説明

窒素酸化物除去用触媒およびその製造方法

【課題】酸素過剰条件下でも触媒特性を維持しながら、還元剤を使用せず、また、貴金属元素も使用しない実用的で安価な窒素酸化物除去用触媒を提供する。
【解決手段】本発明の窒素酸化物除去用触媒は、少なくとも一つの炭素−炭素の二重結合と、炭素−炭素の二重結合を構成している少なくとも一つの炭素原子に結合している窒素原子と、を含むカーボン材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物除去用触媒、この窒素酸化物除去用触媒を製造する方法、この窒素酸化物除去用触媒を有する窒素酸化物除去装置、この窒素酸化物除去用触媒を用いた窒素酸化物を除去する方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼過程において空気中に含まれている窒素(N)と酸素(O)が高温で反応してサーマルNOxとよばれる窒素酸化物が生成する。このNOxの主成分はNOでNOがわずかに含まれる。一般にNOxは火力発電ボイラー、焼結炉、コークス炉や自動車エンジンの燃焼過程から発生し、酸性雨や光化学スモッグなどを引き起こす大気汚染原因物質である。このため1970年代からNOxを低減する技術開発が行われてきた。NOx低減にはNOx生成の少ない燃焼法の開発および排煙中のNOx除去という2つの対策が考えられるが、後者が低減対策の大部分を占める。
【0003】
火力発電所など大型固定発生源、あるいは小型定置式ディーゼルエンジンを用いたコジェネレーション・システムからの排煙中のNOxを除去するための従来技術としては、適当な還元剤を用いた還元がある。これら排煙中のNOx濃度は数100ppmであるが残存酸素は100倍程度の大過剰で存在している。通常この条件下で一酸化炭素(CO)、水素(H)、炭化水素などを還元剤として用いるとNOxは非選択的に還元される。つまり還元剤の大部分は酸素と反応して無駄に消費されることになる。
【0004】
そこで過剰酸素の雰囲気下でもNOxと選択的に反応するアンモニア(NH)が用いられる。NHによる還元は無触媒下でも可能であるが、反応効率を高めるためにTiOをベースにした酸化物、または、Ti−W、Ti−Mo、Ti−V触媒等を用いたNOx選択接触還元が行われる。これらの触媒は式1で示す反応を触媒している。
【0005】
(式1)NO+NH+1/4O → N+3/2H
【0006】
NHを還元剤とするNOx選択接触還元では排ガス温度、NOx除去率、排ガス中の硫黄酸化物濃度などの条件により適切な触媒を選択する必要がある。未反応のNHの排出を抑制するために、NHの注入量を制御する必要があり、小型定置式ディーゼルエンジンなどの装置には適さない。また、NHは劇物に指定されており、その取り扱いに危険を伴う。
【0007】
そこで取り扱いが容易な尿素水溶液を還元剤として用いる方法(特許文献1)や−10℃以下の低温でも固結せず使用できるようにアンモニウム塩と水溶性有機化合物を用いる方法(特許文献2乃至4)が開発されている。これらの手法の問題点として、NHや尿素水溶液等を還元剤として使用するのはコストが高くなることがあげられる。
【0008】
そこで炭化水素または含酸素有機化合物とNOxの反応が共存酸素によって促進されることを利用したNOx選択還元能をもつゼオライト系、金属酸化物系、貴金属系触媒も存在する(特許文献5、6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平02−218418号公報
【特許文献2】特開2003−269141号公報
【特許文献3】特開2008−49258号公報
【特許文献4】特開2002−001066号公報
【特許文献5】特開平01−130735号公報
【特許文献6】特開平07−313885号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.phys.Chem.B,2006,110,1787−1793
【非特許文献2】J.phys.Chem.C,112,38,2008,14706−14709
