説明

窒化物ベースの赤色蛍光体

【課題】ケイ酸窒化物ベースの深赤色蛍光体の提供。
【解決手段】式M(N,D):Eu2+(式中Mは、Mg、Ca、Sr、Baのような2価のアルカリ土類金属であり;Mは、Al、Ga、Bi、Y、La及びSmのような3価の金属であり、Mは、Si、Ge、P及びBのような3価の元素であり;Nは、窒素であり、Dは、F、Cl又はBrのようなハロゲンである。)を有する蛍光体で、微量のハロゲンを含有すると共に、酸素含有量が約2重量パーセント未満である特徴を有する。例示的化合物は、例えばCaAlSi(N1−x):Eu2+である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者:
Shenfung LIU、Dejie TAO、Xianglong YUAN及びYi−Qun LI
【0002】
優先権主張
本出願は、「窒化物ベースの赤色蛍光体」という名称のShenfung Liu、Dejie Tao、Xianglong Yuan及びYi−Qun Liによる2008年10月13日付の米国特許出願第12/250,400号、及び「ケイ酸窒化物ベースの赤色蛍光体」という名称のShenfung Liu、Dejie Tao、Xianglong Yuan及びYi−Qun Liによる2008年5月19日付の米国仮特許出願第61/054,399号に対する優先権の利益を主張するものであり、両出願の明細書及び図面は、参照により本書に組み入れられる。
【0003】
発明の分野
本発明の実施形態は、電磁スペクトルの赤色領域内で放出するケイ酸窒化物ベースの蛍光体化合物に向けられている。本化合物は、従来の赤色窒化物により提供されるものと比べて増強されたフォトルミネッセント強度及び長い放出波長を示し、したがって、本化合物は、白色LED照明(lighting)業界において特に有用である。
【0004】
背景技術
従来、ケイ酸窒化物ベースの蛍光体化合物は、アルカリ土類金属元素(例えばMg、Ca、Sr及びBa)、ケイ素、窒素及び希土類元素付活剤、例えばユーロピウムを含有していた。例としては、SrSi、BaSi10及びCaSiNが含まれる。
【0005】
S.Oshioに対する米国特許出願第2007/0040152号において教示されているように、CaSiNのような化合物は、Eu2+イオンが発光中心として機能する630nm付近の放出ピークをもつ赤色光を放出するCaSiN:Eu2+蛍光体となる。化合物の励起スペクトルのピークは370nm前後にあり、蛍光体は、440から500nm未満の励起放射線により励起された場合、赤色光を放出しないものの、330〜420の近紫外線光による励起を受けた場合、高強度で赤色光を放出する。
【0006】
米国特許出願第2007/0040152号も、MSi、MSi10及びMSiN(ここでMは、Mg、Ca、Sr及びBaなどから選択された少なくとも1つの元素である)のようなケイ酸窒化物ベースの化合物を生産する上での問題点も解明しており、該化合物は実質的に全く酸素を含有しない。これは、アルカリ土類元素及び希土類元素の窒化物を出発物質として使用することにより達成可能であると教示されているが、これらの窒化物は得るのがが困難であり、高価であり、かつ取扱いがむずかしい。これらの要因が合わさって、ケイ酸窒化物ベースの蛍光体を工業的に生産することをむずかしくしている。参考文献により記されているとおり、「従来のケイ酸窒化物ベースの化合物には次のような問題がある:すなわち(1)大量の不純物酸素の存在に起因する低い純度、(2)低純度によりひき起こされる蛍光体の低い材料性能;(3)高いコストなど」。問題点としては、低い光束及び〔低い〕明度が含まれる。
【0007】
しかしながら、ケイ酸窒化物ベースの蛍光体を生産する上での固有の問題が明示的に記述されてきた一方で、実質的に酸素を含まない化合物がもつ恩恵もまた明示的に記述されてきている。Nagatomiらに対する米国特許第7,252,788号は、一般式M−A−B−N:Z(ここで、M、A及びBがそれぞれ2価、3価及び4価の元素であり、Nが窒素、及びZが付活剤である)で表わされる四元母材を有する蛍光体について教示している。一例としては、MはCa、Aはアルミニウム、Bはケイ素及びZはEuであってよく、こうして化合物CaAlSiN:Eu2+を形成する。一般式(及び例)から、これらの蛍光体が構成元素から酸素を意図的に排除したこと、かくしてこれらの蛍光体は、サイアロン群の母材(Si−Al−O−N群)をもつ従来の蛍光体及びSi−O−N群の母材を有する蛍光体とは別のクラスに入る、ということが明白である。
【0008】
Nagatomiらは、蛍光体内の酸素含有量が大きい場合、放出効率が低下し(望ましくない)、蛍光体の放出波長も同様により短い波長側にシフトする傾向を有している、ということを発見し、米国特許第7,252,788号においてこれを開示した。この後者の観察事実も、赤色蛍光体が白色LED業界に提供する演色の利点のため赤色領域がより深い(すなわちオレンジ色又は黄色味が少ない)蛍光体を加えることを(すべてとは言わないまでも)大部分のメーカーが試みていることを理由として、望ましいことではない。Nagatomiらはさらに、彼らが提供した蛍光体は、母材内にいかなる酸素も含まず、そのためより高い放出効率を示し、放出波長から(スペクトルの)より短い波長側へのシフトを回避するという利点がもたらされると述べている。
【0009】
しかしながら、これを達成することは、言うほどに容易なことではない。Nagatomiらは米国特許出願第2006/0017365号において酸素汚染に触れ、その源が、原料の表面に付着し、かくして合成の開始時点で導入された酸素、焼成のための準備時点で原料の表面の酸化の結果として加えられた酸素、及び実際の焼成、及び焼成の後に蛍光体粒子の表面上に吸着された酸素であると考えられていることを教示している。
【0010】
酸素測定と、測定値及び計算値の間の相違の考えられる原因の分析とについての考察もまた、Nagatomiらにより米国特許出願第2006/0017365号において示された。彼らの試料中で測定された酸素含有量は、2.4重量パーセントであり、これは0.3重量パーセントという計算上の酸素濃度と好対照を成していた。測定値(そのいわゆる「過剰酸素」を含む)対計算量との間のこの約2重量パーセントの差異は、焼成の準備時点及び焼成の時点で原料の表面にもともと付着している酸素、及び焼成後に蛍光体供試体の表面上に吸着された酸素に由来するものとされた。
【0011】
米国特許第7,252,788号のNagatomiらの試料中の酸素含有量は、同様に表1及び3において2重量パーセント以上の値、つまり2.2、2.2及び2.1の値を示している。
【0012】
