説明

窒素ガス製造装置およびこれを用いたガス化複合発電システム

【課題】 ガス化複合発電システムにおいて必要とされる窒素や酸素を、効率的に、かつ使用状態に適合した条件で供給可能な窒素ガス製造装置、およびこれを用いてエネルギー効率の高いガス化複合発電システムを提供すること。
【解決手段】 原料空気Aからガス化炉設備2やガス精製設備3において使用される窒素ガスNを製造し供給するとともに、原料空気Aから窒素ガスNが取り出された酸素リッチな廃ガスBを、ガス化炉設備2に備えられた空気圧縮機24の一次側に供給し、空気とともに空気圧縮機24によって加圧した後、ガス化炉22のガス化剤の一部として導入することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素ガス製造装置およびこれを用いたガス化複合発電システムに関し、例えば、深冷分離法を用いた窒素ガス製造装置およびこれを用いたガス化複合発電システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガス化炉設備からのガス化ガスを燃料とするガス化複合発電システムが多く用いられている。こうしたシステムには、ガス化原料の搬送路を含め炉内の種々用途に窒素ガスが用いられ、窒素ガスの需要は大きく、例えば深冷分離法を用いた空気分離装置やPSA(圧力スウィング法)を用いた窒素製造装置等の窒素ガス製造装置が多く用いられている。こうした窒素ガス製造装置では、主として空気を原料とし、圧縮・精製プロセスを経由して窒素ガスおよび液化窒素が製造される。また、こうしたガス化炉には、ガス化剤としてガス状酸素あるいは空気が必要とされるが、それぞれ所定の圧力が必要とされることから、別途エネルギー効率の高い酸素ガス製造設備が用いられている。
【0003】
例えば、図6(A),(B)に示すような窒素ガス製造装置を用いた石炭ガス化複合発電プラント(IGCC)を挙げることができる。具体的には、ガス化炉101と、ガスクーラ102と、ガス精製装置103と、ガスタービン105と、廃ガスボイラ107と、蒸気タービン106と、不活性ガスを昇圧する装置112とを有し、ガスタービン105および蒸気タービン106によって発電機109を駆動して発電を行う石炭ガス化複合発電プラントにおいて、昇圧した不活性ガス114を冷却媒体としてガスクーラ102に導入して熱交換を行わせ、昇温した不活性ガス114がコンバスタ104を通じてガスタービン105に導入される。このとき、ガス化炉101におけるガス化剤として、いわゆる酸素吹きや空気吹きといわれる方法によって酸素が供給される構成が開示されている。
【0004】
ここで、まず、図6(A)に示すいわゆる酸素吹きのガス化炉の例について説明する。ガス化炉101に投入された石炭(一般には微粉炭)121は、空気圧縮機110から送入される空気の内、空気分離装置111を介して分離され酸素圧縮機113によって昇圧された、理論燃焼酸素量よりも少ない酸素116によって高温かつ強還元雰囲気中でガス化され、高温・高圧の状態でガス化炉101から排出される。
【0005】
また、図6(B)は、大気を空気圧縮機119によって加圧してガス化炉101に送入し、石炭121をガス化させる空気吹きといわれるガス化炉101の場合を示す。上記のような空気分離装置111を装備しておらず、ガスクーラ102の冷却媒体として窒素製造装置118からの窒素114の一部を使用している。この場合においてもガスクーラ102で熱回収した窒素114の顕熱を先ずガスタービン105で利用し、次いで廃ガスボイラ107において蒸気に変換して蒸気タービン106,106’で利用する点においては、全く同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−286505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のような窒素ガス製造装置およびこれを用いたガス化複合発電システムでは、以下のような種々の課題が生じることがあった。
