窒化物半導体紫外線発光素子
【課題】 In組成変調効果に頼らず活性層に発生する内部電界を緩和して発光効率の低下を抑制した窒化物半導体紫外線発光素子を提供する。
【解決手段】 基板面或いは前記基板面上に形成された1層以上のAlGaN系半導体層からなるテンプレート5上に、少なくとも、n型AlGaN系半導体からなるn型クラッド層6、1層以上の量子井戸構造のAlGaN系半導体の活性層7、及び、p型AlGaN系半導体からなるp型クラッド層9が、順番に配置されており、活性層7の少なくとも1層の井戸層7b内部に、p型クラッド層9側からn型クラッド層6に向けてバンドギャップエネルギが減少するようにAl組成比に対する組成変調が設けられている。
【解決手段】 基板面或いは前記基板面上に形成された1層以上のAlGaN系半導体層からなるテンプレート5上に、少なくとも、n型AlGaN系半導体からなるn型クラッド層6、1層以上の量子井戸構造のAlGaN系半導体の活性層7、及び、p型AlGaN系半導体からなるp型クラッド層9が、順番に配置されており、活性層7の少なくとも1層の井戸層7b内部に、p型クラッド層9側からn型クラッド層6に向けてバンドギャップエネルギが減少するようにAl組成比に対する組成変調が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード、レーザダイオード等に利用される窒化物半導体発光素子に関し、特に、発光中心波長が400nm以下の窒化物半導体紫外線発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、GaN系窒化物半導体はGaNや比較的Al組成比(AlNモル分率)の低いAlGaN層をベースとして、その上に多層構造から成る発光素子や受光素子が作製されている(例えば、非特許文献1参照)。図14に、典型的な従来のGaN系発光ダイオードの結晶層構造を示す。図14に示す発光ダイオードは、サファイア基板101上に、AlNからなる下地層102を形成し、周期的な溝構造をフォトリソグラフィと反応性イオンエッチングで形成した後に、ELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)−AlN層103を、テンプレートとして形成し、当該ELO−AlNテンプレート103上に、膜厚2μmのn型AlGaNのn型クラッド層104、AlGaN/GaN多重量子井戸活性層105、Al組成比が多重量子井戸活性層105より高い膜厚が20nmのp型AlGaNの電子ブロック層106、膜厚が50nmのp型AlGaNのp型クラッド層107、膜厚が20nmのp型GaNのコンタクト層108を順番に積層した積層構造を有している。多重量子井戸活性層105は、膜厚2nmのGaN井戸層を膜厚8nmのAlGaNバリア層で挟んだ構造を5層積層した構造を有している。結晶成長後、n型クラッド層104の一部表面が露出するまで、その上の多重量子井戸活性層105、電子ブロック層106、p型クラッド層107、及び、コンタクト層108をエッチング除去し、コンタクト層108の表面に、例えば、Ni/Auのp−電極109が、露出したn型クラッド層104の表面に、例えば、Ti/Al/Ti/Auのn−電極110が夫々形成されている。GaN井戸層をAlGaN井戸層として、Al組成比や膜厚を変化させることにより発光波長の短波長化を行い、或いは、Inを添加することで発光波長の長波長化を行い、波長200nmから400nm程度の紫外領域の発光ダイオードが作製できる。半導体レーザについても類似の構成で作製可能である。
【0003】
ところで、窒化物半導体は、ウルツ鉱型の結晶構造を有しc軸方向に非対称性を有するため、強い極性を有し、自発分極による電界がc軸方向に発生する。また、窒化物半導体は、圧電効果の大きい材料であり、例えばサファイア基板上にc軸方向に成長させたGaN系半導体では、結晶の最表面が窒素面となり、基板面に平行な方向に圧縮歪みが加わり、界面の法線方向に圧電分極による電界(ピエゾ電界)が発生する。ここで、上記c軸方向に結晶成長を行い、上述の積層構造を有する発光ダイオードを作製する場合を考えると、量子井戸活性層の井戸層内には、井戸層とバリア層のヘテロ界面の両側での自発分極の差による電界と圧縮歪みによるピエゾ電界が同じc軸方向に沿って合成された内部電界が発生する。GaN系窒化物半導体では、この内部電界によって、図15に示すように、活性層の井戸層内では価電子帯も伝導帯もポテンシャルがn型クラッド層側からp型クラッド層側に向けて下降する。この結果、井戸層内において、電子はp型クラッド層側に偏って分布し、正孔(ホール)はn型クラッド層側に偏って分布することになるため、電子と正孔が空間的に分離され、再結合が阻害されるため、発光効率(内部量子効率)が低下する。
【0004】
上述の量子井戸活性層の井戸層内に発生する内部電界による発光効率の低下を緩和するため、AlGaN系窒化物半導体にIn(インジウム)を数%程度以上添加して4元混晶とすることで、結晶成長行程でIn組成がnmオーダーで不均一に分布する組成の揺らぎが自然発生的に生じる効果(In組成変調効果)を利用する方法がある(下記非特許文献2参照)。量子井戸活性層をInAlGaN4元混晶とすることで、上記In組成変調効果により、電子と正孔の捕獲されやすいエネルギポテンシャルの低い領域(In濃度の高い部位)が不均一に分散して生じ、上記内部電界の存在にも拘らず、発光効率の著しい低下が生じないことが知られている。
【0005】
【非特許文献1】Kentaro Nagamatsu,etal.,“High−efficiency AlGaN−based UV light−emitting diode on laterally overgrown AlN”,Journal of Crystal Growth,2008,310,pp.2326−2329
【非特許文献2】“殺菌用途に最適な深紫外光を10mWで発する高出力発光ダイオード登場”、[online]、独立行政法人 理化学研究所、松下電工株式会社、[平成20年9月5日検索]、インターネット<URL:http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2008/080704/detail.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発光中心波長が400nm以下の窒化物半導体紫外線発光素子の場合、量子井戸活性層にInを数%程度以上添加すると、Alの組成比を高くしてInAlGaN4元混晶とする必要がある。一般に4元混晶は3元混晶に比べて結晶の安定成長が困難であることが知られている。これは、InNの結晶成長温度が800℃以下であるのに対し、GaNの結晶成長温度が1000〜1100℃、AlGaNの結晶成長温度が1050〜1200℃と高温となるため、Inを添加することで、結晶成長が不安定となるためである。
【0007】
また、上記の如く、Inが存在することで、InAlGaNの結晶成長温度を低下させる必要があるが、活性層の上層に形成する電子ブロック層の成長温度が高温であるため、量子井戸活性層においてInの分解が生じ、結果として、Inを添加したことの効果が十分に発揮されなくなる。これを防止するために、Inの分解を防ぐためのGaNまたはAlGaN層(キャップ層と呼ばれる)を量子井戸活性層と電子ブロック層の間に設けることが必要となる。このキャップ層は高抵抗であるため、キャップ層での電圧降下を補償するために印加電圧が高電圧化し、却って発光効率が低下することになり好ましくない。
【0008】
以上より、量子井戸活性層をInAlGaN4元混晶とした場合、結晶成長が不安定となる問題、及び、Inの分解の問題があるため、安定した製造(量産)を考えた場合、上述の内部電界に起因する発光効率の低下を、In組成変調効果に頼らず解決する必要がある。
【0009】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、In組成変調効果に頼らず活性層に発生する内部電界を緩和して発光効率の低下を抑制した窒化物半導体紫外線発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子は、基板面或いは前記基板面上に形成された1層以上のAlGaN系半導体層からなるテンプレート上に、少なくとも、n型AlGaN系半導体からなるn型クラッド層、単一または多重量子井戸構造のAlGaN系半導体の活性層、及び、p型AlGaN系半導体からなるp型クラッド層が、順番に配置されており、前記活性層の少なくとも1層の井戸層内部に、前記p型クラッド層側から前記n型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが減少するようにAl組成比に対する組成変調が設けられていることを特徴とする。
【0011】
更に、上記第1の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記活性層が3層以下の量子井戸構造であることが好ましい。
【0012】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記活性層が2層以上の多重量子井戸構造である場合、少なくとも前記p型クラッド層に最も近い井戸層に、前記組成変調が設けられていることが好ましい。
