説明

立体模様形成インクジェット用インク、それを用いた立体模様形成方法、およびそれによって得られた立体模様形成布帛

インクジェット方式で充分使用可能で、かつ鮮明な立体模様を形成することができるインクジェット用インク、前記インクを用いた立体模様形成方法、およびそれによって得られた立体模様形成布帛を提供する。すなわち、本発明は、炭酸グアニジンおよび水からなるインクジェット用インクである。また、前記インクジェット用インクを、インクジェット方式にて布帛に付与し、立体模様を形成する布帛の立体模様形成方法である。さらに、前記立体模様形成方法によって得られた立体模様形成布帛である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体模様形成のためのインクジェット用インクに関し、さらに詳しくは、繊維布帛に立体模様を形成することが可能なインクジェット用インクに関する。また、本発明は、前記インクを用いた立体模様形成方法およびそれによって得られた立体模様形成布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高機能性を有する布帛が開発されており、その布帛の自動車や建築分野の内装材への利用が拡大している。高機能性布帛、いわゆる立体模様を有する布帛は、布帛の表面に凹凸を形成したもので、立体感および高級感のあるものとして注目されている。そして、とくに自動車シートや壁材としての需要が大きく伸びてきている。
【0003】
ところで、布帛にこのような立体模様を形成する方法として、従来、物理的に凹凸を形成する方法と化学的に凹凸を形成する方法が検討、採用されている。
【0004】
前者の物理的な方法には、高温加熱下において彫刻ロールの接圧により型付けするエンボス加工およびシュライナー加工などがある。しかしながら、布帛を重加圧下の加熱ロール間に挿入するため、風合いの硬化や布帛の扁平化が非常に大きくなること、および熱ロールによる金属光沢を生じたり、熱変色を生じる場合があるなどといった問題がある。
【0005】
後者の化学的な方法としては、特公昭47−23709号公報にあるように捺染を行なう際に、繊維を収縮あるいは減量させる薬剤を捺染糊に混和させて処理を行なうものがある。薬剤として、ナフトール誘導体を使用する場合、水に難溶性であるため、塗布する際にムラになりやすいという問題があり、アミン、アルカリ金属水酸化物を使用する場合は、悪臭を生じたり有害性、危険性が高いという問題がある。この問題を解決するため、特開2000−96439号公報にて、薬剤として炭酸グアニジンを捺染糊中に混和して使用することが提案されている。この方法は、使用する糊剤に耐アルカリ性が求められ、使用可能な糊剤が限定されてしまうという欠点を有するものの、凹凸再現性、環境および安全面において優れる方法と思われる。
【0006】
しかしながら、これまで述べてきた方法全般では、熱ロールや捺染スクリーンの型作りから始める必要があるため、時間的およびコスト的な面において、少ない数量の加工への対応が極めて難しいという問題がある。また、薬剤を混和させた捺染糊が高粘度であるため、布帛への浸透性が低く、パイル長の長い立毛布帛に対して使用する場合、パイル奥まで薬剤が行き届かず、凹凸が不充分となる傾向にある。
【0007】
このような問題を解決するため、近年では、インクジェット方式によって布帛に繊維収縮剤などを付与して立体模様を形成する方法が注目されている。
【0008】
インクジェット方式では、熱ロールや捺染スクリーンの型作りの必要もなく、必要な部分に必要な量だけ薬剤を噴射して布帛に付与すればよいため、経済面や安全面に優れている。さらに、得られる立体模様は、従来の方式では作り得なかった極めて緻密なものとなるため、非常に有用である。
【0009】
インクジェット方式による立体模様の形成方法としては、たとえば、特開平10−298863号公報に開示されているような、繊維収縮剤をノズルから噴射させてパイルを収縮させる方法がある。この場合、100〜200cpsといった高粘度のインクを使用しているが、普及しているインクジェットプリント装置は、1〜10cps程度の低粘度タイプのインク用であるため、新たに高粘度インク用のプリント装置が必要となる。また、インクが高粘度であるため、ノズルの目詰まりを発生しやすい。さらには、繊維収縮剤の布帛への浸透性が低いため、パイル長の長い立毛布帛に対して使用する場合、パイル奥まで薬剤が行き届かず、凹凸が不充分となる傾向にある。
