説明

立体加工被服の毛羽除去加工法及びその装置

【課題】立体的に加工された小ロットの縫製被服等に対して、直接毛焼き処理またはシャリング処理の毛羽除去加工を行い、該被服の毛羽に起因するダストの低減化を図る。
【解決手段】立体的に加工された被服に対し直接毛焼き処理またはシャリング処理をして毛羽除去加工する。上記被服は、その全部または一部の立体的形状に近似した被服模型状の輪郭を有していて表面が弾性的に変形する被服模型ユニット18に密接状態に装着し、毛焼き用加熱源またはシャリング用カッター部7を有する毛羽除去加工具1のヘッド4a,7aを、該被服の立体的形状に倣うように制御して該被服の表面に沿って相対移動させることにより、該被服表面の毛羽除去処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、国際宇宙ステーション内や各種無塵環境での作業従事者の被服に起因するダストによる環境悪化を防止するための被服、あるいは、被服着用者の趣味・趣向によって選ばれたところの被服であって、既に立体的に加工されているものの表面の毛羽を除去することにより、上記環境悪化の防止や、被服環境の高次化を可能にするための毛羽除去加工法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
織布等の毛羽を焼き取る「毛焼き」や、該毛羽を機械的に刈り取る「シャリング」等の毛羽除去加工は、例えば、特許文献1及び2、あるいは非特許文献1及び2等に開示されているように、繊維製品の高級化法等として被服の素材である糸や反物(布)に対して従来から適用されている。即ち、熱板やガス炎により綿糸や綿布の表面の毛羽やネップを焼去し、また、シャリングは回転刃で機械的に毛羽及びネップを切断除去するものであり、共に、主として縫製後の被服等の製品に絹状光沢の風合いを得る手法として活用されてきたものであり、これらを適用した被服は、個人の趣味・趣向を満たす個性的で多様な要求性能に適合させて、被服着用者を満足させるものである。
【0003】
そして、繊維から被服を製造する従来の繊維工業において、綿などの天然繊維の場合には、それらの繊維が紡績−製織−染色・加工−縫製の工程を経て、また、化学(合成)繊維の場合には、それらの繊維が紡糸−製糸−製織−染色・加工−縫製の工程を経て、それぞれ2次的製品に加工されるが、上記毛焼き及びシャリング等の毛羽除去加工が具体的に適用される段階は、いずれも上記染色・加工の工程の前処理として、製織と染色・加工の工程の間に組み込まれて実施されている。
【0004】
しかしながら、国際宇宙ステーション内で用いられる宇宙船内被服のように、国籍を異にするクルーが同居する施設において各国の生活・習慣を異にする者のために選定された小ロットの被服や、各種無塵環境における作業従事者の被服では、当該被服の毛羽が保有するダストの飛散による環境悪化を防止するために、また、被服着用者個人の趣味・趣向を満たすために選ばれたところの個性的で多様な被服については、その個人の要求性能に適合させるために、既に立体的に加工されている被服縫製品に上記毛焼き加工やシャリング加工を行う必要があり、そのため、これらの場合には、上述の従来の繊維工業において行われているように、染色・加工の工程の前処理として毛羽除去加工を行うことはできない。
【0005】
更に、近年では、医療や精密工業などの多くの技術分野においても、精緻で精密な作業が行われ、作業環境の高度な防塵対策が強く望まれている。このような防塵対策の一つに作業衣服などの毛羽に起因する浮遊ダスト抑制の問題があり、そのため、この種の技術分野でも被服からの毛羽の除去による防塵対策が必要になる。
このように、多くの技術分野において、小ロットで製造された被服でありながら、毛羽焼きを主とする毛羽除去によって、被服の毛羽に起因するダストの低減化を図ることが望まれていることから、毛羽除去を小ロットの被服に適用可能にすることは、今後、ダストの低減化を図る基礎的技術として、産業界に大きく寄与することが期待できる。
【0006】
敢えて上記従来の繊維工業において行われている染色・加工の前工程として毛羽除去加工を行ったものを利用して、毛羽のない被服を製造しようとしても、本発明のように小ロットで多様性を有する被服縫製品を対象とする場合には、量的に、一連の繊維の処理工程の中に毛羽除去加工の工程を入れて製織するほどの必要がなく、少量の製織では却って製造コストが増大し、経済的に対応できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2010−281002号公報
