説明

窒素酸化物測定方法

【課題】装置全体の大幅な設計変更を伴うことなく低コストにてオゾン発生器からの電気的ノイズの影響を除去可能とした窒素酸化物測定方法を提供する。
【解決手段】試料ガスと、無声放電式のオゾン発生器により発生させたオゾンと、を測定セルに導入し、試料ガスとオゾンとを反応させて化学発光を生じさせ、その光強度から試料ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度を測定する化学発光式の窒素酸化物測定装置において、オゾン発生器15を間欠動作させて放電期間と放電休止期間とを生成し、放電期間に発生させたオゾンを、オゾン発生器15と測定セル・検出部18との間に配置したオゾン貯蔵容器16に貯蔵すると共に、放電休止期間に、オゾン貯蔵容器16内のオゾンを測定セル・検出部18に導入して化学発光による測定動作を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無声放電により発生させたオゾンを用いて、化学発光により一酸化窒素等の窒素酸化物(以下、NOxという)の濃度を測定する窒素酸化物の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素酸化物とオゾンとが気相で反応して生じる化学発光を利用して、窒素酸化物の濃度を測定する窒素酸化物測定装置(以下、NOx計ともいう)は、従来から種々提供されている。
この種のNOx計に搭載されるオゾン発生器のオゾン発生原理としては、乾燥空気に紫外線を照射するものや無声放電を利用するものが存在するが、紫外線方式では紫外線ランプの定期的な交換等に多くのコストや労力が必要であり、また、無声放電方式に比べてオゾン発生量も一般に少ない。
【0003】
これに対し、無声放電方式のオゾン発生器は、数千ボルトの交流電圧を印加したガラス管の内部に乾燥空気を通過させてオゾンを発生させるものであり、ランニングコストが比較的少なくて済むと共にオゾン発生効率が良い等の利点があるため、後述する特許文献1に示されるように、この種の用途に広く利用されている。
【0004】
しかしながら、無声放電方式のオゾン発生器では、放電に伴う電気的ノイズが測定装置内の回路素子の動作に悪影響を与え、その結果、測定値が不安定になるという問題があり、電気的ノイズが周辺の各種機器を誤動作させる不都合もある。また、このノイズ対策のために設計変更や検証、試験等を行う場合には、新たなコスト負担を強いられることにもなる。
【0005】
一方、オゾン発生器の電気的ノイズを低減させる技術としては、特許文献2や特許文献3に記載されたものが公知となっている。
特許文献2に係る従来技術は、オゾン発生器の電極端子を高電圧発生部のばね端子に密着させることによってオゾン発生源となるリード線を不要にしたものであり、また、特許文献3に係る従来技術は、発生した高周波ノイズを抵抗や等価容量により吸収して外部への漏洩を防止するものである。
【0006】
【特許文献1】特開平7−225214号公報(段落[0013]、図1等)
【特許文献2】特開平5−97404号公報(段落[0009]〜[0016]、図1等)
【特許文献3】特開平6−135702号公報(段落[0013]〜[0021]、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2,3に記載された従来技術によれば、それぞれ所期のノイズ低減効果を得ることが一応可能であるが、オゾン発生器の電極構造を変更したり新たな回路素子を追加する等の対策が必要であり、いずれにしてもコストの負担が大きいという問題があった。
そこで、本発明の解決課題は、装置全体の大幅な設計変更を伴うことなく低コストにてオゾン発生器からの電気的ノイズの影響を除去可能とした窒素酸化物測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、試料ガスと、無声放電方式のオゾン発生器により発生させたオゾンと、を測定セルに導入し、前記試料ガスとオゾンとを反応させて化学発光を生じさせ、その光強度から前記試料ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度を測定する化学発光式の窒素酸化物測定装置において、
前記オゾン発生器を間欠動作させて放電期間と放電休止期間とを生成し、
前記放電期間に発生させたオゾンを、前記オゾン発生器と前記測定セルとの間に配置したオゾン貯蔵容器に貯蔵すると共に、
前記放電休止期間に、前記オゾン貯蔵容器内のオゾンを前記測定セルに導入して化学発光による測定動作を行わせるものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した窒素酸化物測定方法において、
前記窒素酸化物測定装置は、
窒素酸化物を含む第1の試料ガス及び第2の試料ガスが所定周期で交互に導入される単一の測定セルを備え、
前記測定セルにおける第1の試料ガスの測定期間及び第2の試料ガスの測定期間のそれぞれについて、前記オゾン発生器を間欠動作させて放電期間と放電休止期間とを生成するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オゾン発生器を間欠動作させることにより、放電休止期間中には、バッファとしてのオゾン貯蔵容器に貯蔵しておいたオゾンを用いて化学発光による測定動作、データ収集動作を行うことができ、回路素子への電気的ノイズの影響を低減して測定精度を高めることができる。
