説明

窒化鉄系磁性粉末の製造方法、窒化鉄系磁性粉末、及び磁気記録媒体

【課題】微粒子でありながら、粒度分布が良好で、優れた磁気特性を有する窒化鉄系磁性粉末を提供する。
【解決手段】Fe16相を含み、5〜20nmの平均粒子サイズを有する実質的に粒状の窒化鉄系磁性粉末の製造方法であって、鉄化合物と水系溶媒とが混合された混合液を調製し、前記混合液にマイクロ波を照射することにより鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成し、前記鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を還元処理することにより鉄系金属粉末を形成し、前記鉄系金属粉末を窒化処理することにより窒化鉄系磁性粉末を製造する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に用いられる窒化鉄系磁性粉末の製造方法に関し、さらに詳しくは、デジタルビデオテープ、コンピュータ用バックアップテープ等の高密度記録が要求される磁気記録媒体に好適に用いられる窒化鉄系磁性粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粉末が結合剤に分散された磁性層を有する塗布型の磁気記録媒体は、アナログ方式からデジタル方式への記録再生方式の移行に伴い、記録密度の一層の向上が要求されている。特に、高密度デジタルビデオテープやコンピュータ用バックアップテープ等に用いられる磁気記録媒体においては、この要求が年々高まってきている。
【0003】
このような記録密度の向上にあたり、短波長記録に対応するため、年々磁性粉末の微粒子化が図られており、現在では0.1μm以下の粒子長を有する針状の鉄系金属磁性粉末が実用化に供されている。また、短波長記録における減磁による出力低下を防止するため、年々磁性粉末の高保磁力化が図られてきている。例えば、鉄−コバルト合金化により、199.0kA/m(2,500Oe)程度の保磁力を有する鉄系金属磁性粉末が実現されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、これらの針状粒子を用いる磁気記録媒体では保磁力が磁性粉末の形状に依存することから、上記粒子長からの大幅な微粒子化は困難になってきている。
そこで、本出願人は、5〜50nmの平均粒子サイズと、200kA/m以上の高保磁力とを有し、主相としてFe16相を有する窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体を先に提案した(特許文献2)。
【特許文献1】特開平3−49026号公報
【特許文献2】特開2004−273094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような窒化鉄系磁性粉末は、鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を還元して鉄系金属粉末を形成し、この鉄系金属粉末を窒化処理することにより製造されるため、得られる窒化鉄系磁性粉末は粒子サイズにバラツキがあり、粒度分布を有している。従って、高密度記録を目的として磁性粉末の微粒子化を進めていくと、粒子サイズのバラツキが磁気記録媒体の磁気特性に与える影響が大きくなり、その結果、電磁変換特性を悪化させることとなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、微粒子でありながら、粒度分布が良好で、優れた磁気特性を有する窒化鉄系磁性粉末を提供し、もって磁気特性及び電磁変換特性に優れたデジタルビデオテープ、コンピュータ用バックアップテープ等の高密度記録用の磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Fe16相を含み、5〜20nmの平均粒子サイズを有する実質的に粒状の窒化鉄系磁性粉末の製造方法であって、
鉄化合物と水系溶媒とが混合された混合液を調製し、
前記混合液にマイクロ波を照射することにより鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成し、
前記鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を還元処理することにより鉄系金属粉末を形成し、
前記鉄系金属粉末を窒化処理することにより窒化鉄系磁性粉末を製造する製造方法である。
上記製造方法によれば、窒化鉄系磁性粉末の原料粉末である鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末の形成にあたり、鉄化合物と水系溶媒とが混合された混合液にマイクロ波が照射されるため、混合液を速やかに加熱することができるとともに、混合液を均一に加熱することができる。このため、微粒子であっても、粒子サイズが揃った粒度分布の狭い鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成することができる。そして、上記のようなマイクロ波を照射することにより形成される微粒子の鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を用いて窒化鉄系磁性粉末を形成することにより、微粒子でありながら、粒度分布が良好で、磁気特性に優れた窒化鉄系磁性粉末が得られる。
【0008】
前記混合液は、さらに還元性化合物を含有することが好ましい。上記製造方法によれば、均質な鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成することができる。
【0009】
また、前記混合液は、さらに水溶性界面活性剤を含有することを好ましい。上記製造方法によれば、得られる鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末の粒子サイズを制御できるだけでなく、形成されたこれら粉末の水溶液中での分散性も向上させることができる。
【0010】
上記製造方法においては、前記混合液に、非水溶性有機溶媒を添加して、水性相及び油性相の2相を有する2相混合液を調製し、前記2相混合液にマイクロ波を照射することにより鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成してもよい。鉄化合物が水系溶媒に混合された混合液中で形成される鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末は一般に水性媒体中で結晶成長するが、水性相及び油性相の2相を有する2相混合液にマイクロ波が照射されると、加熱によって水性相中で対流が生じる。このため、水性相で生じた粉末が油性相に移動する推進力が生じ、形成された粉末が油性相に分散され、不純物や不要物が水性相に残存する。これにより、さらに結晶性に優れた微粒子の鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成することができる。
【0011】
また、上記2相混合液は、さらに前記非水溶性有機溶媒に対して溶解性を有する非水溶性界面活性剤を含有することが好ましい。上記製造方法によれば、水性相から油性相に移動してきた鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末の表面に非水溶性界面活性剤が被着する。このため、これらの粉末が全体として疎水性を帯び、油性相に安定して分散される。
【0012】
上記窒化鉄系磁性粉末は、さらに希土類元素、シリコン、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することが好ましい。上記製造方法によれば、還元処理時の粒子形状の崩れが抑えられるとともに、微粒子であっても耐食性に優れた窒化鉄系磁性粉末を形成することができる。
【0013】
