説明

立毛調皮革様シートおよびその製造方法

【課題】柔軟で表面品位に優れた立毛調の皮革様シートとその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも表層が柔軟剤と高分子弾性体を含む、平均単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックス、平均繊維長11mm以上の極細繊維が相互に絡合している不織布からなり、該高分子弾性体がシート表面に粒状に存在するとともに、シート表面に存在する立毛繊維が実質的に集束されておらず、剛軟度が10〜55mmであることを特徴とする立毛調皮革様シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟で表面品位に優れた立毛調の皮革様シートとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
極細繊維と高分子弾性体からなる皮革様シートは、天然皮革にない優れた特徴を有しており、種々の用途に広く使用されている。
かかる高分子弾性体は、風合いを柔軟化させるために多孔質構造とするため、DMF等を溶媒として用いた溶液で含浸した後、湿式凝固させる方法が一般的である。しかし、このような構造であると、皮革様シートがゴム状の風合いとなり、天然皮革のような充実感のある風合いが得られない。
【0003】
また、環境への配慮から、DMF等の有機溶剤により高分子弾性体を溶解、分散させる有機溶剤タイプに代え、水溶媒に高分子弾性体を溶解、分散させる水系高分子弾性体を用いる方法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、水系高分子弾性体は物性維持のため有機溶剤タイプと比較して多量に付与され、それに伴い風合いが硬くなる問題がある。さらに、多量な付与により、ゴム状の風合いとなる傾向はますます増加し、天然皮革様の風合いとは異なるものとなっている。さらに、有機溶剤タイプのように、多孔質の柔軟な構造を形成させることが困難なことも、風合いが硬くなる原因となっている。
【0005】
そこで、高分子弾性体を繊維状で不織布に混合し、次いで、溶融接着させることにより、高分子弾性体の付与量を低減させるとともに、天然皮革様の充実感のある風合いを得る方法が検討されている(例えば、特許文献2)。
【0006】
しかしながら、高分子弾性体を含む複合繊維は、その熱安定性の影響で紡糸安定性が低下するとともに、紡糸温度が制約され、極細繊維とするポリマーが限定的となる等の問題がある。また、繊維状の高分子弾性体を用いた接着は、その接着比率により風合いが大きく変化し、風合いが硬いものとなりやすい問題がある。さらに、物性維持等の観点からポリウレタン系エマルジョンを付与すると、その風合いはさらに硬くなる傾向がある。
【0007】
一方、本発明者らは、不織布基材の絡合度を向上させて高分子弾性体の使用量を抑え、物性と柔軟性を両立するとともに、天然皮革様の充実感を持たせた皮革様シートの製造方法を提案している(例えば、特許文献3)。
【0008】
しかし、当該技術においても、柔軟性を向上させることが要望されていた。
【0009】
また、水系高分子弾性体は、付与後に固化させるために加熱すると、マイグレーションによってシートの表面に偏在化する傾向がある。そのため、表面で高分子弾性体が膜状物を形成することも、風合いが硬化する原因とされている。また、サンドペーパー等で起毛させた後に水系高分子弾性体を付与すると立毛が高分子弾性体により集束する傾向があり、ライティング効果やタッチが低下する問題がある。
【0010】
これを解決する方法として、例えば、マイグレーションを抑制する手段(例えば、特許文献4)や、あらかじめ起毛面に糊剤を塗布して水系高分子弾性体の充填を阻止し、水系高分子弾性体の含浸後に該糊剤を除去する手段がある(例えば、特許文献5)。
【0011】
しかしながら、前者の方法でも、マイグレーションを完全に抑制することは困難であり、やはり表面には立毛が集束する傾向があるとともに、ゴム状の風合いを解決することができない。また、後者の方法は、繊維長が長い場合等で糊剤による保護が不十分となり、やはり表面の繊維が集束しやすく表面品位が不十分である。
【0012】
一方、サンドペーパーによるバフィングを、高分子弾性体の含浸後に行うことにより、物理的に立毛を集束させている高分子弾性体を除去することは可能である。しかし、水系高分子弾性体を含侵する前にバフィングされていないため、高分子弾性体が不織布へ不均一に含浸され、立毛の集束が抑制できても、付着ムラに起因するいらつきにより、やはり表面品位が悪くなる問題がある。
【0013】
なお、針布起毛により起毛処理した後、高分子弾性体を含浸し、次いでバフィングする方法が検討されている(例えば、特許文献6)。
【0014】
しかし、針布起毛で得られた表面は、立毛密度が低く、立毛長が長いために、水系高分子弾性体が均一に含浸されず、いらつきにより表面品位に優れたものが得られにくい。また、針布起毛で形成させた立毛に樹脂を含浸すると、表面に繊維と高分子弾性体からなる層が形成し、風合いが硬いものとなる。なお、ここで、「いらつき」とは、一般に「染色あるいは捺染された織編物の表面の色や光沢が不均一で、落ち着きのない状態」をいい(「繊維総合辞典」、繊維新聞社、2002年10月10日発行)、例えば、皮革様シートを染色したときに、細部において染料の染着差や繊維や高分子弾性体の存在状態差等によって、視覚的に色や光沢が異なる部分が観察され、全体として不均一な印象を与える現象をいう。
【0015】
【特許文献1】特開昭60−39488号公報
【特許文献2】特開2001−81676号公報
【特許文献3】特開2005−226213号公報
【特許文献4】特開平6−316877号公報
【特許文献5】特開平6−17360号公報
【特許文献6】特公昭62−42076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述のような点に鑑み、いらつきがなく柔軟で表面品位に優れた立毛調の皮革様シートとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のいらつきのない立毛調皮革様シートは、少なくとも表層が柔軟剤と高分子弾性体を含む、平均単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックス、平均繊維長11mm以上の極細繊維が相互に絡合している不織布からなり、該高分子弾性体がシート表面に粒状に存在するとともに、シート表面に存在する立毛繊維が実質的に集束されておらず、剛軟度が10〜55mmであることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の立毛調皮革様シートの製造方法は、平均単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維からなる不織布に、以下の(1)から(8)の工程順で各処理を行うことを特徴とするものである。
(1)少なくとも1回は10〜60MPaの圧力で高速流体処理する工程
(2)バフィングする工程