【0013】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記活性層と前記p型クラッド層の間に、前記活性層と前記p型クラッド層よりAl組成比が高いp型AlGaN系半導体からなる電子ブロック層が配置されていることが好ましい。
【0014】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記電子ブロック層に、前記p型クラッド層側から前記n型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが増加するようにAl組成比に対する組成変調が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、活性層の井戸層内において価電子帯と伝導帯の両側でp型クラッド層側に向けて下降しているポテンシャルの傾斜が、伝導帯側で緩和され、価電子帯側でより急峻となる。この結果、n型クラッド層側から活性層内に注入される電子は、活性層の井戸層内において、p型クラッド層側に局在することが緩和され分散するため、活性層の井戸層内においてn型クラッド層側に局在する正孔との再結合が生じ易くなり、内部量子効率の改善が図られる。結果として、量子井戸活性層をInAlGaN4元混晶とすることなく、内部電界に起因する発光効率の低下を抑制できる。
【0016】
尚、本発明の効果は、InAlGaN4元混晶の場合にも発揮されるため、InAlGaN4元混晶においても有効である。例えば、In組成比が小さく、上述のIn組成変調効果が小さい場合において、内部電界緩和の有効な手段となる。
【0017】
ところで、電子と正孔では電子の方が高移動度であるため、活性層の井戸層内においては、n型クラッド層側から注入される電子の方が、p型クラッド層側から注入される正孔より潤沢に存在する。つまり、潤沢に存在する電子が分散することで、正孔との効率的な再結合が促進される。
【0018】
これに対し、上記特徴とは逆に、p型クラッド層側から前記n型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが増大するようにAl組成比に対する組成変調を設けると、活性層の井戸層内において価電子帯と伝導帯の両側でp型クラッド層側に向けて下降しているポテンシャルの傾斜が、伝導帯側でより急峻となり、価電子帯側で緩和される。そうすると、潤沢に存在する電子が局在化し、数量的に少ない正孔が分散してしまうため、再結合に供される正孔数が減少して、内部量子効率が却って低下することになる。
【0019】
また、上述の如く、活性層の井戸層内では電子の方が潤沢に存在し、高移動度であるため、電子と正孔の再結合は、p型クラッド層に近い活性層において活発に生じることになり、活性層を4層以上の量子井戸構造としても、発光に関与する井戸層は、p型クラッド層に近い3層程度となる。従って、活性層を3層以下の量子井戸構造とすることで、井戸層内にAl組成比の組成変調を設ける効果が十分に発揮されることになる。また、その場合に、p型クラッド層に最も近い井戸層に、Al組成比の組成変調を設けることで、内部電界の抑制効果がより良く発揮されることになる。
【0020】
尚、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、活性層とp型クラッド層の間に、活性層とp型クラッド層よりAl組成比が高いp型AlGaN系半導体からなる電子ブロック層が配置されることで、n型クラッド層側から注入される電子に対して電子ブロック層がエネルギ障壁となって、活性層に注入された電子が、p型クラッド層側にオーバーフローするのを抑制して、それに起因して発光効率が低下するのを防止できる。
【0021】
ここで、上記電子ブロック層は、活性層に注入された電子がp型クラッド層側にオーバーフローするのを効果的に抑制するが、一方において、電子のオーバーフローを抑制するために、活性層よりAl組成比を高くしてバンドギャップエネルギを大きくする必要があるが、発光中心波長の短波長化によって、電子ブロック層のAl組成比も高くなるため、その分、p型不純物の活性化が困難となり、高いアクセプタ濃度が得られずに高抵抗化するため、電子ブロック層での電圧降下によって閾値電圧が増加して発光効率の低下を招くことになる。
【0022】
そこで、電子ブロック層に、p型クラッド層側からn型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが増加するようにAl組成比に対する組成変調を設けることで、電子のオーバーフローを抑制しつつ、正孔の活性層内への注入効率を高めることが可能となり、電子ブロック層の高抵抗化の影響を緩和して、発光効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子(以下、適宜「本発明素子」と称する)の実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
【0024】
〈第1実施形態〉
本発明素子の構造及び製造方法の一例につき、本発明素子が発光ダイオードの場合を想定して説明する。
【0025】
図1に示すように、本発明素子1は、サファイア基板2上、周期的な溝構造をフォトリソグラフィと反応性イオンエッチングでAlNからなる下地層3を形成した後、ELO−AlN層4を成長させた基板をテンプレート5として用い、当該テンプレート5上に、膜厚2μmのn型AlGaNからなるn型クラッド層6、多重量子井戸活性層7、Al組成比が多重量子井戸活性層105より高い膜厚20nmのp型AlGaNの電子ブロック層8、膜厚50nmのp型AlGaNのp型クラッド層9、膜厚20nmのp型GaNのコンタクト層10を順番に積層した積層構造を有している。n型クラッド層6より上部の多重量子井戸活性層7、電子ブロック層8、p型クラッド層9、コンタクト層10の一部が、n型クラッド層6の一部表面が露出するまで反応性イオンエッチング等により除去され、コンタクト層10の表面に、例えば、Ni/Auのp−電極11(アノード電極)が、露出したn型クラッド層6の表面に、例えば、Ti/Al/Ti/Auのn−電極12(カソード電極)が形成されている。尚、図1に示す素子構造は、図14に示す従来の発光ダイオードの素子構造と、多重量子井戸活性層7の内部構造を除き同じである。従って、本発明素子1は、多重量子井戸活性層7の内部構造に特徴がある。
【0026】
本実施形態の多重量子井戸活性層7は、図2に示すように、AlGaNからなるバリア層7aと、Al組成比(AlNモル分率)がバリア層7aのAl組成比を超えない範囲で積層方向に沿って変調されたAlGaNからなる井戸層7bを交互に積層し、井戸層7bがバリア層7aに挟まれた多重量子井戸構造となっている。より具体的には、バリア層7aは、膜厚8.5nm、Al組成比35%のAlGaNからなり、井戸層7bは、膜厚3nmで、図3に示すように、電子ブロック層8側(p型クラッド層9側)の端面からn型クラッド層6側の端面に向けてバンドギャップエネルギが単調減少するようにAl組成比に対する組成変調が設けられている。例えば、井戸層7bのAl組成比は、n型クラッド層6側の端面で0〜5%(0%の場合はGaN)、そこから単調増加して、電子ブロック層8側の端面で5〜15%程度に至る。この結果、井戸層7b内において価電子帯と伝導帯でn型クラッド層側からp型クラッド層側に向けて下降するポテンシャルの傾斜(図15参照)が、伝導帯では緩和され、価電子帯側ではより急峻となる。しかし、伝導帯でポテンシャルの傾斜が緩和することで、井戸層7b内での電子の空間的な分布が広範となり、Al組成比に対する組成変調が無い場合(図15参照)と比べて、電子と正孔の再結合が阻害されにくくなり、発光効率(内部量子効率)が改善される。尚、井戸層7bの層数は特に限定されないが、後述するように3層以下が好ましい。また、バリア層7aの膜厚とAl組成比、及び、井戸層7bの膜厚とAl組成比の変調範囲(上限値と下限値)は、発光波長(発光中心波長)に応じて適宜設定を変更すれば良い。
【0027】
n型クラッド層6のn型AlGaN及びp型クラッド層9のp型AlGaNは、各Al組成比が、バンドギャップエネルギが多重量子井戸活性層7のバンドギャップエネルギより高くなるように設定され、例えば、15%〜20%程度に設定される。
【0028】
電子ブロック層8は、多重量子井戸活性層7からp型クラッド層9へのキャリアオーバーフローを抑制するために設けられており、そのバンドギャップエネルギは、多重量子井戸活性層7及びp型クラッド層9のバンドギャップエネルギより高くなるように、Al組成比が設定され、例えば、35%程度に設定される。
【0029】
本発明素子1は、上述のように、多重量子井戸活性層7の内部構造、つまり、井戸層7bを構成するAlGaNに対してAl組成比の組成変調を施している点に特徴があるため、本発明素子1の製造方法は、多重量子井戸活性層7の井戸層7bの形成工程以外は、従来のAlGaN系の発光ダイオードの製造方法と同じであり、公知のテンプレート5の作製方法、及び、AlGaNの成膜方法を用いて製造できる。
【0030】
