説明

立体表面を有する基質への均一な細胞播種装置および方法

生物学的基質および該基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器を第1および第2の回転軸を中心にして回転させるための細胞播種装置およびその方法であって、生物学的基質および該基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器と、該容器を第1の回転軸を中心にして回転自在に支持するための第1の回転駆動手段と、そして、該第1の回転軸を中心にして回転している該容器が第2の回転軸の周りを旋回するように、該第1の回転駆動手段を該第2の回転軸を中心にして回転自在に支持するための第2の回転駆動手段とを備え、該第1および第2の回転軸は、互いに同一平面内上に存在しないように異なる方向へ離れて延びていることを特徴とする細胞播種装置およびその装置の利用した細胞播種方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を播種すべき基質と細胞分散液とを収容するための容器を互いに同一平面上に存在しない2つの異なる回転軸の周りに回転させることにより、複雑な立体表面を有する基質に均一に細胞を播種させることを達成するための装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の複雑な立体表面を有する付着性細胞の培養においては、細胞を収容するための培養容器内に細胞分散液を入れ、この培養容器を複数の回転軸の周りに回転しながら均一に細胞を播種し培養する、細胞培養装置およびその方法が公開特許公報(特開2002−316899号)により知られている。
【0003】
しかし、このような細胞培養装置は、培養容器が回転させられる複数の回転軸が交差して培養容器の内部に疑似無重力状態を作り出すため、培養容器の中に収容された細胞を培養すべき基質の周囲に存在する細胞分散液を充分に流動し分散させることができず、このため、細胞分散液の劣化や濃度偏析を引き起こすといった問題があった。
【0004】
また、このような細胞培養装置は、培養容器が回転させられる複数の回転軸と同軸上に装置の回転駆動部の駆動軸が配置されているため、装置の構造が複雑で、かつ高価であり、さらに、培養容器の芯出しに手間が掛るために培養容器へのアクセスが容易でないといった問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、近年では公開特許公報(特開2002−45173号および特開2003−70458号)に開示されているような、回転中の培養容器内へ外部から細胞分散液を強制循環させる装置およびその方法も開発されているが、依然として装置の構造は複雑で、かつ、分散液を循環させるための配管の脱着等が容易でないといった問題があった。
【発明の開示】
【0006】
本発明の目的は、生物学的基質および基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器を第1および第2の回転軸を中心にして回転させるための細胞播種装置およびその方法であって、生物的基質および基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器と、容器を第1の回転軸を中心にして回転自在に支持するための第1の回転駆動手段と、そして、第1の回転軸を中心にして回転している容器が第2の回転軸の周りを旋回するように、第1の回転駆動手段を第2の回転軸を中心にして回転自在に支持するための第2の回転駆動手段とを備え、第1および第2の回転軸は、互いに同一平面内上に存在しないように異なる方向へ離れて延ばすことを可能とすることにより、培養容器の中心点に対して偏芯した回転運動を与えることにより培養容器の中の細胞分散液中に重力場を発生させて、分散液中の細胞を自己分散させることができる細胞播種装置およびその装置を利用した細胞播種方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、第1および第2の回転駆動手段の第1および第2の回転軸の少なくとも1つを、それ又はそれらを回転するための駆動軸とオフセットさせることにより、装置の構造がシンプルで、かつ安価であり、また、培養容器へのアクセスが容易な細胞播種装置およびその装置を利用した細胞播種方法を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による細胞播種装置は、生物学的基質および基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器を第1および第2の回転軸を中心にして回転させるための細胞播種装置であって、生物的基質および基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器と、容器を第1の回転軸を中心にして回転自在に支持するための第1の回転駆動手段と、そして、第1の回転軸を中心にして回転している容器が第2の回転軸の周りを旋回するように、第1の回転駆動手段を第2の回転軸を中心にして回転自在に支持するための第2の回転駆動手段とを備え、第1および第2の回転軸は、互いに同一平面内上に存在しないように異なる方向へ離れて延びていることを特徴とする。