(3)水系高分子弾性体を含浸付与する工程
(4)乾熱処理する工程
(5)バフィングする工程
(6)染色する工程
(7)柔軟剤を付与する工程
(8)揉み処理を行う工程
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、天然皮革様の充実感がある風合いと物性を両立させつつ、柔軟な風合いと、いらつきがなくライティング効果やタッチが良好な、優れた表面品位を備えた立毛調の皮革様シートを得ることができる。特に、これまで困難であった水分散型の高分子弾性体を用いながら、これらの効果を得ることができる。これにより、衣料、雑貨、家具、カーシート等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の皮革様シートの少なくとも表層の不織布を構成する繊維の平均単繊維繊度は0.0001〜0.5デシテックスである。平均単繊維繊度が0.0001デシテックス未満であると、皮革様シートの強度が低下するため好ましくない。また、平均単繊維繊度が0.5デシテックスを越えると、皮革様シートの風合いが硬くなり、また、繊維の絡合が不十分になって、皮革様シートの表面品位が低下したり、耐摩耗性が低下する等の問題も発生するため好ましくない。なお、本発明の効果が損なわれない範囲で、平均単繊維繊度が0.0001デシテックス未満の繊維もしくは平均単繊維繊度が0.5デシテックスを越える繊維が含まれていてもよい。平均単繊維繊度が0.0001デシテックス未満の繊維および平均単繊維繊度が0.5デシテックスを越える繊維の含有量は、数にして、当該不織布繊維の30%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、全く含まれないことがもっとも好ましい。
【0021】
本発明でいう平均単繊維繊度は、繊維断面を100個無作為に選んで断面積を測定した後、100個の繊維断面積の数平均を求め、繊維の比重から繊度を計算により求めた値を用いる。なお、繊維の比重は、JIS L 1015 8.14.2(1999)に従って求めた値を用いる。
【0022】
また、当該不織布繊維の平均繊維長は11mm以上である。20mm以上であることが好ましい。平均繊維長が11mm未満であると、耐摩耗性が低下する。また、上限は特に限定されないが、表面品位の点で平均繊維長は80mm以下が好ましく、60mm以下がより好ましい。なお、本発明の効果が損なわれない範囲で平均繊維長が11mm未満の繊維が含まれていてもよい。平均繊維長が11mm未満の繊維の含有量は、数にして、当該不織布を構成する繊維の30%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、全く含まれないことがもっとも好ましい。
【0023】
本発明でいう平均繊維長は、任意の3箇所からそれぞれ繊維を100本抜き出して繊維長を測定し、測定した300本分の繊維長の数平均を用いる。
【0024】
これらの不織布を構成する繊維は、非弾性繊維からなることが好ましい。具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等からなる繊維が好ましく用いられる。ポリエーテルエステル系繊維やいわゆるスパンデックス等のポリウレタン系繊維などの弾性繊維は好ましくない。
【0025】
ポリエステルとしては、繊維化が可能なものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0026】
また、ポリアミドとしては、たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、等のアミド結合を有するポリマーを挙げることができる。
【0027】
これらのポリマーには、隠蔽性を向上させるためにポリマー中に酸化チタン粒子等の無機粒子を添加してもよいし、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱材、抗菌剤等、種々の目的に応じて添加することもできる。
【0028】
本発明の皮革様シートの少なくとも表層を構成する不織布の極細繊維は、相互に絡合してなるものである。本発明では、これらの極細繊維どうしが相互に絡合していることが、多量の高分子弾性体を使用することなく、柔軟で充実感のある皮革様シートを得るために重要である。通常の極細繊維からなる皮革様シートにおいて、11mm以上の比較的繊維長が長いものは、極細繊維発生型繊維に起因した集束状態の極細繊維が絡合した構造を有している。しかし、繊維束の状態で絡合した構造のみでは、必要な物性を得るために多量の高分子弾性体を必要とし、本発明で所期する効果が得られない。なお、製造上の制約等で繊維束の状態で絡合した構造が含まれていても、極細繊維どうしが相互に絡合している限り、本発明の効果が損なわれない範囲で許容される。しかし、本発明の効果が低下する傾向がある点に注意する。
【0029】
本発明における、「少なくとも表層が不織布からなる」とは、少なくとも表層が不織布であれば、シート全体が不織布により構成されていてもよく、中層や裏面に織編物や、本発明に規定する不織布以外の不織布等が積層されていてもよいことを意味する。
【0030】
さらに、本発明の皮革様シートには柔軟剤が必須である。柔軟剤とは、一般に「糸または織編物の柔軟性を高めるための加工剤」(「繊維総合辞典」、繊維新聞社、2002年10月10日発行)であり、表面のヌメリタッチや柔軟性、風合い等の向上を目的として使用されるものであって、主として界面活性剤系や樹脂系等の加工剤が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0031】
具体的には、本発明における柔軟剤として、界面活性剤系の、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン界面活性剤、および、樹脂系の、シリコーン系エマルジョン、アルキル基を有する4級アンモニウム塩や3級アミンの酸塩のエマルジョン、ポリエチレン系エマルジョン、ポリウレタン系エマルジョン等を繊維種に応じて適宜使用できる。例えば、「染色ノート第23版」(株式会社色染社、2002年8月31日発行)において、風合い加工剤、柔軟仕上げ剤の名称で記されているものを適宜使用することができる。柔軟剤が含まれると、一般に耐摩耗性は低下する傾向があるため、柔軟剤の量と高分子弾性体の量は、目標とする風合いと耐摩耗性のバランスを取りながら、適宜調整することが好ましい。従って、その量は特に限定されるものではないが、少なすぎると効果が発揮できず、多すぎるとべたつき感があるため、通常は皮革様シートの全繊維重量に対し0.01〜10重量%の範囲が好ましい。
【0032】
本発明の皮革様シートを構成する高分子弾性体としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、エチレン−ビニルエステル共重合系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、SBR、NBR、およびその共重合体等が挙げられる。この中では、特に、エチレン−ビニルエステル共重合系樹脂やポリウレタン系樹脂が耐摩耗性向上効果と柔軟性のバランスが優れる点で好ましく、耐摩耗性向上効果の点でエチレン−ビニルエステル共重合系樹脂がより好ましく、柔軟性の点ではポリウレタン系樹脂がより好ましい。エチレン−ビニルエステル共重合系樹脂またはポリウレタン系樹脂に微粒子を組合せると、耐摩耗性が向上するとともに、きしみ感やドライ感のある風合いとすることができる。
