説明

立体映像拡大投影装置

【課題】電子ホログラフィによる立体映像の視域を拡大することができる立体映像拡大投影装置を提供する。
【解決手段】立体映像拡大投影装置1は、立体映像を拡大して投影するものであって、立体映像を表示する立体映像表示手段10と、当該立体映像の立体像が形成される位置に配置され、光を透過する媒体と、当該媒体中に分散された光拡散粒子と、からなる立体スクリーン30と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ホログラフィによる立体映像を拡大投影する立体映像拡大投影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、眼鏡を使う2眼式立体テレビや立体映画が普及しつつあり、眼鏡の不要な多眼式立体ディスプレイも開発されつつある。しかし、2眼式または多眼式の立体表示方式は、立体視要因(両眼視差、輻輳、焦点調節、運動視差)の一部しか用いておらず、特に焦点調節効果がないため、これらの方式で表示した立体映像を見ると、疲労が生じたり、頭痛が発生したりする等の問題がある。
【0003】
一方、電子ホログラフィによる立体映像は、前記した立体視要因を全て満たすため、自然で人体にも負担のない立体映像の提供が可能である。しかしながら、電子ホログラフィによる立体映像は、立体映像の表示に光の回折を利用するため、表示素子の画素サイズを光の波長と同程度にする必要がある。従って、現在の技術では表示できる像が小さく、視域が狭いという問題がある。そこで、特許文献1では、図7に示すように、撮影レンズ210と再生レンズ220とをリレーレンズとして構成することで、実寸大の大きな立体映像を再生する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−180995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案された方法で実寸大の大きな立体映像を再生すると、図7に示すように、再生される映像光線が限られた範囲にしか拡がらないため、立体再生像全体を観察するためには、観察者は再生レンズ220に接近した位置から観察する必要があった。従って、特許文献1で提案された方法は、観察する位置を自由に変えられない、すなわち視域が狭いという問題を依然として有していた。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであって、電子ホログラフィによる立体映像の視域を拡大することができる立体映像拡大投影装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために請求項1に係る立体映像拡大投影装置は、立体映像を拡大して投影する立体映像拡大投影装置であって、前記立体映像を表示する立体映像表示手段と、前記立体映像の立体像が形成される位置に配置され、光を透過する媒体と、当該媒体中に分散された光拡散粒子とからなる立体スクリーンと、を備える構成とした。
【0008】
このような構成を備える立体映像拡大投影装置は、立体映像の立体像が形成される位置に立体スクリーンを配置することで、立体映像を構成する光線が立体スクリーン内部の光拡散粒子によって反射または屈折される。これにより、立体映像を構成する光線の拡がり角が、元々の拡がり角、すなわち立体映像表示手段で表示できる光線の最大拡がり角以上に拡がるため、立体映像の視域が拡大する。
【0009】
また、前記課題を解決するために請求項2に係る立体映像拡大投影装置は、立体映像を拡大して投影する立体映像拡大投影装置であって、前記立体映像を表示する立体映像表示手段と、前記立体映像の立体像が形成される位置に配置され、光を透過する媒体と、当該媒体中に分散された光拡散粒子とからなる立体スクリーンと、前記立体スクリーンに投影された前記立体映像を拡大投影する拡大投影手段と、を備える構成とした。
【0010】
このような構成を備える立体映像拡大投影装置は、立体映像の立体像が形成される位置に立体スクリーンを配置することで、立体映像を構成する光線が立体スクリーン内部の光拡散粒子によって反射または屈折される。これにより、立体映像を構成する光線の拡がり角が、元々の拡がり角、すなわち立体映像表示手段で表示できる光線の最大拡がり角以上に拡がるため、立体映像の視域が拡大する。また、立体映像拡大投影装置は、拡大投影手段によって立体映像を拡大投影することで視域角が減少するが、立体スクリーンを用いることで立体映像を構成する光線の拡がり角が元々の拡がり角よりも拡がっているため、立体映像の拡大に起因する視域角の減少を通常よりも抑えることができる。