【0009】
すなわち第1および第2の回転軸は、互いに平行でなく、かつ、交差することなく異なる方向へ離れて延びていることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、このような回転軸の配置により、第1の回転軸を中心にして回転している培養容器を第2の回転軸の周りに旋回させて容器の中心点に対して偏芯した回転運動を与えることができるようにした結果、容器の中の細胞分散液中に重力場を発生させて分散液中の細胞を自己分散させることが可能となる。
【0011】
また、複雑な立体表面を有する基質に細胞分散液中の細胞を効果的に播種させるためには、基質を収容するための容器を、第1の回転軸と第2の回転軸とが延びる方向が第1および第2の回転軸とを共に直角に結ぶ軸の回りに略90°離れた方向に延びるように設定して回転させることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明は、装置の第1および第2の回転駆動手段の第1および第2の回転軸の少なくとも1つをそれ又はそれらを回転するための駆動軸とオフセットさせることにより、第1および第2の回転軸の延長線上から駆動軸および駆動源をなくすことを可能とし、この結果、装置の構造がシンプルで、かつ安価であり、また、培養容器へのアクセスが容易な細胞播種装置およびその装置を利用した細胞播種方法を提供することができる。
【0013】
また、このような回転軸および駆動軸の配置は、培養容器を第1の回転駆動手段へ/から取付け・取外す際の駆動軸との干渉を避けることを可能とするため、容器を第1の回転駆動手段へ/から取付け・取外し自在に支持することができるようになり、この結果、容器へのアクセス容易性を向上させることができる。
【0014】
また同様に、容器を支持する第1の回転駆動手段も第2の回転駆動手段へ/から取付け・取外し自在に支持することができるようになるため、直接的には第2の回転駆動手段へ/から第1の回転駆動手段を取付け・取外すことは勿論、間接的には第1の回転駆動手段へ/から培養容器を取付け・取外すことをも一層容易にする。
【0015】
また、このような第1のおよび第2の回転駆動手段の構成は、播種された基質を培養容器内で無菌環境に保ったまま、例えばインキュベーター中で細胞の培養を継続することを可能にする。
【0016】
この時、第1の回転駆動手段により培養容器を回転させる方法および/または第2の回転駆動手段により第1の回転駆動手段を回転させる方法は、摩擦抵抗を利用した動力の伝達により回転させることが好ましい。
【0017】
摩擦抵抗を利用した動力の伝達は、歯車、ベルトプーリーおよび駆動伝達ベルトといった容器などを回転させるための駆動系部品の数を減らして装置の構造の単純化に寄与すると共に、容器の第1を回転駆動手段へ/からの接続・分離すること、および第1の回転駆動手段を第2の回転駆動手段へ/からの接続・分離することを容易化する。
【0018】
ただし、本発明による動力伝達手段は、摩擦抵抗を利用したものに限定されるものではなく、一般的な歯車を用いたものや、ベルトプーリーおよび駆動伝達ベルトを用いて動力を伝達するものであってもよい。
【0019】
本発明による細胞播種装置においては、培養容器を回転させるために第1の回転駆動手段を制御するための手段と、第1の回転駆動手段を回転させるために第2の回転駆動手段を制御するための手段とが相互に分離・独立して回転および停止制御することができるようにされていることが好ましい。
【0020】
第1および第2の回転駆動手段を制御するための手段を相互に分離・独立して回転および停止制御することができるようにすることは、第1および第2の回転軸を中心とした培養容器の3次元回転状態を自由に変化させることを可能とし、この結果、本発明による細胞播種装置は、様々な複雑な立体表面を有する基質に対応して細胞分散液中の細胞を播種できるようになる。
【0021】