以下、本発明素子1の製造方法について説明する。先ず、例えば上記非特許文献1に開示される公知の製法により作製されたテンプレート5上に、減圧型の有機金属化合物気相成長(MOVPE)法、或いは、分子線エピタキシ(MBE)法により、n型クラッド層6、多重量子井戸活性層7、電子ブロック層8、p型クラッド層9、及び、コンタクト層10を連続的に成長させる。尚、上記非特許文献1では、多重量子井戸活性層7のバリア層にSiドーピングを行い、量子井戸内の内部電界を緩和させる処置が施されているが、本実施形態では、井戸層7b内のAl組成比の組成変調によりその必要性がないため、Siドーピングは行わない。
【0031】
多重量子井戸活性層7の井戸層7b内のAl組成比の組成変調は、MOVPE法の場合、AlGaNを構成する各組成の原料ガスの供給流量比を制御することで行われるが、AlGaN膜の成長速度を0.1μm/h以下に抑えることで、制御性を高めることができる。例えば、90nm/hの成長速度で、膜厚3nmの井戸層7bを成長させる場合、1層の井戸層7bの成長時間は2分となる。流量制御に用いる質量制御流量計の応答時間が約3秒であるのに対し、上記成長時間が2分と十分長いので、組成変調の制御が可能である。尚、井戸層7b内のAl組成比の組成変調は、MBE法の場合、フラックス強度比を制御することで行われる。
【0032】
次に、多重量子井戸活性層7の井戸層7bに組成変調を施した本発明素子1と、多重量子井戸活性層7の井戸層7bに組成変調を施していない従来の発光ダイオードとの発光特性の比較を、発光特性のシミュレーション結果に基づいて行う。
【0033】
図4及び図5に、井戸層7bがGaNの従来の発光ダイオードと、井戸層7bのAl組成比が、n型クラッド層6側の端面から電子ブロック層8側の端面に向けて、5%〜10%、2.5%〜12.5%、0%〜15%の3通りで夫々線形的に単調増加する3種類の本発明素子1の発光強度(単位:1/(cm2・s・nm))の周波数特性と、内部量子効率と順方向印加電圧(単位:V)間の特性を示す。図中、従来の発光ダイオード(井戸層7bのAl組成比が7.5%)の特性曲線を破線で示し、3種類の本発明素子1の特性曲線に、夫々、Al組成比の増分に応じて、5%、10%、15%の標識を付して区別している。尚、3種類の本発明素子1と従来の発光ダイオードは、相互の比較を容易にするため、何れも井戸層7bのAl組成比の平均値が7.5%と共通になっている。
【0034】
更に、図6及び図7に、比較例として、井戸層7bのAl組成比の組成変調を逆方向に施した、即ち、井戸層7bのAl組成比が、電子ブロック層8側の端面からn型クラッド層6側の端面に向けて、5%〜10%、2.5%〜12.5%、0%〜15%の3通りで夫々線形的に単調増加する3種類の比較サンプルと、従来の発光ダイオード(井戸層7bのAl組成比が7.5%)の発光強度(単位:1/(cm2・s・nm))の周波数特性と、内部量子効率と順方向印加電圧(単位:V)間の特性を示す。図中、従来の発光ダイオードの特性曲線を破線で示し、3種類の比較サンプルの特性曲線に、夫々、Al組成比の増分に応じて、△5%、△10%、△15%の標識を付して区別している。
【0035】
尚、上記各シミュレーションでは、井戸層7b以外の各層の膜厚及びAlN組成比は、図1〜図3に示す素子構造について説明した値を用い、井戸層7bの層数は3とし、全ての井戸層7bに対して同じ組成変調を施している。また、発光強度のシミュレーションでは、多重量子井戸活性層7を流れる電流の電流密度Jを一定値(50A/cm2)とした。
【0036】
図4及び図5のシミュレーション結果より明らかなように、AlN組成比の増分が5%〜15%の組成変調で、発光強度及び内部量子効率の何れもが、従来の発光ダイオードより改善されていることが分かる。また、組成変調によるAlN組成比の増分を大きくすることで改善効果が大きくなることが分かる。また、図4より、AlN組成比の平均値を7.5%に統一したので、AlN組成比の増分に関係なく発光中心波長が同じであることが分かる。
【0037】
一方、図6及び図7のシミュレーション結果より明らかなように、井戸層7bのAl組成比の組成変調を逆方向に施した比較サンプルでは、AlN組成比の増分が大きい程、発光強度が従来の発光ダイオードより低下しており、内部量子効率は一部の順方向印加電圧範囲(3V〜4V)で改善されているものの、4V以上の高電圧側では逆に内部量子効率が低下しており、順方向印加電圧に対する電圧依存性が高くなっている。従って、組成変調を逆方向に施した比較サンプルでは、本発明素子1と同様の改善効果は得られないことが分かる。また、上記比較サンプルでは、AlN組成比の平均値を7.5%に統一したにも拘わらず、AlN組成比の増分を大きくすると、発光中心波長が高波長側にシフトしており、発光波長の低波長化が阻害される。
【0038】
次に、多重量子井戸活性層7の複数の井戸層7bの内のAl組成比の組成変調を施す井戸層7bの数及び位置について検討した結果について、図8〜図11を参照して説明する。図8は、井戸層7bの層数が3の場合において、組成変調を施す井戸層7bの数が0〜3における内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を示す。組成変調を施す井戸層7bの数が0は、従来の発光ダイオードを表している。組成変調を施す井戸層7bの数は、電子ブロック層8側の井戸層7bから順次1ずつ増加している。図9は、井戸層7bの層数が3の場合において、組成変調を施す1つの井戸層7bの位置が、電子ブロック層8側から1番目、2番目、3番目の場合における内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を示す。また、図9に、従来の発光ダイオードの特性曲線(破線で表示)を参考例として表示している。図10は、井戸層7bの数が1〜4の場合において、全ての井戸層7bに組成変調を施した場合の、内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を示す。図11は、井戸層7bの数が4で、全ての井戸層7bに組成変調を施した場合の、電子ブロック層8側から1番目、2番目、3番目、4番目の各井戸層7bからの発光強度、及び、多重量子井戸活性層7全体からの発光強度の周波数特性を示している。図11中の数字1〜4は、各井戸層7bの電子ブロック層8側からの順番を示している。尚、図8〜図11の各シミュレーション結果において、Al組成比の組成変調は、n型クラッド層6側の端面から電子ブロック層8側の端面に向けて、0%から15%に線形的に単調増加する場合を想定している。また、他の条件は、図5に示す同特性のシミュレーションと同じであり、重複する説明は割愛する。
【0039】
図8のシミュレーション結果より、組成変調を施す井戸層7bの数が大きい程、内部量子効率が向上すること、更に、組成変調を施す井戸層7bの数が1の場合でも、組成変調を施す効果のあることが分かる。また、図9のシミュレーション結果より、組成変調を施す井戸層7bの位置は、電子ブロック層8側、つまり、p型クラッド層9側に近い方が内部量子効率の改善効果が大きいことが分かる。また、図8及び図9の結果より、井戸層7bが複数で、全ての井戸層7bに組成変調を施す場合に、組成変調の程度を、p型クラッド層9側に近い方が大きくなるように井戸層7bの位置に応じて変化させても構わない。この場合、組成変調を施した複数の井戸層7bの平均のAl組成比を井戸層7b間で等しく設定するのが好ましい。
【0040】
また、図10のシミュレーション結果より、組成変調を施す井戸層7bの数は3以下で十分であることが分かる。更に、図10のシミュレーション結果より、組成変調を施す井戸層7bの数は2以上が好ましいことが分かる。しかし、図8のシミュレーション結果の井戸層7bの数が3で組成変調を施さない場合と比較すると、順方向印加電圧が4.8V以下では、井戸層7bの数が1で組成変調を施した場合の方が、内部量子効率が高いことが分かる。これより、井戸層7bの数が1、つまり、単一量子井戸構造であっても組成変調を施す効果のあることが分かる。
【0041】
更に、図11のシミュレーション結果より、井戸層7bが4層の場合の各層の発光強度の分布が、p型クラッド層9側に近い方の3層に集中して、p型クラッド層9側から4番目の井戸層7bの発光強度の分布が、他の3層と比べて非常に小さいことが分かる。この結果からも、井戸層7bの数は4層を越えて増やす必要のないことが分かる。
【0042】
以上、図8〜図11のシミュレーション結果より、活性層の構造は、多重量子井戸構造が好ましが、単一量子井戸構造であっても良いこと、井戸層7bの層数を4以上に増やしても組成変調を施す効果は大きくは増加しないこと、及び、多重量子井戸構造の場合では、組成変調を施す井戸層7bは1層でも効果があり、特に、p型クラッド層9に近い側が最も効果が大きいことが明らかになった。
【0043】
〈第2実施形態〉
