説明

窒化物半導体発光素子およびその製造方法

【課題】電力効率が良好な窒化物半導体発光素子を提供すること。
【解決手段】窒化物半導体発光素子は、n型窒化物半導体層と、Vピット発生層と、中間層と、多重量子井戸発光層と、p型窒化物半導体層とがこの順で設けられたものである。多重量子井戸発光層は、バリア層と該バリア層よりもバンドギャップの小さい井戸層とを交互に積層して構成された層である。多重量子井戸発光層には部分的にVピットが形成されており、Vピットの始点の平均的な位置は中間層内に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素を含むIII−V族化合物半導体(以下「窒化物半導体」と呼ぶ)は、赤外領域から紫外領域の波長を有する光のエネルギーに相当するバンドギャップを有しているため、赤外領域から紫外領域の波長を有する光を発光する発光素子やその領域の波長を有する光を受光する受光素子の材料として有用である。
【0003】
また、窒化物半導体は、窒化物半導体を構成する原子間の結合が強く、絶縁破壊電圧が高く、飽和電子速度が大きいことから、耐高温・高出力・高周波トランジスタなどの電子デバイスの材料としても有用である。
【0004】
さらに、窒化物半導体は、環境を害することがほとんどなく、取り扱いやすい材料としても注目されている。
【0005】
このような窒化物半導体を用いた窒化物半導体発光素子では、発光層として量子井戸構造を採用することが一般的である。電圧が印加されると、発光層中の井戸層において電子とホールとが再結合され、これにより、光が発生する。発光層は、単一量子井戸構造からなっても良いし、井戸層とバリア層とが交互に積層された多重量子井戸(MQW)構造からなっても良い。
【0006】
ところで、窒化物半導体構造において、Vピット(V pit, V-shaped pit)、Vディフェクト(V defect)、inverted hexagonal pyramid defectなどと呼ばれる形状の欠陥があることが知られている。例えば特許文献1にはLEDチップの表面に「六方ピラミッドキャビティ」を形成した構造が開示されている。
【0007】
Vピットは欠陥であるため、一般にはその発生を抑制することにより、LEDの特性が向上するのではないかと考えられている。一方、非特許文献1には、MQW発光層におけるVピット(V-Shaped Pit)の作用が報告されている。これによれば、MQW発光層内にVピットがあると、Vピットの斜面における量子井戸幅が狭くなるため、量子井戸に注入された電子・ホールがVピット内部の結晶欠陥である貫通転位に到達することが妨げられ、結果としてMQW発光層内における非発光再結合が抑制されるとされている。
【0008】
非特許文献2には、Vピットの頂点の角度(apical angle)が、理想的な場合に56°であると報告されている。
【0009】
この発光層にドーピングする技術として、特許文献2には、活性層(本願における発光層に相当)が、アンドープGaNバリア層とn型不純物(本願におけるドーパントに相当)がドープされたInGaN量子井戸層とが順次積層されてなることが記載されている。また、このアンドープGaNバリア層は、上記InGaN量子井戸層と接する界面に拡散防止膜を具備していることが記載されており、この拡散防止膜はInGaN量子井戸層よりも低濃度のn型不純物を含んでいることが記載されている。
【0010】
特許文献3には、活性層がn型不純物を含んでいること、および活性層におけるn型不純物濃度はn層側の方がp層側よりも高いことが記載されており、また、活性層ではn型不純物濃度はn層側の方がp層側よりも高いので、n層側から活性層へのドナーの供給を補うことができ、発光出力の高い窒化物半導体素子が得られることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−277423号公報
【特許文献2】特開2005−109425号公報
【特許文献3】特開2005−057308号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】A. Hangleiter, F. Hitzel, C. Netzel, D. Fuhrmann, U. Rossow, G. Ade, and P. Hinze, “Suppression of Nonradiative Recombination by V-Shaped Pits in GaInN/GaN Quantum Wells Produces a Large Increase in the Light Emission Efficiency”, Physical Review Letters 95, 127402 (2005)
【非特許文献2】M. Shiojiri, C. C. Chuo, J. T. Hsu, J. R. Yang and H. Saijo, “Structure and formation mechanism of V defects in multiple InGaN/GaN quantum well layers”, JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 99, 073505 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の技術にしたがって窒化物半導体発光素子を製造し、製造された窒化物半導体発光素子を高温あるいは大電流で駆動すると、発光効率の低下を招くことがある。これらのことから、単位電力当たりの発光効率(電力効率)の低下を招くことがある。
【0014】
本発明は、MQW発光層とVピットの関係についての検討に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高温あるいは大電流での駆動時であっても、発光効率の低下が抑制され、よって、電力効率が良好な窒化物半導体発光素子を作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る第1の窒化物半導体発光素子は、n型窒化物半導体層と、Vピット発生層と、中間層と、多重量子井戸発光層と、p型窒化物半導体層とがこの順で設けられたものである。多重量子井戸発光層は、バリア層と該バリア層よりもバンドギャップの小さい井戸層とを交互に積層して構成された層である。多重量子井戸発光層には、部分的にVピットが形成されており、Vピットの始点の平均的な位置は、中間層内に位置する。
【0016】
本発明に係る第2の窒化物半導体発光素子は、n型窒化物半導体層と、Vピット発生層と、中間層と、下部多重量子井戸発光層と、上部多重量子井戸発光層と、p型窒化物半導体層とがこの順で設けられたものである。上部多重量子井戸発光層は、上部バリア層と該上部バリア層よりもバンドギャップの小さい上部井戸層とを交互に積層して構成された層である。下部多重量子井戸発光層は、下部バリア層と該下部バリア層よりもバンドギャップの小さい下部井戸層とを交互に積層して構成された層であり、少なくとも下部バリア層には、n型不純物がドーピングされている。下部多重量子井戸発光層の平均的なn型ドーピング濃度は、上部多重量子井戸発光層の平均的なn型ドーピング濃度より高い。上部多重量子井戸発光層には、部分的にVピットが形成されており、Vピットの始点の平均的な位置は、中間層内または下部多重量子井戸発光層内に位置する。
【0017】
Vピット発生層におけるn型ドーピング濃度は、n型窒化物半導体層の最上面におけるn型ドーピング濃度よりも有意に高いことが好ましく、5×1018cm-3以上であれば良い。
【0018】
Vピット発生層におけるIn組成比は、n型窒化物半導体層の最上面におけるIn組成比よりも高いことが好ましい。このとき、Vピット発生層はn型不純物を含むことが好ましく、Vピット発生層の組成はInxGa1-xN(0.1≦x≦0.2)であることが好ましい。
【0019】
Vピット発生層の厚さは、5nm以上であることが好ましい。
中間層の厚さは、40nm以上であることが好ましい。
【0020】
中間層は、ワイドバンドギャップ層と当該ワイドバンドギャップ層よりもバンドギャップの小さいナローバンドギャップ層とを交互に積層して構成された層であれば良い。
【0021】
上部多重量子井戸発光層におけるバリア層の数は、4以上であることが好ましい。
本発明に係る第1の窒化物半導体発光素子の製造方法は、n型窒化物半導体層を形成する第1の工程と、n型窒化物半導体層の上に、中間層を形成する第2の工程と、第1の工程の後であって第2の工程の前に、n型窒化物半導体層が形成されたウエハへの原料ガスの供給を停止する一方、キャリアガスとしてH2ガスを有意に含むガスを当該ウエハへ供給しながら当該ウエハの温度を下げる第3の工程と、中間層の上に、多重量子井戸発光層およびp型窒化物半導体層を順に形成する第4の工程とを備えている。
【0022】
2ガスを有意に含むガスは、H2ガスを20体積%以上80体積%以下含むことが好ましい。
【0023】
第3の工程は、ウエハの温度を50℃以上低下させるというものであることが好ましい。
【0024】
第3の工程を行なうことにより、Vピットが多重量子井戸発光層内に部分的に形成されることが好ましく、またVピットの始点の平均的な位置が中間層内に位置することが好ましい。
【0025】
多重量子井戸発光層を形成する工程は、中間層の上に、下部バリア層と該下部バリア層よりもバンドギャップの小さい下部井戸層とを交互に積層し、且つ少なくとも下部バリア層にn型不純物をドーピングして、下部多重量子井戸発光層を形成する工程と、下部多重量子井戸発光層の上に、上部バリア層と該上部バリア層よりもバンドギャップの小さい上部井戸層とを交互に積層して、平均的なn型ドーピング濃度が下部多重量子井戸発光層よりも低い上部多重量子井戸発光層を形成する工程とを有することが好ましい。第3の工程を行なうことにより、Vピットが多重量子井戸発光層内に部分的に形成されることが好ましく、またVピットの始点の平均的な位置が中間層内または下部多重量子井戸発光層内に位置することが好ましい。
【0026】
本発明に係る第2の窒化物半導体発光素子の製造方法は、n型窒化物半導体層の上に、当該n型窒化物半導体層よりも有意に低い温度でVピット発生層を形成する工程と、Vピット発生層の上に、中間層、多重量子井戸発光層、およびp型窒化物半導体層を順に形成する工程とを備えている。
