説明

窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法

【課題】 150℃以上200℃未満という低温度域にて、触媒の存在下に、排ガス中の窒素酸化物を還元剤を用いて還元除去する脱硝処理と排ガス中の臭気成分を分解除去する脱臭処理とを同時に、しかも効率よく行えるようにした排ガスの処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】 触媒として、(A)Ti−Si複合酸化物および/またはTi−Zr複合酸化物、および(B)マンガンの酸化物を含む触媒、あるいは上記成分(A)、(B)に加えて、(C)銅、クロム、鉄、バナジウム、タングステン、ニッケルおよびモリブデンから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含む触媒を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法に関し、詳しくは150℃以上200℃未満という低温度域にて、排ガス中の窒素酸化物の還元除去と臭気成分の分解除去とを同時に効率よく行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却炉などから排出される排ガス中には窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、アルデヒド類、硫化物類、脂肪酸類、アミン類および炭化水素類が含まれ、これらの物質は微量であっても極めて臭気性が高く、これらの物質をいかに除去するかが課題となっている。これらの物質の除去には、一般的には、アルカリスクラバーにより排ガスを脱硫することで臭気を除く方法、排ガスにアンモニアを添加し脱硝する方法などが採用されている。しかしなから、通常用いられる脱硝触媒では、アルデヒド類、硫化物類、脂肪酸類、アミン類などの脱臭効率が低いため、これらの物質を処理するためには、脱硝処理の後、さらに脱臭用の酸化触媒を必要とするものである。
【0003】
脱臭触媒としては、例えば、チタン(Ti)およびケイ素(Si)からなる二元系複合酸化物を担体として、これに銅(Cu)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、および鉛(Pb)からなる群から選択される少なくとも一種の元素の酸化物を担持してなるハニカム型脱臭触媒が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、排ガスの脱硝および脱臭処理を同時に行う触媒として、TiおよびSiからなる二元系複合酸化物を担体として、これにCu、Cr、Fe、V、W、Mn、Ni、Co、Mo、およびPbからなる群から選択される少なくとも一種の元素の酸化物と、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)およびイリジウム(Ir)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属またはその化合物である触媒C成分とを含有することを特徴とする排ガスの脱臭および脱硝用触媒が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
しかし、特許文献1、2には、それぞれの触媒を200℃未満という低温度域で使用した場合の脱臭性能の発現に関しての開示はない。
【0006】
一方、火力発電所、ゴミ焼却炉などから排出される排ガス中の窒素酸化物を除去する方法としては、アンモニアまたは尿素などの還元剤を用いて排ガス中の窒素酸化物を触媒上で還元分解し、無害な窒素と水とに分解する選択的触媒還元(SCR)法が一般的である。これに用いられる窒素酸化物除去用触媒(脱硝触媒)としては、チタニア担体、TiおよびSiからなる二元複合酸化物担体などのTiを含む酸化物担体にV、W、Moなどの金属酸化物を担持してなる触媒が実用化されているが、これらの触媒は、その使用温度が200℃以上、通常は250℃以上の高温下で効率的な脱硝機能を発揮するよう設計されてなるものである。一方、近年、廃棄物のサーマルリサイクル利用が検討され、廃棄物を燃焼して得られる熱エネルギーを各種用途に利用することが図られている。この各種のサーマルリサイクル設備から排出されるガス中の窒素酸化物および臭気成分を除去する要求が多くなっているが、この種の設備の排ガス温度は200℃以下と低温であり、上記した従来の高温型の脱硝触媒では充分脱硝および脱臭の両機能を発揮できないという問題がある。
【0007】