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、排煙中のNOxを除去する最も理想的な方法は、式2で示されるような還元剤を使用しないNOの接触分解である。
【0012】
(式2)2NO → N+O
【0013】
この反応は86.6kJ/molの発熱となり、化学平衡の観点からは低温で進行する方が有利となる。このような方法としてこれまでCu/ZSM−5などの触媒が提案されているが酸素共存雰囲気下では活性が低下するという実用上の問題があった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、酸素過剰条件下でも触媒特性を維持しながら、還元剤を使用せず、また、貴金属元素も使用しない実用的で安価な窒素酸化物除去用触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、少なくとも一つの炭素−炭素の二重結合と、前記炭素−炭素の二重結合を構成している少なくとも一つの炭素原子に結合している窒素原子と、を含むカーボン材料からなる、窒素酸化物除去用触媒が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、少なくとも一つの炭素−炭素の二重結合と前記炭素−炭素の二重結合を構成している少なくとも一つの炭素原子に結合している前記窒素原子とを含む有機化合物、及び、カーボンの混合物を加熱する工程を含む、窒素酸化物除去用触媒の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、上記の窒素酸化物除去用触媒を有する、窒素酸化物除去装置が提供される。
【0018】
さらに、本発明によれば、上記の窒素酸化物除去用触媒を用いて、窒素酸化物と酸素ガスとを含む混合ガスから窒素酸化物を除去する方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、酸素過剰条件下でも触媒特性を維持しながら、還元剤を使用せず、また、貴金属元素も使用しない実用的で安価な窒素酸化物除去用触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態に係る窒素酸化物除去用触媒のモデル原子構造図である。
【図2】実施の形態に係る窒素酸化物除去用触媒を用いた窒素酸化物の分解メカニズムを示す模式図である。
【図3】分子軌道法計算(B3LYP/6−31G(d,p))で得られた、実施の形態に係る窒素酸化物除去用触媒の中間体の構造図である。
【図4】分子軌道法計算(B3LYP/6−31G(d,p))で得られた、実施の形態に係る窒素酸化物除去用触媒による接触還元反応の反応経路に沿ったエネルギープロファイルを示す図である。
【図5】ピリミジン、ピラジン及び2,2'−ビピリジンの構造式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0022】
本実施形態の窒素酸化物除去用触媒は、少なくとも一つの炭素−炭素の二重結合と、炭素−炭素の二重結合を構成している少なくとも一つの炭素原子に結合している窒素原子と、を含むカーボン材料からなる。このカーボン材料はsp混成状態の炭素原子を含み、sp混成状態の炭素原子が窒素原子と結合している。カーボン材料中にsp混成状態の炭素原子が含んでいてもよいが、主な炭素原子がsp混成状態の炭素原子であるとより好ましい。
【0023】
本実施形態のカーボン材料は、グラファイト状構造からなるとさらに好ましい。グラファイト状構造とは、炭素原子がsp混成状態の平面構造からなりC面でへき開性を示す結晶構造をいう。本実施形態のカーボン材料の層間距離(d)は、たとえば、0.3〜1nmとすることができる。具体的には、グラファイト状構造を有するカーボン材料として、粒子状カーボン、繊維状カーボン、カーボンナノチューブやその誘導体、フラーレンやその誘導体を例示することができる。
【0024】
