説明

立体像表示装置

【課題】 レンチキュラーレンズや2次元レンズアレイを使って視域の境界がない立体像を表示するものとして、レンズアレイの下に縮小像を並べ、一定の奥行きに一定の間隔でオブジェクトの像を並べる方法がある。従来の表示装置では、一つのレンズを1画素ないし1画素ラインとするため、レンズピッチが解像度の限界となって高精細な立体像を表示するのが困難であった。
【解決手段】 従来レンズの焦点距離fに等しくしていたレンズアレイと画像面の間隔dを、表示する立体像の奥行きにピントを合わせるように調整する。これによって各レンズには立体像の部分像が割り振られ、これがつながって全体の像となる。この方法では一本のレンズ内に像の有限幅が表示されるため、解像度をレンズピッチに制限されない高精細な立体像を表示することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は必要な機能を付与した平面の合成画像に、レンチキュラーレンズや2次元レンズアレイを重ねて視域の制限がない立体像を表示する技術に関し、より高画質の立体像を表示する方法に関する。
【背景技術】
【0002】

所定の間隔を空けて平行に置いた格子模様が作るモアレ縞が浮き出て見えたり、逆に奥に引いて見える現象や、面上にレンズが並んだレンズシートと、相似形の周期を持つ周期模様が作るモアレ縞が同様に奥行きを持つ現象が知られている。
【0003】
これを人目を引くディスプレイに利用するものとして、たとえば米国の特許文献1や国内の特許文献2〜7がある。またさらに見える模様に変化を加える工夫をした特許文献8の表示装置もあるが、これらはいずれもモアレ縞を模様として利用したもので、明確な機能あるいは目的を持った表現を設計、デザインするには不十分であった。
【0004】
近年、同様な構成を有する表示装置において、表示される模様を機能を持った画像列に変え、3次元的な視差を有する立体像を表示したり、アニメーションのような効果を実現する研究が非特許文献1〜5に報告されている。これらの表示装置では一定の奥行きに一定の間隔で並ぶオブジェクトの立体像を表示することができるが、一方で単純な模様が立体像に変わったことで、表示画像をより高画質にしたいという要求が強まることになった。
【0005】
これらのディスプレイではレンチキュラーレンズの各シリンドリカルレンズを1本の画素ラインとして表示したり、2次元レンズアレイの各レンズを1画素として表示するため、レンズピッチが解像度の限界となる。このため高画質のためにはレンズピッチを細かくする必要があるが、一方でレンズピッチを細かくするとレンズ下に並ぶ縮小像がほぼ比例して小さくなり、この画像解像度の限界から画質が低下するため、結果として高解像度化が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US 2007/0097111 A1
【特許文献2】特開平11-189000号公報
【特許文献3】特開2001-55000号公報
【特許文献4】特開2001-180198号公報
【特許文献5】特開2002-46400号公報
【特許文献6】特開2002-120500号公報
【特許文献7】特開2003-220173号公報
【特許文献8】特開2003-226099号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】"モアレ干渉を応用した周期立体像の研究",映像情報メディア学会技術報告, Vol.34, No.24, pp.15-18(2010)
【非特許文献2】"撮影モデルを使った周期立体像の作成",3D映像, Vol.24, No.2, pp.42-50(2010)
【非特許文献3】"MegaPOVを使ったインテグラルイメージと周期立体像の作成",映像情報メディア学会技術報告, Vol.34, No.43, pp.21-24(2010)
【非特許文献4】"モアレ干渉法を利用した紙面立体アニメーション",日本印刷学会第124回秋期研究発表会講演予稿集,pp5-8(2010)
【非特許文献5】"モアレ干渉の応用によって視域の境界を取り除いた周期立体像",画像電子学会誌, Vol.39, No.6, pp.1074-1087(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、レンチキュラーレンズや2次元レンズアレイを使い、一定の奥行きに一定の間隔で並ぶオブジェクト像を表示する非特許文献1〜5に記載の装置において、レンズピッチが解像度の限界となる従来の方式を改め、同じ画像解像度でより高精細な立体像の表示を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1は、面上に焦点距離fのシリンドリカルレンズがピッチpで並んだレンチキュラーレンズと、該レンチキュラーレンズと距離dだけ離れて置かれた細画像群からなり、該細画像群は立体的なオブジェクトを該シリンドリカルレンズの軸に垂直な方向に縮小投影した像がピッチwで並んだものであって、数1で表される投影像の奥行きLが、数2の関係を満たすことで各シリンドリカルレンズの像がつながり、オブジェクトの全体像が形成されつつ周期的に並ぶことを特徴とする立体像表示装置である。
【0010】
【数1】