【0010】
さらに、前記インクは透明であるため、インクの吐出状態を検知または検査できず、とくに生産ラインで吐出不良の発見が遅れてしまう問題がある。そのためインクに着色剤を含有させることも考えられるが、繊維収縮剤に単に着色剤を入れても凝集、析出が起こりやすく、ひいては吐出不良の要因となる。
【0011】
よって、布帛への立体模様形成方法として、インクジェット方式は非常に有用と思われるが、立体模様形成用として鮮明な凹凸が得られ、さらに大量生産にも充分使用しうるインクは未だ見出されていない。
【0012】
本発明の目的は、インクジェット方式で充分使用可能であり、かつ鮮明な立体模様を形成することができるインクジェット用インクを提供することである。さらに、前記インクを用いた立体模様形成方法およびそれによって得られた立体模様形成布帛を提供する。
【発明の開示】
【0013】
すなわち、本発明は、炭酸グアニジンおよび水からなるインクジェット用インクに関する。
【0014】
前記インクジェット用インクが、さらに、尿素を含有することが好ましい。
【0015】
前記インクジェット用インクが、さらに、水溶性色素を含有することが好ましい。
【0016】
前記インクジェット用インクが、炭酸グアニジンを10〜35重量%含有することが好ましい。
【0017】
さらに、前記インクジェット用インクが、多価アルコール、多価アルコール誘導体、およびエチレンオキサイドが付加された界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含有することが好ましい。
【0018】
前記水溶性色素が、反応性染料であることが好ましい。
【0019】
インクの可視光域での最大ピーク波長の光学密度が、2〜30/gであることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、前記インクジェット用インクを、インクジェット方式にて布帛に付与し、立体模様を形成する布帛の立体模様形成方法に関する。
【0021】
前記布帛が、ポリエステル繊維からなることが好ましい。
【0022】
また、本発明は、前記立体模様形成方法によって得られた立体模様形成布帛に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0024】
本発明のインクは、布帛に立体模様を付与することが可能な機能性インクジェット用インクであり、炭酸グアニジンを水溶解させたものであることを基本的な特徴としている。
【0025】
炭酸グアニジンおよび水から構成されたインクを用いることで、インクジェット方式において、長時間安定した吐出が可能となる。また、そのインクを布帛に塗布し、その後、スチーミングおよびソーピングすることで、鮮明な立体模様を布帛に形成することができる。
【0026】
炭酸グアニジンは、苛性ソーダなどの他の強アルカリに比べて、水溶液のpHが10〜13と低く、作業の安全性や装置が腐蝕されにくいなどの点から、繊維分解剤として使用される。
【0027】
この弱アルカリといえる炭酸グアニジンの水溶液により布帛に立体模様が形成される理由としては、推測するに、インクの付与後に行なわれる熱処理の工程で、炭酸グアニジンが尿素とアンモニアに分解されることで強アルカリへと変化するためだと考えられる。
【0028】
炭酸グアニジンの濃度は、10〜35重量%の範囲が好ましく、さらには15〜30重量%の範囲が好ましい。10重量%より少ないと、充分な凹凸模様を得ることができない傾向にあり、逆に35重量%をこえると、炭酸グアニジンの水への溶解限度に近くなるため、析出物が発生するなどノズル詰まりの原因となり、長時間安定した吐出が不可能となる傾向にある。
【0029】
インクジェット用インクが無色透明であると、ノズル詰まりやカスレなどが見えず、安定した吐出ができているか否かの判断が非常に困難である。そのため、水溶性色素を混合し、インクの吐出状態を目視で確認できる程度に着色しておくことが好ましい。
【0030】
本発明のインクに使用可能な水溶性色素としては、酸性染料、反応性染料およびカチオン性染料などが安価で種類も豊富であるため好ましい。なかでも、水への溶解度が比較的高い点で、反応性染料が好ましい。染料構造的には、光学密度が高いため、少量でインクに着色することが可能である点、および、アルカリ耐性が低いため、炭酸グアニジンと併用することにより布帛には着色しない点から、アゾ系染料が好ましい。前記水溶性色素の含有量としては、0.001〜0.1重量%の範囲が好ましく、さらには0.005〜0.05重量%の範囲が好ましい。水溶性色素が0.001重量%より少ないと、インクの着色濃度が低すぎるために、インクの吐出状態を目視で確認することが困難となる傾向にあり、0.1重量%をこえると、水溶性色素が析出する場合があり、それがノズル詰まりを引き起こすという問題を発生する傾向にある。