従来、この低温型の脱硝触媒として、種々の触媒系が提案されているが、その中で、チタン酸化物を担体とし、マンガン(Mn)などの卑金属酸化物を主たる活性成分として担持してなる触媒としては、硝酸根の含有量を0.1質量%以下と極力少なくしたチタン酸化物担体にマンガン酸化物を担持した触媒が提案されている(特許文献3)。また、同文献には、この触媒の存在下に150〜300℃の温度域でアンモニアにより脱硝する方法が記載されている。この文献記載の触媒系は排ガス中に窒素酸化物の還元剤として添加されるアンモニアの分解活性も有するので、脱硝効率を上げる為には添加すべきアンモニア量が多くなるという問題点を有していると考えられる。
【0008】
また、200〜500℃の温度域でアンモニアの存在下脱硝する触媒として、TiおよびSiからなる二元系複合酸化物を担体として、これにV、W、Mo、Mn、Cu、Cr、CeおよびSnからなる群から選択される少なくとも一種の元素の酸化物を担持してなる触媒が提案されている(特許文献4参照)。しかし、この文献には上記触媒系を200℃未満の温度域で使用した場合の脱硝性能に関しての開示はない。
【0009】
また、200〜250℃の温度域で炭化水素類、アンモニアなどの還元剤の存在下、排ガス流れに対して上流側にTi−Mn系、Ti−Cr系などのNO酸化触媒を配置し、その後流側に脱硝触媒を配置してなる触媒装置を用いて脱硝する方法が提案されている(特許文献5参照)。しかし、この文献にはTi−Mn系、Ti−Cr系などのNO酸化触媒について、触媒組成、触媒調製法などに関する具体的記載が無く、この触媒が如何なる触媒か特定できない。
【0010】
さらに、本発明者らの研究によれば、臭気成分として、例えば、アルデヒド類を含む排ガスを上記のような公知の触媒系を用いて200℃未満という低温度域で処理しようとすると、酢酸のような望ましくない化合物が副生し、その更なる処理が必要となることがあることが判明している。
【0011】
【特許文献1】特公平4−9581号公報
【特許文献2】特許第3091820号公報
【特許文献3】特開平9−155190号公報
【特許文献4】特公平5−87291号公報(特許請求の範囲、実施例9、10、11)
【特許文献5】特開平8−103636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、150℃以上200℃未満という低温度域にて、触媒の存在下に、排ガス中の窒素酸化物を還元剤を用いて還元除去する脱硝処理と排ガス中の臭気成分を分解除去する脱臭処理とを同時に、しかも効率よく行えるようにした、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法を提供することにある。
【0013】
また、本発明の課題は、アルデヒド類などのような臭気成分を含む排ガスの場合も、酢酸などの望ましくない化合物の副生を抑制しながら、150℃以上200℃未満という低温度域にて、脱硝処理と脱臭処理とを同時に、しかも効率よく行えるようにした、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らの研究によれば、触媒として、(A)チタン酸化物、チタンとケイ素との複合酸化物および/またはチタンとジルコニウムとの複合酸化物、および(B)マンガンの酸化物を含む触媒、あるいは上記成分(A)、(B)に加えて、(C)銅、クロム、鉄、バナジウム、タングステン、ニッケルおよびモリブデンから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含む触媒を用いると上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを、窒素酸化物を還元除去するに必要な量の還元剤とともに、150℃以上200℃未満の温度で、(A)チタン酸化物、チタンとケイ素との複合酸化物および/またはチタンとジルコニウムとの複合酸化物、および(B)マンガンの酸化物を含む触媒、あるいは(A)チタンとケイ素との複合酸化物および/またはチタンとジルコニウムとの複合酸化物、(B)マンガンの酸化物、および(C)銅、クロム、鉄、バナジウム、タングステン、ニッケルおよびモリブデンから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含む触媒を充填してなる触媒層(1)に導入して、脱硝処理および脱臭処理を同時に行うことを特徴とする窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法である。
【0016】
また、本発明は、上記触媒層(1)の上流側に、脱硝触媒を充填してなる触媒層(2)を配置し、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを、窒素酸化物の還元除去に必要な量の還元剤の少なくとも一部とともに、150℃以上200℃未満の温度で、触媒層(2)に導入し、次いで触媒層(2)からの処理ガスを、残余の還元剤を添加した後に、触媒層(1)に導入して、脱硝処理および脱臭処理を同時に行うことを特徴とする窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法である。