【0027】
Vピット発生層を形成する工程は、920℃以下の温度で当該Vピット発生層を形成するというものであることが好ましい。
【0028】
Vピット発生層の形成により、Vピットが多重量子井戸発光層内に部分的に形成されることが好ましく、Vピットの始点の平均的な位置が中間層内に位置することが好ましい。
【0029】
多重量子井戸発光層を形成する工程は、中間層の上に、下部バリア層と該下部バリア層よりもバンドギャップの小さい下部井戸層とを交互に積層し、且つ少なくとも下部バリア層にn型不純物をドーピングして、下部多重量子井戸発光層を形成する工程と、下部多重量子井戸発光層の上に、上部バリア層と該上部バリア層よりもバンドギャップの小さい上部井戸層とを交互に積層して、平均的なn型ドーピング濃度が下部多重量子井戸発光層よりも低い上部多重量子井戸発光層を形成する工程とを有することが好ましい。Vピット発生層の形成により、Vピットが多重量子井戸発光層内に部分的に形成されることが好ましく、またVピットの始点の平均的な位置が中間層内または下部多重量子井戸発光層内に位置することが好ましい。
【0030】
Vピット発生層を形成する工程は、厚さが5nm以上である当該Vピット発生層を形成するというものであることが好ましい。
【0031】
中間層を形成する工程は、厚さが40nm以上である当該中間層を形成するというものであることが好ましい。
【0032】
中間層を形成する工程は、ワイドバンドギャップ層と当該ワイドバンドギャップ層よりもバンドギャップエネルギーの小さいナローバンドギャップ層とを交互に積層して当該中間層を形成するというものであることが好ましい。
【0033】
上部多重量子井戸発光層を形成する工程は、上部バリア層の層数が4以上となるように当該上部多重量子井戸発光層を形成するというものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る窒化物半導体発光素子によれば、高温あるいは大電流での駆動時であっても、発光効率の低下が防止され、よって、電力効率が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体発光素子の概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体発光素子の概略平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体発光素子を構成する窒化物半導体層におけるバンドギャップEgの大きさを模式的に示すエネルギー図である。
【図4】本発明の一実施例における電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施例におけるAFM(Atomic Force Microscopy)観察結果である。
【図6】本発明の一実施例におけるVピット発生層とVピットの始点との位置関係の検討方法を説明するための図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体発光素子の概略断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体発光素子の概略断面図である。
【図9】本発明の一実施例における上部MQW発光層におけるバリア数と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体発光素子の概略断面図である。
【図11】本発明の一実施例におけるAFM(Atomic Force Microscopy)観察結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下では、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
なお、以下では、「バリア層」は、井戸層に挟まれた層を指し、井戸層に挟まれていない層は、「最初のバリア層」または「最後のバリア層」という形で井戸層に挟まれた層とは表記を変えている。
【0037】
また、以下の実施の形態では、位置関係を表すため、図1の下側に記載した部分を下、図1の上側に記載した部分を上と表現しているが、これは便宜上の表現であり、重力方向に対して定められる上下とは異なる。
【0038】
また、以下では「ドーピング濃度」という言葉と、ドーピングに伴い発生する電子・ホール濃度である「キャリア濃度」という言葉を用いているが、その関係については後述する。
【0039】
また、「キャリアガス」とは、III族原料ガス・V族原料ガス・ドーパント原料ガス以外のガスであって、膜中に材料が取り込まれないもののこととを指す。
【0040】
また、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。さらに、本発明の図面において、長さ、幅、および厚さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。
【0041】
<第1の実施形態>
図1および図2は、それぞれ、本発明の実施形態1に係る窒化物半導体発光素子1の概略断面図および概略平面図である。図2に示すI−I線における断面図が図1に相当する。また、図3は、図1に示された窒化物半導体発光素子1におけるn型窒化物半導体層9からp型窒化物半導体層16までにおけるバンドギャップEgの大きさを模式的に示すエネルギー図である。図3の縦軸方向は図1に示す層の上下方向であり、図3の横軸のEgは各組成におけるバンドギャップの大きさを模式的に表している。また、図3では、n型ドーピングを行なう層には斜線を塗っている。
【0042】
<窒化物半導体発光素子>
本実施形態に係る窒化物半導体発光素子1は、基板3の上面上に、バッファ層5と、下地層7と、n型窒化物半導体層8、9と、Vピット発生層10と、Vピット発生層10とMQW発光層14との間に位置する中間層である超格子層12と、MQW発光層14と、p型窒化物半導体層16,17,18とがこの順に積層されてメサ部30が構成されている。メサ部30の外側においては、n型窒化物半導体層9の上面の一部分がVピット発生層10および超格子層12などに覆われずに露出しており、その露出部分の上には、n側電極21が設けられている。p型窒化物半導体層18の上には、透明電極23を介してp側電極25が設けられている。窒化物半導体発光素子1のほぼ上面全体には、p側電極25およびn側電極21が露出するように、透明保護膜27が設けられている。なお、窒化物半導体発光素子においては、断面の超高倍率STEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)観察においてVピットが必然的に発生することが認められるが、本実施形態においてはVピット発生層10を挿入することによってVピット15を後述するようにコントロールしている。
【0043】
<基板>
基板3は、たとえば、サファイアのような絶縁性基板であっても良いし、GaN、SiC、またはZnOなどのような導電性基板であっても良い。成長時の基板3の厚さは例えば900μm〜1200μmであり、窒化物半導体発光素子1の基板3の厚さは120μmとしたが、特に限定されず、例えば50μm以上300μm以下であれば良い。基板3の上面は、平坦であっても良いし、図1に示すように凸部3Aおよび凹部3Bからなる凹凸形状を有していても良い。
【0044】
<バッファ層>
バッファ層5は、たとえばAls0GatoN(0≦s0≦1、0≦t0≦1、s0+t0≠0)層であれば良く、好ましくはAlN層あるいはGaN層である。ただし、Nのごく一部(0.5〜2%)を酸素に置き換えても良い。これにより、基板3の成長面の法線方向に伸長するようにバッファ層5が形成されるので、結晶粒の揃った柱状結晶の集合体からなるバッファ層5が得られる。
【0045】
バッファ層5の厚さは、特に限定されないが、3nm以上100nm以下であれば良く、好ましくは5nm以上50nm以下である。
【0046】
<下地層>
下地層7は、たとえばAls1Gat1Inu1N(0≦s1≦1、0≦t1≦1、0≦u1≦1、s1+t1+u1≠0)層であれば良く、好ましくはAls1Gat1N(0≦s1≦1、0≦t1≦1、s1+t1≠0)層であり、より好ましくはGaN層である。これにより、バッファ層5中に存在する結晶欠陥(たとえば転位など)がバッファ層5と下地層7との界面付近でループされ易くなり、よって、その結晶欠陥がバッファ層5から下地層7へ引き継がれることを防止できる。
【0047】
下地層7は、n型不純物を含んでいても良い。しかし、下地層7がn型不純物を含んでいなければ、下地層7の良好な結晶性を維持することができる。よって、下地層7はn型不純物を含んでいないことが好ましい。
【0048】
下地層7の厚みを厚くすることにより下地層7中の欠陥は減少するが、下地層7の厚みをある程度以上厚くしても下地層7における欠陥減少効果が飽和する。このことより、下地層7の厚さは、1μm以上8μm以下であることが好ましい。
【0049】
<n型窒化物半導体層>
n型窒化物半導体層8及び9は、たとえばAls2Gat2Inu2N(0≦s2≦1、0≦t2≦1、0≦u2≦1、s2+t2+u2≒1)層にn型不純物がドーピングされた層であれば良く、好ましくはAls2Ga1-s2N(0≦s2≦1、好ましくは0≦s2≦0.5、より好ましくは0≦s2≦0.1)層にn型不純物がドーピングされた層である。
【0050】
n型ドーパントは、特に限定されないが、Si、P、AsまたはSbなどであれば良く、好ましくはSiである。このことは、後述の各層においても言える。
【0051】
n型窒化物半導体層8及び9におけるn型ドーピング濃度は、特に限定されないが、1×1019cm-3以下であれば良い。
【0052】
n型窒化物半導体層8及び9の厚みが厚い方がその抵抗が減少するため、n型窒化物半導体層8及び9の厚みは厚い方が好ましい。しかし、n型窒化物半導体層8及び9の厚みを厚くすると、コストアップになる。この両者の兼ね合いから、n型窒化物半導体層8及び9の厚さは、実用上1μm以上10μm以下であれば良いが、特に限定されない。
【0053】
