説明

窒素酸化物分析計及びに窒素酸化物分析計適に適用されるパラメータ設定方法

【課題】
オゾン濃度が不安定なオゾン含有ガスを用いても、反応槽内で確実に発光が終了するように、反応槽の体積や圧力、ガス流量等のパラメータをどのような機種に対しても容易にかつ適切に設定できるようにする。
【解決手段】
定常状態でオゾン濃度のみを変化させ、その変化に対する光強度の変化から、オゾン濃度の変化と化学発光反応の変化との関係を示すオゾン濃度−発光反応特性を取得し、前記オゾン濃度−発光反応特性に基づいて、オゾン含有ガスのオゾン濃度が所定範囲内で変化してもほぼ反応槽内でのみ発光反応が生じるような、サンプルガスの反応槽平均通過時間を定めるパラメータの関係を設定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の排気ガス等に含まれる窒素酸化物の濃度を測定する窒素酸化物分析計等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒素酸化物(NO)濃度を時系列的に連続測定する装置として、化学発光式窒素酸化物分析計(以下CLD式NO計ともいう)が知られている。このCLD式NO計は、下式に示されるように、NOをNOに変換したあと、そのNOにオゾンを混合し、その際に生成される励起二酸化窒素が基底状態に戻るときに発する光の強度を検出することにより、NOの量(濃度)を測定するものである。
【0003】
NO+O→NO+O (NO:励起NO
NO →NO+hν
【0004】
より具体的には、オゾン含有ガスと、測定対象となるNOを含むサンプルガスとを反応槽に導いてそこで混合し、その際、反応槽内での化学発光反応で生じる光の強度を光電子倍増管やCCD等の光検出器で検出するようにしており、従来、そのオゾン含有ガスとしては、オゾンボンベから導いたものや、除湿した大気中の酸素をオゾン発生器でオゾンに変換した一定濃度のオゾンを含むものを用いるようにしている。
【特許文献1】特開2002−5838
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、オゾンボンベを用いる方式では、装置が極めて大がかりになる上に、定期的にボンベ交換をしなければならない。また、オゾン発生器を用いる方式では、大気中の水分を除いて酸素濃度(オゾン濃度)を一定にするために、除湿器やドライヤが必要となり、それらの定期的な交換が必要となるうえに電力消費量が大きくなる。
【0006】
こういったことから、従来の装置では、コンパクト化や省電力化あるいはメンテナンスフリーを図ることが困難で、それが車両搭載型の化学発光式窒素酸化物分析計を実現するためのネックとなっている。
【0007】
かといって、除湿器を用いずに大気を直接的にオゾン発生器に導き、オゾン含有ガスを発生させれば、電力消費量の低減、コンパクト化、メンテナンスフリーを一挙に図れるが、大気中の湿度が不安定なことから、オゾン濃度も不安定なものとなり、検出誤差を引き起こす可能性が生じる。
【0008】
その理由としては、オゾン濃度が、NOの生成速度、すなわち発光時間に大きく関わっていることにある。オゾン濃度が低ければNOの生成速度が遅くなって、発光時間が長くかかり、混合ガスが反応槽内に滞留している間に発光が終了しなくなる。その結果、反応槽内で検出される発光強度が、NOの濃度に比例しなくなって検出誤差を招くわけである(オゾン濃度が一定であれば、混合ガスが反応槽内に滞留している間に発光が終了しようがしまいが、検出感度に若干の違いが生じるとは言え、反応槽内での発光強度がNO濃度と1対1に対応してこれを示すことになるので、検量線さえ正しく求めれば精度よく測定することが可能ではある)。
【0009】
したがって、不安定な濃度のオゾン含有ガスを用いて正確な測定を行おうとすれば、反応槽内で確実に発光が終了するように、かつコンパクト性を失わない程度に、反応槽の体積や圧力、ガス流量等を設定しなければならないが、そのためには装置が固有に有する化学発光反応の時間特性を知る必要がある。
