説明

窓用透明体及びその製造方法

【課題】任意の方角に設置される窓において所望の太陽光を全反射又は透過する透明体を提供する。
【解決手段】窓に用いられる板状の透明体であって、透明体内に2つの隙間層群が形成され、各隙間層群は複数の隙間層により構成され、各隙間層群において各隙間層を規定する面は同一の法線ベクトルを有し、2つの隙間層群において一方の隙間層群の各隙間層を規定する面の法線ベクトルは、他方の隙間層群の各隙間層を規定する面の法線ベクトルと直交し、透明体の表裏面の各法線ベクトルと2つの隙間層群の各隙間層を規定する面の各法線ベクトルは同一平面内にあり、一方の隙間層群の1つの隙間層を規定する面と他方の隙間層群の1つの隙間層を規定する面とが組として接続してダハ面を形成することにより、複数組のダハ面が形成され、各ダハ面のダハシフト角及びダハ稜線方向が、それぞれ所定の角度に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓用の透明体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネへの関心の高まりとともに、冷房負荷の主原因である日射熱の発生を回避する技術に対する要求が増えている。すなわち、ビル、家屋、車両などの窓において、日射熱をもたらす赤外線の流入を遮断する有効な機能が求められている。日本において冷房の運転が必要となる夏の昼間には、建物内に流入する熱量の大半が窓から入り込むとされる。流入する光と熱の源である日射は、紫外線から赤外線までの波長範囲に分布し、輻射される日射エネルギーは、赤外線が約50%を占め、残りを可視光と紫外線が占める。このように日射エネルギーの約半分は生活に必要な明るさに寄与せずに熱作用を生ずる赤外線によるものである。すなわち、日射中の赤外線をすべて反射できれば窓ガラスを通して流入する日射エネルギーをおよそ半分にできることになる。したがって、日射熱を選択的に反射するガラスあるいはシートをビルなどの窓ガラスに利用すれば冷房負荷を軽減し、大きな省エネ効果を期待することができる。このような目的のため、近年「エコガラス」といわれる窓ガラスが使われるようになった。エコガラスは、基本的に可視光線はそのまま透過させ、赤外線を反射させるガラスである。太陽光のエネルギー50%を占める赤外線を反射するので、夏季の室内への熱流入を半分に減らせる。しかし、冬季においても赤外線を反射してしまい、かえって暖めたい室内への熱の流入が半分になってしまう。
【0003】
そこで、特許文献1に開示されるような太陽光を反射させる構造を有する窓ガラスが提案されている。特許文献1では、V字型の凹凸面を有する2つの透明体を貼り合わせる。そして、2つの透明体の間に、透明体の屈折率よりも小さい屈折率を有する液体あるいは空気を介在させることにより、外部から透明体に入射して透明体内を進行してくる太陽光を全反射し、透明体から外部へと進行させる。また、夏は透明体に入射した太陽光を反射し、冬は透明体を透過させるため、透明体内を進行する光束の進行方向と透明体の凹部の底角又は凸部の頂角の二等分面とが所定の角をなすように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−301546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の従来の透明体では、真南向きの窓に適用することはできるが、その他の方角に設置する窓に用いた場合、太陽光の透明体への入射角が異なるため、上記の所望の反射及び透過の効果は得られない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、任意の方角に設置される窓に適用可能であり、夏は太陽光を反射して冬は太陽光を透過させることにより省エネ効果をもたらす構造を有する透明体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する本発明の一実施形態に係る透明体は、窓に用いられる板状の透明体であって、透明体内に2つの隙間層群が形成され、各隙間層群は、複数の隙間層により構成され、各隙間層群において、各隙間層を規定する面は同一の法線ベクトルを有し、2つの隙間層群において、一方の隙間層群の各隙間層を規定する面の法線ベクトルは、他方の隙間層群の各隙間層を規定する面の法線ベクトルと直交し、透明体の表裏面の各法線ベクトルと2つの隙間層群の各隙間層を規定する面の各法線ベクトルは、同一平面内にあり、一方の隙間層群の1つの隙間層を規定する面と他方の隙間層群の1つの隙間層を規定する面とが組として接続してダハ面を形成することにより、複数組のダハ面が形成され、各ダハ面のダハシフト角及びダハ稜線方向が、それぞれ所定の角度に設定されている。
【0008】
好ましくは、ダハ稜線方向をθとすると、θは以下の式(1),(2)により与えられる。
【0009】
【数1】