【0011】
また、前記課題を解決するために請求項3に係る立体映像拡大投影装置は、立体映像を拡大して投影する立体映像拡大投影装置であって、前記立体映像を表示する立体映像表示手段と、前記立体映像表示手段から表示された前記立体映像を拡大投影する拡大投影手段と、前記拡大投影手段によって拡大投影された前記立体映像の立体像が形成される位置に配置され、光を透過する媒体と、当該媒体中に分散された光拡散粒子とからなる立体スクリーンと、を備える構成とした。
【0012】
このような構成を備える立体映像拡大投影装置は、立体映像の拡大立体像が形成される位置に立体スクリーンを配置することで、立体映像を構成する光線が立体スクリーン内部の光拡散粒子によって反射または屈折される。これにより、立体映像を構成する光線の拡がり角が、元々の拡がり角、すなわち立体映像表示手段で表示できる光線の最大拡がり角以上に拡がるため、立体映像の視域が拡大する。また、立体映像拡大投影装置は、拡大投影手段によって立体映像を拡大投影することで視域角が減少するが、立体スクリーンを用いることで立体映像を構成する光線の拡がり角が元々の拡がり角よりも拡がっているため、立体映像の拡大に起因する視域角の減少を通常よりも抑えることができる。
【0013】
また、請求項4に係る立体映像拡大投影装置は、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る立体映像拡大投影装置であって、前記光拡散粒子の屈折率が、前記媒体の屈折率よりも、1.0以上高い構成とした。
【0014】
このような構成を備える立体映像拡大投影装置は、立体スクリーンを構成する光拡散粒子の屈折率を媒体の屈折よりも1.0以上高くすることで、散乱光を全方向に一様に散乱させることができる。
【0015】
また、請求項5に係る立体映像拡大投影装置は、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る立体映像拡大投影装置であって、前記光拡散粒子が、酸化チタンまたは酸化亜鉛であり、前記媒体が、水である構成とした。
【0016】
このような構成を備える立体映像拡大投影装置は、立体スクリーンを構成する光拡散粒子として、屈折率の高い酸化チタンまたは酸化亜鉛を用いることで、立体映像を構成する光線をより広範囲に散乱させることができる。また、立体映像拡大投影装置は、立体スクリーンを構成する媒体として、屈折率が1.0に近い水を用いることで、光拡散粒子と媒体との屈折率の差を大きくすることができる。
【0017】
また、請求項6に係る立体映像拡大投影装置は、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る立体映像拡大投影装置であって、前記光拡散粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛または空気の泡であり、前記媒体が、透明なプラスチックである構成とした。
【0018】
このような構成を備える立体映像拡大投影装置は、立体スクリーンを構成する光拡散粒子として、屈折率の高い酸化チタン、酸化亜鉛または空気の泡を用いることで、立体映像を構成する光線をより広範囲に散乱させることができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、立体スクリーンを用いることで、立体映像を構成する光線の拡がり角を拡げることができるため、立体映像の視域を拡大することができる。
【0020】
請求項2に係る発明によれば、立体スクリーンおよび拡大投影手段を用いることで、立体映像を構成する光線の拡がり角および立体映像の大きさを拡大することができるため、立体映像の視域と大きさの両方を拡大することができる。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、拡大投影手段および立体スクリーンを用いることで、立体映像の大きさおよび立体映像を構成する光線の拡がり角を拡大することができるため、立体映像の大きさと視域の両方を拡大することができる。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、光拡散粒子と媒体との屈折率の差を所定以上とすることで、立体映像の視域をより拡大することができる。
【0023】
請求項5に係る発明によれば、光拡散粒子と媒体との組み合わせとして、両者の屈折率の差が拡がるような組み合わせを用いることで、立体映像の視域をより拡大することができる。また、媒体として液体である水を用いることで、固体の場合と比較して、立体スクリーンの作成が容易となる。
【0024】