さしあたり酸素に関する考察を保留し、背景技術の異なる話題を検討すると、本発明者らは、ハロゲン含有量を有する蛍光体組成物を開示し特許を受け、その恩恵を列挙した。その組成物及び合成技術は、いくつかの種類の母体結晶格子において、及び電磁スペクトルのいくつかの領域内で放出する蛍光体において用いられてきた。例えば、公開された米国特許出願第2006/0027786号ではハロゲンを伴うアルミン酸塩ベースの青色放出蛍光体が記述されている。米国特許第7,311,858号では、ハロゲンを伴う黄色−緑色放出のケイ酸塩ベースの蛍光体が記述され、公開された米国特許出願第2007/0029526号ではハロゲンを伴うオレンジ色放出のケイ酸塩ベースの蛍光体が記述されてきた。これら3つの例は、特に、スペクトルの青色からオレンジ色までの領域が対処されたことを示すために選ばれたものであるが、欠如しているのは、系の他の成員により実証されたフォトルミネッセント強度を含む同じ補強された属性を伴う、赤色で放出する蛍光体である。
【0013】
本発明者らは、ケイ酸窒化物ベースの赤色蛍光体においてハロゲンの包含が有利であることを示しており、同じく予想外であったのは、この最終目的を達成する上で、以上で概略的に記した付随する利点と共に、酸素含有量が2重量パーセント未満のレベルまで同時に低下したという点である。
【0014】
発明の概要
本発明の実施形態は、1)約2重量パーセント未満の酸素含有量、及び2)ハロゲン含有量、という新規の特徴のうちの少なくとも1つを有する窒化物ベースの深赤色蛍光体の蛍光に向けられている。この蛍光体は、いわゆる「白色LED」を利用する白色光照明(illumination)産業において特に有用である。蛍光体のための付活剤の原料源としてだけでなくハロゲンの原料源としての希土類ハロゲン化物の選択及び使用は、本実施形態の主要な特徴である。本蛍光体は、一般式M(N,D):Eu2+(式中Mは、Mg、Ca、Sr、Baのような2価のアルカリ土類金属であり;Mは、Al、Ga、Bi、Y、La及びSmのような3価の金属であり;Mは、Si、Ge、P及びBのような4価の元素であり;Nは、窒素であり、Dは、F、Cl又はBrのようなハロゲンである。例示的化合物は、CaAlSi:(N1−x:Eu2+である。本蛍光体は、化学的に安定した構造を有し、高い放出効率で約620nmを超えるピーク放出を有する可視光を放出するように構成されている。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明の実施形態は、1)約2重量パーセント未満の酸素含有量、及び2)事実上任意の量のハロゲン含有量、という新規の特徴のうちの少なくとも1つを有する窒化物ベースの深赤色蛍光体の蛍光に向けられている。かかる蛍光体は、いわゆる「白色LED」を利用する白色光照明(illumination)産業において特に有用である。蛍光体のための希土類付活剤の原料源としてだけでなくハロゲンの原料源としての希土類ハロゲン化物の選択及び使用は、本実施形態の主要な特徴である。特定のいかなる理論によっても束縛されることは望まないものの、フォトルミネッセント強度及びスペクトル放出の増大をひき起こすことに加えて酸素含有量を削減することによって、これらの蛍光体の特性を増強させる上でハロゲンが二重の役割を果たし得ると考えられている。
本蛍光体の式の記載
【0016】
本蛍光体の式の記載の仕方は、いくつか存在する。1つの実施形態においては、本蛍光体は、M−A−B(N,D):Zという形態を有しており、ここでM、A及びBは、それぞれ2価、3価及び4価の原子価を伴う3つのカチオン金属及び/または半金属であり、Nは、窒素(3価の元素)であり、Dは、窒素と共にアニオン荷電平衡に寄与する1価のハロゲンである。したがって、これらの化合物は、ハロゲン含有窒化物と考えることができる。元素Zは、フォトルミネッセント中心を提供する母体結晶における付活剤である。Zは、希土類又は遷移金属元素であり得る。
【0017】
本窒化物ベースの赤色蛍光体は、構成元素の近似比率を強調するため、わずかに異なる様式で記述することができる。この式は、M(N,D):Zという形態をとり、ここで構成元素(m+z):a:b:nの化学量論は、1:1:1:3という一般比率に従うが、これらの整数値からの逸脱も考慮される。この式は、母体結晶において、2価の金属Mに付活剤Zが取って代わること、及び蛍光体の母材が実質的に酸素を全く(又は少なくとも約2重量パーセント未満しか)含んでいないことを示しているという点に留意されたい。
【0018】
本窒化物ベースの赤色蛍光体は、さらにもう1つの様式で記述することもでき、この様式は、窒化物母体中に存在する窒素の量との関係における、存在するハロゲンと金属の量の間の化学量論的関係を強調するものである。この表現は、M3wN〔(2/3)(m+z)+a+(4/3)b−w〕Zの形を有する。パラメータm、a、b、w及びzは、以下の範囲内に入る:0.01≦m≦1.5;0.01≦a≦1.5;0.01≦b≦1.5;0.0001≦w≦0.6、及び0.0001≦m≦0.5。
【0019】
金属Mは、アルカリ金属であるか又はそうでなければBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd及び/又はHgといったような2価の金属であってよい。異なる組合せが可能であり、Mはこれらの元素のうちの単一のもの、又はそれらのうちのいくつか又はすべての混合物であってもよい。1つの実施形態においては、金属Mは、Caである。
【0020】
は、B、Al、Ga、In、Y、Sc、P、As、La、Sm、Sb及びBiといったような3価の金属(又は半金属)である。ここでもまた、これらの金属及び半金属の異なる組合せ及び含有量が可能であり、1つの実施形態においては、金属Mは、Alである。
【0021】
は、C、Si、Ge、Sn、Ni、Hf、Mo、W、Cr、Pb、Ti及びZrといったような4価の元素である。1つの実施形態においては、4価の元素Mは、Siである。
【0022】
元素Dは、この窒化物ベースの化合物中ではF、Cl、又はBrといったようなハロゲンであり、数多くの構成のうちの任意の構成で結晶内部に含まれていてよい。例えば、これは、結晶質母体中で代替的役割(窒素を置換する)で存在することができ;結晶内及び/又は恐らくは結晶粒、領域及び/又は相を分離する粒界内部で格子間に存在していてもよい。
【0023】
Zは、希土類元素及び/又は遷移金属元素のうちの少なくとも1つ以上のものを含む付活剤であり、Eu、Ce、Mn、Tb及びSmを含む。1つの実施形態においては、付活剤Zはユーロピウムである。本発明の1つの実施形態に従うと、付活剤は2価であり、結晶中の2価の金属Mを置換する。付活剤と2価の金属Mの相対的量は、約0.0001〜約0.5の範囲内に入るモル関係Z/(m+z)によって記述することができる。付活剤の量をこの範囲内に保つことにより、付活剤の過剰濃度によってひき起こされる放出強度の減少という形で現われるいわゆるクエンチング効果を実質的に回避することができる。付活剤の所望の量は、特定の付活剤の選択と共に変化し得る。