【数2】

【0010】
ここで、φは緯度、αは窓向き、βは窓傾き、Δはダハ稜線方向の回転移動量であり、γは以下の式(3)により与えられる。
【0011】
【数3】

【0012】
ここで、θはダハ下面における全反射臨界角である。
【0013】
また、ダハシフト角をθshiftとすると、θshiftは以下の式(4),(5)により与えられる。
【0014】
【数4】

【数5】

【0015】
ここで、nは透明体の屈折率、θは透明体の表裏面の法線方向から見た天の赤道の角度、δは赤緯、Δは全反射余裕角である。
【0016】
さらに、各組のダハ面はつなぎ面により互いに接続されており、各つなぎ面は、各ダハ面がなす角の二等分面と平行に設けられている。そして、各隙間層は、空気層を有する。あるいは、各隙間層は、屈折率が透明体の屈折率よりも小さい光透過性を有する流体からなる層を有する。
【0017】
また、上記の課題を解決する本発明の一実施形態に係る透明体の製造方法は、光透過性を有する部材からなる凸部材と凹部材とを嵌め合わせることによって窓に用いられる板状の透明体を製造する方法であって、凸部材と凹部材との接合面により規定される隙間層からなる2つの隙間層群を形成するステップを有し、各隙間層群は、複数の隙間層により構成され、各隙間層群において、各隙間層を規定する面は同一の法線ベクトルを有し、2つの隙間層群において、一方の隙間層群の各隙間層を規定する面の法線ベクトルは、他方の隙間層群の各隙間層を規定する面の法線ベクトルと直交し、透明体の表裏面の各法線ベクトルと2つの隙間層群の各隙間層を規定する面の各法線ベクトルは、同一平面内にあり、一方の隙間層群の1つの隙間層を規定する面と他方の隙間層群の1つの隙間層を規定する面とが組として接続してダハ面を形成することにより、複数組のダハ面が形成され、各ダハ面のダハシフト角及びダハ稜線方向が、それぞれ所定の角度に設定されている。
【0018】
好ましくは、ダハ稜線方向をθとすると、θは以下の式(6),(7)により与えられる。
【0019】
【数6】

【数7】

【0020】
ここで、φは緯度、αは窓向き、βは窓傾き、Δはダハ稜線方向の回転移動量であり、γは以下の式(8)により与えられる。
【0021】
【数8】

【0022】
ここで、θはダハ下面における全反射臨界角である。
【0023】
また、ダハシフト角をθshiftとすると、θshiftは以下の式(9),(10)により与えられる。
【0024】
【数9】

