説明

窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料

【課題】本発明は、原料が安価で自然環境に対する負荷の小さい新規な窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、MgFe または MgAlの少なくとも一方を主成分として含有する新規な窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料を提供する。本発明の窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料は、原料が安価であり、また、水洗によって簡単にNOx成分を回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料に関し、より詳細には、原料が安価で自然環境に対する負荷の小さい窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大都市圏における窒素酸化物(NOx)による大気汚染は深刻な状況にあり、NOxを効率よく回収することのできる新規な吸着材料に対する社会的要請は依然として大きい。従来、NOx吸着材料として金属酸化物を用いることが種々検討されており、例えば、特開2002−248320号公報(特許文献1)は、Cu−Mn複合酸化物あるいはFe−Mn複合酸化物に対してRuを担持させてなるNOx吸着材料を開示する。また、特開2004−122077号公報(特許文献2)は、Ba−Fe−Al複合酸化物からなるNOx吸着材料を開示する。
【0003】
一方、COの吸着材料についてはナノサイズの細孔を持つ「アルミニウム多孔性金属錯体Al(OH)(NDC)」という新物質(ナノ孔物質)による方法(文部科学省科学研究費補助金の特定領域研究「配位空間の化学」、JST戦略的創造研究推進事業
ERATO型研究「北川統合細孔プロジェクト」、理研量子秩序連携研究によるものであり、米国化学会雑誌『Journal of the American
Chemical Society』に近日掲載される。)さらにアパタイトと二酸化チタン光触媒の複合化、二酸化炭素吸着性能に優れ、生産性に優れた無機多孔質材を開発(産総研)やLiFeOを用いた二酸化炭素吸着などの方法が報告されている。
【0004】
NOxおよびCO吸着材料の汎用性および実用性を考慮する場合、大気中に含まれる微量なNOxおよびCOを常温下で吸着できること、吸着材料自体が水と反応しないこと、原料が安価であること、材料自体の自然環境に与える負荷が小さく、その廃棄が容易なことが要求され、上述した要件を具備する新規な窒素酸化物吸着材料の創出が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−248320号公報
【特許文献2】特開2004−122077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、原料が安価で自然環境に対する負荷の小さい新規な窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、原料が安価で自然環境に対する負荷の小さい窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料につき鋭意検討した結果、Mg−X−O系化合物がNOxおよび二酸化炭素を好適に吸着する現象を見出し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、MgFe または MgAlの少なくとも一方を主成分として含有する窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料が提供される。本発明の窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料は、MgFeを主成分として含有してもよく、MgAlを主成分として含有してもよい。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明によれば、原料が安価で自然環境に対する負荷の小さい新規な窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】MgFeの製造方法を示したフローチャート。
【図2】MgAlの製造方法を示したフローチャート。
【図3】MgFe粉末のXRDパターンを示す図。
【図4】MgAl 粉末のXRDパターンを示す図。
【図5】サンプル1のNOx吸収率(%)の変化を時系列的に示す図。
【図6】サンプル2のNOx吸収率(%)の変化を時系列的に示す図。
【図7】サンプル1の赤外線吸収スペクトル(NOx)を示す図。
【図8】サンプル1の赤外線吸収スペクトル(CO)を示す図。
【図9】サンプル2の赤外線吸収スペクトル(NOx,CO)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料(以下、NOxおよびCOの吸着材料として参照する)は、Mg−X−O系化合物(X=FeまたはAl)の粉末を含んで構成されるものであり、具体的には、MgFe または MgAlの少なくとも一方を含んで構成されることが好ましい。本発明において、上記Mg−X−O系化合物を、固相反応あるいは共沈法によって製造することができる。図1は、MgFeの製造方法を概略的に示したフローチャートである。以下、図1を参照しながら、MgFeの製造方法について概説する。
【0013】