【0017】
また、本発明は、上記触媒層(1)の下流側に、脱硝触媒を充填してなる触媒層(2)を配置し、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを、窒素酸化物の還元除去に必要な量の還元剤の少なくとも一部とともに、150℃以上200℃未満の温度で、触媒層(1)に導入し、次いで触媒層(1)からの処理ガスを、残余の還元剤を添加した後に、触媒層(2)に導入して、脱硝処理および脱臭処理を同時に行うことを特徴とする窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、150℃以上200℃未満という低温度域にて、脱硝処理と脱臭処理とを同時に効率よく行うことができ、その結果、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを工業的に有利に処理することができる。
【0019】
また、本発明の方法によれば、望ましくない副生物の生成を抑制しながら、例えば、臭気成分としてアセトアルデヒドを含む排ガスの場合、望ましくない酢酸の副生を抑制しながら、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを効率よく処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の「臭気成分」とは、硫黄酸化物(SOx);アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、アクロレインなどのアルデヒド類;硫化水素、メルカプタン、硫化メチルなどの硫化物類;酢酸、酪酸、プロピオン酸、吉草酸などの脂肪酸類;ジメチルアミン、トリメチルアミンなどのアミン類;脂肪族、脂環族、芳香族などの炭化水素類など微量であっても臭気性のあるものを意味する。
【0021】
また、本発明の「窒素酸化物」とは、一酸化窒素および二酸化窒素の窒素酸化物(NOx)を意味する。
【0022】
本発明で用いる触媒の一つは、(A)チタン酸化物、チタンとケイ素との複合酸化物(以下、Ti−Si複合酸化物という。)および/またはチタンとジルコニウムとの複合酸化物(以下、Ti−Zr複合酸化物という。)、および(B)マンガンの酸化物を含む触媒であり、他の触媒は、上記成分(A)、(B)に加えて、(C)銅、クロム、鉄、バナジウム、タングステン、ニッケルおよびモリブデンから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含む触媒である。
【0023】
上記成分(A)のTi−Si複合酸化物およびTi−Zr複合酸化物はともに一般によく知られているものであり、従来から知られている方法に従って容易に調製することができる。
【0024】
チタン源としては、酸化チタンのほか、焼成してチタン酸化物を生成するものであれば、無機および有機のいずれの化合物も使用することができる。例えば、四塩化チタン、硫酸チタンなどの無機チタン化合物、またはシュウ酸チタン、テトライソプロピルチタネートなどの有機チタン化合物を用いることができる。
【0025】
ケイ素源としては、コロイド状シリカ、水ガラス、微粒子ケイ素、四塩化ケイ素などの無機ケイ素化合物、およびテトラエチルシリケートなどの有機ケイ素化合物を用いることができる。
【0026】
また、ジルコニウム源としては、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウムなどの無機ジルコニウム化合物、およびシュウ酸ジルコニウムなどの有機ジルコニウム化合物を用いることができる。
【0027】
上記Ti−Si複合酸化物は、例えば、以下の手順(a)〜(d)によって調製することができる。
(a)シリカゾルとアンモニア水を混合し、硫酸チタンの硫酸水溶液を添加して沈殿を生じさせ、得られた沈殿物を洗浄・乾燥し、次いで300〜700℃で焼成する。
(b)硫酸チタン水溶液にケイ酸ナトリウム水溶液を添加し、反応して沈殿を生じさせ、得られた沈殿物を洗浄・乾燥し、次いで300〜700℃で焼成する。
(c)四塩化チタンの水−アルコール溶液にエチルシリケート(テトラエトキシシラン)を添加し、次いで加水分解することにより沈殿を生じさせ、得られた沈殿物を洗浄・乾燥し、次いで300〜700℃で焼成する。
(d)酸化塩化チタン(オキシ三塩化チタン)とエチルシリケートとの水−アルコール溶液に、アンモニアを加えて沈殿を生じさせ、得られた沈殿物を洗浄・乾燥し、次いで300〜700℃で焼成する。
【0028】