【特許文献2】 特開平10−266061号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】 小西行雄、脇田登美司:「繊維工学 vol.19,No.1」、(財)日本繊維機械学会、1966,p.53−54
【非特許文献2】 繊維学会編、「繊維便覧 加工編」、丸善、1986年1月、p.940−941
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の技術的課題は、縫製被服等の立体的に加工された小ロットの被服に対して、直接毛焼き処理またはシャリング処理の毛羽除去加工を行うことにより、該被服の毛羽に起因するダストの低減化を図ることを可能にし、また、個人の趣味・趣向を満たした個性的で多様な被服に対して上記毛羽除去加工を行うことにより絹状光沢の風合いを付与し、より一層の多様性と快適性をもつ衣服環境を与えることを可能にするところの、立体加工被服の毛羽除去加工法及びその装置を提供することにある。
【0010】
また、本発明の更に具体的な技術的課題は、上記立体的に加工された被服の毛羽除去を行うに際し、立体的に加工された被服には多くの凹凸があって、工業的に毛羽除去処理を行うことが困難であることから、該被服に対して該凹凸の少ない一定ないしは毛羽除去処理をし易い形状を保持させることを可能にし、それによって被服に対する毛羽処理の自動化または半自動化を図ることを可能にした立体加工被服の毛羽除去加工法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明によれば、立体的に加工された被服に直接毛焼き処理またはシャリング処理を行う毛羽除去加工法であって、上記被服を、該被服の全部または一部の立体的形状に近似した被服模型状の輪郭を有していて表面が弾性的に変形する被服模型ユニットに密接状態に装着し、毛焼き用加熱源またはシャリング用カッター部を有する毛羽除去加工具のヘッドを、該被服の立体的形状に倣うように制御して該被服の表面に沿って相対移動させることにより、該被服表面の毛羽除去処理を行うことを特徴とする立体加工被服の毛羽除去加工法が提供される。
【0012】
上記本発明に係る毛羽除去加工法の好ましい実施形態においては、上記毛羽除去加工具に、上記被服模型ユニットに装着した毛羽除去対象の被服表面に対する該毛羽除去加工具のヘッドの相対位置または接触圧を検出する検出器を付設し、該検出器の出力に基づいて上記毛羽除去加工具を被服に対し位置制御して相対移動させるように構成される。
【0013】
また、本発明に係る毛羽除去加工法の他の好ましい実施形態においては、被服模型ユニットを、その中心軸線の周りで回転させるユニット支持幹に支持させて回転させると共に、上記毛羽除去加工具を、軸方向送り機構により上記被服模型ユニットの中心軸線に平行する方向に送りながら、加工具駆動機構によりその毛羽除去加工具のヘッドを被服模型ユニットに向けて接離方向に駆動し、毛羽除去加工具のヘッドを上記被服の立体的形状に倣うように移動させる制御を行うものとして構成される。
【0014】
一方、上記課題を解決するため、本発明によれば、立体的に加工された被服に直接毛焼き処理またはシャリング処理を行う毛羽除去装置であって、柔軟性を有する帆布状の素材で内部に流体を圧入可能にした袋状に形成され、その周囲に毛羽除去対象の被服を装着して内圧を負荷することにより、上記被服の全部または一部の立体的形状に近似した被服模型状の輪郭を有する状態に膨らませることが可能な被服模型ユニットを備えると共に、上記被服模型ユニットに、毛焼き用加熱源またはシャリング用カッター部を有する毛羽除去加工具のヘッドを対向させて配設し、上記被服模型ユニットを、その中心軸線の周りで回転させるユニット支持幹に支持させると共に、上記毛羽除去加工具を、上記被服模型ユニットの中心軸線に平行する方向に送る軸方向送り機構に保持させたうえで、そのヘッドを被服模型ユニットに向けて接離方向に駆動する加工具駆動機構に支持させ、該毛羽除去加工具のヘッドを上記被服の立体的形状に倣うように移動させる制御装置を備えていることを特徴とする立体加工被服の毛羽除去装置が提供される。
【0015】
