説明

立坑構造及びその構築方法

【課題】 径が大きな立坑を構築する場合であっても、使用する水中コンクリート量を低減する。
【解決手段】本発明に係る立坑構造1は、RCからなる複数の環状体2を鉛直方向に連続形成してなる円筒状のケーソン躯体3と、水中で形成されるとともに水中コンクリートを介してケーソン躯体3の下端に接合された1次コンクリート底版4と、該1次コンクリート底版の上に気中で形成された2次コンクリート底版5と、ケーソン躯体3とその周辺地盤に充填されたグラウト81とからなる。ここで、1次コンクリート底版4内には鋼製補剛体6を埋設してある。鋼製補剛体6は、環状枠体と該環状枠体内に設けられ該環状枠体で囲まれた内部空間を複数の区画に仕切る格子体とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整池等を用途として地盤内に立坑を構築する場合に採用される立坑構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道の幹線水路、シールド発進立坑、橋梁基礎、調整池等を用途として地盤内に立坑を構築する場合には、オープンケーソン工法が広く採用されている。
【0003】
かかるオープンケーソン工法を直径が数十mに及ぶ規模の立坑に採用する場合には、先行形成された鉄筋コンクリート(以下、RC)製環状体の上にあらたなRC製環状体を1ロット分だけ連続形成する工程と、該1ロット分のRC製環状体を先行形成されたRC製環状体とともに地盤内に圧入する工程とを繰り返すことによって、所定深さのケーソン躯体を地盤内に構築する。
【0004】
ここで、自動オープンケーソン工法では、地盤内に予め圧入反力用アンカーを埋設しておき、該圧入反力用アンカーから反力をとることでRC製環状体を地盤内に圧入するとともに、かかる圧入作業を行いつつ、掘削機で地盤を掘り下げていく。
【0005】
かかる掘削機は、RC製環状体の最下部にあたる第1ロット又はその上の第2ロットの内周面に設置された環状のガイドレールに沿って走行自在に取り付けてあり、地下水位以下では水中掘削となることから、かかる掘削機は、水中で掘削可能な水中掘削機を用いる。
【0006】
このようにRC製環状体の構築及び圧入を行いながら、水中掘削機によって地盤掘削を行うとともに、掘削された土砂を揚土機を用いて地上に搬出する。
【0007】
所定深さまでRC製環状体の圧入及び地盤掘削が終了し円筒状のケーソン躯体が構築されたならば、該ケーソン躯体で囲まれた下方空間に水中コンクリートを打設して1次コンクリート底版を形成し、しかる後、ケーソン躯体で囲まれた空間の地下水を揚水してドライアップする。
【0008】
このように予め水中コンクリートを打設することにより、ドライアップによって下方から上方に作用する揚圧力を1次コンクリート底版の自重で押さえ込む。
【0009】
次に、1次コンクリート底版の上に二次コンクリート底版を気中で形成し、ケーソンの構築を完了する。
【0010】
【特許文献1】特開平11−21918
【特許文献2】特開2003−328377
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した方法では、地下水位が高い場合や設置深度が大きい場合、それに伴って揚圧力も大きくなり、かかる揚圧力を押さえ込むために、多量の水中コンクリートを打設せねばならず、経済性に欠けるという問題を生じていた。
【0012】
