説明

立体写真の製法

【目的】 被写体のいかんにかかわらず、極めて簡便に、かつ短時間で、複雑な湿式化学処理を行うことなく、良好な立体効果を奏する立体写真を得る。
【構成】 被写体を画像読取手段にて読み取って画像信号とし、この画像信号を画像処理して、レンチキュラーレンズ3を通して見た被写体の画像が立体的となる疑似立体画像信号を作り、この疑似立体画像信号を用いて昇華型感熱転写記録方式の記録体4の染料受容層5に疑似立体画像を記録したのち、この記録体の染料受容層5上にレンチキュラーレンズシート3を貼り合せる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、昇華型感熱転写記録方式によって簡単に立体写真を作成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、レンチキュラーレンズを用いた銀塩写真による立体写真の製造方法が知られている。この公知方法によると、まず風景、人物などの被写体に対して、カメラを水平方向に一定の距離ずつ移動させながら複数回の撮影を行い、複数枚の一連の銀塩ネガフィルムを作成する。次に表面にレンチキュラーレンズシートを貼り付けた立体写真用の銀塩印画材料に、レンチキュラーレンズシートのそれぞれのレンズの下方に該レンズによって圧縮された帯状画像が連続して形成されるよう、上述の一連のネガフィルムを用い、各ネガフィルムと印画材料との平行方向位置を一定距離ずつ異ならさせて露光する。その後、印画材料を現像することによって立体写真が得られる。
【0003】この公知方法では、被写体を多連撮影して一連のネガフィルムを作成しているため、動きのある被写体については得られる立体写真が不明瞭となる欠点がある。この欠点を解決する方法として、特開平2−293733号公報に開示のものがある。この方法は被写体を写した1枚の静止画像から立体写真が得られるようにしたものであるが、この製法においても銀塩感光材料を用いており、その製造においては、現像等の種々のウェットケミカルプロセスを必要とし、長時間と多数の工程を要していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】よって、この発明における課題は、極めて簡便に短時間で立体写真が得られるようにすることにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】かかる課題は、被写体を画像読取手段にて読み取って画像信号とし、この画像信号を画像処理して、レンチキュラーレンズを通して見た被写体の画像が立体的となる疑似立体画像信号を作り、この疑似立体画像信号を用いて昇華型感熱転写記録方式の記録体の染料受容層に疑似立体画像を記録したのち、この記録体の染料受容層上にレンチキュラーレンズシートを貼り合せる方法で解決される。
【0006】以下、本発明の一例を詳しく説明する。まず、被写体を画像読取装置で読み取り、画像信号を得る。被写体が実際の人物や物体であれば通常のビデオカメラを用いて撮影する。また、被写体が写真、印刷物、イラストなどに描かれているものでは、スキャナを用いて画像信号を得ることもできる。この画像信号は1フレームの静止画像のものであれば十分である。ついで、この1フレームの画像信号を画像処理装置に入力し、画像処理を施し、疑似立体画像信号を合成する。
【0007】この画像処理は、おおまかに2つのステップからなり、第1のステップでは、画像のなかで立体的に表示したいものの位置がそれぞれ相対的に異なる複数の画像を合成する。例えば、被写体の画像を図1に示すようなイラストとし、そのイラスト中の自動車1と樹木2とを立体的に浮き上がらせ、かつ自動車1が樹木2より手前にあるように表示したいものとする。この例では、画像中の自動車1の領域と樹木2の領域をそれぞれ抽出操作で抽出し、これを画面中で左右のいずれかの一方の方向に微かずつ水平移動させた画像をそれぞれ複数枚合成する。この際、手前にある自動車1の部分の移動量を樹木2の移動量よりも大きくすることが好ましい。自動車1の部分の移動量を例えば1mmとすると樹木2の部分の移動量を0.5mmとする。このようにして得られた被写体の位置が相互に水平方向に異なった複数の合成画像信号は、第2のステップでさらに画像処理されるが、必要に応じて画像メモリに記憶させて、適宜読み出せるようにしてもよい。
【0008】第2のステップでは、上述の複数の合成画像信号に基づいて、レンチキュラーレンズを通したときの画像が立体的に視認されるような疑似立体画像を合成する。この合成操作は、従来製法における一連のネガフィルムを用いてレンチキュラーレンズシートを貼り付けた1枚の印画材料に順次露光して複数回の露光を行い、これを現像して1枚の印画材料上に疑似立体画像を形成する操作に相当するものである。
【0009】具体的には、まず1つの合成画像をその垂直方向に狭い間隔で細分化して帯状のピクセルとする。ついで、このピクセルがレンチキュラーレンズによって圧縮される変位量に対応する量だけ圧縮させて加工ピクセルとするとともにこの加工ピクセルのレンチキュラーレンズによる水平方向の移動量に対応する量だけ画面上を移動させて画像メモリの1フレーム内にこの加工ピクセルを記憶させる操作を1つの合成画像のすべてのピクセルについて順次行う。ついで、上述の操作を複数の合成画像についてそれぞれ同様に行い、メモリの同一フレーム内に加工ピクセルを順次記憶させてゆき、目的とする疑似立体画像信号を合成する。かくして、画像処理装置からは、疑似立体画像信号が出力されることになる。この出力信号は、必要に応じて内部メモリ、磁気テープ、フロッピーディスクなどに記憶してもよい。