【0010】
ところが流路抵抗やその他の要因が絡み合って、理論的にそれを求めるのは容易ではなく、試験によって求める手法として特許文献1等にバッチ方式などが提案されているものの、やはり複雑な機構やソフトウェアが必要となり、種々異なる製品にそれを適用して実用化するにはほど遠いのが実情である。
【0011】
そこで本発明は、系固有の発光反応の時間特性を求めるために、時間の関数が全く入らないオゾン濃度と化学発光反応との関係(オゾン濃度−発光反応特性)を用いればよいことに初めて着目してなされたものであって、大気を直接オゾン発生器に導いてオゾン含有ガスを発生させることができ、しかもそのようなオゾン濃度が不安定なオゾン含有ガスを用いても、反応槽内で確実に発光が終了するように、反応槽の体積や圧力、ガス流量等のパラメータをどのような機種に対しても容易にかつ適切に設定できるようにすべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、時系列的に連続導入されるオゾン含有ガス及びサンプルガスを内部で混合し、導出ポートから導出する反応槽と、反応槽内でのガス混合により惹起される化学発光反応で生じる光の強度を検出する光検出器とを備え、この光検出器で検出された光強度に基づいてサンプルガス中の窒素酸化物濃度を算出できるように構成した窒素酸化物分析計に適用されるものであって、窒素酸化物濃度を一定に保った基準サンプルガス及びオゾン濃度が既知である基準オゾンガスを、前記サンプルガス及びオゾン含有ガスにそれぞれ代えて一定流量で流すとともに、反応槽内の圧力を一定にして定常状態を生成し、その定常状態でオゾン濃度のみを変化させ、その変化に対する光強度の変化から、オゾン濃度の変化と化学発光反応の変化との関係を示すオゾン濃度−発光反応特性を取得し、前記オゾン濃度−発光反応特性に基づいて、オゾン含有ガスのオゾン濃度が所定範囲内で変化してもほぼ反応槽内でのみ発光反応が生じるような、サンプルガスの反応槽平均通過時間を定めるパラメータの関係を求めるようにしたものである。
【0013】
このようなものであれば、大気をオゾン発生器に除湿することなく直接取り込んで、オゾン含有ガスを発生させ、それによるオゾン濃度の変動が生じても、正確な測定ができる範囲内で、例えば反応槽の体積を最小限に設計するようなパラメータを設定し、可及的なコンパクト化等を図ることが容易にできる。
【0014】
したがって、除湿器やドライヤの省略による省電力化、コンパクト化等が可能になって、特に車載用に最適なリアルタイム窒素酸化物分析計を提供することが可能になる。
【0015】
また、どのように複雑な系であろうとも、定常状態を作り出すことにさほど困難性はなく、その定常状態でのオゾン濃度−発光反応特性を求めることも容易である。そしてオゾン濃度−発光反応特性さえわかれば、この系における発光反応の時間特性(例えば時定数)を求められ、その時間特性から、オゾン濃度の変動度合いに応じて、正確な測定ができる範囲内、すなわち反応槽内でのみ発光反応が生じるような、反応槽の体積や圧力、ガス流量等のパラメータを容易に定めることができるから、あらゆる分析計に容易に適用可能で実現性に極めて富んだものとなる。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明によれば、不安定な濃度のオゾン含有ガスを用いても、またどのような機種に対しても、そのオゾン濃度の変動度合いさえ見積もれるのであれば、無用に反応槽を大きくしたりガス流量を絞ったりすることなく、反応槽内で確実に発光が終了して正確な測定ができるように、反応槽の体積や圧力、ガス流量等のパラメータを最適なものに容易に設定できる。
【0017】
