説明

窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法

【課題】シリコン基板上に形成される、低転位密度で結晶品質が優れた窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、下地層と、機能層と、を備えた窒化物半導体層が提供される。下地層は、シリコン基板の上に形成されたAl含有窒化物半導体層の上に形成され、不純物濃度が低く、GaNを含む。機能層は、下地層の上に設けられる。機能層は、下地層の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有し第1導電形のGaNを含む第1半導体層を含む。Al含有窒化物半導体層は、多層構造体を含む。多層構造体は、Alを含む窒化物半導体を含む複数の第2層と、複数の第2層の間に設けられ第2層におけるAl組成比よりも低いAl組成比を有する窒化物半導体を含む第1層と、を含む。下地層の厚さは、第1層の厚さよりも厚く、第1半導体層の厚さよりも薄い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体発光素子である発光ダイオード(LED)は、例えば、表示装置や照明などに用いられている。また、窒化物半導体を用いた電子デバイスは高速電子デバイスやパワーデバイスに利用されている。
【0003】
このような窒化物半導体素子を、量産性に優れるシリコン(Si)基板上に形成すると、格子定数または熱膨張係数の違いに起因した欠陥及びクラックが発生しやすい。シリコン基板上に高品質な結晶を作製する技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−142729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、シリコン基板上に形成される、低転位密度で結晶品質が優れた窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態によれば、下地層と、機能層と、を備えた窒化物半導体素子が提供される。前記下地層は、シリコン基板の上に形成されたAl含有窒化物半導体層の上に形成され、不純物濃度が低く、GaNを含む。前記機能層は、前記下地層の上に設けられる。前記機能層は、前記下地層の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有し第1導電形のGaNを含む第1半導体層を含む。前記Al含有窒化物半導体層は、多層構造体を含む。前記多層構造体は、Alを含む窒化物半導体を含む複数の第2層と、前記複数の第2層の間に設けられ前記第2層におけるAl組成比よりも低いAl組成比を有する窒化物半導体を含む第1層と、を含む。前記下地層の厚さは、前記第1層の厚さよりも厚く、前記第1半導体層の厚さよりも薄い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を示す模式的断面図である。
【図2】第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を示す模式的断面図である。
【図3】第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の一部を示す模式的断面図である。
【図4】第1参考例の窒化物半導体素子を示す模式的断面図である。
【図5】図5(a)及び図5(b)は、第2及び第3参考例のウェーハ試料の特性を示す断面TEM像である。
【図6】図6(a)及び図6(b)は、第2の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハを示す模式的断面図である。
【図7】第3の実施形態に係る窒化物半導体層の製造方法を例示するフローチャート図である。
【図8】第5の実施形態に係る窒化物半導体素子を示す模式的断面図である。
【図9】第6の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハを示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
本実施形態は、窒化物半導体素子に係る。実施形態に係る窒化物半導体素子は、半導体発光素子、半導体受光素子、及び、電子デバイスなどの半導体装置を含む。半導体発光素子は、例えば、発光ダイオード(LED)及びレーザダイオード(LD)などを含む。半導体受光素子は、フォトダイオード(PD)などを含む。電子デバイスは、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、電界トランジスタ(FET)及びショットキーバリアダイオード(SBD)などを含む。
【0010】
図1は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。
図1に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体素子110は、下地層10iと、機能層10sと、を備える。
【0011】
下地層10iは、Al含有窒化物半導体層50の上に形成される。Al含有窒化物半導体層50は、シリコン基板40の上に形成されている。シリコン基板40は、例えば、Si(111)基板である。ただし、実施形態において、シリコン基板40の面方位は、(111)面でなくても良い。
【0012】
下地層10iにおける不純物濃度は低い。下地層10iは、GaNを含む。下地層10iは、例えば、アンドープのGaN層である。例えば、下地層10iにおける不純物濃度は、1×1017cm−3以下である。例えば、下地層10iにおける不純物濃度は、検出限界以下である。
【0013】
下地層10iの厚さは、例えば、1マイクロメートル(μm)以上である。
【0014】
機能層10sは、下地層10iの上に設けられる。機能層10sは、第1半導体層10を含む。第1半導体層10は、下地層10iの不純物濃度よりも高い不純物濃度を有する。第1半導体層10は、第1導電形のGaNを含む。
【0015】
例えば、第1導電形はn形であり、第2導電形はp形である。また、第1導電形がp形であり、第2導電形がn形でも良い。以下では、第1導電形がn形で、第2導電形がp形である場合として説明する。
例えば、第1半導体層10は、n形GaN層である。
【0016】
ここで、下地層10iから機能層10sに向かう方向をZ軸方向とする。Z軸に対して垂直な1つの軸をX軸とする。Z軸とX軸とに対して垂直な方向をY軸とする。
【0017】
以下、窒化物半導体素子110が、発光素子である場合について説明する。