【0010】上記疑似立体画像信号は、ついでビデオプリンタに入力される。このビデオプリンタは、公知の昇華型感熱転写記録方式によって記録体の染料受容層にサーマルヘッドなどからの熱により染料を移行させて画像を形成するものである。このビデオプリンタは、上記疑似立体画像信号がこれに入力されると、その記録体の染料受容層に疑似立体画像を描き出し、疑似立体画像が表示される。
【0011】ついで、図2に示すように、レンチキュラーレンズシート3を、記録体4の疑似立体画像が形成された染料受容層5上に、粘着剤、接着剤6などによって貼り合せることによって、立体写真が得られる。レンチキュラーレンズシート3としては、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂などからなる多数のかまぼこ形のレンチキュラーレンズを形成したもので、厚さが約0.1〜1mm程度、レンズピッチが0.05〜0.8mm程度のものが用いられる。このレンチキュラーレンズシート3のレンズの光学的特性は、先の画像処理の第2のステップで合成した疑似立体画像を染料受容層5に記録した記録体に貼り合せたときに、記録画像が立体的に見えるような特性を有することが必要である。
【0012】昇華型感熱転写記録方式の記録体4としては、なんら限定されることはなく、いかなるものも使用可能であり、図2に示すような紙、合成紙、プラスチックフィルムなどからなる基材7上に染料受容層5を設けたものが用いられる。基材が透明な場合には図3のように透明基材7側にレンチキュラーレンズシート3を貼り合せてもよい。また、基材と染料受容層との間に種々の機能を有する中間層を設けたものや基材の染料受容層の反対側にバックコートを設けたものなども使用できる。
【0013】さらに、記録体4の染料受容層5を構成するものとしては、同様になんら限定されることはなく、昇華性染料に良く染まり、かつ記録時に転写シートとブロッキングを起こさないものであれば特に限定されず、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン等のビニル系樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル等のアクリレート系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、尿素樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂などやこれらの共重合体もしくは混合物を染着性樹脂として使用できる。このうち、ポリエステル樹脂は、昇華性染料に良く染まり、かつ得られる画像の保存安定性も良好であることから、染着性樹脂の少なくとも一成分として含有させることが好ましい。
【0014】染料受容層5には、さらに記録体と転写シートの離型性を向上させる目的で、架橋性成分を含有させることが好ましい。例えば、イソシアネートとポリオール等の熱硬化性成分を含有させ、染料受容層形成後に熱架橋させたり、あるいは、本発明者が、特開昭62−46689号公報や特開昭63−67188号公報に開示したように、活性エネルギー線で硬化し得る架橋剤、例えばアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有するモノマーおよびオリゴマーを含む樹脂組成物を基材上に塗布した後、活性エネルギー線で硬化して染料受容層5を得ることもできる。特に、活性エネルギー線で架橋し得る成分を配合し、活性エネルギー線で硬化させて染料受容層を得る方法は、生産性が高く、かつ得られる染料受容層の光沢が高いのでより好ましい。
【0015】上記染着性樹脂および架橋性成分の使用量は特に限定はされないが、染着性樹脂および架橋性成分の合計100重量部に対し、染着性樹脂を40〜95重量%、架橋性成分を60〜5重量%含有させることが好ましい。活性エネルギー線で硬化し得る架橋剤を含有させた樹脂組成物は、電子線、紫外線などの活性エネルギー線で硬化されるが、活性エネルギー線として紫外線を使用する場合には、公知の光重合開始剤を含有させることが望ましい。光重合開始剤の使用量は特に限定はされないが、染量受容層を形成する前述の染着性樹脂および架橋性成分の合計100重量部に対し、0.1〜10重量部含有させることが好ましい。
【0016】また、染料受容層5には、染料受容層5と転写シートの離型性をさらに向上させる目的でフッ素系やシリコーン系の離型剤を含有させることが好ましい。離型剤の使用量は特に限定はされないが、染着性樹脂および架橋性成分の合計100重量部に対し、0.01〜30重量部含有させることが望ましい。
【0017】さらに、上記の染料受容層5には、使用目的によって、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモンなどの無機充填剤を含有させても良い。また、本発明では、記録画像の耐光性をさらに向上させる目的で、上記の染量受容層5に紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等を含有させてもよい。
【0018】このような記録体を製造するには、樹脂組成物をそのままロールコート、バーコート、ブレードコートなどのコーティング方法によって基材表面に塗工し、染料受容層を形成することが可能である。しかし、塗工作業の作業性を向上させるためには、樹脂組成物を溶解し得る溶剤、たとえばエチルアルコール、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等を配合して適当な塗工粘度に調整して行った方が好ましい。これにより、スプレーコート、カーテンコート、フローコート、ディップコートなどを容易に行うことができる。なお、これらの溶剤を配合する場合には、樹脂組成物を塗布後に溶剤を揮散、乾燥する必要がある。
