説明

窒素置換式脱酸素装置、および窒素置換式脱酸素方法

【課題】窒素置換式脱酸素装置の小型化を実現でき、かつ、効率的に安定した脱酸素水を得ることができる新規な技術を提供すること。
【解決手段】水中の溶存酸素を窒素と置換することにより、水中の溶存酸素を低減する脱酸素装置であって、被処理水に窒素ガスを注入する窒素ガス注入部と、前記窒素ガスが注入された被処理水を通水する蛇腹状通水管と、を少なくとも備える窒素置換式脱酸素装置を提供する。本発明に係る窒素置換式脱酸素装置によれば、蛇腹状の通水管を用いることで、極めて省スペースな装置にも関わらず、効率的かつ安定した脱酸素水を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素置換式脱酸素装置、および窒素置換式脱酸素方法に関する。より詳しくは、ボイラ用水、冷却用循環水、飲料水などに適用可能な窒素置換式脱酸素装置、および窒素置換式脱酸素方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ用水、冷却用循環水、飲料水などの水処理分野においては、水中の溶存酸素によって、ボイラや附帯装置、蒸気配管、蒸気使用機器、ドレン(凝縮水)回収配管、冷熱機器などに腐食が生じ、その結果、装置の故障や重大な事故の発生など、大きな問題を生じさせる可能性がある。
【0003】
このような問題を防止するために、ボイラ用水、冷却用循環水、飲料水などの水処理分野においては、水中の溶存酸素を除去するために、脱酸素装置を用いたり、ボイラ給水中に脱酸素剤を注入したりする対策が講じられている。
【0004】
脱酸素装置としては、一般に、膜式脱酸素装置、真空式脱酸素装置、窒素置換式脱酸素装置などが知られている。前記膜式脱酸素装置は、特定の高分子膜を利用することにより、被処理水に含まれる溶存酸素を低減させる装置である。
【0005】
また、前記真空式脱酸素装置は、被処理水を処理槽内の上部から下部へ向かって散布し、前記処理槽内を真空吸引することにより、被処理水に含まれる溶存酸素を低減させる装置である。
【0006】
さらに、前記窒素置換式脱酸素装置は、被処理水に窒素ガスを供給し、被処理水に含まれる溶存酸素を窒素と置換して低減させる装置である。
【0007】
近年、この窒素置換式脱酸素装置に関する技術開発が進められている。例えば、特許文献1には、原水タンク内の原水を供給ポンプにて送出する原水供給系に接続され、窒素ガス源からガス供給系を経て供給される窒素ガスを、原水供給系を経て供給される原水に接触させることにより、原水中の酸素を除去する脱酸素装置本体と、脱酸素装置本体で脱酸素処理を終えた処理水を原水消費部へ供給するべく、その処理水を処理水ポンプによって給水系内の給水ポンプより上流側に供給する処理水供給系と、給水系へ供給する処理水の水量を原水消費部における原水の使用量より多くして、処理水の一部を給水系内の処理水合流点より上流側を通して原水タンクへ戻すと共に、処理水の原水タンクへの戻り量が所定範囲内に維持されるように前記処理水ポンプの能力を制御する制御部とを具備することにより、処理水の消費側に過不足のない処理水が供給でき、設備運転コストを安く抑えることができる経済性に優れた窒素式脱酸素装置が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、送水管内に窒素ガスを注入する窒素注入手段と、窒素ガスが注入された水を乱流混合するスタティックミキサーと、乱流混合された水を気液分離する気液分離手段とを備えることで、省エネルギー化が可能で脱酸素効率にも優れた脱酸素装置が開示されている。
【0009】
更に、特許文献3には、垂直に立ち上がった脱酸素塔にて、上方から下方に向かう被処理水と、下方から供給されて上方に向かう窒素を対向接触させ、塔の下部から脱酸素水をタンクに供給し、塔の上部から酸素を含んだ窒素ガスを排出する脱酸素装置が提案されている。この脱酸素装置では、タンク内の水を循環処理するとともに、補給水が脱酸素塔の入口に供給される装置構成となっており、給水タンクに大がかりな補強をしなくても、脱酸素塔から直接給水タンクに脱酸素水を供給することができるように工夫されている。
【0010】
以上のように、窒素置換式脱酸素装置に関する技術開発は発展の途をたどっているが、装置が大型化するという課題があった。例えば、特許文献2の装置では、装置構成が複雑であり、装置の高さが高くなるという課題があった。また、特許文献3の装置でも、特許文献2の装置に比べて更に高さが必要になるとともに、既設のタンクに後付けで設置する場合には、設置が煩雑であり、適用が制限されるという課題があった。
【0011】
また、装置の大型化以外でも、例えば特許文献3の装置では、タンクに供給された脱酸素水が水面で外気と接触することにより、外気中の酸素が再び溶解し、溶存酸素濃度が上昇してしまうという課題も生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−279466号公報