図2は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。
図2に表したように、本実施形態に係る1つの例である窒化物半導体素子111において、機能層10sは、発光部30と、第2半導体層20と、をさらに備える。
【0018】
発光部30は、第1半導体層10の上に設けられる。第2半導体層20は、発光部30の上に設けられる。第2半導体層20は、窒化物半導体を含み、第2導電形である。第2導電形は、第1導電形と異なる。
【0019】
第1半導体層10と第2半導体層20とを介して発光部30に電流を流すことで、発光部30から光が放出される。発光部30の具体例に関しては後述する。
【0020】
図2に表したように、この例では、Al含有窒化物半導体層50は、バッファ層55と、中間層54と、多層構造体53と、を含む。バッファ層55は、シリコン基板40の上に設けられ、AlNを含む。バッファ層55の厚さは、例えば約30ナノメートル(nm)である。このように、シリコン基板と化学的反応が生じにくいAlNをSiに接するバッファ層55として用いることで、メルトバックエッチングなどの問題を解決しやすい。
【0021】
中間層54は、バッファ層55の上に設けられ、AlGaNを含む。中間層54には、例えば、Al0.25Ga0.75N層が用いられる。中間層54の厚さは、例えば、約40nmである。
【0022】
多層構造体53は、中間層54の上に設けられる。多層構造体53は、交互に積層された複数の第1層51と複数の第2層52とを含む。
【0023】
第1層51には、例えば、厚さが30ナノメートル(nm)のGaN層が用いられる。第2層52には、例えば、厚さが8nmのAlN層が用いられる。この場合、第1層51及び第2層52のそれぞれの数(すなわち、ペア数)は、例えば60である。
【0024】
また、第1層51には、例えば、厚さが300nmのGaN層が用いられる。第2層52には、例えば、厚さが12nmのAlN層が用いられる。この場合、第1層51及び第2層52のそれぞれの数(すなわち、ペア数)は、例えば3である。
【0025】
第2層52(AlN層)は、例えば低温で成長される。以下では第2層52(AlN層)を低温成長層と呼ぶことにする。但し、多層構造体53において、特に、短周期で第1層51と第2層52とを繰り返す(例えば、第1層51が30nmで、第2層が8nmなど)の場合は、第2層52が低温で成長されるとは限らない。以下では、長周期(例えば、第1層51が300nmで、第2層52が5nmなど)の場合について述べる。
【0026】
図3は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の一部の構成を例示する模式的断面図である。
図3に表したように、発光部30は、複数の障壁層31と、複数の障壁層31どうしの間に設けられた井戸層32と、を含む。例えば、複数の障壁層31と、複数の井戸層32と、がZ軸に沿って交互に積層される。
【0027】
本願明細書において、「積層」とは、互いに接して重ねられる場合の他に、間に他の層が挿入されて重ねられる場合も含む。また、「上に設けられる」とは、直接接して設けられる場合の他に、間に他の層が挿入されて設けられる場合も含む。
【0028】
井戸層32は、例えば、Inx1Ga1−x1N(0<x1<1)を含む。障壁層31は、例えば、GaNを含む。すなわち、例えば、井戸層32はInを含み、障壁層31はInを実質的に含まない。障壁層31におけるバンドギャップエネルギーは、井戸層32におけるバンドギャップエネルギーよりも大きい。
【0029】
発光部30は、単一量子井戸(SQW:Single Quantum Well)構成を有することができる。このとき、発光部30は、2つの障壁層31と、その障壁層31の間に設けられた井戸層32と、を含む。または、発光部30は、多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)構成を有することができる。このとき、発光部30は、3つ以上の障壁層31と、障壁層31どうしのそれぞれの間に設けられた井戸層32と、を含む。
【0030】
すなわち、発光部30は、(n+1)個の障壁層31と、n個の井戸層32と、を含む(nは、2以上の整数)。第(i+1)障壁層BL(i+1)は、第i障壁層BLiと第2半導体層20との間に配置される(iは、1以上(n−1)以下の整数)。第(i+1)井戸層WL(i+1)は、第i井戸層WLiと第2半導体層20との間に配置される。第1障壁層BL1は、第1半導体層10と第1井戸層WL1との間に設けられる。第n井戸層WLnは、第n障壁層BLnと第(n+1)障壁層BL(n+1)との間に設けられる。第(n+1)障壁層BL(n+1)は、第n井戸層WLnと第2半導体層20との間に設けられる。
【0031】
発光部30から放出される光(発光)のピーク波長は、例えば200ナノメートル(nm)以上1600nm以下である。ただし、実施形態において、ピーク波長は任意である。
【0032】
実施形態において、上記のように、多層構造体53が設けられる。多層構造体53は、低温成長のAlN層(第2層52)を含む。この第2層52は、周期的に設けられている。これにより、例えば、転位が低減でき、クラックが抑制される。AlN層は、直下のGaN層と格子整合せず、歪みが緩和し易く、歪みの影響を受けないAlNの格子定数を持ち易い。
【0033】
多層構造体53において、AlNの格子定数に格子整合するようにGaN層を形成することで、GaNは圧縮歪みを受けながら成長し、上に凸になるような反りを生じる。また、これらのAlNとGaNを繰り返し形成することで、上に凸になるような反りを大きく生じることができる。上に凸になるような反りを、結晶成長中の層に予め導入しておくことで、結晶成長後に降温する際に受ける、SiとGaNの熱膨張係数差による引っ張り歪みを相殺することができ、クラックの発生を抑制しやすい。
【0034】
多層構造体53を設けることで、クラックの発生を抑制するだけでなく、シリコン基板40と窒化物半導体層(機能層10s)との間における格子不整合による貫通転位などの欠陥を止めることができる。これにより、下地層10i(例えばi−GaN層)、第1半導体層10(n−GaN層)、および、その上に形成される窒化物半導体層(例えば、発光部30及び第2半導体層20など)への欠陥の伝播を抑制できる。これにより、窒化物半導体素子の高性能化が図れる。
【0035】
