説明

窒素含有炭素材料、その製造方法及び燃料電池用電極

【課題】従来の窒素含有炭素材料と比較して、電極反応において高い酸素還元活性を有する窒素含有炭素材料の製造方法を提供する。
【解決手段】アズルミン酸と遷移金属とを含む窒素含有炭素材料のプレカーサーを炭化する工程を有し、前記工程が、前記プレカーサーに第1の熱処理を施す第1の工程と、前記第1の熱処理を施された前記プレカーサーから前記遷移金属の少なくとも一部を除去する第2の工程と、前記遷移金属の少なくとも一部が除去された前記プレカーサーに第2の熱処理を施す第3の工程と、を有する窒素含有炭素材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素含有炭素材料、その製造方法及び燃料電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、従来、吸着材等として主に使用されていたが、導電性等の電子材料物性、高い熱伝導率、低い熱膨張率、軽さ、耐熱性等の基本的な性質を持つために幅広い用途が検討されるようになってきている。特に最近はその化学的機能に着目されており、リチウムイオン二次電池用負極、キャパシタ用電極、固体高分子型燃料電池用電極、化学反応の触媒等の分野で検討されている。
【0003】
かかる炭素材料は、従来、椰子殻、石炭コークス、石炭又は石油ピッチ、フラン樹脂、フェノール樹脂等を原料とし、炭化処理して製造されている。
【0004】
近年になって、かかる炭素材料に他の元素を含有させて炭素材料の物性の幅をさらに広げて発展させようとする試みがある。こうした中で、最近、窒素原子をドープした炭素材料(以下、「窒素含有炭素材料」という。)を用いて酸素還元活性を発現させて、固体高分子形燃料電池用電極や化学反応の触媒等に用いるという検討が進められている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/123380号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の窒素含有炭素材料において、電極反応における酸素還元活性は不十分である。そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、従来の窒素含有炭素材料と比較して、電極反応において高い酸素還元活性を有する窒素含有炭素材料、その製造方法及び燃料電池用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アズルミン酸と遷移金属とを含むプレカーサー(窒素含有炭素材料の前駆体)を炭化する工程において所定の処理を施すことにより、最終的に得られる窒素含有炭素材料は、燃料電池用電極等の用途において、従来の窒素含有炭素材料と比較して高い酸素還元活性を示すことを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1]アズルミン酸と遷移金属とを含む窒素含有炭素材料のプレカーサーを炭化する工程を有し、前記工程が、前記プレカーサーに第1の熱処理を施す第1の工程と、前記第1の熱処理を施された前記プレカーサーから前記遷移金属の少なくとも一部を除去する第2の工程と、前記遷移金属の少なくとも一部が除去された前記プレカーサーに第2の熱処理を施す第3の工程と、を有する窒素含有炭素材料の製造方法。
[2]前記第1の工程と前記第3の工程との間に、前記プレカーサーを粉砕する第4の工程を更に有する、[1]に記載の製造方法。
[3]前記第1の工程において、前記プレカーサー周囲の雰囲気が不活性ガス雰囲気である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記第3の工程において、前記プレカーサー周囲の雰囲気がアンモニア含有ガス雰囲気である、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の製造方法。
[5][1]〜[4]のいずれか1つに記載の製造方法により得られた窒素含有炭素材料。
[6][1]〜[5]のいずれか1つに記載の製造方法により得られた窒素含有炭素材料を含む燃料電池用電極。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来の窒素含有炭素材料と比較して、電極反応において高い酸素還元活性を有する窒素含有炭素材料、その製造方法及び燃料電池用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る窒素含有炭素材料の製造方法の一例を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法を説明するための工程図である。図1に示すように、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法は、窒素含有炭素材料のプレカーサーを炭化する工程S14を有する。さらに、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法は、工程S14に先だって、青酸を含む原料を重合してアズルミン酸を製造する工程S10と、アズルミン酸と遷移金属を含むプレカーサーを製造する工程S12とを有する。本明細書において、「アズルミン酸」とは、主として青酸(シアン化水素)を重合して得られる重合物の総称を意味する。以下、各工程を詳述する。
【0013】
まず、工程S10では、主として青酸を含む原料を重合してアズルミン酸を得る。工程S10で用いる青酸としては、特に限定されず、公知の方法で製造されたものを用いることができる。例えば、青酸は、プロピレン、イソブチレン、tert−ブチルアルコール、プロパン又はイソブタンを触媒存在下でアンモニア、酸素含有ガスと反応させる気相接触反応によってアクリロニトリルやメタクリロニトリルを製造する方法において副生される。このため、工程S10で用いる青酸は非常に安価に入手することが可能である。上述の気相接触反応は従来公知の反応であるため、その反応条件も公知のものであればよい。ただし、副生する青酸を増産するために、例えばメタノールのようにアンモ酸化反応によって青酸を生成するような原料を、アクリロニトリルやメタクリロニトリルを合成する反応器に供給することも可能である。
【0014】
また、天然ガスの主成分であるメタンを触媒存在下でアンモニア、酸素含有ガスと反応させるアンドリュッソー法によって製造される青酸を用いることもできる。この製造方法もメタンを原料とするため、非常に安価に青酸を入手できる方法である。
【0015】
もちろん、青酸の製造方法は、青化ソーダ等を用いる実験室的な製造方法であってもよいが、上記の工業的に製造される青酸を用いるのが、青酸を多量かつ安価に製造できる観点から好ましい。
【0016】
工程S10において、主とし青酸を含む原料を重合して、黒色から黒褐色の重合物であるアズルミン酸を得る。ここで、高純度のアズルミン酸を得る観点から、主として青酸を含む原料の全体量に対して、青酸以外の重合性物質の存在比は40質量%以下であるのが好ましく、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下である。言い換えると、上記原料における重合性物質中の青酸の存在比は、60質量%以上であると好ましく、90質量%以上であるとより好ましく、95質量%以上であるとさらに好ましく、99質量%以上であると特に好ましい。
【0017】
アズルミン酸は、青酸及び場合によっては少量のそれ以外の重合性物質を種々の方法で重合させることにより製造することができる。重合方法としては、例えば、液化青酸や青酸水溶液を加熱する方法、それらを長時間放置する方法、それらに塩基を添加する方法、それらに光を照射する方法、それらに高エネルギーの放射をする方法、それらの存在下で種々の放電を行う方法、シアン化カリウム水溶液の電気分解による方法が挙げられる。この他、例えば、Angew.Chem.72巻、379−384(1960年)及びその引用文献、並びに真空科学、16巻、64−72(1969年)及びその引用文献に記載の公知の方法が挙げられる。
