説明

立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)及びその製造方法

【課題】 立体規則性が98%以上である立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 一般式(2)で表される2−置換ピリジン(S)と有機マグネシウム化合物(T)を混合して異性体中間体(M)を生成させた後、ニッケル系触媒(C)として1,3−ジフェニルホスフィノプロパン塩化ニッケル(II)又は1,2−ジフェニルホスフィノエタン塩化ニッケル(II)を加えて重合反応を行うことにより立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(2−置換ピリジン)は、高度な加工性を有し、かつ導電率を示すポリマーに相当する。その結果、これら材料は、電解効果トランジスター、発光ダイオード(LED)、充電性バッテリー及び非線形光学材料等の電子及び光学デバイスの用途について見込みのある候補であることが分かっている。
【0003】
2−置換ピリジンは、その非対称の構造故に、2−置換ピリジンの重合は、繰り返し単位間に可能な3種の立体化学結合を含有するポリ(2−置換ピリジン)構造の混合物をもたらすという問題を有する。2つのピリジン環が結合するときに可能なこれら3種の方向は、3,3’、3,6’、6,6’結合である。導電性ポリマーとしての用途が望まれるときには、立体不規則結合と言われる、3,3’(又はヘッドtoヘッド)結合及び6,6’(又はテールtoテール)結合がそのポリマー構造中の問題点になると考えられる。というのは、それらは、共役を破壊して、ピリジン環の立体的な捻じれを起こし、かくして、電子的及び光学的特性を低下させてしまうからである。ピリジン環の2位における可溶化基が立体的に込み合った状態が、平面性を失わせてπオーバーラップを小さくさせている。対照的に、3,6’(又はヘッドtoテール)結合立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)は、低エネルギーコンフォーメーションをとり、自己集合することができる平らで高度に共役したポリマーをもたらすので、効率的な鎖間及び鎖内導電経路を提供する。立体規則性材料の電子的及び光学的特性は最大になる。
【0004】
この問題を解決するために、グリニャールメタセシス法(GRIM法)を用いて立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)を合成している。この方法は、ヘッドtoテール結合の百分率で定義される立体規則性が95%又はそれを越える高いパーセンテージのポリ(2−置換ピリジン)を生成する(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chemistry Letters,2001,P502−503
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1の方法は、2−置換ピリジンと有機マグネシウム化合物を混合して2種類の異性体非対称有機金属中間体が生成するために、ヘッドtoテール結合の百分率で定義される立体規則性が100%であるポリ(2−置換ピリジン)を製造することができない。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ポリ(2−置換ピリジン)の高導電化を可能にする立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)の製造方法及び立体規則性が98%以上であるポリ(2−置換ピリジン)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく検討を行った結果、本発明に到達した。即ち、本発明は、一般式(1)で表される2−置換ピリジン(S)と有機マグネシウム化合物(T)を混合して異性体中間体(M)を生成させた後、ニッケル系触媒(C)存在下で重合反応を行うことにより得られる、ピリジン環のヘッドtoテール結合の百分率で定義される立体規則性が98%以上である立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)の製造方法;該製造方法によって得られた立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P);立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)をドープして得られるn型導電性高分子(N)である。
【化1】

[式中、Rは置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のアルキル基又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基であり、X及びXは、異なるハロゲン原子を表す。]
【発明の効果】
【0008】
