立坑又は横坑構築用の壁部材
【課題】ライナープレートを用いて土留め用の筒状体又は半筒状体を形成する際に、補強リングを必要とせずに構築可能にする。
【解決手段】例えば立坑を構築する際に、立坑の周方向及び軸方向に複数連結されて土留め用の筒状体又は半筒状体を形成するための壁部材21であって、立坑の周方向及び軸方向に複数連結される壁部材本体としてライナープレート1を用いるとともに、このライナープレート1の波付け面に繊維補強による高靭性セメント複合材料層23を形成する。高靭性セメント複合材料は靭性が高いので、ライナープレート1の特徴である変形特性を損なわずに、強度を向上させることができる。強度が向上するので、上下のライナープレートのフランジ3どうしを、補強リングを介在させずに直接ボルト12で連結することが可能となり、施工性が向上する。
【解決手段】例えば立坑を構築する際に、立坑の周方向及び軸方向に複数連結されて土留め用の筒状体又は半筒状体を形成するための壁部材21であって、立坑の周方向及び軸方向に複数連結される壁部材本体としてライナープレート1を用いるとともに、このライナープレート1の波付け面に繊維補強による高靭性セメント複合材料層23を形成する。高靭性セメント複合材料は靭性が高いので、ライナープレート1の特徴である変形特性を損なわずに、強度を向上させることができる。強度が向上するので、上下のライナープレートのフランジ3どうしを、補強リングを介在させずに直接ボルト12で連結することが可能となり、施工性が向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、立坑又は横坑を構築する際に、立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結されて土留め用の筒状体又は半筒状体を形成するための立坑又は横坑構築用の壁部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、図2に示すようなライナープレート1を用いて、図10に示すような立坑を構築することが広く行われている。
ライナープレート1は、山部2aと谷部2bとが繰り返し形成された矩形の波付け鋼板部2の4辺にフランジ3、4を持つ構造である。波付け方向(図2(イ)、(ハ)で上下方向)の両端のフランジ3は鋼板を折り曲げて形成したフランジであり、波付け方向と直交する方向(図2(イ)で左右方向)の両端のフランジ4は、別部材の端面プレートを溶接固定したものである。場合により、前記フランジ3を折り曲げフランジ、フランジ4を端面プレートと呼ぶ。
折り曲げフランジ3には当該ライナープレート1を上下に連結するための複数のボルト挿通穴3aがあけられ、端面プレート4には当該ライナープレート1を周方向に連結するための複数のボルト挿通穴4aがあけられている。
【0003】
上記のライナープレート1を用いて立坑を構築する場合、掘削した竪穴内に、図10に模式的に示すように、周方向(図10(ロ)の円周方向)および軸方向(図10(イ)の上下方向)に連結して筒状体7を組み立てる。
図10の筒状体7はライナープレートだけでは強度が確保されない場合に採用される構造であるが、その場合、同図のように、上下のライナープレート1間に適宜補強リング8を介在させる。
補強リング8には通常H形鋼が用いられ、図11(イ)のように、H形鋼のウエブ8aを挟んでライナープレート1の軸方向のフランジ3どうしをボルト9及びナットで締着して連結する。なお、補強リング8どうしの周方向連結は、周方向に隣接するH形鋼のフランジ8bに連結プレート10を当て、ボルト11及びナットでH形鋼フランジ8bに固定して行う。
特許文献1のライナープレート立坑は、四角形断面の立坑の実施例を例示しているが、基本的に上記と同様な構造であり、上下のライナープレート間に適宜補強リングを介在させている。
また、補強リングを用いない箇所では図11(ロ)のようにフランジ3どうしを直接重ね合わせ、ボルト12とナット13とで締着して連結する。
次の特許文献のうち特許文献2〜特許文献6については、後述する。
【特許文献1】特開2003−221996
【特許文献2】特開2001−288999
【特許文献3】特開2006−219900
【特許文献4】特開2005−155187
【特許文献5】特開2000−170323
【特許文献6】特開2007−169950
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のライナープレート1は、波付けした断面形状なので重量に対する断面性能に優れており、軽量で取り扱いが容易であり、また組立てはボルト締め作業が主体となるもので施工性に優れており、これらから経済性に優れるという大きな長所を備え、広く使用されているが、これらの長所をさらに向上させることが望まれる。
特に、組立てに際して補強リングを用いることが必要な場合が多いが、補強リングが必要になることで組立ての施工性は大きく低下するので、補強リングを必要としない構造が望まれる。
【0005】
ところで、近年、コンクリート構造物のひび割れを防止できるセメント系材料として、繊維補強による高靭性セメント複合材料(一般にDFRCCと呼ばれる)が注目されている。
この高靭性セメント複合材料は、その高い靭性を活かす用途に用いられるが、例えば、コンクリート構造部材が劣化した場合の補修工法として、構造部材の断面表層部分の劣化部分を除去し、必要に応じて鉄筋を補強するなどした後、除去部分を健全な材料で置換する断面修復工法において、置換する材料として、通常のコンクリートに代えて高靭性セメント複合材料を用いることが提案されている(特開2001−288999 構造部材の断面修復方法(特許文献2))。
道路床版の補修・補強の場合は、道路床版の劣化部をはつり、コンクリートを健全な状態にし、その後、高靭性セメント複合材料を用いて断面を修復する。
【0006】
また、型枠底板としての鋼板上に鉄筋を配置しコンクリートを打設して構築する合成床版として、通常のコンクリートに代えて高靭性セメント複合材料を用いること提案されている(特開2006−219900 合成床版(特許文献3))。
【0007】
