説明

窒化硼素含有スラリー

【課題】たとえば真空蒸着室の内面に電気絶縁性かつ易剥離性のダミー壁を形成するのに好適なスラリーを提供する。
【解決手段】窒化硼素粉末を5〜30質量%含有するラリーであって、窒化硼素粉末が、黒鉛化指数が3〜15、酸化硼素含有量が0.5質量%未満、平均粒径が20μm以下である窒化硼素粉末含有スラリー。窒化硼素粉末が、(a)黒鉛化指数が5〜30、酸化硼素含有率が0.5〜5質量%、比表面積が20m/g以上、平均粒径が10μm以下、最大粒径が40μm以下である窒化硼素粉末aと、(b)黒鉛化指数が5未満、酸化硼素含有率が0.5質量%未満、平均粒径が5〜30μmである窒化硼素粉末bとの混合窒化硼素粉末であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば真空蒸着室の内面にダミー壁を形成させるのに好適な、窒化硼素含有スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化硼素と導電性物質(例えば硼化ジルコニウム)を含むセラミックス焼結体で構成された金属蒸発発熱体(ボート)は、例えばアルミニウム等の金属をプラスチックなどのフィルムに蒸着するのに用いられている。蒸着操作は、金属線材をボートに供給し、高真空下、300〜400℃に加熱して蒸発させ、それをボートの上方に置かれたフィルムに蒸着させることによって行われる。この蒸着操作によって、真空蒸着室の内面にも金属が沈着するのでほぼ毎回の蒸着ごとに除去される。しかし、金属が強固に付着しているので除去作業に多くの手間をとり蒸着フィルムの生産性を低下させていた。
【0003】
そこで、真空蒸着室の内面に窒化硼素と増粘剤を含有するスラリーを塗布することが提案されたが(特許文献1)、増粘剤が強固に付着した。増粘剤を使用せずに、窒化硼素粉末の結晶性の違いによる増粘作用を利用したスラリー(特許文献2)では、今度は窒化硼素が強固に付着することがあった。このように、これまでのスラリーでは、金属か、増粘剤か、窒化硼素が真空蒸着室の内面に付着する場合があり改善の余地があった。
【特許文献1】特開2005−068257号公報
【特許文献2】特開2005−123413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、真空蒸着室内に、電気絶縁性に優れ、一段と剥離の容易なダミー壁を形成するのに好適なスラリーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、窒化硼素粉末を5〜30質量%含有するラリーであって、窒化硼素粉末が、黒鉛化指数が3〜15、酸化硼素含有量が0.5質量%未満、平均粒径が20μm以下である窒化硼素粉末含有スラリーである。
【0006】
本発明においては、窒化硼素粉末が、(a)黒鉛化指数が5〜30、酸化硼素含有率が0.5〜5質量%、比表面積が20m/g以上、平均粒径が10μm以下、最大粒径が40μm以下である窒化硼素粉末aと、(b)黒鉛化指数が5未満、酸化硼素含有率が0.5質量%未満、平均粒径が5〜30μmである窒化硼素粉末bとの混合窒化硼素粉末であり、(窒化硼素粉末a)/(窒化硼素粉末b)の質量比が1〜25であることが好ましい。また、真空蒸着室の内面にダミー壁を形成させるための窒化硼素含有スラリーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスラリーは、塗布作業が簡単でしかも塗布物は自然乾燥によって固化するので、真空蒸着室の内面にダミー壁等を容易に形成させることができる。このダミー壁等は、真空蒸着後に例えばハンマーで軽く叩く等の衝撃を加えることによって容易に剥離するので蒸着フィルムの生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のスラリーは、増粘剤を用いないこと、窒化硼素粉末として黒鉛化指数が3〜15、酸化硼素含有量が0.5質量%未満、平均粒径が20μm以下のものを用いたこと、特に酸化硼素含有量が0.5質量%未満のものを用いたことが特徴である。増粘剤を用いると、増粘剤の成分が真空蒸着室の内面に強固に付着することがある。