本発明の立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)の製造方法は、ポリ(2−置換ピリジン)の立体規則性を大幅に向上させるとともに、更にドープされたn型導電性高分子(N)の導電性を大幅に向上するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法によって得られる立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)は、一般式(2)で表されるポリ(2−置換ピリジン)(P)であって、ピリジン環のヘッドtoテール結合の百分率で定義される立体規則性が、98%以上である。
【化2】


[式中、Rは置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のアルキル基又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基を表し、nは10〜1000の整数である。]
【0010】
本発明の立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)は、ピリジン環のヘッドtoテール結合の百分率で定義される立体規則性が98%以上であるため、従来のポリ(2−置換ピリジン)に比べて立体規則性が改善され、その結果として、導電性を大幅に向上できる。
【0011】
立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)としては、ピリジン環のヘッドtoテール結合の百分率で定義される立体規則性が98%以上である、一般式(2)で表されるポリ(2−置換ピリジン)が挙げられる。
【0012】
本発明における立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)は、一般式(1)で表される2−置換ピリジン(S)と有機マグネシウム化合物(T)を混合して異性体中間体(M)を生成させた後、ニッケル系触媒(C)の存在下で重合反応を行うことにより製造することができる。
【0013】
一般式(1)におけるXとXの組み合わせとしては、−Brと−Cl、−Brと−I及び−Clと−Iとの組み合わせ等が挙げられ、合成の容易性の観点から好ましいのは、−Brと−Iの組み合わせである。
【0014】
一般式(1)におけるRとしては、Rは置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のアルキル基又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基が挙げられる。
【0015】
置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のアルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖若しくは分岐のアルキル基又は一般式(3)で表される基が挙げられる。

−R−(OR−OR (3)
[式中、Rは直結又は炭素数1〜3のアルキレン基を表し、ORは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、Rは直鎖又は分岐の炭素数1〜12のアルキル基を表し、rは0〜15の整数である。]
【0016】
一般式(3)における炭素数1〜20の直鎖又は分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−又はiso−プロピル基、n−、iso−、sec−又はtert−ブチル基、n−又はiso−ペンチル基、n−又はiso−ヘキシル基、n−又はiso−ヘプチル基、n−又はiso−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−又はiso−ノニル基、n−又はiso−デシル基、n−又はiso−ウンデシル基、n−又はiso−ドデシル基、n−又はiso−テトラデシル基、n−又はiso−ペンタデシル基、n−又はiso−ヘキサデシル基、n−又はiso−ヘプタデシル基、n−又はiso−オクタデシル基、n−又はiso−ノナデシル基及びn−又はiso−イコシル基などが挙げられる。
【0017】
一般式(3)におけるRとしては、メチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基及び1,3−プロピレン基等が挙げられる。直結の場合とは、連結基であるRを介在することなく、ピリジン環と−(OR−ORで表される基が直接連結された場合である。
【0018】
一般式(3)におけるORとしては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基を表し、導電性の観点から好ましいのはオキシエチレン基及びオキシプロピレン基である。
【0019】
