説明

立型軸受装置

【課題】立軸形回転機械において、サーキュレータを用いて潤滑油を循環させることが可能で、正逆両回転に対応して安定した潤滑油の循環をすることができる立型軸受装置を提供する。
【解決手段】回転軸7を支持するための立型軸受装置1において、立型軸受装置1は、回転軸7の周囲に配置されるサーキュレータ41と、サーキュレータ41の周囲に配置されたガイドリング29とを含み、サーキュレータ41は第1の孔47及び第2の孔49を含み、ガイドリング29は、吐出孔53、第1の吸込孔55、及び第2の吸込孔57を含み、サーキュレータ41は立型軸受装置1に固定されたガイドリング29に対して回動できるようになっており、サーキュレータ41の外表面に、回転軸7に連れまわされる潤滑油の流れに対して抵抗となるような形状の抵抗表面が形成されており、サーキュレータ41を回動させる力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立軸形回転機械の回転軸を支持するための立型軸受装置に関するものである。とりわけ、回転軸の周囲に配置されたサーキュレータの粘性ポンプ効果によって、潤滑油を自己循環させることができる立型軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水車発電機やポンプなどの立軸形回転機械においては、正逆両回転可能であることに対するニーズが高い。例えば、揚水発電所においては、発電機を回転させて発電を行うと共に、夜間には発電機を逆回転させてモータとして使用し、水を汲み上げる。また、ポンプにおいては、両方向に流体を移送するために正逆両回転を行う。上述のように、意図的に正逆両回転を行う場合の他にも、流体の逆流によって、事故的に逆回転させられる場合もある。
【0003】
回転機械には、回転軸を支持するために、スラスト軸受、ジャーナル軸受などの軸受が設置されている。これらの軸受は、潤滑油によって潤滑される。軸受を潤滑すると、潤滑油は、回転軸と軸受表面との間の摩擦によって加熱され、温度が上昇する。潤滑油の温度が上昇すると、軸受メタルの焼付き、損傷に至る。したがって、正常に軸受を作動させるためには、潤滑油を冷却し、所定の温度以下に保つ必要がある。
【0004】
従来から、潤滑油を冷却するためには、軸受装置の外部に電動ポンプを備え、それによって油槽内の潤滑油を外部冷却器に循環させて、再び油槽に戻す方法がある。外部電動ポンプを用いれば、回転軸の回転方向は潤滑油の循環に影響しないので、軸受の構造自体を正逆両回転に対応可能とすることを考慮すればよく、実現は比較的容易である。
しかし、この従来の電動ポンプを利用する方法は、電動ポンプが別途必要であり、そのための電源も必要である。停電時や電動ポンプが故障したときは、潤滑油の循環が止まり、潤滑油の温度が上昇して軸受を充分冷却することができなくなり、安全上の問題もある。
【0005】
特許文献1には、立軸形回転機械に用いられる自己循環式の軸受装置が開示されている。この装置は、電動ポンプを使用せずに、油槽内の潤滑油を外部冷却器に循環させて冷却する。この装置においては、回転軸と一体のガイドスリーブの外周側に、ポンプケーシングが設置されており、ポンプケーシングの径方向深さが、入口端から出口端に向かうに従って徐々に狭くなっている。ガイドスリーブが回転すると、ガイドスリーブ外周側近くの潤滑油が、その粘性によりガイドスリーブと共に回転する。この粘性ポンプ効果によってポンプケーシング内に入った潤滑油は、径方向深さが小さくなるに従って、次第に圧力を高め、外部冷却器へ移送される。
【0006】
特許文献2には、横軸形回転機械の回転主軸を支持する自己潤滑式の軸受装置が開示されている。この装置においては、回転主軸に形成された大径部分にサーキュレータが備えられており、粘性ポンプ効果によって、油槽の潤滑油をスラスト軸受やジャーナル軸受に供給する。特許文献2のサーキュレータは、冷却器に潤滑油を循環させるものではなく、軸受に潤滑油を供給するためのものである。回転主軸の回転方向が、正回転方向又は逆回転方向へ切り換わると、サーキュレータの位置が円周方向に変化し、潤滑油の吸入孔と排出孔が切り換わると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−106636号公報
