説明

窒化物系III―V族化合物半導体装置の電極構造

【課題】 半導体上の膜付着力が強く、かつ温度特性が優れたショットキー電極を備えた窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造を提供する。
【解決手段】 この窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造は、電極4の材料として金属窒化物(窒化タングステン)を用いたので、半導体GaN層3への膜付着力が強く、かつ、加熱によってショットキー特性が劣化することがないショットキー電極4を得ることができた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造に関し、特に、付着強度および温度特性に優れたショットキー電極構造に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の窒化物系半導体を用いたヘテロ接合電界効果型トランジスター(以下、HFETという)は、一般的に、図8に示すような構造になっている。図8R>8に示すように、このHFETは、サファイア基板101、膜厚20nmの低温成長GaN(窒化ガリウム)バッファ層102、膜厚2μm,キャリア濃度5×1016cm-3のGaNバッファ層103が順次積層されている。このバッファ層103の上に、膜厚20nmのAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)スペーサ層104、膜厚20nm,キャリア濃度1×1018cm-3のAlGaNドナー層105、膜厚10nm,キャリア濃度2×1018cm-3のGaNコンタクト層106が順次積層されている。そして、このGaNコンタクト層106の上に、オーミック接触を用いたソース/ドレイン電極107,107と、ショットキー接合を用いたゲート電極108が形成されている。
【0003】一般的に、ゲートに用いるショットキー電極材料として、ニッケルNi(Y.‐F.Wu etal.IEEE Electron Device Lett.18(1997)290),白金Pt(W.Kruppa et al.Electronics Lett.31(1995)1951),金Au(US Patent No.5192987)といった仕事関数の大きい金属が用いられている。これらの金属は、p型半導体に対するオーミック電極材料であることから、n型半導体に対するショットキー電極材料として用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらの金属は、半導体に対する付着力が弱く、また、400℃以上の温度では漏れ電流が増大するので、HFETの特性がきわめて悪化するという問題がある。
【0005】そこで、この発明の目的は、半導体に対する膜付着力が強く、かつ温度特性が優れたショットキー電極を備えた窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の問題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下に記載する電極構造が有効であることを見出し本発明に至った。
【0007】すなわち、窒化物系III―V族化合物半導体装置において、電極材料として金属窒化物を用いることによって、半導体への膜付着力および温度特性が優れたショットキー電極を得ることができることを見出した。これは、窒化物半導体上に金属窒化物を形成することで、窒素原子を介した化学結合が形成され、従来の半導体/金属界面よりも強固な結合が形成されるからである。
【0008】したがって、請求項1の発明の窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造は、電極材料として金属窒化物を用いることを特徴としている。
【0009】この請求項1の発明では、電極材料として金属窒化物を用いたので、半導体への膜付着力が強く、かつ、温度特性が優れたショットキー電極を得ることができた。
【0010】また、請求項2の発明は、請求項1に記載の窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造において、上記金属窒化物が、Ti(チタン),Zr(ジルコン),Hf(ハフニウム),V(バナジウム),Nb(ニオブ),Ta(タンタル),Cr(クロム),Mo(モリブデン),W(タングステン)のうちの少なくとも1つの窒化物であることを特徴としている。
【0011】この請求項2の発明では、電極材料用金属窒化物中の構成金属を、窒化物系III−V族化合物半導体に適合したものにした。すなわち、上記構成金属として、IVa族に属するチタン(Ti),ジルコン(Zr),ハフニウム(Hf),Va族に属するバナジウム(V),ニオブ(Nb),タンタル(Ta),VIa族に属するクロム(Cr),モリブデン(Mo),タングステン(W)のうちの少なくとも1つを採用した。これら金属窒化物を構成する金属は、単一金属であってもよく、2種類以上の複合系金属であってもよい。これらの金属は融点が高いので、その窒化物も融点が高く、熱的に安定した材料である。したがって、優れた温度特性(耐熱性)が得られる。
【0012】なお、これらの金属窒化物を積層する方法としては、窒素ラジカルを用いた分子線エピタキシー法,反応性スパッタ法などを用いることができる。
【0013】また、請求項3の発明は、請求項1または2に記載の窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造において、上記金属窒化物の層厚が、10nm乃至200nmであることを特徴としている。
【0014】この請求項3の発明では、上記金属窒化物の層厚を10nm以上にしたから、金属膜の連続性を保つことができ、上記金属窒化物の層厚を200nm以下にしたから、GaN膜の電気的特性および結晶性を劣化させることがない。つまり、金属窒化膜の膜厚が、10nm未満であれば金属窒化膜が連続膜にならないために、特性の再現性が乏しくなる。一方、膜厚が、200nmを越えると、金属窒化膜の応力によって、GaN膜の電気的特性,結晶性が劣化する。したがって、積層された金属窒化物の膜厚は、10nm以上200nm以下であることが適当である。