また、多量の水中コンクリートを連続打設することが困難であるため、コンクリートの打設継ぎ目においてコールドジョイントが発生し、その結果、1次コンクリート底版の一体化が図れずに止水性の低下を招くという問題も生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、径が大きな立坑を構築する場合であっても、使用する水中コンクリート量を低減可能な立坑構造及びその構築方法を提供することを目的とする。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係る立坑の構築方法は請求項1に記載したように、地盤内に構築された躯体で囲まれた下方空間に水中コンクリートを打設して1次コンクリート底版を形成し、次いで、下方から上方に向けて作用する揚圧力をグラウトを介した前記躯体とその周辺地盤との摩擦力と前記1次コンクリート底版の自重とで押さえ込みながら前記躯体で囲まれた空間に存在する地下水を揚水してドライアップし、次いで、前記1次コンクリート底版の上に二次コンクリート底版を気中形成する立坑の構築方法であって、前記躯体の構築完了後であって前記水中コンクリートの打設前に環状枠体と該環状枠体内に設けられ該環状枠体で囲まれた内部空間を複数の区画に仕切る格子体とからなる鋼製補剛体を前記躯体で囲まれた下方空間に沈設し、前記水中コンクリートの打設工程は、前記環状枠体の外周面と前記躯体の内周面との間に挟まれた外周空間と前記環状枠体の内部空間とに分けてそれぞれ個別に行うとともに、前記環状枠体の内部空間については前記複数の区画ごとに行うものである。
【0015】
また、本発明に係る立坑の構築方法は、前記環状枠体の外周面に沿って所定の定着部材を水平軸線廻りに可倒自在に設けたものである。
【0016】
また、本発明に係る立坑の構築方法は、前記格子体を構成する仕切材の天端に間仕切りプレートを立設したものである。
【0017】
また、本発明に係る立坑の構築方法は、前記格子体の底部に止水板を設けたものである。
【0018】
また、本発明に係る立坑の構築方法は、前記環状枠体の外周面に外周用トレミー管を仮付けし、かかる状態で該外周用トレミー管を前記鋼製補剛体とともに前記躯体で囲まれた下方空間に沈設し、該外周用トレミー管を介して前記環状枠体の外周面と前記躯体の内周面との間に挟まれた外周空間に前記水中コンクリートを打設し、しかる後、前記外周用トレミー管を撤去するものである。
【0019】
また、本発明に係る立坑構造は請求項6に記載したように、躯体と、水中で形成されるとともに水中コンクリートを介して前記躯体の下端に接合された1次コンクリート底版と、該1次コンクリート底版の上に気中で形成された2次コンクリート底版とからなる立坑構造において、環状枠体と該環状枠体内に設けられ該環状枠体で囲まれた内部空間を複数の区画に仕切る格子体とからなる鋼製補剛体を前記1次コンクリート底版内に埋設するとともに、前記躯体とその周辺地盤との間にグラウトを充填したものである。
【0020】
本発明に係る立坑構造を構築するには、まず、地盤内に躯体を構築する。
【0021】
ここで、躯体の構築は、オープンケーソン工法や地中連続壁工法を採用することが可能であり、例えば、円筒状の躯体をオープンケーソン工法で構築する場合にはまず、先行形成された環状体の上にあらたな環状体を1ロット分だけ連続形成する工程と、該1ロット分の環状体を、先行形成された環状体とともに地盤内に圧入する工程とを繰り返しつつ、環状体で囲まれた地盤領域を掘削することによって地盤内に円筒状のケーソン躯体を構築する。
【0022】
このようにオープンケーソン工法で躯体を構築する場合にはかかるケーソン躯体が本発明の躯体となり、連続地中壁で躯体を構築するには、該連続地中壁が本発明の躯体となる。
【0023】
次に、躯体で囲まれた下方空間に水中コンクリートを打設して1次コンクリート底版を形成するが、本発明においては、水中コンクリートを打設する前に、鋼製補剛体を躯体で囲まれた下方空間に沈設する。
【0024】
かかる鋼製補剛体は、環状枠体と該環状枠体内に設けられ該環状枠体で囲まれた内部空間を複数の区画に仕切る格子体とからなる。
【0025】
次に、水中コンクリートを打設するが、かかる工程においては、環状枠体の外周面と躯体の内周面との間に挟まれた外周空間と、環状枠体の内部空間とに分けてそれぞれ個別に行うとともに、環状枠体の内部空間については複数の区画ごとに行う。
【0026】