本実施形態のカーボン材料の例を図1に示す。図1(a)は、炭素−炭素の二重結合を形成している第一、第二の炭素原子と、第一の炭素原子に結合している第一の窒素原子と、第二の炭素原子に結合している第二の窒素原子と、を含むカーボン材料を示す(モデルA)。図1(b)は、第一の炭素原子に結合している第一、第三の窒素原子と、第二の炭素原子に結合している第二、第四の窒素原子と、を含むカーボン材料を示す(モデルB)。図1で示すカーボン材料を用いた窒素酸化物の接触還元反応のメカニズムについては後述する。
【0025】
つづいて、窒素酸化物除去用触媒の製造方法について説明する。まず、カーボン試料を用意する。カーボン試料としては、ファーネスブラック、 チャンネルブラック、 アセチレンブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類やカーボンナノチューブやその誘導体、フラーレンやその誘導体を用いることができる。カーボン試料から金属不純物を除去すると、金属吸着部位からのカーボン試料の腐食を防ぐことができるため好ましい。カーボン試料から金属不純物を除去する方法としては、たとえば非特許文献1に記載された方法を用いることができる。
【0026】
ついで、用意したカーボン試料に窒素原子を含む有機化合物を添加し、混合した後加熱する。窒素原子を含む有機化合物は、少なくとも1個の炭素−炭素の二重結合と、炭素−炭素の二重結合を構成している少なくとも一つの炭素原子に結合している窒素原子と、を含むものを用いることができる。具体的には、複素芳香族化合物を用いると好ましく、たとえば、ビピリジンの6つの異性体(2,2'−ビピリジン、3,3'−ビピリジン、4,4'−ビピリジン、2,3'−ビピリジン、2,4'−ビピリジン、3,4'−ビピリジン)、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、プリン、グアニン、シトシン、アデニン、チミン、ウラシル、インジゴ、2−ピリジルアミン等を用いることができる。
【0027】
このとき、調製したカーボン試料及び窒素原子を含む有機化合物は、溶媒に溶解してもよい。溶媒としては、カーボン試料及び窒素原子を含む有機化合物が溶解できるものであればよいが、たとえば、エタノール等のアルコール、トルエン、アセトニトリル等を用いることができる。
【0028】
加熱する温度は、50〜82℃とすると好ましく、加熱環流すると窒素原子を含む有機化合物のカーボン試料への吸着をより好適に達成することができる。
【0029】
ついで、加熱後の混合物を焼成し、粉状のカーボン材料からなる触媒(触媒粉体)を得る。焼成の条件は、400〜600℃とすると好ましいカーボン材料への窒素原子の導入を達成できる。こうすることで、炭素−炭素二重結合を構成する炭素原子に窒素原子を結合したグラファイト状構造を有するカーボン材料を作製することができる。
【0030】
このようにして得られたカーボン材料からなる触媒粉体は、粉末や粒状物のような種々の形態を有する。そこで、例えば、従来からよく知られている任意の方法によって、ハニカム、環状物、球状物等のような種々の形状の触媒構造体を作成できる。また、このような触媒構造体の作成に際して、必要に応じて、適当な添加物、例えば、成形助剤、補強剤、無機繊維、有機バインダー等を用いることができる。
【0031】
触媒粉体は、スラリーとし、任意の形状の支持用の不活性な基材の表面に、例えばウオッシュ・コート法により塗布して、触媒層を有する触媒構造体として用いることが有利である。上記不活性な基材は、例えば、コージーライトのような粘土好物や、また、ステンレス鋼のような金属からなるものであってよく、また、その形状は、ハニカム、環状、球状構造等であってよい。
【0032】
このように製造した窒素酸化物除去用触媒を用いることで、窒素酸化物と酸素ガスとを含む混合ガスから窒素酸化物を除去することができる。この混合ガスは、窒素酸化物に対し、体積比で100倍以上の酸素ガスを含んでいてもよいし、さらに水や硫黄酸化物を含んでいてもよい。混合ガスとして、火力発電ボイラー、焼結炉、コークス炉や自動車エンジンの燃焼過程から発生した標準的な排ガスを用いることもできる。
【0033】