第2層52(低温AlN層)の厚さは、例えば5nm以上、20nm以下である。第2層52の結晶成長温度は、例えば600℃以上、1050℃以下である。このような厚さ及び温度領域に設定することで、低温AlN層において格子は緩和しやすくなる。これにより、低温AlNを形成する際に、下地となるGaN層(第1層51)からの引っ張り歪みを受けにくくなる。その結果、下地となるGaN層(第1層51)からの歪みの影響を受けない、AlNの格子定数を、効率よく形成することが可能である。
【0036】
第2層52の厚さが5nmよりも薄いと、AlNの格子が十分に緩和し難い。第2層52が20nmよりも厚いと格子緩和による転位が増大する。
【0037】
第2層52の結晶成長温度が600℃よりも低いと、不純物が取り込まれ易くなる。また、立方晶AlNなどが成長され、結晶転位が過度に生じてしまう。第2層52の結晶成長温度が1050℃よりも高いと、歪みが緩和されず、第2層52に引っ張り歪みが導入されやすい。さらに、第2層52上に成長される第1層51や、その上のGaN層(例えば下地層10i及び第1半導体層10)に圧縮応力を適切にかけられず、結晶成長後の降温時に、クラックが発生しやすい。
【0038】
多層構造体53において、第2層52(低温AlN層)の数を2以上にすることで、クラックの発生を抑制する効果が高まる。
【0039】
第2層52(低温AlN層)どうしの間の距離は、15nm以上、1000nm以下が望ましい。低温AlN層の上にGaN層(第1層51)を形成する際に、後述するように100nmから200nmまでの間のGaN層(第1層51)は、低温AlN層に格子整合しながら成長し、圧縮応力がかかる傾向にある。よって、低温AlN層同士の間隔が1000nmよりも大きいと、圧縮応力を持たせる効果が不十分である。間隔が、15nm未満であると多層構造体53中の低温AlN層の数が過度に多くなり、降温・昇温過程を過度に繰り返してしまい、結晶成長装置の原料使用効率などが悪化してしまう。
【0040】
以上では、Al含有窒化物半導体層50が多層構造体53を有し、その多層構造体53が低温AlN層を含む構造について記述したが、実施形態はこれに限らない。Al含有窒化物半導体層50として、下地層10i及び機能層10sの少なくともいずれかに予め圧縮応力を導入する機能を有する層を用いることで、上記と同様の効果が得られる。
【0041】
例えば、上記のように、Al含有窒化物半導体層50は、例えば、AlNとGaNとの超格子構造を含むことができる。また、Al含有窒化物半導体層50として、組成が傾斜した複数のAlGa1−xN(0≦x≦1)層を用いても良い。
【0042】
既に説明したように、下地層10i(i−GaN層)の厚さは、例えば1μm以上である。下地層10iの厚さは、第1半導体層10(n−GaN層)の厚さよりも薄い。後述するように、下地層10iの厚さを1μm以上にすることで、転位密度を低減する効果が大きくなる。すなわち、下地層10iの上面(第1半導体層10側の面)における転位密度は、下地層10iの下面(Al含有窒化物半導体層50の側の面)における転位密度よりも小さい。
【0043】
下地層10iの厚さが第1半導体層10の厚さ以上の場合、全体の厚さ(下地層10iと、第1半導体層10を含む機能層10sと、の合計の厚さ)が大きくなりすぎて、クラックが多くなりやすい。
【0044】
第1半導体層10の厚さは、例えば、1μm以上、4μm以下であることが望ましい。第1半導体層10がLEDのn形コンタクト層として働くとき、第1半導体層10の厚さが1μm未満であると、電流の広がりが不十分で、発光が不均一になり易い。また、抵抗が高くなり易い。第1半導体層10の厚さが4μmを超えると、結晶成長後の降温時にクラックが入りやすい。
【0045】
このように、本実施形態に係る窒化物半導体素子110及び111においては、シリコン基板40の上にAl含有窒化物半導体層50を形成し、その上に、不純物濃度が低い(例えばアンドープ)のi−GaNの下地層10iを設け、その上に、n−GaNの第1半導体層10を設けることで、第1半導体層10における転位が少なく、クラックなどが低減される。このように、実施形態によれば、低転位密度で結晶品質が優れた窒化物半導体素子が得られる。
【0046】
この構成は、以下のような実験により見出された。以下、発明者が独自に実施した実験について説明する。
この実験では、半導体層の結晶成長方法として、MOVPE(有機金属気相成長)法を用いた。
【0047】
まず、Si(111)のシリコン基板40を、HとHSOとの1:1の混合液で13分間洗浄した。次に、2%のHFを用いて10分間、シリコン基板40を洗浄した。洗浄後、シリコン基板40をMOVPE反応室内に導入した。
【0048】
サセプタを水素雰囲気下で1000℃に昇温し、TMAを8秒間供給した。その後、NHを更に供給することで、バッファ層55として、30nmのAlN層を形成した。
【0049】
続いて、サセプタを1030℃に昇温し、中間層54として、40nmのAl0.25Ga0.75N層を形成した。
【0050】
次に、サセプタを1050℃に昇温し、8nmのAlN層(第2層52)と、30nmのGaN層(第1層51)と、を交互に繰り返し、多層構造体53(超格子構造)を形成した。
【0051】
次に、サセプタを1080℃に昇温し、下地層10iとして、1μmのアンドープGaN層を形成した。
【0052】
続いて、SiHを更に供給することで、第1半導体層10として、1μmのn形ドープGaN層を形成した。
【0053】
次に、続いて、LEDの活性層となる発光部30(多重量子井戸構造)を形成した。さらに、第2半導体層20として、p形GaN層を形成した。これにより、LED構造が形成される。
【0054】
結晶成長の終了後、ウェーハ試料(シリコン基板40及びその上に形成された半導体層を含む)を反応室から取り出した。これにより、実施形態に係る窒化物半導体素子111が形成される。
【0055】
一方、第1参考例の窒化物半導体素子を作製した。
図4は、第1参考例の窒化物半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。
図4に表したように、第1参考例の窒化物半導体素子191においては、下地層10iが設けられていない。これ以外は、窒化物半導体素子111と同様なので説明を省略する。窒化物半導体素子191においては、Al含有窒化物半導体層50の上に、下地層10iを形成しないで、第1半導体層10(厚さ1.2μm)を形成した。
【0056】
実施形態に係る窒化物半導体素子111のウェーハ試料と、第1参考例の窒化物半導体素子191のウェーハ試料に関して、X線回折装置を用いてロッキングカーブ測定を行った。
【0057】
その結果、実施形態に係る窒化物半導体素子111においては、(002)面のX線半値全幅は715秒であり、(101)面のX線半値全幅は1283秒であった。