そして、本発明は、上記製造方法によって製造される窒化鉄系磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体である。上記製造方法によって形成される窒化鉄系磁性粉末は、微粒子でありながら粒子サイズが揃っており、磁気特性に優れるため、前記窒化鉄系磁性粉末を用いた磁性層を有する磁気記録媒体は優れた磁気特性及び電磁変換特性を有する。
【0014】
上記磁気記録媒体は、前記非支持性支持体と磁性層との間に、さらに下塗り層を少なくとも1層有し、前記磁性層は、200nm以下の厚さを有することが好ましい。磁性層と非磁性支持体との間に下塗り層を設けることにより、上層磁性層の表面性を向上することができるため、微粒子で、磁気特性に優れる窒化鉄系磁性粉末の特性が十分に発揮される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、微粒子でありながら、粒度分布が良好で、磁気特性に優れた窒化鉄系磁性粉末を提供することができる。このため、磁気特性及び電磁変換特性に優れたデジタルビデオテープ、コンピュータ用バックアップテープ等の高密度記録用の磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本実施の形態の窒化鉄系磁性粉末の製造にあたっては、まず鉄化合物が水系溶媒に混合された混合液が調製される。このような鉄化合物としては、具体的には、例えば、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、酢酸鉄等の鉄塩やアセチルアセトナト鉄錯体等の鉄錯体等を挙げることができる。これらは単独または複数混合して用いてもよい。上記鉄化合物は、2価の鉄、3価の鉄いずれを含有していてもよい。これらの中でも、得られる鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を水洗する際に不純物や不要物が粉末中に残留し難くなるため、塩化鉄が好ましい。
【0017】
また、混合液中で鉄化合物は溶解している必要はない。例えば、鉄塩を塩基を含有する水系溶媒と混合して水酸化鉄等の鉄化合物を析出させ、該鉄化合物が懸濁状態で分散された混合液を調製してもよい。さらに、所定の粒子サイズの鉄系酸化物粉末が形成される前段階の微細な鉄系酸化物粉末が懸濁状態で分散された混合液を調製してもよい。このような塩基としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、尿素等を挙げることができる。これらの中でも、形成された鉄系酸化物粉末を水洗する際に不純物や不要物が粉末に残留し難くなるため、アンモニア水が好ましい。鉄化合物の量は、混合液全量に対して、好ましくは0.1〜10wt%であり、より好ましくは0.2〜5wt%である。鉄化合物を溶解させる水系溶媒は、特に限定されるわけではないが、イオン交換水、滅菌水または超純水等の水が好ましい。
【0018】
混合液は、還元性化合物を含有することが好ましい。還元性化合物を含有する混合液を用いることにより、均質な鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成することができる。このような還元性化合物としては、具体的には、例えば、次亜燐酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ポリオール等の汎用性のある還元性化合物が挙げられ、これらの中でもポリオールが好ましい。これらは単独または複数混合して用いてもよい。ポリオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチルグリコール等が挙げられる。還元性化合物の量は、混合液全量に対して、好ましくは1〜90wt%であり、より好ましくは10〜80wt%である。
【0019】
混合液は、水溶性界面活性剤を含有することが好ましい。水溶性界面活性剤を含有する混合液を用いることにより、得られる鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末の粒子サイズを制御できるだけでなく、形成されたこれら粉末の混合液中での分散性を向上させることができる。このような水溶性界面活性剤としては、具体的には、例えば、ポリアクリル酸、Tween20(ナカライテスク社製)、TritonX−100(ナカライテスク社製)等を挙げることができる。これらは単独または複数混合して用いてもよい。水溶性界面活性剤の量は、混合液全量に対して、好ましくは1〜90wt%であり、より好ましくは10〜80wt%である。
【0020】
混合液には、希土類元素、シリコン、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物を添加してもよい。このような元素を有する化合物を混合液に添加することにより、還元処理時の粒子形状の崩れを抑えることができるとともに、形成される窒化鉄系磁性粉末の磁気特性を改善することができる。
【0021】
また、本実施の形態では、上記混合液に非水溶性有機溶媒を添加することにより、水性相及び油性相を有する2相混合液を調製してもよい。混合液中で形成される鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末は、一般に水性媒体中で結晶成長する。そして、これらの粉末を形成するために後述するマイクロ波を2相混合液に照射した場合、加熱によって水性相中で対流が生じるため、水性相で形成された粉末が油性相に移動する推進力が生じる。このため、形成された粉末が油性相中に安定に分散されるとともに、不純物や不要物が水性相に残存する。これにより、さらに高い結晶性を有する微粒子の鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成することができる。このような非水溶性有機溶媒としては、具体的には、例えば、トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、デカン、オクタン、ベンゼンジエチルエーテル等を挙げることができる。これらは単独または複数混合して用いてもよい。
【0022】
2相混合液を調製する場合、油性相は、非水溶性有機溶媒に対して溶解性を有する非水溶性界面活性剤を含有することが好ましい。油性相中に非水溶性界面活性剤を添加することにより、水性相から油性相に移動してきた鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末の表面に非水溶性界面活性剤が被着する。このため、これら粉末が全体として疎水性を帯び、油性相に安定して分散される。このような非水溶性界面活性剤としては、具体的には、例えば、デカン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸;ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等の脂肪族アミン等を挙げることができる。これらは単独または複数混合して用いてもよい。非水溶性界面活性剤の量は、非水溶性有機溶媒の全量に対して、好ましくは1〜90wt%であり、より好ましくは5〜50wt%である。なお、非水溶性界面活性剤は、非水溶性有機溶媒に予め溶解させた形態で添加してもよい。
【0023】
次に、上記のようにして調製された混合液を加熱することにより一定粒子サイズの鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末が形成される。このような鉄系酸化物粉末としては、例えば、マグネタイト粉末、ヘマタイト粉末、γ−酸化鉄粉末等の酸化鉄粉末が挙げられ、鉄系水酸化物粉末としては、例えば、ゲーサイト粉末等の水酸化鉄粉末が挙げられる。
【0024】