【数10】

【0025】
ここで、nは透明体の屈折率、θは透明体の表裏面の法線方向から見た天の赤道の角度、δは赤緯、Δは全反射余裕角である。
【0026】
さらに、各組のダハ面はつなぎ面により互いに接続されており、各つなぎ面は、各ダハ面がなす角の二等分面と平行に設けられている。そして、各隙間層は、空気層を有する。あるいは、各隙間層は、屈折率が透明体の屈折率よりも小さい光透過性を有する流体からなる層を有する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、任意の方角に設置される窓において、所望の赤緯範囲にて太陽光を全反射する透明体を提供することができる。したがって、任意の方角に設置される窓において、夏は太陽光を全反射して室内に進行するのを防止し、冬は太陽光を透過して室内に進行させることにより、冷房負荷及び暖房負荷を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1(a)は、本発明の一実施形態における透明体の構成方法を示す模式図であり、図1(b)は、本発明の一実施形態における透明体の構造及び太陽光の光束の進行を示す概略図である。
【図2】図2(a)〜(e)は、本発明の一実施形態における窓面及びダハ面の位置関係を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態におけるダハ面の光束の全反射域及び透過域を示す模式図である。
【図4】図4(a),(b)は、本発明の実施例における透明体の反射特性と太陽の移動軌跡との関係を示すグラフである。
【図5】図5(a),(b)は、本発明の実施例における透明体の反射特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態における透明体の構造について説明する。
【0030】
まず、本発明の実施形態を説明する上で使用する用語の定義について説明する。本発明において、透明体とは、ガラス、プラスチック、結晶などの光透過性を有する部材を指す。窓向きとは、地平座標系において透明体により構成される窓がいずれの方角に向いているかを、真南を0°、真西を+90°、真東を−90°として規定した角度である。窓傾きとは、本発明の透明体を例えば天窓に用いるなどの場合に、地平座標系において透明体が構成する窓の面法線がなす仰角である。なお、後述するように、地平座標系は、東を正のx方向、北を正のy方向、天頂を正のz方向となるようにx軸、y軸、z軸をそれぞれ設定したxyz座標系である。窓横方向とは、透明体により構成される窓面上に、地平座標系のxy平面と平行になるようにX軸が設定されたXY直交座標におけるX方向である。なお、透明体を有する窓を設置した際に室内すなわち太陽光の入射方向と反対方向から見て右方向を正のX方向とする。窓縦方向とは、XY直交座標におけるY方向である。透明体を有する窓を設置した際に室内から見て天の北極側に向かう方向を正のY方向とする。さらに、XY座標平面に直交し、室外から室内に向かう方向を正の方向とするZ軸を設定する。
【0031】
次に、ダハシフト角とは、透明体において互いに直交する2つの面が形成する面を1つのダハ面とし、ダハ面の2つの面がなす角度(ダハ角)の二等分面と窓面の法線とがなす角度である。ダハシフト角は、正のY方向に移動する方向を正とする。ダハ稜線方向とは、ダハ面の2つの面がなす稜線の、窓面すなわちXY座標における方向である。ダハ稜線がX方向となす角度によりダハ稜線方向を規定し、X方向から時計回り方向を正の角度方向とする。赤道方向とは、窓の面法線から見た天の赤道の角度である。
【0032】
図1(a)及び(b)に、本実施形態における透明体100の概略図を示す。図1(a)に示すように透明体100は、ガラス、プラスチック、結晶などの素材からなる凸部材M1と凹部材M2を貼り合わせることで構成する。凸部材M1の凸部は、ダハ面を構成する2つの面と、各ダハ面を接続するつなぎ面とが、交互に連なることによって形成されている。また、凹部材M2の凹部は、凸部材M1の凸部の各ダハ面及びつなぎ面に対応する面が連なることによって形成されている。なお、図には凸部と凹部をそれぞれ2つ示しているが、2つに限らず複数の凸部と凹部を連続して設けることにより凸部材M1と凹部材M2を構成するものとする。ここで、凸部材M1の1つの凸部と、該凸部と貼り合わせられる凹部材M2の凹部に注目する。図に示すように、凸部において、ダハ面を構成するダハ下面S1及びダハ上面S2がつなぎ面S3によって、隣接する凸部の別のダハ面を構成するダハ下面S4と接続されている。また、凹部においては、ダハ下面S1及びダハ上面S2に対応する面S’1,S’2が、つなぎ面S3に対応する面S’3によって、ダハ下面S4に対応する面S’4と接続されている。凸部材M1と凹部材M2を貼り合わせるにあたって、凹部には、面S’1,S’2に所定の大きさの球状のスペーサSP1〜SP4が分散配置されている。また、面S’3には、対向する凸部のつなぎ面S3と接合するための接着剤が塗布されている。
【0033】
図1(b)には、図1(a)に示す凸部材M1と凹部材M2を貼り合わせて構成した透明体100を示す。スペーサSP1〜SP4が配置されていることにより、凸部材M1のダハ下面S1及びダハ上面S2と凹部材の面S’1,S’2との間にクリアランスである空気層T1,T2が形成される。したがって、ダハ下面S1と面S’1、ダハ上面S2と面S’2とが、それぞれ隙間層を規定する。また、ダハ下面S4と面S’4が規定する隙間層は、ダハ下面S1と面S’1が規定する隙間層と同じであり、隙間層を規定するダハ面の法線ベクトルも同一である。すなわち、透明体100内には、ダハ下面S1と面S’1により規定される隙間層と同一の隙間層が複数規定された隙間層群と、ダハ上面S2と面S’2により規定される隙間層と同一の隙間層が複数規定された隙間層群とが存在する。そして、各隙間層群において、それぞれの隙間層を規定しているそれぞれのダハ面の法線ベクトルは同一である。また、ダハ下面S1とダハ上面S2は互いに直交する面であることから、上記2つの隙間層群において、一方の隙間層群におけるダハ面の法線ベクトルは、他方の隙間層群におけるダハ面の法線ベクトルと直交する。なお、透明体100の表裏面の各法線ベクトルと上記2つの隙間層群の各法線ベクトルは、同一平面内にあるものとする。
【0034】
図1(b)に示すように、ダハシフト角をθshiftとして示している。また、図1(b)には、透明体100を窓に用いた場合に、夏(例えば夏至)の南中時の太陽光の光束L1,L2が透明体100に入射した場合の光路と、冬(例えば冬至)の南中時の太陽光の光束L3,L4が透明体に入射した場合の光路をそれぞれ概略的に示している。なお、便宜上、図1(b)では窓傾きを0°とする。
【0035】
光束L1は、透明体100の入射面にて屈折されて透明体100内を進行する。そして、光束L1は、ダハ下面S1において全反射される。ダハ下面S1にて全反射された光束L1は、ダハ上面S2に向かって透明体100内を進行し、ダハ上面S2において再び全反射される。ダハ上面S2にて全反射された光束L1は、透明体100に入射した際の入射面に戻り、入射面にて屈折されて透明体100外へ進行する。また、光束L2は、透明体100の入射面にて屈折されて透明体100内を進行し、ダハ上面S2において全反射される。ダハ上面S2にて全反射された光束L2は、ダハ下面S1に向かって透明体100内を進行し、ダハ下面S1において再び全反射される。ダハ下面S1にて全反射された光束L2は、透明体100に入射した際の入射面に戻り、入射面にて屈折されて透明体100外へ進行する。
【0036】
次に、光束L3は、光束L1と同様に、透明体100の入射面にて屈折されて透明体100内を進行し、ダハ下面S1において全反射される。そして、ダハ下面S1にて全反射された光束L2は、ダハ上面S2に進行し、全反射されずに空気層T2及び面S’2を透過して透明体100内を進行し、透明体100に入射した際の入射面と反対側の面にて屈折されて透明体100外へ進行する。また、光束L4は、透明体100の入射面にて屈折されて透明体100内を進行する。そして、ダハ上面S2において全反射されずに空気層T2及び面S’2を透過して透明体100内を進行し、透明体100に入射した際の入射面と反対側の面にて屈折されて透明体100外へ進行する。
【0037】
本実施形態においては、透明体100が組み込まれた窓を地球の緯度(北緯)φにおいて用いるものとする。まず、図2(a)に示すように、緯度φにおける地平座標としてxyz座標を設定する。なお、東を正のx方向、北を正のy方向、天頂を正のz方向とする。緯度φにおける天の北極方向の単位ベクトルは、以下の式(11)により与えられる。
【0038】
【数11】

