説明

立方体形状ナノ粒子およびその製造方法

【課題】新規な立方体形状ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の立方体形状ナノ粒子の製造方法は、チタン化合物とバリウム化合物を溶媒中で加熱してチタン酸バリウムを生成する方法であり、200〜280℃の範囲内で溶媒を熱分解して水を生成させる。ここで、溶媒は、2-メトキシエタノールからなることが好ましい。また、溶媒は、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールから選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の混合物を含んでもよい。また、チタン化合物が二酸化チタンであることが好ましい。また、二酸化チタンの平均粒径は2.0〜10nmの範囲内にあることが好ましい。また、バリウム化合物が無水水酸化バリウムであることが好ましい。この方法により、立方体形状ナノ粒子は、平均結晶子径が8〜40nmの範囲内にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な立方体形状ナノ粒子に関する。
また、本発明は、新規な立方体形状ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで100nm以下の粒子径を持つチタン酸バリウム(BaTiO3)ナノ粒子は様々な方法で合成されてきたが、その粒子形状はほとんどが球状もしくは楕円体形状であった(非特許文献1,2参照。)。
【0003】
一方、立方体形状BaTiO3ナノ粒子(ナノキューブ)に関して僅かに報告はあるものの、40〜90nm程度の大きさを持ち、また角も丸いものであった(非特許文献3,4参照。)。
【0004】
これらのナノキューブは溶液法で合成され、いずれも水が溶液の一部に用いられている。このため、100℃以下の低温でBaTiO3ナノ粒子の核ができ、粒成長をする、すなわち、大きさ10nm以上の球状ナノ粒子から更に大きな立方体形状粒子への成長となるため、どうしても粒子サイズは40nm以上と大きくなり、またキューブの角が丸くなってしまう。これは粒成長のためにはBaやTiイオンの溶液中への溶解が必要であり、溶解度が高い溶媒として水を超えるものが存在しないためである。
【0005】
しかし、水は低温でもBaやTiイオンを溶解するため、低温でBaTiO3の核生成、粒成長が起こり、粒子形状が球状もしくは楕円体形状になるという問題点があった。従ってこれまでの技術では、40nm以下の大きさで、角が丸くないBaTiO3ナノキューブは合成できていない。また、水系を溶媒とした合成法では、100℃以下の低温でBaTiO3粒子が生成するため、水酸基を取り込みながら成長し、BaTiO3ナノ粒子の内部に格子内水酸基を含むという問題点が指摘されていた(非特許文献5,6参照。)。
【0006】
【非特許文献1】K. Fukui, K. Hidaka, M. Aoki and K. Abe, “Preparation and Properties of Uniform Fine Perovskite Powders by Hydrothermal Synthesis”, Ceramics International, Vol. 16, 1990, 285-290.
【非特許文献2】Satoshi Wada, Takeyuki Suzuki and Tatsuo Noma, "The Effect of the Particle Sizes and the Correlational Sizes of Dipoles introduced by the Lattice Defects on the Crystal Structure of Barium Titanate Fine Particles", Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 34, 1995, 5368-5379.
【非特許文献3】Bo Hou, Zhijie Li, Yao Xu, Dong Wu and Yuhan Sun, "Solvothermal Synthesis of Single-crystalline BaTiO3 Nanocubes in a Mixed Solution", Chemistry Letters, Vol. 34, No. 7, 2005, pp. 1040-1041.
【非特許文献4】Tao Yan, Xiao-Lin Liu, Nian-Rong Wang, and Jian-Feng Chen, “Synthesis of Monodispersed Barium Titanate Nanocrystals - Hydrothermal Recrystallization of BaTiO3 Nanospheres”, Journal of Crystal Growth, Vol. 281, 2005, 669-677.
【非特許文献5】Detlev Hennings, Gotz Rosenstein and Herbert Schreinemacher, “Hydrothermal Preparation of Barium Titanate from Barium-Titanate Acetate Gel Precursors”, Journal of the European Ceramic Society, Vol. 8, 1991, 107-115.