【特許文献2】特開2001−129304号公報
【特許文献3】特開2010−7866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、窒素置換式脱酸素装置に関する技術開発は進められているが、装置の大型化の問題、装置の構成によっては溶存酸素濃度が上昇してしまうという課題など、まだまだ解決すべき課題を抱えているのが実情である。
【0014】
そこで、本発明では、窒素置換式脱酸素装置の小型化を実現でき、かつ、効率的に安定した脱酸素水を得ることができる新規な技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者らは、窒素置換式脱酸素技術について鋭意研究した結果、水と窒素との混合を行う部分の構成に着目し、その構成を工夫することで省スペースな装置であるにも関わらず、効率的に安定した脱酸素水が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明ではまず、水中の溶存酸素を窒素と置換することにより、水中の溶存酸素を低減する脱酸素装置であって、
被処理水に窒素ガスを注入する窒素ガス注入部と、
前記窒素ガスが注入された被処理水を通水する蛇腹状通水管と、
を少なくとも備える窒素置換式脱酸素装置を提供する。
本発明に係る窒素置換式脱酸素装置では、前記蛇腹状通水管内で被処理水中の溶存酸素と窒素との置換が行われることを特徴とする。
本発明に係る窒素置換式脱酸素装置に備える蛇腹状通水管の具体的な構造は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、本発明においては、その長さを0.5m以上とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明では、水中の溶存酸素を窒素と置換することにより、水中の溶存酸素を低減する脱酸素方法であって、
被処理水に窒素ガスを注入する窒素ガス注入工程と、
該窒素ガス注入工程を経た後の被処理水を、蛇腹状の通水管に通水する通水工程と、
を少なくとも行う窒素置換式脱酸素方法を提供する。
本発明に係る窒素置換式脱酸素方法では、前記蛇腹状の通水管内で被処理水中の溶存酸素と窒素との置換を行うことを特徴とする。
本発明に係る窒素置換式脱酸素方法で注入する窒素ガスの注入量は、被処理水の溶存酸素濃度や目的に応じて自由に設定することができるが、本発明においては、前記窒素ガス注入工程で、通水量1mあたり0.1Nm以上で窒素ガスを注入することが好ましい。
また、本発明に係る窒素置換式脱酸素方法の前記通水工程において、通水する被処理水の流速は、被処理水の溶存酸素濃度や目的に応じて自由に設定することができるが、本発明においては流速0.3〜5m/s、より好ましくは0.5〜3m/sで通水を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、蛇腹状の通水管を用いることで、極めて省スペースな装置にも拘わらず、効率的かつ安定した脱酸素水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1の第1実施形態を示す模式概念図である(実施例25)。
【図2】本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1の第2実施形態を示す模式概念図である(実施例26)。
【図3】本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1の第3実施形態を示す模式概念図である(実施例24)。
【図4】本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1の第4実施形態を示す模式概念図である(実施例27)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
<窒素置換式脱酸素装置>
図1は、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1の一実施形態を示す模式概念図である。本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1は、水中の溶存酸素を窒素と置換することにより、水中の溶存酸素を低減する脱酸素装置であって、窒素ガス注入部11と、蛇腹状通水管12と、を少なくとも備える。また、必要に応じて、ポンプ部13、流量調整手段14、タンク部15を備えることも可能である。以下、各部について詳細に説明する。
【0022】
(1)窒素ガス注入部11
窒素ガス注入部11は、被処理水に窒素ガスを注入するために機能する。窒素ガスの注入方法は特に限定されず、窒素置換式脱酸素技術分野において通常用いられるあらゆる方法を自由に選択して用いることができる。例えば、被処理水の循環ラインに圧入することにより窒素ガスを注入する方法、エゼクターなどを用いて吸入させることにより窒素ガスを注入する方法などを挙げることができる。
【0023】
