説明

窒化物蛍光体とその製造方法

【課題】
従来品より副生物が少なく、輝度の向上した窒化物蛍光体を提供することを課題とする。
【解決手段】
下記一般式(1)で表わされる窒化物蛍光体を構成する元素を含有する原料を準備し、該原料と炭酸セシウム及び/または硝酸セシウムとを混合し、得られた混合物を焼成することを特徴とする下記一般式(1)で表される窒化物蛍光体の製造方法。
LnxSiyn:Z ・・・(1)
(一般式(1)中、Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、Zは賦活剤であり、xは2.7≦x≦3.3を満たし、yは5.4≦y≦6.6を満たし、nは10≦n≦12を満たす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物蛍光体に関し、より詳しくは、従来よりも高輝度な蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの流れを受け、LEDを用いた照明やバックライトの需要が増加している。ここで用いられるLEDは、青または近紫外波長の光を発するLEDチップ上に、蛍光体を配置した白色発光LEDである。このようなタイプの白色発光LEDとしては、青色LEDチップ上に、青色LEDチップからの青色光を励起光として黄色に発光するYAG(イットリウムアルミニウムガーネット)蛍光体を用いたものが多く用いられている。
【0003】
しかしながらYAG蛍光体は、大出力下で用いられる場合、蛍光体の温度が上昇すると輝度が低下する、いわゆる温度消光が大きいという問題や、より優れた色再現範囲や演色性を求めて、近紫外線(通常、青励起に対する言葉として350〜420nm程度の紫を含めた範囲を近紫外線と読んでいる)で励起しようとすると、輝度が著しく低下するという問題があった。そしてこれらの問題を解決するため、窒化物蛍光体で黄色発光のものが検討され、その有力な候補として例えば特許文献1に記載されるLa3Si611蛍光体(ランタンは他の金属と置き換わった場合を含め、以下この種の蛍光体をLSN蛍光体とまとめて呼ぶ)などが開発されている。そして、特許文献1中では、その[0248]段落に、特許文献2中では、その[0131]から[0136]段落に、各種のフラックスを用いてLSN蛍光体を製造する方法が記載されている。そしてCsを用いたフラックスとしては、CsFとCsClが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/132954号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2010/114061号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載のLSN蛍光体は、従来のYAG蛍光体に比べて温度が上昇しても輝度の低下が小さく、かつ、近紫外線での励起でも十分な発光が得られるものである。
しかしながら蛍光体には、より少ないエネルギーで、より高い輝度を得ることが求められ、輝度の一層の向上が求められている。すなわち本発明の課題は、従来品より輝度の向上した窒化物蛍光体を安定して提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、通常あまり用いられることの無い、セシウム(Cs)の炭酸塩及び/又は硝酸塩を含むフラックスを使用してLSN蛍光体を製造した場合に、非常に高い輝度の蛍光体を得られることに想到した。具体的には、セシウムの炭酸塩及び/又は硝酸塩を含むフラックスを使用してLSN蛍光体を製造すると、従来LSN蛍光体の製造に好適であると知られている前述のフッ化セシウムなどを含むフラックスを使用して製造したLSN蛍光体を超える輝度の蛍光体が、安定して得られることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
なぜこの炭酸セシウム及び/又は硝酸セシウムを含むフラックスを使用した場合に、従来知られていたフッ化セシウムなどより優れた輝度の蛍光体が得られるのかについては、
本発明者らは、以下のように推測している。フッ化セシウムは、フラックスとして非常に優れた作用をする。例えば、セシウムのイオン半径が非常に大きいため(シャノンの6配位のLa3+のイオン半径は117pmであるのに対し、Cs+は181pm)、結晶中に入り込んで輝度を低下させる副作用をほとんどなくすことが出来た。しかしながらその反面、理由は良くわからないが、ハロゲン化セシウムを使用した場合には、青で発光する蛍光体が副生しやすいという問題があった。この副生物は、青色光で励起した場合にはあまり大きな問題にならないが、紫色、あるいはそれより短い波長での励起を考える場合には、所望の色と異なる発光を生じるため、問題になる。