【0031】
本発明のインクの可視光域での最大ピーク波長の光学密度としては、2〜30/gの範囲が好ましく、とくに3〜20/gの範囲が好ましい。光学密度が2/gより小さいと、インクの着色濃度が低く、ノズル詰まりなどの吐出状態を目視や光学センサーで確認することが困難となる傾向にある。また、30/gをこえると、水溶性色素の添加量が過剰になる場合があり、そのため染料などの析出が発生するなどノズル詰まりの原因となりやすい傾向にある。なお、前記光学密度は、一般的に用いられる分光光度計などにより測定することができる。
【0032】
本発明のインクは、炭酸グアニジンや水溶性色素を安定して水へ溶解させるために尿素を含有させることが好ましい。尿素は、インクジェット用インクとして重要な粘度や表面張力への影響が少ない点で、最適である。尿素の含有量としては、0.1〜10重量%の範囲が好ましく、さらには0.5〜5重量%の範囲が好ましい。尿素が0.1重量%より少ないと、溶解剤としての効果に乏しいため、とくに水溶性色素の析出が発生し、ノズル詰まりの原因となる傾向にある。10重量%をこえると、本来の目的である布帛の凹凸模様が充分に得られない傾向にある。
【0033】
本発明のインクには、ノズルのエアかみを防止する点から、多価アルコール、多価アルコール誘導体、およびエチレンオキサイドが付加された界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含有させることが望ましい。その含有量としては、0.1〜10重量%の範囲が好ましく、さらには0.5〜5重量%の範囲が好ましい。0.1重量%より少ないと、ノズルのエアかみ防止効果が低くなり、エアかみを起こしやすいインクとなる傾向にあり、10重量%をこえると、インクが高粘度となってしまい、ノズルからの吐出が困難となる傾向にある。
【0034】
本発明に使用可能な多価アルコールまたは多価アルコール誘導体としては、たとえばグリセリン、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリエチレングリコールジメチルエーテルなどがあげられる。
【0035】
本発明に使用可能なエチレンオキサイドが付加された界面活性剤は、非イオン性または陽イオン性の界面活性剤が好ましい。なぜなら、陰イオン性界面活性剤は、炭酸グアニジンとの相容性および起泡性の面で問題があるおそれがあるためである。
【0036】
エチレンオキサイドが付加された非イオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのエーテル型非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルなどのエーテルエステル型非イオン性界面活性剤およびポリエチレングリコール脂肪酸エステルなどのエステル型非イオン性界面活性剤などがあげられる。
【0037】
また、エチレンオキサイドが付加された陽イオン性界面活性剤としては、たとえば、脂肪族アミン塩および脂肪族4級アンモニウム塩などのエチレンオキサイド付加物があげられる。
【0038】
なお、本発明のインクは、インクジェット用であるため、前記界面活性剤は、数平均分子量が5000以下の低粘度のものがとくに好ましい。数平均分子量が5000以上であると、インクの粘度が高くなり、インクの吐出安定性に欠ける傾向にある。
【0039】
前記多価アルコール、多価アルコール誘導体およびエチレンオキサイドが付加された界面活性剤のなかでも、作業の安全性に優れるという点でプロピレングリコールがさらに好ましい。また、アルカリ性水溶液中での安定性が高いという点で脂肪族4級アンモニウム塩のエチレンオキサイド付加物がさらに好ましい。
【0040】
本発明のインクジェット用インクは、25℃において、粘度が1〜10cpsであることが好ましく、1〜5cpsであることがより好ましい。1cpsより低いと、吐出したインク滴が飛翔中に分裂し、凹凸模様のシャープ性に劣る傾向があり、10cpsをこえると、高粘度のため、ノズルからのインクの吐出が困難となる傾向にある。