このようにすると、コンクリートを連続打設する必要がなくなるため、バッチャープラント等のコンクリート製造設備が小規模であっても径が大きな立坑を構築することが可能となる。すなわち、環状枠体の内部空間と外周空間とを個別に打設することができるとともに、環状枠体の内部空間については、格子体で形成される複数の区画ごとにコンクリート打設することができる。
【0027】
そのため、各区画単位でコンクリート打設を行う、換言すれば、別の区画を打設する際、適宜、コンクリート打設を中断することが可能となり、連続打設が不要となるとともに、それに伴って上述したコンクリート製造設備の小規模化を図ることができる。
【0028】
一方、各区画ごとに打設されたコンクリートは、格子体を介して一体化するため、上述したようにコンクリート打設を中断したとしても、コンクリートの継ぎ目が発生することはなく、それゆえ、コールドジョイントが発生する懸念もない。
【0029】
次に、水中コンクリートの強度発現後、下方から上方に向けて作用する揚圧力を、グラウトを介した躯体とその周辺地盤との摩擦力と1次コンクリート底版の自重とで押さえ込みながら、躯体で囲まれた空間に存在する地下水を揚水してドライアップする。
【0030】
次に、1次コンクリート底版の上に二次コンクリート底版を気中形成する。
【0031】
このようにして構築された立坑構造においては、上述したように、環状枠体と格子体とからなる鋼製補剛体を1次コンクリート底版内に埋設してあるので、面外曲げ剛性が大幅に増加し、同じ揚圧力に対し、1次コンクリート底版の厚みを薄くすることができるとともに、その結果、水中コンクリートの打設量も大幅に減らすことが可能となる。
【0032】
地盤内に構築される躯体としては、主として円筒状の躯体を対象とするが、非円筒状の躯体を排除するものではなく、例えば矩形状等、その形状は任意である。
【0033】
鋼製補剛体は、躯体の内部形状に合わせればよく、躯体が円筒状であれば円筒状に形成し、躯体が矩形状であれば矩形状に形成すればよい。したがって、鋼製補剛体の環状枠体が円環状だけを意味するものではないことは言うまでもない。
【0034】
上述した立坑の構築方法において、環状枠体の外周面に沿って所定の定着部材を水平軸線廻りに可倒自在に設けたならば、鋼製補剛体を沈設する際には、沈設作業に支障がないよう、環状枠体側でピン接合された定着部材を起立状態にし、かかる状態で鋼製補剛体を沈設する。
【0035】
このようにすると、鋼製補剛体は、定着部材の先端を躯体の内周面に摺動させながら沈設されるが、鋼製補剛体が掘削底に達したとき、環状枠体の周囲には躯体の下端との間で一定の空間が拡がる。特にオープンケーソン工法の場合には、刃先状に形成された躯体の下端との間で空間が拡がる。なお、連続地中壁の場合に上述した空間を形成するには、公知の手段から適宜選択すればよい(例えば、特開2003-328377)。
【0036】
そのため、鋼製補剛体が掘削底に達したとき、定着部材は、平面でみれば放射状に拡がるようにして水平に倒れ、環状枠体から水平方向に突設された状態で水中コンクリートに埋設されることとなり、かくして躯体と1次コンクリート底版との間のせん断抵抗力は、大幅に増加する。
【0037】
また、格子体を構成する仕切材の天端に間仕切りプレートを立設したならば、ドライアップ後、かかる間仕切りプレートを基準として水中コンクリートの天端管理を行うことが可能となる。
【0038】
また、格子体の底部に止水板を設けたならば、1次コンクリート底版の止水性を大幅に向上させることが可能となる。
【0039】
環状枠体の外周面と躯体の内周面とに挟まれた外周空間に水中コンクリートを打設するにあたっては、例えば、環状枠体の外周面に外周用トレミー管を仮付けし、かかる状態で該外周用トレミー管を鋼製補剛体とともに躯体で囲まれた下方空間に沈設し、該外周用トレミー管を介して環状枠体の外周面と躯体の内周面との間に挟まれた外周空間に前記水中コンクリートを打設し、しかる後、前記外周用トレミー管を撤去するといった施工方法が考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明に係る立坑構造及びその構築方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0041】