【0015】また、請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造において、上記金属窒化物の上に、AuまたはAuの合金が積層されていることを特徴としている。
【0016】この請求項4の発明では、金属窒化物膜の上に、さらに、AuまたはAuの合金からなる膜を積層したから、電極用リード線のボンディングが容易になる。また、金属窒化物上に、AuまたはAuの合金を堆積することで、電極とリード線の接触抵抗を低減でき、接触部における熱の発生を小さくすることが可能となり、電極の特性が更に向上する。このようにして、膜付着力が強く、かつ温度特性が優れたショットキー電極を得ることができる。
【0017】なお、上記Auの合金としては、特に限定されるものでなく、Auよりも硬さ的に優れたものであれば良い。このAuまたはAuの合金の積層方法としては、真空蒸着法,スパッタ法などがある。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0019】〔第1の実施の形態〕図1は、この発明の第1の実施の形態である電極構造を備えた半導体装置の概要を示す。この半導体装置は、(0001)サファイア基板1、膜厚20nmの低温成長AlN(窒化アルミニウム)バッファ層2、キャリア濃度2×1018cm-3,膜厚1μmのn型GaN層3、WN(窒化タングステン)電極4が順次積層されている。
【0020】この実施形態の電極構造では、反応性スパッタ法によりWN電極4を形成した。この反応性スパッタ法のプロセスは、以下の通りである。
【0021】まず、ターゲットとしてタングステン(W)を用い、アルゴン流量および窒素流量をそれぞれ、30sccm,12sccmとして、投入電力70Wでスパッタリングした。これにより、膜厚100nmのWN(窒化タングステン)膜からなるWN電極4をn型GaN層3上に形成した。
【0022】図2に、WN(窒化タングステン)膜からなるWN電極4を堆積した後の、GaN層3のI‐V特性を示す。図2に示すように、この実施形態の電極構造によれば、立ち上がり電圧1.5V程度の良好なショットキー特性を得ることができた。
【0023】また、図3(A),(B),(C)に、アニール温度が500℃,643℃,800℃における各I‐V特性を示す。図3(A),(B),(C)に示すように、各アニール温度500℃,643℃,800℃(アニール時間は各6分間)での各I−V特性間で、何ら変化が見らなかった。すなわち、この実施形態のWN(窒化タングステン)電極構造によれば、熱に対して安定なショットキー特性を示すことが実験で確認できた。
【0024】〔第2の実施の形態〕次に、この発明の第2実施形態を説明する。この第2実施形態を備えた半導体装置は、図1に示した第1実施形態の窒化タングステン電極4を、窒化チタン電極に替えた点だけが、前述の第1実施形態を備えた半導体装置と異なる。
【0025】図4(B)に、この第2実施形態の窒化チタン電極を備えた半導体装置のn型GaN層3のI−V特性を示す。このI−V特性は、アニール前の状態で測定したものであるが、立ち上がり電圧1.2V程度の良好なショットキー特性を得ることができた。また、図5(B)に、500℃で10分間のアニールを行った後の状態で測定したI−V特性を示す。このアニール後のn型GaN層3のI−V特性においても、立ち上がり電圧1.2V程度の良好なショットキー特性が得られ、前記アニール前のI−V特性と略同じ特性であった。
【0026】一方、この実施形態に対する比較例として、上記窒化チタン(TiN)電極に替えてチタン(Ti)電極を備えた半導体装置が有するn型GaN層3のアニール前のI−V特性を、図4(A)に示し、アニール(500℃,10分間)後のI−V特性を、図5(A)に示す。n型GaN層3上に、TiNに替えて、Tiを堆積した場合、図4(A)に示すように、膜堆積後の状態では、若干オーミック特性から外れているものの、アニールすることによって、図5(A)に示すように、完全なオーミック特性が得られた。
【0027】これに対し、窒化チタン(TiN)を堆積した本実施形態では、先述のように、膜堆積後においてもアニール後においても、略同等の良好なショットキー特性を得ることができた。
【0028】その理由を次に説明する。上記比較例に対応する図6(A)に示すように、n型GaN層3上にTiを堆積してチタン(Ti)電極61を形成し、その後、アニールした場合には、図6(B)に示すように、n型GaN層3とチタン電極61との界面において、GaN/GaTiN/TiN/Tiのように、連続的に組成が変化する中間層(GaTiN)62が形成される。この連続的に組成が変化する中間層(GaTiN)62の存在により、オーミック特性になるのである。
【0029】これに対し、この第2実施形態に対応した図7(A)に示すように、n型GaN層3上にTiNを堆積しTiN(窒化チタン)電極63を形成した場合には、アニールした後にも、図7(B)に示すように、GaN/TiNの急峻な界面が維持される。このGaN/TiNの急峻な界面の存在により、良好なショットキー特性を得ることができる。
【0030】〔第3の実施の形態〕次に、この発明の第3の実施の形態の電極構造を説明する。この第3実施形態の電極構造は、図1に示すn型GaN層3の上に、窒化タングステン(WN)を100nmの厚さで堆積し、引き続きその上に、金(Au)の合金(ここではAuCr)をスパッタ法で400nm堆積したものである。この第3実施形態のように、金属窒化物(ここでは窒化タングステン)上に、Auの合金を堆積することで、電極とリード線の接触抵抗を低減でき、接触部における熱の発生を小さくすることが可能となり、電極の特性を更に向上させることができる。なお、この実施形態では、金の合金(AuCr)を窒化タングステン上に堆積させたが、金(Au)を窒化タングステン上に堆積させてもよい。
【0031】尚、上記第1,第2,第3実施形態では、金属窒化物を構成する金属としては、チタン(Ti),タングステン(W)を採用したが、Ti,Wの他に、IVa族,Va族,VIa族に属するジルコン(Zr),ハフニウム(Hf),ニオブ(Nb),タンタル(Ta),クロム(Cr),モリブデン(Mo),バナジウム(V)を採用した場合にも、上記第1〜第3実施形態と同様の効果を示す。