(i)上述した酸素吹きIGCCシステムにおいては、空気分離装置からの酸素ガスをIGCCに吹き込むために高圧に昇圧する必要がある。こうした高圧酸素の供給には、接ガス材料や安全対策が施された高額な酸素圧縮機が必要となる。
(ii)一方、空気吹きIGCCシステムにおいては、通常、2〜5MPa程度まで加圧された空気が供給され、酸素圧縮機は不要であるが、酸素吹きIGCCシステムと比較してガス化炉での燃焼効率が劣り、燃焼効率の改善という課題が未解決のままであった。
(iii)また、高い支燃性を有する酸素の操作や取扱いには、周知のように法律的あるいは実務的に所定の制限が課される。空気よりも高濃度の酸素を含む場合の酸素濃度についても規制され、ガス化剤として供給される圧縮対象流体に対しては、JIGA(Japanese Industrial Gas Association)あるいはEIGA(European Industrial Gas Association)の定める空気圧縮機の酸素純度許容範囲(35%未満、以下「EIGA許容範囲」という)が適用され、供給される酸素ガスに対する制約条件を満たすことが要求される。
【0008】
本発明の目的は、ガス化複合発電システムにおいて必要とされる窒素や酸素を、効率的に、かつ使用状態に適合した条件で供給可能な窒素ガス製造装置、およびこれを用いてシステム全体としてエネルギー効率の高いガス化複合発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す窒素ガス製造装置およびこれを用いたガス化複合発電システムによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明は、ガス化炉設備、ガス精製設備および複合発電設備からなるガス化複合発電システムの一部を構成する窒素ガス製造装置であって、原料空気から該ガス化炉設備やガス精製設備において使用される窒素ガスを製造し供給するとともに、該原料空気から窒素ガスが取り出された酸素リッチな廃ガスを、前記ガス化炉設備に備えられた空気を圧縮するための圧縮機の一次側に供給し、空気とともに該圧縮機によって加圧した後、前記ガス化炉のガス化剤の一部として導入することを特徴とする。
【0011】
従前のガス化複合発電システムにおける既述のような課題は、ガス化複合発電システムと窒素(酸素)ガス製造装置とがそれぞれ個々の要求仕様に基づき構成されていたことから、統一的な技術思想に基づく構成によって解消することはできなかった。本発明は、窒素ガスを主たるオペレーションガス(以下「処理ガス」という)として利用するガス化複合発電システムにおいて、窒素ガス製造装置から供出可能な窒素ガスと酸素リッチな廃ガスの温度条件や圧力条件あるいは流量条件等のガス性状を基に、ガス化剤中の酸素濃度として最適な範囲を検証した結果、最もエネルギー効率が高く操作性の良いガス化複合発電システムにおける窒素ガス製造装置の構成を見出したものである。具体的には、所定の圧力を有する窒素ガスのガス化炉設備やガス精製設備への供給とともに、低圧の廃ガスを、空気を圧縮するための圧縮機(以下、「空気圧縮機」という)の1次側への供給によって、酸素濃度を上記EIGA許容範囲に抑えつつ、圧縮された酸素リッチなガス化剤をガス化炉に導入することができる。このように要求される窒素や酸素を、効率的に、かつ使用状態に適合した条件で供給可能な窒素ガス製造装置を提供することが可能となり、エネルギー効率の高いガス化複合発電システムを構成することが可能となった。
【0012】
本発明は、上記窒素ガスの供給装置であって、前記ガス化炉に導入されるガス化剤中の酸素濃度が約22〜35%となるように、前記圧縮機の一次側に供給する廃ガス流量を制御することを特徴とする。
加圧条件のガス化剤の供給時において、本発明は、ガス化剤の一部として供給される酸素リッチな廃ガス流量を最適範囲に制御する構成によって、ガス化剤中の酸素濃度を上記EIGA許容範囲に抑えるとともに、燃焼効率の向上に伴う効率的なガス化処理を行い、かつ空気圧縮機の負荷の低減を図ることを可能とした。なお、空気圧縮機の負荷の低減は、さらに低コストの空気圧縮機の選択や流路各部材負荷の軽減を図ることができる。