また、本発明は、オゾン貯蔵容器を追加してオゾン発生器の動作シーケンス等を変更するだけで実現可能であるから、低コストにて実現可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1は本発明の実施形態が適用される化学発光式NOx計の概略的な構成図である。
【0012】
図1において、11は試料大気中の水分やアンモニアを除去する試料調整部、12は試料大気中のNO(二酸化窒素)をNO(一酸化窒素)に還元するコンバータ、13は試料ガス流路をコンバータ12を通る流路と通らない流路とに一定周期で切り替える電磁弁、14は試料ガスの流量を一定に保つための試料キャピラリー、15は間欠的に無声放電を行ってオゾンを発生させるオゾン発生器、16はオゾン発生器15による発生オゾンを貯蔵するオゾン貯蔵容器、17はオゾンガスの流量を一定に保つためのオゾンキャピラリー、18は試料ガスとオゾンガスとを混合して化学発光を起こさせ、その光強度を光電子増倍管等により電気信号に変換する測定セル・検出部、19は測定セル・検出部18の出力信号を演算処理してNO濃度、NO濃度を検出する信号処理部、20は測定セル内の圧力を一定に保つためのポンプ調圧部である。
【0013】
なお、上記オゾン貯蔵容器16にはシリカゲルが充填されており、このシリカゲルが、測定セルにおけるNOとの反応に必要十分な量のオゾンを吸着して貯蔵可能となっている。
【0014】
周知のように、化学発光式のNOx計は、NOがオゾンと反応してNOを生成する課程で生じる化学発光の光強度がNOの濃度と比例することを利用している。
すなわち、図1において、試料調整部11からコンバータ12を通らない流路(NO側流路)を通過した試料ガスを測定セルに導入してオゾンと反応させることにより、NOの濃度を測定することができる。一方、試料調整部11からコンバータ12を通る流路(NOx側流路)を通過した試料ガスには、NOから還元されたNO以外に、試料大気にもともと含まれるNOも存在する。このため、NOx側流路を通過した試料ガスをオゾンと反応させると、NOとNOとが加算されたNOxの濃度を測定することになるので、測定されたNOxの濃度からNOの濃度を差し引くことによってNOの濃度を測定することができる。
【0015】
次に、この実施形態の動作を図2のタイミングチャートを参照しつつ説明する。
図2(a)は電磁弁13の動作、同(b)はNOの測定動作、同(c)はNOxの測定動作、同(d)は本実施形態におけるオゾン発生器15の間欠動作、同(e)は参考的に示した従来のオゾン発生器の動作であり、一連の測定動作中は常時ON状態(常時放電)としてオゾンを発生させる状態を示している。
【0016】
この実施形態では、図2(a)〜(d)から判るように、電磁弁13を10秒間隔(20秒周期)で切り替えてNOまたはNOxを交互に測定する(NOまたはNOxの測定期間をいずれも10秒間とする)。また、上記測定期間内の流路切り替えに伴うパージ時間T(例えば5秒間)にオゾン発生器15をONして無声放電によりオゾンを発生させ、その後のデータ収集時間T(5秒間)ではオゾン発生器15をOFFさせるように設定されている。すなわち、各測定期間内でオゾン発生器15を間欠動作させて放電期間と放電休止期間とを生成する。
なお、上記パージ時間Tとデータ収集時間Tとは、必ずしも等しくする必要はない。
【0017】
その動作としては、まず、図2(a)に示す如く電磁弁13をNO側流路に切り替えることにより、測定セル・検出部18には、試料調整部11から電磁弁13等を介してNOを含む試料ガス(請求項における第1の試料ガス)が導入される。
同時に、図2(b)の「NO測定」の測定期間において、当初のパージ時間T中に図2(d)の如くオゾン発生器15をONし、無声放電によりオゾンを発生させる。このとき、ポンプ調圧部20の動作によって測定セル・検出部18側は負圧に保たれているので、発生したオゾンはオゾン貯蔵容器16側に吸引され、内部のシリカゲルに吸着、貯蔵される。
【0018】
次に、図2(b)のパージ時間Tに続くデータ収集時間Tでは、図2(d)の如くオゾン発生器15をOFFし、測定セル・検出部18による測定(データ収集)動作を行う。すなわち、オゾン貯蔵容器16に貯蔵されたオゾンを測定セル・検出部18に導入し、コンバータ12を通過していない第1の試料ガス中のNOと反応させて化学発光によりNOの濃度を測定する。
【0019】
次いで、図2(a)に示すように電磁弁13をNOx側流路に切り替えることにより、測定セル・検出部18には、試料調整部11からコンバータ12、電磁弁13等を介してNOxを含む試料ガス(請求項における第2の試料ガス)が導入される。
同時に、図2(c)の「NOx測定」の測定期間において、当初のパージ時間T中に図2(d)の如くオゾン発生器15をONさせてオゾンを発生させる。発生したオゾンはオゾン貯蔵容器16側に吸引され、内部のシリカゲルに吸着、貯蔵される。
そして、図2(c)のパージ時間Tに続くデータ収集時間Tでは、図2(d)の如くオゾン発生器15をOFFし、オゾン貯蔵容器16内のオゾンを測定セル・検出部18に導入し、コンバータ12を通過した第2の試料ガス中のNOxの濃度を化学発光により測定する。