また、鋼橋に用いられた合成床版構造体として、鋼床版の上にアスファルト舗装の基層として施されるグースアスファルト層に代えて高靭性セメント複合材料を用いることも提案されている(特開2005−155187 合成床版構造体(特許文献4))。
【0008】
また、トラス構造やラーメン構造の部材として用いられるコンクリート充填鋼管において、鋼管に充填するコンクリートとして、通常のコンクリートに代えて高靭性セメント複合材料を用いることも提案されている(特開2000−170323 トラスおよびブレース構造材(特許文献5))。
【0009】
また、橋梁や高架道路における伸縮吸収のために橋梁や高架道路の床版間の連結部に設ける伸縮構造として、高靭性セメント複合材料を用いることが行われている(特開2007−169950 橋梁用伸縮体とそれを用いた橋梁伸縮構造(特許文献6))。
【0010】
上記のように、従来、高靭性セメント複合材料は、その高い靭性を活かす用途として、単に、靭性のない通常のコンクリートの代替として用いるという発想で採用されている(特許文献2〜5)。
また、特許文献6の場合は、靭性を必要とする部材の材料として高靭性セメント複合材料を用いるという発想である。
【0011】
本発明は上述の背景のもとになされたもので、立坑又は横坑の構築のために土留め用の筒状体又は半筒状体を形成する際に、補強リングを必要とせずに構築することができ、施工性を大幅に改善できる立坑又は横坑用の壁部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は、立坑又は横坑を構築する際に、立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結されて土留め用の筒状体又は半筒状体を形成するための立坑又は横坑構築用の壁部材であって、
立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結される壁部材本体として、矩形輪郭の波付け鋼板部の4辺にフランジを持つライナープレートを用いるとともに、このライナープレートの波付け面に繊維補強による高靭性セメント複合材料層を形成したことを特徴とする。
【0013】
請求項2は、請求項1の立坑又は横坑用の壁部材において、前記ライナープレートにおける前記筒状体又は半筒状体外面となる面に、繊維補強による高靭性セメント複合材料層を形成したことを特徴とする。
【0014】
請求項3は、請求項1又は2の立坑又は横坑構築用の壁部材において、前記ライナープレートにおける前記高靭性セメント複合材料層を形成する面に、高靭性セメント複合材料との結合を図るための結合具を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結される壁部材本体を構成するライナープレートの波付け面に高靭性セメント複合材料層を形成しているので、強度の大なる壁部材が得られる。
例えば円形立坑の場合、壁部材で組み立てられた円筒体の外周面に半径方向の土圧が作用し、その土圧により壁部材に周方向の圧縮力が生じるので、この圧縮力に耐える強度が必要である。本発明ではセメント系材料である高靭性セメント複合材料がその圧縮力の少なくない一部を負担するので、ライナープレートが負担する圧縮力は小さくなり、壁部材全体としの強度が大きく向上する。
したがって、壁部材本体であるライナープレートを筒状体又は半筒状体の軸方向に連結する際、すべてライナープレートどうし直接連結しても、構築された筒状体又は半筒状体の強度を確保できる。
したがって、H形鋼による補強リングを設けることが不要となり、施工性が大幅に向上する。
【0016】
ライナープレートはコンクリート製品と異なり若干の変形を許容できる変形特性を有するが、ライナープレートと通常のセメント系材料とを複合させたとすれば、ライナープレートの特徴である変形特性をセメント系材料が損なってしまう。
しかし、本発明で用いる繊維補強による高靭性セメント複合材料の靭性は充分高く、ライナープレートの変形特性を損なうことがないので、鋼材であるライナープレートの特性と繊維補強による高靭性セメント複合材料の特性との両者が適切に活かされて、上記のように強度の高い壁部材が得られる。
【0017】
また、H形鋼による補強リングが不要なので、立坑構築の際の余掘りが少なく済む。
すなわち、H形鋼による補強リングを設ける場合、図10、図11(イ)のように、H形鋼8のウエブ8aの高さはライナープレート1の厚みと比べて大きいので、H形鋼のフランジ8bがライナープレート厚み方向の内外に突出する。また、円周方向の補強リング(H形鋼)8どうしの連結部ではさらに突出する。
したがって、ライナープレートの外面と地山の穴壁面との間の隙間S’を大きく取る必要がある。すなわち余掘りを多くする必要がある。
しかし、本発明では補強リングが不要なので、上記の余掘りは少なく済む。図3に本発明の実施例における壁部材の外面と地山の壁面との間の隙間をSで示す。
【0018】
高靭性セメント複合材料は、請求項2のように、ライナープレートにおける筒状体又は半筒状体外面となる面(仮にライナープレート外面と呼ぶ)に形成するのが、圧縮力を有効に負担できるので、適切である。
また、請求項2のように、ライナープレート外面に高靭性セメント複合材料を形成した場合、円筒体の外面が平滑面となるので、地山の穴壁面と円筒体との間の隙間に土砂を埋め戻す際に、土砂の埋め戻しが円滑に行なわれる。
すなわち、内部摩擦角(安息角)が大きな土砂の場合、ライナープレート外面の波の谷部に円滑に入り込むことができずに、空隙が生じる恐れがある。しかし、外面が高靭性セメント複合材料で平坦になっているので、そのような問題は生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の立坑又は横坑用の壁部材の実施例を、図1〜図9参照して説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明の一実施例の壁部材21の断面図である。この壁部材21は、立坑を構築する際に、図3に示すように、円形断面の立坑の周方向及び軸方向に複数連結されて土留め用の筒状体22を形成するための壁部材である。
この壁部材21の本体(壁部材本体)としてライナープレート1を用いる。