請求項6に係る発明によれば、媒体として固体であるプラスチックを用いることで、液体の場合と比較して、持ち運びや設置の際にこぼれることがないため、取り扱いが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る立体映像拡大投影装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る立体映像拡大投影装置の立体映像表示装置によって表示される拡大立体像の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る立体映像拡大投影装置の効果を示す図であって、(a)は、立体スクリーンなしで観察した立体像を示す図、(b)は、本発明の第1実施形態に係る立体映像拡大投影装置によって拡大投影された立体像を示す図、である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る立体映像拡大投影装置の全体構成を示す概略図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る立体映像拡大投影装置の全体構成を示す概略図である。
【図6】本発明の変形例に係る立体映像拡大投影装置の全体構成を示す概略図である。
【図7】本発明の従来技術に係る発明の全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態に係る立体映像拡大投影装置について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、同一の構成については同一の名称及び符号を付し、詳細説明を省略する。
【0027】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る立体映像拡大投影装置1の構成について、図1〜図3を参照しながら説明する。
【0028】
立体映像拡大投影装置1は、立体映像を拡大して投影するものである。立体映像拡大投影装置1は、ここでは図1に示すように、立体映像表示手段10と、立体スクリーン30と、を備えている。
【0029】
立体映像表示手段10は、電子ホログラフィによる立体映像を表示するものである。立体映像表示手段10は、具体的には予め取得されたホログラムデータ(干渉縞の電子情報)を再生することで、立体映像を表示する。なお、ホログラムデータの取得方法は特に限定されず、例えば記録媒体に電子撮像デバイスを用いて干渉縞を映像信号として取得する方法や、被写体の空間的な位置情報等から計算によってホログラムを生成する方法や、インテグラルフォトグラフィ(IP)方式で撮影した映像からホログラムを計算する方法等を利用することができる。
【0030】
立体映像表示手段10は、より具体的には位相変調型の空間光変調器で構成される。位相変調型の空間光変調器は、立体像を構成する光の位相のみを変調するため、再生する光に不要光(共役光と透過光)が含まれない。従って、立体映像拡大投影装置1は、図1に示すように、シングルサイドバンド法によって不要光を除去するための遮光板(図7参照)が不要となる。立体映像表示手段10は、例えば位相変調型の液晶ディスプレイやマイクロミラーデバイスによって実現することができる。また、立体映像表示手段10は、ここでは当該立体映像表示手段10の手前側、すなわち観察者の側(図1の右側)に被写体の実像を表示することができる実像再生型の表示手段で構成される。
【0031】
ここで、立体映像表示手段10が表示する立体映像から出る光線の拡がり角αは、図1に示すように、当該立体映像表示手段10で表示できる光線の最大の拡がり角αで決まる。そして、図1に示すように、この拡がり角αが立体映像の元々(拡大前)の視域角αとなる。
【0032】
立体映像表示手段10は、大きな立体映像を表示するために、図1に示すように、当該立体映像表示手段10から十分遠く離れた位置に立体像が形成されるような表示データ(ホログラムデータ)を再生することとする。なお、このような表示データは、例えば被写体を遠くに置いた場合の光線情報から作成することができる。立体映像表示手段10は、このような表示データを再生することで、図1に示すように、立体映像から出る光線を拡がり角αで拡散させることができる。従って、小さな立体映像表示手段10であっても、大きく拡大された立体映像を表示することができる。
【0033】
例えば、図2に示す様に、被写体を立体映像表示手段10から91.6cm遠くに置いた場合の光線情報から表示データを作成し、その表示データをサイズ4cmの立体映像表示手段10で再生する場合、立体映像表示手段10で表示できる光線の最大拡がり角が5度であると、立体映像表示手段10から91.6cm離れた場所に、立体映像表示装置のサイズの3倍に拡大された拡大立体像が表示される。
