説明

窒素化合物分析装置

【課題】 同一試料中のNHとNOの2成分あるいは窒素化合物の各成分を簡便にかつ精度よく測定する窒素化合物分析装置を提供すること。
【解決手段】 1つの試料を分岐した複数の試料処理系を有するとともに、試料中の一酸化窒素を連続的に測定する測定手段を少なくとも1つ有する窒素化合物分析装置において、試料中のアンモニアを酸化する酸化手段および試料中の二酸化窒素を一酸化窒素に変換する変換手段を有する処理系(A)、試料中の二酸化窒素を一酸化窒素に変換する変換手段を有する処理系(B)、試料中の特定成分に対する変換処理を施すことがない処理系(C)、を所定の組み合わせに切換え可能な切換手段を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素化合物分析装置に関し、例えば、自動車排気ガス中のアンモニアあるいは窒素酸化物の分析装置のように高速処理を要する場合の窒素化合物分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排ガス中の窒素酸化物(NOx)およびアンモニア(NH)は、煙道のような定置排出源や自動車のような移動排出源において重要な測定対象成分であった。しかし、これらの中でも二酸化窒素(NO)あるいはNHを直接測定することは非常に困難であり、NHを測定する手段としては、通常図8に示すような構成の定置排出源用NH分析装置が知られている(例えば特許文献1参照)。NH系と窒素酸化物系の2系統のサンプリングプローブラインからなるサンプリングプローブ部51、それぞれの系のNO濃度を測定する分析計を備えた分析部52、及び、2つの分析計から得られたNO濃度よりNH濃度を算出する演算部53から構成されている。サンプリングプローブラインの一方(NH系)には酸化形あるいは還元形の触媒Cが設けられており、酸化形にはアンモニア酸化触媒、還元形にはアンモニア還元触媒が用いられている。ここで、NOxとは、一般にはNOとNOを含むものをいう。
【0003】
酸化形の測定原理は、NH系のNHを酸化触媒の働きで等モルのNOに酸化し、このNOの濃度を検出することによりNH濃度を測定するものである。排ガス中には、一般に、NOxも存在するので、検出器の上流で排ガス中のNOをNO−NOコンバータによりNOに還元する。NOx系流路では、NOx濃度だけが検出され、NH系流路ではNH及びNOxの合計の濃度が検出されるので、この2つの流路の検出器の検出値の差がNH濃度となる。還元形の測定原理は、NH系のNHを還元触媒の働きで等モルのNOxと反応を行なわせ、反応により欠損したNOx濃度を検出することにより、NH濃度を測定するものである。この場合、NH系流路ではNH濃度の分だけ減少したNOx濃度が検出され、この両流路の検出値の差がNH濃度となる。
【0004】
一方、移動排出源用である自動車排気ガス分析装置としては、通常運転での排気ガス中には殆んど含まれておらず、NHの不安定さ、NHの吸着性の強さおよび排ガス中の測定成分の急激な変化に応答しうる測定手段がないことから実用化されたものはなかった。
【0005】
また、NOについても、同様に吸着性が強くかつ不安定で水溶性が強いことから、排ガス中のNOを直接測定することは非常に困難である。従って、上記のように、試料を分岐し、一方はNOをNO−NOコンバータによりNOに還元してNOx値として測定し、他方はそのままNOのみを測定し、その差分からNO値を演算する方法が採られる。
【特許文献1】特開2000−9603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、昨今の環境分析の重要性、および自動車あるいはエンジンの各種改良に伴い、測定手段としても、排ガス中の測定成分の急激な変化に応答し連続的に測定可能な自動車排気ガス中のNHおよびNOxの分析装置の要請が強くなってきた。つまり、NOxのトータルおよび各成分濃度の連続測定可能な分析装置が必要とされるようになってきた。
【0007】
具体的には、ガソリンエンジンにおいて、リーンバーンあるいはリッチスパイクと呼ばれる還元雰囲気の燃焼条件還元雰囲気によって数10〜数1000ppmのNHが発生することがある。また、ディーゼルエンジンにおいては、最近排ガス処理として、尿素添加が注目されている。つまり、大型ディーゼル車のNOx低減方策として有望視されているのが選択還元触媒(SCR)で、これは尿素水溶液を還元剤としてエンジンから排出されたNOxを触媒上で無害な窒素(N)に還元するという方式で、このとき、数10〜数100ppmの未反応のNHが排出されることがある。こうした未反応NHを、正確にかつ応答性よく測定することが分析装置の課題となる。また、共存するNOx,NO,NOについても正確にかつ応答性よく測定することが分析装置の課題となっていた。