上記の方法のうち、(a)の方法が特に好ましく、具体的には、アンモニア源、ケイ素源およびチタン源を水溶液またはゾル状態で各量が所定量(アンモニア源はNHに、ケイ素源はSiOに、そしてチタン源はTiOに、それぞれ換算)になるように取る。ついで、アンモニア源とケイ素源とを混合し、この混合液を10〜100℃に保ちながら、この混合液にチタン源を滴下して、pH2〜10で1〜50時間保持することにより、チタン−ケイ素の共沈物を生成し、この沈殿物をろ過し、充分に洗浄した後、80〜140℃で10分間から3時間乾燥し、300〜700℃で1〜10時間焼成することにより、目的とするTi−Si複合酸化物を得ることができる。
【0029】
また、Ti−Zr複合酸化物の調製は上記Ti−Si複合酸化物の調製法に準じて行えばよく、シリカ源の代わりに水溶性ジルコニウム化合物などをジルコニウム源として使用して調製すればよい。
【0030】
上記Ti−Si複合酸化物またはTi−Zr複合酸化物における、ケイ素またはジルコニウムの酸化物の含有量は、チタン酸化物に対し、0.5〜 60モル%、好ましくは1.5〜60モル%、より好ましくは1.5〜45モル%である(チタン、ケイ素およびジルコニウムはそれぞれTiO、SiOおよびZrOとして換算)。
【0031】
成分(B)のマンガン源としては、マンガン酸化物のほかに、焼成によって酸化物を生成するものであれば、無機および有機のいずれの化合物も用いることができる。例えば、マンガンを含む水酸化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩などを用いることができる。
【0032】
成分(C)の銅、クロム、鉄、バナジウム、タングステン、ニッケルおよびモリブデン源としては、各々の酸化物のほかに、焼成によって酸化物を生成するものであれば、無機および有機のいずれの化合物も用いることができる。例えば、各々の元素を含む水酸化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸などを用いることができる。
【0033】
本発明の上記成分(A)および(B)、または(A)、(B)および(C)を含む触媒の調製法としては、通常の含浸担持法、混練法、浸漬法など通常この分野で採用されている公知の方法から適宜選択することができる。例えば、成分(A)および(B)の混合物、あるいは成分(A)、(B)および(C)の混合物の粉体を得た後、所望の形状に成形する。その際、それぞれの成分を粉体またはスラリーの状態で混合して調製してもよいし、各々の塩類の溶液の混合物から共沈させることによって調製してもよい。また、成分(A)に成分(B)、あるいは成分(B)および(C)を担持させる方法としては、成分(A)の粉体またはスラリーの混合物に成分(B)、あるいは成分(B)および(C)の塩類またはその溶液を添加する方法や、成分(A)からなる成型体に成分(B)、あるいは成分(B)および(C)の塩類の溶液を含浸担持させる方法を用いることができる。
【0034】
本発明の触媒の組成については、成分(A)および(B)を含む触媒の場合、成分(B)は、成分(A)の質量基準で、0.1〜40質量%、好ましくは1〜40質量%である(Ti−Si複合酸化物、Ti−Zr複合酸化物は全質量、マンガンはMnOとして換算)。成分(B)の含有量が、成分(A)の0.1質量%より少ないと脱硝活性が低く、一方40質量%を超えてもそれほど大きな活性の向上は認められず、場合によっては活性が低下することもある。
【0035】
成分(A)、(B)および(C)を含む触媒の場合、成分(B)は、成分(A)の質量基準で、0.1〜40質量%、好ましくは1〜40質量%であり、成分(C)は、成分(A)の質量基準で、0.1〜25質量%、好ましくは1〜25質量%である(Ti−Si複合酸化物、Ti−Zr複合酸化物は全質量、マンガンはMnO、銅はCuO、クロムはCr、鉄はFe、バナジウムはV、タングステンはWO 、ニッケルはNiO、モリブデンはMoOとして換算)。成分(B)の含有量が、成分(A)の0.1質量%より少ないと脱硝活性が低く、一方40質量%を超えてもそれほど大きな活性の向上は認められず、場合によっては活性が低下することもある。また、成分(C)の含有量が、成分(A)の0.1質量%より少ないと脱硝活性が低く、一方25質量%を超えてもそれほど大きな活性の向上は認められず、場合によっては活性が低下することもある。
【0036】
本発明の触媒の水銀圧入法で測定した全細孔容積は、0.2〜0.6cm3 /gの範囲にあることが好ましい。触媒の全細孔容積が0.2cm3/gよりも小さいと脱硝活性が低く、一方0.6cm3/gを超えると触媒の機械的強度が低くなるため、好ましくない。本発明の触媒のBET法による比表面積は30〜250m2/g、好ましくは40〜200m2/gの範囲にあるのがよい。触媒の比表面積が30m2/gより小さいと脱硝活性が低くなり、一方250m2/gを超えてもそれほど大きな活性の向上は認められず、場合によっては触媒被毒成分の蓄積量が多くなって、触媒寿命に悪影響を及ぼすこともある。