本実施の形態において、鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成するための混合液の加熱はマイクロ波を混合液に照射することに行われる。混合液にマイクロ波を照射することにより、ヒータ等の熱源を用いる場合と比べて、混合液を内部まで速やかに加熱することができるとともに、混合液を均一に加熱することができる。このため、微粒子であっても、結晶性に優れるとともに、粒子サイズが揃った粒度分布の狭い鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成することができる。そして、マイクロ波の照射によって形成される鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を還元、窒化処理することにより、微粒子で、粒度分布が狭く、優れた磁気特性を有する窒化鉄系磁性粉末を形成することができる。この理由は必ずしも明らかではないが、加熱手段としてマイクロ波を用いた場合、形成される鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末の結晶性が向上しているため、これらの粉末を還元、窒化処理した場合に、磁気特性に優れたFe16相が形成されやすくなっているためと考えられる。また、マイクロ波を照射することによって形成される鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末は、これら粉末から鉄系金属粉末を形成する際の還元むらも生じ難くなっていると考えられる。このため、過度に粒子サイズの大きな粉末や、磁性の低下した過度に微粒子の粉末の生成を抑制できる。さらに、上記のようにして形成される鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末は狭い粒度分布を有するため、該粉末を用いて還元、窒化処理することにより微粒子でありながら、狭い粒度分布を有する窒化鉄系磁性粉末を形成することができる。
【0025】
また、2相混合液にマイクロ波を照射した場合、主として水性相でマイクロ波が吸収される。このため、上記したように水性相中で対流が生じ、水性相で形成された粉末が油性相に移動する。従って、形成された粉末が油性相に分散されるとともに、不純物や不要物が水性相に残存する。これにより、形成される鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末と不純物や不要物とが分離され、不要物や不純物の含有量が少なくなり、さらに結晶性に優れた鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成できる。また、鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末と不純物や不要物との分離も容易となる。さらに、油性相に非水溶性界面活性剤を含有する場合、上記したように油性相に移動してきた鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末に非水溶性界面活性剤が被着する。具体的には、非水溶性界面活性剤の親水基が粉末側に、親油基または疎水基が油性相側に位置するように非水溶性界面活性剤が粉末の表面に被着する。この結果、粉末が全体として疎水性を帯び、油性相に安定して分散される。従って、粉末間の凝集が抑えられ、還元処理時の焼結も抑えられる。
【0026】
形成される鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末の粒子サイズは、マイクロ波による加熱温度及び時間等の照射条件を変更することにより制御することができる。具体的には、マイクロ波は、混合液の温度が150〜300℃、好ましくは160〜250℃となるまで混合液に照射することが好ましい。混合液の温度が低くなりすぎると反応が不十分となり、目的生成物である粉末の形成が困難となる。混合液の温度が高くなりすぎると容器中の圧力がより高くなって爆発等の危険が生じ得る。また、マイクロ波の照射にあたっては、前記温度に混合液を昇温した後、その温度を一定時間保持することが好ましい。昇温後に混合液の温度を保持することにより、結晶性に優れた粉末が形成されるとともに、粒度分布がより狭くなり、粒子サイズのバラツキをさらに抑えることができる。昇温後の保持時間は、好ましくは1分〜4時間であり、より好ましくは10分〜2時間である。
【0027】
照射するマイクロ波の周波数は、混合液を目標温度(すなわち、好ましくは150〜300℃、より好ましくは160〜250℃)にまで加熱できるものであれば、特に制限されない。例えば2.45GHzの周波数を利用するマイクロ波照射器は低価格であり経済的であるとともに、目標温度に達する時間の短縮化と温度制御との双方を適宜調整できるので特に好ましい。マイクロ波の出力を可変制御できる装置としては、マイルストーンゼネラル社製のMicroSYNTHを挙げることができる。
【0028】
形成された鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末は、洗浄及び乾燥に付すことが好ましい。これらの粉末を洗浄することによって、粉末表面から不純物及び不要物を除去できる。洗浄は、水を用いた水洗が好ましい。水以外にもエタノール等のアルコールまたは水溶性界面活性剤を含有する洗浄液を用いてもよい。乾燥温度は、好ましくは30〜150℃であり、より好ましくは40〜95℃である。
【0029】
本実施の形態においては、上記のようにして鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成した後、これら粉末を水系溶剤に再度分散させた分散液を調製し、該分散液にさらにマイクロ波を照射する精製処理を行ってもよい。形成された鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末にマイクロ波を再度照射することにより、粒子サイズを調整することができるとともに、不要物や不純物を除去することができる。このため、さらに粒度分布が狭く、磁気特性に優れた窒化鉄系磁性粉末を形成することができる。分散用の水系溶剤としては、上記と同様の水系溶剤を使用することができる。また、精製のためのマイクロ波の照射条件は、上記と同様の条件を採用することができる。
【0030】
次に、上記のようにして形成された鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を還元処理することにより、鉄系金属粉末が形成される。還元処理する鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末は、必要に応じて予め分級してもよい。還元処理する鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末の平均粒子サイズは、微粒子の窒化鉄系磁性粉末を形成するためにも1〜25nmが好ましい。1nm以上の平均粒子サイズを有する鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を用いることにより、還元処理時の粒子間焼結を低減することができる。また、25nm以下の平均粒子サイズを有する鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を用いることにより、微粒子の鉄系金属粉末を形成することができる。本実施の形態においては、鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末は、還元処理前に希土類元素、シリコン、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を被着させてもよい。希土類元素としては、イットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジウム等を挙げることができる。このような被着処理を行うことにより、還元処理時の粒子形状の崩れが抑えられるだけでなく、得られる窒化鉄系磁性粉末の保存安定性を向上することができる。これらの中でも、シリコン、アルミニウム、イットリウム、サマリウム、及びネオジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が好ましい。また、必要に応じて、ホウ素、リン、炭素、マグネシウム、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウム等の元素を粉末に被着させてもよい。このような還元処理前の被着処理を行うことにより、Fe16相を主相とする窒化鉄を主として含有する内層部分と、上記被着元素を主として含有する外層部分とを有する2層構成の窒化鉄系磁性粉末を形成することができる。このため、高保磁力でありながら、高い分散性や優れた形状保持性を有する窒化鉄系磁性粉末を得ることができる。被着処理にあたっては、鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末をアルカリまたは酸の水溶液中に分散させ、この水溶液に上記被着元素を有する塩を溶解させ、中和反応等によりこれらの元素を含有する水酸化物や水和物を粉末の表面に吸着あるいは沈殿析出させるようにすればよい。被着量は、希土類元素の場合、Feに対して、好ましくは0.5〜20原子%であり、シリコン及びアルミニウムの場合、それぞれFeに対して、好ましくは0.5〜50原子%である。なお、被着処理を効率よく行うために、還元剤、pH緩衝剤、粒径制御剤等の添加剤を使用してもよい。