【0013】
本発明は、上記窒素ガス製造装置であって、深冷分離法により原料空気を精留して窒素を分離する精留塔と、原料空気を液化温度付近まで冷却する熱交換器を備え、前記精留塔からの戻りガスを前記熱交換器に導入させ、前記酸素リッチな廃ガスとして使用することを特徴とする。
精留塔を用いた深冷分離式の空気分離装置においては、比較的シンプルな単塔タイプによっても、所定の圧力を有する窒素ガスを連続的に供出することができると同時に、ほぼ一定の酸素濃度を有するほぼ常圧の酸素リッチな廃ガスを連続的に取り出すことができる。つまり、こうした構成は、エネルギー効率の高いガス化複合発電システムを形成するために要求される窒素や酸素を使用状態に適合した条件で供給することができるものであり、窒素ガス製造装置としての効率的な使用を可能とするだけではなく、ガス化複合発電システム全体としての効率的な使用を形成することが可能となった。
【0014】
また、本発明は、上記いずれかに記載の窒素ガス製造装置を用い、ガス化炉設備、ガス精製設備および複合発電設備からなるガス化複合発電システムであって、前記窒素ガス製造装置からの窒素ガスが、前記ガス化炉設備やガス精製設備に供給されるとともに、原料空気から前記窒素ガスが取り出された酸素リッチな廃ガスが、前記ガス化炉設備に備えられた空気圧縮機によって加圧されて前記ガス化炉に導入されるガス化剤の一部として、該空気圧縮機の一次側に供給することを特徴とする。
こうした構成によって、窒素ガス製造装置から供給される窒素ガスを主たるオペレーションガスとして利用し、酸素リッチな廃ガスを最適な濃度のガス化剤を作製するための酸素濃度調整剤として利用することが可能になるとともに、特別な構成要素の付加や特殊操作を必要とせずに、エネルギー効率の高いガス化複合発電システムを提供することが可能となった。
【0015】
本発明は、上記ガス化複合発電システムであって、前記廃ガスが、混合器または空気を吸引流体とするエジェクタによって該空気と混合されることを特徴とする。
最適な濃度のガス化剤を作製するためには、空気およびこれと混合する廃ガスの定量性が確保されなければならない。本発明は、空気圧縮機の一次側に設けられた混合器またはエジェクタを設け、そこに廃ガスが供給されることによって、十分に混合し安定した酸素濃度のガス化剤を形成し、効率的なガス化処理およびガス化ガスの燃焼処理を行うガス化複合発電システムを形成することが可能となった。
【0016】
また、本発明は、上記ガス化複合発電システムであって、前記ガス化炉から供出されたガス化ガスが、燃料ガスとして前記複合発電設備のガス燃焼器に導入されるとともに、前記空気圧縮機によって加圧された圧縮ガスが分岐され、一方が前記ガス化剤とされ、他方が前記ガス燃焼器の支燃ガスとしてガス燃焼器に導入されることを特徴とする。
ガス化複合発電システムであっては、ガス化炉での安定なガス化処理と同時に、作製されたガス化ガスの複合発電設備のガス燃焼器での安定な燃焼処理も、高いエネルギー効率を確保するために重要である。本発明は、ガス燃焼器での燃焼処理における支燃性ガスとしてガス化剤と同組成の圧縮ガスを供給することによって、安定かつ高効率な燃焼処理を行うことを可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るガス化複合発電システムの基本構成例を示す概略図
【図2】本発明に係る窒素ガス製造装置の1の構成例を示す概略図
【図3】本発明に係る窒素ガス製造装置の他の構成例を示す概略図
【図4】本発明に係るガス化複合発電システムの第2構成例を示す概略図
【図5】本発明に係るガス化複合発電システムの第3構成例を示す概略図