【0034】
しかしながら、このように大きな立体映像を表示したとしても、図1に示すように、元々の光線の拡がり角α(視域角α)が小さいため、立体像から出る光線が拡散し、当該光線が互いに交差しない領域が生じる。従って、立体映像表示手段10によって立体映像を表示しただけでは、視域角αが小さいため、視点を固定した状態で立体像の一部しか観察することができず、立体像の全体を一度に観察することができない。
【0035】
例えば、立体映像表示手段10から「NICT」という文字が含まれる立体映像を表示すると、前記したように立体映像表示手段10によって立体映像を表示しただけでは、図3(a)に示すように、立体像の中心領域しか観察することができない。これは、立体像の中心領域においてのみ光線同士が交差し、立体像の中心領域以外では光線同士が交差していないためである。
【0036】
そこで、立体映像拡大投影装置1は、図1に示すように、立体像が形成される位置に立体スクリーン30を配置する。これにより、図1に示すように、立体像から出る光線の拡がり角をαからβに拡大することができるため、広い拡がり角βを持った拡散光線が互いに交差するようになり、視点を固定したままで拡大立体像の全体を一度に観察できるようになる。
【0037】
例えば、前記したように立体映像表示手段10から「NICT」という文字が含まれる立体映像を表示した場合において、立体像が形成される位置に立体スクリーン30を配置すると、図3(b)に示すように、立体像の全体を観察できるようになる。これは、立体像の全体で光線同士が交差し、図3(a)よりも視域が拡大しているためである。
【0038】
立体スクリーン30は、立体映像の視域を拡大するものである。立体スクリーン30は、光を透過する媒体(図示省略)と、当該媒体中に分散された光拡散粒子(図示省略)と、から構成される。立体スクリーン30は、具体的には内部に光拡散粒子を分散させた液体または固体である。立体スクリーン30は、図1に示すように、立体映像表示手段10によって表示される立体映像の立体像が形成される位置に合わせて、立体映像表示手段10から十分離れた位置に配置される。
【0039】
立体スクリーン30は、図1に示すように、立体映像の立体像を内部で表示(結像)するために、立体的な形状で構成される。但し、その具体的な形状は、当該立体像を表示することができる形状であればよく、図1に示すような立方体であってもよく、あるいは直方体であっても構わない。また、立体スクリーン30の大きさは、前記したような大きく拡大された立体映像を表示できる大きさで構成される。なお、ここでは透明なアクリル等のプラスチック板を箱状に形成し、いずれかのプラスチック板に孔を形成するか、いずれかのプラスチック板を着脱自在とした。これにより、プラスチック板に形成された孔から、あるいはプレスチック板を着脱して光拡散粒子を容易に出し入れできる。
【0040】
光拡散粒子は、光を拡散する微小な粒子である。光拡散粒子は、光を反射または屈折により拡散させる。光拡散粒子としては、具体的には酸化チタン、酸化亜鉛等の金属化合物の白色粉末や、ポリスチレン等の透明プラスチック素材をビーズ状に成形した粒子や、脂肪等の有機化合物の粒子、空気の泡等が挙げられる。
【0041】
光拡散粒子のサイズは、光の波長よりも小さくても大きくてもよく、例えば1000nm以下とすることが好ましく、10nm以下とすることが特に好ましい。光の波長よりも小さい光拡散粒子(例えば酸化チタン)を用いる場合は、可能な限り小さいものを用いることが好ましい。これにより、光の散乱効率を高めることができる。また、光の波長よりも大きい光拡散粒子を用いる場合は、光の波長の1.7倍程度の大きさのものを用いることが好ましい。これにより、散乱光を全方向に一様に散乱させることができる。
【0042】
光拡散粒子の個数密度は、視域角には影響を与えず、投影する立体映像の明るさに影響を与える。例えば、光拡散粒子の個数密度を50000個/mm以上とすることで、立体映像の明るさを観察に影響のない明るさとすることができる。
【0043】
媒体は、光拡散粒子が分散するとともに、光を透過する液体または固体である。媒体となる液体としては、水やアルコール、油等の透明な液体が挙げられる。媒体となる液体としては水が扱い易いが、水を用いる場合は親水性の良い光拡散粒子を用いる。また、媒体として液体を用いる場合は、分散させる液体の比重に近い比重を有する光拡散粒子を用いることが好ましい。これにより、光拡散粒子の分散状態を安定的に維持することができる。