本実施形態の窒素酸化物除去用触媒の存在下、上記混合ガスを加熱することで、混合ガス中の窒素酸化物は、接触還元反応を起こし、上記式(2)で示すように、窒素及び酸素に分解する。この接触還元反応の好適な反応温度は、混合ガスの組成にもよるが、長期間にわたって有効な窒素酸化物還元特性を有するように、通常150〜350℃の範囲であり、好ましくは、200〜300℃の範囲である。このような反応温度において、混合ガスは、好ましくは、5000〜50000hr−1の範囲の空間速度で処理される。
【0034】
つづいて、本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態によれば、窒素原子を含んだカーボン材料を触媒として、排気ガス中の窒素酸化物を除去する。これにより、酸素過剰条件下でも触媒特性を維持し、窒素酸化物を接触還元反応により窒素及び酸素に分解することができる。この接触還元反応には、還元剤を使用せず、また、貴金属元素も使用しない。したがって、実用的で安価な窒素酸化物除去用触媒を提供することができる。
【0035】
この窒素酸化物除去用触媒を用いた窒素酸化物の接触還元反応メカニズムについて詳細に説明する。グラファイトに窒素をドープすることによって、未ドープの試料よりも酸素還元特性が向上することが実験的研究(非特許文献1)および理論的研究(非特許文献2)によって示されている。
【0036】
本発明者は、上記知見を元に、酸素還元能を持つ触媒は窒素酸化物に対しても還元能を持つことを期待した。そこで、B3LYP/6−31G(d,p)レベルの非経験的分子軌道法計算に基づき、以下のことを明らかにした。
【0037】
グラファイトに窒素をドープした場合、炭素−窒素結合において電気陰性度の小さな炭素原子から電気陰性度の大きな窒素原子への電荷移動が生じることがわかった。この場合窒素原子はδに、隣接した炭素原子はδに分極していた。グラファイトシートで窒素を炭素置換位置にドープしたモデルの場合、炭素に隣接している窒素原子数をMとすると、この炭素の電荷はδ=0.24×Mの関係があった。従って、この炭素ではπ電子密度が減少しており、窒素酸化物分子の孤立電子対とグラファイトのπ電子間に働くクーロン力に起因する反発力が低下するために窒素酸化物分子がグラファイト表面に吸着しやすくなることが考えられた。
【0038】
窒素酸化物分子の吸着構造として、排ガス中で最も存在量が多く重要な一酸化窒素(NO)の場合で考えると、NO分子軸が2つの表面炭素原子に対して平行なサイド・オン型とNO分子軸が1つの表面炭素原子に対して垂直なエンド・オン型が考えられた。前者の構造はN−CとO−Cの2本の化学結合を形成するので、1本の化学結合を形成する後者の構造よりも安定であると考えられる。サイド・オン型で分子吸着可能な構造として、グラファイトの1本のC=C結合に隣接した原子サイトのうち2個(モデルA:図1)あるいは4個(モデルB:図1)を炭素原子から窒素原子へ置換した2つのモデルを考えた。これらのモデルと窒素をドープしないモデルに対して、NOが分子状態を保持して化学吸着する場合(中間体A:図2)に関して非経験的分子軌道法計算による全エネルギー計算を行った。NO分子の吸着は窒素を未ドープのグラファイトに対しては2.21eVの吸熱反応となった。一方、モデルAは1.63eVの吸熱反応でモデルBは0.08eVの吸熱反応となった。この結果は窒素置換数が増加するにつれてNO分子の吸着反応が熱力学的に起こりやすくなる方向へと移動することを示している。また、吸着時の結合長はモデルAの場合、N−O=1.38Å,N−C=1.50Å,O−C=1.53Å,モデルBの場合、N−O=1.38Å,N−C=1.51Å,O−C=1.53ÅとなってどちらのモデルにおいてもNOが分子状態を保持したまま化学吸着していることが分かる。
【0039】
さらに非経験的分子軌道法により還元反応経路は以下のように計算された。分子状吸着したNO(中間体A:図2)に対して別のNO分子が攻撃して中間体B(図2)を作る。これは準安定状態であり表面上で異性化反応が生じてより安定な中間体C(図2)となる。ここで触媒表面からNが脱離すると中間体D(図2)となる。さらに表面からOが脱離すると触媒は元の状態に戻り2NO→N+Oの触媒反応サイクルが完了する。