【0058】
一方、第1参考例の窒化物半導体素子191においては、(002)面のX線半値全幅は1278秒であり、(101)面のX線半値全幅は2030秒であった。
【0059】
X線半値全幅は、欠陥密度に対応する。このように、第1参考例においては欠陥密度が高い。すなわち、第1参考例の窒化物半導体素子191においては、特性が不十分である。
【0060】
これに対し、実施形態に係る窒化物半導体素子111においては、X線半値全幅が小さい。すなわち、窒化物半導体素子111においては、高い特性が得られる。
【0061】
図5(a)及び図5(b)は、第2及び第3参考例のウェーハ試料の特性を例示する断面TEM像である。
【0062】
第5(a)に例示した第2参考例のウェーハ試料192においては、Al含有窒化物半導体層50の上に、厚さが1.2μmのn形GaN層(第1半導体層10に相当)を形成したものである。図5(b)に例示した第3参考例のウェーハ試料193においては、Al含有窒化物半導体層50の上に、厚さが2.1μmのアンドープのGaN層(下地層10iの厚さが厚い場合に相当)を形成したものである。これらの試料においては、Al含有窒化物半導体層50として、4層の周期構造の多層構造体53が設けられている。
【0063】
図5(a)に表したように、第2参考例のウェーハ試料192においては、Al含有窒化物半導体層50の上のn形GaN(n−GaN)層において、転位Ds(例えば貫通転位)が積層方向(Z軸方向)に沿って延びている。そして、Al含有窒化物半導体層50の上にn形GaN層を設けた場合は、転位Dsが多い。
【0064】
図5(b)に表したように、第3参考例のウェーハ試料193においては、Al含有窒化物半導体層50からの高さが1μmまでの間のアンドープのGaN(i−GaN)層において、転位Dsが積層方向から折れ曲がっている。これにより、i−GaN層の上面では、転位Dsの数が著しく減少している。
【0065】
このことから、下地層10iの厚さを1μm以上に設定し、その上に機能層10sを設けることで、転位Dsの低減効果が効果的に得られる。下地層10iの厚さを1μm以上に設定することで、転位が低減された、高結晶品質な、窒化物半導体素子を形成することが可能となる。
【0066】
下地層10iの厚さを1μm以上にすることで転位を低減する効果が十分に得られ、かつ、下地層10iの厚さを第1半導体層10の厚さ以下とすることで、クラックの発生を効果的に抑制できる。
【0067】
実施形態においては、Al含有窒化物半導体層50と、第1半導体層10(機能層10s)との間に、1μm以上の厚さの下地層10i(低不純物濃度のGaN層)を設けることで、転位密度が大幅に低減される。Al含有窒化物半導体層50上の層の厚さが厚いとクラックが発生し易い。このため、半導体素子の動作に直接寄与しない下地層10iの厚さを、クラックが発生しない厚さ以下で、かつ、1μm以上に設定することで、クラックの発生を抑えつつ、転位密度を低減し、良好な特性が得られる。
【0068】
なお、AlN層を含むバッファ層を形成することで、クラックの発生を抑制しようとする試みが知られている。しかしながら、そのようなバッファ層の上にはLED機能を持つn形GaN層が連続して形成されており、バッファ層と、機能層と、の間における転位の挙動については知られていない。
【0069】
発明者の独自の実験により見出された上記の現象を基に、実施形態の構成が構築されている。これにより、シリコン基板40上に形成した高品質な窒化物半導体結晶を有する窒化物半導体素子が提供できる。
【0070】
(第2の実施形態)
本実施形態は、窒化物半導体ウェーハに係る。このウェーハには、例えば、半導体装置の少なくとも一部、または、半導体装置の少なくとも一部となる部分が設けられている。この半導体装置は、例えば、半導体発光素子、半導体受光素子、及び、電子デバイスなどを含む。
【0071】
図6(a)及び図6(b)は、第2の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの構成を例示する模式的断面図である。
図6(a)及び図6(b)に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ120及び130は、シリコン基板40と、Al含有窒化物半導体層50と、下地層10iと、機能層10sと、を備える。これらのシリコン基板40、Al含有窒化物半導体層50、下地層10i及び機能層10sに関しては、第1の実施形態に関して説明した構成を適用することができる。
【0072】
図6(b)に表したように、Al含有窒化物半導体層50は、シリコン基板40の上に設けられAlNを含むバッファ層55と、バッファ層55の上に設けられAlGaNを含む中間層54と、中間層54の上に設けられた多層構造体53と、を含むことができる。多層構造体53は、例えば、交互に積層された、GaNを含む複数の第1層51と、AlNを含む複数の第2層52と、を含む。
【0073】
これにより、シリコン基板上に形成された低転位密度で結晶品質が優れた窒化物半導体素子のための窒化物半導体ウェーハが提供できる。
【0074】
(第3の実施形態)
図7は、第3の実施形態に係る窒化物半導体層の製造方法を例示するフローチャート図である。
図7に表したように、本製造方法においては、シリコン基板40の上にAl含有窒化物半導体層50を形成する(ステップS110)。さらに、Al含有窒化物半導体層50の上に、不純物濃度が低く、例えば1μm以上の厚さを有しGaNを含む下地層10iを形成する(ステップS120)。さらに、下地層10iの上に、下地層10iの不純物濃度よりも高い不純物濃度を有し第1導電形のGaNを含む第1半導体層10を含む機能層10sを形成する(ステップS130)。
【0075】
これにより、シリコン基板上に、低転位密度で結晶品質が優れた窒化物半導体層を形成できる。
【0076】
既に説明したように、本製造方法において、第1半導体層10の厚さは1μm以上であることが望ましい。下地層10iにおける不純物濃度は、1×1017cm−3以下であることが望ましい。下地層10iの厚さは、第1半導体層10の厚さよりも薄いことが望ましい。
【0077】
実施形態において、半導体層の成長には、例えば、有機金属気相堆積(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition: MOCVD)法、有機金属気相成長(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)法、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法、及び、ハライド気相エピタキシー法(HVPE)法などを用いることができる。