【0033】
ここで、エチレン−ビニルエステル共重合系樹脂とは、エチレン単位とビニルエステル単位を含む共重合体からなる樹脂である。ビニルエステル単位としては、例えば、イソノナン酸ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、酪酸ビニルなどのアルキル酸ビニルエステルなどが挙げられる。ビニルエステル単位として、2種類以上のビニルエステル単位からなってもよい。特に、耐水性、耐アルカリ性、耐候性、合成繊維などの非極性素材とのなじみの点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0034】
また、ポリウレタン系樹脂とは、ポリマーポリオールと、ジイソシアネート、鎖伸張剤とを反応させて得ることができるものであり、例えば、ポリカーボネート系、ポリエーテル系、ポリエステル系等が挙げられる。これらは、皮革様シートを適用する用途に応じ適宜選択することが好ましく、耐久性等が必要とされる用途にはポリカーボネート系が好ましいが、柔軟性や耐加水分解性等が要求される用途にはポリエーテル系が好ましく、耐光性等が要求される用途にはポリエステル系が好ましい。
【0035】
これらの高分子弾性体の含有率は、皮革様シートの全繊維重量に対して、0.01重量%以上であることが好ましく、0.2重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることがさらに好ましい。また、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。前記含有率が0.01重量%以上で高い耐摩耗性を得ることができるが、10重量%を超えると風合いが硬くなりやすく、好ましくない。
【0036】
本発明においては、高分子弾性体が表面に粒状に存在することを特徴とする。ここで、「粒状に存在する」とは、皮革様シートの立毛表面を総合倍率40倍の実体顕微鏡にて観察した際に、高分子弾性体が粒状に観察できる状態であることを意味し、具体的には無作為に1cm角を10箇所サンプリングし、平均0.2個以上確認できた場合、粒状に存在するとする。また、個数は好ましくは0.5個以上、より好ましくは1個以上である。0.2個未満であると、耐摩耗性が低下するため、好ましくない。
【0037】
粒径は2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることがさらに好ましい。粒径が2mmを超えると、いらつきが生じ品位が低下するため好ましくない。また、下限は実体顕微鏡で観察できるレベルの粒子が存在するものであれば、特に限定されるものではないが、おおよそ0.05mm以上となる。また、0.1mm以上であることがさらに好ましい。なお、本発明でいう粒径は、実体顕微鏡で観察した際に2次元的に投影される粒子の長さをいい、球状の場合は円の直径をいい、その他の形状においては、最小外接円の直径をいう。
【0038】
また、高分子弾性体は内部より表層に多く存在させることが、ゴム状の風合いを低減させるとともに、柔軟性が向上し、天然皮革様の充実感を得ることができる点で好ましい。さらに、高分子弾性体は上記のように表面および、または表層には粒状に存在するが、内部には粒状に存在せずに、繊維を接着している状態で存在することが、物性が向上する点で好ましい。内部とは、皮革様シートの断面をSEM観察し、厚み方向に4分割した場合において、表、裏からそれぞれ1/4を除いた部分をいう。内部に粒状に存在しないとは、10箇所無作為に試験片を採取して1000倍でSEM観察した際、100μm幅の内部に1〜20μmの高分子弾性体の粒子が平均2個以上観察されないことをいう。
【0039】
さらに、表面の立毛繊維は、実質的に集束されていないことが必要である。集束されていると、明瞭なライティング効果を得ることができず、品位に劣るものとなる。これは、表面を実体顕微鏡で観察することにより、例えば多数の立毛が集まり太く長い立毛を形成している状態で確認することができる。実質的にとは、本発明の効果が損なわれない範囲で集束した繊維が含まれていてもよいことを意味し、例えば、無作為に10箇所観察した1cm角の領域において、2箇所以上集束した繊維を観察することができない程度をいう。
【0040】
本発明の立毛調皮革様シートは、いらつきのないものである。いらつきがあると、高品位な表面が得られない。
【0041】
本発明では、無作為に10点サンプリングして、各箇所5cmはなれた2点を、JIS Z 8722条件cに準拠する分光光度計(コニカミノルタ株式会社製“CM−3700d”)を用いて、測定径3mm×5mm、D光源、65°視野(正反射光含む)で測定し、それぞれに求めたL表色系における色差ΔEの平均値をいらつきの指標とした。本発明でいういらつきがないとは、この色差が0.8以下であることをいい、0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
【0042】
本発明の皮革様シートの剛軟度は10〜55mmである。20mm以上であることが好ましく、25mm以上であることがより好ましい。また50mm以下であることが好ましく、45mm以下であることがより好ましく、40mm以下であることがさらに好ましい。10mm未満であると、腰のない風合いとなり充実感が得られない。また、55mmを超えると、風合いが硬くなり本発明の所期の効果は得られない。
【0043】
なお、本発明でいう「剛軟度」とは、JIS L1096(1999)8.19.1A法(45°カンチレバー法)により、たて方向およびよこ方向の値を求め、その値を平均した値をいう。
【0044】
また、本発明の皮革様シートは織編物が含まれていることが好ましい。これにより、高分子弾性体の量が少ない場合であっても、良好な形態安定性を得ることができる。ここで、織編物とは、織物と編物を総称して指すが、編物は織物と比較して形態安定性に劣る傾向があるため、織物であることがより好ましい。
【0045】
織編物に用いる繊維は、特に限定されるものではないが、本発明の皮革様シートを衣料にした場合の着用感、あるいは資材、家具、カーシートとした場合の成型性の観点から、好ましくはストレッチ性を有する繊維が好ましい。特に、皮革様シートの伸長率が、タテ方向又はヨコ方向の少なくともいずれか一方において5%以上であることが好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。上限は、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。30%を超えると、形態安定性が低下するため好ましくない。
【0046】