【0040】
モデルBの場合で非経験的分子軌道法により得られた中間体A−Dの原子構造を図3に示す(モデルAの場合もほぼ同様の構造となる)。さらに、この反応経路に沿った場合の始状態と終状態および中間体A−Dのエネルギープロファイルを図4に示す。モデルAの場合、最初のNO吸着反応の吸熱量が150kJ/molと大きな値となり、これが律速段階であると考えられる。しかし、2番目以降の反応は全て発熱反応となるので、中間体Aは次段の反応によりすみやかに消費されて、NO吸着反応の化学平衡は生成系へ移動する。一方、モデルBでは最後のO脱離反応が91kJ/molの吸熱反応となるが、この値は上記モデルAでの律速段階とみられる吸熱量(150kJ/mol)よりも小さいのでモデルBの方がモデルAより速く反応が進行すると考えられる。
【0041】
ところで、モデルAやBのような構造を作成するためには窒素原子の位置を制御する必要がある。非特許文献1のようにアンモニアを使用してグラファイトへ窒素をドープするとドープされる窒素原子間に位置の相関関係はなくランダムにドープされる。従って、モデルAやBのような構造を生じる確率は低い。そこで、あらかじめモデルAやBの部分構造を持つ、2個以上の窒素を含んだ複素芳香族化合物を利用することを考える。例えば、ピリミジン(図5)は6員環にC−N−CというモデルBにおいて特徴的な部分構造をもっている。また、ピラジンや2,2'−ビピリジンはN−C−C−NというモデルAにおいて特徴的な部分構造をもっている。
【0042】
2個以上の窒素を含んだ複素芳香族化合物とカーボンとを混合させて得られる窒素を含むカーボン材料では、以下の2つの作用効果があると考えられる。1つ目は上述のようにNC−CNの部分構造によりNOx分子の吸着確率を高めることで窒素酸化物の還元反応を起こりやすくすることができる。2つ目は、窒素原子がspの2重結合性をもつπ電子共役系に組み込まれているために化学的安定性が高く、触媒の耐久性向上に寄与することができる。
【0043】
このように、本実施形態の窒素酸化物還元触媒では、窒素原子を含んだ有機化合物及びカーボンを混合、加熱、焼成することで、窒素原子を含むグラファイト状物質を作製することができる。これにより、触媒活性と耐久性を両立し、アンモニアなどの還元剤を添加することなく、窒素還元反応温度においても安定的に動作することができ、熱および硫黄酸化物に対する抵抗性にすぐれている。したがって、本実施形態の触媒によれば、排ガス中に含まれる窒素酸化物を窒素に還元するための触媒として好適に用いることができる。
【0044】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。本発明は、たとえば、上記の実施形態で示した窒素酸化物除去用触媒を有する、窒素酸化物除去装置であってもよい。上記実施形態の窒素酸化物除去用触媒は、還元剤を必要とせず、また、触媒活性部位に高価で希少な金属元素を使用しない。したがって、経済的でかつ小型化可能な窒素酸化物除去装置を実現することができる。
【実施例】
【0045】
以下に触媒粉体の製造例とこれを用いた触媒構造体による窒素酸化物還元性能を実施例としてあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。また以下において、すべての「%」は明示がない限り、重量%を表す。
【0046】
1.窒素含有グラファイト状カーボン触媒粉体の作成
(製造例1)
まず、金属不純物を取り除くためカーボンブラック(Ketjen Black EC 300J)を6MHClで24時間の予備洗浄を2回行った。その後、試料中の塩化物不純物を蒸留水で洗浄することによって除去した。次に、この試料を70%のHNOで10時間還流した。その後、蒸留水で試料を洗浄し、80度で乾燥させた。
【0047】
(製造例2)