【図6】従来技術に係るガス化複合発電システムの構成例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る窒素ガス製造装置(以下「本装置」という)は、ガス化炉設備、ガス精製設備および複合発電設備からなるガス化複合発電システム(以下「本システム」という)の一部を構成し、空気を原料とし、該ガス化炉設備やガス精製設備において使用される窒素ガスを製造し供給するとともに、該原料空気から窒素ガスが取り出された酸素リッチな廃ガスを、ガス化炉設備に備えられた空気圧縮機の一次側に供給し、空気とともに該圧縮機によって加圧した後、前記ガス化炉のガス化剤の一部として導入することを特徴とする。以下、本発明の実施の形態について、IGCCを例として図面を参照しながら説明する。
【0019】
<本システムの基本構成例>
本装置からの窒素ガスおよび酸素ガスを利用する本システムの基本構成例の概要を、図1に示す(第1構成例)。本システムは、原料空気Aから窒素ガスNおよび酸素リッチな廃ガスBが供出される本装置1と、ガス化原料(IGCCにおいては、石炭が相当する)Cとガス化剤Maおよび操作ガスN1が導入され、ガス化ガスGが供出されるガス化炉設備2と、ガス化ガスGが導入され、冷却・除塵・精製処理された燃料ガスFが供出されるガス精製設備3と、燃料ガスFと支燃性ガス(図示せず)が導入され、燃焼反応によって発生したエネルギーを電力に変換する複合発電設備4から構成される。
【0020】
本装置1は、原料空気Aを導入し、必要に応じて窒素ガス圧縮機(図示せず)にて昇圧され、所定の圧力(例えば2〜5MPa)を有する窒素ガスNと、酸素リッチで低圧(通常常圧レベル)を有する廃ガスBを供出する。本装置1から供出された窒素ガスNが、ガス化炉設備2における操作ガスN1およびガス精製設備3における操作ガスN2として利用されるとともに、廃ガスBが、ガス化炉設備2における空気圧縮機24の一次側に供給されてガス化剤Maの一部として利用される。本装置1の詳細な構成については、後述する。なお、深冷分離法により製造された液体窒素をポンプ(図示せず)で昇圧後、熱交換器(図示せず)によりガス化することによっても窒素ガスNを製造することができる。
【0021】
〔ガス化炉設備〕
ガス化炉設備2は、ガス化原料Cと操作ガスN1が導入されガス化原料Cを供出する原料供給装置21と、ガス化原料Cとガス化剤Maが導入され、ガス化ガスGが供出されるガス化炉22と、フィルタ23を介して清浄化された空気に本装置1から供給される廃ガスBが添加され、混合されたガス化剤Maが導入され、加圧してガス化炉22に給送する空気圧縮機24から構成される。操作ガスN1によって、ガス化反応しやすい性状に攪拌や分散処理されたガス化原料Cが、安全にかつ円滑にガス化炉22に搬送・導入される。このとき、原料供給装置21において、無酸素雰囲気で予め予熱されることによって、ガス化反応を促進することができる。ガス化炉22においては、ガス化原料Cに含まれる炭素成分や炭化水素あるいは含酸素炭化水素成分を、ガス化剤Ma中の酸素と反応させ、一酸化炭素(CO)や水素(H)を含むガス化ガスGが作製される。IGCCのように、このときチャー等の未反応の炭素や炭化水素を含む残分Rが発生する場合には、これをガス化炉22に還流して再度反応させることが好ましい。ガス化炉22には、その温度管理用センサおよび必要に応じて二酸化炭素(CO),HO,CO,Hのいずれかあるいは残留酸素などの複数成分の濃度管理用センサ(図示せず)が設けられることが好ましい。
【0022】
ガス化原料Cとしては、石炭以外に、石油重質残さやバイオマスあるいはタイヤチップス等を挙げることができる。ガス化炉22に導入されるとき、あるいは導入前に一時的貯溜されるときは、不活性ガスを処理ガスとする搬送処理あるいは雰囲気処理が好ましい。搬送処理等の効率化を図るとともに、処理ガス空気との接触時間が多い場合、ガス化原料Cの一部の反応(発熱反応)により発生する反応熱によって反応を促進され、反応性の高いガス化ガスの成分等が発生する危険性を防止することができる。こうした操作ガスN1として、本装置1からの窒素ガスNが用いられる。操作ガスN1の導入量および供給圧力は、ガス化原料Cの投入量やその性状あるいは原料供給装置21の容量によって調整される。