また、第1および第2の回転駆動手段を制御するための手段を相互に分離・独立させた結果、容器を第1の回転駆動手段へ/から取付け・取外し自在に支持し、そして第1の回転駆動手段を第2の回転駆動手段へ/から取付け・取外し自在に支持させることを可能にする。
【0022】
このように、本発明による細胞播種装置においては、培養容器を回転させるための第1および第2の回転駆動手段を相互に分離・独立としているため、容器が中心にして回転するところの第1および第2の回転軸の絶対位置および相対位置を任意に設定することができる。
【0023】
この結果、本発明による細胞播種装置は、第1の回転軸を中心にして回転している容器が第2の回転軸の周りを旋回するように、容器の中心点に対して第1および/または第2の回転軸を任意に偏芯させてこれらの回転軸の周りを回転させることが可能となり、容器内に生じる重力場の発生、惹いては容器の中の細胞分散液中の細胞の自己分散を任意にコントロールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による細胞播種装置の全体概要を示した図である。
【図2】本発明による第1の回転駆動手段の全体概要を示した図である。
【図3】本発明による第2の回転駆動手段の全体概要を示した図である。
【図4】本発明による培養容器の全体概要を示した図である。
【図5】本発明による細胞播種方法を実施した実施例1の結果を示す図である。
【図6】本発明による細胞播種方法を実施した実施例2の結果を示す図である。
【図7】本発明による細胞播種方法を実施した実施例3の結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明による細胞播種装置および本装置を用いた細胞播種方法について、最良の実施形態を説明する。
【0026】
図1は、本発明による細胞播種装置1の全体概要を示している。
【0027】
本発明による細胞播種装置1は、生物学的基質および基質へ播種すべき細胞の分散液40cを収容するための培養容器4(図4参照)と、容器4を第1の回転軸5(図4参照)を中心にして回転自在に支持するための第1の回転駆動手段2と、そして第1の回転駆動手段2を第2の回転軸6(図2参照)を中心にして回転自在に支持するための第2の回転駆動手段3とから構成される。
【0028】
このとき、第1および第2の回転軸5、6は、互いに同一平面内上に存在しないように異なる方向へ離れて延びるように、すなわち第1および第2の回転軸5、6は、互いに平行でなく、かつ、交差することなく異なる方向へ離れて延びるように設定される。
【0029】
ただし、本発明による細胞播種装置1は、第1および第2の回転軸5、6の絶対位置および相対位置を任意に設定できるため、互いの回転軸5、6を同一平面内上に存在させながら異なる方向へ離れて延びているように、すなわち第1および第2の回転軸5、6は互いに平行でないが、交差しながら異なる方向へ延びるように設定することもできる。
【0030】
このように、2つの回転軸5、6の配置を任意に設定できるようにすることは、第1の回転軸5を中心にして回転している培養容器4が第2の回転軸6の周りを旋回させて容器4の中心点に対して偏芯した回転運動を与えることにより、培養容器4の中の細胞分散液中40cに重力場を発生させて分散液中40cの細胞が自己分散することを可能にする。
【0031】
特に、複雑な立体表面を有する基質40bに細胞分散液40c中の細胞を効果的に播種させるためには、基質40bを収容するための容器4を、第1の回転軸と第2の回転軸5、6とが延びる方向が第1および第2の回転軸5、6とを共に直角に結ぶことができる軸の回りに略90°離れた方向に延びるように設定して回転させることが有効である。
【0032】
培養容器4の第1の回転軸5を中心とした回転は、第1の回転駆動手段2の中に取付けられた容器駆動回転ローラー20cと容器4の外部表面を一体となって形成する回転筒4bとを互いに接触させることにより、両者間に生じた摩擦抵抗を利用して駆動ユニット23cの中のモーター(図示せず)の駆動力を容器4へ伝達することにより達成される。
【0033】
第1の回転駆動手段2の第2の回転軸6を中心とした回転は、第1の回転駆動手段2のハウジング2aを支持するように取付けられた2つの回転輪2bと第2の回転駆動手段3の回転駆動ローラー3bとを互いに接触させることにより、両者間に生じた摩擦抵抗を利用して回転輪駆動ローラー3bのモーター(図示せず)の駆動力を第1の回転駆動手段2へ伝達することにより達成される。
【0034】