製造例1で得られた試料1gに対しピリミジン1g(和光純薬工業(株)純度99%)を加えてエタノール中で5時間還流後、真空中、500℃で、3時間焼成してピリミジン含有グラファイト状カーボン試料を得た。得られたカーボン試料を透過型電子顕微鏡(TEM)、X線光電子分光(XPS)、赤外吸収分光(IR)により構造解析を行った。まず、TEM観察によりカーボン試料がグラファイト状構造を含むことを確認した。また、N1sのXPS測定結果からグラファイト状カーボンへの窒素含有が確認された。このカーボン試料の層間距離(d)は、4nmであった。さらに、IR測定結果から1600−1700cm−1にC=C−N伸縮振動に由来する赤外吸収を確認した。これらの結果は窒素含有グラファイト状カーボン試料においてC=C−Nというピリミジン由来の部分構造が保存されるものがあることを示している。この試料に適量のイオン交換水を加えて攪拌し、さらにγ‐アルミナ(住友化学(株)製KC‐503)30gを投入して磁気攪拌子で攪拌した。ろ過後、100℃で乾燥させた後、窒素雰囲気下400℃で焼成して、カーボン3%、ピリミジン3%をγ‐アルミナに担持させた触媒粉体を得た。
【0048】
(製造例3)
製造例1で得られた試料1gに対しピリダジン1g(和光純薬工業(株))を加えてエタノール中で5時間還流後、真空中、500℃で、3時間焼成してピリダジン含有グラファイト状カーボン試料を得た。得られたカーボン試料を透過型電子顕微鏡(TEM)、X線光電子分光(XPS)、赤外吸収分光(IR)により構造解析を行った。まず、TEM観察によりカーボン試料がグラファイト状構造を含むことを確認した。また、N1sのXPS測定結果からグラファイト状カーボンへの窒素含有が確認された。このカーボン試料の層間距離(d)は、3.5nmであった。さらに、IR測定結果から1550−1600cm−1にN=N伸縮振動に由来する赤外吸収を確認した。これらの結果は窒素含有グラファイト状カーボン試料においてN=Nというピリダジン由来の部分構造が保存されるものがあることを示している。この試料に適量のイオン交換水を加えて攪拌し、さらにγ‐アルミナ(住友化学(株)製KC‐503)30gを投入して磁気攪拌子で攪拌した。ろ過後、100℃で乾燥させた後、窒素雰囲気下400℃で焼成して、カーボン3%、ピリダジン3%をγ‐アルミナに担持させた触媒粉体を得た。
【0049】
(製造例4)
製造例1で得られたカーボン試料1gに対しピラジン1g(和光純薬工業(株))を加えてエタノール中で5時間還流後、真空中、500℃で、3時間焼成してピラジン含有グラファイト状カーボン試料を得た。得られたカーボン試料を透過型電子顕微鏡(TEM)、X線光電子分光(XPS)、赤外吸収分光(IR)により構造解析を行った。まず、TEM観察によりカーボン試料がグラファイト状構造を含むことを確認した。また、N1sのXPS測定結果からグラファイト状カーボンへの窒素含有が確認された。このカーボン試料の層間距離(d)は、4nmであった。さらに、IR測定結果から1750−1800cm−1にN−C=C−Nに由来する赤外吸収を確認した。これらの結果は窒素含有グラファイト状カーボン試料においてN−C=C−Nというピラジン由来の部分構造が保存されるものがあることを示している。この試料に適量のイオン交換水を加えて攪拌し、さらにγ‐アルミナ(住友化学(株)製KC‐503)30gを投入して磁気攪拌子で攪拌した。ろ過後、100℃で乾燥させた後、窒素雰囲気下400℃で焼成して、カーボン3%、ピラジン3%をγ‐アルミナに担持させた触媒粉体を得た。
【0050】
(製造例5)
製造例1で得られたカーボン試料1gに対しプリン1g(和光純薬工業(株))を加えてエタノール中で5時間還流後、真空中、500℃で、3時間焼成してプリン含有グラファイト状カーボン試料を得た。得られたカーボン試料を透過型電子顕微鏡(TEM)、X線光電子分光(XPS)、赤外吸収分光(IR)により構造解析を行った。まず、TEM観察によりカーボン試料がグラファイト状構造を含むことを確認した。また、N1sのXPS測定結果からグラファイト状カーボンへの窒素含有が確認された。このカーボン試料の層間距離(d)は、4nmであった。さらに、IR測定結果から1600−1700cm−1にC=C−N伸縮振動に由来する赤外吸収を確認した。これらの結果は窒素含有グラファイト状カーボン試料においてC=C−Nというプリン由来の部分構造が保存されるものがあることを示している。この試料に適量のイオン交換水を加えて攪拌し、さらにγ‐アルミナ(住友化学(株)製KC‐503)30gを投入して磁気攪拌子で攪拌した。ろ過後、100℃で乾燥させた後、窒素雰囲気下400℃で焼成して、カーボン3%、プリン3%をγ‐アルミナに担持させた触媒粉体を得た。