【0023】
ガス化炉22に導入されるガス化剤Maは、空気圧縮機24によって圧力および流量が調整される。ここで、ガス化剤Ma中の酸素濃度は、約22〜35%とすることが好ましい。ガス化剤Maの供給圧力を下げ、ガス化反応の反応率を上げるには、酸素濃度が高いほうが好ましい一方、酸素濃度が高いほど空気圧縮機24の負荷が増大する。また、既述のようにEIGAの許容範囲から、35%以下が好適である。さらに、ガス化原料Cの組成変動等に伴うガス化反応における酸素濃度の制御巾から約22%以上が好ましい。高酸素濃度のガス化剤Maは、空気圧縮機24の一次側の合流点25において、フィルタ23を介して清浄化された空気に本装置1から供給される廃ガスBが添加・混合されて作製される。ここで、合流点25に代え、混合器(図示せず)を用いることによって、廃ガスBの均一性を上げることができる。常圧レベルで添加されることによって、空気圧縮機24の負荷を軽減するとともに、廃ガスBの供給側の本装置1の負荷を軽減することができる。また、高濃度酸素の供給による供給圧力の低減は、空気圧縮機24の負荷低減と同時に、さらに低コストの空気圧縮機24の選択や流路各部材負荷の軽減を図ることができる。
【0024】
〔ガス精製設備〕
ガス精製設備3は、ガス化炉22から供出されたガス化ガスGを冷却する冷却装置31と、ガス化ガスG中の塵埃を分離し除去する除塵装置32と、タール分やCO等を分離し除去する精製装置33から構成される。ガス化ガスGが清浄化され、燃料ガスFとして複合発電設備4に供出される。除塵装置32において分離された残分Rには、チャーやタール等の未反応の高沸点の炭素や炭化水素が含まれることから、ホッパ34を介してガス化炉22に還流される。このとき、本装置1からの窒素ガスNが、操作ガスN2としてホッパ34に導入されて攪拌処理や搬送処理に用いられる。操作ガスN2の導入量および供給圧力は、ガス化原料Cの投入量やその性状によって調整される。操作ガスN1と同様にガス化炉22に導入されることから、いずれも同じ圧力で供給することができるため、本装置1から共通的に供給することができる。また、精製装置33には、酸化鉄系の吸着剤やMDEA(メチルジエタノールアミン)等が充填される。
【0025】
〔複合発電設備〕
複合発電設備4は、精製装置33から供出された燃料ガスFと支燃性ガス(図示せず)が導入され、燃焼反応によって発生した燃焼排ガスEを供出する燃焼器41と、燃焼排ガスEが導入され、タービンを駆動するガスタービン42と、ガスタービン42と連結し、タービンの駆動により燃焼エネルギーを電力に変換する発電機43と、ガスタービン42から供出された燃焼排ガスEが導入され、蒸気生成等に使用される排ガスボイラ44から構成される。燃焼器41で生成される高温高圧の燃焼エネルギーが発電エネルギーに効率的に変換される。排ガスボイラ44で蒸気生成に使用された排ガスは、必要な処理を施されて大気に排気される。
【0026】
〔本装置の構成例〕
本システムに用いられる本装置1としては、精留塔を用いた深冷分離式、分子篩を利用したPSA式あるいはTSA式や高分子膜モジュールを利用した分離膜式などを用いることができる。操作ガスN1,N2として無酸素あるいはこれと同等の窒素ガスが所望されることから、こうした窒素ガス製造装置を用いることによって本システムが構成される。このとき、本装置1から供出される窒素ガスN中あるいは廃ガス中の酸素濃度を測定することが好ましく、また、調整弁や流量計を内蔵することによって、供給圧力や供給流量が調整されることが好ましい。
【0027】
(1)精留塔を用いた深冷分離式窒素ガス製造装置
精留塔を用いた深冷分離式の本装置1の構成例の概要を、図2に示す。本装置1は、深冷分離法により原料空気Aを精留して窒素ガスNを分離する精留塔11と、原料空気Aを液化温度付近まで冷却する熱交換器12から構成される。具体的には、熱交換器12で低温液化された原料空気Aが、精留塔11の塔下部11aに導入され、沸点の差により精溜部11bにおいて精留され、窒素ガスNが作製される。精留塔11の塔頂部11cから供出された低温の窒素ガスNが、熱交換器12によって加温され、