このライナープレート1は、先に図2について説明した通りであるが、山部2aと谷部2bとが繰り返し形成された矩形の波付け鋼板部2の4辺にフランジ3、4を持つ構造であり、円形断面の立坑用であるから、円弧状に湾曲している。波付け方向(図2(イ)、(ハ)で上下方向)の両端のフランジ3は鋼板を折り曲げて形成したフランジであり、波付け方向と直交する方向(図2(イ)で左右方向)の両端のフランジ4は、別部材の端面プレートを溶接固定したものである。場合により、前記フランジ3を折り曲げフランジ、フランジ4を端面プレートと呼ぶ。
折り曲げフランジ3には当該ライナープレート1を上下に連結するための複数のボルト挿通穴3aがあけられ、端面プレート4には当該ライナープレート1を周方向に連結するための複数のボルト挿通穴4aがあけられている。
【0021】
前記壁部材21は、壁部材本体である前記ライナープレート1の波付け面に繊維補強による高靭性セメント複合材料23の層を形成した構造である。
高靭性セメント複合材料とは、セメント系材料を短繊維により補強した複合材料であって、曲げモーメント作用下あるいは引張り力作用下においてひび割れ発生後も応力の低下がなく、見かけのひずみの増加に伴い応力が増加する「ひずみ硬化特性」と、微細ひび割れが無数に生じるマルチプルクラック特性を有する特徴を持つ材料である。
【0022】
上記の壁部材21を用いて立坑を構築する場合、掘削した竪穴内に、図3(イ)、(ロ)に模式的に示すように、周方向(図3(ロ)の円周方向)および軸方向(図3(イ)で上下方向)に連結して筒状体27を組み立てる。筒状体27の円周方向の連結は、円周方向に隣接するライナープレート1のフランジ(端面プレート)4どうしを重ねボルトとナット(図示略)で締着して行う。
また、筒状体27の軸方向の連結は、図4に示すように、補強リングを用いることなく、上下に隣接するライナープレート1のフランジ(折り曲げフランジ)3どうしをすべて、直接重ね合わせ、ボルト12とナット13で締着して行う。この上下の連結部は図11(ロ)の連結部と同じである。
実施例の立坑は、従来ならば強度的に補強リングが必要となるものを想定しているが、後述する通り、壁部材21の強度が高くなっているので、図示のようにすべて、補強リングを介在させずに上下のライナープレート1を直接連結することが可能となっている。
【0023】
以下、具体的に作製した壁部材の強度を調べた曲げ載荷試験について説明する。
この試験に用いた試験体は図5、図6に示すように、湾曲させていない直線状の壁部材21’である。
また、図7(イ)、(ロ)に示すように、異形棒鋼をL形に曲げ一端側にネジ部を形成した複数のL字鉄筋24をライナープレート1に固定した上で、高靭性セメント複合材料23を充填して、ライナープレート1と高靭性セメント複合材料23とを結合させた。
前記L字鉄筋24は、ライナープレート1の波付け鋼板部2の谷部2bに間隔をあけて溶接固定した。
この壁部材21’は、直線状であること及びL字鉄筋24を設けていることを除けば、図1〜図4の壁部材21と同じなので、その構造の説明は省略するが、断面形状の寸法関係については、図7に示した通りである。
なお、ライナープレート1と高靭性セメント複合材料23とを結合させる結合具としては、実施例のL字鉄筋24に限らず、図7(ハ)のように、ライナープレート1に穴を開けてナット25、26で締着しても良い。また、短く切った山形鋼(図示略)を溶接固定しても良いし、その他の金具でもよい。
【0024】
実施例の壁部材21’の高靭性セメント複合材料23として、次のA、Bの2種を用いた。
(A)一般に複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材料(HPFRCC)と呼ばれる普通強度の高靭性セメント複合材料(商品としてはECCクリート(登録商標:鹿島建設株式会社))。
(B)一般に超高強度繊維補強コンクリート(UFC)と呼ばれる超高強度の高靭性セメント複合材料(商品としてはサクセム(登録商標:鹿島建設株式会社他))。
また、本発明の実施例との比較のためにライナープレートに複合する材料として、
(C)繊維を複合させていない単なる自己充てんコンクリート。
これらの物性を表1に示す。
【表1】
【0025】
上記HPFRCC(ECCクリート)の組成は、プレミックス材(セメントなどの粉体材料と有機繊維とをプレミックスした材料)、水、減水剤、収縮低減剤、及び空気量調整剤からなる。
その基本配合(32リットル)を表2に示す。
【表2】
【0026】
上記UFC(サクセム)の組成は、プレミックス材、水、骨材(珪砂と砕砂の混合品)、減水剤、消泡剤、及び繊維(特殊鋼繊維)からなる。
その基本配合(1000リットル)を表3に示す。
【表3】
【0027】
曲げ載荷試験を行った試験体は表4の5つの試験体である。
すなわち、本発明の実施例の試験体として、HPFRCCを複合させた壁部材(No.3、No.4の2つ)、及び、UFCを複合させた壁部材(No.5)を用いた。
また、比較のための試験体として、セメント材を複合しない単なるライナープレート(No.1)、及び、SCCを複合した壁部材(No.2)を用いた。
なお、L字鉄筋の配置は、No.4の試験体ではライナープレート長さ方向に60cmピッチで設け、No.1、2、3、5の試験体は30cmピッチで設けた。
【表4】
【0028】
図8に曲げ載荷試験の要領を示す。
試験体(壁部材)21’を単純支持し、載荷スパンを1.4mとする中央1点帯状曲げ載荷とした。なお、載荷は1000kN 油圧ジャッキを使用し、壁部材21’の載荷部及び支点部は、モルタルで平滑にし、緩衝材をはさんで載荷を実施した。また、載荷荷重は最大荷重まで単調載荷とし、緩やかに荷重を増加させた。
【0029】
載荷試験で得られた各試験体の載荷加重と載荷スパン中央部の鉛直変位との関係を図9にグラフで示す。また、各試験体の最大変位、最大荷重を表5に示す。
【表5】
【0030】
曲げを荷試験では変位計を実験途中で外しているため、鉛直変位で40mm程度までのデータしか取得できていないが、最大荷重までの鉛直変位の履歴は概ね測定できたと判断される。なお、最終的な鉛直変位は、載荷試験終了後にスケールにより別途測定した。
【0031】
曲げ耐力を表す最大荷重は、表5に示すように、