【0044】
媒体として液体を用いる場合、例えば図示しない立方体の透明な容器に液体を充填し、その中に光拡散粒子を投入し、攪拌して分散させることで立体スクリーン30を作成することができる。なお、媒体として液体を用いると、固体の場合と比較して、立体スクリーン30の作成が容易であるという利点がある。また、媒体となる液体としては、前記したように、水、アルコール、油等を用いるが、光の散乱量を増やすために、微粒子の屈折率となるべく大きく異なる屈折率を持つ液体を用いることが好ましい。例えば前記した微粒子の屈折率は1.0より大きいため、媒体としては、屈折率が1.0に近い水(屈折率:1.3334(20℃))を用いることが最も好ましい。
【0045】
媒体として水を用いる場合、光拡散粒子としては、屈折率の高い酸化チタン(屈折率:2.72(ルチル)、2.52(アナタース))や、酸化亜鉛(屈折率:1.95)を用いることが好ましい。このように、光拡散粒子として屈折率の高い酸化チタンまたは酸化亜鉛を用いることで、立体映像を構成する光線をより広範囲に散乱させることができ、媒体として屈折率が1.0に近い水を用いることで、光拡散粒子と媒体との屈折率の差を大きくすることができる。従って、光拡散粒子と媒体との組み合わせとして、両者の屈折率の差が拡がるような組み合わせを用いることで、立体映像の視域をより拡大することができる。
【0046】
また、媒体として水を用いる場合、光拡散粒子としては、酸化チタンを用いることが最も好ましい。これにより、立体スクリーン30を構成する光拡散粒子の屈折率を媒体の屈折よりも1.0以上高くすることができるため、散乱光を全方向に一様に散乱させることができる。従って、光拡散粒子と媒体との屈折率の差を所定以上とすることで、立体映像の視域をより拡大することができる。
【0047】
なお、光拡散粒子と媒体との組み合わせが、分散の安定性が短期的な光拡散粒子と液体との組み合わせである場合は、立体スクリーン30は、液体を撹拌するための加振器や攪拌機を備えてもよい。
【0048】
媒体となる固体としては、プラスチック等が上げられる。この場合、酸化チタンや酸化亜鉛の粉末をポリカーボネートやアクリル等の溶液中に分散させた後、熱や光等で硬化させたプラスチックを用いればよい。なお、媒体として固体を用いると、液体の場合と比較して、持ち運びや設置の際にこぼれることがないため、取り扱いが容易であるという利点がある。
【0049】
また、プラスチック溶液内に微小な空気の泡(ナノバブル)を分散させて硬化させたものを用いても良い。この場合は、空気の屈折率が1であるので、プラスチック媒体には、できるだけ屈折率の高いものを用いるのが好ましく、具体的にはポリスチレン(屈折率:1.6)を用いることが好ましい。
【0050】
以上のような構成を備える立体映像拡大投影装置1は、立体映像の立体像が形成される位置に立体スクリーン30を配置することで、立体映像を構成する光線が立体スクリーン30内部の光拡散粒子によって反射または屈折される。これにより、立体映像を構成する光線の拡がり角が、元々の拡がり角、すなわち立体映像表示手段10で表示できる光線の最大拡がり角以上に拡がるため、立体映像の視域が拡大する。
【0051】
従って、立体映像拡大投影装置1によれば、立体スクリーン30を用いることで、立体映像を構成する光線の拡がり角を拡げることができるため、立体映像の視域を拡大することができる。なお、実際に立体映像拡大投影装置1の効果について実験を行った結果、水を媒体とし、酸化チタン(粒径7nm)とした立体スクリーン30に立体映像を投影すると、立体映像の元々の視域角α(=5度)を、視域角β(=10度)に拡大することができた。
【0052】
[第1実施形態の動作]
以下、立体映像拡大投影装置1の動作について、図1を参照しながら簡単に説明する。まず、立体映像表示手段10によって、図1に示すように、予め取得されたホログラムデータを再生する。その際、立体映像の立体像は、図1に示すように、立体スクリーン30の内部に形成される。すると、図1に示すように、立体スクリーン30内の光拡散粒子によって光線が拡散し、当該光線の拡がり角αが拡がり角βに拡大する。また、立体スクリーン30中の光拡散粒子は立体的に分散しているため、立体映像の各点が散乱光源となり、映像の立体性は保たれる。このような動作により、立体映像拡大投影装置1は、立体映像の視域を拡大することができる。