【0037】
したがって、本発明の触媒においては、成分(B)を成分(A)の0.1〜40質量%の割合で含み、あるいは更に成分(C)を成分(A)の0.1〜25質量%を含み、しかも、水銀圧入法で測定した全細孔容積が0.2〜0.6cm3/gの範囲にあり、BET法による比表面積が30〜250m2/gの範囲にある触媒が特に好適に用いられる。
【0038】
本発明の触媒の形状については特に制限はなく、板状、波板状、網状、ハニカム状、円柱状、円筒状などのうちから選んだ所望の形状に成型して用いてもよく、またアルミナ、シリカ、コーディライト、チタニア、ステンレス金属などよりなる板状、波板状、網状、ハニカム状、円柱状、円筒状などのうちから選んだ所望の形状の担体に担持して使用してもよい。
【0039】
本発明の触媒は、窒素酸化物および臭気成分を含む各種排ガスの処理に用いられる。排ガスの組成については特に制限はないが、本発明の触媒は、ボイラ、焼却炉、ガスタービン、ディーゼルエンジンおよび各種工業プロセスから排出される窒素酸化物の分解活性に優れるため、これら窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理に好適に用いられる。
【0040】
本発明の排ガス処理方法は、基本的には、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを、窒素酸化物を還元除去するに必要な量の還元剤とともに、150℃以上200℃未満の温度で、上記成分(A)および(B)、あるいは成分(A)、(B)および(C)を含む、本発明の触媒を充填してなる触媒層(1)に導入して、この触媒に接触させることからなるものであり、これにより窒素酸化物の還元除去(脱硝処理)および臭気成分の分解除去(脱臭処理)が同時に行われる。以下、この方法を「方法(a)」という。
【0041】
方法(a)は、脱硝処理として一般に知られている方法に従って行うことができる。具体的には、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを、窒素酸化物を還元除去するに必要な量のアンモニア等とともに、本発明の触媒に接触させればよい。この際の条件については、特に制限がなく、脱硝処理に一般的に用いられている条件で実施することができる。具体的には、排ガスの種類、性状、要求される窒素酸化物の分解率などを考慮して適宜決定すればよい。なお、方法(a)を実施するにあたっての、排ガスの空間速度は、通常、100〜100000Hr- 1(STP)であり、好ましくは200〜50000Hr- 1(STP)である。100Hr- 1未満では、処理装置が大きくなりすぎるため非効率となり、一方100000Hr- 1を超えると分解効率が低下する。
【0042】
方法(a)において、触媒層(1)に導入する排ガスの温度は、150℃以上200℃未満であり、好ましくは170〜200℃未満である。排ガス温度が150℃より低いと脱硝効率が低下して好ましくない。
【0043】
なお、排ガス中の硫黄酸化物(SOx)濃度は1%以下であるのがよい。排ガス中のSOx濃度が1%を超えると触媒の活性劣化が大きくなるからである。
【0044】
本発明においては、上記方法(a)の触媒層(1)の上流側に、本発明の触媒と異なる脱硝触媒を充填してなる触媒層(2)を配置して、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを、窒素酸化物の還元除去に必要な量のアンモニア等の少なくとも一部とともに、150℃以上200℃未満の温度で、触媒層(2)に導入し、次いで触媒層(2)からの処理ガスを、残余のアンモニア等を添加した後に、触媒層(1)に導入して、脱硝処理および脱臭処理を同時に行うこともできる。以下、この方法を「方法(b)」という。本発明にかかる還元剤(アンモニア等とも記載する)は窒素酸化物を還元しうるものであれば良く、好ましくはアンモニア及び/又は尿素であり、使用温度を考慮すると更に好ましくはアンモニアである。
【0045】
方法(b)において、アンモニア等は、その必要量を触媒層(1)と触媒層(2)とに分割して供給してもよいが、通常、その全量を触媒層(2)の入口側で排ガスに供給し、排ガスとともに触媒層(2)に導入するのがよい。触媒層(2)に充填する脱硝触媒には特に制限はなく、脱硝触媒として一般に知られている触媒を適宜選択して使用することができる。触媒層(1)、(2)では、ともに窒素酸化物の還元分解と臭気成分の分解とが起こり、結果として、方法(b)によれば、脱硝処理と脱臭処理とがより高い効率をもって実施されることになる。触媒層(1)、(2)においては、通常、実質的に同一の条件下で排ガスの処理を行うのが一般的である。具体的には、触媒層(1)、(2)に導入する排ガスの温度はともに150℃以上200℃未満であり、空間速度は方法(a)のところで述べた範囲から適宜選択して決定することができる。
