説明

窒化物結晶の形成方法

AlN、InGaN、AlGaInN、InGaNおよびAlGaNInNの1つから選択される窒化物結晶および結晶組成物を成長させる方法が提供される。この組成物は、単一の核から成長し、直径が少なくとも1mmであり、横歪みおよび傾斜境界がなく、約10cm−2未満の転位密度を有する真の単結晶を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年10月8日に本出願の発明者等によって出願された「Method for Forming Nitride Crystals」と題する仮特許出願第60/828,646号の優先権を主張するものである。
技術分野
本発明は、電子デバイスで使用される高品質窒化物結晶を成長させる方法に関する。特に、本発明は、AlN、InGaN、AlGaInN、InGaNおよびAlGaNInNの1つから選択される窒化物結晶および結晶組成物を成長させる方法に関する。この組成物は、単一の核から成長し、直径が少なくとも1mmであり、横歪みおよび傾斜境界がなく、約10cm−2未満の転位密度を有する真の単結晶を含む。
【背景技術】
【0002】
高品質窒化ガリウム(GaN)結晶を成長させる様々な方法が世界中の研究所で開発されている。しかし、AlNおよびInNなどのその他の窒化物結晶は、UV−LED、UV光検出器および電界効果トランジスタなどの用途の基板として非常に有用ではあるが、現在は入手可能な状態にはない。AlN(6.2eV)のバンドギャップはGaN(3.4eV)よりはるかに大きく、これは深UV光エミッターおよび検出器用のえり抜きの基板になる。さらに、その熱伝導率はGaNより著しく高く、AlNは、電界効果トランジスタ(高電子移動度トランジスタとしても知られている)などのある種の電子デバイス用の基板として優れている可能性がある。InNは、任意の既知の窒化物のうち最高の電子速度を有しており、高周波デバイスに有用である可能性がある。
【0003】
GaN以外の窒化物結晶の成長には多くの先行技術があるが、そのどれもが約5kbar以上の圧力では超臨界溶媒を使用していない。以下の条件を同時に必要とする点で、既存の手法はどれもまだ商業ベースにのっていない:(i)従来のシリコンおよびガリウムヒ素基板のように、スライスしてウェハを作るのに適した大きな(直径≧2インチ)単結晶ブールを製造すること;(ii)低濃度の不純物と転位および狭いX線ロッキングカーブとを特徴とする高品質の結晶を製造すること;ならびに(iii)適当なコストで製造するのに十分速い成長速度。
【0004】
今までに成長させた結晶の中でおそらく最大のものをもたらしたバルクAlN成長は、Slack and McNelly[J.Cryst.Growth 34,263(1976)および42,560(1977)]によって初めて開示された昇華−再凝縮である。しかし、この技術は、非常に高温(約2250℃)を必要とし、るつぼとの接触(応力および汚染を引き起こす恐れがある)を含んでおり、かなりの濃度の転位、小角度結晶粒界、および多結晶領域を有する結晶を生成する傾向がある。数人の著者、とりわけ、Peters[J.Cryst.Growth 104,411(1990)]、Kolis等[Mater.Res.Soc.Symp.Proc.495,367(1998)]、Dwilinski等[Diamond Relat.Mater.7,1348(1998)]、およびDemazeau等[High Pressure Research 18,227(2000)]が、超臨界アンモニア中での小さなAlN結晶の成長を開示している。しかし、これら後者の手法は、利用可能な装置(オートクレーブ)の型によって、最大圧力は2〜5kbarに、かつ最高温度は400〜600℃に限定され、ミクロンサイズ範囲の結晶が生成しており、また、成長速度は非常に低かった。Ca[米国特許第3,450,499号]またはNaA1F[RB Campbell等、Technical Report AFAPL−TR−67−23(1967)]などの液体フラックス中でのAlN成長も報告されているが、それぞれのケースにおいて、生成した結晶は1mm以下であった。
【0005】