【非特許文献6】Satoshi Wada, Takeyuki Suzuki and Tatsuo Noma, "Preparation of Barium Titanate Fine Particles by Hydrothermal Method and their Characterization," Journal of the Ceramic Society of Japan, Vol. 103, 1995, 1220-1227.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、このような課題を解決する、新規な立方体形状ナノ粒子の開発が望まれている。
また、新規な立方体形状ナノ粒子の製造方法の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な立方体形状ナノ粒子を提供することを目的とする。
また、本発明は、新規な立方体形状ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の立方体形状ナノ粒子は、平均結晶子径が8〜40nmの範囲内にある。ここで、限定されるわけではないが、立方体形状ナノ粒子はチタン酸バリウムからなることが好ましい。
【0010】
本発明の立方体形状ナノ粒子は、平均結晶子径が12〜16nmの範囲内にある。ここで、限定されるわけではないが、立方体形状ナノ粒子はチタン酸バリウムからなることが好ましい。
【0011】
本発明の立方体形状ナノ粒子の製造方法は、原料を溶媒中で加熱し、200〜280℃の範囲内で水を導入する。
【0012】
ここで、限定されるわけではないが、水の導入は、反応系に水を加えることにより行うことが好ましい。また、限定されるわけではないが、水の導入は、溶媒を熱分解して水を生成することにより行うことが好ましい。また、限定されるわけではないが、立方体形状ナノ粒子の材質は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸鉛、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウムからなることが好ましい。
【0013】
本発明の立方体形状ナノ粒子の製造方法は、チタン化合物とバリウム化合物を溶媒中で加熱して、チタン酸バリウムを生成する立方体形状ナノ粒子の製造方法において、200〜280℃の範囲内で溶媒を熱分解して、水を生成する方法である。
【0014】
ここで、限定されるわけではないが、溶媒は、2-メトキシエタノールからなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、溶媒は、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールから選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の混合物を含むことが好ましい。また、限定されるわけではないが、チタン化合物が二酸化チタンであることが好ましい。また、限定されるわけではないが、二酸化チタンの平均粒径が2.0〜10nmの範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、バリウム化合物が無水水酸化バリウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0016】
本発明の立方体形状ナノ粒子は、平均結晶子径が8〜40nmの範囲内にあるので、新規な立方体形状ナノ粒子を提供することができる。
【0017】
本発明の立方体形状ナノ粒子の製造方法は、原料を溶媒中で加熱し、200〜280℃の範囲内で水を導入するので、新規な立方体形状ナノ粒子の製造方法を提供することができる。
【0018】
本発明の立方体形状ナノ粒子の製造方法は、チタン化合物とバリウム化合物を溶媒中で加熱して、チタン酸バリウムを生成する立方体形状ナノ粒子の製造方法において、200〜280℃の範囲内で溶媒を熱分解して、水を生成するので、新規な立方体形状ナノ粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、立方体形状ナノ粒子およびその製造方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0020】
立方体形状ナノ粒子の製造方法について説明する。本発明の立方体形状ナノ粒子の製造方法は、原料を溶媒中で加熱し、所定温度の範囲内で水を導入する方法である。
【0021】
立方体形状ナノ粒子の材質としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸鉛、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0022】
立方体形状ナノ粒子の原料について説明する。
立方体形状ナノ粒子がチタン酸バリウムの場合、原料としては、二酸化チタン、無水水酸化バリウムなどを挙げることができる。
【0023】
立方体形状ナノ粒子がチタン酸ストロンチウムの場合、原料としては、二酸化チタン、無水水酸化ストロンチウムなどを挙げることができる。
【0024】
立方体形状ナノ粒子がチタン酸カルシウムの場合、原料としては、二酸化チタン、無水水酸化カルシウムなどを挙げることができる。
【0025】