【0024】
本実施形態に従った例示的化合物は、CaAlSi(N1−x:Eu2+である。塩素を含むその他のハロゲンを、フッ素の代りに、又はフッ素と組合せて使用することができる。この化合物は、先行技術の窒化物が明示するものよりも大きいフォトルミネッセント強度をもつスペクトルの深赤色領域内で放出し、ここでハロゲン包含量は、ピーク放出波長がより長い波長(より深い赤)へとシフトする度合いに影響を及ぼしている。
【0025】
出発物質
先行技術の出発物質は、典型的に、窒化物と金属酸化物からなっていた。例えば、米国特許第7,252,788号中の蛍光体CaAlSiN:Eu2+を生産するためには、カルシウム、アルミニウム及びケイ素のための窒化物出発物質がそれぞれCa、AlN、及びSiであってよいことが教示されている。この開示において、ユーロピウムの供給源は、酸化物Euであった。これとは対照的に、本発明の蛍光体中の金属の供給源は、少なくとも部分的には金属のハロゲン化物であり得、典型的な例としては、MgF、CaF、SrF、BaF、AlF、GaF、BF、InF及び(NHSiFが含まれる。ユーロピウムは、2つのフッ化物EuF及びEuFのいずれかにより供給され得る。2価、3価及び4価の金属のハロゲン化物の使用は、蛍光体にハロゲンを供給するための唯一の方法ではなく、代替的な方法としては、NHF又はLiFといったようなフラックスの使用である。
【0026】
具体的には、本蛍光体の合成における原料として適切な2価の金属Mの化合物としては、例えば、Mm、MmO、MmD(ここでもDがF、Cl、Br、及び/又はIである)のような窒化物、酸化物及びハロゲン化物が含まれる。3価の金属Mの類似の原料化合物は、MaN、Ma及びMaDである。4価の金属の出発物質には、Mb及び(NHMbFが含まれる。ハロゲン化物アニオンDの化合物としては、NHD及びAeDが含まれ、ここでAeはLi、Na及びMDのようなアルカリ金属であり、MeはMg、Caなどのようなアルカリ土類金属である。
【0027】
先行技術の参考文献は、それが容易に入手可能な市販の化合物であることから、ユーロピウム付活剤源として酸化ユーロピウムEuを開示していた。しかしながら、本発明者らは、この化合物中の酸素が、蛍光体のフォトルミネッセント特性に対し有害な効果を有するということを発見した。この問題を取り除く1つの方法は、実質的に純粋なEu金属のような酸素を含まないユーロピウム源を用いることであるが、これは非常に高価なアプローチであり、実施はむずかしい。本発明の1つの実施形態は、ユーロピウム含有出発物質としてEuF及び/又はEuClといったようなEuハロゲン化物を使用することである。本発明者らは、ユーロピウム供給源としてEuFのようなハロゲン化ユーロピウムが使用される場合、蛍光体の放出効率が増大し、蛍光体の放出波長がより長い波長へとシフトするということを見出した。かくして、本発明の1つの実施形態は、ユーロピウム供給源として、Euではなく、ユーロピウム化合物EuD(D=F、Cl、Br、I)を使用することにある。これらの概念は、添付図面と合わせて例示され、さらに詳細に考察される。
【0028】
出発物質の関数としての放出強度及び波長
図1Aは、一般式Ca1−xAlSiNEuを有する化合物の試料のピーク放出波長を比較するグラフであり、ここでは、ピーク放出波長が、2つの異なる試料についてユーロピウムの量の関数としてプロットされている。1つの試料は、ユーロピウム供給源としてEuFを用いて合成され、もう一方は、供給源としてEuを有していた。ユーロピウム含有量「x」が0.005から0.05まで増大するにつれて、ピーク放出の波長は一般に約640〜650nmの間から約670〜680の間まで増大したが、すべてのケースにおいて、EuFをユーロピウム供給源として作られた試料は、Euで作られたその対応物より長い波長で放出した。このことは、図10Aにおいて、三角形を伴う曲線が正方形を伴う曲線よりも高いことによって実証されている。換言すると、蛍光体内にFを包含することにより放出はより長い波長へとシフトし、より深い赤色の放出のこの増加は、白色LED業界にとっては有益である。再び図1Aを参照すると、EuFで生成された試料が、そのEuベースの対応物に比べて約5nm長い波長で放出することが観察され、これは、ハロゲンがユーロピウム付活剤に隣接する位置にある結晶の中に取込まれていることの証拠である。
【0029】
EuFで生成された試料は、同じユーロピウム含有量をもつEuをベースとする試料よりも長い波長で放出するばかりでなく、より高い明度も有している。このことは図1Bで例示されている。ここでもまた、ユーロピウム含有量は、x=0.005から0.05まで増大された。両方の曲線が、xが0.005から0.01まで増大されるにつれて放出強度の増大を示すが、x=0.01の後ユーロピウム含有量がさらに増大するにつれてEuベースの試料はほぼ同じフォトルミネッセント強度を示すのに対し、EuF生成の試料は、xが0.02から0.03まで増大するにつれて、強度(約20パーセント)の飛躍をもう1回示す。一般に、EuFで作られた試料の強度は、Euで作られた試料に比べ約60〜70パーセント明度が高いものであった。これがハロゲンの包含又は酸素の欠如(ハロゲンが誘発する酸素ゲッタリング効果による)に起因するものか否かは精確にわかっていないが、いずれにせよ、効果は有利なものである。
【0030】
1)Eu、2)EuF、3)EuF及び3%のNHFフラックスを伴うEuで作られたCaAlSiNタイプの試料の光学的特性を比較する実験からのデータが、図1C及び1Dに示されている。ピーク放出波長の関数としてのピーク放出強度が図1Cに示されており、ここでは、ハロゲンを含まない試料、Euベースの試料及び何らかの方法によりハロゲンが導入された3つの試料、つまり、EuF、EuF及び3%のNHFフラックスを伴うEuをベースとした試料の間に、著しい強度差がみられる。最後の3本の曲線は、実質的に互いに重なり合っている。図1Cは、ハロゲンが蛍光体内に導入された時点で、ピーク放出強度の50パーセントの増加が存在することを示している。さらに、それぞれ2価及び3価の供給源EuF、EuFの場合のように、ユーロピウム供給源の塩として出発物質中でハロゲンが供給されるか、それともユーロピウム供給源が付活剤の酸化物であるハロゲン含有フラックスの一部として供給されるか、は特に問題でないと思われる。(フォトルミネッセント強度により正規化された)図1Dの正規化された形で図1Cからのデータを再度プロットする趣意は、ここでもまたハロゲン包含の物理的過程、すなわち、フッ素含有試料の3つすべてがEuベースの試料より長い波長で放出することを強調することにある。これは、ハロゲンが蛍光体の母体格子内に取込まれたことを強く示唆している。
【0031】