【特許文献2】特開2002−22095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の軸受装置は、潤滑油冷却のための外部電動ポンプを不要としているが、ポンプケーシングは、一方向の回転にしか対応できない構成をしている。したがって、正逆両回転に対応することができない。
【0009】
また、特許文献2の軸受装置は、正逆両回転に対応するが、横軸形回転機械にしか適用できない構成である。このサーキュレータは、横軸形の回転軸にぶら下がって支持されているだけである。サーキュレータ内周側の円周溝を流れる潤滑油による力を受けて、サーキュレータの位置が円周方向に変化するものと考えられるが、その力の大きさは、比較的小さくて済むはずである。立軸形回転機械において、このようなサーキュレータを適用すると、サーキュレータを支持する面との摩擦力が大きくなるため、サーキュレータを位置変化させることは困難である。さらに、サーキュレータの大きさ、重量が大きくなればなるほど、サーキュレータを動かすために必要な力は大きくなる。したがって、立軸形回転機械においては、正逆両回転に対応して安定的に潤滑油を供給するということはできない。
【0010】
そこで、本発明はこのような課題を解決するものであり、立軸形回転機械において、サーキュレータを用いて潤滑油を循環させることが可能で、正逆両回転に対応して安定した潤滑油の循環をすることができる立型軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、回転軸を支持するための立型軸受装置において、立型軸受装置は、回転軸の周囲に配置されるサーキュレータと、サーキュレータの周囲に配置されたガイドリングとを含み、サーキュレータは、内周面に設けられた円周溝と外周面とを連通させる第1の孔及び第2の孔を含み、ガイドリングは、吐出孔、第1の吸込孔、及び第2の吸込孔を含み、サーキュレータは、立型軸受装置に固定されたガイドリングに対して回動できるようになっており、回転軸の回転方向に応じて、第1の回動位置または第2の回動位置に位置づけられるようになっており、回転軸が第1の回転方向に回転すると、サーキュレータが第1の回動位置に位置付けられ、サーキュレータの第2の孔とガイドリングの吐出孔との位置が整合し、サーキュレータからの潤滑油の吐出口を形成し、サーキュレータの第1の孔とガイドリングの第1の吸込孔との位置が整合し、円周溝と立型軸受装置内に備えられた油槽とが連通し、サーキュレータへの潤滑油の吸込口を形成するようになっており、回転軸が第2の回転方向に回転すると、サーキュレータが第2の回動位置に位置付けられ、サーキュレータの第1の孔とガイドリングの吐出孔との位置が整合し、サーキュレータからの潤滑油の吐出口を形成し、サーキュレータの第2の孔とガイドリングの第2の吸込孔との位置が整合し、円周溝と油槽とが連通し、サーキュレータへの潤滑油の吸込口を形成するようになっており、サーキュレータの外表面に、回転軸に連れまわされる潤滑油の流れに対して抵抗となるような形状の抵抗表面が形成されており、サーキュレータを回動させる力を発生させるようになっている、立型軸受装置を提供する。
【0012】
本発明の別の実施形態では、抵抗表面が、サーキュレータの側面に、抵抗溝を設けることによって形成されていることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、抵抗表面が、サーキュレータの側面に、抵抗凸部を設けることによって形成されていることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、抵抗溝は、サーキュレータの半径方向に向かって形成されていることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、抵抗溝の断面が、略長方形であることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、複数の抵抗溝が溝群をなしており、溝群がサーキュレータの円周方向に一定の間隔で配置されていることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、溝群は、2〜5個の抵抗溝により形成されていることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、抵抗溝の断面において、溝巾と溝深さの比が、2:1〜6:1であることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、抵抗溝の断面において、溝巾と溝深さの比が、略4:1であることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、抵抗表面を設ける前のサーキュレータの体積に対する、抵抗表面を構成する凹部の容積の比率が、0.1〜10%であることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、抵抗溝を設ける前のサーキュレータの体積に対する、抵抗溝の容積の比率が、0.1〜10%であることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、抵抗表面が、サーキュレータの上側面に形成されていることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、抵抗表面が、サーキュレータの下側面に形成されていることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、サーキュレータの内周面と回転軸の外周面との間のクリアランスが、円周方向においてほぼ一定となっていることが好ましい。
本発明の別の実施形態では、サーキュレータの第1の孔及び第2の孔の間において、円周溝内に隔壁が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の立型軸受装置は、立軸形回転機械に適用可能である。また、簡易な構造のサーキュレータを用いて潤滑油を循環することが可能で、さらに、正逆両回転に対応して安定した潤滑油の循環をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の立型軸受装置を示す縦断面図である。
【図2】図1の立型軸受装置の2−2断面を示す横断面図であり、回転軸が第1の回転方向のときについて示す図である。
【図3】図2において、回転軸が第2の回転方向のときについて示す図である。
【図4】サーキュレータの平面図である。
【図5】サーキュレータの側面図である。
【図6】抵抗溝の巾深さ比が1:1のときの流体の流れを示す図である。
【図7】抵抗溝の巾深さ比が2:1のときの流体の流れを示す図である。
【図8】抵抗溝の巾深さ比が4:1のときの流体の流れを示す図である。
【実施例】
【0015】
以下に図面を参照して、本発明の実施例を説明する。図1は、本発明の立型軸受装置の一実施例を示す縦断面図である。立型軸受装置を、全体的に参照番号1で示している。立型軸受装置の中央には、上下方向に回転主軸3が通っている。回転主軸3の外周側には、カラー5が設けられている。回転主軸3とカラー5とは、一体となって回転し、回転軸7を構成する。カラー5の外周側の面には、ジャーナル軸受9、正スラスト軸受11、及び逆スラスト軸受13が設けられている。ジャーナル軸受9は、カラー5を通じて、回転軸7を半径方向に支持している。正スラスト軸受11及び逆スラスト軸受13は、カラー5を通じて、回転軸7を軸方向に支持している。正スラスト軸受11は、軸方向下向きの荷重を支持し、逆スラスト軸受13は、軸方向上向きの荷重を支持する。なお、各軸受の配置は上記に限られない。ベースプレート15の上には、ケーシング17が載せられている。ケーシング17内には、油槽19が設けられている。油槽19には、潤滑油が貯められている。
【0016】
図1の右側半分には、油槽19と軸受との間の潤滑油の循環を矢印で示している。油槽19の下部には供給孔21が設けられている。潤滑油は、供給孔21から長孔通路23へ供給される。長孔通路23は、ケーシング17の長孔内周壁58と長孔外周壁60との間に形成されている。ベースプレート15の上面には、半径方向に油供給溝25がある。潤滑油は、長孔通路23から油供給溝25を通り、内側空間27に供給される。
【0017】
内側空間27の潤滑油は、カラー5の回転によって、正スラスト軸受11の内周側から引きずり込まれ、遠心力によって正スラスト軸受11の外周側から排出される。排出された潤滑油は、ガイドリング29の外周側に設けられた油排出溝31を通り、油槽下部に設けられたスラスト軸受排出油戻り孔33を通り、油槽19に戻る。