【0018】
液化青酸や青酸水溶液に塩基を添加して、その塩基の存在下で青酸を重合させる方法において、上記塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、有機塩基、アンモニア、アンモニア水が例示される。有機塩基としては、例えば、一級アミン(R1NH2)、二級アミン(R12NH)、三級アミン(R123N)、四級アンモニウ塩(R1234+)が挙げられる。ここで、R1、R2、R3及びR4は互いに同一又は異なってもよい炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、シクロヘキシル基、及びこれらが結合して得られる基を示す。R1、R2、R3及びR4はさらに置換基を有していてもよい。この有機塩基の中では、脂肪族又は環式脂肪族の第三級アミンが好ましい。そのような第三級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、N−メチルピロリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)を挙げられる。上記塩基は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0019】
青酸の重合方法のうち、重合段階で金属成分を含まないという観点で好ましいのは、液化青酸や青酸水溶液を加熱する、それらを長時間放置する、それらを光を照射する、それらに高エネルギーの放射をする、それらをアンモニア、有機塩基の存在下で重合する方法である。
【0020】
また、プロピレン等のアンモ酸化工程で副生する青酸の精製工程において、精製装置に付着物が発生することがあるが、この付着物にはアズルミン酸が高い割合で含まれることが多い。この付着物から回収したアズルミン酸を用いることも可能である。
【0021】
アズルミン酸は青酸の重合物であるので、理想的には(炭素のモル分率):(窒素のモル分率):(水素のモル分率)の比は1:1:1である。ところが、製造方法によっては、例えば、添加した塩基が重合鎖中に取り込まれたり、水溶液中では一部加水分解したりするために、重合条件に依存して、組成が上記のモル分率の比と異なる場合もある。窒素含有炭素材料の炭化後の窒素残存率を高くする観点から、アズルミン酸における(窒素元素のモル分率)/(炭素元素のモル分率)は0.2〜1.2が好ましく、より好ましくは0.3〜1.1であり、特に好ましくは0.4〜1.0である。また、炭化収率を高くする観点から、(水素元素のモル分率)/(炭素元素のモル分率)は0.2〜2.0が好ましく、より好ましくは0.5〜1.5であり、特に好ましくは0.7〜1.2である。各元素のモル分率を調整する方法として、例えば、無水条件で重合させると、加水分解による脱アンモニアが抑制され、(窒素元素のモル分率)/(炭素元素のモル分率)、(水素元素のモル分率)/(炭素元素のモル分率)が高くなる。また、塩基を用いる重合方法では、添加した塩基の一部がアズルミン酸に取り込まれるため、用いる塩基を変更することにより、生成するアズルミン酸における各元素のモル分率を微調整することができる。なお、アズルミン酸の組成は、CHN分析計を用いて測定され得る。
【0022】
次いで、工程S12において、アズルミン酸と遷移金属とを含むプレカーサー、すなわち窒素含有炭素材料の前駆体を製造する。プレカーサーの製造方法としては、特に限定されないが、アズルミン酸と遷移金属の原料とを溶媒中で混合し、次いで、その混合物から溶媒を除去することによりプレカーサーを製造する方法が好ましい。アズルミン酸と遷移金属の原料とを溶媒中で混合する際、アズルミン酸はその一部又は全部が溶解していても溶解していなくてもよい。
【0023】
遷移金属としては、炭化促進効果の観点から、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Tc(テクネチウム)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Re(レニウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Au(金)及びランタノイド元素が好ましい。より好ましくは、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Au、La及びCeであり、さらに好ましくはPt、Fe、Co及びNiであり、特に好ましくはFe及びCoであり、極めて好ましくはFeである。これらの遷移金属は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて、プレカーサーに含まれ得る。
【0024】
遷移金属の原料としては、特に限定されず、例えば、遷移金属の錯体、無機酸塩、有機酸塩及びその他の遷移金属化合物が挙げられ、より具体的には、例えば、遷移金属のシュウ酸塩、水酸化物、酸化物、亜硝酸塩、硝酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、炭酸塩、塩化物、臭化物、アルコキシド、アセチルアセトナート、フタロシアニン及びポルフィリンが挙げられる。
【0025】
遷移金属が鉄である場合のその原料としては、例えば、鉄錯体、鉄の無機酸塩、鉄の有機酸塩及びその他の鉄化合物が挙げられ、より具体的には、例えば、鉄(II)フタロシアニン、鉄(III)アセチルアセトネート、鉄(II)メトキシド、鉄(III)エトキシド、鉄(III)イソプロポキシド、ビス(シクロペンタジエニル)鉄、ビス(メチルシクロペンタジエニル)鉄、ビス(エチルシクロペンタジエニル)鉄、ビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)鉄、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)鉄、塩化第二鉄、クエン酸第二鉄、リン化第二鉄、酒石酸第二鉄、フマル酸第一鉄、ヘキサシアノ鉄(II)酸アンモニウム、ヘキサシアノ鉄(II)酸アンモニウム鉄(III)、シュウ酸アンモニウム鉄(III)三水和物、硫酸鉄(III)アンモニウム、硫酸アンモニウム鉄(III)、ビス(シクロペンタジエニル)鉄、塩化第二鉄、エチレンジアミン四酢酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、硝酸第二鉄、酢酸鉄(II)、フマル酸鉄(II)、グルコン酸鉄(II)、シュウ酸鉄及び水酸化鉄(III)を例示できる。これらの中で、電極反応における酸素還元活性がより良好な窒素含有炭素材料を得る観点から、鉄錯体及び鉄の無機酸塩が好ましく、より好ましくは鉄(II)フタロシアニン及び硝酸鉄である。鉄の原料は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0026】