一般式(3)におけるRは、直鎖又は分岐の炭素数1〜12のアルキル基(例えば、メチル基、n−又はiso−プロピル基、n−、iso−、sec−又はtert−ブチル基、n−又はiso−ペンチル基、シクロペンチル基、n−又はiso−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−又はiso−ヘプチル基、n−又はiso−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−又はiso−ノニル基、n−又はiso−デシル基、n−又はiso−ウンデシル基及びn−又はiso−ドデシル基)を表す。
【0020】
一般式(3)においてRは、導電性の観点から、直鎖又は分岐の炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基が更に好ましい。
【0021】
一般式(3)におけるrは0〜15の整数である。rは、導電性の観点から、1〜12であることが好ましく、更に好ましくは、3〜8である。
【0022】
一般式(3)で表される基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、1,4,7−トリオキサウンデシル基、1,4,7,10−テトラオキサドデシル基及び2,5,8,11,14,17,20−ヘプタオキサヘンイコシル基等が挙げられる。
【0023】
一般式(1)における置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基としては、一般式(4)又は一般式(5)で表される基が挙げられる。
−R−O−R (4)
[式中、Rは直結又は直鎖若しくは分岐の炭素数1〜4のアルキレン基を表し、Rは直鎖又は分岐の炭素数1〜15のパーフルオロアルキル基である。]
−R−OR−R (5)
[式中、Rは直結又は直鎖若しくは分岐の炭素数1〜4のアルキレン基を表し、ORは炭素数1〜4のオキシアルキレン基を表し、Rは直鎖又は分岐の炭素数1〜15のパーフルオロアルキル基である。]
【0024】
一般式(4)におけるRとしては、メチレン基、エチレン基、n−又はiso−プロピレン基及びn−、sec−、iso−又はtert−ブチレン基等が挙げられる。直結の場合とは、連結基であるRを介在することなく、ピリジン環と−O−Rで表されるパーフルオロアルコキシ基が直接連結された場合である。
【0025】
一般式(4)におけるRとしては、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロ−n−、iso−、sec−又はtert−ブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロ−2−エチルヘキシル基、パーフルオロノニル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロウンデシル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロトリデシル基、パーフルオロテトラデシル基及びパーフルオロペンタデシル基等が挙げられる。
【0026】
一般式(4)としては、具体的には、以下の化合物が挙げられる。Rが介在しない−O−R基[パーフルオロメトキシ基、パーフルオロエトキシ基、パーフルオロプロポキシ基、パーフルオロブトキシ基、パーフルオロペンチルオキシ基、パーフルオロヘキシルオキシ基、パーフルオロヘプチルオキシ基、パーフルオロオクチルオキシ基、パーフルオロノニルオキシ基、パーフルオロデシルオキシ基、パーフルオロウンデシルオキシ基及びパーフルオロドデシルオキシ基等];Rが介在する−R−O−R基[パーフルオロメトキシメチル基、パーフルオロエトキシメチル基、パーフルオロプロポキシメチル基、パーフルオロブトキシメチル基、パーフルオロペンチルオキシメチル基、パーフルオロヘキシルオキシメチル基、パーフルオロヘプチルオキシメチル基、パーフルオロオクチルオキシメチル基、パーフルオロノニルオキシメチル基、パーフルオロデシルオキシメチル基、パーフルオロウンデシルオキシメチル基、パーフルオロドデシルオキシメチル基、パーフルオロトリデシルオキシメチル基、パーフルオロテトラデシルオキシメチル基、パーフルオロペンタデシルオキシメチル基、2−パーフルオロヘキシルオキシエチル基、3−パーフルオロヘキシルオキシプロピル基及び4−パーフルオロヘプチルオキシブチル基等]が挙げられる。
一般式(4)で表される基として好ましいものは、直鎖若しくは分岐の炭素数1〜6のパーフルオロアルコキシ基又は直鎖若しくは分岐の炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。更に好ましいのは、直鎖若しくは分岐の炭素数1〜4のパーフルオロアルコキシ基又は直鎖若しくは分岐の炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であり、特に好ましいのは、パーフルオロエトキシ基又はパーフルオロメチル基である。
【0027】