次に、本発明素子の第2実施形態について、本発明素子が発光ダイオードの場合を想定して説明する。第1実施形態では、多重量子井戸活性層7の井戸層7bに対してAl組成比の組成変調を施し、キャリアオーバーフローを抑制するためも電子ブロック層8のAl組成比は、その膜厚内で一定であった。これに対し、第2実施形態では、電子ブロック層8に対してもAl組成比の組成変調を施している。具体的には、p型クラッド層9側の端面から多重量子井戸活性層7側の端面に向けてバンドギャップエネルギが増加するようにAl組成比に対する組成変調が設けられている。例えば、電子ブロック層8のAl組成比は、p型クラッド層9側の端面で20%、そこから単調増加して、多重量子井戸活性層7側の端面で50%程度に至る。尚、Al組成比の平均値は、組成変調を施さない場合と同じ値になるように設定している。電子ブロック層8のAl組成比が組成変調されている点を除いて第1実施形態と同様であるので、他の層及び製造方法についての重複する説明は割愛する。また、電子ブロック層8の組成変調は、多重量子井戸活性層7の井戸層7bの組成変調と同様の要領で行えば良い。
【0044】
次に、多重量子井戸活性層7の井戸層7bに対してAl組成比の組成変調を施した上で、更に、電子ブロック層8に対してAl組成比の組成変調を行うことの効果について検討した結果を、図12及び図13を参照して説明する。図12及び図13に、井戸層7bの層数が3で、全ての井戸層7bに組成変調を施した場合における、電子ブロック層8に対してAl組成比の組成変調を行った場合(第2実施形態)と行わない場合(第1実施形態)の本発明素子1の発光強度(単位:1/(cm2・s・nm))の周波数特性と、内部量子効率と順方向印加電圧(単位:V)間の特性を夫々示す。尚、図12及び図13の各シミュレーション結果において、井戸層7bのAl組成比の組成変調は、n型クラッド層6側の端面から電子ブロック層8側の端面に向けて、0%から15%に線形的に単調増加する場合を想定し、電子ブロック層8のAl組成比の組成変調は、20%から50%に線形的に単調増加する場合を想定している。また、他の条件は、図5に示す同特性のシミュレーションと同じであり、重複する説明は割愛する。
【0045】
図12及び図13のシミュレーション結果より、多重量子井戸活性層7の井戸層7bに対してAl組成比の組成変調に加えて、電子ブロック層8に対してAl組成比の組成変調を行うことで、内部発光効率が更に改善されることが分かる。
【0046】
以下に、別の実施形態につき説明する。
〈1〉上記第1及び第2実施形態では、本発明素子が発光ダイオードの場合を想定して説明したが、半導体レーザ(レーザダイオード)においても、同様の積層構造を有し、p−電極とn−電極間に電圧を印加することで、活性層の井戸層内に電子と正孔が注入され再結合して発光するまでの原理は同じであるので、多重量子井戸構造或いは単一量子井戸構造の活性層の井戸層のAl組成比に組成変調を施すことの効果は同様であることは明らかである。従って、本発明素子は、発光ダイオードに限定されるものではなく、半導体レーザにも適用される。
【0047】
〈2〉上記第1及び第2実施形態では、本発明素子を構成するテンプレートとして、図1に示すELO−AlNテンプレートを一例としたが、本発明素子に使用するテンプレートELO−AlNに限定されるものではない。更に、上記第1及び第2実施形態で例示した本発明素子を構成するAlGaNまたはGaNの各層の膜厚及びAl組成比は、一例であり、素子の仕様に応じて適宜変更可能である。
【0048】
〈3〉また、上記第1実施形態では、電子ブロック層8を設けることを前提としたが、電子ブロック層8は必ずしも設けなくても構わない。電子ブロック層8の有無に関係なく、多重量子井戸構造或いは単一量子井戸構造の活性層の井戸層のAl組成比に組成変調を施すことの効果は発揮される。
【0049】
〈4〉本発明素子は、量子井戸活性層を、Inを含むInAlGaN4元混晶とした場合の問題点の解消を目的としているが、In組成変調効果が十分に現れない程度の微量のInが含まれている場合においても、多重量子井戸構造或いは単一量子井戸構造の活性層の井戸層のAl組成比に組成変調を施すことの効果は同様に発揮されるため、本発明素子を構成するAlGaN系半導体層に微量のInが含まれることを除外するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子は、発光中心波長が400nm以下の発光ダイオード、レーザダイオード等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の概略の積層構造を模式的に示す断面図
【図2】図1に示す窒化物半導体紫外線発光素子の多重量子井戸活性層の断面構造を模式的に示す断面図
【図3】図1に示す窒化物半導体紫外線発光素子の多重量子井戸活性層のエネルギバンド図
【図4】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子と従来の発光ダイオードの発光強度の周波数特性を比較して示す特性図
【図5】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子と従来の発光ダイオードの内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を比較して示す特性図
【図6】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子と異なる組成変調を施した比較サンプルと従来の発光ダイオードの発光強度の周波数特性を比較して示す特性図
【図7】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子と異なる組成変調を施した比較サンプルと従来の発光ダイオードの内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を比較して示す特性図
【図8】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における井戸層の層数が3の場合における組成変調を施す井戸層の数と内部量子効率と順方向印加電圧間の特性との関係を示す図
【図9】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における組成変調を施す井戸層の位置と内部量子効率と順方向印加電圧間の特性との関係を示す図
【図10】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における全ての井戸層に組成変調を施した場合の井戸層の層数と内部量子効率と順方向印加電圧間の特性との関係を示す図
【図11】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における多重量子井戸活性層内の各井戸層からの発光強度の周波数特性を示す図
【図12】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における電子ブロック層に対してAl組成比の組成変調を行った場合と行わない場合で発光強度の周波数特性を比較して示す特性図
【図13】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における電子ブロック層に対してAl組成比の組成変調を行った場合と行わない場合で内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を比較して示す特性図
【図14】従来のGaN系発光ダイオードの結晶層構造を模式的に示す断面図
【図15】従来のGaN系発光ダイオードの活性層の井戸層内での内部電界の影響を示すエネルギバンド図
【符号の説明】
【0052】
1: 窒化物半導体紫外線発光素子
2,101: サファイア基板
3,102: 下地層(AlN)
4,103: ELO−AlN層
5: テンプレート
6,104: n型クラッド層(n型AlGaN)
7,105: 多重量子井戸活性層
7a: バリア層
7b: 井戸層
8,106: 電子ブロック層(p型AlGaN)
9,107: p型クラッド層(p型AlGaN)
10,108: コンタクト層(p型GaN)
11,109: p−電極
12,110: n−電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード、レーザダイオード等に利用される窒化物半導体発光素子に関し、特に、発光中心波長が400nm以下の窒化物半導体紫外線発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、GaN系窒化物半導体はGaNや比較的Al組成比(AlNモル分率)の低いAlGaN層をベースとして、その上に多層構造から成る発光素子や受光素子が作製されている(例えば、非特許文献1参照)。図14に、典型的な従来のGaN系発光ダイオードの結晶層構造を示す。図14に示す発光ダイオードは、サファイア基板101上に、AlNからなる下地層102を形成し、周期的な溝構造をフォトリソグラフィと反応性イオンエッチングで形成した後に、ELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)−AlN層103を、テンプレートとして形成し、当該ELO−AlNテンプレート103上に、膜厚2μmのn型AlGaNのn型クラッド層104、AlGaN/GaN多重量子井戸活性層105、Al組成比が多重量子井戸活性層105より高い膜厚が20nmのp型AlGaNの電子ブロック層106、膜厚が50nmのp型AlGaNのp型クラッド層107、膜厚が20nmのp型GaNのコンタクト層108を順番に積層した積層構造を有している。多重量子井戸活性層105は、膜厚2nmのGaN井戸層を膜厚8nmのAlGaNバリア層で挟んだ構造を5層積層した構造を有している。結晶成長後、n型クラッド層104の一部表面が露出するまで、その上の多重量子井戸活性層105、電子ブロック層106、p型クラッド層107、及び、コンタクト層108をエッチング除去し、コンタクト層108の表面に、例えば、Ni/Auのp−電極109が、露出したn型クラッド層104の表面に、例えば、Ti/Al/Ti/Auのn−電極110が夫々形成されている。GaN井戸層をAlGaN井戸層として、Al組成比や膜厚を変化させることにより発光波長の短波長化を行い、或いは、Inを添加することで発光波長の長波長化を行い、波長200nmから400nm程度の紫外領域の発光ダイオードが作製できる。半導体レーザについても類似の構成で作製可能である。