そのため、大気を直接オゾン発生器に導いてオゾン含有ガスを発生させることなどが可能になり、除湿器やドライヤの省略による省電力化を図れるうえに、コンパクトで精度のよい、特に車載用として好適な窒素酸化物分析計を提供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態に係る排気ガス計測システム100は、車両のトランク等に積み込んで車両を実走行させながら、サンプルガスである排気ガス中の種々の成分濃度を測定することが可能なもので、図1に示すように、3つの異なる分析計4、5、6と、それら分析計4、5、6に排気ガスを連続的に供給するための流路系と、各分析計4、5、6からの実測データを受信して分析するとともに、流路系に配置されたバルブ等の制御を行う情報処理装置7とを備えている。
【0020】
各部を詳述する。
【0021】
まず分析計4、5、6としてこの実施形態では、CO、CO、HOの濃度を測定するための赤外線ガス分析計4、THCの濃度を測定するための水素炎イオン化検出器5、NOの濃度を測定するための化学発光式窒素酸化物分析計6(以下CLD式NO計6ともいう)の3つを用いている。
【0022】
赤外線ガス分析計4は、非分散型のもので、CO、CO、HOがそれぞれ吸収する固有波長の赤外線がサンプルガス(排気ガス)を通過した際の各波長の光の強度を光検出器で測定してそれぞれ出力し、その出力値を、光吸収がなかった場合のリファレンス値と比較することにより、各波長の光の吸収度を算出できるように構成したものである。この光吸収度がCO、CO、HOの各成分の濃度を示すものとなる。
【0023】
水素炎イオン化検出器5は、サンプルガス(排気ガス)に燃料ガスを一定の割合で混合して、電場をかけた燃焼室(チムニー)で燃焼させ、その際に当該サンプルガスに含まれるTHCがイオン化されて生じる電流を捕集し、それを増幅して出力する方式のもので、その電流値からTHCの量(濃度)を算出することができる。この水素炎イオン化検出器5には、燃料ガスの他に助燃ガス(空気)も導かれるように構成している。
【0024】
CLD式NO計6は、排気ガスに含まれるNOの量(濃度)を測定可能なものであり、NOコンバータ61、オゾン発生器62、反応槽63、光検出器(図示しない)を備えている。NOコンバータ61は、NOをNOに変換するもので、導入された排気ガスを2分する一対の並列経路6a、6bの一方6aに設けられている。これら並列経路6a、6bの終端には電磁式切替バルブ65が設けてあって、いずれか一方の経路6a、6bからのみ、後述する反応槽に択一的にガスが導かれるようにして。排気ガスに含まれるNOのみの濃度、あるいは差分をとることでNOを除くNOの濃度をも測定できるようにしている。オゾン発生器62は、大気を除湿することなくそのまま取り込み、その大気に含まれる酸素をオゾンに変換してオゾン含有ガスとして出力するものである。反応槽63は、一定容積を有する筐体であり、サンプルガス導入ポート63a、オゾン含有ガス導入ポート63b及び導出ポート63cを有している。サンプルガス導入ポート63aには、前述したように切替バルブ65で選択されたいずれか一方の並列経路6a、6bからのガスが導かれるとともに、オゾン含有ガス導入ポート63bには、前記オゾン発生器62からのオゾン含有ガスが導かれる。それら各ガスは反応槽63の内部で混合し、化学発光反応を生起する。光検出器は、前記反応槽63内での反応による発光強度を測定するもので、この実施形態では、光検出器として例えば光電子倍増管を用いている。
【0025】
流路系は、排気ガスの大部分を通過させるバイパス経路としての役割を果たす主流路1と、その主流路1から分岐させて並列に設けた複数(2つ)の副流路2、3とを備えており、主流路1上に前記赤外線ガス分析計4、一方の副流路2(第1副流路2)上に前記水素炎イオン化検出器5、他方の副流路3(第2副流路3)上にCLD式NO計6をそれぞれ設けている。
主流路1は、その上流端をメインポート11として開口させたもので、最も下流側には吸引ポンプ19が配設してある。そして、このメインポート11に車両の排気管を接続し、前記吸引ポンプ19で吸引することにより、排気ガスのうちの測定に必要な量が当該主流路1に導入されるように構成している。
【0026】