【0008】
また、従来、同一試料中のNHとNOの2成分を測定する場合には、各々別個の分析計を用いて測定する必要があり、同一試料の測定において試料流路・処理手段の構成の相違あるいは分析計間での干渉影響特性・応答速度の相違などから、両者の測定データを単純に比較することは精度的に問題があった。同一試料中のNHとNOの2成分を簡便にかつ精度よく測定することは優先課題であった。
【0009】
特に、発生NHを酸化処理あるいは還元処理によって変換する場合においては、上記のようなNHの不安定さや吸着性の強さを原因とする、応答遅れや効率低下(処理中のロス)の影響は無視できないものである。つまり、酸化手段あるいは還元手段における処理機能に加え、その安定した応答性の改善が緊急の課題となっている。(以下、これらの手段を含め、試料に何らかの化学的作用を加えるものを「処理手段」という。)
そこで、この発明の目的は、同一試料中のNHとNOの2成分あるいは窒素化合物の各成分を簡便にかつ精度よく測定する窒素化合物分析装置を提供することにある。特に、自動車排ガス測定装置のように、試料中の成分変動にも素早く追随することができる高速応答型の窒素化合物分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す窒素化合物分析装置によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
本発明は、1つの試料を分岐した複数の試料処理系を有するとともに、試料中の一酸化窒素を連続的に測定する測定手段を少なくとも1つ有する窒素化合物分析装置において、試料中のアンモニアを酸化する酸化手段および試料中の二酸化窒素を一酸化窒素に変換する変換手段を有する処理系(A)、試料中の二酸化窒素を一酸化窒素に変換する変換手段を有する処理系(B)、試料中の特定成分に対する変換処理を施すことがない処理系(C)、を所定の組み合わせに切換え可能な切換手段を有することを特徴とする。
【0012】
多種の窒素化合物の連続分析結果を同一レベルで評価するには、同一原理の分析計によって測定することが好ましい。本発明に係る分析装置においては、同一原理の少なくとも1つの測定手段、具体的にはNO分析計を用い、3つの処理系の比較・切換・組み合わせることで、試料中の成分変動にも素早く追随することができる簡便かつ精度のよい分析装置を提供することが可能となる。
【0013】
つまり、NHを酸化してNOとNOに変換し、該NOおよび試料中の一部のNOをNOに変換することによって、試料中の全窒素化合物をNOに変換する処理系(A)、試料中のNOをNOに変換し、試料中のNOxをNOに変換する処理系(B)、試料中のNOを導入する処理系(C)、を組合せることによって、以下の成分を測定することができる。
(1)処理系(A)を測定することによって、全窒素化合物。
(2)処理系(B)を測定することによって、NOx。
(3)処理系(C)を測定することによって、NO。
(4)処理系(A)と処理系(B)との差を測定することによって、NH
(5)処理系(B)と処理系(C)との差を測定することによって、NO
【0014】
本発明は、上記窒素化合物分析装置において、前記処理系(A),(B),(C)と測定手段との組み合わせに対し、それぞれ固有の応答時間の情報を有し、該情報を用いて測定手段の出力を補正する演算処理手段を有することを特徴とする。
【0015】
試料中の複数成分の測定においては、各成分ごとの応答時間が同一であることが好ましく、特に上記のように異なる処理系の測定値の差分を測定値とする場合には、精度面から一層そうした要請が強い。ここで、各成分ごとの応答時間を決定する要素は、測定手段におけるガス系および信号処理系の応答と、試料採取系におけるガス系、つまり流量差および酸化手段等の処理手段での反応性あるいは吸着性などによる応答を、挙げることができる。こうした要素によって応答時間が決定されることから、各処理系ごとにその応答の補正を行うことが必要となる。具体的には、各処理系ごとの応答時間の情報を予め求めておき、その情報を用いて実測時における測定手段の出力を補正する。こうした出力処理することによって、同一試料中の窒素化合物の各成分を簡便にかつ精度よく測定することが可能となる。
【0016】
なお、ここでいう「応答時間」とは、JIS B 7982などに規定されているように、所定濃度のガスの切換時からの最終指示値に対する所定値(該JIS B 7982などにおいては最終指示値の90%値と規定している)に達するまでの時間をいい、一般には、切換えられた試料が測定手段まで到達し分析計の出力が立ち上がるまでの時間であるタイムラグTdと、その立ち上がりから最終指示値のx%値に達するまでの時間であるTxに分けて評価される。本願においては、Txを上記JISと同様最終指示値の90%値までの時間とし、T90で表現する。