【0003】
ところで、窒化物半導体は、ウルツ鉱型の結晶構造を有しc軸方向に非対称性を有するため、強い極性を有し、自発分極による電界がc軸方向に発生する。また、窒化物半導体は、圧電効果の大きい材料であり、例えばサファイア基板上にc軸方向に成長させたGaN系半導体では、結晶の最表面が窒素面となり、基板面に平行な方向に圧縮歪みが加わり、界面の法線方向に圧電分極による電界(ピエゾ電界)が発生する。ここで、上記c軸方向に結晶成長を行い、上述の積層構造を有する発光ダイオードを作製する場合を考えると、量子井戸活性層の井戸層内には、井戸層とバリア層のヘテロ界面の両側での自発分極の差による電界と圧縮歪みによるピエゾ電界が同じc軸方向に沿って合成された内部電界が発生する。GaN系窒化物半導体では、この内部電界によって、図15に示すように、活性層の井戸層内では価電子帯も伝導帯もポテンシャルがn型クラッド層側からp型クラッド層側に向けて下降する。この結果、井戸層内において、電子はp型クラッド層側に偏って分布し、正孔(ホール)はn型クラッド層側に偏って分布することになるため、電子と正孔が空間的に分離され、再結合が阻害されるため、発光効率(内部量子効率)が低下する。
【0004】
上述の量子井戸活性層の井戸層内に発生する内部電界による発光効率の低下を緩和するため、AlGaN系窒化物半導体にIn(インジウム)を数%程度以上添加して4元混晶とすることで、結晶成長行程でIn組成がnmオーダーで不均一に分布する組成の揺らぎが自然発生的に生じる効果(In組成変調効果)を利用する方法がある(下記非特許文献2参照)。量子井戸活性層をInAlGaN4元混晶とすることで、上記In組成変調効果により、電子と正孔の捕獲されやすいエネルギポテンシャルの低い領域(In濃度の高い部位)が不均一に分散して生じ、上記内部電界の存在にも拘らず、発光効率の著しい低下が生じないことが知られている。
【0005】
【非特許文献1】Kentaro Nagamatsu,etal.,“High−efficiency AlGaN−based UV light−emitting diode on laterally overgrown AlN”,Journal of Crystal Growth,2008,310,pp.2326−2329
【非特許文献2】“殺菌用途に最適な深紫外光を10mWで発する高出力発光ダイオード登場”、[online]、独立行政法人 理化学研究所、松下電工株式会社、[平成20年9月5日検索]、インターネット<URL:http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2008/080704/detail.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発光中心波長が400nm以下の窒化物半導体紫外線発光素子の場合、量子井戸活性層にInを数%程度以上添加すると、Alの組成比を高くしてInAlGaN4元混晶とする必要がある。一般に4元混晶は3元混晶に比べて結晶の安定成長が困難であることが知られている。これは、InNの結晶成長温度が800℃以下であるのに対し、GaNの結晶成長温度が1000〜1100℃、AlGaNの結晶成長温度が1050〜1200℃と高温となるため、Inを添加することで、結晶成長が不安定となるためである。
【0007】
また、上記の如く、Inが存在することで、InAlGaNの結晶成長温度を低下させる必要があるが、活性層の上層に形成する電子ブロック層の成長温度が高温であるため、量子井戸活性層においてInの分解が生じ、結果として、Inを添加したことの効果が十分に発揮されなくなる。これを防止するために、Inの分解を防ぐためのGaNまたはAlGaN層(キャップ層と呼ばれる)を量子井戸活性層と電子ブロック層の間に設けることが必要となる。このキャップ層は高抵抗であるため、キャップ層での電圧降下を補償するために印加電圧が高電圧化し、却って発光効率が低下することになり好ましくない。
【0008】
以上より、量子井戸活性層をInAlGaN4元混晶とした場合、結晶成長が不安定となる問題、及び、Inの分解の問題があるため、安定した製造(量産)を考えた場合、上述の内部電界に起因する発光効率の低下を、In組成変調効果に頼らず解決する必要がある。
【0009】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、In組成変調効果に頼らず活性層に発生する内部電界を緩和して発光効率の低下を抑制した窒化物半導体紫外線発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子は、基板面或いは前記基板面上に形成された1層以上のAlGaN系半導体層からなるテンプレート上に、少なくとも、n型AlGaN系半導体からなるn型クラッド層、単一または多重量子井戸構造のAlGaN系半導体の活性層、及び、p型AlGaN系半導体からなるp型クラッド層が、順番に配置されており、前記活性層の少なくとも1層の井戸層内部に、前記p型クラッド層側から前記n型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが減少するようにAl組成比に対する組成変調が設けられていることを特徴とする。
【0011】
更に、上記第1の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記活性層が3層以下の量子井戸構造であることが好ましい。
【0012】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記活性層が2層以上の多重量子井戸構造である場合、少なくとも前記p型クラッド層に最も近い井戸層に、前記組成変調が設けられていることが好ましい。
【0013】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記活性層と前記p型クラッド層の間に、前記活性層と前記p型クラッド層よりAl組成比が高いp型AlGaN系半導体からなる電子ブロック層が配置されていることが好ましい。
【0014】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記電子ブロック層に、前記p型クラッド層側から前記n型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが増加するようにAl組成比に対する組成変調が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、活性層の井戸層内において価電子帯と伝導帯の両側でp型クラッド層側に向けて下降しているポテンシャルの傾斜が、伝導帯側で緩和され、価電子帯側でより急峻となる。この結果、n型クラッド層側から活性層内に注入される電子は、活性層の井戸層内において、p型クラッド層側に局在することが緩和され分散するため、活性層の井戸層内においてn型クラッド層側に局在する正孔との再結合が生じ易くなり、内部量子効率の改善が図られる。結果として、量子井戸活性層をInAlGaN4元混晶とすることなく、内部電界に起因する発光効率の低下を抑制できる。
【0016】
尚、本発明の効果は、InAlGaN4元混晶の場合にも発揮されるため、InAlGaN4元混晶においても有効である。例えば、In組成比が小さく、上述のIn組成変調効果が小さい場合において、内部電界緩和の有効な手段となる。
【0017】
ところで、電子と正孔では電子の方が高移動度であるため、活性層の井戸層内においては、n型クラッド層側から注入される電子の方が、p型クラッド層側から注入される正孔より潤沢に存在する。つまり、潤沢に存在する電子が分散することで、正孔との効率的な再結合が促進される。
【0018】
これに対し、上記特徴とは逆に、p型クラッド層側から前記n型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが増大するようにAl組成比に対する組成変調を設けると、活性層の井戸層内において価電子帯と伝導帯の両側でp型クラッド層側に向けて下降しているポテンシャルの傾斜が、伝導帯側でより急峻となり、価電子帯側で緩和される。そうすると、潤沢に存在する電子が局在化し、数量的に少ない正孔が分散してしまうため、再結合に供される正孔数が減少して、内部量子効率が却って低下することになる。
【0019】