より具体的に説明すると、この主流路1上には、メインポート11に引き続いて、排気ガス中に含まれる液状水分を取り除くドレンセパレータ13、フィルタ14、流量制御管(キャピラリ)15a、分岐部16、赤外線ガス分析計4、流量制御管(キャピラリ)15b、合流部18、吸引ポンプ19がこの順で直列配置されている。車両の排気管から前記ドレンセパレータ13に至るまでは、少なくとも加熱配管を用いず、非加熱配管のみで接続してあるため、各分析計4、5、6にはドレンセパレータ13で液状水分のみが取り除かれた状態(以下semi−Dry状態ともいう)の排気ガスが導入される。赤外線ガス分析計4の下流に接続されている圧力制御弁17aは、前記キャピラリ15a、15b間の流路系の圧力をコントロールするためのものであり、各キャピラリ15a、15bと協働して赤外線ガス分析計4を流れる排気ガスの流量及び圧力を一定に保つ役割を担う。
【0027】
一方、前記副流路2、3は、前記分岐部16で主流路1から分岐され、前記合流部18で主流路1に再度接続されるように構成してある。
【0028】
第1副流路2上には、流量制御管(キャピラリ)21、水素炎イオン化検出器5がこの順で設けてある。流量制御管21は、この副流路2を流れるガスの量を、THCの濃度測定に必要な流量(主流路1を流れる排気ガス流量に比べればわずかである)に制限するものである。
【0029】
第2副流路3上には、流量制御管(キャピラリ)31、CLD式NO計6が上流からこの順で設けてある。流量制御管(キャピラリ)31は、この副流路3を流れるガスの量を、NOの濃度測定に必要な流量(主流路1を流れる排気ガス流量に比べればわずかである)に制限するものである。
【0030】
合流部18に接続されている圧力制御弁17bは、前記各副流路2、3の圧力をコントロールするためのものであり、各副流路2、3の上流部に設けられた前記キャピラリ21、22と協働して水素炎イオン化検出器5及びCLD式NO計6を流れる排気ガスの流量及び圧力を一定に保つ役割を担う。
【0031】
情報処理装置7は、図2に示すように、CPU701の他に、メモリ702、入出力チャネル703、キーボード等の入力手段704、ディスプレイ705等を備えた汎用乃至専用のものであり、入出力チャネル703には、分析計側に設けられたA/Dコンバータ、D/Aコンバータ、増幅器(図示しない)などのアナログ−デジタル変換回路が接続されている。そして、CPU71及びその周辺機器が、前記メモリ72の所定領域に格納されたプログラムにしたがって協働動作することにより、この情報処理装置7は、前記流路系等に設けられたバルブの開閉制御やヒータの温度制御を行う制御部や、各分析計4、5、6から出力される検出データを受信し、解析して各成分の濃度等を算出する分析部等としての機能を少なくとも発揮する。なお、この情報処理装置7は、物理的に一体である必要はなく、有線又は無線により複数の機器に分割されていても構わない。
【0032】
ところで、この実施形態では、前述したように、CLD式NO計6における
オゾン発生器62に大気を除湿することなく導入するようにして、従来必要であった除湿器やドライヤを省略し、電力消費量の大幅削減とコンパクト化とを実現して車両搭載に適したものとしている。
【0033】
一方、このように大気をオゾン発生器62に直接導入すると、大気湿度の変動から酸素濃度が変動して、オゾン発生器62から出力されるオゾン含有ガスのオゾン濃度に変動が生じるため、窒素酸化物濃度の測定誤差を惹起する恐れが生じる。
【0034】
そこで、この実施形態では、オゾン濃度に予想される範囲内での変動が生じても、発光反応が反応槽63内で終了するように、反応槽63の体積、反応槽63内の圧力、反応槽63へのサンプルガスの導入流量及びオゾン含有ガスの導入流量の関係を設定し、オゾン濃度の変動が、測定値に影響を与えないように、あるいはその影響を可及的に小さくできるように図っている。
【0035】
具体的にその手法を述べる前に、理解のために発光強度とNOやオゾンの濃度、あるいは発光時間との関係を説明しておく。
【0036】