このような摩擦抵抗を利用した動力の伝達は、歯車、ベルトプーリーおよび駆動伝達ベルトといった容器などを回転させるための駆動系部品の数を減らして装置の構造の単純化に寄与すると共に、容器4を第1の回転駆動手段2へ/からの接続・分離すること、および第1の回転駆動手段2を第2の回転駆動手段3へ/からの接続・分離することを容易化するのに役立つ。
【0035】
ただし、本発明による動力伝達手段は、摩擦抵抗を利用したものに限定されるものではなく、一般的な歯車を用いたものや、ベルトプーリーおよび駆動伝達ベルトを用いて動力を伝達するものであってもよい。
【0036】
したがって、例えば回転輪駆動ローラー3bおよび回転輪2bの表面を歯車形状とすることによって、両者を噛み合わせて回転輪駆動ローラー3bの駆動力を回転輪2bへ伝達させるものであってもよい。
【0037】
さらに、本発明は、装置の第1および第2の回転駆動手段2、3の第1および第2の回転軸5、6の少なくとも1つをそれ又はそれらを回転するための駆動軸とオフセットさせることにより、第1および第2の回転軸5、6の延長線上から駆動軸および駆動源をなくすことを可能とし、この結果、装置の構造がシンプルで、かつ安価であり、また、培養容器4および第1の回転駆動手段2へのアクセスが容易な細胞播種装置1およびその装置1を利用した細胞播種方法を提供することができる。
【0038】
また、このような回転軸5、6および駆動軸の配置は、培養容器4を第1の回転駆動手段2へ/から取付け・取外す際の駆動軸との干渉を避けることを可能とするため、容器4を第1の回転駆動手段2へ/から取付け・取外し自在に支持することができるようになり、この結果、容器4へのアクセス容易性を向上させることができる。
【0039】
また同様に、容器4を支持する第1の回転駆動手段2も第2の回転駆動手段3へ/から取付け・取外し自在に支持することができるようになるため、直接的には第2の回転駆動手段3へ/から第1の回転駆動手段2を取付け・取外すことは勿論、間接的には第1の回転駆動手段2へ/から培養容器4を取付け・取外すことをも一層容易にする。
【0040】
図2は、本発明による細胞培養装置1の培養容器4を取外した状態での第1の回転駆動手段2の全体概要を示している。
【0041】
第1の回転駆動装置2は、培養容器4を第1の回転軸5(図1、図4参照)を中心にして回転自在に支持するためのハウジング2aの外側で、対向する側面のそれぞれに取付けられた2つの回転輪2bおよび培養容器4を第1の回転軸5を中心にして回転させるための容器回転駆動手段2cから構成される。
【0042】
ハウジング2aは、培養容器4と2つの回転輪2bおよび容器回転駆動手段2cを支持できる構造および形状であれば特に制限されるものでなく、本発明による実施例においては、ハウジング2aの耐久性、重量および培養容器4へアクセスの容易性を考慮して、1対の側壁、1対の端壁および底壁からなる5つの面から構成される箱型形状を有する構造とした。
【0043】
また、ハウジング2aには、後で詳述する容器回転駆動手段2cをハウジング2aの外部へまたは内部へ容易に脱着できるように、切欠部20aが2つの側面上の上部に設けられている。
【0044】
また、ハウジング2aの内部には、培養容器4を第1の回転軸5(図1、図4参照)を中心にして回転自在に、かつ取付け・取外し自在に支持するための支持ローラー21aが適当に配置される。
【0045】
容器回転駆動手段2cは、培養容器4を第1の回転軸5を中心にして回転させるための回転駆動シャフト21cと一体となった容器回転駆動ローラー20cと、回転駆動シャフト21cを回転自在に支承し、かつハウジング2aに取付けるための2つのベアリング22cおよび前記回転駆動シャフト21cを回転するための駆動ユニット23cから構成される。
【0046】
さらに、前記駆動ユニット23cの中には、外部からの電源供給を受けることなく回転駆動シャフト21cを回転するための電気モーター、バッテリーおよび制御装置(いずれも図示せず)が含まる。
【0047】
そのため、第1の回転駆動手段2は外部との配線などが不要であり、したがって、第1の回転駆動手段2によって第1の回転軸5を中心にして回転させられる培養容器4と、第2の回転駆動装置3によって第2の回転軸6を中心にして回転させられる第1の回転駆動装置2とは、相互に分離・独立して回転および停止制御をすることができる。
【0048】
また、駆動ユニット23cは、ハウジング2aの側面に設けられた切欠部20aに回転駆動シャフト21cを通過させながら上方または下方へ一体的に移動および固定ができるようになっているため、培養容器4の外周部に取付けられた回転筒4bの大小にかかわらず、容器回転駆動ローラー20cと回転筒4bとの柔軟でかつ確実な接触を維持することができる。