【0031】
還元処理は、気相還元処理、液相還元処理のいずれであってもよい。気相で還元処理を行う場合、水素ガス、一酸化炭素ガス等の還元性ガスを使用することができる。液相で還元処理を行う場合、水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム等の汎用の還元剤を用いてもよく、ポリオール類等のアルコール系還元剤を用いてもよい。溶媒は水系溶媒、有機系溶媒のいずれを使用してもよい。これらの還元処理方法は併用してもよく、例えば、液相還元処理を還元性ガス雰囲気中で行うこともできる。気相還元処理の場合、還元温度は100〜600℃が好ましい。還元温度が100℃より低くなると、還元反応が十分進まなくなる傾向がある。還元温度が600℃を超えると、焼結が起こりやすくなる傾向がある。液相還元処理の場合、還元温度は0〜350℃が好ましい。還元温度が0℃より低くなると還元反応が十分進みにくくなる傾向がある。還元温度が350℃を超えると、粒成長が進みやすくなり、粒子サイズのコントロールが困難となる傾向がある。
【0032】
次に、上記のようにして形成された鉄系金属粉末を窒化処理することにより、窒化鉄系磁性粉末が形成される。窒化処理は、アンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。アンモニアガス単体のほかに、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガス等をキャリアーガスとした混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、特に好ましい。窒化処理温度は、90〜300℃が好ましい。窒化処理温度が低すぎると、窒化が十分進まず、保磁力増加の効果が少なくなる。窒化処理温度が高すぎると、窒化が過剰に促進され、FeN相やFeN相等の割合が増加し、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の過度な低下が引き起こされやすい。
【0033】
窒化処理にあたっては、得られる磁性粉末中の鉄に対する窒素の含有量が1.0〜20.0原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが好ましい。窒素の量が少なすぎると、Fe16相の生成量が少ないため、保磁力向上の効果が少なくなる。窒素の量が多すぎるとFeN相やFeN相等が形成されやすくなり、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0034】
本実施の形態においては、窒化処理後に、さらに希土類元素、シリコン、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を窒化鉄系磁性粉末に被着させる被着処理を行ってもよい。このような被着処理を行うことにより、上記の還元処理前の被着処理と同様に、得られる窒化鉄系磁性粉末の保存安定性を向上することができる。
【0035】
上記製造方法によって形成される窒化鉄系磁性粉末は、5〜20nmの平均粒子サイズを有する微粒子の窒化鉄系磁性粉末でありながら、粒子サイズが揃っている。すなわち、粒子サイズのバラツキの少ない、狭い粒度分布を有する窒化鉄系磁性粉末を形成できる。これにより、磁性粉末として窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体の保磁力分布(SFD:Swiching Field Distribution)を低減することができる。そして、微粒子化に伴い、磁性が低下した過度に微粒子の粉末が形成される可能性があるが、上記製造方法によれば、均質な窒化鉄系磁性粉末が形成できるため、平均粒子サイズが同程度でも、高い飽和磁化を有する窒化鉄系磁性粉末を形成することができる。
【0036】
また、上記の製造方法によって形成される窒化鉄系磁性粉末は、主相として高結晶のFe16相を有している。このため、119.4〜318.5kA/m(1,500〜4,000Oe)の高い保磁力と、50〜150Am/kg(50〜150emu/g)の適度な飽和磁化を有する窒化鉄系磁性粉末が得られる。なお、窒化鉄系磁性粉末は、Fe16相以外に、Fe相、FeN相、α−Fe相等の結晶相を含んでいてもよい。これらの混合比を調節することにより所望の特性を設定できる。また、窒化鉄系磁性粉末は5〜20nmの平均粒子サイズを有し、実質的に粒状の形状を有するため、針状の磁性粉末と比べ、磁性層中に高密度に窒化鉄系磁性粉末を充填することができるとともに、平滑な表面を有する磁性層を形成することができる。なお、実質的に粒状とは、軸比[長軸長/短軸長]の平均値が1〜2、特に好ましくは1〜1.5の略球状乃至略楕円体状の形状が含まれる。また、窒化鉄系磁性粉末は、形状が粒状であれば、粉末の表面に凹凸があってもよく、若干の変形を有していてもよい。平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡により撮影した窒化鉄系磁性粉末300個の平均値である。
【0037】
上記窒化鉄系磁性粉末は、高保磁力であるとともに、微粒子で、且つ狭い粒度分布を有するため、薄層の磁性層を有する磁気記録媒体に適用された場合にその優れた特性が顕著に発現される。すなわち、上記窒化鉄系磁性粉末を用いることにより、高保磁力、低SFDで、優れたC/N比を有する磁気記録媒体を製造することができる。本実施の形態の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に、窒化鉄系磁性粉末を含有する磁性層、必要により下塗り層及びバックコート層を形成することによって製造することができる。以下、非磁性支持体、磁性層、下塗り層及びバックコート層の各構成、塗料の調製方法、及び磁気記録媒体の製造方法を説明する。
【0038】
(非磁性支持体)
非磁性支持体としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体を使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド、芳香族ポリアミド等からなる厚さが通常2〜15μm、特に2〜7μmのプラスチックフィルムが用いられる。
【0039】
(磁性層)
磁性層の厚さは、長手記録の本質的な課題である減磁による出力低下の問題を解決するため、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは10〜200nmであり、さらに好ましくは10〜100nmである。磁性層の厚さが200nmを超えると、厚さ損失により再生出力が小さくなったり、残留磁束密度と厚さの積が大きくなりすぎて、MRヘッドの飽和による再生出力の歪が起こりやすい傾向がある。磁性層の厚さが10nm未満では、均一な磁性層が得られにくい傾向がある。このような薄層の磁性層に上記製造方法により形成された窒化鉄系磁性粉末を適用すれば、その特性が顕著に発揮される。特に、上記製造方法により形成された窒化鉄系磁性粉末は、平均粒子サイズが5〜20nmと極めて微粒子で且つ実質的に粒状の窒化鉄系磁性粉末であるため、従来の針状磁性粉末ではほとんど不可能な極めて薄い磁性層厚さも実現できる。