一酸化窒素とオゾンが反応すると二酸化窒素(NO)が生成するが、その一部が一定の割合で励起状態のNOとなる。このNOが基底状態に戻る時、式(2)で励起エネルギーを光エネルギーとして放出する。この発光のプロセスは、およそ次の化学反応式で表される。
【0037】

NO + O → NO + O (1)

3
NO → NO + hν (2)

4
NO + M → NO + M (3)
ここでk〜k4は、各反応の速度を定める定数である。
式(1)〜(3)の反応過程でのNOの減少速度は、
−d[NO]/dt=k[NO][O] (4)
ここで[]は濃度を表す。
【0038】
一方、NOの生成量、すなわち[NO]の濃度は、NO濃度の初期値から現在のNO濃度を引いた値であるから、これを式で示すと、
[NO](0)−[NO]=[NO] (5)
ここで[NO](0)はNO濃度の初期値
【0039】
(2)式の発光反応は、(1)式による化学反応でNOが生成するたびに、ある比率((3)式によるクエンチング等で一定の割合で発光反応が生じない場合がある)で生じ、発光強度Iは、その反応による単発発光の積分値であるから、結局生成されるNOの量、すなわちNOの濃度に比例する。これを式で示すと、
I=A・[NO] (6)
ここで、Aは比例定数である。
【0040】
そこで、式(4)(5)(6)から発光強度Iを、時間tとOの濃度との関数で求めると以下のようになる。
I=A・{1−exp(−k・[O]・t)} (7)
ここでA=A・[NO](0)
【0041】
この式(7)から明らかなように、この発光系の時定数τは、以下のように表される。
τ=1/(k・[O]) (8)
【0042】
したがって、kはこの発光系の時定数を規定しているこの発光系固有の固有値であると言える。
【0043】
そこで、この実施形態では、まず定常状態(各ガスの濃度、流量、圧力を一定に保った状態)にして、tを一定の値Tc(反応槽63でのガス平均滞留時間を一定)に保っておき、その定常状態でOの濃度のみを変化させ、その時の発光強度Iの変化からまずkを求めるようにしている。
【0044】
そして、そこから逆に、反応槽63でのガス平均滞留時間tを規定するパラメータ、すなわち反応槽63の体積、反応槽63内の圧力、反応槽63へのサンプルガスの導入流量及びオゾン含有ガスの導入流量の関係を設定することで、オゾン濃度が多少変動しようとも、発光を反応槽63内で終了させ、発光強度から一意的にNOの濃度を求めることができるようにしたものである。
【0045】
以下にその方法を詳述する。
【0046】
まず、窒素酸化物濃度(ここではNO濃度)を一定に保った基準サンプルガス及びオゾン濃度が既知である基準オゾン含有ガスを、前記排気ガス及びオゾン含有ガスにそれぞれ代えて一定流量で流すとともに、反応槽63内の圧力を一定に保つ(定常状態生成ステップ)。
【0047】
この定常状態では、反応槽63内に混合されたガスが滞留している平均時間Tcは次式から求められる一定値である。
Tc=Vc×Pc/Qc (10)
ここでVcは反応槽63の体積、Pcは定常状態での反応槽63内の圧力、Qcは定常状態での反応槽63に流入するガスの総流量である。
【0048】
そしてこの定常状態での発光強度(感度)Iとオゾン濃度[O]との関係は、式(7)、(10)から求まる以下の次式(11)で表される。また横軸をオゾン濃度[O]、縦軸を発光強度(感度)Iとしたグラフを図3(a)に示す。
I=A(1−exp(−k・Tc・[O]) (11)
ここでA=A・[NO](0)
【0049】
次に、オゾン濃度のみを変化させてそれに対応する光強度の値の変化を検出し、それからオゾン濃度と光強度、すなわち化学発光反応との関係を示すオゾン濃度−発光反応特性を求める。具体的には、オゾン濃度を徐々に上昇させ、NO+Oの反応速度を速めることにより、オゾン濃度の上昇量に対する発光強度の変化が所定の微小量以下となる点、つまり感度変化がほとんど無くなる点を見つける(反応特性取得ステップ)。
【0050】
具体的に、この点を発光強度の飽和値の約95%の点と設定し、その点でNO+Oの反応終了とサンプルガスの通過時間がほぼ等しくなる点であると考えれば、以下の式を導ける。
