説明

立毛経編物

【課題】形態安定に優れた立毛部と、軽くしなやかな肌触り、快適な着用感を有する高級感のあるアセテートマルチフィラメント糸を用いた立毛経編物を提供する。
【解決手段】立毛経編物は、立毛部にトータル繊度が35dtex以上56dtex以下のアセテートマルチフィラメントを用い、グランド部の一部にポリウレタン系弾性糸を用い、以下の要件(1)及び(2)を満たしている。
(1)染色仕上げ後のウエール数が18ウエール/cm以上35ウエール/cm以下であり、
(2)染色仕上げ後のコース数が30コース/cm以上50コース/cm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は立毛経編物に関し、更に詳しくは形態安定性に優れた立毛部と、軽くしなやかな肌触り、快適な着用感を有する高級感のある衣料用立毛経編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、立毛経編物に用いられるアセテートマルチフィラメント糸は、その独特な光沢感、深色性、しなやかな肌触り、更に熱セット性に優れ、安定した立毛性を有することから高級衣料用素材として多用されている。例えば、特公平7−35629号公報(特許文献1)によれば、形態安定性に優れた立毛を得るため、立毛部に用いられるアセテートマルチフィラメント糸に仮撚加工後に、スチームセットを施すことが効果的であるとされている。また、アセテートマルチフィラメント糸の生糸使いの場合は、毛並みに適度なチンチラ感を有した立毛経編物が得られる。しかし、出来上がりの商品はジャケットアイテム等の中肉素材が中心であり、ドレス、シャツ等、薄地素材の商品化はなされていない。
【0003】
商品の薄地化には、アセテートマルチフィラメント糸の細繊度化が有効な手段である。しかし、従来の手法であるグランド部(地組織)のすべてにポリエステルマルチフィラメント糸を用いる場合、パイル密度が上がらずパイル部の裏漏れが生じやすく商品化に至っていない。
【特許文献1】特公平7−35629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は形態安定に優れた立毛部と、軽くしなやかな肌触り、快適な着用感を有する高級感のある立毛経編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、本発明の基本構成である、立毛部にトータル繊度が35dtex以上56dtex以下のアセテートマルチフィラメントを用い、グランド部の一部にポリウレタン系弾性糸を用い且つ、以下の要件を満たすことを特徴とする立毛経編物によって効果的に達成される。
(1)染色仕上げ後のウエールが18ウエール/cm以上35ウエール/cm以下であり、
(2)染色仕上げ後のコースが30コース/cm以上50コース/cm以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アセテートマルチフィラメント糸のその独特な光沢感、深色性、しなやかな肌触り、熱セット性に優れる点を生かし、更に立毛部に細繊度のアセテートマルチフィラメント糸を配し、グランド部の一部にポリウレタン系弾性糸を配することにより、今まで商品化できなかった薄く、軽い商品で且つ、形態安定に優れた立毛部を有した高級感のある立毛経編地を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に係る立毛経編地の代表的な実施形態を詳細に説明する。
本発明において、アセテートマルチフィラメントとしては、酢化度53〜57%のセルロースジアセテートマルチフィラメント、酢化度60〜62%のセルローストリアセテートマルチフィラメントを挙げることができる。アセテートマルチフィラメントのフィラメント断面形状は、特に限定されるものではなく、風合い光沢等を考慮して円形、菊形等が好ましく選択される。また、原糸や仮撚加工糸のいずれかに限定するものではなく、酸化チタン等の添加剤が含まれていてもよい。
【0008】
本発明の立毛部におけるアセテートマルチフィラメント糸の繊度は、35dtex以上56dtex以下、より好ましくは40dtex以上であり、糸繊度が35dtex未満では、製糸工程或いは製編工程にて糸切れが生じやすくなる。糸繊度が56dtexを超えると肉厚となり、目標とする薄地商品が得られない。
【0009】
本発明において、グランド部の一部を構成するポリウレタン系弾性糸としては、特に限定するものではないが、染色仕上げ後の立毛部のパイル密度及び肉厚感等を考慮し、商品構成上22dtex〜44dtexであることが好ましい。ポリウレタン系弾性糸は、そのストレッチ性の効果だけでなく、生地が収縮することによりパイルの密度を上げる効果もある。
【0010】
本発明において、立毛経編物の染色仕上げ後のウエール(1cmあたりの経方向に並んだループの列)は18ウエール/cm以上、35ウエール/cm以下、より好ましくは20ウエール/cm以上、30ウエール/cm以下である。ウエール数が18ウエール/cm未満では、立毛部が不安定なチンチラ状(部分的に毛立ちが悪い状態)の形態となり、しかもパイルが抜け易い商品となる。ウエール数が35ウエールを超えると、肉厚で目標とする薄地商品が得られない。
【0011】
本発明において、立毛経編物の染色仕上げ後のコース(1cm当たりの緯方向に並んだループの列)は30コース/cm以上、50コース/cm以下、より好ましくは35コース/cm以上、45コース/cm以下である。コース数が30コース/cm未満では、立毛部が不安定なチンチラ状の形態をとり、パイルが抜け易い商品となる。コース数が50コースを超えると、肉厚で目標とする薄地商品が得られない。
【0012】