【0017】
また、「演算処理手段」には、上記のような応答時間の補正だけではなく、測定手段の信号処理(後述する「移動平均処理手段」を含む)あるいは後述する切換手段の制御処理など広く分析装置の処理に関する情報を取り扱う手段をいう。
【0018】
本発明は、1つの試料を分岐した複数の試料処理系を有するとともに、試料中の一酸化窒素を連続的に測定する測定手段を少なくとも1つ有する窒素化合物分析装置において、アンモニアを酸化する酸化手段への試料の導入流路あるいはパス流路を切換え可能な切換手段、あるいは二酸化窒素を一酸化窒素に変換する変換手段への試料の導入あるいはパスを切換え可能な切換手段を有し、全窒素化合物、窒素酸化物、一酸化窒素、アンモニア、二酸化窒素のいずれか少なくとも1つが測定可能であることを特徴とする。
【0019】
上記では、複数の処理内容を行う、複数の固定された処理系(具体的には、(A)、(B)、(C)の3つの処理系)を有する場合を想定した。本発明は、複数の処理手段の切換によって、複数の各処理モードを形成し、処理系の減縮を図るもので、2つの分岐流路によって、5つの窒素化合物の各成分を簡便にかつ精度よく測定する分析装置を提供することができる。具体的には、NHを酸化する酸化手段および試料中のNOをNOに変換する変換手段への導入流路およびパス流路を任意に切換えることによって、上記処理系(A)、(B)、(C)に相当する3つの処理モードの構成を可能とした。むろんその処理モードを全て用いる必要はなく、測定成分に応じた処理モードの選択が可能である。
【0020】
本発明は、上記窒素化合物分析装置であって、前記酸化手段あるいは変換手段への導入流路およびパス流路の切換えと測定手段との組み合わせに対し、それぞれ固有の応答時間の情報を有し、該情報を用いて測定手段の出力を補正する演算処理手段を有することを特徴とする。
【0021】
上記では各処理手段系ごとの応答補正について述べたが、同様に処理手段の切換による場合においても応答補正を行うことが必要となる。具体的には、処理手段の切換に伴う各処理モードごとの応答時間の情報を予め求めておき、その情報を用いて実測時における測定手段の出力を補正する。こうした出力処理することによって、同一試料中の窒素化合物の各成分を、簡便にかつ精度よく測定することが可能となる。
【0022】
本発明は、上記窒素化合物分析装置において、入力された前記測定手段の出力を、演算処理して出力あるいは表示する信号処理手段において、前記出力を移動平均処理する移動平均処理手段を有することを特徴とする。
【0023】
上記のように、本発明においては各処理系あるいは処理モードにおける応答補正が測定精度に重要な役割を果たしている。本発明者はこうした信号の補正において、移動平均処理技術を導入することによって、補正精度を非常に向上させることができることを案出したもので、特に、NHやNOのように吸着性の強い成分を測定する処理において非常に有効である。具体的には、各処理モードにおけるTdに相当する移動平均のシフト量およびT90に相当する移動平均の出力採取時間あるいは演算に用いる母数(以下「演算母数」という。)を予め求めておき、実測値に対する移動平均処理時に、最初にTd、次にT90を補正して移動平均を行う方法が好ましい。
【0024】
また、試料の条件によって、移動平均の出力採取時間あるいは演算母数(以下「移動平均モード」という。)を任意に設定可能とすることが好ましい。具体的には、自動車排ガス中の成分測定の場合には、例えば、ディーゼルエンジンの場合とガソリンエンジンの場合では、NHやNOの排出量が大きく異なることがあり、同一試料処理系であっても移動平均モードを変更することによって測定精度の向上を図ることができる。また、選択された測定濃度レンジによる切換移動平均モードの切換も有用であり、さらには、実測値によって移動平均モードを切換えることが可能な場合もある。
【0025】
本発明は、上記窒素化合物分析装置において、前記酸化手段あるいは変換手段が、内部に流路を有し、該流路内に少なくとも1つの突起部あるいは段部を設けるとともに、該突起部あるいは段部の流路前後部に、流路中心線と平行かつ平坦な所定長の領域の内面を有することを特徴とする。
【0026】