【0011】
【数2】

【0012】
本発明の請求項2は、面上に焦点距離fの凸レンズが並んだ2次元レンズアレイと、該レンズアレイと距離dだけ離れて置かれた小画像群からなり、該小画像群は立体的なオブジェクトを縮小投影した像が該レンズアレイと相似形に並んだものであって、該レンズアレイのレンズピッチをp、縮小像の並ぶピッチをwとするとき、数1で表される投影像の奥行きLが、数2の関係を満たすことで各レンズの像がつながり、オブジェクトの全体像が形成されつつ周期的に並ぶことを特徴とする立体像表示装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来レンチキュラーレンズや2次元レンズアレイのレンズピッチによって解像度の上限が決められていた立体像表示装置において、レンチキュラーレンズないし2次元レンズアレイと縮小画像の表示面との間隔を調整し、表示する立体像にピントを合わせることでレンズピッチを越える高解像度の表示を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によって虚像を表示する原理を説明する図である。
【図2】本発明によって実像を表示する原理を説明する図である。
【図3】請求項1の実施例を説明する図である。
【図4】請求項1の機能を説明する図である。
【図5】請求項2の実施例を説明する図である。
【図6】請求項2の他の実施例を説明する図である。
【図7】請求項1及び請求項2における像の回転を説明する図である。
【図8】請求項2の機能を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明によって表示面より奥に見える虚像の立体像を表示する原理を図1に示す。レンズアレイ1の下に置かれた表示面2にオブジェクトの縮小像3が並び、縮小像3の間隔wがレンズピッチpより小さい場合に、表示面2より奥(図では下)に虚像4が形成される。なおレンズアレイ1が2次元レンズアレイの場合には、縮小像3は通常の2次元的な縮小像であるが、レンチキュラーレンズの場合には、縮小像3は1次元的な縮小像(細画像)となる。ここで奥行きLは非特許文献1〜5に記載されているように数1で与えられ、また像4の幅Wは数3で与えられる。
【0016】
【数3】