アルカリ土類金属で本窒化物をドープすることの効果は、図2A〜2Cで調査されている。図2Aの様式は、図1Aの放出強度対ピーク放出波長の関係のプロットの形式と類似しているが、ここでは、式Ca0.93AlSiM0.05Eu0.02:F(ここでMは、Mg、Ca、Sr及びBaである)を有する一連の試料についてのものであり、1つの試料は、Mドーピングがない対照である。図2A中の各試料についてのユーロピウム供給源はEuFであった。この1組のデータは、最高から最低の強度への順番が、Ba、Ca、Sr、Mgドーピングであり、アルカリ土類ドーピングをもたない試料が最低の強度であることを示している。強度の低下に加えて、最長波長から最短ピーク放出波長への順序は、Ba、Ca、Sr、Mgドーピングからドーピングなし、であった。
【0032】
ハロゲンは、アルカリ土類金属成分の塩として導入され得る。このデータは、図2B〜2Cに示されている。原料としてのCaの一部分を置換する原料としてCaFを用い、ユーロピウム濃度が2原子パーセントに固定された状態で、フォトルミネッセント強度の順序は、ユーロピウム供給源がEuFであった場合原料中0〜2、4及び6パーセントのCaFであったが、これらの試料間に大きな差はなかった。しかしながら、この蛍光体群と、ユーロピウム供給源としてのEuから作られCaFなしの蛍光体との間には、放出強度の約50パーセントの低下が存在した。このデータは、図2Bに示されている。本質的に同じデータが図2Cに示されているが、ここでは、再び最短波長の試料がフッ素を含んでいなかったことを示すため、強度に関して正規化されている。
【0033】
あるいはまた、ハロゲンは、遷移金属元素アルミニウムであり得る3価の構成要素の塩として導入され得る。CaAlSiN:Eu2+タイプの蛍光体において5原子パーセントレベルでAlNを置換する原料としてAlFを使用することが図3に示されている。ユーロピウム濃度はここでも2原子パーセントに固定され、蛍光体は、1)5原子パーセントのAlFを伴うEuF、2)5パーセントのAlFを伴うEu、及び3)AlFを伴わないEuで作られた。ユーロピウム供給源がハロゲン化されていたか否かにかかわらず、出発物質としての5原子パーセントのAlFを有する蛍光体のフォトルミネッセント強度は、ハロゲン含有量をもたない蛍光体、すなわちAlFを伴わないEuで作られた蛍光体よりも約40パーセント大きいものであった。換言すると、ハロゲン供給源は、特に重要でないと思われた。それは、このCaAlSiN:Eu蛍光体において、ユーロピウム又は3価のアルミニウムのいずれかのハロゲン化塩として提供され得、ハロゲンと共にフォトルミネッセント強度が著しく増強された。
【0034】
あるいはまた、ケイ素であってよい、4価の金属、半金属又は半導体元素の塩としてハロゲンを導入することもできる。図4の実験に類似する1つの実験が実施され、ここではケイ素含有出発物質又はユーロピウムのいずれかが使用されてハロゲンが得られた。これらの結果は図5に示されている。ユーロピウム濃度はここでも2原子パーセントに固定され、1)5原子パーセントの(NHSiFを伴うEuF、2)5パーセントの(NHSiFを伴うEu、及び3)(NHSiFを伴わないEuで作られた蛍光体が比較された。ユーロピウム供給源がハロゲン化されていたか否かにかかわらず、出発物質としての5原子パーセントの(NHSiFをもつ蛍光体のフォトルミネッセント強度は、ここでもまた、いかなるハロゲン含有量ももたない蛍光体、すなわち(NHSiFを伴わないEuで作られた蛍光体よりも約40パーセント大きいものであった。ここでもまた、ハロゲン供給源は、特に重要でないと思われた;それは、このCaAlSiN:Eu2+蛍光体においてユーロピウム又は4価のケイ素のいずれかのハロゲン化塩として提供され得、ハロゲンと共にフォトルミネッセント強度が著しく増強された。
【0035】
ハロゲンも、これらの窒化物ベースの赤色蛍光体のためのフラックスの形で供給することもできる。出発物質にNHFフラックスを添加することの効果は、図5A〜Gにおいて調査される。これらの一連の図の最初のものである図5Aは、図2Aで先に示したデータと類似しているアルカリ土類ドーピング金属Mg、Ca、Sr及びBaの各々からのピーク放出波長を示すが、この図5Aにおいては、1つのセットは0.1モルのNHFフラックス含有量(四角)で、もう一方のセット(三角形)はフラックスなしのものである。フラックスを伴う及び伴わない各セットについて、x軸上の試料1〜5(「ドーピング金属」というラベルの付いたもの)はそれぞれ、1)Ca0.98AlSiNEu0.02:F、2)Ca0.98AlSiNMg0.05Eu0.02:F、3)Ca0.98AlSiNCa0.05Eu0.02:F、4)Ca0.98AlSiNSr0.05Eu0.02:F、及び5)Ca0.98AlSiNBa0.05Eu0.02:Fである。フッ素化されたユーロピウム化合物、EuFが、ユーロピウム供給源として用いられた。図2Aの場合と同様に、データは、アルカリ土類ドーピング金属がMg、Ca、Sr及びBaの順序で変更されるにつれて、ピーク放出波長がより長い波長へとシフトしたということを示している。しかしながら、このデータは、フラックスなしの試料の波長が実際にフラックスを伴う対応する試料よりも約2nm長かったということを示している。このことは、すなわち、より長い波長が望まれる場合、NH−ハロゲンベースのフラックスとしてではなく、出発物質中のアルカリ土類金属の塩としてハロゲンを供給することが好ましいだろうということを示すものと思われる。
【0036】
当然のことながら、LiF及びBといったような、NHF以外のフラックスを使用することもできる。LiF及びBが、図5B〜5Cにおいて各々2原子パーセントでNHFと比較された。図5Bでは、Eu及び2原子パーセントのNHF、LiF及びBで作られた蛍光体が、フラックスをもたないEuで作られた蛍光体と比較された。それぞれのフラックスを伴う最初の2つの試料は、全くフラックスを伴わないEu試料に比べ約40パーセントの放出強度増加を示した。Bフラックスを伴う試料は、フォトルミネッセント強度がさらに低いものであった。ここでもまた、フラックスなしの酸化ユーロピウム(すなわちハロゲンを全く含まない)で作られた試料と比較して、ハロゲン化されたユーロピウム供給源、すなわち1)2原子パーセントのNHFを伴うEuF、2)2原子パーセントのLiFを伴うEuFでフラックスを伴う2つの試料が作られていること、及びホウ素を伴う第3の試料、すなわち3)2原子パーセントのBを伴うEuFが作られていることを除いて、類似の実験が図5Cにおいて実施された。この図5Cでは、ハロゲン化された試料は、フォトルミネッセント強度で40〜50パーセントの増強を示した。
【0037】