また、上述の如く、活性層の井戸層内では電子の方が潤沢に存在し、高移動度であるため、電子と正孔の再結合は、p型クラッド層に近い活性層において活発に生じることになり、活性層を4層以上の量子井戸構造としても、発光に関与する井戸層は、p型クラッド層に近い3層程度となる。従って、活性層を3層以下の量子井戸構造とすることで、井戸層内にAl組成比の組成変調を設ける効果が十分に発揮されることになる。また、その場合に、p型クラッド層に最も近い井戸層に、Al組成比の組成変調を設けることで、内部電界の抑制効果がより良く発揮されることになる。
【0020】
尚、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、活性層とp型クラッド層の間に、活性層とp型クラッド層よりAl組成比が高いp型AlGaN系半導体からなる電子ブロック層が配置されることで、n型クラッド層側から注入される電子に対して電子ブロック層がエネルギ障壁となって、活性層に注入された電子が、p型クラッド層側にオーバーフローするのを抑制して、それに起因して発光効率が低下するのを防止できる。
【0021】
ここで、上記電子ブロック層は、活性層に注入された電子がp型クラッド層側にオーバーフローするのを効果的に抑制するが、一方において、電子のオーバーフローを抑制するために、活性層よりAl組成比を高くしてバンドギャップエネルギを大きくする必要があるが、発光中心波長の短波長化によって、電子ブロック層のAl組成比も高くなるため、その分、p型不純物の活性化が困難となり、高いアクセプタ濃度が得られずに高抵抗化するため、電子ブロック層での電圧降下によって閾値電圧が増加して発光効率の低下を招くことになる。
【0022】
そこで、電子ブロック層に、p型クラッド層側からn型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが増加するようにAl組成比に対する組成変調を設けることで、電子のオーバーフローを抑制しつつ、正孔の活性層内への注入効率を高めることが可能となり、電子ブロック層の高抵抗化の影響を緩和して、発光効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子(以下、適宜「本発明素子」と称する)の実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
【0024】
〈第1実施形態〉
本発明素子の構造及び製造方法の一例につき、本発明素子が発光ダイオードの場合を想定して説明する。
【0025】
図1に示すように、本発明素子1は、サファイア基板2上、周期的な溝構造をフォトリソグラフィと反応性イオンエッチングでAlNからなる下地層3を形成した後、ELO−AlN層4を成長させた基板をテンプレート5として用い、当該テンプレート5上に、膜厚2μmのn型AlGaNからなるn型クラッド層6、多重量子井戸活性層7、Al組成比が多重量子井戸活性層105より高い膜厚20nmのp型AlGaNの電子ブロック層8、膜厚50nmのp型AlGaNのp型クラッド層9、膜厚20nmのp型GaNのコンタクト層10を順番に積層した積層構造を有している。n型クラッド層6より上部の多重量子井戸活性層7、電子ブロック層8、p型クラッド層9、コンタクト層10の一部が、n型クラッド層6の一部表面が露出するまで反応性イオンエッチング等により除去され、コンタクト層10の表面に、例えば、Ni/Auのp−電極11(アノード電極)が、露出したn型クラッド層6の表面に、例えば、Ti/Al/Ti/Auのn−電極12(カソード電極)が形成されている。尚、図1に示す素子構造は、図14に示す従来の発光ダイオードの素子構造と、多重量子井戸活性層7の内部構造を除き同じである。従って、本発明素子1は、多重量子井戸活性層7の内部構造に特徴がある。
【0026】
本実施形態の多重量子井戸活性層7は、図2に示すように、AlGaNからなるバリア層7aと、Al組成比(AlNモル分率)がバリア層7aのAl組成比を超えない範囲で積層方向に沿って変調されたAlGaNからなる井戸層7bを交互に積層し、井戸層7bがバリア層7aに挟まれた多重量子井戸構造となっている。より具体的には、バリア層7aは、膜厚8.5nm、Al組成比35%のAlGaNからなり、井戸層7bは、膜厚3nmで、図3に示すように、電子ブロック層8側(p型クラッド層9側)の端面からn型クラッド層6側の端面に向けてバンドギャップエネルギが単調減少するようにAl組成比に対する組成変調が設けられている。例えば、井戸層7bのAl組成比は、n型クラッド層6側の端面で0〜5%(0%の場合はGaN)、そこから単調増加して、電子ブロック層8側の端面で5〜15%程度に至る。この結果、井戸層7b内において価電子帯と伝導帯でn型クラッド層側からp型クラッド層側に向けて下降するポテンシャルの傾斜(図15参照)が、伝導帯では緩和され、価電子帯側ではより急峻となる。しかし、伝導帯でポテンシャルの傾斜が緩和することで、井戸層7b内での電子の空間的な分布が広範となり、Al組成比に対する組成変調が無い場合(図15参照)と比べて、電子と正孔の再結合が阻害されにくくなり、発光効率(内部量子効率)が改善される。尚、井戸層7bの層数は特に限定されないが、後述するように3層以下が好ましい。また、バリア層7aの膜厚とAl組成比、及び、井戸層7bの膜厚とAl組成比の変調範囲(上限値と下限値)は、発光波長(発光中心波長)に応じて適宜設定を変更すれば良い。
【0027】
n型クラッド層6のn型AlGaN及びp型クラッド層9のp型AlGaNは、各Al組成比が、バンドギャップエネルギが多重量子井戸活性層7のバンドギャップエネルギより高くなるように設定され、例えば、15%〜20%程度に設定される。
【0028】
電子ブロック層8は、多重量子井戸活性層7からp型クラッド層9へのキャリアオーバーフローを抑制するために設けられており、そのバンドギャップエネルギは、多重量子井戸活性層7及びp型クラッド層9のバンドギャップエネルギより高くなるように、Al組成比が設定され、例えば、35%程度に設定される。
【0029】
本発明素子1は、上述のように、多重量子井戸活性層7の内部構造、つまり、井戸層7bを構成するAlGaNに対してAl組成比の組成変調を施している点に特徴があるため、本発明素子1の製造方法は、多重量子井戸活性層7の井戸層7bの形成工程以外は、従来のAlGaN系の発光ダイオードの製造方法と同じであり、公知のテンプレート5の作製方法、及び、AlGaNの成膜方法を用いて製造できる。
【0030】
以下、本発明素子1の製造方法について説明する。先ず、例えば上記非特許文献1に開示される公知の製法により作製されたテンプレート5上に、減圧型の有機金属化合物気相成長(MOVPE)法、或いは、分子線エピタキシ(MBE)法により、n型クラッド層6、多重量子井戸活性層7、電子ブロック層8、p型クラッド層9、及び、コンタクト層10を連続的に成長させる。尚、上記非特許文献1では、多重量子井戸活性層7のバリア層にSiドーピングを行い、量子井戸内の内部電界を緩和させる処置が施されているが、本実施形態では、井戸層7b内のAl組成比の組成変調によりその必要性がないため、Siドーピングは行わない。
【0031】
多重量子井戸活性層7の井戸層7b内のAl組成比の組成変調は、MOVPE法の場合、AlGaNを構成する各組成の原料ガスの供給流量比を制御することで行われるが、AlGaN膜の成長速度を0.1μm/h以下に抑えることで、制御性を高めることができる。例えば、90nm/hの成長速度で、膜厚3nmの井戸層7bを成長させる場合、1層の井戸層7bの成長時間は2分となる。流量制御に用いる質量制御流量計の応答時間が約3秒であるのに対し、上記成長時間が2分と十分長いので、組成変調の制御が可能である。尚、井戸層7b内のAl組成比の組成変調は、MBE法の場合、フラックス強度比を制御することで行われる。
【0032】
次に、多重量子井戸活性層7の井戸層7bに組成変調を施した本発明素子1と、多重量子井戸活性層7の井戸層7bに組成変調を施していない従来の発光ダイオードとの発光特性の比較を、発光特性のシミュレーション結果に基づいて行う。
【0033】
図4及び図5に、井戸層7bがGaNの従来の発光ダイオードと、井戸層7bのAl組成比が、n型クラッド層6側の端面から電子ブロック層8側の端面に向けて、5%〜10%、2.5%〜12.5%、0%〜15%の3通りで夫々線形的に単調増加する3種類の本発明素子1の発光強度(単位:1/(cm2・s・nm))の周波数特性と、内部量子効率と順方向印加電圧(単位:V)間の特性を示す。図中、従来の発光ダイオード(井戸層7bのAl組成比が7.5%)の特性曲線を破線で示し、3種類の本発明素子1の特性曲線に、夫々、Al組成比の増分に応じて、5%、10%、15%の標識を付して区別している。尚、3種類の本発明素子1と従来の発光ダイオードは、相互の比較を容易にするため、何れも井戸層7bのAl組成比の平均値が7.5%と共通になっている。
【0034】
更に、図6及び図7に、比較例として、井戸層7bのAl組成比の組成変調を逆方向に施した、即ち、井戸層7bのAl組成比が、電子ブロック層8側の端面からn型クラッド層6側の端面に向けて、5%〜10%、2.5%〜12.5%、0%〜15%の3通りで夫々線形的に単調増加する3種類の比較サンプルと、従来の発光ダイオード(井戸層7bのAl組成比が7.5%)の発光強度(単位:1/(cm2・s・nm))の周波数特性と、内部量子効率と順方向印加電圧(単位:V)間の特性を示す。図中、従来の発光ダイオードの特性曲線を破線で示し、3種類の比較サンプルの特性曲線に、夫々、Al組成比の増分に応じて、△5%、△10%、△15%の標識を付して区別している。
