説明

立毛人工皮革およびその製造方法

【課題】高価な後加工を伴わなくても、安価かつ容易に立毛面において不均一な表面感を持つ高強力立毛人工皮革とその製造方法を提供すること。
【解決手段】極細繊維と織物が不離一体となるごとくに強固に絡合し、かつ高分子弾性体が含浸され、立毛処理と染色処理がされた繊維立毛人工皮革であって、立毛面の表面に前記織物を構成する糸が露出していることを特徴とする立毛人工皮革。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、不均一な表面感をもつ高強力立毛人工皮革とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から繊維が立毛された人工皮革は均一で優美な毛羽をもつため、それを活かして家具、インテリアや衣料など幅広い用途に適用されている。
【0003】
一方、このような素材を大面積対象の表面に適用する場合、その均一性ゆえに単調な表面感となってしまうことが多々あった。これを避けるために、ステッチを入れたり、パネル化、パーツ化するなどにより表面の連続性を断ち切るような後加工を施したり、パーフォレーション加工、シワ加工やプリーツ加工などにより基材の均一性を壊すような後加工を施したりすることが試みられている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4等)。
【0004】
しかし、このような後加工はコスト高につながるため、安価かつ容易に得られる新規な表面感を持つ繊維立毛人工皮革への要求は高かった。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−141182号公報
【0006】
【特許文献2】特開昭62−149961号公報
【0007】
【特許文献3】特開昭63−21962号公報
【0008】
【特許文献4】特開平1−6167号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の人工皮革において必要であった高価な後加工の必要性を回避し、安価かつ容易に得られる不均一な表面感を持つ高強力立毛人工皮革とその製造方法を提供せんとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するために次の構成を有する。
【0011】
すなわち、本発明の立毛人工皮革は、高強力で異外観を持つという特徴を有するものであり、具体的には、以下の(1)〜(3)の構成を有するものである。
(1)極細繊維と織物が不離一体となるごとくに強固に絡合し、かつ高分子弾性体が含浸され、立毛処理と染色処理がされた繊維立毛人工皮革であって、立毛面の表面に前記織物を構成する糸が露出していることを特徴とする立毛人工皮革。
(2)極細繊維と織物が不離一体となるごとくに強固に絡合し、かつ高分子弾性体が含浸され、立毛処理と染色処理がされた繊維立毛人工皮革であって、立毛面の表面に前記織物を構成する糸が1個/100cm以上露出していることを特徴とする立毛人工皮革。
(3)極細繊維と織物が不離一体となるごとくに強固に絡合し、かつ高分子弾性体が含浸され、立毛処理と染色処理がされた繊維立毛人工皮革であって、立毛面の表面に前記織物を構成する糸が1個/100cm以上、500個/100cm以下露出していることを特徴とする立毛人工皮革。
【0012】
また、これら立毛人工皮革において、より好ましい具体的態様として、次の(4)、(5)の構成を有するものである。
(4)極細繊維の繊度が0.0001dtex以上、0.9dtex以下であることを特徴とする(1)、(2)または(3)記載の立毛人工皮革。
(5)織物を構成する糸のトータル繊度が30dtex以上120dtex以下であることを特徴とする(1)、(2)、(3)または(4)記載の立毛人工皮革。
【0013】
また、本発明の立毛人工皮革の製造方法は、以下の(6)の構成を有するものである。
(6)次式(1)および(2)を満たす構成を有する織物とフェルト針を用いて、ニードルパンチ方式により織物と極細繊維もしくは極細繊維発生型繊維を不離一体となるべく絡合させ、しかる後、立毛処理と染色処理に供することを特徴とする請求項1記載の立毛人工皮革の製造方法。
(1)A<D
(2)0.2≦X≦0.9
ただし、
A=織物糸の半径
D=フェルト針のスロートデプス+キックアップ値
X=全緯糸打ち込み本数に対する(1)式を満たす緯糸の打ち込み本数比率
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の立毛人工皮革は、極細繊維と織物が不離一体となるごとくに強固に絡合し、かつ高分子弾性体が含浸され、立毛、染色処理された繊維立毛人工皮革であって、その織物を構成する糸が立毛表面に露出していることが必要である。
【0015】