【0018】
さらに、内側空間27の潤滑油は、カラー5に設けられた逆スラスト軸受用供給孔35を通り、逆スラスト軸受13へも供給される。逆スラスト軸受13から排出された潤滑油は、油槽下部に設けられたスラスト軸受排出油戻り孔33を通り、油槽19に戻る。
【0019】
さらに、内側空間27の潤滑油は、カラー5に設けられたジャーナル軸受用供給孔37を通り、ジャーナル軸受9へも供給される。ジャーナル軸受9から排出された潤滑油は、油槽側壁部に設けられたジャーナル軸受排出油戻り孔39を通り、油槽19に戻る。
【0020】
次に、潤滑油冷却のための系統を説明する。図1の左側半分には、油槽19と外部冷却器67との間の潤滑油の循環を矢印で示している。カラー5の外周面には、サーキュレータ41が設けられている。サーキュレータ41の外周面には、ガイドリング29が配置されている。潤滑油は、油槽19の下部に設けられた供給孔21から長孔通路23へ供給される。さらに、潤滑油は、長孔内周壁58及びガイドリング29に設けられた孔を通り、サーキュレータ41へ供給される。
【0021】
サーキュレータ41から吐出された潤滑油は、ケーシング17の長孔内周壁58及び長孔外周壁60を貫通して設けられた潤滑油供給連絡管65を通り、外部冷却器へ供給される。外部冷却器67で、冷却された潤滑油は、ケーシング側壁に設けられた潤滑油戻り連絡管69を通り、油槽19へ戻される。
【0022】
図2は、図1の断面2−2における平面図を示しており、回転軸7が第1の回転方向45に回転しているときについて示している。サーキュレータ41の内周面には、円周溝43が形成されている。また、サーキュレータ41には、円周溝43と外周面を連通する第1の孔47及び第2の孔49が設けられている。サーキュレータ41の内周面と回転軸7の外周面との間のクリアランスは、円周方向においてほぼ一定となっている。また、円周溝43の径方向深さは、円周方向において一定の深さとなっている。
【0023】
回転軸7が第1の回転方向45へ回転すると、カラー5表面によって、潤滑油が、その粘性によって、第1の回転方向45へ連れまわされる。潤滑油は、第1の孔47から供給され、円周溝43内を通り、第2の孔49から排出される。第1の孔47と第2の孔49との間において、円周溝43内には隔壁51が設けられている。隔壁51は、円周溝43内の潤滑油が、何周も連れまわされることを防いでいる。第1の孔47は、外周面から円周溝43へ向けて、第1の回転方向45へ円周方向斜め向きに開けてあり、潤滑油を吸い込みやすくしている。第2の孔49は、円周溝43から外周面へ向けて、第1の回転方向45へ円周方向斜め向きに開けてあり、潤滑油を排出しやすくしている。
【0024】
ガイドリング29には、外周面と内周面とを連通する吐出孔53、第1の吸込孔55、及び第2の吸込孔57が設けられている。さらに、ケーシング17の長孔内周壁58には、吐出孔53、第1の吸込孔55、及び第2の吸込孔57に整合して、それぞれ、吐出孔59、第1の吸込孔61、及び第2の吸込孔63が設けられている。
【0025】
図2において、サーキュレータ41の第1の孔47とガイドリング29の第1の吸込孔55が連通し、サーキュレータ41の第2の孔49とガイドリング29の吐出孔53が連通している。ガイドリング29の第2の吸込孔57は、流路が遮断されている。
【0026】
油槽19下部の供給孔21から長孔通路23へ供給された潤滑油は、長孔内周壁58に設けられた第1の吸込孔61を通り、ガイドリング29の第1の吸込孔55を通り、サーキュレータ41の第1の孔47へ供給される。
【0027】
ケーシング17の長孔内周壁58及び長孔外周壁60を貫通して設けられた潤滑油供給連絡管65の一端は、ガイドリング29の吐出孔53に連通している。潤滑油供給連絡管65の他の一端は、外部冷却器67に連通している。したがって、サーキュレータ41の第2の孔49から吐出された潤滑油は、ガイドリング29の吐出孔53を通り、潤滑油供給連絡管65を通り、外部冷却器67へ移送されるようになっている。
【0028】
外部冷却器67で冷却された潤滑油は、ケーシング側壁に設けられた潤滑油戻り連絡管69を通り、油槽19へ戻される。このように、サーキュレータ41の粘性ポンプ効果によって、潤滑油を外部冷却器67へ循環させるようになっている。