上記のように、本発明に係る処理手段においては、NHやNOのように吸着性の強い成分に対する高速応答性を要求されている。また、NHの酸化手段では、800℃以上の非常に高温条件を迅速に形成することが要求されている。本発明者は、層流に近いガス流を形成した後の流路に突起部あるいは段部を設けることによって乱流を形成するとともに、境界層にあったガスと層外にあったガスを混合・移動させ、突起部の後段に設けられたガス流と平行な流路(平行平坦部)において、境界層に移動したガスを急速加熱することによって短時間にガス流全体の昇温を図ることができることを案出し、こうした課題に対応することが可能となった。また、流量が多い場合などには、突起部あるいは段部を複数設けることによって、ガス条件にあった急速加熱効果を得ることができる。
【0027】
従って、高速応答を要求される分析装置に、こうした機能を適用すれば、非常に優れた分析装置を構成することが可能となる。特に、試料採取流路を複数に分岐し、一方の試料に対して所定の処理を行い、未処理試料との比較測定を行う場合などにおいては、流路間における応答のズレを非常に小さくすることができることから、リアルタイムの測定が可能となる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明に係る窒素化合物分析装置によれば、同一試料中のNHとNOの2成分あるいは窒素化合物の各成分を簡便にかつ精度よく測定することができる。特に複数の処理系あるいは処理モードの切換によって同一試料を測定する場合の流路間の応答ズレという重要な課題に対し、試料の条件に対応した適切な補正を行うとともに、迅速な処理手段によって、試料中の成分変動にも素早く追随することができる窒素化合物分析装置を提供することができる。特に、自動車排ガス中のNH分析装置のように、従来応答性などの面で全く実用化されていなかった分野では、非常に有用な装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
本発明に係る窒素化合物分析装置の1の構成例として、NO分析計として化学発光式分析計(CLD)を用いた分析装置を図1に示す。試料ポンプ7によってサンプル入口から導入された試料を3つに分岐し、1つは、酸化触媒ユニット8(試料中のアンモニアを酸化する酸化手段)、NO−NO変換ユニット9a(試料中の二酸化窒素を一酸化窒素に変換する変換手段)を経由してNO分析計10aに導入され、オゾン分解ユニット11を介して排出される(処理系(A))。2つは、NO−NO変換ユニット9bを経由してNO分析計10bに導入され、オゾン分解ユニット11を介して排出される(処理系(B))。3つは、そのままの状態でNO分析計10cに導入され、オゾン分解ユニット11を介して排出される(処理系(C))。NO分析計10(10a、10b、10c)には酸素源を基にオゾン発生手段12を介してオゾン(O)ガスが供給される。
【0031】
このとき、処理系(A)では試料中のトータル窒素化合物を測定し、処理系(B)ではNOx、処理系(C)ではNOを測定することができる。従って、各NO分析計10a,10b,10cの出力を演算処理手段14に導入し、これらの測定値の差分を演算することによって、(A)−(B)=NH、および(B)−(C)=NOを測定することができ、合せて5成分の窒素化合物を連続的に測定することができる。
【0032】
なお、上記5成分の窒素化合物の内の特定成分のみ測定する場合には、試料ポンプ7直後に切換弁13を設け、これらの必要な処理系のみに接続するように切換・作動させることが可能である。
【0033】
また、各処理系のNO分析計10a,10b,10cの出力に対し、それぞれ固有の応答時間の情報であるTdおよびT90を用いて補正することが好ましい。つまり、図2(A)に例示するように、例えば処理系(A)〜(C)に対応する成分の試料Iが導入された場合のNO分析計10a,10b,10cの出力は、各々固有のタイムラグ(Tda,Tdb,Tdc)および90%応答(T90a,T90b,T90c)を有している。これは、NO分析計10a,10b,10cにおけるガス系および信号処理系の応答と、各処理系におけるガス流量および酸化触媒ユニット8等の処理手段での反応性あるいは吸着性などによる応答とが複合した結果であり、通常、各処理系の流量をほぼ同一にした場合、Tda>Tdb>TdcおよびT90a>T90b>T90cとなる。こうした応答性は、極端な組成変動がない限り各処理系における変化は少なく、予め各処理系ごとのTdおよびT90を求め応答時間の情報を演算処理手段14に有しておくことによって、実測時におけるNO分析計10a,10b,10cの出力を補正することができる。
【0034】
補正は、最初にTd、次にT90を補正する方法が好ましく、以下に2つの方法について詳述する。なお、説明の簡略化から2つのNO分析計の出力について限定するが、本発明はこれに制限されるものでないことはいうまでもない。