なお、n型窒化物半導体層8及び9は、後述する実施例1においては同じn型GaN層を一旦中断して2つの成長工程によって形成したものであるが、n型窒化物半導体層8とn型窒化物半導体層9とを連続して単層としても良いし、3層以上の積層構造を有していても良い。各層は、同一の組成からなっても良いし、異なる組成からなっても良い。また、各層は、同一の膜厚を有していても良いし、異なる膜厚を有していても良い。
【0054】
<Vピット発生層>
Vピット発生層10は、Vピット15の始点の平均的な位置が、発光層として実効的に機能する層(本実施形態ではMQW発光層14)よりもn型窒化物半導体層9側に位置する層(本実施形態では超格子層12)内に位置するようにVピット15を形成するための層である。ここで、Vピット15の始点とは、Vピット15の底部を意味し、後述の図6(c)に示す「VS」である。また、Vピット15の始点の平均的な位置とは、MQW発光層14に形成されたVピット15の始点を窒化物半導体発光素子の厚み方向で平均化して得られた位置を意味している。
【0055】
Vピット発生層10は、一例としては、厚さ25nmのハイドープn型GaN層である。ここでハイドープとは、Vピット発生層10の下に位置するn型窒化物半導体層9よりも有意に(例えば1.1倍以上、好ましくは1.4倍以上、より好ましくは1.8倍以上)n型ドーピング濃度が高いことを意味する。具体的には、Vピット発生層10のn型ドーピング濃度は、5×1018cm-3以上であることが好ましく、7×1018cm-3以上であることがより好ましく、1×1019cm-3以上であることがさらに好ましい。
【0056】
Vピット発生層10におけるn型ドーピング濃度を高くし過ぎると、Vピット発生層10の膜質が低下し、Vピット発生層10の上に形成するMQW発光層14における発光効率が低下するおそれがある。そのため、Vピット発生層10におけるn型ドーピング濃度はn型窒化物半導体層9におけるn型ドーピング濃度の10倍以下であることが好ましく、3倍以下であることがさらに好ましい。
【0057】
なお、Vピット発生層10は、n型窒化物半導体層9の最上面よりも有意に(例えば1.1倍以上、好ましくは1.4倍以上、より好ましくは1.8倍以上)n型ドーピング濃度が高ければ良い。
【0058】
Vピット発生層10は、別の一例として、Als3Gat3Inu3N(0≦s3≦1、0≦t3≦1、0≦u3≦1、s3+t3+u3≒1)層にn型不純物がドーピングされた層であれば良く、好ましくはInu3Ga1-u3N(0≦u3≦1、好ましくは0≦u3≦0.5、より好ましくは0≦u3≦0.15)層にn型不純物がドーピングされた層である。このようにVピット発生層10がInを含んでいる場合には、Vピット発生層10におけるIn組成比はn型窒化物半導体層9におけるIn組成比よりも高いことが好ましい。このことは下記第2の実施形態で記す。
【0059】
このようなVピット発生層10は、5nm以上の膜厚を有していることが好ましく、10nm以上の膜厚を有していることがより好ましい。これにより、貫通転位数に対してより多くのVピットを発生させるという効果が得られる。
【0060】
<中間層(超格子層)>
Vピット発生層10とMQW発光層14の間には中間層が設けられており、本実施形態においては中間層は超格子層12である。
【0061】
本明細書における超格子層とは、非常に薄い結晶層を交互に積層することにより、その周期構造が基本単位格子よりも長い結晶格子からなる層を意味する。図3に示すように、超格子層12では、ワイドバンドギャップ層12Aとナローバンドギャップ層12Bとが交互に積層されて超格子構造を構成しており、その周期構造がワイドバンドギャップ層12Aを構成する半導体材料の基本単位格子およびナローバンドギャップ層12Bを構成する半導体材料の基本単位格子よりも長くなっている。なお、超格子層12は、ワイドバンドギャップ層12Aおよびナローバンドギャップ層12Bとは異なる1層以上の半導体層と、ワイドバンドギャップ層12Aと、ナローバンドギャップ層12Bとが順に積層されて超格子構造を構成していても良い。また、超格子層12の一周期の長さ(ワイドバンドギャップ層12Aの層厚とナローバンドギャップ層12Bの層厚との合計)は、後述のMQW発光層14の一周期の長さよりも短く、具体的には1nm以上10nm以下である。
【0062】
各ワイドバンドギャップ層12Aは、たとえばAlaGabIn(1-a-b)N(0≦a<1、0<b≦1)であれば良く、好ましくはGaN層である。
【0063】
各ナローバンドギャップ層12Bは、たとえばワイドバンドギャップ層12Aよりもバンドギャップが小さく、且つ後述する各井戸層14Wよりもバンドギャップが大きければ良い。ナローバンドギャップ層12Bは、AlaGabIn(1-a-b)N(0≦a<1、0<b≦1)であれば良く、好ましくはGabIn(1-b)N(0<b≦1)である。
【0064】
各ワイドバンドギャップ層12Aおよび各ナローバンドギャップ層12Bの少なくとも一方は、n型ドーパントを含んでいることが好ましい。ワイドバンドギャップ層12Aとナローバンドギャップ層12Bとの両方がアンドープであると、駆動電圧が上昇するためである。
【0065】
なお、ワイドバンドギャップ層12Aおよびナローバンドギャップ層12Bの各層数は、図3では20としたが、例えば2から50であればよい。
【0066】
超格子層12は、MQW発光層14の特性向上のために設けられた層であって、窒化物半導体発光素子1にとっては必須の構成要件ではない。しかし、超格子層12をVピット発生層10とMQW発光層14との間に設けると、Vピット発生層10とMQW発光層14とを離すことができるため、Vピット15の始点の平均的な位置がMQW発光層14(少なくともMQW発光層14の上部)内に存在しないようにすることができる。よって、本発明では、Vピット発生層10とMQW発光層14との間に超格子層12を設けることが好ましい。好ましくは超格子層12の層厚が40nm以上であり、より好ましくは超格子層12の層厚が50nm以上であり、さらに好ましくは超格子層12の層厚が60nm以上である。一方、超格子層12の層厚が厚すぎるとMQW発光層14の品質の劣化を招くおそれがあるため、超格子層12の層厚は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは80nm以下である。
【0067】
<MQW発光層(多重量子井戸発光層)>
MQW発光層14には、部分的にVピット15が形成されている。ここで、部分的にVピット15が形成されているとは、MQW発光層14の上面においてVピット15がAFMで点状に観察され、Vピットで覆われつくされていないことを意味する。なお、Vピット15の数密度は1×108cm-2以上1×1010cm-2以下であることが好ましい。従来においてもMQW発光層にはVピットが形成されるが、この場合には、MQW発光層の上面におけるVピット数の密度は1×108cm-2未満程度である。
【0068】
MQW発光層14は、図3に示すように、井戸層14Wとバリア層14Aとが交互に積層されることによりバリア層14A(14A1,14A2,・・・,14A7)が井戸層14W(14W1,14W2,・・・,14W8)に挟まれて構成されたものであり、超格子層12の上に最初のバリア層14A’を介して設けられている。井戸層14Wのうち最もp型窒化物半導体層16側に位置する井戸層14W1の上には、最後のバリア層14A0が設けられている。なお、各バリア層14Aおよび各井戸層14Wを識別するために、p型窒化物半導体層16から超格子層12へ向かって番号を振って井戸層14W1、バリア層14A1、井戸層14W2、バリア層14A2、・・・などと表記することとする。
【0069】
MQW発光層14は、バリア層14Aおよび井戸層14Wとは異なる1層以上の半導体層と、バリア層14Aと、井戸層14Wとが順に積層されていても良い。また、MQW発光層14の一周期(バリア層14Aの厚さと井戸層14Wの厚さの和)の長さは、例えば5nm以上100nm以下である。
【0070】
各井戸層14Wの組成は、本実施形態に係る窒化物半導体発光素子に求められる発光波長に合わせて調整されるが、たとえばAlcGadIn(1-c-d)N(0≦c<1、0<d≦1)であれば良く、好ましくはAlを含まないIneGa(1-e)N(0<e≦1)層である。ただし例えば375nm以下の紫外発光を行なう場合には、一般にはバンドギャップを広くするため適宜Alを含ませることとなる。各井戸層14Wの組成は同じであることが好ましく、それにより各井戸層14Wで電子とホールとの再結合により発光する波長を同じにすることができ、よって、窒化物半導体発光素子1の発光スペクトル幅が狭くなるため好都合である。また、例えば上部側の各井戸層14Wはドーパントを極力含まない(成長時にドーパント原料を導入しない)ことが好ましく、その場合、各井戸層14Wにおける非発光再結合が起こりにくく、発光効率が良好となる。一方、下部側の各井戸層14Wは、n型ドーパントを含んでいても良く、それにより発光素子の駆動電圧が低下する傾向にある。
【0071】
各井戸層14Wの厚さは、限定されないが、それぞれ同じであることがさらに好ましい。各井戸層14Wの厚さが同じであれば、量子準位も同じになり、各井戸層における電子とホールとの再結合により各井戸層において同じ波長で発光し、よって、窒化物半導体発光素子1の発光スペクトル幅が狭くなるため好都合である。一方、意図的に井戸層14Wの組成あるいは厚さを異ならせることにより、窒化物半導体発光素子1の発光スペクトル幅をブロードにすることもでき、照明用など用途によってはこの方が好ましい場合がある。
【0072】
各井戸層14Wの厚さは、1nm以上7nm以下であることが好ましい。各井戸層14Wの厚さがこの範囲外であれば、発光効率が低下する傾向にある。
【0073】
各バリア層14A(図3に示す14A1〜14A7)、最初のバリア層14A’、および最後のバリア層14A0の組成は、それぞれ、各井戸層14Wよりバンドギャップエネルギーが大きい方が好ましく、具体的にはAlfGagIn(1-f-g)N(0≦f<1、0<g≦1)であれば良く、より好ましくはAlを含まないInhGa(1-h)N(0<h≦1)、または井戸層14Wと格子定数をほぼ一致させたAlfGagIn(1-f-g)N(0≦f<1、0<g≦1)である。
【0074】
各バリア層14Aの厚さは、1nm以上10nm以下が好ましく、3nm以上7nm以下がより好ましい。各バリア層14Aの厚さが薄いほど駆動電圧が低下するが、極端に薄くすると発光効率が低下する傾向にある。