基準となる試験体No.1(ライナープレート)で28.3kN、
SCCを使用したNo.2で39kN、
HPFRCCを使用したNo.3、No.4で38kN、及び38.1kN、
UFCを使用したNo.5で52.5kN、
であった。
各試験体を比較すると、基準となる試験体No.1(ライナープレート)に対して、UFCを使用したNo.5が1.86倍で最大となり、SCCを使用したNo.2で1.37倍、HPFRCCを使用したNo.3、No.4では1.35倍程度となった。
このように、ライナープレートを高靭性セメント複合材料で補強したことで、単なるライナープレート(No.1)と比べて、曲げ耐力が1.35〜1.86倍に向上することが確認できた。
【0032】
ところで、曲げ耐力(最大荷重)だけを見れば、繊維補強をしていないSCC複合の壁部材も曲げ耐力が充分向上するので、良好に思われる。
しかし、表1に示したように、SCCは圧縮強度60MPa、静弾性係数35,000MPaで、HPFRCCは圧縮強度42.9MPa、静弾性係数17,000MPaであり、曲げ剛性を考慮(静弾性係数を考慮)すると、HPFRCCはSCCの50%程度であるのに関わらず最大荷重がほぼ同等であったことは、HPFRCCが積極的に引張り力を負担していることを示すと推定される。
ライナープレートを用いた構築物では、ライナープレートの変形特性が有効に活かされるものであるが、上記の通りであるから、普通強度の高靭性セメント複合材料(HPFRCC)を複合した壁部材は、HPFRCCの積極的な引張り力の負担により曲げ耐力は一般的なコンクリート(SCC)を複合した壁部材と同等の曲げ耐力を有しつつ、HPFRCCの靭性により、ライナープレートの変形特性を損なわない構造であると言える。
【0033】
なお、L字鉄筋の配置のピッチを変えたのみで他の条件が同じである試験体No.3とNo.4とで、荷重変位関係及び最大荷重などがほぼ同等な結果となったので、L字鉄筋の配置量は、ライナープレートと高靭性セメント複合材料との結合を図るに充分な量であった(結合は充分になされていた)と判断できる。
しかし、L字鉄筋取り付けのためにライナープレートに穴をあけることはあまり好ましくはないので、L字鉄筋のライナープレートへの固定には、溶接などの別の手段を講じるのがよいと考えられる。
【実施例2】
【0034】
上記実施例では、ライナープレートに複合する高靭性セメント複合材料として、ECCクリート及びサクセムを用いたが、一般に複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材料(HPFRCC)と呼ばれる種々の普通強度の高靭性セメント複合材料、あるいは、一般に超高強度繊維補強コンクリート(UFC)と呼ばれる種々の超高強度の高靭性セメント複合材料を使用することができる。
それらの高靭性セメント複合材料に用いる繊維として、鋼繊維、ステンレス繊維、PVA(ポリビニルアルコール)繊維、PE(ポリエチレン)繊維などを用いることができる。
【0035】
高靭性セメント複合材料はライナープレートの外面側(筒状体としての外面側)に複合させるのが適切であるが、内面側に複合させることも可能である。また、両面に複合させることも可能である。
また、実施例は立坑を構築する場合について説明したが、横坑に適用することも可能である。
また、立坑の場合に、円筒状の立坑に限らず、矩形筒状の立坑を構築する場合に適用することもできる。
また、横坑の場合に、円筒状の横坑に限らず、半円筒状の横坑を構築する場合に適用することができる。
なお、本発明は、土留め用の筒状体又は半筒状体を形成するための立坑又は横坑構築用の壁部材であるが、「筒状体又は半筒状体」とは、円形断面又は半円形断面のものに限らず、小判形(長円形)断面や矩形断面のものも含む。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例の立坑又は横坑用の壁部材の断面図である。
【図2】図1の壁部材におけるライナープレートを示すもので、(イ)は正面図、(ロ)は平面図、(ハ)は左側面図である。
【図3】立坑構築のために、上記の壁部材を用いて円筒体を組み立てた状態を模式的に示すもので、(イ)は片側を断面で示した正面図、(ロ)は平面図である。
【図4】図3のA部の拡大図である。
【図5】本発明の壁部材の曲げ性能を調べるための曲げ載荷試験に用いた直線状の壁部材の正面図である。
【図6】図5の壁部材の平面図である。
【図7】(イ)は図6のB-B拡大断面図、(ロ)は(イ)の要部のC-C拡大断面図である。
【図8】上記曲げ載荷試験を行う要領を説明する図である。
【図9】上記曲げ載荷試験の結果を示すもので、鉛直変位と載荷荷重との関係を示すグラフである。
【図10】立坑構築のために、従来の単なるライナープレートからなる壁部材を用いて円筒体を組み立てた状態を模式的に示すもので、(イ)は片側を断面で示した正面図、(ロ)は平面図である。
【図11】図10の要部拡大図であり、(イ)はD部の拡大図、(ロ)はE部の拡大図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ライナープレート
2 波付け鋼板部
2a 山部
2b 谷部
3 フランジ(折り曲げフランジ)
4 フランジ(端面プレート)
12 ボルト
13 ナット
21、21’ 壁部材
22 円筒体
23 繊維補強の高靭性セメント複合材料
24 L字鉄筋
27 筒状体
【技術分野】
【0001】
この発明は、立坑又は横坑を構築する際に、立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結されて土留め用の筒状体又は半筒状体を形成するための立坑又は横坑構築用の壁部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、図2に示すようなライナープレート1を用いて、図10に示すような立坑を構築することが広く行われている。
ライナープレート1は、山部2aと谷部2bとが繰り返し形成された矩形の波付け鋼板部2の4辺にフランジ3、4を持つ構造である。波付け方向(図2(イ)、(ハ)で上下方向)の両端のフランジ3は鋼板を折り曲げて形成したフランジであり、波付け方向と直交する方向(図2(イ)で左右方向)の両端のフランジ4は、別部材の端面プレートを溶接固定したものである。場合により、前記フランジ3を折り曲げフランジ、フランジ4を端面プレートと呼ぶ。