【0009】
窒化硼素粉末の黒鉛化指数が3未満ではスラリーの粘度及びチクソ性の適正化が困難となり、15をこえると、ダミー壁等を形成してもひび割れ、亀裂が生じやすくなる。好ましい黒鉛化指数は5〜10ある。黒鉛化指数(GI)は、窒化硼素粉末のX線回折図の(100)、(101)及び(102)回折線の積分強度比(つまり面積比)より、式、GI=[面積{(100)+(101)}]/[面積(102)]、により算出できる(J.Thomas.et.al,J.Am.Chem.Soc.,84,4619[1962])。
【0010】
窒化硼素粉末の酸化硼素含有量が0.5質量%をこえるとダミー壁等からの剥離性が悪化する。好ましい酸化硼素含有量は0.4質量%以下である。酸化硼素含有率の測定は以下のようにして行う。精秤した試料5g(Ag)とメタノール15mlを50mlのガラス製ビーカーに採取し、液温55〜58℃に保ちながら30秒間、ガラス棒を用い分析技術の常識範囲内でゆっくり攪拌する。得られた混合溶液を120℃で蒸発乾固して質量(Bg)を測定し、(A−B)×100/A、により算出する。
【0011】
窒化硼素粉末の平均粒径が20μmをこえると、スラリー粘度の適正化が困難である。好ましい平均粒径は2〜10μmである。
【0012】
スラリー粘度を適正化し、かつダミー壁等の剥離性を向上させるためには、一種類の窒化硼素粉末では困難である。そこで物性の異なる窒化硼素粉末aと窒化硼素粉末bとを、(窒化硼素粉末a)/(窒化硼素粉末b)の質量比を1〜25、特に5〜23にして混合し、上記物性を満たす窒化硼素粉末を調達することが好ましい。
【0013】
窒化硼素粉末aは主としてスラリー粘度の適正化を担う成分である。窒化硼素粉末aの黒鉛化指数は5〜30であることが好ましい。黒鉛化指数が30よりも高いと、粉末同士のファンデルワールス力による結合が弱いのでスラリーの固化物が脆くなる。その結果、ダミー壁等を形成してもひび割れ、亀裂が生じやすくなる。一方、黒鉛化指数が5よりも低いと、スラリーのチクソ性が低く、塗工後のタレが発生し易くなる。特に好ましい黒鉛化指数は10〜20である。
【0014】
窒化硼素粉末aの酸化硼素含有率は0.5〜5質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、スラリーのチクソ性が低く、塗工後のタレが発生し易くなり、5質量%をこえると、ダミー壁等の電気絶縁性が低下し蒸着時間が短くなる。特に好ましい酸化硼素含有率は0.5〜1.0質量%である。
【0015】
窒化硼素粉末aの比表面積、平均粒径、粒度分布の極限値は、塗工性の良いスラリーを調製する観点から、比表面積が20m/g以上、平均粒径が10μm以下、最大粒径が40μm以下であることが好ましい。とくに、比表面積が30〜70m/g、平均粒径が5μm以下、最大粒径が30μm以下であることが好ましい。
【0016】
窒化硼素粉末bはダミー壁等の剥離性の向上を担う成分である。窒化硼素粉末bの黒鉛化指数が5未満、酸化硼素含有率が0.5質量%以下、平均粒径が5〜50μmであることが好ましい。黒鉛化指数が5以上であると、結晶性が低いためダミー壁等の剥離性が低下する。特に好ましい黒鉛化指数は1.5未満である。酸化硼素含有率が0.5質量%をこえると、ダミー壁等の剥離性が不十分となる。特に好ましい酸化硼素含有率は0.3質量%以下である。平均粒径が5μm未満であると、一次粒子が小さすぎるため剥離性が不十分となり、30μmをこえると、粒子の大半が一次粒子の凝集体で構成されるため、これまた剥離性が低下する。好ましい平均粒径は5〜20μmである。
【0017】