織編物のストレッチ性は、タテ方向またはヨコ方向の少なくともいずれか一方の伸長率が5〜50%であることが好ましく、10〜40%であることがより好ましく、15〜30%であることがさらに好ましい。織編物の伸長率を5%以上とすると、皮革様シートの伸長率を5%以上とすることが容易であるため好ましい。また、50%以下であれば、皮革様シートとした場合のドレープ性やシルエットの悪化を防ぐことができる点で好ましい。
【0047】
また、ストレッチ性とともに反発感を得るために、二以上のポリエステルがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合された複合繊維を含むことが好ましい。
【0048】
二以上のポリエステルとは、物理的および/または化学的性質を異にする二以上のポリエステルを用いることを意味する。すなわち、二以上のポリエステルがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合されたとは、物理的および/または化学的性質を異にする二以上のポリエステルが、繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合されていることを意味する。これにより、物理的または化学的要因によって、複合繊維に捲縮を発現させることができる。捲縮発現が容易である点で、好ましくは熱収縮性の異なるポリエステルを二以上使用することが好ましい。
【0049】
織編物の組織は、特に限定されるものではなく、織物としては、例えば、平織、綾織、朱子織等が挙げられ、編物としてはたて編み、よこ編みが挙げられる。このうち、コストや平滑性の点で平織であることが好ましいが、通気量向上の点で紋紗等を適宜使用することができる。
【0050】
なお、本発明の皮革様シートは、本発明の効果が損なわれない範囲において、上述した以外に、染料、ピリング防止剤、抗菌剤、消臭剤、撥水剤、耐光剤あるいは耐侯剤等の機能性薬剤が含まれていてもよい。
【0051】
次に、本発明の皮革様シートの製造方法の一例を述べる。
【0052】
本発明の立毛調皮革様シートの製造方法は、以下(1)〜(8)の順の工程からなる。
(1)0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維不織布を、少なくとも1回は10〜60MPaの圧力で高速流体処理する工程
(2)バフィングする工程
(3)水系高分子弾性体を含浸付与する工程
(4)乾熱処理する工程
(5)バフィングする工程
(6)染色する工程
(7)柔軟剤を付与する工程
(8)揉み処理を行う工程
【0053】
本発明における第(1)の工程に用いる0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維不織布の製造方法は、特に限定されず、通常のフィラメント紡糸、ステープル紡糸法の他、スパンボンド法、メルトブロー法、エレクトロスピニング法、フラッシュ紡糸法等の、直接に不織布として製造する方式であってもよい。また、極細繊維を得る手段として、直接極細繊維を紡糸する方法、通常繊度の繊維であって極細繊維を発生することができる繊維(以下、極細繊維発生型繊維という)を紡糸し、次いで、極細繊維を発生させる方法でもよい。
【0054】
ここで、極細繊維発生型繊維を用いて極細繊維を得る方法としては、具体的には、海島型繊維を紡糸してから海成分を除去する方法、あるいは、分割型繊維を紡糸してから分割して極細化する方法等の手段を採用することができる。
【0055】
これら手段の中でも、本発明においては、極細繊維を容易に安定して得ることができる点で、極細繊維発生型繊維によって製造することが好ましく、さらには皮革様シート状物とした場合、同種の染料で染色できる同種ポリマーからなる極細繊維を容易に得ることができる点で、海島型繊維によって製造することがより好ましい。
【0056】
海島型繊維を得る方法としては、特に限定されず、例えば、以下の(A)〜(D)に記載する方法等が挙げられる。
(A)2成分以上のポリマーをチップ状態でブレンドして紡糸する方法。
(B)予め2成分以上のポリマーを混練してチップ化した後、紡糸する方法。
(C)溶融状態の2成分以上のポリマーを紡糸機のパック内で静止混練器等で混合する方法。
(D)特公昭44−18369号公報、特開昭54−116417号公報等の複合口金を用いて製造する方法。
【0057】
本発明においては、いずれの方法でも良好に製造することができるが、ポリマーの選定が容易である点で上記(D)またはこれに類する方法が最も好ましい。
【0058】
かかる(D)の方法において、海島型繊維および海成分を除去して得られる島繊維の断面形状は、特に限定されず、例えば、丸型、多角形型、Y字型、H字型、X字型、W字型、C字型、π字型等が挙げられる。
【0059】
また、用いられるポリマー種の数も特に限定されるものではないが、紡糸安定性や染色性を考慮すると2〜3成分であることが好ましく、特に海成分が1成分で、島成分が1成分の計2成分で構成されることが好ましい。また、このときの成分比は、島繊維の海島型繊維に対する重量比で0.3以上であることが好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。また、0.99以下であることが好ましく、0.97以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましい。0.3未満であると、海成分の除去率が多くなるためコスト的に好ましくない。また、0.99を越えると、島成分どうしの合流が生じやすくなり、紡糸安定性の点で好ましくない。
【0060】
また、海島型繊維を製造する方法については、特に限定されず、例えば、上記(4)の方法に示した口金を用いて、通常2500m/分以下の紡速で紡糸した未延伸糸を引き取った後、湿熱または乾熱により、あるいはその両者によって1段〜3段延伸する方法や、4000m/分以上の紡速で引き取る方法により得ることができる。
【0061】
次いで、得られた極細繊維発生型短繊維をウェブ化する。その方法としては、短繊維不織布の場合、カード、クロスラッパー、ランダムウエバー等を用いる乾式法や、抄紙法等の湿式法を採用することができる。また、長繊維不織布の場合は、スパンボンド法等を採用することができる。
【0062】
乾式法の場合、極細繊維発生型短繊維から、カード、クロスラッパー等を用いてウェブを得る。得られたウェブを、ニードルパンチ処理によって、繊維見掛け密度が好ましくは0.12g/cm以上、より好ましくは0.15g/cm以上となるようにする。また、好ましくは0.30g/cm以下、より好ましくは0.25g/cm以下となるようにする。繊維見掛け密度が0.12g/cm未満であると、繊維の絡合が不十分であり、引張強力、引裂強力、耐摩耗性等の物性について良好な値が得られにくくなる。また繊維見掛け密度の上限は特に限定されないが、0.30g/cmを越えると、ニードル針の折れや、針穴が残留するなどの問題が生じるため、好ましくない。
【0063】
ニードルパンチを行う際には、極細繊維発生型繊維の平均単繊維繊度が1デシテックス以上であることが好ましく、2デシテックス以上がより好ましい。また、10デシテックス以下であることが好ましく、8デシテックス以下がより好ましく、6デシテックス以下がさらに好ましい。平均単繊維繊度が1デシテックス未満である場合や10デシテックスを越える場合は、ニードルパンチによる絡合が不十分となり、良好な物性を得ることが困難になる。