図1は、本実施形態に係る立坑構造を示した鉛直断面図、図2(a)はA−A線に沿う水平断面図、図2(b)はB−B線に沿う鉛直詳細断面図である。
【0042】
これらの図でわかるように、本実施形態に係る立坑構造1は、RCからなる複数の環状体2を鉛直方向に連続形成してなる躯体としての円筒状のケーソン躯体3と、水中で形成されるとともに水中コンクリートを介してケーソン躯体3の下端に接合された1次コンクリート底版4と、該1次コンクリート底版の上に気中で形成された2次コンクリート底版5と、ケーソン躯体3とその周辺地盤に充填されたグラウト81とからなる。ケーソン躯体3は、用途によってさまざまな径を有する円筒体であり、シールド立坑や貯水池であれば、内径が20m〜40mに及ぶ場合もある。
【0043】
ここで、1次コンクリート底版4内には鋼製補剛体6を埋設してある。
【0044】
鋼製補剛体6は図2でよくわかるように、環状枠体11と該環状枠体内に設けられ該環状枠体で囲まれた内部空間を複数の区画に仕切る格子体12とからなり、環状枠体11は、Iビーム状の鋼材を環状に加工形成してなり、ケーソン躯体3内に吊り降ろすことができるよう、ケーソン躯体3の内径に比べてその外径を若干小さく形成してある。
【0045】
一方、格子体12は、環状枠体11と同じ高さのIビーム状の鋼材を仕切材13とし、該仕切材を縦横に接合して格子状に形成してある。
【0046】
環状枠体11には図3に示すように、その外周面下縁部に沿って定着部材としてのフリクションピン21を例えば数゜ごとに設けてある。フリクションピン21は、その基端側を水平軸線廻りに可倒自在となるように環状枠体11に取り付けてある。
【0047】
かかるフリクションピン21は、環状枠体11の外周面とケーソン躯体3の内周面との間に打設される水中コンクリートをせん断補強する機能を果たす。
【0048】
また、同図に示すように、格子体12を構成する環状枠体11の上部フランジの上面および仕切材13の上部フランジ上面には間仕切りプレート22を立設してあり、水中コンクリート打設後のコンクリート天端を管理することができるようになっている。
【0049】
格子体12の底部には止水板36を設けるとともにその周縁部を環状枠体11の下部フランジに接合してあり、かかる止水板36により、鋼製補剛体6は、内部空間が格子体12で区切られた箱体となり、水中コンクリート打設後における漏水を未然に防止することができるようになっている。
【0050】
環状枠体11の外周面とケーソン躯体3の内周面には、それらが対向する位置にてジベル筋23,ジベル筋24をそれぞれ突設してあり、上述したフリクションピン21とともに、環状枠体11の外周面とケーソン躯体3の内周面との間に打設される水中コンクリートをせん断補強する機能を果たす。
【0051】
なお、ケーソン躯体3を構成する環状体2のうち、最下部から二段目のロットに該当する環状体にはガイドレール35をその内周面に沿って設けてあり、該ガイドレールに水中掘削機(図示せず)を取り付けることにより、環状体2に地盤への圧入に伴って該環状体の内側の地盤領域を掘削することができるようになっている。
【0052】
本実施形態に係る立坑構造1を構築するには、まず、従来通り、先行形成された環状体2の上にあらたな環状体2を1ロット分だけ連続形成する工程と、該1ロット分の環状体を、先行形成された環状体2とともに地盤内に圧入する工程とを繰り返しつつ、環状体2で囲まれた地盤領域を水中掘削機で掘削することによって地盤内に円筒状のケーソン躯体3を構築する。
【0053】
ケーソン躯体3を圧入するにあたっては、地盤内に予め圧入反力用アンカー(図示せず)を埋設しておき、該圧入反力用アンカーから反力をとることで環状体2を地盤内に圧入するとともに、かかる圧入作業を行いつつ、水中掘削機で地盤を掘り下げていけばよい。