【0035】
<補正方法1>具体的には、同一時間を起点とする2つの処理系のNO分析計の出力を処理系(A)についてfaおよび処理系(B)についてfbと仮定した場合において、補正後のNO分析計の出力fn(A)およびfn(B)は、以下の方法によって算出することができる。
(1)予め各処理系における、試料濃度変化に対するタイムラグTda,Tdbおよび90%応答T90a,T90b,を求め、演算処理手段14にメモリする。
(2)基準となる立ち上がり特性を定め、基準となるT90sを決定する。一般には、最も応答の遅い処理系に合せ、上記T90a,T90bの内の最大値であるT90aが選択される。
(3)実測時のNO分析計の各出力をメモリしておき、図2(B)に示すように、ある時間tにおける各出力から各々TdaおよびTdb時間をシフトしたときの出力faおよびfbを求める。
(4)上記(3)を順次に繰り返すことによって、連続的な出力を得ることができる。出力faおよびfbに対する平滑あるいはゼロ調整・スパン(感度)調整時の処理時定数をT90aとして演算処理する。
(5)以上によって、出力faおよびfbに対する応答のズレを補正した出力fn(A)およびfn(B)を得ることができ、時間tにおける濃度出力の演算を行い、表示・出力する。
【0036】
<補正方法2>さらに、NO分析計の出力を移動平均処理することによって、一層高い補正精度を確保することができる。具体的には、以下の方法によって補正後の出力を算出することができる。
(1)予め各処理系における、試料濃度変化に対するタイムラグTda,Tdbおよび90%応答T90a,T90b,を求め、移動平均処理手段としての機能を有する演算処理手段14にメモリする。
(2)図2(C)に例示するように、移動平均の単位時間tを設定し、Tda,Tdbに相当する移動平均のシフト量、つまり処理系(A)ではT90a/t個分、および処理系(B)ではT90b/t個分を演算メモリする。また、T90に相当する移動平均モードとして、例えば、応答の遅い処理系(A)におけるT90a/t個の演算母数として決定する。
(3)実測時のNO分析計の各出力を順次演算処理手段14にメモリし、ある時間tから各々T90aおよびT90bをシフトした時間tにおける各出力値を基に、演算母数に相当する出力データを平均し、補正換算出力fn(A),fn(B)を求める。
このとき、時間tにおける各出力値として移動平均する方法としては、図2(C)のように、時間tを中心にした演算母数に相当する出力データを平均演算する方法、時間tまでの演算母数に相当する出力データを平均演算する方法あるいは時間t以降の演算母数に相当する出力データを平均演算する方法がある。
(4)上記(2),(3)を単位時間tごとに繰り返すことによって、連続的な演算出力を得ることができる。
(5)以上によって、出力faおよびfbに対する応答のズレを補正することができ、濃度出力演算を行い、表示・出力する。
【0037】
上記のように、予め各処理系ごとのTdおよびT90を求めておくことによって、実測時におけるNO分析計10a,10b,10cの出力を適切に補正することができる。
【0038】
特に、移動平均処理による方法は、容易にタイムラグあるいは演算母数を任意に設定することができ、実測値に対する応答のズレに対し非常に有効に補正することができる。具体的には、次の場合などに有効である。
【0039】
(1)自動車排ガス中の成分測定の場合において、ディーゼルエンジンの場合とガソリンエンジンの場合では、NHやNOの排出量が大きく異なり、同一試料処理系であってもその流路における反応あるいは吸着、さらには共存する水分やパーティキュレートなどの影響によって、応答性が大きく異なることがある。また、そうした特性は、応答性の面からみると、同種のエンジンあるいはその後の自動車内部での排ガス処理によって、いくつかのパターンに分類が可能となる。そこで、予めこうした測定条件による複数の移動平均モードを演算処理手段14にメモリしておき、例えば、車種などの情報を入力し移動平均モードを変更することによって測定精度の向上を図ることができる。
【0040】
(2)また、試料処理系においては、試料中のNHやNOの濃度によってもその応答性が変化することが知られている。具体的には、90%応答は、低濃度の場合は速く高濃度になれば遅くなる。試料中のNHやNOの排出量によって、分析装置の測定濃度レンジ(例えば、NH0−10/0−100/0−1000ppmなど)が随時選択されるが、この選択された測定濃度レンジによって切換移動平均モードの切換えることによって、こうした応答のズレを精度よく補正することが可能となる。
【0041】