なお、圧入により窒素ガスを注入する場合には、窒素ガス注入部11の先端に例えば散気管などを付けて、窒素ガスの気泡を微細にすることが好ましい。被処理水中で、窒素ガスを素早く均一化させることが可能となるからである。
【0024】
(2)蛇腹状通水管12
蛇腹状通水管12では、窒素ガス注入部11より窒素ガスが注入された被処理水を通水しながら、被処理水中の溶存酸素の窒素との置換が行われる。
【0025】
蛇腹状通水管12は、管を巻くことで、比較的自由な大きさでコンパクトに設置できるため、この蛇腹状通水管12を窒素置換式脱酸素装置1に用いることで、装置のコンパクト化を実現している。
【0026】
また、蛇腹状通水管12は、これ自体を配管として使用することもできるため、窒素置換式脱酸素装置1内に極めて省スペースで設置することができ、これも装置のコンパクト化に貢献している。
【0027】
本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1に用いることができる蛇腹状通水管12は、蛇腹状の形態を有する通水管であれば、公知のものを自由に選択して用いることが可能である。例えば、市販の蛇腹状フレキシブル管などを使用することができる。なお、市販のフレキシブル管には、単山(ワンピッチ)型、スパイラル型などが存在するが、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1には、いずれも用いることが可能である。また、ステンレスブレードを外装に取り付けることにより、耐圧性を高めることができるとともに、蛇腹の伸びによる形状変化を防止することが可能となる。
【0028】
本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1に用いることができる蛇腹状通水管12の材質は特に限定されず、窒素置換式脱酸素技術分野において通常用いられるあらゆる材質を自由に選択して用いることができる。例えば、耐食性や耐摩耗性(エロージョン対策)を考慮すると、ステンレス鋼(SUS)などの耐食材を使用することが好ましい。
【0029】
本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1に用いることができる蛇腹状通水管12の長さは特に限定されず、被処理水中の溶存酸素濃度や目的の脱酸素効果などに応じて自由に設計することができる。本発明では特に、0.5〜20mの長さに設計するのが好ましく、1〜10mに設計するのがより好ましい。0.5m以上の長さがあれば脱酸素効果を十分に発揮することができ、20m以下とすることで生じる圧力損失を抑制することができるからである。
【0030】
(3)ポンプ部13
ポンプ部13は、蛇腹状通水管12へ被処理水を通水させるために、所定の水圧をかけるために機能する。このポンプ部13は、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1では必須ではなく、被処理水に水圧がある場合には、ポンプ部13を用いずに、そのまま蛇腹状通水管12へ通水することも可能である。
【0031】
また、後述するタンク部15を設置する場合、ポンプ部13は、タンク部15内の水を循環させるために用いることも可能である。この場合、溶存酸素濃度の高い水を補給するには、ポンプ部13の手前で補給することが好ましい。また、タンク部15内の水位を所定の範囲内に保つように補給を制御することが好ましい。
【0032】
本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1に用いることができるポンプ部13の種類は特に限定されず、窒素置換式脱酸素技術分野において通常用いられるあらゆるポンプを自由に選択して用いることができる。例えば、渦巻ポンプを挙げることができる。
【0033】
本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1に用いることができるポンプ部13の容量は特に限定されず、本発明の目的を損なわない限り、あらゆる容量のポンプを自由に選択して用いることができる。本発明では特に、被処理水の最大流量よりも容量の大きなポンプを用いることが好ましい。溶存酸素濃度の高い被処理水の全量を循環ライン側に通水させるためである。
【0034】
また、容量的に余裕のあるポンプを選択し、ポンプ部13の出口にバルブなどの流量調整弁を設置することも可能である。
【0035】
(4)流量調整手段14
流量調整手段14は、蛇腹状通水管12へ通水する被処理水の流量を調整するために機能する。また、流量調整手段14は、流量調整と合わせて圧力調整をすることも可能である。この流量調整手段14は、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1では必須ではないが、より効率的に溶存酸素と窒素との置換を行うためには、流量調整手段14を設置して所定の流量および圧力に調整することが好ましい。
【0036】