【0054】
次に図4及び図5に示すように、鋼製補剛体6をケーソン躯体3で囲まれた下方空間に沈設する。鋼製補剛体6を沈設するにあたっては、ケーソン躯体3に仮設として架台41を立設し該架台にセンターホールジャッキ42を据え付け、該センターホールジャッキを利用して鋼製補剛体6を吊り降ろす。
【0055】
ここで、鋼製補剛体6を沈設する際には、沈設作業に支障がないよう、環状枠体11の側でピン接合されたフリクションピン21を起立状態にし、かかる状態で鋼製補剛体6を沈設する。
【0056】
このようにすると、鋼製補剛体6は、フリクションピン21の先端をケーソン躯体3の内周面に摺動させながら沈設されるが、鋼製補剛体6が掘削底に達したとき、環状枠体11の周囲には、図6(b)に示すように、刃先状に形成されたケーソン躯体3の下端との間で外部空間61が拡がる。
【0057】
そのため、鋼製補剛体6が掘削底に達したとき、フリクションピン21は、平面でみれば放射状に拡がるようにして水平に倒れ、環状枠体11から水平方向に突設された状態となる。
【0058】
なお、フリクションピン21及びジベル筋23,ジベル筋24は、後工程で水中コンクリート打設が行われた後、水中コンクリート内に埋設されてこれをせん断補強する役目を果たす。
【0059】
鋼製補剛体6を掘削底に着底させたならば、次に図6(a)に示すように、ケーソン躯体3で囲まれた下方空間に水中コンクリートを打設する。
【0060】
ここで、水中コンクリート打設を行うにあたっては、環状枠体11の外周面とケーソン躯体3の内周面との間に挟まれた外周空間61と、環状枠体11の内部空間とに分けてそれぞれ個別に行うとともに、環状枠体11の内部空間については複数の区画62ごとに行う。
【0061】
すなわち、環状枠体11の内部空間については、トレミー管63を複数の区画62ごとに吊り降ろして水中コンクリートを打設し、いったん吊り上げた後、別の区画62に吊り降ろして打設するという手順を繰り返すことで環状枠体11の内部空間に水中コンクリートを打設する。
【0062】
一方、外周空間61については、図7に示すように、環状枠体11の周囲に例えば30゜ごとに細径の外周用トレミー管71を配置し、該トレミー管を介して水中コンクリートを打設する。
【0063】
この場合、環状枠体11の外周面に外周用トレミー管71を仮付けし、かかる状態で該外周用トレミー管を鋼製補剛体6とともにケーソン躯体3で囲まれた下方空間に沈設し、該外周用トレミー管を介して外周空間61に水中コンクリートを打設し、しかる後、外周用トレミー管71を撤去すればよい。
【0064】
なお、外周空間61に打設する水中コンクリートは、鋼製補剛体6をケーソン躯体3に確実に接合する必要があるため、気中で40N/mm2、水中で30N/mm2程度の圧縮強度をもつコンクリートを使用し、内部空間に打設する水中コンクリートは、気中で30N/mm2、水中で24N/mm2程度の圧縮強度をもつコンクリートを使用するのが望ましい。
【0065】
このような水中コンクリートによる1次コンクリート底版4の施工と相前後して、図8に示すようにケーソン躯体3と周辺地盤との間にグラウト81を充填する。
【0066】
かかるグラウト充填によれば、地下水による揚圧力を該グラウトを介した周辺地盤との摩擦力で抵抗することが可能となり、水中コンクリートの打設量減少に伴う自重減少を摩擦力で補うことができる。
【0067】
グラウト81の充填は、例えばケーソン躯体3と周辺地盤との間に予め配置されたグラウト注入管を介して注入するようにすればよいが、かかるグラウト注入管は、ケーソン躯体3を圧入する際の周辺地盤との摩擦を低減するために使用される空気注入管を、ケーソン躯体3の圧入後に転用することができる。
【0068】
すなわち、かかる空気注入管は、ケーソン躯体3を圧入する際には周辺地盤との摩擦を低減するために使用され、圧入後は、ケーソン躯体3と周辺地盤との摩擦を高めるためのグラウト81を注入するグラウト注入管となる。
【0069】