遷移金属がニッケルである場合のその原料としては、例えば、ニッケル錯体、ニッケルの無機酸塩、ニッケルの有機酸塩及びその他のニッケル化合物が挙げられ、より具体的には、例えば、ニッケル(II)フタロシアニン、ニッケル(II)トリフルオロアセチルアセトナート、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)ニッケル、ホウ酸ニッケル、ヒドロキシ酢酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ニッケル、硫酸ニッケル(II)アンモニウム、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)ニッケル、臭化ヘキサアンミンニッケル(II)、塩化ヘキサアンミンニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)四水和物、アセチルアセトン酸ニッケル(II)、硫酸ニッケルアンモニウム、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル、炭酸ニッケル(II)、ギ酸ニッケル(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトニッケル(II)、酸化ニッケル(II)、ヒドロキシ酢酸ニッケル(II)、乳酸ニッケル(II)、ナフテン酸ニッケル(II)、硝酸ニッケル、シュウ酸ニッケル(II)、2,4−ペンタンジオン酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル、アミド硫酸ニッケル及び水酸化ニッケルを例示できる。これらの中で、電極反応における酸素還元活性がより良好な窒素含有炭素材料を得る観点から、ニッケル錯体及びニッケルの無機酸塩が好ましく、より好ましくは、ニッケル(II)フタロシアニン及び硝酸ニッケルである。ニッケルの原料は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
遷移金属がコバルトである場合のその原料としては、例えば、コバルト錯体、コバルトの無機酸塩、コバルトの有機酸塩及びその他のコバルト化合物が挙げられ、より具体的には、例えば、コバルト(II)フタロシアニン、コバルト(II)トリフルオロアセチルアセトナート、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト、ビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)コバルト、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)コバルト、ホウ酸コバルト、ヒドロキシ酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ビス(エチルシクロペンタジエニル)コバルト、硫酸コバルト(II)アンモニウム、ビス(1,5−シクロオクタジエン)コバルト、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)コバルト、臭化ヘキサアンミンコバルト(II)、塩化ヘキサアンミンコバルト(II)、酢酸コバルト(II)四水和物、アセチルアセトン酸コバルト(II)、硫酸コバルトアンモニウム、塩化コバルト(II)、臭化コバルト、炭酸コバルト(II)、ギ酸コバルト(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトコバルト(II)、酸化コバルト(II)、ヒドロキシ酢酸コバルト(II)、乳酸コバルト(II)、硝酸コバルト、シュウ酸コバルト(II)、2,4−ペンタンジオン酸コバルト(II)、硫酸コバルト、アミド硫酸コバルト、水酸化コバルトを例示できる。これらの中で、電極反応における酸素還元活性がより良好な窒素含有炭素材料を得る観点から、コバルト錯体及びコバルトの無機酸塩が好ましく、より好ましくは、コバルト(II)フタロシアニン及び硝酸コバルトであり、更に好ましくは硝酸コバルトである。コバルトの原料は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0028】
遷移金属が白金である場合のその原料としては、例えば、白金錯体、ハロゲン原子を有する白金化合物及びその他の白金化合物が挙げられ、より具体的には、例えば、白金(II)アセチルアセトナート、ヘキサブロモ白金酸(IV)アンモニウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸アンモニウム、テトラクロロ白金(II)酸アンモニウム、ビス(アセチルアセトナート)白金(II)、ビス(エチレンジアミン)白金(II)クロリド、クロロ白金酸六水和物、クロロ白金酸六水和物、ジクロロジアンミン白金(II)、テトラクロロジアンミン白金(IV)、1,1−シクロブタンジカルボキシラトジアンミン白金(II)、ジアンミンジクロロ白金(II)、亜硝酸ジアンミン白金(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)白金(II)、ヘキサクロロ白金酸(IV)二水素、ヘキサブロモ白金酸(IV)二水素、ヘキサヒドロオクソ白金酸(IV)、ジフェニル(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸、臭化白金(II)、塩化白金(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトン酸白金(II)、塩化テトラアンミン白金(II)、炭酸水素テトラアンミン白金(II)、テトラアンミン白金(II)水酸化物、硝酸テトラアミン白金(II)、テトラアミン白金(II)テトラクロロ白金(II)酸及びヘキサヒドロキソ白金硝酸水溶液を例示できる。白金の原料は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0029】
溶媒としては、アズルミン酸との親和性が高い溶媒が好ましい。そのような溶媒としては、例えば、有機溶媒及び水が挙げられ、それらの溶媒にアズルミン酸以外の溶質が溶解した溶液、例えば塩基性水溶液、酸性水溶液であってもよい。これらの中では、極性溶媒の方が、アズルミン酸との親和性が高い傾向がある。溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0030】
有機溶媒としては、極性溶媒が好ましい。極性溶媒としては、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、1−ブタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、エタノール、メタノール、ギ酸及びアミノ基を有する溶媒を例示できる。アミノ基を有する溶媒として、第一級アミンを例示できる。具体的には、アミノ基を有する溶媒として、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、セチルアミン、シクロプロピルアミン、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、ナフチルアミン、アリルアミン等のモノアミン;エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンエキサミン等のジアミン;並びに、1,2,3−トリアミノプロパン、トリアミノベンゼン、トリアミノフェノール及びメラミン等のトリアミンを例示できる。
【0031】
これらの中で、アミノ基を有する溶媒として、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、1,2,3−トリアミノプロパンが好ましく、エチレンジアミンがより好ましい。
【0032】
塩基性水溶液としては、例えば、第一級アミンの水溶液、アルカリ金属の水溶液、アルカリ土類金属の水溶液及び4級アンモニウム塩の水溶液を例示することができる。第一級アミンの水溶液としては、アンモニア水溶液、メチルアミン水溶液、エチルアミン水溶液、プロピルアミン水溶液、イソプロピルアミン水溶液、ブチルアミン水溶液、アミルアミン水溶液、ヘキシルアミン水溶液の等のモノアミン水溶液;エチレンジアミン水溶液、トリメチレンジアミン水溶液、テトラメチレンジアミン水溶液等のジアミン水溶液;並びに、メラミン水溶液等のトリアミン水溶液を例示できる。アルカリ金属の水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カリウム水溶液を例示でき、アルカリ土類金属の水溶液としては、水酸化カルシウム水溶液及び水酸化バリウム水溶液を例示でき、4級アンモニウム塩の水溶液としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液及びテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を例示できる。これらの中で、好ましい塩基性水溶液は、アンモニア水溶液、エチレンジアミン水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液及びテトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液であり、より好ましくはエチレンジアミン水溶液である。