【0051】
(製造例6)
製造例1のカーボン試料2gを加えてエタノール中で5時間還流後、真空中、500℃で、3時間焼成してグラファイト状カーボン試料を得た。得られたカーボン試料を透過型電子顕微鏡(TEM)、X線光電子分光(XPS)により構造解析を行った。まず、TEM観察によりカーボン試料がグラファイト状構造を含むことを確認した。一方、N1sのXPS測定結果からグラファイト状カーボンへの窒素含有が確認されなかった。このカーボン試料の層間距離(d)は、3.5nmであった。この試料に適量のイオン交換水を加えて攪拌し、さらにγ‐アルミナ(住友化学(株)製KC‐503)30gを投入して磁気攪拌子で攪拌した。ろ過後、100℃で乾燥させた後、窒素雰囲気下400℃で焼成して、窒素未ドープのカーボン6%をγ‐アルミナに担持させた触媒粉体を得た。
【0052】
(2)ハニカム触媒構造体の作成
(実施例1)
製造例2で得た触媒粉体15gと適量の水を混合した。ジルコニアボール数gを粉砕媒体として用い、手で振動させて凝集している粉体をほぐしてウオッシュ・コート用スラリーを得た。1平方インチあたりセル数400のコージーライトハニカム基体に上記ウオッシュ・コート用スラリーを塗布して、乾燥させた後に窒素雰囲気下400℃で3時間焼成して、ハニカム基体1Lあたり製造例2で得られた触媒粉体90gを担持したハニカム触媒構造体を得た。
【0053】
(実施例2)
製造例3で得た触媒粉体15gと適量の水を混合した。ジルコニアボール数gを粉砕媒体として用い、手で振動させて凝集している粉体をほぐしてウオッシュ・コート用スラリーを得た。1平方インチあたりセル数400のコージーライトハニカム基体に上記ウオッシュ・コート用スラリーを塗布して、乾燥させた後に窒素雰囲気下400℃で3時間焼成して、ハニカム基体1Lあたり製造例3で得られた触媒粉体90gを担持したハニカム触媒構造体を得た。
【0054】
(実施例3)
製造例4で得た触媒粉体15gと適量の水を混合した。ジルコニアボール数gを粉砕媒体として用い、手で振動させて凝集している粉体をほぐしてウオッシュ・コート用スラリーを得た。1平方インチあたりセル数400のコージーライトハニカム基体に上記ウオッシュ・コート用スラリーを塗布して、乾燥させた後に窒素雰囲気下400℃で3時間焼成して、ハニカム基体1Lあたり製造例4で得られた触媒粉体90gを担持したハニカム触媒構造体を得た。
【0055】
(実施例4)
製造例5で得た触媒粉体15gと適量の水を混合した。ジルコニアボール数gを粉砕媒体として用い、手で振動させて凝集している粉体をほぐしてウオッシュ・コート用スラリーを得た。1平方インチあたりセル数400のコージーライトハニカム基体に上記ウオッシュ・コート用スラリーを塗布して、乾燥させた後に窒素雰囲気下400℃で3時間焼成して、ハニカム基体1Lあたり製造例5で得られた触媒粉体90gを担持したハニカム触媒構造体を得た。
【0056】
(比較例)
製造例6で得た触媒粉体15gと適量の水を混合した。ジルコニアボール数gを粉砕媒体として用い、手で振動させて凝集している粉体をほぐしてウオッシュ・コート用スラリーを得た。1平方インチあたりセル数400のコージーライトハニカム基体に上記ウオッシュ・コート用スラリーを塗布して、乾燥させた後に窒素雰囲気下400℃で3時間焼成して、ハニカム基体1Lあたり製造例6で得られた触媒粉体90gを担持したハニカム触媒構造体を得た。
【0057】
(3)性能試験