【0039】
また、図2(b)に示すように、窓向きを天頂からみて時計回りに角度αだけ回転した場合の窓向きの単位ベクトルは、以下の式(12)により与えられる。例えば、真南向きの窓ではα=0°であり、真西向きの窓ではα=90°となる。
【0040】
【数12】

【0041】
さらに、図2(c)に示すように、窓傾きを角度βだけ与えた場合の窓向きの単位ベクトルは、以下の式(13)により与えられる。
【0042】
【数13】

【0043】
そして、このときの窓面のXY座標の各軸方向の単位ベクトルは、以下の式(14),(15)にて与えられる。
【0044】
【数14】

【数15】

【0045】
図2(d)に、式(14),(15)により設定される窓面のXY座標を示す。さらに、図に示すように、窓面の法線方向にZ軸を設定する。図2(d)を参照しながら説明する。天の北極方向の単位ベクトルを窓面のXY平面に射影したベクトルは、以下の式(16)により与えられる。
【0046】
【数16】

【0047】
ここで、N×X及びN×Yは、以下の式(17),(18)により与えられる。
【0048】
【数17】

【数18】

【0049】
したがって、式(16)〜(18)より、以下の式(19)が得られる。
【0050】
【数19】

【0051】
ここで、図に示すように、窓面のXY座標において天の北極方向とX軸とのなす角をθとすると、以下の式(20)が成り立つ。
【0052】
【数20】

【0053】
図に示すように、北天及び南天の太陽軌跡は、赤緯に関係なく、天の北極方向の単位ベクトルを窓面のXY平面に射影したベクトルにより規定される直線Lと直交する。したがって、透明体100におけるダハ稜線方向θをθと直交するように設定すると、太陽は概ねダハ稜線方向θに沿って移動する。このときダハ稜線方向θは、太陽軌跡に対する1次近似の直線とみなすことができる。すなわち、ダハ稜線方向θに沿って移動する太陽の光束を、透明体100のダハ面において全反射することができる。ダハ稜線方向θについては、以下の式(21)が成り立つ。
【0054】
【数21】