【0029】
次に、図3は、図2において回転方向が逆方向となったときの図を示す。サーキュレータ41は、立型軸受装置に固定されたガイドリング29に対して回動できるようになっており、回転軸7の回転方向に応じて、第1の回動位置または第2の回動位置に位置づけられるようになっている。
【0030】
回転軸7が逆回転をし、回転方向が第2の回転方向87へ回転すると、カラー5表面によって、潤滑油が、その粘性によって、第2の回転方向87へ連れまわされる。カラー5表面によって連れまわされる潤滑油は、サーキュレータ41の主に外表面を通じて、サーキュレータ41を回転軸7と同じ回転方向に回動させる力を与える。その力によって、サーキュレータ41は、図2に示す第1の回動位置から第2の回動位置へ、第2の回転方向87へ回動する。
【0031】
サーキュレータ41には、サーキュレータ41から軸方向に突出したピン71が設けられている。ガイドリング29には、ピン71に対応してピン溝73が設けてある。ピン71が、ピン溝73の第2の回転方向87の壁に当接し、サーキュレータ41が、第2の回動位置に位置付けられている。図2においては、ピン71が、ピン溝73の第1の回転方向45の壁に当接し、サーキュレータ41が、第1の回動位置に位置付けられている。ピン71の代わりに、サーキュレータ41の円周方向の回動運動を制限して位置決めする任意の手段が適用可能である。
【0032】
サーキュレータ41が、第2の回動位置に位置付けられると、サーキュレータ41の第2の孔49とガイドリング29の第2の吸込孔57が連通し、サーキュレータ41の第1の孔47とガイドリング29の吐出孔53が連通する。ガイドリング29の第1の吸込孔55は、流路が遮断される。したがって、潤滑油は、長孔内周壁58に設けられた第2の吸込孔63を通り、ガイドリング29の第2の吸込孔57を通り、サーキュレータ41の第2の孔49へ供給される。さらに、潤滑油は、円周溝43内を通り、第1の孔47から吐出される。
【0033】
サーキュレータ41の第1の孔47から吐出された潤滑油は、ガイドリング29の吐出孔53を通り、潤滑油供給連絡管65を通り、外部冷却器67へ移送される。外部冷却器67で冷却された潤滑油は、ケーシング側壁に設けられた潤滑油戻り連絡管69を通り、油槽19へ戻される。
【0034】
このように、サーキュレータ41は、回転軸7の正逆回転に対応して回動し、粘性ポンプ効果によって、常に潤滑油供給連絡管65から潤滑油を吐出できるようになっている。回転軸7が、正逆回転どちらに回転しても、常に潤滑油を自己循環するため、信頼性が高い。
【0035】
図1から分かるように、サーキュレータ41は、外周面75、上側面77、及び下側面79において、ガイドリング29に接触して支持されている。サーキュレータ41を回動させるためには、これらの面における摩擦力よりも大きい回動力が必要となる。とりわけ、下側面79においては、サーキュレータ41の自重を支持しているため、大きい摩擦力が生じる。
【0036】
この摩擦力よりも大きい回動力を得るために、上側面77及び下側面79には、カラー5によって連れまわされる潤滑油の流れに対して抵抗となるような形状の抵抗表面が形成されており、サーキュレータ41を回動させる力を発生させるようになっている。この実施例では、上側面77及び下側面79の両面に抵抗表面が形成されているが、必要な回動力が得られれば、上側面77又は下側面79のいずれかの面に抵抗表面を形成させてもよい。
【0037】
図4は、本発明実施例のサーキュレータ41の平面図を示す。上側面77及び下側面79に、抵抗表面の凹部の一形態である抵抗溝85が半径方向に設けられている。この実施例では、4本の半径方向の抵抗溝が溝群をなしており、この溝群が、サーキュレータ41の円周方向に一定の間隔で6箇所に配置されている。
【0038】
抵抗溝85は、半径方向から円周方向斜め向きに設けてもよく、ジグザグに蛇行して内周側から外周側にいたるものでもよく、潤滑油の流れに対し抵抗となるようなものであれば任意の方向やパターンで設けることができる。抵抗溝85は、半径方向に貫通していなくても良い。
【0039】