本発明の立毛経編物とは、経編で代表されるベルベットやスエード調の立毛編地等を指し、ループをシャーリングし、あるいは起毛されたベロアやベルベット及びスエード調を表現している編地であればよく、組織や加工方法等を限定するものではない。編機のゲージは、28G以上36G以下であることが好ましい。28G未満ではゲージが粗くパイルの密度が上がらず立毛部の形態安定性に欠ける。36Gを超えるとゲージが密になりすぎ、糸切れ等の問題が発生し編み立てが困難となる。
【実施例】
【0013】
以下、好適な実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の実施例及び比較例における経編物の立毛性、光沢性、風合いの評価は目視とハンドリングによって実施した。
【0014】
(実施例1)
ダル40dtex34f(fはフィラメントの略。以下、fで記載。)の菊型断面糸のトリアセテートマルチフィラメント(三菱レイヨン社製)を立毛部としてフロント部に配し、セミダル33dtex12fの丸断面糸のポリエステルマルチフィラメント(東レ社製)をグランド部としてミドル部に配し、22dtex1fのポリウレタン系弾性糸(旭化成せんい社製)をグランド部としてバック部に配し、経編機(カールマイヤー社製、ゲージ:28G)で編立てた。編立組織はフロント1−0/5−6、ミドル1−0/1−2、バック1−2/1−0のサテン組織とし、このときの編立密度(機上コース)は27コース/cmである。この生機を乾熱巾入りセットし、シャーリング後に常法により黒色に染色仕上げをし、23ウエール/cm、36コース/cm、目付け216g/cm2 のベロア調の立毛経編物を得た。得られた立毛経編物はアセテートマルチフィラメントの光沢性、深色性、軽くしなやかは肌触り、適度なストレッチ性による着用感、且つ形態安定性に優れたサテン調の立毛性を有し、高級感のある立毛経編物であった。
【0015】
(実施例2)
ダル40dtex34fの菊型断面糸のトリアセテートマルチフィラメント(三菱レイヨン社製)を立毛部としてフロント部に配し、セミダル33dtex12fの丸断面糸のポリエステルマルチフィラメント(東レ社製)をグランド部としてミドル部に配し、33dtex1fのポリウレタン系弾性糸(旭化成せんい社製)をグランド部としてバック部に配して、経編機(カールマイヤー社製、ゲージ:28G)で編立てた。編立組織はフロント1−0/5−6/2−1/7−8、ミドル1−0/1−2、バック1−2/1−0で、フロント部を1本置きの針抜きにした鹿の子調サテン組織で、このときの編立密度(機上コース)は32コース/cmである。この生機を乾熱巾入りセットし、シャーリング後に常法により黒色に染色仕上げし、23ウエール/cm、37コース/cm、目付け172g/cm2 のベロア調の立毛経編物を得た。得られた立毛経編物はアセテートマルチフィラメントの光沢性、深色性、軽くしなやかは肌触り、適度なストレッチ性による着用感、且つ形態安定性に優れた鹿の子サテン調の立毛性を有し高級感のある立毛経編物であった。
【0016】
(実施例3)
ダル40dtex34fの菊型断面糸のトリアセテートマルチフィラメント(三菱レイヨン社製)を立毛部としてフロント部に配し、セミダル22dtex12fの丸断面糸のポリエステルマルチフィラメント(東レ社製)をグランド部としてミドル部に配し、22dtex1fのポリウレタン系弾性糸(旭化成せんい社製)をグランド部としてバック部に配して、経編機(カールマイヤー社製、ゲージ:28G)で編立てた。編立組織はフロント1−0/2−3、ミドル1−0/1−2、バック1−2/1−0で、このときの編立密度(機上コース)は32コース/cmである。この生機をウエットセットし、サンディングした後、常法により黒色に染色仕上げし、25ウエール/cm、41コース/cm、目付け178g/cm2 のスエード調の立毛経編物を得た。得られた立毛経編物はアセテートマルチフィラメントの光沢性、深色性、軽くしなやかは肌触り、適度なストレッチ性による着用感、且つ形態安定性に優れたスエード調の立毛性を有し高級感のある立毛経編物が得られた。
【0017】
(比較例)
ブライト50dtex34fの菊型断面糸のトリアセテートマルチフィラメント(三菱レイヨン社製)を立毛部としてフロント部に配し、セミダル33dtex72fの丸断面糸のポリエステルマルチフィラメント(東レ社製)をグランド部としてミドル部とバック部に配し、経編機(カールマイヤー社製、ゲージ:28G)で編立てた。編立組織はフロント1−0/5−6、ミドル1−0/1−2、バック2−3/1−0のサテン組織で、このときの編立密度機上コースは18コース/cmである。この生機を乾熱巾入りセット、シャーリング後常法により黒色に染色仕上げし、15ウエール/cm、18コース/cm、目付け147g/cm2 のチンチラベロア調の立毛経編物を得た。得られた立毛経編物はアセテートマルチフィラメントの光沢性、深色性、軽くしなやかは肌触りではあったが、毛並みの乱れ及びパイル部の裏漏れ等、安定生産化は望めない商品であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立毛部にトータル繊度が35dtex以上56dtex以下のアセテートマルチフィラメントを用い、グランド部の一部にポリウレタン系弾性糸を用い且つ、以下の要件(1)及び(2)を満たすことを特徴とする立毛経編物。
(1)染色仕上げ後のウエール数が18ウエール/cm以上35ウエール/cm以下であり、
(2)染色仕上げ後のコース数が30コース/cm以上50コース/cm以下である。

【公開番号】特開2010−84250(P2010−84250A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252762(P2008−252762)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】