一般式(5)におけるRとしては、前記Rで例示したものと同様のが挙げられる。直結の場合とは、連結基であるRを介在することなく、ピリジン環と−O−R−Rで表されるパーフルオロアルキルアルコキシ基が直接連結された場合である。これらのうち好ましいものは直鎖又は分岐の炭素数1〜3のアルキレン基であり、さらに好ましいものはメチレン基、エチレン基である。
【0028】
一般式(5)におけるORとしては、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基等が挙げられる。これらのうち好ましいものは、オキシメチレン基又はオキシエチレン基である。
【0029】
一般式(5)におけるRとしては、前記Rで例示したものと同様の基が挙げられる。これらのうち好ましいものは、直鎖又は分岐の炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基であり、更に好ましいのは、直鎖又は分岐の炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。
【0030】
一般式(5)で表される基として好ましいものは、直鎖若しくは分岐の炭素数1〜6のパーフルオロアルキルエトキシ基又は直鎖若しくは分岐の炭素数1〜6のパーフルオロアルキルメトキシ基、更に好ましいものは、直鎖若しくは分岐の炭素数1〜4のパーフルオロアルキルエトキシ基又は直鎖若しくは分岐の炭素数1〜4のパーフルオロアルキルメトキシ基である。
【0031】
一般式(5)で表される基としては、2,2,2−トリフルオロ−1−エチルオキシ基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロピルオキシ基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−1−ヘキシルオキシ基、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクチルオキシ基、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロ−1−デシルオキシ基、4,4,5,5,5−ペンタフルオロ−1−ペンチルオキシ基、4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロ−1−ヘプチルオキシ基、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−トリデカフルオロ−1−ノニルオキシ基及び4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロ−1−ウンデシルオキシ基、4,4,5,5,5−ペンタフルオロ−2−オキサペンチル基、4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロ−2−オキサヘキシル基、5,5,6,6,7,7,8,8,8−ノナフルオロ−2−オキサオクチル基、5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−トリデカフルオロ−2−オキサデシル基及び5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12−ヘプタデカフルオロ−2−オキサドデシル基等が挙げられる。
これらのうち好ましいものは、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクチルオキシ基、更に好ましいものは、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−1−ヘキシルオキシ基、特に好ましいものは、2,2,2−トリフルオロ−1−エチルオキシ基又は2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロピルオキシ基である。
【0032】
一般式(1)で表される2−置換ピリジン(S)の製造方法としては、例えば、2位及び3位又は6位にハロゲン原子を有する化合物を出発原料として合成することができる。2−置換ピリジン(S)は、3位及び6位に同種のハロゲン原子を有しないため、立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)を製造するのに有用である。
【0033】
グリニャール試薬としての有機マグネシウム化合物(T)は、一般式(6)で表される。
R’MgX’ (6)
[式中、R’は、直鎖又は分岐の炭素数1〜20のアルキル基、ビニル基及びフェニル基からなる群から選ばれる置換基であり、X’はハロゲン基である。]
【0034】
一般式(6)におけるR’としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ドデシル基、ビニル基及びフェニル基等が挙げられる。
一般式(6)におけるX’としては、クロロ基、ブロモ基及びヨード基等が挙げられる。
【0035】
一般式(6)で表される有機マグネシウム化合物(T)としては、臭化メチルマグネシウム、臭化エチルマグネシウム、臭化イソプロピルマグネシウム、塩化イソプロピルマグネシウム、臭化ドデシルマグネシウム、臭化ビニルマグネシウム及び塩化フェニルマグネシウム等が挙げられる。