【0035】
尚、上記各シミュレーションでは、井戸層7b以外の各層の膜厚及びAlN組成比は、図1〜図3に示す素子構造について説明した値を用い、井戸層7bの層数は3とし、全ての井戸層7bに対して同じ組成変調を施している。また、発光強度のシミュレーションでは、多重量子井戸活性層7を流れる電流の電流密度Jを一定値(50A/cm2)とした。
【0036】
図4及び図5のシミュレーション結果より明らかなように、AlN組成比の増分が5%〜15%の組成変調で、発光強度及び内部量子効率の何れもが、従来の発光ダイオードより改善されていることが分かる。また、組成変調によるAlN組成比の増分を大きくすることで改善効果が大きくなることが分かる。また、図4より、AlN組成比の平均値を7.5%に統一したので、AlN組成比の増分に関係なく発光中心波長が同じであることが分かる。
【0037】
一方、図6及び図7のシミュレーション結果より明らかなように、井戸層7bのAl組成比の組成変調を逆方向に施した比較サンプルでは、AlN組成比の増分が大きい程、発光強度が従来の発光ダイオードより低下しており、内部量子効率は一部の順方向印加電圧範囲(3V〜4V)で改善されているものの、4V以上の高電圧側では逆に内部量子効率が低下しており、順方向印加電圧に対する電圧依存性が高くなっている。従って、組成変調を逆方向に施した比較サンプルでは、本発明素子1と同様の改善効果は得られないことが分かる。また、上記比較サンプルでは、AlN組成比の平均値を7.5%に統一したにも拘わらず、AlN組成比の増分を大きくすると、発光中心波長が高波長側にシフトしており、発光波長の低波長化が阻害される。
【0038】
次に、多重量子井戸活性層7の複数の井戸層7bの内のAl組成比の組成変調を施す井戸層7bの数及び位置について検討した結果について、図8〜図11を参照して説明する。図8は、井戸層7bの層数が3の場合において、組成変調を施す井戸層7bの数が0〜3における内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を示す。組成変調を施す井戸層7bの数が0は、従来の発光ダイオードを表している。組成変調を施す井戸層7bの数は、電子ブロック層8側の井戸層7bから順次1ずつ増加している。図9は、井戸層7bの層数が3の場合において、組成変調を施す1つの井戸層7bの位置が、電子ブロック層8側から1番目、2番目、3番目の場合における内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を示す。また、図9に、従来の発光ダイオードの特性曲線(破線で表示)を参考例として表示している。図10は、井戸層7bの数が1〜4の場合において、全ての井戸層7bに組成変調を施した場合の、内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を示す。図11は、井戸層7bの数が4で、全ての井戸層7bに組成変調を施した場合の、電子ブロック層8側から1番目、2番目、3番目、4番目の各井戸層7bからの発光強度、及び、多重量子井戸活性層7全体からの発光強度の周波数特性を示している。図11中の数字1〜4は、各井戸層7bの電子ブロック層8側からの順番を示している。尚、図8〜図11の各シミュレーション結果において、Al組成比の組成変調は、n型クラッド層6側の端面から電子ブロック層8側の端面に向けて、0%から15%に線形的に単調増加する場合を想定している。また、他の条件は、図5に示す同特性のシミュレーションと同じであり、重複する説明は割愛する。
【0039】
図8のシミュレーション結果より、組成変調を施す井戸層7bの数が大きい程、内部量子効率が向上すること、更に、組成変調を施す井戸層7bの数が1の場合でも、組成変調を施す効果のあることが分かる。また、図9のシミュレーション結果より、組成変調を施す井戸層7bの位置は、電子ブロック層8側、つまり、p型クラッド層9側に近い方が内部量子効率の改善効果が大きいことが分かる。また、図8及び図9の結果より、井戸層7bが複数で、全ての井戸層7bに組成変調を施す場合に、組成変調の程度を、p型クラッド層9側に近い方が大きくなるように井戸層7bの位置に応じて変化させても構わない。この場合、組成変調を施した複数の井戸層7bの平均のAl組成比を井戸層7b間で等しく設定するのが好ましい。
【0040】
また、図10のシミュレーション結果より、組成変調を施す井戸層7bの数は3以下で十分であることが分かる。更に、図10のシミュレーション結果より、組成変調を施す井戸層7bの数は2以上が好ましいことが分かる。しかし、図8のシミュレーション結果の井戸層7bの数が3で組成変調を施さない場合と比較すると、順方向印加電圧が4.8V以下では、井戸層7bの数が1で組成変調を施した場合の方が、内部量子効率が高いことが分かる。これより、井戸層7bの数が1、つまり、単一量子井戸構造であっても組成変調を施す効果のあることが分かる。
【0041】
更に、図11のシミュレーション結果より、井戸層7bが4層の場合の各層の発光強度の分布が、p型クラッド層9側に近い方の3層に集中して、p型クラッド層9側から4番目の井戸層7bの発光強度の分布が、他の3層と比べて非常に小さいことが分かる。この結果からも、井戸層7bの数は4層を越えて増やす必要のないことが分かる。
【0042】
以上、図8〜図11のシミュレーション結果より、活性層の構造は、多重量子井戸構造が好ましが、単一量子井戸構造であっても良いこと、井戸層7bの層数を4以上に増やしても組成変調を施す効果は大きくは増加しないこと、及び、多重量子井戸構造の場合では、組成変調を施す井戸層7bは1層でも効果があり、特に、p型クラッド層9に近い側が最も効果が大きいことが明らかになった。
【0043】
〈第2実施形態〉
次に、本発明素子の第2実施形態について、本発明素子が発光ダイオードの場合を想定して説明する。第1実施形態では、多重量子井戸活性層7の井戸層7bに対してAl組成比の組成変調を施し、キャリアオーバーフローを抑制するためも電子ブロック層8のAl組成比は、その膜厚内で一定であった。これに対し、第2実施形態では、電子ブロック層8に対してもAl組成比の組成変調を施している。具体的には、p型クラッド層9側の端面から多重量子井戸活性層7側の端面に向けてバンドギャップエネルギが増加するようにAl組成比に対する組成変調が設けられている。例えば、電子ブロック層8のAl組成比は、p型クラッド層9側の端面で20%、そこから単調増加して、多重量子井戸活性層7側の端面で50%程度に至る。尚、Al組成比の平均値は、組成変調を施さない場合と同じ値になるように設定している。電子ブロック層8のAl組成比が組成変調されている点を除いて第1実施形態と同様であるので、他の層及び製造方法についての重複する説明は割愛する。また、電子ブロック層8の組成変調は、多重量子井戸活性層7の井戸層7bの組成変調と同様の要領で行えば良い。
【0044】
次に、多重量子井戸活性層7の井戸層7bに対してAl組成比の組成変調を施した上で、更に、電子ブロック層8に対してAl組成比の組成変調を行うことの効果について検討した結果を、図12及び図13を参照して説明する。図12及び図13に、井戸層7bの層数が3で、全ての井戸層7bに組成変調を施した場合における、電子ブロック層8に対してAl組成比の組成変調を行った場合(第2実施形態)と行わない場合(第1実施形態)の本発明素子1の発光強度(単位:1/(cm2・s・nm))の周波数特性と、内部量子効率と順方向印加電圧(単位:V)間の特性を夫々示す。尚、図12及び図13の各シミュレーション結果において、井戸層7bのAl組成比の組成変調は、n型クラッド層6側の端面から電子ブロック層8側の端面に向けて、0%から15%に線形的に単調増加する場合を想定し、電子ブロック層8のAl組成比の組成変調は、20%から50%に線形的に単調増加する場合を想定している。また、他の条件は、図5に示す同特性のシミュレーションと同じであり、重複する説明は割愛する。
【0045】
図12及び図13のシミュレーション結果より、多重量子井戸活性層7の井戸層7bに対してAl組成比の組成変調に加えて、電子ブロック層8に対してAl組成比の組成変調を行うことで、内部発光効率が更に改善されることが分かる。
【0046】
以下に、別の実施形態につき説明する。
〈1〉上記第1及び第2実施形態では、本発明素子が発光ダイオードの場合を想定して説明したが、半導体レーザ(レーザダイオード)においても、同様の積層構造を有し、p−電極とn−電極間に電圧を印加することで、活性層の井戸層内に電子と正孔が注入され再結合して発光するまでの原理は同じであるので、多重量子井戸構造或いは単一量子井戸構造の活性層の井戸層のAl組成比に組成変調を施すことの効果は同様であることは明らかである。従って、本発明素子は、発光ダイオードに限定されるものではなく、半導体レーザにも適用される。
【0047】
〈2〉上記第1及び第2実施形態では、本発明素子を構成するテンプレートとして、図1に示すELO−AlNテンプレートを一例としたが、本発明素子に使用するテンプレートELO−AlNに限定されるものではない。更に、上記第1及び第2実施形態で例示した本発明素子を構成するAlGaNまたはGaNの各層の膜厚及びAl組成比は、一例であり、素子の仕様に応じて適宜変更可能である。