(3)さらには、ある時間帯では比較的安定な濃度を示す場合には、実測値によって移動平均モードの切換を行うことが有用な場合もある。上記の測定濃度レンジによる移動平均モードの切換をさらに進めたもので、予め分析計出力と移動平均モードの関連表をデータベース化しておき、演算処理手段14において分析計出力から自動的に判断し移動平均モードの切換を行うことも可能であり、応答のズレを精度よく補正することが可能となる。
【0042】
また、本発明における移動平均処理方法においては、分析計出力の単純な演算母数の移動平均ではなく、演算母数を複数に分割し複数の移動平均モードを組み合わせた新たな移動平均モードを構成し、それを分析計出力と掛け合わせることによって精度を上げることも可能である。例えば、時間をパラメータとする応答曲線についても、低濃度の場合は2次あるいは3次といった低次の曲線近似が可能であるが、高濃度になればそれからのズレが大きくなる。あるいは、処理手段での反応効率の変化などの影響によっても異なる応答曲線となることがある。例えば、図2(D)のように、タイムラグを補正した後であっての応答曲線が異なる状態が挙げられる。こうした場合には、複数の移動平均モードを組み合わせることによって、さらに精度の向上を図ることができる。なお、本発明における移動平均処理方法は、上記の方法あるいはこれらを組合せた方法に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0043】
なお、移動平均処理手段は、演算処理手段14と別に独立した手段として設け、移動平均モードの切換あるいは演算母数の変更などを手動あるいは自動的に行うことも可能であり、分析装置での入力機能以外に外部からの入力機能を設けることも可能である。
【0044】
酸化触媒ユニット8は、内部に白金系触媒および/あるいはニッケル系触媒を配し、約800〜900℃の条件で、試料中のアンモニアを酸化する。また、NO−NO変換ユニット9では、内部にカーボン系触媒を配し、約150〜250℃の条件で、試料中のNOをNOに還元・変換する。さらに、オゾン分解ユニット11では、約200〜300℃の条件で、試料中のOを加熱分解して排気ガスを無害化する。
【0045】
上記の構成では、NHの酸化触媒として白金系触媒および/あるいはニッケル系触媒を例示したが、他にパラジウム系触媒や銅あるいはクロム系触媒などの酸化触媒の適用も可能である。ただし、メッシュ形状を構成し、かつ酸化効率を所定値(例えば変換効率90%)以上とするには、白金系触媒および/あるいはニッケル系触媒が好ましい。
【0046】
また、酸化触媒ユニット8などの各処理手段には、図3(A)に例示するような構成が好ましい。加熱部1の内部に流路を形成する管状体2を配し、管状体2の複数の部位に突起部3(具体的には各々を3a,3b,3cで表す)を形成するとともに、該突起部3の流路前後部に平行平坦部4(具体的には各々を4a,4bで表す)を形成することによって、迅速な試料の加熱・昇温が可能となる。突起部3bと3cの間の平行平坦部4bの位置に触媒6が配設されている場合には、試料は、突起部3a、3bと順に加熱され、所定の温度に十分昇温された条件で触媒6を機能させることできる。また、図3(B)に例示するように、管状体2内部に異径の管状体2aの嵌挿する構造も可能である。管状体2の内径と略同じ外径を有する管状体5を挿入し、その端部5aが、図3(A)における突起部3cと同等の機能を果たすとともに、加熱後のガス体の流速を高めることによって、効率のよい加熱ユニットを構成することができる。こうした加熱手段あるいは触媒ユニットは、酸化触媒ユニット8、NO−NO変換ユニット9およびオゾン分解ユニット11に適用が可能であり、装置全体のコンパクト化に大きく寄与している。また、種々の温度条件に対しても適用可能であり、特に800℃以上の高温条件にも略同条件で対応できる点において非常に優位性が高い。
【0047】
触媒6は、使用に応じた任意の形状・組成を選択し、触媒ユニットに設置することが可能であるが、形状面では、図3(A)のように突起部3bと3cとで固定する場合には、メッシュ状触媒が好ましい。触媒6による圧力損失の上昇がなく、フィルタや保持部材などを用いずに固定することができることから、吸着によるロスや応答遅れの発生を防止することが可能となる。また、触媒6の装着・着脱が簡単で、交換が容易である点においても優れている。
【0048】
以上のように、本発明の構成によれば、NHやNOの吸着が少なく、迅速なNH→NOx変換を行うことによって、非常に応答性の優れたNHやNOを含む窒素化合物分析装置を構成することができる。また、NH→NOx変換流路における圧力損失や試料中の他の成分の吸着・ロスもないことから、未処理流路との応答差が殆んど生じることがない。さらに、多少の応答ズレが発生する場合であっても、個々の流路において独立した応答特性を有することから、上記のような方法によって補正することによって、応答ズレの影響を受けずに、精度の高い測定が可能となる。