3・τ=Tc (12)
【0051】
この式(12)に、式(8)、式(10)を代入することにより、式(13)が導かれ、前記固有値kを求めることができる。
=3/([O×Vc×Pc/Qc)= (13)
ここで[Oは、発光強度の変化が所定の微小量以下となるときのオゾン濃度の値である。また、式(12)でτを3倍しているのは、飽和値の約95%の点とした場合の例であり、これに限られない。
【0052】
この他に、オゾン濃度のみを変化させ、複数のオゾン濃度の値に対する発光強度の値をそれぞれ検出し、それら各点をほぼ通るように、例えば最小自乗法を用いるなどして、反応特性である式(11)を特定し(反応特性取得ステップ)、その特定した式(11)からこの測定系の固有値であるkを求めるようにしてもよい。
【0053】
最後に、このようにして求めた固有値kに基づいて、オゾン含有ガスのオゾン濃度が所定範囲内で変化してもほぼ反応槽63内でのみ発光反応が生じるように、反応槽63の体積V、反応槽63内の圧力P、反応槽63へのサンプルガス及びオゾン含有ガスの導入流量Qの関係を設定する(パラメータ設定ステップ)。
【0054】
具体的に説明する。
【0055】
式(7)から明らかなように、発光強度(感度)Iの飽和値は、A=A・[NO](0)であり、感度として得たいのはNO濃度、すなわち[NO](0)であるから、この飽和値である。したがってtが大きければ大きいほど、そのtの変動による発光強度(感度)Iへの影響が小さくなる。
【0056】
そこで、本実施形態では、オゾン濃度が変動しても測定精度を落とさないために、式(8)よりこのグラフの時定数τは1/(k・[O])と表せることから、オゾン濃度が基準値から多少変動して時定数τが変わってもほとんど影響のでない範囲となるように、反応槽63内に混合されたガスが滞留している平均時間t=V×P/Qを、前記時定数τ(=1/(k・[O]))に基づいて定めている。ここでは、(式14)のように、tをτのn倍(具体的には前述したように、飽和値の約95%となる3倍)以上となるように定めている。
3・τ≦t=V×P/Q (14)
【0057】
なお、図3(b)に所定量のNOをインパルス的に反応槽63に導入した場合の発光強度の時間変化を示す。この図から明らかなように、tをτの3倍以上とすることは、発光1サイクルが時間t内でほとんど(95%以上)終了することを示している。
【0058】
もちろん、オゾン濃度の変動幅が大きい場合はtとしてτの3倍以上の値を設定しなければならないし、その逆の場合は3倍未満でも構わない。要はオゾン濃度の変動幅に応じて、tとしてτのn倍以上の値を見積もればよい。なお、τを定めるときのオゾン濃度[O]は、例えば変動中心の値に設定しておけばよい。
【0059】
そして式(14)から求まるtを満たすように、完成後のCLD式NO計については、反応槽63体積Vは変えようがないので圧力Pや流量Qの設定を、前記圧力制御弁やキャピラリの調整により行い、反応槽63の体積V、反応槽63内の圧力P、反応槽63への導入流量Qの関係を設定すればよい。また、設計開発段階であれば、反応槽63の体積Vをも調整することは可能であろう。
【0060】
このように、本実施形態によれば、どのように複雑な系であろうとも、定常状態を作り出すことにさほど困難性はないため、その定常状態でのオゾン濃度の変化と発光強度の変化から、容易に固有値kを求められる。
【0061】
そしてその固有値kを用いることにより、オゾン含有ガスのオゾン濃度が変化しても、その変化度合いさえ見積もれるのであれば、それに応じて発光反応が確実に反応槽63内で終了するように、簡単にV、P、Qの関係を設定することができ、測定誤差を小さくして精度よくNO濃度を測定できる。
【0062】
また、不安定なオゾン濃度でもNO濃度を正しく測定できることから、この実施形態のように、オゾン発生器62に除湿することなく直接大気を取り込む態様も可能となり、除湿器やドライヤの省略による省電力化、コンパクト化等が可能になって車載用のリアルタイム窒素酸化物分析器として非常に好適なものを提供できる。