しかしながら、フラックス内のハロゲンの性質は重要なのだろうか?換言すると、塩素化されたフラックス対フッ素化されたフラックスの有効性の違いは何か?この問題は、図5Dで調査されており、ここでは、試料1)がNHClとNHFのいずれも含有しておらず;試料2)はEuFと0.15モルのNHFフラックスで作られた式Ca0.97AlSiNEu0.03:Fを有する蛍光体であり;試料3)は、同じくEuFで作られているが今度は0.15モルのNHClフラックスを伴っている同じ蛍光体Ca0.97AlSiNEu0.03:Fであった。この図5Dでは、3つの試料すべての強度は明るかった(ユーロピウム塩由来のハロゲンのため)が、塩素含有フラックスを伴う試料はフッ素含有フラックスよりも明るかった。
【0038】
Euで作られたCaAlSiN:Eu2+蛍光体(換言すると、ユーロピウム供給源がハロゲンの塩ではなくむしろ酸化物であったことからハロゲン化されていない赤色窒化物蛍光体)に対するNHFの添加の効果は、図5E〜Gに示されている。図5Eは、添加されたNHFの関数(ゼロから約10パーセント)としてのピーク波長位置のグラフであり、データは、ピーク位置が、添加されたフラックスの量が増大するにつれて約661nmから約663nmまでわずかに増大することを示している。図5Fは、添加されたフラックスの量の関数としてのフォトルミネッセント強度のグラフである。ここでは、フラックスがゼロから4パーセントまで増大するにつれて強度は約20パーセント増大するが、フラックス含有量のさらなる増加につれて強度は比較的一定な状態にとどまっている。図5Gは、放出ピークの半値全幅(FWHM)のグラフであり、興味深いことに、フラックスがゼロから約5パーセントまで増大するにつれてピークはさらに狭い(広さが減少する)ものとなる。これは、すなわち、フラックスが結晶化、及び恐らくは粒経分布に対する効果をもつということを意味している可能性が高い。
【0039】
ルミネッセンスのCIEx及びy値に対するNHFフラックス添加の効果は、図5H及び5Iに示され、値は図5J〜5Kに作表されている。本開示の後の部分でCIE及びその他の蛍光体と組合わせた本蛍光体について詳述される。図5Jでは、蛍光体の式はCa0.97AlSiNEu0.03であり、xは0、0.04及び0.15に等しい。図5Kでは、蛍光体の式は、Ca0.98AlSiNEu0.02であり、xは0及び0.15に等しい。
【0040】
(酸素の除去を強調した)蛍光体合成プロセス
本発明の蛍光体の合成プロセスを、例示化合物CaAlSi(N,F):Eu2+を用いて説明する。原料を計量し、所望の蛍光体を生産するために必要とされる化学量論比率に従って混合する。元素Mm、Ma及びMbの窒化物が原料として市販されている。2価の金属Mmのハロゲン化物及びさまざまなハロゲン化アンモニウムフラックスも市販されている。ユーロピウムの原料供給源にはその酸化物が含まれるが、これは主としてハロゲン含有フラックスも使用されている場合に実行可能な選択肢である。混合は、任意の一般的な混合方法を用いて実施可能であるが、そのうち典型的な方法は、乳鉢又はボールミルである。
【0041】
具体的な例では、特定の原料はCa、AlN、Si及びEuFである。この例では、フッ化ユーロピウムは具体的には、酸素含有量が削減されているという利点を利用するように、従来用いられている酸化ユーロピウムの代替物として使用されている。1つの実施形態では、窒素又はアルゴンを含み得る不活性雰囲気下、グローブボックス内で原料を計量し混合することによって、酸素含有量がさらに低減する。
【0042】
原料は、十分にブレンドされ、その後混合物は不活性雰囲気中、約1400℃〜1600℃の温度に加熱される。1つの実施形態においては、毎分約10℃という加熱速度が用いられ、約2〜10時間この温度に維持される。この焼結反応の生成物は室温に冷却され、乳鉢、ボールミルのような本技術分野で公知の任意の数の手段を用いて粉砕され、所望の組成をもつ粉末が作られる。
【0043】
Mm、Ma及びMbがそれぞれCa、Al及びSi以外のものである蛍光体に対し、同様の生産方法を使用することができる。この場合、構成原料の配合量は変動し得る。
【0044】
本発明者らは、酸化ユーロピウムの代りにハロゲン化ユーロピウムを使用することによって、蛍光体製品中の酸素含有量を2重量パーセント未満に削減することができる、ということを示した。具体的な例においては、酸化物をハロゲン化物で置換することにより、酸素が約4.2パーセントから約0.9パーセントまで削減されるという結果がもたらされた。本発明者らにより実施された1つの研究においては、0.9パーセントの残留分は、不活性雰囲気中よりはむしろ空気中で原料を計量し混合する行為に原因があるとされた。
【0045】
空気中において、Caは分解してアンモニウムと水酸化カルシウムを生成し、
Ca+6HO→3Ca(OH)+2NH
アンモニアは出発物質が空気中で混合された時点で原料混合物から抜けることが観察された。混合物の表面は、たとえ数分だけでも、原料が空気中に一定時間保たれた場合に徐々に白色になる。したがって、酸素を反応系から意図的に排除しかつ/又は除去する手順を新たに導入することが必要である。本発明者らは以下の手順を実施してきた。
【0046】
原料Ca、AlN、Si及びEuFを、窒素及び/又はアルゴンのような不活性雰囲気中に封入し、グローブボックスを用いてかかる状態に維持する。その後、原料を通常はグローブボックス内にて不活性雰囲気中で計量し、その後乳鉢又はボールミルのいずれかでの混合を含む、本技術分野において公知の通常の方法を用いて混合する。結果として得られた混合物をるつぼに入れ、これをグローブボックスに直接連結された管状炉に移送する。これは、不活性雰囲気に対する混合済み原料の曝露が維持されるようにするためである。管状炉内では、混合原料は、毎分約10℃の加熱速度を用いて約1400℃〜1600℃の温度に加熱され、約2時間から10時間のいずれかの時間中その温度に維持される。焼成生成物を室温に冷却させ、乳鉢、ボールミルなどを含めた公知の方法を用いて粉砕して所望の組成をもつ粉末を生成する。
【0047】
約7個の例示的蛍光体の酸素、フッ素及び塩素含有量を、EDSにより測定し、その結果は図6A〜6Cに示されている。エネルギー分散X線分光分析(EDS)は、走査型電子顕微鏡(SEM)と併せて実施される化学的微量分析技術である。本開示中の酸素、フッ素及び塩素含有量は、IXRF Systems Inc.製のEDS2008型を用いて測定され、SEMは、JOEL USA INC製の6330F型であった。このEDS設計は、炭素より重い元素の分析を可能にする。計器の感度は0.1重量パーセントであり、ここで「感度」というのは、背景雑音上の元素の存在を検出する能力を意味する。このようにして、重いマトリクス中の軽量元素(低原子量)を測定することができる。
【0048】