【0008】
また、ハロゲン化セシウム、特にフッ化セシウムや塩化セシウムは、吸水性があり、蛍光体焼成時に、焼成炉内に水やそれに起因する酸素等を持ち込むことになるため輝度が低下する可能性や、吸水率により、実際に使用されるフラックス量が変動して、得られる蛍光体の特性が変動するという問題もあった。このため、公知の製造方法である、セシウムのハロゲン化物をフラックスとして使用して蛍光体を製造する場合には、副生物が発生しやすく、輝度の高いLSN蛍光体を安定して製造することが難しかった。しかし本発明の炭酸セシウム及び/または硝酸セシウムをフラックスとして用いることにより、これまでに無い、高輝度で、不純物の少ないLSN蛍光体を製造することができる。
【0009】
本発明は以下のとおりである。
[1]下記一般式(1)で表わされる窒化物蛍光体を構成する元素を含有する原料を準備し、該原料と炭酸セシウム及び/または硝酸セシウムとを混合し、得られた混合物を焼成することを特徴とする下記一般式(1)で表される窒化物蛍光体の製造方法。
LnxSiyn:Z ・・・(1)
(一般式(1)中、Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、Zは賦活剤であり、xは2.7≦x≦3.3を満たし、yは5.4≦y≦6.6を満たし、nは10≦n≦12を満たす。)
[2]該炭酸セシウム及び/または硝酸セシウムが、炭酸セシウムを含む[1]に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[3]該炭酸セシウム及び/または硝酸セシウムの使用量が、蛍光体中のケイ素の量を6モルとしたときのセシウムの仕込みモル比で、0.1以上、2.0以下である[1]または[2]に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[4][1]ないし[3]のいずれかに記載の製造方法により製造された下記一般式(1)で表される窒化物蛍光体。
LnxSiyn:Z ・・・(1)
(一般式(1)中、Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、Zは賦活剤であり、xは2.7≦x≦3.3を満たし、yは5.4≦y≦6.6を満たし、nは10≦n≦12を満たす。)
【発明の効果】
【0010】
本発明により、輝度の向上した窒化物蛍光体を提供できる。また、輝度の向上した窒化物蛍光体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態や例示物を示して説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0012】
(本発明に使用されるフラックス)
本発明の蛍光体の製造方法は、炭酸セシウム及び/又は硝酸セシウムを用いることを特徴としている。より好ましくは炭酸セシウムである。この炭酸セシウム及び/又は硝酸セ
シウムは、蛍光体製造時にフラックスとして作用する。先に説明したように、炭酸セシウム及び/又は硝酸セシウムを含むフラックスを使用してLSN蛍光体を製造すると、従来LSN蛍光体の製造に好適であると知られているフッ化セシウムを使用して製造したLSN蛍光体と比較して、更に高い輝度の蛍光体を得ることができる。
【0013】
またその使用量は、原料の種類やフラックスの材料等によっても異なり任意であるが、例えば特許文献1、2に記載の当業者に良く知られた範囲で使用すればよい。特に本発明の場合、セシウムの炭酸塩及び/又は硝酸塩の使用量が、蛍光体中のケイ素の量を6モルとしたときのセシウムの仕込みモル比で、0.1以上、2.0以下であることが好ましく、より好ましくは、0.1以上0.8以下である。
【0014】
更に本発明において使用するフラックスとしては、好ましくは炭酸セシウム及び/又は硝酸セシウムのみを使用することであり、最も好ましくは炭酸セシウムのみを使用することであるが、その効果を損ねない範囲で、他のフラックスを併用しても良い。炭酸セシウム及び/又は硝酸セシウム以外のフラックスを併用する場合には、その使用量が炭酸セシウム及び/又は硝酸セシウムより少ないことが好ましい。また、炭酸セシウム及び/又は硝酸セシウム以外のフラックスが、炭酸セシウム及び/又は硝酸セシウムより、融点が低いことが好ましい。これは高温側で作用するフラックスの方が、焼成時により高温の状態で作用するため、蛍光体母体中に置換あるいは侵入して固溶する量が増えやすいと考えられるためである。
