説明

立体模様印刷物

【課題】 視覚的により立体感を増し、縦・横万線、波万線等の開図形、同心円・同心多角形等の閉図形等、如何なる万線パターンにも対応できるとともに、さらにはデザイン上の制約を受けない新たな立体模様印刷物を提供する。
【解決手段】 第1の領域と第2の領域と第3の領域により文字、記号、模様等の形状を画線の配列で形成する立体模様印刷物であり、第1の領域は第2の領域より画線の占める割合が低く、第2の領域は第3の領域より画線の占める割合が低く、第1の領域と第3の領域は第2の領域を挟み込む位置にあり、第1の領域と第2の領域と第3の領域の境界部を、画線配列の端部で形成する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、株券、有価証券、通行券、カード等の偽造、変造を防止する必要性のある貴重印刷物及びその作成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、銀行券、株券、有価証券、通行券、カード等の偽造、変造を防止する必要性のある貴重印刷物においては、視覚的な偽造防止効果を与えるため、券面の背景画像等の一部又は複数の箇所に偽造防止用のレリーフ模様を付与することが多い。このレリーフ模様は、立体的に何らかのモチーフを二次元平面に表現する模様である。
【0003】
レリーフ模様は、一般的に証券印刷物等のデザインに広く用いられている地紋、彩紋及び模様等を構成するため作成される複数の万線から形成される。図1に示すように、モチーフとなる二値画像の背景部分と絵柄部分との境界線で万線を曲折させることで、画線ピッチが狭くなる部分で影(暗)を、画線ピッチが広くなる部分で光(明)とを表現して、境界部に明暗を与えることとなり、モチーフの二値画像が立体的に視認できる印刷物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、レリーフ模様の簡易的な作成方法として、複数の画素からなる階調画像のモチーフを、濃度値が定義された画素の配列データとしてコンピュータ内に用意し、この階調画像に基づき二値画像が作成され、二値画像に基づき画像に含まれる輪郭線を抽出する。また、階調画像上に複数の基準線が定義され、この基準線に基づいて作成された万線はモチーフとなる階調画像に含まれる絵柄の部分では、その画素の濃度値に応じて曲折した線を作成する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平5−120450号公報
【特許文献2】特開平5−158207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的な証券印刷物等は、偽造及び改ざんの防止という観点から、凹版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等の様々な印刷方式を用いて複数の刷色を加刷し、偽造、改ざん、変造等を困難にしているが、その反面、この従来技術によりレリーフ模様を形成する場合、明暗のコントラストがつけにくくなり、モチーフを立体画像として視認することが難しくなる。
【0007】
また、従来技術によって、直万線上にレリーフ模様を作成する場合、モチーフとなる二値画像の輪郭線に合わせて画線の一部を曲折させ、画線ピッチが狭くなる部分により暗(影)を、画線ピッチが広くなる部分により明(光)を表現するため、光と影の方向が画線の長手方向に限定されてしまう。
【0008】
また、波万線上にレリーフ模様を作成する場合、モチーフとなる二値画像の輪郭線に合わせて画線の一部を曲折させる方向が限定されるため、デザインに制約が生じてしまう。
【0009】
また、同心円、同心多角形等の閉図形による万線パターンにおいて、従来技術によりレリーフ模様を作成した場合、モチーフとなる二値画像に影がつけにくく、視覚的な立体感が乏しくなる。
【0010】
本発明では、以上の点に鑑み、縦・横万線、波万線等の開図形、同心円・同心多角形等の閉図形等、如何なる万線パターンにおいても、従来技術から視覚的により立体感を増し、さらにはデザイン上の制約を受けない新たな立体模様印刷物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の立体模様印刷物は、第1の領域と第2の領域と第3の領域により、文字、記号、模様等の形状を画線の配列で形成し、前記第1の領域は前記第2の領域より画線の占める割合が低く、前記第2の領域は前記第3の領域より画線の占める割合が低く、前記第1の領域と前記第3の領域は、前記第2の領域を挟み込む位置にあり、前記第1の領域と前記第2の領域と前記第3の領域の境界部は、前記画線配列の端部で形成することを特徴としている。
【0012】
また、本発明の立体模様印刷物は、前記第2の領域の画線と、前記第3の領域の画線はピッチが異なっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、画線の一部を曲折させた従来技術とは異なり、モチーフとなる二値画像を、明となる第1の領域、中間調となる第2の領域、暗となる第3の領域によって形成し、かつ、第1の領域と第2の領域と第3の領域の画線の境界部を画線の端部で形成するため、モチーフを二次元平面に表現する場合に、明と暗がより強調され、立体感を増した立体模様印刷物を得ることが可能となった。