折り曲げフランジ3には当該ライナープレート1を上下に連結するための複数のボルト挿通穴3aがあけられ、端面プレート4には当該ライナープレート1を周方向に連結するための複数のボルト挿通穴4aがあけられている。
【0003】
上記のライナープレート1を用いて立坑を構築する場合、掘削した竪穴内に、図10に模式的に示すように、周方向(図10(ロ)の円周方向)および軸方向(図10(イ)の上下方向)に連結して筒状体7を組み立てる。
図10の筒状体7はライナープレートだけでは強度が確保されない場合に採用される構造であるが、その場合、同図のように、上下のライナープレート1間に適宜補強リング8を介在させる。
補強リング8には通常H形鋼が用いられ、図11(イ)のように、H形鋼のウエブ8aを挟んでライナープレート1の軸方向のフランジ3どうしをボルト9及びナットで締着して連結する。なお、補強リング8どうしの周方向連結は、周方向に隣接するH形鋼のフランジ8bに連結プレート10を当て、ボルト11及びナットでH形鋼フランジ8bに固定して行う。
特許文献1のライナープレート立坑は、四角形断面の立坑の実施例を例示しているが、基本的に上記と同様な構造であり、上下のライナープレート間に適宜補強リングを介在させている。
また、補強リングを用いない箇所では図11(ロ)のようにフランジ3どうしを直接重ね合わせ、ボルト12とナット13とで締着して連結する。
次の特許文献のうち特許文献2〜特許文献6については、後述する。
【特許文献1】特開2003−221996
【特許文献2】特開2001−288999
【特許文献3】特開2006−219900
【特許文献4】特開2005−155187
【特許文献5】特開2000−170323
【特許文献6】特開2007−169950
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のライナープレート1は、波付けした断面形状なので重量に対する断面性能に優れており、軽量で取り扱いが容易であり、また組立てはボルト締め作業が主体となるもので施工性に優れており、これらから経済性に優れるという大きな長所を備え、広く使用されているが、これらの長所をさらに向上させることが望まれる。
特に、組立てに際して補強リングを用いることが必要な場合が多いが、補強リングが必要になることで組立ての施工性は大きく低下するので、補強リングを必要としない構造が望まれる。
【0005】
ところで、近年、コンクリート構造物のひび割れを防止できるセメント系材料として、繊維補強による高靭性セメント複合材料(一般にDFRCCと呼ばれる)が注目されている。
この高靭性セメント複合材料は、その高い靭性を活かす用途に用いられるが、例えば、コンクリート構造部材が劣化した場合の補修工法として、構造部材の断面表層部分の劣化部分を除去し、必要に応じて鉄筋を補強するなどした後、除去部分を健全な材料で置換する断面修復工法において、置換する材料として、通常のコンクリートに代えて高靭性セメント複合材料を用いることが提案されている(特開2001−288999 構造部材の断面修復方法(特許文献2))。
道路床版の補修・補強の場合は、道路床版の劣化部をはつり、コンクリートを健全な状態にし、その後、高靭性セメント複合材料を用いて断面を修復する。
【0006】
また、型枠底板としての鋼板上に鉄筋を配置しコンクリートを打設して構築する合成床版として、通常のコンクリートに代えて高靭性セメント複合材料を用いること提案されている(特開2006−219900 合成床版(特許文献3))。
【0007】
また、鋼橋に用いられた合成床版構造体として、鋼床版の上にアスファルト舗装の基層として施されるグースアスファルト層に代えて高靭性セメント複合材料を用いることも提案されている(特開2005−155187 合成床版構造体(特許文献4))。
【0008】
また、トラス構造やラーメン構造の部材として用いられるコンクリート充填鋼管において、鋼管に充填するコンクリートとして、通常のコンクリートに代えて高靭性セメント複合材料を用いることも提案されている(特開2000−170323 トラスおよびブレース構造材(特許文献5))。
【0009】
また、橋梁や高架道路における伸縮吸収のために橋梁や高架道路の床版間の連結部に設ける伸縮構造として、高靭性セメント複合材料を用いることが行われている(特開2007−169950 橋梁用伸縮体とそれを用いた橋梁伸縮構造(特許文献6))。
【0010】
上記のように、従来、高靭性セメント複合材料は、その高い靭性を活かす用途として、単に、靭性のない通常のコンクリートの代替として用いるという発想で採用されている(特許文献2〜5)。
また、特許文献6の場合は、靭性を必要とする部材の材料として高靭性セメント複合材料を用いるという発想である。
【0011】
本発明は上述の背景のもとになされたもので、立坑又は横坑の構築のために土留め用の筒状体又は半筒状体を形成する際に、補強リングを必要とせずに構築することができ、施工性を大幅に改善できる立坑又は横坑用の壁部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は、立坑又は横坑を構築する際に、立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結されて土留め用の筒状体又は半筒状体を形成するための立坑又は横坑構築用の壁部材であって、
立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結される壁部材本体として、矩形輪郭の波付け鋼板部の4辺にフランジを持つライナープレートを用いるとともに、このライナープレートの波付け面に繊維補強による高靭性セメント複合材料層を形成したことを特徴とする。
【0013】
請求項2は、請求項1の立坑又は横坑用の壁部材において、前記ライナープレートにおける前記筒状体又は半筒状体外面となる面に、繊維補強による高靭性セメント複合材料層を形成したことを特徴とする。
【0014】