InNの単結晶成長は、我々の知る限り、いかなる方法による報告もなされていない。本発明者等は、超臨界アンモニア中で高品質GaN結晶を成長させる複数の方法を開示している。しかし、AlNの成長へこれらの方法を直接的に適用することは成功しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】仮特許出願第60/828,646号
【特許文献2】米国特許第3,450,499号
【特許文献3】米国特許出願第09/683659号
【特許文献4】米国特許出願第11/313451号
【特許文献5】米国特許出願第09/683658号
【特許文献6】米国特許出願第60/435,189号
【特許文献7】米国特許出願第10/329,981号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Slack and McNelly[J.Cryst.Growth 34,263(1976)および42,560(1977)]
【非特許文献2】Peters[J.Cryst.Growth 104,411(1990)]
【非特許文献3】Kolis等[Mater.Res.Soc.Symp.Proc.495,367(1998)]
【非特許文献4】Dwilinski等[Diamond Relat.Mater.7,1348(1998)]
【非特許文献5】Demazeau等[High Pressure Research 18,227(2000)]
【非特許文献6】RB Campbell等、Technical Report AFAPL−TR−67−23(1967)
【非特許文献7】Ranade等、J.Phys.Chem.B 104,4060(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
AlおよびInは両方ともGaより親酸素性であり、本発明者等は、超臨界アンモニア中での結晶成長を成功させるためには、原料の酸化物含量率の低下が必要であることを見出した。
【0009】
本明細書では、高品質窒化物結晶を調製するための技術が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、本発明は、結晶組成物を成長させるために、1重量パーセント未満の酸素を含む原料物質を準備すること、鉱化剤を準備すること、必要に応じて1つまたは複数の種晶を準備すること、カプセルを準備すること、前記カプセルにアンモニアなどの窒素含有溶媒を充填すること、超臨界流体中の前記カプセルおよび内容物を、約550℃より高い温度および約2kbarより高い圧力で処理することを含む窒化物結晶の成長方法に関する。
【0011】
別の態様では、本発明は、直径が少なくとも1mmの単一の核から成長した単結晶を含み、横歪みおよび傾斜境界がなく、約10cm−2未満の転位密度を有する窒化物結晶であって、InGaN、AlGaInN、InGaN、AlGaNInN、およびAlNからなる群から選択される窒化物結晶に関する。
【0012】
本発明は、例えば発光ダイオード、レーザーダイオード、光検出器、アバランシェ光検出器、電界効果トランジスタ、バイポーラ接合トランジスタ、サイリスタなどのホモエピタキシャルデバイスの作製に使用するための高品質窒化物結晶、例えば、単一の核から成長し、直径が少なくとも1mmであり、横歪みおよび傾斜境界がなく、約10cm−2未満の転位密度を有する真の窒化アルミニウム単結晶を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書では、それが関連する基本的機能を変えることなく変化できる任意の量的表現を修飾するために、近似的用語を用いることができる。したがって、「約」および「実質的に」などの1つまたは複数の用語で修飾された値は、ある場合には、指定された厳密な値に限定されることはない。
【0014】
以下の議論では、AlN結晶の成長方法について具体的に説明する。しかし、この方法は、InNおよびAlGa1−x−yInN(0≦x,y,x+y≦1)を含む様々な他の窒化物の成長に適用可能である。以下の議論では、AlNまたは窒化アルミニウムの言及には、アルミニウム含有窒化物またはAlGa1−x−yInN(0≦x,y,x+y≦1)への言及も含まれていることも理解されたい。いくつかの実施形態では、窒化物結晶において、xまたはyの少なくとも1つは0.05、0.10、0.20、または0.50より大きい。
【0015】