【0075】
最後のバリア層14A0の厚さは、1nm以上40nm以下が好ましい。
各バリア層14A(図3に示す14A1〜14A7)および最初のバリア層14A’におけるn型ドーピング濃度は、特に限定されない。また、複数のバリア層14Aのうち、下側のバリア層14Aにはn型ドーピングを行ない、上側のバリア層14Aにはそれよりも低い濃度のn型ドーピングを行なうかアンドープとすることが好ましい。各バリア層14A(図3に示す14A1〜14A7)、最初のバリア層14A’、および最後のバリア層14A0には、意図的なn型ドーピングを行なうこともあり、またはp型窒化物半導体層16、p型窒化物半導体層17、およびp型窒化物半導体層18の成長時の熱拡散によりp型ドーパントが含まれることがある。
【0076】
井戸層14Wの数としては、特に限定されないが、例えば2以上20以下、好ましくは3以上15以下、さらに好ましくは4以上12以下とすることができる。
【0077】
<p型窒化物半導体層>
図1に示した構成では、p型窒化物半導体層をp型AlGaN層16、p型GaN層17、および高濃度p型GaN層18の3層構造としているが、この構成は一例であって、一般にp型窒化物半導体層16,17,18は、たとえばAls4Gat4Inu4N(0≦s4≦1、0≦t4≦1、0≦u4≦1、s4+t4+u4≠0)層にp型ドーパントがドーピングされた層であれば良く、好ましくはAls4Ga1-s4N(0<s4≦0.4、好ましくは0.1≦s4≦0.3)層にp型ドーパントをドーピングした層である。
【0078】
p型ドーパントは、特に限定されないが、たとえばマグネシウムである。
p型窒化物半導体層17,18におけるキャリア濃度は、1×1017cm-3以上であることが好ましい。ここで、p型ドーパントの活性率は0.01程度であることから、p型窒化物半導体層17,18におけるp型ドーピング濃度(キャリア濃度とは異なる)は1×1019cm-3以上であることが好ましい。ただしMQW発光層14に近いp型窒化物半導体層16におけるp型ドーピング濃度はこれより低くてもよい。
【0079】
p型窒化物半導体層16,17,18の合計の厚さは、特に限定されないが、50nm以上300nm以下であれば良い。p型窒化物半導体層16,17,18の厚さを薄くすることにより、その成長時における加熱時間を短くすることができ、p型ドーパントのMQW発光層への拡散を抑制することができる。
【0080】
<n側電極、透明電極、p側電極>
n側電極21およびp側電極25は、窒化物半導体発光素子1に駆動電力を供給するための電極である。n側電極21およびp側電極25は図2ではパッド電極部分のみで構成されているが、電流拡散を目的とする細長い突出部(枝電極)が接続されていてもよい。また、p側電極25の下部において電流の注入を止めるための絶縁層を設けても良く、それによりp側電極25に遮蔽される発光の量が減少する。n側電極21は、たとえば、チタン層、アルミニウム層および金層がこの順序で積層されて構成されていれば良く、ワイヤボンドを行なう場合の強度を想定すると1μm程度の厚さを有していれば良い。p側電極25は、たとえばニッケル層、アルミニウム層、チタン層および金層がこの順序で積層されて構成されていれば良く、1μm程度の厚さを有していれば良い。n側電極21とp側電極25は同一の組成であってもよい。透明電極23は、たとえばITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)などの透明導電膜からなれば良く、20nm以上200nm以下の厚さを有していれば良い。
【0081】
<Vピットの始点>
本実施形態に係る窒化物半導体発光素子1では、後述の図6(c)に示すVピットPに示すように、大部分のVピットの始点VSがMQW発光層14内に存在しないように構成されている。つまり、図6(a)に示すVピット径の分布から推定されるVピットの始点位置は図6(b)に示す分布Pを有しており、これにより過半数のVピット15の始点が超格子層12内に存在していると考えられる。Vピット15は貫通転位TDに起因して発生すると考えられるため、貫通転位TDの多くはVピット15の内側にあると考えられる。これにより、MQW発光層14に注入された電子およびホールはVピット15の内側に達することが抑制される。よって、電子およびホールが貫通転位TDに捕獲されたために非発光再結合を起こすということが抑制されると推定される。したがって、発光効率の低下を防止できる。このことは、高温下または大電流駆動時において顕著となる。
【0082】
詳細には、高温下では、MQW発光層への注入キャリア(ホールまたは電子)の移動が活発になるため、注入キャリアが貫通転位TDへ到達する確率が増大する。しかし、本実施形態に係る窒化物半導体発光素子1では、MQW発光層14内における貫通転位TDの多くがVピット15で覆われるため(貫通転位の多くはVピット15の内側に存在するため)、貫通転位TDでの非発光再結合が抑制される。よって、高温下での発光効率の低下を防止できる。
【0083】
また、Vピット15の始点がMQW発光層14の下側に位置するため、ノンドープバリア層の層数を増やして発光に寄与するMQW発光層14の体積を増やすことができる。よって、大電流駆動時での発光効率の低下を防止できる。
【0084】
<キャリア濃度とドーピング濃度について>
ここで、キャリア濃度は、電子またはホールの濃度を意味し、n型ドーパントの量またはp型ドーパントの量だけで決まらない。このようなキャリア濃度は、窒化物半導体発光素子1の電圧対容量特性の結果に基づいて算出されるものであり、電流が注入されていない状態のキャリア濃度のことを指しており、イオン化した不純物、ドナー化した結晶欠陥、またはアクセプター化した結晶欠陥から発生したキャリアの合計である。
【0085】
しかしながら、n型キャリア濃度は、n型ドーパントであるSi等の活性化率が高いことから、n型ドーピング濃度とほぼ同じと考えることができる。また、n型ドーピング濃度は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)にて深さ方向の濃度分布を測定することにより、容易に求まる。さらに、ドーピング濃度の相対関係(比率)は、キャリア濃度の相対関係(比率)とほぼ同じである。これらのことから、本発明の特許請求の範囲では、実際に測定の容易なドーピング濃度で定義している。そして、測定により得られたn型ドーピング濃度を厚さ方向に平均すれば、平均n型ドーピング濃度を得ることができる。
【0086】
<窒化物半導体発光素子の製造方法>
基板3の上に、バッファ層5、下地層7、n型窒化物半導体層8、n型窒化物半導体層9、Vピット発生層10、超格子層12、MQW発光層14、p型窒化物半導体層16、p型窒化物半導体層17、およびp型窒化物半導体層18を順に形成する。それから、n型窒化物半導体層9の一部分が露出するように、p型窒化物半導体層18、p型窒化物半導体層17、p型窒化物半導体層16、MQW発光層14、超格子層12、Vピット発生層10、およびn型窒化物半導体層9の一部をエッチングする。このエッチングにより露出したn型窒化物半導体層9の上面上にn側電極21を形成する。また、p型窒化物半導体層18の上面上に、透明電極23とp側電極25とを順に積層する。その後、透明電極23、および上記エッチングによって露出した各層の側面を覆うように、透明保護膜27を形成する。各層の組成および膜厚などは、上記<窒化物半導体発光素子の構成>で示した通りである。
【0087】
<Vピット発生層の作製方法>
一例としては、n型窒化物半導体層9よりも低い温度でVピット発生層10を成長するという方法が挙げられる。具体的には、成長温度の下げ幅を50℃以上とすることが好ましく、100℃以上とすることがより好ましい。別の言い方をすると、Vピット発生層10の成長温度を920℃以下とすることが好ましく、860℃以下とすることがより好ましく、820℃以下とすることがさらに好ましい。また、成長温度は600℃以上、より好ましくは700℃以上とすることが好ましい。これにより、Vピット発生層10のVピット形成効果が増大し、MQW発光層14にVピット15が形成されることとなる。
【0088】
Vピット発生層10の成長温度が低すぎると、Vピット発生層10の膜質が低下するため、Vピット発生層10の上に形成するMQW発光層14における発光効率が低下するおそれがある。よって、成長温度の下げ幅を400℃以下とすることが好ましく、300℃以下とすることがさらに好ましい。
【0089】
別の一例としては、n型窒化物半導体層9よりもn型ドーピング濃度を高くしてVピット発生層10を作製するという方法が挙げられる。n型ドーピング濃度の上昇幅に関しては、上記<Vピット発生層>で示したとおりである。
【0090】
以下では、本実施形態の具体的な実施例を示す。なお、本実施形態は以下に示す実施例に限定されない。
【0091】
<実施例1における窒化物半導体発光素子およびVピット評価構造>
以下、実施例1に係る窒化物半導体発光素子1と、その検討用に作成したVピット評価構造とを製造工程に沿って記載する。Vピット評価構造と実施例1との製造条件は若干異なる点があるが、以下では窒化物半導体発光素子1の製造条件を代表して記している。
【0092】
まず、凸部3A、および凹部3Bからなる凹凸加工が上面に施された100mm径のサファイア基板3からなるウエハを準備した。平面内における凸部3Aの配置は、正三角形の頂点を繰り返した位置に、間隔2μmで配置されている。その上面上に、AlNからなるバッファ層5をスパッタ法により形成した。
【0093】
次に、ウエハを第1のMOCVD装置に入れ、MOCVD法により、アンドープGaNからなる下地層7を成長し、引き続きSiドープn型GaNからなるn型窒化物半導体層8を成長した。このとき、下地層7の厚さは4μm、n型窒化物半導体層8の厚さは3μmであり、n型窒化物半導体層8におけるn型ドーピング濃度は6×1018cm-3であった。
【0094】
第1のMOCVD装置から取り出したウエハを、第2のMOCVD装置に入れ、ウエハの温度を1050℃(放射温度計測定値)に設定して、n型窒化物半導体層9を成長した。n型窒化物半導体層9はドーピング濃度が6×1018cm-3のn型GaNからなり、厚さは1.5μmである。
【0095】