請求項3は、請求項1又は2の立坑又は横坑構築用の壁部材において、前記ライナープレートにおける前記高靭性セメント複合材料層を形成する面に、高靭性セメント複合材料との結合を図るための結合具を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結される壁部材本体を構成するライナープレートの波付け面に高靭性セメント複合材料層を形成しているので、強度の大なる壁部材が得られる。
例えば円形立坑の場合、壁部材で組み立てられた円筒体の外周面に半径方向の土圧が作用し、その土圧により壁部材に周方向の圧縮力が生じるので、この圧縮力に耐える強度が必要である。本発明ではセメント系材料である高靭性セメント複合材料がその圧縮力の少なくない一部を負担するので、ライナープレートが負担する圧縮力は小さくなり、壁部材全体としの強度が大きく向上する。
したがって、壁部材本体であるライナープレートを筒状体又は半筒状体の軸方向に連結する際、すべてライナープレートどうし直接連結しても、構築された筒状体又は半筒状体の強度を確保できる。
したがって、H形鋼による補強リングを設けることが不要となり、施工性が大幅に向上する。
【0016】
ライナープレートはコンクリート製品と異なり若干の変形を許容できる変形特性を有するが、ライナープレートと通常のセメント系材料とを複合させたとすれば、ライナープレートの特徴である変形特性をセメント系材料が損なってしまう。
しかし、本発明で用いる繊維補強による高靭性セメント複合材料の靭性は充分高く、ライナープレートの変形特性を損なうことがないので、鋼材であるライナープレートの特性と繊維補強による高靭性セメント複合材料の特性との両者が適切に活かされて、上記のように強度の高い壁部材が得られる。
【0017】
また、H形鋼による補強リングが不要なので、立坑構築の際の余掘りが少なく済む。
すなわち、H形鋼による補強リングを設ける場合、図10、図11(イ)のように、H形鋼8のウエブ8aの高さはライナープレート1の厚みと比べて大きいので、H形鋼のフランジ8bがライナープレート厚み方向の内外に突出する。また、円周方向の補強リング(H形鋼)8どうしの連結部ではさらに突出する。
したがって、ライナープレートの外面と地山の穴壁面との間の隙間S’を大きく取る必要がある。すなわち余掘りを多くする必要がある。
しかし、本発明では補強リングが不要なので、上記の余掘りは少なく済む。図3に本発明の実施例における壁部材の外面と地山の壁面との間の隙間をSで示す。
【0018】
高靭性セメント複合材料は、請求項2のように、ライナープレートにおける筒状体又は半筒状体外面となる面(仮にライナープレート外面と呼ぶ)に形成するのが、圧縮力を有効に負担できるので、適切である。
また、請求項2のように、ライナープレート外面に高靭性セメント複合材料を形成した場合、円筒体の外面が平滑面となるので、地山の穴壁面と円筒体との間の隙間に土砂を埋め戻す際に、土砂の埋め戻しが円滑に行なわれる。
すなわち、内部摩擦角(安息角)が大きな土砂の場合、ライナープレート外面の波の谷部に円滑に入り込むことができずに、空隙が生じる恐れがある。しかし、外面が高靭性セメント複合材料で平坦になっているので、そのような問題は生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の立坑又は横坑用の壁部材の実施例を、図1〜図9参照して説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明の一実施例の壁部材21の断面図である。この壁部材21は、立坑を構築する際に、図3に示すように、円形断面の立坑の周方向及び軸方向に複数連結されて土留め用の筒状体22を形成するための壁部材である。
この壁部材21の本体(壁部材本体)としてライナープレート1を用いる。
このライナープレート1は、先に図2について説明した通りであるが、山部2aと谷部2bとが繰り返し形成された矩形の波付け鋼板部2の4辺にフランジ3、4を持つ構造であり、円形断面の立坑用であるから、円弧状に湾曲している。波付け方向(図2(イ)、(ハ)で上下方向)の両端のフランジ3は鋼板を折り曲げて形成したフランジであり、波付け方向と直交する方向(図2(イ)で左右方向)の両端のフランジ4は、別部材の端面プレートを溶接固定したものである。場合により、前記フランジ3を折り曲げフランジ、フランジ4を端面プレートと呼ぶ。
折り曲げフランジ3には当該ライナープレート1を上下に連結するための複数のボルト挿通穴3aがあけられ、端面プレート4には当該ライナープレート1を周方向に連結するための複数のボルト挿通穴4aがあけられている。
【0021】
前記壁部材21は、壁部材本体である前記ライナープレート1の波付け面に繊維補強による高靭性セメント複合材料23の層を形成した構造である。
高靭性セメント複合材料とは、セメント系材料を短繊維により補強した複合材料であって、曲げモーメント作用下あるいは引張り力作用下においてひび割れ発生後も応力の低下がなく、見かけのひずみの増加に伴い応力が増加する「ひずみ硬化特性」と、微細ひび割れが無数に生じるマルチプルクラック特性を有する特徴を持つ材料である。
【0022】
上記の壁部材21を用いて立坑を構築する場合、掘削した竪穴内に、図3(イ)、(ロ)に模式的に示すように、周方向(図3(ロ)の円周方向)および軸方向(図3(イ)で上下方向)に連結して筒状体27を組み立てる。筒状体27の円周方向の連結は、円周方向に隣接するライナープレート1のフランジ(端面プレート)4どうしを重ねボルトとナット(図示略)で締着して行う。
また、筒状体27の軸方向の連結は、図4に示すように、補強リングを用いることなく、上下に隣接するライナープレート1のフランジ(折り曲げフランジ)3どうしをすべて、直接重ね合わせ、ボルト12とナット13で締着して行う。この上下の連結部は図11(ロ)の連結部と同じである。
実施例の立坑は、従来ならば強度的に補強リングが必要となるものを想定しているが、後述する通り、壁部材21の強度が高くなっているので、図示のようにすべて、補強リングを介在させずに上下のライナープレート1を直接連結することが可能となっている。
【0023】
以下、具体的に作製した壁部材の強度を調べた曲げ載荷試験について説明する。