【0053】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係る立体映像拡大投影装置1Aについて、図4を参照しながら簡単に説明する。第2実施形態に係る立体映像拡大投影装置1Aは、図4に示すように、拡大投影手段20を更に備える点と、立体スクリーン30が配置される位置以外は、第1実施形態に係る立体映像拡大投影装置1と同様の構成を備えている。従って、以下の説明では、立体映像拡大投影装置1との相違点を中心に説明を行い、当該立体映像拡大投影装置1と重複する構成や、立体映像拡大投影装置1Aの動作については詳細説明を省略する。
【0054】
立体映像拡大投影装置1Aの立体映像表示手段10は、前記した立体映像拡大投影装置1と同様に、位相変調型の空間光変調器で構成される。一方、立体映像表示手段10は、図4に示すように、当該立体映像表示手段10に近接した位置に上下逆の立体像が形成されるような表示データ(ホログラムデータ)を再生することとする。そして、図4に示すように、立体スクリーン30を立体映像表示手段10に近接した位置であり、かつ、立体映像の立体像が形成される位置に配置する。これにより、図4に示すように、立体像の像サイズは拡大されていないものの、立体スクリーン30によって視域角が元々のαからβに拡大された立体映像を表示することができる。
【0055】
立体映像拡大投影装置1Aの立体スクリーン30の大きさは、図4に示すように、拡大されていない立体映像を表示できる大きさであればよく、前記した立体映像拡大投影装置1の立体スクリーン30よりも小さいもので構わない。
【0056】
拡大投影手段(拡大光学系)20は、立体スクリーン30に投影された立体映像を拡大投影するものである。拡大投影手段20は、図4に示すように、焦点距離fを有する第1レンズ21と、焦点距離2fを有する第2レンズ22と、から構成される。すなわち、第2レンズ22は、第1レンズ21の2倍の焦点距離を有している。
【0057】
このように、第2レンズ22の焦点距離を第1レンズ21の焦点距離の2倍とすることで、図1に示すように、立体映像の立体像の像サイズを2倍に拡大し、当該拡大立体像を空中に表示することができる。なお、像サイズが2倍になると視域角が半分のβ/2となるが、立体スクリーン30なしで単に拡大した場合の視域角α/2よりも大きいため、立体映像拡大投影装置1Aによれば、立体像の像サイズ拡大と視域角拡大の両方を実現することができる。また、立体映像拡大投影装置1Aは、図4に示すように、拡大立体像が空中に生成されるため、前記した立体映像拡大投影装置1のように液体や固体から構成される立体スクリーン30の中に立体像を生成する場合と比較して、より自然な形で拡大立体像を観察できるというメリットもある。
【0058】
第1レンズ21および第2レンズ22の大きさは、立体スクリーン30によって視域角が拡大した光線を全て入射させることができる大きさで構成される。但し、第1レンズ21の大きさを第2レンズ22以上とする必要はない。第1レンズ21および第2レンズ22の大きさは、具体的には拡大したい立体像の像サイズと視域角βとに応じて決めればよい。なお、立体像の拡大率は前記したような2倍に限定されず、第2レンズ22の焦点距離を第1レンズ21の焦点距離よりも大きくすることで、任意の拡大率に設定することができる。
【0059】
以上のような構成を備える立体映像拡大投影装置1Aは、立体映像の立体像が形成される位置に立体スクリーン30を配置することで、立体映像を構成する光線が立体スクリーン30内部の光拡散粒子によって反射または屈折される。これにより、立体映像を構成する光線の拡がり角が、元々の拡がり角、すなわち立体映像表示手段10で表示できる光線の最大拡がり角以上に拡がるため、立体映像の視域が拡大する。また、立体映像拡大投影装置1Aは、拡大投影手段20によって立体映像を拡大投影することで視域角が減少するが、立体スクリーン30を用いることで立体映像を構成する光線の拡がり角が元々の拡がり角よりも拡がっているため、立体映像の拡大に起因する視域角の減少を通常よりも抑えることができる。
【0060】
従って、立体映像拡大投影装置1Aによれば、立体スクリーン30および拡大投影手段20を用いることで、立体映像を構成する光線の拡がり角および立体映像の大きさを拡大することができるため、立体映像の視域と大きさの両方を拡大することができる。
【0061】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態に係る立体映像拡大投影装置1Bについて、図5を参照しながら簡単に説明する。第3実施形態に係る立体映像拡大投影装置1Bは、図5に示すように、立体映像表示手段10の代わりに立体映像表示手段10Aを備える点と、拡大投影手段20の代わりに拡大投影手段20Aを備える点と、立体スクリーン30が配置される位置以外は、第2実施形態に係る立体映像拡大投影装置1Aと同様の構成を備えている。従って、以下の説明では、立体映像拡大投影装置1Aとの相違点を中心に説明を行い、当該立体映像拡大投影装置1Aと重複する構成や、立体映像拡大投影装置1Bの動作については詳細説明を省略する。