【0048】
〈3〉また、上記第1実施形態では、電子ブロック層8を設けることを前提としたが、電子ブロック層8は必ずしも設けなくても構わない。電子ブロック層8の有無に関係なく、多重量子井戸構造或いは単一量子井戸構造の活性層の井戸層のAl組成比に組成変調を施すことの効果は発揮される。
【0049】
〈4〉本発明素子は、量子井戸活性層を、Inを含むInAlGaN4元混晶とした場合の問題点の解消を目的としているが、In組成変調効果が十分に現れない程度の微量のInが含まれている場合においても、多重量子井戸構造或いは単一量子井戸構造の活性層の井戸層のAl組成比に組成変調を施すことの効果は同様に発揮されるため、本発明素子を構成するAlGaN系半導体層に微量のInが含まれることを除外するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子は、発光中心波長が400nm以下の発光ダイオード、レーザダイオード等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の概略の積層構造を模式的に示す断面図
【図2】図1に示す窒化物半導体紫外線発光素子の多重量子井戸活性層の断面構造を模式的に示す断面図
【図3】図1に示す窒化物半導体紫外線発光素子の多重量子井戸活性層のエネルギバンド図
【図4】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子と従来の発光ダイオードの発光強度の周波数特性を比較して示す特性図
【図5】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子と従来の発光ダイオードの内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を比較して示す特性図
【図6】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子と異なる組成変調を施した比較サンプルと従来の発光ダイオードの発光強度の周波数特性を比較して示す特性図
【図7】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子と異なる組成変調を施した比較サンプルと従来の発光ダイオードの内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を比較して示す特性図
【図8】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における井戸層の層数が3の場合における組成変調を施す井戸層の数と内部量子効率と順方向印加電圧間の特性との関係を示す図
【図9】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における組成変調を施す井戸層の位置と内部量子効率と順方向印加電圧間の特性との関係を示す図
【図10】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における全ての井戸層に組成変調を施した場合の井戸層の層数と内部量子効率と順方向印加電圧間の特性との関係を示す図
【図11】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における多重量子井戸活性層内の各井戸層からの発光強度の周波数特性を示す図
【図12】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における電子ブロック層に対してAl組成比の組成変調を行った場合と行わない場合で発光強度の周波数特性を比較して示す特性図
【図13】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子における電子ブロック層に対してAl組成比の組成変調を行った場合と行わない場合で内部量子効率と順方向印加電圧間の特性を比較して示す特性図
【図14】従来のGaN系発光ダイオードの結晶層構造を模式的に示す断面図
【図15】従来のGaN系発光ダイオードの活性層の井戸層内での内部電界の影響を示すエネルギバンド図
【符号の説明】
【0052】
1: 窒化物半導体紫外線発光素子
2,101: サファイア基板
3,102: 下地層(AlN)
4,103: ELO−AlN層
5: テンプレート
6,104: n型クラッド層(n型AlGaN)
7,105: 多重量子井戸活性層
7a: バリア層
7b: 井戸層
8,106: 電子ブロック層(p型AlGaN)
9,107: p型クラッド層(p型AlGaN)
10,108: コンタクト層(p型GaN)
11,109: p−電極
12,110: n−電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面或いは前記基板面上に形成された1層以上のAlGaN系半導体層からなるテンプレート上に、少なくとも、n型AlGaN系半導体からなるn型クラッド層、単一または多重量子井戸構造のAlGaN系半導体の活性層、及び、p型AlGaN系半導体からなるp型クラッド層が、順番に配置されており、
前記活性層の少なくとも1層の井戸層内部に、前記p型クラッド層側から前記n型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが減少するようにAl組成比に対する組成変調が設けられていることを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項2】
前記活性層が3層以下の量子井戸構造であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項3】
前記活性層が2層以上の多重量子井戸構造である場合、少なくとも前記p型クラッド層に最も近い井戸層に、前記組成変調が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項4】
前記活性層と前記p型クラッド層の間に、前記活性層と前記p型クラッド層よりAl組成比が高いp型AlGaN系半導体からなる電子ブロック層が配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項5】
前記電子ブロック層に、前記p型クラッド層側から前記n型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが増加するようにAl組成比に対する組成変調が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項1】
基板面或いは前記基板面上に形成された1層以上のAlGaN系半導体層からなるテンプレート上に、少なくとも、n型AlGaN系半導体からなるn型クラッド層、単一または多重量子井戸構造のAlGaN系半導体の活性層、及び、p型AlGaN系半導体からなるp型クラッド層が、順番に配置されており、
前記活性層の少なくとも1層の井戸層内部に、前記p型クラッド層側から前記n型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが減少するようにAl組成比に対する組成変調が設けられていることを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項2】
前記活性層が3層以下の量子井戸構造であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項3】
前記活性層が2層以上の多重量子井戸構造である場合、少なくとも前記p型クラッド層に最も近い井戸層に、前記組成変調が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項4】
前記活性層と前記p型クラッド層の間に、前記活性層と前記p型クラッド層よりAl組成比が高いp型AlGaN系半導体からなる電子ブロック層が配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項5】
前記電子ブロック層に、前記p型クラッド層側から前記n型クラッド層に向けてバンドギャップエネルギが増加するようにAl組成比に対する組成変調が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−187591(P2011−187591A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49996(P2010−49996)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(306041949)創光科学株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(306041949)創光科学株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
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