上記本発明に係る毛羽除去装置の好ましい実施形態においては、上記被服模型ユニットが、柔軟性を有する繊維強化合成樹脂複合材からなる帆布状の素材で袋状に形成され、該被服模型ユニットは、被服のトップとボットムについてそれぞれ別体とし、少なくとも被服のトップについては身ごろ部用ユニットと袖部用ユニットとに、被服のボットムについては腰部用ユニットと脚部用ユニットとに分割して形成される。
【0016】
また、本発明に係る毛羽除去装置の他の好ましい実施形態においては、上記毛羽除去加工具に、上記被服模型ユニットに装着した毛羽除去対象の被服表面に対する該毛羽除去加工具のヘッドの相対位置または接触圧を検出する検出器を付設し、該検出器の出力に基づいて、ユニット支持幹に支持させて回転している被服模型ユニットに対する上記毛羽除去加工具のヘッドの位置を制御し、その毛羽除去加工具のヘッドを上記被服の立体的形状に倣うように移動させる制御装置を備えたものとして構成される。
【0017】
上記構成を有する立体加工被服の毛羽除去加工法及びその装置は、上述したところから明らかなように、毛焼き及びシャリング手段によって、被服を立体的に加工した状態で、被服の立体的形状に近似した輪郭の被服模型ユニットに装着し、毛焼き用加熱源及びシャリング用カッター部を移動させることにより該被服を毛焼き及びシャリング処理することに特徴があり、小ロットで多様な被服を比較的に低コストで、効果的に毛羽レスの被服に加工することを可能にするものである。
【発明の効果】
【0018】
以上に詳述した本発明の立体加工被服の毛羽除去加工法及びその装置によれば、縫製被服等の立体的に加工された小ロットの被服に対して、直接毛焼き処理またはシャリング処理の毛羽除去加工を行って、該被服の毛羽に起因するダストの低減化を図ることができ、また、個人の趣味・趣向を満たした個性的で多様な被服に対して上記毛羽除去加工を行うことにより絹状光沢の風合いを付与し、より一層の多様性と快適性をもつ衣服環境を与えることができる。
【0019】
また、本発明によれば、上記立体的に加工された被服の毛羽除去を行うに際し、該立体的に加工された被服表面には多くの凹凸があって、工業的に毛羽除去処理を行うことが困難であることから、該被服に対して該凹凸の少ない一定ないしは毛羽除去処理をし易い形状を保持させるようにしているので、該被服に対する毛羽処理の自動化または半自動化を図ることができ、しかも、従来技術の平面的な織物に対する大掛かりな毛羽除去装置のようなものを用いることなく、シンプルな手段で小ロットの被服の毛羽除去加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】 本発明に係る毛羽除去装置の第1実施例における要部の構成を示す斜視図である。
【図2】 本発明の毛羽除去装置において用いるシャリング処理用の毛羽除去加工具の要部を示す斜視図である。
【図3】 本発明に係る毛羽除去装置の第2実施例の全体的構成の概要を示す側面図である。
【図4】 同実施例の一部を断面で示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明に係る立体加工被服の毛羽除去装置の実施例における要部の構成を示している。この立体加工被服の毛羽除去装置は、基本的には、縫製等により立体的な被服に加工される前の平面的な反物(布)ではなく、小ロットで既に縫製等で加工された立体的な被服に直接毛焼き用加熱源による毛焼き処理、または、シャリング用カッター部(図2参照)によるシャリング処理を行い、被服表面の毛羽除去を行うものである。
【0022】
上記毛焼き処理による毛羽除去に際しては、基本的には、図示しているように、ガスボンベ3から供給されるガスを、毛焼き用加熱源を構成するガスバーナー4において燃焼させ、そのヘッド4aを被服表面に向けて、ガス炎で被服表面の毛羽を焼くようにした毛羽除去加工具1を用いるのが一般的であるが、後述するような加熱ローラや熱板等を被服に接触または接近させて毛焼き処理するような手段を採用することもできる。また、この実施例では、上記ガスボンベ3を保持する支持体5を、後述する加工具駆動機構の駆動体15に連結している。上記ガスバーナー4によって被服の毛羽を除去する場合には、被服の加工面との距離を一定に保持してそのガス炎で被服表面を走査しながら該毛羽を焼くことになるが、その手段についても後述する。
なお、毛焼き処理の条件は、被服の素材の種類により適宜定められるが、被服が天然の繊維の時の処理温度は、被服作用面において700℃〜1200℃、被服表面の移動速度は250〜350m/minが適している。
【0023】