【0040】
磁気テープの場合、磁性層の長手方向の保磁力は、好ましくは79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000Oe)であり、より好ましくは119.4〜318.4kA/m(1,500〜4,000Oe)である。保磁力が79.6kA/m未満では、短波長記録において反磁界減磁により出力低下が起こりやすくなる傾向がある。保磁力が318.4kA/mを超えると、現状の磁気ヘッドによる記録が困難になる傾向がある。また、長手方向の角形比(Br/Bm)は、通常0.6〜0.9であり、好ましくは0.8〜0.9である。さらに、長手方向の飽和磁束密度と厚さとの積は、好ましくは0.001〜0.1μTmであり、より好ましくは0.0015〜0.05μTmである。前記積が0.001μTm未満では、MRヘッドを使用した場合でも再生出力が小さくなる傾向がある。前記積が0.1μTmを超えると、短波長領域で高い出力が得られ難くなる傾向がある。磁性層には、導電性と表面潤滑性の向上を目的に、従来公知のカーボンブラックを含ませてもよい。
【0041】
(下塗り層)
本実施の形態の磁気記録媒体においては、非磁性支持体と磁性層との間に下塗り層を設けてもよい。下塗り層の厚さは、好ましくは0.1〜3.0μmであり、より好ましくは0.15〜2.5μmである。下塗り層の厚さが0.1μm未満では、磁気テープの耐久性が悪くなる傾向がある。また、下塗り層の厚さが3.0μmを超えると、磁気テープの耐久性の向上効果が飽和する傾向があり、またテープ全厚が厚くなるため、1巻当りのテープ長さが短くなり、記憶容量が小さくなる傾向がある。下塗り層には、塗料粘度やテープ剛性の制御を目的として、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム等の非磁性粉末;γ−酸化鉄、Co−γ−酸化鉄、マグネタイト、酸化クロム、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Fe−Ni−Co合金、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライト、Ni−Cu系フェライト、Cu−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライト等の磁性粉末を含ませることができる。これらは単独または複数混合して用いてもよい。また、下塗り層には、導電性を付与するため、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックを含ませてもよい。
【0042】
(結合剤)
磁性層及び下塗り層に使用する結合剤としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、エポキシ系樹脂及びポリウレタン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との併用が好ましく、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂とポリウレタン系樹脂との併用がより好ましい。また、これらの結合剤は、粉末の分散性を向上し、充填性を上げるために、官能基を有するものが好ましい。このような官能基としては、具体的には、例えば、COOM、SOM、OSOM、P=O(OM)、O−P=O(OM)(Mは水素原子、アルカリ金属塩またはアミン塩)、OH、NR、NR(R,R,R,R及びRは、水素または炭化水素基であり、通常その炭素数が1〜10である)、エポキシ基等を挙げることができる。2種以上の樹脂を併用する場合、官能基の極性が一致した樹脂を用いるのが好ましく、中でも、−SOM基を有する樹脂の組み合わせが好ましい。これらの結合剤は、磁性層、下塗り層の各粉末100質量部に対して、7〜50質量部、好ましくは10〜35質量部の範囲で用いられる。特に、塩化ビニル系樹脂5〜30質量部と、ポリウレタン系樹脂2〜20質量部との併用が好ましい。
【0043】
また、上記の結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基等と結合し架橋構造を形成する熱硬化性の架橋剤を併用することが好ましい。架橋剤としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート化合物;イソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等の水酸基を複数個有する化合物との反応生成物;イソシアネート化合物の縮合生成物等の各種のポリイソシアネートを挙げることができる。架橋剤は、結合剤100質量部に対して、通常10〜50質量部の範囲で用いられる。
【0044】
(潤滑剤)
磁性層及び下塗り層は潤滑剤を含有することが好ましい。このような潤滑剤としては、従来公知の脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等を用いることができる。これらの中でも、10以上、より好ましくは12〜30の炭素数を有する脂肪酸と、35℃以下、より好ましくは10℃以下の融点を有する脂肪酸エステルとの併用が好ましい。脂肪酸としては、具体的には、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。また、脂肪酸エステルとしては、具体的には、例えば、オレイン酸n−ブチル、オレイン酸ヘキシル、オレイン酸n−オクチル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸オレイル、ラウリン酸n−ブチル、ラウリン酸ヘプチル、ミリスチン酸n−ブチル、オレイン酸n−ブトキシエチル、トリメチロールプロパントリオレエート、ステアリン酸n−ブチル、ステアリン酸s−ブチル、ステアリン酸イソアミル、ステアリン酸ブチルセロソルブ等が挙げられる。
【0045】
(バックコート層)
本実施の形態の磁気記録媒体は、バックコート層を設けてもよい。バックコート層の厚さは、好ましくは0.2〜0.8μmであり、より好ましくは0.3〜0.8μmであり、さらに好ましくは0.3〜0.6μmである。バックコート層は、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックを含有することが好ましい。バックコート層の結合剤としては、磁性層や下塗り層に用いられる樹脂と同様の樹脂を用いることができる。中でも、摩擦係数を低減し走行性を向上するため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂との併用が好ましい。
【0046】
(塗料の溶剤)
磁性層用塗料、下塗り層用塗料及びバックコート層用塗料の調製のために用いられる溶剤としては、従来から磁気記録媒体の製造で使用されている溶剤を使用することができる。このような溶剤としては、具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の炭酸エステル系溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤等を挙げることができる。その他、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等の各種の有機溶剤を用いてもよい。
【0047】
(塗料の調製方法及び塗布方法)
磁性層用塗料、下塗り層用塗料及びバックコート層用塗料の調製にあたっては、従来から磁気記録媒体の製造で使用されている塗料製造方法を使用できる。磁性層用塗料及び下塗り層用塗料の調製にあたっては、ニーダ等による混練工程と、サンドミル、ピンミル等による一次分散工程との併用が好ましい。また、非磁性支持体上に、磁性層用塗料、下塗り層用塗料及びバックコート層用塗料を塗布するにあたっては、グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージヨン塗布等の従来から磁気記録媒体の製造で使用されている塗布方法を使用できる。磁性層用塗料及び下塗り層用塗料の塗布は、逐次重層塗布方法、同時重層塗布方法(ウェットオンウェット法)のいずれを使用してもよい。バックコート層は、磁性層及び下塗り層が形成される前に形成されてもよいし、磁性層及び下塗り層が形成された後に形成されてもよい。