【0033】
酸性水溶液として、硫酸水溶液、硝酸水溶液、塩酸水溶液及びリン酸水溶液を例示することができる。これらの中で、好ましくは硫酸水溶液である。
【0034】
アズルミン酸と遷移金属の原料との混合比率は、特に限定されないが、アズルミン酸に対する遷移金属の原料の質量比が0.001〜10であることが好ましく、0.005〜1であることがより好ましく、0.01〜1であることが更に好ましい。遷移金属の質量比が0.001以上であることにより、プレカーサーの炭化がより十分になる傾向にあり、遷移金属の質量比が10以下であることにより、炭化後に遷移金属を除去する際に用いる酸の量を少なくできる傾向にある。
【0035】
アズルミン酸を溶媒に投入するのに先立って、アズルミン酸を予めボールミル等で粉砕しておくことが、混合の容易性の観点から好ましい。
【0036】
アズルミン酸と溶媒との比率は、溶解性、希釈したい比率、混合方法に応じて決めればよい。例えば、溶媒量をアズルミン酸量に対して質量比で1〜10000倍とすると好ましく、より好ましくは10〜100倍である。上記質量比を1倍以上とすることにより、アズルミン酸の溶媒に対する溶解性が向上する傾向にあり、上記質量比を10000倍以下とすることにより、溶媒を除去する際に消費するエネルギーを抑制できる傾向にある。
【0037】
溶媒の種類によってはアズルミン酸と反応する可能性もあるが、全体として溶解した状態になる限り、反応していても差し支えない。すなわち、アズルミン酸と遷移金属の原料とを溶媒中で混合して得られた液(アズルミン酸はその一部又は全部が溶解していても溶解していなくてもよい。)中に、アズルミン酸と溶媒の少なくとも一部が反応したものを含む態様を経由する窒素含有炭素材料の製造方法も、本実施形態の範疇である。また、工程S10において、水等の溶媒中で青酸を重合することによってもアズルミン酸を得ることができるが、この際に用いた上記溶媒中に生成したアズルミン酸をそのまま含んだ状態の液(アズルミン酸はその一部又は全部が溶解していても溶解していなくてもよい。)をプレカーサーの製造に利用することもできる。つまり、上記溶媒中に生成したアズルミン酸をそのまま含んだ状態の液に遷移金属の原料を添加して混合してもよい。生成したアズルミン酸は溶媒に難溶である場合が多いが、酸及び/又は塩基をそこに添加する等によって、溶解状態にすることも可能である。
【0038】
アズルミン酸と遷移金属とを溶媒中で混合する際の溶媒温度は特に限定されないが、溶媒の融点以上かつ溶媒の沸点又は分解温度以下であると好ましい。混合時間としては、1分間〜100時間を例示できる。混合時間は、好ましくは10分〜20時間であり、より好ましくは30分〜2時間である。混合中は振とうしたり攪拌したり超音波をかけたりすることが好ましい。
【0039】
アズルミン酸と遷移金属の原料とを溶媒中で混合して得られる混合物から溶媒を除去する方法としては、常圧又は減圧下で混合物を加熱して溶媒を揮発させることにより除去する方法、並びに混合物を噴霧乾燥して溶媒を除去する方法を例示できる。
【0040】
こうして、プレカーサー(窒素含有炭素原料の前駆体)が得られる。
【0041】
次に、工程S14において、上記プレカーサーを炭化する。工程S14では、プレカーサーに熱処理を複数回施すことにより、プレカーサーを炭化して窒素含有炭素材料を合成する。この際、熱処理と熱処理との間(以下、「熱処理の合間」ともいう。)で遷移金属の少なくとも一部をプレカーサーから除去する(以下、この処理を単に「除去処理」ともいう。)。また、最終的な熱処理の後に、更に遷移金属を除去してもよい。ここで、「炭化」とは、最終的に得られる窒素含有炭素材料に含まれる窒素元素と水素元素と炭素元素との合計に対する炭素元素の含有割合が、プレカーサーに含まれる窒素元素と水素元素と炭素元素との合計に対する炭素元素の含有割合よりも高くなるような処理を意味する。
【0042】
なお、熱処理を重ねる毎に、プレカーサー中に部分的に窒素含有炭素材料が生成すると考えられるので、1回以上熱処理を施した後、化学的には「プレカーサー」と「窒素含有炭素材料」との中間的な状態になる。ただし、本発明では、便宜上、そのような中間的な状態のものも含めて「プレカーサー」と呼ぶことにする。
【0043】
除去処理において、遷移金属の少なくとも一部を除去する方法としては、プレカーサーを溶媒に接触させる方法が好ましい。これに用いる溶剤としては、硫酸、硝酸、塩化水素及びリン酸に代表される酸並びにそれらの酸の水溶液が例示できる。これらの中では、取り扱いの観点から水溶液が好ましい。溶剤として酸の水溶液を用いてプレカーサーに接触させる場合、遷移金属をより効率的に除去する観点から、溶剤のpHが4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2以下であることが特に好ましい。このようなpHになるよう、酸の水溶液中の酸濃度を調整すればよい。酸又は酸の水溶液の温度は特に限定されないが、酸又は酸の水溶液が安定的な状態で効率的に除去処理を行う観点から、0〜100℃であることが好ましく、10〜50℃であることがより好ましい。プレカーサーを溶媒に接触させる方法としては、プレカーサーを溶媒に浸漬する方法、プレカーサーに溶媒を噴霧する(吹き付ける)方法が挙げられる。プレカーサーを溶媒に浸漬する際、プレカーサーを洗浄するように、プレカーサー及び/又は溶媒を撹拌等により揺動すると、遷移金属の除去効率が更に向上するから好ましい。
【0044】
また、除去処理に先立って、プレカーサーを粉砕すること(以下、単に「粉砕処理」ともいう。)により、遷移金属を除去する効率を更に高めることができる。この場合、遷移金属を除去する効率を高める観点から、プレカーサーの平均粒子径(体積基準のメディアン径:50%D)が0.001〜100μmになるまで粉砕、及び必要に応じて分級するのが好ましい。この程度まで粉砕するために、乾式及び湿式のボールミル、ビーズミル、ジェットミル及びハンマーミル等を用いることができる。ただし、熱処理前のプレカーサーは軟らかくて粉砕し難いので、熱処理を1回以上施したプレカーサーを粉砕するのが好ましい。また、全ての熱処理を終えた後の窒素含有炭素材料を粉砕すると、粉砕によって新たな面が露出することによって、窒素含有炭素材料の物性が不均一になる場合があるので、粉砕は熱処理の合間で行うのが好ましい。なお、分級は炭素材料や窒素含有炭素材料に用いられる公知の方法により行うことができる。
【0045】
なお、プレカーサーに3回以上熱処理を施す場合、全ての熱処理の合間で除去処理を行うことも可能であるが、いずれかの熱処理の合間で除去処理を行えばよく、全ての熱処理の合間に除去処理を行う必要はない。例えば、(1)1回目の熱処理後に粉砕処理を行い、2回目の熱処理後に除去処理を行ってから3回目の熱処理を行ってもよいし、(2)1回目の熱処理の後で粉砕処理と除去処理とをこの順に行った後に2回目の熱処理を行ってもよい。また、除去処理を複数回繰り返してもよいので、必ずしも1度の除去処理によって、プレカーサーから全ての遷移金属を除去する必要はない。
【0046】
より具体的には、熱処理を2回行い、熱処理の合間に除去処理を行う場合、粉砕処理は、1回目の熱処理の前、1回目の熱処理と除去処理との間、除去処理と2回目の熱処理との間、及び2回目の熱処理の後、のいずれか1つ以上の段階で行うことが可能である。