【0046】
また、本発明においては、上記方法(a)の触媒層(1)の下流側に、本発明の触媒と異なる脱硝触媒を充填してなる触媒層(2)を配置して、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを、窒素酸化物の還元除去に必要な量のアンモニア等の少なくとも一部とともに、150℃以上200℃未満の温度で、触媒層(1)に導入し、次いで触媒層(1)からの処理ガスを、残余のアンモニア等を添加した後に、触媒層(2)に導入して、脱硝処理および脱臭処理を同時に行うこともできる。以下、この方法を「方法(c)」という。
方法(c)において、アンモニア等は、その必要量を触媒層(1)と触媒層(2)とに分割して供給してもよいが、通常、その全量を触媒層(1)の入口側で排ガスに供給し、排ガスとともに触媒層(1)に導入するのがよい。触媒層(2)に充填する脱硝触媒には特に制限はなく、脱硝触媒として一般に知られている触媒を適宜選択して使用することができる。触媒層(1)、(2)では、ともに窒素酸化物の還元分解と臭気成分の分解とが起こり、結果として、方法(c)によれば、脱硝処理と脱臭処理とがより高い効率をもって実施されることになる。触媒層(1)、(3)においては、通常、実質的に同一の条件下で排ガスの処理を行うのが一般的である。具体的には、触媒層(1)、(2)に導入する排ガスの温度はともに150℃以上200℃未満であり、空間速度は方法(a)のところで述べた範囲から適宜選択して決定することができる。
【0047】
なお、本発明においては、触媒層(1)の下流側に触媒層(2)を配置し、窒素成分および臭気成分を含む排ガスにアンモニア等を添加することなく、そのまま、触媒層(1)に導入し、次いで触媒層(1)からの処理ガスに必要量のアンモニア等を添加した後、触媒層(2)に導入してもよい。この場合、触媒層(1)においては、臭気成分の分解が行われ、一方触媒層(2)では、窒素酸化物の還元分解、あるいは触媒層(1)からの処理ガス中に臭気成分が残存するときは、臭気成分の分解と窒素酸化物の還元分解とが起こり、結果として、脱硝処理と脱臭処理とがより高い効率をもって実施されることになる。この理由は、本発明の触媒は、アンモニア等の存在下では、窒素酸化物の還元分解と臭気成分の分解とを同時に行う性能を有し、さらにアンモニア等の不存在下でも、臭気成分を分解する性能を有するからである。
【0048】
本発明の有利な実施態様を示している以下の実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。
【触媒調製例1】
【0049】
<触媒(1)(脱硝触媒)>
10質量%アンモニア水700リットルにスノーテックス−20(日産化学(株)製シリカゾル、約20質量%のSiO含有)21.3kgを加え、攪拌、混合した後、硫酸チタニルの硫酸溶液(TiOとして125g/リットル、硫酸濃度550g/リットル)340リットルを攪拌しながら徐々に滴下した。得られたゲルを20時間放置した後、ろ過、水洗し、続いて150℃で10時間乾燥した。これを500℃で焼成し、粉体を得た。得られた粉体の組成は、TiO:SiO=8.5:1.5(モル比)であり、粉体のX線回折チャートではTiOやSiOの明らかな固有ピークは認められず、ブロードな回折ピークによって非晶質な微細構造を有するチタンとケイ素との複合酸化物(Ti−Si複合酸化物)であることが確認された。
【0050】
メタバナジン酸アンモニウム1.29kg、パラタングステン酸アンモニウム1.12kg、シュウ酸1.67kgおよびモノエタノールアミン0.85kgを水8リットルに溶解させて均一なバナジウムおよびタングステン含有溶液を調製した。上記Ti−Si複合酸化物18kgをニーダーに投入後、有機バインダー(デンプン1.5kg)を含む成形助剤とともに上記バナジウムおよびタングステン含有溶液の全量を加え、よく攪拌した。さらに適量の水を加えつつブレンダーでよく混合した後、連続ニーダーで充分混練りし、ハニカム状に押出成形した。形状は目開き4.35mm、肉厚0.6mm、長さ500mmの格子状に成形した。次いで、得られた成形物を60℃で乾燥した後、450℃で5時間空気雰囲気下において焼成して触媒(1)を得た。触媒(1)の組成は、Ti−Si複合酸化物:V:WO=90:5:5(質量比)であった。
<触媒(2)(本発明の触媒)>