【0078】
例えば、MOCVD法またはMOVPE法を用いた場合では、各半導体層の形成の際の原料には、以下を用いることができる。Gaの原料として、例えばTMGa(トリメチルガリウム)及びTEGa(トリエチルガリウム)を用いることができる。Inの原料として、例えば、TMIn(トリメチルインジウム)及びTEIn(トリエチルインジウム)などを用いることができる。Alの原料として、例えば、TMAl(トリメチルアルミニウム)などを用いることができる。Nの原料として、例えば、NH(アンモニア)、MMHy(モノメチルヒドラジン)及びDMHy(ジメチルヒドラジン)などを用いることができる。Siの原料としては、SiH(モノシラン)、Si(ジシラン)などを用いることができる。
【0079】
(第4の実施形態)
既に図5(b)に関して説明したように、第3参考例のウェーハ試料193において、Al含有窒化物半導体層50からある程度の厚さのアンドープのGaN(i−GaN)層において、転位Dsが積層方向から折れ曲がっている。図5(b)から分かるように、Al含有窒化物半導体層50からの距離(高さ)が大きくなるに連れ、転位Dsの数が減少する。このことから、アンドープのGaN(i−GaN)層の厚さが1μm以上である場合だけでなく、例えば、300nm程度以上でも、転位Dsの減少効果が得られる。
【0080】
本実施形態に係る半導体発光素子においては、下地層10i(例えばi−GaN層)の厚さは、300nm以上とする。これにより、シリコン基板上に形成される、低転位密度で結晶品質が優れた窒化物半導体素子を提供できる。
【0081】
例えば、図2に関して説明したように、Al含有窒化物半導体層50が多層構造体53を含む場合において、下地層10i(例えばi−GaN層)の厚さは、多層構造体53に含まれる第1層51の厚さよりも厚い。例えば、多層構造体53が、Alを含む窒化物半導体を含む複数の第2層52と、複数の第2層52の間に設けられ第2層52におけるAl組成比よりも低いAl組成比を有する窒化物半導体を含む第1層51と、を含む場合、下地層10iの厚さは、第1層51の厚さよりも厚い。この場合にも、例えば、下地層10iの厚さは、第1半導体層10の厚さよりも薄い。
【0082】
第2層52は、Alを含む窒化物半導体層であり、AlN層、または、例えばAl組成比が0.95以上のAlGaN層である。
【0083】
第1層51は、GaN層、または、例えばAl組成比が0.1以下のAlGaN層である。Al含有窒化物半導体層50において、AlとGaをNとを含み、組成比が互いに異なる複数の層が設けられている場合には、Al組成比が0.1以下の領域を第1層51とする。
【0084】
なお、本願明細書において、Al組成比が低いことは、Alを実質的に含まないことを含む。例えば、第1層51には、Al組成比が低い窒化物半導体を用いることができ、第1層51には、Alを実質的に含まないGaN層を用いることができる。
【0085】
既に説明したように、第1層51には、例えば、厚さが30nmのGaN層が用いられ、第2層52には、例えば、厚さが8nmのAlN層が用いられる。この場合、下地層10iの厚さは、第1層51よりも厚く、例えば、30nmよりも厚く設定する。Al含有窒化物半導体層50の上に直接的に第1半導体層10を設けるよりも、下地層10iを設ける場合の方が、転位密度を低くでき、結晶品質を向上できる。
【0086】
また、第1層51には、例えば、厚さが300nmのGaN層が用いられ、第2層52には、例えば、厚さが12nmのAlN層が用いられる。この場合には、下地層10iの厚さは、300nmよりも厚く設定する。
【0087】
既に説明したように、第1半導体層10の厚さは、1μm以上、4μm以下であることが望ましい。第1半導体層10の厚さは、2μm以上、3μm以下であることがさらに望ましい。第1半導体層10の厚さを2μm以上にすることで、第1半導体層10において電流がより広がり、より均一な発光を得やすい。また、第1半導体層10の厚さを、3μm以下にすることで、結晶成長後の降温時のクラックをより抑制できる。
【0088】
下地層10iの厚さと第1半導体層10の厚さとの合計は、2μm以上5μm以下とすることが好ましい。下地層10iの厚さが厚いときに、転位密度をより低減できる。第1半導体層10の厚さが厚いと、第1半導体層10において電流をより広げることができる。実施形態においては、下地層10iの厚さと第1半導体層10の厚さとの合計を2μm以上とし、下地層10iの厚さを上記のように一定以上の厚さにしつつ、第1半導体層10の厚さも一定以上の厚さに維持する。これにより、転位密度の低減と、第1半導体層10における電流の広がりと、を実現できる。
【0089】
下地層10iの厚さと第1半導体層10の厚さとの合計が5μmを超えると、クラックが生じ易くなる。下地層10iの厚さと第1半導体層10の厚さとの合計が5μm以下にしつつ、下地層10iの厚さを上記のように一定以上の厚さにしつつ、第1半導体層10の厚さも一定以上の厚さに維持する。これにより、転位密度の低減と、第1半導体層10における電流の広がりと、を実現し、クラックの発生を抑制できる。
【0090】
なお、サファイア基板の上にGaN層(例えば、i−GaN層またはn−GaN層など)を結晶成長させる場合には、GaN層が厚くてもクラックは発生し難い。例えば、サファイア基板の上に、2μm〜5μmの厚さのi−GaN層を形成し、その上に3μ〜5μmの厚さのn−GaN層を形成した構成において、クラックは発生しない。このため、サファイア基板の上にGaN層を形成する場合には、クラックの発生を考慮せずに、GaN層の厚さを設定することができる。
【0091】
これに対して、Si基板上にGaN層を形成する場合には、熱膨張係数の違いに起因して、クラックが発生し易い。例えば、Si基板上にAl含有層を形成し、そのAl含有層の上にGaN層を形成する構成において、クラックが発生しないGaN層の厚さは3μm程度であると報告されている。
【0092】
本願発明者の検討においても、上記のように、GaN層の厚さ(下地層10iの厚さと第1半導体層10の厚さとの合計)を厚くすると、クラックが発生し易く、比較的良好な条件においても、クラックが実質的に発生しないGaN層の厚さの最大値は5μmである。
【0093】