【0062】
立体映像拡大投影装置1Bの立体映像表示手段10Aは、前記した立体映像拡大投影装置1,1Aとは異なり、振幅変調型の空間光変調器で構成される。振幅変調型の空間光変調器は、立体像を構成する光の位相に加えて振幅を変調するため、再生する光に不要光(共役光と透過光)が含まれる。従って、立体映像拡大投影装置1Bは、図5に示すように、シングルサイドバンド法によって不要光を除去するための遮光板23が必要となる。立体映像表示手段10Aは、例えば振幅変調型の液晶ディスプレイやマイクロミラーデバイスによって実現することができる。
【0063】
遮光板23は、図5に示すように、拡大投影手段20Aの一部を構成し、第1レンズ21と第2レンズ22との間に配置される。そして、遮光板23は、図5に示すように、視域の半分を覆うことで立体映像表示手段10Aから出る不要光を除去する。
【0064】
拡大投影手段(拡大光学系)20Aは、立体映像表示手段10Aから表示された立体映像を拡大投影するものである。拡大投影手段20Aは、図5に示すように、焦点距離fを有する第1レンズ21と、焦点距離2fを有する第2レンズ22と、から構成される。すなわち、第2レンズ22は、第1レンズ21の2倍の焦点距離を有している。
【0065】
このように、第2レンズ22の焦点距離を第1レンズ21の焦点距離の2倍とすることで、図5に示すように、立体映像の立体像の像サイズが2倍に拡大される。なお、第1レンズ21の大きさは、図5に示すように、立体映像表示手段10Aから拡がり角αで出る光線をカバーできる大きさであればよい。一方、第2レンズ22の大きさは、図5に示すように、拡大された拡大立体像の光線をカバーできる大きさが必要となる。第2レンズ22の大きさは、例えば前記したように第2レンズ22の焦点距離を第1レンズ21の2倍とした場合、第1レンズ21の2倍とする必要がある。なお、立体像の拡大率は前記したような2倍に限定されず、例えば第2レンズ22の焦点距離を第1レンズ21の焦点距離よりも大きくすることで、任意の拡大率に設定することができる。
【0066】
以上のような構成を備える立体映像拡大投影装置1Bは、立体映像の拡大立体像が形成される位置に立体スクリーン30を配置することで、立体映像を構成する光線が立体スクリーン30内部の光拡散粒子によって反射または屈折される。これにより、立体映像を構成する光線の拡がり角が、元々の拡がり角、すなわち立体映像表示手段10Aで表示できる光線の最大拡がり角以上に拡がるため、立体映像の視域が拡大する。また、立体映像拡大投影装置1Bは、拡大投影手段20Aによって立体映像を拡大投影することで視域角が減少するが、立体スクリーン30を用いることで立体映像を構成する光線の拡がり角が元々の拡がり角よりも拡がっているため、立体映像の拡大に起因する視域角の減少を通常よりも抑えることができる。
【0067】
従って、立体映像拡大投影装置1Bによれば、拡大投影手段20Aおよび立体スクリーン30を用いることで、立体映像の大きさおよび立体映像を構成する光線の拡がり角を拡大することができるため、立体映像の大きさと視域の両方を拡大することができる。
【0068】
以上説明したように、本発明に係る立体映像拡大投影装置1,1A,1Bは、電子ホログラフィや、インテグラルフォトグラフィ、体積表示型立体映像等の、実像を形成する方式の立体映像の拡大に利用することができる。特に理想的な立体映像であるものの、像サイズや視域の狭い電子ホロググラフィ映像の拡大に利用することで、その効果が最も発揮されることになる。
【0069】
また、先に説明したように、電子ホログラフィによる立体映像は、光の波長と同程度の画素サイズを持つ表示デバイスを用いて、光の回折を利用して立体映像を再生するため、像サイズを大きくする為には、膨大な画素数を持つディスプレイを製作する必要があり、技術的、コスト的に実現の困難さが極めて高かった。一方、本発明に係る立体映像拡大投影装置1,1A,1Bを用いると、低コストで技術的実現容易性を維持したまま、理想的な大型立体映像を実現する事ができ、頭痛や眼精疲労を起こすといった従来の2眼式または多眼式の立体表示方式の問題を解消し、自然で大きな立体映像を楽しむことができる。
【0070】
以上、本発明に係る立体映像拡大投影装置について、発明を実施するための形態により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0071】