引き続きウエハの温度を820℃に設定して、Vピット発生層10を成長した。具体的には、厚さ25nmのSiドープGaNを、n型ドーピング濃度が1×1019cm-3になるように成長した。
【0096】
引き続きウエハの温度を820℃で、中間層である超格子層12を成長した。具体的には、SiドープGaNからなるワイドバンドギャップ層12AとSiドープInGaNからなるナローバンドギャップ層12Bとを交互に20周期、成長した。
【0097】
各ワイドバンドギャップ層12Aの厚さは1.75nmであり、各ワイドバンドギャップ層12Aにおけるn型ドーピング濃度は1×1019cm-3であった。
【0098】
各ナローバンドギャップ層12Bの厚さは1.75nmであり、各ナローバンドギャップ層12Bにおけるn型ドーピング濃度は1×1019cm-3であった。また、井戸層がフォトルミネッセンスにより発する光の波長が375nmとなるようにTMIの流量を調整したため、各ナローバンドギャップ層の組成はInGa1−yN(y=0.04)であった。
【0099】
次に、ウエハの温度を770℃に下げてMQW発光層14を成長した。具体的には、図3を参照して、バリア層14AとInGaNからなる井戸層14Wと交互に成長し、井戸層14Wを8層成長した。
【0100】
各バリア層14Aの厚さは4.6nmであり、最初のバリア層14A’、バリア層14A7におけるn型ドーピング濃度は4.3×1018cm-3、その他のバリア層14A6、14A5、・・・、14A1はアンドープとした。
【0101】
井戸層14Wは、キャリアガスとして窒素ガスを用いて、アンドープInGa1−xN層(x=0.20)を成長した。各井戸層14Wの厚さは3.25nmとした。また、Inの組成xは、井戸層14Wがフォトルミネッセンスにより発する光の波長が448nmとなるようにTMIの流量を調整して設定した。
【0102】
次に、最上層の井戸層14W1の上に、アンドープのGaN層からなる最後のバリア層14A0を10nm成長した。なお、後述するVピット評価構造は、この時点で成長を止めて、その表面状態を評価している。
【0103】
次に、ウエハの温度を1000℃に上げて、最後のバリア層14A0の上面上に、p型Al0.18Ga0.82N層16、p型GaN層17およびp型コンタクト層18を成長した。
【0104】
なお、上述の各層のMOCVD成長におけるIII族原料ガスであるGaの原料ガスはTMG(トリメチルガリウム)、Alの原料ガスはTMA(トリメチルアルミニウム)、Inの原料ガスはTMI(トリメチルインジウム)、V族原料ガスであるNの原料ガスはNH、ドーパント原料ガスであるSiの原料ガスはSiH、Mgの原料ガスはCpMgを用いたが、これに限定されるものでなく、MOCVD用に用いられるその他の原料を用いることができる。具体的には、Gaの原料としてTEG(トリエチルガリウム)、Alの原料ガスとしてTEA(トリエチルアルミニウム)、Inの原料ガスとしてTEI(トリエチルインジウム)、Nの原料ガスとしてDMHy(ジメチルヒドラジン)などの有機窒素化合物、Siの原料ガスとしてSiあるいは有機Siなどを用いることができる。
【0105】
そして、n型窒化物半導体層9の一部分が露出するように、p型コンタクト層18、p型GaN層17、p型AlGaN層16、MQW発光層14、超格子層12、Vピット発生層10、n型窒化物半導体層9の一部をエッチングした。このエッチングにより露出したn型窒化物半導体層9の上面上にAuからなるn側電極21を形成した。また、p型コンタクト層18の上面上に、ITOからなる透明電極23とAuからなるp側電極25とを順に形成した。また、主として透明電極23及び上記エッチングによって露出した各層の側面を覆うように、SiOからなる透明保護膜27を形成した。
【0106】
ウエハを380×420μmサイズのチップに分割して、実施例1に係る窒化物半導体発光素子が得られた。
【0107】
得られた窒化物半導体発光素子を、TO−18型ステムにマウントし、樹脂封止を行なわずに光出力を測定した。25℃の環境下で30mAで駆動したところ、駆動電圧3.0Vで光出力P(25)=41.4mW(ドミナント波長450nm)が得られた。また、この素子を、80℃の環境下で30mAで駆動したところ、光出力P(80)=41.1mWが得られた。P(80)/P(25)=99.2%となり、光出力は温度によらずほぼ一定となった。
【0108】
さらに、この窒化物半導体発光素子を、25℃の環境下で85mA(大電流)で駆動したところ、駆動電圧3.24Vで光出力P(25)=101.8mW(ドミナント波長450nm)が得られた。また、この素子を、80℃の環境下で85mAで駆動したところ、光出力P(80)=101.5mWが得られた。P(80)/P(25)=99.7%となり、光出力は大電流駆動であっても温度によらずほぼ一定となった。
【0109】
比較のため、Vピット発生層10を形成しない以外は実施例1に係る窒化物半導体発光素子と同一の方法にしたがって、窒化物半導体発光素子(以下では比較例1における窒化物半導体素子と記す)を作製した。比較例1における窒化物半導体発光素子と実施例1に係る窒化物半導体発光素子とについて、横軸を電流密度Jとし縦軸を外部量子効率ηexとしてプロットした結果を図4に示す。
【0110】
電流密度64A/cmで比較すると、25℃では、実施例1に係る窒化物半導体発光素子1の外部量子効率ηex(図4中の◆、L41)と比較例1における窒化物半導体発光素子の外部量子効率ηex(図4中の▲、L42)との差は小さかった。一方、80℃では、実施例1に係る窒化物半導体発光素子1の外部量子効率ηex(図4中の◇、L43)と比較例1における窒化物半導体発光素子の外部量子効率ηex(図4中の△、L44)との差は大きかった。また、外部量子効率の温度依存性は、実施例1に係る窒化物半導体発光素子1(◆対◇)の方が比較例1における窒化物半導体発光素子(▲対△)よりも小さかった。外部量子効率ηexがピークとなる電流密度における外部量子効率ηexの差についても、実施例1に係る窒化物半導体発光素子1(Δηex(1))の方が比較例1における窒化物半導体発光素子(Δηex(2))よりも小さかった。
【0111】
本発明者らは、この発明に至るための基礎実験として、Vピット15の状態を観察するため、MQW発光層14で成長を止めてp型AlGaN層16、p型GaN層17およびp型コンタクト層18を成長しないVピット評価構造(実施例1のVピット評価構造)を作製し、このVピット評価構造を用いてVピット発生層10の有無とVピット15の状態とを検討した。
【0112】
比較用に、Vピット発生層10の作製を省略したVピット評価構造(比較例1のVピット評価構造)を作製した。そして、実施例1のVピット評価構造および比較例1のVピット評価構造の各最上面をAFMで観察した。図5(a)は、比較例1のVピット評価構造の最上面に対するAFM観察結果であり、図5(b)は、実施例1のVピット評価構造の最上面に対するAFM観察結果である。なお、観察範囲は、どちらの場合も、縦および横とも5μmの正方形で規定される範囲である。
【0113】
図5(b)には、図5(a)に比較して黒い点が多数観察された。この黒い点がVピット15であり、Vピット発生層10によりVピット15の数が有意に増加していることがわかる。
【0114】
本発明者らは、Vピット発生層10の形成条件として、(i)n型窒化物半導体層9よりもn型ドーピング濃度を高くする(n型窒化物半導体層9におけるn型ドーピング濃度を6×1018cm-3とし、Vピット発生層10におけるn型ドーピング濃度を1×1019cm-3とする)、および(ii)n型窒化物半導体層9よりも成長温度を低くする(n型窒化物半導体層9の成長温度を1050℃とし、Vピット発生層10の成長温度を820℃とする)の2つの施策を上記実施例1に入れている。しかし、本発明者らは、上記(i)および上記(ii)のうちの一方の施策だけであっても、Vピット発生層10としての効果を有することを確認している。具体的には、上記(i)に関しては、上記第1の実施形態における<Vピット発生層>で記した通りである。また、上記(ii)に関しては、上記第1の実施形態における<Vピット発生層の作製方法>で記した通りである。
【0115】
また、本発明者らは、上記Vピット評価構造の表面におけるVピット径を測定し、その測定結果に基づきVピット発生層とVピット15の始点との位置関係を検討した。その結果、Vピット発生層10にVピット15の始点が存在しないことを見出した。この点について、図6を用いて説明する。
【0116】
図6(a)は、横軸をVピット径Wv(nm)とし、縦軸をVピットの累積発生率(%)として、構造P(Vピット発生層10を挿入した構造(実施例1))および構造N(Vピット発生層10の作製を省略した構造(比較例1))のそれぞれのVピット径WvとVピットの累積発生率とをプロットしたものである。また、図6(a)には、Vピットの累積発生率が10%である点とこの発生率が90%である点とを通る縦線を引いている。図6(a)に示すように、構造NのWv(Vピットの累積発生率10%〜90%)は25nm以上60nm以下であり、構造PのWv(Vピットの累積発生率10%〜90%)は82nm以上95nm以下であった。これらのことから、構造Pは構造Nに比べてVピット径Wvが有意に大きいこと、および構造Pの方が構造Nに比べてVピット径のばらつきが大幅に小さいことがわかる。
【0117】
さらに、図6(b)を使って、Vピット径Wvを用いてVピットの深さdvを求めた。ここで、Vピットの始点部分における頂点の角度(図6(c)に示すθ)を56゜とすればVピット径(Wv)とVピットの深さ(dv)とはWv/2=dv×Tan(56゜/2)の関係を満たすということ(非特許文献2に記載)を用いて、Vピットの深さdvを求めた。なお、この関係はSTEMによる実測値と一致している。
【0118】
図6(b)によって求めたdvで表されるVピットPおよびVピットNの模式図を図6(c)に示す。なお、図6(c)にはVピットPとVピットNとが同一のサンプルに形成されているように図示されているが、実際にはVピットPとVピットNとは同一のサンプルに形成されることはなく、別々のサンプルに形成されている。図6(c)中のTDは貫通転位(Threading Dislocation)であり、θはVピットの頂角(56゜)であり、VSはVピットの始点であり、12は中間層であり、14はMQW発光層である。
【0119】