【0019】染料受容層5は、膜厚が0.5〜100μm、好ましくは1〜50μmになるように形成することが望ましい。0.5μm未満では高い記録濃度が得られない。また、記録体は、染料受容層5と基材7との間に、易接着層、帯電防止層、白度向上層、あるいはこれらの機能を複合した複合層などの層を設けてもよい。さらに、記録体の染料受容層と反対の面に、帯電防止、汚染防止、滑性付与、筆記性付与などの処理を施すこともできる。
【0020】また、基材7としては、フィルム、紙または合成紙が適しており、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ナイロンフィルム、塩化ビニルフィルム等の各種プラスチック製フィルム及びこれらに白色顔料や充填剤を加えた白色フィルム;印刷用紙、アート紙、コート紙等のセルロース繊維を主体とする紙;アクリル紙、ポリプロピレン紙、ポリエステル紙などプラスチック繊維を主体とする紙などが挙げられる。これらの紙またはフィルムは、それ自体をそのまま使用しても良く、必要に応じて洗浄、エッチング、コロナ放電、活性エネルギー線照射、染色、印刷等の前処理が施されたものを使用しても良い。また、上記基材の2種以上を貼り合わせたラミネート基材も使用できる。基材の厚さは特に限定されないが、20〜1000μm程度が好ましい。また、図3における透明基材としては、上述の基材のうち透明のものが使用可能である。図3の透明基材の厚さは25〜200μm、好ましくは75〜150μm程度のもので、上述した染料受容層の膜厚と合せたとき、染料受容層に記録された画像が立体的に見えるような厚さでなければならない。なお、透明基材を用いた場合、そのままでも透過型の立体写真となり得るが、レンチキュラーレンズシートの反対側に白色あるいは淡色の隠ぺい層を塗布により設けたり、白色あるいは淡色のフィルムを貼り合せることにより、反射型の立体写真とすることもできる。
【0021】このような立体写真の製法では、従来の銀塩感光材料を全く使用していないので、湿式化学処理が一切不要となり、極めて短時間にかつ容易に製造することができるとともに設備もわずかで済む。さらに被写体についての制限がなく、いかなる被写体でも明瞭な立体写真を得ることができる。また、コンピュータによる画像処理操作によって疑似立体画像を得るようにしているので、立体効果などの視覚効果を簡単に任意に制御することができ、注目性、意匠性に富むものが得られる。
【0022】次に、本発明の製法の他の例を説明する。この例では、まず被写体を多連撮影して被写体の位置が相互に異なる複数の実写画像信号を得る。多連撮影としては、1台の単眼レンズビデオカメラを用い、ビデオカメラまたは被写体の位置を少しずつ水平移動させて複数回撮影し、それらの画像信号を別々に個々のメモリに記憶させる方法、単眼レンズビデオカメラを複数台ある間隔を置いて配置し、被写体を個々のビデオカメラで同時に撮影して個々のビデオカメラからの画像信号を個々のメモリに記憶させる方法などがある。この場合の被写体には、実際の人物や風景であることが好ましいが、場合によっては写真、印刷物、イラストなどでもよい。
【0023】ついで、このようにして得られた被写体の位置が相互に異なる複数の実写画像信号を、先の例の画像処理操作の第2のステップと同じ操作によって処理し、疑似立体画像信号とする。こののち、この疑似立体画像信号を同様にしてビデオプリンタに入力し、昇華型感熱転写記録方式の記録体の染料受容層に疑似立体画像を表示させた後、同様にレンチキュラーレンズシートを貼り合せて目的の立体写真を得ることができる。この例の製法では、実写が容易に行える被写体の場合には、有利となる。
【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の立体写真の製法によれば、被写体の種類に関係なく立体効果に富む立体写真を短時間にかつ簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明での被写体の画像の例を示す図である。
【図2】 本発明で得られた立体写真の例を示す断面図である。
【図3】 本発明で得られた立体写真の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
3…レンチキュラーレンズシート、4…記録体、5…染料受容層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 被写体を画像読取手段にて読み取って画像信号とし、この画像信号を画像処理して、レンチキュラーレンズを通して見た被写体の画像が立体的となる疑似立体画像信号を作り、この疑似立体画像信号を用いて昇華型感熱転写記録方式の記録体の染料受容層に疑似立体画像を記録したのち、この記録体の染料受容層上にレンチキュラーレンズシートを貼り合せることを特徴とする立体写真の製法。
【請求項2】 上記被写体を読み取った画像信号が1つであり、この1つの画像信号から被写体の位置が互いに異なる複数の合成画像信号を作り、この複数の合成画像信号から疑似立体画像信号を作ることを特徴とする請求項1記載の立体写真の製法。
【請求項3】 上記被写体の画像読取を多連撮影によって行って、被写体の位置が互いに異なる複数の画像信号を得、この複数の画像信号から疑似立体画像信号を作ることを特徴とする請求項1記載の立体写真の製法。
【請求項4】 請求項1ないし3記載のいずれかの製法で得られた立体写真。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平6−282018
【公開日】平成6年(1994)10月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−70573
【出願日】平成5年(1993)3月29日
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)