最初に、固相反応による製造方法について説明する。固相反応においては、出発原料として、Mg(CO(OH)・4HO と Fe粉末とを湿式混合した後、これを乾燥させる。得られた混合粉末を加熱処理することによって、MgFe の粉末を得ることができる。固相反応によって、MgFe を製造する場合には、混合モル比(Mg/Fe)を1/2程度にすることが好ましい。また、加熱処理の温度条件は、約1000℃とすることが好ましい。
【0014】
次に、共沈法による製造方法について説明する。共沈法を用いる方法においては、出発原料として、出発物質としてMgCl・6HOとFeCl・6HOとを混合した後、この混合液にアンモニア水を加えて共沈水酸化物を得る。次に、共沈水酸化物を濾過・乾燥して得られた粉末を加熱処理することによって、MgFeの粉末を得ることができる。共沈法によって、MgFe を製造する場合には、混合モル比(Mg/Fe)を1.5〜2程度にすることが好ましい。また、加熱処理の温度条件は、600〜1000℃とすることが好ましい。
【0015】
本発明においては、MgFe の製造方法について特に限定するものではなく、できるだけ比表面積の大きい粉末を作製しうる適切な方法および条件を適宜採用することができる。
【0016】
図2は、MgAlの製造方法を概略的に示したフローチャートである。以下、図2を参照しながら、MgAlの製造方法について概説する。
【0017】
最初に、固相反応による製造方法について説明する。固相反応においては、出発原料として、Mg(CO(OH)・4HO と Al(OH)粉末とを湿式混合した後、これを乾燥させる。得られた混合粉末を加熱処理することによって、MgAl の粉末を得ることができる。固相反応によって、MgAl を製造する場合には、混合モル比(Mg/Al)を1/2程度にすることが好ましい。また、加熱処理の温度条件は、約1200℃とすることが好ましい。
【0018】
次に、共沈法による製造方法について説明する。共沈法を用いる方法においては、出発原料として、出発物質としてMgCl・6HOとAlCl・6HOとを混合した後、この混合液にアンモニア水を加えて共沈水酸化物を得る。次に、共沈水酸化物を濾過・乾燥して得られた粉末を加熱処理することによって、MgAlの粉末を得ることができる。共沈法によって、MgAl を製造する場合には、混合モル比(Mg/Al)を1.5〜2程度にすることが好ましい。また、加熱処理の温度条件は、600〜1000℃とすることが好ましい。
【0019】
本発明においては、MgAl の製造方法について特に限定するものではなく、できるだけ比表面積の大きい粉末を作製しうる適切な方法および条件を適宜採用することができる。以上、本発明のNOxおよび二酸化炭素の吸着材料の製造方法について説明したが、次に、本発明のNOxおよび二酸化炭素の吸着材料の有する特徴について、以下説明する。
【0020】
本発明のNOxおよびCOの吸着材料は、まず第1に環境安全性が高いという特徴を有する。すなわち、本発明のNOxおよびCOの吸着材料に含まれる、FeあるいはAlは、いずれも毒性が少なく、人体に悪影響を及ぼすことがないため、さまざまな場所に適用することができる。
【0021】
さらに、本発明のNOxおよびCOの吸着材料は、その廃棄が容易であるという特徴を有する。特に本発明のNOx吸着材料は、水洗処理によって容易にNOx成分を脱離することによる。この機構について、MgFeを例にとって、以下説明する。一方、CO吸着材料として働いたMg−X−O系化合物(X=FeまたはAl)の粉末は、加熱処理によってCOを脱離させることができる。
【0022】
本発明のNOx吸着材料としてのMgFeは、下記式(1)に示す反応によってNOxを吸着するものと推定される。一方、CO吸着材料としてのMgFeは、下記式(2)に示す反応でCOを吸着するものと推定される。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
そして、本発明のNOx吸着材料に水洗処理を施すと、吸着したNOx成分は、下記式(2)に示す反応によって、硝酸イオン(NO)となり、洗浄水とともに脱離するものと推定される。
【0026】
【化3】

【実施例】
【0027】
以下、本発明の窒素酸化物吸着材料について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0028】
(NOx吸着材料の作製)
本実施例においては、共沈法を用いて、以下手順でNOx吸着材料を作製した。まず、出発物質としてMgCl・6HOとFeCl・6HOとをモル比(Mg/Fe)=1.5で混合した水溶液にアンモニア水を加えて共沈水酸化物を得た。次に、共沈水酸化物を濾過・乾燥して得られた粉末を600〜1000℃で2時間加熱して、MgFeの粉末を得た(以下、1000℃の条件で得られたMgFeの粉末をサンプル1として参照する)。図3は、上述した手順で得られた粉末のXRDパターンを示す。図3から、上述した手順によって、ほぼ単相のMgFe が得られたことが示された。さらに、得られた粒子径の大きさは、10〜100nmであった。
【0029】
一方、出発物質としてMgCl・6HOとAlCl・6HOとをモル比(Mg/Al)=1.5で混合した水溶液にアンモニア水を加えて共沈水酸化物を調製した。共沈水酸化物を濾過・乾燥して得られた粉末を700〜1500℃で2時間加熱して、MgAl の粉末を得た(以下、700℃の条件で得られたMgAlサンプル2として参照する)。図4は、上述した手順で得られた粉末のXRDパターンを示す。図4から、上述した手順によって、ほぼ単相のMgAlが得られたことが示された。さらに、得られた粒子径の大きさは、10〜100nmであった。