【0017】
さらに表示面より手前に見える実像の立体像を表示する原理を図2に示す。縮小像6の間隔wがレンズピッチpより大きい場合に、表示面5及びレンズアレイ1より手前(図では上)に実像7が形成される。数1及び数3で与えられるLとWは負の値となるが、Lの負値は図1と向きが逆であることを示し、Wの負値は倒立像であることを表す。これらの装置構成において、非特許文献1〜5ではレンズアレイ1と表示面2ないし5の間隔dをレンズの焦点距離fに等しくとり、縮小像の1ラインないし1点をレンズ幅いっぱいに拡大して表示していた。
【0018】
このようにd=fとする手法は、像の奥行きに合わせてdを変える必要がなく、広い奥行き範囲の立体像に対応できるため、多眼式と呼ばれる従来の立体表示に使用されてきたが、一方で表示解像度の上限がレンズピッチに制限されるため、先に説明したレンズピッチと画像解像度のトレードオフにより高精細な表示を実現することが難しい。
【0019】
本発明者は非特許文献1〜5に記載される立体像の高画質化を検討した結果、表示する立体像が一定の奥行きLに並ぶことを基本とすることに注目し、dとLが数1および数2の関係を満たすことで奥行きLにピントを合わせ、立体像を表示する手法を考案した。ここでLはレンズアレイ1より奥を正、手前を負の値で表す。
【0020】
この手法はインテグラルフォトグラフィの原理によって立体像を投影する考え方に基づいているため、非特許文献2のようにインテグラルフォトグラフィの考え方で作成された画像に適用できることは容易に推測できる。他方で非特許文献1,3〜5には多眼式に近い考え方で画像を作成するものがあるため、それらに対しては適用の可否に疑問もあったが、実際に理論と実験による検討を実施したところ、非特許文献1〜5の全ての作成画像に本手法が適用できることが確認された。
【0021】
本発明請求項1によってレンズピッチの制限を受けない高解像度の立体像が表示される様子を図3によって説明する。非特許文献1〜5の画像作成方法によって水平方向に縮小された像10がピッチwで並んだ画像9が得られ、これに数1および数2の関係を満たすdだけ間隔をおいてレンチキュラーレンズ8を重ねると、各シリンドリカルレンズを通して見える像は各縮小像の一部が水平方向に拡大されたものとなり、これらがつながって全体のオブジェクト像11を形成する。厳密には各シリンドリカルレンズの像が不連続なくつながるのは奥行きLの近傍だけであり、厚みのある立体像はLを中心とした前後の奥行きに分布するため、奥行きがLから離れた部分では像のつながりに若干のずれを生じる。しかしながら検討した範囲では致命的に画質を損なうほど大きなずれを生じることはなかった。
【0022】
本表示装置では奥行きLによってdを変えなければならないため、従来の表示装置のようにLが異なる立体像を同一の表示面に描くことは原則的にできず、この点では従来に比べて表現の幅が狭まる。一方縮小画像とレンチキュラーレンズの平行移動に対して像の位置が移動し、アニメーションのような効果が得られる点では非特許文献1〜5の特徴を引き継いでいる。図4に示すようにレンチキュラーレンズ12ないし画像13を矢印の方向に動かすと、虚像(L>0)の場合には黒矢印の方向に、実像(L<0)の場合には白抜き矢印の方向に像14が動き、その過程で像の形が崩れることはない。
【0023】
さらに請求項2によってレンズピッチの制限を受けない高解像度の立体像が表示される様子を図5によって説明する。非特許文献2の画像作成方法によって縮小像17がピッチwで並んだ画像16が得られ、これに数1および数2の関係を満たすdだけ間隔をおいてレンズアレイ15を重ねると、各レンズを通して見える像は各縮小像の一部が拡大されたものとなり、これらがつながって全体のオブジェクト像18を形成する。厳密には各レンズの像が不連続なくつながるのは奥行きLの近傍だけであり、厚みのある立体像はLを中心とした前後の奥行きに分布するため、奥行きがLから離れた部分では像のつながりに若干のずれを生じる。しかしながら検討した範囲では致命的に画質を損なうほど大きなずれを生じることはなかった。
【0024】
ここで画像16の縮小像17は水平位置の変化に対して、図7に示すようにオブジェクト21を垂直軸を中心にしてθの方向に回転した関係になっている。これは図3の画像9における縮小像10の関係と等しく、どちらも水平の視点移動に対応した運動視差がある立体像を表示することができる。一方請求項2では図6の画像19のように、縮小像20が水平位置の変化に対して図7のθ、垂直位置の変化に対してφで表す回転を対応させる画像を使用することもできる。このような画像も非特許文献1〜5に記載された方法で作成することができる。
【0025】
請求項2の表示装置でも奥行きLによってdを変えなければならないため、従来の表示装置のようにLが異なる立体像を同一の表示面に描くことは原則的にできない。また画像とレンズアレイの相対的な平行移動に対する像の移動も二次元的になり、図8に示すようにレンズアレイ22ないし画像23を矢印の方向に動かすと、虚像(L>0)の場合には黒矢印の方向に、実像(L<0)の場合には白抜き矢印の方向に像24が動き、その過程で像の形が崩れることはない。
【0026】
図5では正方格子状に並ぶ2次元レンズアレイを使用する実施例を示したが、例えばハニカム状に並んだ2次元レンズアレイのように、異なる配列のレンズアレイを使っても同様に実施することができる。その場合縮小画像の並びも相似形になり、数1のwとpは対応する方向のピッチを採用すれば良い。
【符号の説明】
【0027】
1 ・・・ レンズアレイ(レンチキュラーレンズ)
2,5,9,13,16,19,23 ・・・ 周期画像
3,6,10,17,20 ・・・ オブジェクトの縮小像
4 ・・・ オブジェクトの虚像
7 ・・・ オブジェクトの実像
8,12 ・・・ レンチキュラーレンズ
11,14,18,24 ・・・ オブジェクトの像
15,22 ・・・ 2次元レンズアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面上に焦点距離fのシリンドリカルレンズがピッチpで並んだレンチキュラーレンズと、該レンチキュラーレンズと距離dだけ離れて置かれた細画像群からなり、該細画像群は立体的なオブジェクトを該シリンドリカルレンズの軸に垂直な方向に縮小投影した像がピッチwで並んだものであって、数1で表される投影像の奥行きLが、数2の関係を満たすことで各シリンドリカルレンズの像がつながり、オブジェクトの全体像が形成されつつ周期的に並ぶことを特徴とする立体像表示装置。
【請求項2】
面上に焦点距離fの凸レンズが並んだ2次元レンズアレイと、該レンズアレイと距離dだけ離れて置かれた小画像群からなり、該小画像群は立体的なオブジェクトを縮小投影した像が該レンズアレイと相似形に並んだものであって、該レンズアレイのレンズピッチをp、縮小像の並ぶピッチをwとするとき、数1で表される投影像の奥行きLが、数2の関係を満たすことで各レンズの像がつながり、オブジェクトの全体像が形成されつつ周期的に並ぶことを特徴とする立体像表示装置。
【数1】

【数2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−83898(P2013−83898A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225385(P2011−225385)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(599144697)
【Fターム(参考)】