ここでいう露出について、図1、2で説明する。図1は、本発明の人工皮革において、その立毛面表面での織物構成糸の露出状態を示した図面であり、図2は、同じく本発明の人工皮革において、その立毛面表面での織物構成糸の露出状態を示した図面であり、人工皮革を裁断して見た断面である。
【0016】
本発明において、「立毛面表面に露出」とは、図1に示したように、人工皮革製品の立毛面の表面を上方から見た場合、立毛毛羽を形成する極細繊維2から織物糸1が見える状態を言う。この露出形態は点状、ループ状もしくは線状何れの形態で露出しても構わないが、この露出が異外観性・異外観効果を与えるためには、表面から25cm離れた位置で目視観測できることが必要である。図2に示した断面で見ると、この露出状態3は、織物本体5から極細繊維と高分子弾性体の層5を突き抜け皮革表面4にループ状に出る構造となっている。
【0017】
極細繊維と織物が不離一体となるごとくに強固に絡合するためには、ニードルパンチ方式を採用する必要がある。ここでいう不離一体構造とは、極細繊維が織物組織に充分に絡まり合い、相当の応力で剥離しようとしても剥離できない状態を言い、これは実用上では摩耗性や強力の向上に大きな効果をもたらす。また、本発明で使用する高分子弾性体としてはポリウレタン、SBR、NBRなどゴム弾性を有する高分子化合物であれば使用可能であるが、実用性能の面でポリウレタンが望ましい。起毛処理はサンドペーパーを使用して行うのが一般的ではあるが、人工皮革として充分な立毛を得ることが目的であるので、方法は特にこれに限定されるものではない。
【0018】
染色方法は、液浴、捺染など通常人工皮革に適用できる方法を、単独もしくは適宜組み合わせて適用できる。織物を構成する糸が人工皮革立毛表面に露出することにより視覚的に表面感を変化させ、均一で単調な立毛人工皮革表面を驚くほど変化させ、不均一感のあるものに変えることができる。この露出の個数は以下の方法で測定することができる。すなわち、立毛人工皮革表面の任意の10cm×10cm(100cm)の範囲を選び、表面と目の距離を25cmで維持しながらその範囲において表面に露出している織物糸を数えるのである。この露出糸個数が1個/100cm以下の場合は、異外観性が低下するとともに、点間距離が離れすぎるため埃などのように表面に付着した異物のように見えるため好ましくない。一方、単位面積あたりに露出させる点の個数の上限については、必ずしも制限はされないが、一般的には、500個/100cmより多く露出すると異外観を越え、好ましくないと感じる人も増えてくる。従って、本発明で所望するレベルでの良好な不均一感を得るためには、露出点数が1個/100cm以上500個/100cm以下であることが良好な視覚効果の点で好ましく、一般的により好ましくは100個/100cm以上、400個/100cm以下であればよい。
【0019】
繊維立毛人工皮革を構成する極細繊維の繊度は0.0001dtex以上、0.9dtex以下であることが必要である。極細短繊維の繊度が0.9dtexより大きいと、表面タッチがざらつき、外観が低品位となるうえに、露出した織物構成糸の識別性が低下するため好ましくない。また、繊度が0.0001dtexより低いと、極細繊維強度が低くなり、毛羽落ちが増加したり、染色における発色性低下などの問題が発生するため好ましくない。極細繊維はポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系など極細繊維形成可能なものであれば特に限定されるものではない。
【0020】
繊維立毛人工皮革を構成する織物の繊度は、30dtex以上120dtex以下であることが必要である。30dtexより小さい場合はニードルパンチにおける絡合処理において必要な強度保持をはかることが出来ず、織物により高強力化された人工皮革を得ることが出来ない。また、120dtex以上となると人工皮革としたときの風合が硬化し、また露出した織物繊維により表面タッチがざらつくため好ましくない。
【0021】
繊維立毛人工皮革を構成する織物は、その織組織や糸使い等は、所望する商品の目的・特性により適宜に変更可能であり特に限定されるものではない。織組織としては、平織、綾織、朱子織およびそれらを基本とした各種織組織などを選択することができる。一般的には扱いやすさの点から平織が望ましい。織物糸種としては、紡績糸、フィラメント糸、解じょ繰り糸、金属糸、スプリットヤーンなどから適宜単独もしくは2種以上組み合わせで選択することができるが、解撚によって製品の風合柔化をはかることができることからフィラメント糸からなる700T/m以上4000T/m以下の強撚糸であることが好ましく、1000T/m以上4000T/m以下での強撚糸であればより好ましく、2000T/m以上3000T/m以下の強撚糸であればさらに好ましい。
【0022】