【0064】
また、平均繊維長は11〜80mmであることが好ましい。20mm以上であることがより好ましい。平均繊維長が11mm未満であると、ニードルパンチによる絡合性が低下するため、好ましくない。また、短繊維不織布の場合は、その工程通過性の点では平均繊維長は80mm以下が好ましく、60mm以下がより好ましい。
【0065】
本発明においてニードルパンチは、単なる工程通過性を得るための仮止めとしての役割ではなく、繊維を十分に絡合させることが好ましい。従って、好ましくは、100本/cm以上の打ち込み密度がよく、より好ましくは500本/cm以上、さらに好ましくは1000本/cm以上がよい。また、ニードルは表面品位が優れる点で、1バーブ型を用いることが好ましい。
【0066】
一方、スパンボンド法の場合、ポリマーを口金から溶融吐出して連続フィラメントを形成させ、これをエジェクター等の牽引作用により2000〜8000m/分の速度で紡糸し、移動する捕集装置上に捕集して長繊維ウェブを得ることができる。
【0067】
得られた長繊維ウェブは、コストやウェブ形態保持性の観点からは巻き取ることなくそのまま高速流体処理することが好ましいが、搬送性や取扱い性、製造スピードの調整等の観点からいったん巻き取ることも可能である。この場合、巻き取るために一定の形態安定性を付与する観点から80〜240℃の加熱下でプレス処理をすることもできるが、風合いや品位を向上させるために、ニードルパンチを行うことも好ましい態様である。
【0068】
このようにして得られた短繊維不織布、または、長繊維不織布は、乾熱処理または湿熱処理、あるいはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい。
【0069】
次いで、極細繊維発生型繊維を極細化処理により、極細繊維とする。この極細繊維を高速流体処理により、極細繊維どうしの絡合を行うが、極細化処理をした後に高速流体処理を行ってもよいし、極細化処理と同時に高速流体処理を行ってもよい。また極細化処理と同時に高速流体処理を行い、その後に、さらに高速流体処理を行ってもよい。高速流体処理を極細化処理と同時に行う場合、少なくとも極細化処理が大部分終了した後にも高速流体処理を行うことが、極細繊維どうしの絡合をより進める上で好ましい。極細化処理を行った後に、高速流体処理を行うことがより好ましい。
【0070】
極細化処理の方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、機械的方法、および、化学的方法が挙げられる。機械的方法とは、物理的な刺激を付与することによって、極細繊維発生型繊維を極細化する方法である。具体的には、例えば、ニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法等の衝撃を与える方法の他に、ローラー間で加圧する方法、超音波処理を行う方法等が挙げられる。また、化学的方法としては、例えば、海島型繊維を構成する少なくとも1成分に対し、薬剤によって膨潤、分解、溶解等の変化を与える方法が挙げられる。特に、海成分として水溶解性またはアルカリ易分解性ポリマーを用いた極細繊維発生型繊維でウェブを作製し、次いで、中性〜アルカリ性の水溶液で処理して極細化する方法は、有機溶剤を使用せず作業環境上好ましいことから、本発明の好ましい態様の一つである。
【0071】
次に、極細繊維不織布を高速流体処理する。高速流体処理は、厚み方向に絡合の傾斜を持たせ、表層により緻密な絡合層を形成させることができる点で、本発明において好ましい手段である。この緻密な絡合層の形成により、優れた表面品位を得ることができ、内部の絡合が相対的に低いことで、より柔軟な風合いを両立させることができる。また、高分子弾性体が特に表層に選択的に存在することにより、バフィングによって高品位な表面を得ることができる。
【0072】
高速流体処理としては、作業環境の点で、水流を使用するウォータージェットパンチ処理が好ましい。ウォータージェットパンチ処理において、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。柱状流は、通常、直径0.06〜1.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで水を噴出させることで得られる。効率的な絡合および良好な表面品位の不織布を得るために、ノズルの直径は0.06〜0.15mm、間隔は5mm以下であることが好ましく、直径0.08〜0.14mm、間隔は1mm以下がより好ましい。これらの構成のノズルプレートは、複数回処理する場合には、すべて同じものとする必要はなく、例えば大孔径と小孔径のノズルが含まれるノズルプレートを使用したり、異なる構成のノズルプレートを併用したり、また上記範囲外のノズルプレートを併用することも可能である。ノズルの直径が0.15mmを超えると表面平滑性も低下するため好ましくない。ノズル孔径は小さい方が好ましいが、0.06mm未満となるとノズル詰まりが発生しやすくなるため、水を高度に濾過する必要性からコストが高くなり好ましくない。また、ノズル間隔が5mmを超えると、発生する筋が目立ちやすくなるため好ましくない。厚さ方向に均一な交絡を達成する目的、および/または不織布表面の平滑性を向上させる目的で、高速流体処理を複数回繰り返して行うことが好ましい。
【0073】
流体の圧力は、処理する不織布の目付によって適宜決定すればよいが、高目付のものほど高圧力とすることが好ましい。さらに、極細繊維どうしを高度に絡合させ、目的の引張強力、引裂強力、耐摩耗性等の物性を得るため、少なくとも1回は10MPa以上の圧力で処理することが好ましい。圧力は、15MPa以上であることがより好ましく、20MPa以上であることがさらに好ましい。また圧力が上昇するほどコストが高くなり、低目付不織布の場合は不織布が不均一になりやすく、繊維の切断により毛羽が発生する場合もあるため、好ましくは60MPa以下であり、より好ましくは50MPa以下である。
【0074】
なお、少なくとも1回の処理とは、複数のノズル孔を有するノズルプレートを含む1ノズルヘッド(1インジェクター)で処理することを意味する。連続的に複数のノズルヘッドで処理した場合は、その複数ノズルヘッド数の回数を処理したとする。
【0075】
極細繊維発生型繊維から得た極細繊維の場合、極細繊維が集束した繊維束の状態で絡合しているものが一般的であるが、前記のような条件で高速流体処理を行うことによって、繊維束の状態による絡合に加え極細繊維どうしが絡合した極細不織布を得ることができる。これにより、使用する高分子弾性体の量を減少させることができるとともに、耐摩耗性等の表面特性を向上させることもできる。なお、高速流体処理を行う前に、水浸漬処理を行ってもよい。さらに不織布表面の品位を向上させるために、ノズルヘッドと不織布を相対的に移動させる方法や、不織布とノズルの間に金網等を挿入して散水処理する等の方法を行うこともできる。
【0076】