【0049】
具体的には、図2に示される本発明の実施例において培養容器4を第1の回転駆動装置2の中にセットする場合は、容器4の外周を包んで一体的に取付けられた回転筒4bをハウジング2a内部に適当に配置された支持ローラー20cの上に整合するように配置し、さらにその上から駆動ユニット23cの容器回転駆動ローラー20cを容器4の回転筒4bに接触するように軽く押付けながら、駆動ユニット23cの2つのベアリング22cをハウジング2aの側面に適当な手段を用いて固定するだけでよい。
【0050】
また、培養容器4を第1の回転駆動手段2から取外す場合は、前記取付け手順を逆に実施すればよいから、培養容器4へのアクセスが極めて容易になる。
【0051】
図3は、本発明による細胞培養装置1において、第2の回転駆動手段3から第1の回転駆動手段2を取外した場合の第2の回転駆動手段3の全体概要を示している。
【0052】
第2の回転駆動手段3は、第1の回転駆動手段2を支持し、かつ回転させるための2本の平行に配置された回転輪駆動ローラー3bと、このローラー3bを支承し駆動するための電気モーターおよび制御装置(いずれも図示せず)を含む本体部3aとから構成される。
【0053】
第2の回転駆動手段3は、第1の回転駆動手段2の回転輪2bを2本のロールを用いて支持できるものであれば特に制限はなく、市販の回転駆動手段を利用したものであってもよい。
【0054】
図4は、本発明による細胞播種装置1に取付けられる培養容器4の全体概要を示す。
【0055】
培養容器4は、中空のチャンバー40aを有する円筒形の容器本体4aとその外周領域を取り囲んで容器本体4aを支持するように取付けられた回転筒4bと、そして培養容器4のチャンバー40a内に細胞を播種すべき基質40bおよび細胞分散液40cとを収容した後、チャンバー40aを密閉するためのプラグ4cとから構成される。
【0056】
なお、図4に示される本発明による培養容器4の回転筒4bの場合は、容器本体4aの形状を円筒形とすることにより容器本体4aと回転筒4bとを一体化して、単純化かつコンパクトにしたものである。
【0057】
回転筒4bは、例えば容器本体4aの外部形状が円筒形状でない場合には容器4を第1の回転軸5を中心として回転させることができないため、回転筒4bを容器本体4aの外部から支持するように取付けることにより、これが第1の回転駆動手段2のハウジング2a内に取付けられた支持ローラー21aおよび容器回転駆動ローラー20cと整合して容器4の滑らかな回転を保証する働きをする。
【0058】
したがって回転筒4bの形状は、その外部表面形状が円筒形を有するものであれば、容器4を支持するための構造および形状に制限はなく、また、培養容器4の本体4aと一体化したものであっても分離・独立したものであってもよい。
【0059】
また、本件発明による培養容器本体4aは、外部からの視認性を考慮して透明なプラスチックまたはガラス材料などから構成されていることが好ましい。
【0060】
また、本発明による細胞播種装置1は、細胞を播種すべき基質40bと細胞分散液40cとを互いに同一平面上に存在しない2つの異なる回転軸5、6の周りに回転させることにより、複雑な立体表面を有する基質40bに均一に細胞を播種させることを達成するための装置1およびその装置1を利用した細胞播種方法に関するものであるが、本発明に適用される細胞を播種すべき基質40bとしては、ヒト組織だけでなく、ブタ、ウシ等のほ乳類および魚類、両生類、は虫類、鳥類などの脊椎動物、およびその他の動物または植物などの生物由来組織や合成組織を対象とすることができる。
【0061】
以上の説明からも明らかな通り、本発明による細胞播種装置1は培養容器4を回転させるための第1および第2の回転駆動手段2、3を相互に分離・独立としているため、容器4が中心にして回転するところの第1および第2の回転軸5、6の絶対位置および相対位置を、容器4に取付けられた回転筒4bおよび第1の回転駆動手段2に取付けられた回転輪2bの回転半径を変えることで任意に設定することができる。
【0062】
この結果、第1の回転軸5を中心にして回転している容器4が第2の回転軸6の周りを旋回するように、容器4の中心点に対して第1および/または第2の回転軸5、6を任意に偏芯させてこれらの回転軸5、6の周りを回転させることが可能となり、容器4内に生じる重力場の発生、惹いては容器4の中の細胞分散液40c中の細胞の自己分散を任意にコントロールすることができる。
【0063】
