説明

窓用ガラス積層体

【課題】斜め方向も含めて赤味の反射色調が低減し、且つ近赤外域の反射率の向上がなされた窓用ガラス積層体を提供することを課題とする。
【解決手段】ガラス基材と、該ガラス基材上に形成される薄膜積層体とからなり、該薄膜積層体は、ガラス基材側から順次、誘電体からなる第1層、Agを主成分とする金属からなる第2層、誘電体からなる第3層、Agを主成分とする金属からなる第4層、そして、誘電体からなる第5層を有し、第2層と第4層の幾何学的厚さの総和が22〜29nm、第2層の幾何学的厚さが第4層の幾何学的厚さの0.3〜0.8倍であり、第1、3、5層の光学的厚さの総和が220〜380nm、第3層の光学的厚さが140〜200nm、第1層の光学的厚みが第5層の光学的厚さの0.4〜1.5倍とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基材と該ガラス基材上に形成される積層膜と有する窓用ガラス積層体、特にはLow−E(低放射)ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
複層ガラス等の窓ガラスの断熱性の向上を目的として、複層ガラスの少なくとも一面にガラス積層体を使用し、該ガラス積層体の低放射性の積層膜を配置してなるものが普及しつつある。
【0003】
上記複層ガラスのうち、北海道などの寒冷地ほどの室内の暖房を必要としない地域で用いられる窓ガラスでは、太陽光による室内雰囲気の温度上昇の抑制と、室外から室内への熱流入の遮断とを行うこと、すなわち窓ガラスに遮熱性を付与することで、冷房効率を向上させることが求められている。
【0004】
低放射性の積層膜が形成された窓用ガラス積層体は、ガラス基材上に順次、金属酸化物からなる第1層、Agを主成分とする第2層、金属酸化物からなる第3層、Agを主成分とする第4層、そして、金属酸化物からなる第5層を積層してなるものが使用されるようになっていきている。
【0005】
特許文献1は、前記第1層の光学的厚さを32nm〜41nm、第2層の幾何学的厚さを6nm〜9nm、第3層の光学的厚さを113nm〜145nm、第4層の幾何学的厚さを8nm〜12nm、第5層の光学的厚さを45nm〜60nmとする積層膜とする等として、ガラス基材側からの反射色調が入射角度を変えても変化が小さく、遮熱性能にも優れた窓用ガラス積層体としている。
【0006】
また、特許文献2は、第1層の膜厚を第3層の膜厚の0.45〜0.9倍とする等してガラス積層体を斜めからみたときの反射色調の赤味を低減させている。
【特許文献1】特開11−34216号公報
【特許文献2】特開2004−58592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
冷房効率の向上などの省エネルギー化のために窓用ガラス積層体には、低放射性だけでなく、さらなる遮熱性の向上が求められている。Agを主成分とする金属層の厚みを厚くすれば、近赤外域の反射率が上がり、遮熱性の向上を図ることができる。しかしながら、金属層を単に厚くするだけでは、ガラス積層体の可視光透過率が低下することになる。従って、ガラス基材上に順次、誘電体からなる第1層、Agを主成分とする金属からなる第2層、誘電体からなる第3層、Agを主成分とする金属からなる第4層、そして、誘電体からなる第5層を積層する積層膜のように金属層を2層として、光の干渉効果を利用することで可視光透過率の調整が図られている。
【0008】
積層膜の遮熱性、すなわち近赤外域の反射率を向上させればさせる程、可視領域と近赤外領域との境界域である700nm付近の反射率に影響が及び、ガラス積層体の反射色調が赤味を帯びるようになり、特に斜め方向の反射色調が赤味を帯びやすくなる。ビルや住宅の窓に該積層体を利用する場合、これら用途では穏やか外観色調が好まれていることから、反射色調が赤味を帯びることは回避されることが好ましい。社会的要請に応えるべく、ガラス積層体の反射色調が赤味を帯びないようにすることと、近赤外域の反射率の向上、すなわち、Agを主成分とする金属層の総厚みを厚くすることには二律相反の関係が生じていると言えるものであった。
【0009】