こうして、極細繊維不織布を構成する極細繊維どうしを高度に絡合させ、好ましくは0.25〜0.45g/cmの密度とする。0.28g/cm以上がより好ましく、0.30g/cm以上がさらに好ましい。また、0.40g/cm以下がより好ましい。0.25g/cm以上であると、高分子弾性体がより表面に付着し、緻密で高品位な立毛表面を得ることができる。また、0.45g/cm以下であれば、柔軟な風合いを得ることができる。
【0077】
なお、極細化処理と高速流体処理を同時に行う方法としては、例えば、海成分として水可溶性ポリマーを用いた海島型繊維を用い、ウォータージェットパンチによって海成分の除去と極細繊維の絡合を行う方法、海成分としてアルカリ易溶解性ポリマーを用いた海島型繊維を用い、アルカリ処理液を通して海成分を分解処理した後に、ウォータージェットパンチによって海成分の最終除去および極細繊維の絡合処理を行う方法、等が挙げられる。
【0078】
織編物を積層する場合は、ニードルパンチや高速流体処理等の手段を用いた絡合による方法、接着による方法、その他の種々の方法を適宜に単独または組合せて採用することができる。これらのうち、剥離強度に優れる点で絡合による方法が好ましい。また、織編物を損傷させずに絡合できる点で高速流体処理を用いて絡合させることがより好ましい。
【0079】
絡合により積層する場合、積層前の不織布の絡合度は低めである方が、剥離強力や耐摩耗性を向上させる点で好ましい。例えば、上述の極細化処理後であって、高速流体処理前の不織布に織編物を積層した後、高速流体処理によって絡合と積層を同時に行うことが好ましい。
【0080】
次に、本発明においては、高分子弾性体を含浸付与するに先立って、バフィングを行うことが好ましい。この処理により、緻密な表面層を形成させたシートにおいても、より均一に浸透することができ、また、立毛繊維の集束を抑制することができる。
【0081】
このとき、より緻密な立毛を形成させることができる点で、サンドペーパーを用いるバフィングを行うことが好ましい。なお、ブラッシングのみでは、本発明のシートを起毛させることは困難であるが、上記のバフィングを併用して適用することは可能である。また、針布起毛では、表面に粗い立毛が部分的に形成するため、本発明の目的とする効果である高分子弾性体の均一浸透性が得られない。
【0082】
次いで、水系高分子弾性体を含浸付与する。水系高分子弾性体を含浸付与する前に、糊剤等で起毛面を保護してもよい。本発明でいう水系高分子弾性体とは、高分子弾性体が水溶媒に溶解または分散している状態のものをいう。
【0083】
水系高分子弾性体の含浸付与方法は、水系高分子弾性体をシート表面に層を形成することなく、含浸して付与させることができればよく、特に限定されず、例えば、パッド法やスプレー法、コーティング法等を採用することができる。そして、含浸付与した後、乾熱、温水、熱水、常圧または高圧スチーム、マイクロ波等で加熱して、固化する。本発明では、表層に優先的に高分子弾性体を存在させるため、欠点とされるマイグレーションを積極的に活用する観点から、乾熱処理が好ましく採用される。このとき、温度は80〜180℃とし、0.1〜30分処理する。100℃以上が好ましく、また、150℃以下が好ましい。80℃未満では乾燥速度が遅く生産性に欠け、また180℃を超えると染色堅牢度が低下する傾向があり、好ましくない。
【0084】
なお、溶剤系高分子弾性体を含浸し、湿式凝固させる方法は、本発明の皮革様シートを得る方法としては好ましくない。また、水系高分子弾性体とともに無機粒子等を使用してマイグレーションを抑制させながら固化させると、内部に粒子状に付着する傾向があるため、好ましくない。
【0085】
水系高分子弾性体の付与量は、皮革様シートの全繊維重量に対して、0.1重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、3%重量%以上であることがさらに好ましい。また、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。本発明の皮革様シートは0.01重量%以上含まれてなることが好ましいが、製造過程において、バフィングや染色により脱落する場合があること、および、形態安定性を向上させ工程を安定的に通過させる目的で、0.1重量%以上であることが好ましい。一方、10重量%を超えると風合いが硬くなりやすく、工程通過性が低下するため好ましくない。
【0086】
水系高分子弾性体を含浸付与した後、さらにバフィングを行うことが好ましい。この処理によって、高分子弾性体の付与ムラに起因するいらつきを減少させ、より高品位な表面を得ることができる。このバフィングは、サンドペーパーを用いることが、立毛の均一性や開繊性に優れ、優れた表面品位を得ることができる点で好ましい。このとき、用いるサンドペーパーの粒度が#320〜#1000であると、より優れた外観を得ることができる点で好ましい。特に#400以上が好ましく、#600以下が好ましい。#320以上であると、集束した立毛がほとんど確認できない状態とすることが容易である。また、#1000以下であれば、緻密な立毛を形成させることが容易である。
【0087】
次いで染色することが好ましいが、その方法は特に限定されるものではなく、用いる染色機としても、液流染色機、サーモゾル染色機、高圧ジッガー染色機等いずれでもよい。
【0088】
本発明においては、得られる皮革様シートの柔軟性が優れる点で、液流染色機を用いて染色することが好ましい。このとき、生地の走行方向に対し、布側へ−5°〜20°、好ましくは0°〜10°の角度で噴射するノズルを装着して使用することが好ましい。20°以下であると、緻密な表面を維持しつつ、部分的なモモケ発生等の品位不良を抑制し、少量の高分子弾性体であっても形態を安定させることができる点で好ましい。一方、−5°未満であると、布の走行不良により、染色ムラが発生するため好ましくない。
【0089】
また、より均一なナップの方向性を維持した表面感を得るには、染色前の生地のナップ方向と同一方向へ染液をノズルより噴射することが好ましい。一方、ナップの方向をランダムにしてモトリングを発生させるためには、染色前の生地のナップ方向の逆方向へ染液を噴射することが好ましい。
【0090】
染色後には、柔軟性や表面品位、タッチを向上させる目的で柔軟剤を付与することが好ましい。柔軟剤を付与する手段としては、パッド法、液流染色機やジッガー染色機を用いる方法、スプレーで噴射する方法等、適宜選択することができる。
【0091】
柔軟剤は、0.01〜10重量%付与することが好ましい。0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましい。また、5重量%以下が好ましく、3重量%以下がさらに好ましい。0.01重量%未満であると、所期の効果が得られにくい。一方、10重量%以上であると、耐摩耗性が低下したり、処理後のシートに触れた箇所に柔軟剤が転写され、他のものへの汚染の原因となるため好ましくない。
【0092】
また、柔軟剤を付与した後、さらに揉み処理を行うことが、本発明の皮革様シートを柔軟性に富むものとすることができる点で好ましい。柔軟剤を付与しないで揉み処理を行った場合、または、揉み処理を行った後に柔軟剤を付与した場合においては、期待する柔軟効果が得られにくくなる。本発明では、極細繊維が緻密に絡合した不織布基材に対し、柔軟剤を付与した後、揉み処理を行うことで、高品位な表面と柔軟性をより高い次元で両立することが可能となる。