本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1に用いることができる流量調整手段14の種類は特に限定されず、窒素置換式脱酸素技術分野において通常用いられるあらゆる流量調整手段を自由に選択して用いることができる。例えば、バルブ、オリフィス、背圧弁、保圧弁、定流量弁、散気管、スプリング式安全弁などを挙げることができ、これらを単独で使用しても良いし、2つ以上を併用しても良い。
【0037】
本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1に用いることができる流量調整手段14の設置箇所は特に限定されず、蛇腹状通水管12へ通水する被処理水の流量を調整することができれば、窒素置換式脱酸素装置1の自由な位置に設置することが可能である。本発明では特に、前記窒素ガス注入部11より下流に設置することが好ましい。前記窒素ガス注入部11より下流に流量調整手段14を設置することで、処理水中の溶存酸素をより低下させることが可能となるからである。例えば、図1に示す部位に限定されず、蛇腹状通水管12の下流側に流量調整手段14を設置したり(図2参照)、蛇腹状通水管12を複数用いて、蛇腹状通水管12同士の間に流量調整手段14を設置したりする(図3参照)ことも可能である。
【0038】
(5)タンク部15
タンク部15は、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1では必須ではないが、脱酸素水を一時的に貯留するために設置することができる。このタンク部15の構造は特に限定されない。
【0039】
また、蛇腹状通水管12にて溶存酸素と窒素とが置換された脱酸素水を、そのまま気液分離せずにタンクへ戻せば、このタンク部15は、更に溶存酸素と窒素とを置換する場として機能させることも可能である。この場合、浮上した気体がタンク部15内の気相部に連続的に供給されることで、タンク部15を大気と遮断する構造を採らなくとも外気からの酸素の混入・溶解を防止することができる。
【0040】
なお、このタンク部15は、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1では必須ではなく、蛇腹状通水管12で溶存酸素と窒素とが置換された脱酸素水を、そのまま目的の水系へ給水することも可能である。その際、気液分離が必要な場合にはサイクロン式セパレータやじゃま板付きの脱泡槽を設置することができる。
【0041】
タンク部15には、前記蛇腹状通水管12を浸漬させることも可能である。前記蛇腹状通水管12をタンク部15に浸漬させることで、更なる省スペース化がはかられるとともに、高温の回収水をタンクに戻している場合や他の熱交換器とタンク水を循環させて熱回収することなどにより補給水に比べてタンク内の温度が高い場合は、補給水通水時に浸漬された蛇腹管において水温が上昇し、脱酸素効率が上昇するという利点もある。
【0042】
本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1をボイラ用水の脱酸素に用いる場合、ボイラに脱酸素水を供給して、発生した蒸気が熱交換してドレン化したものの回収水など、供給した脱酸素水の回収水は、通常溶存酸素濃度が低いので、タンク部15に直接回収することも可能である。ただし、回収水でも温度が低く、大気との接触により溶存酸素濃度が上昇したものについては、被処理水と同様に、前記ポンプ部13の手前に補給することが好ましい。
【0043】
なお、被処理水の合流点とタンク部15との間には逆止弁は設置しないことが好ましく、前記ポンプ部13がトラブルにより停止した場合には、被処理水が直接タンク部15に流入できるようにしておくとよい。このように設計することで、タンク部15が低水位となり、水の供給が停止してしまうことを防止することができる。
【0044】
<窒素置換式脱酸素方法>
本発明に係る窒素置換式脱酸素方法は、水中の溶存酸素を窒素と置換することにより、水中の溶存酸素を低減する脱酸素方法であって、窒素ガス注入工程と、通水工程と、を少なくとも行う方法である。また、必要に応じて、流量調整工程などを行うことも可能である。以下、各工程について詳細に説明する。
【0045】
(1)窒素ガス注入工程
窒素ガス注入工程は、被処理水に窒素ガスを注入する工程である。窒素ガス注入工程で行う窒素ガスの注入方法は特に限定されず、窒素置換式脱酸素技術分野において通常用いられるあらゆる方法を自由に選択して用いることができる。例えば、被処理水の循環ラインに圧入することにより窒素ガスを注入する方法、エゼクターなどを用いて吸入させることにより窒素ガスを注入する方法などを挙げることができる。
【0046】
なお、圧入により窒素ガスを注入する場合には、窒素ガスの気泡を微細にすることが好ましい。被処理水中で、窒素ガスを素早く均一化させることが可能となるからである。
【0047】