【0049】
本発明に係る分析装置の他の構成例を図4に示す。上記処理系(A)〜(C)に相当する機能を、各処理手段の前段に設けられた切換弁13(13a、13b、13c)を切換えることによって形成することができるもので、2つの分岐流路によって、5つの窒素化合物の各成分を簡便にかつ精度よく測定することができる。このときの切換弁13の状態と測定対象など処理モードを表1に纏める。
【0050】
【表1】

表1に示すように、切換弁13の制御によって処理モードの切換を行うことによって、トータル窒素化合物、NH、NOx、NOおよびNOの5成分を精度よく測定することが可能となる。
【0051】
なお、以下図4〜6では、切換弁13としては3方切換電磁弁を例示し、OFF状態(白色OUTLETに接続)においてストレートの流路を形成し、ON状態(黒色OUTLETに接続)においてストレートの流路を形成する。また、酸化触媒ユニット8およびNO−NO変換ユニット9aの全てに対し、切換弁13a,13b,13cを設ける必要はなく、処理モードあるいは該ユニットの配列などによって省略することも可能であり、装置の簡素化を図ることができる。具体的には、例えば、図4〜6における装置構成において、処理モードとして表1に示す(A’)・(B’)・(C”)の組合せを選択した場合には、切換弁13bなしで5つの成分測定が可能となる。
【0052】
図4に例示する構成例における機能を具体的に図5および図6にて説明する。試料中のNH測定を例に取ると、図5に例示するように、試料ポンプ7によってサンプル入口から導入された試料を2つに分岐し、(A’)一方を酸化触媒ユニット8、NO−NO変換ユニット9aを経由してNO分析計10aに導入され、オゾン分解ユニット11を介して排出される。(B’)他方をそのままの状態で、NO−NO変換ユニット9bを経由してNO分析計10bに導入され、オゾン分解ユニット11を介して排出される。このとき、(A’)では試料中のトータル窒素化合物を測定し、(B’)ではNOxを測定することができ、(A’)−(B’)=NHを連続的に測定することができる。
【0053】
また、図6に例示するように、(B”)切換弁13cを作動し酸化触媒ユニット8をパスし、NO−NO変換ユニット9aを経由してNO分析計10aに導入され、オゾン分解ユニット11を介して排出される。(C’)NO−NO変換ユニット9bの直前において試料流路を分岐して設けた切換弁13bを作動しユニットをパスし、NO分析計10bに導入され、オゾン分解ユニット11を介して排出される。このとき、(B”)では試料中のNOxを測定し、(C’)ではNOを測定することができ、(B”)−(C’)=NOを測定することができる。
【0054】
また、(C”)切換弁13cを作動し酸化触媒ユニット8をパスし、切換弁13aを作動しNO−NO変換ユニット9aを経由してNO分析計10aに導入され、オゾン分解ユニット11を介して排出される。このとき、NOを測定することができる。これと上記の処理モード(B’)によるNOxの同時測定とを組み合わせ、(C”)−(B’)=NOを測定することができる。
【0055】
このとき、NO分析計10aおよび10bの出力を演算処理手段14に入力し、これらの測定値の差分を演算する。また、切換弁13a,13b,13cの動作についても、演算処理手段14において、各処理モードに対応して制御される。また、同時に、上記のような補正処理を、各処理モードに対応して行うことによって、差分の出力であるNHおよびNOに対して精度の高い測定値が得ることが可能となる。
【0056】
図7は第3の実施例の構成を示す。試料中に酸化に必要な十分な酸素がない場合には、ライン15から酸化触媒ユニット8の直前に所定量の酸素(空気)を添加して試料中の支燃剤を補給し、高い酸化反応効率を確保することができる。特に、既述のリーンバーン燃焼のように、瞬間的に数1000ppmのNHが排出される場合には、試料中の酸素では、十分に酸化させることは困難であることから、分析装置の使用条件に合わせ添加を制御することが好ましい。具体的には、数1000ppmのNHを含む試料において、酸化触媒ユニット8導入流量1〜3L/minに対し、約50〜100L/minの純酸素の添加が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上、この発明は、自動車排気ガス中のNHやNOxを迅速に測定する場合に非常に好適な手段として適用することができる他、各種燃焼炉などの固定排出源を含む各種排気ガス中のNHやNOxなどの測定にも適用可能である。