【0048】
(表面処理)
上記のようにして製造される磁気記録媒体は、必要に応じてラッピング処理、ロータリー処理、ティッシュ処理等の表面処理を行ってもよい。このような表面処理を施すことにより、表面平滑性、MRヘッドのスライダ材料やシリンダ材料との摩擦係数等が最適化される。その結果、磁気テープの走行性、スペーシングロスの低減、MR再生出力の向上を図ることができる。
【0049】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。なお、以下において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【実施例】
【0050】
[窒化鉄系磁性粉末の製造]
(実施例1−1)
塩化第2鉄1.5部を、水5部と混合し、さらに28質量%のアンモニア水5部を混合して、撹拌することにより水酸化鉄を沈殿析出させた後、エチレングリコール17部を添加して懸濁状態の混合液を調製した。この混合液に、オレイン酸1部及びオレイルアミン1部を溶解させたトルエン溶液23部を加えて、水性相と油性相とからなる2相混合液を調製した。この2相混合液を水熱反応容器に仕込み、マイルストーンゼネラル社製マイクロ波水熱反応装置MicroSYNTHを用いて、2相混合液を加熱し、水熱反応処理を行った。加熱にあたっては、マイクロ波の最大出力を1000Wとし、水性相の温度を10分間かけて220℃まで昇温させた後、1時間220℃で温度を維持した。マイクロ波の照射後、2相混合液を放冷により室温まで冷却した。冷却後、2相混合液の油性相と水性相とを分離し、油性相にアルコールを添加し、凝集を沈降させて、酸化鉄粉末を回収した。このようにして形成された酸化鉄粉末は、平均粒子サイズが10nmであった。また、粉末X線測定の結果、酸化鉄粉末はマグネタイト相を有することが確認された。
【0051】
上記のようにして得られた酸化鉄粉末10部を水500部に分散させた後、該水溶液に硝酸イットリウム0.8部を混合し、撹拌して水溶液を調製した。上記水溶液とは別に、水酸化ナトリウム0.2部を水500部に溶解させた水酸化ナトリウム溶液を調製した。この水酸化ナトリウム溶液を、上記水溶液に約30分間かけて滴下した。滴下後、さらに水溶液を1時間撹拌した。撹拌後、珪酸ナトリウム10部を水溶液に添加し、1時間撹拌した。この処理により、酸化鉄粉末の表面にイットリウム化合物とシリコン化合物とを被着析出させた。水溶液を水洗し、ろ過した後、ろ過物を90℃で乾燥して、被着元素を有する酸化鉄粉末を形成した。
【0052】
上記のようにして得られた被着元素を有する酸化鉄粉末を、水素気流中、450℃で2時間加熱還元した後、冷却して、鉄系金属粉末を形成した。次に、水素ガスを流した状態で、約1時間かけて150℃まで冷却した。温度が150℃に到達した時点で、水素ガスからアンモニアガスに切り替え、温度を150℃に保った状態で、30時間窒化処理を行った。その後、アンモニアガスを流した状態で、150℃から100℃まで冷却した。温度が100℃に到達した時点で、アンモニアガスから酸素と窒素との混合ガスに切り替え、2時間安定化処理を行った。ついで、混合ガスを流した状態で、100℃から30℃まで冷却し、窒化鉄系磁性粉末を空気中に取り出した。
【0053】
このようにして得られた窒化鉄系磁性粉末のイットリウムとシリコンの含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれFeに対して、1.3原子%と30.8原子%であった。また、X線回折パターンでFe16相を示すプロファイルが確認された。さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、形状が粒状で、平均粒子サイズが9nmの粉末であることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、150m/gであった。また、この窒化鉄系磁性粉末の磁気特性を振動試料型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁場1,270kA/m(16kOe)、磁場掃引速度80kA/m(1kOe)/分で測定したところ、飽和磁化(σs)が70Am/kg(70emu/g)であり、保磁力(Hc)が199kA/m(2,500Oe)であることが確認された。
【0054】
(実施例1−2)
珪酸ナトリウム10部をアルミン酸ナトリウム10部に変更した以外は、実施例1−1と同様にして、窒化鉄系磁性粉末を製造した。
この窒化鉄系磁性粉末のイットリウムとアルミニウムの含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれFeに対して、1.1原子%と32.0原子%であった。また、X線回折パターンでFe16相を示すプロファイルが確認された。さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、形状が粒状で、平均粒子サイズが8nmの粉末であることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、155m/gであった。この窒化鉄系磁性粉末の磁気特性を振動試料型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁場1,270kA/m(16kOe)、磁場掃引速度80kA/m(1kOe)/分で測定したところ、飽和磁化が71Am/kg(71emu/g)であり、保磁力が223kA/m(2,800Oe)であることが確認された。
【0055】
(実施例1−3)
オレイン酸1部とオレイルアミン1部を、ミリスチン酸2部に変更し、珪酸ナトリウム10部を8部に変更した以外は、実施例1−1と同様にして、窒化鉄系磁性粉末を製造した。なお、このとき形成された酸化鉄粉末の平均粒子サイズは15nmであった。
この窒化鉄系磁性粉末のイットリウムとシリコンの含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれFeに対して、0.9原子%と19.3原子%であった。また、X線回折パターンでFe16相を示すプロファイルが確認された。さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、形状が粒状で、平均粒子サイズが14nmの粉末であることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、85m/gであった。この窒化鉄系磁性粉末の磁気特性を振動試料型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁場1,270kA/m(16kOe)、磁場掃引速度80kA/m(1kOe)/分で測定したところ、飽和磁化が83Am/kg(83emu/g)であり、保磁力が243kA/m(3,050Oe)であることが確認された。
【0056】
(実施例1−4)
水5部を水10部に、エチレングリコール17部をエチレングリコール34部に変更し、さらにTween20(ナカライテスク社製)0.5部を加えた以外は、実施例1−1と同様にして混合液を調製した。この混合液を用いて、非水溶性有機溶媒及び非水溶性界面活性剤を添加することなく、実施例1−1と同様にして水熱反応処理を行い、酸化鉄粉末を形成した。また、形成された酸化鉄粉末を用い、珪酸ナトリウム10部を5部に変更した以外は、実施例1−1と同様にして窒化鉄系磁性粉末を形成した。なお、このとき形成された酸化鉄粉末の平均粒子サイズは20nmであった。
【0057】