このように、Si基板の上にGaN層を形成する場合には、クラックを抑制する観点での新たな制約が生じる。クラックの発生を抑制しつつ転位密度を低減するという課題は、Si基板の上に半導体発光素子を形成する場合に新たに発生する課題である。この課題は、サファイア基板の上に半導体発光素子を形成する場合には発生しない問題である。例えば、サファイア基板の上に半導体発光素子を形成する際に用いられる構成を、Si基板の上に半導体発光素子を形成する場合に適用すると、大量のクラックが発生する。さらに、メルトバックエッチングが発生する場合がある。この課題の解決のための方法は、従来報告されておらず、本願の実施形態は、この課題を解決する。
【0094】
例えば、Si基板の上にGaN層を形成する場合には、まずクラックを抑制することが先決である。クラックが発生している状態では、転位密度は、評価さえできない。このため、Si基板の上にGaN層を形成する場合には、GaN層さをできるだけ薄くしてクラックを抑制することになる。このとき、良好な電気的特性を得るためにn−GaN層の厚さは一定以上に確保することが要求される。このため、薄いGaN層の全てをn−GaN層にする。すなわち、クラックを抑制しつつ良好な電気的特性を確保しようとすると、i−GaN層を設ける構成を導入し難い。
【0095】
本願発明者の検討によると、一定の厚さ以上のi−GaN層を設けることで、クラックの抑制と良好な電気的特性の確保とを実現しつつ、転位密度を低減できることが分かった。
【0096】
なお、Si基板の上に形成されたAl含有窒化物半導体層50の上に、下地層10i(i−GaN層)を設けないで、n−GaN層を設ける構成(第2参考例)がある。この場合には、図5(a)に関して説明したように、転位Dsが多い。
このとき、Al含有窒化物半導体層50の多層構造体53のうちの、最も上の層が第1層51(例えばGaN層)である場合がある。すなわち、第1層51の上に、第2層52を設けないで、n−GaN層(第1半導体層10)を設ける構成がある。この場合には、最も上の第1層51の中において転位密度が低減する可能性がある。しかし、第1層51の厚さは薄いため、転位密度の低減は不十分である。すなわち、多層構造体53の第1層51の上に、n−GaN層を設ける構成においては、転位の低減の効果を十分に得ることは困難である。
【0097】
これに対して、実施形態においては、Al含有窒化物半導体層50に多層構造体53が設けられる場合において、下地層10iの厚さは、多層構造体53中の第1層51の厚さよりも厚く設定する。このように、実施形態においては、転位密度を低減するための独特の構成を採用する。これにより、シリコン基板上に形成される、低転位密度で結晶品質が優れた窒化物半導体素子を提供できる。
【0098】
(第5の実施形態)
図8は、第5の実施形態に係る窒化物半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。
図8に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体素子112において、Al含有窒化物半導体層50に含まれる多層構造体53は、上記の第1層51と第2層52に加え、第3層57を含む。これ以外の構成は、半導体発光素子111と同様なので説明を省略する。
【0099】
この場合も、第2層52は、Alを含む窒化物半導体を含む。第1層51は、複数の第2層52の間に設けられる。第1層51は、第2層52におけるAl組成比よりも低いAl組成比を有する窒化物半導体を含む。
【0100】
第3層57は、第2層52のそれぞれの上において、第2層52と第1層51との間に設けられ、窒化物半導体を含む。第3層57におけるAl組成比は、第1層51におけるAl組成比よりも高く、第2層52におけるAl組成比よりも低い。
第2層52には、例えば、AlNが用いられる。第1層51には、例えばGaNが用いられる。第3層57には、Alx3Ga1−x3N層(0<x3<1)が用いられる。
【0101】
第2層52におけるAl組成比は、例えば0.95以上である。第1層51におけるAl組成比は、0.1以下である。第3層57におけるAl組成比(上記のX3)は、0.1よりも高く0.95よりも低い。
【0102】
第2層52には、例えば、厚さが12nm(10nm以上14nm以下)のAlN層が用いられる。第1層51には、例えば、厚さが450nm(300nm以上600nm以下)のGaN層が用いられる。第3層57には、例えば、厚さが20nm(15nm以上25nm以下)のAl0.8Ga0.2N層が用いられる。第3層57におけるAl組成比X3は、0.7以上0.9以下でも良い。
【0103】
この場合も、下地層10iの厚さは、第1層51の厚さよりも厚く、第1半導体層10の厚さよりも薄い。これにより、低い転位密度が得られる。
【0104】
この例のように、多層構造体53中に第3層57が設けられる場合、第1層51(例えばGaN層)の数は1つでも良い。また、第1層51の数が2以上でも良い。
【0105】
本実施形態においても、下地層10iの厚さと第1半導体層10の厚さとの合計は、2μm以上5μm以下とされる。これにより、Si基板上に形成された半導体発光素子において、クラックの抑制と良好な電気的特性の確保とを実現しつつ、転位密度を低減できる。
【0106】
なお、本実施形態に係る多層構造体53は、Al含有窒化物半導体層50として、組成が傾斜した複数のAlGa1−xN(0≦x≦1)層を用いる場合に相当する。本実施形態において、第1層51と第2層52との間に設けられる第3層57において、Al組成比は一定でなく、変化しても良い。
【0107】
(第6の実施形態)
本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハは、例えば図6(a)及び図6(b)に関して説明した窒化物半導体ウェーハ120または130と同様の構成を有する。既に説明したように、下地層10iの厚さは、1μm以上に限らず、上記のように一定以上の厚さであれば、転位密度を低減することができる。
【0108】
すなわち、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハは、シリコン基板40と、シリコン基板40の上に設けられたAl含有窒化物半導体層50と、下地層10iと、機能層10sと、を備える。
【0109】
下地層10iは、Al含有窒化物半導体層50の上に設けられ、不純物濃度が低く、GaNを含む。機能層10sは、下地層10iの上に設けられる。機能層10sは、第1半導体層10を含む。第1半導体層10は、下地層10iの不純物濃度よりも高い不純物濃度を有し第1導電形のGaNを含む。下地層10iは、例えばi−GaN層であり、第1半導体層10は、n−GaN層である。
【0110】