【0055】
よって、式(20),(21)より以下の式(22)が得られる。
【0056】
【数22】

【0057】
したがって、緯度φ、窓向きα、窓傾きβからダハ稜線方向θが決まることがわかる。ここで、図2(d)に示すように、窓の正面方向、すなわち窓面の法線方向から見た天の赤道の角度をθとする。同様に、窓面の正面方向から見た天の北極の角度はθ+90°であることから以下の式(23)が成り立つ。
【数23】

【0058】
式(11),(13)とから、式(23)は以下の式(24)に変形することができる。
【数24】

【0059】
θは、太陽が天の赤道上(赤緯0°)にあるとき、すなわち春分の日又は秋分の日であるときの太陽光の窓面への入射角である。したがって、太陽が赤緯δにあるとき、太陽光の窓面への入射角度、すなわち太陽が直線Lを横切るときの窓面の法線方向から見た太陽の角度をθとすると、以下の式(25)が成り立つ。
【0060】
【数25】

【0061】
次に、図2(e)に示すように、ダハ下面S1がZ軸に対してθroofだけ傾いているとする。また、YZ平面においてダハ下面S1とダハ上面S2がなす角の二等分面Mを設定し、二等分面Mの方向を主方向とする。したがって、ダハシフト角θshiftは、図に示すように二等分面MとZ軸とがなす角度として規定される。また、ダハシフト角θshiftは、θroofを用いて以下の式(26)として表すことができる。
【0062】
【数26】

【0063】
ここで、太陽光の光束の窓面への入射角θを大きくしていくときのダハ面における反射について考える。透明体100に入射して透明体100内を進行する光束が最初にダハ下面S1に入射するかダハ上面S2に入射するかは、光束の入射位置によって異なる。入射角θが小さいうちは、図1(b)に示す光束L3と同様に、最初にダハ下面S1に入射する光束は、ダハ下面S1にて全反射するが、ダハ上面S2では全反射条件を満たさないため、空気層T2及び面S’2を透過する。したがって、当該光束は室内に入射する。また、図1に示す光束L4と同様に、最初にダハ上面S2に入射する光束も、ダハ上面S2では全反射条件を満たさない。このため、当該光束は室内に入射する。
【0064】
入射角θを大きくしていくと、いずれの太陽光の光束も、ダハ下面S1への入射角は小さくなり、ダハ上面S2への入射角は大きくなる。そして、入射角θが所定の角度を超えると、ダハ下面S1のみならずダハ上面S2においても全反射条件を満たすようになる。両ダハ面S1,S2において全反射条件を満たすとき、図1に示す光束L1,L2と同様に、透明体100の外部から入射した太陽光が各ダハ面S1,S2により全反射されて透明体100の外部に戻る。したがって、太陽光の光束は室内に入射しない。そして、入射角θをさらに大きくしていくと、ダハ下面S1への光束の入射角が小さくなり、ダハ下面S1において全反射条件を満たさなくなる。
【0065】
以上の説明より、外部から透明体100に入射した光束を反射して外部に戻すための入射角θの範囲は、ダハ上面S2における光束の入射角が全反射臨界角に達する角度から
ダハ下面S1における光束の入射角が全反射臨界角より小さくなる角度までの範囲であることがわかる。ここで、ダハ下面S1における全反射臨界角をθとし、光束が透明体100に入射する場合の、空気側の最小入射角及び最大入射角をそれぞれθamin,θamaxとし、透明体100側の最小屈折角及び最大屈折角をそれぞれθgmin,θgmaxとする。このとき以下の式(27)〜(29)が成り立つ。なお、透明体100の屈折率をnとし、空気層T1,T2の屈折率を1とする。
【0066】
【数27】

【数28】

【数29】

【0067】
また、図2(e)に示すように、以下の式(30),(31)が成り立つことがわかる。
【0068】
【数30】

【数31】

【0069】
さらに式(30),(31)から以下の式(32),(33)が導かれる。なお、Δ=45°−θとしてΔを全反射余裕角と呼ぶ。
【0070】
【数32】

【数33】

【0071】
次に、本実施形態におけるダハシフト角θshiftの条件について説明する。太陽光を反射する上では、夏至時に太陽光の光束を良好に反射して室内に太陽光を取り込まずに冷房負荷を軽減することが望ましい。そこで、夏至のときの太陽光が透明体100に入射したときの屈折角をθgssとする。式(32),(33)に基づいて、太陽光の光束がダハ面により全反射されるには、θshiftが以下の式(34),(35)を満たせばよいことがわかる。
【0072】
【数34】