【0041】
本発明のインクジェット用インクは、布帛やフィルムなどの記録媒体に用いられ、立体模様を形成する。なかでも、繊維からなるため表面積が大きく、そのため立体模様を形成しやすい点で、布帛が好ましい。
【0042】
布帛の種類としては、織物、編物、起毛布および不織布などとくに限定されない。布帛の素材としては、ポリエステルおよび羊毛といった素材があげられるが、なかでもファッションの分野のみならず、自動車や建築分野の内装材といった産業資材としての用途展開も可能であり、汎用性が高い点で、ポリエステル系繊維からなる布帛がより好ましい。
【0043】
また、鮮明な凹凸形状が得られやすい点で、布帛を構成する繊維の太さが2デシテックス以下であることが好ましい。
【0044】
また、本発明のインクジェット用インクは、記録媒体へ単位面積あたり10〜100g/mの範囲で付与されることが好ましい。インクの付与量が10g/mより少ないと、充分な凹凸模様を得ることが困難となる傾向にあり、100g/mをこえると、インクが滲み、凹凸模様のシャープ性に劣る傾向にある。また、炭酸グアニジンの付与量は1〜30g/mの範囲が好ましい。炭酸グアニジンの付与量が1g/mより少ないと、充分な凹凸模様を得ることが困難となる傾向にあり、30g/mをこえると、必要以上の量となるため、コスト高になるだけでなく、布帛によっては穴が空いてしまうという問題が起こる傾向にある。
【0045】
また、インクの滲みや布帛への渦度の浸透を防止するために、布帛に予めインク受容剤を含有する前処理液を付与する前処理を施しておくことが好ましい。
【0046】
インク受容剤としては、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロースおよびでんぷんなどの糊剤が主に挙げられる。なかでも、耐薬品性および耐アルカリ性に優れるカルボキシメチルセルロースが好ましい。インク受容剤の付与量は2〜20g/mの範囲が好ましい。付与量が2g/mより少ないと、インク受容能力に劣り、インクが滲んだり、裏抜けしたりする傾向にあり、20g/mをこえると、布帛が硬くなることから、インクジェットプリンタでの搬送性が不良となったり、取り扱い時に受容剤が布帛から脱落し易くなったりする傾向にある。
【0047】
さらに、この前処理液には、必要に応じて、pH調整剤、耐光向上剤、酸化防止剤および還元防止剤などを配合してもよい。
【0048】
また、インク受容剤の付与方法については、コーティング法、スクリーン法およびディップニップ法などが挙げられ、特には制限されない。
【0049】
本発明のインクを布帛にインクジェット方式にて付与した後、熱処理される。熱処理することにより、繊維が分解され、凹凸を発現する。
【0050】
熱処理の条件としては、160〜190℃にて約10分間程度処理することが好ましい。160℃より低いと、凹凸模様が充分に得られない傾向にあり、190℃をこえると、繊維の分解が急激に進みすぎて再現性が得られにくい傾向にある。熱処理は、乾熱処理または湿熱処理のいずれでもよいが、形成される凹凸形状が良好となる点、および、後述する様に本発明の立体模様形成と染色を同時に行う場合においては、良好な発色性も同時に得られるなどの点から湿熱による処理がより好ましい。
【0051】
さらに、熱処理をした後、布帛上に残留しているインク受容剤、未固着染料、さらには繊維の分解物を布帛から脱落させることを目的として、洗浄処理を行うことが好ましい。この洗浄処理方法については、通常実施されているハイドロサルファイト、界面活性剤およびソーダ灰などを用いた還元洗浄などが用いられる。
【0052】
また、さらに、前記還元洗浄時に減量処理を行うことが好ましい。
【0053】
減量処理を行なうことにより、繊維の分解が不十分な部分が残っている場合に、それを除去することができ、更に鮮明な凹凸が形成可能となる。
【0054】
減量処理の条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、減量促進剤1〜5g/Lおよび苛性ソーダ(顆粒)2〜15g/Lを用いて、処理温度70〜90℃で、10〜60分間処理すればよい。
【0055】
減量促進剤としては、脂肪族アミン塩陽イオン界面活性剤、脂肪族アミン塩の4級アンモニウム塩陽イオン界面活性剤、芳香族4級アンモニウム塩陽イオン界面活性剤および複素環4級アンモニウム塩陽イオン界面活性剤などが使用できる。