このようにして得られた窒化鉄系磁性粉末のイットリウムとシリコンの含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれFeに対して、1.1原子%と15.2原子%であった。また、X線回折パターンでFe16相を示すプロファイルが確認された。さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、形状が粒状で、平均粒子サイズが18nmの粉末であることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、60m/gであった。この窒化鉄系磁性粉末の磁気特性を振動試料型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁場1,270kA/m(16kOe)、磁場掃引速度80kA/m(1kOe)/分で測定したところ、飽和磁化が90Am/kg(90emu/g)であり、保磁力が247kA/m(3,100Oe)であることが確認された。
【0058】
(実施例1−5)
水酸化鉄0.5部を、水40部と混合し、さらに28質量%のアンモニア水5部を混合して、撹拌することにより水酸化鉄を沈殿析出させて懸濁状態の混合液を調製した。この混合液を用いて、非水溶性有機溶媒及び非水溶性界面活性剤を添加することなく、実施例1−1と同様にして水熱反応処理を行い、酸化鉄粉末を形成した。また、形成された酸化鉄粉末を用い、珪酸ナトリウム10部を5部に変更した以外は、実施例1−1と同様にして窒化鉄系磁性粉末を形成した。なお、このとき形成された酸化鉄粉末の平均粒子サイズは22nmであった。
【0059】
このようにして得られた窒化鉄系磁性粉末のイットリウムとシリコンの含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれFeに対して、1.1原子%と15.5原子%であった。また、X線回折パターンでFe16相を示すプロファイルが確認された。さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、形状が粒状で、平均粒子サイズが20nmの粉末であることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、60m/gであった。この窒化鉄系磁性粉末の磁気特性を振動試料型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁場1,270kA/m(16kOe)、磁場掃引速度1kOe/分で測定したところ、飽和磁化が93Am/kg(93emu/g)であり、保磁力が231kA/m(2,900Oe)であることが確認された。
【0060】
(実施例1−6)
マイクロ波の照射による加熱温度を200℃とし、200℃で1時間保持した以外は、実施例1−1と同様にして窒化鉄系磁性粉末を製造した。なお、このとき形成された酸化鉄粉末の平均粒子サイズは8nmであった。
【0061】
この窒化鉄系磁性粉末のイットリウムとシリコンの含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれFeに対して、1.0原子%と35.7原子%であった。また、X線回折パターンでFe16相を示すプロファイルが確認された。さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、形状が粒状で、平均粒子サイズが8nmの粉末であることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、185m/gであった。また、この窒化鉄系磁性粉末の磁気特性を振動試料型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁場1,270kA/m(16kOe)、磁場掃引速度80kA/m(1kOe)/分で測定したところ、飽和磁化が54Am/kg(54emu/g)であり、保磁力が155kA/m(1,950Oe)であることが確認された。
【0062】
(比較例1)
塩化第2鉄1.5部を、水40部と混合し、さらに28質量%のアンモニア水5部を混合して混合液を調製した。この混合液を水熱反応容器に仕込み、マントルヒータを用いて220℃で1時間の水熱反応処理を行い、酸化鉄粉末を形成した。上記のようにして形成された酸化鉄粉末を用い、珪酸ナトリウム10部を5部に変更した以外は、実施例1−1と同様にして窒化鉄系磁性粉末を形成した。なお、このとき形成された酸化鉄粉末の平均粒子サイズは24nmであった。
【0063】
このようにして得られた窒化鉄系磁性粉末のイットリウムとシリコンの含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれFeに対して、0.9原子%と15.1原子%であった。また、X線回折パターンでFe16相を示すプロファイルが確認された。さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、形状が粒状で、平均粒子サイズが20nmの粉末であることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、57m/gであった。この窒化鉄系磁性粉末の磁気特性を振動試料型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁場1,270kA/m(16kOe)、磁場掃引速度80kA/m(1kOe)/分で測定したところ、飽和磁化が88Am/kg(110emu/g)であり、保磁力が227kA/m(2,950Oe)であることが確認された。
【0064】
表1は、実施例1−1〜1−6及び比較例1で製造された窒化鉄系磁性粉末の特性を示す。
【0065】
【表1】

表1に示されるように、実施例1−1〜1−6の窒化鉄系磁性粉末はいずれも、平均粒子サイズが8〜20nmの微粒子粉末であり、また高保磁力の磁性粉末であることが分かる。また、同程度の平均粒子サイズを有する実施例及び比較例の窒化鉄系磁性粉末の飽和磁化の対比から分かるように、実施例の窒化鉄系磁性粉末の飽和磁化は比較例のそれに比べて高くなっている。これは、実施例では、マイクロ波を照射することにより形成された酸化鉄粉末を用いているため、磁性の低い過度に微粒子の粉末の生成が抑えられているためと考えられる。また、同程度の平均粒子サイズを有する実施例及び比較例の窒化鉄系磁性粉末のBET比表面積の対比から分かるように、実施例の窒化鉄系磁性粉末のBET比表面積は比較例のそれに比べて大きくなっている。BET比表面積は粒子サイズの大きい磁性粉末、すなわち比表面積の小さい磁性粉末の影響を大きく受ける。従って、平均粒子サイズが同程度でも、実施例の窒化鉄系磁性粉末は粒度分布で平均粒子サイズよりも過度に大きな粒子サイズの微粒子粉末の割合が少ないと考えられる。
以上のように、本実施例によれば、微粒子でありながら、粒度分布に優れるとともに、磁気特性に優れた窒化鉄系磁性粉末が得られることが分かる。
【0066】
次に、上記実施例及び比較例で製造した窒化鉄系磁性粉末を用いて、以下の磁気テープを作製した。
[磁気テープの製造]
(実施例2−1)
下記の下塗り層用塗料成分をニーダで混練した後、サンドミル(滞留時間:60分)で分散し、これにポリイソシアネート6部を加え、撹拌、ろ過して、下塗り層用塗料を調製した。
【0067】
<下塗り層用塗料成分>
酸化鉄粉末(平均粒径:55nm) 70部
酸化アルミニウム粉末(平均粒径:80nm) 10部
カーボンブラック(平均粒径:25nm) 20部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルメタクリレート共重合樹脂 10部
(含有−SONa基:0.7×10−4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(含有−SONa基:1.0×10−4当量/g)
メチルエチルケトン 130部
トルエン 80部
ミリスチン酸 1部
ステアリン酸ブチル 1.5部
シクロヘキサノン 65部