また、第1および第2の回転駆動手段2、3の第1および第2の回転軸5、6の少なくとも1つを、それ又はそれらを回転するための駆動軸とオフセットさせることにより、装置の構造がシンプルで、かつ安価であり、また、培養容器4へのアクセスが容易な細胞播種装置1およびその装置1を利用した細胞播種方法を提供することができる。
【0064】
次に、本発明による細胞播種装置1を用いて細胞播種を行なった実験結果を以下に示す。
【実施例1】
【0065】
本発明による細胞播種装置1の第1の回転駆動手段2内に血管内皮細胞分散液40cを封入したチャンバー40aの内径3mmのガラス容器4を設置し、ガラス容器4を第1の回転軸5の回りに毎分12回転、そしてガラス容器4を取付けた第1の回転駆動手段2を第2の回転軸6の回りに毎分4回転回転させて2時間回転したところ、図5に示すようにガラス容器4内に均一に細胞を播種することができた。
【実施例2】
【0066】
本発明による細胞播種装置1の第1の回転駆動手段2内に血管内皮細胞分散液40cを封入したチャンバー40aの内径1cmのガラス容器4を設置し、ガラス容器4を第1の回転軸5の回りに毎分12回転、そしてガラス容器4を取付けた第1の回転駆動手段2を第2の回転軸6の回りに毎分4回転回転させて2時間回転したところ、図6に示すようにガラス容器4の側面および底面ともに均一に細胞を播種することができた。
【実施例3】
【0067】
本発明による細胞播種装置1の培養容器4内に、あらかじめ細胞を除去したミニブタ心臓弁組織40bを血管内皮分散液40cとともに封入し、培養容器4を第1の回転軸5の回りに毎分12回転、そして培養容器4を取付けた第1の回転駆動装置2を第2の回転軸6の回りに毎分4回転回転させて2時間回転したところ、図7に示すように心臓弁の血管壁内および心臓弁葉40b表面ともに均一に細胞を播種することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的基質および該基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器を第1および第2の回転軸を中心にして回転させるための細胞播種装置であって、
生物学的基質および該基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器と、
該容器を第1の回転軸を中心にして回転自在に支持するための第1の回転駆動手段と、そして
該第1の回転軸を中心にして回転している該容器が第2の回転軸の周りを旋回するように、該第1の回転駆動手段を該第2の回転軸を中心にして回転自在に支持するための第2の回転駆動手段とを備え、
該第1および第2の回転軸は、互いに同一平面内上に存在しないように異なる方向へ離れて延びていることを特徴とする細胞播種装置。
【請求項2】
生物学的基質および該基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器を第1および第2の回転軸を中心にして回転させるための細胞播種装置であって、
生物学的基質および該基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器と、
該容器を第1の回転軸を中心にして回転自在に支持するための第1の回転駆動手段と、そして
該第1の回転軸を中心にして回転している該容器が第2の回転軸の周りを旋回するように、該第1の回転駆動手段を該第2の回転軸を中心にして回転自在に支持するための第2の回転駆動手段とを備え、
該第1および第2の回転軸は、互いに平行でなく、かつ、交差することなく異なる方向へ離れて延びていることを特徴とする細胞播種装置。
【請求項3】
該第1の回転軸と該第2の回転軸とが延びる方向は、該第1および第2の回転軸とを共に直角に結ぶことができる軸の回りに略90°離れた方向に延びていることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞播種装置。
【請求項4】
該第1および第2の回転軸の少なくとも1つは、それ又はそれらを回転するための駆動軸とオフセットされていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の細胞播種装置。
【請求項5】
該容器は、該第1の回転駆動手段へ/から取付け・取外し自在に支持されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の細胞播種装置。
【請求項6】
該第1の回転駆動手段は、該第2の回転駆動手段へ/から取付け・取外し自在に支持されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の細胞播種装置。
【請求項7】