一方、上記毛羽除去をシャリング処理によって行う場合には、図2に例示するようなシャリング用カッター部7を備えた毛羽除去加工具1を用いることができる。このシャリング用カッター部7は、スパイラル状の刃9を有する一対のシリンダ8を高速回転させ、該カッター部7のヘッド7aを、被服の立体的形状に倣うように制御して該被服の表面に沿って相対移動させることにより、その毛羽を切り取るものである。上記毛羽除去加工具1は、シャリング用カッター部7における上記シリンダ8を回転させるシリンダ駆動部を内蔵し、それを支承する支持体5を、加工具駆動機構31の駆動体15(図3参照)に支承可能にしたものである。このような毛羽除去加工具1は、図1におけるガスバーナー4を用いた毛羽除去加工具と交換して使用可能に構成することができる。
【0024】
上記シリンダ8にスパイラル状の刃9を設けたシャリング用カッター部7の構成に代えて、例えば、回転円盤上に刃を設けた構成を採用することもでき、また、それらの刃によって被服が傷む可能性がある場合には、必要に応じてそれらの刃の外側に、電気カミソリが備えているような多孔のカバーを配設することができる。更に、被服の表面は後述するように曲面状をなすことになるので、その曲面に沿って毛羽の切り取りができるように、電気カミソリのヘッドの首振り機構に相当するものを採用することもできる。
【0025】
なお、上記シャリング用カッター部7による加工によれば、独自のシャリング機能で被服面の毛羽の長さを揃える毛羽剪定や毛羽除去を行って、被服面の平滑性を高めことができ、特に、被服の形態上毛焼きが十分にできない部位に残る毛羽の除去、及び被服が綿と化学繊維の混紡品である場合など、毛焼きでは困難な化学繊維の毛羽除去等に、毛焼き処理と併用して利用するのに適したものである。
【0026】
毛羽除去処理に際して、上記被服は、凹凸の少ない一定ないしは毛羽除去処理をし易い形状に保持し、また、毛羽除去加工具1のヘッド4a,7aを該被服の表面全体に沿って移動させ易い態様で被服に対し相対移動させる必要がある。そのため、該被服の全部または一部を、その立体的形状に近似した被服模型状の輪郭を有している被服模型ユニット18の表面に密接状態に装着して、該被服模型ユニット18を、その中心軸線Lの周りで回転させると共に、上記毛羽除去加工具1を、軸方向送り機構25(図3参照)により上記被服模型ユニット18の中心軸線Lに平行する方向に送りながら、その毛羽除去加工具1のヘッド4a,7aを被服模型ユニット18に向けて接離方向に駆動し、該被服の立体的形状に倣うように制御して該被服の表面に沿って相対移動させるようにしている。
【0027】
一方、加工対象である被服には、サイズの相違、トップ(上着)、ボットム(ズボン)など形態的相違があって、多種多様である。これらはできるだけ共通の被服模型ユニット18を用い得ることが望ましく、そのため、まず、サイズの相違に対する適応性を高めるためには、被服模型ユニット18は柔軟性と形状適合性を有し、且つ加熱処理を考慮した防炎性素材からなる袋状に形成し、内部に空気や窒素ガス、あるいは水等の流体を圧入して少なくとも表層がその流体圧で弾性的に変形可能であるのが望ましい。例えば、アラミド繊維や炭素繊維などを製織した三軸織物や四軸織物を基材とした繊維強化合成樹脂複合材の帆布状の素材を袋状に形成したのがより望ましい。また、上記被服模型ユニット18として、被服のトップとボットムについては共通性が殆ど見当たらないのでそれぞれ別体とし、少なくとも被服のトップについては身ごろ部用ユニットと袖部用ユニットとに、被服のボットムについては腰部用ユニットと脚部用ユニットとに分割して形成される。これらを用いた毛羽除去処理については後述する。
【0028】
上記被服模型ユニット18は、上述した素材に限るものではなく、例えば、加工対象である被服の形態にある程度近似する形態を有する柔軟性をもった合成樹脂成形体で、表面が弾性的に変形し易いような素材を該被服模型ユニットとすることもでき、その周囲に被服を密接状態に装着し、以下に述べる毛羽除去処理に供することもできる。
また、上記被服模型ユニット18は、上述したように形態が単純化されるように分割しても必ずしも回転体であるとは限らないので、その中心軸線Lは該被服模型ユニット18が回転したときにその表面の各点ができるだけ回転体に近い軌跡を通過するように選定する必要がある。
【0029】