本発明は、カプセルに原料A1Nおよび適切な鉱化剤を準備すること、液化アンモニアまたは他の窒素含有溶媒を充填すること、密閉すること、高圧および高温(HPHT)で処理すること、これにより形成されたAlN結晶とを含む。窒化アルミニウム結晶は、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチレンジアミン、メラミンまたは他の窒素含有流体を含むがこれらに限定されない超臨界流体中での再結晶によって成長される。好ましい実施形態では、温度勾配により、セルの一領域から別の領域へ再結晶が起こる。原料物質は単結晶または多結晶AlNを含むことができる。単結晶または多結晶AlNは、当技術分野で公知の多くの方法によって成長させることができる。本発明の一実施形態によれば、他の形態のAlN、例えば、AlGa1−x−yInN(0≦x,y,x+y≦1であり、xまたはyの少なくとも1つは0より大きい)、AlGa1−x−yInN(0≦x,y,x+y≦1であり、xまたはyの少なくとも1つは0.05より大きい)、AlGa1−x−yInN(0≦x,y,x+y≦1であり、xまたはyの少なくとも1つは0.10より大きい)、AlGa1−x−yInN(0≦x,y,x+y≦1であり、xまたはyの少なくとも1つは0.20より大きい)、またはAlGa1−x−yInN(0≦x,y,x+y≦1であり、xまたはyの少なくとも1つは0.50より大きい)も使用することができる。
【0016】
別の実施形態によれば、さらに他の形態のAlNとしては、無定形のAlNまたはAl金属もしくはAl化合物などのAlN前駆体が挙げられる。しかし、温度勾配を有する実施形態では、原料AlNは、カプセルの原料領域を結晶成長領域から分離するバッフルの開口部を通り抜けないように、大きさが十分大きい1つまたは複数の粒子を含むことが重要である。さらに、本発明者等は、非GaN窒化物の成長を成功させるには、原料物質の酸化物含量率が約1重量パーセント未満であるべきであることを見出した。
【0017】
核生成は、種晶なしでまたは炭化ケイ素などの非AlN種晶を用いて、セルの結晶成長部分上で誘発することができる。しかし、このプロセスは、AlN種晶を準備すると制御がより簡単である。種晶は、直径が1mmより大きいこと、および高品質である(傾斜境界がなく、転位密度が約10cm−2未満、好ましくは約10cm−2未満である)ことが好ましい。様々な型のAlN種晶を準備することができるが、これらには、サファイアまたはSiCなどの非AlN基板上のエピタキシャルAlN層、HVPEまたはMOCVDで成長させた自立型AlN膜、昇華/再凝縮で成長させたAlN結晶、あるいは前の試験において超臨界流体中で成長させた結晶が含まれる。
【0018】
系(原料、容器)中の酸素の存在は、窒化物のアモノサーマル成長に有害である。例えば、いくつかのグループは、アモノサーマル成長GaNに、1018cm−3を上回る、1019cm−3を上回る、さらに1020cm−3をも上回る酸素含量を観察した。しかし、酸素の役割は、AlNおよびInNの両方の成長の場合はGaNの場合よりはるかに有害であることが理解されていなかったようである。表1に示すように、純物質の生成自由エネルギーから、アンモニアがIII族金属窒化物をどの程度容易に還元できるか大雑把に評価することができる。
【0019】
表1.選択された酸化−還元反応の反応自由エネルギーΔG°(kJ/mol)。データはI.Barinからのものであり、GaNの生成エンタルピー[Ranade等、J.Phys.Chem.B 104,4060(2000)]を補正してある。
【0020】
【表1】

【0021】
およそ900K以上の温度で、アンモニアは、酸化ガリウムを窒化ガリウムに容易に還元することができる。これは、大量の酸素または酸化物が原料中にある場合でも、GaNをアモノサーマルに成長させることができるという観察と定性的に一致している。しかし、アンモニアは、これらのどの温度でも酸化アルミニウムまたは酸化インジウムのいずれをも容易には還元しない。この結果は、所与の反応タイプの熱力学は、通常は周期律表の列を下がるにつれて(Al−Ga−In)単調に変わるという観念からは驚くべきことである。したがって、原料の酸素含量が1%未満になると、あるいはさらに酸素含量が0.1%未満、0.01%未満、0.001%(10ppm)未満、または1ppm未満でも改善された結果が得られる。
【0022】