【0047】
また、熱処理を2回、除去処理を熱処理の合間と2回目の熱処理の後とで行う場合、粉砕処理は、1回目の熱処理の前、1回目の熱処理と1回目の除去処理との間、1回目の除去処理と2回目の熱処理との間、2回目の熱処理と2回目の除去処理との間、及び2回目の除去処理の後、のいずれか1つ以上の段階で行うことが可能である。
【0048】
さらに、熱処理を3回行う場合、除去処理は、1回目の熱処理と2回目の熱処理との間、及び、2回目の熱処理と3回目の熱処理との間のいずれか1つ以上の段階で行うことが可能であり、更に3回目の熱処理の後に行ってもよい。この場合、粉砕処理は、いずれかの熱処理と除去処理との間、あるいは、除去処理が行われない熱処理の合間で行うことが可能であり、最後の熱処理又は除去処理の後に行うこともできる。
【0049】
少なくとも1回熱処理を行った後に除去処理を行うことにより、熱処理によって価数の変化が生じた遷移金属を除去すると考えられる。例えば、プレカーサーに含まれる遷移金属が鉄である場合、通常、遷移金属源は塩であるので、熱処理前のプレカーサー中で鉄は2価又は3価の状態で存在する。このプレカーサーに熱処理を施した場合、一部の鉄は0価に還元されるが、この還元状態の鉄はその後の熱処理に影響を与えると本発明者らは想定している。鉄に限らず、還元状態の遷移金属が存在する状態で熱処理を更に進めた場合、プレカーサー中の窒素に遷移金属が作用するためか、得られる窒素含有炭素材料に含まれる窒素の割合が減少してしまう傾向が見られた。そこで、熱処理を段階的に行い、生成した還元状態の遷移金属を熱処理の合間に除去しながら窒素含有炭素材料を合成することにより、熱処理中の反応に影響する物質(遷移金属又はそれに由来する物質)をプレカーサーから排除しながら熱処理を進めることになるので、窒素の含有割合が高い窒素含有炭素材料を得ることが可能となった。
【0050】
熱処理は、プレカーサーを気相中で加熱する処理であればよく、熱処理の到達温度(最高温度)や温度パターン、熱処理の際のプレカーサー周囲の雰囲気は、熱処理毎に変更することができる。熱処理の回数は、得られる窒素含有炭素材料の性質及びプロセス上の観点から、2〜20回であることが好ましく、2〜10回であることがより好ましく、2〜5回であることが更に好ましい。熱処理に用いられる装置は特に限定されないが、例えば、回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉が挙げられる。熱処理の温度は、プレカーサー中の窒素元素の含有割合を高く保ちつつ炭化を進行させる観点から、熱処理の段階が進む毎に到達温度を高くすることが好ましい。以下のものに限定されないが、例えば、熱処理を2回行う場合、1回目(1段目)の熱処理での温度よりも2回目の熱処理での温度の方が高いことが好ましく、1回目の熱処理の到達温度は400〜690℃であることが好ましく、450〜670℃であることがより好ましく、500〜650℃であることが更に好ましい。この場合、2回目(2段目)の熱処理の到達温度は700〜1200℃であることが好ましく、720〜1100℃であることがより好ましく、750〜1050℃であることが更に好ましい。
【0051】
熱処理の際のプレカーサーの周囲雰囲気におけるガスとしては、不活性ガス及び賦活ガスを適宜選択することができ、1種又は2種以上を用いることができる。以下のガスに限定されないが、例えば、不活性ガスとしては、窒素ガス、及び希ガス(例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス及びネオンガス)が挙げられ、賦活ガスとしては、空気、水素ガス、水蒸気、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、メタンガス、酸素ガス、一酸化窒素ガス、アンモニアガスとそれらを上記不活性ガスで希釈したものが挙げられる。賦活ガスとしては、得られる窒素含有炭素材料の窒素含有率の高さという観点から、純アンモニアガス、又は純アンモニアを不活性ガスで希釈したアンモニア含有ガスが好ましい。また、熱処理の際の気相の圧力は、常圧、加圧及び減圧(例えば、10kPa以下、好ましくは真空中)のいずれであってもよい。プレカーサー周囲のガスは静止していても流通していてもよいが、窒素含有炭素材料の収率の観点から、流通していることが好ましい。不活性ガス雰囲気下では、得られる窒素含有炭素材料の比表面積は比較的小さくなるものの、プレカーサー中のアズルミン酸のガス化反応が起こり難く、高収率で炭化が進行する。一方、プレカーサーに、好ましくは不活性ガス雰囲気下で一度熱処理を施して、ある程度炭化させた後に、アンモニア含有ガス雰囲気下で熱処理を施すと、高い窒素含有率を維持したまま比表面積の大きな窒素含有炭素材料を得やすくなる。したがって、まず、不活性ガス雰囲気下でプレカーサーの熱処理を行い、次にアンモニア含有ガス雰囲気下で熱処理を行うことが好ましい。
【0052】
熱処理時間としては、一回の熱処理につき好ましくは10秒〜100時間、より好ましくは5分〜50時間、更に好ましくは15分〜20時間、特に好ましくは30分〜10時間である。また、熱処理の際の圧力は、好ましくは0.01〜5MPa、より好ましくは0.05〜1MPa、更に好ましくは0.08〜0.3MPa、特に好ましくは、0.09〜0.15MPaである。圧力が5MPa以下であることにより、窒素含有炭素材料がsp3軌道によって構成され導電性の低いダイヤモンド構造となるのをより有効に抑制でき、また、0.01MPa以上であることにより、設備の気密性の維持が容易になる。
【0053】
最後の熱処理までの各工程を経て得られる窒素含有炭素材料は、遷移金属を含んでいてもよい。窒素含有炭素材料において、遷移金属の一部は、何らかの形で窒素含有炭素材料の高機能化に寄与している可能性もある。ただし、遷移金属の大部分にはそのような効果はなく、むしろ、窒素含有炭素材料の性能の劣化を招く恐れがある。例えば、鉄錯体が熱処理中に還元されて金属鉄になると、窒素含有炭素材料からの窒素の脱離を促進する効果がある。そのため、熱処理の合間に除去処理を行うが、最後の熱処理の後にも除去処理を行うことが好ましい。この最後の熱処理の後に行う除去処理においても、硫酸、硝酸、塩化水素及びリン酸に代表される酸並びにそれらの酸の水溶液が例示でき、好ましくは酸の水溶液である。酸の水溶液中の酸濃度は1〜98質量%であることが好ましく、10〜90質量%であることがより好ましく、20〜80%であることが更に好ましい。遷移金属を含む窒素含有炭素材料に対する酸又はその水溶液の混合比率は、質量比で1〜100000であることが好ましく、10〜10000であることがより好ましい。この除去処理における酸又は酸の水溶液の温度は0〜100℃であることが好ましく、10〜50℃であることがより好ましい。
【0054】
上述の観点から、最終的な含窒素炭素材料中の遷移金属の濃度は20質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
【0055】