立方体形状ナノ粒子がチタン酸鉛の場合、原料としては、二酸化チタン、無水水酸化鉛などを挙げることができる。
【0026】
チタン酸バリウムの原料として用いる、二酸化チタンの平均粒径は2.0〜10nmの範囲内にあることが好ましい。平均粒径が2.0nm以上であると、酸化チタンの結晶が使えるという利点がある。平均粒径が10nm以下であると、溶媒に溶解しやすいという利点がある。
【0027】
本方法では、所定温度の範囲内で水を導入する。
水を導入する方法としては、反応系に水を加えることにより行う方法、溶媒を熱分解して水を生成することにより行う方法などがある。
【0028】
水を導入する温度は200〜280℃の範囲内にあることが好ましい。また、水を導入する温度は240〜260℃の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0029】
水を導入する温度が200℃以上であると、チタン酸バリウムの核成長において細密の原子面が成長できるという利点がある。水を導入する温度が240℃以上であると、この効果がより顕著になる。
【0030】
水を導入する温度が280℃以下であると、核生成が急速に進み、10nm以下のナノキューブが得られるという利点がある。水を導入する温度が260℃以下であると、この効果がより顕著になる。
【0031】
溶媒としては、熱分解により水を生成するものを採用することができる。具体的には、2-メトキシエタノールなどを採用することができる。
【0032】
溶媒としては、前記の例以外に、他の溶媒を混合することができる。具体的には、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールから選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の混合物などを採用することができる。
【0033】
立方体形状ナノ粒子について説明する。立方体形状ナノ粒子は、チタン酸バリウムからなり、所定の平均結晶子径を有している。
【0034】
平均結晶子径は8〜40nmの範囲内にあることが好ましい。また、平均結晶子径は12〜16nmの範囲内にあることがさらに好ましい。
【0035】
平均結晶子径が8nm以上であると、整合した結晶面が得られるという利点がある。平均結晶子径が12nm以上であると、この効果がより顕著になる。
【0036】
平均結晶子径が40nm以下であると、応用で結晶面同士の界面を十分に生かすことができるという利点がある。平均結晶子径が16nm以下であると、この効果がより顕著になる。
【0037】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0038】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0039】
参考例1
【0040】
オートクレーブを用いて2-メトキシエタノールの高温・高圧処理を行った。
2-メトキシエタノール(和光純薬工業社製の和光一級)250 mlをソルボサーマル合成装置(耐圧硝子社製、500 ml)に入れ、高温・高圧での反応時はオートクレーブ内の攪拌棒で300 rpmで攪拌した。その後、容器内が室温まで冷めるまで待ち、内容物を取り出した。
【0041】
種々の温度で1時間熱処理することで分解過程を検討した。200℃以下では、溶液自体は外観やにおいは変化せず、1H-NMR測定の結果、原料溶液と全く同じNMR図形を得た。一方、200℃以上では、無色だった溶液の色が黄色くなり、またにおいも完全に変化したが、1H-NMR測定の結果原料溶液と全く同じNMR図形を得た。従って、NMRで検出できない5%以下の2-メトキシエタノールは分解していることが明らかとなった。
【0042】
240℃で18時間熱処理することで、水のNMRシグナルを検出し、200℃以上で水が生成していることを確認した。従って、200℃以下では2-メトキシエタノールは分解しないのに対し、200℃以上では一部分解が始まり、長時間保持することでその分解が進み、反応に十分な水が供給されることがわかった。
【0043】
実施例1
【0044】
溶媒に2-メトキシエタノールを用いて、BaTiO3の合成をおこなった。
水酸化バリウム無水物Ba(OH)2(STREM CHEMICALS製、純度95%)2.570 g(0.015 mol)と酸化チタンナノ粒子TiO2(石原産業社製、MPT-851(190)、平均粒径:約7nm)0.799 g(0.01 mol) を、2−メトキシエタノール(和光純薬工業社製の和光一級)250 ml に入れ5分程度攪拌を行った。できた白濁した溶液をソルボサーマル合成装置(耐圧硝子社製、500 ml)内に入れ、密閉状態で所定温度にし、所定時間保持した(昇温時間を含む)。高温・高圧での反応時はオートクレーブ内の攪拌棒で300 rpmで攪拌した。その後、容器内が室温まで冷めるまで待ち、反応物を取り出してアスピレーターを用いてろ過を行い、採取した沈殿物を約24時間乾燥した。できた試料は乳鉢で軽く粉砕し、X解回折測定(XRD)、走査型電子顕微鏡(FE-SEM)による観察を行った。
【0045】
この合成において、パラメータとして原料のBa/Ti原子比、合成温度、合成時間を変化させ、BaTiO3ナノキューブ合成の最適条件を検討した。