例えば、第1実施形態に係る立体映像拡大投影装置1は、図1に示すように、立体映像表示手段10によって表示される立体映像の立体像が形成される位置に合わせて、立体映像表示手段10から十分離れた位置に配置されていたが、図6に示すように、立体映像表示手段10と立体スクリーン30との間に複数のミラーMを挿入することで、立体映像表示手段10と立体スクリーン30との間の距離を短縮することもできる。この場合、変形例に係る立体映像拡大投影装置1Cは、例えば図6に示すように、立体映像表示手段10から所定距離離れた前方(図面右側)に第1のミラーMを配置し、当該第1のミラーMの上方または下方に第2のミラーMを配置し、当該第2のミラーMの前方(右側)に第3のミラーMを配置し、当該第3のミラーMの下方または上方に第4のミラーMを配置し、立体映像表示装置10からの立体映像を反射させることで、立体スクリーン30に立体映像を表示することができる。なお、現在の位置よりも上方または下方で立体映像を表示する場合には、2つのミラーMのみを挿入することで、立体映像表示手段10と立体スクリーン30との間の距離を短縮することができる。
【0072】
また、第3実施形態に係る立体映像拡大投影装置1Bは、振幅変調型の空間光変調器である立体映像表示手段10Aを用いていたが、これに代えて、第1、第2実施形態に係る立体映像拡大投影装置1,1Aで用いていた位相調型の空間光変調器である立体映像表示手段10を用いても構わない。この場合、立体映像拡大投影装置1Bは、前記した立体映像拡大投影装置1,1Aと同様に遮光版23が不要となる。
【0073】
また、第1〜第3実施形態に係る立体映像拡大投影装置1,1A,1Bは、立体スクリーン30の媒体として水等の液体やプラスチック等の固体を用いていたが、ゲル状の物質を媒体として用いても構わない。
【符号の説明】
【0074】
1,1A,1B,1C 立体映像拡大投影装置
10,10A 立体映像表示手段
20,20A 拡大投影手段(拡大光学系)
21 第1レンズ
22 第2レンズ
30 立体スクリーン
210 撮影レンズ
220 再生レンズ
M ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体映像を拡大して投影する立体映像拡大投影装置であって、
前記立体映像を表示する立体映像表示手段と、
前記立体映像の立体像が形成される位置に配置され、光を透過する媒体と、当該媒体中に分散された光拡散粒子とからなる立体スクリーンと、
を備えることを特徴とする立体映像拡大投影装置。
【請求項2】
立体映像を拡大して投影する立体映像拡大投影装置であって、
前記立体映像を表示する立体映像表示手段と、
前記立体映像の立体像が形成される位置に配置され、光を透過する媒体と、当該媒体中に分散された光拡散粒子とからなる立体スクリーンと、
前記立体スクリーンに投影された前記立体映像を拡大投影する拡大投影手段と、
を備えることを特徴とする立体映像拡大投影装置。
【請求項3】
立体映像を拡大して投影する立体映像拡大投影装置であって、
前記立体映像を表示する立体映像表示手段と、
前記立体映像表示手段から表示された前記立体映像を拡大投影する拡大投影手段と、
前記拡大投影手段によって拡大投影された前記立体映像の立体像が形成される位置に配置され、光を透過する媒体と、当該媒体中に分散された光拡散粒子とからなる立体スクリーンと、
を備えることを特徴とする立体映像拡大投影装置。
【請求項4】
前記光拡散粒子の屈折率は、前記媒体の屈折率よりも、1.0以上高いことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の立体映像拡大投影装置。
【請求項5】
前記光拡散粒子は、酸化チタンまたは酸化亜鉛であり、
前記媒体は、水であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の立体映像拡大投影装置。
【請求項6】
前記光拡散粒子は、酸化チタン、酸化亜鉛または空気の泡であり、
前記媒体は、透明なプラスチックであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の立体映像拡大投影装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−92582(P2013−92582A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233276(P2011−233276)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】