約0.5〜1.2MPa程度の圧力を有して供出される。比較的シンプルな単塔タイプによっても、所定の圧力を有する窒素ガスNを連続的に供出することができる。
【0028】
塔下部11aの酸素リッチとなった液体空気Laは、寒冷源の一部として凝縮器11dに導入されるとともに、その一部が気化され、熱交換器12によって加温され、廃ガスBとして供出される。ほぼ一定の酸素濃度を有する、ほぼ常圧の廃ガスBを連続的に取り出すことができる。このとき、凝縮器11dから排出された酸素リッチな廃ガスBは、さらに膨張タービン12aに導入され、主熱交換器12で冷媒として使用された後、系外へ排出される。これにより窒素ガスNの寒冷源の補充として機能することができる。また、必要に応じて、所定の圧力の液体窒素Lnが、精留部11cに導入される。窒素ガスNの要求量に応じて原料の補充を図るとともに、凝縮器11dの寒冷源の補充として機能することができる。要求される窒素や酸素を使用状態に適合した条件で供給することができる。
【0029】
(2)分子篩を利用したPSA式窒素ガス製造装置
分子篩を利用したPSA式の本装置1の構成例の概要を、図3に示す。本装置1は、原料空気A中の酸素を選択的に吸着する吸着剤が充填された2つの吸着塔13a,13bからなる吸着塔ユニット13と、吸着塔13a,13bへの原料空気Aの供給の切換えを可能とする開閉弁V1〜V4と再生ガスBaの供給の切換えを可能とする開閉弁V5〜V8からなる切換ユニット14と、廃ガスBの供出流路に設けられた緩衝用のタンク15を備える。一方の低温の吸着塔への加圧された原料空気Aの供給および所定の圧力を有する窒素ガスの供出機能と同時に、他方の高温の吸着塔内への再生ガスの供給および常圧レベルの酸素リッチな廃ガスの供出機能を有する。また、廃ガスBを所定の内容積を有するタンク15に導入し、一時的に貯留することによって、酸素濃度の均一化および廃ガスB温度の低温化と均一化を図ることができる。
【0030】
吸着剤としては、酸素に対する選択的吸着能力の高いモレキュラーシーブスカーボン(MSC)等が用いられる。MSCのように分子篩の機能を有する吸着剤における窒素(4.2×3.0Å)と酸素(3.8×2.8Å)の分子の大きさによる吸着速度の差を利用することによって、窒素ガスと酸素ガスの分離ができる。つまり、酸素ガスと窒素ガスの混合ガスが吸着塔13a,13bに導入された場合、両者の吸着速度の差が大きいので、その吸着初期の短かい時間(1〜2分)で窒素ガスと酸素ガスが分離される。特に、この吸着塔13a,13bに加圧された混合ガスが導入されると、まず分子の小さい酸素が吸着され、窒素の多くはそのまま通過する。一方、酸素が吸着された吸着塔13a,13bが減圧されると吸着された酸素が脱着する。こうした分子篩機能を有する吸着剤を充填した2つの吸着塔13a,13bにおいて、加圧による吸着−減圧による脱着を交互に繰り返せば、連続して窒素ガスと酸素ガスを分離することができる。
【0031】
具体的には、開閉弁V1,V7を開とし、開閉弁V3,V5を閉とすることによって、一方の吸着塔(例えば13a)に原料空気Aを導入することができ、加圧された原料空気A中の酸素が吸着塔13a内部の吸着剤によって選択的に除去され、窒素ガスNを供出することができる。同時に、開閉弁V4,V6を開とし、開閉弁V2,V8を閉とすることによって、他方の吸着塔(例えば13b)に再生ガスBaを導入することができ、減圧された吸着塔13b内部の吸着剤から酸素が脱離され、酸素リッチな廃ガスBを供出することができる。また、開閉弁V1〜V8の操作を逆に切換え、吸着塔13bの加圧および吸着塔13aの減圧の状態にすることによって、同様に窒素ガスNおよび酸素リッチな廃ガスBを供出することができる。
【0032】