本実施形態の窒素含有炭素材料は、その用途によって、所望の平均粒子径を有するように調整され得る。窒素含有炭素材料を電極として用いる場合、電極としての性能を効率的に発揮するためには、その平均粒子径((体積基準のメディアン径:50%D)を適切に調整することが好ましい。具体的には、電極の比活性を向上させるためには平均粒子径が小さい方が好ましく、また、粒子同士が密に凝集し物質輸送が阻害されることを抑制する観点(例えば、固体高分子形燃料電池の正極触媒として用いる場合、酸素分子が活性点に供給され難くなるのを避ける観点)から、平均粒子径は大きい方が好ましい。これらのことを踏まえて電極としての性能を効率的に発揮する観点から、窒素含有炭素材料の平均粒子径は、1nm以上100μm以下であることが好ましく、5nm以上10μm以下であることがより好ましく、10nm以上1μm以下であることが更に好ましい。一般に、アズルミン酸やプレカーサーは熱処理によって融解しないため、平均粒子径を調整するには、炭化工程の前にアズルミン酸及び/又はプレカーサーを造粒したり粉砕したりしてもよく、炭化工程中の熱処理の間にプレカーサーを粉砕してもよく、炭化工程後に窒素含有炭素材料を粉砕してもよい。特に、窒素含有炭素材料の平均粒子径を1μm以下の微粒子とする場合、粉砕が適しているが、熱処理前のアズルミン酸やプレカーサーは粘着性が高かったり軟らかかったりし、炭化工程後の含窒素炭素材料は硬度が高いため、上述のように炭化工程における熱処理の合間に、プレカーサーを粉砕することが好ましい。プレカーサーの粘着性や柔らかさをなるべく低減してから粉砕を行う観点から、好ましくは到達温度200〜1000℃、より好ましくは300〜900℃、更に好ましくは400〜800℃で熱処理した後のプレカーサーを粉砕する。造粒の方法としては、以下の方法に限らないが、例えば、アズルミン酸と遷移金属の原料とを含む液を乾燥させる際に、スプレードライヤーにて造粒する方法が挙げられる。また、粉砕の方法としては、以下の方法に限らないが、例えば、プレカーサー又は窒素含有炭素材料をボールミル、ビーズミル、ジェットミル等にて粉砕する方法が挙げられる。
【0056】
なお、本実施形態の窒素含有炭素材料は、例えば、一酸化窒素、一酸化炭素、芳香族炭化水素等の有害物質を酸化する排ガス浄化触媒、ベンジルアルコール類の選択的酸化触媒として用いることも可能である。この場合、触媒としての性能を効率的に発揮し、かつ触媒の損失を防止する観点から、平均粒子径(体積基準のメディアン径:50%D)が0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0057】
電極又は触媒用途向けには、窒素含有炭素材料のBET法により測定した比表面積は、30〜2500m2/gの範囲内にすることが好ましい。比表面積を30m2/g以上とすることにより各種の活性をより高めることができ、2500m2/g以下とすることにより、そのような比表面積を有する窒素含有炭素材料を合成するのが更に容易となる。BET法により測定した比表面積のより好ましい範囲は、50〜1000m2/gである。比表面積を増大するには、一般の炭素材料と同様に、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、塩化亜鉛、リン酸等を用いた薬品賦活や、二酸化炭素、水素、水蒸気等を用いたガス賦活を用いることができるが、窒素含有炭素材料における高窒素含有率を維持する観点から、上記のアンモニア含有ガス又は酸素含有ガスを用いるガス賦活が好ましい。
【0058】
本実施態様の窒素含有炭素材料は、炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)が0.005〜0.6であると好ましい。また、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が24.0〜26.5°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が7.5°以下であると好ましい。これらが上記数値範囲内にあることにより、窒素含有炭素材料は、本発明による作用効果をより有効且つ確実に奏することができる。
【0059】
上記(N/C)は、より好ましくは0.04以上、更に好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.06以上である。また、上記(N/C)は、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.4以下、特に好ましくは0.3以下である。
【0060】
上記回折角(2θ)は、より好ましくは25.0〜26.7°の位置に、更に好ましくは25.4〜26.5°の位置に、特に好ましくは25.6〜26.4°の位置にピークを有する。上記ピークの半値幅は、より好ましくは7°以下であり、更に好ましくは6°以下であり、特に好ましくは5°以下である。また、上記ピークの半値幅は、より好ましくは0.001°以上であり、更に好ましくは0.01°以上であり、特に好ましくは0.04°以上である。
【0061】
上記炭化工程の熱処理における温度を上述の程度まで高くすることにより、窒素含有炭素材料の結晶成長がより十分となり、半値幅が更に狭くなり、上述の範囲にX線回折ピークを有するようになる。あるいは、上述のようにして得られた窒素含有炭素材料を、例えば、1200〜1500℃の高温で更に焼成することにより、半値幅やX線回折ピークを上述の範囲内に制御することも可能である。
【0062】
例えば、窒素含有炭素材料を作製し、これを大気圧下、200Ncc/min.の窒素気流中で60分かけて1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保持することにより、X線回折角(2θ)が24.0〜26.5°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が7.5°以下である窒素含有炭素材料を得ることができる。
【0063】
なお、上述から推測できるとおり、焼成履歴の不明な窒素含有炭素材料についてX線回折ピークを調べる場合、窒素含有炭素材料の試験片を焼成せずにX線回折の測定を行い、所定の回折ピークを示さないときは、試験片を大気圧下200Ncc/min.の窒素気流中で60分かけて1000℃まで昇温し、1000℃で1時間ホールド(保持)した後のX線回折ピークも調べるのが好ましい。
【0064】
本実施形態の窒素含有炭素材料は、固体高分子型に代表される燃料電池用電極、金属−空気電池用電極等の各種電極の材料として用いることができ、その電極としての活性は従来の窒素含有炭素材料と比較して高いものである。また、本実施形態の窒素含有炭素材料は、各種化学反応の触媒としても用いることが可能であり、その触媒としての活性は従来の窒素含有炭素材料と比較して高いものである。
【0065】
本実施形態の窒素含有炭素材料を用いた、すなわちこれを含む電極を作製する方法は特に限定されず、従来の炭素材料と同様の一般的な方法で作製することができる。例えば、窒素含有炭素材料とプロトン伝導性物質とを溶媒中で混合してペースト状とし、これをプロトン伝導性膜に直接塗布した後に、その塗布層を乾燥させることにより電極を作製することができる。プロトン伝導性物質としてはプロトンを伝達できる材料であれば特に制限なく用いることができ、ナフィオン(商品名、デュポン社製)、フレミオン(商品名、旭硝子社製)、アシプレックス(商品名、旭化成イーマテリアルズ社製)などのスルホン酸基を有する含フッ素系イオン交換樹脂が挙げられる。また、プロトン伝導性膜としては、プロトン伝導性物質と同様の材料からなる膜を用いることができる。電極を作製する方法として、プロトン伝導性膜に直接ペーストを塗布する方法だけでなく、テトラフルオロエチレンシート等のシート上にペーストを塗布して電極を作製した後に、プロトン伝導性膜にその電極を転写する方法も採用できる。
【0066】
アズルミン酸の原料としてはアクリロニトリル等基礎原料の製造において、プロピレンやプロパン等の原料が反応する際に副生物として得られる青酸が利用可能である。青酸を熱処理して製造されるアズルミン酸から窒素含有炭素材料を製造する方法は、工程数が少なく、比較的高い収率である。よって省資源、省エネルギーに窒素含有炭素材料を製造する方法と言える。したがって、燃料電池の電極及びこの電極を用いて得られる燃料電池に利用する場合も、効率的且つ安価で、しかも省資源、省エネルギーで製造することができ、工業上非常に有用である。
【0067】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0068】
以下に本発明の実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明として実施することができ、かかる変更は本願の特許請求の範囲に包含される。