触媒(1)の調製の際に得られたTi−Si複合酸化物10kgに有機バインダー(デンプン1.5kg)を加え、さらに適量の水を加えつつブレンダーでよく混合した後、連続ニーダーで充分混練りし、ハニカム状に押出成形した。形状は目開き4.35mm、肉厚0.6mm、長さ500mmの格子状に成形した。次いで、得られた成形物を80℃で乾燥した後、450℃で5時間空気雰囲気下において焼成した。
【0051】
上記成形体を硝酸マンガン[Mn(NO・6HO]水溶液(300g−Mn/リットル)に含浸し、その後120℃で乾燥し、420℃で3時間焼成して触媒(2)を得た。この触媒(2)の組成は、Ti−Si複合酸化物:MnO=75:25(質量比)(成分(B)/成分(A)=33.3質量%)であった。
<触媒(3)(本発明の触媒)>
触媒(1)の調製の際に得られたTi−Si複合酸化物10kgに硝酸マンガン[Mn(NO・6HO]を加え、有機バインダー(デンプン1.5kg)を加え、さらに適量の水を加えつつブレンダーでよく混合した後、連続ニーダーで充分混練りし、ハニカム状に押出成形した。形状は目開き4.35mm、肉厚0.6mm、長さ500mmの格子状に成形した。次いで、得られた成形物を80℃で乾燥した後、450℃で5時間空気雰囲気下において焼成して触媒(3)を得た。この触媒(3)の組成は、Ti−Si複合酸化物:MnO=75:25(質量比)(成分(B)/成分(A)=33.3質量%)であった。
<触媒(4)(比較用触媒)>
触媒(1)を硝酸白金水溶液に浸漬し、次いで100℃で乾燥した後、450℃で5時間空気流通下で焼成し、比較用触媒として触媒(4)を得た。触媒(4)における、白金の担持量は1.0g/リットル−触媒であった。
<触媒(5)(比較用触媒)>
触媒(1)を硝酸パラジウム水溶液に浸漬し、次いで100℃で乾燥した後、450℃で5時間空気流通下で焼成し、比較用触媒として触媒(5)を得た。触媒(5)における、パラジウムの担持量は1.0g/リットル−触媒であった。
【実施例1】
【0052】
触媒(2)を用いて活性試験を行った(方法(a))。触媒(2)を外形15.5mm(3×3セル)、長さ252mmに切断し、直径35mmの触媒反応装置にガスの流れ方向に対して平行となるように充填した。下記組成の合成ガス0.5Nm/hをアンモニア(NH)とともに触媒層に供給した。
(ガス組成)NOx:350ppm、NH:350ppm、O:15%、SO:0ppm、HO:10%、N:バランス
(ガス温度)150℃、180℃、195℃
反応器出口のNOx濃度を測定し、下記式に従ってNOx除去率を求めた。
NOx除去率=[(反応器入口NOx濃度)−(反応器出口NOx濃度)]÷(反応器入口NOx濃度)×100
また、反応器出口のアセトアルデヒドおよび酢酸の濃度を測定し、下記式に従ってアセトアルデヒド除去率および酢酸生成率を求めた。結果を表1に示す。
アセトアルデヒド除去率(%)=[(反応器入口アセトアルデヒド濃度)−(反応器出口アセトアルデヒド濃度)]÷(反応器入口アセトアルデヒド濃度)×100
酢酸生成率(%)=(反応器出口酢酸濃度/反応器入口アセトアルデヒド濃度)×100
【実施例2】
【0053】
触媒(1)および触媒(2)を各々外形15.5mm(3×3セル)、長さ126mmに切断し、直径35mmの触媒反応装置にガスの流れ方向に対して上流側に触媒(1)、また下流側に触媒(2)を各々平行となるように充填した(方法(b))。上記のように触媒を配置した以外は実施例1と同様にしてNOx除去率、アセトアルデヒド除去率および酢酸生成率を求めた。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0054】
触媒(1)および触媒(3)を各々外形15.5mm(3×3セル)、長さ126mmに切断し、直径35mmの触媒反応装置にガスの流れ方向に対して上流側に触媒(1)、また下流側に触媒(3)を各々平行となるように充填した(方法(b))。上記のように触媒を配置した以外は実施例1と同様にしてNOx除去率、アセトアルデヒド除去率および酢酸生成率を求めた。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0055】
触媒(1)および触媒(2)を各々外形15.5mm(3×3セル)、長さ126mmに切断し、直径35mmの触媒反応装置にガスの流れ方向に対して上流側に触媒(2)、また下流側に触媒(1)を各々平行となるように充填した(方法(c))。上記のように触媒を配置した以外は実施例1と同様にしてNOx除去率、アセトアルデヒド除去率および酢酸生成率を求めた。結果を表1に示す。
【実施例5】
【0056】
触媒(1)および触媒(3)を各々外形15.5mm(3×3セル)、長さ126mmに切断し、直径35mmの触媒反応装置にガスの流れ方向に対して上流側に触媒(3)、また下流側に触媒(1)を各々平行となるように充填した(方法(c))。上記のように触媒を配置した以外は実施例1と同様にしてNOx除去率、アセトアルデヒド除去率および酢酸生成率を求めた。結果を表1に示す。