一実施形態では、原料物質および1つまたは複数の種晶を使用する場合は、多孔性バッフルで少なくとも2つの領域に分割された圧力容器またはカプセルに配置する。典型的なカプセルはD’Evelyn等によって記述されている。2002年1月31日に出願された米国特許出願第09/683659号を参照されたい。バッフルとしては、その中に複数個の穴を有するプレート、または金属織物を挙げることができる。バッフルの開口面積率は、1%〜50%、好ましくは約5%〜約25%である。原料物質から1つもしくは複数の種晶または1つもしくは複数の成長している結晶への栄養物質の輸送は、自己対流が流体を撹拌するようにカプセルの冷たい部分が暖かい部分の上にある場合、超臨界流体中で最適化される。多くの溶媒中で、GaNの溶解度は温度と共に上昇する。この場合、原料物質をカプセルの底部に配置するべきであり、1つもしくは複数の種晶をカプセルの上部に配置するべきである。1つもしくは複数の種晶は、容器の壁または他の材料からの干渉が最小限の状態で全方向に結晶成長できるように、種晶にあけた穴を通して、ワイヤーでつるすことが好ましい。しかし、いくつかの溶媒の場合には、GaNの溶解度は温度と共に低下する。この場合、1つもしくは複数の種晶をカプセル下部に配置するべきであり、原料物質をカプセル上部に配置すべきである。原料物質は、直接バッフル上に配置するのではなくバッフル上方の多孔性バスケットに配置することが好ましい。何故ならば、直接配置は、バッフルを介した流体および栄養物質の輸送を妨げる恐れがあるからである。
【0023】
別の実施形態では、1つのチャンバーだけがあり、再結晶が局所的に生じるように、バッフルをカプセルから取外す。溶媒中のAlNの溶解度を上昇させるために、鉱化剤も原料物質と一緒にまたは別々にカプセルに加える。本発明の一実施形態によれば、鉱化剤は、(i)LiN、MgおよびCaなどの窒化物、(ii)LiNH、NaNHおよびKNHなどのアミド、(iii)尿素および関連化合物、(iv)NHFおよびNHCIなどのアンモニウム塩、(v)NaCl、LiSまたはKNOなどのハロゲン化物、カルコゲニドまたは硝酸塩、(vi)NaNなどのアジ化物塩、(vii)その他のLi塩、(viii)NaAlFなど、上記の少なくとも2つが互いに化学反応して形成される化合物、および(ix)上記の少なくとも1つとAlNおよび/またはAlとの化学反応によって形成される化合物の少なくとも1つを含む。
【0024】
一実施形態では、鉱化剤は、HX、NHX、MXの少なくとも1つ、あるいはこれらの化学種の少なくとも2つの反応またはこれらの化学種とアンモニアとの反応によって形成された化合物を含む。ここで、Xはハロゲン化物(F、Cl、Br、I)であり、MはIII族金属(B、Al、Ga、In)である。本発明者は、NHFおよびNHClが、特に550℃より高い温度および5kbarより高い圧力で、アモノサーマルGaN成長用の有効な鉱化剤として働くことを見出した。理論によって束縛されるものではないが、本発明者等は、HXの反応によって輸送が生じると考える。ここで、NHXはアンモニアに溶解したHXとみなすことができ、式(1)で記述するように、MNがMXとアンモニアを形成する。Mn+3HX=MX+NH(1)
したがって、輸送化学種は、多分アンモニアで溶媒和されたMXである。NHFの場合には、原料の溶解がセルのコールドエンドで生じ、結晶成長がセルのホットエンドで生じる。言いかえれば、式(1)で概略的に示された反応は発熱を伴う。その結果、低温では右側のより安定した化学種が支配的であり、より高い温度では平衡は左へ移動する。結晶成長試験の完了時、セルは白色の針状結晶で満たされていることが分かったが、これはこの概念と合っている。これらの結晶はGaF(NHおよび(NHGaF(その構造は文献から公知である)を含むことがX線回折で確認されている。対照的に、NHC1の場合は、原料の溶解がセルのホットエンドで生じ、結晶成長がセルのコールドエンドで生じる。言いかえれば、式(1)で概略的に示された反応は吸熱性である。その結果、低温では左側のより安定した化学種が支配的であり、より高い温度では平衡は右へ移動する。結晶成長試験の完了時、セルは白色の粉末で満たされていることが分かったが、これはこの概念と合っている。この粉末は主としてNHClを含み、ガリウム含有化合物は極ごくわずかである。
【0025】