Vピット発生層10がある場合には、VピットPの始点VSはP10-90で表される範囲内、つまりVピット発生層10の上面から30〜50nm程度上方にあり、さらに別の言い方をすると超格子層12内に存在する。一方、Vピット発生層10がない場合には、VピットNの始点VSはN10-90で表される範囲内、つまりMQW発光層14内または超格子層12の下面から60〜95nm程度上方に存在する。このようにVピット発生層10がある場合には、深いVピット15を形成することができる。これらのことから、Vピット発生層10を設けるとともに中間層としての超格子層12の厚さが40nm以上であれば、Vピット15の始点VSの平均的な位置は超格子層12内に存在するため好ましい。超格子層12の厚みの範囲については、上記第1の実施形態における<中間層(超格子層)>で示した通りである。
【0120】
本発明者らは、Vピット発生層10を設けた場合の特性向上のメカニズムを以下のように推定している。Vピット発生層10を挿入すると、Vピット15の始点VSが超格子層12内、またはMQW発光層14の下側においてn型不純物がドーピングされているバリア層14A内に形成される。MQW発光層14を下から上へ貫く貫通転位TDは、発光層14においてまたはバリア層14Aがアンドープである部分においてVピット15で覆われる。高温になると、MQW発光層14への注入キャリア(ホール、電子)の移動が活発になるため、注入キャリアが貫通転位TDへ到達する確率が増大する。しかし、Vピット発生層10を備える構造では、上述のようにMQW発光層14内における貫通転位TDの多くがVピット15で覆われるため、貫通転位TDでの非発光再結合が抑制される。よって、高温特性が向上する(高温下における発光効率の低下が防止される)。
【0121】
なお、Vピット発生層10の構成は、本実施形態における構成に限定されず、たとえば下記第2の実施形態における構成であっても良い。この場合であっても、本実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0122】
また、MQW発光層14の構成は、本実施形態における構成に限定されず、たとえば下記第3の実施形態における構成であっても良い。この場合であっても、本実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0123】
また、下記第4の実施形態で示すように、Vピット発生層10を形成することなく本実施形態におけるVピット15をMQW発光層14内に形成しても良い。
【0124】
<第2の実施形態>
図7は、本発明の第2の実施形態に係る窒化物半導体発光素子50の概略断面図である。以下では、上記第1の実施形態とは異なる点を主に示す。
【0125】
本実施形態に係る窒化物半導体発光素子50は、図7に示すように、上面に凸部3A及び凹部3Bが形成された基板3の上面上に、バッファ層5と、下地層7と、n型窒化物半導体層8、9と、Vピット発生層として機能する下部超格子層51と、中間層として機能する上部超格子層52と、MQW発光層14と、p型窒化物半導体層16,17,18とがこの順に積層されてメサ部30が構成されている。メサ部30の外側においては、n型窒化物半導体層9の上面の一部分が露出しており、その露出部分の上には、n側電極21が設けられている。p型窒化物半導体層18の上には、透明電極23を介してp側電極25が設けられている。窒化物半導体発光素子50のほぼ上面全体には、p側電極25およびn側電極21が露出するように、透明保護膜27が設けられている。なお、窒化物半導体発光素子1と同様の構成部分については同じ符号を付している。
【0126】
Vピット発生層として機能する下部超格子層51は、ワイドバンドギャップ層とナローバンドギャップ層とが交互に積層されて構成されたものである。ワイドバンドギャップ層およびナローバンドギャップ層の各組成は特に限定されず、ワイドバンドギャップ層のバンドギャップエネルギーがナローバンドギャップ層のバンドギャップエネルギーよりも大きければ良い。たとえば、ワイドバンドギャップ層がn型GaNからなり、ナローバンドギャップ層がn型InyGa1-yN(0<y≦1)からなれば良い。具体的には、下部超格子層51は、n型GaNからなるワイドバンドギャップ層(厚さ1.75nm)とn型InGa1−yN(厚さ1.75nm、yの値については後述)からなるナローバンドギャップ層とを交互に3周期積層したものである(ナローバンドギャップ層を3層備える)。
【0127】
ナローバンドギャップ層におけるIn組成比は、n型窒化物半導体層9におけるIn組成比よりも高いことが好ましい。これにより、下部超格子層51がVピット発生層として機能する作用が増大する。よって、Vピット15がMQW発光層14内に部分的に形成され、またVピット15の始点の平均的な位置が上部超格子層52内に存在する。なお、下部超格子層51のナローバンドギャップ層は、n型窒化物半導体層9の最上面よりもIn組成比が高ければ良い。
【0128】
このような下部超格子層51の作製方法としては、n型窒化物半導体層9よりも下部超格子層51のナローバンドギャップ層におけるIn組成比が高くなるようにIn原料の流量を変更するという方法であっても良いし、下記に示すようにIn原料の流量を変更せずにn型窒化物半導体層9よりも低温で形成するという方法であっても良い。
【0129】
なお、下部超格子層51は複数のナローバンドギャップ層からなる層としたが、1つのナローバンドギャップ層であるInGa1−yN(0.1≦y≦0.2)からなっても良い。
【0130】
また、下部超格子層51の層厚は1.75nm以上であればよく、5.25nm以上であればより好ましく、8.75nm以上であればさらに好ましい。
【0131】
上部超格子層52は、ワイドバンドギャップ層とナローバンドギャップ層とが交互に積層されて構成されたものである。ワイドバンドギャップ層およびナローバンドギャップ層の各組成は特に限定されず、ワイドバンドギャップ層のバンドギャップエネルギーがナローバンドギャップ層のバンドギャップエネルギーよりも大きければ良い。具体的には、上部超格子層52は、SiドープGaNからなるワイドバンドギャップ層(厚みが1.75nm)とSiドープInGaNからなるナローバンドギャップ層(厚みが1.75nm)とを交互に17周期積層したものである。
【0132】
以下では、本実施形態の具体的な実施例を示す。なお、本実施形態は以下に示す実施例に限定されない。
【0133】
<実施例2−1〜2−2におけるVピット評価構造>
上記実施例1に示す方法にしたがってn型窒化物半導体層9を作製してから下部超格子層51を作製した。実施例2−1、実施例2−2および比較例2では、In原料であるTMIの流量を変更しなかったが、実施例2−1では、755℃で下部超格子層51を作製し、実施例2−2では、705℃で下部超格子層51を作製し、比較例2では、835℃で下部超格子層51を作製した。これにより、ナローバンドギャップ層のIn組成yは、実施例2−1においては0.24、実施例2−2においては0.36、比較例2においては0.04となった。なお、yの値としては、Vピット15を発生させるという以外に発光波長の光吸収が少ないという観点もある。その意味では、発光波長が440nm以上460nm以下の場合においては、上記yは、0.02以上0.2以下が好ましく、0.05以上0.15以下がより好ましいと考えられる。
【0134】
それから、上記実施例1における中間層(超格子層)12の作製方法にしたがって上部超格子層52を作製し、上記実施例1に記載の方法にしたがってMQW発光層14を作製した。このようにして実施例2−1、実施例2−2、および比較例2のVピット評価構造を得、得られたVピット評価構造の上面に対してAFM観察を行なった。
【0135】
その結果、比較例2では、縦および横5μmのAFM観察領域におけるVピット数が16個(6.4×107cm-2)だったのに対し、実施例2−1(超格子層51の成長温度が755℃)では、上記領域におけるVピット数は96個(3.8×108cm-2)であり、実施例2−2(超格子層51の成長温度が705℃)では、上記領域におけるVピット数は106個(4.2×108cm-2)であり、実施例2−1および実施例2−2の方が比較例2よりもVピット15の数密度が増大していることが確認できた。また、TEM観察より、実施例2−1および実施例2−2では、Vピット15の始点がほぼ上部超格子層52の上部にあることが認められた。
【0136】
<第3の実施形態>
図8は、本発明の第3の実施形態に係る窒化物半導体発光素子100の概略断面図である。以下では、上記第1の実施形態とは異なる点を主に示す。
【0137】
本実施形態に係る窒化物半導体発光素子100は、図8に示すように、上面に凸部3A及び凹部3Bが形成された基板3の上面上に、バッファ層5と、下地層7と、n型窒化物半導体層8、9と、Vピット発生層10と、中間層である超格子層112と、下部MQW発光層113と、上部MQW発光層114と、p型窒化物半導体層16,17,18とがこの順に積層されてメサ部30が構成されている。メサ部30の外側においては、n型窒化物半導体層9の上面の一部分がVピット発生層10および超格子層112に覆われずに露出しており、その露出部分の上には、n側電極21が設けられている。p型窒化物半導体層18の上には、透明電極23を介してp側電極25が設けられている。窒化物半導体発光素子100のほぼ上面全体には、p側電極25およびn側電極21が露出するように、透明保護膜27が設けられている。なお、窒化物半導体発光素子1と同様の構成部分については同じ符号を付している。
【0138】
超格子層112は、上記第1の実施形態で記したように、ワイドバンドギャップ層とナローバンドギャップ層とが積層されて構成されたものである。
【0139】
下部MQW発光層113は、上部MQW発光層114と比較して発光への寄与が少ないが、上部MQW発光層114の結晶品質を維持するための層として機能し、下部バリア層と下部井戸層とが積層されて構成されたものである。下部バリア層および下部井戸層の各組成は特に限定されず、下部井戸層が下部バリア層よりもバンドギャップが小さければ良い。また、下部バリア層にはn型不純物がドーピングされていることが好ましく、下部井戸層はn型不純物がドーピングされて構成されていても良いし、アンドープであっても良い。さらに、下部MQW発光層113の平均的なn型ドーピング濃度は、上部MQW発光層114の平均的なn型ドーピング濃度よりも高いことが好ましい。