【0056】
本発明のインクジェット用インクは、布帛への着色用として使用される分散染料、顔料、酸性染料、直接染料、反応性染料またはカチオン染料を水分散あるいは水溶解したインクジェット用インクと併用することが可能である。つまり、本発明のインクジェット用インクと着色用のインクとを、異なるノズルから吐出させ、布帛上で混合することによって、同一布帛上で、凹凸のみの部分、着色のみの部分、凹凸着色部分といった表現を自由自在にすることが可能となる。
【0057】
本発明の立体模様形成方法に用いられるインクジェット印写装置は、炭酸グアニジンの熱による分解を防ぐため、インクを加熱しない方式であればよく、荷電変調方式、帯電噴射方式、マイクロドット方式およびインクミスト方式などの連続方式、ピエゾ変換方式および静電吸引方式などのオンデマンド方式などがあげられる。なかでも、インク吐出安定性および連続吐出性に優れ、ヘッドが比較的安価で製造できる点で、ピエゾ方式が好ましい。
【0058】
このように、立体模様形成方法としてインクジェット方式を用いることで、凹凸の深さや幅を自由に調整することができる。また、捺染型のような柄の制約もなく、1ピクセルレベルの緻密な凹凸模様を自由に表現することができる。さらには、凹凸深さを徐々に変えることができるため、従来のロールやスクリーンによる方式で可能であった表現範囲に加え、凹凸によるグラデーション柄を表現することも可能である。また、時間的、コスト的および作業性に加え、大量の排水をださないことから、環境の面においても、従来の方式に比べて優れているといえる。
【0059】
以下、本発明の実施例を比較例と共にあげ、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」は、「重量部」をあらわす。
【実施例1】
【0060】
尿素1部、C.I.Reactive Red 24 0.02部、炭酸グアニジン25部、プロピレングリコール2部、純水71.98部を混合、2時間攪拌し、東洋濾紙No.5Aにて減圧濾渦後、真空脱気処理し、インクジェット用インクA(pH11.8)を得た。
【実施例2】
【0061】
尿素1部、C.I.Reactive Red 24 0.02部、炭酸グアニジン25部、界面活性剤(脂肪族4級アンモニウム塩のエチレンオキサイド付加物、数平均分子量800)2部、純水71.98部を混合、2時間攪拌し、東洋濾紙No.5Aにて減圧濾過後、真空脱気処理し、インクジェット用インクB(pH11.5)を得た。
【実施例3】
【0062】
尿素1部、C.I.Reactive Red 24 0.02部、炭酸グアニジン15部、純水83.98部を混合、2時間攪拌し、東洋濾紙No.5Aにて減圧濾過後、真空脱気処理し、インクジェット用インクC(pH11.6)を得た。
【実施例4】
【0063】
炭酸グアニジン25部、純水75部を混合、2時間攪拌し、東洋濾紙No.5Aにて減圧濾過後、真空脱気処理し、インクジェット用インクD(pH11.8)を得た。
【0064】
比較例1
ベンジルアルコール10部、C.I.Reactive Red 24 0.02部、純水90部を混合、2時間攪拌し、東洋濾紙No.5Aにて減圧濾過後、真空脱気処理し、インクジェット用インクE(pH7.5)を得た。
【0065】
実施例5〜8および比較例2
ポリエステル起毛布(繊維太さ1デシテックス)に、カルボキシメチルセルロース(ファインガムHEL−1、第一工業製薬(株)製)を付与量2g/mになるよう付与して、インク受理層を形成した。このポリエステル起毛布に、実施例1、2、3、4および比較例1で得られたそれぞれのインクA〜Eを、、以下のインクジェット印写条件にて、印写した。
【0066】
<インクジェット印写条件>
印写装置 : オンデマンド方式シリアル走査型インクジェット印写装置(ピエゾ変換方式)
ノズル径 : 50μm
駆動電圧 : 100V
周波数 : 5kHz
解像度 : 360dpi
付与量 : 20、40、60、80、100g/m
印写柄 : 付与量毎のマトリックス柄
ついで、印写した布帛を乾燥した後、175℃で10分間湿熱処理した。その後、還元洗浄を行ない、乾燥し、整毛工程を施した。
【0067】
さらに、還元洗浄時に減量処理をおこなった。減量処理の条件は、以下の通りである。
【0068】
<減量処理条件>
処理液:苛性ソーダ(顆粒) 3g/L
減量促進剤 2g/L
(マーセリンPES、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤、明成化学工業(株)製)