1つの溝群をなす抵抗溝の数は、2〜5本が好ましい。この溝群は、必要に応じて何箇所としてもよいが、それぞれの群が一定の間隔をなして、均等に配置されることが好ましい。また、溝群を形成せず、サーキュレータ41の全周にわたり、均等に抵抗溝85を設けてもよい。抵抗溝85の配置は、回動動作をバランス良くするために、上側面及び下側面について、円周方向に対称に配置することが好ましい。
【0040】
図5は、図4の5−5断面によるサーキュレータ41の側面図を示す。抵抗溝85の断面は、長方形となっている。製作しやすくするために、長方形としているが、回転軸7に連れまわされる潤滑油の流れに対し抵抗となるようなものであれば任意の形状が可能である。例えば、断面を蟻溝形状や凹凸面形状としても良い。
円周溝43には、隔壁51が形成されている。また、ピン71が、下側面79から突出している。
【0041】
図6〜図8は、抵抗溝85の断面形状を示す。抵抗溝85は、流体の力を受け止められる程、効果的で抵抗性能が良いと言える。ここで、溝巾81と溝深さ83との比(巾深さ比)を変化させたときの抵抗溝85の抵抗性能について示す。
【0042】
図6に示すように、巾深さ比が1:1程度の場合、抵抗表面の形状にもよるが、抵抗溝85へ流体が引き込まれる際に渦が発生する場合がある。渦が発生すると、流体が抵抗溝85の側壁に垂直方向にぶつからず、流体の力を効果的にサーキュレータ41に伝達することができない。
【0043】
図7に示すように、巾深さ比が2:1程度より大きくなると、渦が発生しなくなり、流体が抵抗溝85へ流入し、抵抗溝85から流出する流線がV字状となる。流体が抵抗溝85の側壁に垂直方向の成分を持ってぶつかるようになる。したがって、流体の力が、抵抗溝85の側壁に伝達されやすくなり、抵抗性能が向上する。
【0044】
図8は、巾深さ比が4:1程度の抵抗溝85を示している。巾深さ比が3:1程度より大きくなると、抵抗溝85へ流入した流体がV字状に即座に流出されるのではなく、本流との並行流れ部を生じる。抵抗溝85の側壁に対して、より垂直方向に流体がぶつかるため、さらに抵抗性能が向上する。本実施例では、巾深さ比4:1程度が、抵抗性能のピークである。
【0045】
巾深さ比が6:1程度より大きくなると、抵抗溝85の数も少なくなってしまうため、抵抗性能が低下する傾向がある。
【0046】
サーキュレータの大きさ、重量、形状等によって、抵抗性能の特性は変化し、最適な巾深さ比も変化する。サーキュレータの材質として例えばアルミ材を用いることができ、効率良く抵抗性能が良い巾深さ比を得られる範囲は、2:1〜6:1程度であり、4:1程度がピークである。
【0047】
また、サーキュレータの体積に対する抵抗溝の抵抗溝容積の比率は、0.1〜10%程度であることが回動性及び製作性において好ましい。ここで、サーキュレータの体積は、抵抗溝を設ける前の体積である。例えば、半径方向を向いた抵抗溝の場合、抵抗溝容積は、抵抗溝の溝巾、溝深さ、溝長さ、及び溝の個数の積から求まる容積によって定義される。
【符号の説明】
【0048】
1 立型軸受装置
3 回転主軸
5 カラー
7 回転軸
9 ジャーナル軸受
11 正スラスト軸受
13 逆スラスト軸受
15 ベースプレート
17 ケーシング
19 油槽
21 供給孔
23 長孔通路
25 油供給溝
27 内側空間
29 ガイドリング
31 油排出溝
33 スラスト軸受排出油戻り孔
35 逆スラスト軸受用供給孔
37 ジャーナル軸受用供給孔
39 ジャーナル軸受排出油戻り孔
41 サーキュレータ
43 円周溝
45 第1の回転方向
47 第1の孔
49 第2の孔
51 隔壁
53 吐出孔
55 第1の吸込孔
57 第2の吸込孔
58 長孔内周壁
59 吐出孔
60 長孔外周壁
61 第1の吸込孔
63 第2の吸込孔
65 潤滑油供給連絡管
67 外部冷却器
69 潤滑油戻り連絡管
71 ピン
73 ピン溝
75 外周面
77 上側面
79 下側面
81 溝巾
83 溝深さ
85 抵抗溝
87 第2の回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を支持するための立型軸受装置において、前記立型軸受装置は、
前記回転軸の周囲に配置されるサーキュレータと、
前記サーキュレータの周囲に配置されたガイドリングとを含み、
前記サーキュレータは、内周面に設けられた円周溝と外周面とを連通させる第1の孔及び第2の孔を含み、前記ガイドリングは、吐出孔、第1の吸込孔、及び第2の吸込孔を含み、