Al含有窒化物半導体層50は、Alを含む窒化物半導体を含む複数の第2層52と、複数の第2層52の間に設けられ第2層52におけるAl組成比よりも低いAl組成比を有する窒化物半導体を含む第1層51と、を含む。第1層51におけるAl組成比は、例えば0.1以下である。下地層10iの厚さは、第1層51の厚さよりも厚く、第1半導体層10の厚さよりも薄い。これにより、シリコン基板上を用いた、低転位密度で結晶品質が優れた窒化物半導体ウェーハが提供できる。
【0111】
既に説明したように、実施形態に係る窒化物半導体ウェーハにおいて、下地層10iの厚さは、300nmよりも厚いことが好ましい。これにより、転位密度を十分に低減できる。下地層10iの厚さは、1μm以上であることがさらに好ましい。これにより、転位密度をさらに低減できる。
【0112】
本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハにおいて、下地層10iの厚さと第1半導体層10の厚さとの合計は、2μm以上5μm以下であることが好ましい。これにより、転位密度の低減と、第1半導体層10における電流の広がりと、を実現し、クラックの発生を抑制できる。
【0113】
図9は、第6の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの構成を例示する模式的断面図である。
図9に表したように、本実施形態に係る1つの例の窒化物半導体ウェーハ131においては、多層構造体53は、第3層57をさらに含む。第3層57は、第2層のそれぞれの上において、第2層52と第1層51との間に設けられ、窒化物半導体を含む。第3層57におけるAl組成比は、第1層51におけるAl組成比よりも高く、第2層52におけるAl組成比よりも低い。第2層52には、例えば、AlNが用いられる。第1層51には、例えばGaNが用いられる。第3層57には、Alx3Ga1−x3N層(0<x3<1)が用いられる。
【0114】
窒化物半導体ウェーハ131においても、シリコン基板上を用いた、低転位密度で結晶品質が優れた窒化物半導体ウェーハを提供できる。この例のように、多層構造体53中に第3層57が設けられる場合、第1層51(例えばGaN層)の数は1つでも良い。また、第1層51の数が2以上でも良い。
【0115】
本実施形態においても、下地層10iにおける不純物濃度は、1×1017cm−3以下である。
【0116】
本実施形態においても、Al含有窒化物半導体層50は、シリコン基板40と多層構造体53との間に設けられAlNを含むバッファ層55と、バッファ層55と多層構造体53との間に設けられAlGaNを含む中間層54と、をさらに含むことができる。
【0117】
(第7の実施形態)
本実施形態は、窒化物半導体層の製造方法に係る。既に説明したように、下地層10iの厚さは、1μm以上に限らない。本実施形態に係る製造方法の全体の工程の順番は、図7に関して説明した通りである。
【0118】
本製造方法においては、シリコン基板40の上に、多層構造体53を含むAl含有窒化物半導体層50を形成する(ステップS110)。この工程において、多層構造体53は、Alを含む窒化物半導体を含む複数の第2層52と、複数の第2層52の間に設けられ第2層52におけるAl組成比よりも低いAl組成比を有する窒化物半導体を含む第1層51と、を含む。
【0119】
本製造方法においては、Al含有窒化物半導体層50の上に、下地層10iを形成する(ステップS120)。下地層10iは、不純物濃度が低く、第1層51の厚さよりも厚く、GaNを含む。
【0120】
本製造方法においては、下地層の上に、機能層10sを形成する(ステップS130)。機能層10sは、第1半導体層10を含む。第1半導体層10は、下地層10iの不純物濃度よりも高い不純物濃度を有し、下地層10iの厚さよりも厚く、第1導電形のGaNを含む。
【0121】
これにより、シリコン基板上に、低転位密度で結晶品質が優れた窒化物半導体層を製造することができる。
【0122】
実施形態によれば、シリコン基板上に形成される、低転位密度で結晶品質が優れた窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法が提供できる。
【0123】
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、BInAlGa1−x−y−zN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,x+y+z≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むもの、導電形などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
【0124】
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれは良い。
【0125】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、窒化物半導体素子及びウェーハに含まれる基板、Al含有窒化物半導体層、下地層、半導体層、発光部及び機能層などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0126】
その他、本発明の実施の形態として上述した窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0127】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0128】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0129】
10…第1半導体層、 10i…下地層、 10s…機能層、 20…第2半導体層、 30…発光部、 31…障壁層、 32…井戸層、 40…シリコン基板、 50…Al含有窒化物半導体層、 51…第1層、 52…第2層、 53…多層構造体、 54…中間層、 55…バッファ層、57…第3層、 110、111、112…窒化物半導体素子、 120、130、131…窒化物半導体ウェーハ、 191…窒化物半導体素子、 192、193…ウェーハ試料、DS…転位、 BL…障壁層、 WL…井戸層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の上に形成されたAl含有窒化物半導体層の上に形成され、不純物濃度が低く、GaNを含む下地層と、
前記下地層の上に設けられた機能層であって、前記下地層の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有し第1導電形のGaNを含む第1半導体層を含む機能層と、
を備え、