GaNの結晶成長における鉱化剤NHFおよびNHClの挙動は、ある程度まで、純物質の反応の自由エネルギーを考えることによって理解することができる。これは、HXとMX両方の溶媒和の自由エネルギーを無視し、MX結晶(これはもちろん溶液中に存在しない)の格子エネルギーを含んでいる。選択された結果は、含まれる化学種のいくつかの生成自由エネルギーの入手可能性によって一部限定されているが、これらの結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2.選択された鉱化剤輸送反応の反応自由エネルギーΔG°(kJ/mol)。データはI.Barinからのものであり、GaNの生成エンタルピー[Ranade等、J.Phys.Chem.B 104,4060(2000)]を補正してある。
【0028】
表2の第2列を詳しく調べると、前記の単純化された熱力学が、低温での生成物(GaF+NH)の安定性、および高い温度で左へ移動する、すなわちGaNが析出する反応(1)の傾向を正確に予測していることが分かる。第2列と第3列を比較すると、前記の単純化された熱力学が、フッ化ガリウム形成と比較して塩化ガリウム形成の傾向が低下していることも正確に予測していることが分かる。しかし、塩化ガリウム形成の非常に限られたデータは、反応(1)が高い温度で左に移動するであろうことを示唆している。この予測された挙動はフッ化物の傾向と似ているが、実験観察と矛盾している。何故ならば、GaN結晶成長は、この化学反応ではコールドエンドに生じるからである。表2の第3列の傾向は、600Kを超える温度で逆転する可能性がある。あるいは、この単純化された分析で無視したアンモニア溶媒和の熱力学が、HF、HCl、ならびにフッ化ガリウムおよび塩化ガリウムの間で温度と共に大きく変化して、全体的な平衡および傾向を移動させる可能性がある。
【0029】
表2の第4列と第5列は、特にGaNについて観察された理論的および実験的傾向と比較して、AlNのアモノサーマル結晶成長に対するいくつかの洞察を与える。第4列と第2列を比較すると、AlFとGaFの安定性はどちらも高い温度で低下するが、AlFの形成はGaFの形成よりかなり有利であることが分かる。したがって、その形成は適度な温度では事実上不可逆である可能性があり、AlNの結晶成長は起こらないであろう。しかし、約1200Kを超える温度では、NHFはAlN結晶成長の有効な鉱化剤として働く可能性がある。第5列を詳しく調べてみると、AlC1の形成はAlFの形成ほど有利ではなく、GaCl形成用の結果を外挿したものとほぼ同等に見えることが分かる。したがって、NHClはAlNのアモノサーマル結晶成長用の有効な鉱化剤であると結論付けられる。第5列のデータは、AlN結晶成長がホットエンドで生じるであろうということを示唆している。しかし、GaNで観察された逆の挙動からの類推によって、実際にはAlNの結晶成長はコールドエンドで生じることが期待される。壁での核生成の減少またはその排除がより容易な可能性があるという点で、コールドエンドでの結晶成長はアモノサーマル結晶成長プロセスの制御に有利である可能性がある。
【0030】
第4列と第5列を比較すると、混合ハロゲン化物(例えばAlFC1)の形成により、純粋なハロゲン化物と比較して生成自由エネルギーが中間になるはずであることが分かる。こうした化学種の形成は、エントロピーにより、鉱化剤として、NHCl中にNHFを希釈した混合物によって促進することができる。したがって、一実施形態では、AlN結晶は、鉱化剤として、NHCl中にNHFを希薄した混合物を使用して成長される。
【0031】
この結果を一般化すると、所望の温度範囲で実質的に不可逆的に形成するという観点から純粋なMX輸送化学種の形成があまりにも安定している場合は、MYの形成がMXほど有利ではない鉱化剤として、NHY中にNHXを希釈することによって改善された鉱化作用を得ることができる。逆に、所望の温度範囲において非常に低濃度で形成するという観点から純粋なMY輸送化学種の形成の安定性が不十分な場合は、MXの形成がMYより有利である鉱化剤として、NHXにNHYを混合することにより改善された鉱化作用を得ることができる。
【0032】
表2の第6列は、NHClがInN結晶成長用の有効な鉱化剤になるであろうということを示唆する。InClの形成が強すぎる平衡定数で生じる場合は、鉱化剤として、NHClと、NHF、NHBrまたはNHIの1つまたは複数との混合物を使用することができる。