該容器を回転させるために第1の回転駆動手段を制御するための手段と、該第1の回転駆動手段を回転させるために第2の回転駆動手段を制御するための手段とは、相互に分離・独立して回転および停止制御することができることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の細胞播種装置。
【請求項8】
該第1の回転駆動手段は、摩擦抵抗を利用した動力の伝達により該容器を回転させることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の細胞播種装置。
【請求項9】
該第2の回転駆動手段は、摩擦抵抗を利用した動力の伝達により該第1の回転駆動手段を回転させることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の細胞播種装置。
【請求項10】
生物学的基質および該基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器を第1および第2の回転軸を中心にして回転させるための細胞播種方法であって、
生物学的基質および該基質へ播種すべき細胞の分散液を容器の中へ収容するステップと、
該容器を第1の回転駆動手段の中へ回転自在に支持させるステップと、
該第1の回転駆動手段により、該容器を第1の回転軸を中心にして回転させるステップと、そして
第2の回転駆動手段により、該第1の回転軸を中心にして回転している該容器が第2の回転軸の周りを旋回するように、該第1の回転駆動手段を該第2の回転軸を中心にして回転させるステップとを含み、
該第1および第2の回転軸は、互いに同一平面内上に存在しないように異なる方向へ離れて延びていることを特徴とする細胞播種方法。
【請求項11】
生物学的基質および該基質へ播種すべき細胞の分散液を収容するための容器を第1および第2の回転軸を中心にして回転させるための細胞播種方法であって、
生物学的基質および該基質へ播種すべき細胞の分散液を容器の中へ収容するステップと、
該容器を第1の回転駆動手段の中へ回転自在に支持させるステップと、
該第1の回転駆動手段により、該容器を第1の回転軸を中心にして回転させるステップと、そして
第2の回転駆動手段により、該第1の回転軸を中心にして回転している該容器が第2の回転軸の周りを旋回するように、該第1の回転駆動手段を該第2の回転軸を中心にして回転させるステップとを含み、
該第1および第2の回転軸は、互いに平行でなく、かつ、交差することなく異なる方向へ離れて延びていることを特徴とする細胞播種方法。
【請求項12】
該第1の回転軸と該第2の回転軸とが延びる方向は、該第1および第2の回転軸とを共に直角に結ぶことができる軸の回りに略90°離れた方向に延びていることを特徴とする請求項10又は11に記載の細胞播種方法。
【請求項13】
該第1および第2の回転軸の少なくとも1つは、それ又はそれらを回転するための駆動軸とオフセットされていることを特徴とする請求項10ないし12のいずれかに記載の細胞播種方法。
【請求項14】
該容器は、該第1の回転駆動手段へ/から取付け・取外し自在に支持されていることを特徴とする請求項10ないし13のいずれかに記載の細胞播種方法。
【請求項15】
該第1の回転駆動手段は、該第2の回転駆動手段へ/から取付け・取外し自在に支持されていることを特徴とする請求項10ないし14のいずれかに記載の細胞播種方法。
【請求項16】
該容器を回転させるために第1の回転駆動手段を制御するための手段と、該第1の回転駆動手段を回転させるために第2の回転駆動手段を制御するための手段とは、相互に分離・独立して回転および停止制御することができることを特徴とする請求項10ないし15のいずれかに記載の細胞播種方法。
【請求項17】
該第1の回転駆動手段は、摩擦抵抗を利用した動力の伝達により該容器を回転させることを特徴とする請求項10ないし16のいずれかに記載の細胞播種方法。
【請求項18】
該第2の回転駆動手段は、摩擦抵抗を利用した動力の伝達により該第1の回転駆動手段を回転させることを特徴とする請求項10ないし17のいずれかに記載の細胞播種方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/017092
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513198(P2005−513198)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011817
【国際出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】