本発明のスラリーの媒体は水及び有機媒体の少なくとも一方である。有機媒体としては、アルコール、直鎖炭化水素、芳香族炭化水素などが用いられる。スラリー中の窒化硼素粉末の含有率は5〜30質量%が好ましく、特に10〜20質量%が好ましい。窒化硼素粉末の含有率が5質量%未満であると、沢山の重ね塗りをしないとダミー壁等を形成させることが容易でなく、またダミー壁等の電気絶縁性も小さくなる傾向がある。一方、30質量%をこえると、塗工性が悪化し、またダミー壁等にひび割れが発生する恐れがある。スラリーの調製には、例えばスリーワンモーター、ボールミル、振動ミル、アトライターミル等の混合機が使用される。
【0018】
スラリーの粘度としては、真空蒸着室の側壁や天井等への塗工性の点から、10〜1000Pa・sが好ましく、特に100〜500Pa・sであることが好ましい。このような粘度は、ポリエチレングリコール等の有機物を積極的に添加することによって実現できる。
【0019】
スラリーの塗工は、例えば刷毛塗り、へら塗り、スプレー塗布等によって行われ、塗布後の固化は、自然乾燥、200℃以下の熱風をあてる強制乾燥のいずれでも可能である。
【実施例】
【0020】
実施例1〜8 比較例1〜7
黒鉛化指数、酸化硼素含有率、比表面積、平均粒径及び最大粒径が異なる3種の窒化硼素粉末(電気化学工業社製商品名「SP−2」、「SGP」、「GP」)を所定量配合して混合窒化硼素粉末となし、アトライターミルを用い、蒸留水と3時間混合してスラリーを調製した。得られたスラリーの塗工性、タレ性及びダミー壁の剥離性を以下に従い評価した。それらの結果を表1に示す。
【0021】
(1)塗工性
アルミニウム真空蒸着室の内壁の側壁に約10mmの厚さにスラリーを刷毛塗りし、塗布面積あたりの塗布量(塗布速度)を測定した。
(2)タレ性
アルミニウム真空蒸着室の天井面に5kg/mのスラリーを刷毛塗りし、1分間放置した際のタレ量を測定し、「優」:タレがない、「良」:タレ量が10g/m未満である、「不可」:タレ量が10g/m以上である、で評価した。
(3)剥離性
アルミニウム真空蒸着室の内側壁と天井面にスラリーを塗布した後、2時間自然乾燥させてダミー壁(厚み10mm)を形成させた後、0.01Paに真空排気し、5g/分の速度で5分間、アルミニウムを蒸発させた。この時、真空蒸着室の内側壁と天井面の温度は130〜170℃となった。その後、真空蒸着室を室温まで冷却し、内側壁に形成させたダミー壁をハンマーで1〜2kg・m/sの衝撃力を与えた。このとき、ダミー壁の剥離率(真空蒸着室の内側壁の面積に対する剥がれたダミー壁面積の比率)を測定し、更に剥離率が100%のときには、剥離に要した時間を測定し、式、剥離時間(秒/m)=(剥離に要した時間/真空蒸着室の内側壁の面積)、により単位面積当たりの剥離所要時間を算出した。
【0022】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のスラリーは、例えば金属の真空蒸着室内にダミー壁を形成させるのに使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化硼素粉末を5〜30質量%含有するスラリーであって、窒化硼素粉末が、黒鉛化指数が3〜15、酸化硼素含有量が0.5質量%未満、平均粒径が20μm以下である窒化硼素粉末含有スラリー。
【請求項2】
窒化硼素粉末が、(a)黒鉛化指数が5〜30、酸化硼素含有率が0.5〜5質量%、比表面積が20m/g以上、平均粒径が10μm以下、最大粒径が40μm以下である窒化硼素粉末aと、(b)黒鉛化指数が5未満、酸化硼素含有率が0.5質量%未満、平均粒径が5〜30μmである窒化硼素粉末bとの混合窒化硼素粉末であり、(窒化硼素粉末a)/(窒化硼素粉末b)の質量比が1〜25である請求項1記載の窒化硼素粉末含有スラリー。
【請求項3】
真空蒸着室の内面にダミー壁を形成させるためのものである請求項1又は2記載の窒化硼素含有スラリー。

【公開番号】特開2008−189488(P2008−189488A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23737(P2007−23737)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】