織物の繊維素材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系、アクリル系繊維、天然繊維などを用いることができ、特に限定されるものではない。
【0023】
織物の繊維素材については、極細繊維を染める染料に対し可染性であれば繊度差によって、極細繊維による表面と微妙に色合いは異なるが同系色で露出させることができるし、非可染性の織物を選べば織物原色の露出として目立たせることも可能である。さらに、織物を人工皮革に加工する前に先染めしたり、人工皮革の染色後に織物構成糸のみ可染性の染料で染めることにより、望みの色で露出を引き立たせることも可能である。
【0024】
また、繊維立毛人工皮革を構成する織物と絡合処理に用いるフェルト針の間には以下の関係が必要である。
(1)A<D
(2)0.2≦X≦0.9
ただし、
A=織物糸の半径
D=フェルト針のスロートデプス+キックアップ値
X=全緯糸打ち込み本数に対する(1)式を満たす繊維の打ち込み本数比率
ここで、フェルト針について、図3で説明する。
【0025】
スロートデプスとはフェルト針稜線から棘底線までの深さ(7)を言い、キックアップとは稜線から棘先端線までの高さ(8)のことを言い、これらの和はフェルト針の棘の深さになる。
【0026】
また、ここで言う織物を構成する糸の半径は織物構成糸をSEM写真にとり、任意の10点で平均することにより求めることができる。
【0027】
上記(1)(2)の関係式について説明すると、フェルト針の棘の大きさより織物を構成する糸の半径が小さい場合、その糸はほぼ確実にフェルト針の棘により把持され厚み方向に移動する。この厚み方向に移動した糸が立毛処理により表面において点状露出となる。また、このように棘に把持される織物構成糸の割合が0.2より少ない場合、最終製品においての織物構成糸露出個数が少なくなり、求める不均一感を得ることができない。また、0.9より多い場合は、厚み方向に移動する織物構成糸の比率が多くなり、織物の損傷のために所望の高強特力性を達成することが難しい。ここで、緯糸にのみこれを適用するのは、以下の理由による。経糸はシート加工時の搬送応力によりテンションがかかった状態であるため、フェルト針で把持しても厚み方向に移動しづらく、求める異外観性に寄与しない。一方、緯糸はテンションフリーであるため、把持された際に厚み方向に移動しやすく、これらが表面感の変化に大きく寄与するためである。
【0028】
本発明の高強力立毛人工皮革は、例えば、以下の製造方法により得ることができる。
【0029】
すなわち、ポリスチレンを海成分・ポリエステルを島成分とする複合繊維を海島紡糸法により紡糸し、延伸・捲縮付与・カット処理にて短繊維とし、この短繊維をカーディングマシン、クロスラッパーを用いてウェッブシートとした後、ニードルパンチングによる繊維予備絡合処理を行う。この予備絡合フェルトの上下表面に織物を重ねて絡合させ不離一体構造として絡合フェルトとする。このニードルパンチングによって絡合処理を行うに際して、上述の式(1)と(2)を満足する条件のもとで行うことが肝要である。通常の従来の均一・均斉さを製品のねらいとするものでは、この式(1)と(2)を満足するようには条件設定されることはなかったものであり、通常は、棘の大きさが織物構成糸の半径を越えないような針の選定をしていたのである。
【0030】
また、フェルト針の棘の大きさを上述のとおりとすることに加えて、緯糸を該フェルト針棘でより確実に把持するために、フェルト針の棘の向く方向を緯糸に直角の方向にするのがよい。このフェルト針の向く方向を調整することによっても該露出度合いを調整することができ、該直角の方向を中心に±30度程度の範囲内での微調整をしてもよいものである。
こうして得られる絡合フェルトを、繊維極細化処理、高分子弾性体付与、スライスおよびバフィングすることにより人工皮革基布とし、その後染色処理する。かくして従来と異なる表面感をもつ高強力立毛人工皮革人工皮革を得ることができるのである。
【0031】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分としてポリスチレンからなる成分比55/45、島数32の2成分系海島型複合繊維を溶融紡糸法にて作り、延伸、捲縮付与、カット処理を行うことにより、島繊度0.04dtexの海島型複合繊維を得た。この海島型複合繊維原綿を用い、カーディングおよびクロスラッパーにて繊維積層ウェブとしたものに、100本/cmのニードルパンチを施し予備絡合不織布とした。該不織布両面にヨコ糸に45μm糸を20%、55μm糸を80%用いた平織ポリエステルスクリムを重ね、D=50μmのフェルト針にて2500本/cmのニードルパンチを行い、目付650g/mのフェルトを形成した。かくして得られたシートを98℃の熱水で収縮処理乾燥後、極細繊維化し、ポリウレタンを含浸、水中でポリウレタンを凝固せしめた後、半裁して、2枚のシートとした。得られたシートをバフ機でサンドペーパーによって起毛処理した後、分散染料で液浴染色し、厚さ0.60mm、目付250g/mのスエード調人工皮革を得た。得られたスエード調人工皮革の表面には、3個/100cmの点状露出があり、不均一性の感じられる人工皮革となった。