【0014】
また、本発明によれば、縦・横・斜め万線、波万線等の開図形、同心円・同心多角形等の閉図形等、如何なる万線パターンにも影響されることなく、立体模様を作成することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の立体模様印刷物の作成方法について図面を用いて説明する。なお、本発明の原理を最も分かりやすく説明するために、ここでは水平方向の画線で形成した万線群で説明することとするが、垂直方向、斜め方向の万線群、波万線群等の開図形及び同心円、同心多角形等の閉図形等においても、本発明の立体模様印刷物は同様に作成される。
【0016】
まず、図2(a)に示すように、モチーフとなる二値画像3を作成、又はスキャナ等からデータとして取り込む。なお、ここではモチーフの例として桜の花で説明していくが、本発明は文字、数字、模様等如何なる形状であっても差し支えない。前記取り込んだ二値画像を基画像4として、図2(b)に示すように、前記基画像4の位相を任意にずらして、前記基画像4を形成する画像万線群7の画線と、背景万線群8の画線との双方の画線で、基画像4の影を現す背景画像部10として、それぞれ作成する。
【0017】
次に、図3(a)に示すように、立体模様を施す万線パターン6を作成する。この万線パターンの画線を図3(b)に示すように1本おきに、前記基画像4を形成するための画像万線群7と、前記背景画像部を形成するための背景万線群8とに定義する。なお、ここでは、本発明の原理を分かりやすくするために、万線パターンから画像万線群と背景万線群を分け、さらに画像万線群7の画線を実線で、背景万線群8の画線を破線で示しているが、実際はニつの万線群を分けず、またニつの万線群の画線は同一である。
【0018】
次に、前記万線パターンから定義した前記画像万線群7から前記基画像4を形成する万線を、図4(a)に示すように前記基画像の輪郭に合わせて前記基画像4の部分の画線9のみを抽出し、前記背景万線群8から前記背景画像部5を形成するための画線を、図4(b)に示すように前記背景画像部の輪郭に合わせて、背景画像部5の背景画像部部分10のみを削除すると、図5(a)に示すように本発明の立体模様11が作成される。
【0019】
図5(b)の破線で示す第2の領域9となる立体模様の輪郭線16に、基画像9と背景画像部10の画線がない部分で明を形成する第1の領域12と、基画像9と背景画像部10の双方の画線がある部分で暗を形成する第3の領域13は、第2の領域を中心に、前記第1の領域12と前記第3の領域13で挟み込む位置に設けることで、明、中間調、暗の階調が構成され、立体模様が視覚的に立体感のある画像となる。請求項1で記載した第1の領域、第2の領域及び第3の領域の画線の占める割合とは、前述したように画線の密度又は領域の濃度等によって、明、中間調、暗の階調を構成するものである。ここで、第1の領域と第3の領域は、第2の領域を中心に挟み込む位置に設けるとは、図5(b)に示すように、基画像9と背景画像部10の画線がない部分で明を形成する第1の領域12、基画像9で形成する第2の領域、基画像9と背景画像部10の双方の画線がある部分で暗を形成する第3の領域13の位置が図に示す位置関係になることを意味している。なお、第1の領域、第2の領域及び第3の領域を示す実線(楕円)、破線等は説明上付記しただけであり、実際の立体模様印刷物にはないものである。
【0020】
なお、基画像9と背景画像部10の画線がない部分によって明を形成する第1の領域12と、基画像9と背景画像部10の双方の画線がある部分によって暗を形成する第3の領域13は1対1の比率で構成しているが、立体画像を形成するために、この2つの領域の比率はほぼ同等であることが望ましい。ただし、背景画像部を作成する際、基画像をやや縮尺して、暗の部分をやや多くとっても差し支えない。
【実施例】
【0021】
本発明の詳細な実施例を説明する。
(実施例1)
図5に示すように、水平方向の画線で形成した万線パターンに、桜の花をモチーフとして本発明の立体模様11を作成する。まず、万線パターン6を画像万線群7と背景万線群8に定義するが、画像万線群と背景万線群の位相のずれは1/2ピッチとした。なお、この位相のずれは1/2に限らず、仮に画像万線群7の画線と背景万線群8の画線の一部が重なったとしても、本発明の効果を奏する。また、画像万線群7と背景万線群8の画線は同一としているが、画線太さ、形状等が異なっていても、本発明の効果を奏する。
【0022】
次に、桜の花の基画像4をデータとして作成し、その基画像4のデータから影を表現するために任意に位相をずらして背景画像部5を作成した。この背景画像部5を作成するための位相のずれ量は、基画像と背景画像部が隣接しない程度であれば特に限定するものではない。モチーフとする二値画像の形状によって、光と影のバランスが最も良いところを任意に設定するものである。
【0023】