図6Aでは、最高の酸素含有量を示す試料は、各々出発物質中のユーロピウム供給源として酸化ユーロピウム(Eu)を用いて作られたCa0.97AlSiNEu0.03、Ca0.99AlSiNEu0.01及びCa0.97AlSiNEu0.03であった。これらの試料は、それぞれ4.21、5.067及び4.22重量パーセントの酸素含有量を示した。これとは対照的に、ユーロピウム供給源としてのEuF及び塩素含有フラックスを用いて作られた3つの蛍光体の酸素含有量は、約2重量パーセント未満であった。これらの試料は、Ca0.97AlSiNEu0.03Cl0.15、Ca0.97AlSiNEu0.03Cl0.1及びCa0.97AlSiNEu0.03Cl0.2であり、それらの酸素含有量はそれぞれ0.924、1.65及び1.419重量パーセントであった。ユーロピウム供給源としてEuFを、フラックスとしてNHFを用いて作られたフッ素化蛍光体は、Ca0.97AlSiNEu0.03であり、これは、0.97の酸素含有量を示した。このようにして、約1重量パーセント未満の酸素含有量でさえ伴う本赤色蛍光体を合成することが可能であった。
【0049】
この合成中にユーロピウム塩中のハロゲンが酸素をゲッタリングする明白な能力(又はその可能性の証拠)が図6Bに示されている。ここでは、Ca0.97AlSiNEu0.03の試料が1つの事例において、Euがユーロピウム供給源として用いられて作られた。ここで、酸素含有量は4.22重量パーセントであった。これとは対照的に、実質的に同じ化学量論的構造式をもつ蛍光体が、EuFをユーロピウム供給源として作られた場合、酸素含有量は0.97重量パーセントで著しく減少した。
【0050】
ハロゲン含有フラックス又はハロゲン含有ユーロピウム供給源のいずれかにより本窒化物ベースの赤色蛍光体の母体格子内にハロゲンを取込むことができるということが、図6C中にデータにより示されており、ここで、約0.92重量パーセントのフッ素含有量がEDSにより見出された。
【0051】
要約すると、このとき、例示的蛍光体であるCa0.97AlSiNEu0.03Cl0.15及びCa0.97AlSiNEu0.030.15は、約2重量パーセント未満の酸素含有量を有し、その非ハロゲン含有対応物より明度が高い。これらの例示的な窒化物ベースの赤色蛍光体の放出スペクトルが図7に示されており、ここでは興味深いことに、塩化物含有蛍光体は、フッ素含有蛍光体よりもわずかに明度が高い。これらの例示的な赤色蛍光体のスペクトルは、後続する節においてこれらの赤色蛍光体からの光がさまざまな比率及び組合せでLEDからの青色光(約450nm)及び所定のケイ酸塩ベースの蛍光体からのオレンジ色、緑色及び黄色光と組合わされる、という理由で示されている。本赤色材料が結晶質であることは、図8のX線回折パターンにより示されている。
【0052】
本発明の窒化物ベースの赤色蛍光体の励起スペクトル
本発明の窒化物ベースの赤色蛍光体は、図9A〜9Cに示されているように、約300nm〜約610nmの範囲の波長で励起される能力をもつ。図9Aは、蛍光体Ca0.98AlSiNEu0.02:Fについての励起スペクトルである。
【0053】
一般化されたCa1−xAlSiNEuxという式をもつ蛍光体についての正規化された励起スペクトルが、0.01、0.02及び0.04のEu含有量について図9Bに示されており、ここではEuFがユーロピウム供給源として用いられており、NHFフラックスは全く添加されなかった。異なるフッ素含有量をもつ蛍光体についての正規化された励起スペクトルが図9Cに示されており、ここで、Ca0.97AlSiNEu0.03の1つの試料は、0.15モルのNHFを有し、もう一方の試料は全くフラックスを含んでいなかった。EuFは、両方の試料にとってユーロピウム供給源であった。両方の試料はともに、約300nm〜約610nmの範囲の励起放射線を吸収する上で効率的であった。
【0054】
高いCRI及び温白色光の生成
本発明のさらなる実施形態に従うと、本発明の赤色蛍光体は、一般に「白色LED」として知られている白色光照明(illumination)系の中で使用することができる。かかる白色光照明(illumination)系は、約280nmより大きい波長をもつ放射線を放出するように構成された放射線源;及び放射線源からの放射線の少なくとも一部分を吸収し約640nmより大きい波長範囲内のピーク強度をもつ光を放出するように構成されたハロゲン化物アニオンドープ型赤色窒化物蛍光体を含む。これらの温白色発光システムにより放出される波長対光の強度の例示的スペクトルが、図10A〜10Dに示されている。
【0055】
本赤色寄与の結果として業界が利用できるようになった高CRIの温白色照明(lighting)系の一例が図10Aに示されている。ここでは、この赤色蛍光体は黄色及び緑色のケイ酸塩ベースの蛍光体と組合わされた。黄色及び緑色のケイ酸塩ベースの蛍光体は、MSiO:Eu2+タイプのものであり、ここでMは、Mg、Ba、Sr及びCaのような2価のアルカリ土類金属である。この場合、黄色蛍光体は、Sr1.46Ba0.45Mg0.05Eu0.1Si1.03Cl0.18という式を有していた。図10Aの場合の緑色蛍光体は、(Sr0.575Ba0.4Mg0.025Si(O,F):Eu2+であった;緑色蛍光体としてのもう1つの可能性は、Sr0.925Ba1.025Mg0.05Eu0.06Si1.03Cl0.12である。赤色蛍光体は、本実施形態に従うと、Ca0.97AlSiNEu0.03:Cl0.1であった。この系は、CIExが0.439、CIEyが0.404、相関色温度CCTが2955、CRIが90.2という特性をもつ「温白色光」を作り上げるために450nm放出チップからの青色光と組合わされるように設計されていた。450nmの青色LEDが、1)システム内で蛍光体を励起させること、及び2)結果として得られる温白色光に対し青色光成分の寄与を行うこと、という2つの役割をもつということが理解されるであろう。
【0056】
高CRI、温白色照明(lighting)システムの第2の例が図10Bに示されている。ここでは、例示的な本窒化物ベースの赤色蛍光体は、白色光を生成するためにオレンジ色及び緑色のケイ酸塩ベースの蛍光体と組合わされた。オレンジ色蛍光体は、MSiO:Eu2+タイプのものであり、ここでもまたMは、Mg、Ba、Sr及びCaのような2価のアルカリ土類金属である。この場合、オレンジ色蛍光体は、SrEu0.06Si1.020.18という式を有していた。この系(ここでもまた450nmの青色LED励起源を伴う)は、以下の特性をもつ温白色光を生成した。すなわち、CIExは0.438、CIEyは0.406、相関色温度CCTは2980、CRIは90.3であった。図10Bを参照のこと。
【0057】
高CRIの温白色照明(lighting)システムの第3の例が、図10Cに示されている。ここでは、(Sr0.575Ba0.4Mg0.025Si(O,F):Eu2+という式をもつケイ酸塩ベースの緑色蛍光体がCa0.97AlSiNEu0.03:Fという式をもつ例示的な窒化物ベースの赤色蛍光体と組合わされて、CIExが0.3であり、CIEyが0.3であり、相関色温度CCTが7735であり、及びCRIが76であるという特性をもつ温白色光を生成した。緑色蛍光体としてのもう1つの可能性は、Sr0.925Ba1.025Mg0.05Eu0.06Si1.03Cl0.12である。ここでもまた、青色LEDは約450nmで放出した。図10Cを参照のこと。