【0036】
一般式(6)で表される有機マグネシウム化合物(T)として好ましいものは、合成の容易性の観点から、臭化メチルマグネシウム、臭化イソプロピルマグネシウム、又は塩化イソプロピルマグネシウムである。
【0037】
一般式(1)で表される2−置換ピリジン(S)が、3位及び6位に同種のハロゲン原子を有さないため、異性中間体(M)としては、一般式(7)又は(8)いずれか一方のみで表される構造を有する。
【化3】


[式中、Rは置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のアルキル基又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基であり、そして、X、X及びX’はそれぞれ独立してハロゲン基を表す。]
【0038】
本発明の製造方法では、2−置換ピリジン(S)におけるX及びXが、異なるハロゲン原子であるために、有機マグネシウム化合物(T)と混合して生成する異性体中間体(M)は1種類である。
【0039】
ニッケル系触媒(C)としては、1,3−ジフェニルホスフィノプロパン塩化ニッケル(II)及び1,2−ジフェニルホスフィノエタン塩化ニッケル(II)等が挙げられる。
【0040】
ニッケル系触媒(C)として好ましいものは、ポリ(2−置換ピリジン)の立体規則性の観点から、1,3−ジフェニルホスフィノプロパン塩化ニッケル(II)である。
【0041】
本発明の製造方法では、2−置換ピリジン(S)と有機マグネシウム化合物(T)と混合して生成する異性体中間体(M)は1種類であるために、ニッケル触媒(C)存在下で重合反応を行うことにより、立体規則性が98%以上であるポリ(2−置換ピリジン)(P)を得ることができる。ポリ(2−置換ピリジン)(P)のnは、好ましくは10〜1,000であり、更に好ましくは、10〜500である。
【0042】
ポリ(2−置換ピリジン)(P)の立体規則性としては、導電性の観点から、好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは99%以上であり、特に好ましくは100%である。
【0043】
本発明における立体規則性(Regioregularity:RR)の定義を以下に説明する。
ポリ(2−置換ピリジン)の結合の種類は代表例として下記の一般式に示すように、HT−HT結合(B1)、TT−HT結合(B2)、HT−HH結合(B3)、TT−HH結合(B4)の4種類ある。尚ここで、HTはヘッドtoテール、TTはテールtoテール、HHはヘッドtoヘッドの略称である。
【0044】
【化4】

【0045】
上記4つの結合形式の化学式中のRは、Rは置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のアルキル基又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基を表す。
【0046】
本発明における立体規則性(RR)は、ポリ(2−置換ピリジン)中のHT−HT結合(ヘッドtoテール−ヘッドtoテール結合)の割合(%)で定義され、下記数式(1)により算出される。
立体規則性(RR)=b1×100/(b1+b2+b3+b4) (1)
ただし、b1:HT−HT結合の個数、b2:TT−HT結合の個数、b3:HT−HH結合の個数、b4:TT−HH結合の個数を表す。
【0047】
具体的には、これらの結合が有するプロトンは、核磁気共鳴法(H−NMR)でそれぞれ特有のケミカルシフト(δ)を示すので、4種類の結合に該当するケミカルシフトの積分値から算出することができる。
一般式(2)で表されるポリ(2−置換ピリジン)(P)の場合、具体的には、4位のプロトンについて、B1:δ=約7.86、B2:δ=約8.73を示す。
一方、B3及びB4は、2位の置換基の立体障害によって、熱力学的に生成し難いため、核磁気共鳴法(H−NMR)では検出できない、若しくは検出できてもB1及びB2に対して強度比が無視できるほど小さい。
よって、立体規則性(RR)は、B1、B2特有の4位のプロトンのケミカルシフトにおける積分値S1、S2を計算し、その積分値の和に対するB1特有の4位のプロトンのケミカルシフトにおける積分値S1の割合(%)から下記数式(2)を用いて算出する。
立体規則性(RR)=S1×100/(S1+S2) (2)
なお、上記H−NMRの測定は、測定機器:AVANCEIII400型デジタルNMR[ブルカ−・バイオスピン(株)製]を用いて、測定溶媒:重クロロホルム、測定温度:27℃、の条件で行った。
【0048】
本発明の立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(以下、Mwと略記)が2,000〜500,000であることが溶剤溶解性の観点で好ましく、5,000〜200,000であることが更に好ましい。
【0049】
立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)のMwは、GPCを用いて以下の条件で測定される。