【0063】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0064】
例えば、上述した反応特性取得やパラメータ算出を、情報処理装置7が自動で行うようにしてもよい。
【0065】
具体的には、情報処理装置7には、所定の設定プログラムをインストールし、その設定プログラムにしたがってCPU701やメモリ702、周辺機器を協働させることにより、情報処理装置7が以下の各部の機能を担うように構成する。
【0066】
すなわち、図4に示すように、定常状態において、オゾン濃度のみを変化させたときの光強度の変化から、オゾン濃度の変化と化学発光反応の変化との関係であるオゾン濃度−発光反応特性を取得し、反応特性格納部D1に記憶する反応特性取得部71と、前記オゾン濃度−発光反応特性に基づいて、サンプルガスのオゾン濃度が所定範囲内で変化してもほぼ反応槽内でのみ発光反応が生じるような、サンプルガスの反応槽平均通過時間を定めるパラメータ(反応槽63の体積と、反応槽63内の圧力と、反応槽63へのサンプルガスの導入流量及びオゾン含有ガスの導入流量)の関係を算出するパラメータ算出部72としての機能である。
【0067】
このとき、前記パラメータ算出部72は、パラメータ設定ステップの説明で述べたと同様、反応特性格納部D1に記憶されているオゾン濃度−発光反応特性に基づいて、前記固有値kを算出し、その固有値kに基づいて、前記パラメータの関係を算出するようにすればよい。
【0068】
さらに、キャピラリや圧力制御弁を、情報処理装置7からコントロール可能にすると共に、反応槽63内の圧力P、反応槽63へのサンプルガス及びオゾン含有ガスの導入流量Qを計測する圧力センサや流量センサを設けるなどして、その測定情報を情報処理装置7に送信できるように構成し、前記パラメータ算出部の算出結果にしたがって、キャピラリや圧力制御弁を制御し、反応槽63内の圧力P、反応槽63へのサンプルガス及びオゾン含有ガスの導入流量Qを自動設定するパラメータ自動設定部73をこの情報処理装置7に設けてもよい。
【0069】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態に係る排気ガス分析装置の全体流体回路図。
【図2】同実施形態における情報処理装置の回路構成図。
【図3】同実施形態における光強度とオゾン濃度及び光強度と時間の関係を示すグラフ。
【図4】同実施形態における情報処理装置の機能ブロック。
【符号の説明】
【0071】
6・・・窒素酸化物分析計
63・・・反応槽
7・・・情報処理装置
71・・・反応特性取得部
72・・・パラメータ算出部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列的に連続導入されるオゾン含有ガス及びサンプルガスを内部で混合し、導出ポートから導出する反応槽と、反応槽内でのガス混合により惹起される化学発光反応で生じる光の強度を検出する光検出器とを備え、この光検出器で検出された光強度に基づいてサンプルガス中の窒素酸化物濃度を算出する情報処理装置とを備えたものであって、
前記情報処理装置が、窒素酸化物濃度を一定に保った基準サンプルガス及びオゾン濃度が既知である基準オゾンガスを、前記サンプルガス及びオゾン含有ガスにそれぞれ代えて一定流量で流すとともに、反応槽内の圧力を一定にした定常状態において、オゾン濃度のみを変化させたときの光強度の変化から、オゾン濃度の変化と化学発光反応の変化との関係であるオゾン濃度−発光反応特性を取得する反応特性取得部と、
前記オゾン濃度−発光反応特性に基づいて、サンプルガスの反応槽平均通過時間を定めるパラメータの関係を算出するパラメータ算出部と、を備えていることを特徴とする窒素酸化物分析計。
【請求項2】
前記パラメータが、反応槽の体積と、反応槽内の圧力と、反応槽へのサンプルガスの導入流量及びオゾン含有ガスの導入流量とを少なくとも含むものである請求項1記載の窒素酸化物分析計。