次に、画像万線群7の画線から、基画像4を形成する画線のみ抽出し、中間調となる第2の領域を形成し、背景万線群から背景画像部5の部分のみを削除して、水平方向の画線で形成した万線パターン上に桜の花の立体模様11を作成した。
【0024】
(実施例2)
同心円万線で形成した万線パターンに、桜の花をモチーフとして、実施例1と同様の方法にて本発明の立体模様14を図6のように作成した。なお、図示しないが、万線パターンが前記した開図形又は閉図形であり、モチーフとする二値画像が文字、記号、模様等如何なる場合であっても同様の方法により、視覚的に立体感のある立体模様を得ることができる。
【0025】
(実施例3)
実施例1における背景万線群8の画線に対して、第1の領域に当たる部分の画線を抜き、画像万線群7の第3の領域に当たる部分を補足画線19として付加、配置し、本発明の立体模様15を図7のように作成した。
【0026】
なお、各実施例においては、第1の領域に当たる部分は画線を無くし、最も立体感が出せる例を示しているが、これに限定するものではなく、第2の領域よりも画線の占める割合が少なければ、画線があってもよい。
【0027】
また、図示しないが、背景領域、第1の領域、第2の領域、第3の領域にある各画線配列の端部が仮に接していても、各画線の線種(直線、破線、点線など)又は画線幅を異ならせるなど方法により、各領域の境界部が画線配列の端部からなることが認識できるように形成しても、本発明の構成を損なうものではない。
【0028】
また、本発明の作成方法については、あらかじめ同一ピッチの万線群をニつ用意しておき、本発明でいう基画像及び背景画像部をニつの万線群から作成して得られた万線群を、位相をずらして合わせる方法においても、本発明の効果を奏する。
【0029】
また、前記した万線パターンを、実線、破線、一点鎖線等の画線、又は網点により形成しても、前記した画線の占める割合に差のある3つの領域を設けて、モチーフを形成することで、本発明の効果を奏するものであり、本発明の範囲に含まれるものである。
【0030】
また、本発明の立体模様印刷物は、印刷方式を限定するものではなく、凹版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷等の印刷方式のほか、プリンタなどの出力器においても、本発明の効果を奏するものであり、本発明の範囲に含まれるものである。
【0031】
さらに、本発明の立体模様印刷物は、立体模様を形成する画線の下地に、図柄、模様、ベタ印刷等がされていても、下地に印刷された図柄、模様、ベタ印刷等が、立体模様印刷物の形成を阻害するものでなければ本発明の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】画線の一部を曲折させる従来技術により作成したレリーフ模様の図である。
【図2】本発明を説明するためのモチーフとなる二値画像の図である。
【図3】万線パターンから本発明の画像万線群と背景万線群の考え方を示した図である。
【図4】画像万線群から基画像を形成する画線を抽出した図と、背景万線群から、背景画像部を形成する画線を削除した図である。
【図5】水平方向の画線で形成した万線群上に本発明の立体模様を形成した図である。
【図6】同心円万線で形成した万線群上に本発明の立体模様を形成した図である。
【図7】水平方向の画線で形成した万線群上に、第2の領域の画線と第3の領域の画線を重ねて本発明の立体模様を形成した図である。
【符号の説明】
【0033】
1 画線の一部を曲折させたレリーフ模様
2 曲折部
3 モチーフとなる二値画像
4 基画像
5 背景画像部
6 万線パターン
7 画像万線群
8 背景万線群
9 基画像を構成する画線(中間調を形成する第2の領域)
10 背景画像部部分
11 水平万線上に形成した立体模様印刷物
12 明を形成する第1の領域
13 暗を形成する第3の領域
14 同心円万線上に形成した立体模様印刷物
15 第2の領域の画線と第3の領域の画線を重ねて形成した立体模様印刷物
16 立体模様の輪郭線
17 画像万線群の画線の端部
18 背景万線群の画線の端部
19 補足画線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の領域と第2の領域と第3の領域により、文字、記号、模様等の形状を画線の配列で形成する立体模様印刷物であって、
前記第1の領域は前記第2の領域より画線の占める割合が低く、前記第2の領域は前記第3の領域より画線の占める割合が低く、
前記第1の領域と前記第3の領域は、前記第2の領域を挟み込む位置にあり、
前記第1の領域と前記第2の領域と前記第3の領域の境界部は、前記画線配列の端部で形成することを特徴とする立体模様印刷物。
【請求項2】
前記第2の領域の画線と、前記第3の領域の画線はピッチが異なることを特徴とする請求項1に記載の印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−123359(P2006−123359A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314971(P2004−314971)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】