前記サーキュレータは、前記立型軸受装置に固定された前記ガイドリングに対して回動できるようになっており、前記回転軸の回転方向に応じて、第1の回動位置または第2の回動位置に位置づけられるようになっており、
前記回転軸が第1の回転方向に回転すると、前記サーキュレータが前記第1の回動位置に位置付けられ、前記サーキュレータの前記第2の孔と前記ガイドリングの前記吐出孔との位置が整合し、前記サーキュレータからの潤滑油の吐出口を形成し、前記サーキュレータの前記第1の孔と前記ガイドリングの前記第1の吸込孔との位置が整合し、前記円周溝と前記立型軸受装置内に備えられた油槽とが連通し、前記サーキュレータへの潤滑油の吸込口を形成するようになっており、
前記回転軸が前記第2の回転方向に回転すると、前記サーキュレータが前記第2の回動位置に位置付けられ、前記サーキュレータの前記第1の孔と前記ガイドリングの前記吐出孔との位置が整合し、前記サーキュレータからの潤滑油の吐出口を形成し、前記サーキュレータの前記第2の孔と前記ガイドリングの前記第2の吸込孔との位置が整合し、前記円周溝と前記油槽とが連通し、前記サーキュレータへの潤滑油の吸込口を形成するようになっており、
前記サーキュレータの外表面に、前記回転軸に連れまわされる潤滑油の流れに対して抵抗となるような形状の抵抗表面が形成されており、前記サーキュレータを回動させる力を発生させるようになっている、立型軸受装置。
【請求項2】
前記抵抗表面が、前記サーキュレータの側面に、抵抗溝を設けることによって形成されている、請求項1に記載された立型軸受装置。
【請求項3】
前記抵抗溝は、前記サーキュレータの半径方向に向かって形成されている、請求項2に記載された立型軸受装置。
【請求項4】
前記抵抗溝の断面が、略長方形である、請求項2または請求項3に記載された立型軸受装置。
【請求項5】
複数の前記抵抗溝が溝群をなしており、前記溝群が前記サーキュレータの円周方向に一定の間隔で配置されている、請求項2から請求項4までのいずれか一項に記載された立型軸受装置。
【請求項6】
前記溝群は、2〜5個の抵抗溝により形成されている、請求項5に記載された立型軸受装置。
【請求項7】
前記抵抗溝の断面において、溝巾と溝深さの比が、2:1〜6:1である、請求項2から請求項6までのいずれか一項に記載された立型軸受装置。
【請求項8】
前記抵抗溝の断面において、前記溝巾と前記溝深さの比が、略4:1である、請求項2から請求項7までのいずれか一項に記載された立型軸受装置。
【請求項9】
前記抵抗表面を設ける前のサーキュレータの体積に対する、前記抵抗表面を構成する凹部の容積の比率が、0.1〜10%である、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載された立型軸受装置。
【請求項10】
前記抵抗表面が、前記サーキュレータの上側面に形成されている、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載された立型軸受装置。
【請求項11】
前記抵抗表面が、前記サーキュレータの下側面に形成されている、請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載された立型軸受装置。
【請求項12】
前記サーキュレータの内周面と前記回転軸の外周面との間のクリアランスが、円周方向においてほぼ一定となっている、請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載された立型軸受装置。
【請求項13】
前記サーキュレータの前記第1の孔及び前記第2の孔の間において、円周溝内に隔壁が設けられている、請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載された立型軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−57768(P2012−57768A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203942(P2010−203942)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】