実施例2
実施例1と同様の予備絡合不織布の両面に、ヨコ糸に45μm糸を90%、55μm糸を50%用いた平織ポリエステルスクリムを重ね、D=50μmのフェルト針にて実施例1と同様の手法により目付250g/mのスエード調人工皮革を得た。得られたスエード調人工皮革の表面には、425個/100cmの露出があり、非常に不均一性のある人工皮革となった。
比較例1
実施例1と同様の予備絡合不織布の両面に、ヨコ糸に55μm糸を100%用いた平織ポリエステルスクリムを重ね、D=50μmのフェルト針にて実施例1と同様の手法により目付250g/mのスエード調人工皮革を得た。得られたスエード調人工皮革の表面には露出が見らずれ、フラットで単調な人工皮革となった。
実施例3
実施例1と同様の予備絡合不織布の両面に、ヨコ糸に45μm糸を100%用いた平織ポリエステルスクリムを重ね、D=50μmのフェルト針にて実施例1と同様の手法により目付250g/mのスエード調人工皮革を得た。得られたスエード調人工皮革の表面には、621個/100cmの点状露出があった。このものは、異外観という点では非常に特徴的なものであったが、不均一性がとても高く、評価者によっては商品価値が高く評価されないというものであった。
【0032】
各実施例、比較例の評価結果などを表1に示す。
【0033】
【表1】



【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、不均一な表面感をもつ高強力立毛人工皮革を、安価かつ容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の人工皮革において、その立毛面表面での織物構成糸の露出状態を示した図面である。
【図2】図2は、同じく本発明の人工皮革において、その立毛面表面での織物構成糸の露出状態を示した図面であり、人工皮革を裁断して見た断面である。
【図3】図3は、フェルト針の構造について説明するモデル概略図である。
【符号の説明】
1:露出した織物糸
2:表面立毛極細繊維
3:露出した織物構成糸
4:表面立毛極細繊維
5:極細繊維と高分子弾性体層
6:織物本体
7:針のスロートデプス
8:針のキックアップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維と織物が不離一体となるごとくに強固に絡合し、かつ高分子弾性体が含浸され、立毛処理と染色処理がされた繊維立毛人工皮革であって、立毛面の表面に前記織物を構成する糸が露出していることを特徴とする立毛人工皮革。
【請求項2】
極細繊維と織物が不離一体となるごとくに強固に絡合し、かつ高分子弾性体が含浸され、立毛処理と染色処理がされた繊維立毛人工皮革であって、立毛面の表面に前記織物を構成する糸が1個/100cm以上露出していることを特徴とする立毛人工皮革。
【請求項3】
極細繊維と織物が不離一体となるごとくに強固に絡合し、かつ高分子弾性体が含浸され、立毛処理と染色処理がされた繊維立毛人工皮革であって、立毛面の表面に前記織物を構成する糸が1個/100cm以上、500個/100cm以下露出していることを特徴とする立毛人工皮革。
【請求項4】
極細繊維の繊度が0.0001dtex以上、0.9dtex以下であることを特徴とする請求項1、2または3記載の立毛人工皮革。
【請求項5】
織物を構成する糸のトータル繊度が30dtex以上120dtex以下であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の立毛人工皮革。
【請求項6】
次式(1)および(2)を満たす構成を有する織物とフェルト針を用いて、ニードルパンチ方式により織物と極細繊維もしくは極細繊維発生型繊維を不離一体となるべく絡合させ、しかる後、立毛処理と染色処理に供することを特徴とする請求項1記載の立毛人工皮革の製造方法。
(1)A<D
(2)0.2≦X≦0.9
ただし、
A=織物糸の半径
D=フェルト針のスロートデプス+キックアップ値
X=全緯糸打ち込み本数に対する(1)式を満たす緯糸の打ち込み本数比率

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2004−277891(P2004−277891A)
【公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−67795(P2003−67795)
【出願日】平成15年3月13日(2003.3.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】