【0033】
一実施形態では、多結晶AlNまたはInNを、それぞれ、AlNまたはInNの結晶成長に使用する。別の実施形態では、多結晶AlN、GaN、および/またはInNの混合物を、AllnGal−x−yNの結晶成長に使用する。さらに別の実施形態では、多結晶AllnGal−x−yNを、AllnGal−x−yNの結晶成長に使用する。多結晶窒化物原料は、参照により本明細書に組み込まれた、2005年12月20日に出願された米国特許出願第11/313451号、「CRYSTALLINE COMPOSITION,DEVICE,AND ASSOCIATED METHOD」にD’Evelyn等によって記述されたプロセスによって形成することができる。
【0034】
一実施形態では、1つまたは複数の種晶を準備する。種晶は、結晶化している物質、例えば、AlN、InN、AllnGal−x−yNを含むことができる。別の実施形態では、種晶は別の結晶材料を含む。種晶用の組成物の例を表3に示す。
表3.窒化物の結晶成長で種晶として使用される結晶。列記した格子定数は、c方向の成長に適している六方晶の「a」格子定数である。立方晶については、黄色のハイライトで列記した格子定数は、2H AlN、GaN、InN、またはAllnGal−x−yNの成長に適切な(111)面の擬格子定数である。ZnOの場合には、「a」擬格子定数は3.25Åである。
【0035】
【表3】

【0036】
次いで、カプセルを、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチレンジアミン、メラミンまたは他の窒素含有流体などの、加工条件下で超臨界流体を構成する物質で充填する。好ましい実施形態では、溶媒としてアンモニアを使用する。カプセルの自由容積(原料物質、1つまたは複数の種晶およびバッフルで占められていない体積)の25%〜100%、または好ましくは70%〜95%を溶媒で充填して、カプセルを密閉する。カプセルを充填し密閉する方法は、D’Evelyn等によって記述されている。2002年1月31日に出願された米国特許出願第09/683659号を参照されたい。
【0037】
次いで、密閉したカプセルを、約550℃〜約3000℃、または好ましくは約550℃〜約1200℃の温度、および約5kbar〜約80kbar、または好ましくは約5kbar〜約20kbarの圧力を発生させることができる容器内に配置する。典型的な圧力容器は、D’Evelyn等によって記述されている。2002年1月31日に出願された米国特許出願第09/683658号、および2002年12月18日に出願された米国特許出願第60/435,189号を参照されたい。
【0038】
カプセルを、約5℃/hr〜1000℃/hrの平均速度で、好ましくは約550℃〜1200℃の成長温度まで加熱する。セル内にカプセルを非対称に配置する、または非対称に加熱するなどにより温度勾配をカプセル内に存在させることができる。しかし、この温度勾配は、加熱シーケンス全体にわたって過飽和を発生させるという影響がある。本発明者らは、このことが自然な核生成を促進することを見出した。成長温度での温度勾配は、自然な核生成を最小化し、加熱中に形成された可能性がある自然に核形成された結晶をすべてエッチングして除去するために、D’Evelyn等によって記述されている(2002年12月27日に出願された米国特許出願第10/329,981号を参照されたい)ように、最初は小さくまたは負にし、その後大きくする。結晶成長中、温度勾配を、5℃〜300℃の大きさに保持することができ、成長中に上方または下方に調節することができる。
【0039】
成長期間が終了した後、カプセルの温度を、約5℃/hr〜1000℃/hr、好ましくは約5℃/hr〜300℃/hrの速度で徐々に下げて、1つまたは複数の結晶への熱衝撃を最小化することができる。セルを圧力容器から取り出し、カプセルをセルから取り出す。溶媒は、カプセルを冷やして溶媒の蒸気圧を1バール未満に下げ、カプセルに孔をあけ、次いで溶媒が蒸発するようにこれを暖めることにより、取り出すことが便利である。カプセルを切断して開き、1つまたは複数の結晶を取り出す。1つまたは複数の結晶は、水、アルコールまたは他の有機溶媒の少なくとも1つ、あるいは鉱酸で洗って鉱化剤または他の物質を除去することができる。
【0040】