装置(一例) : 島津製作所GPCシステム型番CBM−20Alite
カラム(一例) : TSK GEL GMH6 2本 〔東ソー(株)製〕
測定温度 : 40℃
試料溶液 : 0.25重量%N,N−ジメチルホルムアミド
溶液注入量 : 100μL
検出装置 : 屈折率検出器
基準物質 : 東ソー(株)製 標準ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE)12点(分子量 500 1050 2800 5970 9100 18100 37900 96400 190000 355000 1090000 2890000)
なお、Mwの測定は、試料をジメチルホルムアミドに溶解し、不溶解分をグラスフィルターでろ別したものを試料溶液とするが、ジメチルホルムアミドに溶解しない試料に関しては、溶解溶剤をテトラヒドロフラン(以下、THFと略記する)及びクロロホルム等に変更してもよい。
【0050】
本発明の製造方法によって得られる、一般式(2)で表される構造を有し、ピリジン環のヘッドtoテール結合の百分率で定義される立体規則性が98%以上である立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)は、化学的・電気化学的n型ドーピングすることにより、n型導電性高分子(N)とすることができる。
【0051】
n型ドーピングは、n型導電性高分子(N)の安定性の観点から化学的n型ドーピングが好ましい。
【0052】
ポリ(2−置換ピリジン)(P)は、ドーパント(D)から電子を供受して、ドーパントとともに電荷移動錯体を形成し、n型導電性高分子(N)となる。
この電荷移動錯体が電子のキャリヤとして導電性を発現するため、ドーパントの濃度は高い方がよいが、過剰だと導電性が低下する。従って、ドーパントの使用量は、ポリ(2−置換ピリジン)(P)の重量に基づいて、5〜300重量%が好ましく、更に好ましくは10〜150重量%である。
【0053】
ドーパント(D)としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属等を挙げる事ができる。
これらの中で好ましいのは、合成の容易性及びn型導電性高分子(N)の安定性の観点から、リチウム、ナトリウム及びカリウムであり、更に好ましいのはリチウム及びナトリウムである。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、部は重量部を示す。
【0055】
<実施例1>
ポリ(2−ヘキシルピリジン)(P−1)の合成:
(1)3−アミノ−2,6−ジブロモピリジンの合成;
3−アミノピリジン31部とN−ブロモスクシンイミド203部をN,N−ジメチルスルホキシド700部と蒸留水20部の混合溶液に溶解させ、室温で12時間反応させた。
反応終了後、蒸留水700部を加え、沈殿物をろ過した。沈殿物を蒸留水30部で2回洗浄し、3−アミノ−2,6−ジブロモピリジン73部を得た。
【0056】
(2)3−アミノ−6−ブロモ−2−ヘキシルピリジンの合成;
上記の3−アミノ−2,6−ジブロモピリジン73部をTHF400部に溶解させた後、20重量%ヘキシルマグネシウムブロミドTHF溶液288部を加え、75℃で1時間反応させた。
反応終了後、室温まで放冷し、酢酸エチル50部を使ってグラスフィルターで沈殿物を除去し、THFと酢酸エチルを留去した。得られた混合物をシリカゲルカラムで精製することにより3−アミノ−6−ブロモ−2−ヘキシルピリジン47部を得た。
【0057】
(3)6−ブロモ−2−ヘキシル−3−ヨードピリジンの合成;
25重量%硫酸230部に上記の3−アミノ−6−ブロモ−2−ヘキシルピリジン47部を分散させた後、0℃で亜硝酸ナトリウム19部を加え、0℃で20分間反応させた。
反応終了後、0℃で30重量%ヨウ化カリウム水溶液180部を加え、室温で30分間反応させた。
反応終了後、37重量%炭酸カリウム水溶液260部を加え、酢酸エチル300部を使って分液抽出し、水層を分離した。更に有機層を蒸留水100部で2回洗浄した後、酢酸エチルを留去した。得られた混合物をシリカゲルカラムで精製することにより6−ブロモ−2−ヘキシル−3−ヨードピリジン23部を得た。
【0058】
(4)ポリ(2−ヘキシルピリジン)(P−1)の合成;
上記の6−ブロモ−2−ヘキシル−3−ヨードピリジン23部をTHF550部に溶かした後、15重量%イソプロピルマグネシウムブロミドTHF溶液71部を加え、75℃で30分反応させた。その反応溶液に[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]−ジクロロニッケル(II)0.34部を加え75℃のまま更に2時間反応させた。反応終了後、室温まで放冷し、蒸留水500部、クロロホルム500部を加え分液抽出し、水層を分離した。クロロホルムを留去し、残留物をソックスレー抽出機に移し、ヘキサン150部で洗浄した。最後に残留物をクロロホルム150部で抽出し、溶剤を留去してポリ(2−ヘキシルピリジン)(P−1)5部を得た。前述のH−NMRを用いた方法で算出した立体規則性は99%であり、Mwは、30030であった。