【0069】
分析方法は以下のとおりとした。
<分析方法>
(電気化学測定)
電極作製法及び回転電極法によるリニアスイープボルタンメトリーの測定方法(日厚計測製の回転リングディスク電極装置「RRDE−1」を使用。)を以下に示す。まず、バイアル瓶に、含窒素炭素材料5mgを秤取し、そこに、ガラスビーズをスパチュラ一杯、5質量%ナフィオン(商品名)分散液(シグマアルドリッチジャパン製)を50μL、並びにイオン交換水及びエタノールをそれぞれ150μLずつ添加し、それらの混合物に20分間超音波を照射してスラリーを作製した。このスラリーを4μL秤取し、回転電極のガラス状炭素上に塗布し、飽和水蒸気下で乾燥した。乾燥後の回転電極を作用極とし、可逆水素電極(RHE)を参照極として、炭素電極を対極とした。0.5M硫酸を電解液とし、その電解液に酸素を30分間バブリングした後、掃引速度1mV/s、回転速度1500rpmで1.1Vから0Vまで掃引して電気化学測定を行った。
【0070】
<アズルミン酸の製造例>
水350gに青酸150gを溶解させた水溶液を調製し、攪拌を行いながら、その水溶液に25%アンモニア水溶液120gを10分間かけて添加し、得られた混合液を35℃に加熱した。重合が始まり黒褐色の重合物が析出し始め、温度は徐々に上昇し45℃となった。重合開始2時間後から30質量%の青酸水溶液を200g/hの速度で更に添加し、4時間かけて800g添加した。青酸水溶液の添加中は反応温度を50℃に保つように制御した。この温度で、更に100時間攪拌した。得られた黒色沈殿物をろ過によって分離し、黒色のアズルミン酸を得た。このときの青酸に対するアズルミン酸の収率は96%であった。得られた黒色のアズルミン酸を水洗した後、乾燥器にて120℃で4時間乾燥させた。
【0071】
[比較例1]
<プレカーサーの調製>
1Lのナス型フラスコに上記乾燥後のアズルミン酸6.0g、硝酸鉄(III)・9水和物0.55g及び純水400gを加え、90℃の油浴中で1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、真空乾燥機にて80℃で8時間乾燥させてプレカーサーを得た。
【0072】
<窒素含有炭素材料の合成>
得られたプレカーサーのうち1.0gを石英ボートに載置し、それを内径36mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から600℃まで昇温し、600℃のまま5時間保持した。室温まで冷却後、これを遊星ボールミル(フリッチュ製、商品名「Pulverisette−7」)にて粉砕及び分級することにより、平均粒子径を約2μmに調整した。その後、33質量%の塩酸400mLに分級後のプレカーサーを浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、プレカーサーから鉄の少なくとも一部を除去し、最終的に窒素含有炭素材料を0.29g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。電位が0.5Vのときの電流を表1に示す。
【0073】
[比較例2]
<窒素含有炭素材料の合成>
比較例1の「プレカーサーの調製」において調製したプレカーサーのうち1.0gを石英ボートに載置し、それを内径36mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で80分間かけて室温から800℃まで昇温し、800℃のまま1時間保持した。室温まで冷却後、これを遊星ボールミル(フリッチュ製、商品名「Pulverisette−7」)にて粉砕及び分級することにより、平均粒子径を約2μmに調整した。その後、33質量%の塩酸400mLに分級後のプレカーサーを浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、プレカーサーから鉄の少なくとも一部を除去し、最終的に窒素含有炭素材料を0.15g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。電位が0.5Vのときの電流を表1に示す。
【0074】
[実施例1]
<窒素含有炭素材料の合成>
プレカーサーとして、比較例1の「窒素含有炭素材料の合成」と同様の方法により合成した窒素含有炭素材料0.29gを用いた。それを石英ボートに載置し、内径36mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minのアンモニアガス流通下で20分間かけて室温から800℃まで昇温し、800℃のまま1時間保持した。室温まで冷却後、これを、33質量%の塩酸400mLに浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、鉄の少なくとも一部を除去し、最終的に窒素含有炭素材料を0.04g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。電位が0.5Vのときの電流を表1に示す。
【0075】
[実施例2]
<窒素含有炭素材料の合成>
プレカーサーとして、実施例1の「窒素含有炭素材料の合成」と同様の方法により合成した窒素含有炭素材料0.20gを用いた。それを石英ボートに載置し、内径36mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minのアンモニアガス流通下で20分間かけて室温から1000℃まで昇温し、1000℃のまま1時間保持した。室温まで冷却後、これを、33質量%の塩酸400mLに浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、鉄の少なくとも一部を除去し、最終的に窒素含有炭素材料を0.05g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。電位が0.5Vのときの電流を表1に示す。
【0076】
[比較例3]
<プレカーサーの調製>
1Lのナス型フラスコにエチレンジアミン80g、純水200gを加え撹拌してエチレンジアミン水溶液を調製した。そこに上記乾燥後のアズルミン酸6.0gを添加し、90℃の油浴中で1時間撹拌した。次に、そこに鉄フタロシアニンを1.8g添加し、再び90℃の油浴中で1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、真空乾燥機にて80℃で8時間乾燥させてプレカーサーを得た。
【0077】
<窒素含有炭素材料の合成>
得られたプレカーサーのうち1.0gを石英ボートに載置し、それを内径36mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で80分間かけて室温から800℃まで昇温し、800℃のまま5時間保持した。室温まで冷却後、これを遊星ボールミル(フリッチュ製、商品名「Pulverisette−7」)にて粉砕及び分級することにより、平均粒子径を約2μmに調整した。その後、33質量%の塩酸400mLに分級後のプレカーサーを浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、プレカーサーから鉄の少なくとも一部を除去し、最終的に窒素含有炭素材料を0.36g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。電位が0.5Vのときの電流を表1に示す。
【0078】
[実施例3]
<窒素含有炭素材料の合成>