【数35】

【0073】
夏至時における太陽光の光束の透明体100への入射角をθassとすると、スネルの法則により以下の式(36)が成り立つ。
【0074】
【数36】

【0075】
夏至に注目しているため、δ=ε(ε=23.44°;地軸の傾き)として式(15)より以下の式(37)が求められる。
【数37】

【0076】
したがって、式(34)〜(37)より以下の式(38),(39)が得られる。
【0077】
【数38】

【数39】

【0078】
次に、本実施形態におけるダハ稜線方向θの条件について説明する。図3は、図2(e)においてθshiftを0としてダハ面を原点から正のZ方向に向かって見た場合の模式図である。図3に示すように、光束が全反射する領域は、中心すなわちZ軸から稜線方向に離れるにしたがって広くなる。太陽の移動を直線として近似した場合、ダハ稜線が角度γだけ回転移動しても太陽光の光束の全反射を維持することができる。したがって、本実施形態において透明体100のダハ面を構成する上で、ダハ稜線方向の回転移動量をΔとすると、許容範囲として式(40)を満たせばよいことになる。
【0079】
【数40】

【0080】
ここで、γは以下の式(41)により求めることができる。
【0081】
【数41】

【0082】
次に、上記の説明に基づいて、本実施形態において形成されたダハ面の反射特性を評価する方法について説明する。まず、透明体100を用いる窓の設置条件、すなわち設置場所の緯度φ、窓向きα、窓傾きβを決め、式(24)よりθを求める。次に、遮光したい太陽の位置すなわち赤緯の目標範囲の下限δOminと上限δOmaxを決める。そして、δOmaxを用いて、式(25)に基づいてθamaxを求める。このとき式(25)は以下の式(42)となる。
【0083】
【数42】