上記実施例と比較例による触媒構造体を用いて、窒素酸化物を含む混合ガスを温度150℃、200℃、250℃および300℃、空間速度25000hr−1の条件下にて還元した。また、各実施例における窒素酸化物から窒素への変換率(除去率)はFTIRガス分析計を用いて濃度分析を行い求めた。
【0058】
用いた混合ガスの組成及び結果を表1に示す。表1から明らかなように本発明による触媒は窒素酸化物の除去率が高い。これに対して比較例による触媒は低い除去率に留まっている。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの炭素−炭素の二重結合と、
前記炭素−炭素の二重結合を構成している少なくとも一つの炭素原子に結合している窒素原子と、
を含むカーボン材料からなる、窒素酸化物除去用触媒。
【請求項2】
前記カーボン材料がグラファイト状構造を有する、請求項1に記載の窒素酸化物除去用触媒。
【請求項3】
前記炭素−炭素の二重結合を構成している第一、第二の炭素原子と、
前記第一の炭素原子に結合している第一の窒素原子と、
前記第二の炭素原子に結合している第二の窒素原子と、
を含む、請求項1または2に記載の窒素酸化物除去用触媒。
【請求項4】
前記第一の炭素原子に結合している第三の窒素原子と、
前記第二の炭素原子に結合している第四の窒素原子と、
をさらに含む、請求項3に記載の窒素酸化物除去用触媒。
【請求項5】
前記カーボン材料は、窒素原子を含む有機化合物及びカーボンの混合物を加熱して生成される、請求項1乃至4いずれかに記載の窒素酸化物除去用触媒。
【請求項6】
前記有機化合物が、
少なくとも一つの炭素−炭素の二重結合と、
前記炭素−炭素の二重結合を構成している少なくとも一つの炭素原子に結合している窒素原子と、
を含む、請求項5に記載の窒素酸化物除去用触媒。
【請求項7】
前記窒素原子を含む有機化合物が複素芳香族化合物である、請求項5または6に記載の窒素酸化物除去用触媒。
【請求項8】
前記複素芳香族化合物がピリミジン、ピリダジン、ピラジン、プリンおよびビピリジンからなる群から選択される、請求項5乃至7いずれかに記載の窒素酸化物除去用触媒。
【請求項9】
ハニカム構造を有する、請求項1乃至8いずれかに記載の窒素酸化物除去用触媒。
【請求項10】
少なくとも一つの炭素−炭素の二重結合と前記炭素−炭素の二重結合を構成している少なくとも一つの炭素原子に結合している前記窒素原子とを含む有機化合物、及び、カーボンの混合物を加熱する工程を含む、窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
【請求項11】
前記有機化合物及び前記カーボンの混合物を加熱する前記工程は、前記有機化合物及び前記カーボンの混合物を焼成する工程を含む、請求項10に記載の窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
【請求項12】
前記有機化合物が複素芳香族化合物である、請求項10または11に記載の窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
【請求項13】
前記複素芳香族化合物がピリミジン、ピリダジン、ピラジン、プリンおよびビピリジンからなる群から選択される、請求項12に記載の窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至9いずれかに記載の窒素酸化物除去用触媒を有する、窒素酸化物除去装置。
【請求項15】
請求項1乃至9いずれかに記載の窒素酸化物除去用触媒を用いて、窒素酸化物と酸素ガスとを含む混合ガスから窒素酸化物を除去する方法。
【請求項16】
前記混合ガスは、前記窒素酸化物に対し、体積比で100倍以上の酸素ガスを含む、請求項15に記載の方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−247030(P2010−247030A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97348(P2009−97348)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】