結晶は、当技術分野で公知の標準方法によって特性を評価することができる。転位密度は、カソードルミネセンス(CL)イメージングまたはエッチピット密度の測定で定量することができる。光吸収および発光特性は、当技術分野で周知の光吸収およびフォトルミネセンス分光法によって求めることができる。電気的性質は、ファンデルポー法によるホール効果の測定、水銀プローブCV、およびホットプローブ技術によって求めることができる。
【0041】
密接に関連した方法によるGaN結晶の成長で観察された結果によれば、本方法で成長させた窒化物結晶は、単一の種晶または核から成長し、歪みがなく、10cm−2未満、好ましくは10cm−2未満の転位密度を有することが期待される。結晶は、当技術分野で周知の方法によって、1枚または複数のウェハにスライスすることができる。本発明の一実施形態によれば、上記の窒化物結晶から調製されたウェハは、スライスし、ラップ仕上げを行い、研摩することができる。別の実施形態によれば、本明細書に記述されるウェハは、少なくとも1つのエピタキシャル窒化物層を有する。AlN結晶またはウェハは、エピタキシャルAlInGaN膜、発光ダイオード、レーザーダイオード、光検出器、アバランシェ光検出器、トランジスタ、ダイオード、ならびにその他の光電子および電子デバイスの基板として有用である。
【0042】
本発明を、以下非限定的な実施例によってさらに例証する。
【実施例】
【0043】
市販のAIN粉体を圧縮して2つのピルを作った。重さ0.1086gのAlNピル、および重さ0.0472gのNHFピルを、内表面を25μmの金で被覆した0.5”の銅カプセルの底に配置した。5%の開口面積を有するバッフルをカプセルの真中に配置した後、重さ0.0907gの第2のAlNピル、および重さ0.0512gのNHFのピルをカプセルの上半分に配置した。アンモニア0.91gを充填した後、カプセルを密閉した。カプセルをゼロストローク高圧装置に配置し、平均温度約760℃に加熱し、この温度で13時間保持した。次いで、カプセルを冷却し、プレスから取り出した。カプセルに穴をあけてアンモニアを逃がした後、切開いた。
【0044】
このAlNピルは、重さまたはモルフォロジでは出発物質と判別不能であった。さらに、意外にも、Kolis等の公表された結果に基づいて予想されたAlF(NH錯体の形成は観察されなかった。AlN粉末の酸素含量を不活性ガス融解(LECO)によって測定したところ、1.5重量パーセントであることが分かった。
【0045】
本明細書では、実施例を使用して、最良のモードを含めた本発明を開示し、かつ、すべての当業者が本発明から製造することができ、本発明を使用できるようにしている。本発明の特許の範囲は、特許請求の範囲によって定義されており、当業者が思いつく他の実施例を含んでもよい。他のこうした実施例は、それらが特許請求の範囲の文字言語から逸脱しない構造要素を有する場合、あるいは、それらが特許請求の範囲の文字言語と非実質的な相違を有する等価な構造要素を含んでいる場合は、特許請求の範囲の範囲内にあることを意図するものである。本明細書で参照された引用はすべて、参照により本明細書に明確に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1重量パーセント未満の酸素を含む原料物質を準備すること、
鉱化剤を準備すること、
必要に応じて、1つまたは複数の種晶を準備すること、
カプセルを準備すること、
前記カプセルに窒素含有溶媒を充填すること、
超臨界流体中の前記カプセルおよび内容物を、約550℃より高い温度および約2kbarより高い圧力で処理すること
を含む窒化物結晶の成長方法。
【請求項2】
前記原料物質がAlGa1−x−yInNであり、ここで、0≦x,y,x+y≦1であり、xまたはyの少なくとも1つが0より大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原料物質がAlGa1−x−yInNであり、ここで、0≦x,y,x+y≦1であり、xまたはyの少なくとも1つが0.05より大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記原料物質がAlNである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記鉱化剤が、(i)窒化物、(ii)アミド、(iii)尿素、(iv)アンモニウム塩、(v)