【0015】
(併用してよいフラックス)
本発明において、セシウムの炭酸塩及び/又は硝酸塩以外のフラックスとして併用してよいフラックスとしては、特に制限されないが、例えば、NH4Cl、NH4F・HF等のハロゲン化アンモニウム;Na2CO3、Li2CO3等のアルカリ金属炭酸塩;LiCl、NaCl、KCl、CsCl、LiF、NaF、KF、CsF、RbF、RbCl等のアルカリ金属ハロゲン化物;CaCl2、BaCl2、SrCl2、CaF2、BaF2、SrF2、MgCl2、MgF2等のアルカリ土類金属ハロゲン化物;BaO等のアルカリ土類金属酸化物;B23、H3BO3、Na247等のホウ素酸化物、ホウ酸及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩化合物;Li3PO4、NH42PO4等のリン酸塩化合物;AlF3等のハロゲン化アルミニウム;ZnCl2、ZnF2等のハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛等の亜鉛化合物;Bi23等の周期表第15族元素化合物;Li3N、Ca32、Sr32、Ba32、BN等のアルカリ金属、アルカリ土類金属又は第13族元素の窒化物などが挙げられる。
【0016】
さらに、フラックスとして、例えば、LaF3、LaCl3、GdF3、GdCl3、LuF3、LuCl3、YF3、YCl3、ScF3、ScCl3等の希土類元素のハロゲン化物、La23、Gd23、Lu23、Y23、Sc23等の希土類元素の酸化物も挙げられる。
上記フラックスとしては、ハロゲン化物が好ましく、具体的には、例えばアルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、Znのハロゲン化物、希土類元素のハロゲン化物が好ましい。また、ハロゲン化物の中でも、フッ化物、塩化物が好ましい。
【0017】
ここで、上記フラックスのうち潮解性のあるものについては、無水物を用いる方が好ましい。また、併用するフラックスについても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
特に好適な併用するフラックスとしては、MgF2、CeF3、LaF3、YF3、GdF3等も好適に使用できる。このうちYF3、GdF3等は発光色の色度座標(x、y)を変化させる効果を有する。
【0018】
(蛍光体の種類)
本発明の蛍光体は、以下の一般式(1)で表される蛍光体である。
LnxSiyn:Z ・・・(1)
上記一般式(1)中、Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、Zは賦活剤であり、xは2.7≦x≦3.3を満たし、yは5.4≦y≦6.6を満たし、nは10≦n≦12を満たす。
上記Lnは、Laを80モル%以上含む希土類元素であることが好ましく、Laを95モル%以上含む希土類元素であることがより好ましく、Laであることが更に好ましい。
Lnに含まれるLa以外の元素としては、希土類であれば問題なく使用できると考えられるが、好ましくは、他の蛍光体の場合にもしばしば置換が行われるイットリウムやガドリニウムなどであり、これらの元素はイオン半径も近く電荷も等しいため好ましい。
【0019】
賦活剤Zとしては、Eu、Ceのどちらかを含むことが好ましく、Ceを80モル%以上含むことがより好ましく、Ceを95モル%以上含むことが更に好ましく、そしてCeであることが最も好ましい。
元素のモル比、すなわちx、y、nの比は、化学量論組成としては3:6:11であり、これに1割程度の過不足が有っても蛍光体として使用可能であることから、x、y、nの値はそれぞれ2.7≦x≦3.3、5.4≦y≦6.6、10≦n≦12の範囲に設定される。
【0020】
尚、本発明の蛍光体は、上述の一般式(1)で表されるものではあるが、色度点を変えるなどの目的で、カルシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属元素やアルミニウムなどで一部のサイトを置換したものも、本発明の範囲から排除されるものではない。例えば、カルシウム、イットリウム、ガドリニウム、ストロンチウムによる置換は発光波長を長くする際に使用でき、好ましく例示できる。またこれらの元素は、電荷保存則を満たすため、他の元素と同時に置換され、その結果SiやNのサイトが一部酸素などで置換されることがあり、そのような蛍光体も好適に使用することができる。
【0021】
(蛍光体の粒径)