次に、1次コンクリート底板4の水中コンクリートの強度発現後、下方から上方に向けて作用する揚圧力を、上述したようにグラウト81を介したケーソン躯体3と周辺地盤との摩擦力と1次コンクリート底版4の自重とで押さえ込みながら、ケーソン躯体3で囲まれた空間に存在する地下水を揚水してドライアップする。
【0070】
なお、ドライアップ後、間仕切りプレート22を基準として、必要に応じ、水中コンクリートの天端管理を行う。
【0071】
次に、図9に示すように1次コンクリート底版4の上に二次コンクリート底版5を気中形成する。
【0072】
最後に、ケーソン躯体3の上に頂版8を被せて覆土する(図1参照)。なお、かかる頂版8は用途によって省略することが可能であるとともに、立坑の用途によって頂版設置の時期は異なる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る立坑構造1及びその構築方法によれば、水中コンクリートを打設する際、環状枠体11の外周面とケーソン躯体3の内周面との間に挟まれた外周空間61と、環状枠体11の内部空間とに分けてそれぞれ個別に行うとともに、環状枠体11の内部空間については複数の区画62ごとに行うようにしたので、水中コンクリートを連続打設する必要がなくなり、バッチャープラント等のコンクリート製造設備が小規模であっても径が大きな立坑を構築することが可能となる。すなわち、環状枠体11の内部空間と外周空間61とを個別に打設することができるとともに、環状枠体11の内部空間については、格子体で形成される複数の区画62ごとにコンクリート打設することができる。
【0074】
そのため、各区画62単位でコンクリート打設を行う、換言すれば、別の区画62を打設する際、適宜、コンクリート打設を中断することが可能となり、連続打設が不要となるとともに、それに伴って上述したコンクリート製造設備の小規模化を図ることができる。
【0075】
一方、各区画62ごとに打設されたコンクリートは、格子体6を介して一体化するため、上述したようにコンクリート打設を中断したとしても、コンクリートの継ぎ目が発生することはなく、それゆえ、コールドジョイントが発生する懸念もない。
【0076】
また、1次コンクリート底板6の面外曲げ剛性が大幅に増加し、同じ揚圧力に対し、1次コンクリート底版6の厚みを薄くすることができるとともに、その結果、水中コンクリートの打設量も大幅に減らすことが可能となる。
【0077】
また、本実施形態に係る立坑の構築方法によれば、環状枠体11の外周面に沿ってフリクションピン21を水平軸線廻りに可倒自在に設けたので、鋼製補剛体6が掘削底に達したとき、フリクションピン21は、平面でみれば放射状に拡がるようにして水平に倒れ、環状枠体11から水平方向に突設された状態で水中コンクリートに埋設されることとなり、かくしてケーソン躯体3と1次コンクリート底版6との間のせん断抵抗力は、大幅に増加する。
【0078】
また、本実施形態に係る立坑の構築方法によれば、格子体12を構成する仕切材13の天端に間仕切りプレート22を立設したので、ドライアップ後、かかる間仕切りプレート22を基準として水中コンクリートの天端管理を行うことが可能となる。
【0079】
また、本実施形態に係る立坑の構築方法によれば、格子体12の底部に止水板36を設けたならば、1次コンクリート底版4の止水性を大幅に向上させることが可能となる。
【0080】
また、本実施形態に係る立坑の構築方法によれば、外周空間61に水中コンクリートを打設するにあたり、環状枠体11の外周面に外周用トレミー管71を仮付けし、かかる状態で該外周用トレミー管を鋼製補剛体6とともにケーソン躯体3で囲まれた下方空間に沈設し、該外周用トレミー管を介して外周空間に水中コンクリートを打設するようにしたので、トレミー管挿通スペースが数十cmしかない場合であっても、外周空間61に水中コンクリートを確実に打設することが可能となる。
【0081】