【0093】
本発明において、揉み処理を行う手段としては、物理的に揉み効果を与える手段であれば、特に限定されるものではないが、例えば、高風速エアーを用いて布を走行させる気流式風合い加工機や、布に衝突、落下等の物理衝撃を加えて揉み効果を与えるバッチ式や連続式タンブラー等の衝撃式風合い加工機等などがある。このうち、柔軟化の効果が高く、コストも抑制できる点で、衝撃式風合い加工機が好ましく、この中でもドラムを用いた連続式タンブラーが好ましい。このとき、ドラム内へ好ましくは50〜150℃、より好ましくは60〜130℃の熱風を吹き込むと、さらに効果が高くなるため好ましい。また、ドラムの回転数は特に限定されないが、シートの損傷を防ぐため好ましくは8〜40rpm、より好ましくは15〜30rpmに設定することが好ましい。ドラム内に入る前にスチームで生地の表面を湿らせた後、ドラム内にて揉み処理と同時に熱風乾燥をすると、ナップの立毛性が増し高品位な表面感を得ることができる点で好ましい。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下に述べる方法で測定した。
【0095】
(1)伸長率
JIS L 1096(1999)8.14.1 A法(定速伸長法)にて伸長率を測定した(つかみ間隔は20cmである)。
【0096】
(2)繊維長の測定
不織布の任意の3箇所から、それぞれ繊維を100本抜き出して繊維長を測定した。測定した300本分の繊維長の数平均を求めた。
【0097】
(3)繊度の測定
不織布の断面を光学顕微鏡にて観察した。繊維断面を100個ランダムに選んで断面積を測定し、100個の繊維断面積の数平均を求めた。求められた繊維断面積の平均値と繊維の比重から、繊度を計算により求めた。なお、繊維の比重はJIS L 1015に基づいて測定した。
【0098】
(4)繊維目付、繊維見掛け密度
繊維目付はJIS L 1096 8.4.2(1999)に記載された方法で測定した。また、厚みをダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名“ピーコックH”)により測定し、目付の値を厚みの値で割って繊維見掛け密度を求めた。
【0099】
(5)柔軟性
JIS L 1096(1999)8.19.1A法(45°カンチレバー法)により、たて方向およびよこ方向の値を求め、その値を平均した値を用いた。
【0100】
(6)いらつき
無作為に10点サンプリングして、各箇所5cmはなれた2点を、分光光度計(コニカミノルタ株式会社製“CM−3700d”)を用いて、測定径3mm×5mm、D光源、65°視野(正反射光含む)で測定した。それぞれに求めたL表色系における色差ΔEの平均値が0.8以下であるものを、いらつきがないとした。
【0101】
(7)立毛の集束
実体顕微鏡(総合倍率40倍)を用いて、無作為に1cm角を10箇所サンプリングし、集束した繊維の有無を観察した。これらの結果のうち、2箇所以上から集束繊維が観察された場合を、集束立毛ありと判断した。
【0102】
(8)表面観察
実体顕微鏡(総合倍率40倍)を用いて、無作為に1cm角を10箇所サンプリングし、粒子状の高分子弾性体の有無を観察した。これらの結果のうち、1箇所あたりの個数を数え、平均0.2個以上であれば、粒状の高分子弾性体が存在すると判断した。
【0103】
(9)断面観察
10箇所無作為に試験片を採取してその断面を1000倍でSEM観察し、厚み方向に4分割した場合の表、裏からそれぞれ1/4を除いた部分であり、かつ100μm幅の部分を観察した。10箇所観察したうち、1〜20μmの高分子弾性体の粒子が平均2個以上観察されれば、粒状の高分子弾性体が存在すると判断した。
【0104】
参考例1
極限粘度が0.40のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.75のポリエチレンテレフタレートからなる高粘度成分とを重量複合比50:50でサイドバイサイドに貼りあわせて紡糸および延伸し、56デシテックス12フィラメントの複合繊維を得た。これを1500T/mで追撚した糸を用いて平織物とし、リラックス処理を行って織密度120×90本/2.54センチの織物を得た。
【0105】
実施例1
海成分としてポリスチレン45部、島成分としてポリエチレンテレフタレート55部からなる平均単繊維繊度3デシテックス、36島、平均繊維長51mmの海島型複合短繊維を、カード機およびクロスラッパーに通してウェブを作製した。得られたウェブを、1バーブ型のニードルパンチ機を用いて、2000本/cmの打ち込み密度でニードルパンチ処理し、繊維見掛け密度0.22g/cmの複合短繊維不織布を得た。次に95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコール(PVA)5%の水溶液に2分間浸積し、PVAを不織布に、不織布重量に対し固形分換算で15%の付着量になるように含浸させると同時に収縮処理を行った。その後、不織布を100℃にて乾燥して水分を除去した。次いで、この複合短繊維不織布を30℃のトリクレンでポリスチレンが完全に除去されるまで処理することにより、複合短繊維から平均単繊維繊度0.046デシテックスの極細繊維を発現させた。これにより得られたシートを、室田製作所(株)製の標準型漉割機を用いて、厚み方向に対して垂直に2枚にスプリット処理して繊維目付89.5g/mの極細繊維ウェブを得た。
【0106】
一方、抄造法により作製した平均単繊維繊度0.33デシテックス、繊維長5mm、目付33g/mのポリエチレンテレフタレートからなる極細抄造ウェブに、参考例1で作製した織物を重ね、極細抄造ウェブ側から0.1mmの孔径で、0.6mm間隔のノズルプレートが挿入されたノズルヘッドを有するウォータージェットパンチ機にて、7m/分の処理速度で、9MPaの圧力で3回ウォータージェットパンチ処理を行った。
【0107】
次に、極細繊維ウェブを織物が中央になるように重ね、極細繊維ウェブの方から上記と同一のウォータージェットパンチ機を用い、7m/分の処理速度で、17MPaの圧力で3回処理し、ついで裏側から同様に3回処理した。得られたシートは目付168.2g/m、繊維見掛け密度0.36g/cmであった。
【0108】
このようにして得られた積層シートのうち、表層を形成する極細繊維ウェブが積層された側を、株式会社菊川鉄工所製のワイドベルトサンダを用い、粒度が#600の炭化ケイ素砥粒のサンドペーパーにてバフィング(バフィング1)した。
【0109】
次に、エマルジョンポリウレタン(日華化学(株)製“エバファノールAPC−55”)と水で調整した分散液を用いて、ポリウレタンの固形分が5重量%となるように含浸し、120℃で乾燥、熱処理した。
【0110】
続いて、株式会社菊川鉄工所製のワイドベルトサンダを用い、粒度が#600の炭化ケイ素砥粒のサンドペーパーにてバフィング(バフィング2)した。
【0111】