このように、2つの吸着塔13a,13bを設け、吸着除去処理と再生処理を同時に行い、かつ交互に2つの処理の切換えを行うことによって、連続的に高い除去効率を維持することができるとともに、比較的容量の小さな吸着塔13a,13bによって高い除去効率を確保することができる。再生ガスBaとしては、低純度の窒素ガスあるいは本システムにおいて使用済みの酸素を含まない清浄なガス(例えば清浄処理された燃焼排ガスE等)を用いる。要求される窒素や酸素を使用状態に適合した条件で供給することができる。さらに、複数の吸着塔の設置と吸着塔の切換操作によって、窒素や酸素を連続的に供給することが可能である。また、上記本装置1について、8つの開閉弁V1〜V8を用いた構成に代え、3方向の切換弁あるいは四方向の切換弁を用い、簡略的な構成とすることができる。
【0033】
<本システムの他の構成例>
本システムは、上記第1構成例を基本とし、上述の本装置1のいくつかの構成例が選択可能であるように、ガス化炉設備2、ガス精製設備3および複合発電設備4についても、種々の応用的な構成例を適用することができるとともに、本装置1からの廃ガスBの利用方法についても種々の応用が可能である。以下に、本システムの他の構成例として、ガス化剤Maの作製に係る構成およびガス燃焼器41の支燃ガスMbとしての利用に係る構成に特徴を有する他の構成例(第2,第3構成例)について説明する。
【0034】
(1)本システムの第2構成例の概要を、図4に示す。本システムは、上記第1構成例におけるガス化炉設備2の合流点25に、空気を吸引流体とするエジェクタ26が設けられることを特徴とする。エジェクタ26の定圧吸引機能あるいは迅速な混合機能を利用することによって、空気およびこれと混合する廃ガスの定量性を確保し、安定的に最適な濃度のガス化剤を作製することができる。特に、空気圧縮機24の一次側の減圧流路にエジェクタ26が設けられることによって、本装置1から常圧レベルで供出される廃ガスBに対する外部の負荷変動の影響を与えることもなく、安定的に一定流量の吸引ができる。従って、エジェクタ26による空気の定流量の吸引機能と合せて、混合されたガス化剤Maは、一定の安定した酸素濃度の均一なガスを形成することができる。
【0035】
(2)本システムの第3構成例の概要を、図5に示す。本システムは、空気圧縮機24によって加圧された圧縮ガスMが分岐され、一方がガス化剤Maとしてガス化炉22に供給され、他方がガス燃焼器41の支燃ガスMbとしてガス燃焼器41に供給されることを特徴とする。上記第1構成例および第2構成例に対しても、適用することができる。ガス燃焼器41での燃焼処理における支燃ガスMbとして、ガス化剤Maと同組成の圧縮ガスMを供給することによって、ガス化反応における燃焼の高効率機能を、本システムの複合発電設備4における燃焼反応にも適用することができ、燃焼の高効率化による発電効率の向上を図ることができる。
【0036】
<窒素ガスNの使用条件の検証>
次に、窒素ガスNの供出量とガス化剤Ma及び支燃ガスMbの相互の量的関係を検証する。なお、水分及びアルゴンは微量のため0と近似し、窒素ガスNは純窒素と仮定した。廃ガスBを支燃ガスMbの一部として供給することができる条件を検証すると、以下の通りとなる。本装置1からの酸素リッチな廃ガスBの供出量bは、原料空気Aの導入量aから窒素ガスNの供出量cを取り除いた残量であることから、例えば、廃ガスBが酸素60%を含有する場合の窒素成分および酸素成分の収支から、以下の式1〜3が成立する。
a*0.79=c+b*0.40 (式1)
a*0.21=b*0.60 (式2)
b≒c*0.54 (式3)
つまり、窒素ガスNの供出量の約54%の廃ガスBの供給が可能である。
ここで、廃ガスBの供出量bうちの供給量b1が、空気の吸引量dと混合する供給量eの35%のガス化剤Maの一部に使用されるとすれば、以下の式4〜6が成立する。
e*0.65=d*0.79+b1*0.40 (式4)
e*0.35=d*0,21+b1*0.60 (式5)
b1≒e*0.36 (式6)
つまり、ガス化剤Maとしての使用量の約36%が廃ガスBの使用量となり、廃ガスBの供出量b=供給量b1とすれば、以下の式7が成立する。