本発明では特に述べなかったが、仕切材13の側面にもジベル筋やスタッドを突設してコンクリートとの一体化を図ることができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本実施形態に係る立坑構造1の鉛直断面図。
【図2】立坑構造1の図であり、(a)は図1のA−A線に沿う水平断面図、(b)はB−B線に沿う詳細鉛直断面図。
【図3】ケーソン躯体3の下端部周辺の詳細断面図。
【図4】本実施形態に係る立坑構造1を構築する手順を示した図。
【図5】本実施形態に係る立坑構造1を構築する手順を示した図。
【図6】本実施形態に係る立坑構造1を構築する手順を示した図。
【図7】本実施形態に係る立坑構造1を構築する手順を示した図。
【図8】本実施形態に係る立坑構造1を構築する手順を示した図。
【図9】本実施形態に係る立坑構造1を構築する手順を示した図。
【符号の説明】
【0083】
1 立坑構造
2 環状体
3 ケーソン躯体
4 1次コンクリート底版
5 2次コンクリート底版
6 鋼製補剛体
11 環状枠体
12 格子体
13 仕切材
21 フリクションピン(定着部材)
22 間仕切りプレート
23,24 ジベル筋(定着部材)
25 止水板
71 外周用トレミー管
81 グラウト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内に構築された躯体で囲まれた下方空間に水中コンクリートを打設して1次コンクリート底版を形成し、次いで、下方から上方に向けて作用する揚圧力を、グラウトを介した前記躯体とその周辺地盤との摩擦力と前記1次コンクリート底版の自重とで押さえ込みながら前記躯体で囲まれた空間に存在する地下水を揚水してドライアップし、次いで、前記1次コンクリート底版の上に二次コンクリート底版を気中形成する立坑の構築方法であって、前記躯体の構築完了後であって前記水中コンクリートの打設前に環状枠体と該環状枠体内に設けられ該環状枠体で囲まれた内部空間を複数の区画に仕切る格子体とからなる鋼製補剛体を前記躯体で囲まれた下方空間に沈設し、前記水中コンクリートの打設工程は、前記環状枠体の外周面と前記躯体の内周面との間に挟まれた外周空間と前記環状枠体の内部空間とに分けてそれぞれ個別に行うとともに、前記環状枠体の内部空間については前記複数の区画ごとに行うことを特徴とする立坑の構築方法。
【請求項2】
前記環状枠体の外周面に沿って所定の定着部材を水平軸線廻りに可倒自在に設けた請求項1記載の立坑の構築方法。
【請求項3】
前記格子体を構成する仕切材の天端に間仕切りプレートを立設した請求項1記載の立坑の構築方法。
【請求項4】
前記格子体の底部に止水板を設けた請求項1記載の立坑の構築方法。
【請求項5】
前記環状枠体の外周面に外周用トレミー管を仮付けし、かかる状態で該外周用トレミー管を前記鋼製補剛体とともに前記躯体で囲まれた下方空間に沈設し、該外周用トレミー管を介して前記環状枠体の外周面と前記躯体の内周面との間に挟まれた外周空間に前記水中コンクリートを打設し、しかる後、前記外周用トレミー管を撤去する請求項1記載の立坑の構築方法。
【請求項6】
躯体と、水中で形成されるとともに水中コンクリートを介して前記躯体の下端に接合された1次コンクリート底版と、該1次コンクリート底版の上に気中で形成された2次コンクリート底版とからなる立坑構造において、
環状枠体と該環状枠体内に設けられ該環状枠体で囲まれた内部空間を複数の区画に仕切る格子体とからなる鋼製補剛体を前記1次コンクリート底版内に埋設するとともに、前記躯体とその周辺地盤との間にグラウトを充填したことを特徴とする立坑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−183276(P2006−183276A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376242(P2004−376242)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】