さらに、0°の噴射角度ノズルを装着した液流染色機を用い、120℃、45分、で濃茶に染色し、還元洗浄を行った。このときの分光光度計(“CM−3700d”コニカミノルタ株式会社製)による側色データ(D光源、65°視野)は、L=23.2、a=8.9、b=12.1であった。
【0112】
その後、柔軟剤として“エルソフトN−500コンク”(一方社油脂工業株式会社製)を用い、ウェットピックアップ率60%でディップニップして乾燥し、固形分0.2重量%となるように付与した。
【0113】
柔軟剤を付与した後、連続ドラム式タンブラー乾燥機にて、第1室90℃、第2室60℃の熱風を吹き込みながら、24rpmの回転数で揉み処理を行った。
【0114】
このようにして得られたシートを、実体顕微鏡で観察したところ、表面の立毛繊維は集束した立毛は0.1本/箇所であった。また高分子弾性体は0.2mmの長さを有する粒子が存在することを確認できた。一方、断面をSEM観察すると、繊維間を接着または架橋しているように存在し、粒状物が存在しないことが確認できた。
【0115】
このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。
【0116】
比較例1
バフィング1をしない以外は、実施例1と同様に処理した。
【0117】
このようにして得られたシートは、実施例1と比較して、ライティング効果やタッチに劣り、全体として表面品位が劣るものであった。また、実体顕微鏡で観察したところ、表面の立毛繊維は集束した立毛は2本/箇所であった。また高分子弾性体は0.2mmの長さを有する粒子ではなく、繊維間を接着または架橋しているように存在していることが確認できた。
【0118】
このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。
【0119】
比較例2
バフィング2をしない以外は、実施例1と同様に処理した。
【0120】
このようにして得られたシートは、実施例1と比較し、いらつきにより均一性が劣り、高級感に乏しいものであった。また、実体顕微鏡で観察したところ、表面の立毛繊維は集束した立毛は0.3本/箇所であった。また高分子弾性体は0.5mmの長さを有する粒子が存在することを確認できた。一方、断面をSEM観察すると、高分子弾性体が粒状ではなく、繊維間を接着または架橋しているように存在していることが確認できた。
【0121】
このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。
【0122】
比較例3
実施例1におけるバフィング1を、ナイロンブラシによるブラッシングに変更した以外は、実施例1と同様に処理した。
【0123】
このようにして得られたシートは、比較例1とほぼ同様の状態で観察された。得られたシートの評価結果を表1に示した。
【0124】
比較例4
実施例1において、高分子弾性体を含浸させるのではなく、グラビアで表面に層を形成させるように塗布した以外は、実施例1と同様に処理した。
【0125】
このようにして得られたシートは、実施例1と比較して硬い風合いであった。また、実体顕微鏡で観察したところ、高分子弾性体の層から立毛が出ている状態であり、全体として立毛が集束したものであった。さらに、高分子弾性体は層状に存在していた。一方、断面をSEM観察すると、高分子弾性体が粒状に存在しないことを確認でき、1000倍で観察すると繊維間を接着または架橋しているように存在していることが確認できた。
【0126】
このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。
【0127】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層が柔軟剤と高分子弾性体を含む、平均単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックス、平均繊維長11mm以上の極細繊維が相互に絡合している不織布からなり、該高分子弾性体がシート表面に粒状に存在するとともに、シート表面に存在する立毛繊維が実質的に集束されておらず、剛軟度が10〜55mmであることを特徴とする立毛調皮革様シート。
【請求項2】
高分子弾性体が、皮革様シートの全繊維重量に対して0.01〜10重量%含まれてなることを特徴とする請求項1に記載の立毛調皮革様シート。
【請求項3】
織編物が含まれてなることを特徴とする請求項1または2に記載の立毛調皮革様シート。
【請求項4】
平均単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維からなる不織布に、以下の(1)から(8)の工程順で各処理を行うことを特徴とする立毛調皮革様シートの製造方法。
(1)少なくとも1回は10〜60MPaの圧力で高速流体処理する工程
(2)バフィングする工程
(3)水系高分子弾性体を含浸付与する工程
(4)乾熱処理する工程
(5)バフィングする工程
(6)染色する工程
(7)柔軟剤を付与する工程
(8)揉み処理を行う工程
【請求項5】
平均単繊維繊度が0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維を形成しうる平均単繊維繊度1〜10デシテックス、平均繊維長11〜80mmの複合短繊維を用いてニードルパンチ法により短繊維不織布を製造し、次いで極細化処理を行うことにより、平均単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維不織布を製造することを特徴とする請求項4記載の立毛調皮革様シートの製造方法。
【請求項6】
前記(1)の工程において、当該処理により不織布密度を0.25〜0.45g/cmとすることを特徴とする請求項4または5に記載の立毛調皮革様シートの製造方法。
【請求項7】
前記(3)の工程において、水系高分子弾性体を皮革様シートの全繊維重量に対して0.1〜10重量%含浸付与することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の立毛調皮革様シートの製造方法。
【請求項8】
前記(6)の工程において、生地の走行方向に対し−5〜20°の角度で液体を噴射するノズルを用いた液流染色機により染色することを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の立毛調皮革様シートの製造方法。
【請求項9】
前記(7)の工程において、柔軟剤を皮革様シートの全繊維重量に対して0.01〜10重量%付与することを特徴とする請求項4〜8のいずれかに記載の立毛調皮革様シートの製造方法。
【請求項10】
前記(8)の工程において、揉み処理をタンブラー乾燥機により、90〜120℃で行うことを特徴とする請求項4〜9のいずれかに記載の立毛調皮革様シートの製造方法。

【公開番号】特開2008−223162(P2008−223162A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61058(P2007−61058)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(591123447)岐セン株式会社 (4)
【Fターム(参考)】