比較例3の「プレカーサーの調製」において調製したプレカーサーのうち1.0gを石英ボートに載置し、それを内径36mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から600℃まで昇温し、600℃のまま5時間保持した。室温まで冷却後、これを遊星ボールミル(フリッチュ製、商品名「Pulverisette−7」)にて粉砕及び分級することにより、平均粒子径を約2μmに調整した。その後、33質量%の塩酸400mLに分級後のプレカーサーを浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、プレカーサーから鉄の少なくとも一部を除去した。更に、この除去処理後のプレカーサーを全量石英ボートに載置し、内径36mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minのアンモニアガス流通下で20分間かけて室温から800℃まで昇温し、800℃のまま1時間保持した。室温まで冷却後、これを、33質量%の塩酸400mLに浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、鉄の少なくとも一部を除去し、最終的に窒素含有炭素材料を0.05g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。電位が0.5Vのときの電流を表1に示す。
【0079】
[比較例4]
<プレカーサーの調製>
1Lのナス型フラスコにアズルミン酸6.0g、硝酸コバルト(II)・6水和物0.93g及び純水400gを加え、90℃の油浴中で1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、真空乾燥機にて80℃で8時間乾燥させてプレカーサーを得た。
【0080】
<窒素含有炭素材料の合成>
得られたプレカーサーのうち1.0gを石英ボートに載置し、それを内径36mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から600℃まで昇温し、600℃のまま5時間保持した。室温まで冷却後、これを遊星ボールミル(フリッチュ製、商品名「Pulverisette−7」)にて粉砕及び分級することにより。平均粒子径を約2μmに調整した。その後、33質量%の塩酸400mLに分級後のプレカーサーを浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、プレカーサーから鉄の少なくとも一部を除去し、最終的に窒素含有炭素材料を0.30g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。電位が0.5Vのときの電流を表1に示す。
【0081】
[実施例4]
<窒素含有炭素材料の合成>
比較例4の「プレカーサーの合成」において調製したプレカーサーのうち1.0gを石英ボートに載置し、それを内径36mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から600℃まで昇温し、600℃のまま5時間保持した。室温まで冷却後、これを遊星ボールミル(フリッチュ製、商品名「Pulverisette−7」)にて粉砕及び分級することにより、平均粒子径を約2μmに調整した。その後、濃塩酸に分級後のプレカーサーを浸漬して濾過することにより鉄の少なくとも一部を除去した。更に、この除去処理後のプレカーサーを全量石英ボートに載置し、内径36mmの石英管状炉にて、大気圧、1NL/minの窒素流通下で20分間かけて室温から800℃まで昇温し、800℃のまま1時間保持した。室温まで冷却後、これを、33質量%の塩酸400mLに浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、鉄の少なくとも一部を除去し、最終的に窒素含有炭素材料を0.04g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。電位が0.5Vのときの電流を表1に示す。
【0082】
[実施例5]
<窒素含有炭素材料の合成>
比較例1の「プレカーサーの合成」と同様にして調製したプレカーサーのうち1.0gを石英ボートに載置し、内径36mmの石英管状炉に収容し、それを大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から500℃まで昇温し、500℃のまま5時間保持した。室温まで冷却後、これを遊星ボールミル(フリッチュ製、商品名「Pulverisette−7」)にて粉砕及び分級することにより、平均粒子径を約2μmに調整した。その後、33質量%の塩酸400mLに分級後のプレカーサーを浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、鉄の少なくとも一部を除去したプレカーサー0.29gを得た。このプレカーサー0.29gを石英ボートに載置し、内径36mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minのアンモニアガス流通下で20分間かけて室温から800℃まで昇温し、800℃のまま1時間保持した。室温まで冷却後、これを、33質量%の塩酸400mLに浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、鉄の少なくとも一部を除去し、最終的に窒素含有炭素材料を0.04g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。電位が0.5Vのときの電流を表1に示す。
【0083】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の窒素含有炭素材料は、燃料電池用電極、金属−空気電池の電極等の各種電極の他、化学反応の触媒等として有用である。また、本発明の窒素含有炭素材料の製造方法は、アクリロニトリル等の基礎原料の製造において副生物として製造されている青酸の重合物を利用可能であり、工程数が少なく、しかも炭素化収率が高い。そのため、省資源、省エネルギーとなる製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アズルミン酸と遷移金属とを含む窒素含有炭素材料のプレカーサーを炭化する工程を有し、
前記工程が、前記プレカーサーに第1の熱処理を施す第1の工程と、前記第1の熱処理を施された前記プレカーサーから前記遷移金属の少なくとも一部を除去する第2の工程と、前記遷移金属の少なくとも一部が除去された前記プレカーサーに第2の熱処理を施す第3の工程と、を有する
窒素含有炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程と前記第3の工程との間に、前記プレカーサーを粉砕する第4の工程を更に有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、前記プレカーサー周囲の雰囲気が不活性ガス雰囲気である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第3の工程において、前記プレカーサー周囲の雰囲気がアンモニア含有ガス雰囲気である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られた窒素含有炭素材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られた窒素含有炭素材料を含む燃料電池用電極。

【図1】
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【公開番号】特開2013−43821(P2013−43821A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185135(P2011−185135)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発/カーボンアロイ触媒」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】