図1を参照して上記被服模型ユニット18に被着させた被服に対する毛羽除去処理の概要について説明すると、まず、処理対象の上記被服を、該被服の立体的形状に近似した被服模型状の被服模型ユニット18に密接状態に装着するが、この被服模型ユニット18は、柔軟性と形状適合性を有する袋状に形成して、内部に流体を圧入可能にしたもの、あるいは、合成樹脂等で表面が弾性的に変形するような素材で形成するので、それに処理対象の被服を外嵌させ、該被服模型ユニット18を膨らませることにより、上記被服が被服模型ユニット18に密接状態に装着される。
次いで、毛羽除去加工具1を構成するガスバーナー4、あるいは図2に示しているような毛羽除去加工具1のシャリング用カッター部7を、該被服の立体的形状に倣うように制御して該被服の表面に沿って相対移動させることにより、該被服表面の毛羽除去処理を行うことができる。
【0030】
これを更に具体的に説明すると、上記被服模型ユニット18は、後述のユニット支持幹22(図3参照)に支持させてその中心軸線Lの周りで回転可能に支持して矢印c方向に回転させ、また、上記毛羽除去加工具1は、上記被服模型ユニット18の回転に同期させて、上記軸方向送り機構(図示省略)により上記被服模型ユニット18の中心軸線Lに平行する矢印a方向に送りながら、加工具駆動機構31(図3参照)により該毛羽除去加工具1のヘッド4a,7aを被服模型ユニット18に向けて接離する矢印b方向に駆動し、その際、毛羽除去加工具1のヘッド4a,7aを上記被服の立体的形状に倣うように移動させる制御が行われる。
【0031】
上記毛羽除去加工具1による被服表面の毛羽除去に際し、上記被服模型ユニット18に装着した毛羽除去対象の被服表面に対する毛羽除去加工具1のヘッド4a,7aの間隔、あるいは、上記表面に対する該ヘッド4a,7aの押付け圧は、均一な処理を行うために一定に保持する必要がある。このような毛羽除去加工具1の被服表面に対する相対位置、あるいは、被服表面に対する押付け圧を一定に保つため、図示を省略しているが、上記毛羽除去加工具1にはその毛羽除去機能の障害にならない位置に、被服表面に対する相対位置を検出する検出器として、超音波距離センサーや、一定長さの接触子の被服に対する接触を検出する接触センサーなどを設けることができる。
【0032】
また、特にシャリング用カッター部7を有する毛羽除去加工具1の場合には、その毛羽除去加工具1に、該シャリング用カッター部7のヘッド7aの接触圧を検出する検出器を組み込んでおき、制御装置において、それらの検出器の出力に基づいて上記毛羽除去加工具1の被服に対する接触圧をフィードバック制御しながら、被服表面に対して相対移動させることが必要である。これにより、上記毛羽除去加工具1のヘッド7aを上記被服の立体的形状に倣うように移動させることができる。
更に、上記シャリング用カッター部7には、ヘッド7aの接触圧の検出器だけでなく、該接触圧を調節する機構を内蔵させ、被服模型ユニット18の内圧と関連して、異物の介在等によるシリンダ8の接触圧の急変を避け、被服面へのシリンダ8の作用圧の安定化を図ることもできる。
【0033】
また、前述したように、上記被服模型ユニット18は、柔軟性と形状適合性を有する素材を袋状に形成して、内部に空気や窒素ガス、あるいは水等の流体を圧入し、少なくとも表層が弾性的に変形できるように形成し、あるいは、被服の形態に近似する柔軟性及び弾性的変形能をもった合成樹脂成形体等で形成するが、このような被服模型ユニット18、特に、流体を圧入した袋状の被服模型ユニット18は、流体の注入により、その中心軸線L(図1参照)に直交する断面形状が円に近付き易い傾向を有すると共に、それに被着する被服の形態に適合し易い傾向を有し、一方、被服も本来形状適合性を有し、その内部に収容される上記被服模型ユニット18や人体の形態に馴染みやすく形成されているので、結果的に、上記被服を被着させた被服模型ユニット18における中心軸線L(図1参照)に直交する断面形状は円に近似する形態をもつようになる。
これは、図1を参照して前述したように、被服模型ユニット18を中心軸線Lの周りで矢印c方向に回転させ、毛羽除去加工具1を上記中心軸線Lに平行する矢印a方向に送りながら、毛羽除去加工具1のヘッドを被服模型ユニット18に向けて接離する矢印b方向に駆動する制御を行う場合に、上記被服に倣うヘッド4a,7aの制御が比較的簡単で容易なものとなる点で非常に有利な形態である。
【0034】