【0058】
温白色光業界に対し解決法を提供する上での本窒化物ベースの赤色蛍光体の成功は、図10Dに関連して見ることができる。このグラフは、かかるシステムの設計者が直面するジレンマを例示している。すなわち、図10Dにおいて、曲線V(λ)により特徴づけられる高明度システムの達成と、図10Dにおいて黒体放射体により表現されているものといったような高CRI(演色評価数)の間の対立である。V(λ)曲線は、異なる波長の光に対する人間の目の平均的感度を描写する標準視感度関数(無次元)であるということがわかる。それは、放射エネルギーを光量に変換するために、国際照明委員会(Commission Internationale de l’ Eclairage(CIE))が提供している標準関数である。
【0059】
図10Dにおける白色照明(illumination)系は、MSiO:MSiO:Eu2+の緑色ケイ酸塩ベースの蛍光体とEu2+のオレンジ色ケイ酸塩ベースの蛍光体とを組合せた形で本実施形態に従った例示的な窒化物ベースの赤色蛍光体を含んでいる。本発明者らは、これが今日までに利用可能な最も良好な温白色LEDベースの照明(illumination)系であると考えている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1A】ユーロピウムとハロゲンの両方の供給源としてのEuFが、Euをユーロピウム源とする試料と比較されている、式Ca1−xAlSiNEuを有する2つの蛍光体についての放出波長対Eu含有量のグラフである。
【図1B】出発物質としてのハロゲン化ユーロピウムと酸化ユーロピウムとが比較されている、図1Aと類似したグラフである。これは、フォトルミネッセンスとユーロピウム含有量の関係を表わすグラフである。
【図1C】EuF、EuF及びハロゲン含有フラックスを伴うEuという異なるハロゲン源のCaAlSiN試料の放出スペクトルであり、これらのハロゲン含有窒化物蛍光体の卓越した性能を示す。
【図1D】本ハロゲン含有窒化物蛍光体について、波長がより深い赤色にシフトすることを示すように正規化された、EuF、EuF及びハロゲン含有フラックスを伴うEuという異なるハロゲン源で合成されたCaAlSiN試料の正規化された放出スペクトルである。
【図2A】Ca0.93AlSiMa0.5Eu0.02:F(ここで、Mは、Mg、Ca、Sr及びBaのような2価のアルカリ土類金属である)という組成をもつ蛍光体をドープすることの効果を示す、一連の放出スペクトルである。
【図2B】原料としてCaNがCaFに置換されている、ハロゲン含有量ならびにアルカリ土類金属を供給するための手段として異なるレベルでCaFを用いることの効果を示す本例示的蛍光体の放出スペクトルである。
【図2C】これらのハロゲン含有窒化物蛍光体について、より長い波長へと波長がシフトすることの効果を示すようにこの仕方でプロットされた、図2Bからのデータの正規化されたバージョンである。
【図3】AlFが3価の元素(この場合Al)の供給源として、及びハロゲンの供給源としても使用された、本赤色窒化物蛍光体の一連の放出スペクトルである。ここでAlF3は、原料リスト中約5原子パーセントのAlNに置き換わっている。
【図4】焼成の前の原料混合物中に存在する約5原子パーセントのSiに(NHSiFが置き換わっている、本赤色窒化物蛍光体の一連の放出スペクトルである。
【図5A】NHFフラックスの少なくとも1つの目的が、本窒化物ベースの赤色蛍光体のためのハロゲン供給源を提供することにある、処理中にフラックスを使用することの効果を示す、一連の2つの放出スペクトルである。
【図5B】フラックス添加の効果を示す放出スペクトルである。図5Bは、Euをユーロピウム供給源としたフラックスについてのものであり、図5Cは、ハロゲン含有ユーロピウム供給源を伴うフラックスについてのものである。
【図5C】フラックス添加の効果を示す放出スペクトルである。図5Bは、Euをユーロピウム供給源としたフラックスについてのものであり、図5Cは、ハロゲン含有ユーロピウム供給源を伴うフラックスについてのものである。
【図5D】1つの事例ではハロゲン供給源として塩素(NHCl)を、及びもう一方の事例ではフッ素(NHF)を用いている、フラックス添加の効果を示す放出スペクトルである。
【図5E−G】ピーク放出波長位置、フォトルミネッセント(PL)強度及び放出ピークの半値全幅(FWHM)に対するフラックス(NHF)添加の効果を示すグラフである。
【図5H−I】付活剤(ユーロピウム)供給源としてユーロピウムの酸化物が使用される場合のフラックス(NHF)の添加の関数としてのCIE座標x及びyのグラフである。
【図5J】ユーロピウム供給源として酸化物及びハロゲン化物化合物を用いる、フラックスを伴う及び伴わない本窒化物蛍光体についてのCIEデータの表集計バージョンを示す。
【図5K】ユーロピウム供給源として酸化物及びハロゲン化物化合物を用いる、フラックスを伴う及び伴わない本窒化物蛍光体についてのCIEデータの表集計バージョンを示す。
【図6A】それぞれEDSで含有量を測定した、本赤色蛍光体の酸素、フッ素及び塩素含有量の表集計である。
【図6B】それぞれEDSで含有量を測定した、本赤色蛍光体の酸素、フッ素及び塩素含有量の表集計である。
【図6C】それぞれEDSで含有量を測定した、本赤色蛍光体の酸素、フッ素及び塩素含有量の表集計である。
【図7】本赤色窒化物の放出スペクトルにおける、ハロゲンとしての塩素とフッ素の比較である。
【図8】新規化合物が実質的に酸素を含まないことを実証する、CaAlSi(F,N):Eu2+という形態の例示的化合物のX線回折パターンである。この特定の化合物は、Ca0.98AlSiNEu0.02:Fという式を有していた。
【図9A】本窒化物ベースの赤色蛍光体についての励起スペクトルであり、ここで図9Aは、該蛍光体が約300〜610nmの範囲内の放射線波長で励起された場合に蛍光発生効率が良好であることを示しており;図9Bは、異なるレベルのユーロピウム含有量をもつ蛍光体についての励起スペクトルを示し;図9Cは、異なるレベルのフラックスが使用された場合の窒化物Ca0.97AlSiNEu0.003の励起スペクトルである。
【図9B】本窒化物ベースの赤色蛍光体についての励起スペクトルであり、ここで図9Aは、該蛍光体が約300〜610nmの範囲内の放射線波長で励起された場合に蛍光発生効率が良好であることを示しており;図9Bは、異なるレベルのユーロピウム含有量をもつ蛍光体についての励起スペクトルを示し;図9Cは、異なるレベルのフラックスが使用された場合の窒化物Ca0.97AlSiNEu0.003の励起スペクトルである。