本発明の蛍光体は、その体積メジアン径が、通常0.1μm以上、中でも0.5μm以上、また、通常35μm以下、中でも25μm以下の範囲であることが好ましい。体積メジアン径が小さすぎると、輝度が低下し、蛍光体粒子が凝集してしまう傾向がある。一方、体積メジアン径が大きすぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。このため上記範囲が好ましい。なお、体積メジアン径は、例えば前述のコールターカウンター法で測定でき、代表的な装置としては、ベックマンコールター社の「マルチサイザー」等を用いて測定することができる。
【0022】
(蛍光体の製造方法)
(原料)
本発明の蛍光体は、本発明の特徴である、炭酸セシウム及び/又は硝酸セシウムを添加することを除くと、公知の特許文献1や、特許文献2に記載の製造方法で製造することができる。
【0023】
例えば、原料として蛍光体前駆体を用意し、その蛍光体前駆体を必要に応じて混合し、混合した蛍光体前駆体を焼成する工程(焼成工程)を経て製造することができる。
これら製造方法の中で、合金を、原料の少なくとも一部とする方法、さらに詳しくは、少なくとも上記式(1)におけLn元素、Z元素及びSi元素を含有する合金(以下これを「蛍光体製造用合金」ということがある。)を、炭酸セシウム及び/又は硝酸セシウムの存在下で焼成する工程を有する方法により製造する。かかる原料の一部又は全てを、蛍光体製造用合金として本発明の蛍光体を作成することができるが、この原料合金の製造方
法については、特許文献2に詳しく記載され、原料合金の製造、粉砕、分級など必要に応じて使用できる方法が詳述されている。
【0024】
上記製造方法のうち焼成工程については、水素含有窒素ガス雰囲気で行うことが好ましい。さらに、焼成後、得られる焼成物を酸性水溶液で洗浄することが好ましい。
かかる方法を必要に応じて組み合わせて用いることにより、一般式(1)記載の蛍光体を、好適に調製することができる。
【0025】
(原料の混合)
蛍光体製造用合金を使用する場合には、含有される金属元素の組成が、上記式(1)で表される結晶相に含まれる金属元素の組成に一致していれば蛍光体製造用合金のみを焼成すればよい。一方、蛍光体製造用合金を使用しない場合や、その組成が一致していない場合には、別の組成を有する蛍光体製造用合金、金属単体、金属化合物などを蛍光体製造用合金と混合して、原料中に含まれる金属元素の組成が上記式(1)で表される結晶相に含まれる金属元素の組成に一致するように調整し、焼成を行う。
【0026】
蛍光体製造用合金以外に用いられる金属化合物に制限はなく、例えば、窒化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物等が挙げられる。具体的な種類は、これらの金属化合物の中から、目的物への反応性や焼成時におけるNOx、SOx等の発生量の低さ等を考慮して適宜選択すればよいが、本発明の蛍光体が窒素含有蛍光体である観点から、窒化物及び/又は酸窒化物を用いることが好ましい。中でも、窒素源としての役割も果たすため、窒化物を用いることが好ましい。
【0027】
窒化物及び酸窒化物の具体例としては、LaN、Si34、CeN等の蛍光体を構成する元素の窒化物、La3Si611、LaSi35等の蛍光体を構成する元素の複合窒化物等が挙げられる。
また、上記の窒化物は、微量の酸素を含んでいてもよい。窒化物における酸素/(酸素+窒素)の割合(モル比)は本発明の蛍光体が得られる限り任意であるが、吸着水分由来の酸素を含めない場合には通常5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下、特に好ましくは0.2%以下とする。窒化物中の酸素の割合が多すぎると輝度が低下する可能性がある。
【0028】
(焼成工程)
得られた原料は、セシウムの炭酸塩及び/又は硝酸塩を含有するフラックスと混合し、その存在下で焼成し窒化することにより、本発明の蛍光体の母体を得ることができる。ここで焼成は、後述するとおり、水素含有窒素ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0029】
(焼成条件)
原料混合物は、通常は坩堝、トレイ等の容器に充填し、雰囲気制御が可能な加熱炉に納める。この際、容器の材質としては、金属化合物との反応性が低いものが好ましく、例えば、窒化ホウ素、窒化珪素、炭素、窒化アルミニウム、モリブデン、タングステン等が挙げられる。中でも、モリブデン、窒化ホウ素が耐食性に優れることから好ましい。なお、上記の材質は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ここで、使用する焼成容器の形状は任意である。例えば、焼成容器の底面が、円形、楕円形等の角のない形や、三角形、四角形等の多角形であってもよいし、焼成容器の高さも加熱炉に入る限り任意であり、低いものでも高いものでもよい。中でも、放熱性のよい形状を選択することが好ましい。