e≒c*1.50 (式7)
つまり、窒素ガスNの供出量の約150%のガス化剤Maの供給が可能である。従って、ガス化剤Maとしての使用量がそれを下回る場合には、廃ガスBを支燃ガスMbの一部として供給することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明の実施態様を、IGCCを例として挙げ、ガス化炉設備からガス化ガスを燃料とするガス化複合発電システムについて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではなく、例えば化学プロセスや各種処理炉用などに用いることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 本装置
2 ガス化炉設備
21 原料供給装置
22 ガス化炉
23 フィルタ
24 空気圧縮機
25 合流点
3 ガス精製設備
31 冷却装置
32 除塵装置
33 精製装置
34 ホッパ
4 複合発電設備
41 燃焼器
42 ガスタービン
43 発電機
44 排ガスボイラ
A 原料空気
B 廃ガス
C ガス化原料
E 燃焼排ガス
F 燃料ガス
G ガス化ガス
Ma ガス化剤
N 窒素ガス
N1,N2 操作ガス
R 残分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス化炉設備、ガス精製設備および複合発電設備からなるガス化複合発電システムの一部を構成する窒素ガス製造装置であって、
原料空気から該ガス化炉設備やガス精製設備において使用される窒素ガスを製造し供給するとともに、該原料空気から窒素ガスが取り出された酸素リッチな廃ガスを、前記ガス化炉設備に備えられた空気を圧縮するための圧縮機の一次側に供給し、空気とともに該圧縮機によって加圧した後、前記ガス化炉のガス化剤の一部として導入することを特徴とする窒素ガス製造装置。
【請求項2】
前記ガス化炉に導入されるガス化剤中の酸素濃度が約22〜35%となるように、前記圧縮機の一次側に供給する廃ガス流量を制御することを特徴とする請求項1記載の窒素ガス製造装置。
【請求項3】
深冷分離法により原料空気を精留して窒素を分離する精留塔と、原料空気を液化温度付近まで冷却する熱交換器を備え、前記精留塔からの戻りガスを前記熱交換器に導入させ、前記酸素リッチな廃ガスとして使用することを特徴とする請求項1または2記載の窒素ガス製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の窒素ガス製造装置を用い、ガス化炉設備、ガス精製設備および複合発電設備からなるガス化複合発電システムであって、前記窒素ガス製造装置からの窒素ガスが、前記ガス化炉設備やガス精製設備に供給されるとともに、原料空気から前記窒素ガスが取り出された酸素リッチな廃ガスが、前記ガス化炉設備に備えられた空気圧縮機によって加圧されて前記ガス化炉に導入されるガス化剤の一部として、該空気圧縮機の一次側に供給することを特徴とするガス化複合発電システム。
【請求項5】
前記空気圧縮機の一次側において、前記廃ガスが、混合器または空気を吸引流体とするエジェクタによって該空気と混合されることを特徴とする請求項4記載のガス化複合発電システム。
【請求項6】
前記ガス化炉から供出されたガス化ガスが、燃料ガスとして前記複合発電設備のガス燃焼器に導入されるとともに、前記空気圧縮機によって加圧された圧縮ガスが分岐され、一方が前記ガス化剤とされ、他方が前記ガス燃焼器の支燃ガスとしてガス燃焼器に導入されることを特徴とする請求項5記載のガス化複合発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−131863(P2012−131863A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283295(P2010−283295)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)