【図9C】本窒化物ベースの赤色蛍光体についての励起スペクトルであり、ここで図9Aは、該蛍光体が約300〜610nmの範囲内の放射線波長で励起された場合に蛍光発生効率が良好であることを示しており;図9Bは、異なるレベルのユーロピウム含有量をもつ蛍光体についての励起スペクトルを示し;図9Cは、異なるレベルのフラックスが使用された場合の窒化物Ca0.97AlSiNEu0.003の励起スペクトルである。
【図10A】より高いCRI及び温白色照明(lighting)源が実現された白色光照明(illumination)系内で、本赤色蛍光体を使用することの利点を実証する放出スペクトルである。
【図10B】より高いCRI及び温白色照明(lighting)源が実現された白色光照明(illumination)系内で、本赤色蛍光体を使用することの利点を実証する放出スペクトルである。
【図10C】より高いCRI及び温白色照明(lighting)源が実現された白色光照明(illumination)系内で、本赤色蛍光体を使用することの利点を実証する放出スペクトルである。
【図10D】より高いCRI及び温白色照明(lighting)源が実現された白色光照明(illumination)系内で、本赤色蛍光体を使用することの利点を実証する放出スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:M−A−B−(N,D):Z
(式中、Mは2価の元素であり、
Aはが3価の元素であり、
Bは4価の元素であり、
Nは窒素であり、
Zは付活剤であり、及び
Dはハロゲンである)
を有する窒化物ベースの赤色蛍光体において、蛍光体が、約620nmを超えるピーク放出波長を有する可視光を放出するように構成されている赤色蛍光体。
【請求項2】
酸素含有量が、約2重量パーセント未満である、請求項1記載の窒化物ベースの赤色蛍光体。
【請求項3】
式:M(N,D):Z
(式中、Mmは2価の元素であり、
は3価の元素であり、
は4価の元素であり、
Nは窒素であり、
Zは付活剤であり、及び
Dはハロゲンである)
を有する窒化物ベースの赤色蛍光体において、
構成元素(m+z):a:b:nの化学量論は、約1:1:1:3であり、蛍光体が約620nm超のピーク放出波長をもつ可視光を放出するように構成されている、窒化物ベースの赤色蛍光体。
【請求項4】
酸素含有量が約2重量パーセント未満である、請求項3記載の窒化物ベースの赤色蛍光体。
【請求項5】
式:M3wN〔(2/3)m+z+a+(4/3)b−w〕Z
(式中、Mは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd及びHgからなる群より選択される2価の元素であり、
は、B、Al、Ga、In、Y、Sc、P、As、La、Sm、Sb及びBiからなる群より選択される3価の元素であり、
は、C、Si、Ge、Sn、Ni、Hf、Mo、W、Cr、Pb、Ti及びZrからなる群より選択される4価の元素であり、
Dは、F、Cl、Br及びIからなる群より選択されるハロゲンであり、
Zは、Eu、Ce、Mn、Tb及びSmからなる群より選択された付活剤であり、
Nは、窒素であり、ここで
0.01≦m≦1.5、
0.01≦a≦1.5、
0.01≦b≦1.5、
0.0001≦w≦0.6、及び
0.0001≦z≦0.5)
を有する赤色蛍光体において、蛍光体が、約620nmを超えるピーク放出波長をもつ可視光を放出するように構成されている、窒化物ベースの赤色蛍光体。
【請求項6】
酸素含有量が約2重量パーセント未満である、請求項5に記載の窒化物ベースの赤色蛍光体。
【請求項7】
式:M−A−B−N:Z
(式中、Mは、2価の元素であり、
Aは、3価の元素であり、
Bは、4価の元素であり、
Nは、窒素であり、
Zは、付活剤であり、及び
Dは、ハロゲンである)
を有する窒化物ベースの赤色蛍光体において、蛍光体が、約620nmを超えるピーク放出波長をもつ可視光を放出するように構成されており、酸素含有量が約2重量パーセント未満である窒化物ベースの赤色蛍光体。
【請求項8】
式:M:Z
(式中、Mは、2価の元素であり、
は、3価の元素であり、
は、4価の元素であり、
Nは、窒素であり、
Zは、付活剤であり、及び
Dはハロゲンである)
を有する窒化物ベースの赤色蛍光体において、構成元素(m+z):a:b:nの化学量論が約1:1:1:3であり、蛍光体が約620nmを超えるピーク放出波長をもつ可視光を放出するように構成されており、かつ酸素含有量が約2重量パーセント未満である窒化物ベースの赤色蛍光体。
【請求項9】
式:M3wN〔(2/3)m+z+a+(4/3)b−w〕Z
(式中、Mは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd及びHgからなる群より選択される2価の元素であり、
は、B、Al、Ga、In、Y、Sc、P、As、La、Sm、Sb及びBiからなる群より選択される3価の元素であり、
は、C、Si、Ge、Sn、Ni、Hf、Mo、W、Cr、Pb、Ti及びZrからなる群より選択される4価の元素であり、
Dは、F、Cl、Br及びIからなる群より選択されるハロゲンであり、
Zは、Eu、Ce、Mn、Tb及びSmからなる群より選択される付活剤であり、
Nは、窒素であり、ここで
0.01≦m≦1.5、
0.01≦a≦1.5、
0.01≦b≦1.5、
0.0001≦w≦0.6、及び
0.0001≦z≦0.5)
を有する窒化物ベースの赤色蛍光体において、蛍光体が、約620nmを超えるピーク放出波長をもつ可視光を放出するように構成されている、窒化物ベースの赤色蛍光体。
【請求項10】
酸素含有量が約2重量パーセント未満である、請求項9記載の窒化物ベースの赤色蛍光体。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E−G】
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【図5H−I】
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【図5J】
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【図5K】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【公開番号】特開2010−18771(P2010−18771A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−279668(P2008−279668)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(506358764)インテマティックス・コーポレーション (40)
【氏名又は名称原語表記】INTEMATIX CORPORATION
【Fターム(参考)】