更に、表層が弾性的に変形しやすい上記被服模型ユニット18を用い、毛羽除去加工具1として、被服とヘッド7aの刃9が直接的に接触してシャリング処理を行うところの、シャリング用カッター部7を備えたものを用いると、被服模型ユニット18に対する該毛羽除去加工具1のヘッド7aの接触圧の変動が小さくなり、容易に均等な毛羽の剪断を行うことが可能になる。
【0035】
次に、図3及び図4を参照して本発明に係る毛羽除去装置の第2の実施例について、毛羽除去加工法と共に説明する。
この実施例の毛羽除去装置においては、毛焼き処理を行うために、加熱ボックス11の内部に図示しない加熱装置を備え、該加熱装置によって温度制御して加熱される回転自在のローラ12を先端から突出させた毛羽除去加工具1を用いている。しかしながら、この毛羽除去加工具1に代えて、図1及び図2に示したような構成の毛羽除去加工具1を用いることもでき、また、毛羽除去装置においてそれらを交換可能に形成することもできる。
【0036】
この実施例においても、図1を参照して先に説明したところと共通する構成を多々備えているので、それらについては、図において、図1の場合と同一の符号を付し、重複する説明はできるだけ省略する。
まず、被服模型ユニット18は、前述したように柔軟性を有する帆布状の素材で内部に流体を圧入可能にした袋状に形成され、その周囲に毛羽除去対象の被服を装着して内圧を負荷することにより、上記被服の全部または一部の立体的形状に近似した被服模型状に膨らませることが可能なものである。
【0037】
この被服模型ユニット18としては、被服の形状とその部位により準備されているトップ用の身ごろ部用ユニット、袖部用ユニット、ボットム用の腰部用ユニット、脚部用ユニット等から、被服に適合したものを選択し、処理すべき被服における該被服模型ユニット18に対応する部位を、その被服模型ユニット18に装着して毛羽除去処理を行うが、該被服模型ユニット18は、装置フレーム20の上下に回転可能に支持されてモータ21により回転駆動可能にしているユニット支持幹22に対して、それらに設けた対向するチャック23,23間に保持させる。被服において被服模型ユニット18を嵌入できない部位があれば、それらは上記チャック23内に保持させるか、毛羽除去処理の障害にならないところに避難させておく。そして、被服模型ユニット18内に流体を圧入して、被服と共に被服模型ユニット18を所要の内圧に膨らませる。
【0038】
一方、上記毛羽除去加工具1は、それを毛羽処理ユニット架台29上に配設したうえで、該毛羽処理ユニット架台29を、上記被服模型ユニット18の中心軸線に平行する方向に送る軸方向送り機構25により昇降可能とし、上記毛羽処理ユニット架台29上において、上記毛羽除去加工具1は、そのヘッド12aを被服模型ユニット18に向けて接離方向に駆動する加工具駆動機構31に支持させている。
【0039】
これを更に具体的に説明すると、まず、上記装置フレーム20には、前記被服模型ユニット18の回転の中心軸線Lに平行する軸方向送り機構25として、一対のユニット昇降スクリュー27が回転駆動機26により回転可能にして立設され、該ユニット昇降スクリュー27が毛羽処理ユニット架台29に螺挿されて、該ユニット昇降スクリュー27の回転により該架台29を昇降可能に保持している。そして、上記毛羽処理ユニット架台29上には、上記毛羽除去加工具1を駆動する加工具駆動機構31として、モータ32で回転駆動される位置制御スクリュー33が、被服模型ユニット18の回転の中心軸線Lの方向を向くように配設して回転自在に支持され、この位置制御スクリュー33が上記毛羽除去加工具1の駆動体15に螺挿されて、その回転により毛羽除去加工具1を被服模型ユニット18に向けて接離する方向に駆動できるようにしている。なお、上記毛羽除去加工具1を被服模型ユニット18に向けて接離する方向にガイドするガイド機構については図示を省略している。
【0040】
上記構成によって、上記軸方向送り機構25及び上記加工具駆動機構31は、上記被服模型ユニット18の回転に同期して制御装置35により駆動を制御され、毛羽除去加工具1のヘッドを被服模型ユニット18に被着させた被服の立体的形状に倣うように移動するさせるようにしている。
【0041】
なお、上述した毛羽除去処理に際して、処理前に被服に添付または取り付けられているマークや服飾品など、着脱可能なものを取り外す必要がある。被服を構成するボタンやジッパーなど、繊維以外の素材からなる副資材は、添付可能な耐炎・耐熱性のシールで覆って毛焼き処理の熱から防御するのが望ましい。
また、毛羽除去処理は被服の表面全体であるとは限らない。特に、被服着用者の趣味・趣向によって選ばれた被服の場合には、必要個所のみについて毛羽除去処理を行うことになる。