本発明は、以上を考慮し、前記の二律相反の関係を克服し、斜め方向も含めて赤味の反射色調が低減し、且つ近赤外域の反射率の向上がなされた窓用ガラス積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の窓用ガラス積層体は、ガラス基材と、該ガラス基材上に形成される薄膜積層体とからなり、該薄膜積層体は、ガラス基材側から順次、誘電体からなる第1層、Agを主成分とする金属からなる第2層、誘電体からなる第3層、Agを主成分とする金属からなる第4層、そして、誘電体からなる第5層を有し、第2層と第4層の幾何学的厚さの総和が22〜29nm、好ましくは24〜29nm、第2層の幾何学的厚さが第4層の幾何学的厚さの0.3〜0.8倍、好ましくは0.5〜0.7倍であり、第1、3、5層の光学的厚さの総和が220〜380nm、好ましくは260〜360nm、第5層の光学的厚さが140〜200nm、好ましくは160〜190nm、第1層の光学的厚みが第5層の光学的厚さの0.4〜1.5倍、好ましくは0.8〜1.4倍であり、ガラス基材側からの反射色調が、入射角が0°〜60°の範囲にて、CIE L*a*b*色度座標図におけるa*が3未満であることを特徴とする。
【0011】
本発明の課題を解決するためには、第2層及び第4層の構成が重要となりうる。第2層と第4層との幾何学的厚さの総和22nm未満では、太陽光線の中で、熱作用の大きい近赤外域、例えば750〜2000nmの光波長域、特には可視領域に近く放射エネルギー強度が特に大きな750〜1000nmの光波長域での反射率の向上の効果が小さくなる。
【0012】
膜面方向からの反射率でみると、例えば光波長750nmでは、幾何学的厚さの総和が20nm程度である場合、20〜25%となるのに対し、総和が25nm程度である場合、40〜60%と、2〜3倍の大きな差が生じることが認められる。
【0013】
他方、29nm超では、可視光透過率の低下が生じやすく、ガラス積層体での可視光透過率を70%以上とすることが難しくなる。
【0014】
そしてさらに、第2層の幾何学的厚さを第4層の幾何学的厚さの0.3〜0.8倍とすることで、ガラス基材側からの反射色調を、入射角が0°〜60°の範囲にて、CIE L*a*b*色度座標図におけるa*を3未満とせしめやすくする。該a*を3未満とすることで、反射色調において赤味がかった色味を正面視(入射角が0°近傍に相当)だけでなく、斜め方向(入射角が最大で60°までを考慮)からをも低減させ、穏やか外観色調を有する窓ガラスを提供することが可能となる。
【0015】
第2層の幾何学的厚さが第4層の幾何学的厚さの0.3倍未満の場合、第4層の幾何学的厚みを厚いものとせざるを得ず、ガラス積層体の可視光透過率が低いものとなりやすい他、反射色調において、正面視においてさえも赤味がかった色調を呈しやすくなる。0.8倍超であれば、斜め方向からの反射色調が、赤味がかった色調を呈しやすくなる。
【0016】
また、本発明では、第1、3、5層の光学的厚さの総和が220〜380nmとされ、第3層の光学的厚さが140〜200nmとされることが好ましい。第3層の光学的厚さが140nm未満の場合、正面視における反射色調が、赤味がかった色調を呈しやすくなる。他方、200nm超の場合、ガラス積層体の可視光透過率が低いものとなりやすい。
【0017】
さらには、第1層の光学的厚みが第5層の光学的厚さの0.4〜1.5倍とされることが好ましい。0.4倍未満の場合、第2層の金属からなる層の結晶性が低いものとなりやすい他、可視光透過率が低いものとなりやすい。他方、1.5倍超の場合、正面視においてさえも反射色調が、赤味がかった色調を呈しやすくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガラス積層体は、低放射性に優れるだけでなく、近赤外域の反射率の向上が図られているので、該積層体を窓ガラスに使用すること室内の冷暖房効率の向上が図れ、省エネルギー化に奏功する。また、正面から斜め方向にわたってガラス積層体の反射色調が赤味を帯びたものではないので、窓ガラスには穏やか外観色調が好まれているという社会的要請に応えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の窓用ガラス積層体は、ガラス基材と、該ガラス基材上に形成される薄膜積層体とからなり、該薄膜積層体は、ガラス基材側から順次、誘電体からなる第1層、Agを主成分とする金属からなる第2層、誘電体からなる第3層、Agを主成分とする金属からなる第4層、そして、誘電体からなる第5層を有し、該薄膜積層体は、スパッタリング法等の蒸着プロセスを用いて形成されることが好ましい。
【0020】