【0140】
上部MQW発光層114は、主たる発光領域として機能し、上部バリア層と上部井戸層とが積層されて構成されている。上部バリア層および上部井戸層の各組成は特に限定されず、上部井戸層が上部バリア層よりもバンドギャップが小さければ良い。
【0141】
このような窒化物半導体発光素子100では、Vピット発生層10が設けられている。よって、Vピット115が上部MQW発光層114内に部分的に形成され、またVピット115の始点の平均的な位置が超格子層112内または下部MQW発光層113内に存在する。したがって、上記第1の実施形態と略同一の効果を得ることができる。
【0142】
以下では、本実施形態の具体的な実施例を示す。なお、本実施形態は以下に示す実施例に限定されない。
【0143】
<実施例3に係るVピット評価構造>
上記実施例1に示す方法にしたがってVピット発生層10を作製してから、n型GaNからなるワイドバンドギャップ層(厚さ1.75nm)とn型InGaNからなるナローバンドギャップ層(厚さ1.75nm)とを積層(10周期)した。これにより、全層厚が35nmである超格子層112を得た。
【0144】
続いて、GaNからなる下部バリア層(厚さ4.6nm)とInGaNからなる下部井戸層(厚さ3.25nm)とを積層(2周期)して、全層厚が83nmである下部MQW発光層113を得た。なお、下部バリア層にはn型不純物をドーピングしたが、下部井戸層はアンドープ層とした。
【0145】
続いて、GaNからなる上部バリア層(厚さ4.6nm)とInGaNからなる上部井戸層(厚さ3.25nm)とを積層(5周期)して、上部MQW発光層114を得た。なお、上部バリア層および上部井戸層ともにアンドープ層とした。このようにして実施例3のVピット評価構造を得、上記実施例1で記載の方法にしたがってVピット径を測定し、得られたVピット径からVピット115の始点の平均的な位置を求めた。その結果、Vピット115の始点の平均的な位置が下部MQW発光層113内にあることが認められた。
【0146】
さらに、上部バリア層の層数と下部バリア層の層数との合計層数、上部井戸層の層数と下部井戸層の層数との合計層数をそれぞれ一定にした条件で、上部MQW発光層114のバリア層(Siノンドープバリア層)の層数を変化させ、上部MQW発光層114のバリア層の層数と高温特性との関係を調べた。その結果を図9に示す。図9では、横軸には上部MQW発光層114のバリア層の層数をとり、左の縦軸には80℃環境下での駆動電流80mAにおける発光効率ηをとり、右の縦軸には25℃における光出力P(25)と80℃における光出力P(80)との比(P(80)/P(25))をとっている。
【0147】
図9に示すように、実施例3の構造では、比較例3の構造(Vピット発生層10が設けられていない構造)に比べて、上部MQW発光層114のバリア層(Siノンドープバリア層)の層数が4以上6以下において、温度特性P(80)/P(25)が特に向上することがわかった。また、予想温特ライン(図9の上側の破線)を外挿することにより、上部MQW発光層114のバリア層(Siノンドープバリア層)の層数が7〜9であっても、良好な温度特性が得られると推定している。
【0148】
<第4の実施の形態>
図10は、本発明の第4の実施形態に係る窒化物半導体発光素子200の概略断面図である。以下では、上記第1の実施形態とは異なる点を主に示す。
【0149】
本実施形態に係る窒化物半導体発光素子200は、図10に示すように、Vピット発生層10を設ける代わりに、n型窒化物半導体層209の表面210の状態をコントロールすることによってVピット15を発生させている。上面に凸部3A及び凹部3Bが形成された基板3の上面上に、バッファ層5と、下地層7と、n型窒化物半導体層8、209と、中間層である超格子層12と、MQW発光層14と、p型窒化物半導体層16,17,18とがこの順に積層されてメサ部30が構成されている。メサ部30の外側においては、n型窒化物半導体層209の上面の一部分が超格子層12に覆われずに露出しており、その露出部分の上には、n側電極21が設けられている。p型窒化物半導体層18の上には、透明電極23を介してp側電極25が設けられている。窒化物半導体発光素子200のほぼ上面全体には、p側電極25およびn側電極21が露出するように、透明保護膜27が設けられている。なお、窒化物半導体発光素子1と同様の構成部分については同じ符号を付している。
【0150】
<窒化物半導体発光素子の製造方法>
基板3の上に、バッファ層5、下地層7、n型窒化物半導体層8、およびn型窒化物半導体層209を順に形成してから、n型窒化物半導体層209を作製するための原料ガスの供給を停止する。これにより、n型窒化物半導体層209の成長が止まる。
【0151】
次に、n型窒化物半導体層209などが作製されたウエハに対してキャリアガスとして水素ガスを有意に含むガスを供給しながら、当該ウエハの温度を下げる。これにより、n型窒化物半導体層209の上面210の表面の状態が変化する。したがって、上記第1の実施形態で示したように、始点の平均的位置が超格子層12内に位置するVピット15をMQW発光層14内に形成することができる。
【0152】
ここで、水素ガスを有意に含むガスは、水素ガスを10体積%以上含むことが好ましく、より好ましくは水素ガスを20体積%以上80体積%以下含むことである。水素ガスが10体積%未満しか含まれていれば、n型窒化物半導体層209の上面210の表面状態を十分に変化させることができないことがある。一方、水素ガスが90体積%よりも多く含まれていれば、n型窒化物半導体層209の上面210の表面状態が変化しすぎ、MQW発光層14での発光効率が却って低下するという不具合を招くことがある。この水素ガスを有意に含むガスは、水素ガス以外に、窒素ガスおよびアルゴンなどの希ガスのうちの少なくとも一方を含んでいれば良い。
【0153】
また、ウエハの温度の低下幅は、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。ウエハの温度の低下幅が50℃未満であれば、n型窒化物半導体層209の上面210の表面状態を十分に変化させることができないことがある。一方、ウエハの温度の低下幅が大きすぎると、n型窒化物半導体層209の上面210の表面状態が変化しすぎ、MQW発光層14での発光効率が却って低下するという不具合を招くことがある。そのため、ウエハの温度の低下幅は、400℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがさらに好ましい。
【0154】
その後は、上記第1の実施形態に記載した方法にしたがって、超格子層12、MQW発光層14、p型窒化物半導体層16、p型窒化物半導体層17、およびp型窒化物半導体層18を順に形成し、所定のエッチングを行なってからn側電極21、透明電極23、p側電極25、および透明保護膜27を形成する。
【0155】
このように本実施形態では、n型窒化物半導体層209を形成してから超格子層12を形成するまでの間に、n型窒化物半導体層209の上面210の結晶の品質を低下させる処理を行なう。よって、MQW発光層14の結晶性が低下する。したがって、Vピット15がMQW発光層14に形成され、またVピット15の始点の平均的な位置が超格子層12内に位置する。これにより、Vピット発生層を設けることなく上記第1の実施形態で得られる効果を得ることができる。
【0156】
以下では、本実施形態の具体的な実施例を示す。なお、本実施形態は以下に示す実施例に限定されない。
【0157】
<実施例4におけるVピット評価構造>
上記実施例1で記した方法にしたがってn型窒化物半導体層8を作製してから、ウエハの温度を1050℃(放射温度計測定値)に設定してn型窒化物半導体層209を成長した。n型窒化物半導体層209はドーピング濃度が6.5×1018cm-3のn型GaNからなり、その厚さは1.5μmであった。ここで、キャリアガスとしてはN2:H2=42%:58%(体積比)を用いた。
【0158】
n型窒化物半導体層209を成長後、窒化物半導体発光素子200の成長の中断と降温とを行なった。ここで、従来は、水素によるn型窒化物半導体層の表面へのエッチングを懸念して、水素フローを停止して窒化物半導体発光素子の成長の中断と降温とを行なっていた。それに対し、本実施例では、n型窒化物半導体層209の原料ガスであるTMGおよびSiHの供給を中断して、NHを流したまま、キャリアガスの成分をN2:H2=59%:41%(降温開始時)にすると共に、ウエハの設定温度を820℃に降下させた。ただし、実際にウエハの温度が設定値(820℃)に到達するには、450秒程度の時間を要した。また、ウエハの温度が設定値に到達後もさらに1350秒保持し、トータルで1800秒の成長中断を行った。
【0159】
このようにして得られたn型窒化物半導体層209の表面210をAFMで観察した。図11(a)は、水素ガスの供給を行なわずにウエハの温度を下げた場合(比較例4)の結果であり、図11(b)は、実施例4の結果である。なお、図11(a)〜(b)に示す結果は、n型窒化物半導体層209の成長後、上述の条件で窒化物半導体発光素子の成長中断および降温を行なったのち、そのまま常温まで下げてMOCVD装置から取り出して得られた評価用サンプルの結果である。
【0160】
実施例4では、比較例4に比べて、良好な結晶成長の際に現れるステップ構造が消失し、Vピット15の元となる穴が確認できた。
【0161】
また、n型窒化物半導体層209の表面210の上に、中間層として機能する超格子層12およびMQW発光層14を成長してVピット評価構造を作成し、Vピット評価構造の上面におけるVピット15の密度をAFM法で評価した。実施例4では縦および横5μmのAFM観察領域におけるピット数は130個(5.2×108cm-2)であったが、比較例4では上記領域におけるピット数は16個(6.4×10cm-2)であり、実施例4では比較例4に比べて有意にVピット15の数密度が増大した。また、Vピット径を測定したところ、実施例4では、Vピット15の始点の平均的な位置は超格子層12内であった。
【0162】