【比較例1】
【0057】
触媒(1)および触媒(4)を各々外形15.5mm(3×3セル)、長さ126mmに切断し、直径35mmの触媒反応装置にガスの流れ方向に対して上流側に触媒(1)、また下流側に触媒(4)を各々平行となるように充填した。上記のように触媒を配置した以外は実施例1と同様にしてNOx除去率、アセトアルデヒド除去率および酢酸生成率を求めた。結果を表2に示す。
【比較例2】
【0058】
触媒(1)および触媒(5)を各々外形15.5mm(3×3セル)、長さ126mmに切断し、直径35mmの触媒反応装置にガスの流れ方向に対して上流側に触媒(1)、また下流側に触媒(5)を各々平行となるように充填した。上記のように触媒を配置した以外は実施例1と同様にしてNOx除去率、アセトアルデヒド除去率および酢酸生成率を求めた。結果を表2に示す。
【比較例3】
【0059】
触媒(1)および触媒(4)を各々外形15.5mm(3×3セル)、長さ126mmに切断し、直径35mmの触媒反応装置にガスの流れ方向に対して上流側に触媒(4)、また下流側に触媒(1)を各々平行となるように充填した。上記のように触媒を配置した以外は実施例1と同様にしてNOx除去率、アセトアルデヒド除去率および酢酸生成率を求めた。結果を表2に示す。
【比較例4】
【0060】
触媒(1)および触媒(5)を各々外形15.5mm(3×3セル)、長さ126mmに切断し、直径35mmの触媒反応装置にガスの流れ方向に対して上流側に触媒(5)、また下流側に触媒(1)を各々平行となるように充填した。上記のように触媒を配置した以外は実施例1と同様にしてNOx除去率、アセトアルデヒド除去率および酢酸生成率を求めた。結果を表2に示す。
【0061】

【0062】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを、窒素酸化物を還元除去するに必要な量の還元剤とともに、150℃以上200℃未満の温度で、(A)チタン酸化物、チタンとケイ素との複合酸化物および/またはチタンとジルコニウムとの複合酸化物、および(B)マンガンの酸化物を含む触媒、あるいは(A)チタン酸化物、チタンとケイ素との複合酸化物および/またはチタンとジルコニウムとの複合酸化物、(B)マンガンの酸化物、および(C)銅、クロム、鉄、バナジウム、タングステン、ニッケルおよびモリブデンから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含む触媒を充填してなる触媒層(1)に導入して、脱硝処理および脱臭処理を同時に行うことを特徴とする窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法。
【請求項2】
請求項1の触媒層(1)の上流側に、脱硝触媒を充填してなる触媒層(2)を配置し、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを、窒素酸化物の還元除去に必要な量の還元剤の少なくとも一部とともに、150℃以上200℃未満の温度で、触媒層(2)に導入し、次いで触媒層(2)からの処理ガスを、残余の還元剤を添加した後に、触媒層(1)に導入して、脱硝処理および脱臭処理を同時に行うことを特徴とする窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法。
【請求項3】
還元剤全量を触媒層(2)に導入する請求項2記載の窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法。
【請求項4】
請求項1の触媒層(1)の下流側に、脱硝触媒を充填してなる触媒層(2)を配置し、窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスを、窒素酸化物の還元除去に必要な量の還元剤の少なくとも一部とともに、150℃以上200℃未満の温度で、触媒層(1)に導入し、次いで触媒層(1)からの処理ガスを、残余の還元剤を添加した後に、触媒層(2)に導入して、脱硝処理および脱臭処理を同時に行うことを特徴とする窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法。
【請求項5】
還元剤全量を触媒層(1)に導入する請求項4記載の窒素酸化物および臭気成分を含む排ガスの処理方法。


【公開番号】特開2006−68663(P2006−68663A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256702(P2004−256702)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】