【0030】
そして、合金粉末を加熱することにより、本発明の蛍光体を得ることができる。ただし
、上記の合金粉末は、40%以下の体積充填率に保持した状態で焼成することが好ましい。なお、体積充填率は、(混合粉末の嵩密度)/(混合粉末の理論密度)×100[%]により求めることが出来る。
【0031】
この蛍光体原料を充填した焼成容器を、焼成装置(以下これを「加熱炉」ということがある。)に納める。ここで使用する焼成装置としては、本発明の効果が得られる限り任意であるが、装置内の雰囲気を制御できる装置が好ましく、さらに圧力も制御できる装置が好ましい。例えば、熱間等方加圧装置(HIP)、抵抗加熱式真空加圧雰囲気熱処理炉等が好ましい。
【0032】
また、加熱開始前に、焼成装置内に窒素を含むガスを流通して系内を十分にこの窒素含有ガスで置換することが好ましい。必要に応じて、系内を真空排気した後、窒素含有ガスを流通しても良い。
焼成の際に使用する窒素含有ガスとしては、窒素元素を含むガス、例えば窒素、アンモニア、或いは窒素と水素の混合気体等が挙げられる。また、窒素含有ガスは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。これらの中で、窒素含有ガスとしては、水素を含む窒素ガス(水素含有窒素ガス)が好ましい。なお、水素含有窒素ガスにおける水素の混合割合は4体積%以下が爆発限界外であり、安全上好ましい。
【0033】
焼成は、水素含有窒素ガスを充填した状態或いは流通させた状態で蛍光体原料を加熱することにより行なうが、その際の圧力は大気圧よりも幾分減圧、大気圧或いは加圧の何れの状態でも良い。ただし、大気中の酸素の混入を防ぐためには大気圧以上とすることが好ましい。圧力を大気圧未満にすると加熱炉の密閉性が悪い場合には多量の酸素が混入して特性の高い蛍光体を得ることができない可能性がある。水素含有窒素ガスの圧力は少なくともゲージ圧で0.1MPa以上が好ましい。あるいは、20MPa以上の高圧下で加熱することもできる。また、200MPa以下が好ましい。
その後、窒素を含むガスを流通して、系内を十分にこのガスで置換する。必要に応じて、系内を真空排気した後、ガスを流通しても良い。
【0034】
ところで、金属の窒化反応は、通常は発熱反応である。したがって、合金法による蛍光体の製造時には、急激に放出される反応熱により合金が再度融解し、表面積が減少する可能性がある。このように表面積が減少すると、気体窒素と合金との反応を遅延させることがある。このため、合金法では、合金が融解しない反応速度を維持することが、高性能の蛍光体を安定に製造することができるために好ましい。特に、その窒化熱生成が激しい1150〜1400℃となる焼成温度領域の、少なくとも、発熱ピークの立ち上がりがおこる温度領域において、1.5℃/分以下の低速度で昇温させて焼成することが好ましい。昇温速度の上限は、通常1.5℃/分以下、好ましくは0.5℃/分以下、より好ましくは0.1℃/分以下である。また、下限に特に制限はなく、工業生産としての経済的観点より定めればよい。ここで、発熱ピークとは、TG−DSC(熱重量・示差熱)測定により求められる発熱ピークである。
本方法により、焼成時、特に合金を用いた場合の窒化熱の急激な生成を抑制することができ、局所的な温度上昇を抑制し、良好な蛍光体が得られるとともに、窒化熱を生成しない他の温度領域を高い昇温速度に設定することにより、全体の焼成時間を短縮した効率的な蛍光体を製造することができる。
【0035】
焼成温度は、蛍光体製造用合金の組成等によっても異なるが、通常1000℃以上1800℃以下であり、1400℃以上1700℃以下がより好ましい。また、上記の温度は、焼成処理の際の炉内温度、即ち、焼成装置の設定温度をさす。
焼成時の加熱時間(最高温度での保持時間)は、蛍光体原料と窒素との反応に必要な時
間で良いが、通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは60分以上とする。加熱時間が1分より短いと窒化反応が完了せず特性の高い蛍光体が得られない可能性がある。また、加熱時間の上限は生産効率の面から決定され、通常50時間以下であり、好ましくは24時間以下である。
【0036】