【請求項3】
前記パラメータ算出部が、前記オゾン濃度−発光反応特性に基づいて、この分析計固有の化学発光反応時定数を規定する固有値を算出し、その固有値に基づいて、前記パラメータの関係を算出するものである請求項1又は2記載の窒素酸化物分析計。
【請求項4】
前記反応特性取得部が、オゾン濃度−発光反応特性として、オゾン濃度の所定変化量に対する光強度の変化量が所定の微小量以下となるときを特定し、
前記パラメータ算出部が、そのときの反応槽の体積、圧力及び反応槽への導入ガス流量とから前記固有値を算出するものである請求項3記載の窒素酸化物分析計。
【請求項5】
前記反応特性取得部が、複数のオゾン濃度の値に対する発光強度の値をそれぞれ検出し、その各検出点をほぼ満たすオゾン濃度と発光強度の関係式であるオゾン濃度−発光反応特性を取得するものである請求項1、2又は3記載の窒素酸化物分析計。
【請求項6】
時系列的に連続導入されるオゾン含有ガス及び排気ガスを内部で混合し、導出ポートから導出する反応槽と、前記混合によって反応槽内で生じる光の強度を検出する光検出器と、この光検出器で検出された光強度に基づいて排気ガス中の窒素酸化物濃度を算出する情報処理装置とを備えたものであって、
大気が除湿されることなく導入され、その大気中の酸素をオゾンに変換してオゾン含有ガスを生成するオゾン発生器をさらに備えている車両搭載型窒素酸化物分析計。
【請求項7】
時系列的に連続導入されるオゾン含有ガス及びサンプルガスを内部で混合し、導出ポートから導出する反応槽と、反応槽内でのガス混合により惹起される化学発光反応で生じる光の強度を検出する光検出器とを備え、この光検出器で検出された光強度に基づいてサンプルガス中の窒素酸化物濃度を算出できるように構成した窒素酸化物分析計に適用される方法であって、
窒素酸化物濃度を一定に保った基準サンプルガス及びオゾン濃度が既知である基準オゾンガスを、前記サンプルガス及びオゾン含有ガスにそれぞれ代えて一定流量で流すとともに、反応槽内の圧力を一定にし、定常状態を生成する定常状態生成ステップと、
その定常状態でオゾン濃度のみを変化させ、その変化に対する光強度の変化から、オゾン濃度の変化と化学発光反応の変化との関係を示すオゾン濃度−発光反応特性を取得する反応特性取得ステップと、
前記オゾン濃度−発光反応特性に基づいて、オゾン含有ガスのオゾン濃度が所定範囲内で変化してもほぼ反応槽内でのみ発光反応が生じるような、サンプルガスの反応槽平均通過時間を定めるパラメータの関係を設定するパラメータ設定ステップと、を含むことを特徴とする窒素酸化物分析計に適用されるパラメータ設定方法。
【請求項8】
前記パラメータが、反応槽の体積と、反応槽内の圧力と、反応槽へのサンプルガスの導入流量及びオゾン含有ガスの導入流量とを少なくとも含むものである請求項7記載の窒素酸化物分析計に適用されるパラメータ設定方法。
【請求項9】
前記パラメータ設定ステップにおいて、前記オゾン濃度−発光反応特性に基づいて、この分析計固有の化学発光反応時定数を規定する固有値を算出し、その固有値に基づいて、サンプルガスのオゾン濃度が所定範囲内で変化してもほぼ反応槽内でのみ発光反応が生じるように、前記パラメータの関係を設定する請求項7又は8記載の窒素酸化物分析計に適用されるパラメータ設定方法。
【請求項10】
前記パラメータ設定ステップにおいて、オゾン濃度の所定変化量に対する光強度の変化量が所定の微小量以下となった際のオゾン濃度と、その時の反応槽の体積、圧力及び反応槽への導入ガス流量とから前記固有値を算出するようにしている請求項9記載の窒素酸化物分析計に適用されるパラメータ設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−284500(P2006−284500A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107865(P2005−107865)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】