上記とは別に、実施例1−1で製造した窒化鉄系磁性粉末を用いた下記の磁性層用塗料成分(1)をニーダで混練したのち、サンドミル(滞留時間:45分)で分散し、これに下記の磁性層用塗料成分(2)を加え、混合して、磁性層用塗料を調製した。
【0068】
<磁性層用塗料成分(1)>
実施例1−1で製造した窒化鉄系磁性粉末 100部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合樹脂 8部
(含有−SONa基:0.7×10−4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 4部
(含有−SONa基:1.0×10−4当量/g)
α−アルミナ(平均粒径:80nm) 10部
カーボンブラック(平均粒径:25nm) 1.5部
ミリスチン酸 1.5部
メチルエチルケトン 133部
トルエン 100部
【0069】
<磁性層用塗料成分(2)>
ステアリン酸 1.5部
ポリイソシアネート 4部
(日本ポリウレタン工業社製の「コロネートL」)
シクロヘキサノン 133部
トルエン 33部
【0070】
上記の下塗り層用塗料を、非磁性支持体である厚さ6μmのポリエチレンナフタレートフイルム上に、乾燥及びカレンダ処理後の下塗り層の厚さが2μmとなるように塗布し、この下塗り層上にさらに、上記の磁性層用塗料を、磁場配向処理しながら、乾燥及びカレンダ処理後の磁性層の厚さが50nmとなるように塗布した。
【0071】
次に、この非磁性支持体の下塗り層及び磁性層の形成面とは反対面に、下記のバツクコート層用塗料を、乾燥及びカレンダ処理後のバツクコート層の厚さが700nmとなるように塗布し、乾燥した。バツクコート層用塗料は、下記のバツクコート層用塗料成分を、サンドミル(滞留時間:45分)で分散した後、これにポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌、ろ過して調製した。
【0072】
<バツクコート層用塗料成分>
カーボンブラツク(平均粒径:25nm) 40.5部
カーボンブラツク(平均粒径:370nm) 0.5部
硫酸バリウム 4.05部
ニトロセルロース 28部
ポリウレタン樹脂(SONa基含有) 20部
シクロヘキサノン 100部
トルエン 100部
メチルエチルケトン 100部
【0073】
このようにして得た磁気シートを、5段カレンダ(温度70℃、線圧150kg/cm)で鏡面化処理し、該磁気シートをシートコアに巻いた状態で、60℃,40%RH下、48時間エージングした。エージング後、1/2インチ幅に磁気シートを裁断して磁気テープを作製した。この磁気テープを100m/分で走行させながら、磁性層表面をセラミックホイール(回転速度:+150%、巻付け角:30°)で研磨して、長さ609mの磁気テープを作製した。この磁気テ―プをカートリッジに組み込み、コンピユータ用テープを作製した。
【0074】
(実施例2−2)
窒化鉄系磁性粉末として、実施例1−2で製造した窒化鉄系磁性粉末を使用した以外は、実施例2−1と同様にして、コンピユータ用テープを作製した。
【0075】
(実施例2−3)
窒化鉄系磁性粉末として、実施例1−3で製造した窒化鉄系磁性粉末を使用し、磁性層の厚さを80nmに変更した以外は、実施例2−1と同様にして、コンピユータ用テープを作製した。
【0076】
(実施例2−4)
窒化鉄系磁性粉末として、実施例1−4で製造した窒化鉄系磁性粉末を使用し、磁性層の厚さを80nmに変更した以外は、実施例2−1と同様にして、コンピユータ用テープを作製した。
【0077】
(実施例2−5)
窒化鉄系磁性粉末として、実施例1−5で製造した窒化鉄系磁性粉末を使用し、磁性層の厚さを80nmに変更した以外は、実施例2−1と同様にして、コンピユータ用テープを作製した。
【0078】
(比較例2)
窒化鉄系磁性粉末として、比較例1で製造した窒化鉄系磁性粉末を使用し、磁性層の厚さを80nmに変更した以外は、実施例2−1と同様にして、コンピユータ用テープを作製した。
【0079】
上記の実施例2−1〜2−5及び比較例2で作製した各磁気テープについて、磁気特性を振動試料型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁場1,270kA/m(16kOe)、磁場掃引速度80kA/m(1kOe)/分で測定し、長手方向の保磁力、角形比、及びSFDを求めた。また、各コンピュータ用テープについて下記の電磁変換特性を測定した。表2は、これらの結果を示す。
【0080】
<電磁変換特性>
電磁変換特性は、ヒユーレツトパツカード社製のLTOドライブを用いて測定した。40℃,5%RHの条件下で磁気テープを5回走行させた後、最短記録波長0.33μmのランダムデータ信号を磁気テープに記録し、再生ヘッドからの出力(C)及びノイズ(N)を読み取った。この出力及びノイズから、C/N比を求め、比較例2のC/N比を基準(0)とした相対値(dB)を評価した。
【0081】
【表2】

上記表2に示されるように、実施例2−1〜2−5の磁気テープは、非常に微粒子の窒化鉄系磁性粉末が用いられているにも拘らず、低SFDの磁気テープが得られていることが分かる。これは、磁性の低い過度に粒子サイズの小さな粉末や過度に粒子サイズの大きな粉末の割合が少なく、粒度分布の良好な窒化鉄系磁性粉末が用いられているためと考えられる。以上から、本実施例によれば、上記製造方法により形成された窒化鉄系磁性粉末を用いることにより、優れた磁気特性を有し、高C/N比を有する磁気記録媒体が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe16相を含み、5〜20nmの平均粒子サイズを有する実質的に粒状の窒化鉄系磁性粉末の製造方法であって、
鉄化合物と水系溶媒とが混合された混合液を調製し、
前記混合液にマイクロ波を照射することにより鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成し、
前記鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を還元処理することにより鉄系金属粉末を形成し、
前記鉄系金属粉末を窒化処理することにより窒化鉄系磁性粉末を製造する製造方法。
【請求項2】
前記混合液は、さらに還元性化合物を含有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合液は、さらに水溶性界面活性剤を含有する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記混合液に、非水溶性有機溶媒を添加して、水性相及び油性相の2相を有する2相混合液を調製し、前記2相混合液にマイクロ波を照射することにより鉄系酸化物粉末または鉄系水酸化物粉末を形成する請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記2相混合液は、さらに前記非水溶性有機溶媒に対して溶解性を有する非水溶性界面活性剤を含有する請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記窒化鉄系磁性粉末は、さらに希土類元素、シリコン、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法によって製造される窒化鉄系磁性粉末。
【請求項8】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に磁性層とを有する磁気記録媒体であって、前記磁性層は請求項7に記載の窒化鉄系磁性粉末と結合剤とを含有する磁気記録媒体。
【請求項9】
前記磁気記録媒体は、前記非支持性支持体と磁性層との間に、さらに下塗り層を少なくとも1層有し、前記磁性層は、200nm以下の厚さを有する請求項8に記載の磁気記録媒体。

【公開番号】特開2008−311518(P2008−311518A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159198(P2007−159198)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】