本発明の製造方法において、蛍光体製造用合金を用いる場合には、必要に応じ予備的に窒化(一次窒化)した後に、上述した焼成を行ってもよい。具体的には、窒素含有雰囲気下、所定の温度域で所定の時間、蛍光体製造用合金を加熱することにより予備的な窒化を行なうことになる。このような一次窒化工程の導入により、その後の焼成における合金と窒素との反応性を制御することができ、合金から蛍光体を工業的に生産が容易となる可能性がある。
また、窒素処理(焼成)は、必要に応じて、複数回に渡って繰り返して行なってもよい。この場合、1回目の焼成(一次焼成)の条件と2回目の焼成(二次焼成)以降の焼成条件は、いずれも上述の通りである。二次焼成以降の条件は、一次焼成と同じ条件でもよく異なる条件に設定してもよい。
このように蛍光体原料に対して焼成することにより、窒化物又は酸窒化物を母体とする本発明の蛍光体を得ることができる。
【0037】
(後処理工程)
本発明の製造方法においては、上述した工程以外にも、必要に応じてその他の工程を行ってもよい。例えば、上述の焼成工程後、必要に応じて粉砕工程、洗浄工程、分級工程、表面処理工程、乾燥工程などを行なってもよい。
【0038】
(粉砕工程)
粉砕工程には、例えば、ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル、リボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等の粉砕機、乳鉢と乳棒を用いる粉砕などが使用できる。このとき、生成した蛍光体結晶の破壊を抑え、二次粒子の解砕等の目的とする処理を進めるためには、例えば、アルミナ、窒化珪素、ZrO2、ガラス等の容器中にこれらと同様の材質又は鉄芯入りウレタン等のボールを入れてボールミル処理を10分〜24時間程度の間で行うことが好ましい。この場合、有機酸やヘキサメタリン酸などのアルカリリン酸塩等の分散剤を0.05重量%〜2重量%用いても良い。
【0039】
(洗浄工程)
洗浄工程は、例えば、脱イオン水等の水、エタノール等の有機溶剤、アンモニア水等のアルカリ性水溶液などで蛍光体表面を行うことができる。このLSN蛍光体の洗浄の技術に関しては、特許文献1,2などの記載を参照することにより、実施することが出来る。
【0040】
(分級工程)
分級工程は、例えば、水篩を行う、あるいは、各種の気流分級機や振動篩など各種の分級機を用いることにより行うことができる。中でも、ナイロンメッシュによる乾式分級を用いると、体積平均系10μm程度の分散性の良い蛍光体を得ることができる。
また、ナイロンメッシュによる乾式分級と、水簸処理とを組み合わせて用いると、体積メジアン径20μm程度の分散性の良い蛍光体を得ることができる。
【0041】
ここで、水篩や水簸処理では、通常、水媒体中に0.1重量%〜10重量%程度の濃度で蛍光体粒子を分散させる。また、蛍光体の変質を抑えるために、水媒体のpHを、通常4以上、好ましくは5以上、また、通常9以下、好ましくは8以下とする。また、上記のような体積メジアン型の蛍光体粒子を得るに際して、水篩及び水簸処理では、例えば50μm以下の粒子を得てから、30μm以下の粒子を得るといった、2段階での篩い分け処理を行う方が作業効率と収率のバランスの点から好ましい。また、下限としては、通常1μm以上、好ましくは5μm以上のものを篩い分ける処理を行うのが好ましい。
【0042】
(乾燥工程)
このようにして洗浄を終了した蛍光体を、100℃〜200℃程度で乾燥させる。必要に応じて乾燥凝集を防ぐ程度の分散処理(例えばメッシュパスなど)を行ってもよい。
【0043】
(蒸気加熱処理工程)
本発明の蛍光体は、上記工程を経て製造された蛍光体に、蒸気存在下、好ましくは水蒸気存在下で静置し、蒸気加熱処理することができる。この上記加熱工程をおこなうことにより、蛍光体の輝度を更に向上させることができる。
【0044】
蒸気加熱処理工程を設ける場合は、温度は、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、また、通常300℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。温度が低すぎると吸着水が蛍光体表面に存在することによる効果が得られにくい傾向があり、高すぎると蛍光体粒子の表面が荒れてしまう場合がある。
【0045】
蒸気加熱処理工程での湿度(相対湿度)は、通常50%以上、好ましくは80%以上であり、100%であることが特に好ましい。湿度が低すぎると吸着水が蛍光体表面に存在することによる効果が得られにくい傾向がある。なお、吸着水層形成の効果が得られる程度であれば、湿度が100%である気相に液相が共存していてもよい。