また、キャリアガス中のH2分圧(H2/N2+H2)=41%、58%、65%、70%の四水準でVピット評価構造を作製し、MQW発光層14の表面におけるVピット径を比較した。その結果、H2分圧が58%の場合がVピット径が一番大きかった。
【0163】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0164】
1 窒化物半導体発光素子、3 基板、3A 凸部、3B 凹部、5 バッファ層、7 下地層、8 n型窒化物半導体層、9 n型窒化物半導体層、10 Vピット発生層、12 超格子層、12A ワイドバンドギャップ層、12B ナローバンドギャップ層、14 MQW発光層、14A バリア層、14W 井戸層、15 Vピット、16 p型窒化物半導体層、17 p型窒化物半導体層、18 p型窒化物半導体層、21 n側電極、23 透明電極、25 p側電極、27 透明保護膜、30 メサ、50 窒化物半導体発光素子、51 下部超格子層、52 上部超格子層、100 窒化物半導体発光素子、112 超格子層、113 下部MQW発光層、114 上部MQW発光層、115 Vピット、200 窒化物半導体発光素子、209 n型窒化物半導体層、210 表面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型窒化物半導体層と、Vピット発生層と、中間層と、多重量子井戸発光層と、p型窒化物半導体層とがこの順で設けられた窒化物半導体発光素子であって、
前記多重量子井戸発光層は、バリア層と該バリア層よりもバンドギャップの小さい井戸層とを交互に積層して構成された層であり、
前記多重量子井戸発光層には、部分的にVピットが形成されており、
前記Vピットの始点の平均的な位置は、前記中間層内に位置する、窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
n型窒化物半導体層と、Vピット発生層と、中間層と、下部多重量子井戸発光層と、上部多重量子井戸発光層と、p型窒化物半導体層とがこの順で設けられた窒化物半導体発光素子であって、
前記上部多重量子井戸発光層は、上部バリア層と該上部バリア層よりもバンドギャップの小さい上部井戸層とを交互に積層して構成された層であり、
前記下部多重量子井戸発光層は、下部バリア層と該下部バリア層よりもバンドギャップの小さい下部井戸層とを交互に積層して構成された層であり、少なくとも前記下部バリア層には、n型不純物がドーピングされており、
前記下部多重量子井戸発光層の平均的なn型ドーピング濃度は、前記上部多重量子井戸発光層の平均的なn型ドーピング濃度より高く、
前記上部多重量子井戸発光層には、部分的にVピットが形成されており、
前記Vピットの始点の平均的な位置は、前記中間層内または前記下部多重量子井戸発光層内に位置する、窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記Vピット発生層におけるn型ドーピング濃度は、前記n型窒化物半導体層の最上面におけるn型ドーピング濃度よりも有意に高い、請求項1または2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記Vピット発生層におけるn型ドーピング濃度は、5×1018cm-3以上である、請求項3に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記Vピット発生層におけるIn組成比は、前記n型窒化物半導体層の最上面におけるIn組成比よりも高い、請求項1〜4のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記Vピット発生層は、n型不純物を含み、
前記Vピット発生層の組成は、InxGa1-xN(0.1≦x≦0.2)である、請求項5に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
前記Vピット発生層の厚さは、5nm以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
前記中間層の厚さは、40nm以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項9】
前記中間層は、ワイドバンドギャップ層と当該ワイドバンドギャップ層よりもバンドギャップの小さいナローバンドギャップ層とを交互に積層して構成された層である、請求項1〜8のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項10】
前記上部多重量子井戸発光層におけるバリア層の数は、4以上である、請求項2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項11】
n型窒化物半導体層を形成する第1の工程と、
前記n型窒化物半導体層の上に、中間層を形成する第2の工程と、
前記第1の工程の後であって前記第2の工程の前に、前記n型窒化物半導体層が形成されたウエハへの原料ガスの供給を停止する一方、キャリアガスとしてH2ガスを有意に含むガスを当該ウエハへ供給しながら当該ウエハの温度を下げる第3の工程と、
前記中間層の上に、多重量子井戸発光層およびp型窒化物半導体層を順に形成する第4の工程とを備えている、窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記H2ガスを有意に含むガスは、H2ガスを20体積%以上80体積%以下含む、請求項11に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記第3の工程は、前記ウエハの温度を50℃以上低下させるというものである、請求項11または12に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記第3の工程を行なうことにより、Vピットが前記多重量子井戸発光層内に部分的に形成され、且つ前記Vピットの始点の平均的な位置が前記中間層内に位置する、請求項11〜13のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記多重量子井戸発光層を形成する工程は、
前記中間層の上に、下部バリア層と該下部バリア層よりもバンドギャップの小さい下部井戸層とを交互に積層し、且つ少なくとも前記下部バリア層にn型不純物をドーピングして、下部多重量子井戸発光層を形成する工程と、
前記下部多重量子井戸発光層の上に、上部バリア層と該上部バリア層よりもバンドギャップの小さい上部井戸層とを交互に積層して、平均的なn型ドーピング濃度が前記下部多重量子井戸発光層よりも低い上部多重量子井戸発光層を形成する工程とを有し、
前記第3の工程を行なうことにより、Vピットが前記多重量子井戸発光層内に部分的に形成され、且つ前記Vピットの始点の平均的な位置が前記中間層内または前記下部多重量子井戸発光層内に位置する、請求項11〜13のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項16】
n型窒化物半導体層の上に、当該n型窒化物半導体層よりも有意に低い温度でVピット発生層を形成する工程と、
前記Vピット発生層の上に、中間層、多重量子井戸発光層、およびp型窒化物半導体層を順に形成する工程とを備えている、窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項17】
前記Vピット発生層を形成する工程は、920℃以下の温度で当該Vピット発生層を形成するというものである、請求項16に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項18】
前記Vピット発生層の形成により、Vピットが前記多重量子井戸発光層内に部分的に形成され、且つ前記Vピットの始点の平均的な位置が前記中間層内に位置する、請求項16または17に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項19】
前記多重量子井戸発光層を形成する工程は、
前記中間層の上に、下部バリア層と該下部バリア層よりもバンドギャップの小さい下部井戸層とを交互に積層し、且つ少なくとも前記下部バリア層にn型不純物をドーピングして、下部多重量子井戸発光層を形成する工程と、
前記下部多重量子井戸発光層の上に、上部バリア層と該上部バリア層よりもバンドギャップの小さい上部井戸層とを交互に積層して、平均的なn型ドーピング濃度が前記下部多重量子井戸発光層よりも低い上部多重量子井戸発光層を形成する工程とを有し、
前記Vピット発生層の形成により、Vピットが前記多重量子井戸発光層内に部分的に形成され、且つ前記Vピットの始点の平均的な位置が前記中間層内または前記下部多重量子井戸発光層内に位置する、請求項16または17に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項20】
前記Vピット発生層を形成する工程は、厚さが5nm以上である当該Vピット発生層を形成するというものである、請求項16〜19のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項21】
前記中間層を形成する工程は、厚さが40nm以上である当該中間層を形成するというものである、請求項11〜20のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項22】
前記中間層を形成する工程は、ワイドバンドギャップ層と当該ワイドバンドギャップ層よりもバンドギャップエネルギーの小さいナローバンドギャップ層とを交互に積層して当該中間層を形成するというものである、請求項11〜21のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項23】
前記上部多重量子井戸発光層を形成する工程は、前記上部バリア層の層数が4以上となるように当該上部多重量子井戸発光層を形成するというものである、請求項15または19に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−41930(P2013−41930A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176987(P2011−176987)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】