ハロゲン化物、カルコゲニド、または硝酸塩、(vi)アジ化物塩、および(vii)Li塩の少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記鉱化剤が、成分(i)〜(vii)から選択される少なくとも2種の化合物の化学反応によって形成される少なくとも1つの化合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記鉱化剤が、成分(i)〜(vii)から選択される化合物の少なくとも1つとAlNおよび/またはAlとの化学反応によって形成される少なくとも1つの化合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記鉱化剤が、HX、NHX、およびGaXの少なくとも1つであり、ここで、Xが、F、Cl、Br、またはIからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記鉱化剤が、HX、NHXおよびGaXの少なくとも1つと、HX、NHX、GaX、Ga、GaNおよびNHの少なくとも1つとの反応生成物であり、ここで、Xは、F、Cl、Br、またはIからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記鉱化剤が、LiN、Mg、Ca、LiNH、NaNH、KNH、NHF、NHC1、NaCl、LiS、KNO、NaNおよびNaAlFからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記必要に応じた種晶が、AlN種晶または非AlN種晶である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記種晶が、InN、AlN、GaN、GaIn1−xN、SiC、GaAl1−xN、InAlN、AlGa1−x−yInN、ZnO、BN(六方晶)、BGa1−xN、BAl1−xN、BIn1−xN、MgAl、BP、(GaIn1−xSe、ScAlMgO、YFeZnO、MgO、FeNiO、LiGa、NaMoO、NaWO、InCdO、LiGaO、CaLa(POおよびサファイアからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記必要に応じた種晶の直径が1mmより大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記窒素含有溶媒がアンモニアである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
直径が少なくとも1mmの単一の核から成長した単結晶を含み、横歪みおよび傾斜境界がなく、約10cm−2未満の転位密度を有する窒化物結晶であって、InGaN、AlGaInN、InGaN、AlGaNInNおよびAlNからなる群から選択される窒化物結晶。
【請求項16】
請求項15に記載の窒化物結晶から調製したウェハであって、スライスされ、ラップ仕上げを行い、研摩されたウェハ。
【請求項17】
少なくとも1つのエピタキシャル窒化物層をさらに含む、請求項16に記載のウェハ。
【請求項18】
前記エピタキシャル窒化物層がAlInGaNを含む、請求項17に記載のウェハ。
【請求項19】
請求項15に記載の窒化物結晶から調製されたホモエピタキシャルデバイス。
【請求項20】
発光ダイオード、レーザーダイオード、光検出器、アバランシェ光検出器、電界効果トランジスタ、バイポーラ接合トランジスタおよびサイリスタの1つである、請求項18に記載のホモエピタキシャルデバイス。

【公表番号】特表2010−505730(P2010−505730A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531469(P2009−531469)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/021420
【国際公開番号】WO2008/045337
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(506390498)モーメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・インク (85)
【Fターム(参考)】