150℃で18時間反応を行った。得られた生成物のX線回折測定(XRD)結果より、一部BaTiO3の生成が確認されたものの、主な生成物はBaTiO3生成の前駆体の特有なブロードなピークが観察され、BaTiO3の生成が十分に進んでいないことがわかった。また、FE-SEM観察より、10nm以下の非常に微細な粒子の凝集体であることがわかった。
【0046】
200℃以上に温度を上げることで水が部分的に生成することにより何が起こるかを調べるため、240℃で1時間反応を行った。その結果、主生成物としてBaTiO3の生成が確認されたものの、その粒子径は10nm以下であり、キューブであるかどうかまでは確認できなかった。
【0047】
反応時間の影響を調べるため、240℃で18時間反応を行った。XRD測定の結果、生成物はBaTiO3であることがわかった(図1参照)。また、XRD測定のBaTiO3[111]面から得られた結晶子径は約16nmであった。また、フィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)観察より立方体形状のナノ粒子の生成を確認した(図2参照)。透過電子顕微鏡(TEM)観察を行い、明視野像と制限視野回折像よりこのナノキューブがBaTiO3であることを確認した。
【0048】
以上の結果から、2-メトキシエタノールを200℃以上にすることで部分的に水が生成し、その水を通して、目的とするBaTiO3ナノキューブ(平均粒子サイズ:16nm)を生成できた。このときの生成条件は、Ba/Ti原子比が1.5、反応温度240℃、反応時間18時間であった。
【0049】
変化させたパラメータの中で、Ba/Ti原子比については1〜3まで変化させても粒子径は変化しなかった。反応温度については、240℃以上では生成物のサイズや形状に特に大きな変化は認められなかった。反応時間については、長くなるほど粒子径の増大を確認することができた。このことから、200℃以上の高温で水が出現することで、高温での核生成、核成長が起こったため、ナノキューブが生成できたと考えられる。
【0050】
FT-IRスペクトルを測定し、格子内水酸基の有無について検討した。その結果、3000〜4000cm-1付近のブロードな表面吸着水酸基の吸収帯は観察されたが、BaTiO3の格子内水酸基に特有な3500cm-1付近の鋭い吸収帯は観察されなかった。従って、200℃以上で生成したBaTiO3ナノキューブには格子内水酸基は存在せず、不純物をほぼ含まないことが明らかとなった。
【0051】
比較例1
【0052】
溶媒にエタノールを用いて、BaTiO3の合成をおこなった。
エタノール(和光純薬工業社製の和光一級)を溶媒に用い、実施例1と同様に、TiO2ナノ粒子とBa(OH)2を用いて、反応温度、反応時間を変化させ、反応を行った。このときBa/Ti原子比は1.5に固定した。
【0053】
50℃以上で、BaTiO3ナノ粒子の生成をXRD測定により確認した。2.5時間という短時間でも主生成物はBaTiO3であり、反応時間の増加とともに結晶子径は僅かであるが増加する傾向を示した。例として、240℃で18時間反応させた結果では、平均粒子径で約10nmのBaTiO3ナノ粒子の生成をXRD測定より確認した。このときの粒子形状はほぼ球状で、その粒子径が約10nmであることを、TEM観察により確認できた(図3参照)。150℃以上では温度を変えても生成したBaTiO3ナノ粒子の形状や粒子径はほとんど変化しなかった。
このことからエタノールを溶媒に用いた場合には、核生成後の核成長がほとんど起こらず、その結果、ナノオーダーの球状粒子が得られたと考えられる。
【0054】
実施例2
【0055】
溶媒に2-メトキシエタノールとエタノールの混合物を用いて、BaTiO3の合成をおこなった。
2-メトキシエタノールとエタノールの混合物を溶媒に用い、実施例1と同様に、TiO2ナノ粒子とBa(OH)2を用いて反応を行った。反応温度を240℃に、反応時間を18時間に固定した。その結果、いずれの溶媒でもBaTiO3ナノ粒子の生成をXRD測定より確認した。またこの混合溶媒を用いたときのBaTiO3ナノ粒子の結晶子径は、純粋な2-メトキシエタノールを用いた場合の16nmから、純粋なエタノールを用いたときの10nmまで単調に変化した。
【0056】
FE-SEMやTEMを用いた観察より粒子形状について検討を行った結果、エタノール:2-メトキシエタノール体積比が3:2の場合でも角のしっかりした立方体形状を持つBaTiO3ナノキューブの生成を確認し、このときの平均粒子サイズは約12nmであることがわかった(図4参照)。
【0057】
従って、2-メトキシエタノール単体を使用した場合よりも、エタノールを加えた混合溶液を使用することにより、粒子径が10nmに近いBaTiO3ナノキューブを生成できた。この原因として、エタノールでは核生成と僅かな核成長で留まっていたのに対し、200℃以上で2-メトキシエタノールの分解により水が供給され、Baイオンの溶解、それに続くTiイオンの溶解が起こり、急激に核成長が高温で起こった結果、水酸基を取り込まずに面密度の高い原子面が成長し、ナノキューブができたと考えられる。
【0058】
比較例2
【0059】
溶媒に水を用いて、BaTiO3の合成をおこなった。
水だけを溶媒に用い、実施例1と同様に、TiO2ナノ粒子とBa(OH)2を用いて、反応温度、反応時間を変化させ、反応を行った。水として蒸留水をミリポアを通して純水にしたものを用いた。このときBa/Ti原子比は1.5に固定した。
【0060】