窒素ガス注入工程において注入する窒素ガスの注入量は、被処理水の溶存酸素濃度や目的に応じて自由に設定することができる。本発明においては、処理水中の溶存酸素をより低下させるためには、通水量1mあたり0.1Nm以上で窒素ガスを注入することが好ましい。
【0048】
(2)通水工程
通水工程は、窒素ガス注入工程を経た後の被処理水を、蛇腹状の通水管に通水する工程である。窒素ガス注入工程にて窒素ガスが注入された被処理水が、この通水工程で蛇腹状の通水管に通水されることで、被処理水中の溶存酸素の窒素との置換が行われる。
【0049】
通水工程において蛇腹状の通水管に通水する被処理水の流速は、特に限定されず、本発明の目的損なわない限り、自由に設定することができる。本発明では特に、蛇腹の内径に対して水流を0.3〜5m/sに調整するのが好ましく、更に好ましくは0.5〜3m/sに調整するのがより好ましい。0.3m/s以上とすることにより溶存酸素と窒素との置換が効率的となる。また、5m/s以下とすることにより蛇腹管における圧力損失を抑制することができるとともに、振動も小さくすることができる。
【0050】
被処理水の流速は、後述する流量調整工程で調整することも可能であるが、処理水量に応じて蛇腹状の管の径を選定することで調整することも可能である。
【0051】
(3)流量調整工程
流量調整工程は、通水工程における流量を調整する工程である。この流量調整工程では、流量調整と合わせて圧力調整をすることも可能である。この流量調整工程は、本発明に係る窒素置換式脱酸素方法では必須ではないが、より効率的に溶存酸素と窒素との置換を行うためには、流量調整工程を行って、所定の流量および圧力に調整することが好ましい。
【0052】
本発明に係る窒素置換式脱酸素方法において、流量調整工程を行う順番は特に限定されず、通水工程における流量を調整することができれば、窒素置換式脱酸素方法の他の工程と自由な順番で行うことが可能である。本発明では特に、前記窒素ガス注入工程を行った後に行うことが好ましい。前記窒素ガス注入工程を行った後に流量調整工程を行うことで、処理水中の溶存酸素をより低下させることが可能となるからである。例えば、前記窒素ガス注入工程を行った直後に流量調整工程を行う方法、前記通水工程を行った後に流量調整工程を行う方法、前記通水工程と流量調整工程とを同時に行う方法など、いずれの方法を用いることも可能である。
【0053】
流量調整工程では、調整する流速および圧力は、目的に応じて適宜決定することができる。本発明においては、流速としては、蛇腹の内径に対して0.3〜5m/sに調整するのが好ましく、更に好ましくは0.5〜3m/sに調整するのがより好ましい。また、圧力としては、循環手段出口の圧力が0.1〜0.6MPaとなるように調整するのが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するとともに、本発明の効果を検証する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0055】
<実験1>
実験1では、通水管として、蛇腹管を用いた場合と直管を用いた場合の脱酸素効果の違いについて検証を行った。なお、蛇腹管としては、単山型、スパイラル型の2種類を用いた。
【0056】
外径25mm、内径19mm、肉厚0.3mmのステンレス製の蛇腹管および直管に、下記表1に示す条件にて町水(栃木県下都賀郡野木町で採取、15℃)通水し、蛇腹管および直管の手前で、純度99%の窒素ガスを下記表1に示す条件にて注入した。蛇腹管および直管の出口水を気液分離して、水中の溶存酸素をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示す通り、直管を用いた場合に比べ、蛇腹管を用いた場合、飛躍的に脱酸素効果が向上することが分かった。
【0059】
また、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置の蛇腹管状通水管の長さを0.2mとした実施例14と、0.5m以上の実施例1〜13とを比較すると、蛇腹管状通水管の長さが0.5m未満の実施例14の脱酸素効果が若干落ちていることから、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置の蛇腹管状通水管の好適な長さは、0.5m以上であることが確認できた。
【0060】
<実験2>
実験2では、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置の蛇腹状通水管へ通水する水の好適な流速について検討した。
【0061】
外径25mm、内径19mm、肉厚0.3mmのステンレス製の蛇腹管に、下記表2に示す条件にて町水(栃木県下都賀郡野木町で採取、15℃)を通水し、蛇腹管の手前で、純度99%の窒素ガスを下記表2に示す条件にて注入した。蛇腹管の出口水を気液分離して、水中の溶存酸素をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示す通り、流速が0.3m/s未満の実施例18は、流速0.3m/s以上の実施例15〜17と比較して、脱酸素効果が劣ることが分かった。一方、流速5m/sを超える実施例19では、振動が大きく、圧力が0.6MPaを超えてしまい窒素を注入することができなかったため、脱酸素を行うことができなかった。