【0030】
(NOx吸着効果の評価)
上述した手順で作製した各サンプルについて、以下の手順でNOx吸着効果を評価した。サンプル(1g)を容量10Lのテドラーバックの中に入れ、当該テドラーバックに対し、400ppm(N ballance)のNOxガスを20%濃度のOガスとともに封入した後、テドラーバックを室温下で静置し、6時間後にテドラーバック内のNOx濃度を測定した。さらに、テドラーバック内のサンプルを別のテドラーバック(容量10L)に移し、当該テドラーバックに対し、上述したのと同様の条件でNOxガスを封入し、6時間後にテドラーバック内のNOx濃度を測定するという作業を繰り返し行った。なお、NOx濃度測定は、CLA−NOx分析計(堀場製作所製)を用いて行った。
【0031】
各サンプルについて、6時間毎に得られた測定値に基づいて、下記式によりNOx吸収率(%)を求めた。
【0032】
【数1】

【0033】
図5は、サンプル1(MgFe)について、6時間毎に得られたNOx吸収率(%)を時間軸に対してプロットした図を示す。図5に示されるように、サンプル1のNOx吸収率(%)は、実験開始から168時間を通して、80%前後を維持していた。図5の結果から、サンプル1(MgFe)1gは、NOx濃度(500ppm)の処理対象ガス280L(=168/6×10L)を、80%前後の吸収率もって168時間で処理することができることが示された。
【0034】
図6は、サンプル2(MgAl)について、6時間毎に得られたNOx吸収率(%)を時間軸に対してプロットした図を示す。図6に示されるように、サンプル2のNOx吸収率(%)は、実験開始から78時間を通して、80%前後を維持していた。図6の結果から、サンプル2(MgAl)1gは、NOx濃度(500ppm)の処理対象ガス130L(=78/6×10L)を、80%前後の吸収率もって78時間で処理することができることが示された。
【0035】
(CO吸着効果の評価および洗浄効果の評価)
(1)サンプル1(MgFe
上述したNOx吸着実験を開始してから168時間後に取り出し、200mlの純水で洗浄した後に乾燥させた。図7は、サンプル1について、NOx吸着実験開始前、NOx吸着後、洗浄・乾燥後における赤外線吸収スペクトルを示す。なお、赤外線吸収スペクトルの測定は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)によって行った図7に示されるように、NOx吸着後に観察された[ −O−NO(1635.3cm−1)]の吸収帯、および[ −NO(1384.6cm−1)]の吸収帯は、洗浄処理後には観察されなかった。この結果から、サンプル1は、純水による洗浄によって、NOx成分が簡単に除去されることが示された。一方、図8は、CO吸着実験後におけるサンプル1の赤外線吸収スペクトルを示す。図8に示されるように、[−CO(2344cm−1)]の吸収帯と[−CO(2366cm−1)] の吸収帯が観察され、サンプル1がCOを吸着することが示された。
【0036】
(2)サンプル2(MgAl
図9は、サンプル2について、NOx吸着実験開始前、NOx吸着後、洗浄・乾燥後における赤外線吸収スペクトルを示す。なお、赤外線吸収スペクトルの測定は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)によって行った。図9に示されるように、 [ −NO(1384.6cm−1)]の吸収帯は、洗浄処理後には観察されなかった。この結果から、サンプル2は、純水による洗浄によって、NOx成分が簡単に除去されることが示された。また、[−CO(2344cm−1)]の吸収帯と[−CO(2366cm−1)] の吸収帯が観察され、サンプル2がCOを吸着することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上、説明したように、本発明によれば、原料が安価で自然環境に対する負荷の小さい窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料が提供される。本発明の窒素酸化物および二酸化炭素の吸着材料の普及によって、大気汚染の早急な改善が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgFe または MgAlの少なくとも一方を主成分として含有する窒素酸化物の吸着材料。
【請求項2】
MgFeを主成分として含有する窒素酸化物の吸着材料。
【請求項3】
MgAlを主成分として含有する窒素酸化物の吸着材料。
【請求項4】
MgFe または MgAlの少なくとも一方を主成分として含有する二酸化炭素の吸着材料。
【請求項5】
MgFeを主成分として含有する二酸化炭素の吸着材料。
【請求項6】
MgAlを主成分として含有する二酸化炭素の吸着材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−234303(P2010−234303A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86598(P2009−86598)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月13日、社団法人日本化学会発行の、日本化学会第89春季年会2009年 講演予稿集Iにて発表、該当ページ 1PB−116頁
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】