【0084】
ここで、式(42)の右辺に、太陽視半径(約0.25°)や窓の設置誤差などを加味した値Rを上限の余裕分として加算することもできる。Rの値としては、例えば0.5°程度を採用することができる。次に、θamaxを用いて、式(28)によりθgmaxを求める。そして、式(33)よりθshiftを計算する。次に、求めたθshiftを用いて、式(32)よりθgminを求める。そして、式(27)よりθaminを求め、式(25)より実効的な太陽赤緯の最小値δminを計算する。求めたδminをδOminと比較し、透明体100を用いた窓の反射特性を評価する。まず、δminがδOminに近似する値を取る場合、所望の反射特性を有する窓を構成することができているとみなす。δmin>δOminである場合、全反射条件を満たす赤緯の範囲の下限が所望の下限δOminに達していないため、赤緯が所望の下限の近傍である場合に透明体100が太陽光を全反射せずに透過してしまう可能性がある。そこで、δminの値がδOmin又はδOminより小さい値になるように、屈折率のより高い素材で透明体100を構成し、ダハ面の反射特性の評価をやり直してδminを再度検証する。また、δmin<<δOminである場合は、赤緯の目標範囲を十分に含むだけの反射特性を発揮する窓を構成することができているとみなす。
【0085】
次に、本発明の実施形態における実施例を4つ挙げて説明する。
【実施例1】
【0086】
図4(a)に、実施例1における透明体100を用いた窓の反射特性と太陽の位置(方向余弦)を描いたグラフを示す。図に示すグラフでは、円筒座標系を用いている。実施例1では、緯度36度の場所において南向きの窓を設置することを想定している。透明体100に用いる素材の屈折率は1.52、ダハシフト角θshiftは36.5°、ダハ稜線方向θは0°とする。図に示すように、春分から秋分にかけて、太陽の軌跡と透明体100の太陽光反射率が90%〜100%である範囲とが、広い方位において、すなわち日中の長い時間、重なることがわかる。したがって、太陽の南中高度が高くなる時期においては、透明体100によって良好に太陽光を反射して、太陽光を室内に取り込まずに冷房負荷を軽減することができる。また、秋分から春分にかけて、太陽が移動する高度範囲が狭くなると、太陽の軌跡は主に透明体100の太陽光反射率が10%未満である範囲と重なることがわかる。したがって、太陽の南中高度が低くなる時期においては、太陽光の光束は透明体100を透過するため、太陽光を室内に取り込むことができ、暖房負荷を上げずにすむ。
【実施例2】
【0087】
図4(b)に、実施例2における透明体100を用いた窓の反射特性と太陽の位置を描いたグラフを示す。図4(b)においても、実施例1と同様に、円筒座標系を用いる。また、窓を設置する場所の緯度、透明体100の屈折率、ダハシフト角θshiftは、実施例1と同じである。実施例2では、南西向きの窓を設置することを想定している。そのため、ダハ稜線方向θを45°としてダハ面を構成する。図に示すように、太陽の南中高度が高くなる時期では、特に方位が正に大きい範囲(+30°〜+120°)において、太陽の軌跡と透明体100の太陽光反射率が90%〜100%である範囲とが重なることがわかる。したがって、太陽の南中後から日没までの時間帯、透明体100によって良好に太陽光を反射して、太陽光を室内に取り込まずに冷房負荷を軽減することができる。また、太陽の南中高度が低くなる時期においては、太陽の軌跡は主に透明体100の太陽光反射率が10%未満である範囲と重なることがわかる。したがって、当該時期においては、太陽光の光束を透明体100を透過させることにより、太陽光を室内に取り込むことができるため、暖房負荷を上げずにすむ。
【0088】
上記の本発明の実施形態の説明と実施例からわかるように、本発明の実施形態においては、ダハシフト角θshiftとダハ稜線方向θを変えることにより、任意の窓向きαと窓傾きβに対応して、夏は太陽光を室外に反射して冷房負荷を軽減し、冬は太陽光を室内に取り込んで暖房負荷を上げずにすむ透明体を有する窓を構成することができる。
【0089】
以下の2つ実施例では、本発明の透明体100を用いた窓ガラスの具体的な数値によるシミュレーション結果について、図5(a)及び(b)を参照しながら説明する。なお、透明体100の屈折率は1.52とする。
【実施例3】
【0090】
図5(a)は、実施例3として透明体100を用いて南向きの窓を構成した場合において、透明体100による太陽光の光束の反射率の推移を示すグラフである。なお、窓向きを0°とする。図5(a)においては、ダハシフト角θshiftが36.9°であり、ダハ稜線方向θが0°である。図からわかるように、北緯31°から北緯41°にわたって、夏季は太陽光を良好に反射し、冬季は太陽光を良好に透過することがわかる。
【実施例4】
【0091】
図5(b)は、実施例4として透明体100を用いて南西向きの窓を構成した場合において、透明体100による太陽光の光束の反射率の推移を示すグラフである。なお、窓向きを45°とする。図5(b)においては、ダハシフト角θshiftが31.3°であり、ダハ稜線方向θが45°である。図からわかるように、図5(a)と同様に、北緯31°から北緯41°にわたって、夏季は太陽光を良好に反射し、冬季は太陽光を良好に透過することがわかる。
【0092】
以上が本発明における実施形態に関する説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において種々の変形が可能である。例えば、上記の説明では、透明体100においてダハ面と対向する面との間に空気層を設けているが、空気層の代わりに、透明体100の屈折率よりも小さい屈折率を有する流体が充填された層を用いることもできる。例えば、面S’1,S’2上に屈折率が透明体100よりも小さい光透過性を有する接着剤を塗布することで、空気層T1,T2と同じ光学的効果が得られる。また、空気層の代わりに接着剤を用いることでスペーサを設ける必要がなく、かつ透明100を構成する凸部材と凹部材とをより強固に接合することができる。
【0093】
また、上記の説明において、δmin<<δOminである場合でも、δOminとδOmaxにより規定される所望の赤緯範囲において太陽光を全反射する透明体100は得られるものの、この場合に得られるダハ面を用いた場合、δminが小さすぎるために、南中高度が低くなって太陽光を透過する必要がある場合でも太陽光を反射してしまう現象が発生する可能性がある。そこで、上記の説明ではδOmaxを出発点としてθshift及びδminを求めたが、ここではδOminを用いて式(25),(27),(32)よりθshiftを求める。さらに、求めたθshiftを用いて、式(33),(28),(25)より実効的な太陽赤緯の最大値δmaxを求める。そして、δmaxをδOmaxと比較して、δOmax<δmaxであることが確認できれば、δOmaxを出発点として求めたθshiftの代わりにδOminを出発点として求めたθshiftを採用することにより、太陽光を全反射する範囲がより最適化された透明体100を構成することが可能となる。さらに、上記の説明では北半球に設置される窓を想定しているが、南半球に設置される窓に本発明の透明体を適用する場合でも、北半球における条件と南半球における条件とが鏡像関係にあるとみなすことにより、南半球における窓に対しても本発明の効果をもたらす透明体を実現することができる。
【符号の説明】
【0094】
100 透明体
M 二等分面
M1 凸部材
M2 凹部材
S1,S2,S4 ダハ面
S3 つなぎ面
T1,T2 空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓に用いられる板状の透明体であって、
前記透明体内に2つの隙間層群が形成され、
各隙間層群は、複数の隙間層により構成され、
各隙間層群において、各隙間層を規定する面は同一の法線ベクトルを有し、
前記2つの隙間層群において、一方の隙間層群の各隙間層を規定する面の法線ベクトルは、他方の隙間層群の各隙間層を規定する面の法線ベクトルと直交し、
前記透明体の表裏面の各法線ベクトルと前記2つの隙間層群の各隙間層を規定する面の各法線ベクトルは、同一平面内にあり、
前記一方の隙間層群の1つの隙間層を規定する面と前記他方の隙間層群の1つの隙間層を規定する面とが組として接続してダハ面を形成することにより、複数組のダハ面が形成され、
各ダハ面のダハシフト角及びダハ稜線方向が、それぞれ所定の角度に設定されている、
ことを特徴とする透明体。
【請求項2】
前記ダハ稜線方向をθとすると、θは以下の式(1),(2)により与えられる、
【数1】