【0058】
また、幅広い加熱温度領域に対応することができことから、排気ガスに限らず各種プロセスや研究用にも適用が可能であり、例えば、以下のような分野にも適用することができる。
(1)加熱ユニット単体として、触媒評価装置における模擬ガス発生装置
(2)エンジン内部の加熱状態におけるガスの挙動解析装置
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る加熱手段の基本的な構成を示す説明図。
【図2(A)】本発明に係る処理系での分析系の応答性を概略的に示す説明図。
【図2(B)】本発明に係る処理系での分析系の応答性を概略的に示す説明図。
【図2(C)】本発明に係る処理系での分析系の応答性を概略的に示す説明図。
【図2(D)】本発明に係る処理系での分析系の応答性を概略的に示す説明図。
【図3】触媒ユニットの基本的な構造を示す説明図。
【図4】本発明に係る分析装置の他の構成例を示す説明図。
【図5】本発明に係る分析装置の他の構成例の1態様を示す説明図。
【図6】本発明に係る分析装置の他の構成例の1態様を示す説明図。
【図7】本発明に係る分析装置の第3の構成例を示す説明図。
【図8】従来技術に係る分析装置の構成を概略的に示す説明図。
【符号の説明】
【0060】
1 加熱部
2、2a、5 管状体
3 突起部
4 平行平坦部
6 触媒
7 試料ポンプ
8 酸化触媒ユニット
9(9a、9b) NO−NO変換ユニット
10 NO分析計
11 オゾン分解ユニット
12 オゾン発生手段
13 切換弁
14 演算処理手段
15 ライン(酸素添加ライン)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの試料を分岐した複数の試料処理系を有するとともに、試料中の一酸化窒素を連続的に測定する測定手段を少なくとも1つ有する窒素化合物分析装置において、試料中のアンモニアを酸化する酸化手段および試料中の二酸化窒素を一酸化窒素に変換する変換手段を有する処理系(A)、試料中の二酸化窒素を一酸化窒素に変換する変換手段を有する処理系(B)、試料中の特定成分に対する変換処理を施すことがない処理系(C)、を所定の組み合わせに切換え可能な切換手段を有することを特徴とする窒素化合物分析装置。
【請求項2】
前記処理系(A),(B),(C)と測定手段との組み合わせに対し、それぞれ固有の応答時間の情報を有し、該情報を用いて測定手段の出力を補正する演算処理手段を有することを特徴とする請求項1記載の窒素化合物分析装置。
【請求項3】
1つの試料を分岐した複数の試料処理系を有するとともに、試料中の一酸化窒素を連続的に測定する測定手段を少なくとも1つ有する窒素化合物分析装置において、アンモニアを酸化する酸化手段への試料の導入流路あるいはパス流路を切換え可能な切換手段、あるいは二酸化窒素を一酸化窒素に変換する変換手段への試料の導入流路あるいはパス流路を切換え可能な切換手段を有し、全窒素化合物、窒素酸化物、一酸化窒素、アンモニア、二酸化窒素のいずれか少なくとも1つが測定可能であることを特徴とする窒素化合物分析装置。
【請求項4】
前記酸化手段あるいは変換手段への導入流路およびパス流路の切換えと測定手段との組み合わせに対し、それぞれ固有の応答時間の情報を有し、該情報を用いて測定手段の出力を補正する演算処理手段を有することを特徴とする請求項3記載の窒素化合物分析装置。
【請求項5】
入力された前記測定手段の出力を、演算処理して出力あるいは表示する信号処理手段において、前記出力を移動平均処理する移動平均処理手段を有することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の窒素化合物分析装置。
【請求項6】
前記酸化手段あるいは変換手段が、内部に流路を有し、該流路内に少なくとも1つの突起部あるいは段部を設けるとともに、該突起部あるいは段部の流路前後部に、流路中心線と平行かつ平坦な所定長の領域の内面を有することを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の窒素化合物分析装置。


【図1】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【図2(C)】
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【図2(D)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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