前記ガラス基材は、特に限定されるものではないが、例えば、建築物用窓ガラスや通常使用されているフロ−ト板ガラス、又はロ−ルアウト法で製造されたソーダ石灰ガラス等無機質の透明性がある板ガラスを使用できる。当該板ガラスには、クリアガラス、高透過ガラス等の無色のもの、熱線吸収ガラス等の緑等に着色されたもの共に使用可能で、ガラスの形状等に特に限定されるものではなが、可視光透過率を考慮すると、クリアガラス、高透過ガラス等の無色ガラスを使用することが好ましい。また、平板ガラス、曲げ板ガラスはもちろん風冷強化ガラス、化学強化ガラス等の各種強化ガラスの他に網入りガラスも使用できる。さらには、ホウケイ酸塩ガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス、低膨張結晶化ガラス、ゼロ膨張結晶化ガラス等の各種ガラス基材を用いることができる。
【0021】
本発明の積層体では、誘電体からなる第1、3、5層は、同じ組成からなる層であってもよいし、異なる組成からなる層であってもよい。また、第1、3、5層のそれぞれは、全体を単一の組成からなる層で構成されてもよいし、複数の異なる組成からなる層が積層されたものであってもよい。
【0022】
そして、誘電体からなる第1、3、5層は、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化タンタル、酸化錫、酸化ジルコニウム、亜鉛−錫合金の酸化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化窒化ケイ素、酸化窒化アルミニウム、酸化窒化チタン、酸化窒化ジルコニウム、酸化窒化錫からなる群が選ばれる少なくとも一つの誘電体からなる層を含むことが好ましい。
【0023】
また、Agを主成分とする第2層及び第4層は、Agからなるものとしてもよいし、Pd、Au、Pt、Niなどの金属を5質量%まで含むものとしてよい。そして、Agを主成分とする層は、ガラス基材側が陽イオン金属の主成分をZnとする酸化物層と接していることが好ましい。
【0024】
陽イオン金属の主成分をZnとする酸化物層は、Agを主成分とする金属層の結晶性を良好なものとしやすい。陽イオン金属の主成分をZnとする酸化物は、酸化亜鉛としてもよいし、Sn、Al、Ti、Si、Cr、Mg、Gaから選ばれる少なくとも1つの金属を含むものとしてもよく、この場合、これら金属は、Znの原子数に対して0.4倍まで含有させてもよい。
【0025】
また、Agを主成分とする金属層の結晶性を良好なものとしやするとの観点からは、陽イオン金属の主成分をZnとする酸化物は、CuKα線を用いたX線回折法にて、酸化亜鉛の(002)結晶面によるによる回折ピークを示し、該ピークの回折角度2θが33.9°以下であるものとすることが好ましい。
【0026】
本発明の薄膜積層体は、ガラス基材側から順次、誘電体からなる第1層、Agを主成分とする金属からなる第2層、誘電体からなる第3層、Agを主成分とする金属からなる第4層、そして、誘電体からなる第5層が形成される。第3層及び第5層の誘電体層が形成される際、Agを主成分とする金属層は、誘電体層形成時の雰囲気条件等の影響を受けて、酸化や窒化が生じることがある。これを防止するために、第2層と第3層の間、第4層と第5層の間に薄い金属層あるいは金属酸化物層あるいは金属窒化物層からなる犠牲層を積層してもよい。
【0027】
犠牲層として、金属、金属酸化物、金属窒化物を用いることができ、例えば、Zn、Ti、Sn、Ta、Nb、Si、Al、Crの群から選らばれる少なくとも一つの金属、又は、該金属の酸化物、窒化物、酸窒化物を使用することができ、犠牲層が積層された状態で透明であるもの、又は第3及び第5層の形成時に酸化あるいは窒化され、透明になるものが好ましく、特には亜鉛とアルミニウムとの合金、アルミニウム、又は酸化アルミニウムがドープされた酸化亜鉛が好ましい。犠牲層としての幾何学的厚みは好ましくは1〜7nm程度、より好ましくは2〜6nm程度とされる。
【0028】
本発明のガラス積層体においては、犠牲層中に金属として残ったものがある場合もあるが、該金属はAgを主成分とする金属とは異なり、近赤外線の反射率向上への寄与は小さく第2層、第4層の幾何学的厚みには含めないが、誘電体に転じた場合またはもともと誘電体であたった場合には、光学干渉膜としての作用があるため、第3層、第5層の光学的厚みに含めて考慮される。
【0029】
また、本発明のガラス積層体は、他のガラス基材と対向させて、周縁部をスペーサ、粘着剤等で封止して複層ガラスとすることが好ましい。この際、積層膜は、対向によって形成された内分空間側を向くようにすることが好ましい。この内部空間は、Ar、He、Kr、Xe等の不活性ガス、乾燥空気、窒素などで占められる。該複層ガラスを用いて窓を形成する際には、遮熱性を良好なものとする観点から、ガラス積層体は室外側に配置されることが好ましい。
【実施例】
【0030】
1.試料の作製