前記Al含有窒化物半導体層は、Alを含む窒化物半導体を含む複数の第2層と、前記複数の第2層の間に設けられ前記第2層におけるAl組成比よりも低いAl組成比を有する窒化物半導体を含む第1層と、を含む多層構造体を含み、
前記下地層の厚さは、前記第1層の厚さよりも厚く、前記第1半導体層の厚さよりも薄い窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記下地層の厚さは300ナノメートルよりも厚い請求項1記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記下地層の厚さは1マイクロメートル以上である請求項1記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記下地層の厚さと前記第1半導体層の厚さとの合計は、2マイクロメートル以上5マイクロメートル以下である請求項1〜3のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記第1層におけるAl組成比は0.1以下である請求項1〜4のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記多層構造体は、前記第2層のそれぞれの上において、前記第2層と前記第1層との間に設けられ窒化物半導体を含む第3層をさらに含み、
前記第3層におけるAl組成比は、前記第1層における前記Al組成比よりも高く前記第2層における前記Al組成比よりも低い請求項1〜5のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記下地層における不純物濃度は、1×1017cm−3以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記機能層は、
前記第1半導体層の上に設けられ、複数の障壁層と、前記複数の障壁層どうしの間に設けられた井戸層と、を含む発光部と、
前記発光部の上に設けられ、窒化物半導体を含み、前記第1導電形とは異なる第2導電形の第2半導体層と、
をさらに含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項9】
シリコン基板と、
前記シリコン基板の上に設けられたAl含有窒化物半導体層と、
前記Al含有窒化物半導体層の上に設けられ、不純物濃度が低く、GaNを含む下地層と、
前記下地層の上に設けられた機能層であって、前記下地層の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有し第1導電形のGaNを含む第1半導体層を含む機能層と、
を備え、
前記Al含有窒化物半導体層は、Alを含む窒化物半導体を含む複数の第2層と、前記複数の第2層の間に設けられ前記第2層におけるAl組成比よりも低いAl組成比を有する窒化物半導体を含む第1層と、を含む多層構造体を含み、
前記下地層の厚さは、前記第1層の厚さよりも厚く、前記第1半導体層の厚さよりも薄い窒化物半導体ウェーハ。
【請求項10】
前記下地層の厚さは、300ナノメートルよりも厚い請求項9記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項11】
前記下地層の厚さは、1マイクロメートル以上である請求項9記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項12】
前記下地層の厚さと前記第1半導体層の厚さとの合計は、2マイクロメートル以上5マイクロメートル以下である請求項9〜11のいずれか1つに記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項13】
前記第1層におけるAl組成比は0.1以下である請求項9〜12のいずれか1つに記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項14】
前記多層構造体は、前記第2層のそれぞれの上において、前記第2層と前記第1層との間に設けられ窒化物半導体を含む第3層をさらに含み、
前記第3層におけるAl組成比は、前記第1層における前記Al組成比よりも高く前記第2層における前記Al組成比よりも低い請求項9〜13のいずれか1つに記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項15】
前記下地層における不純物濃度は、1×1017cm−3以下である請求項9〜14のいずれか1つに記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項16】
前記Al含有窒化物半導体層は、
前記シリコン基板と前記多層構造体との間に設けられAlNを含むバッファ層と、
前記バッファ層と前記多層構造体との間に設けられAlGaNを含む中間層と、
をさらに含む請求項9〜15のいずれか1つに記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項17】
シリコン基板の上に、Alを含む窒化物半導体を含む複数の第2層と、前記複数の第2層の間に設けられ前記第2層におけるAl組成比よりも低いAl組成比を有する窒化物半導体を含む第1層と、を含む多層構造体を含むAl含有窒化物半導体層を形成し、
前記Al含有窒化物半導体層の上に、不純物濃度が低く、前記第1層の厚さよりも厚く、GaNを含む下地層を形成し、
前記下地層の上に、前記下地層の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有し、前記下地層の厚さよりも厚い第1導電形のGaNを含む第1半導体層を含む機能層を形成することを特徴とする窒化物半導体層の製造方法。
【請求項18】
前記下地層の厚さは、300ナノメートルよりも厚い請求項17記載の窒化物半導体層の製造方法。
【請求項19】
前記下地層の厚さは、1マイクロメートル以上である請求項17記載の窒化物半導体層の製造方法。
【請求項20】
前記下地層の厚さと前記第1半導体層の厚さとの合計は、2マイクロメートル以上5マイクロメートル以下である請求項17〜19のいずれか1つに記載の窒化物半導体層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−256833(P2012−256833A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−6068(P2012−6068)
【出願日】平成24年1月16日(2012.1.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】