【数2】

ここで、φは緯度、αは窓向き、βは窓傾き、Δは前記ダハ稜線方向の回転移動量であり、γは以下の式(3)により与えられる、
【数3】

ここで、θはダハ下面における全反射臨界角である、
ことを特徴とする請求項1に記載の透明体。
【請求項3】
前記ダハシフト角をθshiftとすると、θshiftは以下の式(4),(5)により与えられる、
【数4】

【数5】

ここで、nは前記透明体の屈折率、θは前記透明体の表裏面の法線方向から見た天の赤道の角度、δは赤緯、Δは全反射余裕角である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の透明体。
【請求項4】
各組のダハ面はつなぎ面により互いに接続されており、
各つなぎ面は、各ダハ面がなす角の二等分面と平行に設けられている、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の透明体。
【請求項5】
各隙間層は、空気層を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の透明体。
【請求項6】
各隙間層は、屈折率が前記透明体の屈折率よりも小さい光透過性を有する流体からなる層を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の透明体。
【請求項7】
光透過性を有する部材からなる凸部材と凹部材とを嵌め合わせることによって窓に用いられる板状の透明体を製造する方法であって、
前記凸部材と前記凹部材との接合面により規定される隙間層からなる2つの隙間層群を形成するステップを有し、
各隙間層群は、複数の隙間層により構成され、
各隙間層群において、各隙間層を規定する面は同一の法線ベクトルを有し、
前記2つの隙間層群において、一方の隙間層群の各隙間層を規定する面の法線ベクトルは、他方の隙間層群の各隙間層を規定する面の法線ベクトルと直交し、
前記透明体の表裏面の各法線ベクトルと前記2つの隙間層群の各隙間層を規定する面の各法線ベクトルは、同一平面内にあり、
前記一方の隙間層群の1つの隙間層を規定する面と前記他方の隙間層群の1つの隙間層を規定する面とが組として接続してダハ面を形成することにより、複数組のダハ面が形成され、
各ダハ面のダハシフト角及びダハ稜線方向が、それぞれ所定の角度に設定されている、
ことを特徴とする透明体の製造方法。
【請求項8】
前記ダハ稜線方向をθとすると、θは以下の式(6),(7)により与えられる、
【数6】

【数7】

ここで、φは緯度、αは窓向き、βは窓傾き、Δは前記ダハ稜線方向の回転移動量であり、γは以下の式(8)により与えられる、
【数8】

ここで、θはダハ下面における全反射臨界角である、
ことを特徴とする請求項7に記載の透明体の製造方法。
【請求項9】
前記ダハシフト角をθshiftとすると、θshiftは以下の式(9),(10)により与えられる、
【数9】

【数10】

ここで、nは前記透明体の屈折率、θは前記透明体の表裏面の法線方向から見た天の赤道の角度、δは赤緯、Δは全反射余裕角である、
ことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の透明体の製造方法。
【請求項10】
各組のダハ面はつなぎ面により互いに接続されており、
各つなぎ面は、各ダハ面がなす角の二等分面と平行に設けられている、
ことを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の透明体の製造方法。
【請求項11】
各隙間層は、空気層を有することを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の透明体の製造方法。
【請求項12】
各隙間層は、屈折率が前記透明体の屈折率よりも小さい光透過性を有する流体からなる層を有することを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の透明体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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