【0020】
上記のように電磁弁13を切り替えてNO濃度及びNOx濃度を測定し、図1の信号処理部19が次式の演算を行えば、試料大気中のNO濃度及びNO濃度を求めることができる。
NO濃度=NOx濃度−NO濃度
【0021】
このように、オゾン貯蔵容器16はオゾンのバッファとして機能しており、オゾン貯蔵容器16に十分な容量があれば、測定セル・検出部18に導入されるオゾン濃度は平均化されることになる。また、オゾン発生器15を常時動作させて放電させる場合に比べて、測定セル・検出部18に導入されるオゾンの平均濃度は低下するが、オゾン貯蔵容器16の容量や前記パージ時間Tの長さを適宜設定することにより、NO/NOx濃度の測定に支障のない十分なオゾン量を得ることができる。
【0022】
図3は、本実施形態によりオゾン発生器15を間欠的に動作させた場合のノイズ低減効果の検証結果を示すグラフである。
試験方法として、オゾン貯蔵容器16にシリカゲルを約25[ml]充填し、0.9[ppm]のNO標準ガスを試料ガスとして用いた。また、オゾン発生器15を10秒ON→10秒OFF→10秒ON→10秒OFF……というように20秒周期で間欠動作させ、オゾン発生器15をOFFにした後、10秒間の測定セル・検出部18の出力電圧を取得した。
【0023】
図3によれば、オゾン発生器15をOFFにした後は出力電圧が徐々に低下してくるが、OFFした直後の3秒間程度は安定したデータが得られている。これは、シリカゲルに吸着されたオゾンが脱離してくることによる効果と考えられる。
【0024】
上記の点を踏まえて、オゾン発生器15をOFFにした後の3秒間のデータを多数集め、オゾン発生器15を間欠動作させた場合と、オゾン発生器15を常時動作させた場合(図2(e)を参照)とでデータ(出力電圧をA/D変換してカウントした値の平均値)を比較し、同時に上記データのばらつきを変動係数として比較した。
表1は、その比較結果を示している。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から、オゾン発生器15を間欠動作させた場合、オゾン発生器15を常時動作させた場合に比べてオゾン発生量自体が少なくなるため、平均値は約16%低下しているが、データのばらつきを示す変動係数は0.6%→0.5%と小さくなっている。これは、オゾン発生器15の間欠動作によって放電に伴う電気ノイズが低減されたため、より精度の高い測定が行われていることを示すものである。
【0027】
以上のように、本実施形態では、オゾン発生器15を間欠動作させると共に、その放電休止期間中に、バッファとしてのオゾン貯蔵容器16に貯蔵しておいた必要十分量のオゾンを測定セル・検出部18に導入してデータ収集が可能になるため、測定セル・検出部18や信号処理部19に対する電気ノイズの影響を低減して測定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態が適用される化学発光式NOx計の概略的な構成図である。
【図2】本発明の実施形態の動作を示すタイミングチャートである。
【図3】本発明の実施形態によりオゾン発生器を間欠的に動作させた場合のノイズ低減効果の検証結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
11:試料調整部
12:コンバータ
13:電磁弁
14:試料キャピラリー
15:オゾン発生器
16:オゾン貯蔵容器
17:オゾンキャピラリー
18:測定セル・検出部
19:信号処理部
20:ポンプ調圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガスと、無声放電方式のオゾン発生器により発生させたオゾンと、を測定セルに導入し、前記試料ガスとオゾンとを反応させて化学発光を生じさせ、その光強度から前記試料ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度を測定する化学発光式の窒素酸化物測定装置において、
前記オゾン発生器を間欠動作させて放電期間と放電休止期間とを生成し、
前記放電期間に発生させたオゾンを、前記オゾン発生器と前記測定セルとの間に配置したオゾン貯蔵容器に貯蔵すると共に、
前記放電休止期間に、前記オゾン貯蔵容器内のオゾンを前記測定セルに導入して化学発光による測定動作を行わせることを特徴とした窒素酸化物測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載した窒素酸化物測定方法において、
前記窒素酸化物測定装置は、
窒素酸化物を含む第1の試料ガス及び第2の試料ガスが所定周期で交互に導入される単一の測定セルを備え、
前記測定セルにおける第1の試料ガスの測定期間及び第2の試料ガスの測定期間のそれぞれについて、前記オゾン発生器を間欠動作させて放電期間と放電休止期間とを生成することを特徴とした窒素酸化物測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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