この試験に用いた試験体は図5、図6に示すように、湾曲させていない直線状の壁部材21’である。
また、図7(イ)、(ロ)に示すように、異形棒鋼をL形に曲げ一端側にネジ部を形成した複数のL字鉄筋24をライナープレート1に固定した上で、高靭性セメント複合材料23を充填して、ライナープレート1と高靭性セメント複合材料23とを結合させた。
前記L字鉄筋24は、ライナープレート1の波付け鋼板部2の谷部2bに間隔をあけて溶接固定した。
この壁部材21’は、直線状であること及びL字鉄筋24を設けていることを除けば、図1〜図4の壁部材21と同じなので、その構造の説明は省略するが、断面形状の寸法関係については、図7に示した通りである。
なお、ライナープレート1と高靭性セメント複合材料23とを結合させる結合具としては、実施例のL字鉄筋24に限らず、図7(ハ)のように、ライナープレート1に穴を開けてナット25、26で締着しても良い。また、短く切った山形鋼(図示略)を溶接固定しても良いし、その他の金具でもよい。
【0024】
実施例の壁部材21’の高靭性セメント複合材料23として、次のA、Bの2種を用いた。
(A)一般に複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材料(HPFRCC)と呼ばれる普通強度の高靭性セメント複合材料(商品としてはECCクリート(登録商標:鹿島建設株式会社))。
(B)一般に超高強度繊維補強コンクリート(UFC)と呼ばれる超高強度の高靭性セメント複合材料(商品としてはサクセム(登録商標:鹿島建設株式会社他))。
また、本発明の実施例との比較のためにライナープレートに複合する材料として、
(C)繊維を複合させていない単なる自己充てんコンクリート。
これらの物性を表1に示す。
【表1】
【0025】
上記HPFRCC(ECCクリート)の組成は、プレミックス材(セメントなどの粉体材料と有機繊維とをプレミックスした材料)、水、減水剤、収縮低減剤、及び空気量調整剤からなる。
その基本配合(32リットル)を表2に示す。
【表2】
【0026】
上記UFC(サクセム)の組成は、プレミックス材、水、骨材(珪砂と砕砂の混合品)、減水剤、消泡剤、及び繊維(特殊鋼繊維)からなる。
その基本配合(1000リットル)を表3に示す。
【表3】
【0027】
曲げ載荷試験を行った試験体は表4の5つの試験体である。
すなわち、本発明の実施例の試験体として、HPFRCCを複合させた壁部材(No.3、No.4の2つ)、及び、UFCを複合させた壁部材(No.5)を用いた。
また、比較のための試験体として、セメント材を複合しない単なるライナープレート(No.1)、及び、SCCを複合した壁部材(No.2)を用いた。
なお、L字鉄筋の配置は、No.4の試験体ではライナープレート長さ方向に60cmピッチで設け、No.1、2、3、5の試験体は30cmピッチで設けた。
【表4】
【0028】
図8に曲げ載荷試験の要領を示す。
試験体(壁部材)21’を単純支持し、載荷スパンを1.4mとする中央1点帯状曲げ載荷とした。なお、載荷は1000kN 油圧ジャッキを使用し、壁部材21’の載荷部及び支点部は、モルタルで平滑にし、緩衝材をはさんで載荷を実施した。また、載荷荷重は最大荷重まで単調載荷とし、緩やかに荷重を増加させた。
【0029】
載荷試験で得られた各試験体の載荷加重と載荷スパン中央部の鉛直変位との関係を図9にグラフで示す。また、各試験体の最大変位、最大荷重を表5に示す。
【表5】
【0030】
曲げを荷試験では変位計を実験途中で外しているため、鉛直変位で40mm程度までのデータしか取得できていないが、最大荷重までの鉛直変位の履歴は概ね測定できたと判断される。なお、最終的な鉛直変位は、載荷試験終了後にスケールにより別途測定した。
【0031】
曲げ耐力を表す最大荷重は、表5に示すように、
基準となる試験体No.1(ライナープレート)で28.3kN、
SCCを使用したNo.2で39kN、
HPFRCCを使用したNo.3、No.4で38kN、及び38.1kN、
UFCを使用したNo.5で52.5kN、
であった。
各試験体を比較すると、基準となる試験体No.1(ライナープレート)に対して、UFCを使用したNo.5が1.86倍で最大となり、SCCを使用したNo.2で1.37倍、HPFRCCを使用したNo.3、No.4では1.35倍程度となった。
このように、ライナープレートを高靭性セメント複合材料で補強したことで、単なるライナープレート(No.1)と比べて、曲げ耐力が1.35〜1.86倍に向上することが確認できた。
【0032】
ところで、曲げ耐力(最大荷重)だけを見れば、繊維補強をしていないSCC複合の壁部材も曲げ耐力が充分向上するので、良好に思われる。
しかし、表1に示したように、SCCは圧縮強度60MPa、静弾性係数35,000MPaで、HPFRCCは圧縮強度42.9MPa、静弾性係数17,000MPaであり、曲げ剛性を考慮(静弾性係数を考慮)すると、HPFRCCはSCCの50%程度であるのに関わらず最大荷重がほぼ同等であったことは、HPFRCCが積極的に引張り力を負担していることを示すと推定される。
ライナープレートを用いた構築物では、ライナープレートの変形特性が有効に活かされるものであるが、上記の通りであるから、普通強度の高靭性セメント複合材料(HPFRCC)を複合した壁部材は、HPFRCCの積極的な引張り力の負担により曲げ耐力は一般的なコンクリート(SCC)を複合した壁部材と同等の曲げ耐力を有しつつ、HPFRCCの靭性により、ライナープレートの変形特性を損なわない構造であると言える。
【0033】
なお、L字鉄筋の配置のピッチを変えたのみで他の条件が同じである試験体No.3とNo.4とで、荷重変位関係及び最大荷重などがほぼ同等な結果となったので、L字鉄筋の配置量は、ライナープレートと高靭性セメント複合材料との結合を図るに充分な量であった(結合は充分になされていた)と判断できる。
しかし、L字鉄筋取り付けのためにライナープレートに穴をあけることはあまり好ましくはないので、L字鉄筋のライナープレートへの固定には、溶接などの別の手段を講じるのがよいと考えられる。
【実施例2】
【0034】