100℃以下の低温でもBaTiO3粒子の生成をXRD測定より確認した。このときのXRDより算出した結晶子径は110nmであった。また、FE-SEM観察より、楕円体形状のBaTiO3粒子の生成を確認した(図5参照)。
【0061】
水のみを溶媒に用いた場合には、反応温度、反応時間依存性は特には認められなかった。このことから水を溶媒に用いた場合には、低温で核生成、核成長が十分に進行することが明らかとなった。また、FT-IR測定より格子内水酸基の存在が確認された。従って、水酸基のような不純物を取り込みながら低温で核生成、核成長が起こるため、結晶性が悪く、高温での核成長のように特定の原子面が成長せず、等方的に成長するため球状または楕円体形状になったものと考えられる。
【0062】
比較例3
【0063】
溶媒に2-メトキシエタノールと水の混合物を用いて、BaTiO3の合成をおこなった。
反応温度を240℃、反応時間を18時間に固定し、溶媒に2-メトキシエタノールと水の混合物を用いて、実施例1と同様に、反応を行った。その結果、いずれの溶媒でもBaTiO3ナノ粒子の生成をXRD測定より確認した。またこの混合溶媒を用いたときのBaTiO3ナノ粒子の結晶子径は、純粋な2-メトキシエタノールを用いた場合の16nmから、純粋な水を用いたときの110nmまで単調に変化した。
【0064】
FE-SEMやTEMを用いた観察より粒子形状について検討を行った結果、エタノール:水体積比が3:2の場合では50nm以下の球状粒子と50nm以上の粒子径の角の丸い立方体形状粒子の混合物が観察された(図6参照)。
【0065】
これは低温で生成した球状のBaTiO3粒子に200℃以上での2-メトキシエタノールの分解により生成した水により、BaTiO3粒子の溶解析出に伴う高温での粒成長により特定の原子面の成長が起こったモデルA、または水の量が少ないため、溶け残ったBa(OH)2やTiO2粒子が200℃以上での2-メトキシエタノールの分解により生成した水に溶解し、その結果特定の原子面の成長が起こったモデルBのいずれかにより説明できる。
以上より、2-メトキシエタノールと水の混合物においては、混合比によっては40nm以上のBaTiO3キューブも生成するが、40nm以下のナノキューブは生成できないことがわかった。
【0066】
比較例4
【0067】
溶媒にエタノールと水の混合物を用いて、BaTiO3の合成をおこなった。
反応温度を240℃、反応時間を18時間に固定し、溶媒にエタノールと水の混合物を用いて、実施例1と同様に、反応を行った。その結果、いずれの溶媒でもBaTiO3ナノ粒子の生成をXRD測定より確認した。またこの混合溶媒を用いたときのBaTiO3ナノ粒子の結晶子径は、純粋な水を用いた場合の110nmから、純粋なエタノールを用いたときの10nmまで単調に変化せず、階段状に変化した(図7参照)。
【0068】
粒子形状は単成分ではどちらも球状であったが、エタノールの体積分率が60〜80%の混合溶液系では球状粒子と角の丸い立方体形状粒子の混合体であり、エタノール含有量の増大とともに立方体形状粒子のサイズは小さくまた角は鋭くなり、また粒状粒子への存在割合は増大した。代表的なものとして、エタノール体積分率80%におけるFE-SEM観察結果を示す(図8参照)。
【0069】
この原因として、水とエタノールの混合物は、高温高圧下では水とエタノールが別々に働くのではなく、混合溶液自身の溶解度の温度依存性を持つことが考えられる。しかし、この系では立方体形状でかつ最小のサイズが40nm以上と大きく、40nm以下の粒子径を持つBaTiO3ナノキューブを作製することはできなかった。
【0070】
以上の結果より、BaTiO3ナノ粒子の合成には、(1)低温での核生成・核成長、(2)低温での核生成・高温での核成長、(3)高温での核生成・核成長の3つのパターンが存在する。この中で、立方体形状になることができるのは(2)と(3)の場合だけである。また、40nm以下のBaTiO3ナノキューブを作製するには(3)の場合だけである。
【0071】
これらのBaTiO3粒子の生成機構と溶液系をまとめたものを図9〜11に示す。図9〜11より、目的とする40nm以下のBaTiO3ナノキューブを作製するには、200℃以上の高温で水が出現する系が必要不可欠である。このためには2つの方法が存在し、1つ目は200℃以下では反応に不活性な溶媒であるが、200℃以上で変化し水を放出する特殊な溶媒を使用することであり、その溶媒の1つに2-メトキシエタノールがある。2つ目は反応装置を改良し、Ti源とBa源の容器と水の容器を完全に分離し、200℃以上で両者を混合することである。この2つの手法により、目的とする40nm以下のBaTiO3ナノキューブの合成が初めて可能となると考えられる。
【0072】
本発明により、これまで世の中に存在しなかった40nm以下の粒子径を持つBaTiO3ナノキューブを作製できた。また、一連の研究を通して、ナノキューブを作るための生成機構を明らかにできたため、他の化学式を持つ化合物についても同様なアプローチをすることでナノキューブの作成が可能となる。すなわちナノキューブ作製のための普遍的な手法を提案するに至った。
【0073】
またこれまでのように、球状BaTiO3ナノ粒子を用いて粒子充填体を作製した場合には、最密充填構造でも74%しか粒子は充填されないため、誘電特性の低い粒子充填体しか作製できなかった。しかし本発明により開発されたナノキューブを用いて粒子充填体を作製した場合には、最密充填構造にできれば100%粒子で充填でき、高い誘電特性を持つ粒子充填体を作製できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】XRD測定の結果を示す図である。