更に、上記毛焼き処理を行う場合、安全のために温度センサを配置したり、危険時のための緊急用放水ノズルの配設なども考慮するのが望ましい。
【符号の説明】
【0042】
1 毛羽除去加工具
4a,7a,12a ヘッド
7 シャリング用カッター部
18 被服模型ユニット
22 ユニット支持幹
25 軸方向送り機構
31 加工具駆動機構
35 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体的に加工された被服に直接毛焼き処理またはシャリング処理を行う毛羽除去加工法であって、
上記被服を、該被服の全部または一部の立体的形状に近似した被服模型状の輪郭を有していて表面が弾性的に変形する被服模型ユニットに密接状態に装着し、毛焼き用加熱源またはシャリング用カッター部を有する毛羽除去加工具のヘッドを、該被服の立体的形状に倣うように制御して該被服の表面に沿って相対移動させることにより、該被服表面の毛羽除去処理を行う、
ことを特徴とする立体加工被服の毛羽除去加工法。
【請求項2】
上記毛羽除去加工具に、上記被服模型ユニットに装着した毛羽除去対象の被服表面に対する該毛羽除去加工具のヘッドの相対位置または接触圧を検出する検出器を付設し、該検出器の出力に基づいて上記毛羽除去加工具を被服に対し位置制御して相対移動させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の立体加工被服の毛羽除去加工法。
【請求項3】
被服模型ユニットを、その中心軸線の周りで回転させるユニット支持幹に支持させて回転させると共に、上記毛羽除去加工具を、軸方向送り機構により上記被服模型ユニットの中心軸線に平行する方向に送りながら、加工具駆動機構によりその毛羽除去加工具のヘッドを被服模型ユニットに向けて接離方向に駆動し、毛羽除去加工具のヘッドを上記被服の立体的形状に倣うように移動させる制御を行う、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の立体加工被服の毛羽除去加工法。
【請求項4】
立体的に加工された被服に直接毛焼き処理またはシャリング処理を行う毛羽除去装置であって、
柔軟性を有する帆布状の素材で内部に流体を圧入可能にした袋状に形成され、その周囲に毛羽除去対象の被服を装着して内圧を負荷することにより、上記被服の全部または一部の立体的形状に近似した被服模型状の輪郭を有する状態に膨らませることが可能な被服模型ユニットを備えると共に、上記被服模型ユニットに、毛焼き用加熱源またはシャリング用カッター部を有する毛羽除去加工具のヘッドを対向させて配設し、
上記被服模型ユニットを、その中心軸線の周りで回転させるユニット支持幹に支持させると共に、上記毛羽除去加工具を、上記被服模型ユニットの中心軸線に平行する方向に送る軸方向送り機構に保持させたうえで、そのヘッドを被服模型ユニットに向けて接離方向に駆動する加工具駆動機構に支持させ、
該毛羽除去加工具のヘッドを上記被服の立体的形状に倣うように移動させる制御装置を備えている、
ことを特徴とする立体加工被服の毛羽除去装置。
【請求項5】
上記被服模型ユニットが、柔軟性を有する繊維強化合成樹脂複合材からなる帆布状の素材で袋状に形成され、
該被服模型ユニットは、被服のトップとボットムについてそれぞれ別体とし、少なくとも被服のトップについては身ごろ部用ユニットと袖部用ユニットとに、被服のボットムについては腰部用ユニットと脚部用ユニットとに分割して形成されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の立体加工被服の毛羽除去装置。
【請求項6】
上記毛羽除去加工具に、上記被服模型ユニットに装着した毛羽除去対象の被服表面に対する該毛羽除去加工具のヘッドの相対位置または接触圧を検出する検出器を付設し、
該検出器の出力に基づいて、ユニット支持幹に支持させて回転している被服模型ユニットに対する上記毛羽除去加工具のヘッドの位置を制御し、その毛羽除去加工具のヘッドを上記被服の立体的形状に倣うように移動させる制御装置を備えている、
ことを特徴とする請求項4または5に記載の立体加工被服の毛羽除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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