3質量%の撥水性処理液を得た。
【0048】
続いて、実施例1と同様の方法で、窒化チタンで被覆した物品の洗浄、及び撥水化処理を行った。
【0049】
評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は18°となり、撥水性付与効果は見られなかった。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認されなかった。
【0050】
比較例2
先ず、撥水性化合物としてトリメチルシリルクロリド〔(CH3)3SiCl〕;3g、有機溶媒として、非水溶性溶媒であるトルエン;97gを混合し、約5分間撹拌して、撥水性処理液の総量に対する撥水性化合物の濃度が3質量%の撥水性処理液を得た。
【0051】
続いて、実施例6と同様の方法で、タングステンで被覆した物品の洗浄、及び撥水化処理を行った。
【0052】
評価結果は表1に示すとおり、撥水性の被膜形成後の接触角は16°となり、撥水性付与効果は見られなかった。また、汚れ除去性を評価したところ、水滴跡の除去が確認されなかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化チタンまたはタングステンの表面に撥水性を付与するための撥水性処理液であって、有機溶媒と下記一般式[1]、一般式[2]、および一般式[3]からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる撥水性化合物を含むことを特徴とする撥水性処理液。
ここで、R1、R2、R3、およびR4は、炭素数が1〜18個のアルキル鎖、または、炭素数が1〜8個のフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基である。また、Wは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基を示し、X、およびZは、酸素原子、又は硫黄原子を示し、Yは、水素原子、アルキル基、芳香族基、ピリジル基、キノリル基、スクシンイミド基、マレイミド基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、又はベンゾトリアゾール基を示し、これらの基における水素原子は、有機基で置換されていても良い。
【請求項2】
前記撥水性処理液は、前記有機溶媒と前記一般式[1]、一般式[2]、および一般式[3]からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる撥水性化合物とが混合されてなるものであり、該撥水性化合物は、撥水性処理液の総量100質量%中に0.02乃至50質量%となるように混合されてなるものであることを特徴とする請求項1に記載の撥水性処理液。
【請求項1】
窒化チタンまたはタングステンの表面に撥水性を付与するための撥水性処理液であって、有機溶媒と下記一般式[1]、一般式[2]、および一般式[3]からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる撥水性化合物を含むことを特徴とする撥水性処理液。
ここで、R1、R2、R3、およびR4は、炭素数が1〜18個のアルキル鎖、または、炭素数が1〜8個のフルオロアルキル鎖を含む1価の有機基である。また、Wは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基を示し、X、およびZは、酸素原子、又は硫黄原子を示し、Yは、水素原子、アルキル基、芳香族基、ピリジル基、キノリル基、スクシンイミド基、マレイミド基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、又はベンゾトリアゾール基を示し、これらの基における水素原子は、有機基で置換されていても良い。
【請求項2】
前記撥水性処理液は、前記有機溶媒と前記一般式[1]、一般式[2]、および一般式[3]からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる撥水性化合物とが混合されてなるものであり、該撥水性化合物は、撥水性処理液の総量100質量%中に0.02乃至50質量%となるように混合されてなるものであることを特徴とする請求項1に記載の撥水性処理液。
【公開番号】特開2011−52209(P2011−52209A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173378(P2010−173378)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】
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