【図2】走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果を示す写真である。
【図3】透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果を示す写真である。
【図4】走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果を示す写真である。
【図5】走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果を示す写真である。
【図6】走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果を示す写真である。
【図7】結晶子径とエタノール濃度との関係を示す図である。
【図8】走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果を示す写真である。
【図9】低温での核生成・核成長による、BaTiO3粒子の生成機構を表す図である。
【図10】低温での核生成・高温での核成長による、BaTiO3粒子の生成機構を表す図である。
【図11】高温での核生成・核成長による、BaTiO3粒子の生成機構を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均結晶子径が8〜40nmの範囲内にある
立方体形状ナノ粒子。
【請求項2】
チタン酸バリウムからなる
請求項1記載の立方体形状ナノ粒子。
【請求項3】
平均結晶子径が12〜16nmの範囲内にある
立方体形状ナノ粒子。
【請求項4】
チタン酸バリウムからなる
請求項3記載の立方体形状ナノ粒子。
【請求項5】
平均結晶子径が12〜16nmの範囲内にあり、
チタン酸バリウムからなる
立方体形状ナノ粒子。
【請求項6】
原料を溶媒中で加熱し、
200〜280℃の範囲内で水を導入する
立方体形状ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
水の導入は、反応系に水を加えることにより行う
請求項6記載の立方体形状ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
水の導入は、溶媒を熱分解して水を生成することにより行う
請求項6記載の立方体形状ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
立方体形状ナノ粒子の材質は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸鉛、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウムからなる
請求項6記載の立方体形状ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
チタン化合物とバリウム化合物を溶媒中で加熱して、チタン酸バリウムを生成する
立方体形状ナノ粒子の製造方法において、
200〜280℃の範囲内で溶媒を熱分解して、水を生成する
ことを特徴とする立方体形状ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
溶媒は、2-メトキシエタノールからなる
ことを特徴とする請求項10記載の立方体形状ナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
溶媒は、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールから選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の混合物を含む
ことを特徴とする請求項11記載の立方体形状ナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
チタン化合物が二酸化チタンである
ことを特徴とする請求項10記載の立方体形状ナノ粒子の製造方法。
【請求項14】
二酸化チタンの平均粒径が2.0〜10nmの範囲内にある
ことを特徴とする請求項13記載の立方体形状ナノ粒子の製造方法。
【請求項15】
バリウム化合物が無水水酸化バリウムである
ことを特徴とする請求項10記載の立方体形状ナノ粒子の製造方法。
【請求項16】
溶媒が2-メトキシエタノールであり、
チタン化合物が二酸化チタンであり、
バリウム化合物が無水水酸化バリウムである
ことを特徴とする請求項10記載の立方体形状ナノ粒子の製造方法。
【請求項17】
溶媒が、2-メトキシエタノールとエタノールの混合物であり、
チタン化合物が二酸化チタンであり、
バリウム化合物が無水水酸化バリウムである
ことを特徴とする請求項10記載の立方体形状ナノ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−230872(P2008−230872A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69943(P2007−69943)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】