上記実施例では、ライナープレートに複合する高靭性セメント複合材料として、ECCクリート及びサクセムを用いたが、一般に複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材料(HPFRCC)と呼ばれる種々の普通強度の高靭性セメント複合材料、あるいは、一般に超高強度繊維補強コンクリート(UFC)と呼ばれる種々の超高強度の高靭性セメント複合材料を使用することができる。
それらの高靭性セメント複合材料に用いる繊維として、鋼繊維、ステンレス繊維、PVA(ポリビニルアルコール)繊維、PE(ポリエチレン)繊維などを用いることができる。
【0035】
高靭性セメント複合材料はライナープレートの外面側(筒状体としての外面側)に複合させるのが適切であるが、内面側に複合させることも可能である。また、両面に複合させることも可能である。
また、実施例は立坑を構築する場合について説明したが、横坑に適用することも可能である。
また、立坑の場合に、円筒状の立坑に限らず、矩形筒状の立坑を構築する場合に適用することもできる。
また、横坑の場合に、円筒状の横坑に限らず、半円筒状の横坑を構築する場合に適用することができる。
なお、本発明は、土留め用の筒状体又は半筒状体を形成するための立坑又は横坑構築用の壁部材であるが、「筒状体又は半筒状体」とは、円形断面又は半円形断面のものに限らず、小判形(長円形)断面や矩形断面のものも含む。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例の立坑又は横坑用の壁部材の断面図である。
【図2】図1の壁部材におけるライナープレートを示すもので、(イ)は正面図、(ロ)は平面図、(ハ)は左側面図である。
【図3】立坑構築のために、上記の壁部材を用いて円筒体を組み立てた状態を模式的に示すもので、(イ)は片側を断面で示した正面図、(ロ)は平面図である。
【図4】図3のA部の拡大図である。
【図5】本発明の壁部材の曲げ性能を調べるための曲げ載荷試験に用いた直線状の壁部材の正面図である。
【図6】図5の壁部材の平面図である。
【図7】(イ)は図6のB-B拡大断面図、(ロ)は(イ)の要部のC-C拡大断面図である。
【図8】上記曲げ載荷試験を行う要領を説明する図である。
【図9】上記曲げ載荷試験の結果を示すもので、鉛直変位と載荷荷重との関係を示すグラフである。
【図10】立坑構築のために、従来の単なるライナープレートからなる壁部材を用いて円筒体を組み立てた状態を模式的に示すもので、(イ)は片側を断面で示した正面図、(ロ)は平面図である。
【図11】図10の要部拡大図であり、(イ)はD部の拡大図、(ロ)はE部の拡大図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ライナープレート
2 波付け鋼板部
2a 山部
2b 谷部
3 フランジ(折り曲げフランジ)
4 フランジ(端面プレート)
12 ボルト
13 ナット
21、21’ 壁部材
22 円筒体
23 繊維補強の高靭性セメント複合材料
24 L字鉄筋
27 筒状体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立坑又は横坑を構築する際に、立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結されて土留め用の筒状体又は半筒状体を形成するための立坑又は横坑構築用の壁部材であって、
立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結される壁部材本体として、矩形輪郭の波付け鋼板部の4辺にフランジを持つライナープレートを用いるとともに、このライナープレートの波付け面に繊維補強による高靭性セメント複合材料層を形成したことを特徴とする立坑又は横坑構築用の壁部材。
【請求項2】
前記ライナープレートにおける前記筒状体又は半筒状体外面となる面に、繊維補強による高靭性セメント複合材料層を形成したことを特徴とする請求項1記載の立坑又は横坑構築用の壁部材。
【請求項3】
前記ライナープレートにおける前記高靭性セメント複合材料層を形成する面に、高靭性セメント複合材料との結合を図るための結合具を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の立坑又は横坑構築用の壁部材。
【請求項1】
立坑又は横坑を構築する際に、立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結されて土留め用の筒状体又は半筒状体を形成するための立坑又は横坑構築用の壁部材であって、
立坑又は横坑の周方向及び軸方向に複数連結される壁部材本体として、矩形輪郭の波付け鋼板部の4辺にフランジを持つライナープレートを用いるとともに、このライナープレートの波付け面に繊維補強による高靭性セメント複合材料層を形成したことを特徴とする立坑又は横坑構築用の壁部材。
【請求項2】
前記ライナープレートにおける前記筒状体又は半筒状体外面となる面に、繊維補強による高靭性セメント複合材料層を形成したことを特徴とする請求項1記載の立坑又は横坑構築用の壁部材。
【請求項3】
前記ライナープレートにおける前記高靭性セメント複合材料層を形成する面に、高靭性セメント複合材料との結合を図るための結合具を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の立坑又は横坑構築用の壁部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−106443(P2010−106443A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276545(P2008−276545)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【出願人】(000186898)昭和コンクリート工業株式会社 (13)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【出願人】(000186898)昭和コンクリート工業株式会社 (13)
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