ハイドロサルファイト 2g/L
処理温度:80℃×10分
【0069】
減量処理後、中和処理をし、さらに水洗処理した。
【0070】
実施例1、2、3、4および比較例1にて得られたインクA〜Eの粘度、インク吐出性、析出物の有無、インク光学密度および得られた布帛の凹凸鮮明性を以下の方法で測定、確認し、評価した。その結果を表1に示す。
【0071】
インク粘度:(株)東京計器製BL型粘度計BLローター60rpm 25℃
インク吐出性:1ドットパターンを普通紙に10分間連続印写し目視でドットの乱れ、詰まりを確認した。
○ 10分間、吐出不良は全く無し
△ 詰まりノズルは無いが、吐出不良ノズル有り
× 詰まりノズル有り
【0072】
インク析出:インクを1週間常温放置後、東洋濾紙No.5Aにて減圧濾過し、残渣の有無を目視で確認した。
○ 残査無し
△ 僅かに残渣有り
× 残渣多い
【0073】
インク光学密度:(株)島津製作所製UV2200を用いてインクを400nm〜700nmの範囲でスペクトル測定を行ない、最大吸収ピーク波長での光学密度を測定した。
凹凸鮮明性:目視で確認した。
○ 全ての付与量において、凹部が深く、型際も鮮明な凹凸感が得られる。
△ 付与量20および40g/mにおいて、凹部がやや浅く、型際の鮮明感も僅かに劣る。
× 全ての付与量において、凹部が浅く、凹凸が不鮮明である。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例1、2、3および4にて得られたインクA〜Dは吐出性に優れていた。とくに、実施例1および2で得られたインクAおよびBは、吐出性および凹凸鮮明性ともに申し分なく、立体感が感じられる立体模様を形成することができた。実施例4で得られたインクDは、吐出性および凹凸鮮明性の点で問題はないが、無色インクのため、吐出状態の確認が多少しにくく、僅かに作業性を低下させるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明にて、インクジェット方式で充分使用可能で、かつ鮮明な立体模様を形成することができるインクジェット用インクを提供することができる。さらに、鮮明な立体模様を形成する立体模様形成方法、および鮮明な立体模様を有する立体模様形成布帛を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸グアニジンおよび水からなるインクジェット用インク。
【請求項2】
さらに、尿素を含有する請求の範囲第1項記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
さらに、水溶性色素を含有する請求の範囲第1項記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
炭酸グアニジンを10〜35重量%含有する請求の範囲第1項記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
多価アルコール、多価アルコール誘導体、およびエチレンオキサイドが付加された界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含有する請求の範囲第1項記載のインクジェット用インク。
【請求項6】
水溶性色素が、反応性染料である請求の範囲第3項記載のインクジェット用インク。
【請求項7】
可視光域での最大ピーク波長の光学密度が、2〜30/gである請求の範囲第3項記載のインクジェット用インク。
【請求項8】
請求の範囲第1項記載のインクジェット用インクを、インクジェット方式にて布帛に付与し、立体模様を形成する布帛の立体模様形成方法。
【請求項9】
布帛が、ポリエステル繊維からなる請求の範囲第8項記載の布帛の立体模様形成方法。
【請求項10】
請求の範囲第8項記載の立体模様形成方法によって得られた立体模様形成布帛。

【国際公開番号】WO2005/005560
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511503(P2005−511503)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009421
【国際出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】