【0059】
<実施例2>
ポリ{2−(1,4,7,10−テトラオキサドデシル)ピリジン}(P−2)の合成:
(1)3−アミノ−6−ブロモ−2−(1,4,7,10−テトラオキサドデシル)ピリジンの合成;
1,4−ジオキサン370部に水素化ナトリウムの60重量%流動パラフィン分散体[東京化成工業(株)製]12部を分散させ、そこにトリエチレングリコールモノエチルエーテル[東京化成工業(株)製]51部を滴下した。反応溶液は発泡し白濁した。発泡が収まったところで、反応溶液を上記の3−アミノ−2,6−ジブロモピリジン73部に加えた。
反応溶液を100℃まで加熱し2時間反応させた。反応終了後、室温まで放冷し蒸留水300部を加え、酢酸エチル300部を使って分液抽出し、水層を分離した。更に有機層を蒸留水100部で2回洗浄した後、酢酸エチルを留去し、3−アミノ−6−ブロモ−2−(1,4,7,10−テトラオキサドデシル)ピリジン89部を得た。
【0060】
(2)6−ブロモ−3−ヨード−2−(1,4,7,10−テトラオキサドデシル)ピリジンの合成;
25重量%硫酸440部に上記の3−アミノ−6−ブロモ−2−(1,4,7,10−テトラオキサドデシル)ピリジン89部を分散させた後、0℃で亜硝酸ナトリウム28部を加え、0℃で20分間反応させた。
反応終了後、0℃で30重量%ヨウ化カリウム水溶液320部を加え、室温で30分間反応させた。
反応終了後、37重量%炭酸カリウム水溶液490部を加え、酢酸エチル300部を使って分液抽出し、水層を分離した。更に有機層を蒸留水100部で2回洗浄した後、酢酸エチルを留去した。得られた混合物をシリカゲルカラムで精製することにより6−ブロモ−3−ヨード−2−(1,4,7,10−テトラオキサドデシル)ピリジン44部を得た。
【0061】
(4)ポリ{2−(1,4,7,10−テトラオキサドデシル)ピリジン}(P−2)の合成;
上記の6−ブロモ−3−ヨード−2−(1,4,7,10−テトラオキサドデシル)ピリジン44部をTHF1000部に溶かした後、15重量%イソプロピルマグネシウムブロミドTHF溶液112部を加え、75℃で30分反応させた。その反応溶液に[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]−ジクロロニッケル(II)0.53部を加え75℃のまま更に2時間反応させた。反応終了後、室温まで放冷し、蒸留水500部、クロロホルム500部を加え分液抽出し、水層を分離した。クロロホルムを留去し、残留物をソックスレー抽出機に移し、ヘキサン150部で洗浄した。最後に残留物をクロロホルム150部で抽出し、溶剤を留去してポリ{2−(1,4,7,10−テトラオキサドデシル)ピリジン}(P−2)8部を得た。前述のH−NMRを用いた方法で算出した立体規則性は100%であり、Mwは、58010であった。
【0062】
<実施例3>
ポリ{2−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロピルオキシ)ピリジン}(P−3)の合成:
製造例2においてトリエチレングリコールモノエチルエーテル51部の代わりに2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール[東京化成工業(株)製]45部を使用したこと以外は製造例2と同様にしてポリ{2−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロピルオキシ)ピリジン}(P−3)9部を得た。
尚、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノールに変更するに際して、反応成分のモル比及び非反応成分(溶剤等)の重量比が、製造例2における場合と同等となるように各原料の量を調整して操作を行った。前述のH−NMRを用いた方法で算出した立体規則性は100%であり、Mwは、53000であった。
【0063】
<比較例1>
ポリ(2−ヘキシルピリジン)(P’−1)の合成:
(1)3,6−ジブロモ−2−ヘキシルピリジンの合成;
47重量%臭化水素酸41部に上記の3−アミノ−6−ブロモ−2−ヘキシルピリジン17部を分散させた後、−10℃で臭素110部を加え、0℃で30分間反応させた。
反応終了後、−10℃で亜硝酸ナトリウム18部を加え、−10℃で2時間反応させた。
反応終了後、37重量%炭酸カリウム水溶液100部を加え、酢酸エチル50部を使って分液抽出し、水層を分離した。更に有機層を蒸留水30部で2回洗浄した後、酢酸エチルを留去した。得られた混合物をシリカゲルカラムで精製することにより3,6−ジブロモ−2−ヘキシルピリジン16部を得た。
【0064】
(2)ポリ(2−ヘキシルピリジン)(P’−1)の合成;