【0032】
【発明の効果】以上より明らかなように、請求項1の発明の窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造は、電極材料として金属窒化物を用いたので、半導体への膜付着力が強く、かつ、加熱によってショットキー特性が劣化することがないショットキー電極を得ることができた。
【0033】また、請求項2の発明は、請求項1に記載の窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造において、上記金属窒化物が、Ti(チタン),Zr(ジルコン),Hf(ハフニウム),V(バナジウム),Nb(ニオブ),Ta(タンタル),Cr(クロム),Mo(モリブデン),W(タングステン)のうちの少なくとも1つの窒化物として、電極材料用金属窒化物中の構成金属を、窒化物系III−V族化合物半導体に適合したものにした。これら金属窒化物を構成する金属は、単一金属であってもよく、2種類以上の複合系金属であってもよい。これらの金属は融点が高いので、その窒化物も融点が高く、熱的に安定した材料である。したがって、優れた温度特性(耐熱性)が得られる。
【0034】また、請求項3の発明は、請求項1または2に記載の窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造において、上記金属窒化物の層厚を10nm以上にしたから、金属膜の連続性を保つことができ、上記金属窒化物の層厚を200nm以下にしたから、GaN膜の電気的特性および結晶性を劣化させることがない。
【0035】また、請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造において、金属窒化物膜の上に、さらに、AuまたはAuの合金からなる膜を積層したから、電極用リード線のボンディングが容易になる。また、金属窒化物上に、AuまたはAuの合金を堆積することで、電極とリード線の接触抵抗を低減でき、接触部における熱の発生を小さくすることが可能となり、電極の特性が更に向上する。このようにして、膜付着力が強く、かつ、温度特性が優れたショットキー電極を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の電極構造を備えた窒化物系III−V族化合物半導体装置の断面図である。
【図2】 上記半導体装置の窒化タングステン(WN)膜のI−V特性図である。
【図3】 図3(A),(B),(C)は、アニール温度が500℃,643℃,800℃における上記半導体装置のアニール後のI−V特性図である。
【図4】 図4(A)は、第2実施形態に対する比較例におけるチタン(Ti)膜堆積後のアニール前のI−V特性図であり、図4(B)は、第2実施形態におけるTiN膜堆積後のアニール前のI−V特性である。
【図5】 図5(A)は上記比較例でのチタン(Ti)膜堆積後のアニール後のI−V特性図であり、図5(B)は、上記第2実施形態でのTiN膜堆積後のアニール後のI−V特性である。
【図6】 図6(A)は、上記比較例でのチタン(Ti)膜堆積後のアニール前の金属/半導体界面構造を示す図であり、図6(B)は、チタン(Ti)膜堆積後のアニール後の金属/半導体界面構造を示す図である。
【図7】 図7(A)は、上記第2実施形態での窒化チタン(TiN)膜堆積後のアニール前の金属/半導体界面構造を示す図であり、図7(B)は窒化チタン(TiN)膜堆積後のアニール後の金属/半導体界面構造を示す図である。
【図8】 HFETの構造を示す図である。
【符号の説明】
1…(0001)サファイア基板、2…低温成長AlNバッファ層、3…n型GaN層、4…WN電極、63…TiN電極、101…サファイア基板、102…低温成長GaNバッファ層、103…GaNバッファ層、104…AlGaNスペーサ層、105…AlGaNドナー層、106…GaNコンタクト層、107…ソース/ドレイン電極、108…ゲート電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 電極材料として金属窒化物を用いることを特徴とする窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造。
【請求項2】 請求項1に記載の窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造において、上記金属窒化物が、Ti(チタン),Zr(ジルコン),Hf(ハフニウム),V(バナジウム),Nb(ニオブ),Ta(タンタル),Cr(クロム),Mo(モリブデン),W(タングステン)のうちの少なくとも1つの窒化物であることを特徴とする窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造。
【請求項3】 請求項1または2に記載の窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造において、上記金属窒化物の層厚が、10nm乃至200nmであることを特徴とする窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれか1つに記載の窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造において、上記金属窒化物の上に、AuまたはAuの合金が積層されていることを特徴とする窒化物系III−V族化合物半導体装置の電極構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2000−196109(P2000−196109A)
【公開日】平成12年7月14日(2000.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−373477
【出願日】平成10年12月28日(1998.12.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】