【0064】
以上の結果から、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置の蛇腹状通水管への通水は、0.3〜5m/sで行うことが好ましいことが確認できた。
【0065】
<実験3>
実験3では、本発明に係る窒素置換式脱酸素方法における好適な窒素ガス注入量について検討した。
【0066】
外径25mm、内径19mm、肉厚0.3mmのステンレス製の蛇腹管に、下記表3に示す条件にて町水(栃木県下都賀郡野木町で採取、15℃)通水し、蛇腹管の手前で、純度99%の窒素ガスを下記表3に示す条件にて注入した。蛇腹管の出口水を気液分離して、水中の溶存酸素をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3に示す通り、通水量1mあたりの窒素ガス注入量が0.1Nm未満の実施例20および21は、通水量1mあたりの窒素ガス注入量が0.1Nm以上の実施例22および23と比較して、脱酸素効果が劣ることが分かった。
【0069】
以上の結果から、本発明に係る窒素置換式脱酸素方法における好適な窒素ガス注入量は、通水量1mあたり0.1Nm以上で行うことが好ましいことが確認できた。
【0070】
<実験4>
実験4では、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1に流量調整手段14を設置する場合に、その好適な設置箇所の検証を行った。
【0071】
(1)実施例24
実施例24では、図3に示すように、容量1tのタンクに、蛇腹状通水管(25A,5m)12同士の間に流量調整手段14を設置した脱酸素装置を設置し、脱酸素水を平均2m/hでボイラに給水しながら運転した。被処理水としては、タンクレベルによりON/OFF制御して循環ポンプ手前に軟水を補給した。被処理水の溶存酸素濃度は9.8mg/Lで一定となるように調整した。軟水の補給時の流量は2.5m/hに設定した。蒸気ドレン水のタンクへの回収は行わず、循環水量は3m/h、窒素ガス注入量は0.6Nm/hとして運転した。
【0072】
(2)実施例25
図1に示すように、窒素ガス注入部11直後に流量調整手段14を設置して、あとは実施例24と同様の条件で運転した。
【0073】
(3)実施例26
図2に示すように、循環ラインの最後段のタンク部15に戻る直前に流量調整手段14を設置して、あとは実施例24と同様の条件で運転した。
【0074】
(4)実施例27
図4に示すように、窒素ガス注入部11の前に流量調整手段14を設置して、あとは実施例24と同様の条件で運転した。
【0075】
実施例24〜27の窒素置換式脱酸素装置1を用いた場合のボイラに給水する脱酸素水の溶存酸素濃度の推移を、それぞれ測定した。結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
表4に示す通り、窒素ガス注入部11の上流に流量調整手段14を設置した実施例27に比べ、窒素ガス注入部11の下流に流量調整手段14を設置した実施例24〜26の方が、脱酸素効果が向上することが分かった。即ち、本発明に係る窒素置換式脱酸素装置1に流量調整手段14を設置する場合、窒素ガス注入部11の下流に流量調整手段14を設置することが好ましいことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の溶存酸素を窒素と置換することにより、水中の溶存酸素を低減する脱酸素装置であって、
被処理水に窒素ガスを注入する窒素ガス注入部と、
前記窒素ガスが注入された被処理水を通水する蛇腹状通水管と、
を少なくとも備える窒素置換式脱酸素装置。
【請求項2】
前記蛇腹状通水管の長さは、0.5m以上である請求項1記載の窒素置換式脱酸素装置。
【請求項3】
水中の溶存酸素を窒素と置換することにより、水中の溶存酸素を低減する脱酸素方法であって、
被処理水に窒素ガスを注入する窒素ガス注入工程と、
該窒素ガス注入工程を経た後の被処理水を、蛇腹状の通水管に通水する通水工程と、
を少なくとも行う窒素置換式脱酸素方法。
【請求項4】
前記窒素ガス注入工程では、通水量1mあたり0.1Nm以上で窒素ガスを注入する請求項3記載の窒素置換式脱酸素方法。
【請求項5】
前記通水工程では、流速0.3〜5m/sで通水を行う請求項3または4に記載の窒素置換式脱酸素方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−230031(P2011−230031A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100932(P2010−100932)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】