【0046】
蒸気加熱処理工程での圧力は、通常常圧以上、好ましくは0.12MPa以上、より好ましくは0.3MPa以上、また、通常10MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.5MPa以下である。圧力が低すぎると蒸気加熱処理工程の効果が得られにくい傾向があり、高すぎると処理装置が大掛かりとなり、また作業上の安全性の問題が出てくる場合がある。
【0047】
当該蒸気存在下に蛍光体を保持する時間は前記の温度、湿度及び圧力に応じて一様ではないが、通常は高温であるほど、高湿度であるほど、高圧であるほど保持時間は短くて済む。具体的な時間の範囲を挙げると、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは1.5時間以上、また、通常200時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
【0048】
上記の条件を満たしながら蒸気加熱工程を行うための具体的な方法としては、オートクレーブ中で高湿度、高圧下におくという方法が例示できる。ここで、オートクレーブに加えて、あるいは、オートクレーブを用いる代わりに、プレッシャークッカー等のオートクレーブと同程度に高温・高湿条件下にすることができる装置を用いてもよい。プレッシャークッカーとしては、例えば、TPC−412M(ESPEC株式会社製)等を用いることができ、これによれば、温度を105℃〜162.2℃に、湿度を75〜100%(但し、温度条件によって異なる)に、圧力を0.020MPa〜0.392MPa (0.2kg/cm2〜4.0kg/cm2) に制御することができる。
オートクレーブ中に蛍光体を保持して蒸気加熱工程を行うようにすれば、高温、高圧かつ高湿度の環境において特殊な水の層を形成することが可能であるため、特に短時間で吸着水を蛍光体表面に存在させることができる。具体的条件を挙げると、圧力が常圧(0.1MPa)以上であり、かつ、蒸気が存在する環境下に前記蛍光体を0.5時間以上置くとよい。
【0049】
(表面処理工程)
本発明の蛍光体を用いて発光装置を製造する際には、耐湿性等の耐候性を一層向上させ
るために、又は後述する発光装置の蛍光体含有部における樹脂に対する分散性を向上させるために、必要に応じて、蛍光体の表面を異なる物質で一部被覆する等の表面処理を行っても良い。表面処理は、蒸気加熱処理工程の前に実施しても良いし、蒸気加熱処理工程の後に実施しても良く、蒸気加熱処理による特殊な吸着水の存在を妨げる、又は吸着した水を除去する効果を持つ表面処理でなければ両方の処理を同時に実施しても問題はない。
【実施例】
【0050】
以下、実施例、比較例を示して本発明について更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
なお、実施例、比較例の蛍光体の発光特性等の測定は、次の方法で行った。
【0051】
(発光スペクトル)
発光スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてMCPD7000(大塚電子社製)を用いて測定した。励起光455nmの条件で、380nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、発光スペクトルを得た。また、後述する副生した蛍光体の存在を確認するために、励起光340nmの条件でも、同様に380nm以上800nm以下の波長範囲における発光スペクトルを測定した。
【0052】
(色度座標、相対輝度)
x、y表色系(CIE 1931表色系)の色度座標は、上述の方法で得られた発光スペクトルの480nm〜780nmの波長領域のデータから、JIS Z8724に準じた方法で、JIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標xとyとして算出した。なお、相対輝度は、化成オプトニクス社製YAG(品番:P46−Y3)を波長455nmの光で励起した時のXYZ表色系におけるY値を100とした際の相対値で表している。
【0053】
以下に実際の蛍光体の製造方法を説明する。
<実施例1>
(原料の調合)
La:Si=1:1(モル比)の合金、Si3、CeF3をLa:Si=3:6(モル比)かつCeF3/(合金+Si34)=6wt%になるように秤量した。ここにフラックスとしてCs2CO3をCs:Si=0.16:6(モル比)になるように加えた。秤量した原料を乳鉢で混合したあとナイロンメッシュの篩を通して原料を調合した。なお秤量〜調合までの作業は酸素濃度1%以下の窒素雰囲気のグローブボックス内で実施した。