上記の3,6−ジブロモ−2−ヘキシルピリジン16部をTHF380部に溶かした後、11重量%イソプロピルマグネシウムクロリドTHF溶液57部を加え、75℃で30分反応させた。その反応溶液に[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]−ジクロロニッケル(II)0.27部を加え75℃のまま更に2時間反応させた。反応終了後、室温まで放冷し、蒸留水300部、クロロホルム300部を加え分液抽出し、水層を分離した。クロロホルムを留去し、残留物をソックスレー抽出機に移し、ヘキサン150部で洗浄した。最後に残留物をクロロホルム150部で抽出し、溶剤を留去してポリ(2−ヘキシルピリジン)(P’−1)3部を得た。前述のH−NMRを用いた方法で算出した立体規則性は95%であり、Mwは、28000であった。
【0065】
得られたポリ(2−置換ピリジン)の立体規則性を前述のH−NMRを用いた方法で算出した結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例4
ナトリウム3部とナフタレン8部をTHF400部に加え、残留物をろ過し、ろ液に上記の実施例1で得られたポリ(2−置換ピリジン)(P−1)3部を加え、アルゴン雰囲気下、室温で2日間反応させた。
反応終了後、沈殿物をろ過し、沈殿物をTHF10部で3回洗浄することによりナトリウムでドープされたn型導電性高分子(N−1)を得た。
実施例5〜6及び比較例2
実施例4において、ポリ(2−置換ピリジン)(P−1)を実施例2,3及び比較例1で得られたポリ(2−置換ピリジン)に変更する以外は同様にしてn型導電性高分子(N−2)、(N−3)及び比較物質であるn型導電性高分子(N’−1)を得た。
<導電性評価用ペレットの作成>
得られたナトリウムでドープされたn型導電性高分子をプレス機で厚さ1cmにして導電性評価用ペレットを得た。
【0068】
[評価例]
得られた導電性評価用ペレットを用いて、以下の評価方法により、導電性を評価した結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
<導電性の評価>
導電性評価用ペレットの表面抵抗を、Lоresta GP TCP−T250[三菱化学(株)製]を用いて4端子法により測定し、得られた表面抵抗値と膜厚から、導電率を下記数式(3)により算出する。
導電率(S/cm)=1/{膜厚(cm)×表面抵抗(Ω/□)} (3)
【0071】
表1より、本発明のポリ(2−置換ピリジン)(P−1)〜(P−3)は、比較例1のポリ(2−置換ピリジン)(P’−1)より、立体規則性が優れており、表2より、更にナトリウムでドープされたn型導電性高分子(N−1)〜(N−3)は、比較例のポリ(2−置換ピリジン)(P’−1)をドープしたn型導電性高分子(N’−1)よりも導電性が極めて良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される2−置換ピリジン(S)と有機マグネシウム化合物(T)を混合して異性体中間体(M)を生成させた後、ニッケル系触媒(C)存在下で重合反応を行うことにより得られる、ピリジン環のヘッドtoテール結合の百分率で定義される立体規則性が98%以上である立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)の製造方法。
【化1】


[式中、Rは置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のアルキル基又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基であり、X及びXは、異なるハロゲン原子を表す。]
【請求項2】
及びXのいずれか一方が−Brで表され、他方が−Iで表される請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ニッケル系触媒(C)が、1,3−ジフェニルホスフィノプロパン塩化ニッケル(II)又は1,2−ジフェニルホスフィノエタン塩化ニッケル(II)を含有する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法によって得られる立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)であって、ピリジン環のヘッドtoテール結合の百分率で定義される立体規則性が98%以上である一般式(2)で表される立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)。
【化2】


[式中、Rは置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のアルキル基又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基を表し、nは10〜1000の整数である。]
【請求項5】
請求項4に記載の立体規則性ポリ(2−置換ピリジン)(P)をドープして得られるピリジン環のヘッドtoテール結合の百分率で定義される立体規則性が、98%以上であるn型導電性高分子(N)。