板厚5.8mmのフロート法によるソーダ石灰ケイ酸塩ガラス(クリアガラス)よりなるガラス基材上に、DCマグネトロンスパッタリング法により、積層膜を形成した。第1層及び第3層には、Znターゲットより形成された酸化亜鉛層、第2層及び第4層には、Agターゲットより形成されたAg層、第5層には、Snターゲットより形成された酸化錫層を形成し、各実施例において、金属層の幾何学的厚み、誘電体層の光学的厚みが調整された。各実施例の膜構成は表1に示すとおりである。
【0031】
また、第3層の酸化亜鉛層形成前、第5層の酸化錫層形成前には6nmの幾何学的厚みの、AlドープZnO(Alを3質量%含有したZnO)ターゲットより形成されたアルミニウムドープ酸化亜鉛膜よりなる犠牲層を形成された。尚、各層の成膜条件は、表2に示すとおりである。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
2.試料の評価
得られた試料の光学特性を、分光光度計(日立製作所製 U−4000)を用いてガラス基材側から測定光を入測して測定し、JIS R 3106(1998年)に準拠して可視光透過率、日射透過率、日射反射率、垂直放射率、反射の主波長、刺激純度を求めた。また、ガラス基材側の反射色調を、瞬間マルチ測光システム(大塚電子製 MCPD−3000)および入射角可変測定治具を用いて測定し、入射角が0°、60°での、CIE L*a*b*色度座標図におけるa*を求めた。結果を表3に示す。また、反射率スペクトルの代表例として、図1に実施例1、比較例1の反射率スペクトル(ガラス基材側から測定光を入測)を示す。本発明で得られたガラス積層体は、表3、図1に示すとおり、各種指標が優れたものであった。
【0035】
比較例での各ガラス積層体は、可視光透過率が70%に満たない、日射反射率が30%に満たない、又はa*が3超である等のいずれかの指標が劣るものであった。
【0036】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1、比較例1の反射率スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基材と、該ガラス基材上に形成される薄膜積層体とからなる窓用ガラス積層体であり、該薄膜積層体は、ガラス基材側から順次、誘電体からなる第1層、Agを主成分とする金属からなる第2層、誘電体からなる第3層、Agを主成分とする金属からなる第4層、そして、誘電体からなる第5層を有し、第2層と第4層の幾何学的厚さの総和が22〜29nm、第2層の幾何学的厚さが第4層の幾何学的厚さの0.3〜0.8倍であり、第1、3、5層の光学的厚さの総和が220〜380nm、第3層の光学的厚さが140〜200nm、第1層の光学的厚みが第5層の光学的厚さの0.4〜1.5倍であり、
ガラス基材側からの反射色調が、入射角が0°〜60°の範囲にて、CIE L*a*b*色度座標図におけるa*が3未満であることを特徴とする窓用ガラス積層体。
【請求項2】
誘電体からなる第1、3、5層が、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化タンタル、酸化錫、酸化ジルコニウム、亜鉛−錫合金の酸化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化窒化ケイ素、酸化窒化アルミニウム、酸化窒化チタン、酸化窒化ジルコニウム、酸化窒化錫からなる群が選ばれる少なくとも一つの誘電体からなる層を含むことを特徴とする請求項1に記載の窓用ガラス積層体。
【請求項3】
Agを主成分とする第2層及び第4層は、ガラス基材側が陽イオン金属の主成分をZnとする酸化物層と接していることを特徴とする請求項1又は2に記載の窓用ガラス積層体。
【請求項4】
陽イオン金属の主成分をZnとする酸化物は、CuKα線を用いたX線回折法にて、酸化亜鉛の(002)結晶面によるによる回折ピークを示し、該ピークの回折角度2θが33.9°以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の窓用ガラス積層体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の窓用ガラス積層体を有する複層ガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2010−195638(P2010−195638A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43279(P2009−43279)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】