【0054】
(焼成工程)
調合した原料をMoるつぼに充填し、電気炉内にセットした。装置内を真空排気した後、炉内温度を120℃まで昇温し、炉内圧力が真空であることを確認後、水素含有窒素ガス(窒素:水素=96:4(体積比))を大気圧になるまで導入した。その後、1550℃まで炉内温度を昇温し、1550℃で8時間保持した後降温を開始し、焼成処理を終了し蛍光体を得た。
【0055】
(洗浄工程)
焼成した蛍光体をナイロンメッシュの篩を通した後、1N塩酸中で1時間以上攪拌した後、水洗・脱水を行った。その後、120℃の熱風乾燥機で乾燥し、ナイロンメッシュの篩を通して蛍光体を回収した。得られた蛍光体の、発光の色座標と輝度を表1に示す。
また、実施例1の蛍光体を340nmで励起したときの青発光ピーク(380−480nmの発光ピークの発光強度の最大値)と、黄色発光ピーク(480−780nmの発光
ピークの発光強度の最大値)の比(青/黄ピーク比)を表1に示す。実施例1で製造したCe賦活LSN蛍光体は、本来青色に発光ピークを有さないため、この青色の発光ピークは副生してしまった別の蛍光体と考えられ、この値が小さい方がLSN蛍光体の製造方法として優れている。
【0056】
<比較例1>
フラックスとしてCsFを使用した以外は実施例1と同様にして蛍光体を作成した。フラックス量は、CsのSiに対するモル比を実施例1にあわせた。得られた蛍光体の、発光の色座標と輝度、及び青/黄ピーク比を表1に示す。
【0057】
<比較例2>
フラックスとしてCsClを使用した以外は実施例1と同様にして蛍光体を作成した。フラックス量は、CsのSiに対するモル比を実施例1にあわせた。得られた蛍光体の、発光の色座標と輝度、及び青/黄ピーク比を表1に示す。
【0058】
<比較例3>
フラックスを使用しない以外は実施例1と同様にして蛍光体を作成した。得られた蛍光体の、発光の色座標と輝度、及び青/黄ピーク比を表1に示す。
【0059】
【表1】

※相対輝度は、化成オプトニクス社製YAG(品番:P46−Y3)を波長455nmの光で励起した時のXYZ表色系におけるY値を100とした場合の値である。
【0060】
この結果より、炭酸Csを含むフラックスが、特許文献1,2等で、好適とされたハロゲン化物のフラックスを使用したときよりも、より高い輝度の蛍光体を得ることができることがわかる。また、一般に優れたフラックスとされるハロゲン化物よりも、Csの場合は炭酸塩の方が、輝度に優れ、かつ副生物の量も減らすことができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、高輝度かつ不純物の少ないLSN蛍光体を提供することが出来、特に白色LED用に用いた場合に、照明用、ディスプレイのバックライト用に好適に使用することが出来る。また、本発明の製造方法は、これまでより短時間で、高輝度の蛍光体を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる窒化物蛍光体を構成する元素を含有する原料を準備し、該原料と炭酸セシウム及び/または硝酸セシウムとを混合し、得られた混合物を焼成することを特徴とする下記一般式(1)で表される窒化物蛍光体の製造方法。
LnxSiyn:Z ・・・(1)
(一般式(1)中、Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、Zは賦活剤であり、xは2.7≦x≦3.3を満たし、yは5.4≦y≦6.6を満たし、nは10≦n≦12を満たす。)
【請求項2】
該炭酸セシウム及び/または硝酸セシウムが、炭酸セシウムを含む請求項1に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項3】
該該炭酸セシウム及び/または硝酸セシウムの使用量が、蛍光体中のケイ素の量を6モルとしたときのセシウムの仕込みモル比で、0.1以上、2.0以下である請求項1または2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の製造方法により製造された下記一般式(1)で表される窒化物蛍光体。
LnxSiyn:Z ・・・(1)
(一般式(1)中、Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、Zは賦活剤であり、xは2.7≦x≦3.3を満たし、yは5.4≦y≦6.6を満たし、nは10≦n≦12を満たす。)